(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027795
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】研磨用パッド、導電性半導体基板の製造方法および研磨方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230224BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20230224BHJP
B24B 37/26 20120101ALI20230224BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230224BHJP
B23H 3/04 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
H01L21/304 622F
B24B37/24 B
B24B37/26
B24B37/00 Z
B23H3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133059
(22)【出願日】2021-08-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日:令和3年6月30日 刊行物:精密工学会2021年度関西地方定期学術講演会予稿集,pp.38-39,公益社団法人精密工学会関西支部
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】村田 順二
(72)【発明者】
【氏名】巴山 顕真
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
【テーマコード(参考)】
3C059
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C059AA02
3C059CH10
3C158AA07
3C158AC02
3C158BA02
3C158BA04
3C158BA05
3C158BA09
3C158BB02
3C158BC01
3C158BC02
3C158BC03
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA12
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3C158EA11
3C158EB01
3C158EB06
3C158EB28
3C158EB29
5F057AA06
5F057BA15
5F057BA21
5F057BB06
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5F057DA03
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5F057EB03
5F057EB05
5F057EB06
5F057EB08
5F057GA01
(57)【要約】
【課題】導電性半導体基板の表面へのダメージを抑制しつつ、研磨を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】導電性半導体基板の被研磨面の研磨に用いられる研磨用パッドであって、被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッド。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性半導体基板の被研磨面の研磨に用いられる研磨用パッドであって、
前記被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッド。
【請求項2】
前記研磨面が、直径500mm以上の円形状である、請求項1に記載の研磨用パッド。
【請求項3】
前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面に、テクスチャ構造が設けられている、請求項1または請求項2に記載の研磨用パッド。
【請求項4】
前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面の算術平均粗さRaは、5μm以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の研磨用パッド。
【請求項5】
前記固体高分子電解質を含む膜の厚さは、0.1mm以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の研磨用パッド。
【請求項6】
前記研磨面に、幅1mm以上、深さ0.1mm以上の溝が設けられている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の研磨用パッド。
【請求項7】
前記固体高分子電解質を含む膜は、導電性を有する基材上に設けられている、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の研磨用パッド。
【請求項8】
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨面と、前記研磨面とは反対側の裏面と、の間が電気的に導通する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の研磨用パッド。
【請求項9】
前記固体高分子電解質は、フッ化炭素骨格と、末端にスルホン酸基を有するフッ化炭素エーテルの側鎖と、を備える高分子である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の研磨用パッド。
【請求項10】
前記研磨面に、砥粒と水とを含むスラリーが供給されることで研磨を行うように構成されている、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の研磨用パッド。
【請求項11】
前記砥粒の分散媒である前記水によって、前記固体高分子電解質に水分子が供給されるように構成されている、請求項10に記載の研磨用パッド。
【請求項12】
導電性半導体基板の被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドを準備する工程と、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨用パッドの前記研磨面を前記導電性半導体基板の前記被研磨面に圧力をかけて接触させ、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しながら、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記被研磨面を研磨する工程と、
を有する、導電性半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記研磨面が直径500mm以上の円形状である研磨用パッドを準備する、請求項12に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面に、テクスチャ構造が設けられている研磨用パッドを準備する、請求項12または請求項13に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記研磨する工程の開始時において、前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面の算術平均粗さRaは、5μm以上である、請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記固体高分子電解質を含む膜の厚さが、0.1mm以上である研磨用パッドを準備する、請求項12から請求項15のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項17】
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記研磨面に、幅1mm以上、深さ0.1mm以上の溝が設けられている研磨用パッドを準備する、請求項12から請求項16のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項18】
前記研磨用パッドを準備する工程では、導電性を有する基材上に、前記固体高分子電解質を含む膜が設けられている研磨用パッドを準備する、請求項12から請求項17のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項19】
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記固体高分子電解質として、フッ化炭素骨格と、末端にスルホン酸基を有するフッ化炭素エーテルの側鎖と、を備える高分子を用いた研磨用パッドを準備する、請求項12から請求項18のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項20】
前記研磨する工程では、前記電圧を印加中に、前記被研磨面を酸化し、酸化物を生成する、請求項12から請求項19のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項21】
前記研磨する工程では、前記電圧を間欠的に印加する、請求項12から請求項20のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項22】
前記研磨する工程では、前記研磨面に、砥粒と水とを含むスラリーを供給する、請求項12から請求項21のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項23】
前記研磨する工程では、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に流れる電流が徐々に小さくなるように前記電圧を印加する、請求項12から請求項22のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項24】
前記研磨する工程では、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しない状態で、所定の時間、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させ、前記研磨する工程を終了する、請求項12から請求項23のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項25】
前記固体高分子電解質を含む膜の表面に対して、粗面化処理を行う工程をさらに有する、請求項12から請求項24のいずれか1項に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項26】
前記研磨する工程では、前記酸化物を生成する速度v1を、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に流れる電流値で制御し、前記酸化物を除去する速度v2を、前記研磨面に供給する砥粒の供給量、前記研磨面と前記被研磨面との間にかける圧力、または前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との相対速度の少なくともいずれかを変化させることで制御する、請求項20に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項27】
前記研磨する工程では、前記速度v1および前記速度v2が、v1≦v2の関係を満たすように制御する、請求項26に記載の導電性半導体基板の製造方法。
【請求項28】
導電性半導体基板の被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドを準備する工程と、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨用パッドの前記研磨面を前記導電性半導体基板の前記被研磨面に圧力をかけて接触させ、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しながら、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記被研磨面を研磨する工程と、
を有する、導電性半導体基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用パッド、導電性半導体基板の製造方法および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)基板や炭化ケイ素(SiC)基板等の導電性半導体基板の表面を研磨する方法は各種開示されている。例えば、特許文献1には、白金等の触媒を用いてエッチング反応を促進させる触媒表面基準エッチング法(Catalyst-Referred Etching、CARE)が開示されている。また、特許文献2には、酸化性の研磨液を用いた化学機械研磨法(Chemical Mechanical Polishing、CMP)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-114632号公報
【特許文献2】国際公開2015/152021号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、導電性半導体基板の表面へのダメージを抑制しつつ、研磨を行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面の研磨に用いられる研磨用パッドであって、
前記被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドが提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドを準備する工程と、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨用パッドの前記研磨面を前記導電性半導体基板の前記被研磨面に圧力をかけて接触させ、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しながら、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記被研磨面を研磨する工程と、
を有する、導電性半導体基板の製造方法が提供される。
【0007】
本発明のさらに他の態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドを準備する工程と、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨用パッドの前記研磨面を前記導電性半導体基板の前記被研磨面に圧力をかけて接触させ、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しながら、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記被研磨面を研磨する工程と、
を有する、導電性半導体基板の研磨方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性半導体基板の表面へのダメージを抑制しつつ、研磨を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1実施形態の研磨用パッド10の研磨面13の一例を模式的に示す平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA-Aでの断面模式図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、本発明の第1実施形態のSPE膜15の表面の一例を示す拡大平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態で用いる研磨装置の概略構成図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態の導電性半導体基板20の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5(a)は、本発明の第1実施形態の準備工程S100におけるSiC基板の被研磨面14を模式的に示す断面図である。
図5(b)は、本発明の第1実施形態の酸化工程S111におけるSiC基板の被研磨面14と、研磨用パッド10の研磨面13とを模式的に示す断面図である。
図5(c)は、本発明の第1実施形態の除去工程S112におけるSiC基板の被研磨面14と、研磨用パッド10の研磨面13とを模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施形態の研磨工程S110における、研磨用パッド10に流れる電流を模式的に示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施形態の研磨用パッド10Aの研磨面13の一例を模式的に示す平面図である。
【
図8】
図8(a)は、本発明の第2実施形態の研磨用パッド10Aの基材として不織布を用いた場合の、研磨面13の拡大模式図である。
図8(b)は、本発明の第2実施形態の研磨用パッド10Aに連続気泡構造を有する基材を用いた場合の、研磨面13の拡大模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2実施形態の研磨用パッド10Aの研磨面13の他の例を模式的に示す平面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第2実施形態の研磨用パッド10Aの研磨面13に、砥粒32が分散されている場合の、研磨面13の拡大模式図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2実施形態の導電性半導体基板20の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、本発明の第2実施形態の研磨工程S110における、GaN基板の被研磨面14付近の断面写真である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、本発明の第3実施形態の研磨用パッド10Bの研磨面13を模式的に示す平面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第3実施形態の研磨工程S110における、研磨用パッド10Bに流れる電流を模式的に示すグラフである。
【
図15】
図15は、本発明の実施例1に係る、研磨量を示すグラフである。
【
図16】
図16は、本発明の実施例1に係る、研磨前後の算術平均粗さRaを示す図である。
【
図17】
図17(a)は、本発明の実施例3に係る、電流値を変化させた場合の研磨レート(MRR)と電流効率(current efficiency)を示すグラフであり、
図17(b)は、本発明の実施例3に係る、電流値を250mA、デューティ比Dを50%、周期Tを20秒として研磨を行った際の、電圧の変化を示すグラフである。
【
図18】
図18(a)は、本発明の実施例3に係る、SiC基板の算術平均粗さRaを示すグラフであり、
図18(b)は、本発明の実施例3に係る、SiC基板の表面の位相シフト干渉顕微鏡像である。
【
図19】
図19(a)は、本発明の実施例3に係る、SiC基板の表面の各位置における位相シフト干渉顕微鏡像であり、
図19(b)は、本発明の実施例3に係る、SiC基板の表面の各位置における表面粗さ分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。
【0011】
GaN基板やSiC基板等の導電性半導体基板の表面を研磨する方法は各種開示されている。しかしながら、GaN等のIII族窒化物は、半導体デバイスに広く用いられているシリコン(Si)に比べて化学的にも機械的にも安定であるため、GaN基板等の表面を実用的な研磨レート(例えば、100nm/h以上)で研磨することは非常に困難である。
【0012】
GaNおよびSiCの修正モース硬度は13であり、GaNおよびSiCはダイヤモンドに次ぐ硬さといえる。つまり、GaN基板等の表面に対して機械研磨を行う場合、ダイヤモンド砥粒等の硬い砥粒を使用する必要があるため、基板表面にダメージが導入されてしまう可能性がある。また、ダイヤモンド砥粒を使用する場合、研磨コストが高くなるという問題もある。
【0013】
また、GaN基板の表面、特に+c面は、化学的に非常に安定であるため、薬液を用いて化学的に変質させるには、過マンガン酸カリウム等の強い酸化剤を用いる必要がある。そのため、GaN基板の表面に対してCMPで研磨を行う場合、研磨装置を構成する部材が酸化剤によって腐食してしまうという問題と、研磨コストが高くなる問題とがある。
【0014】
本願発明者は、上述のような事象に対して鋭意研究を行った。その結果、研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する研磨用パッドを用いることで、導電性半導体基板の表面へのダメージを抑制しつつ、研磨を行うことができることを見出した。本発明の以下に示す実施形態では、特殊な酸化剤等を用いる必要がないため、中性領域で研磨を行うことができ、廃液処理が容易であるというメリットもある。
【0015】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
<本発明の第1実施形態>
(1)研磨用パッド10の構成
まず、本実施形態の研磨用パッド10の構成について説明する。本実施形態では、研磨用パッド10を用いて、導電性半導体基板20の表面(以下、被研磨面14ともいう)を研磨する場合について説明する。
【0017】
研磨用パッド10は、導電性半導体基板20の被研磨面14の研磨に用いられる。本明細書において、研磨用パッド10の主面のうち、導電性半導体基板20の被研磨面14と接触する面を「研磨面13」とよび、研磨面13と反対側の面を「裏面」とよぶものとする。つまり、研磨面13とは、研磨用パッド10を、被研磨面14側から(被研磨面14の法線方向と平行な方向から)見た上面であり、被研磨面14と対向する側の主面である。裏面とは、後述する定盤21の上面と対向する側の主面である。また、本明細書において、研磨用パッド10とは、例えば、定盤21の上面と、被研磨面14との間に配置される構造を意味する。
【0018】
研磨用パッド10の研磨面13は、例えば、直径が500mm以上2000mm以下の円形状であることが好ましい。これにより、大口径(例えば、4インチ以上)の導電性半導体基板20の被研磨面14を研磨することができる。また、研磨用パッド10の厚さは、例えば、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。研磨用パッド10の厚さが、0.1mm未満では、研磨用パッド10の耐久性が低下してしまう可能性がある。これに対し、研磨用パッド10の厚さを0.1mm以上とすることで、研磨用パッド10の耐久性を向上させることができる。一方、研磨用パッド10の厚さが10mmを超えると、研磨用パッド10の厚さ方向の抵抗が増大してしまう可能性がある。これに対し、研磨用パッド10の厚さを10mm以下とすることで、研磨用パッド10の厚さ方向の抵抗を低減することができる。
【0019】
図1(a)は、本実施形態の研磨用パッド10の研磨面13の一例を模式的に示す平面図である。本実施形態の研磨用パッド10は、研磨面13の少なくとも一部に、固体高分子電解質(Solid Polymer Electrolyte、SPE)を含む膜(以下、SPE膜15ともいう)を有している。SPE膜15は、固体高分子電解質からなる膜であってもよいし、研磨用パッド10として機能するならば、固体高分子電解質以外の材料を含んでいてもよい。
【0020】
SPE膜15に含まれている固体高分子電解質としては、例えば、フッ化炭素骨格と、末端にスルホン酸基を有するフッ化炭素エーテルの側鎖と、を備える高分子であるナフィオン(登録商標、化学式:C7HF13O5S・C2F4)を用いることができる。なお、本実施形態では、SPE膜15は、ナフィオンからなる膜である場合について説明する。ナフィオンは、例えば、電圧を印加することで、水からOHラジカルを生成させることができる。OHラジカルを生成させることで、導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させることができる。被研磨面14を構成する導電性半導体30(例えば、GaNやSiC)が酸化されることで生成される酸化物31(例えば、Ga2O3やSiO2)は、導電性半導体30に比べて柔らかい。そのため、導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させることで生成される酸化物31は、導電性半導体30に比べて容易に除去することができる。なお、本明細書において、導電性半導体基板20の被研磨面14を構成する導電性半導体30を酸化させることを、煩雑性を避けるために、導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させるともいう。
【0021】
図1(b)は、
図1(a)のA-Aでの断面模式図である。
図1(b)に示すように、SPE膜15は、導電性を有する基材(以下、導電性基材19ともいう)上に設けられていてもよい。この場合、SPE膜15は、例えば、導電性接着剤を用いて導電性基材19上に貼り付けられていることが好ましい。導電性基材19としては、例えば、ステンレス板を用いることができる。導電性基材19上に、SPE膜15を設けることで、研磨用パッド10の強度を向上させることができる。なお、SPE膜15が充分な厚みを有する場合には、導電性基材19を省略してもよい。
【0022】
SPE膜15の厚さは、例えば、0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。SPE膜15の厚さが0.1mm未満では、研磨用パッド10の寿命が短くなってしまう可能性がある。これに対し、SPE膜15の厚さを0.1mm以上とすることで、研磨用パッド10の寿命を向上させることができる。一方、SPE膜15の厚さが1mmを超えると、研磨用パッド10の厚さ方向の抵抗が増大してしまう可能性がある。これに対し、SPE膜15の厚さを1mm以下とすることで、研磨用パッド10の厚さ方向の抵抗を低減することができる。また、研磨用パッド10のコストを低減することもできる。
【0023】
ナフィオンは水の存在下で導電性を示すため、少なくともナフィオンに水分子が接触する状態で、研磨面13と裏面との間が電気的に導通することが好ましい。
【0024】
研磨面13における、SPE膜15の表面の少なくとも一部は、研磨時に被研磨面14と接触(摺動)する。しかしながら、上述のように、SPE膜15としてナフィオンからなる膜を用いた場合、導電性半導体基板20に対する摺動性が悪いという問題がある。この問題は、特に、大口径(例えば、4インチ以上)の導電性半導体基板20の被研磨面14を研磨する場合において顕著である。導電性半導体基板20に対する摺動性が悪いと、研磨時に、研磨用パッド10と導電性半導体基板20とを接触させながら相対移動させることが困難となってしまう。本実施形態では、研磨面13における、SPE膜15の表面に、テクスチャ構造を設けることで、摺動性の問題を解決している。
【0025】
本実施形態のSPE膜15の表面に設けられているテクスチャ構造とは、例えば、最大高さRz(JIS B 0601-2001参照)が20μm以上200μm以下のミクロな凹凸を有する構造を意味する。
図2(a)および
図2(b)は、SPE膜15の表面の一例を示すSEM像である。テクスチャ構造は、
図2(a)に示すような周期的なパターン(例えば、ハニカムパターン)を有する構造でもよいし、
図2(b)に示すようなランダムな凹凸を有する構造でもよい。被研磨面14を均一に酸化し、研磨ムラを低減するという観点からは、テクスチャ構造は、
図2(b)に示すようなランダムな凹凸を有する構造であることが好ましい。この場合、テクスチャ構造の形成が容易であり、後述するドレッシング処理工程S120において、テクスチャ構造を再形成しやすいというメリットもある。また、後述する砥粒32を保持しやすくする観点からは、テクスチャ構造の最大高さRzが、砥粒32のレーザ回折・散乱法による平均粒径(D50)より大きいことが好ましい。
【0026】
研磨面13におけるSPE膜15の表面の算術平均粗さRa(JIS B 0601-2001参照)は、5μm以上50μm以下であることが好ましい。SPE膜15の表面の算術平均粗さRaが5μm未満では、導電性半導体基板20に対する摺動性が充分確保できない可能性がある。これに対し、SPE膜15の表面の算術平均粗さRaを5μm以上とすることで、導電性半導体基板20に対する摺動性を充分確保することができる。一方、SPE膜15の表面の算術平均粗さが50μmを超えると、SPE膜15の表面の凹凸が、研磨時に導電性半導体基板20に転写されてしまう可能性がある。これに対し、SPE膜15の表面の算術平均粗さRaを50μm以下とすることで、SPE膜15の表面の凹凸が、研磨時に導電性半導体基板20に転写されてしまうことを低減することができる。また、SPE膜15の表面の算術平均粗さRaは、10μm以上20μm以下であることがより好ましい。これにより、研磨時に、レーザ回折・散乱法による平均粒径(D50)が1μm程度(例えば、0.5μm以上2μm以下)の砥粒32を用いる場合、SPE膜15の表面の凹凸に砥粒32が埋もれてしまうことを防ぎつつ、砥粒32を保持することができる。
【0027】
図1(a)および
図1(b)に示すように、研磨面13には、溝33が設けられていることが好ましい。上述のテクスチャ構造が、摺動性の問題を解決するためのミクロな凹凸であるのに対し、溝33は、砥粒32と水(純水)とを含むスラリーを、導電性半導体基板20の被研磨面14に供給しやすくするためのマクロな凹凸であるといえる。また、研磨面13に溝33が設けられていることで、導電性半導体基板20が研磨用パッド10に貼りつき難い、研磨用パッド10から研磨屑を排出しやすい、という効果もある。溝33の幅は、例えば、1mm以上5mm以下であることが好ましく、溝33の深さは、例えば、0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、溝33のピッチは、例えば、10mm以上50mm以下であることが好ましい。このようなサイズの溝33を設けることで、スラリーをより効率的に供給することができる。なお、溝33は、
図1(a)に示すような格子状の他、例えば、螺旋状としてもよい。また、
図1(b)においては、SPE膜15の厚さと同じ深さの溝33が設けられている場合を示しているが、溝33の深さは、SPE膜15の厚さ未満であってもよいし、SPE膜15の厚さを超えていてもよい。
【0028】
本実施形態の研磨用パッド10は、研磨面13に、砥粒32と水とを含むスラリーが供給されることで研磨を行うように構成されていることが好ましい。この場合、砥粒32は、研磨用パッド10に予め固定(または分散)されておらず、遊離砥粒として機能する。これにより、砥粒32を予め研磨面13に分散させる場合よりも、多量の砥粒32を研磨面13に供給できるため、研磨レートを向上させることができる。また、研磨用パッド10から砥粒32が脱落することにより、研磨レートが低下するリスクを低減できる。
【0029】
また、本実施形態の研磨用パッド10は、砥粒32の分散媒である水によって、ナフィオンに水分子が供給されるように構成されていることが好ましい。この場合、水は、砥粒32の分散媒としての役割と、ナフィオンに水分子を供給する役割とを有している。
【0030】
砥粒32は、導電性半導体基板20の被研磨面14を構成する導電性半導体30より硬度が低いことが好ましい。このような砥粒32としては、酸化セリウム(CeO2)、酸化シリコン(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)等が例示される。通常、機械研磨においては研磨対象物より硬い砥粒を用いるが、本実施形態では、酸化物31のみを除去するため、導電性半導体30より柔らかい砥粒32を用いても導電性半導体基板20の被研磨面14を研磨することができる。その結果、導電性半導体基板20の被研磨面14へのダメージを抑制しつつ、研磨を行うことが可能となる。なお、硬度を表す尺度には、ビッカース硬度やヌープ硬度等があるが、ここで言う硬度の尺度としては傷のつき難さを簡便に表せることが重要である。したがって、硬度の尺度としてはモース硬度または修正モース硬度を用いることが好ましい。
【0031】
研磨用パッド10は、裏面側に、導電性接着剤を有することが好ましい。また、導電性接着剤の代わりに、導電性アルミテープ等を用いてもよい。これにより、例えば、後述する定盤21の上に研磨用パッド10を貼り付けた際、定盤21と研磨用パッド10との間の導電性を確保することができる。
【0032】
(2)研磨用パッド10の製造方法
次に、本実施形態の研磨用パッド10の製造方法について説明する。本実施形態では、SPE膜15としてナフィオンからなる膜を用いる場合について説明する。
【0033】
市販のナフィオン膜(例えば、シグマアルドリッチ社製、Nafion117)は、表面が平坦で、被研磨面14との接触面積(真実接触面積)が大きくなるため、研磨時に、研磨用パッド10と導電性半導体基板20とを接触させながら相対移動させることが困難である。そこで、例えば、砥石やサンドペーパー等と、SPE膜15の表面とを擦り合わせることで、SPE膜15の表面に、
図2(b)に示すようなテクスチャ構造を形成する。テクスチャ構造を形成したSPE膜15の表面を、研磨面13として利用する。これにより、上述した摺動性の問題を解決することができる。
【0034】
また、ナフィオン分散液(例えば、シグマアルドリッチ社製、製品番号274704、527084、510211、527106、663492、および、527122のいずれかを用いることが好ましい)を用いても、テクスチャ構造が設けられたSPE膜15を得ることができる。まず、例えば、ハニカムパターンを有する金型に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)プレポリマーを注入し、熱硬化させる。次に、例えば、硬化させたPDMSに、ナフィオン分散液をキャストし、乾燥させることで、
図2(a)に示すようなテクスチャ構造が設けられたSPE膜15を得ることができる。
【0035】
なお、市販のナフィオン膜を複数枚重ねて熱圧着することで、SPE膜15の厚みを大きくしてもよい。これにより、研磨用パッド10の寿命を向上させることができる。
【0036】
砥粒32と水とを含むスラリーを供給しやすくするため、研磨面13には溝33を設けることが好ましい。まず、例えば、テクスチャ構造が設けられたSPE膜15を、正方形状(例えば、18mm×18mm)にカットする。次に、例えば、導電性基材19としてのステンレス板上に、カットしたSPE膜15を、導電性接着剤を用いて格子状に接着することで、
図1(a)および
図1(b)に示すような、溝33を研磨面13に設けることができる。なお、導電性基材19を用いない場合、後述する定盤21上に、カットしたSPE膜15を接着することで溝33を設けてもよい。また、SPE膜15をカットせず、レーザ加工等により、SPE膜15自体に、溝33を形成してもよい。
【0037】
以上により、研磨面13に、テクスチャ構造が設けられたSPE膜15を有し、溝33が設けられている研磨用パッド10を得ることができる。なお、本実施形態では、上述のようにSPE膜15をカットした場合でも、導電性基材19(定盤21)上に接着したもの全体をまとめてSPE膜15という。
【0038】
(3)研磨装置の構成
次に、本実施形態で用いる研磨装置の構成について説明する。
図3は、本実施形態で用いる研磨装置の概略構成図である。
図3に示すように、本実施形態の研磨装置は、例えば、定盤21と、基板ホルダ22と、電源23と、スラリー供給部24とを有している。なお、
図3においては、研磨面13に設けられている溝33を省略している。
【0039】
定盤21は、例えば、ステンレス製の円板であり、上面に研磨用パッド10を貼り付けるように構成されている。定盤21は、上面に研磨用パッド10を貼り付けた状態で、水平方向に所定の回転速度で自転するように構成されている。なお、定盤21は、ステンレス製に限らず、導電性と剛性とを有するものであればよい。
【0040】
基板ホルダ22は、例えば、ステンレス製であり、底面に導電性半導体基板20を貼り付けるように構成されている。導電性半導体基板20は、被研磨面14が露出した態様で、例えば、導電性接着剤を用いて基板ホルダ22に貼り付けることが好ましい。つまり、導電性半導体基板20の裏面(被研磨面14と反対側の面)と、基板ホルダ22とを電気的に接続することが好ましい。これにより、導電性半導体基板20の被研磨面14を全面露出させることができ、被研磨面14の全面を研磨することができる。なお、基板ホルダ22が導電性を有さない場合、例えば、基板ホルダ22を回転させるための導電性を有する回転軸を用いて、導電性半導体基板20と、電源23とを電気的に接続すればよい。
【0041】
基板ホルダ22は、底面に導電性半導体基板20を貼り付けた状態で、水平方向に所定の回転速度で自転するように構成されている。また、基板ホルダ22は、研磨用パッド10の研磨面13に所定の圧力で導電性半導体基板20の被研磨面14を押し当てるように構成されている。なお、基板ホルダ22は、ステンレス製に限らず、導電性半導体基板20を保持できるだけの剛性を有するものであればよい。
【0042】
電源23は、例えば、定盤21および基板ホルダ22と電気的に接続されており、研磨用パッド10に所定の電圧を印加するように構成されている。電源23は、基板ホルダ22側(導電性半導体基板20側)が陽極となるように構成されている。電源23が研磨用パッド10に電圧を印加することで、研磨面13に存在するSPE膜15の表面(つまり、ナフィオンの表面)で水からOHラジカルを生成させることができる。電源23としては、例えば、市販のポテンショスタットおよびファンクションジェネレータを組み合わせたものを用いることができる。
【0043】
スラリー供給部24は、研磨用パッド10の研磨面13に、例えば、砥粒32と水(純水)とを含むスラリーを供給するように構成されている。スラリー供給部24が研磨面13に砥粒32を供給することで、酸化物31を除去することができる。また、スラリー供給部24が研磨面13に水を供給することで、研磨用パッド10の導電性を向上させることができる。また、ナフィオンの表面で水からOHラジカルを生成させることができる。さらに、導電性半導体基板20の被研磨面14から除去された酸化物31を、研磨面13から排出することができる。なお、本明細書において、純水とは、例えば、比抵抗が0.1MΩ・cm以上18MΩ・cm以下の水を意味する。
【0044】
(4)導電性半導体基板20の製造方法
次に、本実施形態の研磨用パッド10を用いた導電性半導体基板20の製造方法について説明する。
図4は、本実施形態の導電性半導体基板20の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態の導電性半導体基板20の製造方法は、例えば、準備工程S100と、酸化工程S111と、除去工程S112と、ドレッシング処理工程S120と、を有している。酸化工程S111と、除去工程S112とを合わせて研磨工程S110ともいう。本実施形態では、研磨用パッド10を用いて導電性半導体基板20としてのSiC基板の被研磨面14を研磨し、研磨された表面を有する導電性半導体基板20(SiC基板)を製造する場合について説明する。
【0045】
(準備工程S100)
準備工程S100では、研磨用パッド10と、導電性半導体基板20としてのSiC基板を準備する。SiC基板は、例えば、4H-SiCの単結晶からなる円板状の自立基板である。SiC基板の直径は、例えば、2インチ以上6インチ以下である。SiC基板の厚さは、例えば、0.25mm以上である。このようなSiC基板は、例えば、昇華法(改良レーリー法)等によって種結晶を成長させ、得られた4H-SiC単結晶(インゴット)をスライスすることで得られる。SiC基板の被研磨面14は、例えば、Si面であり、アズスライス表面であるため、半導体デバイスの製造等に用いるためには被研磨面14の研磨が必要である。なお、本明細書において、「Si面」とは、SiC結晶の(0001)面から僅かに(例えば、5°以下のオフ角で)傾斜したものを含むものとする。
【0046】
図5(a)は、本実施形態の準備工程S100におけるSiC基板の被研磨面14を模式的に示す断面図である。
図5(b)は、本実施形態の酸化工程S111におけるSiC基板の被研磨面14と、研磨用パッド10の研磨面13とを模式的に示す断面図である。
図5(c)は、本実施形態の除去工程S112におけるSiC基板の被研磨面14と、研磨用パッド10の研磨面13とを模式的に示す断面図である。
図5(a)に示すように、準備工程S100におけるSiC基板の被研磨面14は導電性半導体30(SiC)で構成されており、アズスライス表面であるため凹凸が多数存在している。
【0047】
(研磨工程S110)
研磨工程S110では、例えば、研磨用パッド10と上述の研磨装置とを用いて、SiC基板の被研磨面14の研磨を行う。まず、研磨用パッド10を、研磨面13が露出するように、定盤21に貼り付け、SiC基板を、被研磨面14が露出するように、基板ホルダ22に貼り付ける。
【0048】
研磨工程S110では、ナフィオンに水分子が接触する状態で、研磨用パッド10の研磨面13をSiC基板の被研磨面14に圧力をかけて接触させ、研磨用パッド10とSiC基板との間に電圧を印加しながら、研磨用パッド10とSiC基板とを相対移動させることにより、被研磨面14を研磨する。
【0049】
研磨工程S110では、研磨用パッド10の研磨面13に所定の圧力でSiC基板の被研磨面14を押し当てる。研磨面13と被研磨面14との間にかける圧力(研磨圧力)は、例えば、10kPa以上100kPa以下とすることが好ましい。また、SiC基板の被研磨面14に均一に圧力が加わるように、SiC基板の被研磨面14を押し当てることが好ましい。これらにより、SiC基板の被研磨面14を面内均一に研磨することが可能となる。
【0050】
研磨工程S110では、研磨用パッド10の研磨面13に所定の圧力でSiC基板の被研磨面14を押し当てた状態で、電源23を用いて研磨用パッド10に所定の電圧を印加し、被研磨面14を酸化する。電源23は、例えば、陽極側から順に、基板ホルダ22と、SiC基板と、研磨用パッド10と、定盤21と電気的に接続されている。
【0051】
電源23が印加する電圧は、20V以上300V以下とすることが好ましい。電源23が印加する電圧が20V未満では、ナフィオンの表面で水からOHラジカルを生成させ難い。これに対し、電源23が印加する電圧を20V以上とすることで、OHラジカルを生成させやすくなる。一方、電源23が印加する電圧が300Vを超えると、SiC基板の被研磨面14が荒れてしまう可能性がある。これに対し、電源23が印加する電圧を300V以下とすることで、SiC基板の被研磨面14を平滑かつ適切な研磨レートで研磨することができる。
【0052】
研磨工程S110では、研磨用パッド10に所定の電圧を印加した状態で、定盤21と基板ホルダ22とをそれぞれ水平方向に所定の回転速度で自転させる。定盤21の自転の回転速度は、例えば、10rpm以上300rpm以下とすることが好ましい。また、基板ホルダ22の自転の回転速度は、例えば、10rpm以上300rpm以下とすることが好ましい。なお、定盤21および基板ホルダ22の回転速度は、同じ速度でもよいし、異なる速度でもよい。また、定盤21および基板ホルダ22の回転方向は、同じ方向でもよいし、異なる方向でもよい。
【0053】
研磨工程S110では、例えば、スラリー供給部24を用いて、研磨面13に砥粒32と水とを含むスラリーを供給することが好ましい。これにより、砥粒32によって酸化物31を除去することができる。また、研磨用パッド10の導電性を向上させることができる。スラリー供給部24による水分供給量は、例えば、10mL/min以上とすることが好ましい。水分供給量が10mL/min未満では、研磨用パッド10の導電性が不充分となる可能性がある。これに対し、水分供給量を10mL/min以上とすることで、研磨用パッド10の導電性を充分に向上させることができる。一方、水分供給量の上限は、特に限定されないが、コスト面からは50mL/min以下であることが好ましい。本実施形態では、後述する第2実施形態等に比べて、ナフィオンや砥粒32が、研磨用パッド10から脱落する心配がないため、砥粒32および水を多く供給することができる。これにより、研磨用パッド10の導電性を充分に向上させることができる。また、研磨レートを向上させることができる。
【0054】
本実施形態では、過マンガン酸カリウム等の酸化剤を使用しないため、中性領域で研磨を行うことができる。なお、本明細書において、「中性領域で研磨を行う」とは、例えば、研磨用パッド10の研磨面13のpHが6.0以上8.0以下の状態を保ちながら研磨工程S110を行うことを意味する。研磨面13のpHは、例えば、pHメータを用いて測定することができる。なお、必要に応じて、研磨面13のpHを上記範囲外に調整してもよい。
【0055】
図6は、本実施形態の研磨工程S110における、研磨用パッド10に流れる電流を模式的に示すグラフである。本実施形態では、例えば、電源23を用いて研磨用パッド10にパルス電圧を印加する(つまり、間欠的に電圧を印加する)ことにより、研磨用パッド10に間欠的に電流を流すことが好ましい。
図6に示すように、酸化工程S111は、研磨用パッド10に電流が流れている間に行う。一方、除去工程S112は、研磨用パッド10に電流が流れているかどうかに関わらず、継続して行う。すなわち、本実施形態では、研磨用パッド10に電流が流れている間、酸化工程S111と除去工程S112とを同時に行っている。
【0056】
本実施形態では、研磨用パッド10に電流が流れている間、酸化工程S111と除去工程S112とを同時に行う。これにより、SiC基板の被研磨面14に生成した酸化物31を速やかに砥粒32によって除去することができるため、研磨レートの向上が可能となる。また、研磨用パッド10に電流が流れていない間には、除去工程S112を行う。その際、例えば、スラリー供給部24が研磨面13に供給する水によって、除去した酸化物31を研磨面13から排出することができる。
【0057】
本実施形態では、研磨用パッド10とSiC基板とを接触させながら相対移動させる間、常にSiC基板の被研磨面14の全面が、研磨面13に接触している。これにより、SiC基板の被研磨面14を面内均一に酸化させることができる。その結果、SiC基板の被研磨面14を面内均一に研磨することが可能となる。
【0058】
図6に示すように、パルスの周期をT、1周期における電流が流れている時間をtとすると、デューティ比Dは、D=t/Tで定義される。デューティ比Dは、例えば、1%以上100%以下とすることが好ましい。本実施形態では、デューティ比Dを制御することで、被研磨面14を酸化させる速度を調整できるため、研磨レートを制御することが可能となる。
【0059】
研磨工程S110では、酸化工程S111を1サイクル行う際に生成される酸化物31が、次回の酸化工程S111が行われる前までに、すべて除去されていることが好ましい。つまり、酸化工程S111を1サイクル行う際に生成される酸化物31の量が、周期Tの間に除去できる酸化物31の量を超えないように、研磨用パッド10に流れる電流を制御することが好ましい。これにより、被研磨面14を平滑かつ適切な研磨レートで研磨することができる。
【0060】
(酸化工程S111)
酸化工程S111では、ナフィオンの表面で水からOHラジカルを生成させ、OHラジカルによってSiC基板の被研磨面14を構成するSiCを酸化し、酸化物31を生成する。研磨用パッド10に電流が流れると、ナフィオンの表面では以下の反応式(1)に示すような反応により、水からOHラジカルが生成される。
【0061】
H2O→OH・+H++e- ・・・(1)
【0062】
OHラジカルが生成されると、SiC基板の被研磨面14では以下の反応式(2)に示すような反応により、SiCが酸化され、酸化物31(ここでは酸化ケイ素)が生成される。
【0063】
SiC+8OH・→SiO2+CO2+4H2O ・・・(2)
【0064】
図5(b)に示すように、酸化工程S111では、導電性半導体30のうち、凸部が優先的に酸化され、酸化物31が生成される。つまり、SiC基板の被研磨面14のうち、研磨面13と接触(または近接)している箇所が優先的に酸化される。これにより、後述する除去工程S112にて、凸部に生成された酸化物31を除去することにより、SiC基板の被研磨面14を効率的に平坦化することが可能となる。
【0065】
OHラジカルは通常寿命が短く、長時間存在することはできない。しかしながら、本実施形態の研磨用パッド10では、SiC基板の被研磨面14と接触している研磨面13でOHラジカルが生成されるため、OHラジカルの生成と、SiC基板の被研磨面14の酸化とを同時に行うことができる。したがって、OHラジカルが消滅する前にSiC基板の被研磨面14を酸化することができる。
【0066】
また、OHラジカルはナフィオンの側鎖を分解し、ナフィオンを劣化させる可能性がある。しかしながら、本実施形態の研磨用パッド10では、生成したOHラジカルがSiC基板の被研磨面14を酸化するために使われるため、OHラジカルによるナフィオンの劣化を抑制することができる。
【0067】
(除去工程S112)
除去工程S112では、導電性半導体30がOHラジカルによって酸化されることにより生成された酸化物31を除去する。具体的には、例えば、
図5(c)に示すように、研磨面13に供給される砥粒32によって、酸化物31を機械的に除去する。砥粒32は導電性半導体30より硬度が低いため、導電性半導体30に傷をつけることなく、酸化物31のみを除去することができる。その結果、SiC基板の被研磨面14へのダメージを抑制しつつ、SiC基板の被研磨面14を研磨することが可能となる。なお、本明細書において、SiC基板の被研磨面14を研磨するとは、例えば、
図5(c)に示すように、SiC基板の被研磨面14を構成する導電性半導体30の一部を削り取って、表面を平坦化することを意味する。
【0068】
なお、研磨工程S110を行う時間は、SiC基板の用途等に応じて、任意に設定することができる。
【0069】
研磨工程S110では、上述の酸化工程S111と除去工程S112とを繰り返し行うことにより、SiC基板の表面を平坦化することができる。研磨工程S110後のSiC基板の表面(研磨された面)の算術平均粗さRaは、例えば、0.7nm以下であることが好ましい。これにより、研磨工程S110後のSiC基板は、半導体デバイスの製造等に好適に用いることができる。なお、研磨工程S110後のSiC基板の表面の算術平均粗さRaの下限は特に限定されないが、0.1nm以上であることが例示される。
【0070】
研磨工程S110では、反応性の高いOHラジカルによってSiC基板の被研磨面14を効率的に酸化し、酸化物31を除去することでSiC基板の被研磨面14を研磨しているため、従来法に比べて研磨レートを向上させることができる。具体的には、研磨工程S110における研磨レートは、例えば、100nm/h以上10000nm/h以下とすることができる。なお、本明細書における研磨レートとは、研磨を行った単位時間あたりの、除去された厚さを意味する。
【0071】
研磨工程S110を終了する際(仕上げ研磨ともいう)には、研磨用パッド10とSiC基板との間に流れる電流が徐々に小さくなるように電圧を印加することが好ましい。仕上げ研磨時に、電流を小さくし、生成される酸化物31の厚さを薄くすることで、被研磨面14をより平坦化することができる。なお、電流は、段階的減少させてもよいし、連続的に減少させてもよい。
【0072】
研磨工程S110を終了する際には、例えば、所定の時間、電源23を停止し、研磨用パッド10に電圧を印加しない状態で、研磨用パッド10とSiC基板とを接触させながら相対移動させることが好ましい。これにより、導電性半導体基板20の被研磨面14に酸化物31が残留していない状態で研磨工程S110を終了することができる。また、被研磨面14の面内電気特性の分布に起因する研磨ムラを低減することができる。
【0073】
研磨工程S110では、酸化工程S111にて酸化物31を生成する速度v1を、例えば、研磨用パッド10とSiC基板との間に流れる電流値で制御することができる。また、研磨工程S110では、除去工程S112にて酸化物31を除去する速度v2を、例えば、研磨面13に供給する砥粒32の供給量、研磨圧力、または研磨用パッド10とSiC基板との相対速度の少なくともいずれかを変化させることで制御することができる。つまり、本実施形態では、酸化物31を生成する速度v1と、酸化物31を除去する速度v2とを、別々に制御することができる。これにより、研磨レートや被研磨面14の算術平均粗さRa等を制御することが可能となる。
【0074】
研磨工程S110では、例えば、速度v1および速度v2が、v1≦v2の関係を満たすように制御することが好ましい。これにより、被研磨面14に酸化物31を残さないように研磨を行うことができるため、被研磨面14をより平坦化することができる。また、電流効率を向上させ、エネルギーのロスを低減することができる。なお、例えば、研磨工程S110の初期段階において、研磨レートをより大きくしたい場合、速度v1および速度v2が、v1>v2の関係を満たすように制御してもよい。この場合、仕上げ研磨時には、v1≦v2の関係を満たすように、研磨条件を変更することが好ましい。
【0075】
(ドレッシング処理工程S120)
導電性半導体基板20の研磨を行っている間に、SPE膜15の表面が摩耗し、テクスチャ構造が失われてしまう可能性がある。テクスチャ構造が失われると、導電性半導体基板20に対する摺動性が悪化する。したがって、研磨工程S110の後に、別の導電性半導体基板20の研磨を行うような場合、必要に応じてドレッシング処理工程S120を行うことが好ましい。ドレッシング処理工程S120は、SPE膜15の表面に対して、粗面化処理(ドレッシング処理ともいう)を行い、SPE膜15の表面にテクスチャ構造を再び形成する工程である。ドレッシング処理は、例えば、砥石やサンドペーパー等と、SPE膜15の表面とを擦り合わせることで行うことができる。ドレッシング処理工程S120後に、再び研磨工程S110を行う場合、研磨工程S110の開始時において、SPE膜15の表面の算術平均粗さRaが、5μm以上50μm以下となるように、ドレッシング処理を行うことが好ましい。これにより、SPE膜15の表面が摩耗したとしても、テクスチャ構造を再び形成することができるため、研磨用パッド10の寿命を向上させることが可能である。なお、ドレッシング処理工程S120を行う必要があるかどうかを判断するには、例えば、定盤21または基板ホルダ22を回転させる際の負荷をモニタし、負荷が所定値を超えた場合には、ドレッシング処理工程S120を行う必要があると判断すればよい。
【0076】
以上の工程により、研磨された表面を有する導電性半導体基板20を製造することができる。なお、本実施形態で説明した以外の工程は、公知の工程を、必要に応じて行えばよい。また、本実施形態の導電性半導体基板20の製造方法は、導電性半導体基板20の研磨方法として適用することもできる。
【0077】
(5)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0078】
(a)本実施形態の研磨用パッド10は、研磨面13の少なくとも一部に、OHラジカルを生成させ、OHラジカルによって導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させるための固体高分子電解質を含む膜(SPE膜15)を有している。そのため、導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させることができる。その結果、導電性半導体基板20の被研磨面14へのダメージを抑制しつつ、研磨を行うことが可能となる。また、本実施形態では、反応性の高いOHラジカルによって導電性半導体基板20の被研磨面14を効率的に酸化させるため、従来法に比べて研磨レートを向上させることができる。さらに、本実施形態では、過マンガン酸カリウム等の酸化剤を使用しないため、中性領域で研磨を行うことができる。
【0079】
(b)本実施形態の研磨用パッド10では、研磨面13の少なくとも一部に、電圧を印加することで水からOHラジカルを生成させる固体高分子電解質としてのナフィオンからなる膜(SPE膜15)を有している。そのため、OHラジカルの生成と、導電性半導体基板20の被研磨面14の酸化とを同時に行うことができる。したがって、OHラジカルが消滅する前に導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させることができる。また、本実施形態の研磨用パッド10では、生成したOHラジカルが導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させるために使われるため、OHラジカルによるナフィオンの劣化を抑制することができる。
【0080】
(c)本実施形態の研磨用パッド10では、SPE膜15として、厚さが0.1mm以上のナフィオンからなる膜を用いている。これにより、後述する第2実施形態等に比べて、研磨面13に存在するナフィオンが脱落するリスクが低いため、研磨用パッド10の寿命を向上させることができる。
【0081】
(d)本実施形態の研磨用パッド10では、研磨面13におけるSPE膜15の表面に、テクスチャ構造が設けられている。これにより、SPE膜15としてナフィオンからなる膜を用いた場合の、導電性半導体基板20に対する摺動性が悪いという問題を解決している。
【0082】
(e)本実施形態の研磨用パッド10では、研磨面13に、溝33が設けられている。これにより、砥粒32と水とを含むスラリーを被研磨面14に供給しやすくなる。また、導電性半導体基板20が研磨用パッド10に貼りつき難くなる、さらに、研磨用パッド10から研磨屑を排出しやすくなる。
【0083】
(f)本実施形態の導電性半導体基板20の製造方法は、SPE膜15の表面に対して粗面化処理を行うドレッシング処理工程S120を有している。これにより、SPE膜15の表面が摩耗したとしても、テクスチャ構造を再び形成することができるため、研磨用パッド10の寿命を向上させることが可能である。
【0084】
<本発明の第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。第1実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0085】
(1)研磨用パッド10Aの構成
図7は、本実施形態の研磨用パッド10Aの研磨面13の一例を模式的に示す平面図である。本実施形態の研磨用パッド10Aも、研磨面13の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜(SPE膜15)を有しているが、第1実施形態とは異なり、SPE膜15は、研磨用パッド10Aの基材表面に付着(または、基材表面の少なくとも一部を被覆)している。研磨用パッド10Aの基材としては、不織布、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スエード等を用いることができる。被研磨面14に対する摺動性を確保する観点からは、研磨用パッド10Aの基材として、不織布を用いることが好ましい。また、研磨用パッド10Aの厚さ方向の導電性を確保する観点からは、研磨用パッド10Aの基材として、不織布、または、連続気泡構造を有する基材を用いることが好ましい。
【0086】
本実施形態の研磨用パッド10Aは、研磨面13に、少なくとも固体高分子電解質(本実施形態ではナフィオン)が含浸されている。本実施形態において、固体高分子電解質は、含浸により、(つまり、固体高分子電解質を含む液状物質を研磨用パッド10Aの基材にしみ込ませ、液体を蒸発させて、固体高分子電解質を研磨用パッド10A中に残留させることにより、)研磨用パッド10Aの基材表面に付着(または、基材表面の少なくとも一部を被覆)している。なお、本明細書において、固体高分子電解質が研磨用パッド10Aの基材表面に付着(または、基材表面の少なくとも一部を被覆)していることを、研磨用パッド10Aに固体高分子電解質が含浸されている、というものとする。
【0087】
ナフィオンは、研磨用パッド10Aの厚さ方向にも含浸されていることが好ましい。ナフィオンはイオン伝導性を有するため、これにより、研磨用パッド10Aの厚さ方向のイオン伝導性を確保することができる。
【0088】
研磨用パッド10A中において、ナフィオンは、例えば、3mg/cm3以上20mg/cm3以下の密度で含浸されていることが好ましい。ナフィオンの密度が3mg/cm3未満では、被研磨面14を酸化させる効果が得られ難い。これに対し、ナフィオンの密度を3mg/cm3以上とすることで、被研磨面14を酸化させやすくなる。一方、ナフィオンの密度が20mg/cm3を超えると、研磨用パッド10Aの柔軟性が低下するため、研磨時に被研磨面14に傷がつく可能性がある。これに対し、ナフィオンの密度を20mg/cm3以下とすることで、研磨用パッド10Aの柔軟性が保たれるため、研磨時に被研磨面14に傷がつく可能性を低減できる。なお、本明細書において、ナフィオンの密度とは、研磨用パッド10A中に含まれるナフィオンの質量を、研磨用パッド10の見かけ体積(内部の空隙を含んだ体積)で除した値である。
【0089】
図8(a)は、研磨用パッド10Aの基材として不織布を用いた場合の、研磨面13の拡大模式図である。
図8(a)に示すように、ナフィオンは、不織布の繊維16の表面に付着(または、表面の少なくとも一部を被覆)し、薄いSPE膜15として存在していることが好ましい。本実施形態では、ナフィオンを不織布の繊維16の表面に付着させているため、SPE膜15としてナフィオンからなる膜を用いる場合と比べて、導電性半導体基板20に対する摺動性を向上させることができる。なお、繊維16の表面に、ナフィオンが付着していることを確認するには、例えば、繊維16を切断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて、繊維16の断面付近を測定し、フッ素(F)が検出されるかどうかを調べればよい。
【0090】
ナフィオンは、複数の繊維16を連結するように存在していることが好ましい。これにより、研磨用パッド10A中で、ナフィオンが連結している状態となるため、研磨用パッド10Aの導電性を向上させることができる。また、
図8(b)は、連続気泡構造を有する基材を用いた場合の、研磨面13の拡大模式図である。この場合も、
図8(b)に示すように、気泡17の内側を覆っているナフィオン(SPE膜15)が連結している状態となるため、研磨用パッド10Aの導電性を向上させることができる。
【0091】
図9は、本実施形態の研磨用パッド10Aの研磨面13の他の例を模式的に示す平面図である。
図9に示すように、研磨面13に、砥粒32が分散されていてもよい。これにより、導電性半導体基板20の被研磨面14を構成する導電性半導体30がOHラジカルによって酸化されることにより生成される酸化物31を除去することができる。また、この場合、砥粒32は研磨用パッド10Aの厚さ方向にも含浸されていることが好ましい。これにより、研磨面13が研磨中に摩耗した場合でも研磨レートを保つことができる。
【0092】
砥粒32として、レーザ回折・散乱法による平均粒径(D50)が1μm程度(例えば、0.5μm以上2μm以下)の酸化セリウムを用いた場合、研磨用パッド10A中において、砥粒32は、例えば、0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下の密度で分散されていることが好ましい。砥粒32の密度が0.1g/cm3未満では、酸化物31を除去する効果が得られ難い。これに対し、砥粒32の密度を0.1mg/cm3以上とすることで、酸化物31を除去しやすくなる。一方、砥粒32の密度が0.5g/cm3を超える研磨用パッド10Aを製造しようとした場合、研磨用パッド10Aに砥粒32の分散液を含浸させる際に、分散液の粘性が大きくなり過ぎるため、研磨用パッド10Aに分散液を含浸できない可能性がある。これに対し、砥粒32の密度を0.5g/cm3以下とすることで、研磨用パッド10Aに砥粒32の分散液を含浸させやすくなる。なお、本明細書において、砥粒32の密度とは、研磨用パッド10A中に含まれる砥粒32の質量を、研磨用パッド10Aの見かけ体積(内部の空隙を含んだ体積)で除した値である。
【0093】
図10は、研磨面13に、砥粒32が分散されている場合の、研磨面13の拡大模式図である。
図10に示すように、ナフィオン(SPE膜15)は、砥粒32の表面にも付着していることが好ましい。これにより、研磨用パッド10Aの導電性を向上させることができる。
【0094】
なお、研磨面13に、砥粒32が分散されていない場合、第1実施形態のように、研磨面13に、砥粒32と水とを含むスラリーを供給しながら研磨を行えばよい。この場合、研磨用パッド10Aから砥粒32が脱落することにより、研磨レートが低下するリスクを低減できる。なお、砥粒32の消費量を低減するという観点からは、研磨面13に、砥粒32が予め分散されていることが好ましい。
【0095】
研磨用パッド10Aは、保水性を有することが好ましい。これにより、水からOHラジカルを効率的に生成させることができる。また、ナフィオンは水の存在下で導電性を示すため、研磨用パッド10Aの導電性を向上させることができる。具体的には、例えば、研磨用パッド10Aに吸水性ポリマーを少量分散させることで、研磨用パッド10Aの保水性を向上させることができる。
【0096】
(2)研磨用パッド10Aの製造方法
次に、本実施形態の研磨用パッド10Aの製造方法について説明する。本実施形態では、研磨用パッド10Aの基材として不織布を用い、研磨面13に、固体高分子電解質としてのナフィオンを含浸させ、かつ、砥粒32としての酸化セリウムを分散させる場合について説明する。なお、本実施形態では、研磨用パッド10Aの基材として不織布を用いているため、研磨用パッド10Aの厚さ方向にもナフィオンを含浸させやすく、砥粒32を分散させやすい。
【0097】
まず、不織布に酸化セリウム分散液(例えば、60重量%、平均粒径(D50)1μm)を含浸させる。酸化セリウム分散液には、アルギン酸ナトリウムを少量(例えば、0.25重量%)添加しておくことが好ましい。これにより、酸化セリウム分散液の粘性が大きくなるため、研磨用パッド10Aに(研磨面13および研磨用パッド10Aの厚さ方向に)酸化セリウムを分散させやすくすることができる。
【0098】
不織布に酸化セリウム分散液を含浸させたら、不織布を塩化カルシウム水溶液(例えば、20重量%)中に入れることが好ましい。これにより、アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムとが反応してゲル化するため、研磨用パッド10Aに酸化セリウムを分散させやすくすることができる。
【0099】
また、酸化セリウム分散液には、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化ランタン等の希土類酸化物を添加してもよい。これにより、砥粒32によって酸化物31を除去しやすくなる。
【0100】
不織布に酸化セリウム分散液を含浸させたら、例えば、搾り機等を用いて余分な酸化セリウム分散液を取り除いた後、定温乾燥器等を用いて70℃で30分間乾燥させる。以上により、研磨面13に砥粒32としての酸化セリウムを分散させることができる。
【0101】
次に、不織布にナフィオン分散液(5~20重量%、例えば、シグマアルドリッチ社製、製品番号274704、527084、510211、527106、663492、および、527122のいずれかを用いることが好ましい)を含浸させる。
【0102】
不織布にナフィオン分散液を含浸させたら、例えば、搾り機等を用いて余分なナフィオン分散液を取り除いた後、ナフィオン分散液を含浸させた不織布を、定温乾燥器等を用いて70℃で30分間乾燥させる。以上により、研磨面13にナフィオンを含浸させることができる。なお、ナフィオン分散液の含浸と乾燥とを複数回繰り返し行ってもよい。
【0103】
不織布にナフィオンを含浸させる際に、ナフィオン分散液を用いることで、ナフィオンからなる膜を用いる場合と比べて、研磨用パッド10Aの摺動性を向上させることができる。その結果、研磨用パッド10Aと導電性半導体基板20とを接触させながら相対移動させやすくなり、導電性半導体基板20の被研磨面14の研磨を効率的に行うことが可能となる。
【0104】
以上により、研磨面13に、ナフィオンが含浸され、かつ、砥粒32が分散されている、研磨用パッド10Aを得ることができる。なお、不織布には、先に砥粒32を分散させてから、ナフィオンを含浸させることが好ましい。この場合、砥粒32の表面に、ナフィオンが付着しやすくなるため、研磨用パッド10Aの導電性を向上させることができる。
【0105】
(3)研磨装置の構成
本実施形態では、第1実施形態と同様の研磨装置を用いることができる。なお、研磨面13に、砥粒32が予め分散されている研磨用パッド10Aを用いる場合には、スラリー供給部24を、研磨面13に純水を供給する純水供給部に置き換えてよい。
【0106】
(4)導電性半導体基板20の製造方法
次に、本実施形態の研磨用パッド10Aを用いた導電性半導体基板20の製造方法について、第1実施形態とは異なる部分を中心に説明する。
図11は、本実施形態の導電性半導体基板20の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図11に示すように、本実施形態の導電性半導体基板20の製造方法は、第1実施形態と比べて、ドレッシング処理工程S120を有さない点で異なる。本実施形態では、研磨用パッド10Aを用いて導電性半導体基板20としてのGaN基板の被研磨面14を研磨し、研磨された表面を有する導電性半導体基板20(GaN基板)を製造する場合について説明する。
【0107】
本実施形態の準備工程S100では、研磨用パッド10Aと、導電性半導体基板20としてのGaN基板とを準備する。GaN基板は、例えば、GaNの単結晶からなる円板状の自立基板である。GaN基板の直径は、例えば、2インチ以上6インチ以下である。GaN基板の厚さは、例えば、0.25mm以上である。このようなGaN基板は、例えば、HVPE(ハイドライド気相成長法、Hydride Vapor Phase Epitaxy)等によってエピタキシャル成長させたGaN結晶をスライスすることで得られる。GaN基板の被研磨面14は、例えば、+c面であり、アズスライス表面であるため、半導体デバイスの製造等に用いるためには被研磨面14の研磨が必要である。なお、本明細書において、「+c面」とは、GaN結晶の(0001)面から僅かに(例えば、5°以下のオフ角で)傾斜したものを含むものとする。
【0108】
GaN基板の被研磨面14のキャリア濃度は、例えば、1.0×1016cm-3以上であることが好ましい。これにより、GaN基板の厚さ方向の導電性を確保することができる。なお、GaN基板の被研磨面14のキャリア濃度の上限は、特に限定されないが、1.0×1020cm-3以下が例示される。
【0109】
本実施形態では、電源23が印加する電圧Vによって、研磨レートは変化し、ある電圧Vmで研磨レートが最大(極大)となる場合がある。この場合、電源23が印加する電圧Vは、研磨レートが最大(極大)となる電圧Vmを超えないように制御することが好ましい。電圧Vが電圧Vmを超えると、酸化物31の除去が律速し、被研磨面14が荒れてしまう可能性がある。これに対し、電圧Vが電圧Vmを超えないように制御することで、被研磨面14を平滑かつ適切な研磨レートで研磨することができる。
【0110】
本実施形態の研磨工程S110では、例えば、純水供給部を用いて、研磨面13にスプレー状に純水を供給することが好ましい。これにより、研磨用パッド10Aの導電性を向上させることができる。また、純水供給部による水分供給量は、例えば、0.1mL/min以上5mL/min以下とすることが好ましい。水分供給量が0.1mL/min未満では、研磨用パッド10Aの導電性が不充分となる可能性がある。これに対し、水分供給量を0.1mL/min以上とすることで、研磨用パッド10Aの導電性を充分に向上させることができる。一方、水分供給量が5mL/min以下を超えると、純水によってナフィオンまたは砥粒32が流されてしまう可能性がある。これに対し、水分供給量を5mL/min以下とすることで、純水によってナフィオンまたは砥粒32が流されてしまうリスクを低減することができる。
【0111】
本実施形態の研磨工程S110では、研磨面13の湿度を一定の範囲(例えば、60%以上100%以下)に保つように、研磨面13に水を供給することが好ましい。すなわち、研磨面13の湿度によって、研磨用パッド10Aに流れる電流値が異なるため、例えば、デジタルマルチメータを用いて研磨用パッド10Aに流れる電流値をモニタリングし、電流値が一定になるように研磨面13の湿度を制御することが好ましい。これにより、研磨レートを安定させることができる。
【0112】
なお、研磨面13に、砥粒32が分散されていない研磨用パッド10Aを用いる場合、研磨工程S110では、第1実施形態と同様に、研磨面13に、砥粒32と水とを含むスラリーを供給することが好ましい。これにより、砥粒32が予め分散されている研磨用パッド10Aを用いる場合と同様に、被研磨面14の研磨を行うことが可能となる。また、研磨用パッド10Aから砥粒32が脱落することにより、研磨レートが低下するリスクを低減できる。
【0113】
本実施形態の酸化工程S111では、GaN基板の被研磨面14において、以下の反応式(3)に示すような反応により、GaNが酸化され、酸化物31(ここでは酸化ガリウム)が生成される。
【0114】
2GaN+6OH・→Ga2O3+N2+3H2O ・・・(3)
【0115】
図12は、本実施形態の研磨工程S110における、GaN基板の被研磨面14付近の断面写真である。研磨工程S110では、GaN基板の被研磨面14に、ポーラス構造を形成した後、ポーラス構造を除去することが好ましい。本明細書において、ポーラス構造とは、結晶中に複数の空隙が形成されている構造を意味する。
図12では、被研磨面14と平行に複数の空隙層(ポーラス層18)が形成されている。ポーラス構造を形成することで、その上部の結晶が除去されやすくなるため、研磨レートを向上させることができる。また、上記ポーラス構造は、導電性半導体基板20の中でも、特にGaN基板を研磨する際に形成されやすい。
【0116】
以上、本実施形態においても、研磨された表面を有する導電性半導体基板20を製造することができる。なお、本実施形態で説明した以外の工程は、第1実施形態と同様の工程、または公知の工程を、必要に応じて行えばよい。また、本実施形態の導電性半導体基板20の製造方法は、導電性半導体基板20の研磨方法として適用することもできる。
【0117】
(5)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0118】
(a)本実施形態の研磨用パッド10Aでは、ナフィオンを不織布の繊維16の表面に付着させているため、SPE膜15としてナフィオンからなる膜を用いる場合と比べて、導電性半導体基板20に対する摺動性を向上させることができる。しかしながら、本実施形態のSPE膜15は、第1実施形態に比べて薄い(例えば、10μm以下)ため、パッドの寿命の観点からは、第1実施形態の研磨用パッド10の方が有利である。
【0119】
(b)本実施形態の研磨用パッド10Aでは、研磨面13に、酸化物31を除去する砥粒32が分散されていてもよい。これにより、第1実施形態と比べて、砥粒32の消費量を低減することができる。
【0120】
<本発明の第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について、第1実施形態および第2実施形態と異なる点を中心に説明する。第1実施形態および第2実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0121】
(1)研磨用パッド10Bの構成
図13(a)および
図13(b)は、本実施形態の研磨用パッド10Bの研磨面13を模式的に示す平面図である。
図13(a)および
図13(b)に示すように、本実施形態の研磨用パッド10Bは、研磨面13に、第1領域11と、第2領域12と、を有している。第1領域11および第2領域12は、例えば、扇形状であり、互いに隣接して配置されている。
図13(a)では、第1領域11が中心角90度の扇形状であり、第2領域12が中心角270度の扇形状である場合を一例として示している。なお、第1領域11および第2領域12の配置態様は、上述の態様に限定されず、種々変更可能である。例えば、
図13(b)に示すように、扇形状の第1領域11および第2領域12を、それぞれ複数交互に隣接するように配置してもよい。
【0122】
本実施形態の研磨用パッド10Bでは、第1領域11および第2領域12が、研磨用パッド10Bと導電性半導体基板20との相対移動により導電性半導体基板20の被研磨面14に交互に接触するように配置されている。これによる効果については後述する。
【0123】
第1領域11は、OHラジカルを生成させ、OHラジカルによって導電性半導体基板20の被研磨面14を構成する導電性半導体30を酸化させるための領域である。
【0124】
第1領域11には、例えば、固体高分子電解質としてのナフィオンが含浸されている。つまり、第1領域11はSPE膜15を有しており、本実施形態の研磨用パッド10Bも、研磨面13の少なくとも一部に、SPE膜15を有しているといえる。ナフィオンは、研磨用パッド10Bの厚さ方向の全体にわたって含浸されていることが好ましい。ナフィオンはイオン伝導性を有するため、これにより、研磨用パッド10Bの厚さ方向のイオン伝導性を確保することができる。
【0125】
第2領域12は、導電性半導体基板20の被研磨面14を構成する導電性半導体30がOHラジカルによって酸化されることにより生成される酸化物31を除去するための領域である。本実施形態の研磨用パッド10Bは、研磨面13に、第1領域11と第2領域12とを有するため、1つの研磨用パッド10Bを用いて、導電性半導体基板20の被研磨面14に対して、酸化と酸化物31の除去とを行うことができる。
【0126】
第2領域12には、例えば、酸化物31を除去するための砥粒32が分散されている。砥粒32は、導電性半導体基板20の被研磨面14を構成する導電性半導体30より硬度が低いことが好ましい。このような砥粒32としては、酸化セリウム(CeO2)、酸化シリコン(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)等が例示される。
【0127】
(2)研磨用パッド10Bの製造方法
まず、不織布にナフィオン分散液を含浸させる。この際、第1領域11のみにナフィオン分散液が含浸するように、例えば、第1領域11のみをナフィオン分散液に浸してもよいし、第1領域11以外の部分にろう等を塗布しておいてもよい。第1領域11以外の部分にろう等を塗布することで、第1領域11のみにナフィオン分散液を含浸することができる。なお、ナフィオン分散液は、第1実施形態および第2実施形態で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0128】
第1領域11にナフィオン分散液を含浸したら、例えば、搾り機等を用いて余分なナフィオン分散液を取り除いた後、ナフィオン分散液を含浸させた不織布を、定温乾燥器等を用いて70℃で30分間乾燥させる。以上により、第1領域11にナフィオンを含浸させることができる。なお、ナフィオン分散液の含浸と乾燥とを複数回繰り返し行ってもよい。
【0129】
第1領域11にナフィオンを含浸させたら、不織布に酸化セリウム分散液を含浸する。この際、第2領域12のみに酸化セリウム分散液が含浸するように、例えば、第2領域12のみを酸化セリウム分散液に浸してもよいし、第2領域12以外の部分にろう等を塗布しておいてもよい。第2領域12以外の部分にろう等を塗布することで、第2領域12のみに酸化セリウム分散液を含浸することができる。また、酸化セリウム分散液には、アルギン酸ナトリウムを少量(例えば、0.25重量%)添加しておくことが好ましい。これにより、酸化セリウム分散液の粘性が大きくなるため、第2領域12に酸化セリウムを分散させやすくすることができる。なお、酸化セリウム分散液は、第2実施形態で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0130】
第2領域12に酸化セリウム分散液を含浸したら、不織布を塩化カルシウム水溶液(例えば、20重量%)中に入れることが好ましい。これにより、アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムとが反応してゲル化するため、第2領域12に酸化セリウムを分散させやすくすることができる。
【0131】
また、酸化セリウム分散液には、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化ランタン等の希土類酸化物を添加してもよい。これにより、砥粒32によって酸化物31を除去しやすくなる。
【0132】
第2領域12に酸化セリウム分散液を含浸したら、例えば、搾り機等を用いて余分な酸化セリウム分散液を取り除いた後、定温乾燥器等を用いて70℃で30分間乾燥させる。以上により、研磨面13に第1領域11と第2領域12とを有する研磨用パッド10Bを得ることができる。
【0133】
(3)導電性半導体基板の製造方法
本実施形態の研磨工程S110では、研磨用パッド10Bと導電性半導体基板20とを相対移動させることで、第1領域11および第2領域12を導電性半導体基板20の被研磨面14に交互に接触させる。具体的には、例えば、研磨面13の中心から径方向に所定距離離れた位置に、被研磨面14の中心が位置するように導電性半導体基板20を配置し、定盤21を水平方向に所定の回転速度で自転させることで、第1領域11および第2領域12を導電性半導体基板20の被研磨面14に交互に接触させる。これにより、研磨工程S110では、酸化工程S111と、除去工程S112とを連続して交互に行うことができる。すなわち、第1領域11が導電性半導体基板20の被研磨面14と接触している際に酸化工程S111を行い、第2領域12が導電性半導体基板20の被研磨面14と接触している際に除去工程S112を行うことができる。なお、本明細書において、被研磨面14の一部が第1領域11に接触している場合(例えば、被研磨面14が第1領域11および第2領域12の両方に接触している場合)、第1領域11が導電性半導体基板20の被研磨面14と接触していると判断する。
【0134】
図14は、本実施形態の研磨工程S110における、研磨用パッド10Bに流れる電流を模式的に示すグラフである。
図14に示すように、本実施形態の研磨工程S110では、連続的に電圧を印加した場合でも、第1実施形態および第2実施形態と同様に、研磨用パッド10Bに間欠的に電流が流れる。第1領域11には導電性を示すナフィオンが含浸されているため、第1領域11が導電性半導体基板20の被研磨面14と接触している際(酸化工程S111)は、研磨用パッド10Bに所定の電流が流れる。一方、第2領域12にはナフィオンのような導電性を示す物質が含浸されていないため、第2領域12が導電性半導体基板20の被研磨面14と接触している際(除去工程S112)は、研磨用パッド10Bに電流は流れない。
【0135】
図14に示すように、本実施形態の酸化工程S111では、被研磨面14が第1領域11に接触している面積に応じて、研磨用パッド10Bに流れる電流の値が変化する。電流の値を一定に制御し、被研磨面14の酸化を均一に行うという観点からは、上述の第2実施形態のように、研磨面13の全面にナフィオンが含浸されていることが好ましい。
【0136】
(4)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0137】
(a)本実施形態の研磨用パッド10Bは、研磨面13に、OHラジカルを生成させ、OHラジカルによって導電性半導体基板20の被研磨面14を酸化させる第1領域11と、酸化物31を除去する第2領域12とを有している。そのため、第1実施形態および第2実施形態と同様に、1つの研磨用パッド10Bを用いて、導電性半導体基板20の被研磨面14に対して、酸化と酸化物31の除去とを行うことができる。その結果、導電性半導体基板20の被研磨面14へのダメージを抑制しつつ、研磨を行うことが可能となる。
【0138】
(b)本実施形態の研磨用パッド10Bでは、第1領域11および第2領域12が、研磨用パッド10Bと導電性半導体基板20との相対移動により導電性半導体基板20の被研磨面14に交互に接触するように配置されている。これにより、酸化工程S111と、除去工程S112とを連続して交互に行うことができる。
【0139】
(c)本実施形態の研磨工程S110では、酸化工程S111を行う領域(第1領域11)と、除去工程S112を行う領域(第2領域12)とを研磨用パッド10Bの研磨面13内で分けているため、例えば、酸化工程S111では、導電性半導体基板20の被研磨面14に砥粒32が接触していない。これにより、酸化工程S111において、砥粒32によって導電性半導体基板20の被研磨面14の酸化が妨げられることを抑制できる。
【0140】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0141】
例えば、上述の第3実施形態では、研磨用パッド10Bを製造する際に1枚の不織布を用いる場合について説明したが、研磨用パッド10Bを製造する際に2枚以上の不織布を用いてもよい。例えば、一方の不織布にナフィオン、他方の不織布に酸化セリウムを固定し、それぞれの不織布を貼り合わせることにより、研磨面13に第1領域11と第2領域12とを有する研磨用パッド10Bを製造してもよい。
【0142】
また、例えば、上述の実施形態では、導電性半導体基板20として、GaNの単結晶からなるGaN基板、またはSiCの単結晶からなるSiC基板を研磨する場合について説明したが、導電性半導体基板20は、InAlGaN等、GaN以外のIII族窒化物からなるIII族窒化物基板であってもよいし、シリコンの単結晶からなるシリコン基板であってもよい。また、例えば、サファイア基板等の絶縁性基板の上にIII族窒化物をヘテロエピタキシャル成長させたテンプレート基板であってもよい。この場合、例えば、該テンプレート基板の側面からコンタクトを取って電圧を印加することで、基板表面の全面を研磨することができる。なお、各種導電性半導体基板20の中でも、GaN基板は、実用的な研磨レート(例えば、100nm/h以上)で研磨することが非常に困難であるため、本発明は、特にGaN基板を研磨する際に有効である。
【0143】
また、例えば、上述の第1実施形態および第2実施形態では、SiC基板のSi面、またはGaN基板の+c面を研磨する場合について説明したが、本発明は、導電性半導体基板20のその他の面を研磨する際にも適用可能である。
【0144】
また、例えば、上述の第1実施形態では、研磨用パッド10にパルス電圧を印加する場合について説明したが、研磨用パッド10に、電圧を連続的に印加してもよい。
【0145】
また、例えば、上述の実施形態では、OHラジカルを生成させ、被研磨面14を酸化させる場合について説明したが、OHラジカル以外のラジカルや、原子状酸素等を生成させ、被研磨面14を酸化させてもよい。例えば、ペルオキソ二硫酸イオン(S2O8
2-)を含む水溶液(例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム水溶液)を研磨面13に供給し、ペルオキソ二硫酸イオンを加熱すること、および、ペルオキソ二硫酸イオンに光を照射すること、の少なくとも一方により、硫酸イオンラジカル(SO4
-・)を生成させることができる。硫酸イオンラジカルを生成させることで、上述の実施形態と同様に、被研磨面14を酸化させることが可能となる。
【0146】
また、例えば、上述の第2実施形態では、純水供給部を用いて、スプレー状に純水を供給する場合について説明したが、研磨面13への純水の供給態様は、上述の実施形態に限定されない。例えば、純水に浸したガーゼ等を研磨面13に接触させ、毛細管現象により研磨面13に純水を供給してもよい。この場合、研磨面13の湿度を一定に保つことが容易である。
【実施例0147】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0148】
<実施例1>
(1)GaN基板の準備
まず、導電性半導体基板20として、被研磨面14(+c面)を研磨する前のGaN基板(直径2インチ)を複数枚準備し、試料1~3とした。試料1のキャリア濃度は1.6×1017cm-3であった。試料2および試料3のキャリア濃度は2.56×1018cm-3であった。
【0149】
(2)GaN基板の研磨
本発明の第3実施形態にて説明した研磨用パッド10Bを用いて、連続的に電圧を印加しながら、試料1の被研磨面14の研磨を行った。研磨の条件は以下の通りとした。
電圧(電源23が印加する電圧):100V
研磨圧力(研磨面13に被研磨面14を押し当てる圧力):18.3kPa
定盤回転速度(定盤21の自転の回転速度):60rpm
基板回転速度(基板ホルダ22の自転の回転速度):60rpm
研磨時間(研磨工程S110を行う時間):30分(10分×3回)
【0150】
また、本発明の第2実施形態にて説明した研磨用パッド10Aを用いて、パルス電圧を印加しながら、試料2の被研磨面14の研磨を行った。研磨の条件は以下の通りとした。
電圧(電源23が印加する電圧):100V
デューティ比D:5%
パルスの周期T:40秒
研磨圧力(研磨面13に被研磨面14を押し当てる圧力):18.3kPa
定盤回転速度(定盤21の自転の回転速度):120rpm
基板回転速度(基板ホルダ22の自転の回転速度):120rpm
研磨時間(研磨工程S110を行う時間):30分(10分×3回)
【0151】
また、比較のために、不織布に酸化セリウムのみを分散させた研磨用パッドを用いて、電圧を印加せずに、試料3の被研磨面14の研磨を行った。研磨の条件は以下の通りとした。
研磨圧力(研磨面13に被研磨面14を押し当てる圧力):18.3kPa
定盤回転速度(定盤21の自転の回転速度):120rpm
基板回転速度(基板ホルダ22の自転の回転速度):120rpm
研磨時間(研磨工程S110を行う時間):30分(10分×3回)
【0152】
(3)研磨レートの評価
研磨前後のGaN基板の重量および厚さを測定することにより、研磨レートを算出した。研磨用パッド10Bを用いて研磨した試料1の研磨レートは132nm/hであった。以上より、研磨用パッド10Bを用いてGaN基板の被研磨面14に対して研磨を行うことで、研磨レートを100nm/h以上にできることを確認した。
【0153】
図15に、試料2および試料3の研磨量(研磨によって除去された厚さ)を示す。研磨用パッド10Aを用いて研磨した試料2は、酸化セリウムのみを固定した研磨用パッドを用いて研磨した試料3よりも研磨量が大きかった。以上より、研磨用パッド10Aを用いてGaN基板の被研磨面14(+c面)に対して研磨を行うことで、研磨レートを向上できることを確認した。
【0154】
(4)表面粗さの評価
図16に、試料1の研磨前後の算術平均粗さRaを、光学式表面性状測定機(Zygo NewView 7300)を用いて測定した結果を示す。研磨前の算術平均粗さRaは1.39nmであった。10分の研磨後の算術平均粗さRaは1.06nmであった。20分の研磨後の算術平均粗さRaは0.840nmであった。30分の研磨後の算術平均粗さRaは0.687nmであった。以上より、研磨用パッド10Bを用いてGaN基板の被研磨面14に対して研磨を行うことで、表面の算術平均粗さRaが0.7nm以下であるGaN基板を製造できることを確認した。
【0155】
<実施例2>
(1)研磨用パッド10Aの作製
まず、以下の手順により、本発明の第2実施形態で説明した研磨用パッド10Aを作製した。
【0156】
直径200mm、(見かけの)厚さ1mmの不織布(見かけ体積:31.4cm3)を準備した。不織布の質量は2.80gであった。
【0157】
不織布に、アルギン酸ナトリウムを少量添加した、酸化セリウム分散液を含浸させた。その後、不織布を塩化カルシウム水溶液中に入れ、搾り機を用いて、不織布から余分な液を取り除いた後、定温乾燥器を用いて70℃で30分間乾燥させた。乾燥後の不織布の質量は、23.88gであった。質量の増加量は20.58gであり、増加量中の40質量%が酸化セリウムであるため(残りの60質量%はアルギン酸ナトリウム)、砥粒32の密度は、0.26g/cm3であった。
【0158】
次に、不織布にナフィオン分散液を含浸させ、搾り機を用いて、不織布から余分な液を取り除いた後、定温乾燥器を用いて70℃で30分間乾燥させた。乾燥後の不織布の質量は、23.53gであった。質量の増加量は0.15gであり、ナフィオンの密度は、4.8mg/cm3であった。
【0159】
(2)GaN基板およびSiC基板の研磨
(1)で作製した研磨用パッド10Aを用いて、GaN基板およびSiC基板の研磨を行った。GaN基板は、直径2インチ、n型、被研磨面14が+c面のものを準備した。SiC基板は、4H-SiC、直径2インチ、n型、被研磨面14がSi面のものを準備した。
【0160】
研磨条件は以下の通りとした。
電圧(電源23が印加する電圧):40V
電流値:100~150mA
デューティ比D:90%
パルスの周期T:120秒
研磨圧力(研磨面13に被研磨面14を押し当てる圧力):12kPa
定盤回転速度(定盤21の自転の回転速度):60rpm
基板回転速度(基板ホルダ22の自転の回転速度):60rpm
水分供給量:0.4mL/min
温度:RT
研磨時間(研磨工程S110を行う時間):10分
【0161】
(3)研磨レートの評価
研磨前後のGaN基板およびSiC基板の重量および厚さを測定することにより、研磨レートを算出した。GaN基板の研磨レートは、1μm/hであった。つまり、GaN基板に対して、研磨用パッド10Aを用いて、上記研磨条件で研磨を行った際の研磨レートが、1μm/h以上であることを確認した。
【0162】
また、SiC基板の研磨レートは、4.5μm/hであった。つまり、SiC基板に対して、研磨用パッド10Aを用いて、上記研磨条件で研磨を行った際の研磨レートが、4.5μm/h以上であることを確認した。
【0163】
<実施例3>
(1)研磨用パッド10の作製
以下の手順により、本発明の第1実施形態で説明した研磨用パッド10を作製した。
【0164】
ハニカムパターンを有するアルミニウムの金型に、PDMSを注入し、100度で熱硬化させた。金型から硬化させたPDMSを剥離し、ハニカムパターンが転写された表面に、ナフィオン分散液(シグマアルドリッチ社製、製品番号510211)をキャストし、室温で乾燥させた。乾燥後、PDMSからSPE膜15を剥離し、ハニカムパターンが転写されたSPE膜15を得た。ハニカムパターンが転写された(テクスチャ構造が形成された)SPE膜15の表面の算術平均粗さRaを、共焦点レーザ顕微鏡を用いて測定(1.8mm×1.8mmの範囲を測定、以下同じ)したところ、12.6μmであった。
【0165】
市販のナフィオン膜(シグマアルドリッチ社製、Nafion117)について、表面の算術平均粗さRaを、共焦点レーザ顕微鏡を用いて測定したところ、1.3μmであった。次に、市販のナフィオン膜の表面に、サンドペーパーを擦り合わせ、テクスチャ構造が形成されたSPE膜15を得た。テクスチャ構造が形成されたSPE膜15の表面の算術平均粗さRaを、共焦点レーザ顕微鏡を用いて測定したところ、12.6μmであった。
【0166】
以上より、上述の種々の方法で、SPE膜15の表面にテクスチャ構造を形成することで、SPE膜15の表面の算術平均粗さRaを、市販のナフィオン膜より大きく(例えば、5μm以上)できることを確認した。
【0167】
サンドペーパーによって、テクスチャ構造が形成されたSPE膜15を、18mm×18mmにカットし、導電性両面テープを用いてステンレス板上にそれらを格子状に接着した。溝33の幅は2mm、深さは1mm、ピッチは20mmとなるように、カットしたSPE膜15を接着した。以上により、研磨用パッド10を得た。
【0168】
(2)導電性半導体基板20の研磨
(1)で作製した研磨用パッド10を用いて、SiC基板の研磨を行った。SiC基板は、4H-SiC、直径2インチ、n型、被研磨面14がSi面(オフ角4度)のものを準備した。
【0169】
研磨の基本条件は以下の通りとした。
電流値:50~450mA
デューティ比D:90%
周期T:60秒
研磨圧力:12.2kPa
定盤回転速度、基板回転速度:60rpm
スラリー:酸化セリウム懸濁液(平均粒径(D50)1.3μm、3wt%)
水分供給量:30mL/min
研磨時間:5分×3回
【0170】
図17(a)に、電流値を変化させた場合の研磨レート(MRR)と電流効率(current efficiency)を示す。なお、研磨レートは、研磨前後のSiC基板の重量および厚さを測定することにより算出した。
図17(a)に示すように、電流値が高いほど、研磨レートが向上することを確認した。また、電流値が150mA以下の領域Z1と、電流値が200mA以上の領域Z2において、電流値に対する研磨レートの傾きが異なっていることを確認した。電流値が150mA以下の領域Z1は、酸化物31を生成する速度v1より、酸化物31を除去する速度v2の方が大きくなる領域であり、電流効率も高いことを確認した。一方、電流値が200mA以上の領域Z2は、速度v2より、速度v1の方が大きくなる領域であり、領域Z1よりも電流効率が低いことを確認した。したがって、領域Z1の条件で研磨を行うことで、エネルギーのロスを低減できることを確認した。但し、研磨初期において、より高速に研磨を行いたい場合、領域Z2の条件で研磨を行ってもよい。
【0171】
図17(b)に、電流値を250mA、デューティ比Dを50%、周期Tを20秒として研磨を行った際の、電圧の変化を示す。
図17(b)に示すように、電圧を印加している際、時間とともにわずかに電圧が上昇することを確認した。これは、SiC基板の表面に酸化物31が生成された影響であると考えられる。また、それぞれのデューティサイクルにおいて、電圧印加開始時に約30Vであったことから、酸化工程S111を1サイクル行う際に生成される酸化物31が、電圧を印加しない区間において、すべて除去されていることを確認した。
【0172】
電流値を250mAとして、研磨したSiC基板の表面を、位相シフト干渉顕微鏡(Zygo NewView 7300)を用いて測定した結果を、
図18(a)および
図18(b)に示す。
図18(a)および
図18(b)では、電圧を印加して研磨した場合(ECMP)と、比較として電圧を印加しないで研磨した場合(CMP)を示す。
図18(a)および
図18(b)に示すように、電圧を印加しないで研磨した場合、表面形状がほとんど変化していないのに対し、電圧を印加して研磨した場合には、表面のスクラッチやクラックがほとんど除去されていることを確認した。また、10分間の研磨によって、SiC基板の表面の算術平均粗さRaは、約50μmから約1nmへと大幅に改善されたことを確認した。
【0173】
15分間の研磨後のSiC基板の表面粗さ分布を、
図19(a)および
図19(b)に示す。
図19(a)および
図19(b)に示すように、すべての測定点において算術平均粗さRaが1nm未満であることから、SiC基板の表面全域を均一の研磨できたことを確認した。
【0174】
また、15分間の研磨後のSPE膜15の表面の算術平均粗さRaを、共焦点レーザ顕微鏡を用いて測定したところ、7.4μmであった。研磨後のSPE膜15の表面の算術平均粗さRaは、研磨前のSPE膜15の表面の算術平均粗さRaよりも小さくなっていることを確認した。したがって、必要に応じてドレッシング処理工程S120を行うことで、研磨用パッド10の寿命を向上できることを確認した。
【0175】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
【0176】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面の研磨に用いられる研磨用パッドであって、
前記被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドが提供される。
【0177】
(付記2)
付記1に記載の研磨用パッドであって、
前記研磨面が、直径500mm以上の円形状である。
好ましくは、前記研磨面は、直径が500mm以上2000mm以下の円形状である。
好ましくは、前記研磨用パッドの厚さは、0.1mm以上10mm以下である。
【0178】
(付記3)
付記1または付記2に記載の研磨用パッドであって、
前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面に、テクスチャ構造が設けられている。
好ましくは、前記テクスチャ構造は、最大高さRzが20μm以上200μm以下の凹凸を有する。
好ましくは、前記テクスチャ構造は、ランダムな凹凸を有する。
好ましくは、前記テクスチャ構造の最大高さRzは、前記研磨面に供給される砥粒の平均粒径より大きい。
【0179】
(付記4)
付記1から付記3のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面の算術平均粗さRaは、5μm以上50μm以下である。
好ましくは、前記算術平均粗さRaは、10μm以上20μm以下である。
【0180】
(付記5)
付記1から付記4のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質を含む膜の厚さは、0.1mm以上1mm以下である。
【0181】
(付記6)
付記1から付記5のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記研磨面に、幅1mm以上、深さ0.1mm以上の溝が設けられている。
好ましくは、前記溝の幅は、1mm以上5mm以下であり、前記溝の深さは、0.1mm以上1mm以下であり、前記溝のピッチは、10mm以上50mm以下である。
【0182】
(付記7)
付記1から付記6のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質を含む膜は、導電性を有する基材上に設けられている。
【0183】
(付記8)
付記1から付記7のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨面と、前記研磨面とは反対側の裏面と、の間が電気的に導通する。
【0184】
(付記9)
付記1から付記8のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質は、フッ化炭素骨格と、末端にスルホン酸基を有するフッ化炭素エーテルの側鎖と、を備える高分子である。
【0185】
(付記10)
付記1から付記9のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記研磨面に、砥粒と水とを含むスラリーが供給されることで研磨を行うように構成されている。
【0186】
(付記11)
付記10に記載の研磨用パッドであって、
前記砥粒の分散媒である前記水によって、前記固体高分子電解質に水分子が供給されるように構成されている。
【0187】
(付記12)
本発明の他の態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドを準備する工程と、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨用パッドの前記研磨面を前記導電性半導体基板の前記被研磨面に圧力をかけて接触させ、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しながら、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記被研磨面を研磨する工程と、
を有する、導電性半導体基板の製造方法が提供される。
【0188】
(付記13)
付記12に記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記研磨面が直径500mm以上の円形状である研磨用パッドを準備する。
【0189】
(付記14)
付記12または付記13に記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面に、テクスチャ構造が設けられている研磨用パッドを準備する。
【0190】
(付記15)
付記12から付記14にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程の開始時において、前記研磨面における前記固体高分子電解質を含む膜の表面の算術平均粗さRaは、5μm以上50μm以下である。
【0191】
(付記16)
付記12から付記15にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記固体高分子電解質を含む膜の厚さが、0.1mm以上1mm以下である研磨用パッドを準備する。
【0192】
(付記17)
付記12から付記16にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記研磨面に、幅1mm以上、深さ0.1mm以上の溝が設けられている研磨用パッドを準備する。
【0193】
(付記18)
付記12から付記17にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨用パッドを準備する工程では、導電性を有する基材上に、前記固体高分子電解質を含む膜が設けられている研磨用パッドを準備する。
【0194】
(付記19)
付記12から付記18にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨用パッドを準備する工程では、前記固体高分子電解質として、フッ化炭素骨格と、末端にスルホン酸基を有するフッ化炭素エーテルの側鎖と、を備える高分子を用いた研磨用パッドを準備する。
【0195】
(付記20)
付記12から付記19にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記電圧を印加中に、前記被研磨面を酸化し、酸化物を生成する。
【0196】
(付記21)
付記12から付記20にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記電圧を間欠的に印加する。
【0197】
(付記22)
付記12から付記21にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記研磨面に、砥粒と水とを含むスラリーを供給する。
好ましくは、前記水の供給量は、10mL/min以上50mL/min以下である。
【0198】
(付記23)
付記12から付記22にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に流れる電流が徐々に小さくなるように前記電圧を印加する。
【0199】
(付記24)
付記12から付記23にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しない状態で、所定の時間、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させ、前記研磨する工程を終了する。
【0200】
(付記25)
付記12から付記24にいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記固体高分子電解質を含む膜の表面に対して、粗面化処理を行う工程をさらに有する。
【0201】
(付記26)
付記20に記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記酸化物を生成する速度v1を、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に流れる電流値で制御し、前記酸化物を除去する速度v2を、前記研磨面に供給する砥粒の供給量、前記研磨面と前記被研磨面との間にかける圧力、または前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との相対速度の少なくともいずれかを変化させることで制御する。
【0202】
(付記27)
付記26に記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記速度v1および前記速度v2が、v1≦v2の関係を満たすように制御する。
【0203】
(付記28)
付記26に記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程の初期段階では、v1>v2の関係を満たすように制御し、前記研磨する工程の仕上げ研磨時では、v1≦v2の関係を満たすように制御する。
【0204】
(付記29)
本発明の他の態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面と接触する研磨面の少なくとも一部に、固体高分子電解質を含む膜を有する、研磨用パッドを準備する工程と、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨用パッドの前記研磨面を前記導電性半導体基板の前記被研磨面に圧力をかけて接触させ、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しながら、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記被研磨面を研磨する工程と、
を有する、導電性半導体基板の研磨方法が提供される。
【0205】
(付記30)
本発明の一態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面の研磨に用いられる研磨用パッドであって、
前記被研磨面と接触する研磨面に、少なくとも固体高分子電解質が含浸されている、研磨用パッドが提供される。
【0206】
(付記31)
付記30に記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質は、前記研磨用パッドの厚さ方向にも含浸されている。
【0207】
(付記32)
付記30または付記31に記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質が、3mg/cm3以上20mg/cm3以下の密度で含浸されている。
【0208】
(付記33)
付記30から付記32のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨面と、前記研磨面とは反対側の裏面と、の間が電気的に導通する。
【0209】
(付記34)
付記30から付記33のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記研磨用パッドは不織布を含み、
前記固体高分子電解質は、前記不織布の繊維の表面に付着している。
【0210】
(付記35)
付記30から付記34のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記固体高分子電解質は、フッ化炭素骨格と、末端にスルホン酸基を有するフッ化炭素エーテルの側鎖と、を備える高分子(ナフィオン)である。
【0211】
(付記36)
付記30から付記35のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記研磨面とは反対側の裏面側に、導電性接着剤を有する。
【0212】
(付記37)
付記30から付記36のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記研磨面に、砥粒が分散されている。
好ましくは、前記砥粒は、前記被研磨面を構成する半導体結晶より硬度が低い。
【0213】
(付記38)
付記37に記載の研磨用パッドであって、
前記砥粒は、酸化セリウムを含み、
前記砥粒が、0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下の密度で分散されている。
【0214】
(付記39)
付記37または付記38に記載の研磨用パッドであって、
前記砥粒の表面に、前記固体高分子電解質が付着している。
【0215】
(付記40)
付記37から付記39のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
窒化ガリウムの単結晶からなる窒化ガリウム基板に対して、前記研磨用パッドと前記窒化ガリウム基板との間に40Vの電圧を間欠的に印加しながら研磨を行った際の研磨レートが、1μm/h以上である。
好ましくは、前記窒化ガリウム基板に流れる電流値は、100mA以上150mA以下である。
好ましくは、デューティ比Dは、90%である。
好ましくは、パルスの周期Tは、120秒である。
好ましくは、前記研磨面に前記被研磨面を押し当てる圧力は、12kPaである。
好ましくは、前記研磨用パッドおよび前記窒化ガリウム基板の回転速度は、60rpmである。
好ましくは、前記研磨面に対する水分供給量は、0.4mL/minである。
【0216】
(付記41)
付記37から付記40のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
炭化ケイ素の単結晶からなる炭化ケイ素基板に対して、前記研磨用パッドと前記炭化ケイ素との間に40Vの電圧を間欠的に印加しながら研磨を行った際の研磨レートが、4.5μm/h以上である。
好ましくは、前記炭化ケイ素基板に流れる電流値は、100mA以上150mA以下である。
好ましくは、デューティ比Dは、90%である。
好ましくは、パルスの周期Tは、120秒である。
好ましくは、前記研磨面に前記被研磨面を押し当てる圧力は、12kPaである。
好ましくは、前記研磨用パッドおよび前記炭化ケイ素基板の回転速度は、60rpmである。
好ましくは、前記研磨面に対する水分供給量は、0.4mL/minである。
【0217】
(付記42)
本発明の他の態様によれば、
導電性半導体基板の被研磨面と接触する研磨面に、少なくとも固体高分子電解質が含浸されている、研磨用パッドを準備する工程と、
前記固体高分子電解質に水分子が接触する状態で、前記研磨用パッドの前記研磨面を前記導電性半導体基板の前記被研磨面に圧力をかけて接触させ、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しながら、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記被研磨面を研磨する工程と、
を有する、導電性半導体基板の製造方法が提供される。
【0218】
(付記43)
付記42に記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記電圧を印加中に、前記被研磨面を酸化する。
【0219】
(付記44)
付記42または付記43に記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記電圧を間欠的に印加する。
【0220】
(付記45)
付記42から付記44のいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記研磨面に、砥粒を含むスラリーを供給する。
【0221】
(付記46)
付記42から付記45のいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記導電性半導体基板の前記被研磨面に、ポーラス構造を形成した後、前記ポーラス構造を除去する。
好ましくは、前記導電性半導体基板は、窒化ガリウムの単結晶からなる窒化ガリウム基板である。
【0222】
(付記47)
付記42から付記46のいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に印加する電圧Vは、前記導電性半導体基板の研磨レートが最大となる電圧Vmを超えないように制御する。
好ましくは、前記導電性半導体基板は、炭化ケイ素の単結晶からなる炭化ケイ素基板である。
【0223】
(付記48)
付記42から付記47のいずれか1つに記載の導電性半導体基板の製造方法であって、
前記研磨する工程では、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との間に電圧を印加しない状態で、所定の時間、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板とを相対移動させ、前記研磨する工程を終了する。
【0224】
(付記49)
本発明の他の態様によれば、
導電性半導体基板の表面の研磨に用いられる研磨用パッドであって、
前記導電性半導体基板の前記表面と接触する面に、
ラジカルを生成させ、前記ラジカルによって前記導電性半導体基板の前記表面を構成する半導体結晶を酸化させる第1領域と、
前記半導体結晶が前記ラジカルによって酸化されることにより生成される酸化物を除去する第2領域と、を有する研磨用パッドが提供される。
好ましくは、前記研磨用パッドは、保水性を有する。
好ましくは、前記研磨用パッドの前記導電性半導体基板の前記表面と接触する面は、前記導電性半導体基板の前記表面に対して摺動性を有する。
好ましくは、前記研磨用パッドは、裏面に導電性接着剤を有する。
【0225】
(付記50)
付記49に記載の研磨用パッドであって、
前記ラジカルは、OHラジカルである。
【0226】
(付記51)
付記49または付記50に記載の研磨用パッドであって、
前記第1領域に、(電圧を印加することで、水から)前記ラジカルを生成させる固体高分子電解質が含浸されている。
好ましくは、前記固体高分子電解質は、前記研磨用パッドの厚さ方向の全体にわたって含浸されている。
好ましくは、前記電圧は、20V以上300V以下である。
【0227】
(付記52)
付記49から付記51のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記第2領域に、前記酸化物を除去する砥粒が分散されている。
好ましくは、前記砥粒は、前記半導体結晶より硬度が低い。
【0228】
(付記53)
付記49から付記52のいずれか1つに記載の研磨用パッドであって、
前記第1領域および前記第2領域が、前記研磨用パッドと前記導電性半導体基板との相対移動により前記導電性半導体基板に交互に接触するように配置されている。
【0229】
(付記54)
本発明の他の態様によれば、
導電性半導体基板の表面の研磨に用いられる研磨用パッドであって、
窒化ガリウムより硬度が低い砥粒が分散されており、
前記窒化ガリウムの単結晶からなる窒化ガリウム基板(の+c面)に対して、中性領域で研磨を行った際の研磨レートが100nm/h以上10000nm/h以下である研磨用パッドが提供される。
好ましくは、電圧を印加することで、水からOHラジカルを生成させ、前記OHラジカルによって、前記窒化ガリウムを酸化させる。
好ましくは、前記窒化ガリウムが酸化されることにより生成される酸化ガリウムを除去する。
好ましくは、前記電圧は、20V以上300V以下である。
好ましくは、前記窒化ガリウム基板の表面のキャリア濃度は、1.0×1016cm-3以上1.0×1020cm-3以下である。
【0230】
(付記55)
本発明の他の態様によれば、
導電性半導体基板の製造方法であって、
ラジカルを生成させ、前記ラジカルによって前記導電性半導体基板の表面を構成する半導体結晶を酸化する工程と、
前記半導体結晶が前記ラジカルによって酸化されることにより生成された酸化物を除去する工程と、を有し、
前記導電性半導体基板の前記表面を研磨する研磨用パッドと、前記導電性半導体基板とを相対移動させることにより、前記酸化する工程と、前記除去する工程とを行う、導電性半導体基板の製造方法が提供される。
好ましくは、前記酸化する工程と、前記除去する工程とを同時または交互に行う。