(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027892
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】希土類焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230224BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230224BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230224BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
H01F41/02 G
B22F3/00 F
B22F3/24 B
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133243
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 大我
(72)【発明者】
【氏名】藤本 晃
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹也
【テーマコード(参考)】
4K018
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018DA31
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
5E062CD04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い磁気特性の向上効果と生産性を両立できる希土類焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】希土類磁石素材の表面の少なくとも一部にR(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素)を含有する膜を設ける工程と、Rを吸収拡散するための熱処理工程を具備する磁石の製造方法であって、希土類磁石素材の表面の少なくとも一部にRを含有する膜を設ける工程が、粒子衝突現象を利用した方法による工程である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石素材の表面の少なくとも一部にR(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素)を含有する膜を設ける工程と、前記Rを吸収拡散するための熱処理工程を具備する磁石の製造方法であって、前記希土類磁石素材の表面の少なくとも一部にRを含有する膜を設ける工程が、粒子衝突現象を利用した方法による工程であることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記粒子衝突現象を利用した方法が、希土類磁石素材が配置されたチャンバーの内圧とRを含有する粒子の供給部の圧力との差圧を利用して上記Rを含有する粉末を衝突させる方法である請求項1記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記粒子衝突現象を利用した方法が、エアロゾルデポジション法である請求項2記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記希土類磁石素材の表面の少なくとも一部に設けられたRを含有する膜の密度が、前記Rを含有する粉末の真密度に対して40%以上である請求項1~3のいずれか1項記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に得ることが出来る希土類磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-Fe-B系などの希土類磁石(以下、Nd磁石という場合がある)は、省エネや高機能化に必要不可欠な機能性材料として、その応用範囲と生産量は年々拡大している。例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車における駆動用モータや電動パワーステアリング用モータ、エアコンのコンプレッサー用モータ、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)などに用いられている。
【0003】
この希土類磁石の磁気特性をさらに高める方法として、磁石体の表面に希土類化合物の粉末を塗布して熱処理し、希土類元素を磁石体に吸収拡散させて希土類永久磁石を得る方法(以下、粒界拡散法という。)が知られており(特許文献1)、この方法によれば、残留磁束密度の減少を抑制しつつ保磁力を増大させることが可能である。従来、粒界拡散法の適用方法としては、希土類化合物を含む粉末を水や有機溶媒に分散させたスラリーに磁石を浸漬して上記希土類化合物を含む粉末を塗布する方法が一般的であったが、このような湿式の方法では粉末の塗着量や膜厚のばらつきをコントロールすることが難しかった。
【0004】
これに対し、例えば特許文献2には、R-Fe-B系焼結磁石体の表面にRH(但し、RHは、Dy、Ho、Tbから選ばれる希土類元素の1種又は2種以上)および金属M(但しMはAl、Cu、Co、Fe、Agから選ばれる金属元素の1種または2種以上)を含むRHM合金層を形成させ粒界拡散させる方法において、スパッタリング法を適用できる旨が報告されている。
【0005】
また、特許文献3には、粒界拡散のための拡散源である合金の粉末を、粘着剤を塗布した磁石の表面に付着させ、熱処理することで、合金粉を磁石の表面に均一に無駄なく効率的に塗布することが出来、磁石の特性を向上させることが出来ることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/043348号
【特許文献2】国際公開第2006/112403号
【特許文献3】国際公開第2018/062174号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2で報告されているようなスパッタリング法などを用いた粒界拡散では、拡散源の均一な膜を成膜でき、磁気特性のばらつきが少なく磁気特性の向上も大きいが、拡散源から磁石体内部に希土類元素が過剰に拡散してしまうという点でデメリットがある。また、成膜対象の磁石に成膜されなかった拡散源の回収、再利用が困難であり、その工程においては高真空を要することから、生産面においても困難な点が多い。
【0008】
特許文献3で報告されているような拡散源となる粉末を磁石に振りかける方法は、工程負荷が小さい点でメリットがあるものの、肝心の粒界拡散における元素の拡散効率が悪いという点や、安定性が低い点、粉末を付着させるための粘着剤に起因した不純物が多いことなどのデメリットがある。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、希土類焼結磁石の製造過程での粒界拡散において、工程負荷が小さく生産性が良好であり、かつ、磁気特性のばらつきが少なく磁気特性の向上も大きい希土類焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、粒界拡散における拡散源の粉末の成膜方法や膜密度について鋭意検討した結果、例えばエアロゾルデポジション法などの粒子衝突現象を利用した方法によって成膜することにより、磁気特性の向上効果が高く、生産性も良好な希土類焼結磁石を製造し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の製造方法を提供するものである。
1. 希土類磁石素材の表面の少なくとも一部にR(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素)を含有する膜を設ける工程と、前記Rを吸収拡散するための熱処理工程を具備する磁石の製造方法であって、前記希土類磁石素材の表面の少なくとも一部にRを含有する膜を設ける工程が、粒子衝突現象を利用した方法による工程であることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
2. 前記粒子衝突現象を利用した方法が、希土類磁石素材が配置されたチャンバーの内圧とRを含有する粒子の供給部の圧力との差圧を利用して上記Rを含有する粉末を衝突させる方法である1の希土類焼結磁石の製造方法。
3. 前記粒子衝突現象を利用した方法が、エアロゾルデポジション法である2の希土類焼結磁石の製造方法。
4. 前記希土類磁石素材の表面の少なくとも一部に設けられたRを含有する膜の密度が、前記Rを含有する粉末の真密度に対して40%以上である1~3のいずれかの希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の希土類焼結磁石の製造方法によれば、磁石の表面に粒子衝突現象を利用した方法により拡散源の膜を設けて粒界拡散を行うことで、高い磁気特性の向上効果と生産性を両立できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、磁気特性に優れた希土類焼結磁石を効率的に得ることが出来る希土類磁石に関するものであり、上記のように、希土類磁石素材の表面の少なくとも一部にR(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素)を含有する膜を設ける工程と、前記Rを吸収拡散するための熱処理工程を具備する。
【0014】
ここで、上記希土類磁石素材としては、例えばR1-Fe-B系組成(R1は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Pr及びNdの少なくとも1種の元素を必須とすることが好ましい。)からなるものを好適に用いることができる。このような希土類磁石素材は、常法に従い、母合金を粗粉砕、微粉砕、成形、焼結させることにより得ることができる。
【0015】
この場合、上記母合金は、R1、T、M及びBを含有する。R1は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Pr及びNdの少なくとも1種の元素を必須とすることが好ましい。具体的には、希土類元素には、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuが挙げられ、R1はPr及びNdの少なくとも1種の元素を主体とすることが好ましい。R1の含有量は合金全体の12~17原子%であることが好ましく、13~17原子%であることがより好ましい。R1中に含まれるPr及びNdの少なくとも1種の元素は、全R1に対して80原子%以上であることが好ましく、特に85原子%以上であることがより好ましい。TはFe、又は、Fe及びCoである。TがFe及びCoである場合、Feは、全Tの85原子%以上であることが好ましく、90原子%以上であることがより好ましい。MはAl、Si、Cu、Zn、In、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta及びWからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、その含有量は合金全体の0~10原子%であることが好ましく、0.05~4原子%であることがより好ましい。Bは合金全体の5~10原子%であることが好ましく、特に5~7原子%であることがより好ましい。なお、上記以外に不可避的な不純物あるいは意図的な添加元素としてC、N、O、F等の元素を含有し得る。
【0016】
上記母合金は、原料金属あるいは合金を真空あるいは不活性ガス、好ましくはAr雰囲気中で溶解したのち、平型やブックモールドに鋳込むことで、あるいはストリップキャストにより鋳造することで得られる。また、母合金の主相であるR2Fe14B化合物組成に近い合金と焼結温度で液相助剤となるRリッチな合金とを別々に作製し、粗粉砕後に秤量混合する、いわゆる二合金法も適用できる。但し、主相組成に近い合金に対して、鋳造時の冷却速度や合金組成に依存して母合金には初晶のα-Feが残存しやすい。このため、母合金におけるR2Fe14B化合物相の量を増やす目的で必要に応じて均質化処理を施す。例えば、真空あるいはAr雰囲気中にて700~1200℃の熱処理温度で母合金を1時間以上熱処理する。また、液相助剤となるRリッチな合金については、上記鋳造法のほかに、いわゆる液体急冷法でも作製できる。
【0017】
上記母合金は、通常粒径0.05~3mm、好ましくは0.05~1.5mmに粗粉砕される。粗粉砕工程にはブラウンミルあるいは水素粉砕が用いられ、ストリップキャストにより作製された母合金の場合は水素粉砕が好ましい。粗粉は、例えば高圧窒素を用いたジェットミルにより、通常粒径0.1~30μmに、好ましくは0.2~20μmに微粉砕される。
【0018】
得られた微粉末は磁場中、圧縮成形機で圧粉体に成形され、焼結炉に投入される。成形に際しては、400~1600kA/mの磁界を印加し、合金粉末を磁化容易軸方向に配向させながら、圧縮成形機で圧粉成形する。焼結は真空あるいは不活性ガス雰囲気中、通常900~1250℃、特に1000~1100℃の焼結温度で行われる。得られた焼結体は、正方晶R2Fe14B化合物を主相として60~99体積%、好ましくは80~98体積%含有する。残部は、0.5~20体積%のR1に富む(25at%以上R1を含有する)相、0~10体積%のBに富む相、並びに0.1~10体積%の、R1の酸化物及び不可避的不純物により生成した炭化物、窒化物、水酸化物、及びフッ化物からなる群から選ばれる1種以上の化合物あるいはこれらの混合物又は複合物の相からなる。
【0019】
得られた焼結磁石ブロックは必要に応じて所定形状に研削され、希土類磁石素材として以下に詳述する粒界拡散工程に供される。この希土類磁石素材の大きさに特に制限はないが、粒界拡散工程において、磁石体に吸収されるRは磁石体の比表面積が大きい、即ち寸法が小さいほど多くなるので、磁石全体として保磁力の増大を図る場合には、上記焼結磁石の形状の最大部の寸法は100mm以下、特に50mm以下でかつ磁気異方性化した方向の寸法が30mm以下、特に15mm以下であることが好ましい。なお、上記焼結磁石の最大部の寸法及び磁気異方性化した方向の寸法の下限に特に制限はなく適宜選定されるが、特に上記焼結磁石の形状の最大部の寸法は1mm以上とすることが好ましく、磁気異方性化した方向の寸法は0.5mm以上とすることが好ましい。また、磁石の表層部や角部など、特定の部位のみの保磁力の増大を図る場合には、供される焼結磁石ブロックの大きさに制限はない。
【0020】
粒界拡散工程において本発明では、はじめに希土類磁石素材表面の少なくとも一部にRを含有する膜を、粒子衝突現象を利用した方法により成膜させる。適用する粒子衝突現象を利用した方法は特に限定されるものではないが、希土類磁石素材が配置されたチャンバーの内圧とRを含有する粒子の供給部の圧力との差圧を利用して上記Rを含有する粉末を衝突させる方法が好ましく採用され、例えばエアロゾルデポジション法やコールドスプレー法等を適用でき、特にエアロゾルデポジション法を好適に採用することが出来る。
【0021】
エアロゾルデポジション法とは、成膜原料の微粒子をガスと混合、分散させることで形成したエアロゾルをノズルを通して噴射することで、成膜対象の基材に微粒子を衝突させ、この時の運動エネルギーの変換により、微粒子同士や微粒子と基板間で接合させることで、成膜対象の基材上に当該微粒子の材料からなる膜を形成させる方法である。
【0022】
このエアロゾルデポジション法による成膜過程は、常温で所望の材料からなる膜を形成可能である点が特徴であり、これにより得られる膜は、十分な機械的強度を有する膜となる。なお、微粒子を基材に噴射させる条件や成膜原料の微粒子の状態(組成や粒径、形状等)を調整することにより、形成された膜の性質(膜密度や成膜量、ミクロな構造、膜強度等)を制御することが出来る。ここで、上述した常温とは、成膜原料の微粒子の融点よりも十分に低い温度のことであり、具体的には、希土類磁石素材焼結温度に対して十分低い温度であり、0~100℃、特に、20℃±10℃の室温のことをいう。
【0023】
本発明において希土類磁石素材の表面に成膜される膜の原料となる粉体は、Rを含有する微粒子を含むものである。Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、その中でも特にDy、Tb、Hoを好適に採用することが出来る。上記Rを含有する微粒子としては、Rを含有する金属、Rの合金、Rの化合物が挙げられ、特に制限されるものではないが、Rを含有する金属、Rの合金、Rの酸化物、Rのフッ化物及びRの酸フッ化物からなる群から選ばれる1種以上の材料からなるものが好適に採用できる。ここで、上記微粒子は、レーザー回折法により測定されるメジアン径が好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下、特に好ましくは1μm以下とすることが出来るが、後述の膜密度を得るためにはこれらに限定はされず、より大きな粒径であっても構わない。
【0024】
エアロゾルデポジション法による成膜に用いる装置は、特に限定されず、市販されている装置を適用することが出来る。基本的な構成としては、成膜チャンバー、エアロゾル作製部、ガス供給部を有しており、成膜チャンバーの内部には、例えば、希土類磁石素材を配置するステージ、ノズルがさらに配置される。ここで、ステージに配置された希土類磁石素材とノズルの位置は、適宜相対的に変化させてもよい。これにより、所望の範囲に成膜することが出来る
【0025】
エアロゾルデポジション法による成膜に用いられるガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、空気、ヘリウムガス等が挙げられる。なお、用いるガスを空気とする場合、特に制限されるものではないが、形成される膜の特性を良好に得るために、水分等の不純物を除去した空気を用いることが好ましい。
【0026】
上述した装置による成膜は、例えば、成膜チャンバー内のステージに希土類磁石素材を配置した状態で、真空ポンプにより、成膜チャンバー内を大気圧以下に減圧するのに対し、エアロゾル作製部の内圧を成膜チャンバーの内圧よりも高く設定することにより行う。エアロゾル作製部の内圧は、特に制限されるものではなく、一般には数百~数万Paである。このようにして設定された成膜チャンバーとエアロゾル作製部との差圧により、ノズルから原料の粉体が噴射される。ここで、上述したように噴射される粉体の量や速度等の条件を適宜調整することが出来、具体的には、供給されるガスの流量、ガスの種類、ノズルの形状等により制御される。なお、上記の例ではチャンバー内を大気圧以下に、エアロゾル供給部の内圧をチャンバーの内圧よりも高く設定する例を示したが、これに限定されず、チャンバー内とエアロゾル供給部の間で差圧が生まれるような設定であればよい。
【0027】
エアロゾルデポジション法により形成される膜は、上述したように希土類磁石素材への成膜条件や原料粉体に含まれる微粒子の状態を変化させることで、いわゆる圧粉体のような多孔質な膜から、結晶子サイズが微細な粒子からなる緻密な膜等、所望の特徴を有する膜を形成することができる。
【0028】
上述の方法にて形成された膜は、圧粉体のような多孔質な膜でありながらも、手で触っても剥がれない程度の密着強度を有している。成膜された膜の密度は、粉体の真密度に対して40%以上が好ましく、50~70%がより好ましい。このような範囲であれば、安定した磁気特性の向上が得られ、また、生産性を両立させることが可能である。なお、密度の算出方法は成膜量(成膜前後の希土類磁石素材の質量変化)÷成膜面積÷膜厚として算出すればよい。
【0029】
このエアロゾルデポジション法による手法では、真空ポンプにより、チャンバー内を大気圧以下に減圧し、数百Pa程度の雰囲気で成膜するが、これは例えばスパッタリング法などの他の手法に比べ低真空度であることから、生産性の向上が期待できる。さらに、原料として用いられる粉体はバインダー等を含んでいないために、成膜に寄与しなかった粉末を回収して再利用することも可能である。
【0030】
次いで、上記Rを含有する膜を形成した希土類磁石素材を熱処理してRを吸収拡散させる。この熱処理工程の処理条件に特に制限されるものではなく、通常の粒界拡散工程と同様の条件とすることができる。具体的には、真空又はAr、He等の不活性ガス雰囲気中において、焼結温度より低い温度、好ましくは600~1050℃、より好ましくは700~1025℃、さらに好ましくは750~1000℃で処理する。処理時間は、良好な焼結磁石の組織や磁気特性を得る観点から、好ましくは5分~80時間、より好ましくは10分~50時間である。この粒界拡散処理によって上記粉末中に含まれる上記Rを磁石中に拡散させて保磁力(HcJ)の増大を図ることができる。
【0031】
また、上記熱処理後にいわゆる時効処理を行ってもよく、時効処理を行う場合は400℃以上、特に430℃以上で、600℃以下、特に550℃以下の温度で30分以上、特に1時間以上、10時間以下、特に5時間以下の条件で熱処理を行うのが好ましい。熱処理雰囲気は、真空中又はArガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【実施例0032】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0033】
[実施例1]
Ndが14.5原子%、Coが2.0原子%、Alが0.5原子%、Cuが0.2原子%、Bが6.1原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Co、Al、Fe、Cuメタルとフェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するストリップキャスト法により得た。この合金を室温にて0.11MPaの水素下に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行いながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩にかけ、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0034】
続いて、上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルにて、粉末の質量中位粒径3.5μmに微粉砕した。得られた微粉末を窒素雰囲気下1.2MA/mの磁界中で配向させながら、約100MPaの圧力でブロック状に成形した。次いで、この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1060℃で2時間焼結して焼結磁石ブロックを作製した。この焼結磁石ブロックをダイヤモンドカッターにより16×30×厚み(配向方向)3.2mm寸法に全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄・乾燥して希土類磁石素材を得た。得られた希土類磁石素材の室温での保磁力をパルストレーサー(東英工業株式会社製)により測定したところ、13KOeであった。
【0035】
次いで作製した希土類磁石素材にエアロゾルデポジション法を用いて酸化テルビウム(UUHPグレード、平均粒径0.2μm、信越化学工業株式会社製)の膜を成膜した。なお、装置はエアロゾル化ガスデポジション(AGD)装置(GD-AE031/SK、有限会社渕田ナノ技研製)を用い、以下の方法で成膜を行った。まず、酸化テルビウム25gをAGD装置のエアロゾル作製部にセットした。次に、チャンバー内のステージに上記希土類磁石素材を配置し、ノズルとの距離を25mmにセットした。その後、ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプを用いてチャンバー内を2.0Paまで減圧し、ステージを5mm/secでスキャンしながら成膜を行った。その結果、希土類磁石素材の表面に膜密度が4.2mg/mm3、酸化テルビウムの真密度に対して58%の膜が成膜できた。同様に、希土類磁石素材の上記表面に対向する面にも成膜を行った。その後、対向する二表面に酸化テルビウムを製膜した希土類磁石を熱処理炉に投入し、真空中で875℃、20hで熱処理した後、更に490℃、2hの熱処理を行い、希土類磁石を得た。得られた希土類磁石の保磁力をパルストレーサーで測定したところ、21kOeとなり、成膜前の希土類磁石素材と比較して、保磁力は8kOe向上した。
【0036】
さらに、同様に作製した別の希土類磁石素材3個に対し、上記と同様の方法で成膜及び熱処理を行って、塗膜密度及び保磁力の伸びを測定した。その結果を、後述する比較例1,2と共に表1に示す。表1のとおり、短い真空引き時間及び成膜時間で、ばらつきの少ない均一性の高い膜を形成することができた。
【0037】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で希土類磁石素材を作製した。作製した希土類磁石素材にスパッタリング法で酸化テルビウムの成膜を行った。スパッタリングによる成膜にはキヤノンアネルバ株式会社製のEB1000を用いた。スパッタリングの条件は、ターゲットに酸化テルビウムを用い、出力はRF電源200W、ターゲットとサンプルの距離60mm、真空度はロータリーポンプとターボ分子ポンプを用いてチャンバー内を5.0×10ー4Paまで減圧した後、Arで1Paまで復圧し、静止対向条件で成膜を行った。成膜の結果、膜密度が6.9mg/mm3、粉末の真密度に対して95%の膜が成膜できた。同様に、希土類磁石素材の上記表面に対向する面にも成膜を行った。その後、実施例1と同様の方法で熱処理を行った。得られた希土類磁石の保磁力をパルストレーサーで測定したところ、21kOeとなり、成膜前の希土類磁石素材と比較して、保磁力は8kOe向上した。
【0038】
さらに、同様に作製した別の希土類磁石素材3個に対し、上記と同様の方法で、成膜及び熱処理を行って、塗膜密度及び保磁力の伸びを測定した。その結果を表1に示す。表1のとおり、膜のばらつきが少ないものの、実施例1に比べて真空引き時間及び成膜時間が長くなる結果となった。
【0039】
[比較例2]
実施例1と同様の方法で希土類磁石素材を作製した。作製した希土類磁石素材にポリビニルアルコール水溶液を適量塗布し、その上に酸化テルビウムをふりかけた。成膜の結果、膜密度が1.5mg/mm3、粉末の真密度に対して21%の膜が成膜できた。その後、実施例1と同様の方法で熱処理を行った。得られた希土類磁石の保磁力をパルストレーサーで測定したところ、15.5kOeとなり、成膜前の希土類磁石素材と比較して、保磁力は2.5kOe向上した。
【0040】
さらに、同様に作製した別の希土類磁石素材3個に対し、上記と同様の方法で、成膜及び熱処理を行って、塗膜密度及び保磁力の伸びを測定した。その結果を表1に示す。表1のとおり、実施例1に比べて膜のばらつき及び保磁力の伸びのばらつきが大きく、保磁力の伸びも劣るものであった。
【0041】
【0042】
[実施例2]
用いた粉体をフッ化テルビウムとした以外は、実施例1と同様の方法で希土類磁石素材に成膜を行った。その結果、膜密度が4.5mg/mm3、フッ化テルビウムの真密度に対して62%の膜が成膜できた。熱処理も実施例1と同様の方法で行った。得られた希土類磁石の保磁力をパルストレーサーで測定したところ、21kOeとなり、成膜前の希土類磁石素材と比較して、保磁力は8kOe向上した。
【0043】
[実施例3]
用いた粉体を酸化ジスプロシウムとした以外は、実施例1と同様の方法で希土類磁石素材に成膜を行った。その結果、膜密度が4.5mg/mm3、酸化ジスプロシウムの真密度に対して58%の膜が成膜できた。熱処理も実施例1と同様の方法で行った。得られた希土類磁石の保磁力をパルストレーサーで測定したところ、18kOeとなり、成膜前の希土類磁石素材と比較して、保磁力は5kOe向上した。
【0044】
[実施例4]
実施例1でチャンバー内に堆積した酸化テルビウムを回収して膜形成用の粉体として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で希土類磁石素材に成膜を行った。その結果、希土類磁石素材の表面に膜密度が4.2mg/mm3、酸化テルビウムの真密度に対して58%の膜が成膜できた。熱処理も実施例1と同様の方法で行った。得られた希土類磁石の保磁力をパルストレーサーで測定したところ、21kOeとなり、成膜前の希土類磁石素材と比較して、保磁力は8kOe向上した。