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特開2023-28383アミノ基含有化合物及びその製造方法、反応型難燃剤、並びに、組成物
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  • 特開-アミノ基含有化合物及びその製造方法、反応型難燃剤、並びに、組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028383
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】アミノ基含有化合物及びその製造方法、反応型難燃剤、並びに、組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/53 20060101AFI20230224BHJP
   C09K 21/10 20060101ALI20230224BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C07F9/53 CSP
C09K21/10
C09K21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134055
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】猪原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 真生
(72)【発明者】
【氏名】竹下 空澄
【テーマコード(参考)】
4H028
4H050
【Fターム(参考)】
4H028AA35
4H028AA38
4H028AA39
4H050AA01
4H050AA02
4H050AB90
4H050BB12
4H050BB14
4H050BC10
4H050BE53
(57)【要約】
【課題】反応型難燃剤として有用な新規アミノ基含有化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される、アミノ基含有化合物。


[式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示し、m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。ただし、m+nは1以上である。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、アミノ基含有化合物。
【化1】

[式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示し、m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。ただし、m+nは1以上である。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記Xが、塩素原子又は臭素原子である、請求項1に記載のアミノ基含有化合物。
【請求項3】
前記mが0~2であり、nが0~2である、請求項1又は2に記載のアミノ基含有化合物。
【請求項4】
前記Rが、炭素数6~12の置換又は無置換のフェニル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアミノ基含有化合物。
【請求項5】
下記式(2)で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載のアミノ基含有化合物。
【化2】

[式(2)中、X~Xは、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示し、Rは、前記式(1)中のRと同義である。ただし、X~Xのうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。]
【請求項6】
下記式(3)で表される、請求項1に記載のアミノ基含有化合物。
【化3】
【請求項7】
請求項1に記載のアミノ基含有化合物の製造方法であって、
下記式(I)で表される化合物をハロゲン化して前記アミノ基含有化合物を得る工程を備える、アミノ基含有化合物の製造方法。
【化4】

[式(I)中、Rは、前記式(1)中のRと同義である。]
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のアミノ基含有化合物を含む、反応型難燃剤。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のアミノ基含有化合物及びアミン反応性基を有する化合物、並びに/又は、これらの反応生成物を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基含有化合物及びその製造方法、反応型難燃剤、並びに、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に耐熱性及び/又は難燃性を付与するために種々の難燃剤が用いられている。難燃剤としては、例えば、主に気相でラジカル捕捉効果を発揮するハロゲン原子を分子構造に含む化合物、及び、主に固相で炭化層形成効果を発揮するリン原子を分子構造に含む化合物が知られている。
【0003】
一般的に、難燃剤の添加量が増えると耐熱性及び難燃性が向上するものの、難燃剤の添加量の増加は、樹脂の物性が悪化する(例えば強度低下、変形等が起こる)、樹脂表面から難燃剤がブリードし、樹脂の性能低下、周囲への汚染等を引き起こすといった不具合の原因となり得る。
【0004】
これに対し、難燃剤の添加による上記のような不具合の発生を抑えるために、分子中に反応性基を導入した反応型難燃剤が開発されている。例えば特許文献1に開示されている臭素系ポリオールはヒドロキシ基を反応性基として有することから、ポリイソシアネートと反応することでポリウレタンフォームの高い難燃性に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-214651号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Synthesis of Phosphane Oxide Bridged Bis- and TriscatecholDerivatives、Markus Albrecht, Yun Song, Synthesis, 2006,18, 3037-3042.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反応型難燃剤の反応性基はヒドロキシ基に限られない。例えば、ポリイソシアネートと反応する反応型難燃剤として、アミノ基を有する反応型難燃剤の需要もある。
【0008】
本発明の目的は、反応型難燃剤として有用な新規アミノ基含有化合物及びその製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、該アミノ基含有化合物を含む反応型難燃剤及び組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]~[9]を提供する。
【0010】
[1] 下記式(1)で表される、アミノ基含有化合物。
【化1】

[式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示し、m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。ただし、m+nは1以上である。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0011】
[2] 前記Xが、塩素原子又は臭素原子である、[1]に記載のアミノ基含有化合物。
【0012】
[3] 前記mが0~2であり、nが0~2である、[1]又は[2]に記載のアミノ基含有化合物。
【0013】
[4] 前記Rが、炭素数6~12の置換又は無置換のフェニル基である、[1]~[3]のいずれかに記載のアミノ基含有化合物。
【0014】
[5] 下記式(2)で表される、[1]~[4]のいずれかに記載のアミノ基含有化合物。
【化2】

[式(2)中、X~Xは、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示し、Rは、前記式(1)中のRと同義である。ただし、X~Xのうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。]
【0015】
[6] 下記式(3)で表される、[1]に記載のアミノ基含有化合物。
【化3】
【0016】
[7] [1]に記載のアミノ基含有化合物の製造方法であって、下記式(I)で表される化合物をハロゲン化して前記アミノ基含有化合物を得る工程を備える、アミノ基含有化合物の製造方法。
【化4】

[式(I)中、Rは、前記式(1)中のRと同義である。]
【0017】
[8] [1]~[6]のいずれかに記載のアミノ基含有化合物を含む、反応型難燃剤。
【0018】
[9] [1]~[6]のいずれかに記載のアミノ基含有化合物及びアミン反応性基を有する化合物、並びに/又は、これらの反応生成物を含む、組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反応型難燃剤として有用な新規アミノ基含有化合物及びその製造方法を提供することができる。本発明によれば、該アミノ基含有化合物を含む反応型難燃剤及び組成物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】式(3)で表される化合物のH-NMRスペクトルである。
図2】式(3)で表される化合物の13C-NMRスペクトルである。
図3】式(3)で表される化合物の31P-NMRスペクトルである。
図4】式(3)で表される化合物のX線結晶構造解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一実施形態のアミノ基含有化合物は、下記式(1)で表される化合物(ジアミン)である。
【化5】
【0022】
式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。Xは、より高い難燃性が期待されることから、好ましくは塩素原子又は臭素原子であり、より好ましくは臭素原子である。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0023】
式(1)中、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示す。
【0024】
炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基の炭素数は、1~8、1~6、1~4又は1~2であってもよい。炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基の好適な例は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基である。
【0025】
炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基の炭素数は、1~8、1~6、1~4又は1~2であってもよい。炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基の好適な例は、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基及びヘキシルオキシ基である。
【0026】
アリール基の炭素数は、例えば、6~12であり、6~10又は6~8であってもよい。アリール基は、例えば、置換又は無置換のフェニル基である。フェニル基の置換基としては、例えば、直鎖状又は分岐状アルキル基が挙げられる。置換基の炭素数は、例えば1~3である。置換基の具体例としては、メチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられる。アリール基の好適な例は、フェニル基である。
【0027】
Rは、より高い難燃性が期待されることから、好ましくは炭素数6~12の置換又は無置換のフェニル基であり、より好ましくは(無置換の)フェニル基である。
【0028】
式(1)中、m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。ただし、m+nは1以上である。m及びnは、それぞれ、好ましくは0~2であり、より好ましくは1~2であり、更に好ましくは2である。これらのことから、m及びnの両方が0~2であることが好ましく、m及びnの両方が1~2であることがより好ましく、m及びnの両方が2であることが更に好ましい。
【0029】
式(1)で表されるアミノ基含有化合物は、好ましくは、下記式(2)で表される化合物である。
【化6】
【0030】
式(2)中、X~Xは、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示す。ただし、X~Xのうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。ハロゲン原子は、上記Xで示されるハロゲン原子と同じであり、その好適例も同じである。X及びXのうちの少なくとも一つ、並びに、X及びXのうちの少なくとも一つがハロゲン原子であることが好ましく、X~Xの全てがハロゲン原子であることがより好ましい。Rは、式(1)中のRと同義であり、その好適例も同じである。
【0031】
式(1)で表されるアミノ基含有化合物は、より好ましくは、下記式(3)で表される化合物である。
【化7】
【0032】
以上説明したアミノ基含有化合物は、ハロゲン原子及びリン原子の両方を有することから、気相及び固相の両相において難燃性を示し、ハロゲン原子のみ、又は、リン原子のみを有する化合物と比較して、より高い難燃性を示すことが期待される。したがって、上記アミノ基含有化合物は、難燃剤として有用であり、特に、アミン反応性基を有する化合物とともに用いられる反応型難燃剤として有用である。ここで、アミン反応性基とは、アミンと反応して結合を形成する官能基を意味する。アミン反応性基としては、イソシアネート基、カルボキシ基、アルデヒド基、イソチオシアネート基、アジド基、エポキシ基、カーボネート基、カルボジイミド基、酸無水物基等が挙げられる。
【0033】
また、上記アミノ基含有化合物は、ジアミン(アミノ基を2つ有する化合物)であることから、アミノ基を3つ以上有するポリアミンと比較して、鎖延長しやすく、高分子量化しやすいというメリットがある。このような観点からも、上記アミノ基含有化合物は、反応型難燃剤として有用であるといえる。
【0034】
式(1)で表されるアミノ基含有化合物は、例えば、下記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」という)をハロゲン化して該アミノ基含有化合物を得る工程を備える方法により得ることができる。
【化8】
【0035】
式(I)中のRは、式(1)中のRと同義であり、その好適例も同じである。
【0036】
化合物(I)は、例えば、4-ブロモアニリンを出発原料として、Albrechtらの合成経路(非特許文献1参照)に従って合成することができる。具体的には、まず、パールクノール反応を用いて4-ブロモアニリンのアミンをピロール保護し、ピロール保護体を得る。パールクノール反応では、ジケトン化合物として、例えば、2,5-ヘキシルジオンを使用する。次いで、n-ブチルリチウムを用いたハロゲン-金属交換によりピロール保護体をリチオ化する。次いで、リチオ化体とRPCl(Rは、式(1)中のRと同義)で表される化合物とを反応させた後、過酸化水素を用いて反応生成物を酸化する。最後に、アミンの脱保護を行うことで、化合物(I)が得られる。
【0037】
化合物(I)のハロゲン化は、例えば、該化合物(I)とハロゲン単体(F、Cl、Br又はI)とを反応させることにより行うことができる。具体的には、例えば、化合物(I)及びハロゲン単体をそれぞれ溶媒に溶解させた後、化合物(I)の溶液中にハロゲン単体の溶液を滴下することによりこれらを反応させる。これにより、化合物(I)をハロゲン化し、式(1)で表されるアミノ基含有化合物を得ることができる。ハロゲン単体の使用量は、例えば、化合物(I)1当量に対して、4~4.5当量であってよい。溶媒としては、例えば、メタノール、ジクロロメタン、これらの混合物等を用いることができる。反応温度は、例えば0~5℃とすることができる。反応時間は、例えば、60~120分間とすることができる。
【0038】
以上説明した方法によれば、簡便な方法で、且つ、高収率で、式(1)で表されるアミノ基含有化合物を得ることができる。
【0039】
上記方法では、化合物(I)に対してハロゲン化を行うが、予めハロゲン化された化合物を用意し、該化合物にリン原子を含む骨格を導入してもよい。具体的には、例えば、1-(4-ヨード-2,6-ジブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロール(ピロール保護体)を用意し、n-ブチルリチウムを用いたハロゲン-金属交換により該ピロール保護体の4位をリチオ化する。次いで、リチオ化体とRPCl(Rは、式(1)中のRと同義)で表される化合物とを反応させた後、過酸化水素を用いて反応生成物を酸化する。最後に、アミンの脱保護をすることで、式(1)で表されるアミノ基含有化合物を得ることができる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態に係るアミノ基含有化合物及びその製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0041】
本発明の他の一実施形態は、上記式(1)で表されるアミノ基含有化合物を含む、反応型難燃剤である。該反応型難燃剤は、通常、上述したアミン反応性基を有する化合物と組み合わせて使用され、好ましくは、ポリイソシアネート(イソシアネート基を複数有する化合物)と組み合わせて使用される。したがって、該反応型難燃剤は、ポリイソシアネートを原料として用いる樹脂(ポリウレタン、ポリウレア等)用の難燃剤として好適である。
【0042】
本発明の他の一実施形態は、上記式(1)で表されるアミノ基含有化合物及び上記アミン反応性基を有する化合物、並びに/又は、これらの反応生成物を含む組成物である。反応生成物は、アミン反応性基を有する化合物の種類に応じて、ウレア結合、アミド結合、イミド結合等の結合を有する。
【実施例0043】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
【化9】

上記合成スキームに従って式(3)で表される化合物(アミノ基含有化合物)を合成した。具体的な合成方法を以下に示す。
【0045】
<1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロールの合成>
4-ブロモアニリン(9.06g,52.7mmol)を入れた容器中に、触媒量のp-トルエンスルホン酸一水和物と、アセトニルアセトン(6.75mL,59.2mmol)と、トルエン(90mL)とを加えた。次いで、該容器にディーン・スターク装置を装着して、4.5時間加熱還流を行い、褐色の溶液を得た。得られた溶液を室温まで冷まして黒色に変化させた後、この溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、水で5回、飽和食塩水で1回洗浄した。その後、洗浄後の溶液に活性炭を加えて15分間攪拌した。攪拌後の溶液に無水硫酸マグネシウムを加えた後、セライト濾過により該溶液から活性炭と硫酸マグネシウムを取り除き、褐色溶液を得た。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗生成物を得た後、該粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、溶媒を減圧留去することで無色固体として1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロールを得た。収量は11.5g,46.2mmolであり、収率は87.7%であった。得られた化合物の融点は、73~74℃であり、H-NMR及び13C-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ2.02(s,6H), 5.90(s,2H), 7.07-7.11(2H,m), 7.57-7.61(2H,m).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ13.0, 106.1, 121.5, 128.6, 129.8, 132.3, 138.0.
【0046】
<1,1’-[(フェニルホスホリル)ジ-4,1-フェニレン]ビス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)の合成>
窒素置換した300mL二つロフラスコに1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロール(7.15g,28.7mmol)と、ジエチルエーテル(60mL)とを加えて0℃まで冷却した後、n-BuLiヘキサン溶液(1.59M,19.3mL,30.7mmol)を加え、2時間攪拌した。次いで、攪拌後の溶液にジクロロフェニルホスフィン(1.95mL,14.4mmol)のジエチルエーテル(100mL)溶液を加え、室温で終夜攪拌することで、白色の懸濁液を得た。得られた懸濁液に塩化アンモニウム水溶液を加え、ジクロロメタンで3回抽出した。次いで、抽出された抽出液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で精製した後、精製後の溶液を100mLまで濃縮した。得られた濃縮液に30%過酸化水素水(10.0mL)を加えて4時間加熱還流した後、10%水酸化ナトリウム水溶液(100mL)を加えた。次いで、水層をジクロロメタンで抽出した後、抽出された抽出液と有機層とを混ぜ合わせて溶液を得た。得られた溶液を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、乾燥後の固体を濾過し、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た後、該粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で精製し、溶媒を減圧留去することで無色固体として1,1’-[(フェニルホスホリル)ジ-4,1-フェニレン]ビス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)を得た。収量は6.03g,13.0mmolであり、収率は90.2%であった。得られた化合物のH-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ2.06(s,12H), 5.90(s,4H), 7.20-7.22(m,4H), 7.38-7.41(m,9H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ13.1, 106.6, 128.3(d,J=13.4Hz), 128.5, 128.8(d,J=12.4Hz), 130.9, 131.9, 132.0, 132.3, 132.9(d,J=11.0Hz), 142.5.
31P-NMR(161MHz,CDCl):δ28.9.
【0047】
<ビス(4-アミノフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドの合成>
1,1’-[(フェニルホスホリル)ジ-4,1-フェニレン]ビス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)(15.3g,32.8mmol)に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(69.5g,1.00mol)と、トリエチルアミン(37.5mL,264mmol)と、エタノール(240mL)と、水(95mL)とを加えて110℃で24時間加熱還流を行なった。その後、得られた溶液にヒドロキシルアミン塩酸塩(69.5g,1.00mol)と、トリエチルアミン(37.5mL,264mmol)とを再び加えて2日間加熱還流を行なった。その後、得られた溶液を室温に冷まし、溶液がpH12.0になるまで水酸化ナトリウム水溶液を加え、1時間攪拌した。攪拌後の溶液からエタノールとトリエチルアミンとを減圧留去した。その後、析出した固体を濾過し、水で洗浄することで無色固体としてビス(4-アミノフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドを得た。収量は7.45g,24.1mmolであり、収率は73.5%であった。得られた化合物の融点は265~268℃であり、H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
-HNMR(400MHz,CDCl):δ3.98(br s,4H), 6.67-6.70(m,4H), 7.27-7.43(m,6H), 7.46-7.51(m,1H), 7.63-7.68(m,2H).
13C-NMR(100MHz,DMSO):δ113.0(C-P=13Hz), 117.9(C-P=114Hz), 128.2(C-P=12Hz), 131.0(C-P=3Hz), 131.3(C-P=10Hz), 132.9(C-P=11Hz), 135.5(C-P=102Hz), 151.8(C-P=13Hz).
31P-NMR(162MHz,CDCl):δ30.9.
【0048】
<式(3)で表される化合物の合成>
ビス(4-アミノフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド(503mg,1.63mmol)を溶媒(メタノール:ジクロロメタン=1:1,20mL)に溶解させて得られた溶液に、臭素(0.48mL,9.31mmol)を溶媒(メタノール:ジクロロメタン=1:1,20mL)に溶解させて得られた溶液を0℃で30分間かけて滴下した。室温条件下で1時間反応させた後、反応液中に20%水酸化ナトリウム水溶液(40mL)を加えた。次いで、水層をジエチルエーテルで2回抽出した後に、有機層を水で3回洗浄した。洗浄後の溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、乾燥後の固体を濾過し、溶媒を減圧留去することで、薄橙色固体として式(3)で表される化合物(ビス(4-アミノ-3,5-ジブロモフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド)を得た。収量は834mg,1.34mmolであり、収率は81.6%であった。得られた化合物の融点は105~108℃であり、H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ4.98(br s,4H), 7.48-7.52(m,2H), 7.56-7.57(m,1H), 7.60(d,4H,H-P=12Hz), 7.64-7.67(m,2H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ108.5(JC-P=17Hz), 122.1(JC-P=111Hz), 128.8(JC-P=12Hz), 131.7(JC-P=108Hz), 131.9(JC-P=10Hz), 132.3(JC-P=3Hz), 134.3(JC-P=11Hz), 145.1(JC-P=2Hz).
31P-NMR(162MHz,CDCl):δ25.8.
【0049】
得られた化合物(式(3)で表される化合物)のH-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのスペクトルを図1図3に示す。図1及び図2では、一部の領域が拡大して示されている。
【0050】
また、クロロホルム及びベンゼンを用いて、上記で得られた固体(式(3)で表される化合物)の再結晶を行った。得られた再結晶後の固体について、下記の条件でX線結晶構造解析を行うことによっても化合物を同定した。解析結果を表1及び図4に示す。
[条件]
クロロホルム-ベンゼンの溶媒から再結晶させて得られた結晶を用いて測定を行った。溶媒抜けを防ぐためフォンブリンオイルに浸漬させた結晶を用い、窒素吹き付け装置により-173℃まで冷却しながら測定を行った。X線結晶構造解析はBrukerD8 Questで回折像を測定し、データの積分、indexing及び初期構造の決定にはAPEX3を用いた。構造の精密化はフルマトリックスによる最小二乗法で行った。
【0051】
【表1】
【0052】
(実施例2)
上記で得られた式(3)で表される化合物0.312gを脱水DMF3.12gに溶解させた後、脱水DMF1.00gに溶解させた当量比1となるTDIプレポリマー(商品名:C-4089、東ソー株式会社製)1.00g(すなわち、DMFとTDIプレポリマーの溶液2.00g)と混合し、混合液を得た。次いで、得られた混合液を離型紙上に塗布した。次いで、塗膜を室温で15分間静置した後、110℃で20分間加熱した。その後、150℃で一晩加熱することにより、式(3)で表される化合物とTDIプレポリマーとの反応を進行させ、反応生成物としての樹脂を得た。上記反応がしていることは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光装置Nicolet iS20を用いて確認した。
【0053】
(比較例1)
3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン0.134gを脱水DMF0.134gに溶解させた後、脱水DMF1.00gに溶解させた当量比1となるTDIプレポリマー(C-4089)1.00g(すなわち、DMFとTDIプレポリマーの溶液2.00g)と混合し、離型紙上に塗布した。次いで、塗膜を室温で15分間静置した後、110℃で20分間加熱した。その後、150℃で一晩加熱することにより3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとTDIプレポリマーとの反応を進行させ、反応生成物としての樹脂を得た。上記反応がしていることは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光装置Nicolet iS20を用いて確認した。
【0054】
(比較例2)
4,4’-ジアミノジフェニルメタン0.092gを脱水DMF0.092gに溶解させた後、脱水DMF1.00gに溶解させた当量比1となるTDIプレポリマー(C-4089)1.00g(すなわち、DMFとTDIプレポリマーの溶液2.00g)と混合し、離型紙上に塗布した。次いで、塗膜を室温で15分間静置した後、110℃で20分間加熱した。その後、150℃で一晩加熱することにより4,4’-ジアミノジフェニルメタンとTDIプレポリマーとの反応を進行させ、反応生成物としての樹脂を得た。上記反応がしていることは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光装置Nicolet iS20を用いて確認した。
【0055】
(評価)
実施例2及び比較例1~2で得られた樹脂の熱分解開始温度により、実施例1で合成したアミノ基含有化合物の反応型難燃剤としての有用性を評価した。熱分解開始温度(5%重量減少温度)は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の熱重量測定装置STA7200RVを用いて、昇温速度10℃/分、空気及び窒素雰囲気条件で測定した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

図1
図2
図3
図4