(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028408
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】イソシアネート基含有化合物及びその製造方法、反応型難燃剤、並びに、組成物
(51)【国際特許分類】
C07F 9/53 20060101AFI20230224BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20230224BHJP
C09K 21/08 20060101ALI20230224BHJP
C09K 21/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C07F9/53 CSP
C09K21/12
C09K21/08
C09K21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134092
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】猪原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 真生
(72)【発明者】
【氏名】竹下 空澄
【テーマコード(参考)】
4H028
4H050
【Fターム(参考)】
4H028AA35
4H028AA37
4H028AA38
4H028AA39
4H050AA01
4H050AA02
4H050AB90
4H050BB11
4H050BC10
4H050BE52
(57)【要約】
【課題】反応型難燃剤として有用な新規イソシアネート基含有化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される、イソシアネート基含有化合物。
【化1】
[式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示し、lは、0~4の整数を示し、qは、2又は3を示す。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。複数のlはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし複数のlの合計は1以上である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、イソシアネート基含有化合物。
【化1】
[式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示し、lは、0~4の整数を示し、qは、2又は3を示す。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。複数のlはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし複数のlの合計は1以上である。]
【請求項2】
前記Xが、塩素原子又は臭素原子である、請求項1に記載のイソシアネート基含有化合物。
【請求項3】
前記lが0~2である、請求項1又は2に記載のイソシアネート基含有化合物。
【請求項4】
前記Rが、炭素数6~12の置換又は無置換のフェニル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載のイソシアネート基含有化合物。
【請求項5】
下記式(2)で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載のイソシアネート基含有化合物。
【化2】
[式(2)中、X
1~X
4は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示し、Rは、前記式(1)中のRと同義である。ただし、X
1~X
4のうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。]
【請求項6】
下記式(3)で表される、請求項1に記載のイソシアネート基含有化合物。
【化3】
【請求項7】
下記式(4)で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載のイソシアネート基含有化合物。
【化4】
[式(3)中、X
5~X
10は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示す。ただし、X
5~X
10のうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。]
【請求項8】
下記式(5)で表される、請求項1に記載のイソシアネート基含有化合物。
【化5】
【請求項9】
請求項1に記載のイソシアネート基含有化合物の製造方法であって、
下記式(I)で表される化合物をハロゲン化して下記式(II)で表されるアミノ基含有化合物を得る工程と、
前記アミノ基含有化合物の該アミノ基をイソシアネート基に変換する工程と、を備える、イソシアネート基含有化合物の製造方法。
【化6】
[式(I)中、R及びqは、前記式(1)中のR及びqと同義である。]
【化7】
[式(II)中、X、R、q及びlは、前記式(1)中のX、R、q及びlと同義である。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。複数のlはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし複数のlの合計は1以上である。]
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載のイソシアネート基含有化合物を含む、反応型難燃剤。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のイソシアネート基含有化合物及びイソシアネート反応性基を有する化合物、並びに/又は、これらの反応生成物を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアネート基含有化合物及びその製造方法、反応型難燃剤、並びに、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に耐熱性及び/又は難燃性を付与するために種々の難燃剤が用いられている。難燃剤としては、例えば、主に気相でラジカル捕捉効果を発揮するハロゲン原子を分子構造に含む化合物、及び、主に固相で炭化層形成効果を発揮するリン原子を分子構造に含む化合物が知られている。
【0003】
一般的に、難燃剤の添加量が増えると耐熱性及び難燃性が向上するものの、難燃剤の添加量の増加は、樹脂の物性が悪化する(例えば強度低下、変形等が起こる)、樹脂表面から難燃剤がブリードし、樹脂の性能低下、周囲への汚染等を引き起こすといった不具合の原因となり得る。
【0004】
これに対し、難燃剤の添加による上記のような不具合の発生を抑えるために、分子中に反応性基を導入した反応型難燃剤が開発されている。例えば特許文献1に開示されている臭素系ポリオールはヒドロキシ基を反応性基として有することから、ポリイソシアネートと反応することでポリウレタンフォームの高い難燃性に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Synthesis of Phosphane Oxide Bridged Bis- and Triscatechol Derivatives、Markus Albrecht, Yun Song, Synthesis, 2006, 18, 3037-3042.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反応型難燃剤の反応性基はヒドロキシ基に限られない。例えば、ポリオールと反応する反応型難燃剤として、イソシアネート基を有する反応型難燃剤の需要もある。
【0008】
本発明の目的は、反応型難燃剤として有用な新規イソシアネート基含有化合物及びその製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、該イソシアネート基含有化合物を含む反応型難燃剤及び組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]~[11]を提供する。
【0010】
[1] 下記式(1)で表される、イソシアネート基含有化合物。
【化1】
[式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示し、lは、0~4の整数を示し、qは、2又は3を示す。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。複数のlはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし複数のlの合計は1以上である。]
【0011】
[2] 前記Xが、塩素原子又は臭素原子である、[1]に記載のイソシアネート基含有化合物。
【0012】
[3] 前記lが0~2である、[1]又は[2]に記載のイソシアネート基含有化合物。
【0013】
[4] 前記Rが、炭素数6~12の置換又は無置換のフェニル基である、[1]~[3]のいずれかに記載のイソシアネート基含有化合物。
【0014】
[5] 下記式(2)で表される、[1]~[4]のいずれかに記載のイソシアネート基含有化合物。
【化2】
[式(2)中、X
1~X
4は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示し、Rは、前記式(1)中のRと同義である。ただし、X
1~X
4のうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。]
【0015】
[6] 下記式(3)で表される、[1]に記載のイソシアネート基含有化合物。
【化3】
【0016】
[7] 下記式(4)で表される、[1]~[4]のいずれかに記載のイソシアネート基含有化合物。
【化4】
[式(3)中、X
5~X
10は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示す。ただし、X
5~X
10のうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。]
【0017】
[8] 下記式(5)で表される、[1]に記載のイソシアネート基含有化合物。
【化5】
【0018】
[9] [1]に記載のイソシアネート基含有化合物の製造方法であって、下記式(I)で表される化合物をハロゲン化して下記式(II)で表されるアミノ基含有化合物を得る工程と、前記アミノ基含有化合物の該アミノ基をイソシアネート基に変換する工程と、を備える、イソシアネート基含有化合物の製造方法。
【化6】
[式(I)中、R及びqは、前記式(1)中のR及びqと同義である。]
【化7】
[式(II)中、X、R、q及びlは、前記式(1)中のX、R、q及びlと同義である。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。複数のlはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし複数のlの合計は1以上である。]
【0019】
[10] [1]~[8]のいずれかに記載のイソシアネート基含有化合物を含む、反応型難燃剤。
【0020】
[11] [1]~[8]のいずれか一項に記載のイソシアネート基含有化合物及びイソシアネート反応性基を有する化合物、並びに/又は、これらの反応生成物を含む、組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、反応型難燃剤として有用な新規イソシアネート基含有化合物及びその製造方法を提供することができる。本発明によれば、該イソシアネート基含有化合物を含む反応型難燃剤及び組成物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】式(II-1)で表される化合物の
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】式(II-1)で表される化合物の
13C-NMRスペクトルである。
【
図3】式(II-1)で表される化合物の
31P-NMRスペクトルである。
【
図4】式(II-1)で表される化合物のX線結晶構造解析の結果を示す図である。
【
図5】式(II-2)で表される化合物の
1H-NMRスペクトルである。
【
図6】式(II-2)で表される化合物の
13C-NMRスペクトルである。
【
図7】式(II-2)で表される化合物の
31P-NMRスペクトルである。
【
図8】式(II-2)で表される化合物のX線結晶構造解析の結果を示す図である。
【
図9】式(3)で表される化合物の
1H-NMRスペクトルである。
【
図10】式(3)で表される化合物の
13C-NMRスペクトルである。
【
図11】式(3)で表される化合物の
31P-NMRスペクトルである。
【
図12】式(3)で表される化合物のFT-IRスペクトルである。
【
図13】式(5)で表される化合物の
1H-NMRスペクトルである。
【
図14】式(5)で表される化合物の
13C-NMRスペクトルである。
【
図15】式(5)で表される化合物の
31P-NMRスペクトルである。
【
図16】式(5)で表される化合物のFT-IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
一実施形態のイソシアネート基含有化合物は、下記式(1)で表される化合物(ジ又はトリイソシアネート)である。
【化8】
【0024】
式(1)中、Xは、ハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。Xは、より高い難燃性が期待されることから、好ましくは塩素原子又は臭素原子であり、より好ましくは臭素原子である。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0025】
式(1)中、Rは、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、又は、アリール基を示す。
【0026】
炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基の炭素数は、1~8、1~6、1~4又は1~2であってもよい。炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基の好適な例は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基である。
【0027】
炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基の炭素数は、1~8、1~6、1~4又は1~2であってもよい。炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基の好適な例は、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基及びヘキシルオキシ基である。
【0028】
アリール基の炭素数は、例えば、6~12であり、6~10又は6~8であってもよい。アリール基は、例えば、置換又は無置換のフェニル基である。フェニル基の置換基としては、例えば、直鎖状又は分岐状アルキル基が挙げられる。置換基の炭素数は、例えば1~3である。置換基の具体例としては、メチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられる。アリール基の好適な例は、フェニル基である。
【0029】
Rは、より高い難燃性が期待されることから、好ましくは炭素数6~12の置換又は無置換のフェニル基であり、より好ましくは(無置換の)フェニル基である。
【0030】
式(1)中のlは、0~4の整数を示す。複数のlはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし複数のlの合計は1以上である。lは、好ましくは0~2であり、より好ましくは1~2であり、更に好ましくは2である。
【0031】
式(1)中のqは、2又は3を示す。qが2である場合、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物は、下記式(1a)で表すことができる。また、qが3である場合、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物は、下記式(1b)で表すことができる。
【化9】
【化10】
【0032】
式(1a)中のm及びn、並びに、式(1b)中のr、s及びtは、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。
【0033】
qが2である場合、2つのlの両方(すなわち式(1a)中のm及びn)が0~2であることが好ましく、2つのlの両方が1~2であることがより好ましく、2つのlの両方が2であることが更に好ましい。qが3である場合、3つのlの全て(すなわち式(1b)中のr、s及びt)が0~2であることが好ましく、3つのlの全てが1~2であることがより好ましく、3つのlの全てが2であることが更に好ましい。
【0034】
qが2である場合、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物は、好ましくは、下記式(2)で表される化合物である。
【化11】
【0035】
式(2)中、X1~X4は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示す。ただし、X1~X4のうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。ハロゲン原子は、上記Xで示されるハロゲン原子と同じであり、その好適例も同じである。X1及びX2のうちの少なくとも一つ及びX3及びX4のうちの少なくとも一つがハロゲン原子であることが好ましく、X1~X4の全てがハロゲン原子であることがより好ましい。Rは、式(1)中のRと同義であり、その好適例も同じである。
【0036】
qが2である場合、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物は、より好ましくは、下記式(3)で表される化合物である。
【化12】
【0037】
qが3である場合、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物は、好ましくは、下記式(4)で表される化合物である。
【化13】
【0038】
式(4)中、X5~X10は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を示す。ただし、X5~X10のうちの少なくとも一つはハロゲン原子を示す。ハロゲン原子は、上記Xで示されるハロゲン原子と同じであり、その好適例も同じである。X5及びX6のうちの少なくとも一つ、X7及びX8のうちの少なくとも一つ、並びに、X9及びX10のうちの少なくとも一つがハロゲン原子であることが好ましく、X5~X10の全てがハロゲン原子であることがより好ましい。
【0039】
qが3である場合、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物は、より好ましくは、下記式(5)で表される化合物である。
【化14】
【0040】
以上説明したイソシアネート基含有化合物は、ハロゲン原子及びリン原子の両方を有することから、気相及び固相の両相において難燃性を示し、ハロゲン原子のみ、又は、リン原子のみを有する化合物と比較して、より高い難燃性を示すことが期待される。したがって、上記イソシアネート基含有化合物は、難燃剤として有用であり、特に、イソシアネート反応性基を有する化合物とともに用いられる反応型難燃剤として有用である。ここで、イソシアネート反応性基とは、イソシアネートと反応して結合を形成する官能基を意味する。イソシアネート反応性基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、チオール基等が挙げられる。
【0041】
式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物は、例えば、下記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」という)をハロゲン化して下記式(II)で表されるアミノ基含有化合物(以下、「化合物(II)」ともいう)を得る工程と、該アミノ基含有化合物の該アミノ基をイソシアネート基に変換する工程と、を備える方法により得ることができる。
【化15】
【化16】
【0042】
式(I)及び式(II)中のR及びqは、式(1)中のR及びqと同義であり、その好適例も同じである。式(II)中のX及びlは、式(1)中のX及びlと同義であり、その好適例も同じである。Xが複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。複数のlはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし複数のlの合計は1以上である。
【0043】
qが2である場合、化合物(I)は、下記式(Ia)で表すことができる。
【化17】
【0044】
式(Ia)で表される化合物(以下、「化合物(Ia)」という)は、例えば、4-ブロモアニリンを出発原料として、Albrechtらの合成経路(非特許文献1参照)に従って合成することができる。具体的には、まず、パールクノール反応を用いて4-ブロモアニリンのアミンをピロール保護し、ピロール保護体を得る。パールクノール反応では、ジケトン化合物として、例えば、2,5-ヘキシルジオンを使用する。次いで、n-ブチルリチウムを用いたハロゲン-金属交換によりピロール保護体をリチオ化する。次いで、リチオ化体とRPCl2(Rは、式(1)中のRと同義)で表される化合物とを反応させた後、過酸化水素を用いて反応生成物を酸化する。最後に、アミンの脱保護を行うことで、化合物(Ia)が得られる。
【0045】
qが3である場合、化合物(I)は、下記式(Ib)で表すことができる。
【化18】
【0046】
式(Ib)で表される化合物(以下、「化合物(Ib)」という)は、RPCl2に代えて、三塩化リン(PCl3)を用いること以外は、式(Ia)と同様に、4-ブロモアニリンを出発原料として、Albrechtらの合成経路に従って合成することができる。
【0047】
化合物(I)(化合物(Ia)及び化合物(Ib))のハロゲン化は、例えば、該化合物(I)とハロゲン単体(F2、Cl2、Br2又はI2)とを反応させることにより行うことができる。具体的には、例えば、化合物(I)とハロゲン単体とをそれぞれ溶媒に溶解させた後、化合物(I)の溶液中にハロゲン単体の溶液を滴下することによりこれらを反応させる。これにより、化合物(I)をハロゲン化し、化合物(II)を得ることができる。ハロゲン単体の使用量は、例えば、化合物(Ia)を用いる場合、化合物(Ia)1当量に対して、4~4.5当量であってよく、化合物(Ib)を用いる場合、化合物(Ib)1当量に対して、6~7当量であってよい。溶媒としては、例えば、メタノール、ジクロロメタン、これらの混合物等を用いることができる。反応温度は、例えば0~5℃とすることができる。反応時間は、例えば、60~120分間である。
【0048】
化合物(II)のアミノ基の変換は、例えば、化合物(II)とホスゲンとを反応させるホスゲン化反応により行うことができる。ホスゲンとしては、例えばトリホスゲンが好適に用いられる。ホスゲン化反応は、通常、不活性ガス雰囲気下及び不活性溶媒下で実施される。不活性ガス及び不活性溶媒としては、ホスゲン化反応を阻害しないものであれば特に限定はない。不活性ガスとしては、アルゴンガス、窒素ガス等が挙げられる。不活性溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、クロルトルエン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサン及びこれらの混合物等を用いることができる。ホスゲンの使用量は、例えば、化合物(II)のアミノ基1当量に対して、5~10当量であってよい。
【0049】
ホスゲン化反応の実施方法は、公知の方法であってよく、化合物(II)とホスゲンとを直接反応させる方法(直接法)であっても、化合物(II)を一旦塩化水素と反応させてアミン塩酸塩とした後に、これをホスゲンと反応させる方法(塩酸塩法)であってもよい。冷熱2段法、ホスゲン加圧法等の方法を用いることもできる。
【0050】
直接法は、塩基の存在下で実施してよい。具体的には、まず、化合物(II)とホスゲンとを不活性溶媒に溶解させて第1の溶液を得る。次いで、塩基を不活性溶媒に溶解させた第2の溶液を用意し、第1の溶液を攪拌しながら、該第1の溶液に第2の溶液を添加(例えば滴下)する。この際、第1の溶液を冷却(例えば氷冷)することが好ましく、第2の溶液の添加時の溶液温度が5℃を超えないようにすることが好ましい。次いで、得られた混合液(第1の溶液と第2の溶液との混合液)を昇温し、攪拌することで化合物(II)とホスゲンとを反応させる。反応温度(昇温後の温度)は、例えば、5~30℃であってよく、好ましくは室温(例えば25℃)である。反応時間は、例えば、24~48時間である。反応後は、例えば、混合液のろ過、脱水等を行った後、冷却することで不純物を沈殿物として析出させる。その後、沈殿物及び溶媒を除去することで、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物が得られる。塩基としては、例えば、上記ピリジン等を用いることができる。
【0051】
以上説明した方法によれば、簡便な方法で、且つ、高収率で、式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物を得ることができる。
【0052】
上記方法では、化合物(I)に対してハロゲン化を行うが、予めハロゲン化された化合物を用意し、該化合物にリン原子を含む骨格を導入してもよい。具体的には、例えば、1-(4-ヨード-2,6-ジブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロール(ピロール保護体)を用意し、n-ブチルリチウムを用いたハロゲン-金属交換により該ピロール保護体の4位をリチオ化する。次いで、リチオ化体とRPCl2(Rは、式(1)中のRと同義)で表される化合物とを反応させた後、過酸化水素を用いて反応生成物を酸化する。最後に、アミンの脱保護をすることで、化合物(II)を得てもよい。
【0053】
以上、本発明の一実施形態に係るイソシアネート基含有化合物及びその製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0054】
本発明の他の一実施形態は、上記式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物を含む、反応型難燃剤である。該反応型難燃剤は、通常、上述したイソシアネート反応性基を有する化合物と組み合わせて使用され、好ましくは、ポリオール(ヒドロキシ基を複数有する化合物)と組み合わせて使用される。したがって、該反応型難燃剤は、ポリオールを原料として用いる樹脂(ポリウレタン等)用の難燃剤として好適である。
【0055】
本発明の他の一実施形態は、上記式(1)で表されるイソシアネート基含有化合物及び上記イソシアネート反応性基を有する化合物、並びに/又は、これらの反応生成物を含む組成物である。反応生成物は、イソシアネート反応性基を有する化合物の種類に応じて、ウレタン結合、ウレア結合等の結合を有する。
【0056】
本発明の他の一実施形態は、上記式(II)で表されるアミノ基含有化合物である。アミノ基は、イソシアネート基、カルボキシ基、アルデヒド基、イソチオシアネート基、アジド基、エポキシ基、カーボネート基、カルボジイミド基、酸無水物基等の官能基を有する化合物に対して反応性を示すことから、上記式(II)で表されるアミノ基含有化合物も反応型難燃剤として有用である。
【0057】
本発明の他の一実施形態は、上記式(II)で表されるアミノ基含有化合物の製造方法である。式(II)で表されるアミノ基含有化合物の製造方法は、式(I)で表されるイソシアネート基含有化合物の製造方法の一部として上述したとおりである。
【0058】
本発明の他の一実施形態は、上記式(II)で表されるアミノ基含有化合物を含む反応型難燃剤である。該反応型難燃剤は、通常、上述したイソシアネート基等のアミン反応性基(アミンと反応して結合を形成する官能基)を有する化合物と組み合わせて使用され、好ましくは、ポリイソシアネート(イソシアネート基を複数有する化合物)と組み合わせて使用される。
【0059】
本発明の他の一実施形態は、上記式(II)で表されるアミノ基含有化合物及びアミン反応性基を有する化合物、並びに/又は、これらの反応生成物を含む組成物である。反応生成物は、アミン反応性基を有する化合物の種類に応じて、ウレア結合、アミド結合、イミド結合等の結合を有する。
【実施例0060】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(合成例1)
【化19】
上記合成スキームに従って式(II-1)で表される化合物を合成した。具体的な合成方法を以下に示す。
【0062】
<1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロールの合成>
4-ブロモアニリン(9.06g,52.7mmol)を入れた容器中に、触媒量のp-トルエンスルホン酸ー水和物と、アセトニルアセトン(6.75mL,59.2mmol)と、トルエン(90mL)とを加えた。次いで、該容器にディーン・スターク装置を装着して、4.5時間加熱還流を行い、褐色の溶液を得た。得られた溶液を室温まで冷まして黒色に変化させた後、この溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、水で5回、飽和食塩水で1回洗浄した。その後、洗浄後の溶液に活性炭を加えて15分間攪拌した。攪拌後の溶液に無水硫酸マグネシウムを加えた後、セライト濾過により該溶液から活性炭と硫酸マグネシウムを取り除き、褐色溶液を得た。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗生成物を得た後、該粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、溶媒を減圧留去することで無色固体として1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロールを得た。収量は11.5g,46.2mmolであり、収率は87.7%であった。得られた化合物の融点は、73~74℃であり、1H-NMR及び13C-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ2.02(s,6H), 5.90(s,2H), 7.07-7.11(2H,m), 7.57-7.61(2H,m).
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ13.0, 106.1, 121.5, 128.6, 129.8, 132.3, 138.0.
【0063】
<1,1’-[(フェニルホスホリル)ジ-4,1-フェニレン]ビス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)の合成>
窒素置換した300mL二つロフラスコに1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロール(7.15g,28.7mmol)と、ジエチルエーテル(60mL)とを加えて0℃まで冷却した後、n-BuLiヘキサン溶液(1.59M,19.3mL,30.7mmol)を加え、2時間攪拌した。次いで、攪拌後の溶液にジクロロフェニルホスフィン(1.95mL,14.4mmol)のジエチルエーテル(100mL)溶液を加え、室温で終夜攪拌することで、白色の懸濁液を得た。得られた懸濁液に塩化アンモニウム水溶液を加え、ジクロロメタンで3回抽出した。次いで、抽出された抽出液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で精製した後、精製後の溶液を100mLまで濃縮した。得られた濃縮液に30%過酸化水素水(10.0mL)を加えて4時間加熱還流した後、10%水酸化ナトリウム水溶液(100mL)を加えた。次いで、水層をジクロロメタンで抽出した後、抽出された抽出液と有機層とを混ぜ合わせて溶液を得た。得られた溶液を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、乾燥後の固体を濾過し、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た後、該粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で精製し、溶媒を減圧留去することで無色固体として1,1’-[(フェニルホスホリル)ジ-4,1-フェニレン]ビス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)を得た。収量は6.03g,13.0mmolであり、収率は90.2%であった。得られた化合物の1H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ2.06(s,12H), 5.90(s,4H), 7.20-7.22(m,4H), 7.38-7.41(m,9H).
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ13.1, 106.6, 128.3(d,J=13.4Hz), 128.5, 128.8(d,J=12.4Hz), 130.9, 131.9, 132.0, 132.3, 132.9(d,J=11.0Hz), 142.5.
31P-NMR(161MHz,CDCl3):δ28.9.
【0064】
<ビス(4-アミノフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドの合成>
1,1’-[(フェニルホスホリル)ジ-4,1-フェニレン]ビス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)(15.3g,32.8mmol)に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(69.5g,1.00mol)と、トリエチルアミン(37.5mL,264mmol)と、エタノール(240mL)と、水(95mL)とを加えて110℃で24時間加熱還流を行なった。その後、得られた溶液にヒドロキシルアミン塩酸塩(69.5g,1.00mol)と、トリエチルアミン(37.5mL,264mmol)とを再び加えて2日間加熱還流を行なった。その後、得られた溶液を室温に冷まし、溶液がpH12.0になるまで水酸化ナトリウム水溶液を加え、1時間攪拌した。攪拌後の溶液からエタノールとトリエチルアミンとを減圧留去した。その後、析出した固体を濾過し、水で洗浄することで無色固体としてビス(4-アミノフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドを得た。収量は7.45g,24.1mmolであり、収率は73.5%であった。得られた化合物の融点は265~268℃であり、1H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1-HNMR(400MHz,CDCl3):δ3.98(br s,4H), 6.67-6.70(m,4H), 7.27-7.43(m,6H), 7.46-7.51(m,1H), 7.63-7.68(m,2H).
13C-NMR(100MHz,DMSO):δ113.0(3JC-P=13Hz), 117.9(1JC-P=114Hz), 128.2(2JC-P=12Hz), 131.0(4JC-P=3Hz), 131.3(3JC-P=10Hz), 132.9(2JC-P=11Hz), 135.5(1JC-P=102Hz), 151.8(2JC-P=13Hz).
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ30.9.
【0065】
<式(II-1)で表される化合物の合成>
ビス(4-アミノフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド(503mg,1.63mmol)を溶媒(メタノール:ジクロロメタン=1:1,20mL)に溶解させて得られた溶液に、臭素(0.48mL,9.31mmol)を溶媒(メタノール:ジクロロメタン=1:1,20mL)に溶解させて得られた溶液を0℃で30分間かけて滴下した。室温条件下で1時間反応させた後、反応液中に20%水酸化ナトリウム水溶液(40mL)を加えた。次いで、水層をジエチルエーテルで2回抽出した後に、有機層を水で3回洗浄した。洗浄後の溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、乾燥後の固体を濾過し、溶媒を減圧留去することで、薄橙色固体として式(II-1)で表される化合物(ビス(4-アミノ-3,5-ジブロモフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド)を得た。収量は834mg,1.34mmolであり、収率は81.6%であった。得られた化合物の融点は105~108℃であり、1H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ4.98(br s,4H), 7.48-7.52(m,2H), 7.56-7.57(m,1H), 7.60(d,4H,3JH-P=12Hz), 7.64-7.67(m,2H).
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ108.5(JC-P=17Hz), 122.1(JC-P=111Hz), 128.8(JC-P=12Hz), 131.7(JC-P=108Hz), 131.9(JC-P=10Hz), 132.3(JC-P=3Hz), 134.3(JC-P=11Hz), 145.1(JC-P=2Hz).
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ25.8.
【0066】
得られた化合物(式(II-1)で表される化合物)の
1H-NMR、
13C-NMR及び
31P-NMRのスペクトルを
図1~
図3に示す。
図1及び
図2では、一部の領域が拡大して示されている。
【0067】
また、クロロホルム及びベンゼンを用いて、上記で得られた固体(式(II-1)で表される化合物)の再結晶を行った。得られた再結晶後の固体について、下記の条件でX線結晶構造解析を行うことによっても化合物を同定した。解析結果を下記表1及び
図4に示す。
[条件]
クロロホルム-ベンゼンの溶媒から再結晶させて得られた結晶を用いて測定を行った。溶媒抜けを防ぐためフォンブリンオイルに浸漬させた結晶を用い、窒素吹き付け装置により-173℃まで冷却しながら測定を行った。X線結晶構造解析はBrukerD8 Questで回折像を測定し、データの積分、indexing及び初期構造の決定にはAPEX3を用いた。構造の精密化はフルマトリックスによる最小二乗法で行った。
【0068】
【0069】
(合成例2)
【化20】
上記合成スキームに従って式(II-2)で表される化合物を合成した。具体的な合成方法を以下に示す。
【0070】
<1,1’,1’’-(ホスホリトリ-4,1-フェニレン]トリス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)の合成>
合成例1と同様にして1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロールを合成した。次いで、窒素置換した300mL二つロフラスコに1-(4-ブロモフェニル)-2,5-ジメチル-1H-ピロール(4.74g,19.0mmol)と、ジエチルエーテル(60mL)とを加えて0℃まで冷却した後、n-BuLiヘキサン溶液(2.64M,8.00mL,21.1mmol)を加え、2時間攪拌した。次いで、攪拌後の溶液に三塩化リン(0.48mL,5.50mmol)のジエチルエーテル(30mL)溶液を加え、室温で終夜攪拌することで、白色の懸濁液を得た。得られた懸濁液に塩化アンモニウム水溶液を加え、ジクロロメタンで3回抽出した。次いで、抽出された抽出液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で精製した後、精製後の溶液を100mLまで濃縮した。得られた濃縮液に30%過酸化水素水(10.0mL)を加えて4時間加熱還流した後、10%水酸化ナトリウム水溶液(90mL)を加えた。次いで、水層をジクロロメタンで抽出した後、抽出された抽出液と有機層とを混ぜ合わせて溶液を得た。得られた溶液を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、乾燥後の固体を濾過し、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た後、該粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で精製し、溶媒を減圧留去することで無色固体として1,1’,1’’-(ホスホリトリ-4,1-フェニレン]トリス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)を得た。収量は1.86g,3.34mmolであり、収率は60.7%であった。得られた化合物の融点は、205℃であり、1H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ2.13(s,18H), 5.94(s,6H), 7.31-7.41(m,6H), 7.81-7.87(m,6H).
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ13.2, 116.7, 128.6(JC-P=4.8Hz), 130.6, 131.6, 132.9(JC-P=11Hz), 142.8(JC-P=4.7Hz).
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ28.6.
【0071】
<トリス(4-アミノフェニル)ホスフィンオキシドの合成>
1,1’,1’’-(ホスホリトリ-4,1-フェニレン)トリス(2,5-ジメチル-1H-ピロール)(1.86g,3.35mmol)に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(12.0g,0.18mol)と、トリエチルアミン(7.00mL,50.0mmol)と、エタノール(140mL)と、水(30mL)とを加えて2日間加熱還流を行なった。その後、得られた溶液にヒドロキシルアミン塩酸塩(12.0g,0.18mol)と、トリエチルアミン(7.00mL,50.0mmol)とを再び加えて2日加熱還流を行なった。溶液を室温に冷まし、溶液がpH12になるまで水酸化ナトリウム水溶液を加え、1時間攪拌した。攪拌後の溶液から溶媒を減圧留去し、濾過により残渣を得た後、該残渣を水で洗浄し、風乾させることで粗生成物を得た。得られた粗生成物に水を再び加えて、1時間攪拌し、固体を濾過し、溶媒を減圧留去することで無色固体としてトリス(4-アミノフェニル)ホスフィンオキシドを得た。収量は、745mg,2.30mmolであり、収率は68.7%であった。得られた化合物の融点は300℃超であり、1H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1-HNMR(400MHz,DMSO-d6):δ5.60(s,6H), 6.55(dd,6H,8.8Hz), 7.10(dd,6H,11.2Hz).
13C-NMR(100MHz,DMSO-d6):δ112.9(JC-P=13Hz), 119.5 (JC-P=111Hz), 132.8(JC-P=11Hz), 151.3.
31P-NMR(162MHz,DMSO-d6):δ27.4
【0072】
<式(II-2)で表される化合物の合成>
トリス(4-アミノフェニル)ホスフィンオキシド(163mg,0.50mmol)をメタノール:ジクロロメタン=1:1の溶媒(20mL)に溶解させて得られた溶液に、臭素(639mg,4.00mmol)を溶媒(メタノール:ジクロロメタン=1:1,20mL)に溶解させて得られた溶液を0℃で30分間かけて滴下した。室温条件下で1時間反応させた後、その後、反応液中に20%水酸化ナトリウム水溶液(20mL)を加えた。次いで、水層をジクロロメタンで2回抽出した後に、有機層を水で3回洗浄した。洗浄後の溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、乾燥後の固体をろ過し、溶媒を減圧留去することで、薄橙色固体として式(II-2)で表される化合物(トリス(4-アミノ-3,5-ジブロモフェニル)ホスフィンオキシド)を得た。収量は394mg,0.49mmolであり、収率は98.1%であった。得られた化合物の融点は300℃超であり、1H-NMR、13C-NMR及び31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ5.60(brs,6H), 7.58(d,6H,JH-P=12Hz).
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ108.6(JC-P=17Hz),121.8(JC-P=112Hz),135.0(JC-P=11Hz),145.3(JC-P=2Hz).
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ23.7.
【0073】
得られた化合物(式(II-2)で表される化合物)の
1H-NMR、
13C-NMR及び
31P-NMRのスペクトルを
図5~
図7に示す。
図5では、一部の領域が拡大して示されている。
【0074】
また、クロロホルム及びベンゼンを用いて、上記で得られた固体(式(II-2)で表される化合物)の再結晶を行った。得られた再結晶後の固体について、式(II-1)で表される化合物の場合と同様の条件で、X線結晶構造解析を行うことによっても化合物を同定した。解析結果を下記表2及び
図8に示す。
【0075】
【0076】
(実施例1)
<式(3)で表される化合物の合成>
【化21】
上記合成スキームに従って式(3)で表される化合物(イソシアネート基含有化合物)を合成した。具体的には、まず、アルゴン置換した二つ口フラスコに、合成例1で合成した式(II-1)で表される化合物(ビス(4-アミノ-3,5-ジブロモフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド)(253mg,0.406mmol)とトリホスゲン(1190mg,4.10mmol)とを加え、脱水トルエン(12mL)に溶解させた。得られた溶液を0℃まで氷冷し、攪拌しながら、ここに、ピリジン(965mg,0.98mL,12.2mmol)と脱水トルエン(12mL)との混合液を5分間かけて滴下した。その後、溶液を室温まで昇温し、48時間攪拌することにより反応を進行させた。反応後、固体を濾過して溶液を得た後、得られた溶液に水素化カルシウム(50mg)を加えて室温で15分間攪拌した。次いで、セライト濾過で固体を濾過して溶液を得た後、得られた溶液を0℃まで氷冷した。氷冷後の溶液から、沈殿物を自然濾過で除去し、溶媒を減圧留去することで、薄黄色固体として式(3)で表される化合物(ビス(4-イソシアナート-3,5-ジブロモフェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド)を得た。収量は260mg,0.385mmolであり、収率は94.8%であった。得られた化合物の融点は84~86℃であり、
1H-NMR、
13C-NMR及び
31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ7.26-7.67(m,5H), 7.77(d,4H,
3J
H-P=12Hz).
13C-NMR(100MHz,CDCl
3):δ121.1(J
C-P=16Hz), 126.5(NCO), 129.2(J
C-P=13Hz), 129.4(J
C-P=109Hz), 130.7, 131.8(J
C-P=11Hz), 133.3(J
C-P=2.9Hz), 134.9(J
C-P=12Hz), 136.9(J
C-P=1.9Hz).
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ24.0.
【0077】
得られた化合物(式(3)で表される化合物)の
1H-NMR、
13C-NMR、
31P-NMR及びFT-IRのスペクトルを
図9~
図12に示す。
図12中の番号で示されるピークの帰属(単位:ppm)は表3に示す。
【表3】
【0078】
(実施例2)
<式(5)で表される化合物の合成>
【化22】
上記合成スキームに従って式(5)で表される化合物(イソシアネート基含有化合物)を合成した。具体的には、まず、アルゴン置換した二つ口フラスコに、合成例2で合成した式(II-2)で表される化合物(トリス(4-アミノ-3,5-ジブロモフェニル)ホスフィンオキシド)(1.13g,1.41mmol)とトリホスゲン(6.01g,20.3mmol)とを加え、脱水トルエン(60mL)に溶解させた。得られた溶液を0℃まで氷冷し、攪拌しながら、ピリジン(4.81mg,4.90mL,60.8mmol)と脱水トルエン(60mL)との混合液を5分間かけて滴下した。その後、溶液を室温まで昇温し、48時間攪拌することにより反応を進行させた。反応後、固体を濾過して溶液を得た後、得られた溶液に水素化カルシウム(600mg)を加えて室温で15分攪拌した。次いで、セライト濾過で固体を濾過して溶液を得た後、得られた溶液を0℃まで氷冷した。氷冷後の溶液から、沈殿物を自然濾過で除去し、溶媒を減圧留去することで、無色固体として式(5)で表される化合物(トリス(4-イソシアナート-3,5-ジブロモフェニル)ホスフィンオキシド)を得た。収量は1.18g,1.35mmolであり、収率は95.8%であった。得られた化合物の融点は249~250℃であり、
1H-NMR、
13C-NMR及び
31P-NMRのケミカルシフト(σ:ppm)は以下のとおりであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ7.73(d,6H,
3J
H-P=12Hz).
13C-NMR(100MHz,CDCl
3):δ121.5(J
C-P=17Hz), 126.7(NCO), 129.6(J
C-P=105Hz), 134.8(J
C-P=12Hz), 137.8(J
C-P=1.9Hz).
31P-NMR(160MHz,CDCl
3):δ21.1.
【0079】
得られた化合物(式(5)で表される化合物)の
1H-NMR、
13C-NMR、
31P-NMR及びFT-IRのスペクトルを
図13~
図16に示す。
図16中の番号で示されるピークの帰属(単位:ppm)は表4に示す。
【表4】
【0080】
(評価1)
実施例1及び2で得られたイソシアネート基含有化合物(式(3)で表される化合物及び式(5)で表される化合物)、及び、ジフェニルメタンジイソシアネート(製品名:NM、東ソー株式会社)の熱分解開始温度を測定し、イソシアネート基含有化合物の難燃剤としての有用性を評価した。熱分解開始温度(5%重量減少温度)は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の熱重量測定装置STA7200RVを用いて、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気条件で測定した。結果を表5に示す。
【0081】
【0082】
(実施例3)
実施例1で得られた式(3)で表される化合物0.166g(0.246mmol)を脱水クロロホルム0.388gに溶解させた後、1,4-ブタンジオール 0.008g(0.084mmol)とポリテトラメチレンエーテルグリコール(グレード:PTMG-2000) 0.339g(0.169mmol)とを脱水クロロホルム0.800gに溶解させてなる溶液(1.147g)と混合し、混合液を得た。次いで、得られた混合液を、ガラス板上に設置した離型紙上に塗布した。次いで、塗膜を室温で1時間静置した後、90℃で5時間加熱した。その後、65℃で3日間養生させることにより、ウレタン結合を有する化合物を含む樹脂膜を形成した。該化合物がウレタン結合を有することは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光装置Nicolet iS20を用いて確認した。
【0083】
(実施例4)
実施例1で得られた式(3)で表される化合物0.238g(0.352mmol)を脱水クロロホルム0.554gに溶解させた後、1,4-ブタンジオール 0.022g(0.242mmol)とポリテトラメチレンエーテルグリコール(グレード:PTMG-2000) 0.242g(0.121mmol)とを脱水クロロホルム0.550gに溶解させてなる溶液(0.814g)と混合し、混合液を得た。次いで、得られた混合液を、ガラス板上に設置した離型紙上に塗布した。次いで、塗膜を室温で1時間静置した後、90℃で5時間加熱した。その後、65℃で3日間養生させることにより、ウレタン結合を有する化合物を含む樹脂膜を形成した。該化合物がウレタン結合を有することは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光装置Nicolet iS20を用いて確認した。
【0084】
(比較例1)
ジフェニルメタンジイソシアネート(製品名:NM、東ソー株式会社製)0.097g(0.387mmol)を脱水クロロホルム0.230gに溶解させた後、1,4-ブタンジオール 0.012g(0.133mmol)とPTMG-2000 0.532g(0.266mmol)とを脱水クロロホルム1.240gに溶解させてなる溶液(1.784g)と混合し、混合液を得た。次いで、得られた混合液を離型紙上に塗布した。次いで、膜を室温で1時間静置した後、90℃で5時間加熱した。その後、65℃で3日間養生させることにより、ウレタン結合を有する化合物を含む樹脂膜を形成した。該化合物がウレタン結合を有することは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光装置Nicolet iS20を用いて確認した。
【0085】
(比較例2)
ジフェニルメタンジイソシアネート(製品名:NM、東ソー株式会社製)0.154g(0.616mmol)を脱水クロロホルム0.359gに溶解させた後、1,4-ブタンジオール 0.038g(0.425mmol)とPTMG-2000 0.424g(0.212mmol)とを脱水クロロホルム0.950gに溶解させてなる溶液(1.412g)と混合し、混合液を得た。次いで、得られた混合液を離型紙上に塗布した。次いで、塗膜を室温で1時間静置した後、90℃で5時間加熱した。その後、65℃で3日間養生させることにより、ウレタン結合を有する化合物を含む樹脂膜を形成した。該化合物がウレタン結合を有することは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光装置Nicolet iS20を用いて確認した。
【0086】
(評価2)
実施例3及び4、並びに、比較例1及び2で得られた樹脂膜の熱分解開始温度を測定し、実施例3と比較例1との対比、及び、実施例4と比較例2との対比により、イソシアネート基含有化合物の反応型難燃剤としての有用性を評価した。熱分解開始温度(5%重量減少温度)は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の熱重量測定装置STA7200RVを用いて、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気条件で測定した。結果を表6に示す。
【0087】