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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028517
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】基板処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20230224BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/31 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134266
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】李 虎
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄大
【テーマコード(参考)】
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
5F045AA06
5F045AB32
5F045AC01
5F045AC07
5F045AC16
5F045DP03
5F045EE19
5F045EF05
5F045EH05
5F045EH14
5F045EH20
5F045EK07
5F045HA01
5F045HA16
5F045HA17
5F058BA09
5F058BC02
5F058BE04
5F058BE10
5F058BF04
5F058BF23
5F058BF25
5F058BF37
5F058BH01
5F058BH16
5F058BH17
5F058BJ06
(57)【要約】
【課題】凹部を有する基板においてボイドの発生を抑制して凹部内に膜を成膜する基板処理方法を提供する。
【解決手段】第1元素と第2元素の結合を含み、凹部を有する基板の成膜方法であって、前記基板を準備する工程と、第1処理ガスの活性種を生成し、前記基板を前記活性種にさらして前記凹部内の表面を改質する工程と、前記凹部内に流動性膜を形成する工程と、を有し、前記凹部内の表面を改質する工程は、改質前の前記凹部内の表面における前記第2元素に対する前記第1元素の割合よりも、改質後の前記凹部内の表面における前記第2元素に対する前記第1元素の割合を高くする、基板処理方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1元素と第2元素の結合を含み、凹部を有する基板の成膜方法であって、
前記基板を準備する工程と、
第1処理ガスの活性種を生成し、前記基板を前記活性種にさらして前記凹部内の表面を改質する工程と、
前記凹部内に流動性膜を形成する工程と、を有し、
前記凹部内の表面を改質する工程は、
改質前の前記凹部内の表面における前記第2元素に対する前記第1元素の割合よりも、改質後の前記凹部内の表面における前記第2元素に対する前記第1元素の割合を高くする、
基板処理方法。
【請求項2】
前記活性種は、前記第1処理ガスのイオンまたはラジカルを含む、
請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記凹部内の表面を改質する工程は、
前記活性種で前記第1元素と前記第2元素の結合を切断する、
請求項1または請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記凹部内の表面を改質する工程は、
前記活性種で前記第2元素をスパッタする、
請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記凹部内の表面を改質する工程は、
前記凹部内の表面と前記流動性膜の分子との間に働く前記表面に対し垂直方向の力の大きさを低減するように前記凹部内の表面を改質する、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第1元素は、Si、Ti、Al、Taのいずれかを含み、
前記第2元素は、O、N、Cのうち、1つ以上を含む、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記凹部を有する前記基板の表面は、SiOで形成される、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記第1処理ガスは、不活性ガス、水素原子を含むガスのうち、1つ以上を含む、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記凹部内に流動性膜を形成する工程は、
第2処理ガスを供給して前記流動性膜を形成し、前記流動性膜を前記基板の前記凹部内に流入させる、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記流動性膜を硬化させる工程を更に有する、
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記凹部内に流動性膜を形成する工程と、前記流動性膜を熱硬化させる工程とを交互に繰り返して、前記凹部内に前記流動性膜を硬化させた膜を形成する、
請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板における高アスペクト比ギャップ内に誘電酸化物を共形(コンフォーマル)に蒸着する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-112668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、凹部を有する基板においてボイドの発生を抑制して凹部内に膜を成膜する基板処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様の基板処理方法は、第1元素と第2元素の結合を含み、凹部を有する基板の成膜方法であって、前記基板を準備する工程と、第1処理ガスの活性種を生成し、前記基板を前記活性種にさらして前記凹部内の表面を改質する工程と、前記凹部内に流動性膜を形成する工程と、を有し、前記凹部内の表面を改質する工程は、改質前の前記凹部内の表面における前記第2元素に対する前記第1元素の割合よりも、改質後の前記凹部内の表面における前記第2元素に対する前記第1元素の割合を高くする。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、凹部を有する基板においてボイドの発生を抑制して凹部内に膜を成膜する基板処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係る成膜装置を示す断面図の一例。
図2】一実施形態に係る基板処理方法を説明するフローチャートの一例。
図3】TEOS及びTEOSとSiHの重合体における温度と粘性との関係を示すグラフの一例。
図4】TEOS及びTEOSとSiHの重合体における温度と接触角との関係を示すグラフの一例。
図5】基板表面とTEOS分子との間に働く力及びTEOS分子同士の間に働く力を説明するグラフ。
図6】基板表面がSiOの場合における凹部への流動性膜の流れを示すシミュレーションの結果の一例。
図7】基板表面がSiの場合における凹部への流動性膜の流れを示すシミュレーションの結果の一例。
図8】SiOの基板に活性種を照射した際における基板Wからスパッタされた原子を示すグラフの一例。
図9】活性種を照射した後の基板における深さ方向のプロファイルを示すグラフの一例。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0009】
<成膜装置>
まず、一実施形態に係る基板処理装置1について、図1を用いて説明する。図1は、一実施形態に係る基板処理装置1を示す断面図の一例である。
【0010】
基板処理装置1は、略円筒状の気密な処理容器2を備える。処理容器2の底壁の中央部には、排気室21が設けられている。排気室21は、下方に向けて突出する例えば略円筒状の形状を備える。排気室21には、例えば排気室21の側面において、排気配管22が接続されている。
【0011】
排気配管22には、圧力調整部23を介して排気部24が接続されている。圧力調整部23は、例えばバタフライバルブ等の圧力調整バルブを備える。排気配管22は、排気部24によって処理容器2内を減圧できるように構成されている。処理容器2の側面には、搬送口25が設けられている。搬送口25は、ゲートバルブ26によって開閉される。処理容器2内と搬送室(図示せず)との間における基板Wの搬入出は、搬送口25を介して行われる。
【0012】
処理容器2内には、ステージ3が設けられている。ステージ3は、基板Wの表面を上に向けて基板Wを水平に保持する保持部である。ステージ3は、平面視で略円形状に形成されており、支持部材31によって支持されている。ステージ3の表面には、例えば直径が300mmの基板Wを載置するための略円形状の凹部32が形成されている。凹部32は、基板Wの直径よりも僅かに大きい内径を有する。凹部32の深さは、例えば基板Wの厚さと略同一に構成される。ステージ3は、例えば窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス材料により形成されている。また、ステージ3は、ニッケル(Ni)等の金属材料により形成されていてもよい。なお、凹部32の代わりにステージ3の表面の周縁部に基板Wをガイドするガイドリングを設けてもよい。
【0013】
ステージ3には、例えば接地された下部電極33が埋設される。下部電極33の下方には、加熱機構34が埋設される。加熱機構34は、制御部100からの制御信号に基づいて電源部(図示せず)から給電されることによって、ステージ3に載置された基板Wを設定温度に加熱する。ステージ3の全体が金属によって構成されている場合には、ステージ3の全体が下部電極として機能するので、下部電極33をステージ3に埋設しなくてよい。また、下部電極33は、バイアスを印加するために整合器を介してRF電源に接続されてもよい。ステージ3には、ステージ3に載置された基板Wを保持して昇降するための複数本(例えば3本)の昇降ピン41が設けられている。昇降ピン41の材料は、例えばアルミナ(Al)等のセラミックスや石英等であってよい。昇降ピン41の下端は、支持板42に取り付けられている。支持板42は、昇降軸43を介して処理容器2の外部に設けられた昇降機構44に接続されている。
【0014】
昇降機構44は、例えば排気室21の下部に設置されている。ベローズ45は、排気室21の下面に形成された昇降軸43用の開口部215と昇降機構44との間に設けられている。支持板42の形状は、ステージ3の支持部材31と干渉せずに昇降できる形状であってもよい。昇降ピン41は、昇降機構44によって、ステージ3の表面の上方と、ステージ3の表面の下方との間で、昇降自在に構成される。
【0015】
処理容器2の天壁27には、絶縁部材28を介してガス供給部5が設けられている。ガス供給部5は、上部電極を成しており、下部電極33に対向している。ガス供給部5には、整合器511を介して高周波電源512が接続されている。高周波電源512から上部電極(ガス供給部5)に例えば、450kHz~1GHzの高周波電力を供給することによって、上部電極(ガス供給部5)と下部電極33との間に高周波電界が生成され、容量結合プラズマが生成する。プラズマ生成部51は、整合器511と、高周波電源512と、を含む。なお、プラズマ生成部51は、容量結合プラズマに限らず、誘導結合プラズマなど他のプラズマを生成するものであってもよい。
【0016】
ガス供給部5は、中空状のガス供給室52を備える。ガス供給室52の下面には、処理容器2内へ処理ガスを分散供給するための多数の孔53が例えば均等に配置されている。ガス供給部5における例えばガス供給室52の上方には、加熱機構54が埋設されている。加熱機構54は、制御部100からの制御信号に基づいて電源部(図示せず)から給電されることによって、設定温度に加熱される。
【0017】
ガス供給室52には、ガス供給路6が設けられている。ガス供給路6は、ガス供給室52に連通している。ガス供給路6の上流には、それぞれガスラインL61,L62,L63,L64を介して、ガス源G61,G62,G63,G64が接続されている。
【0018】
ガス源G61は、TEOS(テトラエトキシシラン、Si(OC)のガス源であり、ガスラインL61を介して、ガス供給路6に接続されている。ガスラインL61には、マスフローコントローラM61及びバルブV61が、ガス源G61の側からこの順番に設けられている。マスフローコントローラM61は、ガスラインL61を流れるTEOSガスの流量を制御する。バルブV61は、開閉動作により、ガス供給路6へのTEOSガスの供給・遮断を行う。
【0019】
ガス源G62は、SiHのガス源であり、ガスラインL62を介して、ガス供給路6に接続されている。ガスラインL62には、マスフローコントローラM62及びバルブV62が、ガス源G62の側からこの順番に設けられている。マスフローコントローラM62は、ガスラインL62を流れるSiHガスの流量を制御する。バルブV62は、開閉動作により、ガス供給路6へのSiHガスの供給・遮断を行う。
【0020】
ガス源G63は、Hのガス源であり、ガスラインL63を介して、ガス供給路6に接続されている。ガスラインL63には、マスフローコントローラM63及びバルブV63が、ガス源G63の側からこの順番に設けられている。マスフローコントローラM63は、ガスラインL63を流れるHガスの流量を制御する。バルブV63は、開閉動作により、ガス供給路6へのHガスの供給・遮断を行う。
【0021】
ガス源G64は、Arのガス源であり、ガスラインL64を介して、ガス供給路6に接続されている。ガスラインL64には、マスフローコントローラM64及びバルブV64が、ガス源G64の側からこの順番に設けられている。マスフローコントローラM64は、ガスラインL64を流れるArガスの流量を制御する。バルブV64は、開閉動作により、ガス供給路6へのArガスの供給・遮断を行う。
【0022】
基板処理装置1は、制御部100と、記憶部101とを備える。制御部100は、CPU、RAM、ROM等(いずれも図示せず)を備えており、例えばROMや記憶部101に格納されたコンピュータプログラムをCPUに実行させることによって、基板処理装置1を統括的に制御する。具体的には、制御部100は、記憶部101に格納された制御プログラムをCPUに実行させて基板処理装置1の各構成部の動作を制御することで、基板Wに対する成膜処理等を実行する。
【0023】
次に、基板Wに成膜する基板処理方法の一例について、図2を用いて説明する。図2は、一実施形態に係る基板処理方法を説明するフローチャートの一例である。
【0024】
ステップS101において、制御部100は、基板Wを準備する。制御部100は、ゲートバルブ26、基板Wを搬送する搬送装置(図示せず)、昇降機構44を制御して、搬送口25から処理容器2内に基板Wを搬送し、基板Wをステージ3に載置する。搬送装置(図示せず)が搬送口25から退避すると、制御部100は、ゲートバルブ26を閉じる。
【0025】
ここで、基板Wの表面は、第1元素と第2元素が結合した膜が形成されている。以下の説明において、第1元素はSiであり、第2元素はOであり、基板Wの表面に形成された膜は、SiO膜であるものとして説明する。また、基板Wの表面(SiO膜)には、ホール、トレンチ等の凹部が形成されている。
【0026】
ステップS102において、基板Wの凹部内表面を改質する処理を行う。ここでは、処理容器2内に第1の処理ガスの活性種を生成し、基板Wを活性種にさらすことで、基板Wの凹部内表面を改質する。
【0027】
具体的には、制御部100は、マスフローコントローラM64及びバルブV64を制御して、処理容器2内に第1の処理ガスとしてのArガスを供給する。また、制御部100は、プラズマ生成部51を制御して、上部電極(ガス供給部5)と下部電極33との間にアルゴンプラズマを生成し、Arの活性種(イオン、ラジカルを含む)を生成する。または、制御部100は、マスフローコントローラM63及びバルブV63を制御して、処理容器2内に第1の処理ガスとしてのHガスを供給する。また、制御部100は、プラズマ生成部51を制御して、上部電極(ガス供給部5)と下部電極33との間に水素プラズマを生成し、Hの活性種(イオン、ラジカルを含む)を生成する。
【0028】
基板Wを活性種にさらすことにより、基板Wの凹部内表面の第1元素(Si)と第2元素(O)との結合が切断される。そして、第2元素(O)が基板Wから優先的にスパッタされる。これにより、改質後の基板Wの凹部内表面は、改質前と比較して、第1元素(Si)が多い状態に改質される。即ち、改質前の凹部内の表面における第2元素(O)に対する第1元素(Si)の割合よりも、改質後の凹部内の表面における第2元素(O)に対する第1元素(Si)の割合を高くする。即ち、改質後の凹部内の表面は、改質前の凹部内の表面よりも第1元素(Si)が多い状態となっている。
【0029】
ステップS103において、基板Wの凹部内に流動性膜を形成する処理を行う。ここでは、処理容器2内に第2の処理ガスを供給して、基板Wの凹部内に流動性膜を形成する。
【0030】
具体的には、制御部100は、マスフローコントローラM61,M62,M63及びバルブV61,V62,V63を制御して、処理容器2内に第2の処理ガスとしてのTEOSガス、SiHガス及びHガスを供給する。また、制御部100は、プラズマ生成部51を制御して、上部電極(ガス供給部5)と下部電極33との間にプラズマを生成する。これにより、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)で、TEOS及びTEOSとSiHの重合体(Si(OC(OSiH4-x、x=0~4)を生成する。そして、生成されたTEOS及びTEOSとSiHの重合体は、基板Wの表面で冷却されることにより、液体の流動性膜を形成する。そして、液体の流動性膜は、基板Wの表面に形成された凹部内に流動する。これにより、基板Wの凹部内に流動性膜を形成する。
【0031】
ステップS104において、流動性膜を硬化する処理を行う。即ち、基板Wの凹部内に形成された液体の流動性膜に、熱処理、プラズマ処理、UV照射処理等のうち、1つ以上を含む処理を行うことにより、液体の流動性膜を硬化させ、基板Wの凹部内に固体の膜を形成する。
【0032】
なお、ステップS104の処理は、基板処理装置1内で行われる構成であってもよい。また、凹部内に液体の流動性膜が形成された基板Wを基板処理装置1とは異なる他の装置に搬送し、他の装置でステップS104の処理を行う構成であってもよい。
【0033】
また、ステップS103に示す流動性膜を形成する処理と、ステップS104に示す流動性膜を硬化する処理と、を交互に繰り返すことにより、基板Wの凹部内に固体の膜を形成してもよい。これにより、基板Wの凹部内に形成される固体の膜においてボイドが発生することを抑制することができる。
【0034】
次に、図3及び図4を用いて、ステップS103において形成される流動性膜について説明する。図3は、TEOS及びTEOSとSiHの重合体における温度と粘性との関係を示すグラフの一例である。図3のグラフにおいて、横軸は温度(K)を示し、縦軸は粘度(cP)を示す。
【0035】
図3のグラフに示すように、TEOS及びTEOSとSiHの重合体は、SiHと重合するほど、粘性が高くなる。また、図示は省略するが、TEOS及びTEOSとSiHの重合体は、SiHと重合するほど、表面張力も高くなる。また、TEOS及びTEOSとSiHの重合体は、温度が低下することにより、粘性が高くなる。また、液体(TEOS、TEOSとSiHの重合体)の粘性が高くなることにより、基板Wの表面上で液体の集団(クラスター化)として固まりやすいことを示している。
【0036】
図4は、TEOS及びTEOSとSiHの重合体における温度と接触角との関係を示すグラフの一例である。図4のグラフにおいて、横軸は温度(K)を示し、縦軸はSiO表面上における液体(TEOS、TEOSとSiHの重合体)の接触角(°)を示す。
【0037】
図4のグラフに示すように、TEOS及びTEOSとSiHの重合体は、SiHと重合するほど、SiO表面上における接触角が大きくなる。また、TEOS及びTEOSとSiHの重合体は、基板の温度が低下することにより、SiO表面上における接触角が大きくなる。また、液体(TEOS、TEOSとSiHの重合体)の接触角が大きくなることにより、基板Wの表面上における液体の流動性は低下する。
【0038】
次に、基板表面とTEOS分子との間に働く力(分子間力)及びTEOS分子同士の間に働く力(分子間力)について、図5を用いて説明する。図5は、基板表面とTEOS分子との間に働く力及びTEOS分子同士の間に働く力を説明するグラフである。
【0039】
図5(a)は、基板表面がSiOの場合における液体のTEOS分子に働く力を示す。図5(b)は、基板表面がSiの場合における液体のTEOS分子に働く力を示す。図5(c)は、TEOS分子間に働く力を示す。また、TEOS分子に働く力には、クーロン力、ファンデルワールス力を含む。ここで、基板表面(SiO,Si)と液体のTEOS分子において、Fx及びFyは基板表面に平行な方向の力の成分を示し、Fzは基板表面に対し垂直な方向の力の成分を示す。なお、液体のTEOS分子間においては、Fx、Fy及びFzは同じ値を示す。
【0040】
ここで、図5(a)に示すTEOS分子とSiOとの間における基板表面に対し垂直な方向の力Fzは、図5(c)に示すTEOS分子同士間に働く力よりも大きくなっている。
【0041】
図6は、基板表面がSiOの場合における凹部への流動性膜(TEOS)250の流れを示すシミュレーションの結果の一例である。図6(a)は、流動性膜250の流れを開始してから所定時間経過後(2.5ns)の流動性膜250の状態を示す図である。図6(b)は、更に所定時間経過後(5ns)の流動性膜250の状態を示す図である。
【0042】
ここで、SiOの基板表面には、凹部210が形成されている。凹部210は、側面211及び底面212を有している。ここで、TEOS分子とSiOとの間における力Fz(図5(a)参照)が、TEOS分子同士間に働く力(図5(c)参照)よりも大きくなっている。このため、SiOの側面211に接したTEOS分子は側面211に吸着し、SiOの側面211の近傍のTEOS分子は側面211に向かって力が働く。これにより、SiOの側面211の近傍における流動性膜250の流速Q1の向きは、凹部210の底面212に向かう成分(図6(a)の矢印において下方向の成分)と、凹部210の側面211に向かう方向成分(図6(a)の矢印において左方向の成分)を有する。つまり、流速Q1は、合成成分として斜め左下方向の成分を有する。また、SiOの側面211の近傍における流動性膜250の流速Q1は、側面211及び底面212から離れた凹部210の中央部における流動性膜250の流速Q2よりも速くなる(図6(a)では、流速Q1及び流速Q2の速さを矢印の長さで示す)。このため、凹部210に流入した流動性膜250は、側面211及び底面212に沿って流れることにより、図6(b)に示すように、凹部210内に流入した流動性膜250にボイド251が形成されるおそれがある。
【0043】
これに対し、図5(b)に示すTEOS分子とSiとの間における基板表面に対し垂直な方向の力Fzは、図5(c)に示すTEOS分子同士間に働く力と近い値になっている。
【0044】
図7は、基板表面がSiの場合における凹部への流動性膜(TEOS)250の流れを示すシミュレーションの結果の一例である。図7(a)は、流動性膜250の流れを開始した開始時の流動性膜250の状態を示す図である。図7(b)は、流動性膜250の流れを開始してから所定時間経過後(2.5ns)の流動性膜250の状態を示す図である。図7(c)は、更に所定時間経過後(5ns)の流動性膜250の状態を示す図である。
【0045】
ここで、Siの基板表面には、凹部220が形成されている。凹部220は、側面221及び底面222を有している。ここで、TEOS分子とSiとの間における力Fz(図5(b)参照)は、TEOS分子とSiOとの間における力Fz(図5(a)参照)よりも小さく、TEOS分子同士間に働く力(図5(c)参照)と近い値となっている。これにより、Siの側面221の近傍における流動性膜250の流速Q3は、側面221及び底面222から離れた凹部220の中央部における流動性膜250の流速Q4と近い値となる(図7(b)では、流速Q3及び流速Q4の速さを矢印の長さで示す)。このため、流動性膜250は、図7の時間経過に示すように、凹部220の底面222まで流動性膜250が流れ込み、ボイドの形成を抑制することができる。
【0046】
このように、凹部の表面をSiO図6参照)からSi(図7参照)とすることにより、TEOS分子と基板表面との間における垂直方向の力Fzを小さくし(図5参照)、流動性膜(TEOS)250が凹部に流れ込む際のボイドの形成を抑制することができる。なお、図5から図7では、流動性膜250としてTEOSを用いる場合を例に説明したが、TEOSとSiHの重合体においても同様である。
【0047】
次に、ステップS102における基板Wの凹部内表面を改質する処理について、図8及び図9を用いて説明する。
【0048】
図8は、SiOの基板に活性種を照射した際における基板からスパッタされた原子を示すグラフの一例である。図8(a)は、活性種として入射エネルギー(IEDF:Ion Energy Distribution Fuctions)50eVの水素イオンを照射した場合を示す。図8(b)は、活性種として入射エネルギー50eVのアルゴンイオンを照射した場合を示す。図8において、横軸はイオンの照射量を示し、縦軸は、スパッタされた原子の収量を示す。また、Oを太い実線で示し、Siを細い実線で示す。
【0049】
図8(a)に示すように、水素イオンがSiOの基板に衝突することにより、O原子が優先的にスパッタされていることを示している。また、図8(b)に示すように、アルゴンイオンがSiOの基板に衝突することにより、O原子が優先的にスパッタされていることを示している。
【0050】
図8に示す処理後の基板について、図9を用いて更に説明する。図9は、活性種を照射した後の基板における深さ方向のプロファイルを示すグラフの一例である。図9(a)は、SiOの基板に活性種として入射エネルギー50eVの水素イオンを照射した場合を示す。図9(b)は、SiOの基板に活性種として入射エネルギー50eVのアルゴンイオンを照射した場合を示す。図9において、縦軸は基板表面からの深さを示し、横軸は、原子密度を示す。また、Oを太い実線で示し、Siを細い実線で示す。
【0051】
図9(a)に示すように、活性種として水素イオンで改質処理がされたSiOの基板は、表面近傍がO原子と比較してSi原子の割合が多い(Si-rich)の状態となっている。また、図9(b)に示すように、活性種としてアルゴンイオンで改質処理がされたSiOの基板は、表面近傍がO原子と比較してSi原子の割合が多い(Si-rich)の状態となっている。
【0052】
このように、ステップS102における基板Wの凹部内表面を改質する処理によって、基板Wの凹部内表面をSiの割合が多い(Si-rich)状態とすることができる。これにより、図5(a)及び図5(b)を対比して示すように、基板表面(凹部の側面)とTEOS分子との間に働く垂直方向の力Fzを小さくすることができる。換言すれば、凹部内表面を、SiOの状態(図6参照)から、Siの状態(図7参照)に近づけることができる。これにより、ステップS103における基板Wの凹部内に流動性膜を形成する処理の際、凹部の底面まで流動性膜が流れ込み、ボイドの形成を抑制することができる。
【0053】
なお、入射エネルギーを50eV以上とすることにより、好適にSiとOとの結合が切断され、基板表面をSiの割合が多い(Si-rich)状態とすることができる。また、入射エネルギーが大きくなると、基板表面をスパッタするとともに、水素やアルゴンが基板表面の近傍に残留し、基板にダメージが発生する。このため、入射エネルギーは、100eV以下が好ましい。
【0054】
また、イオンの照射時間(ステップS102において基板Wをプラズマにさらす時間、図8のイオンの照射量)が増加すると、Siの割合が多い(Si-rich)状態の基板表面に、更にイオンを照射し続けることとなる。このため、スパッタされるO原子は、SiOにイオンを照射する初期の状態よりも、Siの割合が多い照射時間経過後の状態の方が、減少して、スパッタ量は定常状態となる。また、スパッタされるSi原子は、SiOにイオンを照射する初期の状態よりも、Siの割合が多い照射時間経過後の状態の方が、増加して、スパッタ量は定常状態となる。このため、ステップS102において基板Wをプラズマにさらす時間を制御することにより、好適に基板表面(凹部内表面)をSiの割合が多い(Si-rich)状態とすることができる。このため、イオンの照射は、最表面原子密度の数倍程度(例えば、10倍)が好ましい。
【0055】
なお、基板Wの凹部内表面をSiの割合が多い(Si-rich)状態に改質する活性種は、水素イオン、アルゴンイオンを例に説明したが、これに限られるものではない。活性種は、イオンまたはラジカルを含んでもよい。また、第1の処理ガスは、水素ガス、アルゴンガスに限られるものではない。第1の処理ガスは、希ガス等の不活性ガス、水素原子を含むガスのうち、1つ以上を含んでもよい。
【0056】
また、凹部が形成される基板Wの表面は、Si(第1元素)及びO(第2元素)の結合を含むSiOであるものとして説明したが、これに限られるものではない。第2元素は、O(酸素)、N(窒素)、C(炭素)のうち1つ以上を含んでもよい。例えば、凹部が形成される基板表面は、SiO、SiOC、SiCN等であってもよい。
【0057】
また、第1元素は、金属原子、例えば、Ti、Al、Taのうち1つ以上を含んでもよい。第2元素は、O(酸素)、N(窒素)、C(炭素)のうち1つ以上を含んでもよい。
【0058】
例えば、凹部を有する金属酸化膜に対して、ステップS102における基板Wの凹部内表面を改質する処理を行うことにより、金属原子と酸素原子の結合を切断し、凹部内表面を金属原子の割合が多い状態とすることができる。これにより、基板表面において極性を有する金属酸化物が減少し、基板表面とTEOS分子との間に働くクーロン力が減少する。よって、基板表面とTEOS分子との間に働く垂直方向の力Fzを低減することができる。これにより、凹部の側面近傍における流動性膜の流速と、凹部の中央部における流動性膜の流速を近い値とすることができる。このため、流動性膜は、凹部の底面まで流動性膜が流れ込み、ボイドの形成を抑制することができる。
【0059】
以上、プラズマ処理システムの実施形態等について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 基板処理装置
2 処理容器
3 ステージ
5 ガス供給部
6 ガス供給路
100 制御部
101 記憶部
210,220 凹部
211,221 側面
212,222 底面
250 流動性膜
251 ボイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9