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  • 特開-メタノールの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028524
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】メタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/152 20060101AFI20230224BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20230224BHJP
   C10J 3/00 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C07C29/152
C07C31/04
C10J3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134277
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】鈴田 哲也
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006BD10
4H006BD70
4H006BE20
4H006BE40
4H006BE41
4H006FE11
(57)【要約】
【課題】廃棄物から工業的且つ効率的にメタノールを製造する。
【解決手段】廃棄物由来ガス(G1)の組成を調整し、一次調整ガス(G2)とするガス成分調整工程(S3)と、一次調整ガス(G2)から、少なくとも一部の二酸化炭素を選択的に分離し、二次調整ガス(G3)とするCO分離工程(S4)と、二次調整ガス(G3)の少なくとも一部を原料ガス(G4)としてメタノールに転化する転化工程(S7)と、含む。一次調整ガス(G2)における、一酸化炭素に対する水素の体積比は、1.5以上4.0以下であり、二次調整ガス(G3)におけるCOの含有量は、1vol%以上10vol%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物をガス化した廃棄物由来ガスからメタノールを製造する方法であって、
前記廃棄物由来ガスの組成を調整し、一次調整ガスとするガス成分調整工程と、
前記一次調整ガスから、少なくとも一部の二酸化炭素(CO)を選択的に分離し、二次調整ガスとするCO分離工程と、
前記二次調整ガスの少なくとも一部を原料ガスとしてメタノールに転化する転化工程と、含み、
前記一次調整ガスにおける、一酸化炭素(CO)に対する水素(H)の体積比は、1.5以上4.0以下であり、
前記二次調整ガスにおけるCOの含有量は、1vol%以上10vol%以下である、製造方法。
【請求項2】
前記転化工程よりも前に、不純物を除去するガス洗浄工程をさらに含み、
前記原料ガス中の塩化物および硫化物の濃度は、それぞれ100ppb以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記転化工程よりも前に、水分を低減させる水分除去工程をさらに含み、
前記原料ガス中の水分含有量は、2.5vol%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記転化工程よりも前に、前記二次調整ガスを圧縮する圧縮工程をさらに含み、
前記原料ガスの圧力は、2MPaG以上6MPaG以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ガス成分調整工程を実施するための熱源の少なくとも一部として、前記廃棄物由来ガスおよび/または前記転化工程における未反応残ガスを燃焼させることにより生じる熱を用いる、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ガス成分調整工程において、部分酸化反応、水蒸気改質反応、水性ガスシフト反応および水素添加のうち、少なくとも1つを実施する、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ガス成分調整工程において、部分酸化反応および/または水蒸気改質反応後に水性ガスシフト反応を実施する、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃棄物からメタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却可能な廃棄物は、通常、埋め立てまたは焼却により処理される。埋め立てはもとより、焼却処理であっても二酸化炭素および熱の排出を伴う。そのため、地球温暖化対策等の地球環境問題の観点から、改善が求められている。
【0003】
地球環境問題に配慮し、廃棄物を有効に利用することを目的として、廃棄物を、高エネルギー物質である水素、または最も基本的な有機物質の一つであるメタノールもしくはジメチルエーテルに変換する方法が開発されている。例えば特許文献1には、廃棄物をガス化して得た水素および二酸化炭素からメタノールを合成する工程を含む廃棄物処理システムが開示されている。一方、非特許文献1には、流動床ガス化技術により廃棄物からエネルギーを回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2012-017893号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松永康平,他5名,「流動床ガス化技術による廃棄物からのエネルギー回収」,エバラ時報,株式会社荏原製作所,2007年10月,No.217,p.17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1が開示するシステムによると、二酸化炭素からのメタノールの合成は平衡制約のために必ずしも十分効率的に実施されない。
【0007】
本発明の一態様は、廃棄物から工業的且つ効率的にメタノールを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、廃棄物をガス化した廃棄物由来ガスからメタノールを製造する方法であって、前記廃棄物由来ガスの組成を調整し、一次調整ガスとするガス成分調整工程と、前記一次調整ガスから、少なくとも一部の二酸化炭素(CO)を選択的に分離し、二次調整ガスとするCO分離工程と、前記二次調整ガスの少なくとも一部を原料ガスとしてメタノールに転化する転化工程と、含み、前記一次調整ガスにおける、一酸化炭素(CO)に対する水素(H)の体積比は、1.5以上4.0以下であり、前記二次調整ガスにおけるCOの含有量は、1vol%以上10vol%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、廃棄物から工業的かつ効率的にメタノールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1に係るメタノールの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態1に係るメタノール製造装置の構成を模式的に示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態であるメタノールの製造方法について、これに用いる製造装置と併せて図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るメタノールの製造方法の一例を示すフローチャートである。図1に示すように、本発明のメタノールの製造方法は、ガス取得工程S1と、ガス成分調整工程S3と、CO分離工程S4と、転化工程S7とを含む。ガス取得工程S1は、廃棄物を分解して酸化炭素および水素(H)を含むガス(廃棄物由来ガスG1と称する)を得る工程、すなわち廃棄物をガス化する工程である。ガス成分調整工程S3は、廃棄物由来ガスG1の組成を調整し、一次調整ガスG2を得る工程である。CO分離工程S4は、ガス成分調整工程S3を経て得られた一次調整ガスG2から、少なくとも一部の二酸化炭素(CO)を取り除き、二次調整ガスG3を得る工程である。転化工程S7は、CO分離工程S4を経て得られた二次調整ガスG3を原料ガスG4として用い、原料ガスG4に含まれる酸化炭素および水素の少なくとも一部からメタノールを合成する工程である。ここで、酸化炭素とは、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO)の少なくとも1種を含んでいる。
【0013】
図1に示すフローチャートは、上記工程の他に、ガス洗浄工程S2、圧縮工程S5、水分除去工程S6、冷却凝縮工程S8、および精製工程S9を含む。各工程については下記で詳述する。本実施形態では、一例として図1に示すフローチャートおよび当該フローチャートに示される製造フローを実現するメタノールの製造装置(以下、単に「製造装置」と称する)について説明する。しかしながら、ガス洗浄工程S2、圧縮工程S5、水分除去工程S6、冷却凝縮工程S8、および精製工程S9は、必要に応じて製造フローに組み込まれ得る工程である。本明細書の図面に記載されている工程などは典型的な例を示すにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0014】
(メタノール製造装置の構成)
まず、本発明を適用した一実施形態である製造装置100の構成の一例について説明する。図2は、実施形態1に係る製造装置100の構成を模式的に示す系統図である。
【0015】
図2に示すように、本実施形態の製造装置100は、ガス取得装置1と、ガス洗浄装置2と、ガス成分調整装置3と、CO分離装置4と、圧縮機5と、水分除去装置6と、反応器7と、凝縮器8と、精製装置9と、残ガス燃焼装置10と、各経路L1~L19とを備えて、概略構成されている。本実施形態の製造装置100は、廃棄物からメタノールを製造する装置である。本発明のメタノール製造方法は、廃棄物を分解して得られる酸化炭素および水素を含むガスを原料ガスとして反応器7に供給し、メタノールに転化する反応を実施する方法である。
【0016】
本実施形態において、廃棄物は、ガス取得工程S1により水素および酸化炭素を含むガスが得られる、有機物を含む物であればよい。当該廃棄物としては、例えば、生ごみ、紙ごみ、繊維ごみ、プラスチックごみ、下水汚泥、し尿、畜産廃棄物、廃油、ゴムタイヤ、黒液、廃糖蜜、またはこれらの混合物などの廃棄物が挙げられる。
【0017】
ガス取得装置1は、廃棄物を分解して酸化炭素および水素を含むガス(廃棄物由来ガスG1と称する)を取得する、ガス取得工程S1を実施するための装置である。ガス取得装置1は、経路L1から供給される廃棄物を装置内で反応させる。ガス取得装置1としては、固定床炉、流動床炉、バブリング型流動床炉、循環流動床炉、循環移動床炉などの公知の装置を用いることができる。
【0018】
ガス取得装置1と、ガス洗浄装置2との間には、経路L2が設けられている。これにより、廃棄物由来ガスG1は、ガス洗浄装置2に供給される。
【0019】
ガス洗浄装置2は、廃棄物由来ガスG1から、不純物を除去することによりガスを洗浄する、ガス洗浄工程S2を実施する装置である。ガス洗浄工程S2は、公知の方法によって実施することができ、ガス洗浄装置2としては、湿式洗浄塔、電気集塵機などの公知の装置を用いることができる。
【0020】
ガス洗浄装置2と、ガス成分調整装置3との間には、経路L3が設けられている。これにより、ガス洗浄装置2によって洗浄された廃棄物由来ガスG1が、ガス成分調整装置3に供給される。
【0021】
ガス成分調整装置3は、反応器7に供給される原料ガスの成分を調整するガス成分調整工程S3を実施する装置である。ガス成分調整装置3には、経路L4が設けられており、経路L4を介して水素を供給することができる。
【0022】
ガス成分調整装置3とCO分離装置4の間には経路L5が設けられている。これにより、ガス成分調整装置3において調整された一次調整ガスG2が、CO分離装置4に供給される。ガス成分調整装置3としては、部分酸化反応器、水蒸気改質反応器、水性シフト反応器などの公知の装置を用いることができる。
【0023】
CO分離装置4は、供給された一次調整ガスG2からCOを選択的に分離して二次調整ガスG3とする、CO分離工程S4を実施する装置である。CO分離装置4には二酸化炭素排出経路L6が設けられており、二酸化炭素を排出することができる。CO分離装置4としては、圧力スイング吸着装置、吸収放散塔、深冷式二酸化炭素分離装置、二酸化炭素分離膜設備などの公知の装置を用いることができる。ガス成分調整装置3およびCO分離装置4において実施されるガスの成分調整については、下記のガス成分調整工程の説明において詳述する。
【0024】
CO分離装置4と、圧縮機5の間には経路L7が設けられている。これにより、CO分離装置4を経て得られた二次調整ガスG3が圧縮機5に供給される。圧縮機5は、二次調整ガスG3を、メタノール合成に適した圧力に圧縮する圧縮工程S5を実施する装置である。圧縮機5としては、遠心式圧縮機、軸流式圧縮機、往復動式圧縮機などの公知の圧縮装置を用いることができる。
【0025】
圧縮機5と水分除去装置6との間には、経路L8が設けられている。これにより、圧縮された二次調整ガスG3は、水分除去装置6に供給される。水分除去装置6は、圧縮された二次調整ガスG3から水分を除去し、二次調整ガスG3中の水分量を低減させる水分除去工程S6を実施する装置である。水分除去装置6は、複数の装置で構成されていてもよい。例えば、水分除去装置6は、冷却器および気液分離器を含んで構成され得る。
【0026】
水分除去装置6と、反応器7との間には、経路L9が設けられている。これにより、水分除去装置6において水分量を低減された二次調整ガスG3が、原料ガスG4として反応器7に供給される。
【0027】
反応器7は、原料ガスG4として供給される酸化炭素および水素を含むガスを、触媒の存在下で反応させてメタノールに転化させる転化工程S7を実施する反応器である。
【0028】
反応器7には、クエンチ型の多段式断熱反応器または熱交換式等温反応器などの公知のメタノール合成反応器を用いることができる。前記熱交換式等温反応器を用いる場合は、熱媒を介して触媒層における反応により生じる熱を回収することもできる。また、反応器7は、複数の反応器の組合せであってもよく、直列に同種または構造の異なる反応器をつなげることにより、メタノール生成率を向上させることが可能である。この際、複数の反応器の間にそれぞれ、凝縮器8が設けられてもよい。
【0029】
反応器7と、凝縮器8との間には、経路L10が設けられている。これにより、反応器7から排出されるガスが凝縮器8に供給される。凝縮器8は反応器7から排出されたガスを冷却し、未反応残ガスG5と、メタノールおよび水を含む凝縮液と、に分離する冷却凝縮工程S8を実施する装置である。凝縮器8としては、水冷式凝縮器、空冷式凝縮器、蒸発式凝縮器などの公知の装置を用いることができる。
【0030】
凝縮器8と、精製装置9との間には、経路L11が設けられている。これにより、凝縮器から排出されるメタノールおよび水を含む凝縮液が、経路L11を介して精製装置9に供給される。
【0031】
また、凝縮器8と、残ガス燃焼装置10との間には、経路L14が設けられている。これにより、凝縮器8から排出される未反応残ガスG5が、経路L14を介して残ガス燃焼装置10に供給される。
【0032】
精製装置9は、前記凝縮液を精製し、水および不純物を分離することにより、メタノールを精製する精製工程S9を実施する装置である。凝縮器8から得られる凝縮液は、生成物であるメタノールおよび水を含む液状混合物として得られる。精製装置9において混合物からメタノールを取り出す方法は特に限定されないが、例えば公知の方法を用いて脱水、精製処理することにより、水および不純物を取り除き、メタノールを得てもよい。脱水、精製処理方法としては、例えば、蒸留または膜分離が挙げられる。
【0033】
残ガス燃焼装置10は、未反応残ガスG5を燃焼し、熱エネルギーを得る残ガス燃焼工程を実施する装置である。なお、当該残ガス燃焼工程は、図1のフローチャートには記載していない。残ガス燃焼装置10としては、直接燃焼装置、触媒燃焼装置などの公知の装置を用いることができる。また、ガス洗浄装置2によって不純物が除去された後の廃棄物由来ガスG1を、燃焼ガスバイパス経路(図2に示す経路L18)を介して残ガス燃焼装置10に供給し、追加の熱エネルギーを得てもよい。残ガス燃焼装置10において得られた熱エネルギーは、ガス成分調整工程S3の熱源として利用することができる(図2に示す経路L17)。残ガス燃焼装置10において燃焼した残ガスは、経路L19を介して排ガスとして排出される。
【0034】
また、経路L14には、未反応残ガスG5を再供給するための経路が接続されていてもよい。例えば、経路L15は、経路L7と接続され、未反応残ガスG5を二次調整ガスG3に合流させることができる。経路L16は、ガス成分調整装置3と接続され、未反応残ガスG5をガス成分調整装置3に供給することができる。これにより、反応器7における転化工程S7において未反応の酸化炭素および/または水素を未反応残ガスG5として回収し、再利用することができる。
【0035】
(メタノールの製造方法)
実施形態1に係るメタノール製造方法は、例えば、図1に示すフローチャートに従って実行される。なお、図1に示すフローチャートは一例であり、これに限定されない。実施形態1に係るメタノールの製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0036】
(ガス取得工程S1)
ガス取得工程S1は、廃棄物から酸化炭素および水素を含むガスを得る工程である。廃棄物として、プラスチックごみなどの不飽和炭化水素成分を含む廃棄物が用いられた場合、ガス取得装置1内では、炭化水素と、水蒸気または酸素との反応により、例えば下記式(1)~(4)で表わされる反応が起こると想定される。
【0037】
CnHn+nHO→nCO+2nH (1)
CnHn+2nHO→nCO+3nH (2)
CnHn+0.5nO→nCO+nH (3)
CnHn+nO→nCO+nH (4)
なお、上記式(1)および式(3)では、水素と共に一酸化炭素が生成するが、本発明のメタノールの製造方法においては、該一酸化炭素と、水とを原料とし、下記式(5)の反応により、二酸化炭素および水素を得る工程を経てもよい。また、該一酸化炭素と、酸素とを原料とし、下記式(6)の反応により、ガス化反応(ガス取得反応)に必要な熱エネルギーおよび二酸化炭素を得る工程を経てもよい。
【0038】
CO+HO→CO+H (5)
CO+0.5O→CO (6)
前記式(1)~(6)の反応では、炭素原子1モルあたり、1~3モルの水素が得られる。
【0039】
一方、廃棄物として、天然由来の有機物が含まれる廃棄物を用いる場合、ガス取得装置1内では、例えば、下記式(7)で表わされる反応および/または下記式(8)で表わされる反応が起こると考えられる。
【0040】
(C12)n→6nCO+6nH (7)
(C12)n+6nHO→6nCO+12nH (8)
なお、上記式(7)では、水素と共に一酸化炭素が生成するが、当該一酸化炭素と、水とを原料とし、前述の式(5)の反応により、二酸化炭素および水素を得てもよい。上記式(7)から式(8)では、炭素原子1モルあたり、1~2モルの水素が得られる。
【0041】
前記のような有機物から一酸化炭素と水素とを得る反応においては、二酸化炭素と水素とを得る反応に比して高温での反応が必要な場合があり、昇温に係るエネルギーコストに鑑みても、二酸化炭素と水素とを得る方法の方が有利である可能性が期待される。
【0042】
(ガス洗浄工程S2)
ガス洗浄工程S2は、廃棄物由来ガスG1から、不純物を除去することによりガスを洗浄する工程である。廃棄物由来ガスG1には、不純物として、触媒被毒となる煤や飛灰等の固形分が含まれることがある。また、他の不純物として、硫黄分、塩素分や窒素分等の反応阻害成分が含まれることがある。このような場合には、廃棄物由来ガスG1を、後段の反応器7に供給する前に、ガス洗浄工程S2によって洗浄を行うことが好ましい。ガス洗浄工程S2により、例えば、廃棄物由来ガスG1の塩化物および硫化物の濃度を低減することができる。これにより、反応器7に供給される原料ガスG4中の塩化物および硫化物の濃度を、それぞれ100ppb以下まで低減することができる。ガス洗浄工程S2は、通常、廃棄物由来ガスG1に含まれる固形分または反応阻害成分に応じて行われ、公知の洗浄方法によって実施され得る。
【0043】
反応器7に供給する原料ガスG4中の塩化物および硫化物の濃度が、それぞれ100ppb以下となるよう、ガス洗浄工程S2によってガスを洗浄することにより、転化工程S7において用いる触媒の劣化速度を低下させ、触媒寿命を延ばすことができる。
【0044】
(ガス成分調整工程S3、CO分離工程S4)
ガス成分調整工程S3は、廃棄物由来ガスG1の組成を調整し、一次調整ガスG2を得る工程である。CO分離工程S4は、ガス成分調整工程S3を経て得られた一次調整ガスG2から、少なくとも一部の二酸化炭素(CO)を取り除き、二次調整ガスG3を得る工程である。ガス成分調整工程S3およびCO分離工程S4を経ることにより、廃棄物由来ガスG1を、メタノール合成に適した組成に調整することができる。
【0045】
メタノールの製造に必要な水素は、一酸化炭素(CO)1モルあたり2モル、二酸化炭素(CO)1モルあたり3モルである。したがって、反応器7に供給される原料ガスG4における水素、一酸化炭素および二酸化炭素の体積分率は、以下の式(9)で示す指標SNが2となるように調整されることが理想的である。下記式(9)において、yH、yCOおよびyCOは、それぞれ反応器7に供給される原料ガス中の、水素、二酸化炭素および一酸化炭素の体積分率である。
【0046】
SN=(yH-yCO)/(yCO+yCO) (9)
一方で、一般に廃棄物としてポリオレフィンのような高エネルギー廃棄物を用いた場合、外部から熱エネルギーを投入することなくガス化を実施するためには、上記式(6)に示す一酸化炭素の酸化反応による熱エネルギー確保が必要となることがある。そのため、二酸化炭素の比率が増えることにより、上記式(9)に示す指標SNは1程度となる。
【0047】
本発明のメタノールの製造方法では、ガス取得工程S1で得られる廃棄物由来ガスG1が、水素、二酸化炭素および一酸化炭素を含む場合、二酸化炭素を好ましくは0.1~20vol%、より好ましくは1~10vol%の濃度に調整し、反応器7に供給することが望ましい。そのため、前記指標SNの値が低い場合には、廃棄物由来ガスG1を原料ガスG4として反応器7に供給する前に、予めSN値を調整することが好ましい。指標SNの値は、1以上10以下が好ましく、1.5以上3以下に調整することがより好ましい。
【0048】
ガス成分調整工程S3は、(i)廃棄物由来ガスG1に含まれる炭化水素の部分酸化反応、(ii)廃棄物由来ガスG1に含まれる炭化水素の水蒸気改質反応、(iii)廃棄物由来ガスG1に含まれる二酸化炭素の水性シフト反応、(iV)廃棄物由来ガスG1に水素を添加する方法のうち、少なくとも1つを実施することにより実行されてもよい。これにより、ガス成分調整工程S3を経て得られた一次調整ガスG2における、一酸化炭素に対する水素の体積比(H/CO)を1.5以上4.0以下に調整することができる。H/COが1.5以上4.0以下である一次調整ガスG2にCO分離工程S4を施すことにより、二酸化炭素分離後の二次調整ガスG3の指標SNを、1.5以上3以下に調整することができる。
【0049】
ガス成分調整工程S3では、例えば、廃棄物由来ガスG1に含まれる炭化水素を、部分酸化反応および/または水蒸気改質反応によって一酸化炭素と水素に改質した後、水性ガスシフト反応を実施してもよい。これにより、H/COをより容易に1.5以上4.0以下に調整することができる。
【0050】
あるいは、ガス成分調整工程S3では、廃棄物由来ガスG1に含まれる炭化水素を、部分酸化反応および/または水蒸気改質反応によって一酸化炭素と水素に改質した後、水素(水素ガス)を添加(追加)してもよい。これにより、H/COをより容易に1.5以上4.0以下に調整することができる。当該水素を得る方法としては、例えば化石燃料の改質、分解による反応や水の電気分解、光触媒を用いた水の分解などの公知技術が利用できる。
【0051】
CO分離工程S4では、例えば、一次調整ガスG2を、アミン溶液を用いる化学的吸収法によって処理することにより、一次調整ガスG2から酸性ガスである二酸化炭素を分離することができる。これにより、二酸化炭素濃度が0.1~20vol%、好ましくは1~10vol%の濃度に調整された二次調整ガスG3を得ることができる。あるいは、CO分離工程S4では、一次調整ガスG2を深冷分離法で処理することにより、水素、一酸化炭素、二酸化炭素のうち最も沸点の高い二酸化炭素を分離してもよい。また、二酸化炭素を選択的に阻止する分離膜、または、より好ましくは二酸化炭素を選択的に透過させる分離膜を用いた膜分離法により二酸化炭素を分離してもよい。CO分離工程S4において分離された二酸化炭素は、別の用途に用いてもよい。
【0052】
ガス成分調整工程S3およびCO分離工程S4によってガスの成分を調整することにより、後に続く転化工程S7におけるメタノール転化反応(合成反応)に適した組成となるよう、原料ガスG4の組成を調整することができる。これにより、転化工程S7におけるメタノールへの転化率を向上させることができる。
【0053】
(圧縮工程S5)
反応器7に供給される原料ガスG4の圧力は、メタノール合成に適した圧力であることが好ましい。圧縮工程S5では、CO分離工程S4経て得られた二次調整ガスG3を、圧縮機5によってメタノール合成に適した圧力に昇圧する。ガスの圧縮に要するエネルギーは、圧縮機5に供給されるガスの量に応じて大きくなる。そのため、ガスの圧縮は、CO分離工程S4によって二酸化炭素を取り除いた後に実施することが望ましい。圧縮後の二次調整ガスG3の圧力は、0.2~10MPaGでよく、2~6MPaGがより好ましい。圧縮工程S5を経ることにより、反応器7に供給される原料ガスG4の圧力が0.2~10MPaG、好ましくは2~6MPaGとなるため、メタノール合成の効率が向上する。
【0054】
(水分除去工程S6)
反応器7に供給する原料ガスG4に含まれる水分は、反応を阻害するとともに触媒の反応活性を低下させるため、転化工程S7の前に低減されることが望ましい。水分除去工程S6における水分除去方法として、例えば、圧縮後の二次調整ガスG3を冷却器により冷却し、水の露点以下まで冷却して蒸気を液化したのち、気液分離器で分離する方法が挙げられる。水分除去工程S6により、反応器7に供給する原料ガスG4中の水分量を、5vol%以下、好ましくは2.5vol%以下に低減することができる。これにより、転化工程S7における反応効率を向上させるとともに、触媒寿命を延ばすことができる。がより好ましい。
【0055】
(転化工程S7)
転化工程S7は、廃棄物から取得されたガスの少なくとも一部を触媒と接触させ、気相中でメタノールに転化する工程である。
【0056】
ここで、転化工程S7において用いる触媒について説明する。二酸化炭素と水素との反応によりメタノールを得る際には、下記式(10)で表わされるように水が副生する。一方で、一酸化炭と水素の反応によりメタノール得る際には、下記式(11)で表されるように水は副生しない。
【0057】
CO+3H→CHOH+HO (49.4kJ/mol(発熱反応))(10)
CO+2H→CHOH (90.4kJ/mol(発熱反応)) (11)
副生した水は、触媒の反応活性を低下させ、メタノールの生産性の低下させる可能性がある。このため、本発明のメタノールの製造方法においては水による影響を受けにくい触媒を用いることが好ましい。
【0058】
このため、本実施形態においては、触媒として、水による活性低下が起こりづらい触媒、例えば銅系触媒を用いることが好ましい。触媒として、例えば、銅、亜鉛、アルミニウム、およびケイ素を必須成分とし、ジルコニウム、パラジウム、ガリウムを任意成分として含み得る触媒を用いられる。一般に、二酸化炭素と水素とを反応させてメタノール得る際に用いられる触媒は、一酸化炭素と水素とを原料として用いた場合にもメタノールを得ることができる傾向がある。そのため、銅などの成分を含む触媒は、二酸化炭素と水素との反応、一酸化炭素と水素との反応の何れにも活性を示し、また副生する水にも耐久性を示す等の理由で、本実施形態のメタノール製造方法に好適に用いることができる。
【0059】
触媒として銅を含む触媒を用いる場合、その粒径は特に限定されないが、例えば1mm以上20mm以下、2mm以上20mm以下、3mm以上20mm以下、3mm以上15mm以下、または3mm以上10mm以下のいずれかであってよい。触媒の粒径が前記範囲内にあることにより、触媒の取り扱いが容易であるだけでなく、触媒の強度の面で好適であり、さらに触媒を固定床に装填して触媒層を形成する場合に好適である。上記の粒径の触媒を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。好適には打錠法が用いられる。
【0060】
触媒層における反応温度は、例えば180℃以上260℃以下程度であればよく、220℃以上240℃以下が好ましい。
【0061】
なお、反応器7における転化工程S7は、転化反応にも触媒の活性低下にも関与しないようないわゆる不活性ガスの存在下で実施してもよい。
【0062】
(冷却凝縮工程S8)
冷却凝縮工程S8では、凝縮器8を用いて、反応器7から排出されたガスを冷却し、未反応残ガスG5と、メタノールおよび水を含む凝縮液と、に分離する。
【0063】
(精製工程S9)
精製工程S9では、冷却凝縮工程S8によって得られた凝縮液を精製し、水および不純物を分離することにより、メタノールを精製する。
【0064】
(残ガス燃焼工程)
残ガス燃焼工程では、廃棄物由来ガスG1の少なくとも一部および/または凝縮器8から排出される未反応残ガスG5を燃焼することにより、熱エネルギーを得る。残ガス燃焼工程によって得られる熱は、ガス成分調整工程S3を実施するための熱源の少なくとも一部として用いることができる。
【0065】
(まとめ)
本発明の一態様に係る製造方法は、廃棄物をガス化した廃棄物由来ガスG1からメタノールを製造する方法である。廃棄物由来ガスG1の組成を調整し、一次調整ガスG2とするガス成分調整工程S3と、一次調整ガスG2から、少なくとも一部の二酸化炭素を選択的に分離し、二次調整ガスG3とするCO分離工程S4と、二次調整ガスG3の少なくとも一部を原料ガスG4としてメタノールに転化する転化工程S7と、含む。一次調整ガスG2における、一酸化炭素に対する水素の体積比は、1.5以上4.0以下であり、二次調整ガスG3におけるCOの含有量は、1vol%以上10vol%以下である。
【0066】
上記構成により、廃棄物からより効率的にメタノールを製造することができ、廃棄物の有効活用を図ることができる。また、従来のメタノール製造に伴う化石燃料由来の二酸化炭素削減にも寄与する。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0067】
また、本発明の一態様に係る製造方法は、不純物を除去するガス洗浄工程S2をさらに含み、原料ガスG4中の塩化物および硫化物の濃度は、それぞれ100ppb以下であってもよい。
【0068】
上記構成により、転化工程S7における触媒の寿命を延長することができる。
【0069】
また、本発明の一態様に係る製造方法は、転化工程S7よりも前に、水分を低減させる水分除去工程S6をさらに含み、原料ガスG4中の水分含有量は、2.5vol%以下であってもよい。
【0070】
上記構成により、転化工程S7におけるメタノール合成の効率を向上させることができかつ、反応器7内の触媒の寿命を延長することができる。
【0071】
また、本発明の一態様に係る製造方法は、転化工程S7よりも前に、二次調整ガスG3を圧縮する圧縮工程をさらに含み、原料ガスG4の圧力は、2MPaG以上6MPaG以下であってもよい。
【0072】
上記構成により、転化工程S7におけるメタノール合成の効率を向上させることができる。
【0073】
また、本発明の一態様に係る製造方法は、ガス成分調整工程S3を実施するための熱源の少なくとも一部として、廃棄物由来ガスG1および/または転化工程S7における未反応残ガスG5を燃焼させることにより生じる熱を用いてもよい。
【0074】
上記構成により、メタノール製造におけるエネルギー消費量を低減することができる。
【0075】
また、本発明の一態様に係る製造方法は、ガス成分調整工程S3において、部分酸化反応、水蒸気改質反応、水性ガスシフト反応および水素添加のうち、少なくとも1つを実施してもよい。
【0076】
上記構成により、原料ガスG4の組成を、メタノール合成に適した組成とすることができ、メタノール合成の効率を向上させることができる。
【0077】
また、本発明の一態様に係る製造方法は、部分酸化反応および/または水蒸気改質反応後に水性ガスシフト反応を実施してもよい。
【0078】
上記構成により、原料ガスG4の組成を、より容易にメタノール合成に適した組成とすることができる。
【0079】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
S1・・・ガス取得工程
S2・・・ガス洗浄工程
S3・・・ガス成分調整工程
S4・・・CO分離工程
S5・・・圧縮工程
S6・・・水分除去工程
S7・・・転化工程
S8・・・冷却凝縮工程
S9・・・精製工程
1・・・ガス取得装置
2・・・ガス洗浄装置
3・・・ガス成分調整装置
4・・・CO分離装置
5・・・圧縮機
6・・・水分除去装置
7・・・反応器
8・・・凝縮器
9・・・精製装置
10・・・残ガス燃焼装置
100・・・製造装置
図1
図2