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特開2023-28689樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028689
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230224BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230224BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230224BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/04
C08K7/06
C08K5/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134548
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】藤田 容史
(72)【発明者】
【氏名】西澤 洋二
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF051
4J002CF071
4J002DA036
4J002DA037
4J002DL000
4J002EH048
4J002EH058
4J002FA040
4J002FA047
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD028
4J002FD030
4J002FD070
4J002FD080
4J002FD130
4J002FD170
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、10GHz以上の高周波電磁波に対してシールド性を有し、電気絶縁性および溶融成形時の流動性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】 本発明の目的は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部、カーボンブラック(B)2~6質量部、炭素繊維(C)0.3~4質量部、およびグリセリン脂肪酸エステル(D)0.05~5質量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、該グリセリン脂肪酸エステル(D)は、グリセリン及びその脱水縮合物から選択される少なくとも一種と炭素数12以上の脂肪酸とからなる水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステルであり、該樹脂組成物の体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cm、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下、かつ電磁波吸収率が30%以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、によって達成された。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部、カーボンブラック(B)2~6質量部、炭素繊維(C)0.3~4質量部、およびグリセリン脂肪酸エステル(D)0.05~5質量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、該グリセリン脂肪酸エステル(D)は、グリセリン及びその脱水縮合物から選択される少なくとも一種と炭素数12以上の脂肪酸とからなる水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステルであり、該樹脂組成物の体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cm、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下、かつ電磁波吸収率が30%以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラック(B)がケッチェンブラックである請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素数12以上の脂肪酸が、ラウリン酸、ステアリン酸又はベヘニン酸である請求項1または2記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
温度260℃での剪断速度1000sec-1における溶融粘度が0.14kP・s以下である請求項1~3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物であって、電磁波シールド性、薄肉流動性が改良された樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形品に関する。特にギガヘルツ帯域において優れた電磁波シールド性を有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器はあらゆる分野で使用されている。特に通信機器はラジオなどの比較的長波長の電波を利用しているものから、携帯電話や衛星放送、無線LANといった短波長の電波を利用している機器が増えており、電磁波シールドは重要な技術となっている。
【0003】
電磁波による誤動作を防ぐために電磁波を遮蔽する技術としては、金属などの筐体を使用する、樹脂製の筐体に金属繊維や炭素繊維、金属コーティングした炭素繊維、カーボンナノチューブといった導電性のフィラーを樹脂に添加する、導電フィルムや塗装、メッキといった処理を施すことが知られている。(特許文献1)
【0004】
金属の筐体は性能が良いものの重量増や設計の自由度が低く、樹脂の筐体にフィルムや塗装、メッキを施すといった手法は剥がれる恐れがあるためライフサイクルの長いものに使用することは適していないとされている。
【0005】
金属を使用せずに電磁波シールド性を有するものとしてカーボンブラックと炭素繊維の併用が知られている(特許文献2、3)。これらの文献では1GHz程度のシールド性が示されており炭素繊維量が少ないと十分な電磁波シールド性が得られず、導電性を付与することで高い電磁波シールド性が得られると記載されている。
【0006】
また、電子機器の小型化・軽量化に伴い、薄肉流動性の要求も高まっている。肉厚の薄い、板状あるいは箱形の成形品、例えばマイクロスイッチケース、小型コイルボビン、薄肉コネクター、次世代通信機器等の筐体等においては、流動性の低下による成形不良(成形品金型への充填不足)、同じく樹脂の流れの不均一に基づく、そり発生の増大等の問題があり、電磁波シールド性が良好で薄肉流動性が改良された材料が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-229345号公報
【特許文献2】特開2010-31257号公報
【特許文献3】特開2006-45385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、10GHz以上の高周波電磁波に対してシールド性を有し、かつ電気絶縁性に優れ、溶融成形時の流動性が向上したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1. ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部、カーボンブラック(B)2~6質量部、炭素繊維(C)0.3~4質量部、およびグリセリン脂肪酸エステル(D)0.05~5質量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、該グリセリン脂肪酸エステル(D)は、グリセリン及びその脱水縮合物から選択される少なくとも一種と炭素数12以上の脂肪酸とからなる水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステルであり、該樹脂組成物の体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cm、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下、かつ電磁波吸収率が30%以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
2.前記カーボンブラック(B)がケッチェンブラックである前記1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
3.前記炭素数12以上の脂肪酸が、ラウリン酸、ステアリン酸又はベヘニン酸である前記1または2記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
4.温度260℃での剪断速度1000sec-1における溶融粘度の測定値が0.14kP・s以下である前記1~3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
5.前記1~4いずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高周波電磁波に対してシールド性を有し、電気絶縁性および溶融成形時の流動性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部、カーボンブラック(B)2~6質量部、炭素繊維(C)0.3~4質量部、およびグリセリン脂肪酸エステル(D)0.05~5質量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、該グリセリン脂肪酸エステル(D)は、グリセリン及びその脱水縮合物から選択される少なくとも一種と炭素数12以上の脂肪酸とからなる水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステルであり、該樹脂組成物の体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cm、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下、かつ電磁波吸収率が30%以上であることを特徴とする。
【0012】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)>
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。
【0013】
本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上配合する共重合体であってもよい。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.5dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上1.2dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。
【0016】
また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0017】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0021】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0022】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、市販品を使用してもよく、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4-ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えばエステル交換、直接エステル化法等により共重合(重縮合)することにより製造したものを使用してもよい。
【0023】
<カーボンブラック(B)>
本発明カーボンブラック(B)は、1次粒子径が5~40nmであり、かつ窒素吸着比表面積が100m/g以上のカーボンブラックである。そして、当該カーボンブラックを、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して2~6質量部配合することができる。
【0024】
なお、本発明における一次粒子径は、カーボンブラックを溶媒中投入し超音波振動にて分散させた後、分散試料を支持膜に固定し、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で写真撮影し、直径より粒子径を計測した。(1000個以上)それらの値の算術平均により1次粒子径を求めることができる。
【0025】
カーボンブラック(B)は、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、透過損失と電磁波吸収率のバランスからケッチェンブラックが好ましい。
【0026】
<炭素繊維(C)>
本発明の炭素繊維(C)は、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維である。また、炭素繊維にニッケルや銅などの金属を被覆した金属被覆炭素繊維なども本発明で使用できる。炭素繊維は電磁波を反射する効果が高いが、反射した電磁波が電子機器を誤作動させることがあるため、添加量はポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して炭素繊維(C)は0.3~4質量部、好ましくは0.5~3質量部、更に好ましくは1~2質量部である。
【0027】
本発明の炭素繊維としては、引張破断伸度は少なくとも1.5%以上の炭素繊維が好ましい。高い力学的特性を付与するためには、引張破断伸度が1.5%以上、より望ましくは引張破断伸度が1.7%以上、更に望ましくは引張破断伸度が1.9%以上の炭素繊維を用いるのがよい。本発明で使用する炭素繊維の引張破断伸度に上限はないが、一般的には5%未満である。炭素繊維の直径は4~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。
【0028】
炭素繊維として更に望ましくは、強度と弾性率とのバランスに優れるPAN系炭素繊維がよい。引張弾性率は、100~600GPaであることが好ましく、より好ましくは200~500GPaであり、230~450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は2000MPa~10000MPa、好ましくは3000~8000MPaである。
【0029】
また、これらの炭素繊維は、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面処理されたり、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系重合体、液晶性樹脂、アルコールまたは水可溶性樹脂などで集束処理されたりしていてもよい。
【0030】
カーボンブラック(C)と炭素繊維(D)の合計は7質量部以下であることが好ましく、6質量部以下であることがより好ましい。7質量部以下にすることで電気絶縁性を保持しつつ、電磁波シールド性を有することが出来る。ここで、電気絶縁性とは体積抵抗率が1×1010以上であることを指す。
【0031】
<グリセリン脂肪酸エステル(D)>
本発明の特色は、ポリブチレンテレフタレート樹脂と特定のグリセリン脂肪酸エステルとを組み合わせる点にある。通常、ポリブチレンテレフタレート樹脂に流動性改良剤等を添加すると、流動性を向上できても、ポリブチレンテレフタレート樹脂そのものが有する機械的強度等の特性の低下を避けることができない。本発明では特定のグリセリン脂肪酸エステルを使用することにより、前記特性を高いレベルで保持しつつポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性を効率よく向上できる。
【0032】
また、無機充填剤と組み合わせることにより、樹脂組成物又はその成形品の強度又は剛性を向上でき、このような強度又は剛性の向上効果もまた、グリセリン脂肪酸エステルの使用によっても低下することがないため、機械的強度の保持と、流動性の向上とをバランスよく両立させることができる。
【0033】
グリセリン脂肪酸エステル(D)は、グリセリン及びその脱水縮合物から選択される少なくとも一種と炭素数12以上の脂肪酸とからなる水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステルである。エステルを構成する炭素数12以上の脂肪酸としては、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等が挙げられ、好ましくは炭素数12~32の脂肪酸、特に好ましくは炭素数12~22の脂肪酸が使用され、ラウリン酸、ステアリン酸又はベヘニン酸が特に好ましい。炭素数12未満のものでは耐熱性が低下することがあり好ましくなく、炭素数が32を超えるものは流動性の改良効果が少なく好ましくない。
【0034】
本発明で用いられるグリセリン脂肪酸エステル(D)は、それ自体公知の方法で製造することができる。本発明で用いられるグリセリン脂肪酸エステル(D)は、水酸基価が200以上になるようにエステル化を調整したものであり、好ましくは250以上の水酸基価を有するものである。水酸基価が200未満では流動性の改良効果が少なく好ましくない。なお水酸基価は、日本油化学会2.3.6.2-1996 ヒドロキシル価(ピリジン-無水酢酸法)に準じて測定した。
【0035】
好ましいエステルを例示すると、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンステアリン酸部分エステル、デカグリセリンラウリン酸部分エステル等が挙げられる。
【0036】
グリセリン脂肪酸エステル(D)の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.05~5質量部、好ましくは0.5~3質量部である。グリセリン脂肪酸エステル(D)の配合量が0.05質量部未満では流動性の向上効果が十分に得られない場合があり、5質量部を超えると成形に伴ってガス発生量が多くなり、成形品の外観を損ねたり、金型汚れを生じるおそれがある。
【0037】
<無機充填材>
本発明の成形品において、耐熱性及び機械強度を向上させるために無機充填材を配合することができる無機充填材の種類は、本願の効果を阻害しない限り特に限定されないが、金属繊維やカーボンナノチューブ等の導電性の物質は絶縁性を低下させるため避けた方がよい。
【0038】
例えばガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、タルク、マイカ等が好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。ガラス繊維の繊維長(溶融混練などにより組成物に調製する前の状態)は1~10mmのものが好ましく、ガラス繊維の直径は5~20μmのものが好ましい。
【0039】
本発明において、無機充填材は、耐熱性及び機械強度を向上させる観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0~150質量部含むことが好ましく、30~100質量部含むことがより好ましい。
【0040】
<他の成分>
本発明においては、本発明の効果を害さない範囲で、上記各成分の他、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。
【0041】
<樹脂組成物の性質>
本発明の樹脂組成物は、体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cmであり、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下で、かつ電磁波吸収率が30%以上である。これらの性質は、カーボンブラック(B)と炭素繊維(C)の添加量を調整することによって達成することができる。
【0042】
体積抵抗率を1×1010~1×1017Ω・cmにすることにより、電子機器に使用した場合の絶縁性を得ることができる。透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下で、かつ電磁波吸収率が30%以上であるにより、優れた電磁波シールド性を得ることができる。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、グリセリン脂肪酸エステル(D)の配合量を調整することにより、溶融成形時の流動性(溶融粘度)を0.14kPa・s以下に抑え、高い流動性を得ることができる。したがって、流動性の低下による成形不良や樹脂の流れの不均一に基づくそり発生の増大等の問題を解決することができる。
【0044】
<成形品>
本発明の樹脂組成物から、成形品を作製することができ、その方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。本発明の成形品は、電子機器等に有用である。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<材料>
(A)ポリプブチレンテレフタレート樹脂(PBT)ポリプラスチックス社製
(B1)カーボンブラック(ケッチェンブラック):ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ECX
(B2)カーボンブラック(ファーネスブラック):三菱ケミカル社製#750B
(B3)カーボンブラック(アセチレンブラック):デンカ社製デンカブラック粒状
(C)炭素繊維:東邦テナックス社製 HTC432
(D)グリセリン脂肪酸エステル:
(D1)トリグリセリンステアリン酸部分エステル(水酸基価280、理研ビタミン(株)製「リケマールAF―70」)
(D2)グリセリンモノベヘネート(水酸基価300、理研ビタミン(株)製「リケマールB-100」)
(D3)グリセリンモノ12ヒドロキシステアレート(水酸基価420、理研ビタミン(株)製「リケマールHC-100」)
(D4)デカグリセリンラウリン酸部分エステル(水酸基価600、理研ビタミン(株)製「ポエムL-021」)
(D5)グリセリントリステアレート(水酸基価87、理研ビタミン(株)製「ポエムS-95」)
酸化防止剤:BASFジャパン社製 イルガノックス1010
ガラス繊維:日本電気硝子製 ECS03T―187
【0047】
<樹脂組成物試験片の作製>
上記の材料を以下の表1に示す割合(単位は質量部)でドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)にホッパーから供給して250℃で溶融混練し、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得、射出成形により試験片を作製した。
【0048】
<評価>
評価は以下の通り行った。結果を表1、2に示す。なお特に断りの無い限り、測定は23℃50%RH雰囲気下で行った。
≪体積抵抗率(Ω・cm)≫
IEC60093に準拠し、測定装置超高抵抗計R8340(アドバンテスト社製)を用い、印加電圧500Vにて測定した。試験片は、100mm×100mm×3mmtとした。
【0049】
≪透過損失(dB)≫
以下の装置、測定方法、周波数で測定した。試験片は、100mm×100mm×3mmtとした。
・測定装置:
ホーンアンテナ:FSS-05(HVS社製)
誘電体レンズ:FSS-06(HVS社製)
ネットワークアナライザー:N5227A(キーサイトテクノロジー社製)
ミリ波コントローラー:N5261A(キーサイトテクノロジー社製)
・測定方法:自由空間法
・周波数:75~110GHz
【0050】
≪電磁波吸収率≫
以下の式で算出した。
反射損失|S11|=反射波電磁波強度/入射波電磁波強度(入射波と反射波の振幅比)
S11(dB)=20log|S11|
透過損失|S21|=透過電磁波強度/入射波電磁波強度(入射波と透過波の振幅比)
S21(dB)=20log|S21|
電磁波吸収率(%)=(1-(|S11|^+|S21|^))×100
【0051】
≪溶融成形時の流動性(溶融粘度)≫
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、キャピログラフ1B(東洋精機製作所社製)を用いて、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmLにて、剪断速度1000sec-1にて測定した。数値の低いほうが溶融時の流動性に優れ、成形時の流動性に優れる。
<評価結果>
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1、2に示すように、本発明では、高周波において優れた電磁波シールド性と高流動性に優れ、体積抵抗率も高く電気絶縁性を有していることが分かる。