(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028854
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】変形予測システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20230224BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20230224BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
B23K11/11
B23K31/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134795
(22)【出願日】2021-08-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】507228172
【氏名又は名称】株式会社JSOL
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】麻 寧緒
(72)【発明者】
【氏名】功刀 厚志
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】千野 剛
【テーマコード(参考)】
2G061
4E165
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061AC03
2G061BA18
2G061CB19
2G061DA11
2G061DA12
4E165AB02
4E165BA05
4E165BA08
4E165BB02
4E165BB12
4E165EA12
(57)【要約】
【課題】スポット溶接における抵抗発熱と加圧を考慮して、溶接変形の予測結果を高速で計算できる変形予測システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】スポット溶接を行うことで製造される構造体130の溶接変形をFEM解析によって計算する変形予測システムは、構造体データ取り込みプロセスS1と、溶接打点抽出プロセスS2と、FEM解析用モデル作成プロセスS3と、スポット溶接点140の位置において、スポット溶接点140のFEM解析用モデルとしてナゲット要素340を作成すると共に、スポット溶接を行うときのスポット溶接点140における抵抗発熱、及びスポット溶接点140に対する加圧によって生じる固有変形をナゲット要素340に設定するナゲット要素設定プロセスS4と、溶接変形計算プロセスS5とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材に対してスポット溶接を行うことで製造される構造体の溶接変形をFEM解析によって計算する変形予測システムであって、
前記構造体の形状データを取り込む構造体データ取り込みプロセスと、
前記構造体の前記形状データから前記スポット溶接点の位置を抽出する溶接打点抽出プロセスと、
前記構造体の前記形状データに基づいて、前記構造体のFEM解析用モデルを作成するFEM解析用モデル作成プロセスと、
前記スポット溶接点の位置において、前記スポット溶接点のFEM解析用モデルとしてナゲット要素を作成すると共に、前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点における抵抗発熱、及び前記スポット溶接点に対する加圧によって生じる固有変形を前記ナゲット要素に設定するナゲット要素設定プロセスと、
前記構造体のFEM解析用モデルと前記ナゲット要素に基づいて、FEM解析によって前記構造体の溶接変形を計算する溶接変形計算プロセスとを有することを特徴とする変形予測システム。
【請求項2】
前記固有変形は、
前記構造体が面内方向に変形するときの面内固有変形を含む面内変形モードと、
前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点に対する前記加圧によって、前記構造体が面外方向に収縮するときの面外収縮固有変形を含む面外収縮モードと、
前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点における前記抵抗発熱によって、前記構造体が面外方向に湾曲するときの面外曲げ固有変形を含む面外曲げモードとを有することを特徴とする請求項1に記載の変形予測システム。
【請求項3】
前記ナゲット要素は、前記スポット溶接点の位置を中心とした放射状の形状に作成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変形予測システム。
【請求項4】
前記ナゲット要素は、前記スポット溶接点の位置を中心とした八角形状に作成されることを特徴とする請求項3に記載の変形予測システム。
【請求項5】
前記変形予測システムは、
前記構造体のスポット溶接点に対応する固有変形データを固有変形データベースに保存する固有変形データ準備プロセスを有しており、
前記ナゲット要素設定プロセスは、前記固有変形データベースに保存されている前記固有変形データに基づいて、前記抵抗発熱と前記加圧によって生じる前記固有変形を前記ナゲット要素に設定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の変形予測システム。
【請求項6】
複数の部材に対してスポット溶接を行うことで製造される構造体の溶接変形をFEM解析によって計算する変形予測プログラムであって、
前記構造体の形状データを取り込む構造体データ取り込みプロセスと、
前記構造体の前記形状データから前記スポット溶接点の位置を抽出する溶接打点抽出プロセスと、
前記構造体の前記形状データに基づいて、前記構造体のFEM解析用モデルを作成するFEM解析用モデル作成プロセスと、
前記スポット溶接点の位置において、前記スポット溶接点のFEM解析用モデルとしてナゲット要素を作成すると共に、前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点における抵抗発熱、及び前記スポット溶接点に対する加圧によって生じる固有変形を前記ナゲット要素に設定するナゲット要素設定プロセスと、
前記構造体のFEM解析用モデルと前記ナゲット要素に基づいて、FEM解析によって前記構造体の溶接変形を計算する溶接変形計算プロセスとを有することを特徴とする変形予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形予測システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の部材を溶接して構造体を製造する場合、溶接時の熱によって構造体が全体としてどのように変形するかを予め予測しておくことが重要であり、これを、コンピュータを用いて行おうとする試みがなされている。コンピュータを用いて構造体の溶接変形を予測するものとして、構造体の各溶接線についての固有変形データを利用し、FEM解析によって構造体全体の溶接変形を予測するものが知られている。
【0003】
構造体の溶接変形をFEM解析によって予測する際に用いる固有変形データについては、例えば日本溶接協会から溶接継手の溶接タイプや被溶接部材の材料物性等に応じた固有変形データを収録した固有変形データベースが公開されている。
【0004】
この固有変形データベースに収録された既存の固有変形データは、特定の条件についてのものであることから、例えば特許文献1には、既存の固有変形データベースを利用して既存の固有変形データに収録された溶接線とは異なる材料からなる溶接線の固有変形データを算出して、該固有変形データを用いて構造体全体の溶接変形をFEM解析によって予測するようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
一方、特許文献1に記載された方法は、例えば溶接トーチによって各溶接線を形成するアーク溶接に対して適用されることを想定しており、例えばスポット溶接ガンによってスポット溶接点を形成するスポット溶接に対して適用することはできない。
【0007】
ここで、スポット溶接ガンによってスポット溶接点を形成するスポット溶接の例を説明する。
【0008】
図1は、構造体を製造するために行われるスポット溶接を説明する概略図である。以下の説明では、
図1における左右方向をX方向、上下方向をZ方向、X方向とZ方向に直交する方向(紙面の表裏方向)をY方向という。また、面内方向とは、部材の平面に沿った方向、すなわちXY平面におけるいずれかの方向を示す。さらに、面外方向とは、部材の平面と直交する方向、すなわちZ方向を示す。
【0009】
図1に示すように、X方向の左右両側に延びる板状部材である第1の部材110と第2の部材120がZ方向に重ねて配置されている。この第1の部材110は、X方向における略中央においてZ方向の上方に向けて突出する凸部112を有する。
【0010】
上述の凸部112に対するX方向右側において、第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bが第1の部材110と第2の部材120をZ方向の上下から挟むようにそれぞれ配置されている。この第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bは、それぞれ、略円柱形状を有すると共に、通電の出力が制御されるように、外部に配置されているコントローラ220と電気的に接続されている。また、第1のスポット溶接ガン210a及び第2のスポット溶接ガン210bとコントローラ220との間には、第1のスポット溶接ガン210a及び第2のスポット溶接ガン210bをZ方向に沿って移動させる第1のモータ222aと第2のモータ222bがそれぞれ配設されている。
【0011】
上述のコントローラ220は、スポット溶接を行うとき、第1のスポット溶接ガン210aから第1の部材110と第2の部材120を介して第2のスポット溶接ガン210bに向けて通電させると共に、第1のモータ222aと第2のモータ222bを駆動させることにより、第1のスポット溶接ガン210aをZ方向下側に向けて移動させて、且つ第2のスポット溶接ガン210bをZ方向上側に向けて移動させるように構成されている。したがって、第1の部材110と第2の部材120は、第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bとの間の通電により生じる抵抗発熱によって互いに溶融すると共に、第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bの移動によりZ方向に沿って加圧されることによって、スポット溶接が行われて、構造体130が製造される。
【0012】
上述のスポット溶接により、第1の部材110と第2の部材120との間には、第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bによって挟まれた位置において、第1の部材110と第2の部材120を互いに接合するスポット溶接点140が形成される。
【0013】
上述のように、スポット溶接は、複数のスポット溶接ガンの間における通電による抵抗発熱、及び複数のスポット溶接ガンによる加圧によって行われる。したがって、スポット溶接の溶接変形を予測するとき、上述の抵抗発熱と加圧を考慮する必要がある。
【0014】
従来、スポット溶接の溶接変形を予測するとき、上述の抵抗発熱と加圧を考慮した構造連成解析が行われている。一方、この構造連成解析は、複数の部材と複数のスポット溶接ガンの解析用モデルを作成することが必要であるため、非常に煩雑である。また、スポット溶接の溶接変形の予測結果を算出するために、膨大な計算時間が必要となる。
【0015】
スポット溶接の溶接変形を予測する別の方法として、熱収縮解析又は構造解析が考えられる。一方、熱収縮解析は、複数のスポット溶接ガンによる加圧を考慮して、スポット溶接の溶接変形の予測結果を算出することが難しい。また、構造解析は、複数のスポット溶接ガンの間における通電による抵抗発熱を考慮して、スポット溶接の溶接変形の予測結果を算出することが難しい。加圧を考慮した熱収縮解析、又は抵抗発熱を考慮した構造解析を行う場合、複数の部材とスポット溶接ガンの解析用モデルを作成することが必要であるため、上述の構造連成解析と同様に非常に煩雑である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、スポット溶接における抵抗発熱と加圧を考慮して、溶接変形の予測結果を高速で計算できる変形予測システム及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0018】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、複数の部材に対してスポット溶接を行うことで製造される構造体の溶接変形をFEM解析によって計算する変形予測システムであって、
前記構造体の形状データを取り込む構造体データ取り込みプロセスと、
前記構造体の前記形状データから前記スポット溶接点の位置を抽出する溶接打点抽出プロセスと、
前記構造体の前記形状データに基づいて、前記構造体のFEM解析用モデルを作成するFEM解析用モデル作成プロセスと、
前記スポット溶接点の位置において、前記スポット溶接点のFEM解析用モデルとしてナゲット要素を作成すると共に、前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点における抵抗発熱、及び前記スポット溶接点に対する加圧によって生じる固有変形を前記ナゲット要素に設定するナゲット要素設定プロセスと、
前記構造体のFEM解析用モデルと前記ナゲット要素に基づいて、FEM解析によって前記構造体の溶接変形を計算する溶接変形計算プロセスとを有することを特徴とする。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1の発明において、前記固有変形は、
前記構造体が面内方向に変形するときの面内固有変形を含む面内変形モードと、
前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点に対する前記加圧によって、前記構造体が面外方向に収縮するときの面外収縮固有変形を含む面外収縮モードと、
前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点における前記抵抗発熱によって、前記構造体が面外方向に湾曲するときの面外曲げ固有変形を含む面外曲げモードとを有することを特徴とする。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、前記ナゲット要素は、前記スポット溶接点の位置を中心とした放射状の形状に作成されることを特徴とする。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3の発明において、前記ナゲット要素は、前記スポット溶接点の位置を中心とした八角形状に作成されることを特徴とする。
【0022】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記変形予測システムは、
前記構造体のスポット溶接点に対応する固有変形データを固有変形データベースに保存する固有変形データ準備プロセスを有しており、
前記ナゲット要素設定プロセスは、前記固有変形データベースに保存されている前記固有変形データに基づいて、前記抵抗発熱と前記加圧によって生じる前記固有変形を前記ナゲット要素に設定することを特徴とする。
【0023】
さらに、請求項6に記載の発明は、複数の部材に対してスポット溶接を行うことで製造される構造体の溶接変形をFEM解析によって計算する変形予測プログラムであって、
前記構造体の形状データを取り込む構造体データ取り込みプロセスと、
前記構造体の前記形状データから前記スポット溶接点の位置を抽出する溶接打点抽出プロセスと、
前記構造体の前記形状データに基づいて、前記構造体のFEM解析用モデルを作成するFEM解析用モデル作成プロセスと、
前記スポット溶接点の位置において、前記スポット溶接点のFEM解析用モデルとしてナゲット要素を作成すると共に、前記スポット溶接を行うときの前記スポット溶接点における抵抗発熱、及び前記スポット溶接点に対する加圧によって生じる固有変形を前記ナゲット要素に設定するナゲット要素設定プロセスと、
前記構造体のFEM解析用モデルと前記ナゲット要素に基づいて、FEM解析によって前記構造体の溶接変形を計算する溶接変形計算プロセスとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0025】
まず、本願の請求項1に記載の発明によれば、変形予測システムは、スポット溶接点の位置において、スポット溶接点のFEM解析用モデルとしてナゲット要素を作成すると共に、スポット溶接を行うときのスポット溶接点における抵抗発熱、及びスポット溶接点に対する加圧によって生じる固有変形をナゲット要素に設定するナゲット要素設定プロセスを有する。このナゲット要素と、複数の部材に対してスポット溶接を行うことで製造される構造体のFEM解析用モデルとに基づいて、FEM解析が行われる。したがって、スポット溶接における抵抗発熱と加圧を考慮して、溶接変形の予測結果を高速で計算できる変形予測システムを提供できる。
【0026】
また、請求項2に記載の発明によれば、固有変形は、前記構造体が面内方向に変形するときの面内固有変形を含む面内変形モードと、スポット溶接を行うときのスポット溶接点に対する加圧によって、構造体が面外方向に収縮するときの面外収縮固有変形を含む面外収縮モードと、スポット溶接を行うときのスポット溶接点における抵抗発熱によって、構造体が面外方向に湾曲するときの面外曲げ固有変形を含む面外曲げモードとを有する。したがって、スポット溶接における抵抗発熱と加圧によってスポット溶接点において生じる面内固有変形、面外収縮固有変形、面外曲げ固有変形をナゲット要素に設定することによって、より正確な溶接変形の予測結果を計算できる。
【0027】
また、請求項3に記載の発明によれば、ナゲット要素は、スポット溶接点の位置を中心とした放射状の形状に作成される。スポット溶接ガンは、一般的に、略円柱形状を有しているため、スポット溶接点における実際の溶接影響領域は略円形になる。したがって、ナゲット要素を略円形に近い放射状の形状に作成することによって、より正確な溶接変形の予測結果を計算できる。
【0028】
また、請求項4に記載の発明によれば、ナゲット要素は、スポット溶接点の位置を中心とした八角形状に作成される。スポット溶接ガンは、一般的に、略円柱形状を有しているため、スポット溶接点における実際の溶接影響領域は略円形になる。したがって、ナゲット要素を略円形に近い八角形状に作成することによって、より正確な溶接変形の予測結果を高速で計算できる。
【0029】
また、請求項5に記載の発明によれば、変形予測システムは、構造体のスポット溶接点に対応する固有変形データを固有変形データベースに保存する固有変形データ準備プロセスを有する。ナゲット要素設定プロセスは、この固有変形データベースに保存されている固有変形データに基づいて、抵抗発熱と加圧によって生じる固有変形をナゲット要素に設定する。したがって、固有変形データベースに保存されている種々の固有変形データに基づいて、固有変形をナゲット要素に設定することによって、より正確な溶接変形の予測結果を計算できる。
【0030】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、変形予測プログラムは、スポット溶接点の位置において、スポット溶接点のFEM解析用モデルとしてナゲット要素を作成すると共に、スポット溶接を行うときのスポット溶接点における抵抗発熱、及びスポット溶接点に対する加圧によって生じる固有変形をナゲット要素に設定するナゲット要素設定プロセスを有する。このナゲット要素と、複数の部材に対してスポット溶接を行うことで製造される構造体のFEM解析用モデルとに基づいて、FEM解析が行われる。したがって、スポット溶接における抵抗発熱と加圧を考慮して、溶接変形の予測結果を高速で計算できる変形予測プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】構造体を製造するために行われるスポット溶接を説明する概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る変形予測システムの全体構成を示す図である。
【
図4】
図1のスポット溶接を行うときの固有変形を模式的に示した図である。
【
図5】
図2の変形予測システムのフローチャートである。
【
図6】
図5の構造体データ取り込みプロセスの入力画面を示す図である。
【
図7】
図5の構造体データ取り込みプロセスの別の入力画面を示す図である。
【
図9】
図1の構造体のFEM解析用モデルを示す図である。
【
図10】
図5のナゲット要素設定プロセスを示すフローチャートである。
【
図11】
図9のFEM解析用モデルに対してナゲット要素を追加した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0033】
図2は、本発明の実施形態に係る変形予測システムの全体構成を示す図である。
図2に示すように、本発明の実施形態に変形予測システムは、コンピュータ10を中心として構成され、コンピュータ10は、中央演算装置11と、固有変形データ及び溶接変形の計算に必要なデータなどを入力するためのキーボートなどの入力装置12と、固有変形データ及び溶接変形の計算結果などを表示するためのディスプレイなどの表示装置13と、固有変形データ及び溶接変形を計算するためのプログラムなどを記憶するメモリなどの記憶装置14と、固有変形データ及び溶接変形の計算結果などを出力するプリンタなどの出力装置15とを有し、固有変形データを保存するための固有変形データベース20に接続されている。
【0034】
中央演算装置11は、入力装置12、表示装置13及び出力装置15を制御するとともに、記憶装置14及び固有変形データベース20にアクセス可能に構成され、例えば入力装置12を介して外部のシステムから固有変形データを受け取り、固有変形データを固有変形データベース20に保存すると共に、入力装置12を介して入力された情報と記憶装置14に記録されているプログラムやデータを用いて、溶接変形の計算をするように構成されている。
【0035】
固有変形データベース20には、溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードが予め登録されている。
【0036】
図3は、
図2の記憶装置14の構成を示す図である。
図3に示すように、記憶装置14は、プログラム記憶部とデータ記憶部を有しており、プログラム記憶部には、第1の部材と第2の部材が溶接されてなる構造体の溶接変形を有限要素解析によって計算するための溶接変形計算プログラムが記憶されている。
【0037】
溶接変形計算プログラムは、スポット溶接が行われる部材の図形データを有限要素分割して解析モデルを作成するための解析モデル作成プログラムと、解析モデルに固有変形データを適用して弾性FEM解析によって溶接変形を算出するためのFEM解析プログラムとが記憶されている。
【0038】
一方、データ記憶部には、第1の部材と第2の部材を溶接してなる構造体の図形データが記録される構造体形状データファイルと、構造体における各スポット溶接点について、互いに溶接される部材の材料物性及び溶接条件が記録される材料物性溶接条件ファイルと、構造体の溶接変形の計算結果が記録される溶接変形計算結果ファイルとが設けられている。
【0039】
次に、固有変形データベース20に保存されている固有変形データについて具体的に説明する。
【0040】
上述のように、固有変形データベース20には、入力装置12を介して外部のシステムから受け取った同種材料または異種材料を対象とする溶接の条件情報と固有変形データとを一組とする既存のレコードが予め登録されている。
【0041】
上述のように、第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bは、それぞれ、略円柱形状を有するため、スポット溶接点140における溶接影響領域も略円柱形状になる。溶接影響領域の内部では抵抗発熱により点状の溶接接合部が得られ、この接合部をナゲットと呼称する。
【0042】
図4は、
図1のスポット溶接を行うときの固有変形を模式的に示した図である。特に、
図4では、
図1に示す第1の部材110と第2の部材120に対して行われるスポット溶接について、固有変形ひずみ領域のX方向において、スポット溶接が行われるナゲットの直径を有する部分を部分的に取り出して示している。
【0043】
図4(a)は、構造体130が面内方向に変形するときの面内固有変形を含む面内変形モードを示す。
図4(a)に示す例において、この面内変形モードは、スポット溶接が行われた後、構造体130の冷却によって、構造体130が面内方向に熱収縮するときの面内収縮モードを含む。面内変形モードにおいて、構造体130の内側には、熱収縮に沿って、矢印で示す面内固有変形が生じる。この面内固有変形は、スポット溶接点140から面内方向に縮むように生じる。
【0044】
図4(b)は、スポット溶接を行うとき、第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bにより与えられるスポット溶接点140に対する加圧によって、構造体130が面外方向に収縮するときの面外収縮モードを示す。この面外収縮モードにおいて、構造体130の内側には、収縮に沿って、矢印で示す面外収縮固有変形が生じる。この面外収縮固有変形は、スポット溶接点140から面外方向に縮むように生じる。
【0045】
図4(c)は、スポット溶接を行うときのスポット溶接点140における抵抗発熱によって、構造体130が面外方向のZ方向上下に対向するように湾曲するときの面外曲げモードを示す。この面外曲げモードにおいて、構造体130の内側には、湾曲に沿って、矢印で示す面外曲げ固有変形が生じる。この面外曲げ固有変形は、面外方向のZ方向上下に対向するように生じる。
【0046】
本実施形態において、固有変形データは、
図4(a)~4(c)に示す面内変形モード、面外収縮モード、及び面外曲げモードの3種類を有する。したがって、固有変形データは、それぞれ、面内変形モード、面外収縮モード、及び面外曲げモードにおいて生じる面内固有変形、面外収縮固有変形、及び面外曲げ固有変形を含み、同種材料または異種材料を対象とする溶接の条件情報と組み合わされて、既存のレコードとして固有変形データベース20に登録されている。
【0047】
本実施形態において、面内固有変形、面外収縮固有変形、及び面外曲げ固有変形は、固有応力として与えられている。この固有応力は、変位‐ひずみ関係式および応力‐ひずみ関係式に基づき算出する。
【0048】
本実施形態において、面内固有変形、面外収縮固有変形、及び面外曲げ固有変形などの固有変形は、固有応力として与えられているが、固有ひずみとして与えられてもよい。または、上述の固有変形は、固有応力をスポット溶接点140の近傍で積分することで計算される荷重として与えられてもよい。
【0049】
次に、第1の部材と第2の部材を溶接してなる構造体の溶接変形をFEM解析によって予測する動作について具体的に説明する。
【0050】
図5は、
図2の変形予測システムのフローチャートである。
【0051】
まず、変形予測システムは、構造体データ取り込みプロセスS1を動作させる。この構造体データ取り込みプロセスS1は、入力装置12を介して、記憶装置14のデータ記憶部に記憶されている構造体形状データファイルからいずれかの構造体の図形データを取り込むように構成されている。
【0052】
図6は、
図5の構造体データ取り込みプロセスS1の入力画面を示す図である。この入力画面は、表示装置13に表示される。
【0053】
図6に示す入力画面W1には、スポット溶接が行われる部材の図形データを示すように構成されている形状取り込み画面W11が表示されている。この形状取り込み画面W11の下方には、記憶装置14に記録されている構造体形状データファイルからいずれかの構造体の図形データを選択できるように構成されている選択ボタンW12が表示されている。
【0054】
本実施形態において、形状取り込み画面W11には、選択ボタンW12を押すことによって選択された構造体130の3次元データの正面図と平面図が表示されている。
【0055】
図6の入力画面W1には、選択ボタンW12に隣接するように入力ボタンW13が表示されている。この入力ボタンW13を押すことにより、形状取り込み画面W11に表示されている構造体130の3次元データが構造体データ取り込みプロセスS1に入力される。この構造体130の3次元データには、スポット溶接点140の位置も含まれている。
【0056】
さらに、構造体データ取り込みプロセスS1では、入力装置12を介して、構造体130の第1の部材110と第2の部材120の材質や板厚、及び第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bに与えられる電流と通電時間などの溶接の条件情報が入力される。
【0057】
図7は、
図5の構造体データ取り込みプロセスS1の別の入力画面を示す図である。この入力画面は、表示装置13に表示される。
【0058】
図7に示す入力画面W2には、スポット溶接が行われる部材の材料物性が入力されるように構成されている材料物性入力画面W21と、スポット溶接の溶接条件が入力される溶接条件入力画面W22が表示されている。
【0059】
本実施形態において、材料物性入力画面W21には、構造体130の第1の部材110と第2の部材120の材料物性、すなわち材料分類、板厚、密度、比熱、及び熱膨張係数が入力される。また、溶接条件入力画面W22には、第1の部材110と第2の部材120に対して行われるスポット溶接の溶接条件、すなわち第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bに与えられる電流、通電時間、加圧、初期ギャップが入力される。
【0060】
この溶接条件入力画面W22の下方には、入力ボタンW23が表示されている。この入力ボタンW23を押すことにより、材料物性入力画面W21に入力された材料物性と、溶接条件入力画面W22に入力された溶接条件とが構造体データ取り込みプロセスS1に入力される。
【0061】
図5に戻り、変形予測システムは、構造体データ取り込みプロセスS1を動作させた後、溶接打点抽出プロセスS2を動作させる。この溶接打点抽出プロセスS2は、構造体データ取り込みプロセスS1において取り込まれた構造体130の3次元データから、スポット溶接点140の位置を抽出するように構成されている。
【0062】
【0063】
図示するように、構造体130の第2の部材120の上面には、構造体130の第1の部材110が重ねて配置されている。また、第1の部材110の凸部112に対するX方向右側において、スポット溶接点140が設けられている。溶接打点抽出プロセスS2において、このスポット溶接点140の位置が抽出される。
【0064】
図5に戻り、変形予測システムは、溶接打点抽出プロセスS2を動作させた後、FEM解析用モデル作成プロセスS3を動作させる。このFEM解析用モデル作成プロセスS3は、構造体130の3次元データに基づいて、構造体130のFEM解析用モデルを作成するように構成されている。
【0065】
図9は、
図1の構造体130のFEM解析用モデル330を示す図である。
【0066】
FEM解析用モデル330において、構造体130の第1の部材110と第2の部材120は、それぞれ、有限要素分割されて、第1の解析用モデル310と第2の解析用モデル320として作成されている。第1の解析用モデル310と第2の解析用モデル320は、それぞれ、破線で囲まれた四角形で示す複数の微小要素を有する。FEM解析用モデル作成プロセスS3において、上述の第1の解析用モデル310と第2の解析用モデル320を含むFEM解析用モデル330が作成される。また、このFEM解析用モデル330は、構造体130の3次元データと同様に、スポット溶接点140の位置を含む。
【0067】
図5に戻り、変形予測システムは、FEM解析用モデル作成プロセスS3を動作させた後、ナゲット要素設定プロセスS4を動作させる。このナゲット要素設定プロセスS4は、スポット溶接点140の位置において、スポット溶接点140のFEM解析用モデルとしてナゲット要素を作成すると共に、固有変形データベース20に保存されている固有変形データに基づいて、スポット溶接を行うときのスポット溶接点140における抵抗発熱、及びスポット溶接点140に対する加圧によって生じる固有変形を該ナゲット要素に設定するように構成されている。
【0068】
図10は、
図5のナゲット要素設定プロセスS4を示すフローチャートである。
【0069】
ナゲット要素設定プロセスS4では、固有変形データ取り込みプロセスS41が動作される。この固有変形データ取り込みプロセスS41は、構造体データ取り込みプロセスS1において入力された溶接の条件情報に従って、固有変形データベース20から、入力された溶接の条件情報に対応する固有変形データを取り込むように構成されている。
【0070】
次に、溶接打点取り込みプロセスS42が動作される。この溶接打点取り込みプロセスS42は、溶接打点抽出プロセスS2において抽出されたスポット溶接点140の位置を取り込むように構成されている。
【0071】
次に、ナゲット要素作成プロセスS43が動作される。このナゲット要素作成プロセスS43は、略円柱形状の第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bによって与えられる抵抗発熱及び加圧により生じる固有変形をスポット溶接点140の周りに再現するため、スポット溶接点140の周りの微小要素の形状を変化させて、スポット溶接点140の位置を中心とした放射状の形状のナゲット要素を作成する。
【0072】
図11は、
図9のFEM解析用モデル330に対してナゲット要素を追加した図である。
【0073】
本実施形態において、スポット溶接点140の周りには、スポット溶接点140の位置を中心とした放射状の形状、特に八角形状のナゲット要素340が作成される。
【0074】
図10に戻り、ナゲット要素作成プロセスS43において、ナゲット要素340が作成された後、固有変形設定プロセスS44が動作される。この固有変形設定プロセスS44は、固有変形データ取り込みプロセスS41において取り込まれた固有変形データから、面内変形モード、面外収縮モード、及び面外曲げモードを参照して、面内変形モード、面外収縮モード、及び面外曲げモードにおいて生じる面内固有変形、面外収縮固有変形、及び面外曲げ固有変形をナゲット要素340に設定する。
【0075】
図5に戻り、変形予測システムは、ナゲット要素設定プロセスS4を動作させた後、溶接変形計算プロセスS5を動作させる。この溶接変形計算プロセスS5は、上述のナゲット要素340が設定されたFEM解析用モデル330に対してFEM解析を行うによって構造体130の溶接変形が算出されるように構成されている。また、構造体130の溶接変形が算出されると、解析結果である構造体130の溶接変形が溶接変形計算結果ファイルに記録されるとともに出力装置15に出力される。
【0076】
このように、本実施形態に係る変形予測システムは、スポット溶接点140の位置において、スポット溶接点140のFEM解析用モデルとして構成されているナゲット要素340を作成すると共に、固有変形データベースに保存されている固有変形データに基づいて、スポット溶接を行うときのスポット溶接点140における抵抗発熱、及びスポット溶接点140に対する加圧によって生じる固有変形をナゲット要素340に設定するナゲット要素設定プロセスS4を有する。
【0077】
上述のナゲット要素340と、第1の部材110及び第2の部材120に対してスポット溶接を行うことで製造される構造体130のFEM解析用モデルとに基づいて、FEM解析が行われる。したがって、スポット溶接における抵抗発熱と加圧を考慮して、溶接変形の予測結果を高速で計算できる変形予測システムを提供できる。
【0078】
また、固有変形データは、スポット溶接の後、構造体130の冷却によって、構造体130が面内方向に熱収縮するときの面内固有変形を含む面内変形モードと、スポット溶接を行うときのスポット溶接点140に対する加圧によって、構造体130が面外方向に収縮するときの面外収縮固有変形を含む面外収縮モードと、スポット溶接を行うときのスポット溶接点140における抵抗発熱によって、構造体130が面外方向に湾曲するときの面外曲げ固有変形を含む面外曲げモードとを有する。したがって、スポット溶接における抵抗発熱と加圧によってスポット溶接点140において生じる面内固有変形、面外収縮固有変形、面外曲げ固有変形をナゲット要素340に設定することによって、より正確な溶接変形の予測結果を計算できる。
【0079】
また、ナゲット要素340は、スポット溶接点140の位置を中心とした八角形状に作成される。第1のスポット溶接ガン210aと第2のスポット溶接ガン210bは、一般的に、略円柱形状を有しているため、スポット溶接点140における実際の溶接影響領域は略円形になる。したがって、ナゲット要素340を略円形に近い八角形状に作成することによって、より正確な溶接変形の予測結果を高速で計算できる。
【0080】
本実施形態において、説明のため、スポット溶接点140は1つだけ設定されているが、複数のスポット溶接点が配置されてもよい。
【0081】
本実施形態において、固有変形データは、面内変形モード、面外収縮モード、及び面外曲げモードを有するが、他のモードや一部のモードだけを有してもよい。
【0082】
本実施形態において、面内変形モードは、スポット溶接が行われた後、構造体130の冷却によって、構造体130が面内方向に熱収縮するときの面内収縮モードを含むが、例えば、スポット溶接が行われるとき、構造体130が面内方向に熱膨張するときの面内膨張モードを含んでもよい。
【0083】
本実施形態において、ナゲット要素340を八角形状に作成されているが、例えば六角形状や十角形状に作成されてもよい。
【0084】
本実施形態において、固有変形データベース20には、溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードが予め登録されているが、中央演算装置11により、入力装置12を介して入力された情報と記憶装置14に記録されているプログラムやデータを用いて、固有変形データの計算が行われると共に、計算された固有変形データが固有変形データベース20に保存されてもよい。この構成により、スポット溶接が行われることで製造される構造体の各スポット溶接点について、新たに入力される部材の材料物性及び溶接条件に対して、固有変形データを作成して、固有変形データベース20に登録することができる。
【符号の説明】
【0085】
20 固有変形データベース
110 第1の部材
120 第2の部材
130 構造体
140 スポット溶接点
330 構造体のFEM解析用モデル
340 ナゲット要素
S1 構造体データ取り込みプロセス
S2 溶接打点抽出プロセス
S3 FEM解析用モデル作成プロセス
S4 ナゲット要素設定プロセス
S5 溶接変形計算プロセス