(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028969
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】電磁波吸収性熱伝導性組成物及びその硬化物、ならびに半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20230224BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20230224BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20230224BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20230224BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230224BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20230224BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230224BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08L83/06
C08K5/5419
C08K3/013
H05K9/00 M
H05K7/20 F
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134978
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋士
(72)【発明者】
【氏名】楠木 貴行
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 明彦
【テーマコード(参考)】
4J002
4M109
5E321
5E322
【Fターム(参考)】
4J002CP043
4J002CP05X
4J002CP12W
4J002CP13W
4J002CP14W
4J002DA017
4J002DA018
4J002DA027
4J002DA068
4J002DA119
4J002DD019
4J002DE078
4J002DE108
4J002DE117
4J002DE148
4J002DF018
4J002DJ008
4J002DJ018
4J002DK008
4J002EX036
4J002FD017
4J002FD018
4J002FD143
4J002FD159
4J002FD207
4J002FD208
4J002GQ00
4J002GQ05
4M109AA01
4M109EA10
4M109EB04
4M109EB12
4M109EB13
4M109EC07
5E321BB32
5E321BB44
5E321BB51
5E321BB53
5E321BB60
5E321GG11
5E321GH03
5E322FA04
5E322FA09
(57)【要約】
【課題】放熱特性と60~90GHzの高周波数帯に優れた電磁波吸収特性を有し、高湿潤下においてシリコーン部が変質しにくく、安定した電磁波吸収特性を維持する高信頼性の電磁波吸収性熱伝導性組成物を提供する。
【解決手段】
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)1分子中に3個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン又は片末端3官能の加水分解性シラン、
(D)白金族金属系硬化触媒、
(E)電磁波吸収充填材、及び
(F)熱伝導充填材
をし、60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域における、電磁波減衰量が10dB以上であり、熱伝導率が1W/(m・K)以上である電磁波吸収性熱伝導性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に3個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ヒドロシリル基のモル数が(A)成分中のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記一般式(1)又は(2)
【化1】
(式中、R
1は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、R
2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基及び炭素数6~12の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、1分子中のR
1及びR
2は同一であっても異なっていてもよい。aは1~120の整数であり、bは1~100の整数である。)
で示される、片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン又は片末端3官能の加水分解性シラン:5~300質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:(A)成分に対する白金族金属元素質量換算で0.1~500ppm、
(E)電磁波吸収充填材:5~500質量部、及び
(F)熱伝導充填材:500~5,000質量部
を含有し、60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域における、電磁波減衰量が10dB以上であり、熱伝導率が1W/(m・K)以上である電磁波吸収性熱伝導性組成物。
【請求項2】
(E)電磁波吸収充填材が炭素系電磁波吸収充填材である、請求項1記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物。
【請求項3】
60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域における、電磁波減衰量が20dB以上である、請求項1又は2記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物を硬化させた硬化物であって、スパイラル方式粘度計を用いて、ロータ回転数10rpm、25℃の条件で測定した粘度が50~990Pa・sである電磁波吸収性熱伝導性硬化物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物を硬化させた硬化物であって、シート状である電磁波吸収性熱伝導性硬化物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物、又は請求項4もしくは5記載の電磁波吸収性熱伝導性硬化物を備えた半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収性熱伝導性組成物及びその硬化物、ならびに半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品や半導体装置等から発生する熱を放熱するための熱伝導材料への要求特性は年々高まっている。特に、5G対応通信機器や自動車自動運転システム、遠隔医療システム等では高速大容量通信が必要とされ、高周波帯域の電波が使用されるため発熱量も大きくなっている。さらに、電磁波ノイズによる誤作動を防止するために、放熱特性だけではなく、不要な高周波の電磁波を減衰させる電磁波吸収特性も有する熱伝導材料の開発が求められている。
【0003】
従来、鉄酸化物等の電磁波吸収体をバインダー樹脂中に混合した電磁波吸収組成物が開発されている(特許文献1)。しかしながら、電磁波吸収体を充填することにより、熱伝導充填材を高充填することができず、放熱特性の要求には対応しきれていない。
【0004】
そこで、炭素繊維等のアスペクト比を有する異方性熱伝導充填材を、磁場や押し出し成形等により配向させた電磁波抑制熱伝導性シートが開発されている(特許文献2)。これらの電磁波抑制熱伝導性シートは、厚さ方向のみに高い熱伝導性を有するといった特徴がある。しかしながら、異方性熱伝導充填材を配向させる必要があるため、シートとして取り扱うことしかできず、使用できる場所が制限されてしまう。
【0005】
また、特許文献3には、架橋シリコーンゲル中に電磁波吸収充填材を分散させた架橋済み流動性の電磁波吸収材が開発されている。しかしながら、これらの流動性の電磁波吸収材は、高湿潤下等においてシリコーンゲル部が劣化するため、電磁波吸収特性に変化が生じ、高信頼性を保つことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/176612号
【特許文献2】国際公開第2018/147228号
【特許文献3】特開2005-286195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、放熱特性と60~90GHzの高周波数帯に優れた電磁波吸収特性を有し、高湿潤下においてシリコーン部が変質しにくく、安定した電磁波吸収特性を維持する高信頼性の電磁波吸収性熱伝導性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン又は片末端3官能の加水分解性シラン、付加硬化触媒、電磁波吸収充填材及び熱伝導充填材を所定の量で配合した電磁波吸収性熱伝導性組成物が、放熱特性と60~90GHzの高周波数帯に電磁波吸収特性を有し、さらに高湿潤下においてシリコーン部の劣化がなく、安定した電磁波吸収特性を維持する高信頼性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
従って、本発明は下記電磁波吸収性熱伝導性組成物及びその硬化物、ならびに半導体装置を提供する。
1.(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に3個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ヒドロシリル基のモル数が(A)成分中のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記一般式(1)又は(2)
【化1】
(式中、R
1は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、R
2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基及び炭素数6~12の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、1分子中のR
1及びR
2は同一であっても異なっていてもよい。aは1~120の整数であり、bは1~100の整数である。)
で示される、片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン又は片末端3官能の加水分解性シラン:5~300質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:(A)成分に対する白金族金属元素質量換算で0.1~500ppm、
(E)電磁波吸収充填材:5~500質量部、及び
(F)熱伝導充填材:500~5,000質量部
を含有し、60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域における、電磁波減衰量が10dB以上であり、熱伝導率が1W/(m・K)以上である電磁波吸収性熱伝導性組成物。
2.(E)電磁波吸収充填材が炭素系電磁波吸収充填材である、1記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物。
3.60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域における、電磁波減衰量が20dB以上である、1又は2記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物。
4.1~3のいずれかに記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物を硬化させた硬化物であって、スパイラル方式粘度計を用いて、ロータ回転数10rpm、25℃の条件で測定した粘度が50~990Pa・sである電磁波吸収性熱伝導性硬化物。
5.1~3のいずれかに記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物を硬化させた硬化物であって、シート状である電磁波吸収性熱伝導性硬化物。
6.1~3のいずれかに記載の電磁波吸収性熱伝導性組成物、又は4もしくは5記載の電磁波吸収性熱伝導性硬化物を備えた半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物であれば、放熱特性と60~90GHzの高周波数帯に優れた電磁波吸収特性を有し、高湿潤下においてシリコーン部が変質しにくく、安定した電磁波吸収特性を維持する高信頼性の電磁波吸収性熱伝導性組成物となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<電磁波吸収性熱伝導性組成物>
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分及び(F)成分を必須成分として含む。
【0012】
[(A)成分]
(A)成分の1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、電磁波吸収性熱伝導性組成物の樹脂分における主成分であり、直鎖構造、分岐構造、環状構造を有するものを用いてもよい。(A)成分は1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。中でも、下記一般式(3)で示されるものが好ましい。
【化2】
(R
3は独立に炭素数2~8のアルケニル基である。R
4は独立に炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基及び炭素数2~8のアルケニル基から選ばれる基である。cは1~1,000の整数である。)
【0013】
R3は独立に炭素数2~8のアルケニル基であり、炭素数2~3のアルケニル基が好ましい。R3としては、例えば、ビニル基やアリル基等が挙げられる。R4は独立に炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基及び炭素数2~8のアルケニル基から選ばれる基である。中でも、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、炭素数6~8の芳香族炭化水素基、炭素数2~3のアルケニル基が好ましい。R4としては、例えば、メチル基、エチル基、フェニル基、ビニル基、アリル基等が挙げられ、中でも、メチル基、フェニル基が好ましい。R3、R4は適宜選択することができ、同一であっても異なっていてもよい。cは1~1,000の整数であり、10~500が好ましい。この範囲内であれば、充填剤との馴染みが良く、粘度が高くなり過ぎないため、作業性が良好である。
【0014】
[(B)成分]
(B)成分の1分子中に3個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、電磁波吸収性熱伝導性組成物の樹脂分における架橋剤である。(B)成分は上記を満たしていれば特に限定されず、直鎖構造、分岐構造や環状構造を有するものを用いてもよい。(B)成分は1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。中でも、ケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記一般式(4)で表される構造を有するものが好ましい。
【化3】
(式中、R
5は独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基及び炭素数6~20の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、R
5中3個以上は水素原子である。dは1~500の整数である。)
【0015】
式中、R5は独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基及び炭素数6~20の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、R5中3個以上は水素原子である。水素原子を除くその他のR5は、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~8の芳香族炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、フェニル基等が挙げられる。R5は適宜選択することができ、同一であっても異なっていてもよい。dは1~500の整数であり、10~200が好ましい。この範囲内であれば、(A)成分や充填剤との馴染みがより向上し、粘度が高くなり過ぎないため、作業性が良好である。水素原子を側鎖に有する場合は、dは1~200の範囲が好ましい。
【0016】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のアルケニル基のモル数に対して、(B)成分中のヒドロシリル基のモル数が0.1~5.0倍量となる量であり、0.5~3倍量となる量が好ましい。具体的には、(A)成分100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましい。(B)成分の配合量がこの範囲内であれば、(A)成分との硬化物において、高湿潤下でも変質しにくい高信頼性な樹脂となるため好ましい。なお、本発明において、(A)成分中のアルケニル基量及び(B)成分中のヒドロシリル基量は、以下に記載した1H-NMRスペクトルによって測定した積分比から算出した値を指す。
【0017】
[測定条件]
測定周波数:400MHz
測定サンプル:濃度25質量%の重クロロホルム溶液
内部標準物質:クロロホルム
【0018】
[(C)成分]
本発明の(C)成分は、下記一般式(1)又は(2)
【化4】
(式中、R
1は独立に炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、R
2は独立に炭素数1~6の脂肪族炭化水素基及び炭素数6~12の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、aは1~120の整数であり、bは1~100の整数である。)
で示される、片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン又は片末端3官能の加水分解性シランであり、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。(C)成分はウェッターであり、(A)成分及び(B)成分の樹脂部と、(E)成分及び(F)成分の充填材を馴染ませ、組成物の粘度の低減及び硬化物の強度を向上させるための成分である。
【0019】
R1は独立に炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。炭素数1~2の脂肪族炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基やエチル基等が挙げられる。R2は独立に炭素数1~6の脂肪族炭化水素基及び炭素数6~12の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、例えば、メチル基、エチル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、メチル基やフェニル基が好ましい。1分子中のR1及びR2は同一であっても異なっていてもよい。aは1~120の整数であり、好ましくは10~50である。bは1~100の整数であり、3~30が好ましい。この範囲内であれば、充填剤との馴染みがより向上し、粘度が高くなり過ぎないため、作業性が良好である。
【0020】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、5~300質量部であり、10~100質量部が好ましい。(C)成分の配合量がこの範囲内であれば、(A)成分と(B)成分の硬化を阻害することなく、組成物を低粘度化でき、さらに樹脂と充填材の馴染みが向上し、電磁波吸収特性が変化しにくい高信頼性のものになる。
【0021】
[(D)成分]
(D)成分の白金族金属系硬化触媒である付加硬化触媒は、(A)成分のアルケニル基と(B)成分のヒドロシリル基とをヒドロシリル化反応させる触媒であり、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。(D)成分としては、特に限定されないが、白金、白金化合物、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸6水塩のアルコール溶液等の白金触媒、シリカ、アルミナ又はシリカゲルのような担体に吸着させた粒子状白金金属、パラジウム触媒、ロジウム触媒等が挙げられるが、触媒効果の優れた白金又は白金化合物が好ましい。
【0022】
(D)成分の配合量は付加反応を促進できればよく、(A)成分に対して白金族金属元素換算で、0.1~500ppmであり、1~100ppmが好ましい。付加硬化触媒の添加量が0.1ppm未満の場合、付加反応が十分に促進されず、硬化が不十分であることがある。一方、500ppmを超える場合、これより多く加えても反応性に対する影響も少なく、不経済となるおそれがある。
【0023】
[(E)成分]
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、必須成分として電磁波吸収充填材を含む。電磁波吸収充填材は特に限定されず、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。電磁波吸収充填材としては、特に限定されないが、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、グラファイト、フラーレン、カーボンマイクロコイル、酸化鉄、ナノ酸化鉄、フェライト、軟磁性合金等が挙げられる。中でも、樹脂との馴染みがよく作業性に優れるため、炭素系電磁波吸収充填材が好ましく、優れた電磁波吸収特性の点から、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、カーボンマイクロコイルがより好ましい。このような炭素系電磁波吸収充填材を含めば、熱伝導性充填材との馴染みがよく、電磁波吸収特性と放熱性との両立性がさらに向上する。
【0024】
(E)成分の配合量は、電磁波吸収性熱伝導性組成物の、60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域における電磁波減衰量が10dB以上となる量であり、具体的には、(A)成分100質量部に対して、5~500質量部であり、50~400質量部がより好ましい。電磁波吸収充填材の配合量がこの範囲内であれば、混合後の粘度が高くなり過ぎず、作業性に優れ、高い電磁波吸収特性を有する。
【0025】
[(F)成分:熱伝導充填材]
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、必須成分として熱伝導充填材を含む。熱伝導充填材は特に限定されず、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。熱伝導充填材としては、特に限定されないが、シリカ、炭化ケイ素、酸化亜鉛、アルミナ(
酸化アルミニウム)、アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、金属粉末、窒化ホウ素、ナノダイヤモンド等が挙げられる。中でも、樹脂との馴染みがよく作業性に優れるため、シリカ、酸化亜鉛、アルミナが好ましい。
【0026】
(E)成分及び(F)成分の平均粒径は、0.01~200μmが好ましく、0.02~100μmがより好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折散乱法により、例えば、マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EX(日機装株式会社)による測定することができる。ここでの平均粒径とは、マイクロトラック(レーザー回折錯乱法)により粒体の体積分布を測定した際、この平均粒径を境に2つに分けた時、大きい側と小さい側が等量になる径を指す。なお、以下の本文中で記載される平均粒径は、すべてこの内容で定義される。アスペクト比は、5~50,000が好ましい。なお、アスペクト比の測定は、デジタルマイクロスコープにより撮影した観察画像から測定した平均値を指す。なお、以下の本文中で記載されるアスペクト比は、すべてこの内容で定義される。
【0027】
(F)成分の配合量は、電磁波吸収性熱伝導性組成物の、熱伝導率が1W/(m・K)以上となる量であり、具体的には、(A)成分100質量部に対して、500~5,000質量部が好ましく、1,000~4,000質量部がより好ましく、1,500~2,500質量部がさらに好ましい。熱伝導充填材の配合量がこの範囲内であれば、混合後の粘度が高くなり過ぎず作業性がより向上し、高い熱伝導特性を有する。
【0028】
[任意成分]
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、上記成分に加え必要に応じて、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール等のアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等の反応抑制剤、着色剤、引き裂き強度向上剤、耐熱向上剤、難燃性向上剤、酸化防止剤、接着助剤、離型剤、希釈溶剤、シランカップリング剤、ジメチルポリシロキサン、T単位含有オルガノポリシロキサンレジン、Q単位含有オルガノポリシロキサンレジン等を添加することができる。これらはそれぞれ1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
これらの添加剤の添加量は(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分及び(F)成分の合計量100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。これらの添加剤は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
[製造方法]
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、例えば、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分及び(F)成分、ならびに任意成分を混合することにより得ることができる。混合方法としては、特に限定されないが、公知の混練機で混合することができ、ニーダー、バンバリーミキサー、二本ロール、三本ロール、プラネタリーミキサー、ゲートミキサー、自転公転式ミキサー等が挙げられるが、操作が容易で、均一に混合が可能な三本ロール、プラネタリーミキサーが好ましい。混合する際には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)成分及びその他任意成分を同時に混練してもよく、または1種ずつ添加しながら混練してもよい。
【0031】
[電磁波吸収性熱伝導性組成物]
電磁波吸収性熱伝導性組成物の60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域における、電磁波減衰量が10dB以上であり、20dB以上であることが好ましい。つまり、60~90GHzの周波数範囲のどこかで、電磁波減衰量が10dB以上となればよく、20dB以上であることが好ましい。電磁波減衰量が10dB以上であれば、電磁波ノイズによる誤作動を防止できる電磁波吸収性熱伝導性組成物となり、さらに電磁波減衰量が20dB以上であれば、より優れた電磁波吸収性熱伝導性組成物となる。なお、電磁波減衰量の測定は、電磁波吸収性熱伝導性組成物をプレス成形により、100×100×0.3mmのシート状に成形した後、150℃/2hr加熱硬化し、電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートを得る。得られた電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートについて、フリースペースタイプSパラメータ透過法により、周波数60~90GHzにおける前記電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートの電磁波減衰量を測定する。
【0032】
電磁波吸収性熱伝導性組成物の熱伝導率は、1W/(m・K)以上が好ましく、1.5~5W/(m・K)がより好ましい。上述したように、本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、放熱特性と60~90GHzの高周波数帯に電磁波吸収特性を有し、高湿潤下においてシリコーン部が変質しにくく、安定した電磁波吸収特性を維持する高信頼性の電磁波吸収性熱伝導性組成物となる。
【0033】
[成形方法]
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、任意の形状に成形することができる。成形方法としては、特に限定されないが、公知の方法で成形することができ、プレス成形、コーティング成形、押し出し成形等が挙げられる。
【0034】
[硬化方法]
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、電磁波吸収性熱伝導性硬化物として用いることができる。硬化は、部分的に進行させてもよく、または完全に硬化させてもよい。硬化方法としては、常温での硬化も十分に可能だが、必要に応じて加熱してもよい。加熱を行う場合の加熱条件としては、50~200℃で1~240分程度が好ましい。
【0035】
硬化物としては、スパイラル方式粘度計を用いて、ロータ回転数10rpm、25℃の条件で測定した粘度が50~990Pa・sである、流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物とすることができる。粘度は100~500Pa・sがより好ましい。粘度がこの範囲内であれば、吐出性が良好であり、ディスペンス塗布が可能な作業性が良好なものとなり、かつポンピングアウトが生じにくいため好ましい。硬化方法は特に限定されないが、電磁波吸収性熱伝導性組成物の混合時にあらかじめ硬化させてもよく、電磁波吸収性熱伝導性組成物を塗布後、硬化させてもよい。上記粘度とするためには、(B)成分の配合量を、(A)成分中のアルケニル基のモル数に対して、(B)成分中のヒドロシリル基のモル数が0.1~0.9倍量となる量にすること、または公知の混練機で混合しながら硬化させることが好ましい。
【0036】
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物の硬化物は、電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートとすることができ、電磁波吸収特性と放熱性が両立した電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートとなる。電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートは、電磁波吸収性熱伝導性組成物をシート状に成形・硬化させ、シートとすることができる。また、電磁波吸収性熱伝導性組成物を半導体デバイス等へ塗布後、硬化させてシート状に成形してもよい。
【0037】
[半導体装置]
上記電磁波吸収性熱伝導性組成物、電磁波吸収性熱伝導性熱伝導性組成物の硬化物は、優れた電磁波吸収特性と放熱性を示すため、高速大容量通信対応機器や車載向けに使用される半導体装置に好適に用いることができる。特に、ミリ波レーダー用の半導体装置やECUに使用される半導体装置に好適である。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
[実施例、比較例]
使用した原料を示す。なお、括弧内に示される各シロキサン単位の結合順序は、下記に制限されるものではない。
【0040】
(A)成分
下記一般式(5)で示される分子鎖末端をビニル基で封止したジメチルオルガノポリシロキサン
【化5】
【0041】
(B)成分
下記一般式(6)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化6】
【0042】
(C)成分
(C-1):下記一般式(7)で示される片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン
(C-2):下記一般式(8)で示される片末端3官能の加水分解性シラン
【化7】
【0043】
(D)成分
2質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
(E)成分
(E-1)平均粒径50nmのカーボンブラック
(E-2)平均粒径100μmのグラフェン
(E-3)アスペクト比が20000のカーボンナノチューブ
【0044】
(F)成分
(F-1)平均粒径10μmのアルミナ
(F-2)酸化亜鉛1種
反応抑制剤:エチニルシクロヘキサノール
【0045】
[実施例1~5、比較例1~5]
表1,2に示す配合量で、(A)成分、(C)成分、(E)成分、(F)成分及び反応抑制剤を、プラネタリーミキサーを用いて2時間混合した。次いで、(D)成分を添加し、10分間混合した後、さらに(B)成分を添加し10分間混合し、電磁波吸収性熱伝導性組成物を得た。
【0046】
[実施例6、比較例6~7]
表3に示す配合量で、(A)成分、(C)成分、(E)成分、(F)成分及び反応抑制剤を、プラネタリーミキサーを用いて2時間混合した。次いで、(D)成分を添加し、10分間混合し、さらに(B)成分を添加し10分間混合した後に、160℃/2hrの条件で混合しながら架橋反応を進行させ、流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物を得た。
【0047】
<熱伝導率測定>
ISO/CD 22007-2に準拠した方法(ホットディスク法)により、電磁波吸収性熱伝導性組成物及び流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物をラップフィルムで包んだ状態で熱伝導率(W/(m・K))を測定した。結果を表1~3に示す。
【0048】
<電磁波減衰量測定>
電磁波吸収性熱伝導性組成物をプレス成形により、100×100×0.3mmのシート状に成形した後、150℃/2hr加熱硬化し、電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートを得た。フリースペースタイプSパラメータ透過法により、周波数60~90GHzにおける前記電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートの電磁波減衰量(dB)を測定した。周波数75GHzにおける前記電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートの電磁波減衰量(dB)を表1,2に示す。
【0049】
<耐湿性試験>
電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートを85℃/85%RH/500hrの条件で静置した後、前記電磁波減衰量測定と同様の方法で電磁波減衰量(dB)を測定した。周波数75GHzにおける前記電磁波吸収性熱伝導性シリコーンシートの電磁波減衰量(dB)を表1,2に示す。
【0050】
<粘度測定>
流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物の粘度を、スパイラル方式粘度計を用いて10rpm・25℃の条件で測定した。結果及び表3に示す。
【0051】
<吐出性評価>
流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物を、EFDシリンジ(5cc)へ充填し、圧力0.4MPa/5sの条件で吐出させ、吐出性を以下の評価基準によって評価した。結果を表3に示す。
○:吐出量1g以上
×:吐出量1g未満
【0052】
流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物を、直径20mmの円形で厚み0.5mmとなるように2枚のガラス基板間へ塗布し、150℃/500hrの条件で静置し、ポンピングアウト性を以下の評価基準によって評価した。結果を表3に示す。
○:オイル成分の分離や滲みだしがない
×:オイル成分の分離や滲みだしがある
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
実施例1~5の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、比較例1の電磁波吸収充填材が所定の量より不足している電磁波吸収性熱伝導性組成物に比べ、周波数75GHzにおける電磁減衰量が大きく、電磁波吸収特性に優れた電磁波吸収性熱伝導性組成物であることが分かる。また、比較例2の電磁波吸収充填材が所定の量より過剰な電磁波吸収性熱伝導性組成物は、樹脂部と充填材の馴染みが悪く、粘度が高くなり過ぎてしまい混合できず、組成物化することができなかったことから、実施例1~5の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、最適な電磁波吸収充填材を含有している電磁波吸収性熱伝導性組成物であることが分かる。
【0057】
また、実施例1~5の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、比較例2の熱伝導充填材が所定の量より不足している電磁波吸収性熱伝導性組成物に比べ、熱伝導率が大きく、放熱特性に優れた電磁波吸収性熱伝導性組成物であることが分かる。また、比較例4の熱伝導充填材が所定の量より過剰な電磁波吸収性熱伝導性組成物は、樹脂部と充填材の馴染みが悪く、粘度が高くなり過ぎてしまい混合できず、組成物化することができなかったことから、実施例1~5の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、最適な熱伝導充填材を含有している電磁波吸収性熱伝導性組成物であることが分かる。
【0058】
また、実施例1及び実施例5の電磁波吸収性熱伝導性組成物は、比較例3の(C)成分ウェッターを所定量含有しない電磁波吸収性熱伝導性組成物に比べ、耐湿性試験後も樹脂部と充填材の馴染みが良く、また樹脂部の変質や充填材の抜け落ちが少ないため、周波数75GHzにおける電磁減衰量が、初期値からほとんど変動しない高信頼性の電磁波吸収性熱伝導性組成物であることが分かる。
【0059】
さらに、実施例6の流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物は、比較例6の粘度が低い流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物及び比較例7の粘度が高い流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物に比べ、粘度が最適であるため、吐出性とポンピングアウト性に優れることが分かる。なお、実施例6の流動性の電磁波吸収性熱伝導性硬化物の電磁波吸収性は実施例5と同等であった。
【0060】
以上のように、本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物であれば、放熱特性と60~90GHzの高周波数帯に優れた電磁波吸収特性を有し、高湿潤下においてシリコーン部が変質しにくく、安定した電磁波吸収特性を維持する高信頼性の電磁波吸収性熱伝導性組成物となる。
本発明の電磁波吸収性熱伝導性組成物、その硬化物は、優れた放熱性と電磁波吸収特性を有するため、高速大容量通信対応機器や車載向けに使用される半導体装置に好適に用いることができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。