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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029060
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】アルミナ焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20230224BHJP
   C04B 35/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135141
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
(72)【発明者】
【氏名】奈須 義総
(72)【発明者】
【氏名】貞岡 和男
(57)【要約】
【課題】レーザ照射により成形体を焼結する際に、等方的に収縮させることのできるセラミックス焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス粉末と炭素粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、前記混合粉末を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体にレーザ光を照射してセラミックス焼結部を形成する焼結工程と、を含むセラミックス焼結体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末と炭素粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体にレーザ光を照射してセラミックス焼結部を形成する焼結工程と、を含むセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス粉末は、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群から選択された1種以上からなる粉末である、請求項1に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項3】
照射する前記レーザ光の平均レーザ密度が50W/cm以上、600W/cm以下である、請求項1または2に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記混合粉末中の前記炭素粉末の含有量が0.2質量%以上、5.0質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項5】
下記の式(1)を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体の製造方法。

Da/Dc≧0.05・・・(1)

ここで、Daは前記セラミックス粉末の中心粒径(μm)、Dcは前記炭素粉末の中心粒径(μm)である。
【請求項6】
前記焼結工程は大気雰囲気下で行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記焼結工程は非酸化性雰囲気下で行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
セラミックス粉末と、炭素粉末を内包する複合炭素粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体にレーザ光を照射してセラミックス焼結部を形成する焼結工程と、を含むセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記複合炭素粉末は、アルミナと当該アルミナに包含された炭素粉末とを含む黒色アルミナ粉末である、請求項8に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項10】
アルミナと炭素粉末を含有する黒色アルミナ焼結体。
【請求項11】
前記炭素粉末の少なくとも一部が、前記黒色アルミナ焼結体の内部に存在している、請求項10に記載の黒色アルミナ焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミナ焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス焼結体の製造方法として、未焼結のセラミックス物品(成形体)の表面に炭素粉末を含む層を形成し、次いで、炭素粉末含有層の表面にレーザ光を照射する方法が知られている(例えば、特許文献1)。未焼結のセラミックス物品(成形体)は、焼結用セラミックス粒子から形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/135387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、特許文献1に記載されたセラミックス焼結体の製造方法を詳しく検討したところ、焼結時に成形体が収縮する際、レーザ照射方向における収縮率と、それに直交する方向における収縮率とが大きく異なることに気付いた。焼結時の収縮が等方的ではないと、得られたセラミックス焼結体に歪みが生じるおそれがある。
そこで、本発明の一実施形態では、レーザ照射により成形体を焼結する際に、等方的に収縮させることのできるセラミックス焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様1は、
セラミックス粉末と炭素粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体にレーザ光を照射してセラミックス焼結部を形成する焼結工程と、を含むセラミックス焼結体の製造方法である。
【0006】
本発明の態様2は、
前記セラミックス粉末は、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群から選択された1種以上からなる粉末である、態様1に記載のセラミックス焼結体の製造方法である。
【0007】
本発明の態様3は、
照射する前記レーザ光の平均レーザ密度が50W/cm以上、600W/cm以下である、態様1または2に記載のセラミックス焼結体の製造方法である。
【0008】
本発明の態様4は、
前記混合粉末中の前記炭素粉末の含有量が0.2質量%以上、5.0質量%未満である、態様1~3のいずれか1つに記載のセラミックス焼結体の製造方法である。
【0009】
本発明の態様5は、
下記の式(1)を満たす、態様1~4のいずれか1つに記載のセラミックス焼結体の製造方法である。

Da/Dc≧0.05・・・(1)

ここで、Daは前記セラミックス粉末の中心粒径(μm)、Dcは前記炭素粉末の中心粒径(μm)である。
【0010】
本発明の態様6は、
前記焼結工程は大気雰囲気下で行う、態様1~5のいずれか1つに記載の焼結体の製造方法である。
【0011】
本発明の態様7は、
前記焼結工程は非酸化性雰囲気下で行う、態様1~5のいずれか1つに記載の焼結体の製造方法である。
【0012】
本発明の態様8は、
セラミックス粉末と、炭素粉末を内包する複合炭素粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体にレーザ光を照射してセラミックス焼結部を形成する焼結工程と、を含むセラミックス焼結体の製造方法である。
【0013】
本発明の態様9は、
前記複合炭素粉末は、アルミナと当該アルミナに包含された炭素粉末とを含む黒色アルミナ粉末である、態様8に記載のセラミックス焼結体の製造方法である。
【0014】
本発明の態様10は、
アルミナと炭素粉末を含有する黒色アルミナ焼結体である。
【0015】
本発明の態様11は、
前記炭素粉末の少なくとも一部が、前記黒色アルミナ焼結体の内部に存在している、態様10に記載の黒色アルミナ焼結体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の製造方法によれば、成形体の焼結時に、等方的に収縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1A図1Dは、実施形態1に係るセラミックス焼結体の製造方法を示す概略断面図である。
図2図2A図2Cは、実施形態2に係るセラミックス焼結体の製造方法を示す概略断面図である。
図3図3は、成形体およびセラミックス焼結体の寸法について説明するための概略斜視図である。
図4図4は、実施例1の焼結体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図5図5は、実施例3の焼結体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6図6は、比較例1の焼結体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7図7は、実施例5の焼結体の断面の光学顕微鏡写真である。
図8図8は、比較例10の焼結体の断面の光学顕微鏡写真である。
図9図9は、実施例5の焼結体の断面のSEM-EDX写真である。
図10図10は、比較例10の焼結体の断面のSEM-EDX写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、セラミックス粉末を含む成形体に対してレーザ光を照射して焼結するセラミックス焼結体の製造方法において、焼結時の成形体の収縮を等方的なものとするために鋭意研究を行った。その結果、セラミックス粉末と炭素粉末とを混合した混合粉末を用いて成形体を形成し、その成形体にレーザ照射して焼結することにより、焼結時の収縮率が等方的になることを見出し、本発明を完成するに至った。
焼結時の収縮率が等方的になるメカニズムは以下のようなものであると推測される。
【0019】
レーザ照射による焼結工程では、炭素粉末が照射するレーザ光を吸収して発熱することにより、成形体が局所的に加熱される。その熱は、近接するセラミックス粉末に伝わり、セラミック粉末が焼結する。
特許文献1の製造方法では、成形体の上面に形成された炭素粉末含有層がレーザ光を吸収して発熱し、その熱は、成形体の上面から下面方向(つまり、レーザ照射方向と同じ方向)に伝わる。すなわち、熱の伝搬は、成形体の上面から下面に向かう一方向になる。熱の伝搬が一方向に偏っていることが、焼結時の収縮率の異方性の発生原因であると考えられる。
【0020】
そこで本願の実施形態に係る製造方法では、セラミックス粉末と炭素粉末とを混合し、その混合粉末から成形体を成形する。成形体にレーザ光を照射すると、成形体の内部までレーザ光が透過して、成形体内部にある炭素粉末がレーザ光を吸収する。そして、炭素粉末が発熱すると、その熱は、炭素粉末を中心に全方位に等方的に伝わる。つまり、熱の伝搬が全方向に万遍なく広がることから、焼結時の収縮率が等方的になると考えられる。
【0021】
本明細書において、「等方的に収縮」および「収縮率が等方的」とは、下記の式(2)で求めた割掛率の値が、式(3)を満たすことを意味する。

割掛率(%)=(セラミック焼結体の寸法)/(成形体の寸法)×100・・・(2)
0.91≧(レーザ照射方向における割掛率)/(レーザ照射方向と直交する方向おける割掛率)≧1.10・・・(3)
【0022】
割掛率とは、焼結後のセラミックス焼結体の寸法を、焼結前の成形体の寸法で割った値のことであり、収縮の程度の指標となる。なお、割掛率を求める場合には、セラミックス焼結体の寸法は、成形体の全体を焼結して得られたセラミックス焼結体を用いて測定する。
式(3)における「(レーザ照射方向における割掛率)/(レーザ照射方向と直交する方向おける割掛率)」を、割掛率の比と称することがある。割掛率の比が1に近いほど、等方的に収縮しているといえる。式(3)は、割掛率の比が0.91以上1.10以下の範囲にあることを規定している。
【0023】
以下に、本発明の実施形態に係る製造方法を詳細に説明する。
【0024】
<実施形態1:セラミックス焼結体の製造方法>
実施形態1に係るセラミックス焼結体の製造方法は、以下の工程1~3を含む。
[工程1:混合工程]セラミックス粉末と炭素粉末とを混合して混合粉末を得る
[工程2:成形工程]前記混合粉末を成形して成形体を得る、
[工程3:焼結工程]前記成形体にレーザ光を照射してセラミックス焼結部を形成する
以下、図1A図1Dを参照しながら、実施形態1に係るセラミックス焼結体の製造方法を説明する。
【0025】
[工程1:混合工程]
工程1では、セラミックス粉末と炭素粉末とを混合して混合粉末を得る。この混合粉末を用いて成形体を形成することにより、特許文献1の製造方法で必要とされていた炭素粉末含有層の形成工程を省略できる。
【0026】
セラミックス粉末は、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群から選択された1種以上からなる粉末とすることができる。これらの粉末からは、酸化アルミニウム(アルミナ)焼結体、酸窒化アルミニウム焼結体、または窒化アルミニウム焼結体を形成することができる。
【0027】
セラミックス粉末は、中心粒径Daが0.05μm以上100μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.08μm以上25μm以下であり、さらに好ましくは、0.10μm以上5.00μm以下であり、特に好ましくは、0.30μm以上3.00μm以下である。
セラミックス粉末の中心粒径は、レーザ回折分散法で測定して求めることができる。
【0028】
セラミックス粉末に含まれるセラミックス粒子の形状は、用途に合わせて選択可能であり、例えば球状、ブロック状、シート状、ファイバー状、ロッド状とすることができる。さらには、上記形状を有するセラミック粒子が結合したような、複雑な形状であってもよい。
なお、セラミックス粉末の形態(形状、粒径等)等を制御することで、得られるセラミックス焼結体の密度および透明度を変えることができる。例えば、セラミックス粉末の重装嵩密度が高いほど緻密体になりやすく、重装嵩密度が低いほど多孔質体になりやすい。セラミックス粉末に、大粒径のセラミックス粒子(中心粒径1μm以上)が含まれると透明体になりやすく、さらには、大粒径のセラミックス粒子に小粒径のセラミックス粒子(中心粒径1μm未満)を混合すると粗大細孔が少なくなって透明体になりやすい。よって、実施形態1の方法を用いて、緻密セラミックス焼結体、多孔質セラミックス焼結体、透明なセラミックス焼結体、不透明なセラミックス焼結体等を製造することもできる。
【0029】
炭素粉末はレーザ吸収材として機能する。工程3において、照射するレーザ光を炭素粉末が吸収して発熱することにより、成形体が予熱され、さらにレーザが照射されることで温度上昇が進行した結果、成形体が焼結される。
炭素粉末の形状は、限定されず、例えば粒子状、粉末状、ブロック状、シート状、ファイバー状、ロッド状とすることができる。
【0030】
また、炭素粉末としては、炭素のみからなる炭素粉末の他、炭素以外の材料に包含された炭素粉末(これを「複合炭素粉末」と称する)が使用できる。言い換えると、複合炭素粉末は、他の材料からなる粉末であって、炭素粉末を含むものである。他の材料が透光性であれば、そこに含まれる炭素粉末はレーザ光を吸収できるため、炭素のみからなる炭素粉末と同様に、本発明の実施形態で使用し得る。
複合炭素粉末としては、アルミナ焼結体の内部に炭素粉末を含む黒色アルミナ粉末が挙げられる。
【0031】
本明細書において、「炭素以外の材料に包含された炭素粉末」とは、複合炭素粉末の少なくとも一部において、炭素粉末が、炭素粉末以外の材料(例えばアルミナ)によって覆われていればよい。また、炭素粉末は、炭素粉末以外の材料で完全に覆われていなくてもよく、炭素粉末の一部分一部が当該材料の表面から露出していてもよい。
「炭素以外の材料に包含された炭素粉末」の一例では、炭素粉末は、複合炭素粉末(例えば黒色アルミナ焼結体の粉末)の表面から、0.1μm以上の深さに存在している。
【0032】
混合粉末は、混合粉末中の炭素粉末の含有量が0.2質量%以上5.0質量%未満であることが好ましく、焼結体に占めるセラミックスの割合を確保でき、かつレーザ照射によって十分に焼結を進行させることができる。混合粉末中の炭素粉末の含有量は、より好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下、更に好ましくは0.7質量%以上2.0質量%以下である。
【0033】
複合炭素粉末の場合、混合粉末中の炭素粉末の含有量は、炭素以外の材料を除いた炭素粉末のみの含有量のことを意味する。複合炭素粉末の場合における、混合粉末中の炭素粉末の含有量炭素粉末の含有量に換算すると、0.001質量%以上、5.0質量%未満が好ましい。
【0034】
セラミックス粉末の中心粒径Da(μm)と、炭素粉末の中心粒径Dc(μm)とが、以下の式(1)の関係を満たすことが好ましい。

Da/Dc≧0.05・・・(1)

式(1)は、セラミックス粉末の中心粒径Daが、炭素粉末の中心粒径Dcの0.05倍以上であることを規定している。言い換えると、炭素粉末の中心粒径Dcは、セラミックス粉末の中心粒径Daの20倍以下であることが好ましい。
【0035】
セラミックス粉末と炭素粉末の各々の中心粒径が式(1)に規定する関係を満たすと、炭素粉末が存在しても、セラミックス粉末同士が十分に接触できるため、セラミック粉末を焼結することができる。
【0036】
炭素粉末の粒径が大きすぎると、レーザ照射時に炭素粉末の近傍が局所的に加熱されて、発熱ムラが大きくなり、焼結部が割れるおそれがあるため、炭素粉末の中心粒径Dcは、セラミックス粉末の中心粒径Daの20倍以下であることが好ましい。
【0037】
炭素粉末の中心粒径Dcに対するセラミックス粉末の中心粒径Daは、より好ましくは1倍以上、更に好ましくは3倍以上である。
炭素粉末の中心粒径は、レーザ回折分散法で測定して求めることができる。
【0038】
なお、炭素粉末が複合炭素粉末の場合、炭素粉末の中心粒径Dc(つまり、複合炭素粉末の中心粒径粒径)は、式(1)を満たさなくてもよい。
複合炭素粉末の場合、炭素粉末は炭素以外の材料(例えばアルミナ)に包含されている。そのアルミナ部分はセラミックス粉末と焼結できるため、複合炭素粉末の中心粒径が大きく、式(1)を満たさなかったとしても、セラミックス粉末は十分に焼結が可能と考えられる。
【0039】
なお、複合炭素粉末に包含された炭素粒子についても、炭素粒子の中心粒径が式(1)を満たさなくてもよい。複合炭素粉末では、炭素粉末の周囲の材料(例えばアルミナ)が既に焼結しているため、複合炭素粉末に含まれる炭素粉末が大きくても、その回りのアルミナ部分とセラミックス粉末が接触することができるので、セラミックス粉末は十分に焼結が可能と考えられる。
【0040】
混合工程では、セラミックス粉末と炭素粉末とを、ある程度混合する必要があり、これにより、[工程3]の焼結工程において、焼結が等方的に伝わって収縮率を等方的にすることができる。
混合は、例えば混合機(ダブルコーンブレンダー)等により拡散混合、乳鉢を用いたすりつぶし、ボールミル、ジェットミル等により粉砕しながら混合すること等が挙げられる。
なお、セラミックス粉末と炭素粉末とは、炭素粉末が混合粉末中にある程度分散していればよく、完全に均一になるまで混合する必要はない。「ある程度分散」とは、ボールミルで1分~15分の混合を行って達成できる分散の程度である。なお、より長時間の混合(例えば、3時間~72時間)を行って、完全に均一になるまで混合してもよい。
【0041】
なお、セラミックス焼結体の物性に影響しない範囲であれば、混合粉末は、セラミックス粉末および炭素粉末以外の粉末を含んでいてもよい。例えば、混合粉末は、混合粉末の全量に対して25%以下であれば、他の粉末(例えば黒色イットリア)を含有してもよい。
【0042】
[工程2:成形工程]
工程2では、混合粉末10を成形して、成形体20を得る。例えば、図1Aのように、成形用の金型60に混合粉末10を投入し、加圧治具61を矢印F方向に加圧して、加圧成形する。これにより、図1Bに示すように、所定の形状の成形体20が得られる。
【0043】
なお、実施形態1の製造方法では、特許文献1で行われる炭素粉末含有層の形成工程が不要である。通常、炭素粉末含有層の形成はカーボン粉末を含むスプレーを吹き付ける等によって形成する。そのため、成形体20の強度が低く、脆弱な成形体20であると、炭素粉末含有層の形成中に成形体が崩壊するおそれがある。本発明の実施形態では、炭素粉末含有層の形成工程を省略できるので、成型後の強度が極めて低い成形体20を用いて、セラミックス焼結体を製造することができる。成型後の強度が極めて低い成形体20を用いると、気孔率の高い多孔質セラミックス焼結体を製造しやすい。
【0044】
[工程3:焼結工程]
工程3は、成形体20を焼結する工程である。工程3では、成形体20の表面20Aにレーザ光31を照射して(図1C)、セラミックス焼結部41を含むセラミックス焼結体40を作製する(図1D)。本明細書においては、「セラミックス焼結体40」とは、セラミックス焼結部41を少なくとも一部に含むものを意味する。よって、セラミックス焼結体40は、一部に非焼結部42を含んでもよい。セラミックス焼結体40は、セラミックス焼結部41のみからなることが好ましい。
【0045】
図1Cに示すように、レーザ装置30からのレーザ光31を、成形体20の表面20Aの所定の位置に照射すると、レーザ光31は成形体20の内部まで到達し、成形体20内部にある炭素粉末が、レーザ光31のエネルギーを吸収して発熱する。レーザ光31の照射位置の直下の領域(これを「直下領域31R」と称する)内に存在する部分20Pは、800℃以上(推定温度)に予熱される。成形体20の部分20Pに、更にレーザ光31が照射されることで、部分20Pの温度上昇が進行する。その結果、部分20P内にあるセラミックス粉末が焼結され、セラミックス焼結部41が形成される(図1D)。これにより、成形体20の所望の位置(部分20P)にのみ、局所的にセラミックス焼結部41を形成できる。
【0046】
なお、成形体20は、照射位置の直下領域31Rの範囲外にある部分では焼結されないため、焼結されなかった部分は非焼結部42となる。非焼結部42は、必要に応じて除去してもよく、さらに追加のレーザ照射を行って非焼結部42を焼結して、セラミックス焼結部41を拡大してもよい。
【0047】
レーザ光31は、図1Cに示すように、成形体20の一部(例えば、成形体20の表面20Aの所定位置)にのみ照射してもよいが、成形体20の全体(成形体20の表面20A全体)に照射してもよい。成形体20の全体にレーザ照射を行うことにより、成形体20全体を焼結部41とすることができる。レーザ光31を成形体20の全体に照射する方法としては、スポット径の大きいレーザ光31を使用して同時に全面照射する方法(一斉照射)と、スポット径の小さいレーザ光31の照射位置を相対的に移動させることにより成形体20の全体に照射する方法(走査照射)がある。走査照射としては、例えば、成形体20を固定した状態でレーザ光をスキャンさせる方法、光拡散レンズを介してレーザ光の光路を変化させながら照射する方法、又は、レーザ光の光路を固定して、成形体20を移動させながらレーザ光を照射する方法が挙げられる。
【0048】
使用するレーザの種類は特に限定されないが、レーザ光の吸収能を高める観点から、炭素粉末による吸収率の高い波長域(500nm~11μm)のレーザ光を用いることが好ましい。例えば、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:YLFレーザ、チタンサファイアレーザ、炭酸ガスレーザ等を用いることができる。
【0049】
レーザ光の照射条件は、焼結面積、焼結深さ等により、適宜選択される。平均レーザ密度は、焼結を適切に進行させる観点から、好ましくは50W/cm以上600W/cm以下であり、より好ましくは100W/cm以上550W/cm以下であり、さらに好ましくは150W/cm以上400W/cm以下であり、特に好ましくは、200W/cm以上350W/cm以下である。
なお、炭素粉末として複合炭素粉末を用いた場合、レーザ密度は、50W/cm以上400W/cm以下が好ましく、200W/cm以上400W/cm以下がより好ましい。
平均レーザ密度は、レーザ出力(W)をレーザ光のスポット面積(cm)で割って求める。
【0050】
一斉照射の場合、レーザ光の照射時間は、成形体20が十分に焼結される時間で設定すればよい。レーザ光の照射時間は、主にレーザ密度に基づいて設定され、例えば1秒間以上60分間以下で設定できる。
走査照射の場合、成形体20に対するレーザスポットの相対移動速度(これを「スキャンスピード」と呼ぶ)は、成形体20が十分に焼結される速度に設定すればよい。レーザ光のスキャンスピードは、主にレーザ密度に基づいて設定され、例えば10mm/s以上1000mm/s以下で設定できる。
【0051】
成形体20にレーザ光を照射して焼結する際の雰囲気は、大気雰囲気下で行うか、または非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とは、例えば窒素、アルゴン、およびヘリウム等のガス雰囲気、または真空雰囲気のことである。
焼結を大気雰囲気下で行うと、成形体20中の炭素粉末が酸化して二酸化炭素となるため、セラミックス焼結体40の焼結部41には炭素粉末がほとんど残らない。肉眼で視認すると、焼結前の成形体20は炭素粉末を含むため着色(黒色)しているが、焼結後の焼結部41は白色または透明である。
【0052】
一方、焼結を非酸化性雰囲気下で行うと、成形体20中の炭素粉末は酸化されないので、焼結後も、セラミックス焼結体40の焼結部41に炭素粉末が残存する。そのため、肉眼で視認すると、焼結後の焼結部41は、焼結前の成形体20と同様に着色(黒色)している。着色したセラミックス焼結体(黒色セラミックス焼結体)は、セラミックス焼結体の内部に炭素粒子が分散しているため、黒色セラミックス焼結体の断面を元素分析(例えばEDX)で分析すると、黒色セラミックス焼結体の内部に炭素原子が存在することが確認できる。
【0053】
「黒色セラミックス焼結体の内部」とは、焼結体の表面から、少なくとも50μm以上の深さのことである。また、炭素粉末は、少なくとも一部が黒色セラミックス焼結体の内部にあればよく、一部の炭素粉末が黒色セラミックス焼結体の表面に存在してもよい。
【0054】
黒色セラミックス焼結体としては、例えば黒色アルミナ焼結体が挙げられる。
【0055】
なお、焼結後の白色または透明のセラミックス焼結体の表面を黒色塗料で着色した塗装タイプの黒色セラミックス焼結体が従来から知られている。しかしながら、そのような塗装タイプのものは、焼結体の内部に炭素原子が存在しないため、実施形態1で得られる黒色セラミックス焼結体とは異なる。
【0056】
成形体20にレーザ光を照射する前に、成形体20を予熱してもよい。予熱温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上であり、予熱温度の上限は、通常、焼結用セラミックスの融点より200℃以上低い温度である。予熱は、例えば、赤外線ランプ、ハロゲンランプ、抵抗加熱、高周波誘導加熱、マイクロ波加熱等で行うことができる。
【0057】
焼結工程では、成形体20の内部に分散した炭素粉末を中心に、全方位に熱が進行して焼結が進行するため、焼結時の収縮率が、レーザ光の照射方向とそれに直交する方向とで等方的となる。つまり、成形体20は一様に収縮するので、歪みが少なく、寸法誤差の小さいセラミックス焼結体が得られる。よって、実施形態1の製造方法は、ニアネットシェイプでセラミックス焼結体を製造する際に好適である。
【0058】
また、特許文献1に記載の製造方法では、成形体の表面にのみ炭素粉末含有層が形成されているため、レーザ照射時に成形体の表面近傍の温度が局所的に高くなり、その部分の焼結が、他の部分よりも促進されると考えられる(焼結ムラの発生)。その結果、得られるセラミックス焼結体の強度は、表面近傍が高く、その他の部分(例えば側面)では低くなると推測される。
【0059】
これに対して、実施形態1の製造方法では、炭素粉末が成形体20の全体に分散されているので、焼結ムラが生じにくく、得られるセラミックス焼結体の強度の均一性がより容易に確保できる。
【0060】
なお、焼結時の収縮性の等方性の効果、および焼結ムラの抑制効果を得るためには、炭素粉末が成形体の内部に分散している必要はあるものの、ある程度分散していればよく、セラミック粉末と炭素粉末が完全に均一に分散している必要はない。
【0061】
<実施形態2:セラミックス焼結体の製造方法>
図2A図2Cは、実施形態2に係るセラミックス焼結体40の製造方法を説明するための概略断面図である。実施形態2では、成形体20を、基材24の上に形成している点で実施形態1と異なるが、その他の点については、実施形態1と同様である。以下、実施形態1と異なる点を中心に説明する。
【0062】
[工程1:混合工程]
工程1の混合工程は実施形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0063】
[工程2:成形工程]
図2Aに示すように、基材24上で、セラミックス粉末10を成形して、基材24上に成形体20を作製する。
基材24は、金属、合金及びセラミックスから選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。基材24上に成形体20を形成する方法としては、溶射法、電子ビーム物理蒸着法、レーザ化学蒸着法、コールドスプレー法の他に、スラリー(焼結用セラミックス粉末、分散媒及び必要に応じて用いられる高分子バインダーを含む)を塗布、乾燥、および脱脂して形成する方法等の、従来公知の方法で形成することができる。基材24と成形体20とは、接合されていてよいし、接合されずに成形体20が基材24の上に載置されていてもよい。
【0064】
[工程3:焼結工程]
図2Bおよび図2Cに示すように、成形体20の表面20Aにレーザ光31を照射することにより、成形体20の一部を焼結して、セラミックス焼結部41を形成する。これにより、基材24上に、セラミックス焼結部41と非焼結部42とを含むセラミックス焼結体40が形成される。
【実施例0065】
(実施例1~4)
実施例1~4で使用したセラミック粉末の種類および中央粒径Da、ならびに炭素粉末の添加方法、炭素粉末の中央粒径Dcおよび添加量(混合粉末中の炭素粉末の含有量)を表1に示す。セラミックス粉末として、市販されているα―アルミナ粉末(AES-11(住友化学株式会社製))を使用した。
【0066】
混合粉末中の炭素粉末の含有量が表1に記載の通りとなるように、セラミックス粉末と炭素粉末をそれぞれ秤量し、エタノールと共に乳鉢に入れて、10分間乳棒を使って混合した(事前混合)。その後、120℃で1時間加熱してエタノールを乾燥除去して、混合粉末を得た。混合粉末を100mg取り分け、ペレット成型用の金型(内径φ6mmの円筒形金型)に装填し、一軸プレス機で10MPaの成形圧力にて30秒加圧し、焼結用のアルミナ-炭素ペレット(直径φ6mmの成形体試料)を得た。
【0067】
次に、成形体試料の表面に、波長1070nmのレーザ光を照射した。スポットサイズはφ10mmであり、レーザ照射雰囲気、レーザ出力およびレーザ密度は表2に記載した通りとした。このレーザ照射により、成形体試料の全体が焼結された。
【0068】
(比較例1~3)
比較例1~3で使用したセラミック粉末の種類および中央粒径Da、ならびに炭素粉末の添加方法、炭素粉末の中央粒径Dcおよび添加量(混合粉末中の炭素粉末の含有量)を表1に示す。実施例1~3と同じく、セラミックス粉末として、α―アルミナ粉末(AES-11(住友化学株式会社製))を使用した。セラミックス粉末を100mg取り分け、ペレット成型用の金型(内径φ6mmの円筒形金型)に装填し、一軸プレス機で10MPaの成形圧力にて30秒加圧し、焼結用のアルミナペレット(直径φ6mmの成形体試料)を得た。
【0069】
成形体試料の表面に、日本船舶工具有限会社製エアゾール乾性黒鉛皮膜形成潤滑剤「DGFスプレー」(商品名)の吹き付けを約1秒間行った(スプレー塗布)。その後、これを30秒間放置することで、成形体試料の表面に厚さ約5μmの炭素粉末層を形成して、積層体試料を得た。
【0070】
次に、積層体試料の炭素粉末層の表面に、波長1070nmのレーザ光を照射した。スポットサイズはφ10mmであり、レーザ照射雰囲気(大気中)、レーザ出力およびレーザ密度は表2に記載した通りとした。このレーザ照射により、成形体試料の全体が焼結された。
【0071】
(比較例4~9)
比較例4~9で使用したセラミック粉末の種類および中央粒径Da、ならびに炭素粉末の添加方法、炭素粉末の中央粒径Dcおよび添加量(混合粉末中の炭素粉末の含有量)を表1に示す。実施例1~3と同じく、セラミックス粉末として、α―アルミナ粉末(AES-11(住友化学株式会社製))を使用した。
【0072】
混合粉末中の炭素粉末の含有量が表1に記載の通りとなるように、セラミックス粉末と炭素粉末をそれぞれ秤量し、エタノールと共に乳鉢に入れて、10分間乳棒を使って混合した(事前混合)。その後、120℃で1時間加熱してエタノールを乾燥除去して、混合粉末を得た。混合粉末を100mg取り分け、ペレット成型用の金型(内径φ6mmの円筒形金型)に装填し、一軸プレス機で10MPaの成形圧力にて30秒加圧し、焼結用のアルミナ-炭素ペレット(直径φ6mmの成形体試料)を得た。
【0073】
次に、成形体試料の表面に、波長1070nmのレーザ光を照射した。スポットサイズはφ10mmであり、レーザ照射雰囲気(大気中)、レーザ出力およびレーザ密度は表2に記載した通りとした。このレーザ照射により、成形体試料の全体が焼結された。
【0074】
(割掛率)
割掛率は、以下の式(2)から求めた。図3に示すように、レーザ光31の照射方向をV方向、レーザ照射方向と直交する方向をH方向とする。焼結前の成形体20におけるV方向の寸法をLBV、H方向の寸法をLBHとし、焼結後のセラミック焼結体40におけるV方向の寸法をLAV、H方向の寸法をLAHとし、それらの寸法を測定する。各測定値と、以下の式(2-1)、(2-2)を用いて、V方向の割掛率SとH方向の割掛率Sとを求めた。

割掛率(%)=(セラミック焼結体の寸法)/(成形体の寸法)×100・・・(2)
V方向の割掛率S=LAV/LBV×100・・・(2-1)
H方向の割掛率S=LAH/LBH×100・・・(2-2)
【0075】
収縮率の異方性を確認するために、以下の式(4)で定義する「割掛率の比TV/H」を求めた。

割掛率の比TV/H=(レーザ照射方向(V方向)における割掛率S)/(レーザ照射方向と直交する方向(H方向)における割掛率S)・・・(4)

割掛率の比TV/Hが1に近いほど、等方的に収縮している。本明細書では、TV/Hが0.91以上1.10以下であれば等方的であると判断する。
表2に、実施例1~4および比較例1~9の割掛率S、S、および割掛率の比TV/Hを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
(実施例1~3と、比較例1~3との比較)
実施例1~3は、セラミック粉末と炭素粉末とを混合した混合粉末を用いて成形体を形成したので、レーザ照射方向における割掛率Sとレーザ照射方向と直交する方向における割掛率Sとの差が小さく、割掛率の比TV/Hが0.90以上1.10以下の範囲内にあった。このことから、成形体は焼結時に等方的に収縮したことが分かる。
【0079】
比較例1~3は、セラミック粉末のみで成形体を形成した後に、その表面に炭素粉末層を形成したので、レーザ照射方向における割掛率Sは100%より大きく(収縮していない)ことに対して、レーザ照射方向と直交する方向における割掛率Sは小さい(収縮している)ため、割掛率の比TV/Hが1.10を超えていた。このことから、成形体は焼結時に異方的に収縮したことが分かる。
【0080】
実施例1、3および比較例1で得られたセラミック焼結体試料の断面のSEM写真を図4図6に示す。SEM写真は、日立ハイテク製 SU-8000を用いて、反射電子検出器で観察した。
図4のSEM写真から、実施例1では、多孔質のセラミックス焼結体が得られたことが分かる。図5のSEM写真から、実施例3では緻密なセラミックス焼結体が得られ、図6のSEM写真から、比較例1では比較的緻密なセラミックス焼結体が得られたことが分かる。図4図6は、いずれもレーザ出力は120Wであったが、得られたセラミックス焼結体は、一方は多孔質であり、他方は緻密体であり、全く異なっていた。
図4図6のいずれにおいても、炭素粒子は確認されなかった。このことから、大気中でレーザ照射したことにより、成形体中の炭素が全て除去されたことが分かる。
【0081】
(実施例3と、比較例4、7および8との比較)
実施例3は、割掛率の比TV/Hが0.90以上1.10以下の範囲内にあり、焼結時に等方的に収縮した成形体が得られた。
【0082】
比較例4は混合粉末中の炭素粉末の含有量が好適な範囲外(含有量が少ない)であることと、レーザ密度が306W/cmと比較的高めであったことから、レーザ照射による焼結が十分に進行しなかったものと推測される。
【0083】
比較例7および8は、混合粉末中の炭素粉末の含有量が好適な範囲外(含有量が多い)であることと、レーザ密度が306W/cmと比較的高めであったことから、比較例7では、割掛率の比TV/Hが1.10を超えており、成形体は焼結時に異方的に収縮したと推測される。これは、成形体試料の表面でレーザ光を過剰に吸収したためであると考えられる。比較例8は、混合粉末中の炭素粉末の含有量が特に多いため、成形体試料の表面でレーザ光を過剰に吸収して表面が溶融したと考えられる。
【0084】
(実施例3および4と、比較例9との比較)
実施例3および4は、炭素粉末の中央粒径Dcに対するセラミック粒子の中央粒径Daが0.05以上であった(つまり、上述の式(1)の関係を満たしている)ため、レーザ照射による焼結が十分に進行した。
【0085】
比較例9は、炭素粉末の中央粒径Dcに対するセラミック粒子の中央粒径Daが0.05未満であった(つまり、上述の式(1)の関係を満たしていない)ため、レーザ照射による焼結が十分に進行せず、得られた焼結体にひび割れが発生していた。セラミック粉末に対して炭素粉末が大きすぎたため、炭素粉末の近傍が局所的に加熱されたため、レーザ照射時の温度上昇の偏析が大きかったと考えられる。
【0086】
(実施例5)
実施例5で使用したセラミック粉末の種類および中央粒径Da、ならびに炭素粉末の添加方法、炭素粉末の中央粒径Dcおよび添加量(混合粉末中の炭素粉末の含有量)を表3に示す。セラミックス粉末として、市販されているα―アルミナ粉末(AA-03(住友化学株式会社製))を使用した。
実施例1~4と同様の手順で、焼結用のアルミナ-炭素ペレット(直径φ6mmの成形体試料)を得た。
【0087】
次に、成形体試料の表面に、波長1070nmのレーザ光を照射した。スポットサイズはφ10mmであり、レーザ照射雰囲気(Ar)、レーザ出力およびレーザ密度は表4に記載した通りとした。このレーザ照射により、成形体試料の全体が焼結された。
【0088】
(比較例10)
比較例10で使用したセラミック粉末の種類および中央粒径Da、ならびに炭素粉末の添加方法、炭素粉末の中央粒径Dcおよび添加量(混合粉末中の炭素粉末の含有量)を表3に示す。実施例5と同じく、セラミックス粉末として、α―アルミナ粉末(AA-03(住友化学株式会社製))を使用した。
比較例1~3と同様の手順で、成形体試料の表面に厚さ約5μmの炭素粉末層が形成された積層体試料を得た。
【0089】
次に、積層体試料の炭素粉末層の表面に、波長1070nmのレーザ光を照射した。スポットサイズはφ10mmであり、レーザ照射雰囲気(Ar)、レーザ出力およびレーザ密度は表4に記載した通りとした。このレーザ照射により、成形体試料の全体が焼結された。
【0090】
実施例5および比較例10で得られたセラミック焼結体試料の断面を光学顕微鏡で観察して、セラミック焼結体試料の色を観察した。光学顕微鏡観察は、VR3000(KEYENCE製)を用い、観察倍率35倍で行った。光学顕微鏡写真を、図7(実施例5)および図8(比較例10)に示す。
また、セラミック焼結体試料の断面をSEM-EDXで観察し、セラミック焼結体試料の内部における炭素原子の存在の有無を確認した。SEM-EDX写真は、SU-8000(日立ハイテク製)とX-max(堀場製作所製)を用いて取得した。SEM-EDX写真を、図9(実施例5)および図10(比較例10)に示す。
表4に、実施例5および比較例10のセラミック焼結体試料の断面の観察結果を示す。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
実施例5については、光学顕微鏡観察の結果から、セラミックス焼結体は、内部も黒色であることを確認した。また、EDXの観測結果から、実施例5のセラミックス焼結体は、内部に炭素原子が存在していることが確認された。このことから、Ar雰囲気下でレーザ照射したことにより、成形体中に混合した炭素粒子が除去されずに残っていたことが分かる。
【0094】
比較例10については、光学顕微鏡観察の結果から、セラミックス焼結体は、表面は黒色であるが、内部は白色であることを確認した。また、EDXの観測結果から、実施例5のセラミックス焼結体は、内部に炭素原子は明確には観察されなかった。このことから、Ar雰囲気下でレーザ照射したことにより、成形体表面に形成した炭素粉末層が除去されずに残っていたことが分かる。
【0095】
(実施例6)
実施例6で使用したセラミック粉末の種類および中央粒径Daを表5に示す。セラミックス粉末として、市販されているα―アルミナ粉末(AES-11(住友化学株式会社製))を使用した。
実施例6では、炭素粉末として、黒色アルミナ内に含まれた炭素粉末(複合炭素粉末)を使用した。具体的には、炭素粉末として、実施例5で作製した黒色の焼結体試料を粉砕したものを用いた。炭素粉末(黒色アルミナ粉末)の添加方法および黒色アルミナ粉末の添加量を表5に示す。なお、実施例5で作製した黒色の焼結体試料は、炭素粉末を1.0質量%含有する混合粉末を用いて作製した。黒色の焼結体試料には、炭素粉末がそのまま残存していると仮定すると、黒色アルミナ粉末の含有量(10質量%)を、混合粉末中の炭素粉末の含有量(つまり、黒色アルミナ粉末中の炭素粉末のみの含有量)に換算することができる。実施例6における炭素粉末の含有量の換算値は、0.1質量%となる。
実施例1~4と同様の手順で、焼結用のアルミナ-炭素ペレット(直径φ6mmの成形体試料)を得た。
【0096】
次に、成形体試料の表面に、波長1070nmのレーザ光を照射した。スポットサイズはφ10mmであり、レーザ照射雰囲気(大気中)、レーザ出力およびレーザ密度は表6に記載した通りとした。このレーザ照射により、成形体試料の全体が焼結された。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
実施例6では、焼結体を作製することができた。このことから、炭素粉末として、黒色アルミナ内に含まれた状態の炭素粉末を使用できることが分かった。また、黒色アルミナを用いると、炭素粉末の含有量(換算値)が0.1質量%と少ないにもかかわらず、問題なく焼結体を焼結することができた。その理由は定かではないが、黒色アルミナに含まれる炭素粉末は、炭素粉末そのものを使用する場合に比べて、大気中で焼結しても除去されにくかったためであると推測される。
また、割掛率の比TV/Hが0.90以上1.10以下の範囲内にあった。このことから、成形体は焼結時に等方的に収縮したことが分かる。
【符号の説明】
【0100】
10 混合粉末
20 成形体
24 基材
30 レーザ照射手段
31 レーザ光
40 アルミナ焼結体
41 アルミナ焼結部
42 非焼結部
60 金型
61 加圧治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10