(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029066
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】汚水の分解処理方法、及び汚水分解処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/32 20230101AFI20230224BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230224BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20230224BHJP
B01J 23/52 20060101ALI20230224BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20230224BHJP
C02F 1/74 20230101ALI20230224BHJP
【FI】
C02F1/32 ZAB
B01J35/02 J
B01J23/42 M
B01J23/52 M
C02F11/04 Z
C02F1/74 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135148
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】木内 正人
(72)【発明者】
【氏名】神 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 直之
【テーマコード(参考)】
4D037
4D050
4D059
4G169
【Fターム(参考)】
4D037AA12
4D037AB01
4D037BA18
4D037CA12
4D050AA15
4D050AB07
4D050BB01
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4G169AA03
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169BB04B
4G169BC33B
4G169BC50B
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4G169CA05
4G169CA10
4G169DA05
4G169HA01
4G169HB01
4G169HC02
4G169HC29
4G169HD09
4G169HE05
4G169HF02
4G169HF03
(57)【要約】
【課題】オゾンを発生させることなく、汚水を効率的に分解処理する方法を提供する。
【解決手段】
汚水の分解処理方法であって、
分解処理対象となる前記汚水は、COD値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示し、
前記汚水に対して、紫外線照射、空気バブリング、及び攪拌を同時に行い、
前記紫外線の波長は200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない、汚水の分解処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水の分解処理方法であって、
分解処理対象となる前記汚水は、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示し、溶存酸素の存在下、前記汚水に対して、紫外線照射を行い、前記紫外線の波長は200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない、汚水の分解処理方法。
【請求項2】
前記汚水が、下水処理工程で生じる汚水である、請求項1に記載の汚水の分解処理方法。
【請求項3】
前記汚水が、下水汚泥の脱水分離液、又は、下水汚泥を嫌気消化した後の脱水分離液を含む、請求項1又は2に記載の汚水の分解処理方法。
【請求項4】
前記汚水が、下水汚泥を可溶化処理した後の脱水分離液、又は、下水汚泥を可溶化処理した後、さらに嫌気消化した後の脱水分離液を含む、請求項1~3に記載の汚水の分解処理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の汚水の分解処理方法に用いるための、汚水分解処理装置であって、
前記汚水は、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示し、
前記汚水に対して、波長が200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない紫外線の照射、及び酸素含有ガス供給を同時に行う機能を備える、汚水分解処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水の分解処理方法、及び汚水分解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道法において、下水は「生活若しくは事業(耕作の事業を除く。)に起因し、若しくは付随する廃水(以下「汚水」という。)又は雨水をいう。」と定義されている。
【0003】
下水道には合流式と分流式の2方式があり、合流式下水道では汚水と雨水を一緒に下水処理場へ送るのに対して、分流式下水道は汚水用管路と雨水用管路の2つを埋設し、汚水は下水処理場へ、雨水は川や海に直接放流する。下水処理場では、雨水の合流の有無はあるものの、汚水の全量を受け入れ、一般廃水基準を満たすように処理された後、河川放流される。
【0004】
下水処理場において、汚水は、沈砂池で砂を、最初沈殿池で泥を初沈汚泥として沈めた後に、活性汚泥法によって処理される。活性汚泥法ではバクテリアなどの好気性の微生物を多く含んだ活性汚泥を加え、空気を吹き込んで曝気する。この間に汚水中の有機物は微生物によって分解される。一方で微生物は増加し、最終沈殿池で有機物を多量に含んだ余剰汚泥として沈める。余剰汚泥は、単独または前記初沈汚泥と合わせて下水処理場の汚泥処理工程に送られて更に処理される。
【0005】
有機物を含んだ下水汚泥の処理は、主に消化処理によって行われる。消化タンク中の酸素が少ない嫌気性条件の下で濃縮した下水汚泥を微生物処理し、メタンガスや二酸化炭素などに分解する。消化処理後の消化汚泥には、活性汚泥法による好気性微生物で分解できず、消化処理による嫌気性微生物でも分解できなかった難分解性有機物が高濃度に含まれる。消化汚泥は脱水処理により脱水され、脱水ケーキと脱水分離液に固液分離される。脱水ケーキは乾燥・焼却など適切な処理をされた後、廃棄物として埋立処分される他、セメント原料や農業で使用される肥料などとして再利用が可能である。
【0006】
このように、汚水は、下水処理場において順次処理されるが、嫌気性消化汚泥の脱水分離液は、微生物難分解性の有機成分が高濃度に濃縮された汚水となっている。当該脱水分離液の更なる分解処理は困難であり、現状は、沈砂池等に返流水として戻され、下水処理システム全体への負担が大きくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、下水処理場における汚水は、処理前の生下水、下水汚泥の濃縮分離液・脱水分離液、消化汚泥の脱水分離液と、処理段階が進むに従い、微生物難分解性物質が濃縮され、処理困難となる。また、下水処理場以外の各種工場の排水処理施設等においても、その処理工程において微生物分解が困難な汚水が発生する場合がある。
【0009】
そのような汚水を分解し、システム全体への負担を軽減する一つの方法として、促進酸化法(AOP; Advanced Oxidation Process)の適用が提案されている。促進酸化法では水中有機物の除去に対して、紫外線照射とオゾン添加等の手法を組み合わせ、強い酸化力を持つヒドロキシラジカルを生成させ、それにより有機物を完全分解する。具体的には、例えば特許文献1には、汚水に対して、紫外線照射と同時にオゾン添加処理を行うことで、汚水中の汚泥を分解減容化する技術が開示されている。
【0010】
このような方法は、汚水の分解処理規模が小さい場合、紫外線ランプに波長185nmと254nmの紫外線を発する低圧水銀ランプを用いると、波長185nmの紫外線を空気に照射してオゾンを発生させることができ、このオゾンを水に吹き込みつつ波長254nmの紫外線を照射することで、ヒドロキシラジカルを発生させることが出来る。このため、紫外線ランプのみでオゾンと紫外線を併用する促進酸化を行うことが可能である。
【0011】
しかしながら、下水処理場での適用など、汚水の分解処理規模が大きくなると、オゾンの発生速度が足りなくなるため、放電等による別途装置によりオゾンを発生させることが必要になる。更に、吹き込んだオゾンを消費しきれずに作業環境基準である0.1ppmを超えるオゾンを環境中に放出されてしまうことが無いよう、過剰オゾンを分解する装置も必要となる。
【0012】
このような状況下、本発明は、オゾンを発生させることなく、汚水を効率的に分解処理する方法を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該分解処理方法に好適に利用することができる、汚水分解処理装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示す、汚水の分解処理方法において、当該汚水に対して、溶存酸素の存在下、紫外線照射を行い、紫外線として、波長が200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まないものを使用することにより、オゾンを発生させることなく、当該汚水を効率的に分解処理できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0014】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 汚水の分解処理方法であって、
分解処理対象となる前記汚水は、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示し、溶存酸素の存在下、前記汚水に対して、紫外線照射を行い、前記紫外線の波長は200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない、汚水の分解処理方法。
項2. 前記汚水が、下水処理工程で生じる汚水である、項1に記載の汚水の分解処理方法。
項3. 前記汚水が、下水汚泥の脱水分離液、又は、下水汚泥を嫌気消化した後の脱水分離液を含む、項1又は2に記載の汚水の分解処理方法。
項4. 前記汚水が、下水汚泥を可溶化処理した後の脱水分離液、又は、下水汚泥を可溶化処理した後、さらに嫌気消化した後の脱水分離液を含む、項1~3に記載の汚水の分解処理方法。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載の汚水の分解処理方法に用いるための、汚水分解処理装置であって、
前記汚水は、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示し、
前記汚水に対して、波長が200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない紫外線の照射、及び酸素含有ガス供給を同時に行う機能を備える、汚水分解処理装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オゾンを発生させることなく、汚水を効率的に分解処理する方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該分解処理方法に好適に利用することができる、汚水分解処理装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例において、汚水への紫外線照射に用いた水銀ランプの輝線スペクトルである。
【
図2】実施例1における、汚水(スペクトル測定時には、汚水を10倍希釈)の分解処理時間毎のUV-VISスペクトル(それぞれ、分解処理前、6時間の分解処理、12時間の分解処理、及び18時間の分解処理)を示すグラフ(縦軸が吸光度、横軸が波長)である。
【
図3】実施例1において、それぞれ、汚水の分解処理時間と、COD(R254)、色度(R390)、及び濁度(R870)の各残存率(R)との関係を示すグラフ(縦軸が残存率(R)、横軸が処理時間)である。
【
図4】実施例1における分解処理前後の汚水の写真である(左側が分解処理前、右側が分解処理後)。
【
図5】実施例2,3及び比較例1,2における汚水の分解処理時間と、COD残存率R254との関係を示すグラフ(縦軸がCOD残存率R254、横軸が処理時間)である。
【
図6】比較例3で用いた波長制限フィルターの透過率と波長との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例4における処理前後のUV-VISスペクトルである。
【
図8】比較例3における処理前後のUV-VISスペクトルである。
【
図9】実施例5において、それぞれ、汚水の分解処理時間と、COD、色度、及び濁度の各残存率(R254,R390,R870)との関係を示すグラフ(縦軸が残存率(R254,R390,R870)、横軸が処理時間)である。
【
図10】実施例6において、それぞれ、汚水の分解処理時間と、COD、色度、及び濁度の各残存率(R254,R390,R870))との関係を示すグラフ(縦軸が残存率(R254,R390,R870)、横軸が処理時間)である。
【
図11】実施例6における分解処理前後の汚水の写真である(左側が分解処理前、右側が前後段処理後)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の分解処理方法は、汚水の分解処理方法である。本発明において、分解処理対象となる汚水は、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示す汚水である。本発明の汚水の分解処理方法は、当該汚水に対して、溶存酸素の存在下、紫外線照射を行い、紫外線の波長が、200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まないことを特徴としている。本発明の汚水の分解処理方法は、当該特徴を備えることにより、オゾンを発生させることなく、汚水を効率的に分解処理することができる。
【0018】
また、本発明の汚水分解処理装置は、汚水の分解処理方法に用いるための汚水分解処理装置であって、分解処理対象となる汚水は、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示し、当該汚水に対して、波長が200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない紫外線の照射、及び酸素含有ガスの供給を同時に行う機能を備えることを特徴としている。本発明の汚水分解処理装置は、当該特徴を備えることにより、オゾンを発生させることなく、汚水を効率的に分解処理することができ、前述した本発明の汚水の分解処理方法に対して好適に用いることができる。
【0019】
以下、本発明の汚水の分解処理方法、及び汚水分解処理装置について、詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0020】
1.汚水の分解処理方法
本発明の汚水の分解処理方法において、分解処理対象となる汚水は、CODCr値(酸化剤に二クロム酸カリウムを用いた化学的酸素要求量)が100mg/L以上であり、かつ、BOD値(生物学的酸素要求量)とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示す。なお、本発明の汚水の分解処理方法において、分解処理とは、分解処理対象となる汚水に対して、本発明の分解処理方法を適用することにより、分解処理後の汚水は、少なくとも、分解処理前よりもCOD値が低下し、かつ、その減少率が10%以上になることを意味する。
【0021】
本発明において分解処理対象となる汚水は、典型的には、下水処理工程で生じる汚水(具体的には、下水処理場における処理工程で発生する汚水であり、微生物難分解性の性状を示す。)である。前記の通り、下水処理場において、汚水は順次処理されるが、嫌気性消化汚泥の脱水分離液は、難分解性の有機成分が高濃度に濃縮された汚水となっている。当該脱水分離液の更なる分解処理は困難であり、現状は、沈砂池等に返流水として戻され、下水処理システム全体への負担が大きくなっている。本発明においては、このような脱水分離液を、分解処理対象の汚水とすることができる。
【0022】
本発明において対象とする汚水は、微生物分解が困難な性状を示す汚水である。COD(化学的酸素要求量)とBOD(生物学的酸素要求量)の差が大きな汚水は、微生物による分解が困難な性質を持つと言える。本発明においては、CODCr値が100mg/L以上、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である汚水を、微生物分解が困難な性状を示す汚水として定義する。
【0023】
微生物分解が困難な汚水は、COD値とBOD値が上記の範囲にあれば、どのような施設のどのような工程で排出されたものであっても構わない。例えば、下水処理場における、活性汚泥処理、汚泥濃縮、嫌気性消化、汚泥脱水など、いずれの工程で生じた汚水でも良い。また、下水処理場以外の、各種工場等における排水処理施設において、受け入れる汚水、または、いずれかの処理工程で生じる汚水であっても良い。
【0024】
本発明において分解処理対象となる汚水の具体例としては、下水汚泥(初沈汚泥、余剰汚泥、これらを混合した混合汚泥など)の脱水分離液(脱水ろ液)、下水汚泥を嫌気消化した後の脱水分離液、下水汚泥を可溶化処理した後の脱水分離液、下水汚泥を可溶化処理した後、さらに嫌気消化した後の脱水分離液、下水汚泥を嫌気消化した後に可溶化処理した後の脱水分離液などが挙げられる。分解処理に供する汚水は、1種類のみであってもよく、2種類以上の汚水の混合物であってもよい。本発明において分解処理対象となる汚水には、典型的には、前記脱水分離液のうち少なくとも1種が含まれる。
【0025】
下水処理場において、汚泥の減量化やプロセスの効率化等を目的として、汚泥の可溶化処理を行うことがある。本発明が対象とする微生物分解が困難な汚水は、前記の通り、このような可溶化処理を行ったものであってもよい。可溶化処理は、どのような手法を用いても良く、薬剤を使用した化学的手法、加熱や水熱反応を利用した物理化学的手法、超音波、ビーズミルなどの力学的手法、電気分解による電気化学的手法等を例示できる。
【0026】
本発明の効果を好適に発揮させる観点から、分解処理対象となる汚水のCODCr値としては、好ましくは100~30000mg/L程度、より好ましくは100~10000mg/L程度、さらに好ましくは100~3000mg/L程度である。また、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、分解処理対象となる汚水のBOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)は、0.4以下であり、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下である。
【0027】
可溶化処理を行うことにより得られた汚水はCOD及びBODが増加すると共に、CODとBODの差が増大して可溶化処理前よりも更に難分解性となることがある。例えば、可溶化処理を行わない場合、下水汚泥を嫌気消化した後の脱水分離液は300~3000mg/L程度のCOD、10~500mg/L程度のBODであるのに対し、下水汚泥を可溶化処理した後に嫌気消化した後の脱水分離液では、500~5000mg/L程度のCOD、10~500mg/L程度のBODとなる。このような高いCODの汚水に対しても本発明の分解方法を適用することができる。
【0028】
本発明において、分解処理後の汚水は、分解処理前よりもCOD値が低下している。本発明において、分解処理前後における汚水のCOD値の分解率((分解処理前の汚水のCOD値-分解処理後の汚水のCOD値)/(分解処理前の汚水のCOD値))は、10%以上であり、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上である。
【0029】
本発明において、分解処理対象となる汚水の色度は、特に制限されないが、好ましくは50~10000度程度、より好ましくは50~7000度程度、さらに好ましくは70~4000度程度である。色度とは、水に溶存、又はコロイド状で存在する物質による淡黄色から黄褐色の程度を示すもので、水1000mL中に色度標準液1mL(白金1mg及びコバルト0.5mg)を加えたときの色を色度1度とする。ここで注意すべき点は、濁り(濁度)のある水の色度を測定すると、その結果は濁りの影響を受けた値となることである。ろ過や遠心分離により濁りを除いた後に測定した色度を「真の色度」、そのような前処理をせずに測定した色度を「見かけの色度」と区別する。本発明の実施例で用いた消化汚泥の脱水分離液では、分解処理の前に粗大な沈殿物を取り除くためのろ過(保持粒子径1μmのろ紙による)を行っているが、濁りは残っている。濁りを完全に除くために、更に細かい0.22μmのろ紙でろ過を行うと、UV-VISスペクトルの全体の形状に変化が見られ、実液の性状を保てないことが分かったため、本発明では、ろ過前処理は1μmろ紙で行うことに統一した。これにより、本発明における色度は濁度の影響を含む「1μmろ過後の見かけ色度」であると定義される。また、分解処理対象となる汚水のTOC(全有機体炭素)は、特に制限されないが、好ましくは30~10000mg/L程度、より好ましくは30~3000mg/L程度、さらに好ましくは30~1000mg/L程度である。また、分解処理対象となる汚水のアンモニア性窒素(NH4-N)は、特に制限されないが、好ましくは100~5000mg/L程度、より好ましくは100~4000mg/L程度、さらに好ましくは100~2000mg/L程度である。また、分解処理対象となる汚水のpHは、好ましくは5~9程度、より好ましくは6~9程度、さらに好ましくは6~8.5程度である。
【0030】
また、本発明において、分解処理後の汚水は、分解処理前よりも色度が低下していることが好ましい。本発明において、分解処理前後における汚水の色度の分解率は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。また、本発明において、分解処理後の汚水は、分解処理前よりもTOC値が低下していることが好ましい。本発明において、分解処理前後における汚水のTOC値の分解率は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上である。本発明において、分解処理前後における汚水のアンモニア性窒素(NH4-N)の分解率は、好ましくは10%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは80%以上である。また、本発明において、分解処理後における汚水のpHは、好ましくは5.5~8.5程度、より好ましくは6.0~8.5程度、さらに好ましくは6.0~8.0程度である。
【0031】
本発明において、分解処理対象とする汚水の性状を確認するため、また、本発明の汚水の分解処理方法の効果を評価するために、分解処理前後の汚水の水質試験を行う。後述の実施例においても、当該水質試験を採用している。各試験方法のうち法令等に定めのあるもの(公定法)についてはそれに準拠し、その他は下水試験方法(日本下水道協会 2012 年版)に拠った。本発明ではこれらを「公定法等」と呼ぶことにする。
【0032】
汚水のCOD値(COD:化学的酸素要求量)、BOD値(BOD:生物学的酸素要求量)、TOC値(TOC:全有機体炭素)の測定では、孔径1μmのガラス繊維ろ紙(G.F.P.)によるろ過の前処理を行い、溶解性BOD、溶解性COD、溶解性TOCとしての測定を行う。COD測定においては二クロム酸カリウムによる酸素要求量を求め、CODCr値として表す。BOD測定ではN-アリルチオ尿素を添加して溶解性のC-BOD(下水試験方法 2012年版 第2 編第1 章第21節2、下水道協会)を測定する。以下、特に断らない限り、本発明においては溶解性C-BODをBOD(BOD値)、溶解性CODCrをCOD(COD値)、溶解性TOCをTOC(TOC値)と記す。また、色度はG.F.P.ろ過後に比色法による分析を行い、アンモニア性窒素(NH4-N)の分析は0.45μmろ過後にイオンクロマトグラフ法で分析した。pHはガラス電極法により測定する。
【0033】
以上のような公定法等による試験に加え、本発明では、分光光度計により汚水の紫外可視(UV-VIS)スペクトルを測定し、COD、色度、濁度の代替指標を求める。UV-VISスペクトルは、少ない液量(約3mL)で迅速に測定が可能(1分以内)であり、特定の波長における吸光度が水質値と良く相関することが知られている。このため、本発明の分解処理方法による分解率を、時間を追って評価するために、以下に示す波長の吸光度を代替指標として採用し、その変化率を計算する。
【0034】
まず、254nm吸光度(A254)をCODの代替指標とする。JIS K 0807「水質監視用紫外線吸光度自動計測器」において、波長253.7nmの紫外線吸光度測定値がCODMnと相関づけられて水質総量規制に係る水質汚濁負荷量の算出等に用いられることが示されている。本発明ではCODとしてCODMnでなくCODCrを採用しているが、実際の消化汚泥の脱水分離液についてCODCrとA254を測定したところ、両者には良い直線的相関がみられている。
【0035】
次に、390nm吸光度(A390)を色度の代替指標とする。色度の測定法のうち、透過光測定法(下水試験方法 2012年版 第2編 第1章 第4 節1、下水道協会)では、水に溶存、又はコロイド状で存在する物質による淡黄色から黄褐色の程度を、吸光光度法により測定する。実際の消化汚泥の脱水分離液について、デジタル濁色度計(WA-PT-4DG、共立理化学研究所)による色度とA390を測定したところ、良好な直線関係が得られている。
【0036】
更に870nm吸光度(A870)を濁度の代替指標とした。濁度の測定法のうち、透過光測定法(下水試験方法 2012年版 第2編 第1章 第5節2、下水道協会)では、片側から光を当て、その透過光を測定し、光の減衰の度合が、水中の懸濁物質の濃度に関連することを利用して濁度(カオリン標準)を知る。実際の消化汚泥の脱水分離液について、デジタル濁色度計(WA-PT-4DG、共立理化学研究所)による濁度(ポリスチレン標準)とA870を測定したところ、良好な直線関係が得られている。
【0037】
本発明の汚水の分解処理方法は、分解処理対象とする汚水に対して、溶存酸素の存在下、紫外線照射を行う分解処理工程を備えており、かつ、当該紫外線は200~350nmの波長を含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まないことを特徴としている。本発明の汚水の分解処理方法は、前記特定の汚水に対して、溶存酸素の存在下、特定波長の紫外線を照射する分解処理工程を備えていることにより、紫外線照射によるオゾンの発生を抑制しながら、効率的に前記汚水を分解処理することが可能となっている。
【0038】
本発明において、汚水に照射される紫外線の波長域は200~350nmを含み、200nm未満を実質的に含まなければ良い。好ましくは200~315nmを含み、200nm未満を実質的に含まない。より好ましくは220~315nmを含み、200nm未満を実質的に含まない。更に好ましくは、250~315nmを含み、200nm未満を実質的に含まない。
【0039】
ここで、紫外線が200nm未満の波長を実質的に含まないとは、200nm未満で最も強い波長の照射強度が、200~315nmで最も強い波長の照射強度に対して1/10以下であることをいう。この条件に合致する紫外線(光)であれば、特定の波長の単色光、複数の波長の輝線からなる光、あるいは連続スペクトルを有する光のいずれであっても良い。
【0040】
紫外線照射において、照射光の強度(放射照度)は、350nm以下の波長範囲で10W/m2以上であれば良く、好ましくは50W/m2以上、より好ましくは250W/m2以上である。放射照度計の測定プローブは、分光感度曲線を確認し必要とする波長範囲に分光感度を有する製品を用いることが必要である。本発明の分解方法においては、一般にUVC用およびUVB用とされる測定プローブがこれに該当し、両測定値を合計することがより適切である。本発明においては、反応容器(石英ビーカー等)の外側面で最も光源に近い位置(照射方向により、側面または底面)とランプ灯具の先端との距離を測り、別途に灯具と測定プローブを同じ距離に配置して計測した放射照度を照射光の強度とした。
【0041】
このような紫外線を照射可能な光源として、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、無電極放電ランプ、深紫外LED等を使用することができる。また、このような光源と共にバンドパスフィルター等の光学フィルターを用いることにより、単一波長や特定波長範囲の紫外線のみを照射することができる。
【0042】
照射光強度を強くする観点から、現状ではオゾンレスタイプの低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプを用いることが好ましい。低圧水銀ランプは、主な発光ピークを波長185nm及び254nmに有する。また、高圧水銀ランプは、主な発光ピークを波長254nm及び365nmに有する光源であり、本来は波長185nmの発光も含む。オゾンレスタイプの低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプでは、ランプのバルブにオゾンレス石英ガラス(溶融石英ガラスに重金属等を加え、波長240nm以下の紫外線が透過できないようにしたガラス)を用いており、200nm未満の波長の光が出ないようになっている。
【0043】
また、汚水に対する紫外線照射は、溶存酸素の存在下に行う。具体的には、汚水に対して酸素含有ガスを供給しながら、紫外線照射を行うことで、溶存酸素の存在下に汚水に対して紫外線照射を行うことができる。紫外線照射と共に行う酸素含有ガスの供給は、本発明の汚水の分解処理方法において、汚水中に十分な濃度の溶存酸素を含ませるために行う。
【0044】
汚水中の溶存酸素濃度としては、特に制限されないが、好ましくは1mg/L以上、より好ましくは1.5mg/L以上、さらに好ましくは2mg/L以上である。また、汚水中の溶存酸素濃度の上限については、200mg/L以下が挙げられる。溶存酸素濃度が高いほど反応速度を高くすることができ、溶存酸素は酸化反応により消費されるため、溶存酸素濃度が低下しないよう補給する必要がある。このため、酸素含有ガス(例えば空気等)を、散気板や散気筒、散気パネルといった散気装置を用いて常時吹き込むことが有効である。微細な気孔径を有するセラミックスの焼結体や合成樹脂などの材質で構成された散気装置により気泡を細分化することで効率を高めることができる。
【0045】
例えば、大気圧下において、空気を水中に吹き込んだ場合、水中の溶存酸素濃度の上限値は、0℃で14.2mg/L、20℃で8.8mg/Lである。溶存酸素濃度は気相の酸素分圧に比例して高くできるので、純酸素をバブリングすれば空気バブリングの5倍(20℃で44mg/L)が上限となり、更に装置内の気相を加圧することが可能ならば、その圧力に応じて溶存酸素濃度を高めることができる。また、酸素含有ガスとして、酸素ガスを空気等で希釈して空気よりも酸素濃度の高いガスを吹き込んでも良い。実際には、装置構成と許されるコストの範囲で、吹き込む酸素含有ガスと吹き込み条件を選択すれば良い。
【0046】
また、紫外線照射及び酸素含有ガスの供給と共に、汚水を撹拌することが望ましい。当該撹拌は、汚水中に溶存酸素を十分に供給するために行う。
【0047】
攪拌は、液量と液の粘性に応じた強さで水を撹拌することができればいかなる方法でも良い。実験室スケールの小規模な実施の場合は、かき混ぜ棒による手動の攪拌、振とう機を用いる攪拌、マグネチックスターラーと磁気回転子を用いた攪拌、攪拌モーターと攪拌翼を用いる攪拌、ポンプによりタンク内に水流を作り攪拌する方法等が挙げられる。
【0048】
下水処理設備などの大規模な実施の場合は、攪拌翼、水流式、気泡式等の各種の攪拌装置による方法の何れを用いても良い。液中の溶存酸素濃度を効果的に高め、反応を促進する目的から、磁気攪拌式、水流式攪拌式、攪拌翼式のいずれかを採用することが好ましい。
【0049】
本発明の汚水の分解処理方法において、分解処理時間については、汚水の分解処理が進行すれば特に制限されず、例えば回分式反応器の場合0.1~100時間程度、好ましくは0.5~50時間程度である。連続槽型反応器の場合も滞留時間を0.1~100時間程度、好ましくは0.5~50時間程度とすればよい。また、分解処理温度については、汚水の分解処理が進行すれば特に制限されず、例えば5~80℃程度、好ましくは10~60℃程度である。
【0050】
本発明の汚水の分解処理方法を前段分解処理として行った後、得られた着色汚水について、さらに、光触媒体を用いた着色汚水の分解処理方法を後段分解処理として適用することにより、着色汚水の色度を効率的に低下させ、分解処理をさらに進めることができる。
【0051】
2.着色汚水の分解処理方法
着色汚水の分解処理方法において、分解処理対象となる着色汚水は、色度が50度以上1000度以下の範囲であることが好ましい。着色汚水の分解処理方法は、溶存酸素の存在下、当該着色汚水中において、光触媒体に対して、光を照射する光照射工程を備えており、光触媒体は、一次粒子径が100nm以下、かつ、二次粒子径が1μm以上であり、酸化チタンの含有率が90質量%以上であることを特徴としている。当該着色汚水の分解処理方法は、当該特徴を備えることにより、光触媒を用いた汚水の分解処理において、汚水が着色しているにも関わらず、着色汚水を効率的に分解処理することができる。
【0052】
すなわち、本発明においては、前記の本発明の汚水の分解処理方法で得られた着色汚水について、溶存酸素の存在下、当該着色汚水中において、光触媒体に対して、光を照射する光照射工程を備えており、光触媒体は、一次粒子径が100nm以下、かつ、二次粒子径が1μm以上であり、酸化チタンの含有率が90質量%以上であることを特徴とする着色汚水の分解処理方法を適用することにより、着色汚水を効率的に分解処理することができる。
【0053】
色度とは、水に溶存、又はコロイド状で存在する物質による淡黄色から黄褐色の程度を示すもので、水1000mL中に色度標準液1mL(白金1mg及びコバルト0.5mg)を加えたときの色を色度1度とする。ここで注意すべき点は、濁り(濁度)のある水の色度を測定すると、その結果は濁りの影響を受けた値となることである。ろ過や遠心分離により濁りを除いた後に測定した色度を「真の色度」、そのような前処理をせずに測定した色度を「見かけの色度」と区別する。本発明の実施例で用いた消化汚泥の脱水分離液では、分解処理の前に粗大な沈殿物を取り除くためのろ過(保持粒子径1μmのろ紙による)を行っているが、濁りは残っている。濁りを完全に除くために、更に細かい0.22μmのろ紙でろ過を行うと、UV-VISスペクトルの全体の形状に変化が見られ、実液の性状を保てないことが分かったため、本発明では、ろ過前処理は1μmろ紙で行うことに統一した。これにより、本発明における色度は濁度の影響を含む「1μmろ過後の見かけ色度」であると定義される。なお、着色汚水の分解処理方法において、着色汚水の分解処理とは、分解処理対象となる着色汚水に対して、本発明の分解処理方法を適用することにより、分解処理後の汚水は、少なくとも、分解処理前よりも色度が低下することを意味する。着色汚水中で、着色物質と溶存酸素とが酸化反応し、二酸化炭素等の分解物を発生しながら酸化分解される。
【0054】
着色汚水の分解処理方法において、分解処理対象となる汚水は、着色した汚水である。着色の尺度としては、色度測定値を採用し、色度範囲50~1000度の範囲の着色汚水を対象とする。粒状光触媒の添加効果を明確に示す観点から、より好ましい色度範囲は、50~800度であり、更に好ましい色度範囲は70~700度である。
【0055】
着色汚水は、色度が上記の範囲にあれば、どのような施設のどのような工程で排出されたものであっても構わない。例えば、下水処理場における、活性汚泥処理、汚泥濃縮、嫌気性消化、汚泥脱水など、いずれの工程で生じた汚水でも良い。また、下水処理場以外の、各種工場等における排水処理施設において、受け入れる汚水、または、いずれかの処理工程で生じる汚水であっても良い。前記の通り、本発明の汚水の分解処理方法を行った後、得られた着色汚水について、着色汚水の分解処理方法を適用することができる。
【0056】
下水処理場において、汚泥処理量の減量化やプロセスの効率化等を目的として、汚泥の可溶化処理を行うことがある。本発明が対象とする着色汚水は、このような可溶化処理を行ったものであってもよい。可溶化処理は、どのような手法を用いても良く、薬剤を使用した化学的手法、加熱や水熱反応を利用した物理化学的手法、超音波、ビーズミルなどの力学的手法、電気分解による電気化学的手法等を例示できる。
【0057】
このような可溶化処理を行うことにより得られた汚水は可溶化処理を行わないものより、色度が高くなることが多い。例えば、可溶化処理を行わない場合、下水汚泥を嫌気消化した後の脱水分離液は500~2500度程度の色度であるのに対し、下水汚泥を可溶化処理した後に嫌気消化した後の脱水分離液では、2000~4000度程度の色度となる。1000度を超える溶液に対しては、直接本発明の方法を適用することができないが、希釈して1000度未満の溶液とするか、他の方法で分解を行い1000度未満とした後に、本発明の方法を適用することができる。
【0058】
分解処理後の着色汚水は、分解処理前よりも色度が低下している。本発明において、分解処理前後における着色汚水の色度の分解率(分解処理前の着色汚水の色度-分解処理後の着色汚水の色度)/(分解処理前の着色汚水の色度)は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは50%以上である。
【0059】
また、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、分解処理対象となる着色汚水のCOD値としては、好ましくは100~30000mg/L程度、より好ましくは100~10000mg/L程度、さらに好ましくは100~3000mg/L程度である。また、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、分解処理対象となる着色汚水のBOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)は、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.25以下である。
【0060】
また、分解処理対象となる着色汚水のTOC(全有機体炭素)は、特に制限されないが、好ましくは30~10000mg/L程度、より好ましくは30~3000mg/L程度、さらに好ましくは30~1000mg/L程度である。また、分解処理対象となる着色汚水のアンモニア性窒素(NH4-N)は、特に制限されないが、好ましくは100~5000mg/L程度、より好ましくは100~4000mg/L程度、さらに好ましくは100~2000mg/L程度である。また、分解処理対象となる着色汚水のpHは、好ましくは5.0~9.0程度、より好ましくは6.0~9.0程度、さらに好ましくは6.0~8.5程度である。
【0061】
本発明において、分解処理対象とする着色汚水の性状を確認するため、また、本発明の汚水の分解処理方法の効果を評価するために、分解処理前後の汚水の水質試験を行う。後述の実施例においても、当該水質試験を採用している。各試験方法のうち法令等に定めのあるもの(公定法)についてはそれに準拠し、その他は下水試験方法(日本下水道協会 2012 年版)に拠った。本発明ではこれらを「公定法等」と呼ぶことにする。
【0062】
汚水の着色度を試験する方法としては、色度測定を行う。色度の測定および表示法としては、透過光測定法、比色法、刺激値及び色度座標x,yによる表示法があるが、本発明では孔径1μmのガラス繊維ろ紙(G.F.P.)によるろ過の前処理を行った後に比色法による測定を行い、単位表示としては「度」を用いる。
【0063】
また、汚水のCOD値(COD:化学的酸素要求量)、BOD値(BOD:生物学的酸素要求量)、TOC値(TOC:全有機体炭素)の測定では、孔径1μmのガラス繊維ろ紙(G.F.P.)によるろ過の前処理を行い、溶解性BOD、溶解性COD、溶解性TOCとしての測定を行う。COD測定においては二クロム酸カリウムによる酸素要求量を求め、CODCr値として表す。BOD測定ではN-アリルチオ尿素を添加して溶解性のC-BOD(下水試験方法 2012年版 第2編 第1章 第21節2、下水道協会)を測定する。以下、特に断らない限り、本発明においては溶解性C-BODをBOD(BOD値)、溶解性CODCrをCOD(COD値)、溶解性TOCをTOC(TOC値)と記す。また、色度はG.F.P.ろ過後に比色法による分析を行い、アンモニア性窒素(NH4-N)の分析は0.45μmろ過後にイオンクロマトグラフ法で分析した。pHはガラス電極法により測定する。
【0064】
以上のような公定法等による試験に加え、本発明では、分光光度計により汚水の紫外可視(UV-VIS)スペクトルを測定し、COD、色度、濁度の代替指標を求める。UV-VISスペクトルは、少ない液量(約3mL)で迅速に測定が可能(1分以内)であり、特定の波長における吸光度が水質値と良く相関することが知られている。このため、本発明の分解処理方法による分解率を、時間を追って評価するために、以下に示す波長の吸光度を代替指標として採用し、その変化率を計算する。
【0065】
まず、254nm吸光度(A254)をCODの代替指標とする。JIS K 0807「水質監視用紫外線吸光度自動計測器」において、波長253.7nmの紫外線吸光度測定値がCODMnと相関づけられて水質総量規制に係る水質汚濁負荷量の算出等に用いられることが示されている。本発明ではCODとしてCODMnでなくCODCrを採用しているが、実際の消化汚泥の脱水分離液についてCODCrとA254を測定したところ、両者には良い直線的相関がみられている。
【0066】
次に、390nm吸光度(A390)を色度の代替指標とする。色度の測定法のうち、透過光測定法(下水試験方法 2012年版 第2編 第1章 第4節1、下水道協会)では、水に溶存、又はコロイド状で存在する物質による淡黄色から黄褐色の程度を、吸光光度法により測定する。実際の消化汚泥の脱水分離液について、デジタル濁色度計(WA-PT-4DG、共立理化学研究所)による色度とA390を測定したところ、良好な直線関係が得られている。
【0067】
更に870nm吸光度(A870)を濁度の代替指標とした。濁度の測定法のうち、透過光測定法(下水試験方法 2012年版 第2編 第1章 第5節2、下水道協会)では、片側から光を当て、その透過光を測定し、光の減衰の度合が、水中の懸濁物質の濃度に関連することを利用して濁度(カオリン標準)を知る。実際の消化汚泥の脱水分離液について、デジタル濁色度計(WA-PT-4DG、共立理化学研究所)による濁度(ポリスチレン標準)とA870を測定したところ、良好な直線関係が得られている。
【0068】
着色汚水の分解処理方法は、溶存酸素の存在下、着色汚水中において、光触媒体に対して、光を照射する光照射工程を備えている。光触媒体は、一次粒子径が100nm以下、かつ、二次粒子径が1μm以上であり、酸化チタンの含有率が90質量%以上であることを特徴としている。着色汚水の分解処理方法は、前記特定の着色汚水に対して、溶存酸素の存在下、着色汚水中において、特定の光触媒体に対して、光を照射することにより、着色汚水を好適に分解処理することが可能となっている。
【0069】
光触媒体は、酸化チタンの含有率が90質量%以上であり、一次粒子径が100nm以下、かつ、二次粒子径が1μm以上である。後述の通り、光触媒体の構造は、例えば、光触媒物質としての酸化チタンの表面に、助触媒が担持された構造を有している。
【0070】
光触媒体全体に占める酸化チタンの割合は、90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0071】
酸化チタンはアナターゼ、ルチル、ブルッカイトといった微結晶(一次粒子)の集合体(二次粒子)を用いる。このような微結晶の集合体は、一般に、粉末光触媒として得られる場合が多いが、本発明では、粒状であることを特徴としている。具体的には、本発明において、光触媒体は、二次粒子径が1μm以上の粒子である。二次粒子径を1μm以上とすることによって、波長に依存する強い散乱(ミー散乱)によるエネルギー損失を抑制することができる。一般的に1μm以上の粒子では光遮蔽法による粒径測定と粒子数計測が可能であることから、ミー散乱に比して光遮蔽が支配的で、粒子の間は照射光が透過しやすくなる。このため、溶液中の溶解物質への光照射による分解と、光触媒体への光照射による光触媒作用での分解を両立することが可能である。
【0072】
粉末光触媒として活性の高いものを原料として使うことによって活性の高い粒状光触媒を調製できる可能性が高まるが、その場合は、表面積の大きな二次粒子とする観点から、粒状体調製過程において熱処理温度を400℃以下にすることが好ましい。表面積の大きな光触媒体は、細孔構造を有していても良い。細孔径としては、メソ孔、マクロ孔の何れでも良いし、その両者を併せ持っていても良い。
【0073】
光触媒体の一次粒子径については、100nm以下であれば制限はないが、水中の被処理物質と光触媒表面との接触を大きくし、反応速度を高める観点からは100nm未満であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。光触媒体の一次粒子径範囲としては、例えば1~100nm程度、好ましくは2~50nm程度である。光触媒体の一次粒子径は、透過型電子顕微鏡観察、または粉末X線回折のラインブロードニング法による結晶子径測定によって確認することができる。また、一次粒子径の測定が難しい場合は次式により窒素吸着法により測定したBET比表面積から相当一次粒子径を見積もることができる(大谷文章、光触媒標準研究法、東京図書(2005)、pp.408-410)。
【0074】
S=6/(ρd)
S:BET比表面積[m2g-1]
ρ:一次粒子の真密度[gm-3]
d:一次粒子径[m]
例えば酸化チタンの場合、ρはおよそ4×106gm-3であるので、dをnmの単位で見積もる場合には次式で計算できる。
d[nm]=1500/S[m2g-1]
【0075】
光触媒体による照射光の散乱を抑制する観点から、本発明の光触媒体の二次粒子径は1μm以上である。更に40μm以上とすることにより、光触媒体の固液分離が容易になるため好ましい。また、本発明において、光触媒体の二次粒子径は、液体中で攪拌して液体中に均一に分散できる程度の上限粒子径とする必要がある。このような上限粒子径として、例えば、1000μm以下、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下が挙がられる。光触媒体の形状には制限はない。真球、扁球などの球状、立方体や直方体等の多面体、針状、不規則な破砕片の形状などのいずれでも良く、これらの混合物でも良い。非球状の場合の二次粒子径は球相当径で前記の粒径範囲となるようにする。本発明においては、このような光触媒体を粒状と呼ぶことにする。一般に顆粒状、細粒状と呼ばれるものはここに含まれる。
【0076】
粒状の光触媒体の二次粒子径を本発明の範囲とするためには、原料とする光触媒物質の二次粒子径が適切である場合はそのまま使用し、必要に応じて助触媒である金属の担持を行えば良い。原料とする光触媒物質が微粉状など1μm未満である場合は、これを造粒等して適切な二次粒子径としてから金属を担持するか、微粒子粉末のまま金属を担持してから造粒等して適切な二次粒子径とする手順のいずれを採用しても良い。原料とする光触媒物質がビーズ状の成形体など、例えば1mm以上の大きさである場合、破砕分級などによって適切な二次粒子径とした後に、必要に応じて助触媒を担持すれば良い。
【0077】
微粉状の光触媒物質からの造粒方法としては、撹拌(転動)造粒、流動層造粒、押出し造粒、スプレードライ(噴霧乾燥)造粒等のいずれの方法でも良く、微粒子の加熱脱水縮合や焼結により塊状とした後に破砕等により小さくし更に分級して適切な二次粒子径範囲とする方法を採用しても良い。破砕法も特に限定されず、乳鉢を用いて手動で破砕する他に、ローラーミル、ハンマーミル、回転ミル、遊星ミルなどの粉砕機を用いても良い。
【0078】
本発明において、光触媒体の二次粒子径を揃える方法はいかなる方法でも良く、篩掛け等の方法により分級を行えばよい。例えば実施例では目開き125μmの篩を通過し、目開き40μmの篩を通過しなかった粒状体を集めている。破砕などの操作で生じた微粉体が、集めた粒状体に付着して残っている場合は、篩掛けとともに水中沈降法によって、残存する微粒子を除去するなどすれば良い。
【0079】
二次粒子径の測定方法としては、一般に、顕微鏡法、ふるい分け法、水中沈降法、レーザ回折・散乱法、動的光散乱法、コールターカウンタ法などの方法がある。また、各種形状の粒子に対する径の定義として、長軸径、短軸径、円相当径、球相当径などがあるが、以下の説明では球相当径を採用する。また粒径分布について言及する場合は分布基準として個数基準、面積基準、体積基準、重量基準があり、以下の説明では個数基準値を採用するが体積基準値や重量基準値から個数基準値に換算できる場合は、その換算値を用いても良い。以上の観点から、本発明における光触媒体の二次粒子径の測定法を検討すると、水中分散状態での粒子径分布を直接測定し、球相当径が得られるレーザ回折・散乱法は最適な測定法と言える。
【0080】
本発明において、光触媒体は、光触媒物質のみにより構成されていてもよいし、光触媒反応活性を高めることなどを目的として、他の成分(例えば、助触媒)を含んでいてもよい。
【0081】
このような助触媒としては、白金、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、銅、イリジウムなどが知られている。これらの中でも、白金、パラジウム、金などの貴金属を助触媒として用いることが特に好ましい。助触媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
助触媒の担持量が少ない範囲では、担持量の増加に伴い光触媒活性が増加する。しかし、助触媒の担持量が多すぎると助触媒自身により光が吸収・散乱されて光触媒の光吸収を妨げる原因となったり、電子と正孔の再結合中心として働いたりしてかえって光触媒活性が低下することが知られている。適切な助触媒担持量は、助触媒金属種、光触媒物質の種類、一次・二次粒子径、反応の種類などに応じて決める必要がある。100nm以下の一次粒子径の酸化チタン微粒子に対して担持する場合の、助触媒担持量の範囲は、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.01~3質量%、さらに好ましくは0.01~2質量%とすれば良い。
【0083】
光触媒物質の表面に助触媒を担持する手法について制限はなく、光析出法、含浸法の他、析出沈殿法、コロイド添着法などの公知の方法を採用することができる。また、金を担持する場合であれば、本発明者らが開発した、金ヒドロキソ錯体溶液を用いた担持法(特許第5740658号、特許第6441454号)などを用いてもよい。助触媒の担持操作において、その前駆体(硝酸塩、塩化物、水酸化物、酢酸塩など)を目的助触媒物質(金属、金属酸化物)に変換するために、熱処理を必要とする場合が多い。熱処理の温度に制限は無いが、特にナノ粒子として担持した場合は、その熱凝集を防ぐため400℃以下の温度とすることが好ましい。
【0084】
光触媒体の使用量および、これを分散させる水の量で割った光触媒体の分散濃度(g/L等)は、用いる光触媒体の二次粒子径等に応じて、適宜設定すればよい。なお、物質の酸化量は、光触媒体に対する光の照射量に応じて増加させることができる。照射した光の利用効率を高める観点からは、光触媒体の分散濃度は高い方がよく、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1.5g/L以上、さらに好ましくは2.5g/L以上である。光触媒体の分散濃度の上限については、例えば50g/Lが挙げられる。
【0085】
光触媒体に光を照射するための光源としては、酸化チタン光触媒が応答する波長400nm以下の紫外線を含む光であれば特に制限されず、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀-キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(深紫外、紫外)、レーザ光、太陽光等から選択すればよい。これらの光を直接光触媒体に当てても良いし、ミラーを用い反射させて当てても良いし、光ファイバーを用いて導いても良い。太陽光であれば、凹面鏡などを用いて集光して当てても良い。これらの光源のうち、必要な強度の紫外線を照射可能な光源として、ブラックライト、殺菌ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀-キセノンランプ、LED(深紫外、紫外)、レーザ光などを用いることが好ましい。紫外線照射において、照射光の強度(放射照度)は、400nm以下の波長範囲で10W/m2以上であれば良く、好ましくは100W/m2以上、より好ましくは1000W/m2以上である。放射照度計の測定プローブは、分光感度曲線を確認し必要とする波長範囲に分光感度を有する製品を用いることが必要である。酸化チタン光触媒を用いる本出願の分解方法においては、一般にUVC用、UVB用およびUVA用とされる測定プローブがこれに該当し、全測定値を合計することがより適切である。本発明においては、反応容器(石英ビーカー等)の外側面で最も光源に近い位置(照射方向により、側面または底面)とランプ灯具の先端との距離を測り、別途に灯具と測定プローブを同じ距離に配置して計測した放射照度を照射光の強度とした。内部照射方式の場合は、ランプを収納する水冷ジャケットの表面が直接反応液に接するため、水冷ジャケットの表面にプローブが接するようにし、ランプ発光部の中央から最も近い位置で放射照度を測定した。
【0086】
光照射工程において、着色汚水中には溶存酸素の存在下に行う必要があり、着色汚水中には、光触媒反応を進行させるために十分な濃度の溶存酸素が含まれていることが望ましい。
【0087】
光照射工程において、着色汚水中の溶存酸素濃度としては、特に制限されないが、好ましくは1mg/L以上、より好ましくは1.5mg/L以上、さらに好ましくは2mg/L以上である。また、着色汚水中の溶存酸素濃度の上限については、200mg/L以下が挙げられる。溶存酸素濃度が高いほど反応速度を高くすることができ、溶存酸素は酸化反応により消費されるため、溶存酸素濃度が低下しないよう補給する必要がある。このため、酸素含有ガス(例えば空気等)を、散気板や散気筒、散気パネルといった散気装置を用いて常時吹き込むことが有効である。微細な気孔径を有するセラミックスの焼結体や合成樹脂などの材質で構成された散気装置により気泡を細分化することで効率を高めることができる。
【0088】
例えば、大気圧下において、空気を水中に吹き込んだ場合、水中の溶存酸素濃度の上限値は、0℃で14.2mg/L、20℃で8.8mg/Lである。溶存酸素濃度は気相の酸素分圧に比例して高くできるので、純酸素をバブリングすれば空気バブリングの5倍(20℃で44mg/L)が上限となり、更に装置内の気相を加圧することが可能ならば、その圧力に応じて溶存酸素濃度を高めることができる。また、酸素ガスを空気等で希釈して空気よりも酸素濃度の高いガスを吹き込んでも良い。実際には装置構成と許されるコストの範囲で吹き込むガスと吹き込み条件を選択すれば良い。
【0089】
光照射工程において、光触媒体を、着色汚水中で撹拌しながら光触媒体に対して光照射を行うことが好ましい。攪拌は、着色汚水中において、光触媒体が着色汚水中に分散するよう、光触媒体の大きさと量に応じた強さで撹拌する。
【0090】
撹拌は、実験室スケールの小規模な実施の場合、かき混ぜ棒による手動の攪拌、振とう機を用いる攪拌、マグネチックスターラーと磁気回転子を用いた攪拌、攪拌モーターと攪拌翼を用いる攪拌、ポンプによりタンク内に水流を作り攪拌する方法等が挙げられる。マグネチックスターラーを用いる場合は、磁気回転子を容器の底で回転させると光触媒体の一部が摺りつぶされて崩れる恐れがあることから、フィッシュクリップやスピナーフラスコ等を用い、磁気回転子を液中に保持した形で攪拌を行うことが好ましい。着色汚水(反応液)の攪拌方法が適切でなかったり、攪拌が強すぎる場合には、光触媒体の一部が崩れて光触媒物質が1μm未満の粉として脱離し、光の透過が困難になる場合があることに留意すべきである。
【0091】
下水処理設備などの大規模な実施の場合は、攪拌翼、水流式、気泡式等の各種の攪拌装置による方法の何れを用いても良い。液中の溶存酸素濃度を効果的に高め、反応を促進する目的から、磁気攪拌式、水流式攪拌式、攪拌翼式のいずれかを採用することが好ましい。
【0092】
着色汚水の分解処理方法において、分解処理時間については、着色汚水の分解処理が進行すれば特に制限されず、例えば回分式反応器の場合0.1~100時間程度、好ましくは0.5~50時間程度である。連続槽型反応器の場合も滞留時間を0.1~100時間程度、好ましくは0.5~50時間程度とすればよい。また、分解処理温度については、着色汚水の分解処理が進行すれば特に制限されず、例えば5~80℃程度、好ましくは10~60℃程度である。
【0093】
3.汚水分解処理装置
本発明の汚水分解処理装置は、汚水の分解処理方法に用いるための、汚水分解処理装置であって、分解処理対象となる汚水は、CODCr値が100mg/L以上であり、かつ、BOD値とCODCr値との比(BOD/CODCr)が0.4以下である、すなわち、微生物難分解性の性状を示し、当該汚水に対して、波長が200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない紫外線の照射、及び酸素含有ガスの供給を同時に行う機能を備えることを特徴としている。反応中に汚水の出し入れを行わない回分式反応器を用いても良いし、タンク型の反応槽に処理前の汚水を一定流量で流入し、処理後の溶液を一定流量で流出させる連続槽型反応器を採用しても良い。
【0094】
汚水、紫外線照射、酸素ガス供給等の詳細については、前記の「1.汚水の分解処理方法」に記載の通りである。
【0095】
本発明の汚水分解装置は、波長が200~350nmを含み、かつ、200nm未満の波長を実質的に含まない紫外線の照射、及び酸素含有ガスの供給を同時に行う機能を備え、前記の汚水を分解処理できるものであれば、具体的な構成については、特に制限がない。本発明の汚水分解装置は、例えば、反応容器に紫外線照射部と攪拌装置部、ガス吹き込み部を備える。紫外線照射部は反応容器内部に装備し、汚水中に浸漬して液中から紫外線照射する構成とする(内部照射型)こともできるし、外部に設置して、反応容器の下部や側面などから器壁を通して紫外線照射する(外部照射型)こともできる。
【0096】
外部照射型装置の場合は、必要な紫外線波長を透過することのできる材質で反応器全体を構成するか、照射部に窓板を取り付ける。このような材質は、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等の何れでも良いが、波長250nm前後の紫外線の透過性の観点から、石英ガラスを用いることが好ましい。
【0097】
内部照射型の場合には反応器は紫外線透過の必要が無いため、その観点からはいかなる材料で構成されても良い。紫外線照射ランプを液中に浸漬するための外筒が必要になることがあるが、この材質は外部照射型装置の窓板材質と同様に選択する。
【0098】
攪拌装置部とガス吹き込み部の構成については、それぞれ、前記の「1.汚水の分解処理方法」に記載の構成を採用することができる。
【実施例0099】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0100】
<実施例1>
汚水Aとして、下水処理場において、下水汚泥を可溶化処理した後に嫌気消化した後の脱水分離液を、桐山ろ紙5C(保持粒子径1μm)によりろ過前処理したものを用いた。表1に示すとおり、汚水Aの溶解性CODCr値は、2300mg/L、BOD値は150mg/Lであり、BOD/CODは0.07である。汚水AのBOD/CODの値は、0.4よりも小さいことから、微生物難分解性の性状を示す。
【0101】
汚水Aの分解処理を以下の方法により行った。反応容器として石英ビーカー(直径9cm、高さ20cm)を用い、汚水A180mL加えた。ビーカーの底にはPTFEバブラー(アズワン株式会社、直径6cm、細孔径5~100μm、平均40μm)を設置した。マスフローコントローラーにて流量制御した空気(1000mL/min)をガス噴射フィルターから汚水A中に泡状に噴射すると共に、汚水Aを攪拌翼式の攪拌機(DLAB Scientific、OS20)を用いて600rpmで攪拌して泡を十分に溶液に接触させて溶存酸素を液中に供給した。光照射は100W高圧水銀ランプ(HL100G、セン特殊光源)を集光ミラー型の灯具(HLR100T-2、セン特殊光源)にセットして、直径59mmの照射開口部から行った。ビーカーの側面から光を照射し、ファン送風による空冷を行った。
【0102】
実施例で用いた水銀ランプの輝線スペクトル(セン特殊光源提供資料)を
図1に示す。ランプバルブはオゾンレス石英ガラスで波長210nm以下の紫外線は透過率ゼロとなるため、通常の水銀ランプでは見られる波長185nmの輝線がスペクトルに現れない。このため、このランプの使用中にオゾンの生成は無く、作業中にオゾン臭を感じることは全くなかった。照射光の強度(放射照度)の測定には、照度・輝度・放射照度計(デルタオーム社、HD2302.01)を用いた。測定する紫外線の波長域(UVC,UVB,UVA)に応じて3種類のプローブを接続して測定した。UVC測定にはLP471UVCを使用した。このプローブの測定波長域は220~280nmである。UVB測定にはLP471UVBを使用した。このプローブの測定波長域は280~315nmである。UVA測定にはLP471UVAを使用した。このプローブの測定波長域は315~400nmである。ランプの灯具先端から反応容器である石英ビーカー側面までの距離(2.2cm)で測定した放射照度は、192W/m
2(UVCプローブ)、580W/m
2(UVBプローブ)、435W/m
2(UVAプローブ)であった。本願の汚水分解方法に有効な紫外線は、このうちUVCとUVBに相当し、その合計は772W/m
2(波長220~315nm)であった。
【0103】
分解率評価のための溶液分析は、分光光度計(UV-1800、島津製作所)により行った。分析用に一部サンプリングした汚水Aを脱イオン蒸留水にて10倍に希釈し、光路長10mmの石英セルに入れて、190~900nmの波長範囲で吸光度を測定した。
【0104】
ある純物質の分解反応において、分解前の濃度をC0、各時間での濃度をCとして、分解時間に対して残存率C/C0をプロットすることで、分解速度式の検討を行うことが行われる。残存率C/C0のとき分解率は1-C/C0という関係にあり、例えば残存率0.6(60%)のとき分解率は0.4(40%)である。本発明で分解対象とする汚水中に存在するのは特定の純物質ではないため、濃度残存率を表すことはできないが、COD、色度、濁度の代替指標から下記の式により計算したR254、R390、R870を各々COD残存率、色度残存率、濁度残存率と呼ぶことにする。
【0105】
COD残存率:R254=(各時間における254nm吸光度)/(処理前汚水の254nm吸光度)
色度残存率:R390=(各時間における390nm吸光度)/(処理前汚水の390nm吸光度)
濁度残存率:R870=(各時間における870nm吸光度)/(処理前汚水の870nm吸光度)
【0106】
光照射は、6時間連続して行った後に停止し液の分析を行う操作を3回繰り返し、合計18時間照射した。処理時間に伴うUV-VISスペクトル(スペクトル測定時の10倍希釈後のデータ)の変化を
図2に、R254、R390、R870の処理時間に伴う変化を
図3に示す。また、処理前後の溶液の写真を
図4に、これらの溶液の公定法等による分析値を表1に示す。
【0107】
【0108】
図2に示されるグラフから、処理時間と共に測定波長全域で吸光度の減少がみられ、処理時間の経過と共に汚水の分解処理が進んでいることを示している。
【0109】
波長254nm、390nm、870nmでの吸光度変化を処理前の吸光度を基準にCOD,色度、濁度の残存率として計算し、処理時間に対してプロットした結果が
図3である。ここで、縦軸を対数軸にしている理由は、水中での有機汚染物質の酸化分解反応は一般に有機汚染物質濃度に対しての1次反応速度式に従うことが多く、その場合、反応時間を横軸に物質濃度の残存率(C/C
0)を縦軸(対数軸)にプロットすると直線となることで1次反応が確認できるためである。
図3の結果は、R254は直線となり、COD成分の分解は1次速度式に従っており、阻害要因や促進要因が特に無いことを示している。これに対してR390の変化から、色度成分の分解は6時間以降促進されている。R870の変化から、濁度成分の分解は初期からCOD分解よりも速くすすみ、6時間以降で更に加速されることが分かる。12時間以降は分解速度が低下するが、分解率が高くなって濁度成分がほぼ消失したためと考えられる。
【0110】
合計18時間の処理前後の液の写真(
図4)は、不透明な褐色の液色が処理により透明度のある黄色に変化したことを示す。表1から溶解性COD
Cr値、TOC値は約50%低減し、色度も78%低減できたことが公定法分析でも確認できた。更に、アンモニア性窒素(NH
4-N)も87%低減しているが、これは空気バブリングによるアンモニアストリッピング効果によるものと考えられる。
【0111】
<実施例2>
汚水Bとして、下水処理場において、可溶化処理を行っていない消化汚泥の脱水分離液を、桐山ろ紙5C(保持粒子径1μm)によりろ過前処理したものを用いた。汚水Bの溶解性CODCr値は、1600mg/L、BOD値は350mg/Lであり、BOD/CODは0.22である。汚水BのBOD/CODの値は、0.4よりも小さいことから、微生物難分解性の性状を示す。
【0112】
汚水Bの分解処理を以下の方法により行った。反応容器として石英ビーカー(公称容積100mL)を用い、汚水B50mL加えた。マスフローコントローラーにて流量制御した空気(400 mL/min)をガス噴射フィルター(富士理化工業 F335-01,細孔径5~10μm)から泡状に汚水B中に噴射すると共に、汚水Bを攪拌翼型の攪拌機(SPZ-1000、東京理化器械)を用いて350rpmで攪拌して溶存酸素を液中に供給した。光照射は、照射距離を長くした他は実施例1と同様に行った。ランプの灯具先端から反応容器である石英ビーカー側面までの距離(6.5cm)で測定した放射照度は、69W/m
2(UVCプローブ)、225W/m
2(UVBプローブ)、138W/m
2(UVAプローブ)であった。本願の汚水分解方法に有効な紫外線は、このうちUVCとUVBに相当し、その合計は294W/m
2(波長220~315nm)であった。光照射は3時間行い、1時間ごとに処理液の一部をサンプリングして分光光度計で分析した。COD残存率R254の処理時間に伴う変化を
図5に示す。
【0113】
<比較例1>
ガス噴射フィルターに供給するガスを窒素(400mL/min)として光照射を1時間としたこと以外は、実施例2と同様にして汚水Bの分解処理を行った。COD残存率R254の処理時間に伴う変化を
図5に示す。
【0114】
<実施例3>
比較例1において、光照射を1時間行った後に、ガス噴射フィルターに供給するガスを酸素(400mL/min)として光照射を2時間行い、汚水Bの分解処理を行った。COD残存率R254の処理時間に伴う変化を
図5に示す。
【0115】
<比較例2>
水銀ランプの電源を入れず、光照射を行わなかったこと以外は、は実施例2と同様にして、汚水Bについて3時間の分解処理を行った。COD残存率R254の処理時間に伴う変化を
図5に示す。
【0116】
図5に示されたように、空気をバブリングした実施例2に比して、窒素をバブリングした比較例1では反応が遅く溶存酸素が不足していることが分かる。ここからバブリングガスを酸素に切り替えた実施例3では、反応が十分に進むようになった。ただし、実施例2(空気)と実施例3(酸素)でグラフの横軸2~3時間の区間で傾きがほぼ同じであることから、溶存酸素を不足なく供給し反応を速く進めるためには、必ずしも酸素ガスを用いる必要が無く空気のバブリングで十分であることが示された。また、光を照射しなかった比較例2ではCODの減少が見られないことから、酸素供給と共に光照射が必要なことが示された。
【0117】
<実施例4>
汚水Cとして、下水処理場において、下水汚泥を可溶化処理した後に嫌気消化した後の脱水分離液を、桐山ろ紙5C(保持粒子径1μm)によりろ過前処理し、水で10倍希釈したものを用いた。汚水Cの溶液の溶解性CODCr値は220mg/L、BOD値は11mg/Lであり、BOD/CODは0.05である。汚水CのBOD/CODの値は、0.4よりも小さいことから、微生物難分解性の性状を示す。
【0118】
汚水Cの分解処理を以下の方法により行った。反応容器として石英ビーカー(公称容積200mL)を用い、汚水C100mL加えた。反応容器は縦横高さ各10cmの石英角型水槽内に設置し、水道水を流通した冷却コイルにて水温を一定に保持した。水槽内壁に立てかけて波長制限用の色ガラスフィルター(5cm角)を設置できるようにし、色ガラスフィルターを用いた場合には水槽外部から実施例1と同じ水銀ランプおよび灯具により照射した光が全てガラスフィルターを通過して反応容器に届くようにし、同じ装置で色ガラスフィルターを用いない実験も実施した。使用したガラスフィルターはUV-37(東芝硝子)であり、当該フィルターの波長域200~900nmにおける透過率を分光光度計で計測した結果を
図6に示した。マスフローコントローラーにて流量制御した空気(200mL/min)をガス噴射フィルター(富士理化工業 F335-01,細孔径5~10μm)から泡状に噴射すると共に、マグネチックスターラー(500rpm)で汚水Cを攪拌して、溶存酸素を液中に供給した。水銀ランプおよび灯具は実施例1と同じものを用い、各0.5時間照射した。色ガラスフィルターを用いない場合、ランプの灯具先端から石英水槽の壁を通し反応容器である石英ビーカー側面までの距離(2.5cm)で測定した放射照度は、126W/m
2(UVCプローブ)、407W/m
2(UVBプローブ)、361W/m
2(UVAプローブ)であった。本願の汚水分解方法に有効な紫外線は、このうちUVCとUVBに相当し、その合計は533W/m
2(波長220~315nm)であった。色ガラスフィルターを用いた場合は、各波長において
図6に示した透過率の分だけ照射強度が減少している。
【0119】
実施例4では、色ガラスフィルターを用いず、汚水Cに
図1の波長分布を持つ高圧水銀ランプの発光を直接照射した。30分間照射を行い、処理前後の汚水CのUV-VISスペクトルを
図7に示す。点線の反応前に比べ、実線の反応後スペクトルでは全波長域で吸光度の減少が見られ、分解反応が進行していることが確認できる。分解速度から1時間処理後のR254により求めたCOD分解率は16.8%であった。
【0120】
<比較例3>
色ガラスフィルターとしてUV-37(東芝硝子)を用いて照射波長の制限を行ったこと以外は、実施例4と同様にして、汚水Cの分解処理を行った。分光光度計(UV-1800、島津製作所)にて測定した色ガラスフィルターの透過スペクトルを
図6に示し、処理前後の汚水CのUV-VISスペクトルを
図8に示す。図に示したように、UV-37フィルターでは350nmを超える波長の光が照射されている。このランプで波長365nmの輝線は最も強く、UV-37フィルターでの透過率も高く、波長365nmの紫外線は強度的にも十分に照射されている。しかしながら
図8において点線の処理前スペクトルと実線の処理後スペクトルに差が見られず、350nmを超える波長の光照射は分解反応に有効でないことを示している。
【0121】
以上の実施例4及び比較例3の結果から、紫外線の照射波長として200nmから350nmの範囲が、微生物分解困難な汚水処理の分解に有効であり、350nmを超える波長の紫外線や可視光は有効でないことが示された。また、照射する紫外線が、200nm未満の波長を実質的に含まないことにより、紫外線照射によるオゾンの発生することを抑制して、汚水の分解処理を行うことができる。
【0122】
<光触媒体の調製例1>
(粒状Pt/TiO2(白金担持酸化チタン粒状体)の調製)
酸化チタン粉末に白金を担持した後に粒状体化して粒状Pt/TiO2とした。用いた酸化チタン粉末は日本アエロジル製のAEROXIDE(登録商標) TiO2 P25(以下P25とする)で、その平均一次粒子径は21nm(カタログ値)である。以下に本調製例の詳細手順を示す。
【0123】
(1)酸化チタン粉末への光析出法によるPt担持
公称容量500mLのスピナーフラスコ(Chemglass Life Science、CLS-1400)にメタノール50体積%の水溶液を400mL入れ、酸化チタン粉末(P25)を8g加えた。塩化白金酸水溶液(0.1mol/L)を1.23mL加え、マグネチックスターラーを用いて撹拌(約350rpm)しながら、サイドアームキャップに接続したPFAチューブを通じ窒素ガス(500mL/min)を30分間バブリングして、フラスコ中と液中の溶存酸素を除去した。
【0124】
窒素ガス流通を止めて容器を密閉状態とした後、撹拌を続けたままハンディーUVランプ(アズワン、SLUV-8)の光(波長365nm)を側方から照射した。反対側のサイドアームキャップに接続した窒素ガス出口流路に取り付けたセプタムからガスタイトシリンジにてガスサンプリングしてTCDガスクロマトグラフ(モレキュラーシーブ5Aカラム)により分析して、水素の発生を確認した。1時間光照射して、酸化チタンへのPtの光析出反応の完了により定常的に水素が発生することを確認した。
【0125】
光析出反応終了後は、遠心分離により沈殿物を回収し、水を加えて再分散した後再び沈殿物を回収する操作を合計3回繰り返し、100℃で乾燥し白金担持酸化チタン(Pt/TiO2)からなる光触媒体を得た。光触媒体において、酸化チタンへの白金の担持量は0.3重量%であった。
【0126】
(2)光触媒体の分級
調製した光触媒体は、乾燥後に塊状となり、粒径が揃わない状態となっている。これを、以下の粉砕・篩掛けと水中沈降の操作により分級した。光触媒体をメノウ乳鉢にて粉砕し、125μmの篩を通過し40μmの篩を通過しない粒を集め、これをるつぼに入れ、マッフル炉にて400℃で1時間焼成した。
【0127】
このままでは粉砕中に生じた微粉が付着しているため、40μm未満の粒を完全に除去することができていない。そこで、以下の水中沈降操作により付着した微粉を除去した。篩掛けした40~125μmの二次粒子をスクリュー管瓶(アズワン No.8)に入れ、水を100mL加え、蓋をして振り混ぜた後、静置した。完全に沈んでいる粒を残し、微粉が残り若干懸濁した状態の上澄みを水面から8.5cm分だけ捨てた。全体で100mLとなるよう水を再び加え、振り混ぜて静置後に上澄みを捨てる操作を7回繰り返した。繰り返すうちに、上澄み液からは懸濁状態が消え、完全に清澄な上澄み液が得られるようになった。最後に上澄み液を捨てた後、内容物を少量の水でテフロン(登録商標)蒸発皿に移し約40℃に加温・乾燥して、二次粒子径が40~125μmの光触媒体を得た。レーザ回折・散乱法の測定結果より、この光触媒体の水中分散状態での平均二次粒子径は86μmであった。
【0128】
調製した光触媒体の窒素吸着表面積、粉末X線回折、及び透過型電子顕微鏡の測定結果から、調製した光触媒体における酸化チタンの一次粒子径は原料のP25粉末から変化が無いことを確認した。以上より、調製した粒状Pt/TiO2は平均一次粒子径21nm、酸化チタン含有量99.7%(Pt 0.3wt%)、平均二次粒子径86μmであった。
【0129】
<光触媒体の調製例2>
(粒状Au/TiO2(金担持酸化チタン粒状体)の調製)
析出沈殿担持法により酸化チタン粉末に金を担持した後に粒状体化して粒状Au/TiO2とした。用いた酸化チタン粉末は調製例1で用いたのと同じP25で、その平均一次粒子径は21nm(カタログ値)である。以下に本調製例の詳細手順を示す。塩化金酸(HAuCl4・4H2O)0.63ミリモルを1Lの蒸留水に溶解させ、70℃に加熱しNaOH水溶液を滴下してpHを7に調節した。ここに、酸化チタン(P25)粉末4.0gを加え、70℃で1時間撹拌した。この後、室温に冷却し沈降物を蒸留水で充分に洗浄した後、乾燥し、空気中400℃で4時間焼成することにより、金担持酸化チタン(Au/TiO2)からなる光触媒体を得た。加えた塩化金酸の量から計算される金担持量は3.0重量%であるが、この調製法では加えた金の一部が洗浄により失われる。実際の試料についてICP発光分光分析法により求められた金の担持量は1.5重量%であった。これよりAu/TiO2光触媒体の酸化チタン含有量は98.5%となる。光触媒体の分級および微粉の除去は調製例1と同様に行い、二次粒子径が40~125μmの光触媒体を得た。
【0130】
<実施例5>
汚水D’として、下水処理場において、下水汚泥を可溶化処理した後に嫌気消化した後の脱水分離液を、桐山ろ紙5C(保持粒子径1μm)によりろ過前処理したものを用いた。汚水D’の溶解性CODCr値は、2200mg/L、色度は3600度、BOD値は150mg/Lであり、BOD/CODは0.07である。汚水D’のBOD/CODの値は、0.4よりも小さいことから、微生物難分解性を示す。
【0131】
汚水D'の前段分解処理を以下の方法により行った。反応容器として大型の石英ビーカー(直径9cm、高さ20cm)を用い、180mLの汚水D'を加えた。マスフローコントローラーにて流量制御した空気(500mL/min)をガス噴射フィルター(富士理化工業 F335-01, 細孔径5~10μm)から泡状に汚水D'中に噴射すると共に、汚水D’を攪拌機(DLAB Scientific、OS20)を用いて100rpmで攪拌して溶存酸素を液中に供給した。光照射は100W高圧水銀ランプ(HL100G、セン特殊光源)を集光ミラー型の灯具(HLR100T-2、セン特殊光源)にセットして、直径59mmの照射開口部から行った。ビーカーの下面から光を照射し、ファン送風による空冷を行った。ランプの灯具先端から反応容器である石英ビーカー下面までの距離(2.2cm)で測定した放射照度は、192W/m2(UVCプローブ)、580W/m2(UVBプローブ)、435W/m2(UVAプローブ)であった。全紫外線量の合計は1207W/m2(波長220~400nm)であった。
【0132】
光照射は6時間照射後に照射を止め、溶液の分析を行う操作を4回繰り返し、合計24時間照射した。1~3回目の照射(照射時間18時間)までは光触媒を加えずに前段分解処理を行い、着色汚水Dを得た。着色汚水DについてR254から計算したCODは330mg/L、R390から計算した色度は260度であった。
【0133】
次に、4回目の照射では、調製例2の粒状Au/TiO2を0.54g加えて着色汚水Dの後段分解処理を行った。光触媒分散濃度は3.0g/Lである。粒状Au/TiO2は調製例1と同じTiO2に析出沈殿法により1.5wt%のAuを担持し、40~125μmの粒径範囲に揃えたものを用いた。
【0134】
汚水D’および着色汚水Dについて、COD残存率R254、色度残存率R390、濁度残存率R870について時間に対してプロットしたものを
図9に示す。分解前の色度は3600度と非常に高いため、光触媒体を加えても加速の効果は期待できない。よって、3回目の照射(照射時間18時間)までは、光触媒体を加えずに200~350nmの波長の紫外線を含む高圧水銀ランプの光を照射することによって前段分解処理を行った。この前段分解処理により、照射時間18時間までで、CODは85%、色度は93%、濁度は96%と大きく減少した。12時間まではいずれも対数プロットで直線的に減少しているが、12時間から18時間の間では分解速度が鈍ってきている。R390から計算した18時間処理後の色度は260度であり、着色汚水の分解処理方法での有効色度範囲内に十分に入ってきている。そのため、ここで、調製例2の粒状Au/TiO
2を加えて後段分解処理を行ったところ、18時間から24時間の間では、CODと色度に関して残存率が再び大きく減少した。最終的に合計24時間の処理で、R254,R390,R870から計算したCOD,色度、濁度の分解率は各々96%、98%、96%に達した。
【0135】
<実施例6>
汚水E’として、下水処理場において、下水汚泥を可溶化処理した後に嫌気消化した後の脱水分離液を、桐山ろ紙5C(保持粒子径1μm)によりろ過前処理したものを用いた。汚水E’を希釈せずに、実施例5と同様にして、前段分解処理を行った。表2に示す通り、汚水E’の溶解性CODCr値は2200mg/L、色度は3400度であった。
【0136】
光照射は6時間照射後に照射を止め、溶液の分析を行う操作を5回繰り返し、合計30時間照射した。1~3回目の照射(照射時間18時間)までは光触媒を加えずに前段分解処理を行い、着色汚水Eを得た。着色汚水EについてR254から計算したCODは770mg/L、R390から計算した色度は680度であった。
【0137】
次に、4、5回目の照射では調製例1の粒状Pt/TiO2を0.54g加えて着色汚水Eの後段分解処理を行った。光触媒分散濃度は3.0g/Lである。
【0138】
汚水E’および着色汚水Eについて、COD残存率R254、色度残存率R390、濁度残存率R870について時間に対してプロットしたものを
図10に示す。分解前の色度は3400度と非常に高いため、光触媒を加えても加速の効果は期待できない。よって、3回目の照射(照射時間18時間)までは、光触媒を加えずに200~350nmの波長の紫外線を含む高圧水銀ランプの光を照射することによって前段分解処理を行った。この前段分解処理により、照射時間18時間までで、CODは66%が分解、色度は80%が分解、濁度は96%が分解と大きく減少し、対数プロットで直線的に濃度減少した。R390から計算した18時間処理後の色度は680度であり、着色汚水の分解処理方法での有効色度範囲内に入っている。そのため、ここで粒状Pt/TiO
2を加えて再び分解を行ったところ、18時間から30時間の間では、CODと色度に関して残存率が再び大きく減少した。R254とR390の対数プロットにおける傾きから、分解速度を比較すると、粒状Pt/TiO
2の添加によりCODの分解は3.7倍加速し、色度の分解は2.8倍加速した。前段後段合わせて合計30時間の処理前後での、汚水の写真を
図11に示す。処理前は黒に近い褐色の液色であったものが、30時間の処理でほぼ透明になった。表2には、分解前後の汚水の分析値を示す。
【0139】
【0140】
表2に示されるように、実施例6の着色汚水Eの光触媒添加分解処理により色度を96%、CODを71%分解できることがわかった。更に汚水E’に対して光触媒を加えない分解処理に続けて光触媒を加えての着色汚水の分解処理を併せて実施すると、微生物難分解性である汚水E’のCOD、TOCを各々90%、85%分解できているのみでなく、色度を99%と非常に高い分解率で処理できることが明らかになった。