(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000292
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】成膜方法および成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20221222BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20221222BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20221222BHJP
H10N 50/01 20230101ALI20221222BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20221222BHJP
【FI】
C23C14/35 B
C23C14/34 C
C23C14/14 F
H01L43/12
H01L43/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101031
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 篤史
【テーマコード(参考)】
4K029
5F092
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA02
4K029BA06
4K029BA13
4K029BA26
4K029BA43
4K029BB02
4K029BC06
4K029BD11
4K029CA05
4K029DA04
4K029DA12
4K029DC03
4K029DC16
4K029DC23
4K029DC34
4K029DC39
4K029DC46
4K029EA00
4K029GA00
4K029JA01
5F092AA11
5F092AB02
5F092AB06
5F092AC12
5F092AD23
5F092AD25
5F092BB04
5F092BB10
5F092BB22
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB43
5F092BB53
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC12
5F092BC18
5F092BC19
5F092BC22
5F092CA02
5F092GA05
(57)【要約】
【課題】複数のターゲット毎に設けられるマグネットの磁場を安定化させて、成膜を一層精度よく行うことができる技術を提供する。
【解決手段】成膜方法は、成膜装置において、複数のターゲットのうち選択した選択ターゲットにスパッタを行うスパッタ処理中に、選択ターゲットに配置されるマグネットについて、選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる選択側往復動作を行う。また成膜方法は、選択側往復動作とともに、スパッタを行わない非選択ターゲットに配置されるマグネットについて、非選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる非選択側往復動作、および非選択ターゲットから離間させる離間動作のうち少なくとも一方を行う。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器と、
前記処理容器内に設けられるスパッタ用の複数のターゲットと、
前記複数のターゲット毎に配置される複数のマグネットと、を備える成膜装置の成膜方法であって、
前記複数のターゲットのうち選択した選択ターゲットにスパッタを行うスパッタ処理中に、
前記選択ターゲットに配置される前記マグネットについて、前記選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる選択側往復動作を行うとともに、
前記複数のターゲットのうち前記スパッタを行わない非選択ターゲットに配置される前記マグネットについて、当該非選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる非選択側往復動作、および前記非選択ターゲットから離間させる離間動作のうち少なくとも一方を行う、
成膜方法。
【請求項2】
前記スパッタ処理中に、前記非選択側往復動作と前記離間動作との両方を行う、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記スパッタ処理の開始前に、前記離間動作を行い、さらに前記選択側往復動作および前記非選択側往復動作を開始した後に、前記スパッタ処理を開始する、
請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記複数のターゲットは、前記処理容器の内部空間において基板を載置する載置台の中心と、平面視で同じ中心を有する仮想正円の周方向に沿って配置され、
前記選択側往復動作および前記非選択側往復動作では、前記仮想正円における前記ターゲットの配置位置の接線に沿って、前記複数のマグネットの各々を往復動させる、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記選択側往復動作および前記非選択側往復動作では、前記仮想正円の時計回りに沿った第1方向と、前記仮想正円の反時計回りに沿った第2方向と、に前記複数のマグネットを一緒に往復動させる、
請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記離間動作では、前記非選択ターゲットの前記延在方向と直交する方向に、前記非選択ターゲットに配置される前記マグネットを移動させる、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記離間動作では、前記非選択ターゲットの表面磁場が10Oe以下となる位置に、前記非選択ターゲットに配置される前記マグネットを移動させる、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記選択ターゲットは、磁性材料である、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項9】
処理容器と、
前記処理容器内に設けられるスパッタ用の複数のターゲットと、
前記複数のターゲット毎に配置される複数のマグネットと、
前記複数のマグネット毎に設けられ、当該複数のマグネットを動作させる動作部と、
前記動作部を制御する制御部と、を備える成膜装置であって、
前記動作部は、
前記マグネットを、当該マグネットが配置される前記ターゲットの延在方向と平行に往復動させる往復動機構と、
前記マグネットを、当該マグネットが配置される前記ターゲットに対して近接および離間させる接離機構と、を有する、
成膜装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記複数のターゲットのうち選択した選択ターゲットにスパッタを行うスパッタ処理中に、
前記選択ターゲットに配置される前記マグネットについて、前記選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる選択側往復動作を行うとともに、
前記複数のターゲットのうち前記スパッタを行わない非選択ターゲットに配置される前記マグネットについて、当該非選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる非選択側往復動作、および前記非選択ターゲットから離間させる離間動作のうち少なくとも一方を行う、
請求項9に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、処理容器内のターゲットにプラズマ中の正イオンを当てて、ターゲットの物質を基板に放出するスパッタ処理を行う成膜装置(スパッタ装置)が開示されている。この成膜装置は、基板上に多層膜を成膜するために複数のターゲットを備えるとともに、複数のターゲット毎の背面にマグネットを有する。成膜装置は、スパッタ処理中に、マグネットの磁場により、ターゲットの近傍にプラズマを誘導する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、複数のターゲットを有する成膜装置において、成膜を一層精度よく行うことができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、処理容器と、前記処理容器内に設けられるスパッタ用の複数のターゲットと、前記複数のターゲット毎に配置される複数のマグネットと、を備える成膜装置の成膜方法であって、前記複数のターゲットのうち選択した選択ターゲットにスパッタを行うスパッタ処理中に、前記選択ターゲットに配置される前記マグネットについて、前記選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる選択側往復動作を行うとともに、前記複数のターゲットのうち前記スパッタを行わない非選択ターゲットに配置される前記マグネットについて、当該非選択ターゲットの延在方向と平行に往復動させる非選択側往復動作、および前記非選択ターゲットから離間させる離間動作のうち少なくとも一方を行う、成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一態様によれば、複数のターゲットを有する成膜装置において、成膜を一層精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る成膜装置の概略縦断面図である。
【
図2】基板処理システムにより処理されたウエハの一例を示す概略断面図である。
【
図3】成膜装置の4つのホルダおよび4つのマグネットの配置を示す概略平面図である。
【
図4】ターゲット(選択ターゲット)、ホルダ、マグネットおよび動作部を示す概略側面図である。
【
図5】ターゲット(非選択ターゲット)、ホルダ、マグネットおよび動作部を示す概略側面図である。
【
図6】成膜方法の処理フローを示すフローチャートである。
【
図7】複数のマグネットの動作を示すフローチャートである。
【
図8】スパッタ処理における複数のマグネットの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
図1は、一実施形態に係る成膜装置1の概略縦断面図である。一実施形態に係る成膜装置1は、
図1に示すように、基板の一例である半導体ウエハ(以下、単にウエハWという)上に物質を堆積させて、膜を成膜するPVD(Physical Vapor Deposition)装置である。
【0010】
成膜装置1は、内部空間10aを有する処理容器10を備え、処理容器10内にてウエハWに対する成膜処理を行う。成膜装置1は、ウエハWに成膜処理を行う構成として、ステージ機構部20と、ターゲット保持部30と、ターゲット覆い部40と、ガス供給部50と、ガス排出部60と、マグネット機構部70と、を含む。さらに、成膜装置1は、各構成の動作を制御する制御部80を有する。
【0011】
この成膜装置1は、図示しない基板処理システムの一部位として設置される。基板処理システムは、成膜処理以外にも、クリーニング処理、エッチング処理等をウエハWに施す。これにより、ウエハWには、例えば垂直磁化型MTJ(Magnetic Tunnel Junction:磁気トンネル接合)素子(磁気抵抗素子)が形成される。垂直磁化型MTJ素子を有するウエハWは、MRAMやHDD等の磁気デバイスに適用される。
【0012】
図2は、基板処理システムにより処理されたウエハWの一例を示す概略縦断面図である。
図2に示すように、処理されたウエハW上の素子は、下層から上層に向かって順に、基板101、下部電極102、下地層103、第1磁性層104、スペーサ層105、第2磁性層106、トンネルバリア層110、自由層121およびキャップ層122が積層されている。
【0013】
基板101は、例えばSi基板である。下部電極102は、金属などの導電体により形成される。下地層103は、例えばTa膜、Ru膜を積層して形成される。
【0014】
第1磁性層104は、非磁性のスペーサ層105を介して、第2磁性層106と反強磁性結合を形成し、第2磁性層106の磁化方向を固定する。すなわち、第1磁性層104、スペーサ層105および第2磁性層106は、SAF(Synthetic Antiferromagnet:人工反強磁性体)構造の固定層107を構成する。
【0015】
第1磁性層104は、例えば、Co膜とPt膜を交互に積層した多層膜として形成される。スペーサ層105は、例えば、Ru、Rh、Ir等で形成される。第2磁性層106は、例えば、CoFeB膜で形成される。また例えば、第2磁性層106は、Co膜とPt膜を交互に積層した多層膜、Ta膜、CoFeB膜を積層して形成される。
【0016】
トンネルバリア層110は、MgO膜により形成される。自由層121は、例えばCoFeB膜で形成される。固定層107(第2磁性層106)のCoFeB膜、トンネルバリア層110のMgO膜、自由層121のCoFeB膜によって、MTJ素子が形成される。キャップ層122は、例えば、Ta膜、Ru膜を積層して形成される。
【0017】
一実施形態に係る成膜装置1は、基板処理システムの素子形成において、磁性層(例えば、第1磁性層104、第2磁性層106、自由層121)と、非磁性層(例えば、スペーサ層105、トンネルバリア層110)とを積層した多層膜を形成する。以下では、多層膜を形成する成膜装置1において、磁性層を形成する状態について説明する。なお、成膜装置1は、磁性層のみを形成する装置であってもよい。
【0018】
図1に戻り、成膜装置1の処理容器10は、例えば、アルミニウムにより形成され、接地電位に接続されている。処理容器10は、内部空間10aと処理容器10の外部とを連通する搬入出口11と、搬入出口11を開閉するゲートバルブ12と、を備える。成膜装置1は、ゲートバルブ12の開放時に、図示しない搬送装置により、搬入出口11を介してウエハWの搬入および搬出を行う。
【0019】
処理容器10は、内部空間10aにおいてウエハWに対する成膜処理の中心に位置し、かつ鉛直方向に沿って延在する処理中心軸Xを有する。この処理中心軸Xは、ステージ機構部20に載置されたウエハWの中心を通るように設定されたものである。さらに、処理容器10は、ステージ機構部20の上方に位置する天井部に、略錐形状(例えば、略四角錐形状、円錐形状等)の錐形部13を有する。処理中心軸Xは、錐形部13の中心部(頂部)を通るように構成されている。
【0020】
ステージ機構部20は、処理容器10内に配置される載置台21と、この載置台21を動作可能に支持する支持駆動部22と、を備える。載置台21は、略円盤形状のベース部21aと、ベース部21a上に固定された静電チャック21bと、を含む。
【0021】
ベース部21aは、例えば、アルミニウムにより形成されている。ベース部21aは、支持駆動部22の上端に固定されており、内部空間10aの所定の高さ位置に静電チャック21bを配置する。なお、ステージ機構部20は、ベース部21aの温度を調整して、載置台21上に載置されたウエハWの温度を制御する温度制御機構(不図示)を有してもよい。
【0022】
静電チャック21bは、誘電体膜と、誘電体膜の内層に設けられた電極と、を有する(共に不図示)。静電チャック21bの電極には、直流電源23が接続されている。静電チャック21bは、直流電源23から電極に供給された直流電圧により誘電体膜に静電気力を生じさせて、静電チャック21bの上面に載置されたウエハWを静電吸着する。静電チャック21bの上面(ウエハWの載置面)の中心は、処理中心軸Xに一致している。
【0023】
支持駆動部22は、ベース部21aを保持している柱状の支軸24と、支軸24を動作させる動作装置25と、を有する。支軸24は、鉛直方向に沿って延在し、処理容器10の内部空間10aから底部14を通って処理容器10の外部に延在している。支軸24の軸心は、処理中心軸Xに重なっている。
【0024】
動作装置25は、処理容器10の外部に設けられ、支軸24の下端側を保持している。動作装置25は、制御部80の制御に基づき、支軸24を処理中心軸X回りに回転させ、また鉛直方向に昇降(上下動)させる。載置台21は、この動作装置25の動作によって、処理容器10内で回転および昇降する。
【0025】
さらに、ステージ機構部20は、処理容器10の底部14と支軸24との間に、支軸24を動作可能としつつ隙間を封止する封止構造26を有する。封止構造26としては、例えば、磁性流体シールを適用することができる。
【0026】
成膜装置1のターゲット保持部30は、載置台21から上方に離間した位置に、カソードターゲットであるターゲットTを複数(本実施形態では4つ)保持する。ターゲット保持部30は、複数のターゲットTの各々を保持する金属製のホルダ31と、複数のホルダ31の外周部を固定して当該ホルダ31を支持する絶縁部材32と、を有する。
【0027】
各ホルダ31に保持される各ターゲットTは、成膜用の物質を有する金属材料(例えば、Co、Fe、Ni、Pt、Mg、Cu等)が適用され、長方形状の平板を呈している。また、成膜装置1は、異なる種類の材料からなるターゲットTを備え、かつそれぞれのターゲットTを切り替えてスパッタすることで、処理容器10内で多層膜を形成することができる。以下では、特に指示がない限り、スパッタを行うターゲットTとして、磁性材料であるCoを適用した場合について説明していく。なお、複数のターゲットTは、互いに異なる金属材料であってもよく、一部または全部が同じ金属材料であってもよい。
【0028】
各ホルダ31は、平面視で、ターゲットTよりも一回り大きな長方形状に形成されている。各ホルダ31は、絶縁部材32を介して錐形部13の傾斜面に固定されている。このため、各ホルダ31は、複数のターゲットTの表面(内部空間10aに露出したスパッタ面)を、処理中心軸Xに対して傾斜した状態で保持する。
【0029】
また、ターゲット保持部30は、各ホルダ31が保持している各ターゲットTに対して、電源33を電気的に接続している。複数の電源33の各々は、接続されているターゲットTに負の直流電圧を印加する。なお、電源33は、複数のターゲットTに選択的に電圧を印加する単一の電源であってもよい。
【0030】
図3は、成膜装置1の4つのホルダ31および4つのマグネット71の配置を示す概略平面図である。
図3に示すように、ターゲット保持部30は、処理中心軸Xを中心とする仮想正円icに沿って複数のホルダ31(およびターゲットT)を均等に配置している。すなわち、4つのホルダ31(およびターゲットT)は、仮想正円ic上で90°間隔で配置され、かつ各ホルダ31の長辺が仮想正円icの接線と平行に延在するように設けられる。4つのターゲットTの各々は、ホルダ31と同位置で斜め下方を臨むように保持されている(
図1も参照)。
【0031】
以下の説明では、4つのターゲットTについて、
図3中の仮想正円icの上位置から時計回りに沿って、第1ターゲットT1、第2ターゲットT2、第3ターゲットT3、第4ターゲットT4と言う場合がある。例えば、成膜装置1は、成膜処理において、第1ターゲットT1をスパッタする場合、当該第1ターゲットT1を選択ターゲットTsに設定し、第2ターゲットT2、第3ターゲットT3および第4ターゲットT4を非選択ターゲットTnsに設定する。なお、成膜装置1のターゲットTおよびホルダ31の数は、特に限定されず、3つでもよく、5つ以上でもよい。例えば、ターゲットTおよびホルダ31が3つの場合、成膜装置1は、仮想正円ic上において120°間隔でターゲットTおよびホルダ31を配置しているとよい。
【0032】
図1に戻り、成膜装置1のターゲット覆い部40は、処理容器10内に配置されるシャッタ本体41と、このシャッタ本体41を動作可能に支持するシャッタ駆動部42と、を有する。
【0033】
シャッタ本体41は、複数のターゲットTと載置台21との間に設けられている。シャッタ本体41は、処理容器10の錐形部13の傾斜面に略平行な錐形状に形成され、複数のターゲットTのスパッタ面に対向することが可能である。また、シャッタ本体41は、ターゲットTよりも若干大きな形状の開口41aを1つ有する。開口41aは、シャッタ駆動部42により、複数のターゲットTのうち1つのターゲットT(選択ターゲットTs)に対向配置される。これにより、シャッタ本体41は、載置台21のウエハWに対して選択ターゲットTsのみを露出させ、他のターゲットT(非選択ターゲットTns)を非露出とする。
【0034】
シャッタ駆動部42は、柱状の回転軸43と、回転軸43を回転させる回転部44と、を有する。回転軸43の軸線は、処理容器10の処理中心軸Xに重なっている。回転軸43は、鉛直方向に沿って延在し、下端においてシャッタ本体41の中心(頂点)を固定している。回転軸43は、錐形部13の中心を通って処理容器10の外部に突出している。
【0035】
回転部44は、処理容器10の外部に設けられ、図示しない回転伝達部を介して、回転軸43を保持している上端(コネクタ55a)と相対的に回転軸43を回転させる。これにより、回転軸43およびシャッタ本体41が処理中心軸X回りに回転する。したがって、ターゲット覆い部40は、制御部80の制御に基づき、開口41aの周方向位置を調整し、スパッタを行う選択ターゲットTsに開口41aを対向させることができる。
【0036】
成膜装置1のガス供給部50は、錐形部13に設けられ励起用のガスを供給する励起用ガス部51と、処理容器10の底部14側に設けられ酸化用のガス(以下、酸化ガスという)を供給する酸化用ガス部56と、を含む。なお、成膜装置1は、ウエハW上に堆積した金属の酸化を行わない場合(例えば、磁性材料のみを成膜する場合)に、酸化用ガス部56を備えなくてもよい。
【0037】
励起用ガス部51は、処理容器10の外部においてガスを流通させる配管52を有するとともに、この配管52の上流側から下流側に向かって順に、ガス源53、流量制御器54、およびガス導入部55を備える。ガス源53は、励起用のガス(例えば、Arガス)を貯留しており、配管52にガスを流出する。流量制御器54は、例えば、マスフローコントローラ等が適用され、処理容器10内に供給するガスの流量を調整する。ガス導入部55は、処理容器10の外部から内部にガスを導入する。ガス導入部55は、処理容器10の外部において配管52に連結されるコネクタ55aと、ターゲット覆い部40の回転軸43内に形成されたガスの通路43aと、で構成される。
【0038】
一方、酸化用ガス部56は、酸化ガス(例えば、酸素)を吐出するヘッド部材57と、ヘッド部材57を回転可能させる回転装置58と、を備える。この酸化用ガス部56は、非磁性層の金属を酸化させる際に、ヘッド部材57から載置台21のウエハWに向けて酸化ガスを噴射する。ヘッド部材57は、処理容器10の外部において酸化ガス用の配管59が接続されている。この配管59には、酸化ガスのガス源591、および酸化ガスの流量を調整する流量制御器592が設けられている。回転装置58は、載置台21の載置面に対向する対向領域R1と、載置台21から離れた退避領域R2との間で、ヘッド部材57の酸化ガス吐出部571を変位させる。
【0039】
一方、成膜装置1のガス排出部60は、減圧ポンプ61と、この減圧ポンプ61を処理容器10の底部14に固定するためのアダプタ62と、を有する。ガス排出部60は、制御部80の制御に基づき、処理容器10の内部空間10aを減圧する。
【0040】
成膜装置1のマグネット機構部70は、各ターゲットTに磁場Hを付与することで、ターゲットTにプラズマを誘導する機能を有する。マグネット機構部70は、複数のホルダ31の各々に対して、マグネット71(カソードマグネット)と、このマグネット71を動作可能に保持する動作部72と、を備える。本実施形態に係る成膜装置1は、4つのホルダ31に対応して、4つのマグネット71と、各マグネット71を保持する4つの動作部72と、を有している。
【0041】
図4は、ターゲットT(選択ターゲットTs)、ホルダ31、マグネット71および動作部72を示す概略縦断面図(
図3のIV-IV線断面図)である。
図4に示すように、複数のマグネット71は、処理容器10の外部において、各ホルダ31に対して非接触かつ対向するように動作部72に保持されている。詳細には、錐形部13に固定されているホルダ31の傾斜に対応して、各マグネット71の下面(対向面)がホルダ31およびターゲットTと平行になるように、各マグネット71を配置している。これにより、各マグネット71は、ターゲットTを保持するホルダ31に干渉することなく、各ターゲットTと相対移動する。
【0042】
各マグネット71は、磁力を誘導するヨーク73を介して動作部72の各々に保持されている。ヨーク73の形状は、特に限定されず、マグネット71の磁場Hを、当該マグネット71に隣接するターゲットTに適切に誘導できればよい。
【0043】
図3に示すように、4つのマグネット71は、仮想正円ic上の各ターゲットTに重なるように配置される。以下では、4つのマグネット71について、配置される4つのターゲットT(第1~第4ターゲットT1~T4)に応じて時計回りに、第1マグネット711、第2マグネット712、第3マグネット713、第4マグネット714という場合がある。
【0044】
各マグネット71は、互いに同形状に形成され、同程度の磁力が生じるように形成されている。具体的には、各マグネット71は、平面視で、略長方形状を呈している。動作部72の保持状態で、マグネット71の長辺は、長方形状のターゲットTの短手方向に平行となるように延在している一方で、マグネット71の短辺は、長方形状のターゲットTの長手方向に平行となるように延在している。
【0045】
各マグネット71は、永久磁石を適用することができる。各マグネット71を構成する材料は、適宜の磁力を有していれば特に限定されず、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ネオジム等があげられる。
【0046】
また、各マグネット71は、第1磁極71aを内側(中心部)に有するとともに、第1磁極71aと反対の磁極である第2磁極71bを第1磁極71aの外側に有するように着磁されている。第2磁極71bは、第1磁極71aの全周を周回している。つまり短手方向または長手方向に沿った断面視で、マグネット71は、第2磁極71b、第1磁極71a、第2磁極71bの順に配置されている(
図4も参照)。
【0047】
そして、仮想正円icの周方向に沿って隣り合う位置に配置されるマグネット71同士は、第1磁極71aおよび第2磁極71bが相互に異なるように設定される。すなわち、
図3中において、第1マグネット711の第1磁極71aがN極で、第2磁極71bがS極の場合は、第2マグネット712および第4マグネット714の第1磁極71aがS極で、第2磁極71bがN極となる。また、第3マグネット713は、第1磁極71aがN極で、第2磁極71bがS極となる。
【0048】
各マグネット71を保持する各動作部72は、保持しているマグネット71を、ターゲットTの長手方向に沿って往復動させるとともに、ターゲットTに対して離間および接近させる。具体的には、各動作部72は、マグネット71を保持して当該マグネット71を往復動させる往復動機構74と、往復動機構74を保持して当該往復動機構74をターゲットTに対して離間および近接させる接離機構75と、を備える。
【0049】
往復動機構74は、ターゲットTの長手方向に延在するレール74aと、マグネット71を保持し当該レール74aに沿って移動可能な可動体74bと、可動体を移動させる駆動本体部74cと、を備える。往復動機構74の駆動本体部74cは、制御部80の制御に基づき可動体74bを移動させる。駆動本体部74cは、例えば、ボールねじ機構、シリンダ機構、クランク機構、リニアステージ等を適用することができる。
【0050】
往復動機構74は、レール74aに沿って可動体74bを移動させることにより、ターゲットTを保持しているホルダ31(つまりターゲットTのスパッタ面の面方向)に対して平行に、マグネット71を移動させる。往復動機構74は、マグネット71の移動の範囲について、ターゲットTの長手方向一端および長手方向他端に設定している。往復動機構74は、制御部80の制御に基づき、長手方向一端および長手方向他端の間で、仮想正円icの接線方向に沿うようにマグネット71を往復動させる。
【0051】
以下では、マグネット71が往復動する方向について、仮想正円icの時計回りに近似した方向を第1方向といい、仮想正円icの反時計回りに近似した方向を第2方向という。すなわち、第1マグネット711は、
図3中における右方向を第1方向、左方向を第2方向としており、動作部72により左右に往復動する。第2マグネット712は、
図3中における下方向を第1方向、上方向を第2方向としており、動作部72により上下に往復動する。第3マグネット713は、
図3中における左方向を第1方向、右方向を第2方向としており、動作部72により左右に往復動する。第4マグネット714は、
図3中における上方向を第1方向、下方向を第2方向としており、動作部72により上下に往復動する。
【0052】
また、接離機構75は、ターゲットTの面方向と直交する方向に延在するガイド75aと、往復動機構74を保持しかつガイド75aに沿って移動可能な可動体75bと、可動体75bを移動させる駆動本体部75cと、を備える。接離機構75の駆動本体部75cも、往復動機構74の駆動本体部74cであげたアクチュエータ等を適宜採ることができ、制御部80の制御に基づき可動体75bを移動させる。これにより、接離機構75は、ターゲットTの面方向と直交する方向に、往復動機構74およびマグネット71を移動させる。
【0053】
図5は、ターゲットT(非選択ターゲットTns)、ホルダ31、マグネット71および動作部72を示す概略縦断面図(
図3のV-V線断面図)である。
図5に示すように、接離機構75は、マグネット71の移動範囲について、ホルダ31に充分に近接した近接位置APと、近接位置APよりもホルダ31から離間した離間位置EPとに設定している。離間位置EPに移動したマグネット71がターゲットTにかける磁場Hは、近接位置APにおいてマグネット71がターゲットTにかける磁場Hよりも小さくなる。
【0054】
近接位置APは、マグネット71の磁場HがターゲットT(選択ターゲットTs)を超えて、内部空間10aに発揮される位置である。例えば、近接位置APは、ターゲットTの表面磁場が、20Oe(=1591.6A/m)以上となる位置に設定されるとよい。
【0055】
一方、離間位置EPは、マグネット71の磁場HがターゲットT(非選択ターゲットTns)を超えない、またはターゲットT内に収まる位置であることが好ましい。より詳細には、離間位置EPは、ターゲットTの表面磁場が、10Oe(=795.8A/m)以下となる位置である。近接位置APと離間位置EPとの間隔は、成膜装置1の大きさにもよるが、例えば、数mm~数十mm程度の範囲である。
【0056】
成膜装置1の制御部80は、1以上のプロセッサ81、メモリ82、図示しない入出力インタフェースおよび電子回路を有する制御用コンピュータである。1以上のプロセッサ81は、CPU、ASIC、FPGA、複数のディスクリート半導体からなる回路等のうち1つまたは複数を組み合わせたものを適用できる。メモリ82は、不揮発性メモリおよび揮発性メモリを含み、制御部80の記憶部を形成している。なお、メモリ82の一部は、1以上のプロセッサ81に内蔵されていてもよい。
【0057】
プロセッサ81は、メモリ82に記憶されたプログラムを実行することで、成膜装置1の成膜処理(ウエハW上へ金属を堆積させるスパッタ処理)を行う。成膜処理時に、プロセッサ81は、メモリ82に記憶されたレシピに基づき、成膜装置1の各構成の動作を制御する。
【0058】
特に、本実施形態に係るプロセッサ81は、スパッタ処理中に、選択ターゲットTsに隣接するマグネット71について、近接位置APにて選択ターゲットTsの延在方向と平行に往復動させる選択側往復動作を行う。また、プロセッサ81は、非選択ターゲットTnsに隣接するマグネット71について、近接位置APから離間位置EPに離間させる離間動作を行うとともに、離間位置EPにて非選択ターゲットTnsの延在方向と平行に往復動させる非選択側往復動作を行う。
【0059】
本実施形態に係る成膜装置1は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下その動作(成膜方法)および効果について説明する。
【0060】
図6は、成膜方法の処理フローを示すフローチャートである。
図6に示すように、成膜装置1の制御部80は、成膜方法の実施において、まず回転装置58の回転を制御して、ヘッド部材57を載置台21から離間させた退避領域R2に退避させる(ステップS1)。また、制御部80は、流量制御器54を制御して、励起用ガス部51から所定の流量の励起用ガスを処理容器10内に供給するとともに、ガス排出部60を制御して、処理容器10内を所定の圧力に設定する(ステップS2)。
【0061】
そして、制御部80は、複数のターゲットTのうちスパッタ処理を行うターゲットTである選択ターゲットTsを1つ選択する(ステップS3)。複数のターゲットTのうち選択ターゲットTs以外のターゲットTは、非選択ターゲットTnsとなる。
【0062】
制御部80は、シャッタ駆動部42の回転を制御して、選択ターゲットTsに対して開口41aを対向配置する(ステップS4)。これにより、非選択ターゲットTnsには、シャッタ本体41が対向し、シャッタ本体41は、内部空間10aに対する非選択ターゲットTnsの露出を遮蔽する。
【0063】
さらに、制御部80は、マグネット機構部70を制御して各マグネット71を動作させる(ステップS5)。つまり、成膜方法では、スパッタ処理の開始前に、各マグネット71の動作を開始して、スパッタ処理中にも各マグネット71の動作を継続する。各マグネット71の具体的な動作については、後に詳述する。
【0064】
そして、各マグネット71の動作中に、各制御部80は、選択ターゲットTsにつながる電源33を制御して、選択ターゲットTsに負の直流電圧を印加する(ステップS6)。これにより、成膜装置1は、処理容器10内においてプラズマを生成し、プラズマ中の正イオンを選択ターゲットTsに当てるスパッタ処理を行う。スパッタ処理により、選択ターゲットTsは、内部空間10aにスパッタ粒子である金属(例えば、Co)を放出し、このスパッタ粒子がウエハW上に堆積していく。
【0065】
その後、制御部80は、スパッタ処理で動作していた各構成(マグネット機構部70を含む)の動作を停止する(ステップS7)。
【0066】
制御部80は、ステップS7を終了すると、成膜処理を終了するか否かを判定する(ステップS8)。成膜処理の継続を判定すると(ステップS8:NO)、ステップS1またはステップS3に戻って、以下同様の処理フローを繰り返す。また、ウエハWに多層膜を形成するために成膜処理を継続する場合、成膜装置1は、選択ターゲットTsを変更する。例えば、成膜装置1は、第1ターゲットT1、第2ターゲットT2、第3ターゲットT3、第4ターゲットT4の順に選択ターゲットTsを変えることで、目的の多層膜を形成することができる。また、金属酸化膜(例えばMgO膜)を成膜する場合、成膜装置1は、金属材料からなるターゲットT(例えば、Mg)をスパッタ処理(ステップS7)後に、酸化用ガス部56を用いてウエハW上のスパッタ粒子に酸化ガスを噴出する。これにより、成膜装置1は、スパッタ粒子を酸化させ金属酸化膜を形成することができる。
【0067】
一方、成膜処理の終了を判定すると(ステップS8:YES)、制御部80は、成膜方法の処理フローからウエハWを搬出する処理に移行する。
【0068】
次に、上記のステップS5における、複数のターゲットTの各々に設けられた各マグネット71の動作について説明する。ここでは、選択ターゲットTsとして、磁性材料(例えば、Co、Fr、Ni)のターゲットTが選択されているものとして説明する。制御部80は、選択ターゲットTsおよび複数の非選択ターゲットTnsを設定すると(
図6のステップS3)、選択ターゲットTsに配置されるマグネット71と、非選択ターゲットTnsに配置されるマグネット71と、で異なる動作を行う。
【0069】
図7は、複数のマグネット71の動作を示すフローチャートである。
図7に示すように、制御部80は、選択ターゲットTsのマグネット71について、接離機構75により近接動作を行って近接位置APに配置する(ステップS51)。なお、選択ターゲットTsのマグネット71の動作開始前に、当該マグネット71が近接位置APに元々位置する場合は、近接動作を行わなくてもよい。
【0070】
一方、制御部80は、各非選択ターゲットTnsの各マグネット71について、各接離機構75により離間動作を行って離間位置EPに配置する(ステップS52)。なお、非選択ターゲットTnsの各マグネット71の動作開始前に、当該マグネット71が離間位置EPに元々位置する場合は、離間動作を行わなくてもよい。
【0071】
さらに、制御部80は、選択ターゲットTsのマグネット71を往復動機構74により往復動させる選択側往復動作と、各非選択ターゲットTnsのマグネット71を各往復動機構74により往復動させる非選択側往復動作と、を同時に実施する(ステップS53)。つまり、選択ターゲットTsのマグネット71は、近接位置APで選択ターゲットTsの長手方向と平行に往復動する(
図4も参照)。一方、各非選択ターゲットTnsの各マグネット71は、非選択動作において、離間位置EPで各非選択ターゲットTnsの長手方向と平行に往復動する(
図5も参照)。これにより、成膜装置1は、スパッタ処理の開始前に、複数のターゲットT毎に配置される全てのマグネット71の往復動を開始させ、スパッタ処理中も、この各マグネット71の往復動を継続する。
【0072】
また、制御部80は、マグネット71の動作において、全てのマグネット71の移動を同期させる同期動作を行う。
図8は、スパッタ処理における複数のマグネット71の動作を説明する図である。
図8(a)は、各マグネット71の第1方向への移動を示しており、
図8(b)は、各マグネット71の第2方向への移動を示している。
【0073】
図8(a)に示すように、制御部80は、各往復動機構74により、第1方向に沿って複数のマグネット71を一緒に往復動させる。例えば、選択ターゲットTsが第1ターゲットT1であり、第1マグネット711が右方向(第1方向)に向って、所定速度で移動している場合も、第2マグネット712は、下方向(第1方向)に向かって第1マグネット711と同じ速度で移動する。同様に、第3マグネット713は、左方向(第1方向)に向かって第1マグネット711と同じ速度で移動し、第4マグネット714は、上方向(第1方向)に向かって第1マグネット711と同じ速度で移動する。
【0074】
これにより、各マグネット71(第1マグネット711、第2マグネット712、第3マグネット713および第4マグネット714)は、同じタイミングで各第1方向の移動端に到達する。よって、各マグネット71は、第1方向と第2方向の切り替えも同時となる。
【0075】
図8(b)に示すように、第1マグネット711が左方向(第2方向)に向って、所定速度を維持して移動する場合も、第2マグネット712は、上方向(第2方向)に向かって第1マグネット711と同じ速度で移動する。同様に、第3マグネット713は、右方向(第2方向)に向かって第1マグネット711と同じ速度で移動し、第4マグネット714は、下方向(第2方向)に向かって第1マグネット711と同じ速度で移動する。
【0076】
つまり、選択側往復動作において選択ターゲットTsのマグネット71が第1方向に移動する際に、非選択側往復動作において各非選択ターゲットTnsのマグネット71も第1方向に移動する。逆に、選択側往復動作において選択ターゲットTsのマグネット71が第2方向に移動する際に、非選択側往復動作において各非選択ターゲットTnsのマグネット71も第2方向に移動する。このように、制御部80は、複数のマグネット71の動作を同期させることで、仮想正円icの周方向に沿って隣り合うマグネット71同士の間隔が大きく変化しないようにすることができる。
【0077】
図4に示すように、近接位置APに位置する選択ターゲットTsのマグネット71の磁場Hは、選択ターゲットTsを透過して、選択ターゲットTsの表面磁場として内部空間10aに大きく作用する。この選択ターゲットTsの表面磁場に応じて、内部空間10aのプラズマが選択ターゲットTsに導かれる。また、選択ターゲットTsのマグネット71は、選択側往復動作により、選択ターゲットTsの長手方向に沿って変位していくことで、選択ターゲットTsの全面にプラズマ中の正イオンを導くことができる。
【0078】
一方、
図5に示すように、離間位置EPに位置する各非選択ターゲットTnsのマグネット71の磁場Hは、各々が配置される非選択ターゲットTnsおよび内部空間10aに対して大幅に低下する。例えば、各非選択ターゲットTnsの表面磁場は、10Oe以下となる。そのため、成膜装置1は、各非選択ターゲットTnsの表面磁場による、処理容器10に対する影響を低減することができる。
【0079】
さらに、選択側往復動作とともに非選択側往復動作(同期動作)を行うことで、4つのマグネット71の相互の間隔が大きく変わることなく、各マグネット71の往復動を繰り返すことができる。これにより仮に、各非選択ターゲットTnsの表面磁場が、内部空間10aに多少漏れたとしても、各マグネット71の磁場H同士が影響し合って、内部空間10aに生じた磁場Hが不安定になることを抑制することが可能となる。
【0080】
ここで、比較例に係る成膜装置として、選択ターゲットTsのマグネット71のみが往復動して、各非選択ターゲットTnsの各マグネット71が近接位置APで停止を維持する構成について説明する。この比較例に係る成膜装置は、選択ターゲットTsのマグネット71が往復動した際、停止している非選択ターゲットTnsのマグネット71に選択ターゲットTsのマグネット71が近づく。そのため、処理容器10内において選択ターゲットTsのマグネット71と非選択ターゲットTnsのマグネット71の磁場Hが相互作用し、選択ターゲットTsやその周辺部は、磁場Hの変化の影響を受けることになる。
【0081】
例えば、スパッタ処理により磁性材料の選択ターゲットTsから放出されたスパッタ粒子が、非選択ターゲットTnsの磁場Hにトラップされ、針金(ウィスカ)状に堆積したパーティクルとなる場合がある。特に、この種のパーティクルは、シャッタ本体41の開口41aの周辺に発生し易くなる。パーティクルは、ウエハWに落下した場合に、ウエハWの成膜精度を低下させる不純物になる。また、パーティクルは、処理容器10内でアーク放電を引き起こしてプラズマの安定放電を阻害する要因ともなる。
【0082】
これに対し、本実施形態に係る成膜装置1は、各非選択ターゲットTnsの各マグネット71の磁場Hが、選択ターゲットTsのマグネット71の磁場Hに相互作用することが可及的に抑えられる。したがって、スパッタ処理により磁性材料の選択ターゲットTsから放出されたスパッタ粒子が、非選択ターゲットTnsの磁場Hにトラップされることが回避されて、パーティクルの発生が抑制される。その結果、成膜装置1は、プラズマの放電を安定化させ、ウエハWの成膜精度を向上させることができる。
【0083】
成膜装置1は、各マグネット71の現在位置を検出する検出部(不図示)を備え、検出部が検出した位置に基づき、各マグネット71の移動速度または移動量をフィードバッグ制御してもよい。また制御部80は、各マグネット71の相対位置に変化が生じた(同期がずれた)場合に、各マグネット71の動作を再び同期させる処理を行ってもよい。例えば、この処理は、各ターゲットTの長手方向一端部に各マグネット71が移動するまで、先に長手方向一端部に到達したマグネット71を待機させ、全てのマグネット71が長手方向一端部に揃った際に、同期動作を再び開始する方法があげられる。
【0084】
なお、成膜装置1は、上記実施形態に限定されず、複数の非選択ターゲットTnsのマグネット71を往復動させる非選択側往復動作、および複数の非選択ターゲットTnsからマグネット71を離間させる離間動作のうち一方のみを実施してもよい。例えば、成膜装置1は、非選択側往復動作のみを行っても、各非選択ターゲットTnsのマグネット71による磁場Hが、選択ターゲットTsのマグネット71の磁場Hと相互作用することを低減できる。したがって、内部空間10aの磁場Hが安定化し、パーティクルの発生が抑制される。また例えば、成膜装置1は、離間動作のみを行っても、複数の非選択ターゲットTnsに対する各マグネット71の磁場Hが大幅に弱くなるので、やはり内部空間10aの磁場Hを安定化させることができる。
【0085】
また、成膜装置1は、各マグネット71を動作させる各動作部72に接離機構75を備えることで、各ターゲットTに対する各マグネット71の磁場Hを適切に調整することも可能となる。例えば、成膜装置1は、スパッタ用のターゲットTの種類に応じて、接離機構75により各ターゲットTと各マグネット71の間隔を調整する。これにより、ターゲットTは、スパッタ処理中に、当該ターゲットTの種類に応じた適切な表面磁場を内部空間10aに発生させることができる。つまり、成膜装置1は、接離機構75を備えるだけでも、内部空間10aでの磁場を安定化させ、成膜を一層精度よく行うことができる。
【0086】
さらに、制御部80は、レシピ等を参照して、選択ターゲットTsが磁性材料である場合に、上記の各マグネット71の動作を実施する一方で、選択ターゲットTsが非磁性材料である場合に、上記の各マグネット71の動作を非実施としてもよい。選択ターゲットTsが非磁性材料の場合、スパッタ粒子は非選択ターゲットTnsのマグネット71の磁場に影響されずに落下していくからである。なお、成膜装置1は、選択ターゲットTsが非磁性材料の場合でも、非選択ターゲットTnsのマグネット71を動作させてもよく、これにより各マグネット71の相対位置を簡単に維持することができる。
【0087】
以上のように、一実施形態に係る成膜方法は、スパッタ処理中に、選択ターゲットTsのマグネット71について選択側往復動作を行うとともに、非選択ターゲットTnsのマグネット71について非選択側往復動作および離間動作のうち少なくとも一方を行う。これにより、成膜方法は、処理容器10内において、複数のターゲットT毎に設けられるマグネット71の磁場Hを安定化させることができる。例えば、非選択ターゲットTnsのマグネット71が、スパッタ処理により生じたスパッタ粒子をトラップすることを抑制できる。その結果、成膜を一層精度よく行うことができる。
【0088】
また、成膜方法は、スパッタ処理中に、非選択側往復動作と離間動作との両方を行う。これにより、非選択ターゲットTnsのマグネット71の磁場Hが、選択ターゲットTsのマグネット71の磁場Hに相互作用することを、より確実に低減することが可能となる。
【0089】
また、成膜方法は、スパッタ処理の開始前に、離間動作を行い、さらに選択側往復動作および非選択側往復動作を開始した後に、スパッタ処理を開始する。これにより、スパッタ処理の開始前に、処理容器10内の各マグネット71の磁場Hを安定化させることができ、スパッタ処理を一層良好に行うことが可能となる。
【0090】
また、複数のターゲットTは、処理容器10の内部空間10aにおいて基板(ウエハW)を載置する載置台21の中心と、平面視で同じ中心を有する仮想正円icの周方向に沿って配置され、選択側往復動作および非選択側往復動作では、仮想正円icにおけるターゲットTの配置位置の接線に沿って、複数のマグネット71の各々を往復動させる。これにより、成膜方法は、複数のターゲットTのうちいずれのターゲットをスパッタ処理する場合でも、基板の成膜を良好に行うことができ、また非選択側往復動におけるマグネット71の往復動により、スパッタ粒子のトラップを回避できる。
【0091】
また、選択側往復動作および非選択側往復動作では、仮想正円icの時計回りに沿った第1方向と、仮想正円icの反時計回りに沿った第2方向と、に複数のマグネット71を一緒に往復動させる。これにより、成膜方法は、複数のマグネット71間の間隔を大きく変えることがなくなり、複数のマグネット71の磁場Hをより一層安定化させることが可能となる。
【0092】
また、離間動作では、非選択ターゲットTnsの延在方向と直交する方向に、非選択ターゲットTnsに配置されるマグネット71を移動させる。これにより、成膜方法は、非選択ターゲットTns対してマグネット71全体を確実に離すことが可能となり、マグネット71の磁場Hの影響を低減できる。
【0093】
また、離間動作では、非選択ターゲットTnsの表面磁場が10Oe以下となる位置に、非選択ターゲットTnsに配置されるマグネット71を移動させる。これにより、成膜方法は、非選択ターゲットTnsからの漏れ磁場が充分に抑制され、処理容器10内の磁場Hを一層安定化させることができる。
【0094】
また、選択ターゲットTsは、磁性材料である。これにより、スパッタ処理中に非選択側往復動作や離間動作を行うことで、非選択ターゲットTnsのマグネット71の磁場Hが、磁性材料である選択ターゲットTsのスパッタ粒子に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0095】
また、本開示の一態様は、処理容器10と、処理容器10内に設けられるスパッタ用の複数のターゲットTと、複数のターゲットT毎に配置される複数のマグネット71と、複数のマグネット71毎に設けられ、当該複数のマグネット71を動作させる動作部72と、動作部72を制御する制御部80と、を備える成膜装置1であって、動作部72は、マグネット71を、当該マグネット71が配置されるターゲットTの延在方向と平行に往復動させる往復動機構74と、マグネット71を、当該マグネット71が配置されるターゲットTに対して近接および離間させる接離機構75と、を有する。これにより、成膜装置1は、複数のターゲットTに対する各マグネット71の磁場Hを適切に調整することができ、各マグネット71の磁界を安定化させて、成膜を一層精度よく行うことができる。
【0096】
また、制御部80は、複数のターゲットTのうち選択した選択ターゲットTsにスパッタを行うスパッタ処理中に、選択ターゲットTsに配置されるマグネット71について、選択ターゲットTsの延在方向と平行に往復動させる選択側往復動作を行うとともに、複数のターゲットTのうちスパッタを行わない非選択ターゲットTnsに配置されるマグネット71について、当該非選択ターゲットTnsの延在方向と平行に往復動させる非選択側往復動作、および非選択ターゲットTnsから離間させる離間動作のうち少なくとも一方を行う。これにより、成膜装置1は、各マグネット71の磁界をより安定化させることができる。
【0097】
今回開示された実施形態に係る成膜装置1は、すべての点において例示であって制限的なものではない。実施形態は、添付の請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形および改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 成膜装置
10 処理容器
10a 内部空間
31 ホルダ
71 マグネット
72 動作部
74 往復動機構
75 接離機構
80 制御部
ic 仮想正円
T ターゲット
Tns 非選択ターゲット
Ts 選択ターゲット