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特開2023-29215工具と被加工物との接触を検出するための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029215
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】工具と被加工物との接触を検出するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/22 20060101AFI20230224BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20230224BHJP
   G01D 5/244 20060101ALI20230224BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
B23Q17/22 C
B23B19/02 A
G01D5/244 K
B24B49/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085168
(22)【出願日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】10 2021 209 049.4
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】390014281
【氏名又は名称】ドクトル・ヨハネス・ハイデンハイン・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】DR. JOHANNES HEIDENHAIN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】インゴ・ヨアヒムスターラー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン・シュミット
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・ミッターライター
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト・メッツケ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・レベライン
(72)【発明者】
【氏名】アロイス・バルトレヒナー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン・グルーバー
【テーマコード(参考)】
2F077
3C029
3C034
3C045
【Fターム(参考)】
2F077AA01
2F077AA47
2F077CC02
2F077NN17
2F077NN24
2F077NN27
2F077PP05
2F077PP19
2F077TT21
2F077TT31
2F077TT35
2F077TT66
2F077UU13
3C029AA15
3C034BB92
3C045FD03
3C045FD20
3C045FD23
(57)【要約】
【課題】 本発明は、工作機械で工具4と被加工物6との接触を検出するための装置及び方法に関する。
【解決手段】 装置は、軸2に回転しないように配置された測定目盛61を有する1つの測定器60と、軸2に対して固定配置されている少なくとも1つの位置センサ64と、1つのデータプロセッサ40とを備え、工具4と被加工物6とは、互いに相対移動可能であり、工具4又は被加工物6は、軸2に回転しないように結合されていて、少なくとも1つの位置センサ64が、測定目盛61を走査し、当該走査から、軸2の位置を示す位置値P1を生成するように構成されていて、位置値P1が、データプロセッサ40に供給されていて、データプロセッサ40は、位置値P1の推移を解析することによって、工具4と被加工物6との接触を検出し、当該解析の結果を変位信号VSのステータスによって送信する手段を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械で工具(4)と被加工物(6)との接触を検出するための装置であって、前記装置は、前記軸(2)に回転しないように配置された測定目盛(61,161)を有する1つの測定器(60,160)と、前記軸(2)に対して固定配置されている少なくとも1つの位置センサ(64,65,66,67,68,69)と、1つのデータプロセッサ(40,140,240,340,440,540)とを備え、前記工具(4)と前記被加工物(6)とは、互いに相対移動可能であり、前記工具(4)又は前記被加工物(6)は、軸(2)に回転しないように結合されていて、
前記少なくとも1つの位置センサ(64,65,66,67,68,69)が、前記測定目盛(61,161)を走査し、当該走査から、前記軸(2)の位置を示す位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)を生成するように構成されていて、
前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)が、前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)に供給されていて、前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)は、前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を解析することによって、工具(4)と被加工物(6)との接触を検出し、当該解析の結果を変位信号(VS)のステータスによって送信する手段を有する当該装置。
【請求項2】
前記測定目盛(61,161)は、1つの目盛トラック(62)を有し、この目盛トラック(62)の複数のコード要素が、前記軸(2)の円周方向に配置されている請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記測定目盛(161)は、1つの第2目盛トラック(162)をさらに有し、この第2目盛トラック(162)の複数のコード要素が、前記軸(2)の円周にリング状に周設されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、変位計算部(41)を有し、この変位計算部(41)は、前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)から、無負荷位置からの前記軸(2)の振れを示す変位値(VL)を算定する請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、無負荷稼働中で且つ前記工具4と前記被加工物(6)との接触なしに、入力する前記変位値(VL)の閾値(S)を決定するように構成された閾値決定部(42,142)と、前記閾値(S)を実際に入力する変位値(VL)と比較するための比較部(43)とを有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、連続して入力する変位値(VL)の微分商(DQ)を生成するように構成された微分部(246)と、前記微分商(DQ)を事前に記憶された閾値(S)と比較するための比較部(243)とを有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、前記変位値(VL)の推移を周波数領域で解析する周波数解析部(347)を有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、人工知能手段を用いることで、特にパターン認識によって前記変位値(VL)の推移を解析するKIモジュール(448)を有する請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記データプロセッサ(340,440)内の前記手段は、前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を周波数領域で解析する周波数解析部(347)を有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(340,440)内の前記手段は、人工知能手段を用いることで、特にパターン認識によって前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を解析するKIモジュール(448)を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
工作機械で工具(4)と被加工物(6)との接触を装置によって検出するための方法であって、前記装置は、前記軸(2)に回転しないように配置された測定目盛(61,161)を有する1つの測定器(60,160)と、前記軸(2)に対して固定配置されている少なくとも1つの位置センサ(64,65,66,67,68,69)と、1つのデータプロセッサ(40,140,240,340,440,540)とを備え、前記工具(4)と前記被加工物(6)とは、互いに相対移動可能であり、前記工具(4)又は前記被加工物(6)は、軸(2)に回転しないように結合されていて、
前記測定目盛(61,161)が、前記少なくとも1つの位置センサ(64,65,66,67,68,69)によって走査され、当該走査から、前記軸(2)の位置を示す位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)が生成され、
前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)が、前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)に供給され、前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)は、手段を有し、当該手段を用いることで、前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を解析することによって、工具(4)と被加工物(6)との接触を検出し、当該解析の結果を変位信号(VS)のステータスによって送信する当該方法。
【請求項8】
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、変位計算部(41)を有し、無負荷位置からの前記軸(2)の振れを示す変位値(VL)が、この変位計算部(41)によって、前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)から算定される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、入力する前記変位値(VL)の閾値(S)が閾値決定部(42,142)によって無負荷稼働中に前記工具4と前記被加工物(6)との接触なしに決定される前記閾値決定部(42,142)と、前記閾値(S)が比較部(43)によって実際に入力する変位値(VL)と比較される前記比較部(43)とを有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、連続して入力する変位値(VL)の微分商(DQ)が微分部(246)によって生成される前記微分部(246)と、前記微分商(DQ)が比較部(243)によって、事前に記憶された閾値(S)と比較される前記比較部(243)とを有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、前記変位値(VL)の推移が周波数解析部(347)によって、周波数領域で解析される前記周波数解析部(347)を有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、前記変位値(VL)の推移がKIモジュール(448)を用いることで人工知能手段を用いることで、特にパターン認識によって解析される前記KIモジュール(448)を有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記データプロセッサ(340,440)内の前記手段は、前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移が周波数解析部(347)によって、周波数領域で解析される前記周波数解析部(347)を有し、及び/又は、
前記データプロセッサ(340,440)内の前記手段は、前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移がKIモジュール(448)を用いることで人工知能手段を用いることで、特にパターン認識によって解析される前記KIモジュール(448)を有する請求項7に記載の方法。
【請求項11】
命令チャネル(52)を介して前記データプロセッサ(40,140,240,340,440,540)に供給される開始命令(START)によって開始される請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記軸(2)の回転時に実行される請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の装置を備える工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の工作機械で工具と被加工物との接触を検出するための装置に関し、請求項7に記載の対応する方法に関する。本発明は、好ましくは、マシニング加工によって、特にフライス切削加工、旋盤加工及び研削加工によって被加工物を形成する数値制御工作機械で使用可能である。
【背景技術】
【0002】
機械で製造される被加工物用の最も普及している製造方法は、マシニング加工、すなわち切削加工に基づく。この場合、材料が、工具を使用していわゆるブランクから適切に削られる。その結果、望ましい形及び機能を有する製品が最終的に製造される。材料を削るため、被加工物が、工具に接触する。当該工具は、構造的に特殊な切刃又は代表的な切刃を有する。構造的に特殊な切刃を有する工具の例は、フライス工具、ドリル工具又は切削工具であり、代表的な切刃を有する工具の例は、研削盤である。切削工程に関しては、複数の対象物のうちの一方の対象物-工具又は被加工-が、他方の対象物に接触される前に、当該一方の対象物が、多くの場合に回転される。
【0003】
当該複数の対象物のうちの少なくとも1つの対象物を移動させるため、当該加工は、製造プログラムの実行の下で電気駆動装置を制御するコンピュータによって制御される。移動した対象物の実際の位置を検出するため、位置測位装置-ロータリーエンコーダ又は測長装置-が設けられている。当該位置測位装置の複数の測定値が、当該コンピュータに連続して供給されている。当該コンピュータは、CNC制御装置と呼ばれ、当該加工を実行するための工作機械は、CNC機械と呼ばれる。
【0004】
当該対象物を回転させるため、いわゆるスピンドルが設けられている。この場合、電気モータが、軸を-直接又は間接に-駆動させる一方で、当該対象物は、当該軸に固定されている。ここでは、当該スピンドルの回転角度及び/又は回転数を測定するため、ロータリーエンコーダが設けられている。さらに、軸の理想位置からの変位を測定可能な測定装置が公知である。欧州特許出願公開第3591344号明細書が、このような測定装置を記載している。
【0005】
当該加工の目的で被加工物を固定するため、クランプ装置が設けられている。新しい被加工物(ブランク)が、大きい公差でクランプされていて、当該ブランクの寸法にもばらつきがあり得るので、新たにクランプされたブランクの正確な位置と、当該ブランクの寸法とが、当該加工の開始前に計測されなければならない。このため、いわゆるスイッチが使用される。当該スイッチは、工具の位置から当該被加工物の方向に移動され、当該スイッチが、当該被加工物に接触すると、スイッチ信号を出力する。CNC制御装置が、当該スイッチ信号を解析し、当該ブランクの複数の位置で接触することによって当該被加工物の位置及び寸法を検出する(サンプリング)。このときに初めて、実際の加工が開始できる。
【0006】
この方法の欠点は、当該方法に伴う時間及び手間である。何故なら、このために、まず、工具が、スイッチと交換されなければならず、当該測定工程後に再び元に戻されなければならないからである。別の欠点は、特に、鋳造部品が、ブランクとして使用される場合である。多くの場合、スラグが、当該鋳造部品の表面に残留する。当該スラグと当該実際の(金属の)表面とが、スイッチによって識別され得ない。すなわち、測定誤差が発生する。その結果、例えば、最初の加工ステップ時に、希望した材料よりも少ない材料しか削られない。一方では、加工の全所要時間が長くなる(可能な加工深さは、金属だけによって制限され、スラグによって制限されない)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3591344号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、工作機械における被加工物の位置が簡単に特定可能である装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の装置によって解決される。
【0010】
この場合、工作機械で工具と被加工物との接触を検出するための装置が提唱される。当該装置の場合、当該装置は、当該軸に回転しないように配置された測定目盛を有する1つの測定器と、当該軸に対して固定配置されている少なくとも1つの位置センサと、1つのデータプロセッサとを備え、当該工具と当該被加工物とは、互いに相対移動可能であり、当該工具又は当該被加工物は、軸に回転しないように結合されていて、
・当該少なくとも1つの位置センサが、当該測定目盛を走査し、当該走査から、当該軸の位置を示す位置値を生成するように構成されていて、
・当該位置値が、当該データプロセッサに供給されていて、当該データプロセッサは、当該位置値の推移を解析することによって、工具と被加工物との接触を検出し、当該解析の結果を変位信号のステータスによって送信する手段を有する。
【0011】
さらに、本発明の課題は、工作機械における被加工物の位置が簡単に特定され得る方法を提供することにある。
【0012】
この課題は、請求項7に記載の方法によって解決される。
【0013】
この場合、工作機械で工具と被加工物との接触を装置によって検出するための方法が提唱される。当該方法の場合、当該装置は、当該軸に回転しないように配置された測定目盛を有する1つの測定器と、当該軸に対して固定配置されている少なくとも1つの位置センサと、1つのデータプロセッサとを備え、当該工具と当該被加工物とは、互いに相対移動可能であり、当該工具又は当該被加工物は、軸に回転しないように結合されていて、
・当該測定目盛が、当該少なくとも1つの位置センサによって走査され、当該走査から、当該軸の位置を示す位置値が生成され、
・当該位置値が、当該データプロセッサに供給され、当該データプロセッサは、手段を有し、当該手段を用いることで、当該位置値の推移を解析することによって、工具と被加工物との接触を検出し、当該解析の結果を変位信号のステータスによって送信する。
【0014】
好ましくは、当該測定目盛は、1つの目盛トラックを有し、この目盛トラックの複数のコード要素が、当該軸の円周方向に配置されていて、当該位置センサが、これらのコード要素を走査することによって、当該軸の角度位置を示す位置値が測定され得る。好適な構成では、当該軸の円周方向に適切な間隔で、例えばそれぞれ120°の角度間隔で配置されている3つの位置センサが、当該目盛トラックを走査するために設けられている。この場合、当該軸の振れが、当該振れの方向に応じてこれらの位置センサによって測定される、これらの位置センサの配置によって確定された角度差の変化として発生する角度位置に影響を及ぼす。次いで、当該測定された角度位置から、当該軸の振れの値及び方向が算出され得る。
【0015】
この目盛トラックに加えて、当該測定目盛は、1つの第2目盛トラックを有してもよい。この第2目盛トラックの複数のコード要素が、当該軸の円周にリング状に周設されている。これらのコード要素を走査するため、同様に当該軸の円周方向に適切な間隔で、図示された例では同様に120°の間隔で3つの位置センサが設けられ得る。当該第2測定目盛の走査から、当該軸の振れが、当該軸の軸方向に測定され得る。こうして、軸方向の当該軸の旋回、すなわち当該軸の無負荷位置に対する当該軸の傾き位置が測定され得る。当該傾き位置は、これらの位置センサに対する当該リング状の複数のコード要素の傾きで発生する。
【0016】
これらの位置センサの、当該軸に作用する力によって引き起こされる位置値が、データプロセッサ内の、当該軸の振れに対する目安である少なくとも1つの変位値を連続して生成する変位計算部に供給されている。当該変位値の推移を解析するため、適切な手段が、当該データプロセッサ内に設けられている。特に好適な実施の形態が、以下の手段によって得られる。
【0017】
好適な第1の実施の形態では、当該手段は、無負荷稼働中で且つ当該工具4と当該被加工物との接触なしに、入力する当該変位値の閾値を決定するように構成された閾値決定部と、当該閾値を実際に入力する変位値と比較するための比較部とを有する。この場合、当該閾値決定部は、当該方法の開始ごとに1つの閾値を生成するか、又は新しい複数の閾値を連続して生成するように構成されている。その結果、当該変位値のドリフトの影響が低減される。最も簡単な構成では、当該閾値決定部は、事前に決定され且つ記憶された閾値だけが生成される。
【0018】
好適な第2の実施の形態では、当該手段は、連続して入力する変位値と当該入力する変位値の入力の時間間隔とから微分商を生成するように構成された微分部と、当該微分商を事前に記憶された閾値と比較するための比較部とを有する。
【0019】
好適な別の実施の形態では、当該変位値の推移を周波数領域で解析する周波数解析部を有する。当該軸の回転数と当該工具の切刃数とによって計測されている個々の周波数帯域のパワースペクトル密度を適切に解析することによって、工具と被加工物との接触が推定され得る。
【0020】
この実施の形態のバリエーションでは、少なくとも1つの位置センサの位置値が、当該周波数分析部に直接に供給されてもよい。その結果、変位計算部が省略され得る。
【0021】
好適な別の実施の形態では、当該手段は、人工知能手段によって、特にパターン認識によって当該変位値の推移を解析するKIモジュールを有する。この実施の形態は、当該変位値が統計学的に大きい変動を有するときに特に有益である。
【0022】
この実施の形態も、少なくとも1つの位置センサの位置値が当該KIモジュールに直接に供給されているように変更され得る。その結果、変位計算部が不要になる。
【0023】
当該データプロセッサと別の構成要素、例えば工作機械の制御装置との協働を可能にするため、当該データプロセッサが、命令チャネルを備えると有益である。命令及び場合によってはパラメータが、当該命令チャネルを介して当該データプロセッサに供給可能である。命令は、例えば、本発明の方法を開始する開始命令である。パラメータは、位置値を解析するための境界条件をデータプロセッサ内で規定するデータ、例えば軸の回転数、工具に関する情報(切刃の種類、直径、数...)等でもよい。
【0024】
当該命令チャネルは、データ応答チャネルと一緒に、デジタル式の、好ましくはシリアルインターフェースとして構成され得る。
【0025】
本発明の装置又は本発明の方法のさらに好適な実施の形態は、それぞれの従属請求項と以下に記載されている実施の形態とから読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】工作機械の構成要素に接続している本発明の装置を示す。
図2】本発明の測定器の実施の形態を示す。
図3図2の測定器に適した測定目盛を示す。
図4】本発明の装置のデータプロセッサの第1の実施の形態を示す。
図5】工作機械に接続している本発明の装置を使用するための第1の実施の形態を示す。
図6】本発明の装置のデータプロセッサの別の実施の形態を示す。
図7】工作機械に接続している本発明の装置を使用するための別の実施の形態を示す。
図8】本発明の装置のデータプロセッサの別の実施の形態を示す。
図9】工作機械に接続している本発明の装置を使用するための別の実施の形態を示す。
図10】本発明の装置のデータプロセッサの別の実施の形態を示す。
図11】本発明の装置のデータプロセッサの別の実施の形態を示す。
図12】本発明の測定器の別の実施の形態を示す。
図13図12による測定器に適した測定目盛を示す。
図14】本発明の装置のデータプロセッサの別の実施の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の好適な実施の形態の以下の説明では、図に記されている構成要素及び機能群の符号は、以下の図に関する説明でも適用される。
【0028】
図1は、工作機械(この場合では、5軸マシニングセンタ)の構成要素に接続している本発明の装置を示す。当該装置は、1つのスピンドルモータ10を有し、移動軸ごとに1つの駆動装置と1つのエンコーダとを有する。移動工程を制御するため、特に被加工物6を加工するため、制御装置100が設けられている。
【0029】
スピンドルモータ10の中央の構成要素は、軸2を有するスピンドルモータ10である。工具4(例えば、切削工具)が、軸2の端部でこの軸2に回転しないように結合されている。その結果、この工具4は、この軸2と一緒に回転する。工具4を軸2に固定するため、(図示されていない)工具収容部(例えば、中空シャンクテーパ)が設けられている。同様に、測角器5が、軸2に機械結合されている。当該結合は、測角器5の回転可能な軸を軸2に結合する(図示されていない)機械結合によって実行される。こうして、軸2の繰り返される回転の回転位置及び/又は回転数が、測角器5によって測定可能である。軸2は、例えばころ軸受によってスピンドルモータ1のハウジング内に軸支される。
【0030】
被加工物6を加工するため、スピンドルモータ1の軸2が回転され、回転数Nで回転する。測角器5によって測定される角度位置が、当該回転数を制御するために使用される。工具4は、被加工物6に対するスピンドルモータ10の相対移動によってこの被加工物6に接触する。したがって、例えばフライス加工時に、望ましい輪郭が、被加工物6から切削される。当該相対移動は、直線の駆動軸X,Y,Zに沿って実行され得る。さらに、いわゆる回転軸A,Bも設けられ得る。その結果、図示された例では、5つの移動軸X,Y,Z,A,B方向の移動が可能である。当該個々の軸の移動は、(図示されていない)対応する機械構成要素を同様に駆動する(専ら概略的に図示されている)駆動装置30X,30Y,30Z,30A,30Bによって制御される。当該それぞれの移動軸X,Y,Z,A,Bの位置を検出するため、別のエンコーダ20X,20Y,20Z,20A,20Bが、工作機械に設けられている。
【0031】
この場合、これらの軸の移動は相対移動であり、したがって、いずれにしても、駆動装置が、スピンドルモータ10、すなわち工具4又は被加工物6を移動させる点に留意すべきである。
【0032】
また、本発明は、工具ではなくて、被加工物6が軸に回転しないように結合されていて、この軸と一緒に回転する工作機械でも使用可能である。当該工作機械に対する代表的な例は、旋盤及び研削加工機械である。
【0033】
このように構成された工作機械は、制御装置100によってプログラム制御される。この制御装置100は、対応するプログラムが実行される駆動システムを有するコンピュータとして構成されている。当該コンピュータは、モニター、入力機器、記憶装置等のような一般的な周辺機器を有する。制御装置100は、いわゆる数値制御装置でもよい。
【0034】
エンコーダ20X,20Y,20Z,20A,20Bの測定値と測角器5の測定値とが、適切な信号送信チャネルを介して転送されている。駆動装置30X,30Y,30Z,30A,30Bとスピンドルモータ1とを制御装置100によって制御するため、当該信号送信チャネルは、要求に応じてアナログ信号又はデジタル信号を送信するように構成され得る。特に、当該信号送信チャネルは、デジタルデータインターフェース、好ましくはシリアルデータインターフェースでもよい。
【0035】
この場合、データプロセッサ40と測定器60とを有する本発明の装置が、当該工作機械に装備されている。
【0036】
測定器60は、軸2の変位(振れ)を検出するように適切に構成されている。測定器60を使用することで、軸2の位置を示す位置値が、この軸2に対して固定配置されている少なくとも1つの位置センサを用いて、この軸2に周設され且つこの軸2と一緒に回転する少なくとも1つの測定目盛を走査することによって生成可能である。軸2が変位すると、当該位置値が変化する。その結果、軸2の変位が、当該生成された位置値を解析することによって算出され得る。
【0037】
当該位置値に対する軸2の振れの影響は、力が当該軸に作用する方向に依存するので、軸2の円周方向にずらして配置されている複数の位置センサ、特に2つ又は3つの位置センサが存在する場合に、測定器60の特に好適な実施の形態が得られる。2つの位置センサが存在する場合、これらの位置センサは、好ましくは180°の角度間隔で配置されている。3つの位置センサの場合、軸2の円周にわたる均等な分布、すなわちこれらの位置センサ間のそれぞれ120°の角度間隔が非常に有益である。
【0038】
測定器60は、測定器に関して明確に記載されている欧州特許出願公開第3591344号明細書から公知の当該測定器でもよい。
【0039】
当該例では、3つの位置センサが設けられている。以下に、適切な測定器60を図2及び3に関連させて詳しく説明する。
【0040】
測定器60の、3つの位置センサによって生成される位置値P1,P2,P3が、解析のために信号送信チャネル50を介してデータプロセッサ40に転送されている。留意すべきは、この明細書の範囲内では、用語「位置値」は、軸2の位置を表すあらゆる種類の信号を意味する点である。したがって、位置値は、アナログ信号又はデジタル信号でもよい。あらゆる状況において、当該位置値は、データプロセッサ40内でデジタル式に処理される。この場合、何処で当該デジタル化又はデジタルデータ語への変換が実行されるか(既に当該位置センサ内で実行されるのか、又は当該データプロセッサ内で初めて実行されるのか)は重要でない。したがって、位置値P1,P2,P3は、アナログ式に又はデジタル式に当該データプロセッサに送信され得る。当該位置センサが、既に位置値P1,P2,P3を生成し、当該デジタルデータ語をデジタルインターフェース、特にシリアルインターフェースを介して送信することが、特に好ましい。
【0041】
データプロセッサ40は、測定器60から生成される位置値P1,P2,P3の推移を解析することによって工具4と被加工物6との接触を検出する手段を有する。当該解析の結果が、変位信号VSの状態によって信号化される。当該変位信号VSは、出力データチャネル51を介して、この例では制御装置100に出力される。出力データチャネル51は、変位信号VSの状態が電圧レベルとして出力される単なる信号ケーブルでもよい。しかし、出力データチャネル51は、デジタルデータインターフェースとして構成されてもよい。変位信号VSの状態が、データ語又はデータ語の一部として当該デジタルデータインターフェースを介して出力される。
【0042】
好ましくは、データプロセッサ40の機能が、例えば、命令チャネル52を介して外部装置から、この場合には制御装置100から生成される命令によって制御可能である。この例では、データプロセッサ40の機能は、開始命令STARTによって開始され得る。さらに、情報(パラメータPAR)が、命令チャネル52を介してデータプロセッサ40に転送されることが提唱され得る。データプロセッサ40は、位置値P1,P2,P3を解析するために当該情報(パラメータPAR)、例えば軸2の回転数、スピンドルモータ10の送り速度又は工具2に関する情報(種類、径、切刃数、等々)を必要とする。
【0043】
データプロセッサ40は、図示されているように独立した機器でもよい。データプロセッサ40は、制御装置100内に配置されている(破線で示されている)モジュールとして構成されてもよい。データプロセッサ40の機能を実行する機能モジュールの一部又は全体が、コンピュータプログラムによって、例えば制御装置100又はデータプロセッサ40に含まれているコンピュータ(PC)上で実行可能に実現され得る。当該データプロセッサの構成は、本明細書に記載されているデータプロセッサの全ての構成例に対して成立する。
【0044】
出力データチャネル51及び命令チャネル52は、双方向インターフェースとして、好ましくはシリアルインターフェースとして統合して構成されてもよい。
【0045】
図2は、測定器60の実施の形態を示す。測定器60は、少なくとも1つの目盛トラックを有する1つの測定目盛61と、3つの位置センサ64,65,66とを備える。
【0046】
測定目盛61は、軸2に回転しないように配置されている。その結果、測定目盛61は、軸2と一緒に回転する。この場合、例えば、磁気走査原理が使用される場合は、励磁領域を形成することによって、光学走査原理の場合は、反射領域と非反射領域とを形成することによって、測定目盛61を構成する複数のコード要素が、軸2上に直接に配置され得る。代わりに、測定目盛61は、同様に軸2に回転しないように結合されている目盛キャリア上に配置されてもよい。
【0047】
図3は、図2の測定器に適した目盛トラック62付きの測定目盛61を示す。目盛トラック62の複数のコード要素は、軸2の円周方向Uに前後して配置されている。当該図に示された例では、目盛トラック62は、インクリメンタル目盛トラックとして構成されていて、特に磁気走査原理を採用する。すなわち、当該目盛トラックは、軸2の円周方向Uに配置されていて、規則的に連続する複数の正磁極と複数の負磁極とから構成されている。測定目盛61は、基準トラック63をさらに有する。当該基準トラック63を採用することで、当該インクリメンタル目盛トラックの原理に依存する相対角度測定用の基準位置が、短く連続する複数の正磁極及び複数の負磁極(基準マーク)によって所定の角度位置で規定される。こうして、絶対角度測定が可能になる。代わりに、当該基準マークは、目盛トラック62に組み込まれてもよい。
【0048】
基準トラック63なしに、絶対角度測定が常に可能であるように、目盛トラック62は、デジタルコード化されてもよい。目盛トラック62の複数のコード要素が、連続する疑似ランダムコード(Pseudo Random Code,PRC)として配置されていると、特に有益である。
【0049】
図2の実施の形態では、位置センサ64,65,66が、規則的な角度間隔で、すなわち120°の角度間隔で軸2の円周方向に配置されている。軸2の回転時に、測定目盛61が、位置センサ64,65,66のすぐ傍を通り過ぎるように、位置センサ64,65,66は、軸2に対して固定配置されている。したがって、軸2の角度位置が、位置センサ64,65,66で測定目盛61を走査することによって測定可能である。力Fが、軸2に作用すると、この軸2は振れる、すなわち回転中心点Mが移動する(図2には、当該移動した回転中心点が、M′で示されている)。破線で示されている円によって分かるように、軸2と一緒に測定目盛61も、位置センサ64,65,66に対して移動する。当該移動は、位置センサ64,65,66の角度測定に影響を及ぼす。その結果、個々の位置センサ64,65,66の位置値P1,P2,P3の推移及び/又は位置センサ64,65,66の位置値P1,P2,P3間の角度差の変化を解析することによって、軸2に作用する力Fの値及び場合によっては方向が算出され得る。
【0050】
位置センサ64,65,66によって生成された位置値P1,P2,P3が、測定された角度位置と一緒に、解析のために信号送信チャネル50を介してデータプロセッサ40に転送可能である。
【0051】
図4は、データプロセッサ40の実施の形態を示す。データプロセッサ40は、変位計算部41、閾値決定部42、比較部43及びシーケンス制御部44を有する。
【0052】
進行する稼働中に、一定の時間間隔ごとに連続して入力する位置値P1,P2,P3から、静止位置からの軸2の振れの値を示す変位値VLを算定し、当該変位値VLを閾値決定部42と比較部43とに出力するように、変位計算部41は適切に構成されている。少なくとも1つの変位値VLが、軸2の回転ごとに生成されるように、当該時間間隔は選択されている。
【0053】
変位値VLは、上記のように、個々の位置値P1,P2,P3の推移の解析及び/又は多数の位置センサ64,65,66の位置値P1,P2,P3の差の解析に基づいて生成され得る。
【0054】
オプションとして、変位計算器41は、位置値P1,P2,P3から角度位置POSをさらに計算し、閾値決定部42及び/又は比較部43に出力してもよい。その結果、当該値に加えて、軸2の振れの方向も評価され得る。さらに、角度位置POSを、出力データチャネル51を介して制御装置100に出力することが提唱され得る。その結果、例えば測角器5が省略され得る。
【0055】
閾値決定部42は、無負荷稼働中に、すなわち軸2が回転していて且つ工具4と被加工物6との間が接触していない時に、軸2の少なくとも1回の完全な回転中に捕捉された変位値VLから、比較部43に転送されている閾値Sを決定する。スピンドルモータ10が、継続して無負荷稼働中にあるか否か(工具4と被加工物6との接触があるか否か)を検出することを、比較部43内での入力する実際の変位値VLとの比較が可能にするように、閾値Sは決定されている。
【0056】
閾値Sは、少なくとも1回、好ましくは複数回の完全な回転中に捕捉された複数の変位値VLから1つの平均値を計算し、引き続き信頼性係数を乗算することによって、又は定数を加算することによって算出され得る。代わりに、複数の変位値VLから算出された1つの最大値が、閾値Sとして使用されてもよい。次いで、同様に、この最大値は、1つの信頼性係数と乗算されるか、又は、1つの定数が、この最大値に加算される。変位値VLが、統計学的に変動しても、当該算出された閾値Sを、当該無負荷稼働中に超えないように、当該信頼性係数又は当該定数はその都度選択されている。
【0057】
最後に、比較部43は、変位計算部41から入力した変位値VLを閾値Sと比較することによって変位信号VSを生成する。この変位信号VSのステータスは、閾値Sを超えたか否かを示し、変位信号VSを、出力データチャネル51を介して制御装置100に出力する。当該比較は、閾値Sと個々に入力した変位値VLとの間で直接に実行され得る。その結果、1つの変位値VLが、閾値Sを超えるごとに、変位信号VSのステータスが変化する。代わりに、閾値Sと複数の変位値VLの1つの平均値とが比較されてもよく、特に、閾値Sと軸2の1回の回転中に算出された少なくとも全ての変位値VLとが比較されてもよい。
【0058】
データプロセッサ40におけるシーケンスが、シーケンス制御部44によって制御される。開始信号START及び場合によってはパラメータPARが、シーケンス制御部44に転送されている。当該制御は、機能モジュール(変位計算部41、閾値決定部42、比較部43)に出力される制御信号STRGによって実行される。制御信号STRGは、シーケンス制御部44に送信する当該機能モジュールのチェックバック信号を含んでもよい。開始信号STARTが入力されると、シーケンス制御部44は、以下の方法ステップを開始する:
・変位計算部41内の一定の時間間隔ごとの位置値P1,P2,P3から、複数の変位値VLを連続して算出し、これらの変位値VLを、閾値決定部42と比較部43とに出力する。
・閾値決定部42における軸2の変位の1つの閾値Sを、連続する複数の変位値VLから生成し、引き続き1つの信頼性係数と乗算することによって、又は1つの定数と加算することによって、この閾値Sを大きくする。この閾値Sを比較部43に出力する。
・変位計算部41から入力した変位値VLを比較部43内のこの閾値Sと比較し、当該比較結果を、変位信号VSのステータスによって送信する。
【0059】
この方法は、加工の種類に応じた工具4、例えばフライス工具又は研削盤と加工すべき被加工物6との最初の接触を検出し、当該検出によって当該加工の開始を決定するのに適している。このため、閾値Sは、工具4と被加工物6との接触が確実にない位置に対して決定される。引き続き、機械的な接触が発生するまで、工具4と被加工物6とが、少なくとも1つの駆動装置によって互いに近付けられる。好ましくは、この方法は、回転している軸2で実行される。何故なら、このときに、工具4の刃が、被加工物6に侵入することが検出可能であるからである。
【0060】
簡単な実施の形態では、閾値Sは、閾値決定部42内に記憶されている一定値である。この場合、閾値Sを生成し出力する方法ステップが、開始命令STARTの入力後に当該記憶された閾値Sを送信することによって省略される。
【0061】
開始命令STARTの代わりに、例えばデータプロセッサ40の供給電圧の印加が、開始命令とみなされてもよい。
【0062】
図5は、工作機械に接続している本発明の装置を使用するための実施の形態を示す。この例では、当該工作機械は、本発明にしたがって機能させるために必要な構成要素の数が最小限に削減されていて、スピンドルモータ10と駆動装置20Xの移動方向Xの位置測定するためのエンコーダ30X付き駆動装置20Xと制御装置100とを有する。
【0063】
さらに、当該工作機械は、測定器60とデータプロセッサ40とを有する。
【0064】
駆動装置20Xは、スピンドルモータ10を移動方向Xに移動させるように適切に構成されている。図示された例では、工具4が、被加工物6に接触するまで、駆動装置20Xは、スピンドルモータ10を被加工物6に向けて移動させる。当該工作機械の構造が既知であるので、エンコーダ30Xによって測定される駆動装置20Xの位置によって、工具4の位置も確定されている。
【0065】
駆動装置20Xの移動、軸2の回転及びデータプロセッサ40との相互作用が、制御装置100上で実行可能なコンピュータプログラムによって制御可能である。
【0066】
冒頭で既に説明したように、クランプ装置によってスピンドルモータ10の稼働領域内でクランプされる新たに加工すべき被加工物6の正確な位置はまだ認識されていない。当該クランプ装置によって予め設定されている粗い位置及び粗い方向だけが既知である。同様に、被加工物6(加工中の製品)の寸法も既知である。当該被加工物の輪郭を加工する前に、被加工物6の正確な位置を算定することが必要である。以下に、好適な方法を図5に示された信号遷移グラフに基づいて説明する:
スピンドルモータ10は、開始位置で位置Q1にある。制御装置100は、時点t1にスピンドルモータ10を制御する。その結果、このスピンドルモータ10は、回転数Nで回転する。当該回転数制御は、軸2の角度位置を測定する測角器5によって実行される。さらに、制御装置100は、スピンドルモータ10を移動方向Xに被加工物6に向けて移動させるための信号を駆動装置20Xに送信し、開始命令STARTをデータプロセッサ40に送信する。
【0067】
次いで、データプロセッサ40は、図4に示されている方法を実行する。すなわち、変位計算部41が、複数の変位値VLを連続して算出し、閾値決定部42が、これらの変位値VLから閾値Sを算出する。閾値Sは、時点t2に位置Q2で提供され、閾値Sと入力したこれらの変位値VLとが、比較部43内で比較される。最終的に、工具4と被加工物6とが、位置Q3の近くで接触する。換言すれば、工具の刃が、被加工物6の材料に侵入する。このときに発生する力Fが、これらの変位値VLの推移を急激に上昇させる。当該上昇は、時点t3に位置Q3で閾値Sを超える。同様に、当該事項が、変位信号VSのステーションの変化によって送信される。
【0068】
変位信号VSのステータスが、工具4と被加工物6との接触を送信すると、制御装置100は、エンコーダ30Xの実際の位置を、移動方向Xの被加工物6の位置として記憶し、駆動装置20Xを停止させるか、又は工具4と被加工物6とが互いにさらに遠ざかるように、当該移動方向を反転させる。しかし、代わりに、制御装置100は、被加工物6の加工に直接に移行させてもよく、場合によっては駆動装置20Xの送り速度又は軸2の回転数を適切に適合させてもよい。
【0069】
上記の方法を、この例では1つの移動方向だけに基づいて説明したが、実際には、被加工物6又は加工中の製品の正確な位置を認識し、実際の加工を開始できるようにするため、十分に多い接触点(被加工物の座標)が利用できるようになるまで、上記の方法は、複数の移動方向(例えば、図1に示されているように、5つの移動方向)で繰り返し実行される。
【0070】
上記の方法は、マシニング加工であるので、被加工物6の加工によって必ず除去される(図5では、完全に加工された被加工物6の最終輪郭が、破線によって示されている)領域内に、工具4と被加工物6との複数の接触点が存在するように、又は加工物6の最終輪郭が、本発明の方法によって悪影響を受けないことが、加工物6の所定の予備寸法(Uebermass)によって保証されているように、これらの接触点が選択されることが有益である。例えば、削り屑が残留するように、異物が、加工中の製品の表面に付着しているとしても、工具4と実際の被加工物6の表面との接触が、記載されている方法によって認識され得る。何故なら、軸2の著しい振れなしに、当該工具が、当該異物を切削するからである。
【0071】
図6は、データプロセッサ140の別の実施の形態を示す。データプロセッサ40とは違って、閾値決定部142は、進行する稼働中に、工具4と被加工物6との接触を検出するまで時間間隔Δtごとに連続して閾値Sを算出して比較部43に転送するように構成されている。位置値P1,P2,P3又はこれらの位置値から生成された変位値VLがドリフトするときに、すなわち変位値VLが、無負荷稼働中の軸2の回転時の工具4と被加工物6との接触なしでも変化するときに、当該構成は特に有益である。ドリフトする原因は、例えば、測定器60の局所的で非対称な発熱であり得る。その結果、位置センサ64,65,66が、熱に起因する膨張の影響によってこれらの位置センサの位置が相互に変化する。その結果、位置値P1,P2,P3も変化する。熱に起因する膨張の影響が、軸2の軸支に悪影響を及ぼし得て、外部からの力の作用なしでも、この軸2を変位させ得る。確かに、このような影響の結果は、多くの用途において無視され得るが、当該影響の結果を考慮すると、本発明の装置の感度及び精度が著しく高くなる。
【0072】
図7は、工作機械とデータプロセッサ140とに接続している本発明の装置を使用するための実施の形態を示す。
【0073】
この実施の形態では、変位値VLがドリフトする。すなわち、変位値VLの推移は、無負荷稼働中でも、工具スピンドル10又は工具4が被加工物6に接近するに連れて連続して上昇過程にあることを示す。
【0074】
開始位置では、スピンドルモータ10は、同様に位置Q1にある。制御装置100は、時点t1にスピンドルモータ10を制御する。その結果、このスピンドルモータ10は回転する。回転数が、軸2の回転位置を測定する測角器5によって制御される。さらに、制御装置100は、スピンドルモータ10を移動方向Xに被加工物6に向けて移動させるための信号を駆動装置20Xに送信し、開始命令STARTをデータプロセッサ140に送信する。
【0075】
次いで、データプロセッサ140は、図4に関連して記載されている上記の方法を実行する。すなわち、変位計算部41が、変位値VLを連続して算出し、閾値決定部142が、当該変位値VLから最初の閾値Sを算出する。この閾値Sは、時点t2に位置Q2で提供され、この閾値Sと入力した変位値VLとが、比較部43内で比較される。
【0076】
図5に基づいて記載されている実施の形態とは違って、閾値決定部142は、時間間隔Δtごとに連続して閾値Sを新たに算出し、当該更新された閾値Sを比較部43に出力する。こうして、当該比較は、変位値VLのドリフトが考慮されている閾値Sによって常に実行される。
【0077】
最終的に、工具4と被加工物6とが、位置Q3の近くで接触する。ドリフトによって引き起こされる変位値VLの推移の上昇と比較すると、この場合に発生する力Fは、変位値VLの推移をより著しく急激に上昇させる。当該推移は、時点t3に位置Q3でこの時点に使用される閾値Sを超える。その結果、同様に、変位信号VSのステータスが変化する。
【0078】
図8は、データプロセッサ240の別の実施の形態を示す。同様に、データプロセッサ240は、変位計算部41とシーケンス制御部44とを有する。上記の実施の形態とは違って、データプロセッサ240は、微分部246を有する。この微分部246は、連続して入力する複数の変位値VLとこれらの変位値VLが入力する時間間隔との微分商DQをこの微分部246によって計算し、比較部243に出力する。
【0079】
同様に、比較部243は、入力する複数の微分商DQを、この比較部243内の当該比較のために設けられているメモリに記憶されている適切な1つの閾値Sと比較する。1つの微分商DQが、この閾値Sを超えると、比較部243は、その情報を変位信号VSの変化したステータスによって送信する。
【0080】
図9は、工作機械とデータプロセッサ240とに接続している本発明の装置を使用するための実施の形態を示す。
【0081】
この実施の形態でも、変位値VLがドリフトし、変位値VLの推移は、無負荷稼働中でも、工具スピンドル10又は工具4が被加工物6に接近するに連れて連続して上昇過程にあることを示す。
【0082】
開始命令STARTが、時点t1に位置Q1でデータプロセッサ240に入力し、制御装置100が、スピンドルモータ10を制御する。その結果、このスピンドルモータ10は回転する。さらに、制御装置100は、スピンドルモータ10を移動方向Xに被加工物6に向けて移動させるための信号を駆動装置20Xに送信する。その後に、変位計算部41が、一定の時間間隔ごとに変位値VLを生成することを開始し、当該変位値VLを微分部246に転送する。微分部246は、連続して入力する複数の変位値VLとこれらの変位値VLが入力する時間間隔との微分商DQを生成する。
【0083】
無負荷稼働中に、すなわち工具4が被加工物6に接近する間の時点t2に位置Q2で算出された微分商DQは、(図示された位置DQ1で)ほぼ一定である。
【0084】
工具4が、被加工物6に接触すると、変位値VLの推移が上昇し、したがって微分商DQも上昇する。図示された例では、微分商DQ2は、位置Q3の直前でまだ閾値S未満の値をとり、時点t3に位置Q3でこの閾値Sを超え、比較部243が、変位信号VSのステータスを新たに変更する。
【0085】
図10は、データプロセッサ340の別の実施の形態を示す。データプロセッサ340は、(この例ではオプションの)変位計算部41とシーケンス制御部44とに加えて周波数解析部347を有する。
【0086】
周波数解析部347は、変位計算部41から入力する変位値VLの推移を周波数領域で解析するように適切に構成されている。ここでは、フーリエ解析(FFT、DFT、ゲルツェルアルゴリズム等)、次数比解析及び適応フィルタリングのような数学的方法が使用され得る。
【0087】
構造的に特殊な刃を有する工具、フライス工具が、工具4として使用される場合に、周波数領域での変位値VLの解析が特に有益である。軸2の回転時に、工具4と被加工物6とが接触すると、それぞれの刃が、被加工物6に侵入するときに、軸2が著しく振れる。したがって、軸2の回転数と工具4の切刃数とに依存する周波数帯域のパワースペクトル密度を適切に解析することによって、工具4と被加工物6との接触が検出可能である。同様に、当該解析の結果が、変位信号VSのステータスによって出力され得る。
【0088】
この実施の形態では、オプションとして、変位計算部41が省略されてもよい。その結果、位置値P1,P2,P3が、周波数解析部347に直接に供給される。この実施の形態は、軸2の回転時に、この軸2の振れが、連続して測定される位置値の位置差の変化として、それぞれ個々の位置センサ64,65,66の、同じ時間間隔で測定されるそれぞれの位置値P1,P2,P3に影響を及ぼすという認識に基づくものである。当該位置差の変化は、同様に周波数スペクトルで検出可能である。
【0089】
図11は、データプロセッサ440の別の実施の形態を示す。このデータプロセッサ440は、(オプションの)変位計算部41とシーケンス制御部44とに加えてKIモジュール448を有する。
【0090】
KIモジュールは、変位計算部41から入力する変位値VLの推移を人工知能手段によって、例えば、事前に算出されたパターンと比較することによって(「機械学習」)、解析し、工具4と被加工物6との接触を検出するように構成されている。好ましくは、KIモジュールは自己学習する。その結果、当該接触過程の検出が連続して改良される。
【0091】
この実施の形態のバリエーションでは、変位計算部41が省略され得る。その結果、ここでも、先の例と同様に、位置値P1,P2,P3が、KIモジュール448に直接に供給されていて、当該位置値P1,P2,P3の時間推移が解析される。
【0092】
工具4と被加工物6との接触が検出されると、当該接触が、変位信号VSによって新たに送信される。
【0093】
図12は、測定器160の別の実施の形態を示す。この測定器160は、1つの測定目盛161と6つの位置センサ64-69とを有する。
【0094】
同様に、測定目盛161は、軸2に回転しないように配置されている。その結果、この測定目盛161は、この軸2と一緒に回転する。
【0095】
図13は、適切な測定目盛161を有する。この測定目盛161は、図3に示された測定目盛61と同様に1つの目盛トラック62とオプションとして1つの基準トラック63とを有する。この場合、測定目盛161は、1つの第2目盛トラック162をさらに有する。この第2目盛トラック162の複数のコード要素が、軸2を中心にして周設されている。当該周設は、軸2の軸方向WZの変位の測定を可能にする。
【0096】
図12の実施の形態では、目盛トラック62と場合によっては基準トラック63とを走査するために設けられている位置センサ64,65,66に加えて、別の位置センサ67,68,69が、第2目盛トラック162を走査するために設けられている。これらの位置センサも、規則的な角度間隔で、すなわち120°の角度間隔で軸2の円周方向に配置されている。
【0097】
力Fが、軸2(すなわち、目盛トラック62)を、(位置センサ64,65,66を用いて目盛トラック62を走査することによって測定可能である)軸方向に対して直角方向に変位させることに加えて、さらにこの軸2を傾かせる、すなわち軸方向に対して直角方向に旋回させる場合に、当該傾き、すなわち当該旋回が、位置センサ67,68,69を用いて第2目盛トラック162を走査することによって測定可能である。
【0098】
当該図示された第2目盛トラック162を走査するための位置センサ67,68,69の配置は、特に有益とみなされる。何故なら、3つの位置値P4,P5,P6を解析することによって、軸2の軸方向WZの純粋な移動と、軸2の傾きとが、一義的に区別可能であり、したがって互いに分離されて解析可能であるからである。例えば、軸2の軸方向WZの移動(変位)だけが把握されれば済む場合は、当該把握のために、変位センサ67,68,69のうちの丁度1つの変位センサが、当該円周の任意の1つの位置に配置されれば十分である。
【0099】
分離された2つの目盛トラック62,162の代わりに、目盛トラックが1つだけ設けられてもよい。軸2の角度位置と、軸方向WZの軸2の変位との双方が測定可能であるように、複数のコード要素が構成されている。目盛トラック62の複数のコード要素が、ヘリンボーンパターンとして配置されているときに、当該構成は良好に実現される。このような目盛トラックの場合でも、全ての変位方向の完全な把握は、適切に構成された6つの位置センサ64-69によって実行され得る。
【0100】
位置センサ64-69によって生成された位置値P1-P6は、信号送信チャネル50を介してデータプロセッサ540に供給可能である。
【0101】
図14は、データプロセッサ540の別の実施の形態を示す。図4に記載されているデータプロセッサ40と同様に、データプロセッサ540は、変位計算部541、閾値決定部542、比較部543及びシーケンス制御部544を有する。
【0102】
さらに、変位計算部541は、一定の時間間隔ごとに、軸方向に対して直角方向の平面内の軸2の振れを示す変位値VLを算出する。さらに、当該変位計算部は、位置センサ67,68,69による第2目盛トラック162の走査から発生する位置値P4,P5,P6に基づいて、軸方向WZの軸2の変位を示す第2変位値VLZを算出する。
【0103】
閾値決定部542は、閾値Sに加えて、第2変位値VLZに基づいて第2閾値SZを決定する。同様に、無負荷稼働中に、実際に入力する第2変位値が、第2閾値SZを超えないように、この第2閾値SZは決定されている。
【0104】
閾値S及び第2閾値SZは、比較部543に供給されている。この比較部543は、実際に入力する変位値VL又は第2変位値VLZとの比較によって、軸2が無負荷稼働中にあるか否かを検査する。比較部543が、当該比較の結果を変位信号VSと第2変位信号VSZとによって出力する。
【0105】
上記と同様に、データプロセッサ140,240,340,440の別の実施の形態も、測定器160の位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6を解析するように適切に拡張され得る。
【0106】
本発明は、記載されている実施の形態に限定されないで、当業者によって特許請求の範囲の範囲内で代替的に実行され得る。
【符号の説明】
【0107】
2 軸
4 工具
5 測角器
6 被加工物(ワーク)
10 スピンドルモータ、工具スピンドル
40,140,240,340,440,540 データプロセッサ
347 周波数解析部
448 KIモジュール
41,541 変位計算部
42,142,542 閾値決定部
43,243,543 比較部
246 微分部
44,544 シーケンス制御部
50 信号送信チャネル
51 出力データチャネル
52 命令チャネル
60,160 測定器
61,161 測定目盛
162 第2目盛トラック
62 目盛トラック
63 基準トラック
64-69 位置センサ
100 制御装置
X,Y,Z,A,B 移動軸
30X,30Y,30Z,30A,30B エンコーダ
20X,20Y,20Z,20A,20B 駆動装置
P1,P2,P3 位置値
VS 変位信号
VSZ 第2変位信号
VL 変位値
VLZ 第2変位値
STRG 制御信号
S 閾値
SZ 第2閾値
DQ,DQ1-DQ3 微分商
POS 角度位置
START 開始命令
PAR パラメータ
P1-P6 位置値
PC コンピュータ
U 円周方向
X 移動方向
WZ 軸方向
F 力
M,M′ 回転中心点
Q1,Q2,Q3 位置
t1,t2,t3 時点
Δt 時間間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【外国語明細書】