(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029307
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 5/06 20060101AFI20230224BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20230224BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20230224BHJP
【FI】
C09J5/06
C09J167/00
C09J7/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130745
(22)【出願日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021134563
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】畠山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 健史
(72)【発明者】
【氏名】足立 幸司
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA15
4J004AB03
4J004FA08
4J040ED001
4J040JA09
4J040JB01
4J040LA08
4J040MA08
4J040PA31
(57)【要約】
【課題】 誘電加熱により同一もしくは異種の複数の構造体を接着し積層体を製造する方法であって、木材などの非誘電性材料同士を簡便に接着できる方法、およびそれに用いられる接着層を提供すること。
【解決手段】 同一もしくは異種の、複数の構造体を接着層を介して誘電加熱により接着し積層体を製造する方法であって、
(1)前記接着層が、流動開始温度が90~125℃であり、かつMFR(125℃、荷重0.325kg)が0.1~70g/10minである熱可塑性樹脂であり、
(2)前記構造体の少なくとも1つが、25℃における含水率5質量%以上の構造体である
ことを特徴とする積層体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一もしくは異種の、複数の構造体を接着層を介して誘電加熱により接着し積層体を製造する方法であって、
(1)前記接着層が、流動開始温度が90~125℃であり、かつMFR(125℃、荷重0.325kg)が0.1~70g/10minである熱可塑性樹脂であり、
(2)前記構造体の少なくとも1つが、25℃における含水率5質量%以上の構造体である
ことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記25℃における含水率5質量%以上の構造体が、木材であることを特徴とする、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記誘電加熱における印加周波数が、10~50MHzであることを特徴とする、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記接着層が、誘電加熱において発生する電磁波を吸収する誘電フィラーを実質的に含まないことを特徴とする、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記接着層が、25℃でシート状の熱可塑性樹脂であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記接着層が、ポリエステル系樹脂であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電加熱により、同一もしくは異種の複数の構造体を接着し積層体を製造する方法に関する。詳しくは、放出された際に環境に影響を与える金属原子などの成分を含まず、かつ構造体に過剰な熱履歴をかけずに同一もしくは異種の複数の構造体を接着し積層体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同一もしくは異種の複数の構造体を、樹脂を接着層として積層、接着し一体化させる方法は、大型の積層体や複雑な構造を有する積層体を製造する方法として広く用いられている。特に木材を、接着層を介し接着し積層体とする方法は、合板の製造方法として小物、家具、建築材料など種々の部材の製造に用いられる汎用性の高い方法である。
【0003】
構造体を積層、接着し積層体とする際、加熱により接着層に接着機能を付与するのが一般的な方法である。その中でも、誘電加熱により積層体を製造する方法は、接着にかかる総エネルギーが小さくなることや、構造体に過度な熱エネルギーがかかることを抑止し、結果として積層体製造時に構造体が劣化するリスクを下げることができることなどから、近年特に複雑な構造の積層体を製造する方法として、注目を集めている方法である。
【0004】
誘電加熱とは、特定の周波数の電磁波を被着体に照射するプロセスである関係上、誘電加熱による接着は、被着体が電磁波を吸収し発熱する過程を必要とする。そのため、誘電加熱による接着を行う際には、構造体もしくは接着層のいずれかに高誘電性材料を用いることが一般的である。例えば、金属構造体と樹脂構造体の接着において、金属側に電磁波を吸収、発熱させ樹脂と接着する方法や、高極性の液状低分子を接着層として用い、該低分子層に電磁波を吸収、硬化させ接着する方法などが広く用いられている。
【0005】
一方、前者においては構造体の一方が必ず金属やCFRPなどの特定の誘電性材料に限定されること、後者については工業的には専用の塗工装置を必要とし、装置の保守、運用コストがかかることや、塗工の際に塗りむらやはみだしが生じる等の課題が存在する。
特に後者の課題を解決する方法として、構造体をシート状の熱可塑性樹脂で挟み、接着する方法が存在する。ただし、熱可塑性樹脂は基本的に高分子からなるため、電磁波の吸収効率が著しく劣ることから木材や樹脂などの非誘電性材料の接着には一般的に適さないことが知られている。
【0006】
この課題を解決するために接着層に誘電フィラーを含有させ誘電特性を上げることで誘電加熱に対応させる方法が報告されている。例えば特許文献1では、接着層に誘電性の酸化亜鉛を含有させたものを用いて、非誘電性材料であるポリプロピレン同士を誘電加熱により接着した例が開示されている。
【0007】
ただし、このような方法を用いると、接着層に金属原子などの誘電性材料が含まれることになることから、特にリサイクルや廃棄を志向した際、該誘電性材料の除去が大きな問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明ではこのような背景下において、誘電加熱により同一もしくは異種の複数の構造体を接着し積層体を製造する方法であって、木材などの非誘電性材料同士を簡便に接着できる方法、およびそれに用いられる接着層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造体に対し、特定の物性を有する熱可塑性樹脂を接着層として用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
同一もしくは異種の、複数の構造体を接着層を介して誘電加熱により接着し積層体を製造する方法であって、
(1)前記接着層が、流動開始温度が90~125℃であり、かつMFR(125℃、荷重0.325kg)が0.1~70g/10minである熱可塑性樹脂であり、
(2)前記構造体の少なくとも1つが、25℃における含水率5質量%以上の構造体である
ことを特徴とする積層体の製造方法。
[2]
前記25℃における含水率5質量%以上の構造体が、木材であることを特徴とする、[1]に記載の積層体の製造方法。
[3]
前記誘電加熱における印加周波数が、10~50MHzであることを特徴とする、[1]または[2]に記載の積層体の製造方法。
[4]
前記接着層が、誘電加熱において発生する電磁波を吸収する誘電フィラーを実質的に含まないことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[5]
前記接着層が、25℃でシート状の熱可塑性樹脂であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[6]
前記接着層が、ポリエステル系樹脂であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、誘電加熱により、同一もしくは異種の複数の構造体を接着し積層体を製造する方法であり、木材などの非誘電性材料同士を簡便に接着できる方法、およびそれに用いられる接着層を提供することができる。
なお、接着層自身は誘電加熱における電磁波を吸収して発熱することはないが、構造体に含まれている水が誘電加熱によって加熱されることで間接的に加熱され、結果として溶融し接着機能を発揮することができる。この時に、樹脂の流動開始温度、およびMFRがそれぞれ一定の範囲にあることで、樹脂が最小限の変形により接着性を発揮することができ、結果として強い接着力を有する積層体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。なお、本明細書において、「X~Y」はその前後に記載された数字を含む数字の範囲を表すと共に、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する(X,Yは任意の数字)。
【0014】
<積層体の構成>
本発明の積層体は、同一または異種の、複数の(例えば、2つの)構造体を接着層で接着したものを指す。ここでは便宜的に、構造体の少なくとも一方を以下「構造体A」と記載し、他方を「構造体B」と記載する。
【0015】
<構造体A>
構造体Aは、25℃における含水率が5質量%以上の構造体であることを特徴とする。
その具体例としては、
スギ、ブナ、ヒノキ、ウォールナットなどの木材や竹(単板およびチップからなる圧縮成形体など);
バナナ繊維、竹繊維、ケナフ繊維、月桃繊維、バガス繊維、木繊維、樹皮繊維、紙、セルロースナノファイバーなどの繊維状構造体;
ポリアミド66、ポリアミド6、酢酸セルロース、ポリビニルアルコールなどの樹脂およびそれらのコンパウンド;
木粉およびポリプロピレンなどの樹脂からなるコンパウンド;
などが挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらのうち、含水率を高く保持することが容易な点で木材を用いることが好ましい。
【0016】
構造体の25℃における含水率は、通常5質量%以上であり、好ましくは7.5質量%以上であり、特に好ましくは10質量%以上である。この値を下回ると、誘電加熱による接着性が十分に発揮されない恐れがある。また通常30質量%以下であり、好ましくは25質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以下である。この値を上回ると、誘電加熱時に副生する水蒸気により積層体が変形し、所望の形状が得られない恐れがある。
構造体の含水率は、例えば25℃における全質量と、100℃以上にて一定時間加熱後の全乾質量とを測定するなどで、容易に測定することができる。
【0017】
<構造体B>
構造体Bは、特定の形状を持った構造体であればその材料は特に限定されず、その具体例として構造体Aの具体例として挙げられたもののほかに、
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ナイロン610(PA610)、ナイロン6T(PA6T)、ポリフェニレンスルフィドなどの樹脂;
鉄、ステンレス、銅、アルミなどの金属;
コンクリート、石板、セラミックなどの無機材料;
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの繊維強化プラスチック;
などが挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
これらのうち、構造体Aと同一であることが接着工程の簡便化の点で好ましく、異なることが積層体として種々の機能を付与しやすい点で好ましい。
【0018】
<構造体の形状>
各構造体の形状は、本発明の積層体を形成できるものであれば特に指定されないが、それぞれ板状であることが接着プロセスの簡便化の点で好ましい。
また、その厚みについては、通常0.2mm以上であり、0.35mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましい。一方、通常10cm以下であり、5cm以下であることが好ましく、2cm以下であることが特に好ましい。この厚みを上回っても下回っても、適切な積層体を形成できない恐れがある。また、構造体Aの形状(厚みを含む)と、構造体Bのそれは同一でも異なっていてもよい。
【0019】
<接着層>
接着層は、流動開始温度が90~125℃であり、かつMFR(125℃、荷重0.325kg)が0.1~70g/10minである熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
これらのうち、適度な凝集性を持ち構造体への接着性を付与しやすい点でエチレン酢酸ビニル系樹脂もしくはポリエステル系樹脂であることが好ましく、ポリエステル系樹脂であることが特に好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂の流動開始温度は、90~125℃であることが必要であり、好ましくは95~120℃であり、特に好ましくは100~110℃である。この下限値を下回ると、誘電加熱による接着時に積層体の形状を保持できない傾向にあり、逆に上限値を上回ると誘電加熱による接着性が十分に確保されない傾向にある。樹脂の融点もしくは流動開始温度は、市販の高化式フローテスター(荷重30kgf/cm2)などを用いて測定できる。
【0021】
熱可塑性樹脂の流動性は、125℃のMFR(荷重0.325kg)で測定され、0.1~70g/10minであることが必要であり、好ましくは0.2~50g/10min、特に好ましくは0.25~30g/10minであり、最も好ましくは0.3~10g/10minである。これらの値を上回っても下回っても、誘電加熱による接着時に構造体同士の接着性を十分発揮できない傾向にある。MFRの値は、JIS K7210に従って測定することができる。
【0022】
熱可塑性樹脂は、融点を有する結晶性樹脂であることが好ましい。その融点としては、60~140℃であることが好ましく、70~135℃であることがさらに好ましい。この値が低すぎると接着層の凝集性を十分に担保できない恐れがあり、この値が高すぎると誘電加熱時に樹脂が十分に流動できない傾向にある。なお、この好ましい範囲内において、より低温側であることが樹脂の流動性がより向上する点で好ましく、より高温側であることが接着層の凝集性がより向上し、構造体同士の密着性をより向上させられる点で好ましい。熱可塑性樹脂の融点は、既存のDSC(示差熱量分析装置)などにより測定できる。
【0023】
接着層を形成する熱可塑性樹脂は、25℃の温度下において、ペレット状、粉末状、シート状などいずれでもよいが、作業性の点でシート状であることが好ましい。また、接着層の厚みは通常20~500μmであり、30~250μmであることが好ましく、40~2000μmであることが特に好ましい。この値を上回っても下回っても、接着時に十分な接着性を担保できない恐れがある。
【0024】
接着層は、上記条件を満たすことを条件に、熱可塑性樹脂以外の添加剤を含んでいてもよい。その具体例としては、
シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムなどの非誘電フィラー;
酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ケイ酸アルミニウムなどの誘電フィラー;
ガラス繊維、ポリエステル繊維などの形状保持のための繊維体;
酸化防止剤、加水分解防止剤、光安定化剤、難燃剤、可塑剤などの添加剤;
などが挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
これらのうち、誘電フィラーを実質的に含まないことが、本発明の積層体のリサイクルもしくは廃棄時にそれら成分の分離が不要となる点で好ましい。ここで「実質的に含まない」とは、誘電フィラーの含有量が、通常、接着層中の0.1質量%未満であり、0.01質量%未満であることが好ましく、0.001質量%未満であることがより好ましく、最も好ましくは0質量%である。
【0025】
<積層体の形状>
本発明の積層体は、構造体A、構造体Bおよび接着層を最小単位とするが、構造体Aおよび構造体Bの接着層との非接触側に他の構造体や接着層を有する多層構造であってもよい。
【0026】
<誘電加熱>
本発明の積層体を製造する際に用いる誘電加熱装置としては、市販のものを用いることができる。また、接着時に用いる印加周波数としては、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、915MHz、2450MHzなど、電磁波誘導加熱に用いられる種々の印加周波数を用いることができるが、その中でも大型の製品を製造するのに適していることから、10~50MHzの印加周波数帯を用いることが特に好ましい。なお、本発明の積層体を製造する際の電磁波の出力および照射時間は、積層体の形状および大きさにより種々選択される。
【0027】
<接着時にかける圧力>
本発明の積層体を製造する際には、構造体同士の接着性を最大に発揮する観点から、圧力をかけながら誘電加熱を行うことが好ましい。その際にかける圧力としては、面圧として通常0.01~10MPaであり、0.1~5MPaであることが好ましく、0.2~2MPaであることが特に好ましい。この値を上回っても下回っても、目的とする積層体の形状を十分に担保できない恐れがある。
【0028】
<積層体の引張せん断接着強さ>
本発明の積層体の引張せん断接着強さ(N/mm2)は、通常1.4~6.0N/mm2であり、1.5~5.5N/mm2であることが好ましく、特に好ましくは1.6~5.0N/mm2である。
かかる引張せん断接着強さの値が大きすぎると積層体の加工性が悪化する傾向があり、小さすぎると積層体の強度を十分に担保できない傾向がある。引張せん断接着強さはJIS K6851に従い求めることができる。
【0029】
<接着時の作業環境>
接着時の作業環境は、空気下もしくは不活性ガス雰囲気下いずれでもよいが、作業性の点から空気下であることが好ましい。なお、構造体Aの含水率を十分担保する観点から、加湿環境下で作業を行ってもよい。
【0030】
<用途>
本発明の積層体は、文具、小物、玩具、家具、自動車部材、建築材料など、複合体が用いられる種々の用途に用いることができる。
【実施例0031】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお以下において、融点は示差熱量分析装置(DSC)で、流動開始温度は高化式フローテスター(30kgf/cm2)で、MFRはJIS K7210(125℃、荷重0.325kg)に従って、それぞれ測定した。なおMFRについて、試験時に樹脂が規定量流出しなかった場合は、0g/10minとした。
【0032】
・樹脂シートa:三菱ケミカル社製ポリエステル系接着剤(SP-180)を厚み150μmに押出成形したシート
樹脂の流動開始温度103℃、融点130℃、MFR0.35g/10min
【0033】
・樹脂シートb:倉敷紡績社製クランベターX-4360(厚み50μm、エチレン酢酸ビニル系)
樹脂の流動開始温度108℃、融点74℃、MFR7.8g/10min
【0034】
・樹脂シートc:倉敷紡績社製クランベターX-1430(厚み50μm、エチレン酢酸ビニル系)
樹脂の流動開始温度80℃、融点74℃、MFR75g/10min
【0035】
・樹脂シートd:三菱ケミカル社製ポリエステル系接着剤(SP-181)を厚み100μmに押出成形したシート
樹脂の流動開始温度135℃、融点140℃、MFR0g/10min
【0036】
<実施例1>
ブナ単板(厚み1mm、含水率15質量%)2枚の間に樹脂シートaを挟み込み、印加周波数13.56MHz、印加時間60秒、プレス圧0.4MPaで誘電加熱接着を行った。得られた積層体をJIS K6851に従い引張せん断接着強さ試験を行った結果、引張せん断接着強さは1.7N/mm2であった。
【0037】
<実施例2>
実施例1におけるプレス圧力を0.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは1.8N/mm2であった。
【0038】
<実施例3>
実施例1におけるプレス圧力を1.2MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは2.7N/mm2であった。
【0039】
<実施例4>
実施例1における印可時間を100秒、プレス圧を0.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは4.3N/mm2であった。
【0040】
<実施例5>
実施例1における印可時間を100秒、プレス圧を1.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは3.1N/mm2であった。
【0041】
<実施例6>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートbに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは2.8N/mm2であった。
【0042】
<実施例7>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートbに変更し、プレス圧力を0.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは2.7N/mm2であった。
【0043】
<実施例8>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートbに変更し、プレス圧力を1.2MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは3.5N/mm2であった。
【0044】
<実施例9>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートbに変更し、印可時間を100秒、プレス圧を1.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは4.8N/mm2であった。
【0045】
<比較例1>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートcに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは0.7N/mm2であった。
【0046】
<比較例2>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートcに変更し、プレス圧力を0.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは0.9N/mm2であった。
【0047】
<比較例3>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートcに変更し、プレス圧力を1.2MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは1.1N/mm2であった。
【0048】
<比較例4>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートcに変更し、印可時間を100秒、プレス圧を1.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体の引張せん断接着強さは1.3N/mm2であった。
【0049】
<比較例5>
実施例1における樹脂シートaを樹脂シートdに変更し、プレス圧を0.5MPaに変更した以外は、実施例1と同一の条件で誘電加熱接着を行った。得られた積層体は積層面から剥離が起こり、引張せん断接着強さを測定することはできなかった。
【0050】
結果を以下の表1にまとめる。ここから、特定の流動開始温度およびMFRを有する樹脂を接着層に用いることで誘電フィラーの非存在下でも誘電加熱により高い接着強度が得られることが明白である。実施例1~5と実施例6~9から、このことが樹脂の種類やプレス圧力によらないこと、また実施例6~9と比較例1~4の比較から、同系の樹脂でも流動開始温度およびMFRが特定の範囲から外れることで接着強度が大きく低下することが明らかである。また、通常接着の要件として被着体への濡れ性が必要である、すなわち低粘度、高流動性の樹脂を用いると接着性が上がる、というのが一般的な知見であるが、今回の結果はそれとは相反しており、樹脂に特定の流動性の低さが必要である、という驚くべき結果となっている。これは、誘電加熱により構造体が含有する水が加熱され、間接的に接着層が加熱される過程でわずかに接着層が溶融変形することで適度な凝集性と被着体への密着性を両立しているためと考えられる。一方で樹脂の流動性が低すぎると接着性が低下すること、すなわち特定の範囲内の流動開始温度およびMFRが必要であることも、比較例5から明らかである。
【0051】
また、実施例は、誘電フィラーを含まないことから、リサイクルや廃棄の際に誘電フィラーの除去作業を必要とせず、環境にも優しいものである。
【0052】
本発明の積層体の製造方法は、小物、家具、建築材料向けの集成材、ベニヤ合板、コンパネ、構造用合板、三次元成形用合板の製造や、各種モビリティ部材、建築材料向けの樹脂-樹脂、樹脂-木材、木材-金属からなる複合部材の製造など、幅広い用途に用いることができる。