(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003012
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103919
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 嘉紀
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA03
2H033AA24
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA25
2H033BA26
2H033BA27
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BE00
(57)【要約】
【課題】これによれば、端部ホットオフセットを抑えることができる定着装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着装置の熱移動補助部材42の非接触部たるニップ非形成部44bの通紙領域内に設けた開口部45の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置するよう開口部45を構成する。また、熱移動補助部材42のニップ非形成部44bの接触部たるニップ形成部43との接続部の非通紙領域から開口部45を迂回して接続部の通紙領域に到るまでの経路のうち最も短い最短経路を熱が移動する時間を、所定サイズの記録媒体が定着ニップを通過する時間よりも短くしている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の回転体と、
前記回転体に接触して定着ニップを形成する接触部材と、
前記回転体を加熱する熱源と、
前記回転体の軸方向の熱移動を補助する熱移動補助部材とを備え、
前記定着ニップに記録媒体を通過させて前記記録媒体に画像を定着する定着装置において、
前記熱移動補助部材は、前記回転体に接触する接触部と、前記回転体に接触しない非接触部とを備え、
前記非接触部は、前記回転体の軸方向において、所定サイズの記録媒体の通紙領域内に開口部を有し、
前記開口部の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置するように前記開口部を構成し、
前記非接触部の前記接触部との接続部の前記所定サイズの記録媒体を前記定着ニップに通紙したときの非通紙領域から前記開口部を迂回して前記接続部の前記通紙領域に到るまでの経路のうち最も短い最短経路を熱が移動する時間が、前記所定サイズの記録媒体が、前記定着ニップを通過する時間よりも短くすることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置において、
前記熱移動補助部材の密度をρ、
前記熱移動補助部材の体積熱容量をCp、
前記最短経路をL、
前記熱移動補助部材の熱伝導率をλとしたとき、
前記最短経路を熱が移動する時間τは、
τ=ρCPL2/λ
であることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の定着装置において、
前記開口部の軸方向外側端部から前記通紙領域の端部までの距離が4mm未満であり、
前記開口部の接続部側端部から前記接続部までの距離が、4mm未満であることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の定着装置において、
前記開口部の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から4mm以上内側に位置するように前記開口部を構成したことを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の定着装置において、
前記開口部は、前記軸方向に長い形状であることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の定着装置において、
前記開口部が、前記記録媒体のサイズに対応して複数設けられていることを特徴とする定着装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の定着装置において、
前記開口部の接続部側端部から前記接続部までの距離が、2mm以下であることを特徴とする定着装置。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載の定着装置において、
前記熱移動補助部材の前記接触部は、前記回転体を介して前記接触部材に当接して、前記接触部材との間で定着ニップを形成しており、
前記非接触部は、前記熱移動補助部材の前記接触部の前記回転体の回転方向下流側の端部から前記接触部材から離間する方向に延伸していることを特徴とする定着装置。
【請求項9】
記録媒体に画像を形成する画像形成部と、
前記記録媒体に形成された画像を前記記録媒体に定着させる定着装置とを備えた画像形成装置において、
前記定着装置として、請求項1乃至8いずれか一項に記載の定着装置を用いたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無端状の回転体と、回転体に接触して定着ニップを形成する接触部材と、回転体を加熱する熱源と、回転体の軸方向の熱移動を補助する熱移動補助部材とを備え、定着ニップに記録媒体を通過させて記録媒体に画像を定着する定着装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、上記定着装置として、熱移動補助部材たる均熱部材に潤滑剤を流出させるための開口部を有するものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、記録媒体の軸方向端部の端部領域に形成された画像のホットオフセット(以下、端部ホットオフセットという)が発生するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、無端状の回転体と、前記回転体に接触して定着ニップを形成する接触部材と、前記回転体を加熱する熱源と、前記回転体の軸方向の熱移動を補助する熱移動補助部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて前記記録媒体に画像を定着する定着装置において、前記熱移動補助部材は、前記回転体に接触する接触部と、前記回転体に接触しない非接触部とを備え、前記非接触部は、前記回転体の軸方向において、所定サイズの記録媒体の通紙領域内に開口部を有し、前記開口部の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置するように前記開口部を構成し、前記非接触部の前記接触部との接続部の前記所定サイズの記録媒体を前記定着ニップに通紙したときの非通紙領域から前記開口部を迂回して前記接続部の前記通紙領域に到るまでの経路のうち最も短い最短経路を熱が移動する時間が、前記所定サイズの記録媒体が、前記定着ニップを通過する時間よりも短くすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
これによれば、端部ホットオフセットを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図。
【
図6】開口部の第二ニップ非形成部での配置位置、開口部の形状について説明する図。
【
図7】ホットオフセット評価に用いる画像パターンを示す図。
【
図8】評価試験1の実験例2~5の開口部の位置について説明する図。
【
図9】開口部のY方向位置とΔ、開口部のY方向位置とTmaxとの関係をまとめたグラフ。
【
図10】評価試験2の実験例6~9の開口部の位置について説明する図
【
図11】開口部45のX方向位置とΔ、開口部のX方向位置とTmaxとの関係をまとめたグラフ。
【
図12】評価試験3の実験例10~13の開口部の面積について説明する図。
【
図13】開口部のLx(Ly)と、Δとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を適用した定着装置及び画像形成装置の一実施形態について説明する。まず、実施形態に係る定着装置や画像形成装置の基本的な構成について説明する。
【0009】
図1は、実施形態に係る画像形成装置100を示す概略構成図である。同図において、画像形成装置100は、タンデム方式のカラーレーザープリンタである。その装置本体の中央部には、イエロー(Y),シアン(C),マゼンタ(M),ブラック(Bk)のトナー像を作像する四つの作像部1Y,1M,1C,1Bkからなる画像ステーションが設けられている。
【0010】
四つの作像部1Y,1M,1C,1Bkは、無端状の中間転写ベルト11の展張方向に沿って並置されており、互いに異なる色のトナーによって静電潜像を現像してトナー像を得る点の他は、互いに同様の構成となっている。
【0011】
Y,M,C,Bk用の作像部は、Y,M,C,Bk用の静電潜像を担持するドラム状の感光体120Y,120C,120M,120Bkを有している。それら四つの作像部の下方には、Y,C,M,Bk用の感光体120Y,120C,120M,120Bkに対して光走査を行う光書込装置6が配設されている。
【0012】
Y,M,C,Bk用の作像部において作像動作が開始されると、Y,C,M,Bk用の感光体120Y,120C,120M,120Bkが、駆動装置によって図中時計回り方向に回転駆動される。そして、感光体120Y,120C,120M,120Bkの表面が、帯電装置30Y,30C,30M,30Bkによって所定の極性に一様に帯電される。
【0013】
光書込装置6は、光源としての半導体レーザー、カップリングレンズ、fθレンズ、トロイダルレンズ、折り返しミラー、光偏向手段としての回転多面鏡(ポリゴンミラー)などを有している。そして、帯電後の感光体120Y,120C,120M,120Bkの表面に、画像情報に基づいて生成した書き込み光(レーザー光)Lbが照射される。光書込装置に6は、フルカラー画像の画像情報をY,C,M,Bkの色情報に色分解したY,C,M,Bk用の画像情報が提供される。書き込み光Lbの照射により、感光体120Y,120C,120M,120Bkの表面には静電潜像が形成される。
【0014】
感光体120Y,120C,120M,120Bk上に形成された静電潜像は、Y,C,M,Bkのトナーを用いる現像装置40Y,40C,40M,40Bkによって現像される。この現像により、感光体120Y,120C,120M,120Bkの表面には、Y,C,M,Bkトナー像が作像される。
【0015】
四つの作像部1Y,1M,1C,1Bkの上方には、無端状の中間転写ベルト11を有する転写ユニット10が設けられている。転写ユニット10において、中間転写ベルト11のループ内側に配設されたY,C,M,Bk用の一次転写ローラ112Y,112C,112M,112Bkは、感光体120Y,120C,120M,120Bkとの間に中間転写ベルトを挟み込んでいる。これにより、感光体120Y,120C,120M,120Bkと、中間転写ベルト11との当接によるY,C,M,Bk用の一次転写ニップが形成されている。
【0016】
作像動作が開始されると、転写ユニット10の駆動ローラ72が図中反時計回り方向に回転駆動して、中間転写ベルト11を図中矢印A1方向に無端移動させる。また、一次転写ローラ112Y,112C,112M,112Bkに、トナーの帯電極性とは逆極性の定電圧または定電流制御された電圧が印加される。これにより、Y,C,M,Bk用の一次転写ニップに一次転写電界が形成される。
【0017】
感光体120Y,120C,120M,120Bk上に作像されたY,C,M,Bkトナー像は、Y,C,M,Bk用の一次転写ニップ内で、ニップ圧や一次転写電界の作用によって中間転写ベルト11上に順次重ね合わせて一次転写される。これにより、中間転写ベルト11の表面に四色のトナー像が担持される。
【0018】
転写ユニット10において、駆動ローラ72は、中間転写ベルト11を介して二次転写ローラ5に対向する二次転写対向ローラとしても機能する。また、従動ローラ73は、中間転写ベルト11を介して転写ベルトクリーニング装置113に対向するクリーニングバックアップローラとしても機能する。更に、従動ローラ73は、中間転写ベルト11に対する張力付勢手段としての機能も備えているため、従動ローラ73には、バネなどを用いた付勢手段が設けられている。
【0019】
Y,C,M,Bk用の一次転写ニップを通過した後の感光体120Y,120C,120M,120Bkには、中間転写ベルト11に一次転写されなかった転写残トナーが付着している。その転写残トナーは、Y,C,M,Bk用のクリーニング装置50Y,50C,50M,50Bkによって感光体120Y,120C,120M,120Bkから除去される。その後、感光体120Y,120C,120M,120Bkの表面は、除電装置によって除電されて表面電位が初期化される。
【0020】
中間転写ベルト11の図中右側に配設された二次転写ローラ5は、中間転写ベルト11のおもて面に当接して二次転写ニップを形成しながら、中間転写ベルト11に従動して連れ回りする。この二次転写ローラ5には、電源が接続されており、所定の直流電圧(DC)と交流電圧(AC)との少なくとも一方からなる二次転写バイアスが印加される。これにより、二次転写ニップには二次転写電界が形成される。
【0021】
画像形成装置100の筐体内における最下部の領域には、用紙Sを積載収容する用紙給送装置61が配設されている。この用紙給送装置61は、最上位の用紙Sの上面に当接させている給送ローラ3を図中反時計回り方向に回転駆動することで、最上位の用紙Sを用紙搬送路に送り込む。
【0022】
用紙搬送路は、用紙Sを用紙給送装置61から二次転写ニップを経由して装置外まで排出するための搬送路である。この用紙搬送路の二次転写ローラ5の位置よりも用紙搬送方向上流側には、二次転写ニップへ用紙Sを繰り出すように搬送するレジストローラ対4が配設されている。
【0023】
用紙給送装置から用紙搬送路に送り込まれた用紙Sは、レジストローラ対4のレジストニップに突き当たって一時停止される。レジストローラ対4は、レジストニップに突き当たった用紙Sを、中間転写ベルト11上の四色のトナー像に同期させるタイミングで回転駆動して二次転写ニップに向けて送り出す。
【0024】
二次転写ニップ内では、ニップ圧や二次転写電界の作用により、中間転写ベルト11上の四色のトナー像が用紙Sの表面に一括二次転写される。二次転写ニップを通過した後の中間転写ベルト11には、用紙Sに二次転写されなかった転写残トナーが付着している。この転写残トナーは、転写ベルトクリーニング装置113によって除去され、除去されたトナーは廃トナー収容器へと搬送され回収される。
【0025】
中間転写ベルト11に当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードとを有する転写ベルトクリーニング装置113は、中間転写ベルト11を介して従動ローラ73に対向するように配設されている。そして、クリーニングブラシとクリーニングブレードとにより、中間転写ベルト11上の転写残トナーが掻き取り除去される。転写ベルトクリーニング装置113から伸びた廃トナー移送ホースは、廃トナー収容器の入口部に接続されている。
【0026】
用紙Sとしては、普通紙の他に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、用紙等が挙げられる。用紙給送装置61の他に、手差しで用紙Sを供給できるように手差し給紙機構を設けてもよい。
【0027】
二次転写ニップを通過した用紙Sは、定着装置20へと搬送され、定着装置20によって表面にトナー像が定着せしめられる。その後、定着装置20を通過した用紙Sは、排紙ローラ対7によって装置外へ排出され、排紙トレイ17上にストックされる。
【0028】
なお、以上の説明は、用紙S上にフルカラー画像を形成するときの画像形成動作であるが、4つの作像部のいずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つまたは3つの作像部を使用して、2色または3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0029】
また、画像形成装置100の筐体の上部領域には、Y,C,M,Bkトナーを収容するトナーボトル9Y,9C,9M,9Bkが配設されている。これらのトナーボトル9Y,9C,9M,9Bkは、排紙トレイ17の下側に設けられた複数のボトル収容部それぞれに着脱可能に装着されている。
【0030】
また、トナーボトル9Y,9C,9M,9Bkと、Y,C,M,Bk用の作像部の現像装置40Y,40C,40M,40Bkは、補給路によって接続されている。そして、現像装置40Y,40C,40M,40Bkには、その補給路を介してトナーボトル9Y,9C,9M,9Bk内のトナーが補給される。
【0031】
定着装置20は、定着ベルト21を、輻射によって加熱する方式を採用することで、金属熱伝導体を介して間接的に加熱する方式に比べて、加熱待機時からのファーストプリントタイムを短縮できるようになっている。
【0032】
図2は、本実施形態の定着装置を示す概略構成図である。
本実施形態の定着装置20は、回転可能な定着ベルト21と、定着ベルト21に対向配置されて回転可能な加圧ローラ22とを有している。
【0033】
定着ベルト21の内部には、定着ベルト21を介して加圧ローラ22との間で定着ニップを形成する熱移動補助部材42と、熱移動補助部材42にかかる荷重を支える支持部材25と、定着ベルト21を加熱するヒータ23とが配置されている。また、これらを保持するフランジを配置していてもよい。
【0034】
加圧ローラ22は、例えば、金属ローラ22aとシリコーンゴム層22bを有し、離型性を得るために表面に離型層22cが設けられる。
離型層22cとしては、例えばPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等を用いることができる。
【0035】
加圧ローラ22は、画像形成装置に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。また、加圧ローラ22は、スプリングなどにより定着ベルト21側に押し付けられており、シリコーンゴム層22bが押しつぶされて変形することにより、所定のニップ幅を有している。
【0036】
加圧ローラ22は中実のローラであってもよいが、中空のほうが熱容量を少なくできる。また、加圧ローラ22にハロゲンヒータなどの加熱源を有していてもよい。
【0037】
シリコーンゴム層22bはソリッドゴムでもよいが、加圧ローラ22内部にヒータが無い場合は、スポンジゴムを用いてもよい。スポンジゴムの方が、断熱性が高まり定着ベルト21の熱が奪われにくくなるので、より好ましい。
【0038】
定着ベルト21は、例えば加圧ローラ22により連れ回り回転する。本実施形態の場合、加圧ローラ22が駆動源により回転し、ニップ部で定着ベルト21に駆動力が伝達されることにより定着ベルト21が回転する。なお、以下、定着ベルト21の回転軸方向を単に軸方向とも称することがある。
【0039】
定着ベルト21は、例えばニッケルやSUSなどの金属ベルトやポリイミドなどの樹脂材料を用いることができ、無端ベルト(もしくはフィルム)とすることが好ましい。定着ベルト21の表層は、PFAまたはPTFE層などの離型層を有し、トナーが付着しないように離型性をもたせることが好ましい。
【0040】
定着ベルト21の基材とPFAまたはPTFE層の間には、シリコーンゴムの層などで形成する弾性層があってもよい。シリコーンゴム層がない場合は熱容量が小さくなり、定着性が向上するが、未定着画像を押しつぶして定着するときにベルト表面の微妙な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部にユズ肌状の跡が残るという不具合が生じる。これを改善するには、シリコーンゴム層を100μm以上設けることが好ましい。シリコーンゴム層の変形により、微妙な凹凸が吸収されユズ肌画像が改善する。
【0041】
定着ベルト21の内部に定着スリーブを用いてもよい。定着スリーブとしては、例えば中空のパイプ状金属体を用いることができ、中空のパイプ状金属体はアルミ、鉄、ステンレスなどの金属を用いることができる。定着ベルト21の回転軸と垂直な断面における金属体の断面形状は、円形、角型、その他の形状とすることができる。
【0042】
定着スリーブを用いる場合、定着スリーブをヒータ23により加熱して定着ベルト21を加熱するようにしてもよい。定着スリーブを昇温させるヒータ23としては、ハロゲンヒータでもよいし、IHコイルでもよいし、また、抵抗発熱体やカーボンヒータ等でもよい。
【0043】
ヒータ23としては、例えば定着ベルト21の内側に配置され、定着ベルト21の軸方向における中央側に配置された中央ヒータ23Aと、定着ベルト21の内側に配置され、定着ベルト21の軸方向における端部側に配置された端部ヒータ23Bとを有する。中央ヒータ23Aと端部ヒータ23Bは、同じ種類の部材を用いてもよいし、異なる種類の部材を用いてもよい。
【0044】
上記のような構成により安価で、ウォームアップが早い定着装置を実現することができる。
なお、ハロゲンヒータなどの輻射熱などにより支持体が加熱されてしまう場合は、支持部材25の表面に断熱もしくは鏡面処理を行い、加熱されることを防止することで、無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態の定着装置は、ヒータ23と定着ベルト21との間に、ヒータ23の熱を遮蔽する遮蔽部材を有していてもよい。遮蔽部材は、高い耐熱性を有していることが好ましく、アルミ、鉄、ステンレス鋼などで構成されることが好ましい。
【0046】
熱移動補助部材42によって形成される定着ニップの形状としては、適宜変更することが可能であり、凹形状、平坦形状、その他の形状とすることができる。定着ニップの形状が凹形状である場合、用紙先端の排出方向が加圧ローラ22よりになり、分離性が向上するのでジャムの発生が抑制される。
【0047】
定着ニップを形成するニップ形成部材として熱移動補助部材42を用いることで、定着ベルト21の軸方向の温度を平均化することができる。熱移動補助部材42は、例えば、熱伝導性の良いアルミや銅などを用いることができる。また、均熱効果を高めるために熱移動補助部材42の表面に、摺動性能に優れたコーティングを施してもよい。
【0048】
図3は、各ヒータ23A,23Bの構成について説明する図である。
図3に示すように、中央ヒータ23Aは、幅方向中央部にのみ発熱領域を有する配熱特性を有しており、端部ヒータ23Bは、幅方向両端にのみ発熱領域を有する配熱特性を有している。
【0049】
中央ヒータ23Aの発熱領域は、220mmあり、レターサイズ以下の小サイズ用紙に対応した熱源となっている。中央ヒータ23Aと端部ヒータ23Bの両方を点灯させたときの発熱領域は、330mmであり、本画像形成装置が通紙可能な最大サイズ幅(A3縦ノビサイズ)にまで対応する発熱領域となる。
【0050】
サイズ幅が、レターサイズ以上の大サイズ用紙を通紙する場合は、端部温度検知センサ28Bの検知結果に基づいて端部ヒータ23Bを点灯制御し、定着ベルト21の端部領域を定着温度に維持する。また、中央部温度検知センサ28Aの検知結果に基づいて中央ヒータ23Aが点灯制御され、定着ベルト21の中央領域が定着温度に維持される。中央部温度検知センサ28Aおよび端部温度検知センサ28Bは、サーモパイル、サーミスタなどの公知の温度検知センサを用いることができる。
【0051】
上述した配熱特性の中央ヒータ23Aと端部ヒータ23Bとを備えることで、小サイズ用紙のときは、端部ヒータ23BをOFFにし、定着ベルト21の端部を加熱することなく、定着を行うことができる。これにより、短い紙間で小サイズ用紙を大量に連続印刷する場合に、定着ベルト21の端部が異常高温となるのを抑制することができる。
【0052】
図4は、熱移動補助部材42の概略斜視図であり、
図5は、
図4におけるA-A断面図である。
熱移動補助部材42は、定着ベルト21の内周面に接触する接触部としてのニップ形成部43と、定着ベルト21の内周面に非接触の非接触部としてのニップ非形成部44a、44bとを有している。一方のニップ非形成部44a(以下、第一ニップ非形成部44aという)は、ニップ形成部43の定着ベルト21の回転方向上流側端部から定着ベルト21の内側へ90°折れ曲がるように延伸している。他方のニップ非形成部44b(以下、第二ニップ非形成部44bという)は、ニップ形成部43の定着ベルト21の回転方向下流側端部から定着ベルト21の内側へ90°折れ曲がるように延伸している。
【0053】
第二ニップ非形成部44bは、第一ニップ非形成部44aよりも高く(加圧ローラ22から離間する方向の長さが長く)なっており、第二ニップ非形成部44bの高さは、7mm~10mmとなっている。また、第二ニップ非形成部には、2つの開口部45が設けられている。各開口部45は、DLTサイズ(ダブルレターサイズ:279.4mm×431.8mm)の用紙の通紙領域の端部付近に配置されている。
【0054】
本熱移動補助部材42は、ニップ形成部の定着ベルトの回転方向両側にニップ非形成部を設けているが、第二ニップ非形成部44bのみであってもよい。また、本熱移動補助部材42は、第二ニップ非形成部44bにのみ開口部45を設けているが、第一ニップ非形成部44aにも開口部45を設けてもよいし、第一ニップ非形成部44aにのみ開口部45を設けてもよい。また、
図4では、開口部45は、四角形であるが、他の多角形や、丸穴、長孔などでもよい。
【0055】
上述したように、中央ヒータ23Aと端部ヒータ23Bの両方を点灯させたときの発熱領域は、330mmであり、DLTサイズの用紙など、発熱領域に対して所定長さ以上短い用紙サイズを連続で通紙する場合、定着ベルト21の非通紙領域の温度が高温化する。定着ニップに通紙する用紙の間隔を狭めたり、定着ニップを通過する用紙の搬送速度を高めたりして単位時間当たりの処理枚数を高めて生産性を高めると、単位時間当たりに用紙に奪われる熱量が多くなる。そのため、定着ベルト21の通紙領域の温度を定着温度に維持するには、各ヒータ23A,23Bの単位時間当たりの発熱量が多くなり、定着ベルト21の非通紙領域の温度が異常に高くなってしまう。
【0056】
そこで、本定着装置20は、熱移動補助部材42を設けて、熱移動補助部材42により定着ベルト21の非通紙領域の熱の軸方向への移動を促進している。これにより、定着ベルト21の非通紙領域の異常高温を抑制でき、処理枚数を高めて各ヒータ23A,23Bの単位時間当たりの発熱量が多少多くなっても、定着ベルト21の非通紙領域が異常温度に達することがなく、生産性の向上を図ることができる。
【0057】
しかし、高温の非通紙領域の熱が、熱移動補助部材42によって通紙領域へ移動することで、定着ベルト21の通紙領域の端部付近が定着温度よりも高くなってしまう。その結果、用紙の端部領域の画像にホットオフセット(以下、端部ホットオフセットという)が発生するおそれがある。
【0058】
熱移動補助部材42の非通紙領域から通紙領域への熱の移動は、ニップ形成部43のみならず、ニップ非形成部44a,44bでも発生している。具体的には、ニップ形成部43の非通紙領域の熱の一部が、ニップ形成部43とニップ非形成部との接続部からニップ非形成部へ移動し、ニップ非形成部を軸方向内側へ移動し、ニップ形成部43の通紙領域の端部付近へ移動している。
【0059】
そこで、本定着装置20は、ニップ形成部43の非通紙領域の熱が、ニップ非形成部を介してニップ形成部43の通紙領域の端部付近へ移動するのを、開口部45により抑制し、定着ベルト21の通紙領域の端部付近の温度上昇を抑制するようにした。以下、本実施形態の特徴部である開口部45について説明する。
【0060】
まず、開口部45の第二ニップ非形成部44bでの配置位置についての評価試験について説明する。
図6は、開口部45の第二ニップ非形成部44bでの配置位置、開口部45の形状について説明する図である。
図6に示すように軸方向をX,高さ方向(加圧ローラ22から離間する方向)をYとする。X方向については、通紙領域の端部を原点とし、軸方向内側をプラス、外側をマイナスとする。Y方向については、第二ニップ非形成部44bのニップ形成部43との接続部を原点とした。また、開口部45のX方向長さをLxとし、開口部45のY方向の長さをLyとした。以下の開口部45の配置位置に関する評価試験においては、Lx=2mm、Ly=2mmの正方形の開口部45で評価を行った。定着ベルト21の通紙領域の端部から2mm内側の位置の温度と、通紙領域の中央部の温度を計測した。
【0061】
図7は、ホットオフセット評価に用いる画像パターンGを示す図である。
図7に示すように画像パターンGを用紙の軸方向両端に設けている。これら画像パターンGは、先端から5mm離れた位置から形成されており、用紙の先端から定着ベルト21の1周の長さ以内に収まるように形成されている。また、これら画像パターンは、用紙Sの軸方向端部から2mm離れた位置から形成している。画像パターンGを用紙の軸方向端部から2mm離した理由は、本画像形成装置は両端から2mmまでの領域は印字を行わない領域であるためである。
【0062】
[評価試験1]
まず、評価試験1について、説明する。評価試験1は、開口部45のY方向の配置位置について評価した評価試験である。
図8は、評価試験1の実験例2~5の開口部45の位置について、説明する図である。
開口部45を設けていない実験例1の熱移動補助部材と、
図8に示すように、開口部45のY方向の位置が互いに異なる4つの実験例2~5の熱移動補助部材を用意して、評価試験を行った。熱移動補助部材の材質は、アルミとし、厚みは1mmとした。実験例2は、Y方向6mmの位置に開口部45を設け、実験例3は、Y方向4mmの位置に開口部45を設けた。実験例4は、Y方向2mmの位置に開口部45を設け、実験例5は、Y方向1.6mmの位置に開口部45を設けた。なお、実験例2~5の開口部のX方向の位置は、2mmである。
【0063】
評価試験は、線速260mm/s、
図7に示した画像パターンGが形成されたDLTサイズ(279.4mm×431.8mm)の普通紙を30CPM(単位時間当たりの印刷(処理)枚数:Copy Per Minutes)で500枚連続通紙した。そして、温度が飽和した時の定着ベルト21の通紙領域の端部温度(通紙領域端部から2mm離れた位置)と通紙領域中央部温度との差から求まる用紙内温度偏差(以後Δという)を計測した。また、非通紙領域における最高温度(以後Tmaxという)と、端部ホットオフセット有無も確認した。なお、Tmaxは、熱電対を非通紙領域に軸方向に所定の間隔を開けて複数配置し、最も高い温度を検出した軸方向中央から150mm離れた位置の熱電対の値とした。
下記表1は、評価試験1の結果を示す表であり、
図9は、開口部45のY方向位置とΔ、開口部45のY方向位置とTmaxとの関係をまとめたグラフである。
【0064】
【0065】
表1、
図9からわかるように、開口部45のY方向の位置が4mm以上のものは、開口部45を設けていない実験例1とΔおよびTmaxがほとんど変わらなかった。これは、ニップ非形成部44bの非通紙領域の熱のほとんどが開口部45で遮断されることなく、通紙領域の端部付近へ移動してしまい、開口部45のない実験例1と同様な結果となったと考えられる。
【0066】
一方、
図9からわかるように、ΔおよびTmaxは、Y方向の位置4mmを境に低下していることがわかる。これは、ニップ非形成部44bの非通紙領域の通紙領域の端部付近へ向かう熱の一部が開口部45で遮断される。この開口部45で遮断された熱は温度の低いY方向プラス側(ニップ非形成部44bの端部側)へ移動した後に軸方向内側へ移動し、開口部よりもX方向内側のニップ形成部との接続部へ移動するような開口部を迂回する経路を取る。その結果、ニップ非形成部44bの熱の一部が、通紙領域の端部付近よりも内側へ移動することで、通紙領域端部付近の温度上昇が抑えられるとともに、通紙領域の端部付近内側の通紙のよる温度低下が抑えられる。これにより、Δが低下したと考えられる。
【0067】
また、ニップ非形成部44bの通紙領域端部付近の熱のY方向の移動が開口部45により遮断される。その結果、開口部45よりもプラスY側の領域の温度上昇が抑えられ、ニップ非形成部44bの非通紙領域の熱の開口部45よりもプラスY側の領域への移動(開口部45を迂回する)が促進される。その結果、Tmaxが減少したと考えられる。また、非通紙領域の熱が開口部45よりもプラスY側の領域へ移動しやすくなることで、通紙領域の端部(開口部45の図中下側)へ移動する熱を低減でき、通紙領域端部の温度上昇を抑制できる。その結果、Δも低減したと考えられる。
【0068】
特に、開口部45のY方向の位置が2mm以下の実験例4、実験例5については、Δ、Tmaxが、開口部45を設けていない実験例1に比べて大きく低下できた。これは、ニップ形成部に近い位置で、通紙領域端部付近の熱のY方向の移動が開口部45により遮られる。よって、開口部45の形成位置における開口部よりもプラスY側の領域の温度が低い領域を広くでき、より効果的に非通紙領域の熱が開口部45を迂回して、開口部よりも軸方向内側へ移動した結果であると考えられる。
【0069】
以上、評価試験1から、
1.開口部のY方向の位置(ニップ形成部から開口部のニップ形成部側端部までの距離)を4mm未満とすることで、ニップ非形成部の非通紙領域の通紙領域へ向かう熱の一部が開口部45を迂回して、ニップ形成部へ至るようにでき、Δ、Tmaxを低減できることがわかった。
2.開口部のY方向の位置を2mm以下とすることで、開口部45により通紙領域端部付近のY方向の熱拡散を効果的に抑制でき、効果的にニップ非形成部の非通紙領域の熱を、開口部45を迂回させることができ、良好にΔおよびTmaxを低下できることがわかった。
【0070】
[評価試験2]
次に、評価試験2について、説明する。評価試験2は、開口部45のX方向の配置位置について評価した評価試験である。
図10は、評価試験2の実験例6~9の開口部45の位置について説明する図である。
【0071】
この評価試験2では、開口部45のX方向の位置が互いに異なる(X=2mm,X=4mm、X=0mm、X=-2mm)4個の熱移動補助部材を用意して評価試験を行った。各熱移動補助部材の開口部のY方向の位置は、1.6mmである。評価試験の内容は、評価試験1と同様である。以下、表2は、評価試験2の結果を示す表であり、
図11は、開口部45のX方向位置とΔ、開口部45のX方向位置とTmaxとの関係をまとめたグラフである。
【0072】
【0073】
表2、
図11からわかるようにX=2mmの実験例6がΔおよびTmaxが最も良い結果が得られた。一方、X=0mmの実験例8は、開口部45を設けていない実験例1に対して、僅かながらΔおよびTmaxに改善効果が見られた。X=-2mmの実験例9は、開口部45を設けた効果が得られなかった。これは、実験例9では、開口部の軸方向内側端部が、非通紙領域に位置にしている。そのため、非通紙領域で開口部の熱が迂回するため、この開口部を迂回した熱は、結果的に通紙領域の端部付近へ移動し、通紙領域の端部温度の上昇が抑制されない。その結果、通紙領域の中央部と端部との温度偏差Δは改善しなかったと考えられる。開口部の熱の迂回が非通紙領域内で完結するため、非通紙領域の温度Tmaxも低下しなかったと考えらえる。
【0074】
X=0mmの実験例8は、開口部45を迂回したニップ非形成部の非通紙領域の熱は、ニップ形成部の通紙領域の端部から2mm付近の位置へ至る。開口部45のLxは、2mmであり、開口部のX方向の内側端部が、通紙領域端部からX方向で2mmの位置に位置している。そのため、開口部45を迂回した熱は、通紙領域の端部から2mm付近でニップ形成部へ向かって移動し、ニップ形成部の通紙領域の端部から2mm付近の位置へ至るのである。
【0075】
この通紙領域の端部から2mm付近は、定着ベルト21の温度が高い領域である。このように、開口部を迂回した熱が、通紙領域の温度の高い箇所へ移動してしまうため、X=0mmの実験例8は、Δ等を十分に抑制できなかったと考えられる。
【0076】
また、X=4mmの実験例7については、開口部45が、非通紙領域から離れすぎ、非通紙領域の熱のほとんどが開口部45を迂回せずに通紙領域の端部付近へ移動しまい、開口部45のない実験例1と同様な結果となったと考えられる。
【0077】
図11からわかるようにX=4mmからX=2mmへ向かって、ΔおよびTmaxが減少している。以上から、開口部45を、X=4mm未満(通紙領域の端部から4mmよりも外側)の箇所に配置することで、非通紙領域の熱の一部が開口部を迂回して通紙領域の内側へ移動し、ΔおよびTmaxを低下させることができると考えられる。
【0078】
また、
図11から、X=0mmからX=2mmへ向かって、ΔおよびTmaxが減少している。このことから、開口部45の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置させることで、開口部45を迂回した熱を通紙領域の端部から2mm以上内側へ移動させることができる。これにより、通紙領域の端部付近の温度が高い箇所よりも軸方向内側へ開口部を迂回した熱を移動させることができ、ΔおよびTmaxを低下させることができると考えられる。
【0079】
また、X=2mmの実験例6がΔおよびTmaxが最も良い結果が得られたことを考えると、開口部45の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から4mm以上内側に位置させることが好ましいと考えられる。開口部45の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から4mm以上内側に位置させることで、通紙領域の端部付近の温度が高い箇所から十分離れた箇所へ非通紙領域の熱を移動させることができ好ましい。
【0080】
なお、開口部45の軸方向外側端部が、通紙領域の端部よりも外側(非通紙領域)に位置し、開口部45が通紙領域の端部を跨ぐような構成の場合は、次のような不具合が発生するおそれがある。すなわち、非通紙領域の開口部よりも定着ベルト側の熱が、開口部45により遮られてしまいY方向に拡散できなくなる。その結果、非通紙領域の熱は軸方向へ移動し、通紙領域の端部へ至る。その結果、通紙領域の端部付近の温度を低下させることができず、Δを低下させることができない。従って、少なくとも開口部45は、通紙領域内の位置させる必要がある。
【0081】
以上、評価試験2から、
1.非通紙領域の熱の一部が、開口部を迂回して軸方向内側へ移動するには、開口部の軸方向外側端部から、通紙領域の端部までの距離を4mm未満にする必要がある。
2.非通紙領域の熱のY方向の熱拡散を妨げないために、開口部は、通紙領域内に配置する必要がある。
3.ニップ非形成部44bの開口部を迂回した熱が、通紙領域の端部から2mm以上軸方向内側へ移動するように開口部の軸方向内側端部を、通紙領域の端部から2mm以上軸方向内側に位置させる必要がある。
4.開口部45の軸方向内側端部を、通紙領域の端部から4mm以上軸方向内側に位置させることで、効果的にΔおよびTmaxを抑制できる。
【0082】
下記表3は、実験例1、実験例4、実験例5について、CPMを30からCPMを32に上昇させた以外は、評価試験1と同様な条件でΔ、Tmax、端部ホットオフセットついて、評価した評価結果を示すものである。なお、評価試験1に対して、紙間を短くして、CPM30から32に上昇させた。
【0083】
【0084】
表3からわかるように、Δ、Tmaxともに、良好な結果が得られたY方向位置2mm以下の実験例4、5は、CPM32でも端部ホットオフセットが発生せず、端部オフセットが『〇』評価であった。一方、開口部45を設けていない実験例1は、
図7に示す画像パターンGにオフセットが確認され、端部オフセット評価が『×』となった。これは、通紙領域の中央部と端部の温度偏差Δが35℃となっており、通紙領域の端部付近の温度が高くなったことで、ホットオフセットが発生し、端部オフセット表が『×』となったと考えられる。以上から、開口部45のY方向の位置を2mm以下とすることで、CPM(生産性)を高めることができることが確認された。
【0085】
[評価試験3]
次に、評価試験3について、説明する。評価試験3は、開口部45の大きさ(形状)について評価した評価試験である。
図12は、評価試験3の実験例10~13の開口部45の面積について説明する図である。
【0086】
この評価試験3では、開口部45のLxおよびLyを2.4mm、2.8mm、3.2mm、3.6mmとした4個の熱移動補助部材を用意して評価試験を行った。各熱移動補助部材の開口部のY方向の位置は、1.6mm、X方向の位置は2mmである。評価試験の内容は、評価試験1と同様である。以下、表4は、評価試験3の結果を示す表であり、
図13は、開口部45のLx(Ly)と、Δとの関係を示す図である。
【0087】
【0088】
表4および
図13からわかるようにLx=Ly=2.8までΔが下降しているが、Lx=Ly=2.8以降からΔが上昇に転じている。Lx=Ly=2.8までは、開口部を迂回した非通紙領域の熱が、より軸方向内側へ移動することで、Δを低下できたと考えられる。
【0089】
一方、Lx=Ly=2.8以降からΔが上昇に転じている理由について、次のように考察する。開口部45が大きくなるにつれて、非通紙領域の熱が、開口部45を迂回して、ニップ形成部の通紙領域へ至るまでの時間が長くなる。その結果、熱移動補助部材42による非通紙領域の熱を通紙領域へ移動させる熱移動効率が悪くなる。ヒータ23A、23Bは、通紙領域の温度が定着温度に維持されるようにON/OFF制御されている。従って、非通紙領域の熱を通紙領域へ移動させる熱移動効率が悪くなると、用紙によって熱が奪われて低下した定着ベルトの通紙領域の温度をすばやく定着温度に回復できず、ヒータのON時間が長くなる。非通紙領域の温度は、ヒータのON時に蓄えられた熱により上昇する。よって、熱移動効率が悪くなり、ヒータのON時間が長くなると、非通紙領域の温度が上昇する。さらに、熱移動補助部材の熱移動効率が悪いため、非通紙領域の熱が素早く拡散しないため、非通紙領域の温度が高くなりやすい。このように非通紙領域の温度が高くなることで、非通紙領域から通紙領域の端部へ移動する熱も増える。その結果、Lx=Ly=2.8以降からΔが上昇したのではないかと考えられる。
【0090】
このような考察から、非通紙領域の熱が開口部45を迂回する時間が、非通紙領域の温度上昇に寄与する用紙の定着ニップを通過する通紙時間よりも速いことが温度偏差Δを低減する為の必要条件であると考えられる。
【0091】
そこで、非通紙領域の熱が、開口部45を迂回してニップ形成部へ至るまでの熱経路における時定数τを導入して、上記考察を検証した。時定数τは、熱移動補助部材の熱抵抗Rと熱容量Cの積として定義される。熱経路L、熱移動補助部材の密度ρ、熱移動補助部材の体積熱容量Cp、熱移動補助部材の熱伝導率λとした時、時定数τは、以下の式(1)で表すことができる。
τ=RC=ρCPL2/λ・・・(1)
【0092】
ここで、熱経路Lについて説明する。
図14は、熱経路Lについて説明する図である。
図14に示すように、熱経路Lはニップ非形成部44bのニップ形成部43との接続部(y=0)の通紙領域の端部から開口部45を迂回し、再び通紙域領域の接続部に到るまでの最短経路とする。開口部45が略正方形の場合、熱経路Lは、以下の式(2)で表すことができる。
L=y+Lx+Ly+√{(y+Ly)
2+x
2}・・・・(2)
【0093】
下記表5は、実験例10~13について、時定数τを計算した結果と、用紙が定着ニップを通過する通紙時間Tとの関係を示したものである。ここでτ<Tの場合〇、τ≧Tの場合×と表記した。又、用紙が定着ニップを通過する通紙時間Tは、(紙長さ+定着ニップ幅)/線速により求まる。この評価試験3の場合、紙長さ=431.8mm、定着ニップ幅=10mm、線速=260mm/sであるので、通紙時間T=1.7秒である。
【0094】
【0095】
表5に示すように、Lx=Ly=2.8以下の実験例10、11は、τ<Tとなり、『〇』判定となり、Lx=Ly=2.8を超える実験例12、13は、τ≧Tとなり、『×』判定となった。このように、開口部45を迂回してニップ形成部へ至るまでの熱経路における時定数τと、用紙が定着ニップを通過する通紙時間Tとの関係をτ<Tと規定することで、Δを低減できる開口部45の面積について規定することができた。
【0096】
下記表6は、実験例5、実験例10、実験例11について、CPMを30からCPMを33に上昇させた以外は、評価試験1と同様な条件でΔ、Tmax、端部ホットオフセットついて、評価した評価結果を示すものである。なお、評価試験1に対して、紙間を短くして、CPM30から33に上昇させた。
【0097】
【0098】
表6に示すように、実験例5は、通紙領域の中央部と端部との温度偏差Δが、34℃となり、通紙領域の端部付近の温度が高くなったことで、ホットオフセットが発生し、端部オフセット表が『×』となったと考えられる。一方、実験例10、11は、CPM33でも端部ホットオフセットが発生せず、端部オフセットが『〇』評価であり、生産性が高められることが確認された。
【0099】
実験例10、実験例11は、実験例5よりも時定数τの値が大きいが、実験例5に比べて生産性を高めることができた。これは、実験例10、11は、実験例5に比べて、通紙領域の端部から開口部45の軸方向内側端部までの長さが長い。そのため、実験例10、11は、実験例5よりも開口部を迂回する非通紙領域の熱を軸方向内側へ移動できたためと考えられる。
【0100】
そこで、時定数τとTの関係がτ<Tを満たす条件の範囲で、開口部45のLxとLyの比であるアスペクト比の水準を振って評価試験を行った。なお、CPMが評価試験1と異なる以外は、評価試験1と同条件で評価試験を行った。また、CPMは、紙間を短くして、CPMを上昇させた。その評価試験の結果を表7に示す。
【0101】
【0102】
表7からわかるように、Lxを長くして、開口部45を迂回した非通紙領域の熱を、なるべく軸方向内側へ移動させることで、ΔおよびTmaxを低減できることが確認された。特に、Lx=4mm以上とし、通紙領域の端部から開口部45の軸方向内側端部までの距離を6(4+2)mm以上とした実験例14、15は、CPM34.5の場合でも、端部ホットオフセットが発生せず、さらに生産性が高められることが確認された。
【0103】
このことから、開口部45の形状としては、軸方向に長い長方形状や、軸方向長い長孔形状とするのが好ましいと考えられる。開口部45を軸方向に長い長方形状や、軸方向に長い長孔形状とすることで、τ<Tの条件を満たしつつ、開口部45を迂回した非通紙領域の熱をなるべく軸方向内側へ移動させることができ、ΔおよびTmaxを低減でき、より生産性を高めることができる。また、開口部45を迂回した非通紙領域の熱をなるべく軸方向内側へ移動させるためには、開口部45を軸方向に長い長方形状や、軸方向長い長孔形状とするとともに、時定数τをなるべく通紙時間Tに近い値とすることが好ましい。
【0104】
以上の評価試験から、非通紙領域の熱の一部が開口部を迂回し、迂回した非通紙領域の熱が通紙領域から2mm以上内側へ移動するようにし、かつ、τ<Tの条件を満たすように開口部を構成することで、ΔおよびTmaxを低減できる。これにより、端部ホットオフセットの発生を抑制でき、生産性が高められることがわかった。
【0105】
特に、開口部のY方向の位置を2mm以下に配置することで、ΔおよびTmaxを良好に低減でき、端部ホットオフセットの発生を抑制でき、生産性を高められることがわかった。また、通紙領域の端部から開口部45の軸方向内側端部までの距離を長くするほど、ΔやTmaxの低減効果が高くなり、より一層、端部ホットオフセットの発生を抑制でき、生産性を高められることがわかった。従って、開口部の形状としては、軸方向に長い形状とすることで、τ<Tの条件を満たしつつ、開口部を迂回した非通紙領域の熱をなるべく通紙領域の内側へ移動させることができ、好ましいことがわかった。
【0106】
なお、上述した評価試験では、熱移動補助部材の材質として、アルミを用いたが、熱移動補助部材は、銅などの熱伝導率λが低い材質であればよい。熱移動補助部材として、熱伝導率λが低い材質を用いることで、時定数τの値を小さくでき、より熱経路Lを長くすることが可能となる。これにより、より開口部を軸方向に長くでき、開口部45を迂回した非通紙領域の熱をより軸方向内側へ移動させることができ、生産性を高めることができ、好ましい。
【0107】
上述では、DLTサイズの用紙を前提にして、開口部45の最適化について説明した。しかし、他のサイズの用紙においても、上述と同様に開口部を構成することで、ΔおよびTmaxの上昇を抑えることができ、生産性を高めることができる。すなわち、τ<Tを満たし、通紙領域内に配置し、軸方向内側端部が通紙領域の端部から2mm以上内側に位置するように開口部を構成するのである。
【0108】
また、開口部45を、複数の用紙サイズに応じて熱移動補助部材のニップ非形成部に複数設けてもよい。また、例えば、ある用紙サイズに対応する開口部は、第一ニップ非形成部44aに設け、別の用紙サイズに対応する開口部は、第二ニップ非形成部44bに設けるなど、両方のニップ非形成部に開口部45を設けてもよい。
【0109】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
定着ベルト21などの無端状の回転体と、回転体に接触して定着ニップを形成する加圧ローラ22などの接触部材と、回転体を加熱するヒータ23A,23Bなどの熱源と、回転体の軸方向の熱移動を補助する熱移動補助部材42とを備え、定着ニップに用紙Sなどの記録媒体を通過させて記録媒体に画像を定着する定着装置20において、熱移動補助部材42は、回転体に接触するニップ形成部43などの接触部と、回転体に接触しないニップ非形成部44a,44bなどの非接触部とを備え、非接触部は、回転体の軸方向において、所定サイズの記録媒体の通紙領域内に開口部45を有し、開口部45の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置するように開口部45を構成し、非接触部と接触部との接続部の非通紙領域から開口部45を迂回して接続部の通紙領域に到るまでの経路のうち最も短い最短経路を熱が移動する時間が、所定サイズの記録媒体が、定着ニップを通過する時間Tよりも短くする。
これによれば、評価試験2で説明したように、開口部の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置することで、開口部を迂回した非通紙領域の熱を、通紙領域の温度が高い端部付近から離れた位置へ移動させることができ、通紙領域の端部温度の上昇を抑制できることが確認された(表2の実験例8、
図11参照)。
しかし、評価試験3で説明したように、開口部の面積を変更して評価試験を行ったところ、開口部の軸方向内側端部を、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置させた構成でも、通紙領域の端部温度の上昇を抑制できないおそれがあることがわかった(表4の実験例12、13、
図13参照)。これについて鋭意研究した結果、接続部の非通紙領域から開口部を迂回して接続部の通紙領域に到るまでの経路のうち最も短い最短経路の熱の移動時間が、記録媒体が定着ニップを通過する時間よりも長い場合に、開口部の軸方向内側端部を通紙領域の端部から2mm以上内側に位置させた構成でも通紙領域の端部温度の上昇を抑制できないおそれがあることがわかった(表5参照)。
以上のことから、
1.開口部の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から2mm以上内側に位置するように開口部を構成する。
2.接続部の非通紙領域から開口部を迂回して接続部の通紙領域に到るまでの経路のうち最も短い最短経路を熱が移動する時間を、所定サイズの記録媒体が定着ニップを通過する時間よりも短くする。
という1~2の条件を満たすことで、通紙領域端部の温度上昇を良好に抑制でき、端部ホットオフセットを良好に抑制できる。
【0110】
(態様2)
態様1において、熱移動補助部材42の密度をρ、熱移動補助部材42の体積熱容量をCp、最短経路をL、熱移動補助部材42の熱伝導率をλとしたとき、最短経路を熱が移動する時間τは、
τ=ρCPL2/λ
である。
これによれば、熱移動補助部材42の密度ρ、熱移動補助部材42の体積熱容量Cp、最短経路L、熱移動補助部材42の熱伝導率λから最短経路を熱が移動する時間τを算出することができる。
【0111】
(態様3)
態様1または2において、開口部45の軸方向外側端部から通紙領域の端部までの距離Xが4mm未満であり、開口部の接続部側端部から接続部までの距離(Y方向の位置)が、4mm未満である。
これによれば、評価試験1、2で説明したように、開口部による通紙領域端部の温度上昇抑制効果を得ることができる。
【0112】
(態様4)
態様1乃至3いずれかにおいて、開口部45の軸方向内側端部が、通紙領域の端部から4mm以上内側に位置するように開口部45を構成した。
これによれば、評価試験2で説明したように、開口部45を迂回した熱を通紙領域の内側へ移動させることができ、通紙領域端部の温度上昇を抑制することができ、通紙領域の中央と端部との温度偏差Δを低減することができ、CPMを高めて生産性を向上させても、端部ホットオフセットの発生が抑制される。
【0113】
(態様5)
態様1乃至4いずれかにおいて、開口部45は、軸方向に長い長方形状や、軸方向に延びる長孔形状など、軸方向に長い形状である。
これによれば、表7を用いて説明したように、最短経路を熱が移動する時間τが所定サイズの記録媒体が定着ニップを通過する時間Tよりも短い(τ<T)という条件を満たしたうえで、開口部45が正方形などの軸方向に長くない構成に比べて、開口部45を迂回した熱をより通紙領域の内側へ移動させることができる。これにより、開口部45が正方形などの軸方向に長くない構成に比べて、通紙領域の中央と端部との温度偏差Δを低減することができ、CPMを高めて生産性を向上させても、端部ホットオフセットの発生が抑制される。
【0114】
(態様6)
態様1乃至5いずれかにおいて、開口部45が、記録媒体のサイズに対応して複数設けられている。
これによれば、実施形態で説明したように、複数の記録媒体について、通紙領域端部の温度上昇を抑制でき、端部ホットオフセットの発生を抑制できる。
【0115】
(態様7)
態様1乃至6いずれかにおいて、開口部45の接続部側端部から接続部までの距離(Y方向の位置)が、2mm以下である。
これによれば、評価試験1で説明したように、非通紙領域の熱が開口部45を迂回する経路を取りやすくなくなり、非通紙領域の熱が通紙領域の端部付近へ移動するのを抑制できる。これにより、通紙領域端部の温度上昇を抑制でき、端部ホットオフセットの発生を抑制でき、生産性を高めることができる。
【0116】
(態様8)
態様1乃至7いずれかにおいて、熱移動補助部材42のニップ形成部43などの接触部は、定着ベルト21などの回転体を介して接触部材に当接して、接触部材との間で定着ニップを形成しており、ニップ非形成部44bなどの非接触部は、熱移動補助部材42の接触部の回転体の回転方向下流側の端部から加圧ローラ22などの接触部材から離間する方向に延伸している。
【0117】
(態様9)
記録媒体に画像を形成する画像形成部と、記録媒体に形成された画像を記録媒体に定着させる定着装置とを備えた画像形成装置において、定着装置として、態様1乃至8いずれかの定着装置を用いた。
これによれば、端部ホットオフセットの発生を抑えて、生産性を高めることができる。
【符号の説明】
【0118】
20 :定着装置
21 :定着ベルト
22 :加圧ローラ
23 :ヒータ
23A :中央ヒータ
23B :端部ヒータ
25 :支持部材
28A :中央部温度検知センサ
28B :端部温度検知センサ
42 :熱移動補助部材
43 :ニップ形成部
44a :第一ニップ非形成部
44b :第二ニップ非形成部
45 :開口部
100 :画像形成装置
C :熱容量
Cp :体積熱容量
G :画像パターン
L :熱経路
R :熱抵抗
S :用紙
T :通紙時間
Tmax :非通紙領域の最大温度
Δ :通紙領域の中央と端部との温度偏差
λ :熱伝導率
ρ :密度
τ :時定数
【先行技術文献】
【特許文献】
【0119】