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  • 特開-ジアザポルフィリン化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003016
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】ジアザポルフィリン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20221228BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20221228BHJP
   C09B 47/00 20060101ALI20221228BHJP
   C09B 67/44 20060101ALI20221228BHJP
   H01M 8/18 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
C07D487/22 CSP
H01M10/36 A
C09B47/00
C09B67/44 A
H01M8/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103924
(22)【出願日】2021-06-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開日:令和3年3月4日、日本化学会第101春季年会予稿集(web) https://confit.atlas.jp/guide/event/csj101st/subject/A14-4am-07/advanced 公開日:令和3年3月22日、日本化学会第101春季年会講演(web) https://confit.atlas.jp/guide/event/csj101st/top
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 光紀
(72)【発明者】
【氏名】大泉 淳一
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
(72)【発明者】
【氏名】俣野 善博
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐希
【テーマコード(参考)】
4C050
5H029
5H126
【Fターム(参考)】
4C050PA11
5H029AJ02
5H029AM00
5H029HJ02
5H126BB10
(57)【要約】
【課題】高い水溶性を有するジアザポルフィリン化合物を提供する。
【解決手段】親水基を有するジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体であり、かつ、25℃の1M NaCl水溶液に対するモル溶解度が1mM以上200mM以下である、ジアザポルフィリン化合物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水基を有するジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体であり、かつ、25℃の1M NaCl水溶液に対するモル溶解度が1mM以上200mM以下である、ジアザポルフィリン化合物。
【請求項2】
前記親水基を有するジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体が、下記一般式(A1)、(B1)、(C1)、(A2)、(B2)、又は(C2)で表される化合物である、請求項1に記載のジアザポルフィリン化合物。
【化1】

(式中、
~X及びR~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を表し、これらのうち、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、
~X及びR~Rの少なくとも1つは、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、ア
ミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アミノカルボニル基、又はこれらから選択される1以上の基を置換基若しくは置換基の一部として有するアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、若しくはヘテロアリール基であり;
Mは、無置換の2価金属、置換若しくは無置換の3価金属、置換若しくは無置換の4価金属、又はオキシ金属を表し;
n-は、n価のアニオンを表し;
nは、1又は2である。)
【請求項3】
前記一般式(A)中、R~Rの少なくとも1つが、ヒドロキシ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、又はこれらから選択される1以上の基を置換基若しくは置換基の一部として有するアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、若しくはヘテロアリール基である、請求項2に記載のジアザポルフィリン化合物。
【請求項4】
保護されていてもよい親水基を有するジピリン化合物と2価金属の塩との反応により前記金属に前記ジピリン化合物が二分子配位したジピリン-金属錯体を形成し、前記ジピリン-金属錯体における前記ジピリン化合物同士を反応させることによりジアザポルフィリン構造を形成する鋳型環化反応工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のジアザポルフィリン化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のジアザポルフィリン化合物が溶解した水溶液である、ジアザポルフィリン化合物水溶液。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のジアザポルフィリン化合物を含む、二次電池。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のジアザポルフィリン化合物を含む、染料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアザポルフィリン化合物に関する。また、前記ジアザポルフィリン化合物の製造方法、並びに当該ジアザポルフィリン化合物を含む二次電池及び染料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアザポルフィリン化合物は、π共役系に起因して酸化還元活性、電気化学的特性、光化学的特性等を示す化合物であり、半導体材料、光記録媒体、電荷輸送材料、染料等として使用し得る化合物として注目されている。
例えば、非特許文献1には、ジアザポルフィリン誘導体の銅錯体及びパラジウム錯体が、光増感剤として作用する色素であることが記載されている。
また、非特許文献2には、ジアザポルフィリン誘導体のニッケル錯体及び銅錯体が、可逆的な酸化還元反応を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ChemPlusChem, 2019, 84, 740-745
【非特許文献2】Asian J. Org. Chem. 2019, 8, 352-355
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまでに知られているジアザポルフィリン化合物は、水溶性に乏しく、非常に低い濃度でしか水に溶解しないため、水溶液として使用する用途には不向きであるという問題がある。
そこで、本発明は、高い水溶性を有するジアザポルフィリン化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定構造のジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体が高い水溶性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
【0006】
[1]
親水基を有するジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体であり、かつ、25℃の1M NaCl水溶液に対するモル溶解度が1mM以上200mM以下である、ジアザポルフィリン化合物。
[2]
前記親水基を有するジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体が、下記一般式(A1)、(B1)、(C1)、(A2)、(B2)、又は(C2)で表される化合物である、[1]に記載のジアザポルフィリン化合物。
【化1】

(式中、
~X及びR~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を表し、これらのうち、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、
~X及びR~Rの少なくとも1つは、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アミノカルボニル基、又はこれらから選択される1以上の基を置換基若しくは置換基の一部として有するアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、若しくはヘテロアリール基であり;
Mは、無置換の2価金属、置換若しくは無置換の3価金属、置換若しくは無置換の4価金属、又はオキシ金属を表し;
n-は、n価のアニオンを表し;
nは、1又は2である。)
[3]
前記一般式(A)中、R~Rの少なくとも1つが、ヒドロキシ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、又はこれらから選択される1以上の基を置換基若しくは置換基の一部として有するアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、若しくはヘテロアリール基である、[2]に記載のジアザポルフィリン化合物。
[4]
保護されていてもよい親水基を有するジピリン化合物と2価金属の塩との反応により前記金属に前記ジピリン化合物が二分子配位したジピリン-金属錯体を形成し、前記ジピリン-金属錯体における前記ジピリン化合物同士を反応させることによりジアザポルフィリン構造を形成する鋳型環化反応工程を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のジアザポルフィリン化合物の製造方法。
[5]
[1]~[3]のいずれかに記載のジアザポルフィリン化合物が溶解した水溶液である、ジアザポルフィリン化合物水溶液。
[6]
[1]~[3]のいずれかに記載のジアザポルフィリン化合物を含む、二次電池。
[7]
[1]~[3]のいずれかに記載のジアザポルフィリン化合物を含む、染料組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い水溶性を有するジアザポルフィリン化合物を提供することができる。また、好適には、可逆的な酸化還元反応を示し、酸化還元反応を繰り返しても酸化還元電位の変動が小さいジアザポルフィリン化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例で製造したジアザポルフィリン錯体4’のサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0010】
<1.ジアザポルフィリン化合物>
本発明の第1の実施形態に係るジアザポルフィリン化合物は、親水基を有するジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体であり、かつ、25℃の1M NaCl水溶液に対するモル溶解度が通常1mM以上200mM以下の化合物である。
【0011】
本明細書において、「ジアザポルフィリン誘導体」とは、ジアザポルフィリン環上に任意の官能基を有する化合物を意味する。
また、本明細書において、「親水基」とは、静電的相互作用、水素結合等によって水分子と弱い結合を作り、水に対して親和性を示すイオン性又は高い極性を有する官能基を意味する。親水基としては、例えばニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボ
ン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アミノカルボニル基等が挙げられる。
【0012】
上記親水基を有するジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体は、好ましくは下記一般式(A1)、(B1)、(C1)、(A2)、(B2)、又は(C2)で表される。一般式(A1)及び(A2)で表されるジアザポルフィリン化合物は、20π電子系のジアザポルフィリン化合物であり、一般式(B1)及び(B2)で表されるジアザポルフィリン化合物は、19π電子系のジアザポルフィリン化合物であり、一般式(C1)及び(C2)で表されるジアザポルフィリン化合物は、18π電子系のジアザポルフィリン化合物である(以下、一般式(A1)及び(A2)で表されるジアザポルフィリン化合物を「20π型化学種」、(B1)及び(B2)で表されるジアザポルフィリン化合物を「19π型化学種」、(C1)及び(C2)で表されるジアザポルフィリン化合物を「18π型化学種」と称することがある。)。
【0013】
【化2】
【0014】
(X~X及びR~R
上記一般式中、X~X及びR~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を表す。これらのうち、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキ
シ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基は、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。
ただし、X~X及びR~Rの少なくとも1つは、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アミノカルボニル基、又はこれらから選択される1以上の基を置換基若しくは置換基の一部として有するアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、若しくはヘテロアリール基である。
【0015】
~X及びR~Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0016】
~X及びR~Rで表されるカルボン酸塩基及びスルホン酸塩基は、それぞれ、カルボン酸基及びスルホン酸基が塩を形成した態様である。塩としては、特に限定されず、具体的にはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩;カルシウム、ベリリウム等のアルカリ土類金属の塩;テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等の第4級アンモニウムの塩;等が挙げられ、好ましくはアルカリ金属の塩である。
【0017】
~X及びR~Rで表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のアルキル基であってよい。アルキル基の炭素数は、特に制限されず、通常1以上、好ましくは2以上、また、通常15以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。具体的なアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
【0018】
~X及びR~Rで表されるアラルキル基の炭素数は、特に制限されず、通常7以上、好ましくは8以上、また、通常15以下、好ましくは13以下、より好ましくは11以下である。具体的なアラルキル基としては、例えばベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルイソプロピル基、2-フェニルイソプロピル基、フェニル-tert-ブチル基、α-ナフチルメチル基、1-α-ナフチルエチル基、2-α-ナフチルエチル基、1-α-ナフチルイソプロピル基、2-α-ナフチルイソプロピル基、β-ナフチルメチル基、1-β-ナフチルエチル基、2-β-ナフチルエチル基、1-β-ナフチルイソプロピル基、2-β-ナフチルイソプロピル基等が挙げられる。
【0019】
~X及びR~Rで表されるアリール基の炭素数は、特に制限されず、通常6以上、好ましくは8以上、また、通常25以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下である。具体的なアリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基である。
【0020】
~X及びR~Rで表されるアルケニル基は、直鎖アルケニル基であってもよ
く、分岐又は環状構造を含むアルケニル基であってよい。アルケニル基の炭素数は、特に制限されず、通常2以上、好ましくは3以上、また、通常12以下、好ましくは10以下、より好ましくは6以下である。具体的なアルケニル基としては、例えばビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-メチル-1-ブテニル基、1-シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0021】
~X及びR~Rで表されるアルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、及びアリールオキシカルボニル基中のアルキル部位、アラルキル部位、アリール部位及びアルケニル部位としては、X~X及びR~Rで表されるアルキル基、アラルキル基、アリール基及びアルケニル基の説明において示した基を採用することができ、好ましい態様も同様である。
【0022】
~X及びR~Rで表されるアシル基は、-CORで表される基である。Rは、水素原子、並びにX~X及びR~Rの説明において示したアルキル基、アラルキル基、アリール基及びアルケニル基と同様の基を表す。具体的なアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、n-ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、n-ヘキサノイル基、アクリロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基、α-ナフトイル基、β-ナフトイル基等が挙げられる。
【0023】
~X及びR~Rで表されるアシルオキシ基は、-OCORで表される基である。Rとしては、Rの説明において示した基を採用することができる。
【0024】
~X及びR~Rで表されるヘテロアリール基が有するヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数は、特に制限されず、通常2以上、好ましくは3以上、また、通常18以下、好ましくは16以下、より好ましくは8以下である。ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアゾリル基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基等が挙げられる。
【0025】
なお、X~X及びR~Rで表される各官能基の説明において示した炭素数は、当該官能基が置換基を有する場合には置換基の炭素数を含む数である。
【0026】
アミノ基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基の置換基としては、特に制限されず、ジアザポルフィリン化合物の用途、所望の特性等に応じて適宜選択することができる。例えばジアザポルフィリン化合物を二次電池の水系電解液中の成分として使用する場合は、ジアザポルフィリン化合物の酸化反応及び/又は還元反応を阻害しない基を選択することができる。
【0027】
このような置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニ
ル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基等の炭素数2~6のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の炭素数2~6のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジ(4-カルボキシルフェニル)アミノ基、ジ(α-ナフチル)アミノ基、ジ(β-ナフチル)アミノ基等の炭素数12~20のジアリールアミノ基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシ基;アミノ基;カルボン酸基;カルボン酸塩基;スルホン酸基;スルホン酸塩基;アミノカルボニル基;等が挙げられる。これらのうち、置換基は、ジアザポルフィリン化合物の水溶性向上の観点から、好ましくは親水基であるニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、又はアミノカルボニル基;より好ましくはカルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、又はスルホン酸塩基;さらに好ましくはカルボン酸基又はカルボン酸塩基である。なお、置換基であるカルボン酸塩基及びスルホン酸塩基は、X~X及びR~Rで表されるカルボン酸塩基及びスルホン酸塩基と同様に定義される。
【0028】
以下、X~X及びR~Rの好適な態様について説明する。
~Xは、水素原子であることが好ましい。
~Rは、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アミノカルボニル基、又はこれらから選択される1以上の基を置換基若しくは置換基の一部として有するアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、若しくはヘテロアリール基であることが好ましく;ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、及びアミノカルボニル基から選択される1以上の基を置換基又は置換基の一部として有するアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基であることがより好ましく;ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、及びアミノカルボニル基から選択される1以上の基を置換基又は置換基の一部として有するアリール基であることがさらに好ましく;ヒドロキシ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、及びスルホン酸塩基から選択される1以上の基を置換基又は置換基の一部として有するアリール基であることが特に好ましく;カルボン酸基及びカルボン酸塩基から選択される1以上の基を置換基又は置換基の一部として有するフェニル基であることが最も好ましい。また、ジアザポルフィリン化合物の水溶性向上の観点から、R~Rの少なくとも1つが上記基であることが好ましく、R~Rのうち少なくともR及びRが上記基であることがより好ましく、R~R全てが上記基であることがさらに好ましい。
【0029】
一般式(A1)、(B1)、(C1)、(A2)、(B2)、又は(C2)で表されるジアザポルフィリン化合物を後述する鋳型環化反応工程を含む製造方法により製造する場合は、合成容易性の観点から、対称構造を有することが好ましい。すなわち、X及びX、X及びX、X及びX、X及びX、R及びR、並びにR及びRの2つの基の組み合わせにおいて、当該2つの基は、互いに同一であることが好ましい。
とX、XとX、XとX、及びXとXとが、互いに結合して環を形成しない態様も好ましい。
【0030】
(M)
Mは、無置換の2価金属、置換若しくは無置換の3価金属、置換若しくは無置換の4価金属、又はオキシ金属を表し、無置換の2価金属であることが好ましい。
なお、本明細書において、「金属」は、B、Si、Ge、Sn、As、Sb、Bi、T
e、Po、At等の半金属を含む概念であるものとする。
【0031】
無置換の2価金属としては、特に制限されず、例えばCu(II)、Zn(II)、Fe(II)、Co(II)、Ni(II)、Ru(II)、Rh(II)、Pd(II)、Pt(II)、Mn(II)、Mg(II)、Ti(II)、Be(II)、Ca(II)、Ba(II)、Cd(II)、Hg(II)、Pb(II)、Sn(II)等が挙げられる。これらのうち、無置換の2価金属は、ジアザポルフィリン化合物の安定性の観点から、Cu(II)であることが好ましい。
【0032】
置換若しくは無置換の3価金属としては、特に制限されず、例えばAl-Cl、Al-Br、Al-F、Al-I、Ga-Cl、Ga-F、Ga-I、Ga-Br、In-Cl、In-Br、In-I、In-F、Tl-Cl、Tl-Br、Tl-I、Tl-F、Al-C、Al-C(CH)、In-C、In-C(CH)、In-C、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn〔OSi(CH〕、Fe-Cl、Ru-Cl等の1置換の3価金属;Al(III)、Ga(III)、In(III)、Tl(III)、Mn(III)、Fe(III)、Ru(III)等の無置換の3価金属;等が挙げられる。
【0033】
置換若しくは無置換の4価金属としては、特に制限されず、例えばCrCl、SiCl、SiBr、SiF、SiI、ZrCl、GeCl、GeBr、GeI、GeF、SnCl、SnBr、SnF、TiCl、TiBr、TiF、Si(OH)、Ge(OH)、Zr(OH)、Mn(OH)、Sn(OH)、TiR、CrR、SiR、SnR、GeR(Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、及びその誘導体を表す。)、Si(OR’)、Sn(OR’)、Ge(OR’)、Ti(OR’)、Cr(OR’)(R’は、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基、及びその誘導体を表す。)、Sn(SR”)、Ge(SR”)(R”は、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、及びその誘導体を表す。)等の2置換の4価金属;Cr(IV)、Si(IV)、Zr(IV)、Ge(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)等の無置換の4価金属;等が挙げられる。
【0034】
オキシ金属としては、特に制限されず、例えばVO、MnO、TiO等が挙げられる。
【0035】
(n)
nは、Zn-のイオン価の絶対値であり、1又は2であり、好ましくは1である。
【0036】
(Zn-
n-で表されるn価のアニオンとしては、特に限定されず、例えばPF 、ClO 、BF 、AsF 、SbF 、CFSO 、(CFSO、Br、Cl、I、SO 2-等が挙げられる。Zn-は、1価のアニオン(n=1)であることが好ましく、具体的にはPF であることが好ましい。なお、一般式(B1)、(C1)、(B2)、又は(C2)で表されるジアザポルフィリン化合物が複数のZn-を含む場合、当該複数のZn-は、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
【0037】
一般式(A1)、(B1)、(C1)、(A2)、(B2)、又は(C2)で表されるジアザポルフィリン誘導体又はその金属錯体としては、以下の化合物、及びこれらの化合物のカルボン酸基がアルカリ金属塩に変換された化合物が好ましく例示される。
【0038】
【化3】
【0039】
本実施形態に係るジアザポルフィリン化合物の25℃の1M NaCl水溶液モル溶解度は、通常1mM以上、好ましくは2mM以上、より好ましくは4mM以上、また、通常200mM以下であり、150mM以下、100mM以下、50mM以下、20mM以下、又は10mM以下であってもよい。本実施形態に係るジアザポルフィリン化合物は、このように高い水溶性を示すため、二次電池用の水系電解液;水浴による染色に使用される染料組成物;等に好適に使用することができる。
【0040】
ジアザポルフィリン化合物の25℃の1M NaCl水溶液に対するモル溶解度は、以下の方法により決定する。まず、完全に溶解した場合に特定のモル濃度となる量のジアザポルフィリン化合物を、25℃の温度条件下で1M NaCl水溶液と混合し、不溶物の
有無を目視観察する。そして、ジアザポルフィリン化合物が完全に溶解する、すなわち不溶物が観察されないモル濃度の上限を25℃の1M NaCl水溶液に対するモル溶解度
とする。
【0041】
<2.ジアザポルフィリン化合物の製造方法>
本実施形態に係るジアザポルフィリン化合物は、鋳型環化反応工程を含む方法により製造することができる。鋳型環化反応工程とは、保護されていてもよい親水基を有するジピリン化合物と2価金属の塩との反応により金属にジピリン化合物が二分子配位した四面体型のジピリン-金属錯体を中間体として形成し、当該ジピリン-金属錯体におけるジピリン化合物同士を反応させることによりジアザポルフィリン構造を形成する工程である。鋳型環化反応工程を採用することにより、少ない工程数で簡便にジアザポルフィリン構造を形成することができる。
以下、上記一般式で表されるジアザポルフィリン化合物の製造スキームを用いて、鋳型環化反応工程を含む製造方法をより詳細に説明する。
【0042】
一般式(A1)、(B1)、及び(C1)で表される化合物のうち、Mが無置換の2価金属であるジアザポルフィリン化合物は、下記スキームにより製造される。なお、下記スキームにおいて、一般式(D)、(D’)、及び(E)中のX~X及びR~Rは、一般式(A1)、(B1)、及び(C1)中のX~X及びR~Rと同様に定義
される。一般式(D)又は(D’)で表されるジピリン化合物は、公知の製造方法、例えばAngew. Chem.Int. Ed. 2016, 55, 2235-2238、J. Phys. Chem. C 2014, 118, 4, 1808-1820等に記載の方法に準じて容易に製造することができるものである。
【0043】
【化4】
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
【化7】
【0047】
鋳型環化反応工程では、一般式(D)で表されるジピリン化合物、一般式(D’)で表されるジピリン化合物及び2価金属の塩の反応により一般式(E)で表される四面体型のジピリン-金属錯体が中間体として形成され、さらにジピリン化合物同士を金属に配位した状態のまま反応させて分子内環化を行うことによりジアザポルフィリン構造が形成される(Scheme1)。
【0048】
一般式(D)及び一般式(D’)が、各工程における反応を阻害する官能基、望まない副反応を引き起こす官能基等を有する場合、当該官能基を公知の保護基により保護したものを鋳型環化反応工程に用い、その後不要になった段階で脱保護することが望ましい。
また、一般式(D)で表されるジピリン化合物と一般式(D’)で表されるジピリン化合物とは、同一の化合物であってもよく、異なる化合物であってもよいが、製造コスト、精製容易性等の観点から、同一の化合物であることが好ましい。
【0049】
鋳型環化反応工程は、ワンポットで行うことができる。鋳型環化反応をワンポットで行う場合、反応温度及び反応時間は、原料の反応性等に応じて適宜選択すればよく、例えば反応温度は10~150℃程度、反応時間は1~100時間程度である。鋳型環化反応工程後に単離されるジアザポルフィリン構造は、通常、19π電子系のジアザポルフィリン構造及び/又は18π電子系のジアザポルフィリン構造である。
【0050】
ジピリン-金属錯体の形成に用いる2価金属の塩は、特に限定されず、例えば目的のジアザポルフィリン化合物の中心金属である2価の金属原子に応じて選択すればよい。具体的な2価金属の塩としては、酢酸銅(II)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、酢酸亜鉛(II)、塩化亜鉛(II)、硝酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛(II)、酢酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)等が挙げられる。中心金属として銅を有するジアザポルフィリン錯体を製造する場合には、2価金属の塩として酢酸銅(II)を用いることが好ましい。ジピリン-金属錯体の形成は、通常、ジピリン化合物及び2価金属の塩を溶解し得る溶媒中で行われる。このような溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素とメタノール、エタノール、アセトニトリル等の極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。
【0051】
分子内環化は、DMF、DMSO、トルエン等の有機溶媒中、炭酸カリウム、炭酸セシウム、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド等の塩基の存在下で行うことができる。分子内環化を進行させるために、これらの塩基を反応系に添加してもよく、塩基を反応系に添加することなく分子内環化が進行する場合は、意図的にこれらの塩基を反応系に添加しなくてもよい。後者の場合としては、ジピリン-金属錯体の形成に用いた2価金属の塩に由来するアニオン(例えば、酢酸イオン)が塩基として働いて分子内環化が進行するようなケースが考えられ、この場合、ジピリン-金属錯体を形成するための反応条件のまま分子内環化まで進行させることができる。また、後者の場合、反応溶媒としてジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;等を使用してもよい。
【0052】
鋳型環化反応工程の後、鋳型環化反応工程の生成物中のアニオンを目的のアニオン(Zn-)に交換するアニオン交換工程を行うことで、一般式(B1)で表される19π型化学種、一般式(C1)で表される18π型化学種、又はそれらの混合物を得ることができる(Scheme1)。アニオン交換の際の反応条件は、鋳型環化反応工程の生成物の反応性等に応じて適宜選択すればよい。例えば、アニオン交換工程は、目的アニオン(Zn-)を含む化合物の存在下、反応温度10~150℃程度、反応時間1~100時間程度の反応条件で行うことができる。目的アニオン(Zn-)を含む化合物としては、特に制限されず、Zn-とアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン等の金属カチオンとの塩を使用することができ、具体的にはKPFを好ましく使用し得る。
なお、上記スキームでは、鋳型環化反応工程に引き続いてアニオン交換工程を行っているが、アニオン交換工程は、後述する一電子酸化工程又は一電子還元工程の後に行ってもよい。
【0053】
アニオン交換工程の生成物が、一般式(B1)で表される19π型化学種及び一般式(C1)で表される18π型化学種の混合物である場合、当該混合物中の19π型化学種を、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、トリ(ブロモフェニル)アンモニウムヘキサクロロアンチモネート等の酸化剤を用いて酸化する一電子酸化工程を経ることにより、一般式(C1)で表される18π型化学種を製造することができる(Scheme2)。
また、上記混合物中の18π型化学種を、コバルトセン、デカメチルコバルトセン等の還元剤を用いて還元する一電子還元工程を行うことにより、一般式(B1)で表される19π型化学種を製造することができる(Scheme2)。
【0054】
一般式(A1)で表される20π型化学種は、18π型化学種を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元する還元工程により得ることができる(Scheme3)。
さらに、18π型化学種にコバルトセン、デカメチルコバルトセン等の一電子還元剤を2当量反応させる還元工程(Scheme3)、或いは19π型化学種に同様の一電子還元剤を1当量反応させる還元工程(Scheme4)によっても、一般式(A1)で表さ
れる20π型化学種を得ることができる。
【0055】
反対に、一般式(A1)で表される20π型化学種にヘキサフルオロリン酸銀(I)、トリ(ブロモフェニル)アンモニウムヘキサクロロアンチモネート等の酸化剤を2当量反応させる酸化工程により、一般式(B1)で表される18π型化学種を得ることができる(Scheme3)。
また、一般式(A1)で表される20π型化学種に同様の酸化剤を1当量反応させる酸化工程により、一般式(B1)で表される19π型化学種を得ることもできる(Scheme4)。
【0056】
一般式(A1)、(B1)、又は(C1)で表される化合物のうち、Mが置換若しくは無置換の3価金属、置換若しくは無置換の4価金属、又はオキシ金属であるジアザポルフィリン化合物は、それぞれ、後述する方法により製造される一般式(A2)、(B2)、又は(C2)で表されるジアザポルフィリン化合物と金属化合物とを反応させる錯体形成工程を行うことにより製造することができる。
錯体形成工程で用いる金属化合物は、目的とするジアザポルフィリン化合物の中心金属を含有する化合物であり、例えば塩化鉄(III)、塩化アルミニウム(III)、塩化チタン(III)、塩化バナジウム(III)、オキシ三塩化バナジウム、酢酸マンガン(III)、塩化インジウム(III)、塩化ルテニウム(III)、塩化チタン(IV)、塩化錫(IV)、4塩化ケイ素、オキシ三塩化バナジウム等が挙げられる。また、ジアザポルフィリン化合物と金属化合物との反応は、公知の方法、例えばInorg. Chem. 2012, 51, 23, 12879-12890等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0057】
一般式(A2)、(B2)、及び(C2)で表されるジアザポルフィリン化合物は、それぞれ、一般式(A1)、(B1)、及び(C1)で表されるジアザポルフィリン化合物の中心金属を除去する中心金属除去工程を行うことにより製造することができる。
中心金属の除去は、公知の方法、例えばChem. Eur. J. 2017, 23, 16364-16373等に記
載の方法に準じて行うことができる。
【0058】
一般式(A2)、(B2)、又は(C2)で表されるジアザポルフィリン化合物は、Scheme1の鋳型環化反応工程後、アニオン交換工程前に中心金属を除去する中心金属除去工程を行い、その後、Scheme2~4と同様にして所望の化学種に変換することによって製造することもできる。このときの中心金属除去工程は、一般式(A1)、(B1)、又は(C1)で表されるジアザポルフィリン化合物から中心金属を除去する中心金属除去工程と同様の方法により行うことができる。
【0059】
上記スキームにより得られるジアザポルフィリン化合物は、必要に応じて精製を行ってもよい。精製方法としては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、再沈殿、洗浄、乾燥等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。
【0060】
<3.ジアザポルフィリン化合物の用途>
本実施形態に係るジアザポルフィリン化合物は、水溶性が高いため、当該ジアザポルフィリン化合物が溶解したジアザポルフィリン化合物水溶液の態様で用いることができる。具体的な用途としては、例えば二次電池用の水系電解液の用途が挙げられる。
【0061】
また、本実施形態に係るジアザポルフィリン化合物は、好適には可逆的な酸化還元反応を示す化合物であり、より好適には酸化還元反応を繰り返しても酸化還元電位の変動が小さいものである。したがって、レドックスフロー電池等の二次電池用の材料として有用である。可逆的な酸化還元反応の進行の可否、及び酸化還元反応を繰り返した場合の酸化還元電位の変動は、サイクリックボルタンメトリー測定により評価することができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係るジアザポルフィリン化合物は、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物等と同様に共役系であるため、染料成分として使用することができる。本実施形態に係るジアザポルフィリン化合物は高い水溶性を示すため、当該ジアザポルフィリン化合物を染料成分として含有する染料組成物は、水浴による染色が可能である点で利用価値が高い。
【実施例0063】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
なお、実施例中、「室温」とは、20~35℃の温度範囲を意味する。
【0064】
<比較例1>
【化8】
【0065】
(中間体2の合成)
J. Phys. Chem. C 2014, 118, 4, 1808-1820の記載に従い合成された1,9-ジブロモ-5-(4-メトキシカルボニルフェニル)ジピロメテン(418mg,0.958mmol)、4-アミノ安息香酸エチル(398mg,2.41mmol)、アセトニトリル(19mL)、及びジクロロメタン(8mL)の混合物を3時間還流した。反応混合物に水を加え、有機相を分離した後、水相中の生成物をCHClで抽出した。得られた抽出液を先に分離した有機相と合わせ、3M HCl水溶液とNaHCO水溶液で順次洗
浄した。その後、NaSOによる乾燥、濃縮、及びシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt=5/3;R=0.37)を順次行い、中間体2を濃茶色の固体として得た(505mg,収率100%)。
【0066】
(ジアザポルフィリン錯体3の合成)
中間体2(368mg,0.764mmol)、Cu(OAc)・HO(141mg,0.708mmol)、ジクロロメタン(25mL)、及びメタノール(25mL)の混合物を室温で3時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、得られた残渣をジクロロメタンに溶かした。この溶液にKPF水溶液を加えた混合液を激しく撹拌することでアニオン交換を行った。反応液から有機相を分離し、有機相をNaSOで乾燥し、濃縮した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール=50/1→20/1;R=0.50)を行い、緑黄色のフラクションを集めて濃縮した。濃縮物を再沈殿(ジクロロメタン/ヘキサン)により精製し、19π電子系のジアザポルフィリン錯体3を暗緑黄色の固体として得た(345mg,収率90%)。
【0067】
<実施例1>
【化9】
【0068】
ジアザポルフィリン錯体3(205mg,0.189mmol)、2M NaOH水溶
液(56mL)、及びエタノール(146mL)の混合物を室温で84時間撹拌した。反応混合物から生成物を酢酸エチル/メタノール混合溶媒で抽出し、抽出液のpHが2になるまでHCl水溶液を徐々に加えた。得られた溶液にメタノールを少量加えた後、生成物を酢酸エチルで抽出し、抽出液をNaSOで乾燥し、濃縮した。得られた濃縮物を酢酸エチル/メタノール混合溶媒に溶解し、KPF水溶液と混合した後、室温で激しく撹拌することでアニオン交換を行った。反応液から有機相を分離し、NaSOによる乾燥、濃縮、再沈殿(ジクロロメタン/ヘキサン)による精製を順次行い、19π電子系のジアザポルフィリン錯体4を暗茶色の固体として得た(150mg,収率79%)。
【0069】
ジアザポルフィリン錯体4の分析結果は、以下の通りである。
沸点:>300℃
HRMS(ESI): m/z calcd for C46H28CuN6O8 855.1259 [M PF6]+; found: 855.1243.
IRスペクトル(ATR):3350-2440cm-1(O-H), 1700cm-1(C=O), 830cm-1(P-F).
紫外可視吸収スペクトル(MeOH):λmax = 331nm, 385nm, 442nm, 872nm.
【0070】
[ジアザポルフィリン錯体水溶液の調製]
濃度1mMとなる量のジアザポルフィリン錯体3を1M NaCl水溶液に加えたとこ
ろ、ジアザポルフィリン錯体3は完全に溶解しなかった。
一方、ジアザポルフィリン錯体4を、ジアザポルフィリン錯体の物質量に対して4等量の1M NaOH水溶液で中和した後、濃縮及び乾燥することでNa塩型のジアザポルフ
ィリン錯体4’を得た。このジアザポルフィリン錯体4’を1M NaCl水溶液に加え
たところ、濃度5mMとなる分量は完全に溶解し、濃度5mMのジアザポルフィリン錯体
水溶液が得られた。
【0071】
以上より、カルボン酸塩基を有するジアザポルフィリン錯体4’は、親水基を有しないジアザポルフィリン錯体3よりも著しく高い水溶性を示すことが確認された。
【0072】
[サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定]
ジアザポルフィリン錯体4’を1M NaCl水溶液に溶かし、測定直前に溶液をアル
ゴンガスで約5分間バブリングすることにより、サンプルを調製した。
作用極としてglassy carbon、対極としてPt wire、参照極として飽和KCl銀塩化銀参照電極を用い、HZ-Pro650(北斗電工株式会社製 電気化学
計測器)によりサンプルのCV測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを図1に示す。
【0073】
図1より、ジアザポルフィリン錯体4’の酸化還元電位は0.37V、0.26V(vs.Ag/AgCl)と算出された。また、CV測定を3回繰り返しても、サイクリックボルタモグラムの波形の変化は小さく、酸化還元電位の再現性は良好であることが確認された。すなわち、ジアザポルフィリン錯体4’は、可逆的な酸化還元反応を示す化合物であり、レドックスフロー電池等の二次電池に有効に活用し得ることがわかった。
図1