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  • 特開-土壌及び/又は地下水の浄化方法 図1
  • 特開-土壌及び/又は地下水の浄化方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030523
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】土壌及び/又は地下水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20230301BHJP
   C02F 3/00 20230101ALI20230301BHJP
【FI】
B09C1/10 ZAB
C02F3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135700
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】原口 崇
(72)【発明者】
【氏名】森 博史
【テーマコード(参考)】
4D004
4D027
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB06
4D004AC07
4D004CA18
4D004CC07
4D004CC15
4D027CA00
(57)【要約】
【課題】井戸への栄養剤水溶液の過剰注入を簡易な構成で防止することができる土壌及び/又は地下水の浄化方法を提供する。
【解決手段】注入タンク61~6n内にはボールタップ7の閉弁水位WLまで栄養剤水溶液が貯留されている。各井戸(パイプ)C1~Cnの上端は、このボールタップ閉弁水位WLよりも上位に位置している。注入タンク61~6nの下部が流量調整弁を有した注入配管8によって各井戸C1~Cnによって接続されている。これにより、注入タンク61~6n内の栄養剤水溶液は、水頭差により、所定注入流量にて常に各井戸C1~Cn内に注入される。井戸内の水位がボールタップ閉弁水位WLまで上昇すると、注入タンク内と井戸内との水頭差がなくなるので、栄養剤水溶液の注入が停止し、井戸から栄養剤水溶液が溢れ出ることがない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化対象エリアに設けた井戸に対し栄養剤水溶液を注入する土壌及び/又は地下水の浄化方法において、
井戸を地面よりも上方に突出させ、井戸の近傍に配置した注入タンクから水頭差により栄養剤水溶液を該井戸内に注入することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項2】
前記注入タンクはボールタップを備えており、栄養剤水溶液調製槽からの栄養剤水溶液を該ボールタップを介して該注入タンク内に供給するようにした土壌及び/又は地下水の浄化方法であって、
前記井戸の上端は、該注入タンク内のボールタップ閉弁水位よりも上方に位置することを特徴とする請求項1の土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項3】
複数本の井戸が設けられており、各井戸にそれぞれ前記注入タンクが配置されていることを特徴とする請求項2の土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項4】
前記井戸は、パイプを地面に打ち込むことにより設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかの土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質で汚染された土壌及び/又は地下水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害物質で汚染された土壌を浄化する方法として、微生物を利用して土壌や地下水中の有害物質を分解除去する浄化技術(バイオレメディエーション)がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、クエン酸、クエン酸塩などの栄養剤を土壌に注入する汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、栄養剤を複数の井戸から注入することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-1304号公報
【特許文献2】特開2020-99881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の注入井戸によって土壌に栄養剤溶液を注入する場合、栄養剤溶液は、1つの栄養剤溶液貯槽から各井戸へ、重力差を利用した注入、又は1つのポンプから各井戸への注入、により同時注入される。
【0007】
各井戸への注入量制御は、地質条件による変動を考慮し、配管径や注入ポンプ仕様で対応しているが、十分ではなく、過剰注入が生じることがある。
【0008】
例えば、注入を継続して行っていくと、次第に井戸の飲み込み量が低下して、地下水位が上昇し井戸から栄養剤溶液が溢れるおそれがある。
【0009】
これを防ぐために、各井戸に水位センサを設け、注入量を制御するようにしたのでは、設備コストが嵩む。
【0010】
本発明は、井戸への栄養剤水溶液の過剰注入を簡易な構成で防止することができる土壌及び/又は地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、浄化対象エリアに設けた井戸に対し栄養剤水溶液を注入する土壌及び/又は地下水の浄化方法において、井戸を地面よりも上方に突出させ、井戸の近傍に配置した注入タンクから水頭差により栄養剤水溶液を該井戸内に注入することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様では、前記注入タンクはボールタップを備えており、栄養剤水溶液調製槽からの栄養剤水溶液を該ボールタップを介して該注入タンク内に供給するようにした土壌及び/又は地下水の浄化方法であって、前記井戸の上端は、該注入タンク内のボールタップ閉弁水位よりも上方に位置する。
【0013】
本発明の一態様では、複数本の井戸が設けられており、各井戸にそれぞれ前記注入タンクが配置されている。
【0014】
本発明の一態様では、前記井戸は、パイプを地面に打ち込むことにより設けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によると、井戸への栄養剤水溶液の過剰注入を簡易な構成で防止することができる。また、井戸内部の水位に関わらず、栄養剤水溶液が井戸から溢れることなく注入タンクから自動的に注入が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明方法の一例を説明する構成図である。
図2】栄養剤水溶液の調製システムを説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、処理対象となる土壌及び/又は地下水としては、塩素化エチレン等の有機塩素化合物で汚染された土壌及び/又は地下水が例示される。塩素化エチレンとしては、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス-1,2-ジクロロエチレン(cis-DCE)、トランス-1,2-ジクロロエチレン(trans-DCE)、1,1-ジクロロエチレン(1,1-DCE)、クロロエチレンおよびこれらの脱塩素化中間体などが例示される。
【0018】
栄養剤としては、グルコース等の糖類、でんぷん、酢酸やクエン酸又はその塩、メタノール、エタノール、ペプトン、酵母エキスのほか、ポリ乳酸等の生分解性ポリマー、トリグリセリド、脂肪酸等が好適であるが、特に酢酸やクエン酸又はその塩が好適である。
【0019】
希釈水としては、工業用水、水道水などを用いることができる。
【0020】
井戸に注入されるときの栄養剤溶液の栄養剤濃度は、炭素として100~10000mg/L特に1000~3000mg/Lの範囲が良い。栄養剤濃度が低すぎると栄養剤分解微生物が栄養剤を分解する際に必要とする水素が不足し、栄養剤濃度が高すぎると栄養剤分解菌の活性を阻害してしまう。
【0021】
本発明では、栄養剤以外に、塩素化エチレン分解菌を注入し、塩素化エチレン等の有機塩素化合物の分解効率を高くしてもよい。
【0022】
塩素化エチレンの分解菌としては、塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌などが例示される。
【0023】
以下、図面を参照して本発明の一例を説明する。
【0024】
図1は、実施の形態を示すものであり、栄養剤を希釈水で希釈して複数の井戸C1~Cnに注入する構成を示している。
【0025】
浄化対象エリアの地面Gに複数本(n本)の栄養剤注入用の井戸C1~Cn(図1ではC1~C3のみ図示)が設けられている。各井戸C1~Cnは、パイプを地中に打ち込むことにより設けられている。各パイプの上端は、地面Gから所定長さ(好ましくは2~4m)上方に突出している。
【0026】
パイプの打ち込み方向先端側の側周面には多数の孔が設けられており、栄養剤水溶液が井戸C1~Cnから土壌中に流出するようになっている。各井戸C1~Cnには、栄養剤水溶液調製槽1で調製された規定濃度の栄養剤水溶液が注入タンク61~6nを介して注入される。
【0027】
栄養剤水溶液調製槽1は、架台(図示略)等によって、注入タンク61~6nや各井戸(パイプ)C1~Cnの上端よりも上位に配置されている。また、図には示していないが、架台を用いずに、該調整槽1の吐出側に定圧給水ポンプを設置し、配管4内に常時一定水圧がかるようにしても良い。
【0028】
栄養剤水溶液調製槽1に対し希釈水供給配管2及び栄養剤濃厚溶液供給配管3から規定量の希釈水と栄養剤濃厚溶液とが供給され、撹拌機1aによって撹拌されることにより規定濃度の栄養剤水溶液が調製される。
【0029】
栄養剤水溶液調製槽1内の栄養剤水溶液は、該調製槽1の下部に接続された主配管4に流出可能とされている。定圧給水ポンプを設置することにより、主配管4は、注入タンク61~6nや各井戸(パイプ)C1~Cnの上端よりも上位に配置されていなくてもよい。
【0030】
主配管4からn本の分岐配管5が分岐しており、各分岐配管5がn個の注入タンク61~6n(図1では3個のタンク61~63のみ図示)に供給される。各注入タンク61~6nはそれぞれ各井戸C1~Cnの近傍に設置されている。例えば、注入タンク61は井戸C1に隣接して設置され、注入タンク62は井戸C2に隣接して設置され、注入タンク63は井戸C3に隣接して設置されている。
【0031】
各注入タンク61~6nはボールタップ7を備えており、各分岐配管5の先端はそれぞれボールタップ7の流入口に接続されている。従って、注入タンク61~6n内にはボールタップ7の閉弁水位WLまで栄養剤水溶液が貯留されている。各井戸(パイプ)C1~Cnの上端は、このボールタップ閉弁水位WLよりも上位に位置している。
【0032】
注入タンク61~6nの下部が流量調整弁を有した注入配管8によって各井戸C1~Cnによって接続されている。これにより、注入タンク61~6n内の栄養剤水溶液は、水頭差により、所定注入流量にて常に各井戸C1~Cn内に注入される。この注入流量は、注入配管8の流量調整弁の開度を変えることにより調整可能である。
【0033】
井戸Ci(iは1~nのいずれか)内の水位が注入タンク6iのボールタップ閉弁水位WLまで上昇すると、注入タンク6i内と井戸Ci内との水頭差がなくなるので、井戸Ciへの栄養剤水溶液の注入が停止し、井戸Ci内の水位がこれ以上上昇することはないため、井戸Ciから栄養剤水溶液が溢れ出ることがない。
【0034】
このように、この実施の形態によると、各井戸に水位センサを有した注入制御装置を設けることなく、各井戸に規定流量にて栄養剤水溶液を注入することができる。また、井戸の飲み込みが悪くなり、井戸内の水位がボールタップ閉弁水位WLまで上昇すると、栄養剤水溶液がそれ以上注入されることはなく、井戸から栄養剤水溶液が溢れ出すことがない。
【0035】
栄養剤水溶液調製槽1に対して栄養剤濃厚溶液及び希釈水を供給するシステムの一例を図2に示す。
【0036】
希釈水が希釈水槽10に導入され、貯留される。この希釈水槽10内の希釈水が、ポンプ11及び配管12を介して栄養剤溶解槽14に導入可能とされている。希釈水貯槽10及び栄養剤溶解槽14にはそれぞれ水位センサLSが設けられている。
【0037】
栄養剤溶解槽14には、栄養剤供給手段13によって栄養剤が供給可能とされている。
【0038】
規定量の栄養剤及び希釈水を栄養剤溶解槽14に導入し、撹拌機14aによって撹拌することにより、栄養剤の濃厚な溶液が調製される。この濃厚栄養剤溶液は、ポンプ15及び配管16を介して栄養剤濃厚溶液貯槽17に移送され、貯留される。栄養剤濃厚溶液貯槽17には水位センサLSが設けられており、液位が下限値に達すると栄養剤濃厚溶液補給要求信号が発信され、栄養剤溶解槽14によって栄養剤濃厚溶液が調製されて栄養剤濃厚溶液貯槽17に補給される。
【0039】
栄養剤濃厚溶液貯槽17内の栄養剤濃厚溶液は、ポンプ19を有する配管(主配管)18と、該配管18から分岐したk本の分岐配管21~2k(図2では21,22,23のみ図示)とを介して複数個(k個)の栄養剤水溶液調製槽1に供給可能とされている。
【0040】
各分岐配管21~2kにはバルブV1が設けられており、バルブV1を開とすることにより規定量の栄養剤濃厚溶液が栄養剤水溶液調製槽1に導入される。
【0041】
また、前記希釈水槽10内の希釈水は、ポンプ32を有した配管(主配管)31と、分岐配管41~4k(図2では41,42,43のみ図示)とを介して各栄養剤水溶液調製槽1に供給可能とされている。各分岐配管に41~4kに設けられたバルブV2を開とすることにより規定量の希釈水が栄養剤水溶液調製槽1に導入される。
【0042】
なお、規定量の栄養剤溶液及び希釈水を栄養剤水溶液調製槽1に供給するために、栄養剤水溶液調製槽1に水位センサを設けるか、又は各配管21~2k、41~4kに流量計を設けることが好ましい。
【0043】
各栄養剤水溶液調製槽1からは、前述の通り、主配管4及び分岐配管5、ボールタップ7を介して各注入タンク61~6nに栄養剤水溶液が送水される。
【0044】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。上記実施の形態では、1個の注入タンクから1本の井戸に栄養剤水溶液が注入されるようになっているが、1個の注入タンクから複数本の井戸に栄養剤水溶液を注入するようにしてもよい。また、本発明では、ボールタップ以外の定水位給液機構を用いてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 栄養剤水溶液調製槽
7 ボールタップ
10 希釈水貯槽
14 栄養剤溶解槽
17 栄養剤濃厚溶液貯槽
61~63 注入タンク
C1~C3 井戸
図1
図2