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特開2023-30916校正用標準器及び形状測定機の校正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030916
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】校正用標準器及び形状測定機の校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
G01B11/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136336
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】森井 秀樹
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA53
2F065BB05
2F065DD04
2F065FF51
2F065FF61
2F065GG04
2F065MM06
(57)【要約】
【課題】形状測定機の校正(倍率校正)を高精度で行うことが可能な校正用標準器及び形状測定機の校正方法を提供する。
【解決手段】 校正用標準器(M1~M3)は、形状測定機(10)の校正に用いられるものであって、円筒形状の外周面を有する外周部(S1~S3)と、円筒形状の外周面から所定の削り量だけ切り欠かれたカット部(D1~D3)と、外周部からカット部までをつなぐように設けられ、校正用標準器の外側に凸の曲線状に構成された緩和曲面部(E1~E3)とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状測定機の校正に用いられる校正用標準器であって、
円筒形状の外周面を有する外周部と、
前記円筒形状の外周面から所定の削り量だけ切り欠かれたカット部と、
前記外周部から前記カット部までをつなぐように設けられ、前記校正用標準器の外側に凸の曲線状に構成された緩和曲面部と、
を備える校正用標準器。
【請求項2】
前記カット部は、円筒形状の前記外周面の一部に平面形状に形成されており、
前記緩和曲面部は、円筒形状の前記外周面と平面形状の前記カット部の両方に内接する円に沿う形状である、請求項1に記載の校正用標準器。
【請求項3】
前記カット部は、円筒形状の前記外周面の一部に、前記校正用標準器の中心軸に平行な線状に形成されており、
前記緩和曲面部は、前記校正用標準器の中心からの距離が、前記校正用標準器の中心から前記カット部に伸びる垂線に対する角度に対して線形に変化する曲面形状を有する、請求項1に記載の校正用標準器。
【請求項4】
前記カット部は、前記円筒形状の外周面の一部に平面形状に形成されており、
前記緩和曲面部は、前記校正用標準器の中心からの距離が、前記校正用標準器の中心から前記カット部に伸びる垂線に対する角度に対して線形に変化する曲面形状を有する、請求項1に記載の校正用標準器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の校正用標準器に、形状測定機のプローブから測定光を出射して、前記プローブを用いて前記校正用標準器からの反射光を検出し、
前記反射光の検出結果と、前記校正用標準器の外径及び削り量に基づいて倍率校正を行う、形状測定機の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は校正用標準器及び形状測定機の校正方法に係り、特にワークの形状を測定するための形状測定機の校正に用いる校正用標準器及び形状測定機の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プローブとワークとを回転軸を中心に相対的に回転させることにより、ワークの形状(真円度等)を測定する形状測定機が知られている。例えば、特許文献1には、回転テーブル上に載置された円筒形状のワークの中心孔の内面及び側面の形状を非接触で測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-014656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような形状測定機では、非接触式の光学センサを備えたプローブを用いて校正用標準器の形状を測定し、プローブの出力信号と実際の校正された変位量とを関連付ける倍率校正という作業を行う必要がある(例えば、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)JIS B7451:1997附属書2参照)。
【0005】
図13は、校正用標準器(フリックマスタ。以下、マスタという。)を用いた倍率校正を説明するための平面図(上面図)である。
【0006】
図13に示すように、マスタM0は円柱形状であり、その側面の一部に平面部(以下、Dカット部D0という。)が形成されている。以下の説明では、円柱形状のマスタM0の中心C0(円柱の中心軸)を原点とし、マスタM0の中心C0からDカット部D0に伸びる垂線(以下、中心線Lx)をX軸とする2次元極座標系を用いる。ここで、マスタM0の外径(半径)R及びDカット部D0の削り量d(マスタM0の外周の延長線(点線)とDカット部D0との間の距離の最大値)は既知である。また、マスタM0の中心C0からDカット部D0の端部D0に伸びる直線と中心線Lxとのなす角度θも、削り量dに依存するため既知である。
【0007】
図13に示すように、倍率校正を行う場合、プローブ30の先端に設けられた光学センサからマスタM0の表面に測定光B1を出射し、マスタM0の表面から戻ってくる反射光B2を検出する。そして、反射光B2の検出結果と、既知のR及びdとを用いて倍率校正を行う。これにより、形状測定機による測定対象物の正確な形状及び寸法の測定が可能になる。
【0008】
図13において、中心線Lxに対する測定光B1の角度をθ、マスタM0の中心C0と測定光B1の入射位置P0との間の距離をR(θ)、測定光B1の入射位置P0におけるマスタM0の表面の法線方向(N0)に対する測定光B1の角度(入射角度)をφ(θ)とする。このとき、入射角度φ(θ)は、下記の式(1)により表される。
【0009】
なお、マスタM0はX軸に対して線対称であるため、以下の説明では、X軸の上側(0°≦θ<180°)についてのみ説明し、X軸の下側(180°≦θ<360°)については説明を省略する。
【0010】
【数1】
【0011】
式(1)に示すように、θ≧θ、すなわち、円柱の側面に測定光B1が入射する場合にはθ=0になるが、θ<θ、すなわち、測定光B1がDカット部D0に入射する場合には入射角度φ(θ)が変化する。
【0012】
ここで、マスタM0の形状の正確な測定のためには、反射光B2の光量を十分確保する必要があるので、入射角度φ(θ)は小さい方が好ましい。例えば、プローブ30の光学センサの開口数をNAとした場合、φ(θ)≦arcsin(NA)とすることが好ましい。
【0013】
入射角度φ(θ)が大きくなると、Dカット部D0によって反射又は散乱された反射光B2のうち、プローブ30の光学センサの方向に戻る成分が減少する。すなわち、マスタM0の形状の測定に使用可能な反射光B2の光量が減少する。特に、Dカット部D0の端部D0及びその近傍では入射角度φ(θ)がより大きくなり、形状の測定に使用可能な反射光B2の光量がより減少する。したがって、特にDカット部D0の端部D0及びその近傍では、反射光B2の光量の低下に起因するノイズデータが発生しやすくなる。マスタM0の検出結果にこのようなノイズデータが含まれると、マスタM0の削り量dに対して誤差が生じ、高精度な倍率校正を行うことが困難になる。
【0014】
図14のグラフは、マスタM0の半径R=12.5mm、削り量d=20μm、プローブ30の開口数NA=0.05(許容角度(=arcsin(NA))≒3°)として、入射角度φ(θ)(式(1)参照)をプロットしたものである。
【0015】
図14に示すように、Dカット部D0の端部D0及びその近傍では、入射角度φ(θ)が許容角度(≒3°)を超過している。このため、プローブ30の光学センサで検出可能な反射光B2の光量が低下し、高精度な倍率校正を行うことができない。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、形状測定機の校正(倍率校正)を高精度で行うことが可能な校正用標準器及び形状測定機の校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る校正用標準器は、形状測定機の校正に用いられる校正用標準器であって、円筒形状の外周面を有する外周部と、円筒形状の外周面から所定の削り量だけ切り欠かれたカット部と、外周部からカット部までをつなぐように設けられ、校正用標準器の外側に凸の曲線状に構成された緩和曲面部とを備える。
【0018】
本発明の第2の態様に係る校正用標準器は、第1の態様において、カット部は、円筒形状の外周面の一部に平面形状に形成されており、緩和曲面部は、円筒形状の外周面と平面形状のカット部の両方に内接する円に沿う形状である。
【0019】
本発明の第3の態様に係る校正用標準器は、第1の態様において、カット部は、円筒形状の外周面の一部に、校正用標準器の中心軸に平行な線状に形成されており、緩和曲面部は、校正用標準器の中心からの距離が、校正用標準器の中心からカット部に伸びる垂線に対する角度に対して線形に変化する曲面形状を有する。
【0020】
本発明の第4の態様に係る校正用標準器は、第1の態様において、カット部は、円筒形状の外周面の一部に平面形状に形成されており、緩和曲面部は、校正用標準器の中心からの距離が、校正用標準器の中心からカット部に伸びる垂線に対する角度に対して線形に変化する曲面形状を有する。
【0021】
本発明の第5の態様に係る形状測定機の校正方法は、第1から第4の態様のいずれかの校正用標準器に、形状測定機のプローブから測定光を出射して、プローブを用いて校正用標準器からの反射光を検出し、反射光の検出結果と、校正用標準器の外径及び削り量に基づいて倍率校正を行う。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、円柱形状の構成用標準器の側面に緩和曲面部を設けたことにより、カット部の測定時における反射光の光量を確保し、高精度の倍率校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、形状測定機を示す正面図である。
図2図2は、形状測定機の制御系を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態に係る校正用標準器(フリックマスタ)を示す平面図(上面図)である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態に係る校正用標準器(フリックマスタ)を示す平面図(上面図)である。
図5図5は、本発明の第1の実施形態に係る緩和曲線を一部拡大して示す平面図である。
図6図6は、本発明の第1の実施形態に係る校正用標準器における入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。
図7図7は、Dカット部の長さを変えたときの入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。
図8図8は、本発明の第2の実施形態に係る校正用標準器(フリックマスタ)を示す平面図(上面図)である。
図9図9は、本発明の第2の実施形態に係る緩和曲線を一部拡大して示す平面図である。
図10図10は、本発明の第2の実施形態に係る校正用標準器における入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。
図11図11は、本発明の第3の実施形態に係る校正用標準器(フリックマスタ)を示す平面図(上面図)である。
図12図12は、本発明の第3の実施形態に係る校正用標準器における入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。
図13図13は、校正用標準器(フリックマスタ)を用いた倍率校正を説明するための平面図(上面図)である。
図14図14は、測定光のX軸に対する角度θと、マスタの表面に対する入射角度φの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明に係る校正用標準器及び形状測定機の校正方法の実施の形態について説明する。
【0025】
[第1の実施形態]
(形状測定機)
まず、形状測定機の概略構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、形状測定機を示す正面図である。
【0026】
図1に示す形状測定機10は、ワークWの外形及び円筒状のワークWに形成された細穴Hの内面形状(真円度等)を測定可能な装置である。図1に示す例では、細穴Hは、ワークWの中心軸に沿って形成された貫通穴である。細穴Hの内径は、極小径(例えば、内径が500μm以下)である。図1において、XYZ方向は互いに直交しており、X方向は水平方向、Y方向はX方向に直交する水平方向、Z方向は鉛直方向である。
【0027】
図1に示すように、形状測定機10は、本体ベース12、ステージ回転機構14、ステージ18、コラム20、キャリッジ22、アーム24、変位検出器26、検出器駆動機構28及び制御装置50を備える。
【0028】
ステージ回転機構(高精度回転機構)14は、ワークWを回転軸C周りに回転させるための回転機構であり、後述するステージ18をZ方向に平行な回転軸Cを中心に高精度に回転させるものである。ステージ回転機構14は、本体ベース12上に回転可能に設けられた回転体16を備えており、回転体16の上面にステージ18が支持されている。ステージ回転機構14は、回転軸Cを中心に回転体16を高精度に回転させるモータ(不図示)と、回転体16の回転角度を検出するエンコーダ(不図示)とを備える。
【0029】
ステージ18は、ワークWを載置するものである。ステージ18は、ワークWを直接支持固定するものであってもよいし、ワーク設置治具(不図示)を介してワークWを支持固定するものであってもよい。
【0030】
ステージ18は、回転体16の支持面(上面)に支持されており、回転体16と一体となって回転軸Cを中心に回転可能に構成される。これにより、ステージ18に支持固定されたワークWは、ステージ18と一体となって回転軸Cを中心に回転可能である。なお、ステージ18及び回転体16は「ステージ回転機構」の一例である。
【0031】
ステージ18は、直動機構と、傾斜機構(チルチング機構)とを備えている(いずれも不図示)。直動機構は、不図示のモータの駆動によりステージ18をX方向及びY方向に移動させて、回転軸Cに直交するXY平面(水平面)におけるステージ18の位置を調整させる。傾斜機構は、不図示のモータの駆動によりステージ18をX方向及びY方向の周りに回転させて、XY平面に対するステージ18の傾きを調整する。
【0032】
本体ベース12上には、Z方向に平行に延びるコラム(支柱)20が立設される。コラム20は、下端部が本体ベース12の上面に固定される。
【0033】
キャリッジ22は、Z方向に移動可能にコラム20に支持される。キャリッジ22は、不図示のモータの駆動によりZ方向に移動可能に構成される。
【0034】
アーム24は、XY方向に移動可能にキャリッジ22に支持される。アーム24は、直動機構70及び母線出し機構72(図2参照)によりそれぞれ水平方向(XY方向)に移動可能に構成される。直動機構70及び母線出し機構72は、それぞれアーム24を水平方向に移動させるための駆動源(モータ等)を備えている。
【0035】
アーム24及びコラム20の側面には、それぞれX方向及びZ方向に沿ってスケールが設けられている。制御装置50は、このスケールの目盛を不図示のセンサを用いて読み取ることにより、プローブ30のXZ方向の位置を検出可能となっている。
【0036】
変位検出器26は、検出器駆動機構28を介してアーム24に支持される。変位検出器26はプローブ30を有する。プローブ30は、ワークWの表面(外表面又はワークWに形成された穴Hの内面)の形状を検出するものである。本実施形態に係るプローブ30は、ワークWの表面に接触することなく、ワークWの表面形状を検出可能な非接触式のプローブである。
【0037】
非接触式のプローブ30の種類は、ワークWの表面に接触することなく、その表面形状を検出することができるものであれば特に限定されない。非接触式のプローブとしては、例えば、レーザー干渉計、白色干渉計、SD-OCT(Spectral Domain-Optical Coherence Tomography)又はSS-OCT(Swept Source-Optical Coherence Tomography)等の各種手法が適用されたプローブを用いることができる。
【0038】
検出器駆動機構28は、アーム24と変位検出器26との間に介在して設けられている。検出器駆動機構28は、直動機構と、傾斜機構とを備えている(いずれも不図示)。直動機構は、不図示のモータの駆動により変位検出器26をX方向及びY方向に移動させて、回転軸Cに直交するXY平面(水平面)におけるプローブ30の位置を調整させる。傾斜機構は、不図示のモータの駆動により変位検出器26をX方向及びY方向の周りに回転させて、XY平面に対するプローブ30の傾きを調整する。したがって、検出器駆動機構28(直動機構及び傾斜機構)によってプローブ30の水平方向(X方向及びY方向)の位置及び傾斜を調整することにより、プローブ30と回転軸Cとの相対的な位置合わせ(プローブアライメント)を行うことが可能となる。
【0039】
また、検出器駆動機構28は、回転軸(プローブ回転軸)AXの周りに回転させるための駆動源(例えば、モータ等)を備えている。検出器駆動機構28は、「プローブ回転機構」の一例である。
【0040】
図2は、形状測定機の制御系を示すブロック図である。
【0041】
制御装置50は、形状測定機10の各部の動作(ワークWの表面形状の測定動作や後述するプローブアライメント動作などを含む)を制御する。制御装置50は、例えば、パーソナルコンピュータ又はマイクロコンピュータ等の汎用のコンピュータによって実現される。制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ストレージデバイス(例えば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等)及び入出力インターフェース等を備えている。制御装置50では、ストレージデバイスに記憶されている制御プログラム等の各種プログラムがRAMに展開され、RAMに展開されたプログラムがCPUによって実行されることにより、形状測定機10内の各部の機能が実現され、入出力インターフェースを介して各種の演算処理又は制御処理が実行される。
【0042】
制御装置50には、ユーザからの操作入力を受け付ける操作部52(例えば、キーボード及びマウス等)と、操作UI(User Interface)及び検出結果を表示するための表示部54とが設けられている。
【0043】
図2に示すように、制御装置50は、変位演算部56及び駆動制御部58を備えている。
【0044】
変位演算部56は、変位検出器26が検出したワークWの表面の変位の検出結果に基づいてワークWの変位を算出し、ワークWの表面の形状(例えば、ワークWの外形又は穴Hの真円度等)を測定する。
【0045】
駆動制御部58は、直動機構70、母線出し機構72、検出器駆動機構28及びステージ回転機構14を制御して、ワークWとプローブ30の相対位置を調整する。
【0046】
(倍率校正方法)
次に、形状測定機10における倍率校正方法について説明する。図3及び図4は、本発明の第1の実施形態に係る校正用標準器(フリックマスタ。以下、マスタという。)を示す平面図(上面図)である。
【0047】
形状測定機10の倍率校正を行う場合、まず、マスタM1が、その中心C1(円柱の中心軸)がステージ18の回転軸Cと一致するようにステージ18に載置される(図3及び図4参照)。そして、ステージ回転機構14、検出器駆動機構28及びキャリッジ22を制御して、ワークWとプローブ30の相対位置を調整しながら、プローブ30により、マスタM1に対して測定光B1を出射し、マスタM1からの反射光を検出してマスタM1の形状測定を行う。次に、マスタM1からの反射光の検出結果と、既知のマスタM1の外径(半径)R及び削り量dとを用いて倍率校正を行う。
【0048】
(校正用標準器)
次に、マスタM1について説明する。
【0049】
図3及び図4に示すように、本実施形態に係るマスタM1は円柱形状であり、その外周部(外周面、側面)S1の一部に、所定の削り量dだけ切り欠かれた平面部(カット部の一例。以下、Dカット部D1という。)が形成されている。マスタM1の円柱形状の側面S1とDカット部D1との間には、曲線状の側面(緩和曲面部。以下、緩和曲線という。)E1が形成されている。ここで、マスタM1の外径(半径)R及びDカット部D1の削り量d(マスタM1の外周の延長線(点線)とDカット部D1との間の距離の最大値)は既知である。また、緩和曲線E1がないとした場合の仮想的なDカット部D1(破線部)の端部D1のY座標Lも、削り量dに依存するため既知である。
【0050】
以下の説明では、マスタM1の中心C1(円柱の中心軸)を原点とし、マスタM1の中心C1からDカット部D1に伸びる垂線をX軸とする2次元極座標系を用いる。
【0051】
なお、マスタM1はX軸に対して線対称であるため、以下の説明では、X軸の上側(0°≦θ<180°)の緩和曲線E1についてのみ説明し、X軸の下側(180°≦θ<360°)の緩和曲線E1については説明を省略する。
【0052】
図3及び図4に示すように、緩和曲線E1は、マスタM1の側面S1及びDカット部D1の両方に内接する内接円IC1の一部である。マスタM1の側面S1及びDカット部D1と内接円IC1との内接点をそれぞれP1及びP2とする。
【0053】
内接円IC1の中心C10の座標を(x,y)、半径をrとすると、内接円IC1は、下記の式(2)により表される。
【0054】
(x-x+(y-y=r …(2)
内接円IC1の半径rを既知の変数を用いて表すと下記のようになる。まず、内接円IC1はDカット部D1と内接するので、下記の式(3)及び(4)が得られる。
【0055】
=(R-d-r) …(3)
=L …(4)
式(4)のLは、内接円IC1がDカット部D1と内接する内接点P2のY座標である。ここで、Lは任意に定めることができる。例えば、Lが仮想的なDカット部D1(破線部)の長さ(L)の半分となるように定めれば、Dカット部D1の長さを十分にとりつつ、緩和曲線E1の効果を得ることができる。
【0056】
次に、内接円IC1はマスタM1の側面S1と内接するので、下記の式(5)が得られる。
【0057】
【数2】
【0058】
式(3)及び(4)を用いて式(5)をrについて解くと、下記の式(6)が得られる。
【0059】
r=R-(L-d)/2d …(6)
次に、内接円IC1の中心C10と緩和曲線E1上の点との間の距離R(θ)を既知の変数で表すと下記のようになる。
【0060】
まず、図3及び図4から、緩和曲線E1上の点(x,y)=(R(θ)cosθ,R(θ)sinθ)である。これを内接円IC1の式(1)に代入すると、下記の式(7)が得られる。
【0061】
(R(θ)cosθ-x+(R(θ)sinθ-y=r …(7)
式(7)を変形すると、下記の式(8)が得られる。
【0062】
R(θ)-2(xcosθ+ycosθ)R(θ)+(x +y -r)=0…(8)
式(8)をR(θ)について解くと、下記の式(9)が得られる。
【0063】
【数3】
【0064】
式(9)に式(6)のrを代入すると、既知の変数(R,d,L,x及びy)とθのみでR(θ)を計算することができる。
【0065】
次に、図4に示すように、測定光B1の入射位置P0におけるマスタM1の表面に対する法線をN1、法線N1に対する測定光B1の角度(入射角度)をφ(θ)とする。入射角度φ(θ)を既知の変数で表すと下記のようになる。
【0066】
図5は、緩和曲線E1を一部拡大して示す平面図である。
【0067】
図5に示すように、測定光B1の入射位置P0と、入射位置P0からΔθ離れた緩和曲線E1上の点P3を考える。図5において、Δθが十分に小さいとすると(Δθ≒0)、R(θ)tanΔθ≒R(θ)Δθとなる。このとき、入射角度φ(θ)は下記の式(10)により表される。
【0068】
φ(θ)=arctan[{R(θ+Δθ)-R(θ)}/(R(θ)Δθ)] …(10)
(入射角度φ(θ)の計算結果の例)
図6は、第1の実施形態に係るマスタM1における入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。図6のグラフF1は、マスタM1の半径R=12.5mm、削り量d=20μm、プローブ30の測定光学系の開口数NA=0.05(許容角度(=arcsin(NA))≒3°)として、入射角度φ(θ)をプロットしたものである。図6では、Dカット部D1と緩和曲線E1の境目(内接点P2)のY座標、すなわち、Dカット部D1の長さの1/2に当たる長さLを仮想的なDカット部D1(破線部)の長さ(L)の半分にしている(L=1/2L)。
【0069】
図6に示すように、本実施形態では、Dカット部D1と緩和曲線E1の境目(内接点P2)及びその近傍においても、入射角度φ(θ)が許容角度(≒3°)未満となっている。したがって、プローブ30の光学センサで検出可能な反射光の光量を十分に確保することができ、マスタM1の形状を高精度で測定することができるので、高精度の倍率校正を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態に係るマスタM1の緩和曲線E1は、円形状のため製作が容易である。さらに、マスタM1の緩和曲線E1部分の側面の形状に変曲点が存在しないため、測定形状波形が安定し、マスタM1の形状を高精度で測定することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、Dカット部D1の長さ(2L)を任意に調整することができるため、プローブ30の開口数NAに応じて最適な幾何学形状を採用することができる。
【0072】
図7は、Dカット部D1の長さ(2L)を変えたときの入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。なお、図7のグラフの計算のパラメータは、図6と同様、マスタM1の半径R=12.5mm、削り量d=20μm、プローブ30の測定光学系の開口数NA=0.05(許容角度(=arcsin(NA))≒3°)である。
【0073】
図7に示すように、グラフF1-1~F1-3は、それぞれDカット部D1の長さ(2L)をL=1/4L,L=1/2L,L=3/4Lとしたものである。グラフF1~F3のいずれの場合も、入射角度φ(θ)が許容角度(≒3°)未満となっている。
【0074】
図7に示すように、入射角度φ(θ)は、Dカット部D1の長さ(2L)を長いほど、その最大値が大きくなり、逆に、Dカット部D1の長さ(2L)を短いほど、その最大値が小さくなっている。
【0075】
したがって、本実施形態では、プローブ30の開口数NAに応じてDカット部D1の長さ(2L)を最適化することができる。例えば、グラフF1-3のように、Dカット部D1の長さ(2L)を長くすれば、Dカット部D1(直線部)を長くすることができるので、測定形状波形を安定させることができる。一方、グラフF1-1のように、Dカット部D1の長さ(2L)を短くすれば、φ(θ)の最大値が小さくなるので、プローブ30の開口数NAが小さくても高精度の測定が可能になる。
【0076】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、マスタM2の形状が第1の実施形態と異なる。形状測定機10及びその構成方法については、第1の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0077】
(校正用標準器)
図8は、本発明の第2の実施形態に係る校正用標準器(フリックマスタ)を示す平面図(上面図)である。なお、図8には、マスタM2の円柱形状の外周面S2の延長線(点線)と図13に示したDカット部D0(破線)を併せて図示している。
【0078】
図8に示すように、本実施形態に係るマスタM2は円柱形状であり、その外周部(外周面、側面)S2の一部に曲面状の側面(緩和曲線)E2が形成されている。ここで、マスタM2の外径(半径)R及びマスタM2の側面E2とX軸との交点PIとの間の距離(以下、削り量という。)dは既知である。
【0079】
図8に示すように、本実施形態では、カット部D2は、交点PIの位置に、マスタM2の中心軸(C2)に平行な線状に形成される。
【0080】
以下の説明では、マスタM2の中心C2(円柱の中心軸)を原点とし、マスタM2の側面E2とX軸との交点PIに伸びる直線をX軸とする2次元極座標系を用いる。
【0081】
なお、図8に示すように、マスタM2はX軸に対して線対称であるため、X軸の上側(0°≦θ<180°)についてのみ説明し、X軸の下側(180°≦θ<360°)については説明を省略する。
【0082】
マスタM2において、マスタM2の中心C2から表面までの距離R(θ)は下記の式(11)により表される。式(11)に示すように、側面S2(θ≧θ)が半径Rの円筒形状であるのに対して、側面E2(θ<θ)が角度θに対して線形に変化する曲面形状を有している。以下、側面E2(θ<θ)のうち、X軸より上の部分を線形変化曲線E2(+)、X軸より下の部分を線形変化曲線E2(-)という。
【0083】
【数4】
【0084】
式(11)において、角度θは、マスタM2の円柱形状の側面S2と線形変化曲線E2(+)との境目の点P5の角度(切り替わり角度)を示している。
【0085】
図9は、線形変化曲線E2(+)を一部拡大して示す平面図である。
【0086】
図9に示すように、測定光B1の入射位置P0と、入射位置P0からΔθ離れた線形変化曲線E2上の点P6を考える。測定光B1の入射位置P0におけるマスタM2の表面に対する法線をN2、法線N2に対する測定光B1の角度(入射角度)をφ(θ)とする。図9において、Δθが十分に小さいとすると(Δθ≒0)、R(θ)tanΔθ≒R(θ)Δθとなる。このとき、入射角度φ(θ)は下記の式(12)により表される。
【0087】
φ(θ)=arctan[{R(θ+Δθ)-R(θ)}/(R(θ)Δθ)] …(12)
式(12)に式(11)の線形変化曲線E2(+)(0≦θ<θ)の式を代入し、下記の式(13)が得られる。
【0088】
φ(θ)=arctan[d/{Rθ-(θ-θ)d}] …(13)
式(13)から下記の式(14)が得られる。
【0089】
φ(θ)~d/(Rθ) …(14)
式(14)から入射角度φ(θ)はθによらず一定となる。
【0090】
(入射角度φ(θ)の計算結果の例)
図10は、第2の実施形態に係るマスタM2における入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。図10のグラフF2は、マスタM2の半径R=12.5mm、削り量d=20μm、プローブ30の測定光学系の開口数NA=0.05(許容角度(=arcsin(NA))≒3°)とし、切り替わり角度θ=10°として、入射角度φ(θ)をプロットしたものである。
【0091】
図10に示すように、本実施形態では、マスタM2の円柱形状の側面S2と線形変化曲線をE2との境目(点P5)及びその近傍においても、入射角度φ(θ)が許容角度(≒3°)未満となっている。したがって、プローブ30の光学センサで検出可能な反射光の光量を十分に確保することができ、マスタM2の形状を高精度で測定することができるので、高精度の倍率校正を行うことができる。
【0092】
さらに、本実施形態によれば、式(14)に示すように、測定光B1の入射角度φ(θ)がθによらず略一定となるので、測定光B1の反射角度を一定かつ小さくすることができる。これにより、高品質かつ均一な品質の測定が可能となる。
【0093】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第2の実施形態は、マスタM3の形状が第1及び第2の実施形態と異なる。形状測定機10及びその構成方法については、第1の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0094】
(校正用標準器)
図11は、本発明の第2の実施形態に係る校正用標準器(フリックマスタ)を示す平面図(上面図)である。なお、図11には、マスタM3の円柱形状の外周面S3の延長線(点線)と図13に示したDカット部D0(破線)を併せて図示している。
【0095】
図11に示すように、本実施形態に係るマスタM3は円柱形状であり、その外周部(外周面、側面)S3の一部に平面部(カット部の一例。以下、Dカット部D3という。)が形成されている。マスタM3の円柱形状の側面S3とDカット部D3との間には、曲線状の側面(緩和曲線。以下、線形変化曲線という。)E3が形成されている。ここで、マスタM3の外径(半径)R及びマスタM3の側面E3とX軸との交点P9との間の距離(以下、削り量という。)dは既知である。
【0096】
以下の説明では、マスタM3の中心C3(円柱の中心軸)を原点とし、マスタM3の中心C3からDカット部D3に伸びる垂線をX軸とする2次元極座標系を用いる。
【0097】
なお、図11に示すように、マスタM3はX軸に対して線対称であるため、X軸の上側(0°≦θ<180°)についてのみ説明し、X軸の下側(180°≦θ<360°)については説明を省略する。
【0098】
マスタM3において、マスタM3の中心C2から表面までの距離R(θ)は下記の式(15)により表される。式(15)に示すように、側面S3(θ≧θ)が半径Rの円筒形状であるのに対して、Dカット部D3(θ<θ)は平面形状である。そして、マスタM3の円柱形状の側面S3とDカット部D3との間の側面E3(θ≦θ<θ)は、角度θに対して線形に変化する曲面形状を有している。以下、側面E3(θ≦θ<θ)のうち、X軸より上の部分を線形変化曲線E3(+)、X軸より下の部分を線形変化曲線E3(-)という。
【0099】
【数5】
【0100】
式(15)において、角度θは、マスタM3の円柱形状の側面S3と線形変化曲線E3(+)との境目の点P7の角度(切り替わり角度)、角度θは、線形変化曲線E3(+)とDカット部D3との境目の点P8の角度(切り替わり角度)を示している。
【0101】
ここで、θは下記の式(16)の条件を満たす、0でない角度である。
【0102】
(R-d)/cosθ=R-(1-θ/θ)d …(16)
式(16)を近似的に解くと、下記の式(17)が得られる。
【0103】
θ=2d/(R-d)θ …(17)
(入射角度φ(θ)の計算結果の例)
図12は、第3の実施形態に係るマスタM3における入射角度φ(θ)の計算結果の例を示すグラフである。なお、図12には、第1の実施形態に係るグラフF1-2(図7参照)を比較のため併せて図示している。
【0104】
図12のグラフF3は、マスタM3の半径R=12.5mm、削り量d=20μm、プローブ30の測定光学系の開口数NA=0.05(許容角度(=arcsin(NA))≒3°)とし、切り替わり角度θ=6.3°、Dカット部D3の長さ(2L)をL=1/2Lとして、入射角度φ(θ)をプロットしたものである。
【0105】
図13に示すように、本実施形態によれば、Dカット部D3では入射角度φ(θ)が大きくなるものの、線形変化曲線E3の領域になるとφ(θ)がすぐに小さい一定の値になる。したがって、本実施形態によれば、測定品質が低下しがちなφ(θ)が大きい角度領域を少なくすることができ、倍率校正の測定品質をより向上させることができる。
【0106】
[変形例]
上記の実施形態では、緩和曲線の例として円の一部(E1)又は線形変化曲線(E2及びE3)を用いたが、緩和曲線の例はこれらに限定されない。例えば、クロソイド曲線又はn次関数(nは2以上の自然数。例えば、3次曲線)等の公知の形状、又はマスタM1~M3の外側に凸の曲線を用いることも可能である。さらに、1または複数の直線で疑似的な緩和曲線を形成してもよい。
【0107】
なお、上記の実施形態では、マスタM1~M3の側面にDカット部D1~D3をそれぞれ1つ形成した例について説明したが、Dカット部D1~D3は複数形成してもよい。
【符号の説明】
【0108】
10…形状測定機、12…本体ベース、14…ステージ回転機構、16…回転体、18…ステージ、20…コラム、22…キャリッジ、24…アーム、26…変位検出器、28…検出器駆動機構、30…プローブ、32…カメラ、34…カメラ用ブラケット、50…制御装置、52…操作部、54…表示部、56…変位演算部、58…駆動制御部、60…撮影制御部、70…直動機構、72…母線出し機構、M1~M3…校正用標準器(フリックマスタ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14