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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031135
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】8-8ジフェルラ酸誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07C 65/28 20060101AFI20230301BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230301BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20230301BHJP
   A01N 37/38 20060101ALI20230301BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C07C65/28 CSP
A61P31/10
A61K31/192
A01N37/38
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136651
(22)【出願日】2021-08-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】390023641
【氏名又は名称】ウイスコンシン アラムナイ リサーチ ファウンデーシヨン
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大矢 禎一
(72)【発明者】
【氏名】一刀 かおり
(72)【発明者】
【氏名】小川 樹
(72)【発明者】
【氏名】アブラハム アベラ ゲブレ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ジェフ ピオトロフスキー
(72)【発明者】
【氏名】ファチュアン ルー
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
4H011
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DA21
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZB35
4H006AA01
4H006AB03
4H006AB29
4H006BJ50
4H006BN30
4H006BP30
4H006BS10
4H011AA01
4H011BB06
(57)【要約】
【課題】優れた抗真菌活性を有する新規化合物の提供。
【解決手段】一般式(1)
(式中、R1及びR2はいずれか一方が炭素数1~6のアルコキシ基を示し、他方がヒドロキシ基を示し;R3は水素原子又はカルボキシ基を示す。)
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1及びR2はいずれか一方が炭素数1~6のアルコキシ基を示し、他方がヒドロキシ基を示し;R3は水素原子又はカルボキシ基を示す。)
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
1及びR2のいずれか一方がメトキシ基で、他方がヒドロキシ基である請求項1記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メチリデン]ブト-3-エン酸である請求項1又は2記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗真菌剤。
【請求項5】
真菌又は卵菌類に対する抗真菌剤である請求項4記載の抗真菌剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬。
【請求項7】
真菌症の予防治療薬である請求項6記載の医薬。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する農薬。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を植物又はその生育環境に施用することを含む、植物病害防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌活性を有する8-8ジフェルラ酸誘導体、当該誘導体を有効成分とする抗真菌剤、医薬及び農薬、並びに当該誘導体を用いた植物病害防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネ科植物細胞壁は結晶性のセルロース微繊維間をマトリックス多糖類が埋める構造をしている。主要マトリックス多糖類であるアラビノキシランのアラビノース残基にはフェノール化合物(モノフェノール)がエステル結合していて、このフェノール化合物による多糖間ネットワークはイネ科植物細胞壁の構築・構造維持に不可欠な成分となっている。代表的なフェノール化合物はフェルラ酸である。フェルラ酸の一部は細胞壁中のペルオキシダーゼによる酸化的カップリング反応により二量体となり、ジフェルラ酸はアラビノキシラン間を架橋することで多糖間ネットワークを強固なものとしている。
近年、フェルラ酸の単量体の他、二量体についても研究が進められ、イネ科植物細胞壁に生じる各種二量体が抗真菌活性等様々な生理活性を有することが明らかになっている。例えば、トウモロコシのふすま又は茎葉由来の加水分解物中に見出されたポアシン酸類(8-5ジフェルラ酸)について抗真菌活性を有することが報告されている(非特許文献1)。ポアシン酸類は1,3-β-グルカンに結合し、1,3-β-グルカン合成酵素活性を減少させることで、植物病原性糸状菌の増殖を阻害する(非特許文献1)。
【0003】
このように植物病原性真菌に対しての使用が期待されるフェルラ酸二量体であるが、昨今では人畜や有益昆虫、あるいは環境等への害ができるだけ小さい殺菌剤が求められている。さらに、従来の殺菌剤に対して耐性がある薬剤耐性菌が出現してきているため、持続的に使用可能で、かつ多くの植物病原性真菌に対して強い阻害活性を有する新たな作用機序を有する化合物が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA 112, E1490-E1497, doi:10.1073/pnas.1410400112 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、優れた抗真菌活性を有する新規化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、薬剤感受性酵母の形態に基づくハイスループットな表現型解析系を確立し、化合物の標的予想を行う有効な手法を開発した。この手法を用いて抗真菌活性を有する物質について研究したところ、特定の8-8ジフェルラ酸誘導体が、DNA損傷応答過程の阻害というポアシン酸類とは異なる作用メカニズムによって、糸状菌に対して強い阻害活性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔9〕に関するものである。
〔1〕下記一般式(1)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1及びR2はいずれか一方が炭素数1~6のアルコキシ基を示し、他方がヒドロキシ基を示し;R3は水素原子又はカルボキシ基を示す。)
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
〔2〕R1及びR2のいずれか一方がメトキシ基で、他方がヒドロキシ基である〔1〕記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
〔3〕4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メチリデン]ブト-3-エン酸である〔1〕又は〔2〕記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗真菌剤。
〔5〕真菌又は卵菌類に対する抗真菌剤である〔4〕記載の抗真菌剤。
〔6〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬。
〔7〕真菌症の予防治療薬である〔6〕記載の医薬。
〔8〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する農薬。
〔9〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を植物又はその生育環境に施用することを含む、植物病害防除方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明化合物又はその薬学的に許容される塩は、DNA損傷応答過程の阻害という作用機序により優れた抗真菌活性を示すため、医薬、農薬等の抗真菌活性を必要とする様々な分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ポアシジエンの製造例を示す。
図2】ポアシジエンの1H-NMR解析の結果を示す。
図3】ポアシジエンの13C-NMR解析の結果を示す。
図4】ポアシジエン(PD)及びポアシン酸(PA)による出芽酵母の増殖阻害活性を示す。
図5】ポアシジエン処理細胞とrad54Δの間の形態学的プロファイルの類似性を示す。
図6】ポアシジエン処理細胞(PD)とCul8-RING遺伝子欠失株間の形態プロファイルの類似性を示す。
図7】コントロール(3Δ)及び4重欠失変異株のIC50を示す。
図8】形態学的類似性とIC50の分布を示す。
図9】植物病原性真菌におけるポアシジエン(PD)の感受性を示す。
図10】植物病原性卵菌におけるポアシジエン(PD)の感受性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記一般式(1)で表される本発明化合物(1)は、8-8型二量体を基本構造とし、各フェニル基の3位及び4位にヒドロキシ基とアルコキシ基を一つずつ有する化合物であり、先行技術文献等に記載されていない新規な化合物である。
【0013】
本発明化合物(1)において、R1及びR2はいずれか一方が炭素数1~6のアルコキシ基を示し、他方がヒドロキシ基を示す。
本明細書において、炭素数1~6のアルコキシ基は、炭素数1~6の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基を示し、メトキシ基、エトキシ基、-プロポキシ基、イソプロポキシ基、1-メチルプロポキシ基、-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、2-メチル-ブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、ペンタン-2-イルオキシ基等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数1~3のアルコキシ基であり、より好ましくはメトキシ基である。
【0014】
本発明化合物(1)において、R3は水素原子又はカルボキシ基を示す。R3は、好ましくはカルボキシ基である。
【0015】
本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、エタノール和物)等が挙げられる。
【0016】
本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩には、立体異性体(幾何異性体、光学異性体)等の異性体も混合物も包含される。
【0017】
抗真菌活性の点から、本発明の好適な化合物は、一般式(1)中、
1及びR2のいずれか一方がメトキシ基で、他方がヒドロキシ基であり;
3が水素原子又はカルボキシ基である化合物である。
【0018】
また、抗真菌活性の点から、本発明のより好適な化合物は、一般式(1)中、
1がメトキシ基であり;
2がヒドロキシ基であり;
3がカルボキシ基である化合物である。
【0019】
また、抗真菌活性の点から、本発明のさらに好適な化合物は、下記式(1a)で表される化合物、すなわち(2E、3E)-4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メチリデン]ブト-3-エン酸(以下、ポアシジエンとも称する)である。
【0020】
【化2】
【0021】
本発明化合物(1)の薬学的に許容される塩としては、特に制限はなく、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム等の無機塩基や、トリアルキルアミン等の有機塩基との塩が挙げられる。
【0022】
本発明化合物(1)は、例えば以下の製造方法により得ることができる。
【0023】
【化3】
【0024】
(式中、R1~R3は、一般式(1)に関して記載した意味と同じ意味である。)
【0025】
以下、上記反応工程毎に説明する。
【0026】
工程1は、化合物(I)を酸化カップリング反応することによりジラクトン(II)を製造する工程である。
本工程は、公知の方法、例えば、O2/FeCl3を用いる方法(例えば、J. Chem. Soc. 535-538 (1944))、過酸化水素-尿素複合体の存在下、ペルオキシダーゼを用いる酵素法(J. Mol. Catal. B Enzym. 74, 29-35 (2012):J. Chem. Soc., Perkin Transactions 1 23, 3485-3498, doi:10.1039/P19940003485 (1994):Biomolecules 10, 175, doi:10.3390/biom10020175 (2020))等により行うことができる。なお、化合物(I)は、フェルラ酸、イソフェルラ酸等が例示できる。これらは市販品、又は公知の方法に準じて製造することができる。
反応は、反応に悪影響を及ぼさない溶媒中で実施できる。反応溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ニトロメタン、アセトン、酢酸エチル、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、クロロホルム、塩化メチレン等、水あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
得られるジラクトン(II)は、後述する公知の分離精製手段により単離精製するか又は単離精製することなく次工程に付すことができる。
【0027】
工程2は、ジラクトン(II)を塩基水溶液中で終夜反応することにより一般式(1)で表される本発明化合物(1)を製造する工程である。
塩基としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化アンモニウム等が挙げられる。好ましくは水酸化アンモニウムである。水溶液中の塩基の濃度は、好ましくは20~40質量%、より好ましくは28~30質量%である。
塩基の使用量は、ジラクトン(II)1モルに対して、好ましくは15~25モル、より好ましくは19~20モルである。
反応温度は、好ましくは室温~70℃、より好ましくは40~60℃である。
反応時間は、好ましくは5時間~30時間、より好ましくは10時間~20時間である。
【0028】
本発明化合物(1)は、公知の分離精製手段により容易に単離精製できる。単離精製手段としては、例えば、濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、再結晶、再沈殿、分取用逆相高速液体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーを例示できる。また、前記塩への変換も常法によって行うことができる。
【0029】
後述する実施例に示すように、出芽酵母(S. cerevisiae)の野生型及び欠失変異株に対する抗真菌剤の薬剤感受性試験の結果、ポアシジエンは優れた抗真菌活性を示した(図4)。ポアシジエンの抗真菌活性は、同じフェルラ酸誘導体のポアシン酸よりも低濃度で出芽酵母に作用するという優れた活性であった。
【0030】
ハイスループットな形態学的プロファイリングにより、ポアシジエンで処理した出芽酵母の細胞は17個の遺伝子欠失変異株と有意に類似しており(ガウス分布による1標本上部棄却域検定、FDR=0.05)、1637の非必須遺伝子の欠失変異株の中で二本鎖切断の組換え修復に関与するRAD54遺伝子の欠失株と最も高い形態類似性を示すことが明らかになった(図5)。遺伝子エンリッチメント解析により、複製修復に関与する「Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体」カテゴリーの欠失変異株が有意に類似していることが明らかになった(ボンフェローニ補正後の尤度比検定、p=1.427e-5)。Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体に関与する4つの遺伝子の中で、RTT101MMS1、及びRTT107遺伝子の欠失株は、ポアシジエン処理細胞と有意に形態が類似していた(図6)。Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体は複製修復にも関与しており、上記結果は、ポアシジエンがDNA損傷応答に関連する細胞経路に影響を与えることを示唆している。
なお、当該形態学的プロファイリングは、本発明者が確立した薬剤感受性酵母の形態に基づく表現型解析系で、化合物の細胞内標的予想を可能にしたものである(PLoS One. 14;5(4):e10177. doi: 10.1371/journal.pone.0010177.)。
【0031】
また、ポアシジエンの作用メカニズムが組換え修復経路に関連しているかどうかを遺伝学的に調査するために、いくつかの酵母変異株のポアシジエンに対する感受性を調べた。
その結果、Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体のサブユニットをコードする遺伝子が欠失しているすべての変異株は、コントロール(3Δ)株よりもポアシジエンに対して感受性が高いことがわかった。Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体の上流で働くRtt109をコードする遺伝子の欠失株もポアシジエン感受性を示した。一方、rdh54Δ及びsrs2Δはコントロール株と同様の感受性を示した(図7)。最も形態的に類似した変異株であるrad54Δは、ポアシジエンに対して高い感受性を示したが、形態的類似性とポアシジエン感受性の間には明らかな相関関係は見受けられなかった(図8、スピアマンの順位相関R=-0.350、p=0.266、非相関検定)。これらの結果は、Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体と組換え修復経路がポアシジエン耐性の獲得に必要であることを明確に示しており、ポアシジエンの作用メカニズムがDNA損傷応答経路に関連していることを強く示唆した。
【0032】
さらに、ポアシジエンは、イネ紋枯病を引き起こす真菌であるRhizoctonia solani、リンドウ黒斑病の原因菌Alternaria alternata、及びジャガイモ夏疫病菌として知られるAlternaria solaniの増殖も濃度依存的に阻害することが明らかとなった(図9)。さらに、ポアシジエンは、卵菌類でトマト根腐病を引き起こすPythium aphanidermatum及びダイズ茎疫病を引き起こすPhytophthora sojaeの伸長も阻害することがわかった(図10)。
【0033】
従って、本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、糸状菌(真菌、卵菌類)に対する抗真菌剤、ヒト又は非ヒト動物の真菌症を予防及び/又は治療する医薬、植物病害を防除する農薬として有用である。また、本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、斯かる抗真菌剤、医薬、農薬を製造するために使用することができ、さらに、抗真菌のため、ヒト又は非ヒト動物の真菌症を予防及び/又は治療するため、植物病害を防除するために使用することができる。またさらに、本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を植物又はその生育環境に施用することで、植物病害の防除が可能である。
【0034】
本明細書において、真菌は、ヒト病原性真菌、植物病原性真菌が挙げられる。
ヒト病原性真菌としては、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)、カンジダ・グラブラータ(C. glabrata)、カンジダ・パラプシローシス(C. parapsilosis)、カンジダ・トロピカリス(C. tropicalis)、カンジダ・ルシタニアエ(C. lusitaniae)等のカンジダ属菌;アスペルギルス・フミガタス(A. fumigatus)、アスペルギルス・フラブス(A. flavus)、アスペルギルス・ニガー(A. niger)、アスペルギルス・テレウス(A. terreus)、アスペルギルス・ベルシカラー(A. versicolor)等のアスペルギルス属菌;クリプトコッカス・ネオフォルマンス(C. neoformans)、クリプトコッカス・ガッティ(C. gattii)等のクリプトコッカス属菌が挙げられる。
【0035】
植物病原性真菌としては、リゾクトニア・ソラニ(R. solani)等のリゾクトニア属菌;アルテルナリア・アルテルナータ(A. alternata)、アルテルナリア・ソラニ(A. solani)等のアルテルナリア属菌;ボトリティス・シネレア(B. cinerea)等のボトリティス属菌;プッチニア属菌等が挙げられる。
【0036】
本明細書において、卵菌類としては、ピシウム・アファニデルマタム(P. aphanidermatum)、ピシウム・ヘリコイデス(P. helicoides)、ピシウム・ミリオタイラム(P. myriotylum)等のピシウム属菌;フィトフトラ・ソジャエ(P. sojae)等のフィトフトラ属菌が挙げられる。
【0037】
本明細書において、真菌症としては、ヒト病原性真菌が起こす感染症であり、粘膜等に真菌が感染して引き起こされる表在性真菌症や、真菌が臓器等の体の深部に侵襲する深在性真菌症(カンジダ症、アスペルギルス症等)が挙げられる。
【0038】
本明細書において、植物病害は、前記真菌や卵菌類等の植物病原性真菌に起因する植物の病的症状であり、症状の例としては、苗立枯、萎凋、徒長、斑点、落葉、壊死等が挙げられる。植物病害の防除には、植物への植物病原性真菌の侵入の予防もしくは制御、植物における植物病原性真菌の駆除が包含される。
【0039】
本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を、ヒト又は非ヒト動物用の医薬又は抗真菌剤として用いる場合、経口又は非経口の任意の投与形態で投与することができる。例えば、錠剤(素錠、コーティング錠等)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、液剤、シロップ剤、ドリンク剤等による経口投与;注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、皮膚外用剤(軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、チック剤、リニメント剤、ローション剤、スプレー剤、外用散剤等)等による非経口投与が挙げられる。
【0040】
このような種々の剤形の製剤は、有効成分である本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩、必要に応じて、薬学的に許容される担体、その他の薬効成分と適宜組み合わせて、それぞれ一般的な製造方法により調製することができる。
当該薬学的に許容される担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調節剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、矯味・矯臭剤、安定化剤等が挙げられる。
上記製剤における有効成分である本発明化合物(1)又はそれらの薬学的に許容される塩の含有量は、その使用形態により適宜設定することができる。
【0041】
上記製剤の投与量は、投与対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔は、当業者によって適宜決定され得るが、例えば、成人(体重約60kg)1日当たりの経口投与量は、本発明化合物(1)として0.1~100mg/kgとするのが好ましい。本発明では斯かる量を1日に1回~複数回に分けて、1日間以上反復・継続して投与し得る。
【0042】
上記製剤の投与対象は、真菌感染が疑われるヒトや、類人猿、その他霊長類、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ等の非ヒト哺乳動物が挙げられる。対象の好ましい例として、ヒトが挙げられる。
【0043】
本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を、農薬又は農薬用の抗真菌剤として用いる場合、その形態としては、例えば、粉剤、粒剤、水和剤等の固型剤;フロアブル、乳剤等の液剤が挙げられる。
このような形態の製剤は、有効成分である本発明化合物(1)又はその薬学的に許容される塩、必要に応じて、農薬活性成分、界面活性剤、結着剤、崩壊剤、消泡剤、コーティング剤等を適宜組み合わせて、それぞれ一般的な製造方法により調製することができる。
上記製剤における有効成分である本発明化合物(1)又はそれらの薬学的に許容される塩の含有量は、その使用形態により適宜設定することができる。
【0044】
上記製剤の植物への施用量は、施用の時期、場所、方法又はその他の要因に従って変動し得る。例えば、1アール当たり有効成分量として0.1g~1000gの範囲から適宜選択して使用すれば良く、好ましくは1g~500gの範囲である。
乳剤、水和剤等として水等で希釈して使用する場合、その使用濃度は、本発明化合物(1)の濃度にして0.00001質量%~0.1質量%であり、粒剤、粉剤として使用する場合、あるいは液剤等として種子を処理する場合は、通常希釈することなくそのまま使用すれば良い。
【0045】
本発明化合物(1)又はそれらの薬学的に許容される塩を施用する植物としては、特に制限はなく、植物病原性真菌が感染し得る農作物や野菜、花き、例えば、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ジャガイモ、ダイズ、トマト、キュウリ、ナス、リンドウ等が挙げられる。
植物又はその生育環境への施用は、例えば、浸漬、散布、潅注、鋤込み等により行うことができる。
【実施例0046】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0047】
実施例1
(2E、3E)-4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メチリデン]ブト-3-エン酸(ポアシジエン)の製造
(1)フェルラ酸ジラクトンの合成
ジラクトン調製物は、過去の知見に基づいて実施した(J. Chem. Soc., Perkin Transactions 1 23, 3485- 771 3498, doi:10.1039/P19940003485 (1994):Biomolecules 10, 175, doi:10.3390/biom10020175 (2020))。具体的には、19.4gのフェルラ酸を400mLのアセトンに溶解し、次に1500mLの水を加えて溶液を希釈し、続いて80mLの水に溶解した5.7gのH22-尿素を加えた。最後に、カップリング反応は、反応溶液を十分に攪拌しながら、20mLの水に溶解した40mgの西洋ワサビペルオキシダーゼを添加することによって開始し、反応を60分間維持した。
反応混合物を酸性化した後(pH<3)、沈殿した生成物を濾過により回収し、風乾した。粗生成物(15g、77%)を酢酸エチルからの結晶化により精製して、ジラクトン生成物(4.5g、黄色の固体、22%の収率)を生成した。NMRデータは前記文献のデータと一致した。
【0048】
(2)ポアシジエンの合成
3.0gのフェルラ酸ジラクトンを、スクリューキャップとテフロンライナーを取り付けた25mLバイアル内で20mLの水酸化アンモニウムに溶解した。砂浴中において、溶液を50℃で一晩(16~18時間)加熱した。室温まで冷却した後、反応混合物を200mLの4M HCl溶液に滴下して移した。生成物を酢酸エチル抽出(200mL×2)により回収した。不溶性生成物(界面層に存在するのは主に開形した8-8 ジフェルラ酸)を濾過し、酢酸エチル相をMgSO4で乾燥させ、回転式エバポレーターによって減圧下で濃縮した。残留物を30mLの酢酸エチルに溶解(懸濁になる)し、不溶性の固体を濾過し、少量の酢酸エチルで洗浄した。合わせた酢酸エチル溶液を濃縮し(約20mLまで)、1%酢酸を含むヘキサン/酢酸エチル(1/1、v/v)で溶出するシリカゲルクロマトグラフィーカラム(100gシリカ、Biotage SNAPカラム)にて精製を行った。目的生成物であるポアシジエンを含む画分を収集し、そこから生成物を酢酸エチル/ヘキサンから結晶化させて、黄色の固体(0.6g、主にトランス配置、20%収率)を得た。
ポアシジエンの合成スキームを図1、核磁気共鳴スペクトルを図2及び図3に示す。
【0049】
NMR測定機器
ポアシジエン合成品のNMRスペクトル(アセトン-d6)は、極低温で冷却された5mm 1H/13C最適化三重共鳴(1H)を備えたインバースジェオメトリ(1H/13C/15N)TCIグラジエントプローブ付きのBruker Avance III 500 MHz分光計(Bruker Biospin、Bruker、Billerica、MA、USA)で取得した。
【0050】
NMRデータ
NMR (500 MHz, アセトン-d6) δH: 7.54 (1H, s, A7), 7.24 (1H, d, J = 16.4 Hz, B7), 7.19 (1H, d, J = 2.0Hz, A2), 7.13 (1H, d, J = 2.0 Hz, B2), 7.06 (1H, ddd, J = 8.2, 2.0, 0.7 Hz, A6), 7.04 (1H, dd, J = 16.4, 1.1 Hz, B8), 6.98 (1H, ddd, J = 8.2, 2., 0.6 Hz, B6), 6.91 (1H, d, J = 8.2, A5), 6.81 (1H, d, J = 8.1, B5), 3.86 (3H, s, B3-OMe), 3.8419 (3H, s, A3-OMe); δC: 168.84 (A9), 148.58 (A4), 148.51 (B3), 148.15 (A3), 147.71 (B4), 139.10 (A7), 135.18 (B7), 130.71 (B1), 128.44 (A1), 128.24 (B8), 125.29 (A6), 120.88 (B6), 120.53 (A8), 116.03 (B5), 115.95 (A5), 114.30 (A2), 110.13 (B2), 56.16 (B3-OMe), 56.12 (A3-OMe).
【0051】
[実験材料]
菌株:薬剤感受性のバックグラウンドをもつ3Δ(pdr1Δ pdr3Δ snq2Δ)株は以下の文献に記載されている(Piotrowski et al., 2017, https://www.nature.com/articles/nchembio.2436).四重変異株は、この3Δ株から酵母遺伝子破壊して作製した。
ポアシン酸:ポアシン酸は、以下の論文に記載の方法に従い合成した(https://doi.org/10.1016/j.indcrop.2017.03.045)。
【0052】
試験例1 抗真菌剤の薬剤感受性試験
[方法]
出芽酵母(S. cerevisiae)の野生型及び欠失変異株に対する抗真菌剤の薬剤感受性試験は、薬剤感受性のバックグラウンドをもつ3Δ(pdr1Δ pdr3Δ snq2Δ)株を用いて行われた。酵母細胞をYPD培地で30℃、200rpmの条件下、一晩振盪培養し、対数期(1~5×107 cells/mL)まで増殖させた。培養液をYPD培地で希釈し、3% ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むYPD(薬物含/薬物不含)に接種して1~5×105 cells/mLまで増殖させ、30℃で静置培養した。ポアシジエン及びポアシン酸は、それぞれ0~256μg/mL及び0~1024μg/mLの濃度範囲で処理した。96ウェル平底マイクロタイタープレート(Corning Inc.、Corning、NY、USA)で18時間インキュベートした後、細胞懸濁液をTitramax 1000ローテーター(Heidolph、Schwabach、Germany)で撹拌した。ウェルの光学密度は、SpectraMax Plus 384プレートリーダー(Molecular Devices、米国カリフォルニア州サンノゼ)を使用し、600nmで測定された。50%増殖阻害濃度(IC50)は、用量反応曲線から計算して求めた。IC50は、Rのdrcパッケージに実装されている4パラメーターの対数ロジスティック方程式を再パラメーター化して、尤度比検定によって有意差を検定した。rstanパッケージ(https://mc-stan.org/users/interfaces/rstan)を使用したマルコフチェーンモンテカルロ法によってパラメーターを推定した。
4重変異株のIC50が3Δ株のものと有意に異なるかどうかを調べるために、完全モデルと帰無モデルの間の尤度比検定を行った。完全モデルと帰無モデルでは、3Δと4重変異株(mms1Δ、mms22Δ、rtt101Δ、rtt107Δ、rtt109Δ、ctf1Δ8、rad51Δ、rad52Δ、rad54Δ、rdh54Δ、又はsrs2Δ)の違いを想定しており、完全モデルと各帰無モデルの自由度の差は1であった。
仮説検定の確率p値は、尤度比が自由度1のカイ2乗分布に従うと仮定して、IC50が3Δよりも高い株はカイ2乗分布の下側から、IC50が3Δよりも低い株はカイ2乗分布の上側から計算し、その後ボンフェローニ補正を行った(n=11)。
【0053】
[結果]
結果を図4図8に示す。
ポアシジエンは、ポアシン酸よりも低濃度で出芽酵母に対する抗真菌活性を示し(図4)、ポアシジエンのコントロール(3Δ)に対する50%阻害濃度(IC50)は26.4μg/mL(28.3μM)であった。
【0054】
ハイスループットな形態学的プロファイリングにより、ポアシジエンで処理した出芽酵母の細胞は17個の遺伝子欠失変異株と有意に類似しており(ガウス分布による1標本上部棄却域検定、FDR=0.05)、1637の非必須遺伝子の欠失変異株の中で二本鎖切断の組換え修復に関与するRAD54遺伝子の欠失株と最も高い形態類似性を示した。ポアシジエン処理細胞とrad54Δの間の相関係数は0.559であった(ガウス分布による1標本上部棄却域検定、p=4.496e-6)(図5)。
遺伝子エンリッチメント解析により、複製修復に関与する「Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体」カテゴリーの欠失変異株が有意に似ていることが明らかになった(ボンフェローニ補正後の尤度比検定、p=1.427e-5)。Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体に関与する4つの遺伝子の中で、RTT101MMS1、及びRTT107遺伝子の欠失株は、ポアシジエン処理細胞と有意に形態が類似していた(図6)。Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体は複製修復にも関与しており、ポアシジエンがDNA損傷応答に関連する細胞経路に影響を与えることを示唆した。
【0055】
また、ポアシジエンの作用メカニズムが組換え修復経路に関連しているかどうかを遺伝学的に調査するために、いくつかの酵母変異株のポアシジエンに対する感受性を調べた結果、Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体のサブユニットをコードする遺伝子が欠失しているすべての変異株は、コントロール株よりもポアシジエンに対して感受性が高いことがわかった(図7)。最も高い感受性を示した変異株はmms22Δで、IC50は16.6μg/mLであった。Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体変異株に加えて、この複合体の上流で働くRtt109をコードする遺伝子の欠失株も、18.9μg/mLのIC50でポアシジエン感受性を示した。組換え修復経路に欠陥のある欠失変異株の中で、rad52Δ、rad54Δ、ctf18Δ、及びrad51Δはすべて有意に感受性が高かった(ボンフェローニ補正後の尤度比検定、p<0.05)。
一方、rdh54Δ及びsrs2Δはコントロール株と同様の感受性を示した。最も形態的に類似した変異株であるrad54Δは、ポアシジエンに対して高い感受性を示したが、形態的類似性とポアシジエン感受性の間には明らかな相関関係は見受けられなかった(図8、スピアマンの順位相関R=-0.350、p=0.266、非相関検定)。
これらの結果は、Cul8-RINGユビキチンリガーゼ複合体と組換え修復経路がポアシジエン耐性の獲得に必要であることを明確に示しており、ポアシジエンの作用メカニズムがDNA損傷応答経路に関連していることを強く示唆した。
【0056】
試験例2 植物病原性糸状菌に対するポアシジエンの抗真菌アッセイ
[方法]
R. solaniA. alternata、及びA. solaniのコロニー成長に対するポアシジエン(PD)の抗真菌活性を寒天希釈平板法によって測定した。活発に成長している真菌プラグ(R. solaniは直径2mm、A.alternataおよびA.solaniは直径5mm)を、DMSOに溶解した各濃度のポアシジエン(R.solaniは0、50、100、200、300μg/mL、A.alternataおよびA.solaniは0、500、1000、1500μg/mL)を含むポテトデキストロース寒天(PDA)培地のペトリ皿の中央に配置した。なお、DMSOを含むPDAプレートを対照プレートとして使用した。これらのプレートを25℃でインキュベートし、菌糸体の放射状成長をR.solaniは24時間後に、A.alternataおよびA.solaniは120時間後にそれぞれ測定した(n=3)。
PD(n=3)による伸長阻害率と±標準誤差は、コロニー直径(mm)に対するガンマ分布を仮定した一元配置分散分析の最尤推定により、コントロールプレート(n=3)での成長と比較して推定した。
【0057】
P. aphanidermatum、及びP. sojaeのコロニー成長に対するポアシジエンの抗真菌活性についても測定した。P. sojaeについてはポテトデキストロースの代わりにコーンミールを用いた。それぞれの固形寒天培養物でのポアシジエンの増殖阻害は、P. aphanidermatumは0、50、100、200、300μg/mL、P. sojaeは0、500、1000、1500μg/mLのポアシジエンで複製プレート(n=3)を作製することによって評価された。P. aphanidermatum、及びP. sojaeの活発に増殖するプラグをプレートに接種し、室温で培養した。接種に使用したプラグの直径はP. aphanidermatumは2mmでP. sojaeは5mm、P. aphanidermatumの菌糸の直径は、15時間の培養後に測定した。
PD(n=3)による伸長阻害率と±標準誤差は、コロニー直径(mm)に対するガンマ分布を仮定した一元配置分散分析の最尤推定により、コントロールプレート(n=3)での成長と比較して推定した。
【0058】
[結果]
結果を図9及び図10に示す。
ポアシジエンは、イネ紋枯病を引き起こす真菌であるR. solaniの増殖を50μg/mLで阻害し、リンドウ黒斑病の原因菌A. alternataとジャガイモ夏疫病菌として知られるA. solaniの増殖も濃度依存的に阻害することが明らかとなった(図9)。さらに、ポアシジエンは、卵菌でトマト根腐病を引き起こすP. aphanidermatum及びダイズ茎疫病を引き起こすP. sojaeの伸長も阻害することがわかった(図10)。
図1
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図7
図8
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図10