(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003158
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】蛍光イメージング装置
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20221228BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221228BHJP
G02B 21/36 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
G02B21/00
G01N21/64 E
G02B21/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104163
(22)【出願日】2021-06-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (Trans-scale-scope to find rare cellular activity in sub-million cells) 発行日:令和 2年 6月30日 〔刊行物等〕 (Exploring rare cellular activity in more than one million cells by a trans-scale-scope) 発行日:令和 3年 3月 2日
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】永井 健治
(72)【発明者】
【氏名】市村 垂生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 克昌
(72)【発明者】
【氏名】橋本 均
(72)【発明者】
【氏名】垣塚 太志
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043DA05
2G043DA08
2G043EA01
2G043FA01
2G043JA02
2G043LA03
2H052AA09
2H052AC08
2H052AC14
2H052AD20
2H052AD34
2H052AE13
2H052AF07
2H052AF14
2H052AF25
(57)【要約】
【課題】高分解能と広視野とを両立し、しかも汎用性が高い蛍光イメージング装置を実現すること。
【解決手段】テレセントリック光学系レンズ10と、撮像デバイス20と、蛍光フィルタ61と、画像処理手段とを備え、前記画像処理手段は、前記テレセントリック光学系レンズを介して前記撮像デバイスで撮像された測定対象物の画像データを取り込み、取り込んだ前記画像データに基づいて、前記測定対象物の視野全体の観察画像と、前記測定対象物の視野内の所定の領域におけるミクロンオーダー以下で隣接する2点を空間分解する解析画像とを取得可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレセントリック光学系レンズと、撮像デバイスと、蛍光フィルタと、画像処理手段とを備え、
前記画像処理手段は、前記テレセントリック光学系レンズを介して前記撮像デバイスで撮像された測定対象物の画像データを取り込み、取り込んだ前記画像データに基づいて、前記測定対象物の視野全体の観察画像と、前記測定対象物の視野内の所定の領域におけるミクロンオーダー以下で隣接する2点を空間分解する解析画像とを取得可能であることを特徴とする、蛍光イメージング装置。
【請求項2】
前記テレセントリック光学系レンズの倍率が5倍以下である、請求項1に記載の蛍光イメージング装置。
【請求項3】
前記測定対象物に照射される照射光が、前記テレセントリック光学系レンズの視野角の外から暗視野照明によって照射される、請求項1または2に記載の蛍光イメージング装置。
【請求項4】
前記測定対象物が、温度とCO2濃度が管理された環境内に配置される、請求項1~3のいずれかに記載の蛍光イメージング装置。
【請求項5】
視野サイズの一辺が10mm以上であり、かつ、3ミクロン以下で隣接する2点を空間分解する解析画像を取得可能な、請求項1~4のいずれかに記載の蛍光イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体細胞などの測定対象物の蛍光現象を測定する蛍光イメージング装置に関し、特に、広い視野による全体観察と、視野に含まれる測定対象物の各部分における高分解能での拡大観察とを両立した汎用性の高い蛍光イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体細胞の蛍光観察には、従来蛍光顕微鏡が用いられている。この蛍光顕微鏡は、測定対象物の蛍光発光を励起する照射光学系、測定対象物を光学的に拡大する結像レンズ系、および、結像レンズ系で得られた測定対象物の拡大画像を画像データとして取得する撮像デバイスとで構成される。
【0003】
蛍光顕微鏡における空間分解能は、結像レンズ系の開口数(NA)とレンズ倍率、および、撮像デバイスの画素サイズによって定まる。一方、観察視野の大きさは結像レンズ系の視野数とレンズ倍率、および、撮像デバイスの全体サイズによって定まる。
【0004】
蛍光顕微鏡における、空間分解能と視野の広さとはトレードオフの関係にあって、高分解能結像レンズ系を用いると視野は狭くなり、反対に、広い視野を確保すると分解能が低下する。現在使用されている蛍光顕微鏡として、例えば、撮像デバイスとして画素サイズが6.5μmの2K-CMOSカメラを用いた場合に、40倍、NA0.95の高倍率レンズを用いると波長500nmにおいて分解能は300nmを確保できるが視野は450μmに留まる。反対に、レンズ倍率が2倍、NA0.10の低倍率レンズを用いると分解能は6.5μmであるが視野は9mmと広くなる。
【0005】
近年、高分解能と広い視野とを両立させることを目的として、イギリスストラスクライド大学では、Mesolensと呼ばれる巨大なレンズを作成して、6mm×6mmの広視野で0.7μmの高分解能の蛍光イメージング顕微鏡を提案している(非特許文献1参照)。また、中国精華大学では、巨大な対物レンズとアレイ化されたCMOSカメラを用いて、12mm×10mmの視野と0.92μmの高分解能を実現したRUSHと呼ばれるイメージング装置を提案している(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】McConnell, G and Amos, W.B. “Application of the Mesolens for subcellular resolution imaging of intact larval and whole adult Drosophila Imaging intracellular fluorescent proteins at nanometer resolution” Journal of Microscopy, Vol. 270, Issue 2 2018, pp. 252-258
【非特許文献2】Zheng G el al. "0.5 gigapixel microscopy using a flatbed scanner" Biomedical Optics Express, Vol. 5, Issue 1 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の観察手法によれば、いずれも高分解能、かつ、広視野での蛍光イメージング観察を行うことができる。しかし、上記いずれの方法とも、レンズが巨大で高額であるために、試作した研究機関が自ら使用するものに留まり、コスト面や量産性の問題から商品化を行うなどの汎用性には欠けるものであった。
【0008】
そこで本願は、上記した従来の課題を解決して、高分解能と広視野とを両立し、しかも汎用性が高い蛍光イメージング装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願で開示する蛍光イメージング装置は、テレセントリック光学系レンズと、撮像デバイスと、蛍光フィルタと、画像処理手段とを備え、前記画像処理手段は、前記テレセントリック光学系レンズを介して前記撮像デバイスで撮像された測定対象物の画像データを取り込み、取り込んだ前記画像データに基づいて、前記測定対象物の視野全体の観察画像と、前記測定対象物の視野内の所定の領域におけるミクロンオーダー以下で隣接する2点を空間分解する解析画像とを取得可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願で開示する蛍光イメージング装置は、テレセントリック光学系レンズを介して撮像デバイスで撮像された画像データから、画像処理手段によって、測定対象物の所望する領域の拡大画像を取得することができる。このため、広い視野角の全体画像に加えて、視野内のいずれの部分においてもほぼ均一な、かつ、高い分解能の解析画像に基づいて、蛍光イメージング観察を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置の全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置の照射光の照射について説明するイメージ図である。
【
図3】
図3は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置の、視野中央部分と周辺部分とにおける200nmビーズの解析画像からのプロファイルを示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置での生体細胞の観察例を示す図である。
図4では、測定対象物の全体像を示す。
【
図5】
図5は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置での生体細胞の観察例を示す図である。
図5は、
図4中Aで示した部分の画像処理による拡大像を示す。
【
図6】
図6は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置での生体細胞の観察例を示す図である。
図6は、
図4中Bで示した部分の画像処理による拡大像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の蛍光イメージング装置は、テレセントリック光学系レンズと、撮像デバイスと、蛍光フィルタと、画像処理手段とを備え、前記画像処理手段は、前記テレセントリック光学系レンズを介して前記撮像デバイスで撮像された測定対象物の画像データを取り込み、取り込んだ前記画像データに基づいて、前記測定対象物の視野全体の観察画像と、前記測定対象物の視野内の所定の領域におけるミクロンオーダー以下で隣接する2点を空間分解する解析画像とを取得可能である。
【0013】
このようにすることで、本開示の蛍光イメージング装置は、テレセントリック光学系レンズによって得られた歪の少ない光学像を高画素数・小画素サイズの撮像デバイスによって高分解能を有した画像データとして取得することができ、画像処理手段によって、測定対象の視野内の全体像や、任意の一部分のミクロンオーダー以下で隣接する2点を空間分解可能な高分解能な画像など、所望する解析画像を得ることができる。また、光学レンズ系として、工業製品の検査装置などに汎用されているテレセントリック光学系レンズを用いることで、汎用性の高い蛍光イメージング装置を実現することができる。
【0014】
本開示の蛍光イメージング装置において、前記テレセントリック光学系レンズの倍率が5倍以下であることが好ましい。このようにすることで、光学的収差の少ない光学像を取得することができるというテレセントリック光学系レンズ特徴を最大限に活かすことができ、撮像デバイスで取得された撮像画像の全域にわたって、高分解能での解析画像を得ることができる。
【0015】
また、前記測定対象物に照射される照射光が、前記テレセントリック光学系レンズの視野角の外から暗視野照明によって照射されることが好ましい。このようにすることで、撮像画像における測定対象物の発光のS/N比が向上するとともに、測定対象物に所望する波長(色)の照射光を容易に照射することができる。
【0016】
さらに、前記測定対象物が、温度とCO2濃度が管理された環境内に配置されることが好ましい。このようにすることで、測定対象物である細胞等の生体物質のコンディションを維持することができる。
【0017】
さらにまた、本願で開示する蛍光イメージング装置としては、視野サイズの一辺が10mm以上であり、かつ、3ミクロン以下で隣接する2点を空間分解する解析画像を取得可能なことが好ましい。このようにすることで、測定対象物として一定以上の大きさを有するものについて、その全体像とともに、各部分での1細胞レベル以上の高い分解能での蛍光観察を行うことができる。
【0018】
(実施の形態)
以下、本開示にかかる蛍光イメージング装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置の構成を説明するための外観斜視図である。
【0020】
図1に示す蛍光イメージング装置100は、テレセントリック光学系レンズ10と、撮像デバイス20とを備え、生体細胞(90:
図2参照)などの測定対象物の蛍光画像を、テレセントリック光学系レンズ10を介して撮像デバイス20によって取得する。なお、撮像デバイス20で取得された測定対象物の画像データは、図示を省略する画像処理部におけるデータ処理によって、撮像視野内の全体像として示されたり、一部分を拡大した拡大像として示されたりして、ユーザが所望する画像データを出力することができる。
【0021】
テレセントリック光学系レンズ10は、光軸と主光線とが平行になるように設定されたレンズで、視野にある物体との距離にかかわらず、物体の大きさを正確に表すことができるため、工業製品の検査装置などに使用されている。本願で開示する蛍光イメージング装置100においては、従来の蛍光顕微鏡に用いられる非テレセントリック光学系では回避不可能な視野周辺部分での光学的収差等がほとんど生じない点に着目して、測定対象物の画像データを取得する光学レンズとしてテレセントリック光学系レンズを用いている。
【0022】
本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100においてテレセントリック光学系レンズ10を用いるのは、上述のように、視野の全範囲において像面湾曲や歪曲収差などの光学収差に起因する取得画像の歪を回避するためであるため、使用するテレセントリック光学系レンズ10としては、低倍率のものがより画像歪が少ないため好ましい。具体的には、レンズ倍率が5倍以下であることが好ましく、レンズ倍率が1倍から2倍のテレセントリック光学系レンズ10を用いることがさらに好ましい。また、測定対象物の広い領域の全体画像を取得するという観点からも、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置に使用されるテレセントリック光学系レンズ10としては、5倍以下のものが好ましい。
【0023】
なお、テレセントリック光学系レンズ10としては、工業製品の検査装置用として市販されているものを用いることができる。特に、マクロタイプの検査装置用テレセントリック光学系レンズが好適に使用できる。
【0024】
撮像デバイス20は、CMOSやCCDなどの微細な撮像画素がマトリクス状に配置され、それぞれの画素での光電変換によって撮像画像を形成する一般的な撮像素子を使用できる。なお、本願で開示する蛍光イメージング装置100では、上述したテレセントリック光学系レンズ10を介して撮像デバイス20により取得された画像データに基づいて、データ処理によりミクロンオーダー、すなわち、5μm以下で隣接する2点を空間分解する分解能を有する解析画像を取得可能とする。このため、使用される撮像デバイス20は、5μmの半分の2.5μm以下のサンプリング周期が必要となり、その画素サイズは、テレセントリック光学系レンズの倍率をMとしたとき2.5Mμm以下が必要となる。
【0025】
また、画素サイズと画素数とは、使用される撮像デバイス20の撮像領域の大きさにも影響を与える。本実施形態に示す蛍光イメージング装置100では、上述のようにテレセントリック光学系レンズ10として工業製品の検査用のものを使用できるため、市販されているテレセントリック光学系レンズに対応している、APS-Hサイズ(対角33mm)や35mmフルサイズ(対角44mm)の規格化された撮像デバイス20を用いることができる。
【0026】
図1に示すように、所定の波長(一例として、波長385nm、470nm、525nm)をそれぞれ照射する照射光源31(31a、31b、31c)から照射された照射光(励起光)36は、ダイクロイックミラー32a、32b、第1レンズ33、第2レンズ34、ミラー35を介して、測定対象試料90に照射される。
【0027】
照射光源31としては、LED素子やキセノンランプなどを光源とし、さらに必要に応じてフィルタを介することで、所望される波長の照射光を実現する。
【0028】
図2は、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100における、測定対象物への照射光の照射の様子を示すイメージ図である。
【0029】
図2に示すように、照射光36は、テレセントリック光学系レンズ10のNA(一例としてθ=7°)の外から、より大きな角度α(一例として角度35°)で入射する暗視野照明として、サンプルディシュ71のカバーガラス72aを介して測定対象物90に照射される。
【0030】
従来の蛍光顕微鏡で用いられている落射照明ではなく、暗視野照明として照射光が照射されることで、レンズ可動域が大きなテレセントリック光学系レンズ10を用いても撮像画像における影響がなく、取得される画像データのコントラストが向上して高いS/N比が実現できる。また、暗視野照明を採用することで、撮像レンズ光学系内にハーフミラなどの照射光を測定対象物に照射するための機構が不要となり、市販のテレセントリック光学系レンズ10をそのまま使用することができる。さらに、撮像光学系の外部から照射光を照射する構成にすることによって、上述した照射光源31からミラー35までの照射光36を照射する照射光学系を、画像データを取得するための撮像光学系とは切り離して設計できるため、照射光の波長の変更などの修正を容易に行うことができる。
【0031】
なお図示は省略するが、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100では、落射照明としての白色光LEDを用いた別光源を有していて、明視野イメージングはこの別光源からの照射光A(
図1参照)によって行う。
【0032】
測定対象物90としての試料は、載置テーブル41と、この載置テーブル41の位置をそれぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に微調整可能な調整機構42(42a、42b、42c)とを備えた載置ステージ40上に配置される。
【0033】
また、テレセントリック光学系レンズ10は、鉛直方向に移動可能な昇降機構50に取り付けられていて、測定対象物90である試料との大まかな位置調整が行われた後に、載置ステージ40の位置が調整されて、レンズの視野内に測定対象物の所望部分が入るように調整される。
【0034】
なお、蛍光イメージング観察に必要な蛍光フィルタ61の配置機構60として、従来用いられているフィルタ切り替え方式のもの(符号62)や、いわゆるリボルバー方式のもの(符号63)を適宜採用することができる。本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100では、照射光36の波長と蛍光フィルタ61との組み合わせを変えることで、マルチカラーでの蛍光観察が可能となる。
【0035】
本実施形態の蛍光イメージング装置100では、測定対象物90として生体細胞が用いられることを考慮して、測定対象物90を収容するサンプルディシュ71が恒温槽72内に配置され、恒温槽72内部の空間をCO2ガス雰囲気とするためのガス供給ホース73が配置されている。
【0036】
なお、テレセントリック光学系レンズ10と、テレセントリック光学系レンズ10と一体化されて配置された撮像デバイス20とを昇降させる昇降機構50は、支持台に82に固定された支柱81の一側面を昇降可能に配置され、観察対象物90が載置される載置ステージ40、蛍光観察のための蛍光フィルタ61もそれぞれ支柱81の同一側面に固定されている。
【0037】
図3に、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置により蛍光ビーズを撮像した画像データから解析されたプロファイルを示す。
【0038】
より具体的には、まず観察対象物90として直径200nm、中心波長520nmの蛍光ビーズを複数個用意し、これを撮像光学系の視野内にランダムに分散させた。この分散された状態の蛍光ビーズを、照射光源31として中心波長470nmのLEDを使用して撮像画像を取得した。このとき使用した蛍光イメージング装置100における撮像デバイス20は、画素数1.2億(有効画素数13264×9180)、画素(ピクセル)サイズ2.2μm、チップサイズが29.2mm×20.2mmのAPS-Hサイズのものであり、テレセントリック光学系レンズ10は倍率が2倍のものである。なお、このときの視野サイズは14.6mm×10.1mm(対角17.8mm)となった。
【0039】
得られた蛍光ビーズの撮像画像から、撮像視野の中心部分のビーズと、撮像視野のコーナー近傍のビーズについて、それぞれy軸方向における発光強度分布を解析した。
図3(a)が撮像視野の中央部分、
図3(b)が撮像部分のコーナー近傍部分のビーズについてのデータを示す。それぞれのデータにおいて、a、a’として示す丸印が当該位置での発光強度の実測値を示している。実測値は、撮像デバイス20の各画素における発光強度を表していて、1.1μm間隔での解析結果が得られている。この実測データに対し、ガウスフィット法により得られた発光強度分布曲線を、それぞれb、b’として示している。
【0040】
図3(a)、
図3(b)に示す発光強度分布曲線の半値全幅(FWHM)は、図中に矢印で示した部分であり、
図3(a)に示す視野中央部分で2.25μm、
図3(b)に示す視野の周辺部分で2.28μmと、両者でほぼ等しい。この結果から、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100によれば、視野内のいずれの部分においても、数ミクロン離れて接する蛍光を検出できる撮像画像が取得でき、蛍光イメージング装置100の空間分解能がミクロンオーダー以下で隣接する2点を分解可能であることが確認できた。
【0041】
なお、上記実際の測定結果から得られたFWHMの値は、使用されたテレセントリック光学系レンズのNA=0.12、蛍光ビーズの発光波長λ=520nmから求められた理論的なPSF(=0.50λ/NA)のFWHMによって計算された理論値、2.17μmに近いことも確認できた。
【0042】
また、図示しての説明は省略するが、発明者らは、
図3に示した平面内での空間分解能の測定と同時に、サンプルである蛍光ビーズからの発光のY軸方向の発光強度分布を取得して、蛍光ビーズからレンズまでの間のZ方向の分解能についても解析した。上記の通りNA=0.12とNAが低いテレセントリック光学系レンズ10を用いたために、焦点深度は横断面よりもはるかに長く、視野の中央部で実測値が62.4μm、ガウスフィット法による計算値が64.0μm、コーナー近傍部で実測値が69.4μm、計算値が64.2μmであることが確認できた。
【0043】
この結果から、測定対象物90とテレセントリック光学系レンズ10との間に存在する、カバーガラス72a(一例として厚さ170μm)と厚さが例えば2mmのフィルタ61による球面収差はほぼ無視できることが確認できた。
【0044】
以上の検討結果から、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100では、視野内の全域においてほぼ均一な空間分解能が実現できていることが確認できた。
【0045】
図4~
図6に、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置を用いた細胞観察の例を示すマウス脳の解析結果を示す。
【0046】
本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100では、照射光源31と、蛍光フィルタ61の組み合わせを複数、特に3以上の波長において順次切り替えることによって、測定対象物90のマルチカラーでの蛍光イメージングが可能となる。
【0047】
図4は、マルチカラー蛍光イメージング観察の例として、厚さ25μmにスライスされたセンチメール幅の大きさを有するマウス脳の全体像を示している。
【0048】
図5は、
図4中に領域Aとして示す部分(大脳皮質)の画像を画像処理により拡大したものであり、
図5(a)が全体画像の5倍、
図5(b)がさらにその5倍(合計25倍)に拡大した図である。
【0049】
図6は、
図4中に領域Bとして示す部分(海馬)の画像を画像処理により拡大したものであり、
図6(a)が全体画像の5倍、
図6(b)がさらにその5倍(合計25倍)に拡大した図である。
【0050】
図4~
図6に示す観察画像では、興奮性投射ニューロンで発現するtdTomato(赤)、抑制性介在ニューロンで発現するEGFP(緑)、核DNAに結合したHoechst33342(青)の蛍光強度をそれぞれ表している。なお、3つのカラーチャネルは、3つのLED波長(中心波長:525nm、470nm、385nm)を使用して励起され、各チャネルの露光時間は2秒とした。
【0051】
図4から、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100の視野内におけるマウス脳の全体の解析画像が、また、
図5、および、
図6からは、特定の2つの領域(大脳皮質、海馬)の拡大画像を得ることができることが確認された。
図5(b)、
図6(b)に示す25倍の拡大画像では、単一の神経細胞や神経突起の分布を観察することができた。
【0052】
このように、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100では、一度の画像データの取得によって視野内の各部分における拡大された画像データを取得できるため、測定対象物の各領域での拡大画像それぞれをマルチカラーで取得する必要が無い。このため、測定対象物90の全領域におけるマルチカラー観察を行うための3色の画像データを数秒で取得することができる。このような、高速でのデータ取得とデータ解析が可能であるため、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100では、従来の蛍光顕微鏡観察で必要であった画像データの所得時間を大幅に低減することができる。
【0053】
また、上述のように、センチメートルオーダーのスライス脳の全体を一度に観察できるため、近年の神経科学分野で重視されている全脳イメージングにも高速で対応することができる。
【0054】
さらに、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100の、広視野で、かつ、視野内全域でのミクロンオーダーでの拡大画像データを同時に取得できるという特長を活かして、各種のタイムラプス観察も効果的に行うことができる。特に、視野内の測定対象物の部分部分によって変化状態が異なるような場合や、視野内の測定対象物全体での変化の数をカウントする場合など、広視野かつ高分解能の蛍光イメージング装置100でしか行えない観察が多数想定される。
【0055】
以上述べたように、本実施形態にかかる蛍光イメージング装置100は、入手が容易なテレセントリック光学系レンズと高解像度の撮像デバイスとを利用して、従来の蛍光顕微鏡観察ではなしえなかった、広視野でかつ高分解能での蛍光観察が可能な観察装置を実現することかできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願で開示する蛍光イメージング装置は、広視野と高分解能を両立させた汎用性の高い蛍光観察装置として、生命科学分野をはじめとする各種分野での研究への貢献が期待できる。
【符号の説明】
【0057】
10 テレセントリック光学系レンズ
20 撮像デバイス
61 蛍光フィルタ
100 蛍光イメージング装置