(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031637
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20230302BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230302BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20230302BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C22B5/02
C22B1/02
C22B15/00
C22B23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137251
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 友哉
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA15
4K001DA05
4K001GA07
4K001GA19
4K001HA01
4K001HA09
(57)【要約】
【課題】効率的にかつ高い回収率で有価金属を回収することができる有価金属の回収方法を提供する。
【解決手段】本発明は、有価金属を含む原料からその有価金属を回収する方法であって、原料を準備する準備工程と、原料を熔融炉に装入しその原料を加熱熔融して合金とスラグとを得る熔融工程と、スラグを分離して有価金属を含有する合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、熔融工程では、正極と負極とがセパレータで絶縁された状態で巻き取られた電極体であって負極に炭素が用いられた捲回体のスクラップを還元剤として投入し、酸化還元度を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を含む原料から該有価金属を回収する方法であって、
前記原料を準備する準備工程と、
前記原料を熔融炉に装入し、該原料を加熱熔融して合金とスラグとを得る熔融工程と、
前記スラグを分離して有価金属を含有する合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、
前記熔融工程では、正極と負極とがセパレータで絶縁された状態で巻き取られた電極体であって負極に炭素が用いられた捲回体のスクラップを還元剤として投入して酸化還元度を調整する、
有価金属の回収方法。
【請求項2】
前記熔融工程では、前記原料を加熱熔融した後の熔体に、前記捲回体のスクラップを還元剤として投入して酸化還元度を調整する、
請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記熔融工程では、前記原料を加熱熔融する際に、フラックスを添加する、
請求項1又は2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記熔融工程では、前記熔体中の酸素分圧を、10-14atm以上、10-11atm以下の範囲に制御する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の有価金属の回収方法。
【請求項5】
前記原料を酸化焙焼する酸化焙焼工程をさらに有し、
前記酸化焙焼工程を経て得られた酸化焙焼物を、前記熔融工程に供する、
請求項1乃至4の何れかに記載の有価金属の回収方法。
【請求項6】
前記有価金属は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金からなる、
請求項1乃至5の何れかに記載の有価金属の回収方法。
【請求項7】
前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、
請求項1乃至6のいずれかに記載の有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。
【0003】
例えば、外装缶は、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)等の金属からなる。負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータは、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む。
【0004】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため、自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みとなっている。また、製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する)を資源として再利用することが求められている。
【0005】
再利用の手法として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属については極力酸化してスラグとする一方で、有価金属についてはその酸化を極力抑制して合金として回収する。
【0006】
このように酸素親和力の差を利用して有価金属を分離回収する乾式製錬プロセスでは、熔融処理に際しての酸化還元度のコントロールが非常に重要である。酸化還元度のコントロールが不十分であると、有価金属として回収すべき合金に不純物が混入する。または、不純物として回収するはずのスラグに酸化した有価金属が取り込まれるといった問題が生じ、有価金属の回収率を低下させてしまう。そのため、乾式製錬プロセスでは、熔融炉に空気や酸素等の酸化剤や還元剤を導入することにより酸化還元度をコントロールすることが行われている。
【0007】
例えば、特許文献1には、乾式法による廃リチウムイオン電池からのコバルトの回収方法に関して、廃リチウムイオン電池を熔融炉に投入して酸素により酸化するプロセスが提案されている。また、特許文献2には、廃リチウムイオン電池を熔融する際に、SiO2及びCaOを添加してスラグの融点を下げることでメタルとスラグの分離を促進し、次いで、スラグを分離した後のメタルに酸素を吹込みながらCaOを添加することでリンを除去する脱リン工程を設けたプロセスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5818798号公報
【特許文献2】特許第5853585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、熔融処理時に空気や酸素を導入して酸化還元度をコントロールすることは従来から提案されているものの、その手法には改良の余地があった。例えば、特許文献1には、コバルトを高い回収率で回収できるとされているものの、リンの除去についての記述はない。したがって、この文献で開示されるプロセスで、有価金属の回収及びリンの除去を安定的且つ効率的に行うことができるか否かについては不明である。また、特許文献2に開示のプロセスでは、脱リン工程を別途設ける必要があるため、製造コストが高くなる問題がある。
【0010】
また、従来、石炭やコークス等の炭素原子を含む還元剤(炭素質還元剤)が多用されているが、炭素質還元剤は熔融したスラグとの濡れ性が非常に悪く、還元反応が進みにくいという問題がある。具体的には、熔融処理において、還元剤として添加した炭素質還元剤はスラグからはじかれてしまい、スラグ上で発火することが多く、スラグからの有価金属の回収が困難となる問題がある。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点を克服するために完成されたものであり、効率的にかつ高い回収率で有価金属を回収することができる有価金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料を加熱熔融する処理において、正極と負極とがセパレータで絶縁された状態で巻き取られた電極体であって負極に炭素が用いられた捲回体のスクラップを還元剤として投入して酸化還元度を調整することで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1の発明は、有価金属を含む原料から該有価金属を回収する方法であって、前記原料を準備する準備工程と、前記原料を熔融炉に装入し、該原料を加熱熔融して合金とスラグとを得る熔融工程と、前記スラグを分離して有価金属を含有する合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、前記熔融工程では、正極と負極とがセパレータで絶縁された状態で巻き取られた電極体であって負極に炭素が用いられた捲回体のスクラップを還元剤として投入して酸化還元度を調整する、有価金属の回収方法である。
【0014】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記熔融工程では、前記原料を加熱熔融した後の熔体に、前記捲回体のスクラップを還元剤として投入して酸化還元度を調整する、有価金属の回収方法である。
【0015】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記熔融工程では、前記原料を加熱熔融する際に、フラックスを添加する、有価金属の回収方法である。
【0016】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記熔融工程では、前記熔体中の酸素分圧を、10-14atm以上、10-11atm以下の範囲に制御する、有価金属の回収方法である。
【0017】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記原料を酸化焙焼する酸化焙焼工程をさらに有し、前記酸化焙焼工程を経て得られた酸化焙焼物を、前記熔融工程に供する、有価金属の回収方法である。
【0018】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記有価金属は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金からなる、有価金属の回収方法である。
【0019】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、有価金属の回収方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池等の有価金属を含有する原料から、効率的に、高い回収率で有価金属を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0023】
≪1.有価金属の回収方法≫
本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池等の有価金属を含む原料から、その有価金属を分離回収する方法である。
【0024】
具体的に、この回収方法は、以下の工程;有価金属を含む原料を準備する工程(準備工程)と、準備した原料を熔融炉に装入し、加熱熔融して合金とスラグとを得る工程(熔融工程)と、得られた熔融物からスラグを分離して有価金属を含有する合金を回収する工程(スラグ分離工程)と、を有する。そして、熔融工程では、正極と負極がセパレータで絶縁された状態で巻き取られた電極体であって負極に炭素が用いられた捲回体のスクラップを還元剤として投入して、酸化還元度を調整することを特徴としている。
【0025】
ここで、有価金属は回収対象となるものであり、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。また、その原料においては、リン(P)が含まれていてもよい。また、本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる回収方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0026】
以下に、この回収方法の工程について詳細に説明する。
【0027】
[準備工程]
準備工程では、有価金属を含む原料として準備する。この原料は、後述する熔融工程での加熱熔融処理の処理対象となるものであり、熔融炉に装入される装入物である。
【0028】
原料に含まれる有価金属は、上述したように回収対象となるものであり、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種である。また、原料においては、これらの有価金属成分(Cu、Ni、Co等)を金属や元素の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでもよい。また、原料においては、これら有価金属成分(Cu、Ni、Co等)以外の他の無機成分や有機成分を含んでもよい。
【0029】
原料は、その対象が特に限定されない。一例として、廃リチウムイオン電池、誘電材料又は磁性材料を含む電子部品、電子機器が挙げられる。また、後続する工程での処理に適したものであれば、その形態も限定されない。また、準備工程において、原料に対して粉砕処理等の処理を施して、適した形態にしてもよい。さらに、準備工程において、原料に対して熱処理や分別処理等の処理を施し、水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
【0030】
[酸化焙焼工程]
必要に応じて、後続する熔融工程での処理に先立ち、原料を酸化焙焼(予備加熱)して酸化焙焼物(予備加熱物)にする工程(酸化焙焼工程)を設けてもよい。
【0031】
酸化焙焼工程では、原料を酸化焙焼することによってその原料に含まれる炭素を減少させる。このような酸化焙焼工程を設けることで、原料が炭素を過剰に含む場合であっても、その炭素を効果的に酸化除去して、後続する熔融工程での有価金属の合金一体化を促進させることができる。
【0032】
すなわち、熔融工程における加熱熔融の処理では、原料に含まれる有価金属を還元して局所的な熔融微粒子とするが、炭素がその原料に含まれる場合、その炭素が、熔融微粒子(有価金属)が凝集する際の物理的な障害になることがある。そして、熔融微粒子の凝集一体化が妨げられると、生成する合金とスラグの分離を妨げ、有価金属の回収率の低下をもたらすことがある。これに対して、加熱熔融の処理に先立ち酸化焙焼工程にて原料を酸化焙焼して炭素を除去しておくことで、熔融微粒子の凝集一体化を効率的に進行させ、有価金属の回収率をより一層に高めることが可能になる。また、リンは比較的還元されやすい不純物元素であるため、原料中に炭素が過剰に存在すると、リンが還元されて有価金属と共に合金に取り込まれるおそれがある。その点においても、酸化焙焼によって原料中の過剰な炭素を予め除去しておくことで、合金へのリンの混入を防ぐことができる。
【0033】
なお、予備加熱の処理を行って得られる予備加熱物(酸化焙焼物)の炭素量としては1質量%未満となるようにすることが好ましい。
【0034】
また、予備加熱工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることもできる。予備加熱工程での予備加熱の処理は、熔融工程に供される原料に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)を行うことが望ましい。一方で、予備加熱の処理温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度を容易に制御することができる。そのため、予備加熱の処理において、酸化度をより厳密に調整することができ、酸化のばらつきを抑制することができる。
【0035】
なお、酸化度の調整は、次のようにして行う。上述したように、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。予備加熱工程では、原料中にアルミニウム(Al)が含まれる場合には、そのAlの全量が酸化されるまで酸化を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグへ分配されることがない程度に酸化度を留めることが好ましい。
【0036】
予備加熱の処理は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより、不純物元素である炭素(C)の酸化除去を効率的に行うことができる。また、その酸化剤としては、特に限定されないが、取り扱いが容易であるという点で、酸素含有ガス(空気、純酸素、酸素富化ガス等)が好ましい。また、酸化剤の導入量としては、例えば、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が好ましい。
【0037】
予備加熱の加熱温度は、700℃以上1100℃以下が好ましい。700℃以上であれば、炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、酸化時間を短縮することができる。また、1100℃以下とすることで、熱エネルギーコストを抑制することができ、予備加熱の効率を高めることができる。また、予備加熱温度は、800℃以上であってもよく、900℃以下であってもよい。
【0038】
予備加熱の処理は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また、後続する熔融工程での処理で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。予備加熱炉として、処理対象の原料を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)、流動焙焼炉が挙げられる。
【0039】
[熔融工程]
熔融工程では、準備工程で準備した原料(例えば廃リチウムイオン電池を含む原料)、あるいはその原料を酸化焙焼する酸化焙焼工程を経て得られた酸化焙焼物を熔融炉に装入し、加熱熔融の処理(還元熔融処理)を施して、合金(メタル)とスラグとに分離する。
【0040】
具体的には、熔融工程では、原料を加熱熔融して熔体にする。この熔体は、合金とスラグとをそれぞれ熔融した状態で含む。次いで、得られた熔体を熔融物にする。この熔融物は、合金とスラグとを凝固した状態で含む。合金は、有価金属を主として含む。そのため有価金属とその他の成分とを、それぞれ、合金とスラグとに分離することが可能となる。
【0041】
このことは、付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いことによる。例えば、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまり、アルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため、付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグとなる一方で、有価金属(Cu、Ni、Co等)は還元されてメタル(合金)となる。このようにして、有価金属と付加価値の低い金属とを、合金とスラグとに効率的に分離することができる。
【0042】
熔融工程においては、先ず、原料を加熱熔融することにより熔体とし、続いて、還元剤や酸化剤を添加することで熔体の酸化還元度を制御する。このとき、本実施の形態に係る方法では、この酸化還元度の制御において、還元剤として捲回体のスクラップを用いる。
【0043】
(捲回体のスクラップ)
ここで、本明細書でいう「捲回体」とは、電池の構成材料であり、正極と負極とがセパレータで絶縁された状態で巻き取られた電極体であって、負極に炭素が用いられたものである。また、「捲回体のスクラップ」とは、少なくとも、負極を構成する炭素がシートに巻かれた状態を維持しているものをいい、使用済み廃電池や製造工程で生じた不良品電池のそのものであってもよく、あるいはそれら廃電池を粉砕して炭素がシートに巻かれた状態のみのものであってもよい。
【0044】
捲回体のスクラップは、上述したように、炭素がシートに巻かれた状態のものであるため、炭素が空気と接触しにくく、また炭素単体よりも比重が大きいため、熔体を構成するスラグの中にも入り込みやすく、したがって還元効率がよい。さらに、捲回体において、正極等を構成する銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)も、有価金属として回収対象にすることができ、回収する有価金属の量を増やすことができるメリットがある。
【0045】
このように、原料を加熱熔融して得られた熔体に、還元剤として捲回体のスクラップを用いて熔体の酸化還元度を制御することで、その酸化還元度のコントロールをより的確にかつ効率的に行うことができ、結果として高い回収率で有価金属を回収することができる。また、上述したように、有価金属の回収量を増やすことも可能になる。
【0046】
(還元剤や酸化剤による酸化還元度の制御)
熔融工程では、先ず、原料を加熱熔融して熔体とする段階で還元剤や酸化剤を導入して酸化還元度を制御し、次いで、熔体とした後に、さらに還元剤や酸化剤を導入し、最終的な酸化還元度を制御するようにする。これにより、酸化還元度を目標値に精度よくコントロールして有価金属の回収率を向上させることができる。
【0047】
具体的には、原料を加熱して熔体とする段階では、還元剤や酸化剤はその種類を問わず、公知の手法により導入することができる。例えば、還元剤や酸化剤が固体状物質である場合には、これを原料中や熔体に投入すればよい。また、還元剤や酸化剤がガス状物質である場合には、熔融炉に設けられたランス等の導入口からこれを導入すればよい。その種類としては、還元剤であれば、炭素品位の高い材料(黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等)や一酸化炭素を導入することができる。また、捲回体のスクラップを還元剤として導入してよい。また、酸化剤であれば、酸化性ガス(空気、酸素等)や炭素品位の低い材料を用いることができる。
【0048】
次いで、熔体とした後の段階では、還元剤として捲回体のスクラップを導入するようにする。つまり、捲回体のスクラップを熔体に投入するようにする。例えば、詳しくは後述するが、原料が熔融して熔体になった段階で熔体中の酸素分圧を測定し、その測定結果に基づいて還元剤(捲回体のスクラップ)や酸化剤の導入量を調節し、熔体に投入するようにする。すると、酸化還元度を目標値に精度よくコントロールでき、回収率を向上させることができる。しかも、還元剤として捲回体のスクラップを用いることから、スラグ中にも炭素が容易に導入されるようになり、そのスラグに分配された有価金属を効率的に回収することができる。さらに、捲回体自体に含まれる銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を有価物として回収することもできる。
【0049】
なお、熔体とした後の段階において、還元剤として、黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等の炭素質還元剤を熔体に投入して酸化還元度の制御を行うと、投入した還元剤がスラグからはじかれてスラグ上で発火してしまう可能性がある。このようになると、スラグ中の有価金属を回収することが困難になるほか、熔体中に導入される還元剤量がその分減少してしまい、酸素分圧を十分に低下させることが困難になる。
【0050】
(酸素分圧の測定に基づく酸化還元度の制御)
熔融工程では、酸素分析計を用いて熔体中の酸素分圧を直接測定し、得られた測定結果に基づき酸素分圧を制御することが好ましい。これにより、熔体の酸化還元度をより一層厳密にコントロールすることができ、その結果、有価金属と不純物とを精度よく分離することができる。
【0051】
この点について説明するに、原料の酸化還元度(炭素量、金属の酸化数や量)を予め精度よく把握できていれば、原料調合にあたって配合量を調整するだけで、得られる熔体の酸化還元度をコントロールすることが原理的には可能である。ところが、実際には原料は均一ではなく、原料分析の際にサンプリング誤差も発生し、この誤差によって酸化還元度を目標値にコントロールすることが困難になる。なお、特許文献1では、熔融バスの上でガスを分析する手法が提案されているが、このような手法は測定誤差が大きく信頼性が高いとはいえない。すなわち、酸素が導入されつつある熔融炉の内部では、酸素分圧は平衡状態にはなく常に変動しており、また、場所及び時間による変動も大きい。さらに、雰囲気ガスにダストが含まれる場合には、そのダストがガス分析測定器のプローブに付着し、正確な測定を妨げる恐れがある。そのため、熔融バス上でガス分析する手法では、熔体の酸化還元度(酸素分圧)を正確に求めることが困難である。
【0052】
これに対して、熔体の酸素分圧を直接測定するようにすれば、現実の熔体の酸化還元度をその測定値に正確に反映させることができる。すると、例えば熔体の酸化還元度が目標値からずれている場合には、還元剤や酸化剤を導入することで正確に酸素分圧を制御でき、これによって熔体の酸化還元度を目標値に精度よく合わせることができる。そしてその結果、リンとコバルトのように酸素親和力が近しい元素が熔体に含まれている場合であっても、これらを精度よく分離することが可能になる。
【0053】
熔体中の酸素分圧を直接測定する手法としては、特に限定されない。例えば、酸素センサー(酸素プローブ)に備えた酸素分析計を用い、その酸素センサーの先端が熔体に浸かるようにセンサーを差し込んで測定する手法が挙げられる。酸素センサーとしては、ジルコニア固体電解式センサー等の公知のセンサーを用いればよい。
【0054】
また、酸素分圧の制御方法は、公知の手法で行えばよい。例えば、熔融する原料やそれが熔解した熔体に還元剤や酸化剤を導入することが挙げられる。本実施の形態に係る方法では、還元剤としては、捲回体のスクラップを用いる。また、それと併せて、炭素品位の高い材料(黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等)や一酸化炭素を用いることもできる。また、酸化剤としては、酸化性ガス(空気、酸素等)や炭素品位の低い材料を用いることができる。また、原料のうち炭素品位の低い成分を酸化剤として用いることもできる。
【0055】
熔体中の酸素分圧は、10-14.0atm以上、10-8.0atm以下の範囲に制御することが好ましい。これにより、有価金属をより一層効率的に回収することが可能になる。酸素分圧が10-14.0atm未満では、熔体の還元度が強すぎて、不純物であるリンが還元されて合金に混入する可能性がある。一方で、酸素分圧が10-8.0atmを超えると、有価金属であるコバルトが酸化されてスラグに取り込まれる可能性がある。また、より好ましくは、酸素分圧を10-14.0atm以上10-11.0atm以下の範囲に制御するとよい。
【0056】
(加熱温度)
原料を加熱熔融する際の加熱温度は、特に限定されないが、1300℃以上1500℃以下の範囲とすることが好ましい。加熱温度を1300℃以上にすることで、有価金属(例えばCu、Co、Ni)が十分に熔融し、流動性が高められた状態で熔融状態の合金が形成される。これにより、後述するスラグ分離工程にて合金とスラグとの分離を効率的に行うことができる。また、加熱温度は1350℃以上とすることがより好ましい。一方で、加熱温度が1500℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗が激しくなり、生産性が低下する恐れがある。また、加熱温度は1450℃以下とすることがより好ましい。
【0057】
(フラックスの導入)
また、加熱熔融の処理において、原料にフラックスを導入(添加)してもよい。フラックスを添加することで、熔融処理温度を低温化することができ、また不純物元素としてリン(P)を含む場合にはそのリンの除去をより一層進めることができる。フラックスとしては、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものが好ましい。例えば、リンは酸化すると酸性酸化物になるため、加熱熔融により形成されるスラグが塩基性になるほど、スラグにリンを取り込ませて除去し易くなる。その中でも、安価で常温において安定なカルシウム化合物を含むものがより好ましい。カルシウム化合物として、例えば、酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)を挙げることができる。また、フラックスとして、二酸化珪素(SiO2)を用いてもよい。
【0058】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程では、熔融工程で得られた熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収する。熔融物におけるスラグと合金は、それぞれ比重が異なる。合金に比べて比重の小さいスラグは、熔融物において合金の上部に集まるため、比重分離によって容易にスラグを分離して合金を回収することができる。
【0059】
スラグ分離工程の後、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物あるいは合金を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。さらに、このような乾式製錬プロセスを経て得られた有価金属を含む合金に湿式製錬プロセスを施してもよい。湿式製錬プロセスにより、合金に含まれる不純物成分を除去し、有価金属(例えばCu、Ni、Co)を分離精製してそれぞれを回収することができる。湿式製錬プロセスにおける処理としては、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の手法が挙げられる。
【0060】
以上説明した本実施の形態に係る方法によれば、加熱熔融の処理において酸化還元度のコントロールを的確に行うことができ、不純物元素の合金への取り込みを抑えて、有価金属をより高い回収率で回収することができる。
【0061】
例えば、処理対象の原料にリン(P)が含まれる場合、得られる合金中のリン含有率(メタル中リン品位)を0.50質量%以下、0.10質量%以下、0.05質量%以下、0.03質量%以下、または0.01質量%以下にすることができる。また、有価金属としてコバルト(Co)を含有する場合、そのコバルト(Co)の回収率を90.0質量%以上、95.0質量%以上、96.0質量%以上、または97.0質量%以上にすることができる。なお、コバルト(Co)回収率は、最終的に得られた合金とスラグに含まれるコバルト(Co)の含有量を用いて、下記(1)式にしたがって算出される。
【0062】
【0063】
上述したように、本実施の形態に係る回収方法の処理対象である原料としては、有価金属を含有する限り特に限定されないが、廃リチウムイオン電池を含む原料であることが好ましい。廃リチウムイオン電池は、リチウム(Li)及び有価金属(Cu、Ni、Co)を含むとともに、付加価値の低い金属(Al、Fe)や炭素成分を含んでいる。そのため、廃リチウムイオン電池を含む原料を対象として当該回収方法を適用することで、有価金属を効率的に分離回収することができる。
【0064】
なお、廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0065】
≪2.廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法≫
図1は、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法の流れの一例を示す工程図である。
図1に示されるように、この方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去して廃電池内容物を得る工程(廃電池前処理工程S1)と、廃電池内容物を粉砕して粉砕物とする工程(粉砕工程S2)と、粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物にする工程(酸化焙焼工程S3)と、酸化焙焼物を熔融して熔融物にする工程(熔融工程S4)と、熔融物からスラグを分離して合金を回収する工程(スラグ分離工程S5)と、を有する。
【0066】
また、図示していないが、スラグ分離工程S5の後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物あるいは合金を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。
【0067】
[廃電池前処理工程]
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液等を有している。そのため、そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。何らかの手法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。このように、廃電池前処理工程S1において電解液を除去することで、安全性を高めた処理を行うことができる。
【0068】
廃電池前処理の具体的な方法は、特に限定されない。例えば、針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また、廃電池を加熱して、電解液を燃焼して無害化する手法が挙げられる。
【0069】
[粉砕工程]
粉砕工程S2では、廃リチウムイオン電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2での処理は、乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的にしている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。具体的な粉砕方法は、特に限定されない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。
【0070】
外装缶を構成する金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)を、渦電流を利用したアルミニウム選別機、磁力選別機等により容易に物理選別することができる。また、振とう篩機等により、篩い上として箔状の負極集電体(銅箔等)、あるいは正極集電体(アルミニウム箔等)(以下、「箔状物」ともよぶ)を、篩い下として粉状の負極活物質(黒鉛等)、あるいは正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)(以下、「粉状物」ともいう)を得ることができる。
【0071】
なお、廃電池前処理工程と粉砕工程は、これらを併せて先述する準備工程に相当する。
【0072】
[酸化焙焼工程]
酸化焙焼工程(予備加熱工程)S3では、粉砕工程S2で得られた粉砕物を酸化焙焼(予備加熱)して酸化焙焼物を得る。この工程の詳細は上述したとおりであり、酸化焙焼工程S3にて予備加熱を行うことで、熔融工程S4に供される原料が炭素を過剰に含む場合であっても、その炭素を有効に酸化除去することができ、加熱熔融の処理において有価金属の合金一体化を促進させることができる。
【0073】
[熔融工程]
熔融工程S4では、酸化焙焼工程S3で得られた酸化焙焼物を加熱熔融して合金とスラグとから構成される熔融物を得る。この工程の詳細は上述したとおりである。
【0074】
特に、本実施の形態に係る方法では、原料を加熱熔融して熔体とした後に、その熔体に、正極と負極がセパレータで絶縁された状態で巻き取られた電極体であって負極に炭素が用いられた捲回体のスクラップを還元剤として投入して、酸化還元度を調整する。捲回体のスクラップは、炭素がシートに巻かれた状態のものであるため、炭素が空気と接触しにくく、また、炭素単体よりも比重が大きいため、熔体を構成するスラグの中にも入り込みやすく、したがって還元効率がよい。さらに、捲回体において、正極等を構成する銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)も、有価金属として回収対象にすることができ、回収する有価金属の量を増やすことができるメリットがある。
【0075】
このように、還元剤として捲回体のスクラップを用いて熔体の酸化還元度を制御することで、その酸化還元度のコントロールをより的確にかつ効率的に行うことができ、高い回収率で有価金属を回収することができる。
【0076】
<スラグ分離工程>
スラグ分離工程S5では、熔融工程S4で得られた熔融物において、スラグを分離して合金を回収する。この工程の詳細は上述したとおりである。
【0077】
スラグ分離工程S5の後に硫化工程や粉砕工程を設けてもよい。さらに得られた有価金属合金に対して湿式製錬プロセスをおこなってもよい。硫化工程、粉砕工程及び湿式製錬プロセスの詳細は先述したとおりである。
【実施例0078】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
(1)有価金属の回収
廃リチウムイオン電池を原料として用いて有価金属を回収する処理を行った。回収処理は、以下の工程に従って行った。
【0080】
(廃電池前処理工程及び粉砕工程(準備工程))
処理対象の原料である廃リチウムイオン電池として、使用済み電池及び電池製造工程で回収した不良品を準備した。そして、その廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を除去し、大気中260℃で焙焼して電解液及び外装缶を分解除去して、電池内容物を得た。
【0081】
得られた電池内容物を粉砕機(商品名:グッドカッター,株式会社氏家製作所製)によって粉砕し、粉砕物を得た。
【0082】
(酸化焙焼工程)
得られた粉砕物をロータリーキルンに投入し、大気中800℃で180分間の条件で酸化焙焼を行い、酸化焙焼物を得た。この酸化焙焼物を、次工程の熔融工程での処理において熔融炉に装入して加熱熔融の処理に供する原料とした。
【0083】
(熔融工程)
酸化焙焼物(加熱熔融の処理に供する原料)6720gに、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)及び二酸化珪素(SiO2)を添加し、さらに酸化還元度の調整のために還元剤を添加して、これらを混合した。得られた混合物をアルミナ製坩堝からなる熔融炉に装入し、これを加熱熔融して熔体とした。その後、合金とスラグとを含む熔融物を得た。なお、このとき、還元剤として黒鉛粉を用い、還元剤の添加量を、原料に含まれる有価金属のすべてを還元するのに必要な量(当量)に対して1.1倍量にした。さらに、混合物の加熱(熔融)を1400℃、30分の条件で行った後、スラグをサンプリングしてコバルト(Co)品位を確認した。
【0084】
また、加熱熔融する処理において、酸素分析計を用いて熔体中の酸素分圧を直接測定した。具体的には、酸素プローブ(OXT-O,川惣電機工業株式会社製)を先端に備えた酸素分析計を用い、この酸素プローブの先端が直接熔体に浸かるようにプローブを差し込んだ。なお、この酸素プローブはジルコニア固体電解式センサーを備えていた。そして、酸素分圧の測定値が落ち着くのを待ってから測定値を読み取った。
【0085】
その後、炭素含有量が30gの捲回体のスクラップ120gを熔体に投入し、さらに1400℃、30分の条件で保持して、酸化還元度の制御を行った。捲回体のスクラップ投入後の酸素分圧は10-12.8atmであった。
【0086】
(スラグ分離工程)
得られた熔融物から、比重の違いを利用してスラグを分離して合金を回収した。
【0087】
(2)評価
回収した合金(メタル)及びスラグについて、ICP分析装置(Agilent5100SUDV,アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて元素分析を行った。このとき、最も酸化し易くメタルとしての回収が難しいコバルト(Co)と、メタルからの除去が難しい不純物元素であるリン(P)を分析元素とした。
【0088】
合金(メタル)中のリン(P)の含有量(質量%)をリン品位とした。また、コバルト(Co)の回収率を次のようにして求めた。すなわち、元素分析により求めた合金及びスラグ中のコバルト(Co)含有量を用いて、下記(1)式にしたがってコバルト(Co)回収率を算出した。
【0089】
【0090】
[実施例2]
酸化焙焼物(加熱熔融の処理に供する原料)7020gを加熱熔融して熔体とした後、その熔体に対して、炭素含有量が36gの捲回体のスクラップ120gを投入して酸化還元度の制御を行ったこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0091】
[比較例1]
酸化焙焼物(加熱熔融の処理に供する原料)6720gを加熱熔融したて熔体とした後、その熔体に対して、炭素含有量が30gの黒鉛粉30gを投入して酸化還元度の制御を行ったこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0092】
[比較例2]
酸化焙焼物(加熱熔融の処理に供する原料)7020gを加熱熔融したて熔体とした後、その熔体に対して、炭素含有量が36gの黒鉛粉36gを投入して酸化還元度の制御を行ったこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0093】
(3)結果
下記表1に、実施例1、2、及び比較例1、2について、合金中のリン品位、コバルト回収率、及び熔体に還元剤を投入した後の熔体中の酸素分圧の測定結果を示す。
【0094】
表1に示されるように、実施例1、2では、有価金属であるコバルトの回収率が95%以上であり、かつ得られた合金中のリン品位が0.01質量%未満であった。そして、熔体中の酸素分圧は、実施例1では10-12.8atm、実施例2では10-11.6atmであって、スラグ中のコバルト品位は、実施例1では1.4質量%から0.25質量%へと1.15質量%減少し、実施例2では1.5質量%から0.51質量%へと0.99質量%減少した。
【0095】
このように、実施例1、2では、有価金属であるコバルトを高い回収率で回収することができた。また、捲回体のスクラップを還元剤として投入して最終的な酸化還元度を制御することによって、スラグ中のコバルトの還元反応を十分に進めることができた。つまり、スラグからも効率的に有価金属を回収することができた。
【0096】
これに対して、比較例1、2では、有価金属であるコバルトの回収率が89%以上であり、かつ得られた合金中のリン品位が0.01質量%未満であった。そして、熔体中の酸素分圧は、比較例1では10-8.9atm、比較例2では10-8.8atmであって、スラグ中のコバルト品位は、比較例1では1.4質量%から1.3質量%へと0.1質量%減少し、比較例2では1.5質量%から1.2質量%へと0.3質量%減少した。
【0097】
このように、比較例1、2では、黒鉛粉を還元剤として投入して最終的な酸化還元度の制御を行ったが、黒鉛粉とスラグとの濡れ性が悪く、黒鉛粉がスラグの上に浮いて発火してしまった。このことにより、スラグに含まれるコバルトの還元反応を十分に行うことができなかった。つまり、スラグから効率的に有価金属を回収することができなかった。しかも、黒鉛粉が発火したことにより、黒鉛粉を熔体中の還元反応に対して十分に寄与させることができなかった。このため、リンは問題なく分離除去されていたものの、有価金属であるコバルトの回収率は実施例1、2と比べて低下した。
【0098】