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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031740
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】アンモニアの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/02 20060101AFI20230302BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20230302BHJP
   C01B 6/04 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C01C1/02 A
C01C1/04 C
C01B6/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137414
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】斉間 等
(57)【要約】
【課題】大気圧下において、高い反応速度でアンモニアを合成することができるアンモニア合成方法を提供する。
【解決手段】水素化リチウム(LiH)と窒素(N)とを反応させて、リチウムイミド(LiNH)を生成する工程(A)と、工程(A)で生成されたリチウムイミド(LiNH)を、水素(H)と反応させて、アンモニア(NH)を生成する工程(B)とを含み、工程(A)は、水素化リチウム(LiH)に、該水素化リチウム(LiH)と窒素(N)とが反応する温度において、水素化リチウム(LiH)と反応しない物質を混合して行われる、
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化リチウム(LiH)と窒素(N)とを反応させて、リチウムイミド(LiNH)を生成する工程(A)と、
前記工程(A)で生成されたリチウムイミド(LiNH)を、水素(H)と反応させて、アンモニア(NH)を生成する工程(B)と、
を含み、
前記工程(A)は、前記水素化リチウム(LiH)に、該水素化リチウム(LiH)と窒素(N)とが反応する温度において、前記水素化リチウム(LiH)と反応しない物質を混合して行われる、アンモニアの合成方法。
【請求項2】
前記工程(B)において、水素化リチウム(LiH)が再生され、
前記工程(A)及び前記工程(B)を繰り返すことにより、前記工程(B)で生成されるアンモニア(NH)を連続的に生成する、請求項1に記載のアンモニアの合成方法。
【請求項3】
前記工程(A)において、前記物質は、酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)、硝酸リチウム(LiNO)、 酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化シリコン(SiO)、結晶性グラファイト、及び結晶性窒化ホウ素(BN)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のアンモニアの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧下で合成可能なアンモニアの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素キャリアーとして注目されているアンモニア(NH)の合成は、ハーバー・ボッシュ法による方法が広く行われている。この方法は、鉄を触媒に用いて、水素(H)と窒素(N)からアンモニアを合成する方法であるが、窒素分子が非常に安定しているため、400~600℃、200~400気圧程度の高温、高圧下で行う必要があった。
【0003】
そこで、より温和な条件(低温、低圧)でアンモニア合成が可能な方法が種々検討されており、例えば、非特許文献1には、水素化リチウム(LiH)とNとを反応させて、リチウムイミド(LiNH)を生成し、生成したLiNHとHとを反応させて、NHを生成する方法が開示されている。
【0004】
この方法は、LiNHとHとを反応させてNHを生成する工程において、LiHが再生されるため、2つの反応ステップを繰り返すことによって、NHを連続的に生成することが可能となる。また、LiHとNとの反応ステップにおいて、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等が、窒素を解離する触媒として機能して、反応速度が速められることが示唆されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wenbo Gao et al. Production of ammonia via chemical looping process based on metal imides as nitrogen carriers. Nature Energy. 2018, 3, 1067-1075
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載されたアンモニアを合成する方法は、Ni等が、窒素を解離する触媒として機能するため、反応開始温度を下げることができるが、反応ステップを繰り返す過程で、LiHや触媒が凝集を起こすことによって、LiNHとHとの反応が阻害され、その結果、反応速度が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、その主な目的は、大気圧下において、高い反応速度でアンモニアを合成することができるアンモニア合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアンモニアの合成方法は、水素化リチウム(LiH)と窒素(N)とを反応させて、リチウムイミド(LiNH)を生成する工程と、生成されたリチウムイミド(LiNH)を、水素(H)と反応させて、アンモニア(NH)を生成する工程とを含み、リチウムイミド(LiNH)を生成する工程は、水素化リチウム(LiH)に、水素化リチウム(LiH)と窒素(N)とが反応する温度において、水素化リチウム(LiH)と反応しない物質を混合して行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大気圧下において、高い反応速度でアンモニアを合成することができるアンモニア合成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】LiHとNとの反応における重量変化及び反応収率と、H(m/z=2)のMSスペクトルとを示したグラフである。
図2】LiHとNとの反応により生成された反応生成物のX線回折パターンを示した図である。
図3】LiNHとHとの反応における反応収率と、HH(m/z=17)のMSスペクトルとを示したグラフである。
図4】LiHとNとの反応における反応収率を示したグラフである。
図5】(a)~(c)は、Nと反応させた後の反応生成物のSEM画像である。
図6】LiHとNとの反応を説明した概念図である。
図7】LiHとLiOの混合物とNとの反応における重量変化及び反応収率と、H(m/z=2)のMSスペクトルとを示したグラフである。
図8】LiHとLiOの混合物とNとの反応により生成された反応生成物のX線回折パターンを示した図である。
図9】(a)及び(b)は、Nと反応させた後の反応生成物のSEM画像で、(c)及び(d)は、EDSマッピングを示した図である。
図10】LiHとLiOの混合物とNとの反応を説明した概念図である。
図11】LiNHとHとの反応における反応収率と、HH(m/z=17)のMSスペクトルとを示したグラフである。
図12】LiHとNとの反応における重量変化と、H(m/z=2)のMSスペクトルとを示したグラフである。
図13】LiNHとHとの反応における重量変化と、HH(m/z=17)のMSスペクトルとを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0012】
本実施形態におけるアンモニアの合成方法は、以下の反応式(1)及び(2)で示す2つの工程をベースに行われる。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
まず、反応式(1)に示すように、水素化リチウム(LiH)と窒素(N)とを反応させて、リチウムイミド(LiNH)を生成する。次に、反応式(2)に示すように、生成されたリチウムイミド(LiNH)を、水素(H)と反応させて、アンモニア(NH)を生成する。ここで、反応式(2)に示すように、アンモニア(NH)を生成する工程において、水素化リチウム(LiH)が再生されるため、反応式(1)及び(2)で示す2つの工程を繰り返すことにより、アンモニア(NH)を連続的に生成することができる。
【0016】
上記の反応式(1)及び(2)が化学的に進行していることを、以下に示す方法により検証した。
【0017】
[LiHとNとの反応]
LiHとNとの熱反応特性は、グローブボックス内に設置した熱重量測定(TG)装置(リガク社製、TG8120)を用いて測定し、発生したガスは、TG装置に装備した質量分析(MS)装置(キャノンアネルバ株式会社製、M-QA200TS)を用いて測定した。測定は、0.6mgのLiH(Alfa Aesar社製、純度99.4%)を、1気圧のグローブボックス内で、N(G1グレード)を300cm/分の流量で流しながら、5℃/分のレートで室温から500℃まで加熱し、サンプルの重量変化が飽和するのに十分な時間をかけて行った。
【0018】
図1は、TG装置で測定された重量変化及び反応収率(χN2)と、MS装置で測定されたH(m/z=2)のMSスペクトルとを示したグラフである。ここで、反応収率(χN2)は、以下の式(3)で定義される。式(3)において、WN2は、TG測定によって実験的に得られた重量増加で、Wtheoは、初期サンプル重量からの理論上の重量増加である。
【0019】
【数3】
【0020】
図1に示すように、約400℃から徐々に重量増加が見られ、この重量変化に同期してHの生成が確認された。
【0021】
次に、LiHとNとの熱反応により生成された反応生成物を、X線回折(XRD)装置(リガク社製、RINT 2500V)を用いて同定した。
【0022】
図2は、X線回折の測定結果を示した回折パターンで、(a)は、反応前の測定結果を示し、(b)は反応後の測定結果を示す。なお、(c)は、後述する、反応生成物とHとの反応後の測定結果を示す。ここで、LiHは回折強度が弱いため、LiHの変化を見るために、右側に拡大図を示している。また、(d)及び(e)は、それぞれ、LiH及びLiNHに固有の回折ピークを示す。
【0023】
図2(a)、(b)に示すように、反応前のLiHに対応する回折パターンは、LiNHに対応する回折パターンに変化しているのが分かる。この結果から、LiHとNとの反応は、反応式(1)に従って、LiNHとHとが生成されることが検証された。
【0024】
[LiNHとHとの反応]
LiHとNとの反応により生成されたLiNHと、Hとの熱反応特性を、上記と同じように、TG装置を用いて測定し、また、発生したガスはMS装置を用いて測定した。測定は、生成されたLiNHを、1気圧のグローブボックス内で、H(G1グレード)を300cm/分の流量で流しながら、5℃/分のレートで室温から500℃まで温度を上げて行った。
【0025】
図3は、TG装置で測定された重量変化から求めた反応収率(χNH3)と、MS装置で測定されたNH(m/z=17)のMSスペクトルとを示したグラフである。ここで、上記反応式(1)及び(2)における重量変化の絶対値は、両者とも同じであるため、NHの反応収率(χNH3)は、以下の式(4)で定義される。WN2は、LiHとNとの反応により実験的に得られた重量増加で、WNH3は、LiNHとHとの反応によって実験的に得られた重量減少である。
【0026】
【数4】
【0027】
図3に示すように、約260℃から徐々に重量減少が見られ、この重量減少に同期してNHの生成が確認された。また、約250分で反応収率(χNH3)がほぼ100%に達し、NHの生成が完了した。
【0028】
次に、LiNHとHとの熱反応により生成された反応生成物を、上記と同じように、X線回折を用いて同定した。
【0029】
先に示した図2(c)は、X線回折の測定結果を示した回折パターンである。図2(b)、(c)に示すように、反応前のLiNHに対応する回折パターンは、LiHに対応する回折パターンに変化しているのが分かる。この結果から、LiNHとHとの反応により、NHとLiHとが生成されることが検証された。
【0030】
ところで、図1に示したように、LiHとNとを反応させたときの反応収率(χN2)は、150分の反応時間で、約60%であった。その後、図4に示すように、500℃で約1200分間、反応を続けたが、200分位から反応が鈍化し始め、反応収率は、約80%で飽和した。この結果は、図2(b)の拡大図に示すように、反応後に、LiHに対応する回折ピークが僅かに観察された結果とも一致する。
【0031】
この現象を検討するため、Nと反応させた後の生成物を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製、JSM-6380A)を用いて観察した。
【0032】
図5(a)~(c)は、倍率を変えて撮像したSEM画像で、図5(a)に示すように、生成物(LiNH)が、200μm以上の大きな粒子に粗大化していることが分かる。また、図5(b)に示すように、表面が滑らかなネット状になっていることから、生成物が溶けて隣の粒子と繋がっていると考えられる。また、図5(c)に示すように、高倍率のSEM画像では、シャープなエッジを持つ粒子が観察され、室温までの冷却過程で結晶化したことが示唆される。
【0033】
以上の結果から、図6(a)~(c)の概念図に示すように、LiHとNとの反応は、LiHの表面で進行し、生成物であるLiNHが凝集して、LiHが凝集したLiNHによって覆われるものと推察される。その結果、反応の進行に伴い、LiH内部とNとの接触が阻害されることにより、反応速度が徐々に低下して、反応が飽和したものと考えられる。
【0034】
本願発明者等は、LiHとNとの反応において、LiNHの凝集を抑制して、反応速度を向上させる方法を種々検討した結果、LiHに、反応の足場となる物質を混合することが有効であることを見出し、本発明を想到するに至った。なお、本発明において、LiHに混合する物質として、LiHと反応しない物質を用いるもので、化学反応を伴う触媒を用いた方法とは本質的に異なる。
【0035】
以下、LiHに混合する物質として、酸化リチウム(LiO)を用いた場合を例に、本発明の有効性を説明する。
【0036】
[LiHとLiOの混合物とNとの反応]
まず、LiH(Alfa Aesar社製、純度99.4%)とLiO(光潤堂化学研究所製、純度99%以上)との混合物は、LiH及びLiOを、Ar(G1グレード)を充填したグローブボックス内で、メノウ乳鉢を用いて、1:2のモル比で10分かけて調整した。なお、LiOを混合していない場合と比較するために、LiHの量は0.6mgに固定した。また、LiOに、LiHと反応する不純物(例えば、LiOH等)が含まれていると、LiHと不純物との反応が進む分、LiHとNとの反応収率が低下するおそれがあるため、混合前に、予めLiOを熱処理して不純物を除去しておくことが好ましい。
【0037】
LiHとLiOの混合物とNとの熱反応特性は、上記と同じように、TG装置を用いて測定し、発生したガスは、MS装置を用いて測定した。また、測定も、上記と同じように、LiHとLiOの混合物を、1気圧のグローブボックス内で、Nを300cm/分の流量で流しながら、5℃/分のレートで室温から500℃まで加熱し、サンプルの重量変化が飽和するのに十分な時間をかけて行った。
【0038】
図7のグラフは、TG装置で測定された重量変化及び反応収率(χN2)と、MS装置で測定されたH(m/z=2)のMSスペクトルとを示したグラフである。ここで、Aで示したグラフは、LiOを混合した場合、Bで示したグラフは、LiOを混合していない場合(図1のグラフと同じ)である。図7に示すように、LiOを混合していない場合よりも僅かに低い390℃付近から徐々に重量増加が見られ、この重量変化に同期してHの生成が確認できる。
【0039】
ここで、注目すべきは、約100分で反応収率(χN2)が100%に達しており、LiHにLiOを混合することにより、反応速度が飛躍的に向上していることが分かる。
【0040】
次に、LiHとLiOの混合物とNとの熱反応により生成された反応生成物を、上記と同じように、X線回折装置を用いて同定した。
【0041】
図8は、X線回折の測定結果を示した回折パターンで、(a)は、反応前の測定結果を示し、(b)は反応後の測定結果を示す。なお、(c)は、後述する、反応生成物とHとの反応後の測定結果を示す。また、(d)、(e)、(f)は、それぞれ、LiH、LiNH、LiOに固有の回折ピークを示す。
【0042】
図8(a)に示すように、反応前は、LiH及びLiOに対応する回折パターンが見られるが、LiHのピーク強度は、電子数が少ないため、LiOのピーク強度よりも低くなっている。Nとの反応後は、図8(b)に示すように、LiHに対応する回折パターンは、LiNHに対応する回折パターンに変化しているのが分かる。この結果は、図7に示した高い反応収率(χN2)と一致している。
【0043】
LiHにLiOを混合することにより、Nとの反応速度が飛躍的に向上したメカニズムを検討するため、Nと反応させた後の生成物(LiNH)を、上記と同じように、SEM装置を用いて観察した。
【0044】
図9(a)及び(b)は、倍率を変えて撮像したSEM画像で、図9(c)及び(d)は、それぞれ、図9(a)及び(b)のEDSマッピングを示す。
【0045】
図9(a)に示すように、反応生成物の大きさは50μm以下で、LiOを混合しない場合に観察された反応生成物の大きさ(200μm)よりも小さい。これは、反応過程において、LiNHの凝集を伴わずに反応が進んだものと考えられる。
【0046】
また、図9(c)及び(d)のEDSマッピングに示すように、主に観察された粒子には、酸素(O)が含まれていることから、この粒子がLiOと考えられる。また、窒素(N)がLiOの周囲に小さく分布していることから、LiNHが、LiOの周囲に分散して生成されたものと考えられる。
【0047】
また、図9(b)に示す高倍率のSEM画像では、小さな粒子がLiOの表面に付着していることから、反応生成物であるLiNHは、LiOの周囲に小さく結晶化していることが示唆される。
【0048】
以上の結果から、図10(a)、(b)の概念図に示すように、LiHとLiOの混合物をNと反応させた場合、LiH間に分散するLiOが有効な足場として機能することによって、LiNHの凝集が抑制され、その結果、反応速度の飛躍的に向上したものと考えられる。
【0049】
なお、上記の説明では、LiHに混合する物質として、LiOを例に説明したが、上述したLiNHの凝集を抑制するメカニズムからしても、LiHとNとが反応する温度において、LiHと反応しない安定した物質であれば、その材料は特に限定されるものではない。例えば、LiHに混合する物質として、水素化リチウム(LiO)の他に、炭酸リチウム(LiCO)、硝酸リチウム(LiNO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化シリコン(SiO)、結晶性グラファイト、及び結晶性窒化ホウ素(BN)等を挙げることができる。
【0050】
[LiNHとHとの反応]
LiHとLiOの混合物とNとの反応により生成されたLiNHと、Hとの熱反応特性を、上記と同じように、TG装置を用いて測定し、また、発生したガスはMS装置を用いて測定した。また、測定も、上記と同じように、生成されたLiNHを、1気圧のグローブボックス内で、Hを300cm/分の流量で流しながら、5℃/分のレートで室温から500℃まで温度を上げて行った。
【0051】
図11は、TG装置で測定された重量変化により求めた反応収率(χNH3)と、MS装置で測定されたNH(m/z=17)のMSスペクトルとを示したグラフである。ここで、Aで示したグラフは、LiOを混合してた場合、Bで示したグラフは、LiOを混合していない場合(図3のグラフと同じ)である。図11に示すように、約260℃から徐々に重量減少が見られ、この重量減少に同期してNHの生成が確認された。また、LiOを混合していない場合よりも短時間(約170分)で、反応収率(χNH3)がほぼ100%に達し、NHの生成が完了した。
【0052】
次に、LiNHとHとの熱反応により生成された反応生成物を、上記と同じように、X線回折を用いて同定した。
【0053】
先に示した図8(c)は、X線回折の測定結果を示した回折パターンである。図8(b)、(c)に示すように、反応前のLiNHに対応する回折パターンは、LiHに対応する回折パターンに変化している。この結果から、LiNHとHとの反応により、NHとLiHとが生成されると考えられる。
【0054】
以上、説明したように、本実施形態におけるアンモニアの合成方法は、LiHとNとを反応させて、LiNHを生成する工程(A)と、工程(A)で生成されたLiNHを、Hと反応させてNHを生成する工程(B)とを含み、工程(A)は、LiHに、LiHとNとが反応する温度において、LiHと反応しない物質を混合して行われる。これにより、大気圧下において、高い反応速度でアンモニアを合成することができる。
【0055】
また、工程(B)において、LiHが再生され、工程(A)及び工程(B)を繰り返すことによって、工程(B)で生成されるNHを連続的に生成することができる。具体的には、NとHの導入を切り替えながら、工程(A)と工程(B)を繰り返し行えばよい。なお、LiHとNとの反応は、約400℃で開始するが、工程(A)及び工程(B)における反応は、いずれも発熱反応であるため、最初の反応が開始するまでの熱エネルギーの投入は必要であるが、それ以降の連続的な反応は、自己発熱により高温状態を維持して進行することが可能である。
【0056】
本実施形態において、LiHに混合するLiO等の物質の量は、LiH及び混合する物質の粒径や、反応温度、反応圧力等に応じて、適宜決めればよい。
【0057】
図12は、LiHとLiOの混合物とNとの反応において、LiOの混合量を変えた場合の重量変化、及び、H(m/z=2)のMSスペクトルとを示したグラフである。また、図13は、生成されたLiNHとHとの反応における重量変化、及び、HH(m/z=17)のMSスペクトルとを示したグラフである。ここで、Aで示したグラフが、LiHとLiOの割合(モル比)が1:1の場合、Bで示したグラフが、LiHとLiOの割合(モル比)が1:2の場合である。
【0058】
図12及び図13に示すように、いずれの反応においても、反応開始時間や、その後の重量変化の傾きは、LiOの混合量を変えても、ほとんど差は見られなかった。なお、LiHに混合するLiO等の物質の量は、特に限定されないが、LiH間に分散するLiO等の物質が、有効な足場として機能するためには、LiHに対して、モル比1以上の割合の物質を混合することが好ましい。
【0059】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13