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特開2023-31827化合物、電解液、及びリチウムイオン二次電池
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  • 特開-化合物、電解液、及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031827
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】化合物、電解液、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20230302BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230302BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137557
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 日香里
(72)【発明者】
【氏名】梅林 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】韓 智海
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM01
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】新規な化合物、並びに、上記化合物を含む電解液及びリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】下記式1で表され、式1中、n1~n3はそれぞれ独立に、1以上であり、かつ、n4は3以上である、化合物。
【化1】

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表され、
式1中、
n1~n3はそれぞれ独立に、1以上であり、かつ、n4は3以上である、化合物。
【化1】
【請求項2】
前記式1中、n1~n4はそれぞれ独立に、3以上である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式1中、n1~n4は同一であり、3又は4である、請求項1又は請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の化合物を含む、電解液。
【請求項5】
請求項4に記載の電解液を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、電解液、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、例えばリチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電が行われる非水電解質二次電池が多く利用されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、LiB(OCHCHOCHに、少量のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加すると、電解質のイオン伝導度とリチウム輸率が増加することが記載されている。また、非特許文献2には、2つの電子求引性基(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロポキシ基又はペンタフルオロフェノキシ基のいずれか)及び2つのメトキシ-オリゴ(エチレンオキシド)基(繰り返し単位の数n=3、4、7.2)を有するホウ素のリチウム塩が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Communication, 2011, 47, 6311-6313
【非特許文献2】Electrochimica Acta, 2004, 50, 305-309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池において、リチウムイオン輸率のさらなる向上が要求されている。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、新規な化合物、並びに、上記化合物を含む電解液及びリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>下記式1で表され、
式1中、
n1~n3はそれぞれ独立に、1以上であり、かつ、n4は3以上である、化合物。
【化1】

<2>
式1中、n1~n4はそれぞれ独立に、3以上である、<1>に記載の化合物。
<3>
式1中、n1~n4は同一であり、3又は4である、<1>又は<2>に記載の化合物。
<4>
<1>~<3>のいずれか1つに記載の化合物を含む、電解液。
<5>
<4>に記載の電解液を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な化合物、並びに、上記化合物を含む電解液及びリチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の化合物及び原料のIRスペクトルである。
図2図2は、実施例1の化合物のH-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルである。
図3図3は、実施例2の化合物及び原料のIRスペクトルである。
図4図4は、実施例2の化合物のH-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本実施形態において2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0011】
<化合物>
本発明の一実施形態に係る化合物は、下記式1で表される。下記式1で表される化合物は、新規な化合物である。下記式1で表される化合物は、電解質の用途に使用できる。下記式1で表される化合物を例えばリチウムイオン電池の電解液として適用した場合、リチウムイオン輸率を効果的に高めることができる。
【0012】
【化2】
【0013】
式1中、n1~n3はそれぞれ独立に、1以上であり、かつ、n4は3以上である。
【0014】
n1~n4の上限値は特に限定されないが、化合物の融点を100℃以下とする観点から、100であることが好ましい。化合物の融点が100℃以下である塩は、「イオン液体」ともいう。
【0015】
リチウムイオン輸率をより向上させる観点から、n1~n4はそれぞれ独立に、3以上であることが好ましい。
【0016】
n1~n4は互いに異なっていてもよく、同一であってもよいが、リチウムイオン輸率をさらに向上させる観点から、n1~n4は同一であり、3又は4であることが好ましい。n1~n4が3又は4である場合には、エチレンオキシド鎖の酸素原子にリチウムイオンが配位しやすいため、リチウムイオン輸率が向上する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る化合物は、100℃以下の温度域で液体であることが好ましい。液体であるとは、化合物の融点が100℃以下であることを指す。融点は、示差操作熱量計(DSC)を用い、窒素雰囲気下、-100℃まで降温速度5℃/分で冷却した後、60℃まで昇温速度5℃/分で昇温するサイクルを繰り返し、得られたDSC曲線から求められる値である。
【0018】
本発明の一実施形態に係る化合物として、具体的に、以下の化合物が挙げられる。
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
【0021】
本実施形態に係る化合物は、公知の方法で合成することができる。例えば、式1で表される化合物において、n1~n4が同一(n1~n4がいずれもm)である場合は、以下の方法で合成することができる。
【0022】
【化5】
【0023】
まず、水素化ホウ素リチウムとポリエチレングリコールモノメチルエーテルとを反応させて、2置換体を得る。反応を温和に進行させる観点から、水素化ホウ素リチウムと溶媒とを含む水素化ホウ素リチウム溶液を準備した後に、水素化ホウ素リチウム溶液にポリエチレングリコールモノメチルエーテルを滴下することが好ましい。溶媒としては、通常、THF(テトラヒドロフラン)が用いられる。次に、溶媒を留去する。その後、得られた2置換体とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとを反応させ、式1で表される化合物を得る。
【0024】
<電解液>
本発明の他の実施形態に係る電解液は、式1で表される化合物を含む。式1で表される化合物を含むことで、電解質の一態様である電解液のイオン輸率が向上する。
【0025】
本実施形態に係る電解液は、式1で表される化合物以外に溶媒を含むことが好ましく、本発明の効果を著しく損なわない範囲で添加剤等の他の成分を更に含んでいてもよい。
【0026】
溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート;
1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル;
ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;
アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;
3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート;
スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトン等の含硫黄化合物;及び上記化合物において水素原子をフッ素原子に置換した化合物が挙げられる。
【0027】
電解液に含まれる溶媒は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0028】
電解液中、式1で表される化合物の濃度は特に限定されないが、0.1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。
【0029】
<リチウムイオン二次電池>
本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上記電解液を備えることが好ましい。リチウムイオン二次電池は、上記式1で表される化合物を含む電解液を備えるので、トレードオフとなりやすいイオン電導率を著しく損なうことなく、リチウムイオン輸率を高めることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の充放電性能及び放電容量の向上に寄与する。
【0030】
本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電解液以外に、正極及び負極を備えることが好ましく、正極、負極、及びセパレータを備えることがより好ましい。
【0031】
本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電池ケース、スペーサー、ガスケット、スプリング等のリチウムイオン電池で使用される公知の各種材料を備えていてもよい。
【0032】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を作製する方法は特に限定されず、公知の方法に従って実施することができる。作製される電池の形状は特に限定されず、例えば、円筒状、角型、コイン型等の種々の形状が挙げられる。
【0033】
(正極)
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極を備えることが好ましい。正極は、正極活物質を含むことが好ましい。また、正極は、正極活物質以外の他の化合物を含んでいてもよい。
【0034】
正極活物質としては、特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いることができる。リチウムイオン二次電池用正極活物質は、充放電容量及び出力特性の観点から、リチウム含有化合物であることが好ましく、リチウム-遷移金属複合酸化物であることがより好ましい。リチウム-遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiMn、LiNiO、LiCoO、LiFeO,LiNi0.5Mn0.5、及びLiNi0.5Ti0.5が挙げられる。
【0035】
他の化合物としては、特に限定されず、電池の正極の作製に用いられる公知の添加剤を用いることができる。添加剤としては、導電剤、結着剤、及び集電体が挙げられる。
【0036】
正極の形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【0037】
(負極)
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、負極を備えることが好ましい。負極は、負極活物質を含むことが好ましい。また、負極は、正極活物質以外の他の化合物を含んでいてもよい。
【0038】
負極活物質としては、金属リチウム;シリコン、スズ等を含む金属材料;及び、黒鉛、コークス類、ハードカーボン、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素材料が挙げられる。
【0039】
他の化合物としては、特に限定されず、電池の負極の作製に用いられる公知の添加剤を用いることができる。添加剤としては、導電剤、結着剤、及び集電体が挙げられる。
【0040】
負極の形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【0041】
(セパレータ)
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、セパレータを備えることが好ましい。
【0042】
セパレータは、正極と負極とを物理的に隔絶して、内部短絡を防止する役割を果たす。
セパレータは、多孔質材料からなり、その空隙には電解液が含浸され、電池反応を確保するために、イオン透過性(特に、リチウムイオン透過性)を有する。
【0043】
セパレータとしては、例えば、樹脂製の多孔膜、及び不織布が挙げられる。セパレータは、多孔膜の層又は不織布の層からなる単層であってもよく、複数の層で構成される積層体であってもよい。積層体としては、組成の異なる複数の多孔膜の層を有する積層体、及び、多孔膜の層と不織布の層とを有する積層体が挙げられる。
【0044】
セパレータの材質は、電池の使用温度、電解液の組成等の条件を考慮して選択できる。多孔膜及び不織布を形成する繊維に含まれる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドケトン等のポリフェニレンサルファイド樹脂;芳香族ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂;及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、不織布を形成する繊維は、ガラス繊維等の無機繊維であってもよい。
【0045】
セパレータの形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
以下の式に従い、合成した。
冷却用バスに、アセトン及びドライアイスを入れ、反応容器を-78℃に冷却した。冷却された反応容器に、2mol/dmの水素化ホウ素リチウムのテトラヒドロフラン溶液を108mL入れ、滴下漏斗を用いて、0.4molのトリエチレングリコールモノメチルエーテルを滴下した。反応溶液を室温まで戻し、室温で8時間撹拌した。エバポレーターを用いて、反応溶液からテトラヒドロフランを留去した。
再び、冷却用バスに、アセトン及びドライアイスを入れ、反応容器を-78℃に冷却した。冷却された反応容器に、滴下漏斗を用いて、0.4molのトリエチレングリコールモノメチルエーテルを滴下した。反応溶液を室温まで戻し、室温で12時間撹拌した。
50℃で50時間、減圧乾燥させることにより、無色で、粘性のある透明な液体を得た。
【0048】
【化6】
【0049】
赤外吸収(IR)スペクトル)及び核磁気共鳴(NMR)スペクトルを測定し、得られた液体が、上記化合物1Aであることを確認した。測定方法及び同定方法は、以下のとおりである。
【0050】
(IRスペクトル)
IRスペクトルは全反射法(ATR法)により取得した。測定には、1回反射ATRベースキット(製品名「ATR PRO ONE」、日本分光社製)を取り付けたフーリエ変換赤外分光光度計(製品名「FT/IR-6600」、日本分光社製)を用いた。プリズムには、ダイヤモンドプリズム(製品名「PKS-D1」、日本分光社製)を用いた。測定波数範囲を400~4000cm-1と設定し、波数分解能2cm-1、積算回数256回の条件で測定した。
【0051】
図1に、合成した化合物、及び原料であるトリエチレングリコールモノメチルエーテルのIRスペクトルを示す。黒色の線が、合成した化合物のIRスペクトルであり、灰色の線が、原料のIRスペクトルである。合成した化合物のIRスペクトルでは、1000cm-1付近に、B-O伸縮振動に由来するバンドが観測された。このバンドは、原料のIRスペクトルには存在しない。したがって、合成した化合物に、B-O結合が形成されていることが分かった。
【0052】
-NMRスペクトル-
測定には、FT NMR装置(製品名「JNM-ECZ500」、日本電子社製)を用いた。試料は重クロロホルムに溶解させ、5mm径のガラス製のサンプルチューブに注入した。H-NMRスペクトルでは、積算回数を16回とし、13C-NMRスペクトルでは、積算回数を1024回とした。
【0053】
図2に、合成した化合物のH-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルを示す。H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルのいずれにおいても、(-OCHCHOCHに由来するピークが確認され、そのほかのピークは確認されなかった。また、各ピークの積分比は、理論値と一致した。
【0054】
[実施例2]
以下の式に従い、合成した。
実施例1におけるトリエチレングリコールモノメチルエーテルを、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、無色で、粘性のある透明な液体を得た。
【0055】
【化7】
【0056】
実施例1と同様の方法で、IRスペクトル及びNMRスペクトルを測定し、得られた液体が、上記化合物1Bであることを確認した。
【0057】
図3に、合成した化合物、及び原料であるテトラエチレングリコールモノメチルエーテルのIRスペクトルを示す。黒色の線が、合成した化合物のIRスペクトルであり、灰色の線が、原料のIRスペクトルである。合成した化合物のIRスペクトルでは、1000cm-1付近に、B-O伸縮振動に由来するバンドが観測された。このバンドは、原料のIRスペクトルには存在しない。したがって、合成した化合物に、B-O結合が形成されていることが分かった。
【0058】
図4に、合成した化合物のH-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルを示す。H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルのいずれにおいても、(-OCHCHOCHに由来するピークが確認され、そのほかのピークは確認されなかった。また、各ピークの積分比は、理論値と一致した。
【0059】
[比較例1]
実施例1におけるトリエチレングリコールモノメチルエーテルを、2-メトキシエタノールに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、LiB(OCHCHOCHを得た。
【0060】
実施例1で得られた化合物1Aと、実施例2で得られた化合物1B、及び比較例1で得られた化合物を用いて、融点、分解温度、イオン導電率、粘性率、及びリチウムイオン輸率を測定した。測定方法は、以下のとおりである。測定結果を表1に示す。なお、表1中、未測定の場合には、「-」と記載した。
【0061】
<融点>
融点は、示差走査熱量計(製品名「DSC 3500 Sirius」、NETZSCH社製)を用い、窒素雰囲気下で測定した。試料をアルミニウム製の密閉パンに封入し、-100℃まで降温速度5℃/分で冷却した後、60℃まで昇温速度5℃/分で昇温した。これを1サイクルとして、4サイクル実施し、DSC曲線を作成した。DSC曲線より、変曲点における接線とベースラインの交点を融点とした。
【0062】
<分解温度>
分解温度は、熱重量測定装置(製品名「TG/DSC1」、METTLER TOLEDO社製)を用い、窒素雰囲気下で測定した。試料セルとして、アルミニウム製のサンプルパンを用いた。室温から550℃まで昇温速度5℃/分で昇温し、熱分解曲線を作成した。熱分解曲線において、試料の重量が10%減少した温度を分解温度とした。
【0063】
<イオン導電率>
測定には、電気伝導率計(製品名「CM-25R」、東亜DKK社製)及び電気伝導率セル(製品名「CT57101B」、東亜DKK社製)を用いた。電気伝導率セルのセル定数は、塩化カリウム水溶液(0.01、0.05、0.075、0.1mol/dm)を用いて決定した。イオン導電率は、電気伝導率セルを試料に浸漬させて、室温で測定した。
【0064】
<粘性率>
測定には、回転式レオメーター(製品名「MCR102」、Anton Paar社製)を用いた。粘性率は、治具として、パラレルプレートpp25を用いて、室温で測定した。
【0065】
<リチウムイオン輸率>
リチウムイオン輸率を見積もる方法として、Bruceらが提案した二極式セルを用いて、交流インピーダンス測定とクロノアンペロメトリ測定の併用によって決定する方法を採用した。金属リチウム電極を用いた対称セルに対して、交流インピーダンス測定により液抵抗R及び電解質/電極界面抵抗Rを決定した。その後、直流分極電圧△Vを加え、セルを流れる電流の経時変化を測定した。定常状態に達した後、再び交流インピーダンス測定を行い、定常状態における電解質/電極界面抵抗Rssを決定した。金属リチウム電極は、リチウムイオンに対してノンブロッキング電極であるが、陰イオンに対してはブロッキング電極となる。そのため、セルを流れる電流は、電圧印加初期の電流値Iから経時的に減少し、定常状態の電流値Issに達する。定常状態でのセル中の電流は、リチウムイオンのみによって運ばれる。よって、I及びIssはそれぞれ下記式(3)及び式(4)で表すことができる。
【0066】
【数1】

【0067】
式(3)及び式(4)中、Lは極板間距離、Aは電極断面積、σは電気伝導率、tはリチウムイオン輸率を表す。
【0068】
式(3)及び式(4)より、tは式(5)で表すことができる。
【0069】
【数2】
【0070】
インピーダンス測定は、周波数1MHz~10MHz、電位振幅10mVの条件で行った。サンプリングは、対数掃引を行い、1桁で5点とし、3回積算した。クロノアンペロメトリ測定は、電圧10mVの条件で行い、3600秒印加した。いずれの測定も、電気化学測定システム(Bio-Logic SP-150)を用いて行った。二極式セルには、CR2032コインセルを用い、電極にリチウム箔、セパレータにポリプロピレンを用いた。
【0071】
式(5)より、リチウムイオン輸率を算出した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、実施例1及び実施例2の化合物は、電気化学試験において、トレードオフとなりやすいイオン導電率を損なわず、リチウムイオン輸率が0.5以上と高いことが分かった。また、室温(25℃)で液体であり、分解温度が100℃以上であることが分かった。さらに、従来の4級ホウ素エステル塩よりも非常に高いイオン導電率を有することが分かった。
一方、比較例1では、式1におけるn1~n4がいすれも1であり、イオン導電率が低く、リチウムイオン輸率も低かった。
図1
図2
図3
図4