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  • 特開-ジブロック共重合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031923
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】ジブロック共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/00 20060101AFI20230302BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20230302BHJP
【FI】
C08G81/00
B01F17/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137706
(22)【出願日】2021-08-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/ポリアミドを基軸とする新規海洋生分解性材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】小野 英明
(72)【発明者】
【氏名】根本 耕司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝
【テーマコード(参考)】
4D077
4J031
【Fターム(参考)】
4D077AA05
4D077AC10
4D077DD04X
4D077DD05X
4D077DD09X
4D077DD38X
4D077DD45X
4D077DE02X
4D077DE04X
4D077DE17X
4J031AA49
4J031AA55
4J031AB04
4J031AC07
4J031AD01
4J031AF07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ポリエステルとポリアミドからなる新規のジブロック共重合体を提供する。
【解決手段】ポリエステルを含むブロックとポリアミドを含むブロックとからなるジブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、ジブロック共重合体。

(式(1)中、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、rは1~11の整数であり、sは3~11の整数であり、tは3~11の整数であり、xは1~60の整数であり、yは0~120の整数である。Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~20のアルキル基を表し、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含むブロックとポリアミドを含むブロックとからなるジブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、ジブロック共重合体。
【化1】
(式(1)中、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、rは1~11の整数であり、sは3~11の整数であり、tは3~11の整数であり、xは1~60の整数であり、yは0~120の整数である。Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、または、炭素数1~20のアルキル基を表し、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のジブロック共重合体を含む、界面活性剤。
【請求項3】
請求項1に記載のジブロック共重合体を含む界面活性剤であって、
ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂の相溶化のための界面活性剤。
【請求項4】
請求項1に記載のジブロック共重合体の製造方法であって、
ポリエステルを含む下記式(2)で示される化合物と
【化2】
(式(2)中、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、または、炭素数1~20のアルキル基を表し、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、rは1~11の整数であり、xは1~60の整数である。)
ポリアミドを含む下記式(3)で示される化合物
【化3】
(式(3)中、sは3~11の整数であり、tは3~11の整数であり、yは0~120の整数である。Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
とを、前記式(2)で示される化合物におけるアミノ基および前記式(3)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジブロック共重合体に関し、特にポリエステル樹脂および/またはポリアミド樹脂を相溶化するためのジブロック共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
大量に消費・生産されるプラスチック製品による環境問題への懸念から、自然環境中で分解される生分解性プラスチックへの期待が高まっている。この点において、脂肪族ポリエステルは、良好な生分解性、優れた加水分解耐性、および実用的な機械強度を有するため、繊維、フィルム、不織布等に利用されている。しかし用途によっては融点や機械強度が不十分な場合がある。
他方、ポリアミドは、高耐熱性、高機械強度、及び耐薬品性などの優れた特徴を有するために、エンジニアリングプラスチックの一つとして利用されている。また、ある種のポリアミドは、土壌中や活性汚泥中の微生物により生分解されることが知られている(特許文献1参照)。
このため、脂肪族ポリエステルとポリアミドを複合化することで、用途に応じて機械特性や加工性が調整でき、なおかつ生分解性を有する複合材料となることが期待できる。
【0003】
脂肪族ポリエステルとポリアミドは非相溶の樹脂であるため、均質な複合材料を得るために相溶化剤を添加した事例がある(特許文献2、特許文献3参照)。しかし、特許文献2に記載の反応性相溶化剤により樹脂同士を架橋させる方法では、複合した材料において生分解性や柔軟性などの特性が損なわれる恐れがある。また、特許文献3のように官能基修飾した芳香族ポリエステルを相溶化剤として用いる方法では、相溶化剤が複合する樹脂とは異なる官能基を有するために、やはり複合材料の生分解性や機械強度などの特性が損なわれる恐れがある。
【0004】
これらの懸念を回避するために、相溶化剤として脂肪族エステルブロックとアミドブロックからなるジブロック共重合体の使用が考えられる。ジブロック共重合体は樹脂間の界面自由エネルギーを低下させ、いわゆる界面活性剤として作用すると期待され、その結果、均質な複合材料が得やすくなる。
【0005】
ポリエステルとポリアミドのジブロック共重合体を得るために、例えばポリエステルとポリアミドのエステルアミド交換反応を用いる場合、主鎖中のエステルとアミド結合の全てが反応点となりうるため、エステルブロックとアミドブロックの鎖長や、1つの高分子鎖中での各ブロックの繰り返し回数は制御できないため、ジブロック共重合体を得ることはできない(特許文献4参照)。また、環状エステルや環状アミドの開環重合による方法を用いた場合、各原料の重合機構の違いにより、理論的にはジブロック共重合体が得られると考えられるが、実際の生成物はランダムブロック共重合体であることが知られている(非特許文献1参照)。一方、先にエステルブロックを形成した後に環状アミドを作用させる場合、エステル部位が切断されてその間に開環したアミドが導入される“インサーション”機構が提唱されており、やはりジブロック共重合体は得られない(非特許文献2参照)。加えて、ポリアミドは、開環重合に一般的に用いられるトルエンやテトラヒドロフラン等多くの有機溶媒に難溶のため、先にアミドブロックを形成した場合、使用可能な合成手法が制限される(非特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5729408号
【特許文献2】特許第4661266号
【特許文献3】国際公開第03/080731号
【特許文献4】特開2006-045508号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】EUR.Polym.J.1984,20,549-557.
【非特許文献2】React.Funct.Polym.2008,68,1392-1407.
【非特許文献3】Prog.Polym.Sci.2000,25,1411-1462.
【非特許文献4】EUR.Polym.J.2018,98,83-93.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記点に鑑み、ポリエステルとポリアミドからなる新規のジブロック共重合体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは従来の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、既存技術に比べて、エステルブロックおよびアミドブロックそれぞれの鎖長を調整でき、かつアミドブロックとエステルブロックが1:1で結合したジブロック共重合体を選択的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の態様を含む:
本発明の一態様は
〔1〕ポリエステルを含むブロックとポリアミドを含むブロックとからなるジブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、ジブロック共重合体に関する。
【化1】
(式(1)中、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、rは1~11の整数であり、sは3~11の整数であり、tは3~11の整数であり、xは1~60の整数であり、yは0~120の整数である。Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、または、炭素数1~20のアルキル基を表し、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
また本発明は別の態様において
〔2〕上記〔1〕に記載のジブロック共重合体を含む、界面活性剤に関する。
ここで本発明の界面活性剤は一実施の形態において
〔3〕上記〔1〕に記載のジブロック共重合体を含む界面活性剤であって、
脂肪族ポリエステルおよびポリアミド樹脂の相溶化のための界面活性剤であることを特徴とする。
また本発明は別の態様において、
〔4〕上記〔1〕に記載のジブロック共重合体の製造方法であって、
ポリエステルを含む下記式(2)で示される化合物と
【化2】
(式(2)中、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、または、炭素数1~20のアルキル基を表し、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、rは1~11の整数であり、xは1~60の整数である。)
ポリアミドを含む下記式(3)で示される化合物
【化3】
(式(3)中、sは3~11の整数であり、tは3~11の整数であり、yは0~120の整数である。Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
とを、前記式(2)で示される化合物におけるアミノ基および前記式(3)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のジブロック共重合体は界面活性作用を有する。よって、本発明のジブロック共重合体によれば、例えば脂肪族ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂の相溶化剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、下記実施例により得られたPEs-PAジブロック共重合体のH-NMRの解析結果を示すNMRチャートである。図1のグラフには、比較のためにCOOH-PAおよびNH-PEsのH-NMRの解析結果を併せて示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、ポリエステルを含むブロックとポリアミドを含むブロックとからなるジブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、ジブロック共重合体を提供する。
【化4】
(式(1)中、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、rは1~11の整数であり、sは3~11の整数であり、tは3~11の整数であり、xは1~60の整数であり、yは0~120の整数である。Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~20のアルキル基を表し、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
【0013】
一実施の形態において式(1)中、p、q、r、s、t、x、yは以下で示す範囲から選ばれる任意の整数である。pは2~3、より好ましくは2の整数を示す。qは1~10、より好ましくは2~6の整数を示す。rは1~11、より好ましくは2~6の整数を示す。sとtは3~11、より好ましくは3~6の整数を示す。xは1~60、より好ましくは1~30の整数を示す。yは0~120、より好ましくは1~100の整数を示す。
【0014】
本明細書において「芳香族炭化水素基」とは、炭素数6~14の芳香族炭化水素基であることが好ましく、以下に限定されないが、例えばベンゼンを挙げることができる。置換基を有する芳香族炭化水素基としては、芳香環上の水素基の一部または全部がアルキル基、アリル基、カルボキシアルキル基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基などにて置換されたものを挙げることができ、以下に限定されないが、例えば1~5つのメチル基で置換されたベンゼン環などを挙げることができる。
芳香族炭化水素基に対する置換基としての「アルキル基」としては、直鎖状または分枝鎖状の炭素数1~20のアルキル基を挙げることができる。芳香族炭化水素基に対する置換基としての「カルボキシアルキル基」は、例えば、カルボキシメチル、カルボキシエチル、カルボキシイソプロピルなどのカルボキシル基で置換された直鎖状または分枝鎖状の炭素数1~20のアルキル基を挙げることができる。芳香族炭化水素基に対する置換基としての「ハロゲン基」としては、フッ素、塩素、臭素などを挙げることができる。
【0015】
本明細書において「アルキル基」は直鎖または分岐状のアルキル基を含み、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基を挙げることができる。
【0016】
本明細書において「アルキルオキシ基」は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、tert-ブチルオキシ基を挙げることができる。
【0017】
本発明に係るジブロック共重合体の一実施の形態は、下記式(2)に示される化合物である。
【化5】
(式(4)中、xは1~60の整数であり、yは0~120の整数である。)
【0018】
このようなジブロック共重合体の数平均分子量は、例えば、0.3~30 kDa、好ましくは1~20 kDaである。
【0019】
本発明に係るジブロック共重合体はポリエステルブロックとポリアミドブロックが1:1で結合したジブロック共重合体である。より具体的には、ポリブチレンスクシネートを含むブロックとポリアミド4を含むブロックとが1:1で結合したジブロック共重合体である。よって、本発明に係るジブロック共重合体は界面活性作用を有する。
本発明の一態様は、式(1)で表されるジブロック共重合体を含む界面活性剤を提供する。本発明の界面活性剤は例えば、脂肪族ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂の相溶化に用いることができる。
本明細書において脂肪族ポリエステル樹脂とは脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーであり、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。また本明細書においてポリアミド樹脂とはアミド結合を有するポリマーであり、例えばポリ(2-ピロリドン)(ナイロン4)、ポリカプラミド(ナイロン6)やポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)等を挙げることができる。
本発明に係るジブロック共重合体を含む界面活性剤を用いることで脂肪族ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂を均一に相溶化した複合材料を得ることができる。当該複合材料は、樹脂同士の架橋を行わないため生分解性を損なわない。
【0020】
本発明の一態様は、本発明に係るジブロック共重合体の製造方法であって、
ポリエステルを含む下記式(2)で示される化合物と
【化6】
(式(2)中、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、または、炭素数1~20のアルキル基を表し、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、rは1~11の整数であり、xは1~60の整数である。)
ポリアミドを含む下記式(3)で示される化合物
【化7】
(式(3)中、sは3~11の整数であり、tは3~11の整数であり、yは0~120の整数である。Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
とを、前記式(2)で示される化合物におけるアミノ基および前記式(3)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、製造方法を提供する。
【0021】
なお式(2)で示される化合物は、末端アミノ基は塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの塩型であってもよい。式(2)で示される化合物の一実施の形態としては、以下式(5)で示される化合物を挙げることができる。
【化8】
(式(5)中、xは1~60の整数である。)
【0022】
反応に用いる式(2)で示される化合物と式(3)で示される化合物との割合は、3:1~1:3モル比とすることができる。
【0023】
反応は縮合剤存在条件下で行うことが好ましい。当該反応に用いることのできる縮合剤の具体例は、以下に限定されないが、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルノリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(HATU)などを挙げることができる。
縮合剤の使用量は、式(3)で示される化合物におけるカルボキシル基に対して1~5モル当量とすることができる。
【0024】
反応に用いる溶媒としては、式(2)に記載のポリエステルと、式(3)に記載のポリアミドの両方を溶解する溶媒を用いることが好ましく、具体的には以下に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミドなどを挙げることができる。
【0025】
当該溶媒には、ポリアミドの溶解を促進するために塩類を添加することが好ましく、具体的には、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムや塩化カルシウムなどを挙げることができる。
塩は溶媒に対して10~200 gL-1の濃度で添加することができる。
【0026】
当該反応にはアミン末端の活性化のために必要に応じて塩基を加えることができる。具体的には、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)などを挙げることができる。
塩基の添加量は、式(2)で示される化合物アミノ基に対して0.1~100モル当量とすることができる。
【0027】
当該反応は、0~150℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは80~120℃程度の温度である。反応時間は0.5~6.0時間の条件で行うことができる。
【0028】
反応後の溶液は、水/アセトン混合溶媒中に滴下することで沈殿物を得る。得られた沈殿物を洗浄、ろ過および乾燥処理することにより、目的とするジブロック共重合体を得ることができる。具体的には、得られた沈殿物を10%塩化カルシウム含有メタノール溶液に分散後、純水を加えてろ過により回収する。次いで、純水およびアセトンにて順次洗浄後、クロロホルムに分散させ、アセトンを加えた後にろ過して沈殿物を得る。得られた沈殿物は真空乾燥することで白色固体として回収することができる。
【0029】
なお、式(2)で示される化合物は、式(6)で示される化合物(OH-PEs)のOH末端をNH末端に置換することで得られる。
【化9】
(式(6)中、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、または、炭素数1~20のアルキル基を表し、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、xは1~60の整数である。)
【0030】
式(6)で示される化合物(OH-PEs)のOH末端をNH末端へ置換するには、以下に限定されないが例えば、OH末端側にN-Boc基を導入後、Boc基を取り除くことで得ることができる。
【0031】
N-Boc基の導入は例えば、式(6)で示される化合物(OH-PEs)とN-Boc保護アミノ酸とを反応させてN-Boc基を導入することができる。N-Boc保護アミノ酸としては、具体的にはN-Boc-グリシン、N-Boc-β-アラニン、N-Boc-4-アミノ酪酸、N-Boc-5-アミノ吉草酸、N-Boc-6-アミノヘキサン酸、N-Boc-7-アミノヘプタン酸などを挙げることができる。
当該反応においてOH-PEsとN-Boc保護アミノ酸は、1:1~1:5モル比で反応させることが好ましい。
【0032】
当該反応には、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、またはそれらの混合溶媒などの溶媒を用いることができる。縮合剤としては、カルボジイミド系の縮合剤を用いることができ、例えば、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDCI)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)などを挙げることができる。また縮合剤の使用量は、N-Boc保護アミノ酸に対して1~5モル当量とすることができる。
【0033】
当該反応には縮合補助剤として、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾールを必要に応じて添加することができる。縮合補助剤の添加量は、N-Boc保護アミノ酸に対して0~2モル当量程度とすることができる。
【0034】
当該反応は、-20~60℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは0~40℃程度の温度である。反応時間は1~3時間の条件で行うことができる。
反応後に得られた反応液は、純水を加えて反応を停止させた後、濃縮、洗浄および乾燥工程を経ることで、白色固体として式(7)で示される化合物(N-Boc-PEs)を得ることができる。
【化10】
(式(7)中、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、または、炭素数1~20のアルキル基を表し、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数であり、xは1~60の整数である。)
【0035】
またN-Boc-PEsのBoc基の除去は、公知の手法に準じて行うことができ、無溶媒、またはジクロロメタンなどの溶媒存在下でトリフルオロ酢酸などの強酸を加えることで除去することができる。さらに炭酸水素ナトリウムなどによりこれを塩基処理することで、式(2)に示される化合物を得ることができる。または、さらに塩酸水溶液などで末端アミノ基を中和することにより塩型として得ることができる。
【0036】
式(6)で示される化合物(OH-PEs)は、1価のアルコールと、式(8)で示すヒドロキシカルボン酸との反応により製造することができる。
【化11】
(式(8)中、pは2~3の整数であり、qは1~10の整数である。)
【0037】
当該反応工程に用いる1価のアルコールとしては特に限定は無く、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノールなどの第1級アルコールや、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、4-(ベンゾイルオキシ)-1-ブタノールなどの片末端が置換されたグリコール類を用いることができる。
【0038】
当該反応工程に用いる、1価のアルコールとヒドロキシカルボン酸との配合割合は、1:1~1:60モル比とすることができる。
1価のアルコールが、ヒドロキシカルボン酸の自己縮合の末端封止剤として作用するため、配合割合を適宜選択することで、ポリエステルブロックの重合度を調整することができる。
【0039】
当該反応工程における溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン系有機溶媒、またはそれらの混合溶媒を用いることができる。
【0040】
当該反応における縮合剤としては、カルボジイミド系の縮合剤を用いることができ、例えば、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDCI)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)などを挙げることができる。
また縮合剤の使用量は、ヒドロキシカルボン酸に対して1~5モル当量程度とすることができる。
【0041】
当該反応には縮合補助剤として、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾールを必要に応じて添加することができる。縮合補助剤の添加量は、ヒドロキシカルボン酸に対して0~2モル当量程度とすることができる。
【0042】
当該反応は、-20~60℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは0~40℃程度の温度である。反応時間は1~3時間の条件で行うことができる。
反応後に得られた反応液は、純水を加えて反応を停止させた後、濃縮および乾燥工程を経ることで、白色固体として式(6)で示される化合物(OH-PEs)を得ることができる。
【0043】
式(8)で示される化合物(ヒドロキシカルボン酸)は、2価のアルコールと環状無水物との反応により製造することができる。
【0044】
当該反応工程に用いる2価のアルコールとしては特に限定は無く、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。
【0045】
当該反応工程に用いる環状無水物としては、例えばコハク酸無水物、グルタル酸無水物、フタル酸無水物、マレイン酸無水物などが挙げられる。
【0046】
環状無水物と2価のアルコールとの反応割合は、1:1~1:100モル比とすることができる。
【0047】
当該反応工程における溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、またはそれらの混合溶媒を用いることができる。
【0048】
当該反応は、反応促進のために塩基性触媒を添加することができる。具体的には、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)などを挙げることができる。
塩基の添加量は、環状無水物に対して0~100モル当量とすることができる。
【0049】
式(3)で示される化合物は、式(9)で示されるアシルラクタムと環状ラクタムを塩基の存在下で開環重合させ、次いで末端のラクタムを加水分解することで得られる。
【化12】
(式(9)において、tは3~11の整数であり、Rは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数1~6のアルキルオキシ基を表す。)
【0050】
環状ラクタムとしては炭素数3~11の環状ラクタムを用いることができ、以下に限定されないが、具体的には2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ω-オクタラクタム、ω-ラウリンラクタムを挙げることができる。
【0051】
反応に用いる式(9)で示されるアシルラクタムと環状ラクタムとの配合割合は1:1~1:120モル比とすることができる。アシルラクタムが開環重合の開始剤として作用するため、配合割合を適宜選択することで、ポリアミドブロックの重合度を調整することができる。
【0052】
塩基としては、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシドなどの金属アルコキシドや、2-ピロリドンナトリウム塩などの重合反応に使用する環状ラクタムの金属塩を用いることができる。また塩基の使用量は環状ラクタムに対して0.01~1モル当量とすることができる。
【0053】
反応はアルゴンガスなどの不活性ガス下で行うことが好ましい。
【0054】
当該反応は、0~70℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは0~40℃程度の温度である。反応時間は1~24時間の条件で行うことができる。
反応後に得られた固形物は、濃塩酸などに溶解させ末端ラクタム加水分解させたのち、濃縮および乾燥工程を経ることで、白色固体として式(4)で示される化合物(COOH-PA)を得ることができる。
【0055】
式(9)で示されるアシルラクタムは、対応するラクタムまたはその誘導体と、カルボン酸またはその誘導体から公知の手法に準じた縮合反応によって合成することができる。
【0056】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は当該実施の形態に限定されない。
【実施例0057】
(NH-PEsの合成)
<4-(ベンゾイルオキシ)-1-ブタノールの合成>
【化13】
300 mLナスフラスコに、1,4-ブタンジオール(14.87 mL、165.0 mmol)、トリエチルアミン(7.7 mL、55.0 mmol)、ジクロロメタン(220 mL)を加え、0℃に冷却した後に、塩化ベンゾイル(6.39 mL、55.0 mmol)をアルゴン雰囲気下で滴下し、室温で4時間攪拌した。反応液を飽和食塩水200 mLで2回洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣を中性シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1~1:0)にて精製し、溶媒除去することで、4-(ベンゾイルオキシ)-1-ブタノールを無色透明のオイル状液体として得た(収量7.23 g、収率68%)。
【0058】
<ヒドロキシカルボン酸の合成>
【化14】
500 mLナスフラスコに、コハク酸無水物(5.00 g、49.97 mmol)、DMAP(0.15 g、1.25 mmol)、ジクロロメタン(50 mL)、トリエチルアミン(17.4 mL、124.91 mmol)、1,4-ブタンジオール(22.1 mL、249.83 mmol)を加えて室温で3時間攪拌した。反応後、0.6M硫酸水素カリウム水溶液300 mLを加えて系を酸性にし、硫酸ナトリウム40 gを加えて飽和水溶液を得た。得られた水溶液に酢酸エチルを100 mL加えて分液し、有機層を抽出した。分液、抽出は合計4回繰り返した。合わせた有機層を飽和食塩水100 mLで洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣を中性シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル=100)にて精製し、溶媒除去することで、ヒドロキシカルボン酸を白色固体として得た(収量5.20 g、収率55%)。
【0059】
<OH-PEsの合成>
【化15】
100 mLナスフラスコに4-(ベンゾイルオキシ)-1-ブタノール(0.39 g、2.00 mmol)、ヒドロキシカルボン酸(3.80 g、19.98 mmol)、ジクロロメタン(42 mL)、DMAP(0.54 g、4.40 mmol)を加え、0℃に冷却した。反応混合物にEDCI・HCl(6.32 g、32.97 mmol)を加え、0℃で0.5時間、室温で2.5時間攪拌した。反応液に純水25 mLを加えて反応を停止させた後に、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣をアセトン100 mLで2回、純水100 mLで1回洗浄後、真空乾燥することでOH-PEsを白色固体として得た(収量2.40 g、63%)。H-NMRよりx=15と算出された。
【0060】
<N-BocPEsの合成>
【化16】
100 mLナスフラスコにOH-PEs(2.20 g、0.83 mmol)、N-Boc-4-アミノ酪酸(0.18 g、0.91 mmol)、DMAP(0.04 g、0.35 mmol)、ジクロロメタン(22 mL)を加えて溶解させたのち、0℃に冷却した。反応混合物にEDCI・HCl(0.50 g、2.60 mmol)を加え、0℃で0.5時間、室温で2.5時間攪拌した。反応液に純水22 mLを加えて反応を停止させた後に、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣をアセトン50 mLで2回、純水50 mLで1回洗浄後、真空乾燥することでNBoc-PEsを白色固体として得た(収量2.15 g、92%)。H-NMRよりx=15と算出された。
【0061】
<NH-PEs塩酸塩の合成>
【化17】
100 mLナスフラスコにNBoc-PEs(2.00 g、0.70 mmol)、ジクロロメタン(20 mL)を加えて溶解させたのち、0℃に冷却した。反応混合物にトリフルオロ酢酸(20 mL)を加え、0℃で3時間攪拌した。反応液にクロロホルム(50 mL)と純水(50 mL)を加え、分液し、有機層を回収した。得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水、1M塩酸水溶液で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣をアセトン100 mLで2回、純水100 mLで1回洗浄後、真空乾燥することで塩酸塩型のNH-PEsを白色固体として得た(収量1.66 g、収率85%)。H-NMRよりx=16と算出された。
【0062】
(COOH-PAの合成)
<アシルラクタムの合成>
【化18】
200 mLナスフラスコにピリジン(47 mL、581.00 mmol)、2-ピロリドン(16 mL、210.00 mmol)を加えて溶解させ0℃に冷却した。反応混合物に塩化ベンゾイル(23 mL、200.00 mmol)をゆっくりと滴下し、0℃で4時間攪拌した。反応混合物に2M塩酸水溶液200 mLを加えて反応を停止させ、酢酸エチル100 mLを加えて抽出した。抽出は合計2回行った。回収した有機層を純水100 mL、飽和食塩水100 mLで順次洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣を酢酸エチル/ヘキサン=1:4の溶媒系で再結晶により精製することで、アシルラクタムを淡黄色固体として得た(収量29.20 g、収率77%)。
【0063】
<COOH-PAの合成>
【化19】
100 mLナスフラスコにカリウムtert-ブトキシド(0.22 g、2.00 mmol)を量り取り、アルゴンガスで十分に置換した。一方、別の20 mLナスフラスコに1-ベンゾイル-2-ピロリドン(1.89 g、10.00 mmol)、2-ピロリドン(7.6 mL、100.00 mmol)を加え、完全に溶解させた。得られた溶液を前記のカリウムtert-ブトキシドの入った100 mLナスフラスコに流し込み30℃で攪拌すると、5分以内に溶液は固化し攪拌が止まったがそのまま3.5時間反応を続けた。反応後の固形物に濃塩酸15 mLを加え、1晩かけて溶解させた。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、2,2,2-トリフルオロエタノール20 mLを加えて共沸させ、再度2,2,2-トリフルオロエタノール20 mLを加えて均一な溶液を得た。得られた溶液を純水:アセトン=1:9の混合溶液500 mLに滴下して、得られた沈殿物を回収し、真空乾燥することでCOOH-PAを白色固体として得た(収量6.41 g、収率61%)。H-NMRよりy=10と算出された。
【0064】
(PEs-PAジブロック共重合体の合成)
【化20】
10 mLナスフラスコにCOOH-PA(0.22 g、0.21 mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(0.06 g、0.45 mmol)塩化リチウム(0.05 g)、N,N-ジメチルアセトアミド(2 mL)を加え60℃に加熱して均一な溶液を得た。混合液を室温まで放冷しCOMU(0.10 g、0.22 mmol)を加えて室温で0.5時間攪拌した。ここにNH-PEs塩酸塩(0.25 g、0.09 mmol)を加えて懸濁溶液を得た。得られた溶液は100℃に昇温することで均一透明な溶液となった。反応を3時間継続した後、反応溶液を水:アセトン=1:9の混合溶液50 mLに滴下して沈殿物を得た。得られた沈殿物を10%塩化カルシウム含有メタノール溶液10 mLでよく分散させ、純水40 mLを加えた後にろ過して沈殿物を回収した。沈殿物は純水50 mL、アセトン50 mLで順次洗浄した。得られた沈殿物を真空乾燥することでPEs-PAジブロック共重合体を白色固体として得た(収量0.28 g、収率81%)。
得られたPEs-PAジブロック共重合体をH-NMRにより解析したところPEsおよびPA由来のフェニル基末端が1:1で観測された。また、末端とブロック構造内部のプロトンピーク面積比からx=17、y=10と算出された(図1)。図1には、比較のためにCOOH-PAおよびNH-PEsのH-NMRの解析結果を併せて示す。
【0065】
(界面活性能評価)
塩化リチウムを25%含有するエチレングリコール/純水=1:1の混合溶媒1 mLに、クロロホルム1 mLを加えて、次いで表1に記載の量で、それぞれサンプルを添加した。得られた2層の液を振盪機(アズワン、試験管ミキサーTRIOHM-1N)を用いて、2000 rpmの回転速度で30秒振盪した。溶液を室温で24時間静置後に目視によってエマルジョンの有無を確認した。その結果、実施例記載のPEs-PAジブロック共重合体を添加した場合にのみ、24時間後もエマルジョン状態が保持され、PEs-PAジブロック共重合体が界面活性能を有することが明らかとなった。なお、塩化リチウムを含有するエチレングリコール/純水混合液は、COOH-PAを溶解するが、NH-PEsを溶解しない。一方、クロロホルムはNH-PEsを溶解するがCOOH-PAを溶解しない溶媒である。
【0066】
【表1】

図1