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  • 特開-無機繊維およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032034
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】無機繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
D01F9/08 Z
D01F9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137895
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】劉 兵
(72)【発明者】
【氏名】松元 竜児
【テーマコード(参考)】
4L037
【Fターム(参考)】
4L037CS16
4L037FA04
4L037PA41
4L037PC09
4L037PC10
4L037PC11
(57)【要約】
【課題】 高い配合比においても複合体中の空隙を抑制できる無機繊維を提供すること。また、このような無機繊維を安定して製造する方法を提供すること。
【解決手段】 繊維横断面における長径と短径との比の平均値(平均扁平率)が2.0以上であり、かつ長径のCV値(標準偏差/平均値)が0.5以下である無機繊維。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維横断面における長径と短径との比の平均値(平均扁平率)が2.0以上であり、かつ長径のCV値(標準偏差/平均値)が0.5以下である無機繊維。
【請求項2】
前記長径の平均値(平均長径)が0.1~10.0μmである、請求項1に記載の無機繊維。
【請求項3】
前記無機繊維の平均繊維長と前記短径の平均値(平均短径)との比(平均アスペクト比)が25以上である、請求項1または2に記載の無機繊維。
【請求項4】
前記無機繊維が、アルミナ繊維またはチタン酸バリウム繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載の無機繊維。
【請求項5】
無機成分と溶媒とを含む紡糸溶液を調製する工程と、前記紡糸溶液を静電紡糸して前駆体繊維を得る工程と、前記前駆体繊維を焼成して無機繊維を得る工程と、を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の無機繊維の製造方法。
【請求項6】
さらに無機繊維を粉砕処理する工程を含む、請求項5に記載の無機繊維の製造方法。
【請求項7】
前記紡糸溶液に、さらに繊維形成性高分子を含む、請求項5または6に記載の無機繊維の製造方法。
【請求項8】
前記紡糸溶液に、さらにキレート剤を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の無機繊維の製造方法。
【請求項9】
前記キレート剤が有機酸である、請求項8に記載の無機繊維の製造方法。
【請求項10】
前記紡糸溶液中における無機成分に対するキレート剤のモル比が0.5~5.0である、請求項8または9に記載の無機繊維の製造方法。
【請求項11】
前記前駆体繊維を焼成して無機繊維を得る工程における焼成温度が600℃以上である、請求項5~10のいずれか1項に記載の無機繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平形状を有する無機繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業界からの高性能化や高機能化の要求に伴い、樹脂等のマトリクス成分に無機フィラーを充填した有機-無機複合体が盛んに開発されている。このような複合体は、マトリクス成分の種類、無機フィラーの組成、形状、配合比などを変えることによって、目的に応じた材料設計が可能である。特に、アスペクト比が大きい繊維状の無機フィラーを用いることで、熱伝導性、イオン伝導性、機械的特性などの各種特性を向上させることができると期待されている。
【0003】
アスペクト比が大きい繊維状の無機フィラーを得る方法の一つとして、無機成分を含む溶液を静電紡糸する方法が知られている。例えば、特許文献1には、アルコールをベースとした溶媒系に溶解したアルコキシドを含む溶液の静電紡糸による無機ナノ繊維の製造方法が開示されている。このような無機ナノ繊維は、高いアスペクト比を有することから、配合比が同じ場合、無機粒子を用いた場合より、高性能化した複合体を得ることが可能である。また、同等の特性を得るためには、無機粒子を用いた場合より少ない配合比で実現可能である。しかし、この製造方法で得られた無機繊維の横断面は円形であるため、例えば、50質量%以上の高い配合比とする場合、複合体には空隙が生じやすくなり、複合体の特性が向上しにくくなるほか、複合体表面の平滑性が失われるなどの問題が生じる。
【0004】
非特許文献1には、エタノールとジエチルエーテルの混合溶媒にアルミニウムアセチルアセトナートを含有した溶液を静電紡糸し、扁平形状を有するアルミナ繊維が得られることが記載されている。しかし、得られたアルミナ繊維の均一性が低く、高い配合比において、複合体中の空隙の抑制は不十分と考えられる。また、この製造方法では、ジエチルエーテルなどの蒸気圧が高い溶媒を用いるため、ノズル詰まりが生じやすく、長時間安定して紡糸することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WО2009/135448号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Optoelectronics and Advanced Materials 13(2011)425-427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような問題を解決し、高い配合比においても複合体中の空隙を抑制できる無機繊維を提供することである。また、このような無機繊維を安定して製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の扁平率と均一性を有する無機繊維を用いることで、高い配合比においても複合体中の空隙を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下の構成を有する。
[1]繊維横断面における長径と短径との比の平均値(平均扁平率)が2.0以上であり、かつ長径のCV値(標準偏差/平均値)が0.5以下である無機繊維。
[2]前記長径の平均値(平均長径)が0.1~10.0μmである、[1]に記載の無機繊維。
[3]前記無機繊維の平均繊維長と前記短径の平均値(平均短径)との比(平均アスペクト比)が25以上である、[1]または[2]に記載の無機繊維。
[4]前記無機繊維が、アルミナ繊維またはチタン酸バリウム繊維である、[1]~[3]のいずれかに記載の無機繊維。
[5]無機成分と溶媒とを含む紡糸溶液を調製する工程と、前記紡糸溶液を静電紡糸して前駆体繊維を得る工程と、前記前駆体繊維を焼成して無機繊維を得る工程と、を含む[1]~[4]のいずれかに記載の無機繊維の製造方法。
[6]さらに無機繊維を粉砕処理する工程を含む、[5]に記載の無機繊維の製造方法。
[7]前記紡糸溶液に、さらに繊維形成性高分子を含む、[5]または[6]に記載の無機繊維の製造方法。
[8]前記紡糸溶液に、さらにキレート剤を含む、[5]~[7]のいずれかに記載の無機繊維の製造方法。
[9]前記キレート剤が有機酸である、[8]に記載の無機繊維の製造方法。
[10]前記紡糸溶液中における無機成分に対するキレート剤のモル比が0.5~5.0である、[8]または[9]に記載の無機繊維の製造方法。
[11]前記前駆体繊維を焼成して無機繊維を得る工程における焼成温度が600℃以上である、[5]~[10]のいずれかに記載の無機繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い配合比においても複合体中の空隙を抑制できる無機繊維を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、このような無機繊維を安定して製造することができる。このような無機繊維を高い配合比で含む複合体は、熱伝導性、イオン伝導性、誘電特性、絶縁特性、機械的特性などの各種特性に優れるため、例えば、電子・電気機器分野で高熱伝導性かつ絶縁性を活かした放熱部材として利用することができる。また、全固体電池分野では、加工性が良く、かつ高いイオン伝導性を有する固体電解質として利用することができる。また、ハプティックス分野では、高い圧電特性を有する圧電材料として利用することもできる。更に、超高精度機器分野では、高強度かつ低熱膨張材料として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例2によるアルミナ繊維(2)の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】本発明の実施例5によるチタン酸バリウム繊維(1)の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】本発明の比較例1によるアルミナ繊維(5)の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】本発明の比較例3によるチタン酸バリウム繊維(2)の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】本発明の実施例2および5による無機繊維のX線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の無機繊維は、繊維横断面における長径と短径との比の平均値(平均扁平率)が2.0以上であり、かつ長径のCV値(標準偏差/平均値)が0.5以下であることを特徴としている。このような無機繊維を複合体用のフィラーとして用いることで、無機繊維間に形成される空間を小さくするとともに、複合体の成形過程のプレス圧などによって効率的に空隙(空気層)を除去できるため、特に高配合比において、複合体中の空隙の形成を抑制することができると考えられる。
【0013】
<無機繊維>
本発明における無機繊維の組成としては、特に限定されないが、リチウム、ベリリウム、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、またはルテチウムなどの元素を含む酸化物、窒化物、または炭化物を例示できる。より具体的には、SiO、Si、SiC、Al、AlN、B、BN、TiO、TiN、ZrO、MgО、CeO、FeO、Fe、Fe、VO、V、SnO、CdO、LiO、WO、Nb、Ta、In、GeO、PbTi、LiNbO、BaTiO、PbZrO、KTaO、Li、NiFe、SrTiOなどを挙げることができる。なお、無機繊維は、一成分の酸化物、窒化物または炭化物から構成されていてもよく、二成分以上の酸化物、窒化物、または炭化物の混合物や固溶体であってもよい。例えば、SiO-Alの二成分から構成されていても良い。
【0014】
また、無機繊維とマトリクス成分との親和性を高める目的で、無機繊維の表面特性を物理的または化学的処理により変性させてもよい。例えば、無機繊維の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤、またはジルコアルミネートカップリング剤で表面処理されていてもよい。カップリング剤の末端の官能基としては、特に限定されず、アミノ、フルオロ、アクリロイル、エポキシ、ウレイド、または酸無水物などが挙げられ、これらは用いるマトリクス成分の性状などを考慮し適宜選択すればよい。
【0015】
本発明における無機繊維の横断面における長径と短径との比の平均値(平均扁平率)は2.0以上であり、2.2~10.0であることが好ましく、2.5~9.0であることがより好ましく、3.0~8.0であることがさらに好ましい。無機繊維の平均扁平率が2.0以上であれば、複合体中の空隙の形成を抑制できる。平均扁平率の上限は、特に限定されないが、10.0以下であれば、機械的強度に優れるため好ましい。無機繊維の平均扁平率は、例えば、無機繊維の横断面を走査型電子顕微鏡で観察し、長径と短径を測定し、長径/短径の平均値によって算出することができる。
【0016】
本発明における無機繊維の横断面における長径のCV値(標準偏差/平均値)は0.5以下であり、0.25以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、理想としては0である。長径のCV値が小さいほど無機繊維の長径が均一であることを意味し、0.5以下であれば、無機繊維の均一性が十分となって、高い配合比においても、複合体中の空隙の形成を抑制できる。無機繊維の横断面における長径のCV値は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて得られた長径の標準偏差を長径の平均値で除することで算出することができる。
【0017】
本発明における無機繊維の横断面における長径の平均値(平均長径)としては、特に限定されないが、0.1~10.0μmであることが好ましく、0.2~5.0μmであることがより好ましく、0.5~2.0μmであることがさらに好ましい。平均長径が0.1μm以上であれば、凝集性が抑えられ、無機繊維がマトリクス成分中に良好に分散するため、均一な物性を有する複合体を形成することが可能となり、10.0μm以下であれば、複合体中の空隙の形成を抑制できるため好ましい。
【0018】
本発明における無機繊維の横断面における短径の平均値(平均短径)としては、特に限定されないが、0.05~5.0μmであることが好ましく、0.1~2.5μmであることがより好ましく、0.15~1.5μmであることがさらに好ましい。平均短径が0.05μm以上であれば、凝集性が抑えられ、均一な物性を有する複合体を形成することが可能であり、5.0μm以下であれば、無機繊維の平均アスペクト比が大きくなり、複合体を高性能化しやいため好ましい。
【0019】
本発明における無機繊維の平均繊維長としては、特に限定されないが、1~1000μmであることが好ましく、5~200μmであることがより好ましく、10~100μmであることがさらに好ましい。平均繊維長が1μm以上であれば、無機繊維の平均アスペクト比が大きくなり、複合体を高性能化しやく、1000μm以下であれば、複合体を薄くしても、複合体から無機繊維が突出しにくくなるため好ましい。
【0020】
本発明における無機繊維の平均アスペクト比(平均繊維長と平均短径との比)としては、特に限定されないが、25以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましい。平均アスペクト比が25以上であれば、例えば、イオン伝導パスが形成することが容易であるため、より高いイオン伝導性を有する固体電解質を得られるなど、複合体を高性能化しやすいため好ましい。平均アスペクト比の上限としては、特に限定されないが、500以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましく、250以下であることがさらに好ましい。無機繊維の平均アスペクト比が500以下であれば、複合体を薄くしても、複合体から無機繊維が突出しにくくなるため好ましい。無機繊維の平均アスペクト比は、例えば、走査型電子顕微鏡から得られた平均繊維長を平均短径で除することで算出することができる。
【0021】
<無機繊維の製造方法>
本発明における無機繊維の製造方法は、特に限定されないが、無機成分と溶媒とを含む紡糸溶液を調製する工程(以下、「紡糸溶液調製工程」という場合がある。)と、紡糸溶液を静電紡糸して前駆体繊維を得る工程(以下、「紡糸工程」という場合がある。)と、前駆体繊維を焼成して無機繊維を得る工程(以下、「焼成工程」という場合がある。)を含むことが好ましい。この方法によれば、上述した無機繊維を、安定して製造することが可能となる。
【0022】
<紡糸溶液調製工程>
本発明における紡糸溶液は、曳糸性を有し、溶媒および無機成分を含んでいれば、特に限定されず、無機成分が溶媒に分散または溶解した状態の紡糸溶液であってもよいが、無機繊維の平均長径を小さくし、長径や組成の均一性を向上させる観点から、無機成分が溶媒に溶解している状態の紡糸溶液を用いることが好ましい。このような紡糸溶液を得る方法としては、特に限定されず、マグネティックスターラー、振とう器、遊星式攪拌機、または超音波装置などの公知の設備を用いて得ることができる。
【0023】
無機成分としては、上述した無機繊維が得られれば、特に限定されず、ケイ素、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、ランタン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、ホウ素、インジウム、スズ、鉛、ビスマスなどの酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩、硫酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、またはアルコキシドを例示できる。紡糸溶液調製工程の操業性の観点から、無機成分はアルコキシドを含むことが好ましい。アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、トリエトキシシラン、アルミニウムsec-ブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、マグネシウムアルコキシドまたはジルコニウムテトライソプロポキシドを例示できる。
【0024】
また、紡糸溶液における無機成分の濃度としては、特に限定されないが、紡糸溶液の総重量に対して、8~80重量%であることが好ましく、10~65重量%であることがより好ましく、15~45重量%であることがさらに好ましい。紡糸溶液の総重量に対する無機成分の濃度が8重量%以上であれば、紡糸溶液の安定性や曳糸性を向上させ、高い生産性で製造することができるため好ましく、80重量%以下であれば、紡糸溶液の粘度が高くなりすぎず安定的な紡糸が行えるとともに細い繊維が得られ易くなるため好ましい。
【0025】
紡糸溶液調製工程に用いる溶媒としては、特に限定されず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールを例示できるが、無機成分の分散性や溶解性、紡糸安定性の観点から、沸点100~150℃を有するアルコール系溶媒が好ましい。溶媒の沸点が100℃以上であれば、紡糸工程において、溶媒の揮発によるノズルのつまりを抑えることができ、また、紡糸溶液調製工程において、加熱によって溶解性を向上させることにより容易に均一な紡糸溶液を得ることが可能となり、150℃以下であれば、高い吐出量で紡糸しても溶媒が揮発することができ、均一な前駆体繊維を得ることが可能となる。沸点が100~150℃を有するアルコール系溶媒としては、1-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルであることが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルであることがより好ましい。
【0026】
本発明における紡糸溶液は、特に限定されないが、曳糸性を向上させる目的で、さらに繊維形成性高分子を含有してもよい。繊維形成性高分子は、紡糸溶液の繊維化を促す作用を奏すればよく、上記溶媒に溶解可能で、焼成により分解されるものから選ばれる。繊維形成性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、またはこれらの共重合体や混合物を例示できる。これら繊維形成性高分子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。繊維形成性高分子は、溶媒への溶解性、及び焼成工程での分解性の観点から、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、またはポリアクリル酸であることが好ましく、ポリビニルピロリドンであることがより好ましい。
【0027】
本発明における紡糸溶液が繊維形成性高分子を含有する場合、繊維形成性高分子に対する無機成分の重量比としては、特に限定されないが、3~30であることが好ましく、4~20であることがより好ましく、5~15であることがさらに好ましい。繊維形成性高分子に対する無機成分の重量比が3以上であれば、前駆体繊維中の無機成分の割合が多くなり、焼成による繊維形成性高分子の消失によってポアが形成されにくくなり、均一かつ緻密な無機繊維が高い生産性で得られるため好ましく、30以下であれば、無機繊維の平均アスペクト比を大きくすることができるため好ましい。
【0028】
本発明における紡糸溶液は、特に限定されないが、紡糸溶液を安定化させる目的で、キレート剤を含んでもよい。キレート剤としては、特に限定されず、β-ジケトンや有機酸を例示できる。β-ジケトンとしては、アセチルアセトンを例示でき、有機酸としては、カルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシ基、チオール基、またはエノール基などを有する有機化合物を例示できる。本発明の無機繊維を安定して製造する観点から、キレート剤は有機酸であることが好ましく、ギ酸、酢酸またはプロピオン酸であることがより好ましく、酢酸であることがさらに好ましい。
【0029】
また、本発明における紡糸溶液において、無機成分に対するキレート剤のモル比としては、特に限定されないが、0.5~5.0であることが好ましく、1.0~4.9であることがより好ましく、1.5~3.5であることがさらに好ましい。無機成分に対するキレート剤のモル比が0.5以上であれば、アルコキシドの加水分解が抑制でき、長時間安定な紡糸溶液を得ることが可能となり、5.0以下であれば、断面形状が扁平した無機繊維を容易に得ることが可能となり、さらに過剰添加による紡糸性悪化を抑制することも可能となるため好ましい。
【0030】
本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、上記以外の成分も紡糸溶液の成分として含んでもよく、例えば、導電助剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤を含んでもよい。
【0031】
<紡糸工程>
次いで、紡糸工程において、調製した紡糸溶液を静電紡糸することで前駆体繊維を得る。
【0032】
静電紡糸とは、紡糸溶液を吐出させるとともに、電界を作用させて、吐出された紡糸溶液を繊維化し、コレクター上に繊維を得る方法である。静電紡糸としては、例えば、紡糸溶液をノズルから押し出すとともに電界を作用させて紡糸する方法、紡糸溶液を泡立たせるとともに電界を作用させて紡糸する方法、円筒状電極の表面に紡糸溶液を導くとともに電界を作用させて紡糸する方法を挙げることができる。これらの方法によれば、直径10nm~10μmの均一な繊維を得ることができる。
【0033】
紡糸溶液の吐出量としては、特に限定されず、0.1~10mL/hrであることが好ましい。吐出量が0.1mL/hr以上であれば充分な生産性を得ることができるため好ましく、10mL/hr以下であれば均一かつ細い繊維が得られ易くなるため好ましい。印加させる電圧の極性は、正であっても負であってもよい。また、電圧の大きさは、繊維が形成されれば特に限定されず、正の電圧の場合、5~100kVの範囲を例示できる。また、ノズルとコレクターとの距離は、繊維が形成されれば特に限定されず、5~50cmの範囲を例示できる。コレクターは、紡糸された前駆体繊維を捕集できるものであればよく、その素材や形状などは特に限定されない。コレクターの素材としては、金属などの導電性材料が好適に用いられる。コレクターの形状としては、特に限定されないが、平板状、シャフト状、コンベア状を例示できる。コレクターがコンベア状であると、前駆体繊維を連続的に製造することができるため好ましい。
【0034】
<焼成工程>
次いで、焼成工程において、紡糸工程により得られた前駆体繊維を焼成することで、無機繊維を得る。
【0035】
焼成工程において、前駆体繊維を焼成することによって、無機成分中の元素が酸化、窒化、または炭化され、無機繊維を得ることができる。また、繊維形成性高分子を用いた場合には、前駆体繊維中に含まれる繊維形成性高分子は加熱分解され消失する。焼成には、一般的な電気炉を用いることができる。焼成雰囲気は、特に限定されないが、空気雰囲気中で行っても、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で行っても、空気雰囲気中で一定時間行った後、不活性ガス雰囲気で行ってもよい。焼成方法としては、一段階焼成であっても、多段階焼成であってもよい。
【0036】
本発明における焼成温度は、特に限定されないが、600℃以上であることが好ましく、800~1700℃であることがより好ましく、1100~1500℃であることがさらに好ましい。焼成温度が、600℃以上であれば、焼成が十分となり、無機繊維の結晶化が進行するとともに、無機繊維以外の成分が残存しにくくなり高純度の無機繊維を得ることが可能となり、1700℃以下であれば、消費エネルギーを低く抑えることができ、製造コストを抑えることが可能となる。焼成温度が1100~1500℃の範囲であると、無機繊維の結晶性を高め、かつ製造コストを十分低くすることができる。焼成時間としては、特に限定されないが、例えば1~24時間焼成してもよい。昇温速度としては、特に限定されないが、5~50℃/minの範囲で適宜変更して焼成することができる。無機繊維の結晶性や組成は、例えば、X線回折法により得られた回折像から判定することができる。
【0037】
<粉砕工程>
本発明の無機繊維の製造方法において、特に限定されないが、無機繊維をさらに粉砕してもよい。無機繊維を粉砕処理することで、マトリクス成分中に無機繊維を充填し易くなる。
【0038】
粉砕の方法は、無機繊維が上述した形状を維持できれば、特に限定されず、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、高圧ホモジナイザー、遊星ミル、ロータリークラッシャー、ハンマークラッシャー、カッターミル、石臼、乳鉢、またはスクリーンメッシュ粉砕を例示でき、乾式であっても湿式であってもよいが、特定の形状や大きさに制御しやすい点で、スクリーンメッシュ粉砕が好ましく用いられる。スクリーンメッシュ粉砕は、所定の目開きを有するメッシュ上に無機繊維を乗せ、ブラシやヘラなどで濾す方法や、アルミナ、ジルコニア、ガラス、PTFE、ナイロン、またはポリエチレンなどのビーズと無機繊維とをメッシュ上に乗せて、縦および/または横方向の振動を加える方法を例示できる。使用するメッシュの目開きとしては、特に限定されないが、20~1000μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましい。目開きが20μm以上であれば、粉砕処理時間を短縮できるため好ましく、1000μm以下であれば、無機繊維の粗大物や凝集物を除去できるため好ましい。求められる特性に対して、粉砕方法や条件などは適宜変更すればよい。
【0039】
<複合体>
本発明の無機繊維は、マトリクス成分と混合して複合体として使用するのに適している。無機繊維の配合比としては、特に限定されず、複合体全固形分に対して1~90重量%を例示できる。本発明の無機繊維は、特に高い配合比での使用に適しており、かかる観点から、40~90重量%であることが好ましい。
【0040】
マトリクス成分としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であってもよく、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスルホン樹脂、セルロール系樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂が挙げられる。
【0041】
複合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、無機繊維およびマトリクス成分以外の成分として、溶媒、硬化剤、分散剤、高分子化合物、無機粒子、金属粒子、界面活性剤、帯電防止剤、レベリング剤、粘度調整剤、チクソ性調整剤、密着性向上剤、エポキシ硬化剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、顔料、チタンブラック、カーボンブラック、または染料などの添加剤を含んでもよい。これらの添加剤は、目的とする特性によって、適宜、1種のみを用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明の無機繊維を複合体のフィラーとして用いることで、空隙形成を抑制することが可能となり、熱伝導性、イオン伝導性、誘電特性、絶縁特性、機械的特性などの各種特性に優れた複合体として好適に使用することができる。複合体の空隙率としては、特に限定されず、10%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、4%以下であることがさらに好ましい。複合体の空隙率は、複合体の密度(測定密度)と、複合体の各成分の密度および配合比から算出される理論密度を用い、(1-(測定密度÷理論密度))×100(%)にて算出することができる。
【0043】
<複合体の製造方法>
複合体は、例えば、本発明の無機繊維とマトリクス成分とを混合し、任意の形状に成形することで得られる。
【0044】
混合方法は、特に限定されず、乾式法であっても、湿式法であってもよい。乾式法の場合には、溶媒を必要とせずに複合体が得られる点で好ましく、湿式法の場合には、各種特性のばらつきが小さい複合体が得られるため好ましい。乾式法による混合方法としては、例えば、無機繊維およびマトリクス成分を配合し、常温にて乳鉢を用いて混合する方法や、ペレタイザーなどを用いて溶融混錬する方法を挙げることができる。湿式法による混合方法としては、例えば、無機繊維、マトリクス成分、および溶媒を配合し、マグネティックスターラー、振とう器、ボールミル、ジェットミル、遊星式攪拌機、または超音波装置などの公知の設備を用いて混合する方法を挙げることができ、混合した後溶媒を蒸発させてもよい。混合条件としては、特に限定されず、例えば、10~120℃において、1~24時間行うことができる。
【0045】
成形方法としては、例えば、乾式法による混合物をステンレス板に挟み、または任意の形状の金型に入れ、圧縮成形機などにより所定の温度、圧力、時間で熱プレスし硬化させる方法や、溶融成形後に冷却固化させることで硬化させる方法、紫外線を照射することで硬化させる方法が挙げられる。圧縮成形条件としては、混合物の流動性や、目的とする物性によって適宜変更すればよく、圧縮成形時の温度としては60~250℃、圧力としては1~30MPa、時間としては1~60分間を例示できる。また、湿式法による混合物を支持体上に塗布し、溶媒を乾燥させることで硬化させる方法、熱硬化や光硬化させる方法などが挙げられる。塗布する方法としては、特に限定されず、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、またはキャストコーティング法などの公知の方法を用いて行うことができる。また、パターン化が必要な場合には、インクジェット法、スクリーン印刷法、またはフレキソ印刷法などの公知の方法を用いて行うことができる。溶媒を乾燥させる方法としては、特に限定されるものではなく、誘導加熱、熱風循環加熱、真空乾燥、赤外線、またはマイクロ波加熱を例示できる。乾燥条件としては、例えば、40~150℃で1~180分間乾燥してもよい。乾燥後の複合体は、空隙形成を抑制する目的で、さらに、熱プレスや熱処理を行うことができる。熱プレス条件としては、特に限定されず、プレス温度としては60~300℃、プレス圧力としては1~30MPa、プレス時間としては1~60分間の範囲を例示できる。熱処理条件としては、例えば、オーブンなどで60~400℃で1~24時間行ってもよい。
【実施例0046】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定にされない。
実施例で用いた物性値の測定方法または定義を以下に示す。
【0047】
<無機繊維の平均長径、長径のCV値、平均短径、平均扁平率および平均アスペクト比>
株式会社日立製作所製の走査型電子顕微鏡(SN-3400N)を使用して、得られた無機繊維を観察し、画像解析機能を用いて、得られた無機繊維50本以上の横断面における長径および短径、並びに繊維長を測定し、長径の平均値を平均長径、長径の標準偏差/平均長径を長径のCV値、短径の平均値を平均短径、長径/短径の平均値を平均扁平率、繊維長の平均値を平均繊維長、平均繊維長/平均短径を平均アスペクト比とした。
<無機繊維状フィラーのX線回折像の測定方法>
Rigaku製のX線回折装置(SmartLab)を使用して、得られた無機繊維にCuKα線を照射し、反射したCuKα線を検出することで、X線回折像を得た。
<複合体の空隙率>
複合体の空隙率は、(1-(測定密度(g/cm)÷理論密度(g/cm)))×100(%)にて算出した。尚、測定密度は電子比重計(アルファーミラージュ(株)製MD-300s型)により測定した。理論密度は空隙率が0%時の複合体の混合密度を意味し、本発明の実施例および比較例においては、(無機繊維の重量(g)+マトリクス成分の重量(g))÷((無機繊維の重量(g)÷無機繊維の密度(g/cm))+(マトリクス成分の重量(g)÷マトリクス成分の密度(g/cm))にて算出した。
【0048】
[実施例1]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル12.80重量部と酢酸3.20重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.5重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド4重量部を添加し、無機成分に対するキレート剤のモル比が3.28の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに4mL/hrで供給すると共に、ノズルに21kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/minの昇温速度で1150℃まで昇温し、1150℃の焼成温度で2時間保持した後、室温まで冷却し、次いで、目開き500μmスクリーンメッシュ上に、直径9.5mmナイロンボールとともに乗せ、縦方向に振動させて粉砕することで、アルミナ繊維(1)を得た。得られたアルミナ繊維(1)の平均長径は0.59μm、長径のCV値は0.10、平均短径は0.16μm、平均扁平率は3.7、平均繊維長は12μm、平均アスペクト比は75であった。また、紡糸工程においては、長時間安定して紡糸可能であった。
<複合体の作製>
小型プレス((株)東洋精機製作所製ミニテストプレス、MPーSNH)に、厚みが5mmで開口部が直径20mmの円型金型をセットした。次いで、アルミナ繊維(1)0.186重量部、マトリクス成分としてナイロンパウダー((株)メタルカラー製、SNPー619NS)0.057重量部を配合し、乳鉢で10分間混合したものを金型開口部に入れ、200℃、5MPaで20分間プレスすることで複合体を得た。アルミナ繊維(1)の含有量は76.5重量%であった。得られた複合体の空隙率は2.7%であった。
【0049】
[実施例2]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル12.80重量部と酢酸3.20重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.55重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド6重量部を添加し、無機成分に対するキレート剤のモル比が2.19の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに6mL/hrで供給すると共に、ノズルに22kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。次いで、実施例1と同様の条件にて、焼成および粉砕処理を行うことで、アルミナ繊維(2)を得た。得られたアルミナ繊維(2)の平均長径は1.06μm、長径のCV値は0.09、平均短径は0.21μm、平均扁平率は5.0、平均繊維長は15μm、平均アスペクト比は71であった。また、紡糸工程においては、長時間安定して紡糸可能であった。得られたアルミナ繊維(2)の走査型電子顕微鏡写真およびX線回折像をそれぞれ図1および図5に示す。図5の結果から、アルミナ繊維(2)はα-アルミナであった。
<複合体の作製>
アルミナ繊維(1)に変えて、アルミナ繊維(2)を用いた以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の空隙率は0.5%であった。
【0050】
[実施例3]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル13.34重量部と酢酸2.66重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.6重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド6重量部を添加し、無機成分に対するキレート剤のモル比が1.82の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、実施例2と同様の条件にて、静電紡糸、焼成および粉砕処理を行うことで、アルミナ繊維(3)を得た。得られたアルミナ繊維(3)の平均長径は1.70μm、長径のCV値は0.08、平均短径は0.33μm、平均扁平率は5.2、平均繊維長は20μm、平均アスペクトは比61であった。また、紡糸工程においては、長時間安定して紡糸可能であった。
<複合体の作製>
アルミナ繊維(1)に変えて、アルミナ繊維(3)を用いた以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の空隙率は1.8%であった。
【0051】
[実施例4]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル2.55重量部と酢酸1.00重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.4重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド6重量部を添加し、無機成分に対するキレート剤のモル比が0.68の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、実施例2と同様の条件にて、静電紡糸、焼成および粉砕処理を行うことで、アルミナ繊維(4)を得た。得られたアルミナ繊維(4)の平均長径は7.05μm、長径のCV値は0.07、平均短径は1.32μm、平均扁平率は5.3、平均繊維長は77μm、平均アスペクト比は58であった。但し、長時間紡糸を行うと、ノズル先端に徐々にゲル状物が蓄積していき、安定紡糸性にはやや劣っていた。キレート剤と無機成分とのモル比が小さく、アルコキシドの加水分解を完全に抑制することが困難であったためと考えられる。
<複合体の作製>
アルミナ繊維(1)に変えて、アルミナ繊維(4)を用いた以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の空隙率は5.8%であった。
【0052】
[実施例5]
<紡糸溶液の調製>
炭酸バリウム3.42重量部と酢酸10重量部とイオン交換水0.30重量部を混合し、均一な第一の溶液を得た。次いで、ポリビニルピロリドン1.08重量部とプロピレングリコールモノメチルエーテル9.09重量部とチタンテトライソプロポキシド4.87重量部を混合し、均一な第二の溶液を得た。得られた第一の溶液に第二の溶液を混合し、無機成分に対するキレート剤のモル比が4.83の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.22mmのノズルに2.5mL/hrで供給すると共に、ノズルに23kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/minの昇温速度で1150℃まで昇温し、1150℃の焼成温度で2時間保持した後、室温まで冷却し、次いで、目開き250μmスクリーンメッシュ上に乗せ、ブラシで濾して粉砕を行うことで、チタン酸バリウム繊維(1)を得た。得られたチタン酸バリウム繊維(1)の平均長径は1.09μm、長径のCV値は0.14、平均短径は0.35μm、平均扁平率は3.1、平均繊維長は12μm、平均アスペクト比は34であった。また、紡糸工程においては、長時間安定して紡糸可能であった。得られたチタン酸バリウム繊維(1)の走査型電子顕微鏡写真およびX線回折像をそれぞれ図2および図5に示す。図5の結果から、チタン酸バリウム繊維(1)の結晶構造は正方晶であった。
<複合体の作製>
小型プレス((株)東洋精機製作所製ミニテストプレス、MP-SNH)に、厚みが5mmで開口部が直径20mmの円型金型をセットした。次いで、チタン酸バリウム繊維(1)0.278重量部、マトリクス成分としてナイロンパウダー((株)メタルカラー製、SNP-619NS)0.057重量部を配合し、乳鉢で10分間混合したものを金型開口部に入れ、200℃、5MPaで20分間プレスすることで複合体を得た。チタン酸バリウム繊維(1)の含有量は83.0重量%であった。得られた複合体の空隙率は3.5%であった。
【0053】
[比較例1]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル8重量部と酢酸8重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.6重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド6重量部を添加し、無機成分に対するキレート剤のモル比が5.47の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、実施例2と同様の条件にて、静電紡糸、焼成および粉砕処理を行うことで、アルミナ繊維(5)を得た。得られたアルミナ繊維(5)の平均長径は0.56μm、長径のCV値は0.11、平均短径は0.56μm、平均扁平率は1.0、平均繊維長は12μm、平均アスペクト比は21であった。また、紡糸工程においては、長時間安定して紡糸可能であった。得られたアルミナ繊維(5)の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
<複合体の作製>
アルミナ繊維(1)に変えて、アルミナ繊維(5)を用いた以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の空隙率は20.1%であった。
【0054】
[比較例2]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル10重量部とアセチルアセトン1.50重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.3重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド6重量部を添加し、無機成分に対するキレート剤のモル比が0.62の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに7mL/hrで供給すると共に、ノズルに24kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。次いで、実施例1と同様の条件にて、焼成および粉砕処理を行うことで、アルミナ繊維(6)を得た。得られたアルミナ繊維(6)の平均長径は0.82μm、長径のCV値は0.10、平均短径は0.82μm、平均扁平率は1.0、平均繊維長は14μm、平均アスペクト比は17であった。また、紡糸工程においては、長時間安定して紡糸可能であった。
<複合体の作製>
アルミナ繊維(1)に変えて、アルミナ繊維(6)を用いた以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の空隙率は17.8%であった。
【0055】
[比較例3]
<紡糸溶液の調製>
炭酸バリウム7.37重量部と酢酸14.36重量部とイオン交換水0.65重量部を混合し、均一な第一の溶液を得た。次いで、ポリビニルピロリドン0.99重量部と酢酸6.53重量部とアセチルアセトン6.53重量部とチタンテトライソプロポキシド10.51重量部を混合し、均一な第二の溶液を得た。得られた第一の溶液に第二の溶液を混合し、無機成分に対するキレート剤のモル比が5.56の紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、実施例5と同様の条件にて、静電紡糸、焼成および粉砕処理を行うことで、チタン酸バリウム繊維(2)を得た。得られたチタン酸バリウム繊維(2)の平均長径は0.99μm、長径のCV値は0.13、平均短径は0.99μm、平均扁平率は1.0、平均繊維長は10μm、平均アスペクト比は10であった。但し、紡糸を開始して数分後には紡糸ジェットが左右に振り続ける現象が生じ、安定紡糸が劣っていた。キレート剤である酢酸の添加量がかなり増えたことで、紡糸溶液の電気伝導率が上昇し、電荷がノズル先端で徐々に溜まってきたためと考えられる。得られたチタン酸バリウム繊維(2)の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。
<複合体の作製>
チタン酸バリウム繊維(1)に変えて、チタン酸バリウム繊維(2)を用いた以外は、実施例5と同様にして複合体を得た。得られた複合体の空隙率は21.5%であった。
【0056】
[比較例4]
<紡糸溶液の調製>
エタノール1.00重量部とジエチルエーテル2.20重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン5.0重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムアセチルアセトナート1.8重量部を添加し、紡糸溶液を調製した。
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに2mL/hrで供給すると共に、ノズルに20kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。ノズルとコレクターの距離は200mmとした。次いで、実施例1と同様の条件にて、焼成および粉砕処理を行うことで、アルミナ繊維(7)を得た。得られたアルミナ繊維(7)の平均長径は2.46μm、長径のCV値は0.75、平均短径は0.20μm、平均扁平率は12.3、平均繊維長は13μm、平均アスペクトは比65であった。但し、紡糸を開始して数分後にはノズル先端にゲル状物が発生し、長時間紡糸することはできなかった。ジエチルエーテルの揮発性が非常に高く、紡糸溶液がノズルから出てすぐに固化してしまったためと考えられる。
<複合体の作製>
アルミナ繊維(1)に変えて、アルミナ繊維(7)を用いた以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の空隙率は10.7%であった。
【0057】
実施例1~5及び比較例1~4の紡糸溶液の組成、無機繊維の物性、および複合体の空隙率について表1にまとめる。
【0058】
【表1】
【0059】
平均扁平率が2.0以上であり、かつ長径のCV値が0.5以下である実施例1~5の無機繊維を含有した複合体は、平均扁平率が小さい比較例1~3や、長径のCV値が大きい比較例4と比べて、複合体の空隙率は低い結果となった。これは、平均扁平率が2.0以上であり、かつ長径のCV値が0.5以下であることによって、無機繊維間に形成される空間を小さくするとともに、複合体の成形過程によって効率的に空隙(空気層)を除去できたためと考えられる。
また、平均長径が小さい無機繊維(実施例1~3、および5)は、平均長径が大きい無機繊維(実施例4)と比べると、複合体の空隙率がさらに低減できる結果となった。これは、無機繊維同士の交差点間の距離が小さく、空隙が生じにくくなったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の無機繊維は、高い配合比においても複合体の空隙形成を抑制できることから、熱伝導性、イオン伝導性、誘電特性、絶縁特性、機械的特性などの各種特性に優れるため、例えば、電子・電気機器分野で高熱伝導性かつ絶縁性を活かした放熱部材として利用することができる。また、全固体電池分野では、加工性が良く、かつ高いイオン伝導性を有する固体電解質として利用することができる。また、ハプティックス分野では、高い圧電特性を有する圧電材料として利用することもできる。更に、超高精度機器分野では、高強度かつ低熱膨張材料として利用することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5