(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032208
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】プラズモニック材料探索方法、およびプラズモニック材料探索装置
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20230302BHJP
G16C 10/00 20190101ALI20230302BHJP
【FI】
G16C60/00
G16C10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138194
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智大
(72)【発明者】
【氏名】前園 涼
(72)【発明者】
【氏名】本郷 研太
(57)【要約】 (修正有)
【課題】母物質として非導電物質を用いた物質の中からプラズモニック材料を効率的に探索できるプラズモニック材料探索方法及びプラズモニック材料探索装置を提供する。
【解決手段】プラズモニック材料探索方法は、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出し、第1非導電物質群の非導電物質の情報と、算出した第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収とを用いて予測モデルを生成し、予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測し、第2非導電物質群の非導電物質のうち、予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下の非導電物質を候補物質として選択し、候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出し、候補物質のうち、算出した電磁波吸収が閾値以下の非導電物質を選択する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一原理計算により第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する予測用電磁波吸収算出工程と、
前記第1非導電物質群の非導電物質の情報と、前記予測用電磁波吸収算出工程で算出した前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収と、を用いて予測モデルを生成する予測モデル生成工程と、
前記予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測する予測工程と、
前記第2非導電物質群の非導電物質のうち、前記予測工程で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択する候補物質選択工程と、
前記候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出する電磁波吸収算出工程と、
前記候補物質のうち、前記電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収が前記閾値以下である非導電物質を選択する選択工程と、を含むプラズモニック材料探索方法。
【請求項2】
前記予測用電磁波吸収算出工程では、
ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出し、
前記誘電関数の虚部から前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する、請求項1に記載のプラズモニック材料探索方法。
【請求項3】
前記予測用電磁波吸収算出工程は、
一般化勾配近似を用いて、第3非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する第1予測用電磁波吸収算出工程と、
ハイブリッド汎関数を用いて、前記第3非導電物質群の非導電物質の一部である、前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する第2予測用電磁波吸収算出工程と、を有し、
前記予測モデル生成工程は、
前記第3非導電物質群の非導電物質の情報を説明変数とし、かつ前記第1予測用電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収を目的変数とする第1予測モデルを生成する第1予測モデル生成工程と、
前記第1予測モデルを、前記第1非導電物質群の非導電物質の情報、および前記第2予測用電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収を用いて、転移学習により第2予測モデルに転移する第2予測モデル生成工程と、を有し、
前記予測工程では、前記予測モデルとして前記第2予測モデルを用いる、請求項1に記載のプラズモニック材料探索方法。
【請求項4】
前記第1予測モデル生成工程では、ニューラルネットワークを用いて前記第1予測モデルを生成する、請求項3に記載のプラズモニック材料探索方法。
【請求項5】
前記第2予測用電磁波吸収算出工程では、
ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出し、
前記誘電関数の虚部から、前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する、請求項3または請求項4に記載のプラズモニック材料探索方法。
【請求項6】
第一原理計算により第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する予測用電磁波吸収算出部と、
前記第1非導電物質群の非導電物質の情報と、前記予測用電磁波吸収算出部で算出した前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収と、を用いて予測モデルを生成する予測モデル生成部と、
前記予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測する予測部と、
前記第2非導電物質群の非導電物質のうち、前記予測部で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択する候補物質選択部と、
前記候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出する電磁波吸収算出部と、
前記候補物質のうち、前記電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収が前記閾値以下である非導電物質を選択する選択部と、を有するプラズモニック材料探索装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズモニック材料探索方法、およびプラズモニック材料探索装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズモニック材料は、古くはステンドグラス、近年ではバイオケミカルセンサーや、癌などの病変部位の検出、近赤外線遮蔽材料、メタマテリアルなど様々な分野で使用されている。プラズモニック材料は、その特性であるプラズモン共鳴を利用するため、金属や合金、キャリアドープ半導体などの導電材料であることが好ましい。
【0003】
また、プラズモン共鳴により入射光に対してどの程度電場が増強されるかも、プラズモニック材料の重要な特性である。
【0004】
このようなプラズモニック材料としては、金、銀などの金属、アンチモンドープ酸化錫、錫ドープ酸化インジウムなどのキャリアをドープした半導体が用いられている。ところが、これらのプラズモニック材料は、貴金属や希少金属を含むため高コストであること、耐候性に課題があることなどの問題がある。そのため、新規プラズモニック材料の発見が望まれている。
【0005】
新規プラズモニック材料を探索する方法として、物質の誘電関数を測定し、その誘電関数からプラズモニック材料を判定する方法がある。プラズモン共鳴による電場増強を大きくするためには、物質中でのエネルギーロスが少ない材料、つまり照射した電磁波の吸収が小さい材料が好ましい。物質中でのエネルギーロスは、物質の誘電関数の虚部で記述される。そのため、プラズモニック材料の候補物質に対して誘電関数を測定することで、プラズモニック材料の探索が可能となる。しかし、候補物質すべてに対して分光エリプソメトリーなどの方法で実験的に誘電関数を測定することは多大な労力を必要とする。
【0006】
新規プラズモニック材料を探索する別の方法として、物質の誘電関数を密度汎関数理論(DFT:Density Functional Theory)などの第一原理計算により算出する方法がある。例えば、非特許文献1には、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により高精度で誘電関数を計算できることが示されている。
【0007】
また、非特許文献2には、機械学習を用いることで大量の導電材料の中から短期間でプラズモニック材料を探索できることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Yoshio, K. Maki, and K. Adachi, The Journal of Chemical Physics, 144, 234702 (2016).
【非特許文献2】T. Yoshida, R. Maezono, and K. Hongo, ACS Applied Nano Materials, 4, 1932 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
プラズモニック材料を探索する方法として、導電物質の誘電関数を第一原理計算と機械学習から求める方法がある。
【0010】
しかしアンチモンドープ酸化錫、錫ドープ酸化インジウムなどのキャリアをドープした半導体は母物質が非導電物質であるためそもそも候補物質とみなされていない。非導電物質にキャリアをドープする方法として、元素置換、欠陥導入、空孔への元素挿入などが考えられる。しかしながらこれらすべての場合について第一原理計算を行うことは多大な労力を要する。そのため、非導電物質にキャリアをドープした場合プラズモニック材料に適しているか、簡便に探索する方法の開発が望まれていた。
【0011】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、母物質として非導電物質を用いた物質の中から、プラズモニック材料を効率的に探索できるプラズモニック材料探索方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
第一原理計算により第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する予測用電磁波吸収算出工程と、
前記第1非導電物質群の非導電物質の情報と、前記予測用電磁波吸収算出工程で算出した前記第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収と、を用いて予測モデルを生成する予測モデル生成工程と、
前記予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測する予測工程と、
前記第2非導電物質群の非導電物質のうち、前記予測工程で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択する候補物質選択工程と、
前記候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出する電磁波吸収算出工程と、
前記候補物質のうち、前記電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収が前記閾値以下である非導電物質を選択する選択工程と、を含むプラズモニック材料探索方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、母物質として非導電物質を用いた物質の中から、プラズモニック材料を効率的に探索できるプラズモニック材料探索方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るプラズモニック材料探索方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、第1実施形態における予測用電磁波吸収算出工程の一例である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係るプラズモニック材料探索方法のフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るプラズモニック材料探索装置のハードウェア構成図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係るプラズモニック材料探索装置の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[プラズモニック材料探索方法]
(1)第1実施形態
以下、本実施形態のプラズモニック材料探索方法について、
図1のフローチャート100、
図2のフローチャート200を用いながら説明する。
【0016】
図1は、第1実施形態に係るプラズモニック材料探索方法のフローチャートである。
図2は、第1実施形態における予測用電磁波吸収算出工程の一例である。
【0017】
第1実施形態に係るプラズモニック材料探索方法は、予測用電磁波吸収算出工程、予測モデル生成工程、予測工程、候補物質選択工程、電磁波吸収算出工程、および選択工程を含む。
(予測用電磁波吸収算出工程:S1)
第1実施形態では、まず、予測用電磁波吸収算出工程を実行できる。
【0018】
予測用電磁波吸収算出工程は、第一原理計算により第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる(ステップS1)。
【0019】
ここで、第一原理計算とは、量子力学のシュレディンガー方程式に則して、物質中の電子の運動をコンピュータにより計算する方法を示す。第一原理計算には、例えば、一般化勾配近似、ハイブリッド汎関数等を用いることができる。
【0020】
非導電物質とは、バンドギャップが0eVよりも大きい物質を指し、半導体材料等が挙げられる。非導電物質は、特にバンドギャップが3eV±0.2eV以内の範囲にあるワイドギャップ半導体であることが好ましい。
【0021】
仮想的キャリアドープは、物質がもつ価電子数を増加させる(電子ドープ)、または減少させる(ホールドープ)ことで行うことができる。仮想的キャリアドープを行うことで、元素置換、欠陥形成、空孔への元素挿入など様々な場合を考慮することなく半導体にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出することができる。より具体的には、仮想的キャリアドープは、例えば仮想的キャリアドープを行う非導電物質の単位格子に対して、予め定めた数の電子を加える、もしくは除去することで行うことができる。
【0022】
予測用電磁波吸収算出工程ではまず、探索候補となるM個の非導電物質の結晶構造が記憶されているデータベースから、N個の非導電物質の結晶構造を取得できる(
図1、ステップS1)。ここで、M、Nはモデル作成に必要な数を示す。また、NはMより小さい2以上の整数を示す。N個の非導電物質は、本実施形態における第1非導電物質群の非導電物質の一例である。すなわち、M個の非導電物質は、本実施形態のプラズモニック材料探索方法を実施する際に、予め用意した非導電物質の物質群を構成する非導電物質である。そして、第1非導電物質群の非導電物質は、上記予め用意した非導電物質の物質群の一部の非導電物質になる。
【0023】
なお、後述する第2非導電物質群の非導電物質は、予め用意した非導電物質の物質群のうち、第1非導電物質群の非導電物質を除いた残部の非導電物質になる。
【0024】
予測用電磁波吸収算出工程は、具体的には例えば、
図2に示すフローに従って実施でき、第1算出工程と、第2算出工程とを実施できる。
【0025】
第1算出工程では、取得したN個の結晶構造を用いて、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、第1非導電物質群の各非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数εを算出できる(
図2、ステップS11)。
【0026】
次いで、第2算出工程では、算出した誘電関数εの虚部Im[ε]から、下記式(1)に基づいて、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる(
図2、ステップS12)。
【0027】
電磁波吸収=∫Im[ε]dλ (1)
ここで、電磁波吸収は、誘電関数の虚部を波長で積分した値を示す。すなわち、誘電関数εは波長λに依存した量である。波長の積分範囲は、目的に応じて選ぶことができる。例えば、可視光の波長領域でプラズモニック材料として使用したい場合、積分範囲を380nm~780nmとすることができる。
(予測モデル生成工程:S2)
次に、予測モデル生成工程を実行できる。予測モデル生成工程では、第1非導電物質群の非導電物質の情報と、予測用電磁波吸収算出工程で算出した第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収と、を用いて予測モデルを生成する(
図1、ステップS2)。ここで、生成した予測モデルは、非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測するモデルである。
【0028】
予測モデルの生成に用いられる非導電物質の情報は、特に制限されるものではない。例えば、非導電物質に含まれる各元素のある物性値の加重平均値、最大値、最小値、平均値、結晶の動径分布関数、CGCNN(Crystal Graph Convolutional Neural Network)などを用いることができる。
【0029】
予測モデルを生成する手法は、特に制限されるものではない。例えば、第1非導電物質群の非導電物質の情報を説明変数とし、かつ予測用電磁波吸収算出工程で算出した第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を目的変数として予測モデルを作成できる。このような予測モデルの作成には、例えば、ニューラルネットワークやガウス過程回帰を用いることができる。
(予測工程:S3)
次に、予測工程を実行できる。予測工程では、予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測する(
図1、ステップS3)。ここで、第2非導電物質群の非導電物質は、上述のM個の非導電物質から、第1非導電物質群を構成するN個の非導電物質を除いた非導電物質(M-N個の非導電物質)に対応する。従って、予測工程では、予測モデル生成工程で生成した予測モデルを用いて、M-N個の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測することになる。
(候補物質選択工程:S4)
次に、候補物質選択工程を実行できる。候補物質選択工程では、第2非導電物質群の非導電物質のうち、予測工程で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択する(
図1、ステップS4)。候補物質選択工程では、具体的には、予測工程で予測したM-N個の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収が閾値δ以下であるかを判定する。
【0030】
なお、閾値δの値は、条件に応じて適宜変更して用いることができるが、好ましいプラズモニック材料を考慮して、例えばδ=3.5と定められる。
【0031】
候補物質選択工程において、予測した電磁波吸収が閾値δ以下の場合は、後述する電磁波吸収算出工程(
図1、ステップS5)へ進む。一方、予測した電磁波吸収が閾値δを超えた場合は、予測工程(
図1、ステップS3)に戻って、該予測工程、および候補物質選択工程を繰り返し実施できる(
図1、ステップS3~S4)。
(電磁波吸収算出工程:S5)
次に、電磁波吸収算出工程を実行する。電磁波吸収算出工程では、候補物質選択工程で選択された候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出する(
図1、ステップS5)。具体的には、候補物質選択工程で選択した候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を、ハイブリッド汎関数による第一原理計算により算出する。そして、算出した誘電関数εの虚部Im[ε]から候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する。
【0032】
なお、ハイブリッド汎関数による第一原理計算により候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出する方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。例えば、上述の第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出する場合と同様にして算出することができる(
図2、ステップS11参照)。
【0033】
また、誘電関数の虚部から候補物質の電磁波吸収を算出する方法についても特に限定されず、任意の方法を用いることができる。例えば、上述の第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出する場合と同様にして算出することができる(
図2、ステップS12参照)。
(選択工程:S6)
次に、選択工程を実行できる。選択工程では、候補物質のうち、電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収が閾値以下である非導電物質を選択できる。電磁波吸収が閾値以下である非導電物質を選択する方法は特に限定されないが、例えば、上述の候補物質選択工程で候補物質を選択する場合と同様に算出することができる(
図1、ステップS4参照)。
【0034】
選択工程において、算出した電磁波吸収が閾値δ以下の非導電物質については、好ましいプラズモニック材料として記録できる。この際、例えば選択した非導電物質について、該非導電物質の結晶構造や、仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数、電磁波吸収を出力し、記録することもできる。
【0035】
一方、選択工程に供した候補物質の電磁波吸収が閾値δを超える場合は、予測工程(
図1、ステップS3)に戻って、該予測工程、候補物質選択工程、電磁波吸収算出工程、および選択工程を繰り返すことができる(
図1、ステップS3~S6)。
【0036】
そして、上記予測工程、候補物質選択工程、電磁波吸収算出工程、および選択工程(ステップS3~S6)をM-N個の物質すべてに対して実施した場合は、プラズモニック材料の探索を終了する。一方、上記ステップS3~S6がM-N個の物質すべてに対して実施されていない場合は、ステップS3に戻って、以降の各ステップを繰り返すことができる(
図1、ステップS3~S6)。
【0037】
本実施形態のプラズモニック材料探索方法では、上記の予測用電磁波吸収算出工程、予測モデル生成工程、予測工程、候補物質選択工程、電磁波吸収算出工程、および選択工程(ステップS1~S6)の各工程を実行することにより、プラズモニック材料を多数の非導電候補物質の中から短期間で探索することが可能となる。そのため、本実施形態によれば、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料を効率的に探索することができる。
【0038】
また、本実施形態のプラズモニック材料探索方法では、上述のように、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算で得られた非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数の虚部から算出することで(
図2、ステップS11、ステップS12)、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料を多数の候補物質の中から高い精度で探索することができる。
(2)第2実施形態
以下、本実施形態のプラズモニック材料探索方法について、
図3のフローチャート300を用いながら説明する。
【0039】
図3は、第2実施形態に係るプラズモニック材料探索方法のフローチャートである。
【0040】
第2実施形態に係るプラズモニック材料探索方法では、第1実施形態と共通する部分については、説明を省略する。第2実施形態では、予測用電磁波吸収算出工程(S1)が、第1予測用電磁波吸収算出工程と第2予測用電磁波吸収算出工程とを有することができる。
【0041】
また、第2実施形態に係るプラズモニック材料探索方法では、予測モデル生成工程(S2)が、第1予測モデル生成工程と、第2予測モデル生成工程とを有することができる。
(第1予測用電磁波吸収算出工程:S21)
予測用電磁波吸収算出工程の第1予測用電磁波吸収算出工程では、一般化勾配近似を用いて、第3非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる(
図3、ステップS21)。第3非導電物質群の非導電物質は、探索候補となるM個の非導電物質中のL個の非導電物質を用いることができる。Lは後述する第1予測モデル生成工程において、モデル生成に必要な数を示す。また、LはNより大きく、かつ2以上の整数を示し、N個の第1非導電物質群の非導電物質は第3非導電物質群に包含される。
【0042】
一般化勾配近似は、特に限定されず、例えば、PBE汎関数(交換相関汎関数)等を用いることができる。
【0043】
第3非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収の算出に当たっては、既述の第1実施形態で挙げたハイブリッド汎関数に代えて一般化勾配近似を用いた第一原理計算により第3非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数の虚部を算出できる。そして、係る誘電関数の虚部から、第3非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出することができる(
図2、ステップS11、ステップS12参照)。
(第2予測用電磁波吸収算出工程:S22)
予測用電磁波吸収算出工程の第2予測用電磁波吸収算出工程では、ハイブリッド汎関数を用いて、第3非導電物質群の非導電物質の一部である、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる(
図3、ステップS22)。
【0044】
第1非導電物質群の非導電物質は、第1の実施形態の場合と同様に、既述のM個の非導電物質から取得したN個の非導電物質に対応し、第3非導電物質群を構成する非導電物質の一部に当たる。
【0045】
ハイブリッド汎関数は、特に限定されず、例えば、HSE06汎関数等を用いることができる。
【0046】
第2予測用電磁波吸収算出工程では、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出できる。
【0047】
そして、誘電関数の虚部から、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0048】
すなわち、第2予測用電磁波吸収算出工程における、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収の算出は、第1実施形態と同様に、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算で得られた第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数の虚部から算出できる(
図2、ステップS11、ステップS12参照)。
【0049】
また、第2実施形態に係るプラズモニック材料探索方法では、予測モデル生成工程が、第1予測モデル生成工程と、第2予測モデル生成工程とを有することができる。
(第1予測モデル生成工程:S23)
予測モデル生成工程の第1予測モデル生成工程では、第3非導電物質群の非導電物質の情報を説明変数とし、かつ第1予測用電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収を目的変数とする第1予測モデルを生成できる。
【0050】
第1予測モデルの生成に用いられる第3非導電物質群の非導電物質の情報は、特に制限されず、例えば、第1実施形態の場合と同様に、第3非導電物質群の非導電物質に含まれる各元素のある物性値の加重平均値等を用いることができる。また、第1予測モデルを生成する手法は、特に制限されず、例えば、第1実施形態と同様に、ニューラルネットワークやガウス過程回帰を用いることができる。特に、予測モデルを特に高精度で生成できることから、第1予測モデル生成工程では、ニューラルネットワークを用いて、第1予測モデルを生成することが好ましい。
(第2予測モデル生成工程:S24)
予測用電磁波吸収算出工程の第2予測モデル生成工程では、第1予測モデルを、第1非導電物質群の非導電物質の情報、および第2予測用電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収を用いて、転移学習により第2予測モデルに転移できる(
図3、ステップS22)。
【0051】
第1非導電物質群の非導電物質は、既述のN個の非導電物質に対応する。また、第2予測モデルの生成に用いられる非導電物質の情報は、特に制限されず、例えば、第1実施形態の場合と同様に、第1非導電物質群の非導電物質に含まれる各元素のある物性値の加重平均値等を用いることができる。
【0052】
ここで、転移学習は、データが多数存在し確度の高い予測モデルの生成が可能なカテゴリから、データが少数しかなく確度の高い予測モデルの生成が困難なカテゴリへ予測モデルを転移することで、データが少数しかないカテゴリで確度の高いモデルを生成する手法の総称である。
【0053】
本実施形態では、一般化勾配近似として例えばPBE汎関数を用いて生成した第1予測モデルを転移させ、ハイブリッド汎関数を用いて生成した第2予測モデルを作成できる。PBE汎関数により算出した誘電関数は、実測値との一致はよくないが、計算時間はハイブリッド汎関数の数~数十分の一であるため、確度の高い予測モデルを作成するための十分な量のデータを短期間で作成することが可能である。
【0054】
転移する手法は、例えば第1予測モデルをニューラルネットワークにした場合、非導電物質の情報を説明変数とし、かつ例えばPBE汎関数により算出した非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を目的変数とする学習済みモデルのニューラルネットワークを、上述のハイブリッド汎関数を用いて生成した第2予測モデルに転移する。
【0055】
具体的には、
図4に示すように、ニューラルネットワーク10において、隠れ層11のパラメータ(層の数やノード数、重み)を固定し、最後の隠れ層12から出力される値をインプットとする予測器(図示せず)を追加する。この予測器には、例えば線形回帰、決定木回帰、Lasso回帰、Ridge回帰、Elastic-Net回帰、勾配ブースト回帰、ランダムフォレスト回帰などを用いることができる。予測器の学習には、ハイブリッド汎関数により算出した非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を使用できる。
【0056】
また、第1予測モデルをガウス過程回帰にした場合は、コクリギング(Co-kriging)により第2予測モデルに転移し、ハイブリッド汎関数により算出した電磁波吸収で学習する。
【0057】
このようにして得られた予測モデル(第2予測モデル)を用いて、以下、第1実施形態と同様に、予測工程(
図1、ステップS3)に進んで、該予測工程、候補物質選択工程、電磁波吸収算出工程、および選択工程を実行し、必要に応じてこれらの工程を繰り返すことができる(
図1、ステップS3~S6参照)。
【0058】
第2実施形態に係るプラズモニック材料探索方法では、上述のように予測モデルを転移学習により作成することで、プラズモニック材料の探索に利用できる予測モデルを少ない非導電物質から生成することができる。そのため、本実施形態のプラズモニック材料探索方法によれば、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料をより短期間で探索することができる。
[プラズモニック材料探索装置]
本実施形態のプラズモニック材料探索装置は、以下の予測用電磁波吸収算出部と、予測モデル生成部と、予測部と、候補物質選択部と、電磁波吸収算出部と、選択部と、を有することができる。
【0059】
予測用電磁波吸収算出部は、第一原理計算により第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0060】
予測モデル生成部は、第1非導電物質群の非導電物質の情報と、予測用電磁波吸収算出部で算出した第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収と、を用いて予測モデルを生成できる。
【0061】
予測部は、予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測できる。
【0062】
候補物質選択部は、第2非導電物質群の非導電物質のうち、予測部で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択できる。
【0063】
電磁波吸収算出部は、候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出できる。
【0064】
選択部は、候補物質のうち、電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収が前記閾値以下である非導電物質を選択できる。
【0065】
図5に示したハードウェア構成図に示すように、本実施形態のプラズモニック材料探索装置50は、例えば、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)51と、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)52やROM(Read Only Memory)53と、補助記憶装置54と、入出力インタフェース55と、出力装置である表示装置56等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス57で相互に接続されている。なお、補助記憶装置54や表示装置56は、外部に設けられていてもよい。
【0066】
CPU51は、プラズモニック材料探索装置50の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU51は、ROM53または補助記憶装置54に格納された、例えば既述のプラズモニック材料探索方法や、プログラム(プラズモニック材料探索プログラム)を実行して、誘電関数や、電磁波吸収の算出や、予測モデルの生成、該予測モデルを用いた電磁波吸収の予測等を行うことができる。
【0067】
RAM52は、CPU51のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0068】
ROM53は、プログラム(プラズモニック材料探索プログラム)等を記憶することができる。
【0069】
補助記憶装置54は、SSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、プラズモニック材料探索装置の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納できる。具体的には例えば非導電物質の結晶構造のデータ等を格納しておくことができる。
【0070】
入出力インタフェース55は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースと、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとの双方を含む。
【0071】
表示装置56は、モニタディスプレイ等である。表示装置56では、解析画面が表示され、入出力インタフェース55を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0072】
図5に示したプラズモニック材料探索装置50の各機能は、例えばRAM52やROM53等の主記憶装置または補助記憶装置54からプログラム(プラズモニック材料探索プログラム)等を読み込ませ、CPU51により実行することにより、RAM52等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェース55および表示装置56を動作させることで実現できる。
【0073】
なお、プラズモニック材料探索装置50は、以下に説明する各部について、個別のCPUと、これに付帯する装置により構成し、各部間をデータの転送可能なケーブル等により接続した構成とすることもできる。
【0074】
図6に、本実施形態のプラズモニック材料探索装置50の機能ブロック図を示す。
【0075】
図6に示すように、プラズモニック材料探索装置50は、受付部61、処理装置62、出力部63を有することができる。これらの各部は、プラズモニック材料探索装置50が有するCPU、記憶装置、各種インタフェース等を備えたパーソナルコンピュータ等の情報処理装置において、CPUが予め記憶されている例えば既述のプラズモニック材料探索方法や、プログラムを実行することでソフトウェアおよびハードウェアが協働して実現される。
【0076】
各部の構成について以下に説明する。
(A)受付部
受付部61は、処理装置62で実行される処理に関係するユーザーからのコマンドやデータの入力を受け付ける。受付部61としてはユーザーが操作を行い、コマンド等を入力するキーボードやマウス、ネットワークを介して入力を行う通信装置、CD-ROM、DVD-ROM等の各種記憶媒体から入力を行う読み取り装置などが挙げられる。
(B)処理装置
処理装置62は、予測用電磁波吸収算出部621、予測モデル生成部622、予測部623、候補物質選択部624、電磁波吸収算出部625、選択部626を有することができる。なお、処理装置は、必要に応じてさらに任意の部材を有することもできる。
(B-1)予測用電磁波吸収算出部
予測用電磁波吸収算出部621では、第一原理計算により第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。すなわち、既述の予測用電磁波吸収算出工程を実施することができる。
【0077】
なお、予測用電磁波吸収算出部は、第1算出部と、第2算出部とを有する構成とすることもできる。
【0078】
この場合、第1算出部は、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出できる。第2算出部は、第1算出部が算出した誘電関数の虚部から第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0079】
また、予測用電磁波吸収算出部は、第1予測用電磁波吸収算出部と、第2予測用電磁波吸収算出部とを有する構成とすることもできる。
【0080】
この場合、第1予測用電磁波吸収算出部は、一般化勾配近似を用いて、第3非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0081】
また、第2予測用電磁波吸収算出部は、ハイブリッド汎関数を用いて、第3非導電物質群の非導電物質の一部である、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0082】
なお、第2予測用電磁波吸収算出部は、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出できる。
【0083】
そして、誘電関数の虚部から、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
(B-2)予測モデル生成部
予測モデル生成部622では、第1非導電物質群の非導電物質の情報と、予測用電磁波吸収算出部で算出した第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収と、を用いて予測モデルを生成できる。すなわち、既述の予測モデル生成工程を実施できる。
【0084】
なお、予測用電磁波吸収算出部が第1予測用電磁波吸収算出部と、第2予測用電磁波吸収算出部とを有する場合、予測モデル生成部は、第1予測モデル生成部と、第2予測モデル生成部とを有することもできる。
【0085】
第1予測モデル生成部は、第3非導電物質群の非導電物質の情報を説明変数とし、かつ第1予測用電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収を目的変数とする第1予測モデルを生成できる。
【0086】
第2予測モデル生成部は、第1予測モデルを、第1非導電物質群の非導電物質の情報、および第2予測用電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収を用いて、転移学習により第2予測モデルに転移できる。この場合、後述する予測部では、予測モデルとして第2予測モデルを用いることができる。
(B-3)予測部
予測部623では、予測モデル生成部622で生成した予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測できる。すなわち、既述の予測工程を実施できる。
(B-4)候補物質選択部
候補物質選択部624では、第2非導電物質群の非導電物質のうち、予測部で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択できる。すなわち、既述の候補物質選択工程を実施できる。
(B-5)電磁波吸収算出部
電磁波吸収算出部625では、候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出できる。すなわち、既述の電磁波吸収算出工程を実施できる。
(B-6)選択部
選択部626では、候補物質のうち、電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収が閾値以下である非導電物質を選択できる。すなわち、既述の選択工程を実施できる。
(C)出力部
出力部63は、例えばディスプレイ等を有することができる。選択部626で得られた探索結果を出力部63に出力できる。出力する探索結果の内容は特に限定されないが、例えば出力部63に選択部626で選択した非導電物質について、該非導電物質の結晶構造や、仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数、電磁波吸収を出力し、表示することもできる。
【0087】
なお、出力部63は、探索結果をディスプレイ等に表示せず、単に上記選択した非導電物質等のデータを各種記憶装置に記録するように構成することもできる。
【0088】
以上に説明した本実施形態のプラズモニック材料探索装置によれば、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料の探索を短期間で網羅的に実施することができる。
【0089】
また、本実施形態のプラズモニック材料探索装置では、上述のように予測モデルを転移学習により作成することで、プラズモニック材料の探索に利用できる予測モデルを少ない非導電物質から生成することもできる。この場合、本実施形態のプラズモニック材料探索装置によれば、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料をより短期間で探索することができる。
[プログラム]
次に、本実施形態のプログラムについて説明する。
【0090】
本実施形態のプログラムは、プラズモニック材料を探索するためのプログラムに関し、コンピュータを予測用電磁波吸収算出部と、予測モデル生成部と、予測部と、候補物質選択部と、電磁波吸収算出部と、選択部として機能させることができる。
(予測用電磁波吸収算出部)
予測用電磁波吸収算出部は、第一原理計算により第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。すなわち、既述の予測用電磁波吸収算出工程を実施することができる。
【0091】
なお、予測用電磁波吸収算出部は、第1算出部と、第2算出部とを有する構成とすることもできる。
【0092】
この場合、第1算出部は、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出できる。第2算出部は、第1算出部が算出した誘電関数の虚部から第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0093】
また、予測用電磁波吸収算出部は、第1予測用電磁波吸収算出部と、第2予測用電磁波吸収算出部とを有する構成とすることもできる。
【0094】
この場合、第1予測用電磁波吸収算出部は、一般化勾配近似を用いて、第3非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0095】
また、第2予測用電磁波吸収算出部は、ハイブリッド汎関数を用いて、第3非導電物質群の非導電物質の一部である、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
【0096】
なお、第2予測用電磁波吸収算出部は、ハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算により、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の誘電関数を算出できる。
【0097】
そして、誘電関数の虚部から、第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出できる。
(予測モデル生成部)
予測モデル生成部は、第1非導電物質群の非導電物質の情報と、予測用電磁波吸収算出部で算出した第1非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収と、を用いて予測モデルを生成できる。すなわち、既述の予測モデル生成工程を実施できる。
【0098】
なお、予測用電磁波吸収算出部が第1予測用電磁波吸収算出部と、第2予測用電磁波吸収算出部とを有する場合、予測モデル生成部は、第1予測モデル生成部と、第2予測モデル生成部とを有することもできる。
【0099】
第1予測モデル生成部は、第3非導電物質群の非導電物質の情報を説明変数とし、かつ第1予測用電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収を目的変数とする第1予測モデルを生成できる。
【0100】
第2予測モデル生成部は、第1予測モデルを、第1非導電物質群の非導電物質の情報、および第2予測用電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収を用いて、転移学習により第2予測モデルに転移できる。この場合、後述する予測部では、予測モデルとして第2予測モデルを用いることができる。
(予測部)
予測部は、予測モデルに基づいて第2非導電物質群の非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測できる。すなわち、既述の予測工程を実施できる。
(候補物質選択部)
候補物質選択部は、第2非導電物質群の非導電物質のうち、予測部で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択できる。すなわち、既述の候補物質選択工程を実施できる。
(電磁波吸収算出部)
電磁波吸収算出部は、候補物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を、ハイブリッド汎関数を用いて算出できる。すなわち、既述の電磁波吸収算出工程を実施できる。
(選択部)
選択部は、候補物質のうち、電磁波吸収算出部で算出した電磁波吸収が閾値以下である非導電物質を選択できる。すなわち、既述の選択工程を実施できる。
【0101】
本実施形態のプログラムは、例えば既述のプラズモニック材料探索装置のRAMやROM等の主記憶装置または補助記憶装置の各種記憶媒体に記憶させておくことができる。そして、係るプログラムを読み込ませ、CPUにより実行することにより、RAM等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェースおよび表示装置を動作させて実行できる。このため、プラズモニック材料探索装置で既に説明した事項については説明を省略する。
【0102】
上述した本実施形態のプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることで提供してもよい。また、本実施形態のプログラムをインターネットなどのネットワークを介して提供、配布するように構成してもよい。
【0103】
本実施形態のプログラムは、CD-ROM等の光ディスクや、半導体メモリ等の記録媒体に格納した状態で流通等させてもよい。
【0104】
以上に説明した本実施形態のプログラムによれば、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料の探索を短期間で網羅的に実施することができる。
【0105】
また、本実施形態のプログラムでは、上述のように予測モデルを転移学習により作成することで、プラズモニック材料の探索に利用できる予測モデルを少ない非導電物質から生成することもできる。この場合、本実施形態のプログラムによれば、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料をより短期間で探索することができる。
【実施例0106】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
以下、プラズモニック材料探索装置50を用いて、既述のプラズモニック材料探索方法により、プラズモニック材料を探索した。プラズモニック材料の母物質の候補として、材料データベース「マテリアルプロジェクト(Materials Project)からバンドギャップが0より大きい物質として登録されている2元、3元、4元物質、計2329物質を用意した。なお、この2329物質は、既述のM個の非導電物質に対応する。
【0108】
ターゲット波長を可視光とし、電磁波吸収の積分範囲を380nm~780nmとした。予測モデルの作成に用いる非導電物質の情報として、組成に含まれる各元素の物性値の加重平均、加重分散、加重和、最大値、最小値を用いた。例えば、2元物質AwABwBの場合、物性値fについては、元素A、Bの物性値fA、fBを用いて以下のように示される。
加重平均:fave=(wAfA+wBfB)/(wA+wB)
加重分散:fvar=[wA(fA-fave)2+wB(fB-fave)2]/(wA+wB)
加重和:fsum=wAfA+wBfB
最大値:fmax=max(fA,fB)
最小値:fmin=min(fA,fB)
物性値fは、周期、陽子数、原子番号、原子半径、Rahmによる原子半径、原子体積、原子質量、無機結晶構造データベース(ICSD:Inorganic Crystal Structure Database)の原子体積、格子定数、ファンデルワールス(vdW)半径、AlvarezによるvdW半径、BatsanovによるvdW半径、BondiによるvdW半径、DREIDING FFのvdW半径、MM3 FFのvdW半径、RowlandとTaylorによるvdW半径、TruhlarによるvdW半径、UFFのvdW半径、Braggによる共有結合半径、Cerderoによる共有結合半径、Pyykkoによる共有結合半径の単結合距離、Pyykkoによる共有結合半径の二重結合距離、Pyykkoによる共有結合半径の三重結合距離、Slaterによる共有結合半径、vdW係数C6、GouldとBuckoによるvdW係数C6、295Kにおける密度、プロトン親和力、双極分極率、電子親和力、電気陰性度、Allenスケールの電気陰性度、Ghoshスケールの電気陰性度、Mullikenスケールの電気陰性度、DFTのバンドギャップ、DFTのエネルギー、DFTによるBCCの格子定数、DFTによるFCCの格子定数、DFTの磁気モーメント、DFTの体積、HHI係数、20℃の比熱、気相塩基度、第一イオン化エネルギー、融解熱、生成熱、モル比熱容量、比熱容量、蒸発熱、熱膨張係数、沸点、ブリネル硬度、圧縮率、融点、金属結合半径の単結合距離、金属結合半径の最近接距離、25℃の熱伝導率、音速、ビッカース硬度、分極率、ヤング率、ポアソン比、モル体積、全非占有電子数、全価電子数、非占有d電子数、d価電子数、非占有f電子数、f価電子数、非占有p電子数、p電子数、非占有s電子数、s価電子数とした。なお、非導電物質の情報の算出には、PythonライブラリXenonPyを使用した。
【0109】
非導電物質に仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測する予測モデルの作成手法として、ニューラルネットワークを用いた転移学習を選択した。
【0110】
具体的にはまず、既述のM個の非導電物質のうち、1000物質について、一般化勾配近似を用いた第一原理計算により仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出した(第1予測用電磁波吸収算出工程、第1予測用電磁波吸収算出部)。なお、この1000物質は、既述の第3非導電物質群を構成するL個の非導電物質に対応する。仮想的なキャリアのドープは、各物質の単位格子に1個の電子を添加することで行った。
【0111】
計算は、平面波基底第一原理計算ソフトであるVASP(Vienna Ab initio Simulation Package)を用いて、DFTの範疇で、PBE汎関数(交換相関汎関数)を用いて行った。また、PAW(projector augmented wave)ポテンシャルを用い、平面カットオフは520eV、k点密度は0.4Å-1とした。
【0112】
この結果を用いて、一般化勾配近似による電磁波吸収の第1予測モデルを作成した(第1予測モデル生成工程、第1予測モデル生成部)。
【0113】
上記第3非導電物質群を構成するL個(1000物質)の中から第1非導電物質群の非導電物質であるN個(163物質)について、ハイブリッド汎関数を用いて、仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出した(第2予測用電磁波吸収算出工程、第2予測用電磁波吸収算出部)。
【0114】
計算は、平面波基底第一原理計算ソフトであるVASPを用いて、DFTの範疇で、HSE06汎関数を用いて行った。また、PAWポテンシャルを用い、平面カットオフは520eV、k点密度は0.6Å-1とした。この計算は、上述のハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算の一例である。
【0115】
転移学習により、一般化勾配近似による電磁波吸収の第1予測モデルを、ハイブリッド汎関数による電磁波吸収の第2予測モデルへ転移し、上記第1非導電物質群の非導電物質である163物質のハイブリッド汎関数による電磁波吸収のデータを用いて学習させた(第2予測モデル生成工程、第2予測モデル生成部)。転移学習にはPythonライブラリXenonPyを用いた。
【0116】
予測モデルとして上記第2予測モデルを用いて、M個の非導電物質から、第1非導電物質群を構成するN個の非導電物質を除いた、第2非導電物質群の非導電物質である2166物質について、仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を予測した(予測工程、予測部)。なお、M個の非導電物質から、第1非導電物質群を構成するN個の非導電物質を除いた2166物質は、上述のM個の非導電物質(2329物質)からN個の非導電物質(163物質)を除いたM-N個の非導電物質に対応する。
【0117】
第2非導電物質群の非導電物質のうち、予測工程で予測した電磁波吸収が予め設定した閾値以下である非導電物質を候補物質として選択した(候補物質選択工程、候補物質選択部)。なお、閾値には、既知の母物質が非導電物質であるプラズモニック材料であるタングステン酸セシウム(Cs0.33WO3)の電磁波吸収を用い、具体的には閾値δ=3.5とした。予測工程で予測した、ハイブリッド汎関数による電磁波吸収の予測値が閾値δ以下となるものは287物質あった。
【0118】
上記287物質に対して、ハイブリッド汎関数により、仮想的にキャリアをドープした際の電磁波吸収を算出した(電磁波吸収算出工程、電磁波吸収算出部)。
【0119】
計算は、平面波基底第一原理計算ソフトであるVASPを用いて、DFTの範疇で、HSE06汎関数を用いて行った。また、PAWポテンシャルを用い、平面カットオフは520eV、k点密度は0.4Å-1とした。この計算は、電磁波吸収算出部におけるハイブリッド汎関数を用いた第一原理計算の一例である。
【0120】
候補物質のうち、電磁波吸収算出工程で算出した電磁波吸収が閾値以下である非導電物質を選択した(選択工程、選択部)。なお、閾値であるδは、δ=3.5とした。ハイブリッド汎関数による電磁波吸収が閾値以下となるものは17物質あった。これら17物質は、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料として好適な材料であるといえる。本実施例において発見された母物質が非導電物質であるプラズモニック材料としては、Mg(SbO3)2、SrZnO2、SrSnO3等が挙げられる。
【0121】
本実施例により、2329物質の中からキャリアをドープすることにより、可視光領域でプラズモニック材料となる物質を短期間で網羅的に探索・発見することができた。また、本実施例によれば、母物質が非導電物質であるプラズモニック材料の探索が短期間で網羅的に実施できるため、開発期間の短縮が可能になることを確認できた。