(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032361
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
G11B 5/73 20060101AFI20230302BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20230302BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20230302BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20230302BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20230302BHJP
G11B 5/82 20060101ALI20230302BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20230302BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
G11B5/73
C22C21/06
C22F1/04 L
C22C21/00 L
C22C21/00 M
G11B5/738
G11B5/82
G11B5/84 Z
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630J
C22F1/00 630K
C22F1/00 661D
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 691Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138443
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】北脇高太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本遼
(72)【発明者】
【氏名】熊谷航
(72)【発明者】
【氏名】畠山英之
【テーマコード(参考)】
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
5D006CB04
5D006CB07
5D006EA02
5D006EA03
5D006FA02
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112BA09
(57)【要約】
【課題】良好な耐衝撃性と省エネ性を達成する磁気ディスク用アルミニウム合金基板及びこれを用いた磁気ディスク。
【解決手段】Mg:1.00~3.50mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ヤング率が68.7GPa以上で、密度が2.72g/cm
3以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板、ならびに、当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層と、当該無電解Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスク。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:1.00~3.50mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ヤング率が68.7GPa以上で、密度が2.72g/cm3以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、Fe:1.80mass%以下、Mn:1.80mass%以下、Ni:3.00mass%以下、Cu:0.40mass%以下、Zn:0.70mass%以下、Cr:0.40mass%以下、Si:0.60mass%以下及びBe:0.0020mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、Sr:0.100mass%以下、Na:0.100mass%以下及びP:0.100mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項4】
導電率が32.0%IACS以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層と、当該無電解Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な耐衝撃性と省エネ性を備えた磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(以下、「HDD」と省略する)は、コンピュータや映像記録装置等の電子機器における記憶装置として多用されている。HDDには、データを記録するための磁気ディスクが組み込まれている。磁気ディスクは、アルミニウム合金からなり円環状を呈するアルミニウム合金基板と、アルミニウム合金基板の表面を覆うNi-Pめっき処理層と、Ni-Pめっき処理層上に積層された磁性体層とを有している。
【0003】
ところで、近年においては、マルチメディア等のニーズから、HDD等の磁気ディスク装置に対する大容量化及び高密度化の要求が高まっている。更なる大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数は増加傾向にあり、それに伴って磁気ディスクの薄肉化も要求されている。
【0004】
しかしながら、磁気ディスク用基板を薄肉化すると剛性が低下してしまう問題がある。剛性が低下すると、基板が変形し難い程度を示す耐衝撃性が低下してしまうため、基板には耐衝撃性の向上が求められている。また、基板の枚数が増加すると磁気ディスク装置として使用する際の消費電力が大きくなり過ぎるため、省電力性(以下、単に「省エネ性」と記す)も求められている。また、磁気ディスク装置使用時以外にも、磁気ディスク製造時のエネルギー低減(省エネルギー性(以下、単に「省エネ性」と記す))も重要性が増してきている。
【0005】
このような実情から、近年では高い剛性を有し、省エネ性にも優れた磁気ディスク用基板が強く望まれ、検討がなされている。例えば、特許文献1では、アルミニウム合金基板の剛性の向上に寄与するFeやMn、Ni等の元素を多く含有させて、剛性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるFeやMn、Ni等の含有量を増加して剛性のみを向上させる方法では、アルミニウム合金基板の密度が大きくなり、目標とする良好な省エネ性が得られていないのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明者らは、アルミニウム合金の各種添加元素の含有量と、密度及びヤング率を制御することにより、良好な耐衝撃性と省エネ性を達成した磁気ディスク用アルミニウム合金基板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は請求項1において、Mg:1.00~3.50mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ヤング率が68.7GPa以上で、密度が2.72g/cm3以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板とした。
【0010】
本発明は請求項2では請求項1において、前記アルミニウム合金が、Fe:1.80mass%以下、Mn:1.80mass%以下、Ni:3.00mass%以下、Cu:0.40mass%以下、Zn:0.70mass%以下、Cr:0.40mass%以下、Si:0.60mass%以下及びBe:0.0020mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有するものとした。
【0011】
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記アルミニウム合金が、Sr:0.100mass%以下、Na:0.100mass%以下及びP:0.100mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有するものとした。
【0012】
本発明は請求項4では請求項1~3のいずれか一項において、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の導電率が32.0%IACS以上であるものとした。
【0013】
本発明は請求項5において、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層と、当該無電解Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスクとした。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、各種添加元素の含有量と、密度及びヤング率を制御することにより、良好な耐衝撃性と省エネ性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ヤング率を測定するための、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の圧延方向から0°方向の測定用サンプルを示す平面図である。
【
図2】ヤング率を測定するための、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の圧延方向から45°方向の測定用サンプルを示す平面図である。
【
図3】ヤング率を測定するための、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の圧延方向から90°方向の測定用サンプルを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.磁気ディスク用アルミニウム合金基板
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板(以下、「アルミニウム合金基板」又は「基板」と記す場合がある)について説明する。アルミニウム合金基板は、所定の合金組成のアルミニウム合金を用いてアルミニウム合金板を作製し、これを円環状に打ち抜いて磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク(以下、「アルミニウム合金ディスクブランク」又は「ディスクブランク」と記す場合がある)とする。次いで、ディスクブランクに加圧焼鈍を行った後、更に焼鈍を行い、次いで切削加工及び研削加工を順次行い、更に必要に応じて歪取り熱処理を行ってアルミニウム合金基板とする。
【0017】
アルミニウム合金基板のアルミニウム合金は、必須元素としてMg:1.00~3.50mass%(以下、単に「%」と記す)を含有する。また、第1の任意元素として、Fe:1.80%以下、Mn:1.80%以下、Ni:3.00%以下、Cu:0.40%以下、Zn:0.70%以下、Cr:0.40%以下、Si:0.60%以下及びBe:0.0020%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する。更にまた、第2の任意元素として、Sr:0.100%以下、Na:0.100%以下及びP:0.100%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する。アルミニウム合金は、上記の必須元素と第1、第2の任意元素と、残部Al及び不可避的不純物からなる。このようなアルミニウム合金からなるアルミニウム合金基板は、ヤング率が68.7GPa以上で、密度が2.72g/cm3以下の特性を有する。更に、このアルミニウム合金基板は、導電率が32.0%IACS以上の特性を有するのが好ましい。
【0018】
アルミニウム合金基板のヤング率が68.7GPa以上であることにより、基板の剛性が向上し、基板が変形し難い程度を示す耐衝撃性に優れたものとすることができる。また、密度が2.72g/cm3以下であることにより、基板の重量を小さくすることができるので、磁気ディスク装置として使用する際の消費電力を小さくすることが可能で、省エネ性が優れたものとすることができる。更に、基板の導電率が32.0%IACS以上であることにより、熱伝導率が高くなり熱処理時のエネルギーを低減できることから、省エネ性を更に向上できる。以上の結果、耐衝撃性と省エネ性を両立させることができる。
【0019】
A-1.アルミニウム合金の合金組成
アルミニウム合金基板に用いるアルミニウム合金の組成及びその限定理由について、以下に詳細に説明する。
【0020】
Mg:1.00~3.50%
Mgはアルミニウム合金に必須元素として含有され、主として固溶Mgとして存在し、アルミニウム合金基板の強度を向上させる効果を発揮する。また、アルミニウム合金基板のジンケート処理時のジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程であるめっき工程において、無電解Ni-Pからなるめっき表面の平滑性を向上させる。しかしながら、Mg含有量が1.00%未満ではアルミニウム合金基板の強度が不十分であり、切削や研削の加工時等に変形してしまう。更に、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下する。一方、Mg含有量が3.50%を超えると、Mgのヤング率がAlよりも低いために、ヤング率が大幅に低下する。これにより基板の剛性が低下し耐衝撃性が低下する。従って、本発明のアルミニウム合金基板では、アルミニウム合金のMg含有量は1.00~3.50%と規定する。なお、Mg含有量は、強度と製造性との兼合いから、好ましくは1.30~3.30%であり、より好ましくは1.60~3.00%であり、更に好ましくは1.80~2.50%ある。
【0021】
アルミニウム合金は、Mgに加えて、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn、Cr、Si及びBeからなる群から選択される1種又は2種以上を第1の任意元素として更に含んでいてもよい。また、アルミニウム合金は、Sr、Na、及びPからなる群から選択される1種又は2種以上を第2の任意元素として、Mgに加えて、或いは、Mg及び第1の任意元素に加えて更に含んでいてもよい。
【0022】
以下では、各任意元素について詳細に説明する。
【0023】
Fe:1.80%以下
アルミニウム合金は、第1の任意元素としてFeを含有していてもよい。Feは、主として第二相粒子(Al-Fe系金属間化合物等)として、他の一部はマトリックスに固溶して存在し、共にアルミニウム合金基板のヤング率等を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のFe含有量が1.80%を超えると、粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子が多数生成する。粗大なAl-Fe系金属間化合物は、アルミニウムマトリックスに比べて硬度が高いため、削り難く、研削加工時の研削レート低下の原因となり、生産コストの増大を招く。また、このような粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっきピット発生によるめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離を発生させる。また、圧延工程における加工性低下も生じる。更に、FeはAlよりも密度が大きいため、Fe量が多過ぎると密度が大幅に大きくなるため省エネ性が低下する。そのため、アルミニウム合金中のFe含有量は1.80%以下とし、好ましくは1.30%以下とし、より好ましくは1.00%以下とする。Fe含有量の下限値は特に設定するものではないが、Feは通常不可避的不純物として原料中に存在するため、この場合は0.001%程度が下限値となる。なお、Fe含有量は0%(0.000%)であってもよい。
【0024】
Mn:1.80%以下
アルミニウム合金は、第1の任意元素としてMnを含有していてもよい。Mnは、主として第二相粒子(Al-Mn系金属間化合物等)として、他の一部はマトリックスに固溶して存在し、共にアルミニウム合金基板のヤング率等を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のMn含有量が1.80%を超えると、粗大なAl-Mn系金属間化合物粒子が多数生成する。粗大なAl-Mn系金属間化合物は、アルミニウムマトリックスに比べて硬度が高いため、削り難く、研削加工時の研削レート低下の原因となり、生産コストの増大を招く。また、このような粗大なAl-Mn系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっきピット発生によるめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離を発生させる。また、圧延工程における加工性低下も生じる。更に、MnはAlよりも密度が大きいため、Mn量が多過ぎると密度が大幅に大きくなるため省エネ性が低下する。そのため、アルミニウム合金中のMn含有量は1.80%以下とし、好ましくは1.30%以下とし、より好ましくは1.00%以下とする。Mn含有量の下限値は特に設定するものではなく、0%であってもよい。
【0025】
Ni:3.00%以下
アルミニウム合金は、第1の任意元素としてNiを含有していてもよい。Niは、主として第二相粒子(Al-Ni系金属間化合物等)として、他の一部はマトリックスに固溶して存在し、共にアルミニウム合金基板のヤング率等を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のNi含有量が3.00%を超えると、粗大なAl-Ni系金属間化合物粒子が多数生成する。粗大なAl-Ni系金属間化合物は、アルミニウムマトリックスに比べて硬度が高いため、削り難く、研削加工時の研削レート低下の原因となり、生産コストの増大を招く。また、このような粗大なAl-Ni系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっきピット発生によるめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離を発生させる。また、圧延工程における加工性低下も生じる。更に、NiはAlよりも密度が大きいため、Ni量が多過ぎると密度が大幅に大きくなるため省エネ性が低下する。そのため、アルミニウム合金中のNi含有量は3.00%以下とし、好ましくは2.80%以下とし、より好ましくは2.50%以下とする。Ni含有量の下限値は特に設定するものではなく、0%であってもよい。
【0026】
Cu:0.40%以下
アルミニウム合金は、第1の任意元素として0.40%以下のCuを含有していてもよい。Cuは、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行う際に、アルミニウム合金からのAlの溶出を抑制する作用を有する。Cu含有量を0.40%以下にすることにより、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行う際に、アルミニウム合金基板の表面に、ち密で厚みが薄く、かつ厚みのバラつきが小さいZn皮膜を付着させることができる。そして、このようなZn皮膜を形成することにより、後工程である無電解Ni-Pめっき処理によって平滑な無電解Ni-Pめっき処理層を形成することができる。
【0027】
しかしながら、Cuの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金基板の耐食性が低下し、局所的にAlが溶出し易い領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行う際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にムラが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり易い。その結果、無電解Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下や無電解Ni-Pめっき処理層の平滑性の低下を招く。
【0028】
アルミニウム合金中のCuの含有量を0.40%以下、好ましくは0.30%以下とすることにより、めっきピットの形成を抑制し、無電解Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Cu含有量の下限値については、0.003%とするのが好ましく、0.010%とするのがより好ましい。なお、Cu含有量は0%(0.000%)であってもよい。
【0029】
Zn:0.70%以下
アルミニウム合金中は、第1の任意元素として0.70%以下のZnを含有していてもよい。Znは、Cuと同様に、ジンケート処理におけるアルミニウム合金からのAlの溶出を抑制する作用を有する。Zn含有量を0.70%以下にすることにより、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行う際に、アルミニウム合金基板の表面に、ち密で厚みが薄く、かつ厚みのバラつきが小さいZn皮膜を付着させることができる。そして、このようなZn皮膜を形成することにより、後工程である無電解Ni-Pめっき処理によって平滑な無電解Ni-Pめっき処理層を形成することができる。
【0030】
しかしながら、Znの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金基板の耐食性が低下し、局所的にAlが溶出し易い領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行う際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にムラが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり易い。その結果、無電解Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下や無電解Ni-Pめっき処理層の平滑性の低下を招く。
【0031】
アルミニウム合金中のZnの含有量を0.70%以下、好ましくは0.50%以下とすることにより、めっきピットの形成を抑制し、無電解Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Zn含有量の下限値については、0.005%とするのが好ましく、0.010%とするのがより好ましい。なお、Zn含有量は0%(0.000%)であってもよい。
【0032】
Cr:0.40%以下
アルミニウム合金中は、第1の任意元素として0.40%以下のCrを含有していてもよい。Crの一部は、鋳造時に生じる微細な金属間化合物としてアルミニウム合金基板中に分散している。鋳造時に金属間化合物を形成しなかったCrはAlマトリクス中に固溶し、固溶強化によってアルミニウム合金基板の強度を向上させる作用を有する。
【0033】
また、Crは、切削性及び研削性をより高めるとともに再結晶組織をより微細化する作用を有する。その結果、アルミニウム合金基板と無電解Ni-Pめっき処理層との密着性をより高め、めっきピットの発生を抑制する。
【0034】
しかしながら、アルミニウム合金中のCrの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金基板中に粗大なAl-Cr系金属間化合物が形成され易くなる。このような粗大なAl-Cr系金属間化合物がアルミニウム合金基板の表面から脱落した場合、後工程の無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成され易くなる。
【0035】
アルミニウム合金中のCr含有量を0.40%以下、好ましくは0.30%以下とすることにより、めっきピットの形成を抑制し、平滑な無電解Ni-Pめっき処理層を形成するとともに、アルミニウム合金基板の強度をより向上させることができる。Cr含有量の下限値は特に設定するものではなく、0%であってもよい。
【0036】
Si:0.60%以下
アルミニウム合金中は、第1の任意元素として0.60%以下のSiを含有していてもよい。Siは、アルミニウム合金にMgが含有される場合に、Mgとの間にMg-Si系金属間化合物を形成する。
【0037】
このようなMg-Si系金属間化合物がアルミニウム合金基板の表面から脱落した場合、後工程である無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成され易くなる。アルミニウム合金中のSi含有量を0.60%以下、好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.01%以下とすることにより、アルミニウム合金基板中に存在する上記金属間化合物量をより低減することができる。その結果、めっきピットの形成を抑制し、無電解Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。
【0038】
上記金属間化合物によるめっきピットの発生を抑制するためには、Siの含有量をより少なくすることが好ましい。しかしながら、Siは、一般的な純度の地金はもとより、Alの純度が99.9%以上である高純度の地金にも含まれている。そのため、Siを殆ど含有しないアルミニウム合金基板を作製しようとすると、鋳造時にこれらの元素を除去するための特殊な処理を行う必要があり、アルミニウム合金基板の製造コストの増大を招くことになる。
【0039】
特に、アルミニウム合金中のSi含有量が0.01%以下のものを用いることにより、これを除去するための特殊な処理を行うことなくアルミニウム合金基板を作製することができる。その結果、アルミニウム合金基板の製造コストの増大を回避しつつ、その平滑性をより高めることができる。また、アルミニウム合金中のSi含有量が0.01%を超えても0.60%以下であれば、より純度の低い地金を用いてアルミニウム合金基板を作製することができる。これにより、上記金属間化合物の生成を抑制しつつ、アルミニウム合金基板の材料コストをより低減することができる。
【0040】
Be:0.0020%以下
Beは、Mgを含むアルミニウム合金を鋳造する際に、Mgの酸化を抑制することを目的として溶湯内に添加される元素である。また、アルミニウム合金中に含有されるBeを0.0020%以下とすることにより、磁気ディスクの製造過程においてアルミニウム合金基板の表面に形成されるZn皮膜をより緻密にするとともに、厚みのバラつきをより小さくすることができる。その結果、アルミニウム合金基板上に形成される無電解Ni-P処理層の平滑性をより高めることができる。
【0041】
しかしながら、アルミニウム合金中のBe含有量が多過ぎると、アルミニウム合金基板の製造過程においてアルミニウム合金基板が加熱される際に、アルミニウム合金基板の表面にBe系酸化物が形成され易くなる。また、アルミニウム合金が更にMgを含有する場合には、アルミニウム合金基板が加熱される際に、アルミニウム合金基板の表面にAl-Mg-Be系酸化物が形成され易くなる。これらBe系酸化物とAl-Mg-Be系酸化物の量が多くなると、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり、めっきピットの発生を招く。
【0042】
アルミニウム合金中のBe含有量を0.0020%以下、好ましくは0.0010%以下とすることにより、上記Be系酸化物とAl-Mg-Be系酸化物の量を低減し、無電解Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Be含有量の下限値については、0%(0.0000%)であってもよいが0.0001%とするのが好ましい。
【0043】
Sr、Na及びP:それぞれ0.100%以下
Sr、Na及びPは、アルミニウム合金基板中の第二相粒子(主にSi粒子)を微細化し、めっき性を改善する効果を発揮する。また、アルミニウム合金基板中の第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、耐衝撃特性のバラつきを低減させる効果も発揮する。そのため、アルミニウム合金中に、それぞれが0.100%以下のSr、Na及びPから選択される1種又は2種以上が含まれていてもよい。
【0044】
しかしながら、Sr、Na及びPのそれぞれが0.100%を超えて含有されても、上記効果は飽和し、更なる顕著な効果が得られない。また、上記効果を得るためには、Sr、Na及びPのそれぞれの下限値を、0.0005とするのが好ましい。なお、Sr、Na及びPのそれぞれは、0%(0.0000%)であってもよい。
【0045】
その他の元素
アルミニウム合金には、上述した必須成分、ならびに、第1及び第2の任意元素以外の不可避的不純物となる元素が含まれていてもよい。これらの元素としては、Zr、Ti、B、Gaなどが挙げられ、その含有量は、各元素について0.10%以下、合計で0.30%以下であれば本発明の作用効果を損なわない。
【0046】
また、上述のように本発明においては、Fe、Siを任意元素として積極的に添加することもできるが、積極的に添加せず不可避的不純物として含有される場合もある。SiとFeは、一般的な純度の地金はもとより、Alの純度が99.9%以上である高純度の地金にも不可避的不純物として含まれる。そして、このように不可避的不純物として含まれる場合も任意元素の場合と同様に、Fe含有量については、1.80%以下、好ましくは1.30%以下、より好ましくは1.00%以下であれば、また、Siについては、0.60%以下、好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.01%以下であれば、本発明の作用効果は損なわれない。
【0047】
A-2.ヤング率:68.7GPa以上
次に、アルミニウム合金基板のヤング率について以下に詳細に説明する。
【0048】
本発明者らの検討によれば、アルミニウム合金基板のヤング率を大きくすることによって磁気ディスクの耐衝撃性(基板が変形し難い程度を示す)を向上させる効果が発揮されることから、ヤング率を68.7GPa以上と規定する。磁気ディスク装置の落下時等において磁気ディスクが変形するが、この変形は弾性域内の変形のため、ヤング率を向上させることで変形を抑制することができる。このように、ヤング率の向上によって耐衝撃性を向上させることができる。
【0049】
なお、ヤング率には面内異方性が存在し、圧延方向からの角度により異なることが知られている。ヤング率が最も高い方向と最も低い方向は、通常、圧延方向から0°方向、45°方向及び90°方向のうちのいずれのかの方向であり、最も低い方向のヤング率が68.7GPa以上であることが重要である。従って、本発明では、最も低い方向のヤング率を68.7GPa以上に規定する。このようなヤング率が68.7GPa未満の場合、磁気ディスク装置の落下時等において磁気ディスクが大きく変形し、他部材(他の磁気ディスクやヘッドの退避場所であるランプロードなど)と多数衝突し、粉塵等が発生し記録エラーの原因となる。
【0050】
本発明では、磁気ディスクにおける変形のし難さの特性を耐衝撃性とする。耐衝撃性の低下を回避するには、アルミニウム合金基板のヤング率を68.7GPa以上とするものである。このヤング率は、好ましくは69.5GPa以上であり、より好ましくは70.0GPa以上である。なお、アルミニウム合金基板のヤング率の上限値は特に限定されるものではないが、アルミニウム合金基板の材質や組成、ならびに、製造条件によって自ずと決まるものであり、本発明においては80GPa程度とするのが好ましい。
【0051】
A-3.密度:2.72g/cm3以下
次に、アルミニウム合金基板の密度について以下に詳細に説明する。
【0052】
本発明においては上記省エネ性を向上させるには、磁気ディスク1枚当たりにおける磁気ディスク用アルミニウム合金基板の重量が重要であり、密度を2.72g/cm3以下に規定する。これによって、磁気ディスク1枚当たりにおける重量が軽量化されるため、上記省エネ性を向上させることができる。この密度が2.72g/cm3を超える場合、磁気ディスク1枚当たりにおける重量が重くなるため、磁気ディスクを回転させるためのスピンドルモータの消費電力が大きくなり省エネ性に欠けることになる。消費電力は動力に関係付けられ、回転数(rpm)とトルク(N・m)と係数の積で表すことができる。磁気ディスクの重量が重くなるとトルクが大きくなるため動力が大きくなり、消費電力も大きくなる。
【0053】
なお、磁気ディスクにはめっきや磁性膜等が付着しているが、これらの磁気ディスク全重量に占める割合は少ないため、アルミニウム合金基板の重量を軽くする、すなわち、密度を小さくすることが重要である。従って、アルミニウム合金基板の密度は2.72g/cm3以下とする。この密度は、好ましくは2.71g/cm3以下で、より好ましくは2.70g/cm3以下である。この密度の下限値は特に設定するものではないが、アルミニウム合金の成分等から2.62g/cm3程度である。
【0054】
A-4.導電率:32.0%IACS以上
次に、アルミニウム合金基板の導電率について以下に詳細に説明する。
【0055】
アルミニウム合金基板の導電率は、その値が大きいほど、熱伝導率が高くなることがウィーデマン・フランツの法則等から知られている。そこで、アルミニウム合金基板の導電率を32.0%IACS以上とすることにより、熱伝導率が高くなり、熱処理時に速く所望の温度に到達することができる。その結果、熱処理時のエネルギーを低減でき、省エネ性の向上に繋がる。
【0056】
磁気ディスク製造工程の熱処理としては、磁性膜のスパッタ処理やめっき処理等が挙げられる。なお、導電率が1.0%IACS上がった場合、磁性膜のスパッタ処理で所定の温度(ここでは100℃とする)に到達するまでの時間を計算すると、外径97mm、内径25mm、板厚0.5mm、表面のめっき厚0.01mmの基板1枚で同じ熱量でスパッタ加熱した場合、約0.1秒速く所定の温度に到達する。従って、アルミニウム合金基板を大量にスパッタ処理する場合、導電率を上げることは省エネ性の観点で有効である。導電率の測定には例えば、導電率計(GEセンシング&インスペクション・テクノロジーズ株式会社製「AutoSigma 3000」)を用いることができる。導電率の測定は、25℃の環境下において、渦電流法により厚さが1mm以上2mm以下の試験材に対して行う。
【0057】
上記導電率が32.0%IACS未満の場合には、熱伝導率が低くなり、熱処理時において温度が上昇し難くなり、省エネ性が低下する。そのため導電率は32.0%IACS以上が好ましく、33.0%IACS以上がより好ましい。この導電率の上限値は特に設定されるものではないが、アルミニウム合金基板の材質や組成から60.0%IACS程度である。
【0058】
A-5.アルミニウム合金板の製造方法
(1)鋳造工程
所定の合金組成のアルミニウム材の原料を溶解し、溶湯を溶製してからこれを鋳造して鋳塊を作製する。鋳造としては、半連続鋳造(DC鋳造)法や金型鋳造法、連続鋳造(CC鋳造)法が用いられる。DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、ならびに、インゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。金型鋳造法においては、鋳鉄等で作られた中空の金型に注がれた溶湯が、金型の壁に熱を奪われ、凝固し、鋳塊が出来上がる。CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0059】
このような鋳造工程において、溶湯中の溶存ガスを低減する脱ガス処理及び溶湯中の固形物を除去するろ過処理をインラインで行うことが好ましい。
【0060】
脱ガス処理としては、例えば、SNIF(Spinning Nozzle Inert Flotation)プロセスと呼ばれる処理方法やAlpurプロセスと呼ばれる処理方法等を採用することができる。これらのプロセスにおいては、羽根付き回転体により溶湯を高速で攪拌しながらアルゴンガスやアルゴンと塩素との混合ガス等のプロセスガスを吹き込み、溶湯中にプロセスガスの微細な気泡を形成する。これにより、溶湯中に溶存した水素ガスや介在物を短時間で除去することができる。脱ガス処理には、インライン式の脱ガス装置を使用することができる。
【0061】
ろ過処理としては、例えば、ケークろ過方式やろ材ろ過方式などを採用することができる。また、ろ過処理には、例えば、セラミックチューブフィルター、セラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルタ-などのフィルターを使用することができる。
【0062】
(2)均質化処理工程
鋳塊を作製した後に熱間圧延を行うまでの間に、必要に応じて鋳塊の面削を行い、均質化処理を行ってもよい。均質化処理における保持温度は、例えば500~570℃の範囲から適宜設定することができる。また、均質化処理における保持時間は、例えば1~60時間の範囲から適宜設定することができる。
【0063】
(3)熱間圧延工程
次に、鋳塊に熱間圧延を行い、熱間圧延板を作製する。熱間圧延の圧延条件は特に限定されるものではないが、例えば、開始温度を400~550℃の範囲とし、終了温度を260~380℃の範囲として熱間圧延を行うことができる。
【0064】
(4)冷間圧延工程
熱間圧延を行った後、得られた熱間圧延板に1パス以上の冷間圧延を行うことにより、冷間圧延板を得ることができる。冷間圧延の圧延条件は特に限定されることはなく、所望するアルミニウム合金板の厚み及び強度に応じて適宜設定すればよい。例えば、冷間圧延における総圧下率は20~95%とすることができる。また、冷間圧延板の厚みは、例えば、0.2~1.9mmの範囲から適宜設定することができる。
【0065】
(5)焼鈍工程
上記態様の製造方法においては、冷間圧延における1パス目の前及びパス間のうち少なくとも一方において、必要に応じて焼鈍処理を行ってもよい。焼鈍処理は、バッチ式熱処理炉を用いて行ってもよいし、連続式熱処理炉を用いて行ってもよい。バッチ式熱処理炉を用いる場合、焼鈍時の保持温度を250~430℃、保持時間を0.1~10時間の範囲とすることが好ましい。また、連続式熱処理炉を用いる場合、炉内の滞在時間を60秒以内、炉内の温度を400~500℃とすることが好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより、冷間圧延時の加工性を回復させることができる。
以上の工程によって、アルミニウム合金板が作製される。
【0066】
A-6.アルミニウム合金基板の製造方法
上記のアルミニウム合金板からアルミニウム合金基板を作製するに当たっては、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、アルミニウム合金板に打ち抜き加工を行って円環状を呈するディスクブランクを作製する。その後、ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しながら加熱して加圧焼鈍を行うことにより、ディスクブランクの歪みを低減させ、平坦度を向上させる。加圧焼鈍における保持温度と圧力は、例えば、250~430℃で1.0~3.0MPaの範囲から適宜選択することができる。また、加圧焼鈍における保持時間は、例えば、30分以上とすることができる。
【0067】
加圧焼鈍を行った後、切削加工及び研削加工の前に、焼鈍を行うことが好ましい。この焼鈍時の保持温度を190~260℃、保持時間を0.1~10時間の範囲とすることが好ましい。また、焼鈍時の保持温度は、190~240℃がより好ましく、190~220℃が更に好ましい。焼鈍時の保持時間は0.5~10時間がより好ましく、1~10時間が更に好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより固溶Mg等が析出するため、基板の導電率を上げることができる。
【0068】
この焼鈍を行った後、アルミニウム合金ディスクブランクに切削加工及び研削加工を順次行い、次いで、150~180℃で0.1~10.0時間の条件で、加工時の歪を除去する歪取り熱処理を必要に応じて行う。これらの加工工程によって、所望の形状を有するアルミニウム合金基板を作製する。
【0069】
B.磁気ディスク
B-1.磁気ディスクの構成
上記アルミニウム合金基板を備えた磁気ディスクは、例えば、以下の構成を有する。即ち、磁気ディスクは、アルミニウム合金基板と、このアルミニウム合金基板表面を覆う無電解Ni-Pめっき処理層と、この無電解Ni-Pめっき処理層上に積層された磁性体層とを有する。なお、Ni-Pめっき処理層は、無電解めっき処理により形成した無電解Ni-Pめっき処理層であることが好ましい。
【0070】
磁気ディスクは、更に、ダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系材料からなり、磁性体層上に積層された保護層と、潤滑油からなり、保護層上に塗布された潤滑層とを有していてもよい。
【0071】
B-2.磁気ディスクの製造方法
アルミニウム合金基板から磁気ディスクを製造するに当たっては、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、アルミニウム合金基板に脱脂洗浄を行いアルミニウム合金基板の表面に付着した加工油等の油分を除去する。脱脂洗浄の後、必要に応じて、酸を用いてアルミニウム合金基板にエッチングを施してもよい。エッチングを行った場合には、エッチング後に、エッチングによって生じたスマットをアルミニウム合金基板から除去するデスマット処理を行なうことが好ましい。これらの処理における処理条件は、処理液の種類に応じて適宜設定することができる。
【0072】
これらのめっき前処理を行った後に、アルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成するジンケート処理を行う。ジンケート処理においては、AlをZnに置換する亜鉛置換めっきを行うことにより、Zn皮膜を形成することができる。ジンケート処理としては、1回目の亜鉛置換めっきを行った後に、アルミニウム合金基板の表面に形成されたZn皮膜を一旦剥離し、再度亜鉛置換めっきを行ってZn皮膜を形成する、いわゆるダブルジンケート法を採用するのが好ましい。ダブルジンケート法によれば、1回目の亜鉛置換めっきのみによって形成されるZn皮膜に比べて、より緻密なZn皮膜をアルミニウム合金基板表面に形成することができる。その結果、後工程の無電解Ni-Pめっき処理において無電解Ni-Pめっき処理層の欠陥を低減することができる。
【0073】
ジンケート処理によってアルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成した後に、90℃前後にて無電解Ni-Pめっき処理を行うことにより、Zn皮膜を無電解Ni-Pめっき処理層によって置換することができる。そして、無電解Ni-Pめっき処理においてこのようなZn皮膜をNi-Pめっき処理層によって置換することにより、めっきピットが少なく平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0074】
無電解Ni-Pめっき処理層の厚さを厚くすると、めっきピットが少なくなる傾向があり、平滑な無電解Ni-Pめっき処理層を形成することができる。従って、めっき厚は7μm以上が好ましく、より好ましくは18μm以上であり、更に好ましくは25μm以上である。なお、実用上、めっき厚の上限値は40μm程度である。
【0075】
無電解Ni-Pめっき処理の後に、無電解Ni-Pめっき処理層を研磨することにより、無電解Ni-Pめっき処理層の表面の平滑性を更に高めることができる。
【0076】
無電解Ni-Pめっき処理の後に(研磨処理も含めて)、無電解Ni-Pめっき処理層上に、スパッタリングによって磁性体を付着させて磁性体層を形成する。磁性体層は、単一の層から構成されていてもよく、又は、互いに異なる組成を有する複数の層から構成されていてもよい。スパッタリングの温度等は常法が適用されるが、スパッタリングの温度が特に100℃以下の場合に、アルミニウム合金基板の導電率が高いと省エネ性の効果を発揮する。スパッタリングを行った後に、CVDによって磁性体層上に炭素系材料からなる保護層を形成する。次いで、保護層上に潤滑油を塗布して潤滑層を形成する。以上により、磁気ディスクを得ることができる。
【実施例0077】
アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、このアルミニウム合金板から作製するアルミニウム合金基板の例について説明する。
【0078】
これらのアルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、このアルミニウム合金板から作製するアルミニウム合金基板及びその製造方法の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で実施例から適宜構成を変更することができる。
【0079】
(1)アルミニウム合金板の作製
以下の方法により、本実施例において評価に使用するアルミニウム合金板を作製した。まず、溶解炉において、表1に示す合金組成を有する溶湯を調製した。
【0080】
【0081】
次に、溶解炉内の溶湯を移し、表2に示す鋳造方法で鋳塊を作製した。次いで、鋳塊の表面を面削し、鋳塊表面に存在する偏析層を除去した。面削を行った後に鋳塊を表2に示す条件で均質化処理を行った。次いで、表2に示す条件で熱間圧延を実施して厚さ3mmの熱間圧延板を得た。更に、表2に示すように熱間圧延板を総圧下率75%で冷間圧延を実施し、厚さ0.74mmの冷間圧延板を得た。
【0082】
(2)アルミニウム合金基板の作製
上記アルミニウム合金板に打ち抜き加工を施し、外径98mm、内径24mmの円環状を呈するアルミニウム合金ディスクブランクを得た。次いで、得られたアルミニウム合金ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しつつ、表2に示す温度で3時間保持して加圧焼鈍を実施した。更に、190~260℃の温度で表2に示す時間焼鈍を実施した。次いで、この焼鈍後の各アルミニウム合金ディスクブランクの外周端面及び内周端面に切削加工を施し、外径97mmで内径25mmのディスクブランクに加工した。その後、各アルミニウム合金ディスクブランクの板面に、研削量が10μmとなるように研削加工を施した。以上により、アルミニウム合金基板を作製した。
【0083】
・ヤング率の測定
焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクから、60mm×8mmのサンプルをワイヤーカットで採取したものを測定試料に用いて、ヤング率を測定した。圧延方向から0°方向、45°方向及び90°方向のサンプルの採取方法は、
図1~3に示す通りである。ヤング率の測定は、日本テクノプラス株式会社製のJE-RT型の装置を用い共振法により室温で行った。このようにして、0°方向、45°方向及び90°方向のヤング率を測定した。
【0084】
ここで、ヤング率の測定には、切削加工・研削加工後又はこれに歪取り熱処理を施したアルミニウム合金基板、めっき処理後のアルミニウム合金基盤、ならびに、スパッタリング後の磁気ディスクを用いて測定を行うこともできる。しかしながら、焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクと、切削加工・研削加工後又はこれに歪取り加熱処理を施したアルミニウム合金基板、めっき処理後のアルミニウム合金基盤、ならびに、スパッタリング後の磁気ディスクの各ヤング率に有意差は認められないことを確認している。そこで、本発明では、ヤング率の測定に焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクを用いた。なお、アルミニウム合金基盤や磁気ディスクを用いる場合は、めっきを剥離し、表面を10μm研削した基板から試験片を採取して、ヤング率の測定評価を行った。
【0085】
・密度の測定
密度の測定は、最も低いヤング率を示した焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクから、所定の寸法(縦、横、厚さ)のサンプルをワイヤーカットで採取したものを測定試料に用いた。測定試料の縦、横、厚さの寸法は、マイクロメーターとノギスを用いて正確に測定し、測定試料の重量は、電子天秤を用いて測定した。
【0086】
・導電率の測定
焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクを測定試料に用いて、導電率(%IACS)を測定した。測定には、導電率計(GEセンシング&インスペクション・テクノロジーズ株式会社製「AutoSigma 3000」)を用いて、渦電流法によって25℃の環境下において測定した。なお、測定試料の板厚が1mm未満の場合は、これらを2枚以上重ねて厚さが1mm以上2mm以下となるようにして導電率を測定した。
【0087】
ヤング率、密度及び導電率の測定結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
表1及び2に示すように、実施例1~7では、本発明で規定する特定の合金組成を有し、かつ、ヤング率が68.7GPa以上で密度が2.72g/cm3以下であった。そのため、これらの実施例では、良好な耐衝撃性と省エネ性を得ることができる。
【0090】
一方、比較例1~3では、合金組成、ヤング率及び密度の少なくともいずれかが本発明の規定から外れているため、耐衝撃性や省エネ性に劣ることになる。
本発明により、特定の合金組成、ヤング率及び密度を有することで、耐衝撃性と省エネ性が良好な磁気ディスク用アルミニウム合金基板、ならびに、これを用いた磁気ディスクを提供できる。