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特開2023-32363磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、このアルミニウム合金鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032363
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、このアルミニウム合金鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20230302BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20230302BHJP
   G11B 5/858 20060101ALI20230302BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20230302BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20230302BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230302BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20230302BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230302BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
G11B5/84
G11B5/82
G11B5/858
G11B5/73
G11B5/84 A
C22F1/04 L
C22C21/00 N
C22C1/02 503J
C22F1/00 611
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 661D
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
C22C19/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138445
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】北脇高太郎
(72)【発明者】
【氏名】国分勇磨
(72)【発明者】
【氏名】熊谷航
(72)【発明者】
【氏名】坂本遼
【テーマコード(参考)】
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
5D006CB04
5D112AA02
5D112BA06
5D112EE01
5D112GA06
5D112GA09
5D112GB01
5D112GB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リサイクル性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、これを用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、これを用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法並びにこれを用いて製造したアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクを提供する。
【解決手段】磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法は、磁気ディスクの製造において得られる中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材として原料の少なくとも一部に使用し、当該原料からなるアルミニウム合金の溶湯を調整する溶湯調整工程と、調整した溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程と、加熱保持した溶湯を鋳造する鋳造工程とを含む。溶湯加熱保持工程において、溶湯を700~850℃で3時間以上加熱保持する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法であって、磁気ディスクの製造において得られる中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材として原料の少なくとも一部に使用し、当該原料からなるアルミニウム合金の溶湯を調整する溶湯調整工程と、調整した溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程と、加熱保持した溶湯を鋳造する鋳造工程とを含み、前記溶湯加熱保持工程において、溶湯を700~850℃で3時間以上加熱保持することを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項2】
前記溶湯加熱保持工程において、溶湯中におけるアルミニウム合金のCu含有量が1.0mass%以下である、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で製造した鋳塊を加熱処理する均質化処理工程と、均質化処理した鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延した熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法で製造した磁気ディスク用アルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加工する加工工程と、円環状ディスクブランクを加圧平坦化する加圧焼鈍工程と、加圧平坦化した円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施す切削・研削工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法で製造した磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層と、当該無電解Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、この鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられるアルミニウム合金製磁気ディスクは、良好なめっき性を有するとともに機械的特性や加工性が優れたJIS5086(3.5質量%以上4.5質量%以下のMg、0.50質量%以下のFe、0.40質量%以下のSi、0.20質量%以上0.70質量%以下のMn、0.05質量%以上0.25質量%以下のCr、0.10質量%以下のCu、0.15質量%以下のTi、0.25質量%以下のZn、残部Al及び不可避的不純物)をベースにしたアルミニウム合金基板から製造されている。
【0003】
更に、アルミニウム合金製磁気ディスクは、めっき前処理工程における金属間化合物の抜け落ちによるピット不具合の改善を目的に、JIS5086中の不純物であるFe、Si、Mn等の含有量を制限しマトリックス中の金属間化合物を小さくしたアルミニウム合金基板、或いは、めっき性改善を目的にJIS5086中のCuやZnを意識的に添加したアルミニウム合金基板等から製造されている。
【0004】
一般的なアルミニウム合金製磁気ディスクは、まず、アルミニウム合金板を作製した後、円環状アルミニウム合金ディスクブランクを作製し、切削加工、研削加工を行った後に加圧焼鈍を施してアルミニウム合金基板とする。次いで、このアルミニウム合金基板にめっきを施し、更にアルミニウム合金基板の表面に磁性体を付着させることにより製造されている。
【0005】
例えば、前記JIS5086合金を用いたアルミニウム合金製磁気ディスクは、以下の製造工程により製造される。まず、所望の化学成分としたアルミニウム合金を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚さを有する圧延材を作製する。この圧延材には、必要に応じて冷間圧延の途中等に焼鈍が施される。次に、この圧延材を円環状に打抜き、前記製造工程により生じた歪み等を除去するため、円環状のアルミニウム合金板を積層し、両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行うことにより、ディスクブランクが作製される。
【0006】
このようにして作製されたディスクブランクに、前処理として切削加工、研削加工を施した後、加工工程により生じた歪み等を除去するために、ディスクブランクを加熱処理することによりアルミニウム合金基板が作製される。次に、めっき前処理として脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、更に下地処理として硬質非磁性金属であるNi-Pめっきを施し、表面にポリッシングを施すことで、アルミニウム合金基盤が作製される。最後に、磁性体等をスパッタリングしてアルミニウム合金製の磁気ディスクが製造される。
【0007】
ところで、近年になって、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められている。更なる大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数が増加しており、それに伴い磁気ディスクの薄肉化も求められている。しかしながら、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を薄肉化すると剛性が低下してしまうため、アルミニウム合金基板には高剛性化が求められ、近年では、Ni等を添加した高剛性材料の検討が行われている。
【0008】
一方、磁気ディスクの搭載枚数の増加に伴い、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の原料であるAlやNi等の必要量が増加している。しかしながら、これらの資源には限りがあるため、アルミニウム合金基板だけでなく、めっきや磁性体等が付着したアルミニウム合金基盤や磁気ディスクもアルミニウム合金基板の原料として再利用することが求められている。リサイクルの対象は、アルミニウム合金基盤であれば欠陥が発生し製品として不適なものが用いられ、磁気ディスクでは欠陥品や使用済みHDDから抽出したものなどが用いられる。
【0009】
このような実情から、近年ではリサイクル性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、この鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクが強く望まれており、検討がなされている。例えば、特許文献1には、磁気ディスク用アルミニウム合金としてNiを含有させることで、アルミニウム合金基盤を原料として再利用可能なことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-275568号公報
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、アルミニウム合金基盤を原料としてアルミニウム合金基板を作製した場合に、Pの含有量を十分に低下させることができず、めっき欠陥が発生し、めっき表面の平滑性が低下する問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、リサイクル性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、このアルミニウム合金鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋳造用溶湯の加熱保持工程における加熱温度と保持時間を制御し、更に、溶湯中のCu含有量を調整することによって、リサイクル性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は請求項1において、磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法であって、磁気ディスクの製造において得られる中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材として原料の少なくとも一部に使用し、当該原料からなるアルミニウム合金の溶湯を調整する溶湯調整工程と、調整した溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程と、加熱保持した溶湯を鋳造する鋳造工程とを含み、前記溶湯加熱保持工程において、溶湯を700~850℃で3時間以上加熱保持することを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法とした。
【0015】
本発明は請求項2では請求項1において、前記溶湯加熱保持工程において、溶湯中におけるアルミニウム合金のCu含有量が1.0mass%以下であるものとした。
【0016】
本発明は請求項3において、請求項1又は2に記載の方法で製造した鋳塊を加熱処理する均質化処理工程と、均質化処理した鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延した熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法とした。
【0017】
本発明は請求項4において、請求項3に記載の方法で製造した磁気ディスク用アルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加工する加工工程と、円環状ディスクブランクを加圧平坦化する加圧焼鈍工程と、加圧平坦化した円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施す切削・研削工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法とした。
【0018】
本発明は請求項5において、請求項4に記載の方法で製造した磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層と、当該無電解Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスクとした。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、このアルミニウム合金鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクは、リサイクル性に優れるという格別の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、このアルミニウム合金鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクの製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、磁気ディスクの製造において得られる中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材として原料の少なくとも一部に使用する上で、当該原料からなるアルミニウム合金溶湯の鋳造工程の前段階である溶湯加熱保持工程との関係でリサイクル性について検討した。具体的には、溶湯加熱保持工程における加熱温度、保持時間及び溶湯中の特定成分量と、この溶湯から作製されるアルミニウム鋳塊中のP含有量の関係について鋭意調査研究を行った。
【0022】
ここで、本発明において用いるリサイクル材とは、Ni-Pめっき層が存在する材料であり、中間材としては、図1に示す、磁気ディスク用アルミニウム合金基盤(以下、「アルミニウム合金基盤」又は単に「合金基盤」と記載する場合がある)であり、完成品は、言うまでもなく図1に示す磁気ディスクである。これらのリサイクル材は、不良品や規格外のものや、磁気ディスクであれば使用済みのもの等である。
【0023】
また、アルミニウム鋳塊中のP含有量に着目した理由は以下の通りである。Pは、リサイクル材として用いるアルミニウム合金基盤及び磁気ディスクにおいて、無電解Ni-Pめっき成分として含有される。このP成分は、アルミニウム合金に通常含有されるCuとの間でCu-P系化合物を生成し、これもまたアルミニウム合金に通常含有されるMgとの間でMg-P系酸化物を生成し、これらがめっき表面に発生する大きな欠陥(ピット等)となってめっき表面の平滑性を低下させるためである。
【0024】
本発明者らは、溶湯の保持温度と保持時間、ならびに、溶湯中のCu含有量とMg含有量が、アルミニウム鋳塊中のP含有量に大きな影響を与えることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を為すに至ったものである。
【0025】
1.リサイクル材
まず、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊(以下、「アルミニウム合金鋳塊」又は単に「合金鋳塊」と記載する場合がある)の原料の少なくとも一部として使用する、リサイクル材であるアルミニウム合金基盤と磁気ディスクについて説明する。少なくともとしたのは、原料の全てをこれらリサイクル材としてもよく、或いは、原料の一部をこれらリサイクル材としてもよいことを意味する。
【0026】
1-1.アルミニウム合金基盤:
アルミニウム合金基盤は、Ni-Pめっきが表面に形成されているため、Niを含むアルミニウム合金鋳塊の原料の少なくとも一部に加えるリサイクル材として用いることができる。一方、Pはアルミニウム合金鋳塊に一般的に含まれるMgと共にMg-P系酸化物等を生成し、めっき処理時にその部分だけ反応が不均一となり、めっき表面に大きな欠陥(ピット等)を発生させる。その結果、めっき表面の平滑性が低下する。そのため、アルミニウム合金基盤を原料として使用する場合は、最終的にアルミニウム合金鋳塊のP含有量を低減させることが重要である。なお、アルミニウム合金基盤に使用されるNi-PめっきのPの含有量は、8~15mass%程度ある。また、めっき厚さは、5~25μm程度で、アルミニウム合金基盤の厚さは0.3~2.0μm程度である。
【0027】
1-2.磁気ディスク:
磁気ディスクは、アルミニウム合金基盤の表面にCoCrPt系の磁性体やC等の保護膜が形成されたものであるが、これら磁性体や保護膜の厚さは数十nm前後と薄いため、加熱することで大部分を除去することができる。また、磁気ディスク内部に形成されるめっき成分のNiやアルミニウム合金のAlをアルミニウム合金鋳塊の原料として使用することができる。なお、磁性体に含まれる金属は、アルミニウム合金鋳塊中にそのまま残存するが、その割合は磁気ディスク全体に対して極微量であるのため、アルミニウム合金板、アルミニウム合金基板、アルミニウム合金基盤及び磁気ディスクの性能を損なうことはない。また、アルミニウム合金基盤と同様に磁気ディスクをアルミニウム合金鋳塊の原料として使用する場合も、最終的にアルミニウム合金鋳塊のPの含有量を減らすことが重要である。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金鋳塊の製造方法、このアルミニウム合金鋳塊を用いたアルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いたアルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクついて詳細に説明する。
【0029】
1.磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法
図1に示すように、アルミニウム合金鋳塊は、アルミニウム合金成分の調整(ステップS101)、アルミニウム合金溶湯の加熱保持(ステップS102)、アルミニウム合金の鋳造の各工程を経て製造される。
【0030】
1-1.アルミニウム合金成分の調整(ステップS101)
ステップS101では、リサイクル材として、アルミニウム合金基盤や磁気ディスクを原料の少なくとも一部に用いて、所定の成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法に従って加熱・溶融することによって調整する(ステップS101)。溶湯中の成分組成については、Pとの間で酸化物や化合物を形成してめっき表面の大きな欠陥を形成するCu及びMg、ならびに、Pそのものの含有量を規定するのが好ましい。
【0031】
Cu含有量:1.0mass%以下
アルミニウム合金の溶湯中のCu含有量は、1.0mass%(以下、単に「%」と記載する)以下であることが好ましい。Cuは、リサイクル材に含まれるめっき成分であるPと結合してCu-P系化合物を生成し、めっき表面に大きな欠陥を発生させる。この化合物は長時間溶湯を加熱保持しても溶湯表面に浮上して除去可能な酸化物等に変化しないので、Pと化合するCuそのものの含有量を低減させる必要がある。溶湯中のCu含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下である。Cu含有量の調整は、ステップS101の原料を加熱・溶融するアルミニウム合金成分の調整の工程において実施する。例えば、溶湯中の原料が溶融しきった後に溶湯の成分を分析し、Cu含有量が多い場合はアルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0032】
P含有量:0.0040%以下
アルミニウム合金の溶湯中のP含有量は、0.0040%以下であることが好ましい。Pは、リサイクル材に含まれるめっき成分として、或いは、アルミニウム合金地金に含有されるものであるが、溶湯原料のアルミニウム合金に一般的に含まれるMgと結合してMg-P系酸化物を生成し、めっき処理時にその部分だけ反応が不均一となり、めっき表面に大きな欠陥を発生させる。その結果、めっき表面の平滑性が低下する。なお、Mg-P系酸化物の一部は、溶湯を加熱保持することにより溶湯表面に浮上して除去可能ではあるが、Mgと化合するPそのものの含有量が低いのが好ましい。溶湯中のP含有量は、好ましくは0.0040%以下、より好ましくは0.0010%以下である。溶湯中のP含有量は、Cu含有量に比べて非常に少ないので、アルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整することは一般に必要ない。しかしながら、調整が必要な場合には、Cuと同じくアルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0033】
Mg含有量:6.5%以下:
アルミニウム合金の溶湯中のMg含有量は、6.5%以下であることが好ましい。上述のように、Mgは、溶湯中のPと結合してMg-P系酸化物を生成するので、Pと同様にその含有量が低いのが好ましい。溶湯中のMg含有量は、好ましくは5.5%以下、より好ましくは4.5%以下である。Mg含有量が多い場合は、Cuと同様にアルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0034】
アルミニウム合金溶湯の化学成分:
本発明で用いるアルミニウム合金溶湯の化学成分については、リサイクル材であるアルミニウム合金基盤及び磁気ディスクに含まれる無電解Ni-Pめっき成分由来のP成分を有効に除去又は低減させるために、上述のように、Pそのものの含有量、ならびに、Pとの間で化合物を形成するCu、Mgなどの元素を調整することが好ましい。
【0035】
一方、P、Cu及びMg以外の元素とその含有量については、特に限定されるものではない。本発明に用いるアルミニウム合金溶湯の合金組成としては、例えば以下のようなものが挙げられる。必須元素であるNiと、選択元素であるMn及びFeのうち1種又は2種を含有し、これらNi、Mn及びFeの含有量の合計が0.01~7.00%の関係を有し、Mg:0.5~6.5%を含有し、更に、Si:1.0%以下、Zn:0.7%以下、Cr:0.30%以下及びZr:0.20%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有し、残部がAl及び不可避不純物やその他の微量成分からなるものである。不可避不純物はアルミニウム合金に含まれるものでTi、Gaなどが挙げられ、その他の微量成分としては、めっきや磁性体などの成分であるCo、Ptなどが挙げられる。これら不可避不純物とその他の微量成分の含有量は、各元素について0.10%以下、合計で0.30%以下であれば本発明の作用効果を損なわない。
【0036】
1-2.アルミニウム合金の溶湯加熱保持(ステップS102)
次に、アルミニウム合金の溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程について説明する。この工程では、アルミニウム合金の溶湯を後述の条件にて保持炉によって加熱保持し、P含有量を調整する(ステップS102)。
【0037】
アルミニウム合金溶湯に含まれるリサイクル材は、アルミニウム合金基盤と磁気ディスクであり、無電解Ni-Pめっき成分としてのPを含有する。そこで、調整したアルミニウム合金溶湯に含まれるPの含有量を低減させるために、溶湯加熱保持工程では、アルミニウム合金溶湯を700~850℃の保持温度で3時間以上加熱保持する。
【0038】
原料として溶湯中に含まれるPの一部は、溶湯加熱保持工程によりMg-P系酸化物等の酸化物に変化して溶湯表面に浮上してくる。鋳造前にこの浮上した酸化物等をすくい上げなどの方法で除去することで、溶湯中のP含有量を低減することができる。加熱温度を700~850℃、消費電力の省エネ性の観点から好ましくは700~755℃とし、保持時間を3時間以上、好ましくは20時間以上とすることによって、上記酸化物等への生成を促進することができる。上記酸化物等への生成促進効果の観点からは、保持時間が重要である。加熱温度が700℃未満、又は、保持時間が3時間未満では、上記酸化物等への十分な生成促進効果が得られない。加熱温度が850℃を超えると、上記酸化物等への生成促進効果が飽和して経済的でない。また、保持時間の上限は特に設定するものではないが、72時間を超えても上記酸化物等への生成促進効果が飽和して経済的でない。
【0039】
1-3.アルミニウム合金の鋳造(ステップS103)
次に、アルミニウム合金の鋳造工程について説明する。
加熱保持されたアルミニウム合金溶湯は、必要に応じて後述のインライン脱ガス処理やインラインでの濾過処理の後に、半連続鋳造法(DC鋳造法)や金型鋳造法、連続鋳造法(CC法)等によりアルミニウム合金に鋳造される(ステップS103)。DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、ならびに、インゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。金型鋳造法においては、鋳鉄等で作製された中空の金型に注がれた溶湯が、金型の壁に熱を奪われ、凝固し、鋳塊が出来上がる。CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0040】
なお、溶湯加熱保持工程で加熱保持された溶湯は、鋳造工程にかけられる前に常法に従ってインライン脱ガス処理やインラインでの濾過処理を行うことが好ましい。インライン脱ガス処理装置としては、SNIFやALPURなどの商標で市販されているものが使用できる。これらのインライン脱ガス処理装置は、アルゴンガスやアルゴンと窒素等の混合ガスを溶湯に吹き込みながら、羽根付き回転体を高速で回転させてガスを微細な気泡として溶湯中に供給するものである。これにより、脱水素ガス及び介在物の除去がインラインで短時間に行える。インライン濾過処理としては、セラミックチューブフィルターやセラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルター等が用いられ、ケーク濾過機構や濾材濾過機構により介在物が除去される。
【0041】
以上の工程によって、磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊が製造される。
【0042】
2.磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法
図1に示すように、アルミニウム合金板は、必要に応じて実施されるアルミニウム合金鋳塊の均質化処理(ステップS104)、ならびに、熱間圧延(ステップS105)、冷間圧延(ステップ106)の各工程を経て製造される。
【0043】
2-1.均質化処理(ステップS104)
鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、必要に応じて均質化処理が施される(ステップS104)。均質化処理が実施される場合は、好ましくは480~560℃で1時間以上、より好ましくは500~550℃で2時間以上の条件で加熱処理される。処理温度が480℃未満の場合や、処理時間が1時間未満の場合には、十分な均質化効果が得られない場合がある。また、560℃を超える処理温度では、材料が溶解する虞がある。また、処理時間の上限は特に設定するものではないが、48時間を超えても均質化効果が飽和して生産性の低下を招く。
【0044】
2-2.熱間圧延(ステップS105)
次に、鋳造したアルミニウム合金鋳塊、或いは、均質化処理を施した場合には均質化処理したアルミニウム合金鋳塊を、熱間圧延によって熱間圧延板とする(ステップS105)。熱間圧延の条件は特に限定されるものではないが、熱間圧延開始温度を300~500℃とするのが好ましく、320~480℃とするのがより好ましい。また、熱間圧延終了温度は260~400℃とするのが好ましく、280~380℃とするのがより好ましい。熱間圧延開始温度が300℃未満では熱間圧延加工性が確保できず、500℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。熱間圧延終了温度が260℃未満では熱間圧延加工性が確保できず、400℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。なお、熱間圧延では、通常、鋳塊を熱間圧延開始温度で0.5~10.0時間加熱保持後に熱間圧延を行う。均質化処理を行う場合には、この加熱保持を均質化処理で代替してもよい。
【0045】
2-3.冷間圧延(ステップS106)
次に、熱間圧延板を冷間圧延して好ましくは0.4~2.0mm、より好ましくは0.6~2.0mmの冷間圧延板とする(ステップS106)。すなわち、熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めればよく、圧延率を20~90%とするのが好ましく、20~80%とするのがより好ましい。この圧延率が20%未満ではディスクブランクの加圧平坦化焼鈍において結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。この圧延率が90%を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招く場合がある。
【0046】
良好な冷間圧延加工性を確保するために、冷間圧延の前又は冷間圧延の途中において、焼鈍処理を実施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の焼鈍では、300~450℃で0.1~10時間の条件で行うのが好ましく、300~380℃で1~5時間の条件で行うのがより好ましい。焼鈍温度が300℃未満の場合や焼鈍時間が0.1時間未満の場合には、十分な焼鈍効果が得られない場合がある。また、焼鈍温度が450℃を超える場合には、結晶粒が粗大化してめっきの密着性が低下し、焼鈍時間が10時間を超える場合は生産性の低下を招く場合がある。
【0047】
一方、連続式の焼鈍では、400~500℃で0~60秒間保持の条件で行うのが好ましく、450~500℃で0~30秒間保持の条件で行うのがより好ましい。焼鈍温度が400℃未満の場合には、十分な焼鈍効果が得られない場合がある。また、焼鈍温度が500℃を超える場合には、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。焼鈍時間が60秒を超える場合には、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。なお、保持時間が0秒とは、所望の焼鈍温度に達した後、直ちに冷却することを意味する。
【0048】
以上の各工程によって、磁気ディスク用アルミニウム合金板が作製される。
【0049】
3.磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法
図1に示すように、アルミニウム合金基板は、アルミニウム合金板を円環状のディスクブランク(以下、「ディスクブランク」と記載する場合がある)に打ち抜く加工(ステップS107)、このディスクブランクの加圧焼鈍(ステップS108)と、それに続く切削加工と研削加工(ステップ109、以下、「切削・研削工程」と記載する場合がある)、更に必要に応じた歪取り加熱処理(ステップS110)の各工程を経て製造される。
【0050】
3-1.円環状ディスクブランクの加工(ステップS107)
上記のようにして得たアルミニウム合金板をアルミニウム合金基板として加工するには、まず、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜いて円環状ディスクブランクを作製する(ステップS107)。
【0051】
3-2.加圧焼鈍(ステップ108)
次に、ディスクブランクに大気中で300~450℃で30分以上、好ましくは300~380℃で60分以上の加圧焼鈍を施し、平坦化したディスクブランクを作製する(ステップS108)。加圧焼鈍の処理温度が300℃未満の場合や処理時間が30分未満の場合では、平坦化の効果が十分に得られない場合がある。処理温度が450℃を超える場合には、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。処理時間の上限は特に設定するものではないが、24時間を超えると製造時間が長くなり生産性の低下を招く場合がある。なお、加圧の圧力は、通常1.0~3.0MPaである。
【0052】
3-3.切削加工・研削加工(ステップ109)、歪取り加熱処理(ステップ1109)
次に、平坦化したディスクブランクは切削・研削工程に掛けられる(ステップS109)。その後、200~290℃で0.1~10.0時間の条件で、ディスクブランクの歪取りのための歪取り熱処理を必要に応じて行う。
【0053】
以上の各工程によって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板が作製される。
【0054】
4.磁気ディスク用アルミニウム合金基盤の製造方法
図1に示すように、アルミニウム合金基盤は、アルミニウム合金基板をめっき前処理(ステップS111)、下地(Ni-P)めっき処理(研磨付き)(ステップS112)の各工程を経て製造される。
【0055】
4-1.めっき前処理(ステップ111)
上記のようにして作製したアルミニウム合金基板に、めっき前処理として脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)が施される(ステップS111)。
脱脂は市販のAD-68F(上村工業製)脱脂液等を用い、温度40~70℃、処理時間3~10分、濃度200~800mL/Lの条件で行うのが好ましく、温度45~65℃、処理時間4~8分、濃度300~700mL/Lの条件で行うのがより好ましい。温度が40℃未満の場合や処理時間が3分未満の場合、或いは、濃度が200mL/L未満の場合には、十分な脱脂効果が得られない場合がある。また、温度が70℃を超える場合や処理時間が10分を超える場合、或いは、濃度が800mL/Lを超える場合は、基板表面の平滑性が低下し、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。
【0056】
エッチングは市販のAD-107F(上村工業製)エッチング液等を用い、温度50~75℃、処理時間0.5~5分、濃度20~100mL/Lの条件でエッチングを行うことが好ましく、温度55~70℃、処理時間0.5~3分、濃度40~100mL/Lの条件で行うのがより好ましい。温度が50℃未満の場合や処理時間が0.5分未満の場合、或いは、濃度が20mL/L未満の場合には、十分なエッチング効果が得られない場合がある。また、温度が75℃を超える場合や処理時間が5分を超える場合、或いは、濃度が100mL/Lを超える場合は、基板表面の平滑性が低下し、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。なお、エッチング処理と後述のジンケート処理の間に、通常のデスマット処理を行なっても良い。
【0057】
ジンケート処理は市販のAD-301F-3X(上村工業製)のジンケート処理液等を用い、温度10~35℃、処理時間0.1~5分、濃度100~500mL/Lの条件で行うことが好ましく、温度15~30℃、処理時間0.1~2分、濃度200~400mL/Lの条件で行うのがより好ましい。温度が10℃未満の場合や処理時間が0.1分未満の場合、或いは、濃度が100mL/L未満の場合には、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。また、温度が35℃を超える場合や処理時間が5分を超える場合、或いは、濃度が500mL/Lを超える場合も、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。
【0058】
4-2.下地(Ni-P)めっき処理(研磨付き)(ステップ112)
次に、ジンケート処理したアルミニウム合金基板表面に下地処理として無電解でのNi-Pめっき処理が施され、次いで表面の研磨が実施される(ステップS112)。無電解でのNi-Pめっき処理は、市販のニムデンHDX(上村工業製)めっき液等を用い、温度80~95℃、処理時間30~180分、Ni濃度3~10g/Lの条件で行うことが好ましく、温度85~95℃、処理時間60~120分、Ni濃度4~9g/Lの条件で行うのがより好ましい。温度が80℃未満の場合やNi濃度が3g/L未満の場合にはめっきの成長速度が遅く、生産性の低下を招く場合がある。処理時間が30分未満の場合にはめっき表面に欠陥が多数発生し、めっき表面の平滑性が低下する場合がある。温度が95℃を超える場合やNi濃度が10g/Lを超える場合にはめっきが不均一に成長するため、めっきの平滑性が低下する場合がある。処理時間が180分を超える場合には、生産性の低下を招く場合がある。更に、下地(Ni-P)めっき処理面には研磨処理が施される。
【0059】
これらのめっき前処理、ならびに、下地(Ni-P)めっき処理(研磨付き)によって、本発明の下地処理した磁気ディスク用アルミニウム合金基盤が得られる。
【0060】
5.磁気ディスクの製造方法
図1に示すように、下地処理した磁気ディスク用アルミニウム合金基盤の表面に磁性体を付着させることで(ステップS113)、磁気ディスクが作製される。以下に、本発明に係る磁気ディスクの製造工程について説明する。
【0061】
無電解Ni-Pめっき処理の後に(研磨処理も含めて)、Ni-Pめっき処理層上に、スパッタリングによって磁性体を付着させて磁性体層を形成する(ステップS113)。磁性体層は、単一の層から構成されていてもよく、又は、互いに異なる組成を有する複数の層から構成されていてもよい。スパッタリングを行った後に、CVDによって磁性体層上に炭素系材料からなる保護層を形成する。次いで、保護層上に潤滑油を塗布して潤滑層を形成する。
【0062】
以上の工程により、磁気ディスクを得ることができる。
【実施例0063】
以下に、本発明を実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
リサイクル材としてのアルミニウム合金基盤及び磁気ディスクの合計約3kgを、アルミニウム合金鋳塊の原料(全体)として用いた。この原料を750℃で加熱溶解し、アルミニウム合金鋳塊用の溶湯を溶製した。アルミニウム合金の溶湯を溶製した。次に、溶湯を表1に示す時間で750℃の温度で加熱保持した。
【0065】
原料として用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基盤及び磁気ディスクに付着していためっき層におけるP含有量は、アルミニウム合金基盤又は磁気ディスクの全重量に対して約12%であった。また、これらアルミニウム合金基盤及び磁気ディスクのアルミニウム合金基板に用いたアルミニウム合金の組成は、Ni、Mn及びFeの含有量の合計が0.01~7.00%の関係を有し、Mg:0.5~6.5%を含有し、Si:1.0%以下、Zn:0.7%以下、Cr:0.30%以下及びCu:1.0%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有し、残部Al、不可避不純物及び微量成分からなるものであった。表1に示すP含有量は、各保持時間後に各溶湯サンプルを金型鋳造法によって通常の鋳造を実施し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光測定法を用いて鋳塊中の含有量を分析した測定値である。なお、上記アルミニウム合金基板に用いたアルミニウム合金には、組成の異なる複数(3種類)のものを用いた。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1~3では、P含有量が0.0040%以下であり、リサイクル性に優れる結果が得られた。保持時間が長くなるとP含有量が少なくなるが、これは、保持時間が長くなるとMg-P酸化物の生成量が増加し、浮上したものを除去した溶湯を用いているためである。これに対して比較例1、2では保持時間が不十分であったため、P含有量が0.0040%を超え、リサイクル性に劣る結果となった。なお、比較例1における溶湯の加熱保持時間が0(h)とは、加熱保持時間を全くしていないことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明により、リサイクル性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、この鋳塊を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクを提供することができる。
図1