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特開2023-32621セシウム吸着材及びセシウム含有汚染水の処理方法
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  • 特開-セシウム吸着材及びセシウム含有汚染水の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032621
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】セシウム吸着材及びセシウム含有汚染水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20230302BHJP
   G21F 9/08 20060101ALI20230302BHJP
   G21F 9/32 20060101ALI20230302BHJP
   G21F 9/36 20060101ALI20230302BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230302BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230302BHJP
【FI】
G21F9/12 501A
G21F9/08 511F
G21F9/12 501J
G21F9/32 A
G21F9/36 511Z
B01J20/26 E
C02F1/28 A
B01J20/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138865
(22)【出願日】2021-08-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1)掲載日:令和3年3月8日、掲載アドレス;https//confit.atlas.jp/guide/event-img/mmij2021a/3K0408-14-06/public/pdf?type=in (その2)開催日:令和3年3月10日、令和3年一般社団法人資源・素材学会2021年度春季大会 (オンライン開催) (その3)開催日:令和2年9月3日、一般社団法人環境放射能とその除染・中間貯蔵および環境再生のための学会開催の環境放射能除染学会第9回(オンライン)研究発表会 (その4)掲載日:令和3年6月4日、掲載アドレス;https://store-confit.atlas.jp/kenkyu/kenkyu26/static/20210615095129541_ja.pdf (その5)開催日:令和3年6月24日、一般社団法人土壌環境センター内地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会開催の第26回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会、埼玉大会(オンライン開催)
(71)【出願人】
【識別番号】592048970
【氏名又は名称】日鉄セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】大石 徹
(72)【発明者】
【氏名】桧垣 正吾
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AB15
4D624BA17
4D624BC01
4D624DA10
4D624DB06
4G066AC17B
4G066BA12
4G066BA20
4G066BA36
4G066CA12
4G066CA43
4G066CA45
4G066DA08
(57)【要約】
【課題】入手容易な吸着材を使用して、汚染液中のセシウムを高い選択率で簡便に吸着させることができる放射性セシウムの除去材とそれを使用した除去方法を提供する。
【解決手段】ポリアクリル酸塩系の吸水性ポリマー吸水性ポリマーからなることを特徴とするセシウム含有汚染水中のセシウム吸着材である。上記吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸のナトリウム塩又はカリウム塩系のポリマーが適する。また、本発明は、セシウム含有汚染水中の電解質濃度を10mmol/L以下とすること、この汚染水に、上記の吸水性ポリマーを加えて吸水させること、この水分を蒸発又は留出させて乾燥すること、これを燃焼又は圧縮して、容積を減少させたのち、容器に保管することを特徴とするセシウム含有汚染水の処理方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリル酸塩系の吸水性ポリマーからなることを特徴とするセシウム含有汚染水中のセシウム吸着材。
【請求項2】
吸水性ポリマーが、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩系のポリマーである請求項1に記載のセシウム吸着材。
【請求項3】
吸水性ポリマーが、ポリアクリル酸のナトリウム塩系のポリマーである請求項1又は2に記載のセシウム吸着材。
【請求項4】
吸水性ポリマーが、ポリアクリル酸のカリウム塩系のポリマーである請求項1又は2に記載のセシウム吸着材。
【請求項5】
セシウム含有汚染水中の電解質濃度を、10 mmol/L以下とした後、請求項1~4のいずれかに記載の吸水性ポリマーを加えて、吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマーの水分を蒸発又は留出させて乾燥又はセシウムを濃縮すること、乾燥又は濃縮された含水吸水性ポリマーを燃焼又は圧縮して更に容積を減少させること、容積が減少した燃焼灰又は圧縮物を容器に保管することを特徴とするセシウム含有汚染水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力設備等から排出される汚染液からセシウムを除去する方法、及びそれに使用する吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や核燃料の再処理施設で発生する低~高レベルの放射性廃液等の汚染液において、放射性セシウムのCs137はその半減期が長く、放射性物質の主成分であることから、その除去が強く望まれている。また、放射性物質で汚染された海水、淡水等の汚染液についても、放射性セシウムの除去が望まれている。
【0003】
放射性廃液からセシウムを除去することによって、除去後の残りの廃液の処理が容易になる。放射性物質の大部分を大量の溶液から少量の固形分として分離し、残った廃液を低レベル廃液として処理することができればコストの大幅な節減が期待される。低レベル廃液の残留放射性物質の濃度が十分に低いものとなれば、それをそのまま排出することも可能となる。可能とならない場合であっても、低レベル廃液であれば、危険度が大幅に低下するので、その処理は高レベル廃液の処理よりはるかに容易なものとなる。
【0004】
放射性汚染液から分離されたセシウムは、固形分であれば、濃縮操作が簡便又は不要となる利点があるだけなく、固化して安定化させたり、容器中で保管等の処理をすることが容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000-512759号公報
【特許文献2】特開2001-133594号公報
【特許文献3】特開平5-254828号公報
【特許文献4】特許第6572320号公報
【0006】
汚染液からセシウムを除去する方法には、沈殿法及びイオン交換法が知られている。また、フェロシアン酸塩のような鉄のシアノ錯体を使用して、不溶性のフェロシアン化物を吸着剤として使用してセシウムを除去する方法も知られている。
【0007】
特許文献1は、ヘキサシアノ鉄酸塩を使用して汚染水からセシウムを除去する方法を開示する。
【0008】
特許文献2は、原子炉冷却水の浄化ラインに設けられる脱塩用イオン交換樹脂塔の上流側において、この冷却水に含まれるセシウム等の陽イオンを選択的に吸着し得る吸着剤によって、放射性核種を吸着し除去することを開示し、この吸着剤として、チタン酸塩、含水酸化チタン又はフェロシアン化物を使用することを開示する。
【0009】
特許文献3は、吸着工程で不溶性フェロシアン化物からなる吸着体とセシウム含有水溶液を接触させてセシウムを吸着させ、脱着工程でセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化物を酸化力のある脱着剤溶液と接触させて不溶性フェリシアン化物に変化させることによりセシウムを脱着、回収し、生成する不溶性フェリシアン化物を再生剤溶液と接触させることにより不溶性フェロシアン化物に転換するセシウムの回収法を開示する。
【0010】
特許文献4は、不織布の包材に、バインダーで担持されたフェロシアン化物又はフェリシアン化物と、高吸水性ポリマーパウダーを含むセシウム回収材を開示する、ここで、セシウムの吸着は、フェロシアン化物又はフェリシアン化物が担い、高吸水性ポリマーパウダーは吸水して膨潤する作用が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、入手容易な吸着材を使用して、汚染液中のセシウムを高い選択率で簡便に吸着させることができる放射性セシウムの除去材とそれを使用した除去方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、水溶液中のセシウムを吸着可能な材料について、種々研究を重ねた結果、ある種の吸水性ポリマーが、水溶液中のセシウムを選択的に吸着することを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明はポリアクリル酸塩系の吸水性ポリマー吸水性ポリマーからなることを特徴とするセシウム含有汚染水中のセシウム吸着材である。
【0014】
上記吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩が適し、ナトリウム塩又はカリウム塩系のポリマーが特に適する。
【0015】
また、本発明は、セシウム含有汚染水中の電解質濃度を10mmol/L以下とすること、このセシウム含有汚染水に、上記の吸水性ポリマーを加えて、吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマーの水分を蒸発又は留出させて乾燥又はセシウムを濃縮すること、乾燥又は濃縮された含水吸水性ポリマーを燃焼又は圧縮して更に容積を減少させること、容積が減少した燃焼灰又は圧縮物を容器に保管することを特徴とするセシウム含有汚染水の処理方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、吸水性ポリマーを、セシウム吸着材として使用できるため、入手が容易である。また、吸水性ポリマーは汚染水を多量に吸水するため、吸水後もセシウムの吸着が進行する利点もある。また、セシウムの除去に使用された除去材は水溶液から分離した後、安全に輸送又は保管する必要があるが、本発明の除去材は、乾燥、燃焼又は圧縮が容易であるので、減量化が容易で、容器での長期間の保管に適する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Langmuirプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を説明する。
本発明で処理されるセシウム含有水溶液は、原子炉を始めとする原子力設備から排出される廃液等であり、放射性セシウムで汚染された海水等であってもよく、放射性セシウムを含有する汚染液であれば制限はない。また、放射能で汚染された土壌、瓦礫、構造物等を洗浄して生じる汚染液や土壌からの浸出水であってもよい。セシウムの濃度は、低~高レベルの汚染液であることができるが、セシウムとして、0.0001~100mg/L程度の濃度の汚染液に適する。汚染液中にはセシウム以外の成分が含まれてもよく、特に吸着時に競合する恐れがある吸着阻害物質としてNaClを海水と同程度含む汚染液に対しても優れた効果を奏する。
【0019】
本発明のセシウム吸着材は、ポリアクリル酸塩系の吸水性ポリマーからなる。
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム塩やポリアクリル酸カリウム塩などが適する。また、吸水性ポリマーが吸水しうる最大吸水率(吸水量g/吸水性ポリマーg)が高いものが好ましく、20~1000程度のものが適する。
【0020】
ポリアクリル酸塩系の吸水性ポリマーは、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩が網目状につながったものであり、吸水すると-COO(-)とアルカリ金属正イオン(+)に電離し、このときにマイナスイオン同士が反発してできた隙間に大量の水分子を取り込み保持することができるものである。本発明ではこの時に吸水される水分子とともに物理的に汚染水中のセシウムイオンとして取り込むのではなく、ポリアクリル酸塩系の吸水性ポリマーの構造をなすアルカリ金属の正イオン(+)の部分に存在するナトリウムイオン又はカリウムイオンとセシウム含有水中に含まれるセシウムイオンとをイオン化傾向の違い(ナトリウム<カリウム<セシウム)によりイオン交換させて吸着させるものである。従って、多量のナトリウムイオンを含む汚染水で、吸水性樹脂の吸水性能が阻害される場合においてもセシウムの吸着を行うことが可能である。
【0021】
セシウム吸着材にセシウム含有汚染水を吸水させる方法には制限はないが、含浸法が適する。含水量は吸水性ポリマーの吸水率によって異なるが、最大吸水率の100%以下とすることがよく、50~99%の範囲が好ましい。別の観点からは、吸水性ポリマーの10~1000重量倍、好ましくは20~500重量倍の水を吸水させることが望ましい。
セシウム吸着材には吸水性ポリマー以外の成分を必要により加えてもよいが、フェロシアン化物又はフェリシアン化物等のセシウム除去剤は含まない。
【0022】
吸水性ポリマーを加える際には、セシウム含有汚染水中の電解質濃度を、10mmol/L以下、好ましくは5mmol/L以下としたのち、吸水性ポリマーを加えることがよい。電解質濃度が高いと分配率が低下する。ここで、電解質がNaClのような塩の場合は、1molの塩を、1molの電解質として計算する。
【0023】
吸水させて、含水吸水性ポリマーとした後は、この水分を蒸発又は留出させて乾燥又はセシウムを濃縮する。
【0024】
セシウム含有汚染水を吸水した含水吸水性ポリマーは、次に蒸発又は乾燥処理により、乾燥させる。ここで、乾燥処理は、80℃以下、好ましくは60℃以下で行えば、再度セシウム含有汚染水に加え、吸水することができる。このように乾燥と吸水を繰り返せば、単位重量当たりの吸水性ポリマーに対するセシウムの吸着量は増大する。
また、乾燥は天日乾燥や送風乾燥などでもよく、このような乾燥方法であれば、加熱を最小限とすることも可能である。なお、吸水性ポリマーは低温となると、そして乾燥が進むと、周囲の水分を吸水する特性があるので、吸水性ポリマーの種類や雰囲気の湿度にもよるが、乾燥処理の後半では温度を30℃以上とすることがよい。
【0025】
乾燥処理は、含水吸水性ポリマー中の水分を蒸発させる場合と、留出させる場合がある。蒸発させる場合は、蒸発した水分を排ガスとして排出することがよく、留出させる場合は排水として排出することがよい。
【0026】
蒸発により乾燥処理を行う場合は、低温で大気に晒しながらゆっくり蒸発させる方法があるが、大量に処理する場合は、空気のような流通ガスを流しながら蒸発させることがよい。このようにガスを流しながら蒸発させると、排ガス中の水分が十分に希釈され、放射性ガスが微量存在しても、その規制値を満足させることが容易となる。流通ガスを流しながら行う場合は、含水吸水性ポリマーを穴あきの容器や袋に入れて行うことがよい。
また、乾燥が進むと含水吸水性ポリマー中の水分のセシウム濃度が高まるが、これはガス中に移行することはないので、十分に高めることができる。そして、乾燥温度を雰囲気温度より高くする場合は、原発設備の運転又は事故処理で発生する比較的低温の廃熱を有効利用することが可能である。また、流通ガスの湿度を下げることは乾燥を促進するために有効であり、この場合も原発設備の廃熱又は排ガスが使用可能である。乾燥処理時間は、含水吸水性ポリマーの表面積にもよるが1日以上であることがよく、5~15日程度が好ましい。
また、太陽光を利用する自然乾燥法であれば、加熱手段や冷却手段を大幅に簡素化できる利点がある。この場合は、太陽光を取り入れる窓がある屋内や屋外において、上部が開放された容器や袋に含水吸水性ポリマーを入れて、日光が当たるようにして、又は温室効果により温度を上げた屋内として、保存するだけで乾燥を行わせることができる。この乾燥法は、処理時間が長くなり、所定の湿度管理や排ガス管理が必要ではあるが、強制的に乾燥させる場合に比べて、乾燥処理コストが大幅に低減できる。必要であれば、屋内の換気に加熱された空気等を使用することもできる。
【0027】
留出により乾燥処理を行う場合は、蒸留装置のような装置を使用してもよく、上記蒸発に使用するような装置を使用してもよい。いずれにしても、発生又は排出されるガスの少なくとも一部は、冷却されて留出し、排水となる。
乾燥処理は、セシウム含有汚染水を吸水させた初期の含水吸水性ポリマーに含まれる水分の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が除去されるまで行うことがよい。一方、水分除去率が低いと残る含水吸水性ポリマーの体積が増えて保管量が増えることになる。また、燃焼させる場合は、燃焼効率が低下する。
【0028】
乾燥処理がなされ、セシウムを吸水性ポリマー中に濃縮して含む濃縮吸水性ポリマーは、規制値を大きく超えるので、これは容器に入れて規制値以下となるまで保管することがよい。有利には、乾燥又は濃縮された含水吸水性ポリマーを燃焼又は圧縮して更に容積を減少させ、容積が減少した燃焼灰又は圧縮物を容器に保管することがよい。乾燥又は燃焼処理によりその体積を大幅に減少させている上、全体として固体であるので、保管が容易である。
【0029】
吸水性ポリマーとしては、典型的には、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物が用いられる。その特徴として、ポリマーの100倍から素材によっては1000倍程度の重さの水を保持できること、電解質が含まれると吸水性能が低下するが非電解質を含んでもほぼ変化しないことなどの性質がある。このような特徴があることから、高吸水性ポリマーを用いることによりタンクに処理水を保管する際に固体状にして、液体状よりも漏水のリスクを減らした安全な保管ができること、また、エネルギー不要で、セシウム濃度をコントロールしながら自然蒸発できること、一旦保持されたセシウムは、吸水能力を超えない量であれば新たに水を加えてもポリマー中で比較的安定して保持される。
【0030】
トリチウム等の揮発性放射性核種を含んだ汚染水に、長半減期の放射性セシウムが共存した場合、セシウムを効果的に除去できれば、漏水時の危険や、海洋放出の際の危険を防止できることが期待できる。
【実施例0031】
実施例1
放射性セシウムとして、γ線測定による定量が容易な137Csを用いた。吸水性ポリマーの吸水率および137Cs吸着性能を定量的に評価するためには、水分を含有したポリマーを液体から分離する必要があるため、日本工業規格JIS K 7223-1996「高吸水性樹脂の吸水量試験方法」に準拠した。
吸水性ポリマーとして、市販のTAISAP社製のアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物系吸水性ポリマー(BC-283FHA)を用い、その0.2gを、大きさ6.5cm×9.5cm、底部の最大幅3cmの不織布製のティーバッグとして用いられる袋に予め入れてから、内容積250mLのポリエチレン製ボトルに入れ、容易に分離できるようにした。
このポリエチレン製ボトル中に、電解質として、非放射性の沃化セシウム(高純度化学研究所、純度99%以上)を含む137Cs放射性溶液200mL(Eckert & Ziegler社、Normal Solution、100kBq/mL、塩化セシウム濃度0.05mg/mL)を加え、セシウム濃度を1本あたり2.5mmol/L(比重1.0)とし、137Csの放射能濃度は40Bq/mL、比放射能は16MBq/moLとした。
【0032】
このボトルに吸水性ポリマーを入れた袋を浸漬した。137Csをボトル中で平衡状態にするため、ボトルの蓋を閉めて室温で7日間静置した。その後、不織布製の袋の外側にある液体部分をピペットで全て除去し、質量を測定することで吸水した吸水性ポリマーの吸水率(%)を求めた。
除去した液体のうち10mLをゲルマニウム半導体検出器で各試料を20分間測定して液体の137Csの放射能濃度(Bq/kg)を定量し、水溶液中に残存する137Cs量を求めた。吸水後の吸水性ポリマー中の137Cs濃度A(Bq/kg)は、下記式により求めた。
A=B/W
B:ボトルに加えた137Csの放射能(Bq)-水溶液中の137Csの濃度(Bq/kg)×液体の質量(kg)
W:ボトルに加えた水の質量(kg)-液体の質量(kg)
また、これから計算で吸水性ポリマーに吸着した137Csの吸着率を求めた。更に、吸水後の吸水性ポリマー中の137Cs濃度(Bq/kg)を、残存する水溶液中の137Cs濃度(Bq/kg)で除して分配比Dを求めた。
【0033】
実施例2
ボトルに入れた137Cs放射性溶液のセシウム濃度を5.0mmol/L(比重1.0)とし、137Csの放射能濃度を40Bq/mL、比放射能を8.0MBq/moLとした以外は実施例1と同様な操作を行った。
【0034】
参考例
実施例1と同じ薬品、容器、装置を使用し、セシウム濃度を10mmol/L(比重1.00)とし、137Csの放射能濃度を40Bq/mL、比放射能を4.0MBq/moLとした以外は実施例1と同様な操作を行った。
【0035】
結果をまとめて表1に示す。ここで、吸水率は吸水性ポリマーの吸水率であり、残存137Cs量は水溶液中に残存する137Cs量であり、ポリマー中の137Cs量は吸水性ポリマー中の137Cs量であり、137Cs吸着率は吸水性ポリマー中の137Cs吸着率である。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例1、2では、分配係数が1以上を示し、溶液中の137Csが溶液中から吸水性ポリマーに吸着することが示される。また、参考例から、電解質濃度を10mmol/L未満とすることにより、吸着性能が向上することが分かる。
【0038】
また、溶液から物質への飽和吸着能は、吸着サイトに吸着質分子が単分子層吸着すると仮定される場合には、溶液の濃度を変化させて吸着量の変動を求めることで、Langmuir型吸着等温式から求められる。ここで、C:溶液の濃度(電解質中に含まれる非放射性のセシウムと放射性セシウム137Csの合算濃度)、q:単位あたりの吸着量について、実施例1~2および参考例の結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
ここで、C:溶液濃度、q:単位あたりの吸着量、K:吸着平衡定数、qm:飽和吸着能とすると、単位あたりの吸着量qは、(飽和吸着能qm ×吸着平衡定数K ×溶液濃度C)を(1+吸着平衡定数K ×溶液濃度C)で除したものとなる。これを式変形すると、C/qはC/qm+1/(qm×K)となる。
つまり、縦軸C/q、横軸CとしたLangmuirプロットをとって直線近似すれば、その傾きの逆数が飽和吸着能となる。
図1にLangmuirプロットを示す。
【0041】
図1から、近似直線は、y=0.3163x+0.4985(r2= 1)となり、傾きの逆数から、本実施例の吸水性樹脂1gのセシウム飽和吸着能は、3.16(mg/g) となり、137Csに換算とすると、10.1GBq/gに相当する。

図1