IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 筑波大学の特許一覧 ▶ 公益財団法人かずさDNA研究所の特許一覧 ▶ トキタ種苗株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ニチレイフーズの特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特開2023-32890細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法
<>
  • 特開-細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法 図1
  • 特開-細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法 図2
  • 特開-細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法 図3
  • 特開-細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法 図4
  • 特開-細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法 図5
  • 特開-細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032890
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/29 20060101AFI20230302BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20230302BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230302BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20230302BHJP
   C12N 15/82 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
A01H6/82
C12N15/09 100
A01H1/00 A
C12N15/82 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139251
(22)【出願日】2021-08-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 研究論文『Organelle genome assembly uncovers the dynamic genome reorganization and cytoplasmic male sterility associated genes in tomato』 〔プレプリントサーバー bioRxiv 投稿公開URL〕(米国 コールド・スプリング・ハーバー研究所運営)< https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.03.03.433741v1 >< https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.03.03.433741v1.full.pdf+html > 令和3年3月5日公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究センター「イノベーション創出強化研究推進事業(うち、細胞質雄性不稔性の利用によるトマトの効率的なF1採種システムの構築プロジェクト)」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
(71)【出願人】
【識別番号】595107531
【氏名又は名称】トキタ種苗株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】有泉 亨
(72)【発明者】
【氏名】桑原 康介
(72)【発明者】
【氏名】白澤 健太
(72)【発明者】
【氏名】有村 慎一
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA18
2B030CG01
(57)【要約】
【課題】ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子であり、雄性不稔性の誘起及び回復に用いることができ、植物交配や種子採種を大きく効率化することができる、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)前記(a)のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、植物において前記細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、(c)前記(a)のアミノ酸配列において、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、植物において前記細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、を含む群より選択されるタンパク質をコードする、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)前記(a)のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、植物において細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、
(c)前記(a)のアミノ酸配列において、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、植物において細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、
を含む群より選択されるタンパク質をコードする、細胞質雄性不稔性遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させた、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害したナス科植物である、雄性不稔回復植物。
【請求項3】
前記ナス科植物は、ナス属又はトウガラシ属植物である、請求項2に記載の雄性不稔回復植物。
【請求項4】
前記ナス属植物は、ナス、ジャガイモ又はトマトである、請求項3に記載の雄性不稔回復植物。
【請求項5】
前記トウガラシ属植物は、トウガラシ又はピーマンである、請求項3に記載の雄性不稔回復植物。
【請求項6】
ミトコンドリアゲノムDNAが編集されて前記細胞質雄性不稔性遺伝子が欠損されている、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現が阻害されている、請求項2~5のいずれか1項に記載の雄性不稔回復植物。
【請求項7】
前記ミトコンドリアゲノムDNAをmitoTALEN法により編集された雄性不稔回復植物であって、
配列番号9、12に示す塩基配列をそれぞれ標的遺伝子とするmitoTALEN発現ベクターを用いる、請求項6に記載の雄性不稔回復植物。
【請求項8】
細胞質雄性不稔性のナス科植物に対して請求項1に記載の細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させる、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害する、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法。
【請求項9】
前記細胞質雄性不稔性のナス科植物のミトコンドリアゲノムDNAを編集し、前記細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させる、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害する、請求項8に記載のナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法。
【請求項10】
前記ミトコンドリアゲノムDNAをmitoTALEN法により編集するナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法であって、
配列番号9、12に示す塩基配列をそれぞれ標的遺伝子とするmitoTALEN発現ベクターを用いる、請求項9に記載のナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法によりナス科植物の細胞質雄性不稔を回復する、雄性不稔回復植物の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させたナス科植物である、雄性不稔性植物。
【請求項13】
前記ナス科植物は、ナス属又はトウガラシ属植物である、請求項12に記載の雄性不稔性植物。
【請求項14】
前記ナス属植物はトマトである、請求項13に記載の雄性不稔性植物。
【請求項15】
ナス科植物に対して請求項1に記載の細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させる、雄性不稔性植物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナス科の植物細胞質雄性不稔性の遺伝子、その遺伝子の発現を操作することによる雄性不稔回復植物及び雄性不稔性植物に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜などの作物の交配において、種子親、花粉親の2つの異なる親系統を交配させるF1採種の作業が行われている。このとき、種子親の系統からの自花受粉を防ぐために、種子親から葯を除く除雄と呼ばれる作業が行われている。しかし、この除雄の作業は現在、主に手作業で行われており、労働力を要するので、コストがかかり、採種で得られる種子価格の高騰を招いている。さらに、多数の労働者を介することで、貴重な知財である親系統が流出するおそれも考えられる。また、手作業による除雄は一定の失敗の可能性があり、この場合は種子親の花粉が混入し、目的の系統の交配が行われなかった種子が混入する可能性もある。
【0003】
これらの対策として、種子親を雄性不稔化する、すなわち、花粉を生じなくするか、又は、不稔性の、すなわち交配しない不活性な花粉を生じるようにすることで、手作業による徐雄の作業を行わなくとも、種子親の花粉が受粉する可能性を除くことができる。
【0004】
例えばイネにおいては、細胞質雄性不稔性(CMS、Cytoplasmic Male Sterility)を利用した交配の技術が知られている。細胞質雄性不稔の一例は、細胞質内のミトコンドリアにおける、ミトコンドリア遺伝子の働きにより、細胞の核とミトコンドリアの遺伝子産物の不親和により、花粉が不活性化し交配できず、種子及び果実が生じなくなる現象である。多くの植物種では細胞質が雌性側のみから伝達されるため、異種の細胞質に置換した細胞質置換系統を用いて、CMS系統が製造される。
【0005】
特許文献1には、トマト植物より単離し細胞質因子不治化処理されたプロトプラストと、ナス属植物より単離し核遺伝物質不治化処理されたプロトプラストと、を融合させて、融合物質より雄性不稔トマトを再生させることを特徴とする雄性不稔トマト植物の簡易作出法が開示されている。この技術は、プロトプラストの融合によって雄性不稔性を有する系統を作成し、目的とするトマト植物の雄性不稔性以外の形質に何等変化を与えることなく、目的とするトマト植物を短期間に効率よく雄性不稔化しようとするものである。
【0006】
特許文献2には、一定のDNAを含むイネRT型細胞質雄性不稔性の原因遺伝子と、それを用いた不稔性の判別方法等が記載されている。この技術では、イネRT型細胞質雄性不稔性の原因となるミトコンドリア遺伝子が同定され、この遺伝子をDNAマーカーとすることにより細胞質雄性不稔のイネ系統の判別にも用いることができるものである。
【0007】
特許文献3には、形質が改変された植物を作出する方法であって、特定の配列番号のDNA、又はその一部の配列を有し、小胞子および任意に葯の開裂組織に、特異的なプロモーター活性を示すDNAのいずれかを含むプロモーターと、このプロモーターに作動可能に連結された異種遺伝子とを含む、植物発現カセットを利用する方法等を開示している。この技術は、ナス科のペチュニア等の園芸植物について、雄性不稔に代表される植物形質の改変に有用な、花粉に特異的な遺伝子を利用する遺伝子工学的手法を提供しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2824841号公報
【特許文献2】国際公開第2014/027502号
【特許文献3】特開2003-92937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の技術では、ナス科のトマトにおいては雄性不稔性を有する系統を得ることはできるものの、その細胞質雄性不稔性の遺伝子は明らかになっていない。そのため、前述の不稔性を有する系統を用いて、ナス科の果実をつけない植物を生産することはできるものの、その種子を作ることができないため、増殖することができない。雄性不稔性を有する系統を応用するには、細胞質雄性不稔性の原因遺伝子を明らかにし、そのオン/オフを操作可能であることが望まれている。
【0010】
特許文献2の技術は、イネ科における細胞質雄性不稔性の遺伝子を明らかにしているが、ナス科の植物については、細胞質雄性不稔性の原因遺伝子は明らかとなっていない。
【0011】
特許文献3の技術は、ナス科の植物の一種について不稔性を遺伝子的に操作しようとするものであるが、この操作する遺伝子は核に含まれる遺伝子で、植物の形質を変化させるものである。この技術では、細胞質雄性不稔性のように核の遺伝子は変化させずにミトコンドリアの細胞質の遺伝子を操作して不稔性のオン/オフは操作することができない。特許文献3の技術は、ナス科でもペチュニアなどの園芸分野の植物を操作するものであり、食品の分野ではない。
【0012】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子であり、雄性不稔性の誘起及び回復に用いることができ、植物交配や種子採種を大きく効率化することができる、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
[1] (a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)前記(a)のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、植物において細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、
(c)前記(a)のアミノ酸配列において、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、植物において細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、
を含む群より選択されるタンパク質をコードする、細胞質雄性不稔性遺伝子。
[2] 細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させた、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害したナス科植物である、雄性不稔回復植物。
[3] 前記ナス科植物は、ナス属又はトウガラシ属植物である、前記の雄性不稔回復植物。
[4] 前記ナス属植物は、ナス、ジャガイモ又はトマトである、前記の雄性不稔回復植物。
[5] 前記トウガラシ属植物は、トウガラシ又はピーマンである、前記の雄性不稔回復植物。
[6] ミトコンドリアゲノムDNAが編集されて前記細胞質雄性不稔性遺伝子が欠損されている、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現が阻害されている、前記の雄性不稔回復植物。
[7] 前記ミトコンドリアゲノムDNAをmitoTALEN法により編集された雄性不稔回復植物であって、
配列番号9、12に示す塩基配列をそれぞれ標的遺伝子とするmitoTALEN発現ベクターを用いる、前記の雄性不稔回復植物。
[8] 細胞質雄性不稔性のナス科植物に対して前記の細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させる、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害する、ナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法。
[9] 前記細胞質雄性不稔性のナス科植物のミトコンドリアゲノムDNAを編集し、前記細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させる、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害する、前記のナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法。
[10] 前記ミトコンドリアゲノムDNAをmitoTALEN法により編集するナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法であって、
配列番号9、12に示す塩基配列をそれぞれ標的遺伝子とするmitoTALEN発現ベクターを用いる、前記のナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法。
[11] 前記のナス科植物の細胞質雄性不稔の稔性を回復する方法によりナス科植物の細胞質雄性を回復する、雄性不稔回復植物の製造方法。
[12] 前記の細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させたナス科植物である、雄性不稔性植物。
[13] 前記ナス科植物は、ナス属又はトウガラシ属植物である、前記の雄性不稔性植物。
[14] 前記ナス属植物はトマトである、前記の雄性不稔性植物。
[15] ナス科植物に対して前記の細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させる、雄性不稔性植物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子を明らかにし、雄性不稔性の誘起及び回復に用いることができ、植物交配や種子採種を大きく効率化することができる、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子を同定する工程を示す概略図である。
図2】細胞質雄性不稔性遺伝子の候補遺伝子について、RNA-seqの結果を示す図であり、それぞれ(a)orf137、(b)orf265、(c)orf265である。
図3】細胞質雄性不稔性遺伝子の候補遺伝子についてのRT-PCRの図である。
図4】細胞質雄性不稔性遺伝子の候補遺伝子について、(a)発現阻害に用いるベクターの構造、(b)(c)標的遺伝子の配列を示す概略図である。
図5】標的遺伝子を破壊したトマトCMS系統について、ミトコンドリアDNAの発現を調べた図である。
図6】orf137遺伝子を阻害した系統についての雄性不稔回復を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子)
本実施形態のナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子は、
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)前記(a)のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、植物において前記細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、
(c)前記(a)のアミノ酸配列において、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、植物において前記細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質、
を含む群より選択されるタンパク質をコードする遺伝子配列を含む。
【0018】
ナス科植物は、ナス科の植物を広く含み、例えば、ナス属又はトウガラシ属植物を含む。また、ナス属植物は、例えば、ナス、ジャガイモ又はトマトを含む。トウガラシ属植物は、トウガラシ又はピーマンを含む。
【0019】
ナス科植物は、作物、すなわち特に食品原材料として農業分野において利用される植物であることが特に好ましい。本実施形態では、ミトコンドリアゲノムDNAの発現を抑制することで雄性不稔の有無を操作する。
【0020】
本実施形態のナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子は、代表的には、
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
をコードする遺伝子である。
特に、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子は、発明者らの発見による遺伝子で、orf137と称する。配列番号2にorf137の遺伝子配列を示す。この遺伝子は、後述の実施例で説明するように、トマトのCMS(細胞質雄性不稔性、Cytoplasmic Male Sterility)系統のミトコンドリア遺伝子から発見され、細胞質雄性不稔性をもたらしている。なお、細胞質雄性不稔性をもたらすタンパク質はS因子と呼ばれ、細胞質雄性不稔性遺伝子は、S因子をコードする遺伝子と考えられ、以下S因子遺伝子と呼ぶこともある。
また後述するように、ナス科植物に対してこの遺伝子を欠損させ、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害することによって、CMS系統を、雄性不稔性を持つ状態から持たない状態に回復させる、すなわち雄性不稔回復を行うことができる。
また、特にナス科植物に対してこの遺伝子の発現を誘導することで、細胞質雄性不稔性を付与することができる。加えて、この遺伝子orf137を他のナス科植物に移植することで、雄性不稔性を誘導することが可能である。
従来、ナス科植物に対しては、細胞質雄性不稔性をもたらす遺伝子は見出されていなかったものであるが、本発明者らによって遺伝子及び応用法が見いだされたものである。
【0021】
また、本実施形態のナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子は、
(b)前記(a)のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、植物において前記細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質を含む群より選択されるタンパク質をコードする遺伝子であることも好ましい。
また、
(c)前記(a)のアミノ酸配列において、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、植物において前記細胞質雄性不稔性を発揮するタンパク質であることも好ましい。
【0022】
具体的には、前記(a)又は(b)のアミノ酸配列に対して、アミノ酸の欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよい。これらの欠失、置換又は付加は部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作成法により導入されたものであってもよい。変異は、人為的に変異を導入したものであっても、天然に存在する同様の変異であってもよい。植物種に応じて、また目的に応じて、これらの改変又は変異を導入した遺伝子を用いることもできる。
また、前記(a)又は(b)のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であることも好ましい。配列の同一性を検索、判定する手段については、FASTAやBLASTにより検索する等の手段をとることができる。
【0023】
また、本実施形態のナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子は、遺伝子の塩基配列において(a)又は(b)のアミノ酸配列をコードする遺伝子の塩基配列に対して80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有する遺伝子であることも好ましい。
また、本実施形態のナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子は、(a)又は(b)の配列の遺伝子配列と相補的な核酸であることも好ましい。この核酸は、上述の(a)又は(b)の配列の遺伝子配列と相補的な核酸の塩基配列に対して、欠失、置換又は付加を導入したものであってもよい。
【0024】
(雄性不稔回復植物)
本実施形態の雄性不稔回復植物は、前記の細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させた、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害したナス科植物である。この植物は、すでに雄性不稔性の植物、具体的には細胞質雄性不稔性遺伝子が発現している、例えばCMS系統の各種の植物について、雄性不稔性を持つ状態から回復して、花粉が活性化している。
【0025】
細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させたとは、植物内から前記細胞質雄性不稔性遺伝子を破壊又は喪失などで欠損させた状態を指す。前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現の阻害とは、前記遺伝子のDNA、RNA又はタンパク質の機能若しくは発現を抑制することを含む。これらの遺伝子の欠損、機能若しくは発現を抑制するには、前記機能若しくは発現の抑制を行うことのできる化学物質等を外部処理により投入する等の手段を用いることができる。
これらの方法には、前記遺伝子のコードするタンパク質の機能の喪失又は低減をする方法を広く含む。例えば、当該タンパク質がミトコンドリアに局在できないか、又はミトコンドリアに局在できたとしても、機能を発揮し得ない状態にし得る方法をとることができる。これらの抑制方法には、公知の又は今後開発される同様の手段を適宜選択できる。
【0026】
本実施形態の細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させるとは、ミトコンドリアゲノムDNAに存在しているので、ミトコンドリアゲノムDNAを編集し、前記遺伝子を欠損させる操作などを経たものを含む。
なお、本実施形態において、ミトコンドリアゲノムDNAはミトコンドリアに所在する遺伝子であり、これに対して細胞の核内に存在する遺伝子を核遺伝子と呼ぶことがある。
【0027】
本実施形態の雄性不稔回復植物は、ミトコンドリアゲノムDNAをmitoTALEN法により編集された雄性不稔回復植物であって、配列番号9、12に示す塩基配列をそれぞれ標的遺伝子としてベクター内に導入したmitoTALEN発現ベクターを用いることも好ましい。
【0028】
mitoTALEN法は、ミトコンドリアゲノムDNA構造を編集する手段であり、例えば特開2018-130043に開示されている。具体的には、植物細胞中のミトコンドリアゲノムDNA各分子種に存在する標的配列領域に二重鎖切断を導入することにより、該ミトコンドリアゲノムの構造変化を誘導する。ここで標的配列領域とは、ミトコンドリアゲノムDNA各分子種において、欠失/消失を誘導したい領域もしくはその近傍領域のことである。ミトコンドリアゲノムの構造変化は、前記標的配列領域付近に存在する配列と他の領域に存在する相同配列との間で生じるDNA組換えによって誘導される。特に、二重鎖切断が、TALEN(transcription activator-like effector nucleases)によって導入される。
特に、上記公報によれば、植物細胞中のミトコンドリアゲノムDNA各分子種に存在する遺伝子または該遺伝子近傍領域に二重鎖切断を導入することにより、該遺伝子を欠損させ、前記遺伝子の欠損が、該遺伝子または該遺伝子近傍領域に存在する配列と他の領域に存在する相同配列との間で生じるDNA組み換えによって誘導される。この方法は、植物細胞中の雄性不稔の原因遺伝子の欠損を目的として用いられているものである。
【0029】
具体的には、例えば1つのプラスミドにおいて2つのTALEN、例えばTALE leftとTALE rightを同時に発現させ、かつ、ミトコンドリアに局在させるために、ミトコンドリア局在シグナルを付加したタンデム発現プラスミドを用いる。
前記標的配列領域として、例えば、配列番号9、12に示す塩基配列をそれぞれ標的遺伝子としてベクター内に導入することが好ましい。
配列番号9、12は、orf137遺伝子の一部であり、ミトコンドリアゲノムDNA内のorf137遺伝子を欠失、破壊することで、orf137遺伝子を欠損させるために用いる。前記配列番号の塩基配列の中から、配列の前半の一部に結合するTALELEFTと、配列の後半の一部に結合するTALERIGHTを選択し、これらの配列をペアにしてベクター内に導入し、このベクターをミトコンドリア内に導入する。TALENの配列は例えば12~20塩基であることが好ましい。TALENの配列の箇所としては、例えば後述の図4(b)で示すTALELEFT-1, TALERIGHT-1の箇所、又は図4(c)で示すTALELEFT-2, TALERIGHT-2の箇所などを選択できる。
【0030】
(ナス科植物の細胞質雄性を回復する方法)
本実施形態のナス科植物の細胞質雄性不稔を回復する方法は、細胞質雄性不稔性のナス科植物に対して前記の細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させる、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害することにより行う。この方法は、例えば、前記細胞質雄性不稔性のナス科植物のミトコンドリアゲノムDNAを編集することにより行うことができる。ミトコンドリアゲノムDNAを編集する手段としては、例えば、前記mitoTALEN法により行うことで、細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させることができる。
【0031】
(雄性不稔回復植物の製造方法)
本実施形態の雄性不稔回復植物の製造方法は、前記のナス科植物の細胞質雄性不稔を回復する方法により、前記ナス科植物が細胞質雄性不稔性を持つ状態から回復することにより行う。この製造方法は、雄性不稔回復植物として、また前記回復する方法として、上述のものから選択できる。
【0032】
(雄性不稔性植物)
本実施形態の雄性不稔性植物は、前記の細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させたナス科植物である。この実施形態のナス科植物は、前記ナス科植物から選択できるが、例えば、本来細胞質雄性不稔性遺伝子を持たない植物又は系統から選択することができる。具体的には、ナス科植物はナス属又はトウガラシ属植物から選択でき、またナス属植物は例えばトマトから選択することができる。トマトは他のナス科の植物、例えばジャガイモ等との細胞融合により作成されたCMS系統が見出されており、同様に雄性不稔性植物を製造することができる。
【0033】
ナス科植物に細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させる方法としては、植物に遺伝子、特にミトコンドリアDNAに遺伝子を導入するための既知の手段を用いることができる。例えば、ORF137をミトコンドリア内で発現させるベクターを作成して、他のナス科植物に導入することで雄性不稔性を誘導することができる。また、例えば前記mitoTALEN法によってミトコンドリアDNAを改変、再構成することでも、遺伝子を導入することもできる。
この際、ミトコンドリアDNAの改変、再構成は、必須遺伝子以外の部位に対して行うことが好ましい。
【0034】
(雄性不稔性植物の製造方法)
本実施形態の雄性不稔性植物の製造方法は、ナス科植物に対して前記の細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させる。ナス科植物及び細胞質雄性不稔性遺伝子を発現させる方法としては、上述したもの、例えばミトコンドリア内で発現させるベクターを作成して、他のナス科植物に導入することで雄性不稔性を誘導する方法などから選択できる。
【0035】
(本実施形態の効果)
本実施形態の細胞質雄性不稔性遺伝子は、この遺伝子をナス科植物に誘導し発現した場合には、花粉は生じるが、交配しない不活性な花粉となり、いわゆる雄性不稔性をつかさどっている。
細胞質雄性不稔性を持つ植物株、すなわち細胞質雄性不稔性遺伝子を発現している植物株に対して、この細胞質雄性不稔性遺伝子を欠損させる、又は前記細胞質雄性不稔性遺伝子の機能若しくは発現を阻害することで、その植物に雄性を回復させ、活性のある花粉、果実及び種子を生じさせることができる。
一方、細胞質雄性不稔性を持たない植物株に対して、本実施形態の細胞質雄性不稔性遺伝子が発現する状態にすることで、種子親の花粉が交配せず、徐雄の作業を行わなくとも、種子親の花粉が受粉する可能性を除くことができる。
すなわち、この遺伝子の発現のオン/オフにより交配における作業を大幅に効率化、低コスト化することができる。
【0036】
本実施形態は、ナス科について細胞質雄性不稔性遺伝子を見出し、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法を提供している。ナス科植物はナスやトマト、トウガラシ及びピーマン等の果実を食用にする種、ジャガイモ等のように塊茎を食用とする種が含まれる。また、タバコのように嗜好品として栽培されるもの、ホオズキ又はペチュニア等など観賞用に園芸分野で利用される植物など多岐にわたっている。本実施形態の技術は、これらのナス科の植物について交配等の系統操作に応用することができるため、利用範囲が幅広い。
【実施例0037】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0038】
(細胞質雄性不稔性のS因子遺伝子の同定)
ナス科植物における細胞質雄性不稔性遺伝子を探索するために、ミトコンドリア遺伝子の探索を行い、CMS(細胞質雄性不稔性)の系統のみが有する遺伝子を抽出した。
概要としては、通常の栽培種トマトとCMS系統のトマトのゲノム配列を構築し、遺伝子構造を予測した。次に、発現解析を行い、遺伝子発現している遺伝子を選抜した。次に、栽培種トマトとCMSトマト間で、葯由来のRNAを用いて発現遺伝子の比較を行い、CMSトマトのみで特異的に発現する遺伝子を選抜した。
【0039】
具体的には、図1に示すように、
(1)まず、CMS[PF], CMS[MSA1], CMS[OF209]として知られる3種のトマトCMS系統の遺伝子から、70アミノ酸以上をコードするorf (Open Reading Frame)を予測し、それぞれ831, 1025, 969種のorfを抽出した。
(2)ついで、CMS系統の元になった株のミトコンドリア遺伝子(ミトコンドリア・ドナー)である、PF, LA1673, Sekai-ichi, LA1670, OF209, S.pennellii, N.tabacumの遺伝子のorfと比較し、配列が完全に一致するorfをその中から除外することで、CMS系統に特異的でないorfを除外した。残ったのは、CMS[PF], CMS[MSA1], CMS[OF209]でそれぞれ183, 272, 140遺伝子であった。
(3)ついで、CMS系統で共通するorfを検出した。検出されたのはCMS[PF], CMS[MSA1], CMS[OF209]でそれぞれ36, 41, 33遺伝子であった。
(4)その中から、葯のRNA-Seqを実施して、発現するorfを検出した。結果として、3つのorfであるorf137, orf193, orf265が抽出された。orf137はCMS-PMt002g07240とCMS-PMt005g13392の2つのCMS株からの2コピー、orf193はCMS-PMt002g06465のCMS株からの1コピー、orf265はCMS-PMt010g15739のCMS株からの1コピーが得られた。
【0040】
上記(4)のRNA-seqの結果を図2に示した。図2(a)のorf137の配列はCMS protein of pepper CMS lineと55%の相同性、図2(b)のorf193の配列はCytochrome fと93%の相同性、図2(c)のorf265の配列はATP synthase subunit 8と92%の相同性を示した。この結果から、トウガラシのCMS系統の遺伝子と一部相同性を示しているorf137が、CMSに関係する遺伝子の可能性が特に高いとみられた。
【0041】
上記(4)の3種のorfについて、CMS[P]系統の各組織においてRNA発現を調べるためRT-PCRを行った。プライマーはorf137についてForward Primer (5’-3’)に配列番号3を、Reverse Primer (5’-3’)に配列番号4を用いた。orf193についてForward Primer (5’-3’)に配列番号5を、Reverse Primer (5’-3’)に配列番号6を用いた。Orf265についてForward Primer (5’-3’)に配列番号7を、Reverse Primer (5’-3’)に配列番号8を用いた。
配列番号3:cgattgagaa agcggcaggc
配列番号4:gttattttcg ctgcaacggc g
配列番号5:ggggaatcgg ccttctttag tc
配列番号6:ggggagggtt taataaagga gctg
配列番号7:cggagtgaag ctgtattgag gg
配列番号8:gaggagagga acgaagaacg aaac
結果を図3に示した。花粉(Pollen)で特に強く発現しているのはorf137であった。
【0042】
(遺伝子阻害による雄性不稔回復)
ついで、この3種のミトコンドリア遺伝子のS因子の阻害を実際に試みることで、雄性の回復を試験した。これらのミトコンドリアゲノムDNAを編集し、前記DNAを欠損させた。植物ミトコンドリアゲノムの編集方法として、mitoTALEN法を用いた。
具体的には、図4(a)に示すような発現ベクターのTiプラスミドを設計した。図中、MLSはミトコンドリア移行シグナルを示し、TALEleftとTALErightが、標的遺伝子に結合する対応する配列を示す。この標的配列は、orf137, orf 193, orf 265の3種の遺伝子について、それぞれ異なる領域の2つの標的を作成した。TALEleftとTALErightが結合する標的遺伝子については、1つ目の標的を図4(b)(配列番号9~11)、2つ目の標的を図4(c)(配列番号12~14)に示した。これらの標的配列の中からそれぞれ、さらに図に示す配列の前後2か所ずつの部位を選択し、それぞれTALEleftとTALErightの配列として発現ベクターに組み込んだ。ベクターの組み込みはアクロバクテリウム法により遺伝子導入を行い、遺伝子導入方法はA Highly Efficient Transformation Protocol for Micro-Tom, a Model Cultivar for Tomato Functional Genomics. Plant and Cell Physiology, Volume 47, Issue 3, March 2006, Pages 426-431に則って行った。
ベクターの作成は、東京大学 有村慎一研究室に依頼して行った。
【0043】
図5は、このベクターを導入し標的遺伝子を破壊したトマトCMS系統について、ミトコンドリアDNAの発現を調べた図である。#127-1, #127-2, #140-1, #140-2, #140-3の各レーンは、前記mitoTALEN法によってorf137遺伝子を破壊した系統、Positiveは元のCMS系統を指す。図中の上部の保存ゲノムのバンドが、ミトコンドリアDNAの元のゲノムであり、下部のバンドがorf137を示す。CMS系統では、保存ゲノムとorf137のバンドが両方確認できるが、#127-1, #127-2, #140-1, #140-2, #140-3の各系統では、保存ゲノムのみが確認でき、orf137のバンドが出ず、orf137のミトコンドリアDNAが破壊されていることを示した。
【0044】
図6の写真に示すように、orf137を阻害した#127-1株は、ミトコンドリア内のorf137遺伝子が破壊されると、CMS系統にかかわらずトマト果実が実った。この結果から、orf137遺伝子を阻害することによりCMS系統の株に対して花粉稔性が完全に回復すること、ここからorf137が雄性不稔性の原因遺伝子であること、また雄性不稔性の株に対してorf137を阻害することにより雄性を回復することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子を明らかにし、雄性不稔性の誘起及び回復に用いることができ、植物交配や種子採種を大きく効率化することができる、ナス科植物の細胞質雄性不稔性遺伝子、雄性不稔回復植物、ナス科植物の細胞質雄性を回復する方法、雄性不稔回復植物の製造方法、雄性不稔性植物、及び雄性不稔性植物の製造方法が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2023032890000001.app