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  • 特開-液晶性樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032942
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】液晶性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20230302BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20230302BHJP
   C08K 7/28 20060101ALI20230302BHJP
   C08L 77/12 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C08L67/04
C08L45/00
C08K7/28
C08L77/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139326
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 光博
(72)【発明者】
【氏名】安住 竜太
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BK002
4J002CF181
4J002CL081
4J002DL006
4J002FA106
4J002FD010
4J002FD016
4J002GM00
4J002GQ01
4J002GS00
(57)【要約】
【課題】誘電特性及び耐熱性に優れ、流動性の良好な液晶性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂、(B)環状オレフィン系樹脂、及び(C)中空フィラーを含有し、(A)液晶性樹脂の融点は、300℃以上であり、(B)環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、100℃以上であり、(A)液晶性樹脂と(B)環状オレフィン系樹脂との合計100容量部に対して、(A)液晶性樹脂の含有量は、55~85容量部、(B)環状オレフィン系樹脂の含有量は、15~45容量部、(C)中空フィラーの含有量は、20~75容量部である。(A)液晶性樹脂は、好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。(C)中空フィラーは、好ましくはガラスバルーンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液晶性樹脂、
(B)環状オレフィン系樹脂、及び
(C)中空フィラー
を含有し、
(A)液晶性樹脂の融点は、300℃以上であり、
(B)環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、100℃以上であり、
(A)液晶性樹脂と(B)環状オレフィン系樹脂との合計100容量部に対して、
(A)液晶性樹脂の含有量は、55~85容量部、
(B)環状オレフィン系樹脂の含有量は、15~45容量部、
(C)中空フィラーの含有量は、20~75容量部
である液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである請求項1に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)中空フィラーは、ガラスバルーンである請求項1又は2に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンモノマーとα-オレフィンとの付加型重合体である請求項1から3のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、無機充填剤を含有する請求項1から4のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有し、優れた寸法安定性も有するため高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。一方、近年、携帯電話;無線LAN;GPS、VICS(登録商標)、ETC等のITS技術等の情報通信分野において著しい技術発達がなされている。これに応じて、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において適用できる高性能な高周波対応電子部品のニーズが強くなっている。このような電子部品を構成する材料は、個々の電子部品の設計に応じて、適切な誘電特性を有することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステル90~45重量%、アスペクト比が2以下の無機球状中空体10~40重量%、アスペクト比が4以上の無機充填剤0~15重量%を配合した組成物を射出成形して得られる、比誘電率が3.0以下、誘電正接が0.04以下の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物成形体が、耐ハンダリフロー等の耐熱性を有し、誘電特性に優れ、マイクロ波、ミリ波等の高周波帯域で用いられる情報通信機器の送受信部品の固定あるいは保持部材に用いられる成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-27021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、無機球状中空体等の中空フィラーを含有する従来の液晶性樹脂組成物は、溶融粘度が著しく高く、流動性が不良であり、又は、誘電特性若しくは耐熱性に改善の余地があることが判明した。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、誘電特性及び耐熱性に優れ、流動性の良好な液晶性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、融点が300℃以上である液晶性樹脂と、ガラス転移温度が100℃以上である環状オレフィン系樹脂とを所定の含有量で含有する液晶性樹脂組成物は、誘電特性及び耐熱性に優れ、流動性の良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) (A)液晶性樹脂、(B)環状オレフィン系樹脂、及び(C)中空フィラーを含有し、(A)液晶性樹脂の融点は、300℃以上であり、(B)環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、100℃以上であり、(A)液晶性樹脂と(B)環状オレフィン系樹脂との合計100容量部に対して、(A)液晶性樹脂の含有量は、55~85容量部、(B)環状オレフィン系樹脂の含有量は、15~45容量部、(C)中空フィラーの含有量は、20~75容量部である液晶性樹脂組成物。
【0009】
(2) (A)液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである(1)に記載の液晶性樹脂組成物。
【0010】
(3) (C)中空フィラーは、ガラスバルーンである(1)又は(2)に記載の液晶性樹脂組成物。
【0011】
(4) (B)環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンモノマーとα-オレフィンとの付加型重合体である(1)から(3)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
【0012】
(5) 更に、無機充填剤を含有する(1)から(4)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、誘電特性及び耐熱性に優れ、流動性の良好な液晶性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例及び比較例で用いた誘電特性評価用試験片の切り出し位置を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、液晶性樹脂組成物中の成分の含有量を表す容量部の値は、当該成分の質量部の値と当該成分の真比重とから算出される値である。本明細書において、容量部及び真比重としては、室温(20~30℃)における値を採用する。
【0016】
<液晶性樹脂組成物>
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂、(B)環状オレフィン系樹脂、及び(C)中空フィラーを含有し、(A)液晶性樹脂の融点は、300℃以上であり、(B)環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、100℃以上である。
【0017】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0018】
(A)液晶性樹脂の融点は、300℃以上であり、好ましくは300~360℃であり、より好ましくは315~345℃である。(A)液晶性樹脂の融点が300℃以上であると、耐熱性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。(A)液晶性樹脂の融点が360℃以下であると、流動性の良好な液晶性樹脂組成物を得やすい。
【0019】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0~10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0020】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0021】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0022】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;1,4-フェニレンジカルボン酸、1,3-フェニレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン、N-アセチル-p-アミノフェノール等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C~C)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である。)
【化2】
【化3】
(Y:-(CH-(n=1~4)及び-O(CHO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0023】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒、N-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001~1質量%、特に約0.01~0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合法により分子量の増加を図ることができる。
【0024】
上記のような方法で得られた(A)液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec-1で3Pa・s以上500Pa・s以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記(A)液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0025】
(A)成分の含有量は、(A)液晶性樹脂と(B)環状オレフィン系樹脂との合計100容量部に対して、55~85容量部であり、好ましくは58~82容量部であり、より好ましくは60~80容量部である。(A)成分の含有量が55容量部以上であると、耐熱性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。(A)成分の含有量が85容量部以下であると、誘電特性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。
【0026】
[(B)環状オレフィン系樹脂]
本発明における(B)環状オレフィン系樹脂の形態としては、特に限定されず、以下が挙げられる。
(1)環構造を有する単量体と、オレフィンとの付加型重合体
(2)環構造を有する単量体と、単環構造を有する単量体との開環型重合体
【0027】
本発明の液晶性樹脂組成物に配合される(B)環状オレフィン系樹脂の種類は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0028】
(B)環状オレフィン系樹脂が付加型重合体及び開環型重合体のいずれの態様であっても、柔軟性等の観点から、(B)環状オレフィン系樹脂を構成する単量体は、得られる(B)環状オレフィン系樹脂にエチレンユニットが含まれるように選択されることが好ましい。なお、エチレンユニットとは、エチレンに由来する構成単位をいう。
以下、(B)環状オレフィン系樹脂を構成する単量体の例を説明する。
【0029】
(環構造を有する単量体)
(B)環状オレフィン系樹脂を構成する環構造を有する単量体としては、例えば、環状オレフィンモノマーが挙げられる。環状オレフィンモノマーとしては、例えば、ノルボルネン、及び下記一般式(IV)で示される複環環状単量体が挙げられる。
【0030】
【化4】
【0031】
式(I)中、R~R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。炭化水素基は飽和炭化水素基でも、不飽和炭化水素基でもよい。
不飽和炭化水素基としては、ビニル基が挙げられる。ビニル基を含む環構造を有する単量体として、5-ビニル-2-ノルボルネン等が挙げられる。
【0032】
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよい。
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R~Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、n=0の場合、R~R及びR~R12の少なくとも1個は、水素原子ではない。
【0033】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0034】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0035】
環構造を有する単量体は、側鎖を有するものであってもよく、側鎖を有さないものであってもよい。
【0036】
環構造を有する単量体の具体例としては、ノルボルネン、テトラシクロドデセンが挙げられる。
オレフィンとの反応における触媒(メタロセン触媒等)に対する反応性が高いという観点から、環構造を有する単量体としては、ノルボルネンが特に好ましい。
【0037】
(B)環状オレフィン系樹脂において、環構造を有する単量体に由来する構成単位の含有量は特に限定されない。該構成単位の含有量の下限値は、(B)環状オレフィン系樹脂に耐熱性を付与するという観点から、(B)環状オレフィン系樹脂に含まれる全構成単位に対し、好ましくは0mol%超、より好ましくは5mol以上である。該構成単位の含有量の上限値は、架橋性を付与しやすいという観点から、(B)環状オレフィン系樹脂に含まれる全構成単位に対し、好ましくは55mol%以下、より好ましくは50mol%以下、更により好ましくは40mol%以下である。
【0038】
(B)環状オレフィン系樹脂を構成する環構造を有する単量体は、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0039】
(オレフィン)
(B)環状オレフィン系樹脂を構成するオレフィンとしては、特に限定されず、例えば、α-オレフィンが挙げられる。α-オレフィンとしては、炭素数2以上10以下のα-オレフィンが好ましい。
【0040】
α-オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-へキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。上記のうち、エチレンが特に好ましい。
【0041】
(B)環状オレフィン系樹脂において、オレフィンの含有量は特に限定されない。該オレフィンの含有量の下限値は、得られる架橋物に柔軟性を付与しやすいという観点から、(B)環状オレフィン系樹脂に含まれる全構成単位に対し、好ましくは45mol%以上、より好ましくは50mol%以上、更により好ましくは60mol%以上である。該オレフィンの含有量の上限値は、適度な弾性率を有する架橋物を得られやすいという観点から、(B)環状オレフィン系樹脂に含まれる全構成単位に対し、好ましくは100mol%未満、より好ましくは95mol%以下である。
【0042】
(B)環状オレフィン系樹脂を構成するオレフィンは、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0043】
(単環構造を有する単量体)
単環構造を有する単量体としては、環状構造を1つのみ有するオレフィンであれば特に限定されない。オレフィンとしては、炭素数3以上10以下のオレフィンが好ましい。
【0044】
単環構造を有する単量体の具体例としては、環状モノオレフィン(シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等)、環状ジオレフィン(シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン等)が挙げられる。上記のうち、シクロペンテンが特に好ましい。
【0045】
(B)環状オレフィン系樹脂において、単環構造を有する単量体の含有量は特に限定されない。該単環構造を有する単量体の含有量の下限値は、得られる架橋物に柔軟性を付与しやすいという観点から、(B)環状オレフィン系樹脂に含まれる全構成単位に対し、好ましくは40mol%以上である。該単環構造を有する単量体の含有量の上限値は、適度な弾性率を有する架橋物を得られやすいという観点から、(B)環状オレフィン系樹脂に含まれる全構成単位に対し、好ましくは100mol%未満である。(B)環状オレフィン系樹脂を構成する単環構造を有する単量体は、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0046】
(付加型反応)
(B)環状オレフィン系樹脂が、環構造を有する単量体と、オレフィンとの付加型重合体である場合、上記の環構造を有する単量体と、オレフィンとを用いて、付加型重合体の製造方法として知られる任意の手法を採用して(B)環状オレフィン系樹脂を製造することができる。
【0047】
付加重合触媒としては、メタロセン系触媒を特に好適に用いることができる。メタロセン触媒の具体的な例としては、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-フルオレニルシランチタンジメチル、ラセミ-エチリデン-ビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ラセミ-ジメチルシリル-ビス(2-メチル-ベンゾインデニル)ジルコニウムジクロライド、ラセミ-イソプロピリデン-ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピリデン(1-インデニル)(3-イソプロピル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-フルオレニルシランジルコニウムジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-フルオレニルシランジルコニウムジクロリド、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-(3,6-ジメチルフルオレニル)シランジルコニウムジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-[3,6-ジ(i-プロピル)フルオレニル]シランジルコニウムジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-[3,6-ジ(t-ブチル)フルオレニル]シランジルコニウムジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-[2,7-ジ(t-ブチル)フルオレニル]シランジルコニウムジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-(2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)シランジルコニウムジメチル、ラセミ-エチリデン-ビス(インデニル)チタンジクロライド、ラセミ-ジメチルシリル-ビス(2-メチル-ベンゾインデニル)チタンジクロライド、ラセミ-イソプロピリデン-ビス(テトラヒドロインデニル)チタンジクロライド、イソプロピリデン(1-インデニル)(3-イソプロピル-シクロペンタジエニル)チタンジクロライド、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-フルオレニルシランチタンジクロリド、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-(3,6-ジメチルフルオレニル)シランチタンジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-[3,6-ジ(i-プロピル)フルオレニル]シランチタンジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-[3,6-ジ(t-ブチル)フルオレニル]シランチタンジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-[2,7-ジ(t-ブチル)フルオレニル]シランチタンジメチル、(t-ブチルアミド)ジメチル-9-(2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)シランチタンジメチルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。付加重合触媒は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0048】
(B)環状オレフィン系樹脂は、上記重合触媒とともに、助触媒を使用するとより容易に得られやすい。助触媒は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。助触媒としては、アルキルアルミノキサン、アルキルアルミニウム等が挙げられる。
【0049】
(開環型反応)
(B)環状オレフィン系樹脂が、環構造を有する単量体と、単環構造を有する単量体との開環型重合体である場合、上記の環構造を有する単量体と、単環構造を有する単量体と、連鎖移動剤とを用いて、開環重合触媒の存在下で開環重合させたのち必要に応じて水素化することで得られる。
【0050】
連鎖移動剤としては、分子量を制御でき、末端に炭素原子間の二重結合を1つ持つものであれば特に制約されないが、例えば上述のα-オレフィン(1-ヘキセン等)が挙げられる。
【0051】
開環重合触媒としては、単環の環状オレフィンと、ノルボルネン化合物とを、開環共重合できるものであればよく、ルテニウムカルベン錯体が好ましい。ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)-3,3-ジフェニルプロペニリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)t-ブチルビニリデンルテニウムジクロリド、ジクロロ-(3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム、ビス(1,3-ジイソプロピルイミダゾリン-2-イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3-ジシクロヘキシルイミダゾリン-2-イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチルイミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチルイミダゾリジン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチルイミダゾリジン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリドが挙げられる。開環重合触媒は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0052】
本発明においては、開環重合を行った後、必要に応じて開環重合工程における反応系に水素化触媒及び水素を添加して、開環重合体中の炭素原子間の二重結合を水素化してもよい。水素化触媒は、オレフィン類や芳香族化合物の水素化反応に一般的に使用されるものであればよい。水素化触媒の具体例としては、以下が挙げられる。
(1)遷移金属を担体(カーボン、アルミナ、シリカ、ケイソウ土等)に担持させた担持型金属触媒
(2)有機遷移金属化合物(チタン、コバルト、ニッケル等)と、有機金属化合物(リチウム、マグネシウム、アルミニウム、スズ等)からなる均一系触媒
(3)金属錯体触媒(ロジウム、ルテニウム等)
【0053】
((B)環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度)
(B)環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう。)は、100℃以上である。(B)環状オレフィン系樹脂のTgが100℃以上であると、良好な流動性を維持しつつ、耐熱性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。(B)環状オレフィン系樹脂のTgの下限は、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上である。(B)環状オレフィン系樹脂のTgの上限は、特に限定されず、200℃以下でよく、170℃以下でもよい。
【0054】
本発明において、Tgは、DSC法(JIS K 7121記載の方法)によって昇温速度20℃/分の条件で測定した値を採用する。
【0055】
(B)成分の含有量は、(A)液晶性樹脂と(B)環状オレフィン系樹脂との合計100容量部に対して、15~45容量部であり、好ましくは18~42容量部であり、より好ましくは20~40容量部である。(B)成分の含有量が15容量部以上であると、誘電特性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。(A)成分の含有量が45容量部以下であると、耐熱性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。
【0056】
[(C)中空フィラー]
(C)中空フィラーは、一般にバルーンと呼ばれているものであり、中空球体の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ガラス等の無機材料;尿素樹脂、フェノール樹脂、等の有機材料;が挙げられる。中でも、耐熱性や強度の観点からガラスが好ましい。即ち、中空フィラーとしては、ガラスバルーンが好適に用いられる。(C)成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
(C)中空フィラーのアスペクト比は、溶融粘度上昇及び流動性悪化の抑制並びに成形性等の観点から、好ましくは1.15以上であり、より好ましくは1.20以上2.00以下であり、更により好ましくは1.22以上1.50以下であり、一層更により好ましくは1.25以上1.30未満である。本明細書において、アスペクト比としては、動的画像解析法/粒子状態分析計を用いて、粒子投影面において最も長い部分の長さである最大長Lと、粒子投影面において最大長Lに対し垂直な方向で最も長い部分の長さである最大垂直長Sとを3000個の粒子について測定し、その測定を数回繰り返して、各粒子について計算された比L/Sの平均の値を採用する。
【0058】
(C)成分のメディアン径は、成形性の観点から、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、(C)成分の破壊抑制や成形性の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更により好ましくは50μm以下である。なお、本明細書において、メディアン径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値をいう。
【0059】
(C)成分の含有量は、(A)液晶性樹脂と(B)環状オレフィン系樹脂との合計100容量部に対して、20~75容量部であり、好ましくは25~73容量部であり、より好ましくは30~70容量部である。(C)成分の含有量が20容量部以上であると、誘電特性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。(C)成分の含有量が75容量部以下であると、流動性の良好な液晶性樹脂組成物を得やすい。
【0060】
[(D)(C)中空フィラーを除く無機充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、任意に(D)(C)中空フィラーを除く無機充填剤を含有してもよい。該液晶性樹脂組成物が(D)成分を含有すると、該液晶性樹脂組成物の成形体は曲げ弾性率等の機械的強度が向上しやすい。(D)成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。(D)成分としては、例えば、板状充填剤、繊維状充填剤、粒状充填剤等が挙げられる。
【0061】
(板状充填剤)
本発明に係る液晶性樹脂組成物が板状充填剤を含有すると、該液晶性樹脂組成物からなる成形体は、曲げ弾性率等の機械的強度が向上しやすく、反りが抑制されやすい。板状充填剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0062】
板状充填剤は、メディアン径が15~50μmであることが好ましい。上記メディアン径が15μm以上であると、必要な機械的強度が確保されやすく、成形体の反り抑制効果が高くなりやすい。上記メディアン径が50μm以下であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすい。好ましい上記メディアン径は20~30μmである。
【0063】
板状充填剤としては、特に限定されず、例えば、マイカ、タルク、ガラスフレーク、黒鉛、各種の金属箔(例えば、アルミ箔、鉄箔、銅箔)等が挙げられる。本発明においては板状充填剤として、マイカを使用することが好ましい。
【0064】
(繊維状充填剤)
本発明に係る液晶性樹脂組成物が繊維状充填剤を含有すると、該液晶性樹脂組成物からなる成形体は、曲げ弾性率等の機械的強度が向上しやすい。繊維状充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0065】
繊維状充填剤の平均繊維長は、特に限定されず、例えば、250μm以上でよく、好ましくは350~600μmであり、より好ましくは450~500μmである。上記平均繊維長が250μm以上であると、本発明の液晶性樹脂組成物からなる成形体は、機械的強度及び耐熱性が向上しやすい。上記平均繊維長が600μm以下であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分となりやすい。なお、本明細書において、繊維状充填剤の平均繊維長としては、繊維状充填剤の実体顕微鏡画像10枚をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により、実体顕微鏡画像1枚ごとに100本の繊維状充填剤、即ち、合計1000本の繊維状充填剤について繊維長を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の繊維状充填剤の平均繊維長は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存した繊維状充填剤について、上記方法を適用することで測定される。
【0066】
繊維状充填剤の平均繊維径としては、特に限定されず、例えば、20μm以下でよく、5~15μmでもよい。なお、本明細書において、繊維状充填剤の平均繊維径としては、繊維状充填剤を走査型電子顕微鏡で観察し、30本の繊維状充填剤について繊維径を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の繊維状充填剤の平均繊維径は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存した繊維状充填剤について、上記方法を適用することで測定される。
【0067】
以上の形状を満足する繊維状充填剤であれば、何れの繊維も用いることができるが、繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ミルドファイバー、カーボン繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。本発明においては、機械的強度の観点から、繊維状充填剤として、ガラス繊維を使用することが好ましい。
【0068】
(粒状充填剤)
本発明に係る液晶性樹脂組成物が粒状充填剤を含有すると、該液晶性樹脂組成物からなる成形体は、曲げ弾性率等の機械的強度が向上しやすく、表面白化が抑制されやすい。粒状充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0069】
粒状充填剤のメディアン径は、好ましくは0.3~5.0μmである。上記メディアン径が0.3μm以上であると、成形体の耐衝撃性が維持されやすい。上記メディアン径が5.0μm以下であると、成形体の表面白化抑制効果が高くなりやすい。上記メディアン径は、より好ましくは0.5~5.0μmであり、更により好ましくは0.5~4.0μmである。液晶性樹脂組成物中の粒状充填剤のメディアン径は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存した粒状充填剤について測定した値である。
【0070】
粒状充填剤としては、例えば、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カリウムアルミニウム、珪藻土、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;ピロリン酸カルシウム、無水リン酸二カルシウム等のリン酸塩;炭化硅素;窒化硅素;窒化硼素等が挙げられる。本発明においては、成形体の表面白化抑制及び成形体の低発塵性の観点から、粒状充填剤として、シリカ及び硫酸バリウムからなる群より選択される1種以上を使用することが好ましく、シリカを使用することがより好ましい。
【0071】
(D)成分の含有量は、(A)液晶性樹脂と(B)環状オレフィン系樹脂との合計100容量部に対して、好ましくは2~15容量部であり、より好ましくは5~12容量部であり、更により好ましくは7~10容量部である。(D)成分の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物からなる成形体の機械的強度が向上しやすい。
【0072】
[その他の成分]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0073】
その他の重合体とは、(A)液晶性樹脂及び(B)環状オレフィン系樹脂以外の重合体をいい、例えば、エポキシ基含有共重合体が挙げられる。その他の充填剤とは、(C)中空フィラー及び(D)無機充填剤以外の充填剤をいい、例えば、(C)中空フィラーを除く有機充填剤;カーボンブラックが挙げられる。
【0074】
[液晶性樹脂組成物の調製]
本発明に係る液晶性樹脂組成物の調製は特に限定されない。例えば、(A)成分、(B)成分、(C)成分、任意に(D)成分、及び任意にその他の成分を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、液晶性樹脂組成物の調製が行われる。
【0075】
[液晶性樹脂組成物]
上記のようにして得られた本発明に係る液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性の観点、成形加工性の観点から、溶融粘度が80Pa・sec以下であることが好ましく、75Pa・sec以下であることがより好ましく、73Pa・sec以下であることが更により好ましい。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10~20℃高いシリンダー温度、剪断速度1000sec-1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0076】
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、比誘電率が好ましくは2.75以下、より好ましくは2.73以下、更により好ましくは2.7以下である。本発明に係る液晶性樹脂組成物は、誘電正接が好ましくは0.005以下、より好ましくは0.004以下、更により好ましくは0.003以下である。
【実施例0077】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0078】
<液晶性樹脂>
・液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は336℃、350℃における溶融粘度は19.0Pa・s、真比重は1.4であった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1380g(60モル%)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);157g(5モル%)
1,4-フェニレンジカルボン酸(TA);484g(17.5モル%)
4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);388g(12.5モル%)
N-アセチル-p-アミノフェノール(APAP);126g(5モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);110mg
アシル化剤(無水酢酸);1659g
【0079】
・液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に330℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズして、ペレットとして目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は323℃、340℃における溶融粘度は30Pa・s、真比重は1.4であった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);2524g(79.3モル%)
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA);867g(20モル%)
1,4-フェニレンジカルボン酸(TA);27g(0.7モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);150mg
アシル化剤(無水酢酸);2336g
【0080】
<環状オレフィン系樹脂(COC)>
加熱装置、攪拌機、窒素挿入装置を備えた5リットルのオートクレーブ中に、トルエン(4リットル)、及び濃度を2.2mol/lに調整したPMAO(東ソー・ファインケム株式会社製)のトルエン溶液(75ml)を投入した。次いで、ノルボルネン(1650g)を注入し、容器を窒素で置換して減圧後、エチレンボンベよりエチレンを圧入し、10atmのゲージ圧で満たした。その後、70℃に加熱し、5分間攪拌した。グローブボックス内にて1μmol/mlに調整したイソプオピリデン(9-フルオレニル)-(1-(3-メチル)シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライドのトルエン溶液(5ml)をオートクレーブ内に加え、15分放置して反応を進めた。反応後、内容物を排出し、これに500mlの蒸留水、濾過剤を加えた後、加圧濾過した。アセトン10リットル中に濾液を注入し、攪拌、濾過後に、同量のアセトンで洗浄した後、乾燥させ、約60gの白色粉末として、付加型重合体である目的の環状オレフィン系樹脂を得た。得られた環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は155℃、エチレンユニットの比率は40mol%、真比重は1.02であった。なお、上記環状オレフィン系樹脂のTg及びエチレンユニットの比率は、後述の通りに測定した。
【0081】
なお、上記環状オレフィン系樹脂は主鎖に炭素原子間の不飽和結合を含まない(つまり、主鎖に炭素原子間の飽和結合のみを含む)。また、上記環状オレフィン系樹脂は側鎖にも炭素原子間の不飽和結合を含まない(つまり、側鎖に炭素原子間の飽和結合のみを含む)。
【0082】
(ガラス転移温度(Tg))
JIS K 7121に準拠して、DSC法に基づく下記の条件で、環状オレフィン系樹脂のTg(単位:℃)を測定した。
DSC装置:示差走査熱量計「DSC-7000X」(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定雰囲気:窒素
昇温条件:20℃/分
【0083】
(エチレンユニットの比率の測定)
13C-NMRを用いた方法で、環状オレフィン系樹脂中のエチレンユニットの比率(単位:mol%)を測定した。なお、用いた装置及び測定条件は以下の通りである。
【0084】
13C-NMRの測定条件]
NMR装置:「BrukerAVANCE600」(Bruker社製)
測定溶媒:1,1,2,2-テトラクロロエタン-d
測定核種:13
測定温度:381K
サンプル濃度:80mg/mL
サンプルチューブ径:10mm
積算回数:18000回
パルス繰り返し時間:3秒
【0085】
[エチレンユニットの比率の算出方法]
ノルボルネン由来(C1~C7)のシグナル積分値、及びエチレン由来(E)のシグナル積分値から、下記計算式によりノルボルネンの比率Nb(mol%)を算出し、100からその値を引くことで、エチレンユニットの比率を算出した。なお、C1~C7、及びEの位置は、下記式(V)に示す通りである。
【0086】
【数1】
【0087】
【化5】
【0088】
<樹脂以外の材料>
・ガラスバルーン:Y12000((株)セイシン企業製、アスペクト比(平均)1.264、メディアン径35μm、真比重0.6)
・ガラス繊維:ECS03T-786H(日本電気硝子(株)製、チョプドストランド、繊維径10μm、長さ3mm、真比重2.6)
・マイカ:AB-25S((株)ヤマグチマイカ製、マイカ、メディアン径25.0μm、真比重2.8)
【0089】
<液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1又は表2に示す割合で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、下記のシリンダー温度で溶融混練し、液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
〔製造条件〕
シリンダー温度:
350℃:液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
340℃:液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
【0090】
<溶融粘度>
(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1B型を使用し、液晶性樹脂の融点よりも10~20℃高い温度で、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、剪断速度1000/秒で、ISO11443に準拠して、液晶性樹脂組成物の溶融粘度を測定した。なお、具体的な測定温度は、液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)を含有する液晶性樹脂組成物については350℃、液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)を含有する液晶性樹脂組成物については340℃であった。結果を表1及び表2に示す。
【0091】
<曲げ試験>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形して0.8mm厚の成形体を得、ASTM D790に準拠し、曲げ強度、曲げ弾性率、及び曲げ歪を測定した。
[成形条件]
成形機:住友重機械工業(株)、SE100DU
シリンダー温度:
350℃(実施例1~6及び8並びに比較例1~7)
340℃(実施例7)
金型温度:90℃
射出速度:33mm/sec
【0092】
<誘電特性>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE-100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を作製した。図1に示す通り、平板状試験片の中央から流動直角方向に80mm×1mm×1mmの試験片を切り出し、これを誘電特性評価用試験片とした。この試験片について、(株)関東電子応用開発製の以下の構成の空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用いて、1GHzでの比誘電率及び誘電正接を測定した。
スカラーネットワークアナライザー:アジレントテクノロジー8757D
周波数シンセサイザー:アジレントテクノロジー 83650LスイープCWジェネレータ
固定減衰器:アジレントテクノロジー85025Dディテクター
空洞共振器:関東電子応用開発CP431
測定プログラム:関東電子応用開発CPMA-S2/V2
〔成形条件〕
シリンダー温度:
350℃(実施例1~6及び8並びに比較例1~7)
340℃(実施例7)
金型温度:80℃
射出速度:33mm/sec
保圧:60MPa
【0093】
<はんだ耐熱性>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形して120mm×12.7mm×3.2mmの1/8燃焼試験片を得、下記条件でリフローに供し、以下の基準に従って評価した。
○(良好):リフロー前後で試験片の外観に変化はなかった。
△(不良):リフローにより試験片は、表面の光沢が喪失し、又は、粗さが悪化した。
×(極めて不良):リフローにより試験片が溶融し、又は、大きく変形した。
[成形条件]
成形機:住友重機械工業(株)、SE100DU
シリンダー温度:
350℃(実施例1~6及び8並びに比較例1~7)
340℃(実施例7)
金型温度:90℃
射出速度:33mm/sec
[リフロー条件]
測定機:(株)二葉科学製コンベア式熱風循環乾燥機DFC-27-022S
試料送り速度:0.45m/min
リフロー炉通過時間:4分44秒
プレヒートゾーンの温度条件:185℃
リフローゾーンの温度条件:295℃
ピーク温度:258℃
温度が255℃以上であった時間:11秒
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
表1に記載の結果から明らかなように、実施例の液晶性樹脂組成物は、誘電特性及び耐熱性に優れ、流動性が良好であった。
図1