(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033140
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20230302BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20230302BHJP
B29B 7/00 20060101ALI20230302BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20230302BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230302BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230302BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C08J3/20 CES
C08J3/24 Z
B29B7/00
B29C45/00
C08L21/00
C08L91/00
C08L23/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119208
(22)【出願日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2021137840
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 信一朗
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA16
4F070AB08
4F070AB09
4F070AB10
4F070AB11
4F070AB16
4F070AB19
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4F070GB08
4F201AA09
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4F206JM04
4J002AC00W
4J002AE05X
4J002BB05W
4J002BB12Y
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】優れた外観と剛性とが高いレベルで両立した成形体を得ることができる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記第一工程及び第二工程を含み、製造される熱可塑性エラストマー組成物中の鉱物油(C)の含量が5質量%以下である、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法:第一工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程;第二工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)をさらに加え溶融混練する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記第一工程及び第二工程を含み、製造される熱可塑性エラストマー組成物中の鉱物油(C)の含量が5質量%以下である、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法:
第一工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程;
第二工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)をさらに加え溶融混練する工程。
【請求項2】
前記第二工程が、前記有機過酸化物が実質的に存在しない条件下で行われる、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第一工程及び前記第二工程に同一の押出機を用い、該押出機が複数の供給口を有し、ポリプロピレン(A-2)が、より下流側に設けられた供給口から供給される、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第二工程において、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に対して、ポリプロピレン(A-2)を0.1~15質量部供給する、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項5】
ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に基づいて、ポリプロピレン(A-1)を30~70質量部、エチレン系共重合体ゴム(B)を70~30質量部供給する、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項6】
エチレン系共重合体ゴム(B)の少なくとも一部が、非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)、又はエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項7】
下記第一工程及び第二工程を含む製造方法により製造され、鉱物油(C)の含量が5質量%以下である、熱可塑性エラストマー組成物:
第一工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程;
第二工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)をさらに加え溶融混練する工程。
【請求項8】
前記第二工程が、前記有機過酸化物が実質的に存在しない条件下で行われる、請求項7に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記第一工程及び前記第二工程に同一の押出機を用い、該押出機が複数の供給口を有し、ポリプロピレン(A-2)が、より下流側に設けられた供給口から供給される、請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
前記第二工程において、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に対して、ポリプロピレン(A-2)が0.1~15質量部供給される、請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に基づいて、ポリプロピレン(A-1)が30~70質量部、エチレン系共重合体ゴム(B)が70~30質量部供給される、請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項12】
エチレン系共重合体ゴム(B)の少なくとも一部が、非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)、又はエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)である、請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項13】
射出成形に用いる、請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項14】
請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物を、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出率25cm3/秒の条件で射出成形して幅90mm×長さ150mm×厚み2.0mmの成形体を得、該成形体についてJIS K7171に従い測定した曲げ弾性率が、330MPa以上である、請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項15】
請求項7又は8に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体。
【請求項16】
JIS K7171に従い測定した曲げ弾性率が、330MPa以上である、請求項15に記載の成形体。
【請求項17】
無塗装である、請求項15又は16に記載の成形体。
【請求項18】
エアバッグ収納カバーである、請求項15又は16に記載の成形体。
【請求項19】
20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程を含む製造方法により製造された熱可塑性エラストマー組成物と、
20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)とを混合して成形する工程を含む、熱可塑性エラストマ―組成物含有成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ収納カバーの材料として、プロピレン系樹脂及びエチレン-α-オレフィン-非共役ジエン共重合体ゴム等を含む熱可塑性エラストマー組成物が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアバッグ収納カバーに強く求められる特性に優れた外観及び高い剛性がある。助手席用エアバッグカバーは、運転席用エアバッグカバーより大きいため、要求される剛性が高く、一層高いレベルで外観と剛性とを両立することが求められている。
かかる状況の下、本発明が解決しようとする課題は、優れた外観と剛性とが高いレベルで両立した成形体を得ることができる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供する点に存する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、このような背景に鑑みて鋭意検討をしたところ、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
下記第一工程及び第二工程を含み、製造される熱可塑性エラストマー組成物中の鉱物油(C)の含量が5質量%以下である、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
第一工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程
第二工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)をさらに加え溶融混練する工程
【0006】
以下、[2]から[19]は、それぞれ本発明の好ましい態様又は実施形態である。
[2]
前記第二工程が、前記有機過酸化物が実質的に存在しない条件下で行われる、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
[3]
前記第一工程及び前記第二工程に同一の押出機を用い、該押出機が複数の供給口を有し、ポリプロピレン(A-2)が、より下流側に設けられた供給口から供給される、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
[4]
前記第二工程において、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に対して、ポリプロピレン(A-2)を0.1~15質量部供給する、[1]から[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
[5]
ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に基づいて、ポリプロピレン(A-1)を30~70質量部、エチレン系共重合体ゴム(B)を70~30質量部供給する、[1]から[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
[6]
エチレン系共重合体ゴム(B)の少なくとも一部が、非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)、又はエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
[7]
下記第一工程及び第二工程を含む製造方法により製造され、鉱物油(C)の含量が5質量%以下である、熱可塑性エラストマー組成物:
第一工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程;
第二工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)をさらに加え溶融混練する工程。
[8]
前記第二工程が、前記有機過酸化物が実質的に存在しない条件下で行われる、[7]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[9]
前記第一工程及び前記第二工程に同一の押出機を用い、該押出機が複数の供給口を有し、ポリプロピレン(A-2)が、より下流側に設けられた供給口から供給される、[7]又は[8]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[10]
前記第二工程において、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に対して、ポリプロピレン(A-2)が0.1~15質量部供給される、[7]から[9]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[11]
ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に基づいて、ポリプロピレン(A-1)が30~70質量部、エチレン系共重合体ゴム(B)が70~30質量部供給される、[7]から[10]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[12]
エチレン系共重合体ゴム(B)の少なくとも一部が、非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)、又はエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)である、[7]から[11]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[13]
射出成形に用いる、[7]から[12]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[14]
[7]から[13]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出率25cm3/秒の条件で射出成形して幅90mm×長さ150mm×厚み2.0mmの成形体を得、該成形体についてJIS K7171に従い測定した曲げ弾性率が、330MPa以上である、[7]から[13]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[15]
[7]から[14]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体。
[16]
JIS K7171に従い測定した曲げ弾性率が、330MPa以上である、[15]に記載の成形体。
[17]
無塗装である、[15]又は[16]に記載の成形体。
[18]
エアバッグ収納カバーである、[15]から[17]のいずれか一項に記載の成形体。
[19]
20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程を含む製造方法により製造された熱可塑性エラストマー組成物と、
20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)とを混合して成形する工程を含む、熱可塑性エラストマ―組成物含有成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、優れた外観と剛性とが高いレベルで両立した成形体を得ることができ、エアバッグ収納カバー等の各種用途に好適に使用できる熱可塑性エラストマー組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例の外観評価をする際に用いた成形体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、下記第一工程及び第二工程を含み、製造される熱可塑性エラストマー組成物中の鉱物油(C)の含量が5質量%以下である、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
第一工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程
第二工程:20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)をさらに加え溶融混練する工程
すなわち、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法においては、出発原料として、20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)、20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)、エチレン系共重合体ゴム(B)、及び有機過酸化物を使用する。また、任意成分として、鉱物油(C)を使用してもよい。
以下、上記各成分について説明する。
【0010】
20℃キシレン不溶分の固有粘度[η
cxis
]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法において出発原料として使用されるポリプロピレン(A-1)は、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50質量%を超え100質量%以下である(共)重合体である。
ポリプロピレン(A-1)は、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50質量%を超えることで、後述のエチレン系共重合体ゴム(B)から区別される。
ポリプロピレン(A-1)は、20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であることにより、後述の20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)から区別される。
【0011】
ここで、20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]は、次の方法によって得られる20℃のキシレンに不溶の部分(以下、CXIS部とも記す)について、後述の方法で測定した固有粘度[η]である。
ポリプロピレン(A-1)5gを沸騰キシレン500mlに完全に溶解する。得られたキシレン溶液を20℃まで徐冷し、20℃で4時間以上状態調整し、析出物と溶液とをろ別する。該析出物がCXIS部である。
なお、該溶液から溶媒を除去して得られた物がCXS部(20℃のキシレン可溶部)であり、CXS部の固有粘度を以下、[ηcxs]とも記す。
ポリプロピレン(A-1)の[ηcxs]は、0.1dl/g以上8.0dl/g以下であることが好ましく、0.3dl/g以上7.0dl/g以下であることがより好ましい。また、ポリプロピレン(A-1)の[ηcxis]に対する[ηcxs]の比[ηcxs]/[ηcxis]は、0.01以上12.0以下であることが好ましく、0.05以上11.0以下であることがより好ましくい。
固有粘度は、以下の手順で求める。ウベローデ型粘度計を用いて135℃のテトラリン中で還元粘度を測定し、得られた還元粘度から、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載の計算方法に従って外挿法によって固有粘度を求める。
【0012】
ポリプロピレン(A-1)の[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であることは、成形体の外観、引張強度等の点で好ましい。
ポリプロピレン(A-1)の[ηcxis]は、0.1dl/g以上1.5dl/g未満であることが好ましく、0.2dl/g以上1.5dl/g未満であることがより好ましく、0.3dl/g以上1.5dl/g未満であることが更に好ましい。
ポリプロピレン(A-1)の[ηcxis]は、ポリプロピレン(A-1)の分子量、分子量分布、立体規則性等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0013】
ポリプロピレン(A-1)の例としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、及び以下に記載するようなプロピレン重合材料が挙げられる。ポリプロピレン(A-1)は、これらの1種類のみからなっていてもよく、2種以上の混合物であってもよい。成形体の外観等の観点から、第一工程で使用されるポリプロピレン(A-1)は、少なくともその一部にプロピレンランダム共重合体を含むことが好ましい。
前記プロピレンランダム共重合体として、例えば、
(1)プロピレンに由来する構成単位の含有量が90質量%以上99.5質量%以下であり、エチレンに由来する構成単位の含有量が0.5質量%以上10質量%以下であるプロピレン-エチレンランダム共重合体(但し、プロピレンに由来する構成単位とエチレンに由来する構成単位の含有量の合計を100質量%とする。);
(2)プロピレンに由来する構成単位の含有量が81質量%以上99質量%以下であり、エチレンに由来する構成単位の含有量が0.5質量%以上9.5質量%以下であり、炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量が0.5質量%以上9.5質量%以下であるプロピレン-エチレン-α-オレフィンランダム共重合体(但し、プロピレンに由来する構成単位とエチレンに由来する構成単位と炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンに由来する構成単位との含有量の合計を100質量%とする。);及び
(3)プロピレンに由来する構成単位の含有量が90質量%以上99.5質量%以下であり、炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量が0.5質量%以上10質量%以下であるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体(但し、プロピレンに由来する構成単位と炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンに由来する構成単位との含有量の合計を100質量%とする。)が挙げられる。
【0014】
前記プロピレン-エチレン-α-オレフィンランダム共重合体及び前記プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体における炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられる。
【0015】
前記プロピレン単独重合体及び前記プロピレンランダム共重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の錯体系触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等があげられる。
プロピレン単独重合体は、1つの重合反応器内で製造してもよく、複数の反応器が直列に接続された製造設備において、多段重合により製造してもよい。多段重合によりプロピレン単独重合体を製造する場合、前段で製造されるプロピレン単独重合体と後段で製造されるプロピレン単独重合体の固有粘度は同一でもよく、異なっていてもよい。
【0016】
前記プロピレン重合材料は、プロピレン単独重合体部分(I)と、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、エチレンに由来する構成単位とを有するエチレン共重合体部分(II)とからなる重合材料である。該プロピレン重合材料におけるプロピレン単独重合体部分(I)の含有量は、70質量%以上95質量%以下であり、エチレン共重合体部分(II)の含有量は、5質量%以上30質量%以下である。成形体の低温耐衝撃性の観点から、該プロピレン重合材料におけるプロピレン単独重合体部分(I)の含有量は、75質量%以上95質量%以下であり、エチレン共重合体部分(II)の含有量は、5質量%以上25質量%以下であることが好ましい(但し、プロピレン重合材料の全量を100質量%とする。)。
【0017】
エチレン共重合体部分(II)における炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられる。炭素原子数4以上のα-オレフィンとして、炭素原子数4以上20以下のα-オレフィンが好ましく、炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンがより好ましく、1-ブテン、1-ヘキセン、または1-オクテンが更に好ましい。炭素原子数4以上のα-オレフィンは、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0018】
エチレン共重合体部分(II)におけるエチレンに由来する構成単位の含有量は、成形体の低温耐衝撃性の観点から、通常22質量%以上80質量%以下であり、好ましくは25質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは27質量%以上60質量%以下である。エチレン共重合体部分(II)におけるプロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量は、成形体の低温耐衝撃性の観点から、通常20質量%以上78質量%以下であり、好ましくは30質量%以上75質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上73質量%以下である(但し、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、エチレンに由来する構成単位の含有量の合計を100質量%とする。)。プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量、及びエチレンに由来する構成単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0019】
エチレン共重合体部分(II)として、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-(1-ヘキセン)共重合体、エチレン-(1-オクテン)共重合体、プロピレン-エチレン-(1-ブテン)共重合体、プロピレン-エチレン-(1-ヘキセン)共重合体、プロピレン-エチレン-(1-オクテン)共重合体等が挙げられ、プロピレン-エチレン共重合体またはプロピレン-エチレン-(1-ブテン)共重合体が好ましい。エチレン共重合体部分(II)はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0020】
プロピレン重合材料は、重合触媒を用いて、多段重合により製造することができる。例えば、前段の重合工程でプロピレン単独重合体部分(I)を製造し、後段の重合工程でエチレン共重合体部分(II)を製造することによりプロピレン重合材料を製造することができる。
プロピレン重合材料の製造に使用する重合触媒としては、例えば、チーグラー型触媒系、チーグラー・ナッタ型触媒系、シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物とアルキルアルミノキサンからなる触媒系、シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物、該遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物、及び有機アルミニウム化合物からなる触媒系等が挙げられる。
また、上記の重合触媒の存在下で、予備重合触媒を用いてもよい。予備重合触媒としては、例えば、特開昭61-218606号公報、特開昭61-287904号公報、特開平5-194685号公報、特開平7-216017号公報、特開平9-316147号公報、特開平10-212319号公報、特開2004-182981号公報に記載の触媒系が挙げられる。
【0021】
プロピレン重合材料の製造における重合方法としては、バルク重合、溶液重合、スラリー重合又は気相重合等が挙げられる。溶液重合及びスラリー重合で用いる不活性炭化水素溶媒としては、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等が挙げられる。これらの重合方法は、2つ以上組み合わせてもよく、バッチ式または連続式のいずれであってもよい。プロピレン重合材料の製造における重合方法としては、連続式の気相重合、バルク重合と気相重合を連続的に行うバルク-気相重合が好ましい。
【0022】
JIS K7210に準拠して、230℃、荷重21.18Nで測定したポリプロピレン(A-1)のメルトフローレートは、通常、10g/10分以上300g/10分以下であり、成形体の引張強度等の観点から、好ましくは10g/10分以上100g/10分以下である。
【0023】
ポリプロピレン(A-1)の13C-NMRによって測定されるアイソタクチック・ペンタッド分率は0.95以上であることが好ましく、0.98以上であることがより好ましい。
ここで、アイソタクチック・ペンタッド分率とは、プロピレン系重合体樹脂の分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率であり、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖(以下、mmmmと表す。)の中にあるプロピレンモノマー単位の分率である。アイソタクチック・ペンタッド分率の測定方法は、A.ZambelliらによってMacromolecules,6,925(1973)に記載されている方法、すなわち13C-NMRによって測定される方法である。
【0024】
具体的には、13C-NMRスペクトルによって測定されるメチル炭素領域の吸収ピークの面積に対する、mmmmに帰属されるNMRピークの面積の割合が、アイソタクチック・ペンタッド分率である。
【0025】
ポリプロピレン(A-1)の融解温度は、通常100℃以上である。ポリプロピレン(A-1)の好ましい形態であるプロピレン単独重合体及びプロピレン重合材料の融解温度は、好ましくは155℃以上であり、より好ましくは160℃以上である。ポリプロピレン(A-1)の他の好ましい形態であるプロピレンランダム共重合体の融解温度は、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは135℃以上である。また、ポリプロピレン(A-1)の融解温度は、通常175℃以下である。本発明において、融解温度は、示差走査熱量計により測定される昇温操作時の示差走査熱量曲線において、ピーク温度が最も大きい吸熱ピークのピーク温度である。示差走査熱量計による示差走査熱量曲線の測定条件は、次の通りである。
【0026】
<測定条件>
降温操作:ポリプロピレン(A-1)を220℃で融解させ、次いで、220℃から-80℃まで10℃/分の降温速度で降温する。
昇温操作:220℃から-80℃まで降温した後、直ちに-80℃から220℃まで10℃/分で昇温する。
【0027】
20℃キシレン不溶分の固有粘度[η
cxis
]が1.5以上7以下であるポリプロピレン(A-2)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法において出発原料として使用されるポリプロピレン(A-2)は、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50質量%を超え100質量%以下である(共)重合体である。ポリプロピレン(A-2)の例としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、及び以下に記載するようなプロピレン重合材料が挙げられる。ポリプロピレン(A-2)は、1種類の(共)重合体のみからなっていてもよく、2種以上の(共)重合体を含んでいてもよい。
【0028】
ポリプロピレン(A-2)は、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50質量%を超えることで、後述のエチレン系共重合体ゴム(B)から区別される。
ポリプロピレン(A-2)は、20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であることにより、上述の20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)から区別される。ここで、ポリプロピレン(A-2)の20℃キシレン不溶部(cxis部)と20℃キシレン可溶部(cxs部)との分離方法、並びに固有粘度[ηcxis]及び[ηcxs]測定方法は、ポリプロピレン(A-1)の固有粘度[ηcxis]の及び[ηcxs]の測定方法に関連して上に詳述したものと同様である。
【0029】
ポリプロピレン(A-2)の[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であり、これを第2工程において加えて溶融混練することで、優れた外観と剛性とが高いレベルで両立した成形体を得ることができる熱可塑性エラストマー組成物を製造することができる。
ポリプロピレン(A-2)の[ηcxis]は、1.5dl/g以上7.0dl/g以下であることが好ましく、1.7dl/g以上7.0dl/g以下であることがより好まし、2.0dl/g以上7.0dl/g以下であることが更に好ましい。
【0030】
JIS K7210に準拠して、230℃、荷重21.18Nで測定したポリプロピレン(A-2)のメルトフローレートは、通常、0.1g/10分以上10g/10分以下であり、成形体の剛性等の観点から、好ましくは0.1g/10分以上8.0g/10分以下である。
【0031】
上述した以外の点について、ポリプロピレン(A-2)の、代表的な又は好ましいモノマー組成、物性、製造方法等の詳細は、ポリプロピレン(A-1)に関して上記で説明したものと同様である。
【0032】
エチレン系共重合体ゴム(B)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法において出発原料として使用されるエチレン系共重合体ゴム(B)は、エチレンに由来する構成単位を主構成単位(50質量%以上)とする(共)重合体であって、有機過酸化物により架橋可能なものであればよく、それ以外の限定は特に存在しないが、後述の非晶性エチレン系重合体(B1)、及びエチレンに由来する構成単位が50質量%以上90質量%未満である結晶性エチレン系共重合体成分(B2)からなる群より選ばれる一種以上のエチレン系重合体であることが好ましい。中でも、非晶性エチレン系重合体(B1)を用いることが好ましい。
エチレン系共重合体ゴム(B)は、上記成分(B1)のみからなっていてもよく、成分(B2)のみからなっていてもよい。上記成分(B1)、及び/又は成分(B2)に加えてそれ以外の成分を含有していてもよい。
【0033】
後述の成分(B1)、及び成分(B2)の含有量には特に限定はないが、エチレン系共重合体ゴム(B)の質量を100質量%としたとき、成分(B1)を0質量%以上100質量%以下、成分(B2)を0質量%以上100質量%以下含有することができる。
一態様として、成分(B1)の含有量は5質量%以上85質量%以下であり、成分(B2)の含有量は15質量%以上95質量%以下であってもよい。
【0034】
エチレン系重合体成分(B)を構成するエチレン系重合体には、エチレンに由来する構成単位を50質量%以上含む以外特に制限はないが、下記成分(B1)、及び成分(B2)からなる群より選ばれる一種以上のエチレン系重合体であることが好ましい。
【0035】
非晶性エチレン系重合体(B1)
エチレン系共重合体ゴム(B)の全部または一部として好ましく用いられる非晶性エチレン系重合体(B1)は、エチレンに由来する構成単位の割合が50質量%以上であり、有機過酸化物により架橋可能であり、かつ常温で非晶質であるエチレン系重合体であればよく、それ以外の限定を受けないが、好ましくは、以下に詳述する非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)及び/又はエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)を好ましく使用することができる。非晶性エチレン系重合体(B1)は、示差走査熱量測定によって70℃以上140℃以下の温度範囲内に観測される融解エンタルピーが10J/g未満であることにより、非晶質であると判断できる。
【0036】
非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)
エチレン系共重合体ゴム(B)として好ましく用いられる非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)は、エチレンに由来する構成単位と、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位とを含む、非晶質のエチレン共重合体である。好ましくは、非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)において、エチレンに由来する構成単位の含有量は50質量%以上95質量%未満であり、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量は5質量%以上50質量%以下であり(但し、非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の全量を100質量%とする。)、ムーニー粘度(ML1+4,125℃)は15以上40以下であり、密度は0.850g/cm3以上0.890g/cm3以下である。非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)は、炭素原子数4以上のα-オレフィンに由来する構成単位を2種以上有していてもよい。
【0037】
非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)における炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、好ましくは、炭素原子数4以上8以下のα-オレフィンであり、例えば、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。炭素原子数4以上8以下のα-オレフィンとして、好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセン、または1-オクテンである。
【0038】
非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)において、エチレンに由来する構成単位の含有量は、50質量%以上90質量%未満であることが好ましく、より好ましくは52質量%以上65質量%以下であり、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは35質量%以上48質量%以下である(但し、非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の全量を100質量%とする。)。
非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)におけるエチレンに由来する構成単位の含有量、及びプロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量は、核磁気共鳴分光法(NMR)により求めることができる。
【0039】
非晶質エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の錯体系触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等が挙げられる。
【0040】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)
エチレン系共重合体ゴム(B)として好ましく用いられるエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)は、エチレンに由来する構成単位と、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、非共役ジエンに由来する構成単位とを有する非共役ジエン共重合体であって、エチレンに由来する構成単位の含有量が50質量%以上である共重合体である。エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)においては、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量が25質量%以上50質量%以下であり(但し、エチレンに由来する構成単位と、プロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量の合計を100質量%とする。)、ヨウ素価が0.1以上20以下であり、ムーニー粘度(ML1+4,125℃)が40以上85以下であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下であることが好ましい。
【0041】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の錯体系触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等があげられる。
【0042】
生成するエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)の分子量を調節するために、水素等の分子量調節剤を用いてもよい。
【0043】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)の非共役ジエン共重合体における炭素原子数4以上のα-オレフィンとして、好ましくは、炭素原子数4以上8以下のα-オレフィンであり、例えば、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。炭素原子数4以上8以下のα-オレフィンとして、好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセン、または1-オクテンである。炭素原子数4以上のα-オレフィンは、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0044】
非共役ジエンに由来する構成単位をもたらす非共役ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン等の環状非共役ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、1,3,7-オクタトリエン、1,4,9-デカトリエン等のトリエン等が挙げられ、好ましくは、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、またはジシクロペンタジエンである。
【0045】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)におけるエチレンに由来する構成単位の含有量は、好ましくは50質量%以上75質量%以下であり、成形体の低温耐衝撃性の観点から、より好ましくは50質量%以上65質量%以下である。成分(B1-2)におけるプロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量は、好ましくは25質量%以上50質量%以下であり、成形体の低温耐衝撃性の観点から、より好ましくは35質量%以上50質量%以下である(但し、エチレンに由来する構成単位と、プロピレンに由来する構成単位、及びの炭素原子数4以上のα-オレフィンに由来する構成単位含有量の合計を100質量%とする。)。
なお、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)におけるエチレンに由来する構成単位の含有量、及びプロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量は、核磁気共鳴分光法(NMR)により求めることができる。
【0046】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)は、125℃下で測定されるムーニー粘度(ML1+4,125℃)が好ましくは40以上85以下であり、より好ましくは43以上75以下であり、特に好ましくは45以上70以下である。ムーニー粘度はBSTM D-1646に従い測定される。
【0047】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)のヨウ素価は、好ましくは0.1以上20以下であり、成形体の剛性の観点から、より好ましくは0.1以上15以下であり、特に好ましくは0.1以上10以下である。ヨウ素価とは、試料100gとヨウ素との反応において、反応に使用されたヨウ素のグラム数を指す。
非共役ジエン共重合体のヨウ素価は、赤外分光法により求めることができる。
【0048】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1-2)の分子量分布は、好ましくは1.5以上3.5以下であり、成形体の低温耐衝撃性の観点から、より好ましくは1.5以上3.0以下であり、特に好ましくは1.5以上2.3以下である。
ここで分子量分布とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される質量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比、すなわち、Mw/Mnである。
【0049】
成分(B2):エチレンに由来する構成単位が50質量%以上90質量%未満である結晶性エチレン系共重合体
エチレン系共重合体ゴム(B)の全部または一部として好ましく用いられる(B2)は、エチレンに由来する構成単位が50質量%以上90質量%未満である結晶性エチレン系共重合体である。
成分(B2)は、エチレン重合体ブロックとエチレン・α-オレフィン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体である。成分(B2)は70℃~140℃に結晶融解ピークを有し、融解エンタルピーΔHm2が10~70J/gであることが好ましく、30~50J/gであることがより好ましい。
【0050】
成分(B2)の融解エンタルピーΔHm2は、示差走査熱量測定により測定される融解曲線の所定の温度範囲内の部分をJIS K7122-1987に準拠した方法により解析して決定することができ、より具体的には、例えば本願実施例に記載の方法で測定及び決定することができる。
融解エンタルピーΔHm2は、エチレン重合体ブロックの量を調整することで適宜調整することが可能であり、一般にエチレン重合体ブロックの量が減少すると減少する傾向がある。
【0051】
結晶性エチレン系共重合体(B2)におけるエチレン重合体ブロックとしては、エチレン単位を主体とするものであるが、エチレンに加え他の単量体に由来する構成単位を有していてもよい。他の単量体に由来する構成単位としては1-プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等に由来する構成単位を例示することができる。好ましくは、1-プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等の末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数3~8のα-オレフィンに由来する構成単位である。成分(B2)におけるα-オレフィンは1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。
【0052】
結晶性エチレン系共重合体(B2)のエチレン・α-オレフィン共重合体のブロックは、エチレン単位に加え、α-オレフィンとして1-プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン単位等を構成単位として有するものを例示することができる。好ましくは、1-プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等の末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数4~8のα-オレフィンに由来するものである。成分(B2)におけるα-オレフィンは1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。また、結晶性エチレン系共重合体(B2)は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
結晶性エチレン系共重合体(B2)のエチレン単位の含有量は、エチレン単位の含有量とα-オレフィン単位の含有量との合計量に対し、50質量%以上90質量%未満であり、50質量%以上80質量%以下であることが好ましい。成分(B2)のエチレン単位の含有量は、結晶性エチレン系共重合体(B2)の高温耐衝撃性のためには多い方が好ましく、低温耐衝撃性の観点では少ない方が好ましい。結晶性エチレン系共重合体(B2)のエチレン単位の含有量は、より好ましくは70質量%以下である。なお、結晶性エチレン系共重合体(B2)におけるエチレンに由来する構成単位の含有量、及びプロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量は、核磁気共鳴分光法(NMR)により求めることができる。
【0054】
結晶性エチレン系共重合体(B2)であるエチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン単位及び炭素数3~8のα-オレフィン単位に加え、非共役ジエンに基づく構成単位(非共役ジエン単位)等の他の構成単位を有していてもよい。該非共役ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエンのような鎖状非共役ジエン;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネンのような環状非共役ジエン等があげられる。好ましくは、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。
【0055】
また、結晶性エチレン系共重合体(B2)が非共役ジエン単位等の他の構成単位を有する場合、その含有量は結晶性エチレン系共重合体(B2)全体に対して、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。非共役ジエン単位やプロピレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0056】
本実施形態に用いる結晶性エチレン系共重合体(B2)として具体的には、結晶性エチレンの重合体ブロックと、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-プロピレン-1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックとを含むブロック共重合体を例示することができる。これらは1種で用いられてもよく、2種以上組み合わせ用いられてもよい。これらの中でも、結晶性エチレン系共重合体(B2)は、エチレンの重合体ブロックとエチレン-1-オクテン共重合体のブロックとを含むブロック共重合体、すなわち結晶性エチレン系共重合体(B2)は、エチレンからなる重合体とエチレン-1-オクテン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体であることが最も好ましい。
【0057】
結晶性エチレン系共重合体(B2)は結晶性を有するエチレンからなる重合体ブロックを有することに加え、エチレン・α-オレフィン共重合体のブロックによる非晶性を有する。この非晶性はガラス転移温度により表現され、DSC法によるガラス転移温度が好ましくは-80℃以上であり、より好ましくは-75℃以上であり、一方、好ましくは-50℃以下であり、より好ましくは-60℃以下である。
【0058】
結晶性エチレン系共重合体(B2)のメルトフローレート(測定温度190℃、測定荷重21.18N)は限定されないが、通常、10g/10分以下であり、強度の観点から、好ましくは8g/10分以下であり、より好ましくは5g/10分以下であり、更に好ましくは3g/10分以下である。また、結晶性エチレン系共重合体(B2)のメルトフローレートは、通常、0.01g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.05g/10分以上であり、更に好ましくは0.10g/10分以上である。成分(B)のメルトフローレートは、BSTM D1238に従い、測定温度190℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0059】
結晶性エチレン系共重合体(B2)の密度は低温耐衝撃性の観点から、好ましくは0.880g/cm3以下であり、より好ましくは0.870g/cm3以下である。一方、その下限については特に制限されないが、通常0.850g/cm3以上である。
【0060】
結晶性エチレン系共重合体(B2)の製造方法としては、特表2007-529617号公報、特表2008-537563号公報、特表2008-543978号公報に開示された方法にしたがって合成することができる。例えば、第1のオレフィン重合触媒と、同等の重合条件下で第1のオレフィン重合触媒によって調製されるポリマーとは化学的性質又は物理的性質が異なるポリマーを調製可能な第2のオレフィン重合触媒と、鎖シャトリング剤と、を組み合わせて得られる混合物又は反応生成物を含む組成物を準備し、上記エチレンとα-オレフィンとを、付加重合条件下で、該組成物と接触させる工程を経て製造することができる。
【0061】
結晶性エチレン系共重合体(B2)の重合には、好ましくは連続溶液重合法が適用される。連続溶液重合法は、触媒成分、鎖シャトリング剤、モノマー類、ならびに場合により溶媒、補助剤、捕捉剤及び重合助剤が反応ゾーンに連続的に供給され、ポリマー生成物はそこから連続的に取り出される。また、ブロックの長さは、前記触媒の比率及び種類、鎖シャトリング剤の比率及び種類、重合温度等を制御することによって変化させることができる。
【0062】
なお、ブロック共重合体の合成方法において、その他の条件は特表2007-529617号公報、特表2008-537563号公報、特表2008-543978号公報に開示されている。また、市販の該当品としては例えばダウ・ケミカル
社製Engage(登録商標)-XLTシリーズやINFUSE(登録商標)シリーズ等
が挙げられる。
【0063】
有機過酸化物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、その第一工程において、有機過酸化物を使用する。なお、有機過酸化物は分解するため、製造された熱可塑性エラストマー組成物中に存在しない場合がある。また、有機過酸化物は、後述の様に第二工程には実質的に存在しないことが好ましい。
有機過酸化物は架橋剤として機能し、主に第一工程における溶融混練によって、エチレン系共重合体ゴム(B)を架橋するとともに、ポリプロピレン(A-1)の分子鎖を切断するので、これによりゴム弾性と熱可塑性とを具備する熱可塑性エラストマー組成物又はその前駆体を得ることができる。
【0064】
有機過酸化物として、ケトンパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカーボネート類、パーオキシジカーボネート類、およびパーオキシエステル類等を例示することができる。
具体的な有機過酸化物の好ましい例として、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,2,4-トリメチルペンチル-2-ハイドロパ-オキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンパーオキサイド、t-ブチルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン、イソブチルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、およびp-クロロベンゾイルパーオキサイド;ならびに、これらの2以上の組合せを挙げることができる。
【0065】
有機過酸化物の使用量には特に制限は無く、第一工程においてエチレン系共重合体ゴム(B)の十分な架橋が実現できるとともに、ポリプロピレン(A-1)及び(A-2)の過度の分解が抑制される量を適宜設定すればよい。
例えば、有機過酸化物の使用量は、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計量を100質量部として、0.01~0.3質量部使用することが好ましく、0.05~0.28質量部使用することが特に好ましい。
架橋剤は、そのまま第一工程に供給してもよく、鉱物油中に溶解又は分散した形態で供給してもよい。
【0066】
架橋助剤
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法においては、上記有機過酸化物と共に架橋助剤を使用することが好ましい。架橋助剤を使用することで、第一工程における架橋が迅速かつ均一に進行するので、一層高品質の熱可塑性エラストマー組成物を製造することができる。
架橋助剤としては、例えばN,N‘m-フェニレンビスマレイミド、トルイレンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン等のパーオキサイド架橋助剤、又は、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等の多官能性のビニルモノマーを、その好ましい例として挙げることができる。
【0067】
鉱物油(C)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法においては、製造される熱可塑性エラストマー組成物中の鉱物油(C)の含量が5質量%以下となる限りにおいて、鉱物油(C)を使用してもよい。
鉱物油(C)の含量が5質量%以下であることで、上記熱可塑性エラストマー組成物からの鉱物油(C)等のブリードアウトが効果的に抑制されるので、高温環境で使用されるエアバッグカバー等の自動車内装材用途において、上記熱可塑性エラストマー組成物を好適に使用することができる。
一方で、鉱物油(C)を使用することで、特にエチレン系共重合体ゴム(B)を鉱物油(C)で油展することで、出発原料同士の混合や溶融混練が一層容易になり、均一性の向上や、組成物のミクロ構造の制御等が一層容易となる。
鉱物油(C)の使用量は、上記熱可塑性エラストマー組成物の全量を100質量%として、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.5~4.0質量%であることがより好ましい。
【0068】
鉱物油(C)の好ましい例として、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油及びアロマ系鉱物油が挙げられ、パラフィン系鉱物油が特に好ましい。鉱物油(C)は、ポリプロピレン(A-1)とエチレン系共重合体ゴム(B)とを溶融混練する際に添加してもよく、該溶融混練の前に、予めいずれかの成分と鉱物油(C)とを混合してもよい。エチレン系共重合体ゴム(B)と鉱物油(C)とを混合する方法として、(1)固体状のエチレン系共重合体ゴム(B)と鉱物油(C)とを混合機で混合する方法、及び(2)エチレン系共重合体ゴム(B)の溶液と鉱物油(C)とを混合して混合物を製造し、次いで、該混合物中の溶媒を除去する方法、を例示することができる。
なお、本明細書において、用語「鉱物油」は、石油由来の炭化水素化合物から得られる、芳香族化合物、ナフテン環化合物及びパラフィン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物からなる、常温で液状及びグリース状の物質を意味する。
【0069】
その他の成分
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法においては、上記各成分に加えて、各種の添加剤を添加してもよい。
添加剤としては、例えば、上記ポリプロピレン(A-1)、ポリプロピレン(A-2)、エチレン系共重合体ゴム(B)及び鉱物油(C)以外のポリマー又はオリゴマー、鉱物油(C)以外の軟化剤、無機フィラー(タルク、炭酸カルシウム、焼成カオリン、ガラス繊維、中空ガラス球、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム繊維等)、有機フィラー(繊維、木粉、セルロースパウダー、炭素繊維、カーボンブラック等)、滑剤(シリコーンオイル、シリコーンガム等)、酸化防止剤(フェノール系、イオウ系、燐系、ラクトン系、ビタミン系等)、耐候安定剤、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、アニリド系、ベンゾフェノン系等)、熱安定剤、光安定剤(ヒンダードアミン系、ベンゾエート系等)、顔料(無機顔料、有機顔料、顔料分散剤等)、造核剤、発泡剤、発泡核剤、可塑剤、難燃剤、高輝度化剤、抗菌剤、光拡散剤、吸着剤(金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム等)、湿潤分散剤、VOC・臭気ストリッピング剤、貯水剤(両親媒性高分子を含む水性媒体等)、耐擦り傷性向上剤、金属塩化物(塩化鉄、塩化カルシウム等)、ハイドロタルサイト、アルミン酸塩等)等を含有してもよい。これらの添加剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0070】
上記ポリプロピレン(A-1)、ポリプロピレン(A-2)、エチレン系共重合体ゴム(B)及び鉱物油(C)以外の樹脂として、オレフィン系樹脂(但し、上記ポリプロピレン(A-1)、ポリプロピレン(A-2)、エチレン系共重合体ゴム(B)又は鉱物油(C)に該当するものを除く。)、オレフィン系エラストマー(但し、上記ポリプロピレン(A-1)、ポリプロピレン(A-2)、エチレン系共重合体ゴム(B)又は鉱物油(C)に該当するものを除く。)、モノビニル置換芳香族炭化水素化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロックとを含有するブロック共重合体の水素添加物、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂等を挙げることができる。
オレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン酢酸ビニル(「EVA」)などの官能化エチレン系ポリマー、ポリプロピレンなどのポリオレフィンにグラフトされた無水マレイン酸を有するポリマー、エチレンアクリル酸メチル(「EMA」)などのエチレンアクリレートコポリマー等を挙げることができる。
【0071】
熱可塑性エラストマー組成物の製造
第一工程
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を構成する第一工程は、20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が0.1dl/g以上1.5dl/g未満であるポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)とを、有機過酸化物の存在下、溶融混練する工程である。
第一工程においては、上記ポリプロピレン(A-1)と、エチレン系共重合体ゴム(B)と、所望に応じて鉱油(C)や各種添加剤等の他の成分、例えば架橋助剤、とを有機過酸化物の存在下、例えば通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。押出機、特に二軸押出機を用いて製造することが好ましい。また、混練する全成分を一括して溶融混練してもよいし、一部の成分を混練した後に残りの成分を加えて溶融混練してもよく、1回又は2回以上溶融混練してもよい。第一工程における溶融混練時の温度は、好ましくは150~300℃であり、より好ましくは180~250℃である。溶融混練時の時間は好ましくは5秒~30分間であり、より好ましくは20秒~20分間である。混練する成分は、任意の順序で添加してよく、同時に添加してもよい。
【0072】
有機過酸化物の存在下、好ましくは上記条件で溶融混練を行うことで、エチレン系共重合体ゴム(B)が架橋されることでゴム弾性を発現するとともに、ポリプロピレン(A-1)の主鎖が切断されることで流動性(熱可塑性)が維持されるので、ゴム弾性と熱可塑性とを具備した熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。なお、第一工程で得られた樹脂組成物は、所望の熱可塑性エラストマー組成物とは異なる組成、物性等を有しうるので、「熱可塑性エラストマー組成物前駆体」とも呼ぶ。
【0073】
第二工程
第二工程において、第一工程で得られた熱可塑性エラストマー組成物前駆体に、20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)をさらに加え、溶融混練を行う。ポリプロピレン(A-2)をさらに加えることで、得られる熱可塑性エラストマー組成物の剛性が一層向上する。
より具体的には、本発明の製造方法により得られる熱可塑性エラストマー組成物から、下記条件にて作製した射出成形体についてJIS K7171に従い、圧子及び支持台に直角になるように、二つの支持台に対して左右対称に試験片を置き、試験速度を1mm/minとし、標準雰囲気23℃/50%RHで測定した曲げ弾性率は、330MPa以上であることが好ましく、340MPa以上であることがより好ましく、350MPa以上であることが特に好ましい。
成形方法:射出成型
シリンダー温度;220℃
金型温度50℃
射出率25cm3/秒
成形体寸法:幅90mm×長さ150mm×厚み2.0mm
【0074】
第二工程の条件には特に限定は無いが、好ましくは二軸押出機である第一工程と同様の押出機、より好ましくは第一工程で用いるのと同一の押出機、に第一工程で得られた熱可塑性エラストマー組成物前駆体及び20℃キシレン不溶分の固有粘度[ηcxis]が1.5dl/g以上7dl/g以下であるポリプロピレン(A-2)を導入して、溶融混練をすることで、第二工程を実施することができる。
第二工程の溶融混練時の温度は、好ましくは150~300℃であり、より好ましくは180~250℃である。熱処理時間には特に制限はないが、好ましくは5秒~30分間であり、より好ましくは10秒~10分間である。
【0075】
第二工程は、有機過酸化物が実質的に存在しない条件下で行われることが好ましい。このとき、第二工程において樹脂成分、特にポリプロピレン(A-2)、の架橋や分解が実質的に発生しないので、熱可塑性エラストマー組成物の樹脂組成、分子量分布、ゲル分率等を高い自由度で調整することができる。例えば、有機過酸化物で分解しやすいポリプロピレン(A-2)の分解が抑制できるので、これを添加することによる剛性等の制御が、一層容易になる。
【0076】
有機過酸化物は溶融混練により分解するので、第二工程を有機過酸化物の実質的な不存在下で行う観点からは、第一工程の溶融混練により実質的にすべての有機過酸化物を分解することが望ましく、このため第一工程の溶融混練時の温度は、特に好ましくは190~250℃である。熱処理時間には特に制限はないが、好ましくは5秒~30分間であり、より好ましくは10秒~10分間である。
第一工程の溶融混練により実質的にすべての有機過酸化物を分解する観点から、第一工程における有機過酸化物の使用量は、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計量を100質量部として、0.01~0.3質量部使用することが好ましく、0.05~0.28質量部使用することが特に好ましい。
【0077】
コストや、溶融状態のまま円滑に第二工程に移行する観点から、上述の様に第一工程と第二工程とは同一の押出機で実施されることが好ましい。このとき押出機に複数の供給口を設け、最上流に位置する第1の供給口からポリプロピレン(A-1)、エチレン系共重合体ゴム(B)、及び有機過酸化物を供給して第一工程を実施するとともに、ポリプロピレン(A-2)をより下流側に設けられた供給口から供給して、第一工程で得られた熱可塑性エラストマー組成物前駆体と混合して第二工程を実施することが好ましい。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物製造方法において、各成分の使用量には特に制限は無いが、熱可塑性エラストマー組成物の物性を適切に制御する等の観点から、第二工程において、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部(鉱物油の質量は算入しないので、エチレン系共重合体ゴム(B)が鉱物油で油展されている場合には、鉱物油の質量を差し引く。)に対して、ポリプロピレン(A-2)を0.1~15質量部供給することが好ましく、1.0~10質量部供給することがより好ましい。
また、第一工程において適切な構造の熱可塑性エラストマー組成物前駆体を製造する観点等から、ポリプロピレン(A-1)及びエチレン系共重合体ゴム(B)の合計100質量部に基づいて、ポリプロピレン(A-1)を30~70質量部、エチレン系共重合体ゴム(B)を70~30質量部使用することが好ましく、ポリプロピレン(A-1)を40~60質量部、エチレン系共重合体ゴム(B)を60~40質量部使用することが特に好ましい。
【0079】
本発明の製造方法により製造される熱可塑性エラストマー組成物は、種々の用途に用いられ、その用途に特に制限は無いが、射出成形時に金型等の狭部においても架橋ゴム粒子の配向が抑制され、外観への悪影響を効果的に防止することができることから、射出成形体、特に無塗装で使用される射出成形体の製造に特に好ましく使用することができる。
また本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、優れた外観と剛性とが高いレベルで両立した成形体を得ることができるので、これらの特性が求められる用途において好適に用いられる。例えば、自動車部品、工業機械部品、電子・電気機器部品、建材等に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
上記各用途の中でも、使用温度範囲の広い自動車内装部品用途、特に優れた外観と剛性とが高いレベルで求められる一方で、成形の際の金型に狭部が多く、無塗装で使用されることも多いエアバッグ収納カバー用途において特に好適に使用される。助手席用のエアバッグ収納カバーは、一般に大型でありそのため一層高い剛性が求められるので、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の用途として特に好適である。
この実施形態においては、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を用いて、例えば通常の射出成形法、又は、必要に応じて、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法を用いてエアバック収納カバーを成形することができる。上記射出成形における成形条件としては、一般に100~300℃、好ましくは150~280℃の成形温度、5~100MPa、好ましくは10~80MPaの射出圧力、20~80℃、好ましくは20~60℃の金型温度を挙げることができる。
【実施例0081】
実施例/比較例における物性の評価は、以下の方法により行った。
【0082】
〔物性の測定〕
1.メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、JIS K7210に準拠し、190℃又は230℃、荷重21.18Nの条件でB法により測定した。
【0083】
2.融解エンタルピーΔHm2
70℃以上140℃以下の温度範囲内の融解エンタルピーΔHm2は、以下の示差走査熱量測定により測定される融解曲線の70℃以上140℃以下の温度範囲内の部分をJIS K7122-1987に準拠した方法により解析して得られる融解熱として求めた。
70℃以上140℃以下の温度範囲内の結晶融解ピーク温度は、以下の示差走査熱量測定により測定される融解曲線の70℃以上140℃以下の温度範囲内を、JIS K7121-1987に準拠した方法により解析して得られる融解ピークの頂点の温度として求めた。
ガラス転移温度は、以下の示差走査熱量測定により測定される融解曲線を、JIS K7121-1987に準拠した方法により解析して得られる中間点ガラス転移温度として求めた。
示差走査熱量計により測定される昇温操作時の示差走査熱量曲線において、ピーク温度が最も大きい吸熱ピークのピーク温度を融解温度とした。
<測定条件>
試料を220℃で融解させ、次いで、220℃から-80℃まで10℃/分の降温速度で降温する。
昇温操作:220℃から-80℃まで降温した後、直ちに-80℃から220℃まで10℃/分で昇温する。
【0084】
3.20℃キシレン可溶分及び不溶分の固有粘度([ηcxs],[ηcxis]、単位:dl/g)
試料約5gを沸騰キシレン500mlに完全に溶解した後、キシレン溶液を20℃まで徐冷し、20℃で4時間以上状態調整し、その後、析出物と溶液とをろ別した。析出物をCXIS部とし、溶液から溶媒を除去して得られた物をCXS部とした。
ウベローデ型粘度計を用いて、135℃のテトラリン中で還元粘度を測定し、得られた還元粘度から、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載の計算方法に従って外挿法によって固有粘度を求めた。
【0085】
4.アイソタクチック・ペンタッド分率
核磁気共鳴分光法(NMR)によって、下記の条件(1)~(7)で、測定を実施し、文献(Macromolecules,6,925(1973))記載の方法に従って、メチル炭素領域のNMRピークの面積に対する、mmmmに帰属されるNMRピークの面積の割合を算出し、アイソタクチック・ペンタッド分率を求めた。
(1)機器:BRUKER社製 AvanceIII HD600
(10mmクライオプローブ)
(2)測定溶媒:1,2-ジクロロベンゼン-d4/1,2-ジクロロベンゼン
(20/80容積比)
(3)測定温度:130℃
(4)測定方法:プロトンデカップリング法
(5)パルス幅:45度
(6)パルス繰り返し時間:4秒
(7)化学シフト値基準:テトラメチルシラン
【0086】
5.成分(B)の非共役ジエン共重合体におけるエチレンに由来する構成単位の含有量及びプロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量
非共役ジエン共重合体をホットプレス機により厚み約0.1mmのフィルムに成形し、赤外分光光度計(日本分光工業社製 IR-810)により該フィルムの赤外吸収スペクトルを測定した。該赤外吸収スペクトルから、文献(赤外吸収スペクトルによるポリエチレンのキャラクタリゼーション 高山、宇佐美 等著 又は Die Makromolekulare Chemie,177,461(1976)Mc Rae,M.A.,MadamS,W.F.等著)記載の方法に従って、該非共役ジエン共重合体におけるエチレンに由来する構成単位の含有量及びプロピレン及び炭素原子数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位の含有量を求めた。
【0087】
6.成分(B)の非共役ジエン共重合体のヨウ素価
非共役ジエン共重合体をホットプレス機により厚み約0.5mmのフィルムに成形した。赤外分光光度計により該フィルムのジシクロペンタジエン由来のピーク(1611cm2の吸収ピーク)及び5-エチリデン-2-ノルボルネン由来のピーク(1688cm2の吸収ピーク)の強度を測定した。該ピーク強度から二重結合のモル含量を求め、該モル含量からヨウ素価を算出した。
【0088】
7.分子量分布
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法によって、下記の条件(1)~(9)で、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
(1)装置:東ソー製 HLC-8121 GPC/HT
(2)分離カラム:東ソー製 GMHHR-H(S)HT 3本
(3)測定温度:140℃
(4)キャリア:オルトジクロロベンゼン
(5)流量:1.0mL/分
(6)試料濃度:約1mg/mL
(7)試料注入量:400μL
(8)検出器:示差屈折
(9)分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0089】
8.ムーニー粘度
ムーニー粘度は、ASTM D-1646に準拠し、125℃で測定した。
【0090】
9.密度(単位:g/cm3)
密度は、JIS K7112に従い、アニールせずに測定した。
【0091】
10.成分(A)、成分(B)及び成分(C)のエチレン共重合体におけるエチレンに由来する構成単位の含有量(単位:質量%)
核磁気共鳴分光法(NMR)によって、下記の条件(1)~(7)で、測定を実施し、文献(JMS-REV.MACROMOL.CHEM.PHYS.,C29,201-317(1989))記載の方法に従って、エチレン共重合体におけるエチレンに由来する構成単位の含有量を求めた(但し、該エチレン共重合体の全量を100質量%とした)。
(1)機器:BRUKER社製 AvanceIII HD600
(10mmクライオプローブ)
(2)測定溶媒:1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2/1,2-ジクロロベンゼン(15/85容積比)
(3)測定温度:135℃
(4)測定方法:プロトンデカップリング法
(5)パルス幅:45度
(6)パルス繰り返し時間:4秒
(7)化学シフト値基準:テトラメチルシラン
【0092】
11.射出成形体の製造方法
東芝機械社製射出成形機EC160NIIにて、サイドゲート平板金型を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出率25cm3/秒の条件で、実施例及び比較例の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形して縦90mm、横150mm、厚み2.0mmの射出成形体を得た。
【0093】
12.剛性(曲げ弾性率)
JIS K7171に従い、上記11.で製造した射出成形体の曲げ弾性率の測定を行った。なお、測定雰囲気はJIS K7100に従い、標準雰囲気23℃/50%RHで行った。
【0094】
13.低温耐衝撃性(IZOD衝撃強度)
JIS K7110に従い、上記11.で製造した射出成形体の耐衝撃性の測定を行った。なお、測定は-45℃で行った。
測定結果は、以下のように判断した。
P(部分破壊):ヒンジ破壊の定義に合わない、不完全破壊
H(ヒンジ破壊):折れ曲がり剛さがなくなったヒンジ状の薄い表層だけが、一体になって離れない試験片となった不完全破壊
C(完全破壊):試験片が二つ以上の破片に破壊するもの。
【0095】
14.外観
[外観評価用射出成形体]
実施例及び比較例の熱可塑性エラストマー組成物を、射出成形機(東芝機械社製 商品名EC160NII100-EN)により、シリンダー温度230℃、金型温度70℃の条件で、0.5mm厚みのティアライン部を有する箱状の成形体に成形した(
図1参照)。得られた成形体のティアライン部表面の光沢むらの目視観察を行い、下記の基準で判断を行った。
◎・・・光沢むらが全くない
○・・・光沢むらが目立たない、もしくはほとんど無い
×・・・明確な光沢むらが認められる
【0096】
〔原料〕
実施例/比較例で使用した出発原料の詳細は以下の通りである。
【0097】
<ポリプロピレン(A)>
(A-1-i)プロピレン単独重合体(h-PP)
MFR(230℃)=40g/10分、[ηcxis]=1.25dl/g
【0098】
(A-1-ii)多段重合で製造した、プロピレン単独重合体(I)とエチレン-プロピレン共重合体(II)とからなるヘテロファジックプロピレン重合材料(住友化学株式会社製 ノーブレンWPX5343)
(MFR=60g/10分;融解温度=163.5℃;[ηcxs]=5.3dl/g;[ηcxs]/[ηcxis]=4.5;アイソタクチック・ペンタッド分率=0.98)
プロピレン単独重合体(I)の含有量=87質量%;
エチレン-プロピレン共重合体(II)の含有量=13質量%
エチレン-プロピレン共重合体(II)のエチレンに由来する単量体単位の含有量=32質量%
エチレン-プロピレン共重合体(II)のプロピレンに由来する単量体単位の含有量=68質量%
【0099】
(A-1-iii)多段重合で製造した、プロピレン単独重合体(I)とエチレン-プロピレン共重合体(II)とからなるヘテロファジックプロピレン重合材料(住友化学株式会社製 ノーブレンAZ564)
(MFR=28.5g/10分;融解温度=164.6℃;[ηcxs]=2.4dl/g;[ηcxs]/[ηcxis]=2.1;アイソタクチック・ペンタッド分率=0.98)
プロピレン単独重合体(I)の含有量=87質量%;
エチレン-プロピレン共重合体(II)の含有量=13質量%
エチレン-プロピレン共重合体(II)のエチレンに由来する単量体単位の含有量=46質量%
エチレン-プロピレン共重合体(II)のプロピレンに由来する単量体単位の含有量=52質量%
【0100】
(A-1-iv)エチレン―プロピレン共重合体
住友化学株式会社社製 ノーブレンZ144CE4
(MFR=27g/10分; [ηcxis]=1.4dl/g; 融解温度=141℃)
プロピレンに由来する単量体単位の含有量=96質量%;
エチレンに由来する単量体単位の含有量=4質量%;
【0101】
(A-2-i)プロピレン単独重合体(h-PP)
MFR(230℃)=0.5g/10分、[ηcxis]=3.0dl/g
【0102】
(A-2-ii)プロピレン単独重合体(h-PP)
(A-2-ii)は、多段重合で製造されたプロピレン単独重合体である。(A-2-ii)は、前段で製造されたプロピレン単独重合体成分b1と、後段で製造されたプロピレン単独重合体成分b2の混合物である。前段のプロピレン単独重合体成分b1の含有量は18質量%であり、後段のプロピレン単独重合体成分b2の含有量は82質量%であった。
MFR(230℃)=11g/10分、融解温度=165℃、(A-2-ii)全体の[ηcxis]total=2.0dl/g、b1の[ηcxis]=7.0dl/g、b2の[ηcxis]=0.92dl/g
【0103】
<エチレン系共重合体ゴム(B)>
【0104】
(B1-1-i)エチレン-1-オクテン共重合体
ダウケミカル社製、Engage 8842
示差走査熱量測定によって70℃以上140℃以下の温度範囲内に観測される融解エンタルピーΔHm2=0J/g、エチレンに由来する構成単位の含有量=55質量%、1-オクテンに由来する構成単位の含有量=45質量%、ムーニー粘度(ML1+4,125℃)=23、密度=0.857g/cm3
【0105】
(B1-1-ii)エチレン-1-ブテン共重合体
ダウケミカル社製Engage 7487
エチレンに由来する単量体単位の含有量=69.1質量%、1-ブテンに由来する単量体単位の含有量=30.9質量%、ヨウ素価=0、分子量分布=1.9、CFCで測定される溶出温度-15℃での溶出物の割合= 全溶出量の24.3質量%
【0106】
(B1-2-i)エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体
調製方法
攪拌機を備えたステンレススチール製の第1重合槽に、単位時間・単位重合槽容積あたり、ヘキサンを408g/(hr・L)、エチレン、プロピレンを各々25.4g/(hr・L)、117.7g/(hr・L)の速度で供給した。VOCl3、エタノールを各々26.5mg/(hr・L)、12.7mg/(hr・L)の速度(VOCl3/エタノール=1/1.8(モル比))で、ラインミキサーで混合・攪拌した後に、該重合槽に供給した。また、エチルアルミニウムセスキクロライド(EASC)、水素を各々158.7mg/(hr・L)、0.05NL/(hr・L)の速度で該重合槽に供給した。更に5-エチリデン-2-ノルボルネンを0.5g/(hr・L)の速度で該重合槽に供給した。該重合槽の温度を41℃に保った。該重合槽で、単位時間・単位重合槽容積あたり、38g/(hr・L)の非共役ジエン共重合体が生成した。次いで、攪拌機を備えた第1重合槽と同容積のステンレススチール製の第2重合槽に、第1重合槽から抜き出した重合溶液をフィードした。単位時間・単位重合槽容積あたり、ヘキサンを204g/(hr・L)、エチレン、プロピレンを各々15.2g/(hr・L)、100.4g/(hr・L)の速度で供給した。VOCl3、エタノールを各々16.7mg/(hr・L)、8.0mg/(hr・L)の速度(VOCl3/エタノール=1/1.8(モル比))で、ラインミキサーで混合・攪拌した後に、該重合槽に供給した。また、エチルアルミニウムセスキクロライド(EASC)を66.8mg/(hr・L)の速度で該重合槽に供給した。該重合槽の温度を45℃に保った。第2重合槽では、単位時間・単位重合槽容積あたり、19g/(hr・L)の非共役ジエン共重合体が生成した。
前記調製方法にて得られた非共役ジエン共重合体のムーニー粘度(ML1+4,125℃)、エチレンに由来する構成単位の含有量、プロピレンに由来する構成単位の含有量、ヨウ素価、分子量分布はそれぞれ次の通りである。
ムーニー粘度(ML1+4,125℃)=65、MFR(190℃、21.18N)=0.5g/10分、エチレンに由来する構成単位の含有量=55質量%、プロピレンに由来する構成単位の含有量=45質量%、ヨウ素価=2.1、分子量分布=1.9、示差走査熱量測定によって70℃以上140℃以下の温度範囲内に観測される融解エンタルピーΔHm2=0J/g、
【0107】
(B1-2-ii)エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体
調製方法
攪拌機を備えたステンレススチール製の第1重合槽に、単位時間・単位重合槽容積あたり、ヘキサンを705g/(hr・L)、エチレン、プロピレンを各々36.4g/(hr・L)、89.2g/(hr・L)の速度で供給した。VOCl3を30.4mg/(hr・L)の速度で、ラインミキサーで混合・攪拌した後に、該重合槽に供給した。また、エチルアルミニウムセスキクロライド(EASC)、水素を各々182.7mg/(hr・L)、0.08NL/(hr・L)の速度で該重合槽に供給した。更に5-エチリデン-2-ノルボルネンを0.5g/(hr・L)の速度で該重合槽に供給した。該重合槽の温度を45℃に保った。該重合槽で、単位時間・単位重合槽容積あたり、44g/(hr・L)の非共役ジエン共重合体が生成した。
次いで、攪拌機を備えた第1重合槽と同容積のステンレススチール製の第2重合槽に、第1重合槽から抜き出した重合溶液をフィードした。単位時間・単位重合槽容積あたり、ヘキサンを259g/(hr・L)、エチレン、プロピレンを各々21.4g/(hr・L)、75.0g/(hr・L)の速度で供給した。VOCl3を30.9mg/(hr・L)の速度で、ラインミキサーで混合・攪拌した後に、該重合槽に供給した。また、エチルアルミニウムセスキクロライド(EASC)を92.8mg/(hr・L)の速度で該重合槽に供給した。該重合槽の温度を56℃に保った。第2重合槽では、単位時間・単位重合槽容積あたり、22g/(hr・L)の非共役ジエン共重合体が生成した。
前記調製方法にて得られた非共役ジエン共重合体のムーニー粘度(ML1+4,125℃)、エチレンに由来する単量体単位の含有量、プロピレンに由来する単量体単位の含有量、ヨウ素価、分子量分布、およびCFCで測定される溶出温度-15℃での溶出物の割合はそれぞれ次の通りである。
ムーニー粘度(ML1+4,125℃)=46、エチレンに由来する単量体単位の含有量=67質量%、プロピレンに由来する単量体単位の含有量=33質量%、ヨウ素価=3、分子量分布=2.2、CFCで測定される溶出温度-15℃での溶出物の割合= 全溶出量の41.8質量%
【0108】
(B2-1)オレフィンブロックコポリマー(OBC)
ダウ・ケミカル社製 商品名「Engage XLT8677」
結晶融解ピーク温度=118℃、示差走査熱量測定によって70℃以上140℃以下の温度範囲内に観測される融解エンタルピーΔHm2=42J/g、MFR(190℃、21.18N)=0.5g/10分、ガラス転移温度(DSC法)=-67℃、密度=0.870g/cm3、エチレンに由来する構成単位の含有量=52質量%、1-オクテンに由来する構成単位の含有量=48質量%
【0109】
(C-1)パラフィン系鉱物油(出光興産株式会社製 商品名 ダイアナプロセスオイル PW-380)
【0110】
・APO10-DL:2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(架橋剤)10質量%と、パラフィン系オイル90質量%とを含有する剤(化薬アクゾ株式会社製、APO10-DL)
・ハイクロスMS50:トリメチロールプロパントリメタクリレート(架橋助剤)50質量%と、シリカ50質量%とを含有する剤(精工化学株式会社製、ハイクロスMS50)
・酸化防止剤:住友化学株式会社製 スミライザーGP
【0111】
<実施例1>
プロピレン系重合体(A-1-i)24.1質量部に対して、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体共重合体(B1-2-i1)50質量部、エチレン-プロピレン共重合体(C-1)20.9質量部、APO10-DL2.8質量部、ハイクロスMS50 0.8質量部、酸化防止剤 0.2質量部、を配合し、二軸押出機の上流工程によりシリンダー温度200℃にて溶融混練を行い、プロピレン系重合体(A-2-i)5質量部を二軸押出機の下流工程によりシリンダー温度200℃にて溶融混練を行い熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物を上記11.の方法で射出成形して成形体を得た。成形体の物性測定結果を表1に示す。
【0112】
<実施例2~5及び比較例1~7>
表1に示す成分及び含有量で、実施例1と同様に熱可塑性エラストマー組成物を製造した。なお、表に記載していない酸化防止剤の使用量は、実施例1と同じである。
得られた熱可塑性エラストマー組成物を上記11.の方法で射出成形して成形体を得た。成形体の物性測定結果を表1に示す。
【0113】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法によれば、優れた外観と剛性とが高いレベルで両立した成形体を得ることができる熱可塑性エラストマー組成物を製造することができるので、例えばエアバッグ収納カバー等の優れた外観と高い剛性とが要求される成形体の製造に好適に使用することができ、自動車等の輸送機械産業、スポーツ、レジャー用品産業、家庭用品産業、電気電子機器産業、建築産業、等の産業の各分野において高い利用可能性を有する。