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特開2023-33180高吸着性超撥水性基板、高吸着性超撥水性基板の製造方法及び液滴操作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033180
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】高吸着性超撥水性基板、高吸着性超撥水性基板の製造方法及び液滴操作方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/02 20060101AFI20230302BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20230302BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B29C33/38
B29C59/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132036
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021137434
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】谷口 淳
【テーマコード(参考)】
4F202
4F209
【Fターム(参考)】
4F202AJ03
4F202CA19
4F202CB01
4F202CB02
4F202CB29
4F202CD02
4F202CD23
4F202CD26
4F209AA44
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG03
4F209AG05
4F209PA02
4F209PA03
4F209PA18
4F209PB01
4F209PB02
4F209PC05
4F209PC06
4F209PC08
4F209PN09
4F209PQ03
4F209PQ11
(57)【要約】
【課題】撥水性がありながら液滴を保持可能な高吸着性超撥水性基板を提供する。
【解決手段】高吸着性超撥水性基板は、基材10と、基材の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層Sと、超撥水性層の表面に形成されたマイクロ構造と、を備える。ナノ構造は、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内である。マイクロ構造は、超撥水性層の表面における縦横の大きさが5~100μmであり、深さ又は高さが5~40μmの範囲内である。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、
前記超撥水性層の表面に形成されたマイクロ構造と、を備えることを特徴とする高吸着性超撥水性基板。
【請求項2】
前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の高吸着性超撥水性基板。
【請求項3】
前記マイクロ構造が、前記超撥水性層の表面における縦横の大きさが5~100μmであり、深さ又は高さが5~40μmの範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の高吸着性超撥水性基板。
【請求項4】
基材を用意する工程と、
前記基材の上にナノ構造を有する超撥水性層を形成する工程と、
前記超撥水性層の表面にマイクロ構造を形成する工程と、を行うことを特徴とする高吸着性超撥水性基板の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の高吸着性超撥水性基板の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロ構造が、前記超撥水性層の表面における縦横の大きさが5~100μmであり、深さ又は高さが5~40μmの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の高吸着性超撥水性基板の製造方法。
【請求項7】
基材と、前記基材の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、前記超撥水性層の表面に形成されたマイクロ構造と、を備える高吸着性超撥水性基板を用いて微少量の液滴を操作することを特徴とする液滴操作方法。
【請求項8】
前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項7に記載の液滴操作方法。
【請求項9】
前記マイクロ構造が、前記超撥水性層の表面における縦横の大きさが5~100μmであり、深さ又は高さが5~40μmの範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の液滴操作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高吸着性超撥水性基板、高吸着性超撥水性基板の製造方法及び液滴操作方法に関し、特に、ナノ構造及びマイクロ構造を組み合わせた高吸着性超撥水性基板、高吸着性超撥水性基板の製造方法及び液滴操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層膜で反射防止構造の1つである蛾の目を生体模倣したモスアイ構造(Moth-eye)が注目されている。モスアイ構造は可視光の波長(400nm~800nm)よりも小さい周期で突起物が無数に並んでいる。このモスアイ構造はUV-Nano Imprint Lithography(UV-NIL)技術により、低コストかつ高スループットで複製可能である。
【0003】
モスアイ構造は撥水性にも優れた構造でもある。現在、発見されている最も表面張力が低いトリフルオロメチル(CH-)基で固体の表面を構成しても接触角(濡れ性を評価する値)は120°に留まる。更に撥水性を向上させるためには、Cassie-Baxter理論より固体の表面に微細な凹凸構造を施すことにより実現できる。
【0004】
可視光波長より狭いピッチの針が並ぶモスアイ構造は液体と固体表面の接触面積を減らすことによって、固体の濡れ性の影響を小さくすることができる。本発明者らは、接触角150°以上の超撥水性のモスアイ構造フィルムを高スループットで生産することができている(特許文献1)。
【0005】
バラの花びらには水を撥水すると同時に付着させるという、相反する機能を持っている。このような機能を「ローズペタル効果」または「付着性撥水」と呼び、微小液滴制御への応用が期待されている。バラの花びらの表面は直径約20μm、高さ約10μmの突起形状が無数に並んでいて、突起形状上にナノサイズのシワ状構造が形成されている。このような階層的微細構造に水滴を乗せると、ナノ凹凸構造の溝に液体の表面張力により侵入しないため、凹に空気が閉じ込められ疎水性をもたらすが、マイクロ凹凸構造の溝には液体が侵入するため、そこに付着性がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-214182公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
「付着性撥水」について、従来の作製方法はフォトリソグラフィで作製したピラーパターンのマイクロ構造に、CVDや自己組織化によってナノサイズの針状構造を作製していた。そのため、付着性のある表面の面積を制御することが困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、上記の問題を解決し、ローズペタル効果の応用を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ナノ構造の撥水表面の上に、マイクロ構造を形成することで、「付着性撥水」を発揮する高吸着性超撥水性基板を実現できることを見出した。
【0010】
前記課題は、本発明の高吸着性超撥水性基板によれば、基材と、前記基材の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、前記超撥水性層の表面に形成されたマイクロ構造と、を備えること、により解決される。
このとき、前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であると好適である。
このとき、前記マイクロ構造が、前記超撥水性層の表面における縦横の大きさが5~100μmであり、深さ又は高さが5~40μmの範囲内であると好適である。
【0011】
前記課題は、本発明の高吸着性超撥水性基板の製造方法によれば、基材を用意する工程と、前記基材の上にナノ構造を有する超撥水性層を形成する工程と、前記超撥水性層の表面にマイクロ構造を形成する工程と、を行うこと、により解決される。
このとき、前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であると好適である。
このとき、前記マイクロ構造が、前記超撥水性層の表面における縦横の大きさが5~100μmであり、深さ又は高さが5~40μmの範囲内であると好適である。
【0012】
前記課題は、本発明の液滴操作方法によれば、基材と、前記基材の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、前記超撥水性層の表面に形成されたマイクロ構造と、を備える高吸着性超撥水性基板を用いて微少量の液滴を操作すること、により解決される。
このとき、前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であると好適である。
このとき、前記マイクロ構造が、前記超撥水性層の表面における縦横の大きさが5~100μmであり、深さ又は高さが5~40μmの範囲内であると好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高吸着性超撥水性基板、高吸着性超撥水性基板の製造方法によれば、付着性のある表面の面積を制御することが容易である。また、この容易なプロセスによって、撥水性がありながら液滴保持表面を作製することができ、濡れ性勾配を作ることで液滴輸送への応用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】付着性撥水表面の作製方法を示す概略図である。
図2】マイクロピラーパターンを有するモスアイモールドの作製方法を示す概略図である。
図3】付着性撥水表面の作製方法を示す概略図である。
図4】付着性撥水表面の作製方法を示す概略図である。
図5】マスターモールドのSEM画像である。
図6】モスアイモールドの反射率の測定結果を示すグラフである。
図7】モスアイフィルムのSEM画像である。
図8】モスアイフィルムの反射率及び透過率の測定結果を示すグラフである。
図9】マイクロピラー金型のSEM画像である。
図10】ローズペタルフィルムのSEM画像である。(a)全体図、(b)マイクロホール、(c)非荷重のモスアイパターン、(d)荷重されたモスアイパターン、(e)ホール側面付近。
図11】モスアイモールド、モスアイフィルム、ローズペタルフィルムの反射率・透過率測定結果を示すグラフである。
図12】モスアイフィルムとローズペタルフィルムの接触角・滑落角測定結果を示す図である。
図13】モスアイフィルム、ローズペタルフィルムの反射率・透過率測定結果を示すグラフである。
図14】ローズペタルフィルムのマイクロホールのサイズ、接触角・滑落角測定結果を示す図である。
図15】転写フィルム(マスク径20μm)のマイクロホールパターンを示すSEM画像である。
図16】モスアイ構造のSEM断面画像である。
図17】転写フィルム(マスク径20μm)の接触角・滑落角測定結果を示す図である。
図18】ピラーモスアイフィルムのSEM画像である。
図19】ピラーモスアイフィルムの接触角・滑落角測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る高吸着性超撥水性基板、高吸着性超撥水性基板の製造方法及び液滴操作方法について図1乃至図19を参照して説明する。
【0016】
<高吸着性超撥水性基板>
本実施形態の高吸着性超撥水性基板は、図1図3図4に示す付着性撥水表面の作製方法によって得ることができる。高吸着性超撥水性基板は、基材(例えば、フィルム10)と、基材の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層Sと、超撥水性層Sの表面に形成されたマイクロ構造と、を備えている。
【0017】
(基材)
基材は、超撥水性層Sが形成される対象であり、材質は特に限定されるものではない。基材の材料は、樹脂、金属、金属酸化物、セラミック、ガラスなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
(ナノ構造)
ナノ構造は、基材の表面の上に積層されたナノメートルオーダーの微細構造である。ナノ構造は、後述する表面にグラッシーカーボン層を備える転写型(マスターモールドM)を利用して形成される。
【0019】
ナノ構造は、硬化させられた光硬化樹脂によって構成することができ、その根元から先端に向けて縮径した形状を有する微細な突起、より詳細には、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されている。
【0020】
ナノ構造を構成する微細な突起は、平均直径(D)が、10nm~400nm、好ましくは30nm~300nm、特に好ましくは50nm~150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm~1000nm、好ましくは50nm~700nm、特に好ましくは100nm~500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm~500nm、好ましくは30nm~400nm、特に好ましくは50nm~300nmの範囲内である。なお、本願明細書において、○nm~△nmは、○nm以上△nm以下を意味する。
【0021】
超撥水性層Sの厚さは、基材の形状などに応じて、適宜選択すればよく、数nm以上数μm以下とすることが好ましく、より好ましくは数nm以上30μm以下、より好ましくは数nm以上10μm以下、更に好ましくは10nm以上5.0μm以下、更に好ましくは10nm以上1.0μm以下であるとよい。超撥水性層Sの厚さが薄くなりすぎると、耐久性の観点から好ましくない。一方、超撥水性層Sが厚すぎると、その用途によっては、透過率の低下、柔軟性の低下、軽量化、コスト面などの観点から好ましくないことがある。
【0022】
超撥水性層Sは、撥水性の硬化性樹脂(例えば、フッ素含有の光硬化樹脂)を用いて形成されることで、表面の撥水性が向上しており、表面の水接触角が120°以上であり、好ましくは130°以上、より好ましくは140°以上、更に好ましくは143°以上、特に好ましくは145°以上である。超撥水性層Sの表面の水接触角が上記の範囲であるため、水に対して高い撥水性を有する。
【0023】
(マイクロ構造)
マイクロ構造は、超撥水性層Sの表面に形成されたマイクロメートルオーダーの微細構造である。マイクロ構造は、周期的に形成された凹部(ホール)又は凸部(ピラー)から形成されており、超撥水性層Sの表面における縦横(径)の大きさが、5~100μm、好ましくは、10~80μm、より好ましくは10~60μm、更に好ましくは5~50μm、特に好ましくは8~45μmの範囲内であり、深さ又は高さが5~40μm、好ましくは、5~35μm、特に好ましくは6~30μmの範囲内である。
【0024】
超撥水性層Sの表面にマイクロ構造が形成されていることで、高吸着性超撥水性基板の表面は、付着性撥水表面となる。ここで、「付着性」とは、5~11μlの水滴を用いて計測した場合、表面の水の滑落角が40°以上、好ましくは45°以上、より好ましくは50°以上、更に好ましくは75°以上、特に好ましくは90°以上であることをいう。また、表面の水の滑落角が90°以上の場合はひっくり返して(180°)も水滴が落ちない場合もある。
【0025】
<マスターモールド(転写型)M>
本実施形態に係る高吸着性超撥水性基板の製造方法で用いられるマスターモールドMは、反転された微細構造を表面に有するグラッシーカーボンである。ここで、グラッシーカーボン(Glassy carbon)とは、ガラス状炭素やアモルファス状炭素とも呼ばれ、外観が黒色、かつ、ガラス状で非晶質の炭素であり、均質かつ緻密な構造を有する。グラッシーカーボンは、他の炭素材料と同様の特徴である導電性能、化学的安定性、耐熱性、高純度等の性能に加え、材料表面が粉化し脱落することがないという優れた特徴を有する。グラッシーカーボンの一般的な特性としては、密度が1.45~1.60g/cmと軽量であり、曲げ強度が50~200MPaと高強度であり、硫酸や塩酸などの酸に強く耐食性がある。導電性は比電気抵抗が4~20mΩcmであり黒鉛と比べるとやや高い値を示すが、ガス透過性が10-9~10-12cm/sと非常に小さいなどの特徴がある。
【0026】
マスターモールドMは、その表面に反転された微細構造(モスアイ構造)を有している。マスターモールドMの表面は、ランダムに円錐状の穴が配列して形成されおり、微細構造は、平均直径(D)が、10nm~400nm、好ましくは30nm~300nm、特に好ましくは50nm~150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm~1000nm、好ましくは50nm~700nm、特に好ましくは100nm~500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm~500nm、好ましくは30nm~400nm、特に好ましくは500nm~300nmの範囲内である。
【0027】
マスターモールドMとして、表面にマイクロピラーパターンMPを有するものを用いることも可能である(図2)。フォトリソグラフィを用いてモスアイ構造の上にマイクロ構造としてマイクロピラーパターンMPを作製するまでの工程を図2に示す。
【0028】
<高吸着性超撥水性基板の製造方法>
本実施形態の高吸着性超撥水性基板の製造方法は、基材を用意する工程(ステップS1)と、基材の上にナノ構造を有する超撥水性層を形成する工程(ステップS2)と、超撥水性層の表面にマイクロ構造を形成する工程(ステップS3)と、を行うことを特徴とする。
【0029】
ナノ構造を有する超撥水性層は、例えば、紫外線などの光で硬化可能な光硬化樹脂を用いることができ、特に限定されず、アクリル系樹脂や、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を用いることが可能である。
【0030】
マイクロ構造は、例えば、ロールプレス装置を用いて、超撥水性層Sを備えるモスアイ構造フィルムにマイクロピラー金型を押し当てることで、周期的に配列したマイクロホール(凹部)として形成することできる(図1)。
【0031】
図2に示す、マイクロピラーパターンMPを有するマスターモールドM(モスアイモールド)を用いて、付着性撥水表面を作製することも可能である(図3)。図3に示される方法では、基材であるフィルム10の上に、ナノ構造を有する超撥水性層Sを形成する工程(ステップS2)と、超撥水性層Sの表面にマイクロ構造を形成する工程(ステップS3)と、が同時に行われることになる。
【0032】
図3の方法で得られた構造を用いて、更に転写をすることで高吸着性超撥水性基板の製造を行うことも可能である(図4)。図4に示される方法でも、基材であるフィルム10の上に、ナノ構造を有する超撥水性層Sを形成する工程(ステップS2)と、超撥水性層Sの表面にマイクロ構造を形成する工程(ステップS3)と、が同時に行われることになる。
【0033】
<液滴操作方法>
上記の高吸着性超撥水性基板を利用して、微少量の液滴を操作することができる。具体的には、本実施形態の液滴操作方法は、基材と、前記基材の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、前記超撥水性層の表面に形成されたマイクロ構造と、を備える高吸着性超撥水性基板を用いて微少量の液滴を操作することを特徴とする。
【0034】
本実施形態の高吸着性超撥水性基板は、ナノ構造由来の超撥水性と、マイクロ構造由来の吸着性の両方を併せもつ機能性基板として利用できる。つまり、本実施形態の高吸着性超撥水性基板は、微少水滴スケールでのセンシングや化学反応場や水滴操作場として利用可能である。
【0035】
本実施形態の高吸着性超撥水性基板を用いることにより、数μlの微小量の液滴だけでなく、1μl以下の微小液滴についても、移動させたり、分離したりする操作を実現できる。このような微少量の液滴の操作は、液滴の制御・操作が活用されるマイクロ流体装置やコーティング技術などの分野で利用できる。
【0036】
本実施形態では、主として本発明に係る高吸着性超撥水性基板、高吸着性超撥水性基板の製造方法及び液滴操作方法について説明した。ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例0037】
以下、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明者らは、超撥水性のモスアイ構造の技術を応用してローズペタル効果表面を作製することを目標にした。ロールプレス装置を用いて、作製したモスアイ構造フィルムにマイクロピラー金型を押し当てる。フィルムに微細凹凸構造を作製することにより、バラの花びらを模した階層的微細構造を作製した。
【0038】
<例1:ロールプレス法によるモスアイ構造を利用した付着性撥水の作製>
(1.実験方法)
電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)型(EIG 210、株式会社エリオニクス)を用いて、4.0×10-3Pa以下の高真空下でグラッシーカーボン(GC)基板(2cm角)に酸素イオンシャワーを照射した。その結果、グラッシーカーボン基板の表面にモスアイ構造を作製する事ができた。これをモールドとして使用した。
【0039】
作製したマスターモールドMにオプツールDSX 1.0%(ダイキン工業株式会社)で離型処理を行った後、UV-NILによりマスターモールドMからモスアイフィルムFを作製した。そして、モスアイフィルムFにマイクロピラーPをロールRで回転させながら加圧して、ホールパターンを作製した。作製方法を図1に示す。
【0040】
まず、80℃で加熱しながら、マスターモールドMにUV硬化樹脂Uを滴下させた。この樹脂には、撥水効果のあるフッ素化材料が含まれている。次に、荷重をかけることで樹脂をモスアイ構造に60秒間充填した。充填後、UVを20秒間照射(照射量:375mJ/cm)して、樹脂を硬化させた。その後、ポリエステル製のフィルム10をマスターモールドMから離型し、80℃で30分間ベークした。そして、荷重250N、15mm/secでロールを回転させて、モスアイフィルムFにマイクロホールパターンを作製した。
【0041】
作製したモスアイフィルムFとローズペタルフィルム(高吸着性超撥水性基板)の濡れ性を評価するために、全自動接触角計(DM-701、協和界面科学株式会社製)を用いて、水の接触角と滑落角を測定した。また、フィルムの光学特性については紫外可視近赤外分光光度計(SolidSpec-3700、株式会社島津製作所)を用いた。表面の観察には走査型電子顕微鏡(ERA-8800FE、株式会社エリオニクス)を用いた。
【0042】
(2.実験結果)
作製したマスターモールドMのSEM画像を図5に示す。モスアイ構造の高さは409.0±16.3nm、ピッチは52.8±1.3nm、直径は35.6±1.4nmであった。また、図6にマスターモールドMの反射率の測定結果を示す。
【0043】
作製したモスアイフィルムFのSEM画像を図7に示す。モスアイ構造の高さは223.3±6.6nm、ピッチは60.3±2.7nm、直径は36.4±2.0nmであった。また、図8にモスアイフィルムFの反射率及び透過率の測定結果を示す。図9は、マイクロピラー金型のSEM画像である。
【0044】
ローズペタルフィルムのSEM画像を図10に示す。マイクロオーダーの凹凸構造にナノサイズのモスアイ構造が形成さていた。マイクロホールは深さ9.2~14.8μm、ピッチ119.6μm、幅32.0μmであった(図10(b))。荷重がかかっていないモスアイ構造は高さ207.5nm、ピッチ79.3nm、直径42.6nmであった(図10(c))。荷重をかけることでモスアイ形状が変形し、高さ172.6nmとなった(図10(d))。
【0045】
図11に各サンプルの反射率と透過率の測定結果を示す。マスターモールドM、モスアイフィルムF、ローズペタルフィルムの反射率は1%以下であった。ローズペタルフィルムはマイクロホールパターンがアンチグレア構造のような役割を果たし、モスアイフィルムFよりも反射率が低下したと考えられる。透過率はモスアイフィルムの方が高い測定結果であった。
【0046】
図12にモスアイフィルムFとローズペタルフィルム上に6μLの水滴を乗せたときの接触角と滑落角測定時の画像を示す。モスアイフィルムFの接触角は158.6°の超撥水性を示した。一方、ローズペタルフィルムは接触角147.9°で撥水性があり、傾けても水滴は流れず付着性も示した。このことから、付着性撥水表面を作製に成功したことが分かる。
【0047】
(3.まとめ)
モスアイフィルムをロールプレス加工することにより、付着性撥水表面を作製することができた。この作製方法によって、付着性のある表面の面積を制御することが容易である。この容易なプロセスによって、撥水性がありながら液滴保持表面を作製することができ、濡れ性勾配を作ることで液滴輸送への応用ができる。
【0048】
<例2:ロールプレス条件の検討>
モスアイフィルムFにマイクロピラーPをロールRで回転させながら加圧する際の荷重条件について検討を行った。図13に各サンプルの反射率と透過率の測定結果を示す。モスアイフィルムF、ローズペタルフィルムの反射率は1%以下であった。透過率はモスアイフィルムFの方が高い測定結果であった。
【0049】
図14に、ローズペタルフィルムのマイクロホールのサイズ、接触角・滑落角測定結果を示す。荷重が大きくなるにつれて、マイクロホールのサイズが大きくなった。また、マイクロホールのサイズが大きくなるにつれて、接触角が小さくなり、転落角が大きくなり、最大付着水滴量が増加する傾向があることが示唆された。
【0050】
<例3:フォトリソグラフィによるマイクロ構造形成を利用した付着性撥水の作製>
例1および例2に示したマイクロピラーPを有する金型によるプレス加工は機械的な処理であるため、転写ムラや欠損が生じることがある。この点を改善するために、マイクロ構造の作製にフォトリソグラフィを用いた。この方法では、フォトマスクPMの設計を変更することで、微細構造のサイズやデザインを容易に変更することができる。
【0051】
(1.実験方法)
フォトリソグラフィを用いてモスアイ構造上にマイクロ構造を作製するまでの工程を図2に示す。初めに電子サイクロトロン共鳴型イオンビーム装置を用いてグラッシーカーボン基板上に酸素イオンビームを照射し、表面にモスアイ構造を有するマスターモールドMを作製した。
【0052】
次にレジストであるSU-8 3025(日本化薬株式会社製)をマスターモールド上に滴下し、スピンコーターで均一に塗布した。ホットプレート上で95℃、10分間のプリベークを行って余分な溶媒を除去した後、3種類のフォトマスクを用いてUV照射を行った。フォトマスクのパターンは、直径10μm、ピッチ20μmの円形アレイ、直径20μm、ピッチ40μm、直径50μm、ピッチ100μmの3種類を用いた。
【0053】
次にポストエクスポージャーベーク(PEB)を行い、その後現像液であるPGMEAに5分間浸漬して未感光部を除去し、IPAと純水でリンスをした。最後に電気炉でポストベークした後、離型処理を施した。
【0054】
図3に、UV-NILを用いて図2の方法で作製した階層構造を金型として、基材であるフィルムに転写する工程を示した。全工程を80℃に加熱したホットプレート上で行った。初めにフッ素を含む紫外線硬化型樹脂Uを滴下し、ポリエステルフィルム(基材10)で覆った後、スライドガラスを乗せて加圧した。次にUVを照射して樹脂を硬化させ、金型から離型させた。最後に離型性を向上させるために、80℃で30分間、樹脂を追加でベークした。
【0055】
(2.実験結果)
フォトマスク径が10μm、20μm、50μmの全ての場合で、ナノ構造(モスアイ構造)及びマイクロ構造を転写できた。マスク径が20μmにおける転写フィルムの断面のSEM画像を図15に示す。ホールパターンの径は16.5μmであり、元のマスク径よりも少し小さくなった。マスク径10μm、50μmでも同様の傾向であり、ホールの径はそれぞれ8.1、45.2μmであった。図16にモスアイ構造のSEM断面画像を示すように、マイクロオーダーの凹凸構造にナノサイズのモスアイ構造が形成さていた。
【0056】
図17に水滴を5μL滴下したときの転写フィルム(フォトマスク径=20μm)の接触角及び滑落角を示す。接触角は148.7°と高い撥水性を示し、フィルムを逆さにしても水滴が流れずに付着性撥水を示した。転写フィルムの反射率は0.8%、透過率は84.9%、ヘイズは10.0%であった(測定波長550nm)。
【0057】
(3.まとめ)
モスアイ構造とフォトリソグラフィを用いて、マイクロとナノの階層構造が容易に作製できた。また、径が20μmのフォトマスク使用時に最も高い付着性が得られた。
【0058】
<例4:ピラーモスアイフィルムの作製>
(1.実験方法)
例3の方法で得られた構造を用いて、更に転写をすることで高吸着性超撥水性基板の製造を行った。図4に示した工程を行うことで、ナノサイズのモスアイ構造の上にマイクロオーダーのピラー(凸構造)を形成した。図18にSEM断面画像を示すように、ナノサイズのモスアイ構造の上にマイクロオーダーの凸構造が形成さていた。
【0059】
(2.実験結果)
図19に水滴を6μL滴下したときの接触角及び滑落角を示す。接触角は145°と高い撥水性を示し、滑落角は90°で付着性撥水を示した。ピラーモスアイフィルムの反射率は0.9%、透過率は82.8%、ヘイズは10.3%であった(測定波長550nm)。
【0060】
(3.まとめ)
モスアイ構造とフォトリソグラフィを用いて、マイクロとナノの階層構造が容易に作製できた。この作製方法によって、付着性のある表面の面積を制御することが容易である。この容易なプロセスによって、撥水性がありながら液滴保持表面を作製することができ、濡れ性勾配を作ることで液滴輸送への応用ができる。
【符号の説明】
【0061】
U UV硬化樹脂、紫外線硬化型樹脂
M マスターモールド(モスアイモールド)
H 加熱装置
10 フィルム(基材)
S 超撥水性層
20 スライドガラス
R ロール
P マイクロピラー
F モスアイフィルム
PM フォトマスク
図1
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