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特開2023-33205ガス分析装置、測定結果処理手段およびガスセンサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033205
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】ガス分析装置、測定結果処理手段およびガスセンサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20230302BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20230302BHJP
   G01N 33/64 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
G01N27/12 D
G01N33/497 A
G01N33/64
G01N27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133358
(22)【出願日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2021137400
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】米谷 玲皇
(72)【発明者】
【氏名】割澤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】三田 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】黎 学思
(72)【発明者】
【氏名】岡野 真樹子
【テーマコード(参考)】
2G045
2G046
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA28
2G045FA34
2G046AA24
2G046AA26
2G046BA01
2G046BA09
2G046BB02
2G046BB04
2G046DC18
2G046FB02
2G046FE39
(57)【要約】
【課題】ガスセンサーによる分析対象となるガスが低濃度であってもガス濃度値の算出を感度良く行うガス分析装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを分析する装置であって、前記分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜を備えたガスセンサー110と、前記膜に供給された直流電流による抵抗値を測定する抵抗値測定手段120と、畳み込みニューラルネットワーク部132を有し、抵抗値測定手段120による測定結果である抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の分析対象ガスのガス濃度値を出力する測定結果処理手段130とを備え、畳み込みニューラルネットワーク部132は、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値とガス中の分析対象ガスの種類と濃度値とによって訓練されたものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを分析するガス分析装置であって、
前記1種類又は複数種類の分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜を備えたガスセンサーと、
前記膜に供給された直流電流による抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、
畳み込みニューラルネットワーク部を有し、前記抵抗値測定手段による測定結果である抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力する測定結果処理手段と、
を備え、
前記畳み込みニューラルネットワーク部は、前記抵抗値測定手段による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値と前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスの濃度値とによって訓練されたものであることを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記ガス中の前記分析対象ガスの種類が分からない場合、前記測定結果処理手段の畳み込みニューラルネットワーク部に前記抵抗値測定手段による測定結果が入力されると、前記畳み込みニューラルネットワーク部が前記ガスセンサーの膜の周囲の前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記測定結果処理手段は、前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを感知して前記膜に供給された直流電流による抵抗値が抵抗値測定手段により測定され、測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値を正規化する正規化処理部を有し、
前記畳み込みニューラルネットワーク部は、前記正規化処理部で正規化された正規化抵抗値が入力され、前記正規化抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記分析対象ガスは還元性ガスであり、
前記膜は、還元性ガスに応答し抵抗値変化を示す半導体酸化膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記抵抗値測定手段の測定した抵抗値の時間変化が、前記検査時間において所定範囲に収まっていることを特徴とする請求項4に記載のガス分析装置。
【請求項6】
ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを感知して膜に供給する直流電流による抵抗値が抵抗値測定手段により測定され、測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値を正規化する正規化処理部と、
前記正規化処理部で正規化された正規化抵抗値が入力され、前記正規化抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力する畳み込みニューラルネットワーク部と、
を有し、
前記膜は、前記分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜であり、
前記畳み込みニューラルネットワーク部は、前記抵抗値測定手段による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値が前記正規化処理部により正規化された正規化抵抗値と前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスの濃度値とによって訓練されたものであることを特徴とする測定結果処理手段。
【請求項7】
前記膜は、還元性ガスに応答し抵抗値変化を示す半導体酸化膜であることを特徴とする請求項6に記載の測定結果処理手段。
【請求項8】
シリコン基板上に積層された二酸化シリコン層と、
前記二酸化シリコン層に積層された膜と、
前記膜に積層された電極層と、
前記電極層と導通する抵抗値測定手段と、
を有し、
前記膜は、分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜であり、
前記膜が、第1の基部と、該第1の基部と離間対向する第2の基部と、前記第1の基部と前記第2の基部との間を架橋する薄膜状のガスセンシング部とを有し、
前記電極層が、前記膜の第1の基部に積層される第1の電極と、前記膜の第2の基部に積層される第2の電極とから形成されていることを特徴とするガスセンサー。
【請求項9】
前記膜のガスセンシング部による前記第1の基部と前記第2の基部と架橋状態を保ったまま、前記ガスセンシング部の表面に三次元構造を有することを特徴とする請求項8に記載のガスセンサー。
【請求項10】
前記膜は、還元性ガスに応答し抵抗値変化を示す半導体酸化膜であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のガスセンサー。
【請求項11】
前記半導体酸化膜は、二酸化スズ層であることを特徴とする請求項10に記載のガスセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置、測定結果処理手段およびガスセンサーに関するものであって、特に、還元性ガスの種類の判別とガス濃度値の算出とを行うガス分析装置、測定結果処理手段およびガスセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国の糖尿病患者数は、生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加している。
糖尿病は自覚症状がないため、無治療のまま放置されることが多く、糖尿病の早期発見は極めて重要となっている。
そこで、糖尿病を早期発見するために、健常者および糖尿病患者の呼気に含まれるアセトン濃度の違いに着目した呼気分析による診断が注目を浴びている。
【0003】
このような呼気分析は非侵襲的で簡易であることから日常的な分析が可能であるが、呼気中にはアセトン以外にも数百種類のガス成分が含まれているため、アセトン濃度を選択的に感度よく(ppmオーダー)検出する必要がある。
そこで、二酸化スズ(SnO)薄膜をアセトンのような還元性ガスを感知する半導体ガスセンサーを備えたガス分析装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
上述したガス分析装置では、あらかじめ作成した抵抗値とガス濃度との特性曲線に基づいて、半導体ガスセンサーが測定した抵抗値からガス濃度値を算出していたが、ガス分析装置の分析対象となる還元性ガスが低濃度の場合、半導体ガスセンサーの測定した抵抗値の変化量が微小となってしまい、ガス濃度値を感度良く算出できない虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-78604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、前述したような技術的背景から見出されたものであって、すなわち、本発明の目的は、ガスセンサーによる分析対象となるガスが低濃度であってもガス濃度値の算出を感度良く行うガス分析装置、測定結果処理手段およびガスセンサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に本発明の種々の態様について説明する。
[1]ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを分析するガス分析装置であって、
前記1種類又は複数種類の分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜を備えたガスセンサーと、
前記膜に供給された直流電流による抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、
畳み込みニューラルネットワーク部を有し、前記抵抗値測定手段による測定結果である抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力する測定結果処理手段と、
を備え、
前記畳み込みニューラルネットワーク部は、前記抵抗値測定手段による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値と前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスの濃度値とによって訓練されたものであることを特徴とするガス分析装置。
【0008】
[2]前記ガス中の前記分析対象ガスの種類が分からない場合、前記測定結果処理手段の畳み込みニューラルネットワーク部に前記抵抗値測定手段による測定結果が入力されると、前記畳み込みニューラルネットワーク部が前記ガスセンサーの膜の周囲の前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力することを特徴とする上記[1]に記載のガス分析装置。
【0009】
[3]前記測定結果処理手段は、前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを感知して前記膜に供給された直流電流による抵抗値が抵抗値測定手段により測定され、測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値を正規化する正規化処理部を有し、
前記畳み込みニューラルネットワーク部は、前記正規化処理部で正規化された正規化抵抗値が入力され、前記正規化抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力することを特徴とする上記[1]または[2]に記載のガス分析装置。
【0010】
[4]前記分析対象ガスは還元性ガスであり、
前記膜は、還元性ガスに応答し抵抗値変化を示す半導体酸化膜であることを特徴とする上記[1]から[3]のいずれか一項に記載のガス分析装置。
[5]前記抵抗値測定手段の測定した抵抗値の時間変化が、前記検査時間において所定範囲に収まっていることを特徴とする上記[3]又は[4]に記載のガス分析装置。
【0011】
[6]ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを感知して膜に供給する直流電流による抵抗値が抵抗値測定手段により測定され、測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値を正規化する正規化処理部と、
前記正規化処理部で正規化された正規化抵抗値が入力され、前記正規化抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力する畳み込みニューラルネットワーク部と、
を有し、
前記膜は、前記分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜であり、
前記畳み込みニューラルネットワーク部は、前記抵抗値測定手段による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値が前記正規化処理部により正規化された正規化抵抗値と前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスの濃度値とによって訓練されたものであることを特徴とする測定結果処理手段。
[7]前記膜は、還元性ガスに応答し抵抗値変化を示す半導体酸化膜であることを特徴とする上記[6]に記載の測定結果処理手段。
【0012】
[8]シリコン基板上に積層された二酸化シリコン層と、
前記二酸化シリコン層に積層された膜と、
前記膜に積層された電極層と、
前記電極層と導通する抵抗値測定手段と、
を有し、
前記膜は、前記分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜であり、
前記膜が、第1の基部と、該第1の基部と離間対向する第2の基部と、前記第1の基部と前記第2の基部との間を架橋する薄膜状のガスセンシング部とを有し、
前記電極層が、前記膜の第1の基部に積層される第1の電極と、前記膜の第2の基部に積層される第2の電極とから形成されていることを特徴とするガスセンサー。
[9]前記膜のガスセンシング部による前記第1の基部と前記第2の基部と架橋状態を保ったまま、前記ガスセンシング部の表面に三次元構造を有することを特徴とする上記[8]に記載のガスセンサー。
[10]前記膜は、還元性ガスに応答し抵抗値変化を示す半導体酸化膜であることを特徴とする上記[8]又は[9]に記載のガスセンサー。
[11]前記半導体酸化膜は、二酸化スズ層であることを特徴とする上記[8]から[10]に記載のガスセンサー。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様の上記[1]に係る発明のガス分析装置によれば、抵抗値測定手段による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値とガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスの濃度値とによって訓練された畳み込みニューラルネットワーク部を有し、抵抗値測定手段による測定結果である抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を測定結果処理手段により出力することができる。従って、ガスセンサーによる分析対象となるガスが低濃度であってもガス濃度値の算出を感度良く行うことができる。
【0014】
本発明の一態様の上記[2]に係る発明のガス分析装置によれば、ガス中の分析対象ガスの種類が分からない場合、測定結果処理手段の畳み込みニューラルネットワーク部に抵抗値測定手段による測定結果が入力されると、前記畳み込みニューラルネットワーク部がガスセンサーの膜の周囲のガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスの種類と前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力することにより、抵抗値測定手段による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値が畳み込みニューラルネットワークによる学習結果に基づいて解析されるため、ガスセンサーの周囲の分析対象ガスのガス濃度が低濃度であっても、ガスセンサーの周囲の分析対象ガスの種類を感度良く判別し、ガス濃度値を感度良く算出することができる。
【0015】
本発明の一態様の上記[3]に係る発明のガス分析装置によれば、前記測定結果処理手段は、前記ガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを感知して前記膜に供給された直流電流による抵抗値が抵抗値測定手段により測定され、測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値を正規化する正規化処理部を有し、前記畳み込みニューラルネットワーク部に、前記正規化処理部で正規化された正規化抵抗値が入力され、前記正規化抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いて前記ガス中の前記1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力する。つまり、正規化処理部で正規化された正規化抵抗値が、畳み込みニューラルネットワーク部に入力されることにより、抵抗値測定手段による測定結果を正規化した上で畳み込みニューラルネットワークによる学習結果に基づいて解析されるため、使用状況やガス分析装置の個体差の影響を排除して、ガスセンサーの周囲の分析対象ガスの濃度値を感度良く算出することができる。
【0016】
本発明の一態様の上記[5]に係る発明のガス分析装置によれば、抵抗値測定手段の測定した抵抗値の時間変化が、検査時間において所定範囲に収まっていることにより、畳み込みニューラルネットワーク部に入力される抵抗値の変動が少なくなるため、ガスセンサーの周囲の分析対象ガスの種類をさらに精度良く判別することができると共にガスセンサーの周囲の分析対象ガスのガス濃度値を精度良く算出することができる。
【0017】
本発明の一態様の上記[8]に係る発明の半導体ガスセンサーによれば、分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜が、第1の基部と、この第1の基部と離間対向する第2の基部と、第1の基部と第2の基部との間を架橋する薄膜状のガスセンシング部とを有していることにより、ガスのセンシングにより抵抗値が変動するガスセンシング部の体積に対する表面積の割合が大きくなるため、ガスセンサーの周囲の分析対象ガスの種類をさらに感度良く判別することができると共にガスセンサーの周囲の分析対象ガスのガス濃度値をさらに感度良く算出することができる。
【0018】
本発明の一態様の上記[9]に係る発明のガスセンサーによれば、分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜のガスセンシング部による第1の基部と第2の基部と架橋状態を保ったまま、ガスセンシング部の表面に三次元構造を有することにより、ガスセンシング部の表面に三次元構造を有さない場合に比べてガスセンシング部の体積に対する表面積の割合が大きくなるため、ガスセンサーの周囲の分析対象ガスの種類をさらに感度良く判別することができると共にガスセンサーの周囲の分析対象ガスのガス濃度値をさらに感度良く算出することができる。
また、本発明の種々の態様によれば、ガスセンサーによる分析対象となるガスが低濃度であってもガス濃度値の算出を感度良く行うガス分析装置、測定結果処理手段およびガスセンサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例であるガス分析装置の概要を説明する図。
図2】本発明の一実施例であるガス分析装置の構成図。
図3図2に示す半導体ガスセンサーの斜視図。
図4】訓練手順を示すフローチャート。
図5A】データ収集工程を示すフローチャート。
図5B】半導体ガスセンサーの抵抗値の時間変化の一例を示す図。
図6A】抵抗値データ群の一例を示す表。
図6B】半導体ガスセンサーの正規化した抵抗値の時間変化の一例を示す図。
図7】学習データ群の一例を示す表。
図8】分析手順を示すフローチャート。
図9】半導体ガスセンサーの変形例の斜視図または平面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施形態及び実施例について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0021】
本発明は、1種類又は複数種類の分析対象ガス(例えば還元性ガス)を含むガスに晒される半導体ガスセンサー110と、この半導体ガスセンサー110に供給された直流電流による抵抗値を測定する抵抗値測定手段120と、この抵抗値測定手段120による測定結果を演算処理する測定結果処理手段130とを備えて半導体ガスセンサー110の周囲のガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスを分析するガス分析装置であって、半導体ガスセンサー110が、1種類又は複数種類の分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜(例えば半導体酸化膜)113を有し、測定結果処理手段130が、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値とガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスと1種類又は複数種類の分析対象ガスの濃度値とによって訓練された畳み込みニューラルネットワーク部132を有し、この畳み込みニューラルネットワーク部132に抵抗値測定手段120による測定結果が入力されると、畳み込みニューラルネットワーク部132が半導体ガスセンサー110の膜(例えば半導体酸化膜)113の周囲のガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力し、半導体ガスセンサー110による測定対象となるガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスが低濃度であってもガス濃度値の算出を感度良く行うものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0022】
例えば、半導体ガスセンサーが晒されるガスは、ガスセンシング部の材料が抵抗値変化を起こすような分析対象ガスを含むガスであれば、いかなる分析対象ガスであってもよい。例えば、分析対象ガスが還元性ガスの場合は、アセトン,エタノール等に適用することも可能である。
【0023】
例えば分析対象ガスが還元性ガスであり、還元性ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなるガスセンサーの膜が例えば半導体酸化膜である場合は、二酸化スズで作製されることが好ましいが、還元性ガスに応答し抵抗値変化を示すような酸化亜鉛等、いかなる材料で作製されてもよい。
また、分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなるガスセンサーの膜の形状は、分析対象ガスに晒されて抵抗値変化を起こすことができれば、いかなる形状であってもよい。例えば分析対象ガスが還元性ガスであり、ガスセンサーが半導体ガスセンサーである場合、その半導体ガスセンサーの半導体酸化膜の形状は、還元性ガスを感知できれば、いかなる形状であってもよい。
【実施例0024】
以下、図1乃至図9に基づいて、本発明の一実施例であるガス分析装置を説明する。
<1.ガス分析装置の概要>
まず、本発明の一実施例であるガス分析装置の概要を説明する図である図1に基づいて、本発明の一実施例であるガス分析装置の概要について説明する。
【0025】
本発明の一実施例であるガス分析装置100は、分析対象ガスの一例としての還元性ガスを感知する半導体ガスセンサー110と、この半導体ガスセンサー110に供給された直流電流による抵抗値を測定する抵抗値測定手段120と、この抵抗値測定手段120による測定結果を演算処理する測定結果処理手段130とを備えている。
【0026】
本発明者らは、1種類又は複数種類の還元性ガスを含むガスに晒されている最中の半導体ガスセンサー110に供給された直流電流による抵抗値の時間変化(時系列変化)には、半導体ガスセンサー110の周囲の1種類又は複数種類の還元性ガスを含むガスに関する様々な情報(例えば、還元性ガスの種類、ガス濃度値)が含まれていることを見出した。
そこで、この知見に基づく本発明の一実施例であるガス分析装置100は、半導体ガスセンサー110に供給された直流電流による抵抗値を連続的に取得することで、半導体ガスセンサー110の抵抗値の時間変化を取得し、この抵抗値の時間変化を畳み込みニューラルネットワークで情報処理することで半導体ガスセンサー110の周囲の還元性ガスの種類の判別とガス濃度値の算出とを行う。なお、上述したように還元性ガスは一例であって、還元性ガス以外のガスであっても1種類又は複数種類の分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こすセンサーに本発明を適用することも可能である。
【0027】
<2.ガス分析装置の構成>
次に、図2および図3に基づいて、本発明の一実施例であるガス分析装置の構成について説明する。
図2は本発明の一実施例であるガス分析装置の構成図であり、図3図2に示す半導体ガスセンサーの斜視図である。
【0028】
ガス分析装置100は、図2に示すように、半導体ガスセンサー110が設置されると共に1種類又は複数種類の還元性ガスを含むガスが充満されるチャンバー140と、測定結果処理手段130による処理結果を取得して表示する測定結果表示手段150とをさらに備えている。
したがって、ガス分析装置100は、チャンバー140内に充満されたガス中の1種類又は複数種類の還元性ガスの種類の判別とガス濃度値の算出とを行い、その結果を表示する。
【0029】
半導体ガスセンサー110は、図3に示すように、シリコン基板111上に積層された二酸化シリコン層112と、この二酸化シリコン層112に積層された二酸化スズ層113と、この二酸化スズ層113に積層されて抵抗値測定手段120と導通する電極層114とから形成さている。
【0030】
二酸化スズ層113は、1種類又は複数種類の還元性ガスを感知する半導体酸化膜であり、第1の基部113aと、この第1の基部113aと離間対向する第2の基部113bと、第1の基部113aと第2の基部113bとの間を架橋するガスセンシング部113cとを有している。ガスセンシング部113cは、例として図3図9に示す薄膜状や三次元構造等の構造をとりえる。なお、本実施例では、還元性ガスを感知する半導体酸化膜として二酸化スズ層113を用いているが、これに限定されず、1種類又は複数種類の分析対象ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜であれば、二酸化スズ以外の他の材料からなる膜を用いることも可能である。
また、本実施例は、図9(A)の構造のガスセンシング部113cを有するガスセンサーに基づき説明する。
【0031】
なお、図9(A)をよりよく理解するために、図3に戻って説明すると、二酸化スズ層113のガスセンシング部113cの寸法の一例として、厚みHは0.1μmであり、幅Wは0.2μmであり、長さLは500μmである。
【0032】
電極層114は、白金製であり、二酸化スズ層113の第1の基部113aに積層される平板状の第1の電極114aと、二酸化スズ層113の第2の基部113bに積層される平板状の第2の電極114bとから形成されている。
電極層114が二酸化スズ層113の上に積層されていることで、薄い二酸化スズ層113が段切れを起こすことなく電極層114に積層されるため、安定した抵抗値の測定を実現することができる。
【0033】
測定結果処理手段130は、図2に示すように、抵抗値測定手段120による測定結果(半導体ガスセンサー110の抵抗値)を正規化する正規化処理部131と、この正規化処理部131により正規化された測定結果を解析する畳み込みニューラルネットワーク部132とを有している。
【0034】
チャンバー140は、1種類又は複数種類の還元性ガスを含むガスが充満されるチャンバー室141と、このチャンバー室141に1種類又は複数種類の還元性ガスを含むガスを供給する給気ポート142と、チャンバー室141から1種類又は複数種類の還元性ガスを含むガスを排出する排気ポート143と、半導体ガスセンサー110を加熱するヒーター144とを有している。
【0035】
ヒーター144は、半導体ガスセンサー110の感度が200度~400度程度で最も高い感度を示すことから、室温から500度程度まで任意の温度に設定できるセラミックヒーターである。
このヒーター144は、図2に示すように、半導体ガスセンサー110の下面と当接し、半導体ガスセンサー110を加熱する。
【0036】
<3.訓練方法>
次に、図4乃至図7に基づいて、畳み込みニューラルネットワーク部132に対する訓練(畳み込みニューラルネットワーク部132による学習)について説明する。
図4は訓練手順を示すフローチャートであり、図5Aはデータ収集工程を示すフローチャートであり、図5Bは半導体ガスセンサーの抵抗値の時間変化の一例を示す図であり、図6Aは抵抗値データ群の一例を示す表であり、図6Bは半導体ガスセンサーの正規化した抵抗値の時間変化の一例を示す図であり、図7は学習データ群の一例を示す表である。
【0037】
畳み込みニューラルネットワーク部132に対する訓練は、図4に示すように、データの収集(ステップS10)、収集したデータの正規化(ステップS20)、正規化されたデータに基づく学習データ群の作成(ステップS30)、学習データ群に基づく機械学習(ステップS40)の順番で実施される。
【0038】
<3.1.データ収集>
まず、図5Aおよび図5Bに基づき、ステップS10におけるデータの収集について詳述する。
データの収集を行う際、1種類又は複数種類の還元性ガスのガス種ごとに、ガス濃度値を変化させ、各ガス濃度値に対して複数の測定を行うことが好ましいが、これに限定するものではない。
【0039】
(ステップS11)
データの収集において、まず、測定環境の初期化を行う。
具体的には、チャンバー室141内に充満しているガスを排気ポート143から排出する。
そして、ヒーター144を加熱して、半導体ガスセンサー110の感度が最も高い温度となるように半導体ガスセンサー110を加熱する。
【0040】
(ステップS12)
次に、特定のガス濃度値の特定の還元性ガスを含むガス(例えば、アセントンのガス濃度値が15ppmとなるように純空気でアセトンを希釈したガス)を所定時間(例えば、15分)チャンバー室141内に導入する。
【0041】
(ステップS13)
抵抗値測定手段120は、少なくともチャンバー室141内へ還元性ガスを含む純空気の導入開始から導入終了の間、図9(A)に示すガスセンシング部113cを有する半導体ガスセンサー110の抵抗値を所定のサンプリングレート(例えば、2000Hz)で測定し続ける。
【0042】
図5Bは測定結果の一例を図示したものであり、図5Bに示すように、半導体ガスセンサー110の抵抗値は、チャンバー室141内へ還元性ガスを含む純空気の導入開始直後は下がり、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間(例えば、12分)を経過すると、所定範囲に収まり安定する。
なお、本発明者らは、ガス濃度値によらず、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間(例えば、12分)を経過すると、還元性ガスの抵抗値の時間変化が所定範囲に収まり安定することを見出した。
【0043】
<3.2.データ正規化>
次に、図6Aおよび図6Bに基づき、ステップS10で収集したデータに基づく正規化について説明する。
なお、以下説明のために、一例として、図6Aに示すように、1種類の還元性ガスにおける3つのガス濃度値について、各5回の抵抗値を取得したとする(すなわち、抵抗値データ群が15個存在する)。
【0044】
ステップS20におけるデータの正規化では、還元性ガスのチャンバー室141内への導入が終了した後、測定結果処理手段130の正規化処理部131は、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間(例えば、12分)を経過した後の検査時間T(抵抗値測定手段120の測定した抵抗値の時間変化が、所定範囲に収まっている時間。例えば、12分から15分の3分間)全域に亘る抵抗値を正規化する。
【0045】
正規化処理部131による正規化は、MinusMean法に基づいて行う。
MinusMean法は、次の計算式で正規化を行う手法である。
【0046】
【数1】
ここで、||RMinusMean,i,j||はi番目の抵抗値データ群におけるj個目の測定値(抵抗値)をMinusMean法により正規化した値(正規化抵抗値)であり、ri,jはi番目の抵抗値データ群におけるj個目の測定値であり、mean(ri)はi番目の抵抗値データ群における測定値の平均値であり、max(r)はすべての抵抗値データ群の測定値における最大値、min(r)はすべての抵抗値データ群の測定値における最小値である。
したがって、MinusMean法を用いると、i番目の抵抗値データ群におけるj個目の測定値(ri,j)からi番目の抵抗値データ群における測定値の平均値(mean(ri))を引いた値が、各測定値データ群の値に依らない値で除されるため、還元性ガスの特性に基づく振動強度情報を加味して測定値を正規化することができる。
また、max(r)はすべての抵抗値データ群の測定値における最大値であり、min(r)はすべての抵抗値データ群の測定値における最小値であり、これらについては、ガス分析の際にも使用するため、保存しておく。
【0047】
図6Bは正規化した半導体ガスセンサーの抵抗値の一例を図示したものであり、図6Bに示すように、MinusMean法によって抵抗値を正規化すると、検査時間における正規化抵抗値の平均値に対する変動(すなわち、抵抗値の変動の周波数と振幅)を解析することができる。
【0048】
<3.3.学習データ群の作成>
次に、図7に基づいて、ステップS20で正規化した正規化抵抗値に基づき複数の学習データから構成される学習データ群の作成について説明する。
【0049】
ステップS30では、正規化処理部131で正規化された各正規化抵抗値データ群から、例えば、2000個(1秒)ずつの正規化抵抗値からなる学習データを作成する。
すなわち、図7に示すように、1種類の還元性ガスに対する各ガス濃度値の試行回数ごとの学習データの個数は、180個となる。
【0050】
そして、各学習データ群について、図7に示すように、ガス種とガス濃度値の情報についてラベルを付与する。
【0051】
<3.4.学習>
ステップS30で作成された学習データ群が、畳み込みニューラルネットワーク部132に入力される。
畳み込みニューラルネットワーク部132は、正規化処理部131から入力された学習データ群の正規化抵抗値と、各正規化抵抗値に付与されたラベル(ガス種、ガス濃度値)とを関連付ける。
すなわち、本発明の一実施例である畳み込みニューラルネットワーク部132は、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間全域に亘る抵抗値と、還元性ガスの種類と、還元性ガスの濃度値とによって訓練される。
【0052】
<4.ガス分析方法>
次に、分析手順を示すフローチャートである図8に基づいて、上述した訓練方法にて訓練されたガス分析装置100によるガス分析方法について説明する。
【0053】
(ステップS100)
ガス分析において、まず、測定環境の初期化を行う。
具体的には、チャンバー室141内に充満しているガスを排気ポート143から排出する。
そして、ヒーター144を加熱して、半導体ガスセンサー110の感度が最も高い温度となるように半導体ガスセンサー110を加熱する。
【0054】
(ステップS200)
次に、給気ポート142から分析対象となる純空気で希釈した還元性ガスをチャンバー室141に導入する。
【0055】
(ステップS300)
抵抗値測定手段120は、少なくともチャンバー室141内へ還元性ガスの導入開始から導入終了の間、半導体ガスセンサー110の抵抗値を所定のサンプリングレート(例えば、2000Hz)で測定し続ける。
【0056】
(ステップS400)
そして、測定結果処理手段130は、訓練時と同様に、まず抵抗値測定手段120から出力された測定結果である抵抗値を測定結果処理手段130の正規化処理部131でMinusMean法により正規化し、正規化された正規化抵抗値を畳み込みニューラルネットワーク部132に出力する。
なお、分析手順においてMinusMean法で正規化を行う場合、max(r)およびmin(r)は訓練時に使用した値を用いる。
【0057】
(ステップS500)
畳み込みニューラルネットワーク部132は、上記の訓練の結果に基づき、半導体ガスセンサー110の二酸化スズ層113の周囲の1種類又は複数種類の還元性ガスの種類と各還元性ガスのガス濃度値を出力する。
【0058】
<5.ガス分析装置100が奏する効果>
以上説明した本実施例のガス分析装置100によれば、測定結果処理手段130が、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間T全域に亘る抵抗値と還元性ガスの種類と還元性ガスの濃度値とによって訓練された畳み込みニューラルネットワーク部132を有し、この畳み込みニューラルネットワーク部132に抵抗値測定手段120による測定結果が入力されると、畳み込みニューラルネットワーク部132が半導体ガスセンサー110の半導体酸化膜である二酸化スズ層113の周囲の還元性ガスのガス濃度値を出力することにより、抵抗値測定手段120による測定開始から所定時間経過後の検査時間T全域に亘る抵抗値が畳み込みニューラルネットワークによる学習結果に基づいて解析されるため、チャンバー140内に充満された還元性ガスのガス濃度が低濃度であっても、チャンバー140内に充満された還元性ガスのガス濃度値を感度良く算出することができる。
【0059】
また、測定結果処理手段130の畳み込みニューラルネットワーク部132に抵抗値測定手段120による測定結果が入力されると、畳み込みニューラルネットワーク部132が半導体ガスセンサー110の二酸化スズ層113の周囲の1種類又は複数種類の還元性ガスの種類と各還元性ガスのガス濃度値を出力することにより、抵抗値測定手段120による測定開始から所定時間経過後の検査時間T全域に亘る抵抗値が畳み込みニューラルネットワークによる学習結果に基づいて解析されるため、チャンバー140内に充満された還元性ガスのガス濃度が低濃度であっても、チャンバー140内に充満された還元性ガスの種類を感度良く判別することができる。
【0060】
また、抵抗値測定手段120の測定した抵抗値の時間変化が、検査時間において所定範囲に収まっていることにより、畳み込みニューラルネットワーク部132に入力される抵抗値の変動が少なくなるため、チャンバー140内に充満された1種類又は複数種類の還元性ガスの種類をさらに精度良く判別することができると共にチャンバー140内に充満された還元性ガスのガス濃度値をさらに精度良く算出することができる。
【0061】
また、測定結果処理手段130が、抵抗値測定手段120による測定開始から所定の待機時間を経過した後の検査時間T全域に亘る抵抗値を正規化する正規化処理部131を有し、この正規化処理部131で正規化された正規化抵抗値が、畳み込みニューラルネットワーク部132に入力されることにより、抵抗値測定手段120による測定結果を正規化した上で畳み込みニューラルネットワークによる学習結果に基づいて解析されるため、使用状況やガス分析装置100の個体差の影響を排除して、チャンバー140内に充満された1種類又は複数種類の還元性ガスの種別を判別することができると共にチャンバー140内に充満された還元性ガスのガス濃度値を算出することができる。
【0062】
また、二酸化スズ層113が、第1の基部113aと、この第1の基部113aと離間対向する第2の基部113bと、第1の基部113aと第2の基部113bとの間を架橋する薄膜状或いは三次元構造のガスセンシング部113cとを有していることにより、ガスのセンシングにより抵抗値が変動するガスセンシング部113cの体積に対する表面積の割合が大きくなるため、チャンバー140内に充満された1種類又は複数種類の還元性ガスの種類をさらに感度良く判別することができると共にチャンバー140内に充満された還元性ガスのガス濃度値をさらに感度良く算出することができる。
【0063】
なお、本実施例では、分析対象ガスの一例として還元性ガスを用い、還元性ガスに晒されると抵抗値変化を起こす材料からなる膜の一例として半導体酸化膜である二酸化スズ層を用いているが、還元性ガス以外のガスを用い、二酸化スズ層以外の膜を用いても、上記のような畳み込みニューラルネットワーク部132を有し、抵抗値測定手段120による測定結果である抵抗値から畳み込みニューラルネットワークを用いてガス中の1種類又は複数種類の分析対象ガスのガス濃度値を出力する測定結果処理手段130を備えたガス分析装置を用いて上述したような方法でガス分析を行うことで、感度良くガス濃度値を算出することができ、また分析対象ガスの種類が分からない場合は分析対象ガスの種類を出力することもできる。
【0064】
<6.変形例>
以上、本発明の一実施例であるガス分析装置100について説明したが、本発明のガス分析装置は、上述した実施例のガス分析装置100に限定されるものではない。
【0065】
例えば、本実施例において、ヒーター144はセラミックヒーターであったが、ヒーターはセラミックヒーターに限定されるものではなく、半導体ガスセンサー110を加熱できるものであれば如何なるものであってもよい。
例えば、本実施例において、電極層114は白金製であったが、電極層は導電性を有していれば如何なる材料で作製してもよい。
【0066】
例えば、本実施例において、検査時間Tは抵抗値測定手段120の測定した抵抗値の時間変化が、所定範囲に収まっている時間であったが、検査時間は一定の時間幅を有していれば如何なる時刻を基点とした時間であってもよい。
【0067】
例えば、本実施例において、畳み込みニューラルネットワーク部132に学習させる還元性ガスのガス濃度値は15ppm、25ppm、35ppmの3つであったが、畳み込みニューラルネットワーク部132に学習させるガス濃度値やガス濃度値の個数はこれに限定されるものではない。
また、本実施例において、畳み込みニューラルネットワーク部132に学習させる際、1つのガス濃度値に対して各5回の抵抗値を取得していたが、1つのガス濃度値に対する抵抗値の取得回数は5回に限定されるものではない。
【0068】
例えば、本実施例の正規化(MinusMean法)において、i番目の抵抗値データ群におけるj個目の測定値(ri,j)からi番目の抵抗値データ群における測定値の平均値(mean(ri))を引いた値を除す値は、すべての抵抗値データ群の測定値における最大値(max(r))からすべての抵抗値データ群の測定値における最小値(min(r))を引いた値であったが、ri,jからmean(ri)を引いた値を除す値は、これに限定されるものではなく、各測定値データ群の値に依らない値であれば、いかなる値であってもよい。
【0069】
例えば、本実施例において、正規化処理部131による正規化はMinusMean法に基づく正規化であったが、MinMax法に基づく正規化であってもよい。
MinMax法は、次の計算式で正規化を行う手法である。
【0070】
【数2】
ここで、||RMinMax,i,j||はi番目のデータ群におけるj個目の測定値(抵抗値)をMinMax法により正規化した正規化抵抗値であり、ri,jはi番目の抵抗値データ群におけるj個目の測定値であり、min(ri)はi番目の抵抗値データ群における測定値の最小値であり、max(ri)はi番目の抵抗値データ群における測定値の最大値である。
MinMax法によって正規化された正規化抵抗値により、所定の抵抗値データ群における正規化抵抗値の最大値が1となり、所定の抵抗値データ群における正規化抵抗値の最小値が0となり、所定の抵抗値データ群における正規化抵抗値の変動の周波数を解析することができる。
【0071】
例えば、本実施例において、チャンバー室141内に充満しているガスを排気ポート143から排出していたが、チャンバー室141内に充満しているガスの排出方法はこれに限定されるものではなく、例えば、真空ポンプのようなものでチャンバー室141内のガスを除去してもよいし、チャンバー室141内に大気や純空気(大気成分を模したもの)等のガスで満たしてもよい。
また、本実施例において、半導体ガスセンサー110は、チャンバー140内に設置されていたが、1種類又は複数種類の還元性ガスを含むガスに晒されていればチャンバー140内に設置されなくてもよい。
【0072】
本実施例の二酸化スズ層113には、図9(A)に示すような表面に三次元構造を有する薄膜状のガスセンシング部113cが設けられていたが、ガスセンシング部113cの形状はこれに限定されるものではなく、二酸化スズ層113のガスセンシング部113cは、図3に示すような、薄膜状であってもよく、あるいは、図9(B)乃至(F)に示すような、二酸化スズ層113のガスセンシング部113cによる第1の基部113aと第2の基部113bと架橋状態を保ったまま、ガスセンシング部113cの表面に三次元構造を有してもよい。
すなわち、(A)に示すように、ガスセンシング部113cの表面に長方形の貫通孔O1を複数形成してもよいし、(B)に示すように、ガスセンシング部113cを平面視でジグザグにしつつガスセンシング部113cの表面に平面視でジグザグの貫通孔O2を形成してもよいし、(C)に示すように、ガスセンシング部113cの表面に平面視で矩形状の貫通孔O3や平面視で円状の貫通孔O4を形成してもよい。
また、(D)に示すように、ガスセンシング部113cの表面に長方形の溝Gを複数形成してもよいし、(E)に示すように、ガスセンシング部113cの表面に長方形の貫通孔O1と長方形の溝Gを複数形成してもよいし、(F)に示すように、ガスセンシング部113cの表面に円筒状・直方体状・円錐状・不定形の凸構造Xを設けてもよい。
このように、二酸化スズ層113のガスセンシング部113cによる第1の基部113aと第2の基部113bと架橋状態を保ったまま、ガスセンシング部113cの表面に三次元構造を有することにより、ガスセンシング部の表面に三次元構造を有さない場合に比べてガスセンシング部113cの体積に対する表面積の割合が大きくなるため、半導体ガスセンサー110の周囲の1種類又は複数種類の還元性ガスの種類をさらに感度良く判別することができると共に半導体ガスセンサー110の周囲の還元性ガスのガス濃度値をさらに感度良く算出することができる。
【0073】
<7.本実施例におけるガス分析装置100によるガス分析結果の一例>
ここで、二酸化スズ層113のガスセンシング部113cの形状を図9の(A)に示すような形状として、上述した訓練方法およびガス分析方法によりチャンバー140内に充満された還元性ガスを分析するガス分析装置100によるガス分析結果の一例について説明する。
【0074】
<7.1.センサー諸元およびチャンバー内環境>
半導体ガスセンサー110において、ガスセンシング部113cの厚みHを0.1μm、ガスセンシング部113cの長さLを500μm、ガスセンシング部113cの幅Wを0.2μm、長方形の貫通孔O1の幅を0.2μmとする。
また、チャンバー140内の温度を208℃、チャンバー140内に流入する純空気で希釈した還元性ガスの体積流量を毎分0.25リットルとする。
【0075】
<7.2.畳み込みニューラルネットワーク部に対する訓練>
<7.2.1.抵抗値の測定>
抵抗値測定手段120により半導体ガスセンサー110の抵抗値を測定する際に半導体ガスセンサー110に印加した直流電圧は5Vである。
抵抗値測定手段120によるサンプリングレートは、2000Hzである。
【0076】
抵抗値の測定対象となる1種類又は複数種類の還元性ガスのガス種は、アセトン、アセトンとエタノールとの混合ガスの2種である。
アセトンのガス濃度値は、15ppm、25ppm、35ppmの3つである
アセトンとエタノールとの混合ガスのガス濃度値は、アセトンのガス濃度値を15ppm、25ppm、35ppmの3つである(なお、エタノールのガス濃度値を35ppmに固定した)。
【0077】
<7.2.2.抵抗値の正規化、学習データ群の作成、機械学習>
抵抗値測定手段120による測定開始から12分を経過した後の3分間を検査時間Tとし、この検査時間T全域に亘る抵抗値をMinusMean法で正規化した。
なお、検査時間Tに対して生成される学習データ群は180個(1秒分×180個)の学習データから構成され、1つの学習データには、正規化処理部131で正規化された各正規化抵抗値データが2000個(1秒)含まれている。
【0078】
畳み込みニューラルネットワーク部132のアーキテクチャは、5セットの畳み込み層とプーリング層に加え、1つのFlatten層、2つの全結合層のネットワークで構成されている。
また、活性化関数は、ReLUを用いている。
さらに、この畳み込みニューラルネットワーク部132の出力は、ガスの種類とガスの濃度である。
【0079】
<7.3.ガス分析結果>
分析対象となる1種類の還元性ガスがアセトンの場合、5分割交差検証をすべての組み合わせで実施して平均をとった結果、95.85%という結果を得た。
また、分析対象となる複数種類の還元性ガスをアセトンとエタノールの混合ガスの場合、5分割交差検証をすべての組み合わせで実施して平均をとった結果、97.39%という結果を得た。
なお、以上の一例では還元性ガスの種別を2種類、ガスの濃度を3種類としたが、ガスの種別やガスの濃度は、これに限定されうるものではなく、ガスの種別やガスの濃度を更に増やしてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0080】
100 ・・・ ガス分析装置
110 ・・・ 半導体ガスセンサー
111 ・・・ シリコン基板
112 ・・・ 二酸化シリコン層
113 ・・・ 二酸化スズ層(半導体酸化膜)
113a・・・ 第1の基部
113b・・・ 第2の基部
113c・・・ ガスセンシング部
114 ・・・ 電極層
114a・・・ 第1の電極
114b・・・ 第2の電極
120 ・・・ 抵抗値測定手段
130 ・・・ 測定結果処理手段
131 ・・・ 正規化処理部
132 ・・・ 畳み込みニューラルネットワーク部
140 ・・・ チャンバー
141 ・・・ チャンバー室
142 ・・・ 給気ポート
143 ・・・ 排気ポート
144 ・・・ ヒーター
150 ・・・ 測定結果表示手段

H ・・・ ガスセンシング部の厚み
W ・・・ ガスセンシング部の幅
L ・・・ ガスセンシング部の長さ
O1 ・・・ 貫通孔
O2 ・・・ 貫通孔
O3 ・・・ 貫通孔
O4 ・・・ 貫通孔
G ・・・ 溝
X ・・・ 凸構造
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9