(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033590
(43)【公開日】2023-03-10
(54)【発明の名称】気体分離方法、及び気体分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20230303BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230303BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230303BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/70 500
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006875
(22)【出願日】2023-01-19
(62)【分割の表示】P 2019538040の分割
【原出願日】2018-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2017158896
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510022336
【氏名又は名称】株式会社ナノメンブレン
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】野口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】先崎 尊博
(72)【発明者】
【氏名】緒方 寿幸
(72)【発明者】
【氏名】國武 豊喜
(72)【発明者】
【氏名】藤川 茂紀
(72)【発明者】
【氏名】有吉 美帆
(57)【要約】
【課題】気体分離膜の両面における圧力差が1気圧以下であるような穏やかな条件で、混合気体中の微量の成分を良好に分離可能な気体分離方法と、当該気体分離方法において好適に用いられる気体分離膜と提供すること。
【解決手段】気体分離膜を用いて、濃度1000質量ppm以下の特定の気体(A)を含む混合気体から気体(A)を選択的に透過させることによる気体分離方法において、膜厚が1μm以下の極薄い気体分離膜を用いることにより、気体分離膜の両面における圧力差が1気圧以下であるような穏やかな条件において、良好に気体(A)を分離する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体分離膜を用いて、混合気体から特定の気体(A)を選択的に透過させることによる気体分離方法であって、
前記混合気体を、前記気体分離膜の一方の面に供給すること、
を含み、
前記気体分離膜の膜厚が、1μm以下であり、
前記混合気体中の前記気体(A)の濃度が、10000質量ppm以下であり、
前記気体分離膜による前記気体(A)の選択的透過が、前記気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で行われる、気体分離方法。
【請求項2】
前記気体分離膜が、多孔質の支持膜と積層されており、且つ、前記支持膜との接触面において、前記支持膜中の孔部上でも平坦な膜として存在可能な自立性を有する、請求項1に記載の気体分離方法。
【請求項3】
前記気体分離膜が、ポリマーから形成されるものである、請求項1又は2に記載の気体分離方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、ポリジメチルシロキサンである、請求項3に記載の気体分離方法。
【請求項5】
前記気体(A)が二酸化炭素である、請求項1~4のいずれか1項に記載の気体分離方法。
【請求項6】
気体分離膜を選択的に透過させることによって、前記混合気体中の前記気体(A)の濃度を低減させるために用いられる、気体分離膜であって、
前記混合気体中の前記気体(A)の濃度が、10000質量ppm以下であり、
前記気体分離膜による前記気体(A)の選択的透過が、前記気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で行われ、
膜厚1μm以下の、ポリマーからなる膜である、気体分離膜。
【請求項7】
多孔質の支持膜と積層された場合に、前記支持膜との接触面において、前記支持膜中の孔部上でも平坦な膜として存在可能な自立性を有する、請求項6に記載の気体分離膜。
【請求項8】
前記ポリマーが、ポリジメチルシロキサンである、請求項6又は7に記載の気体分離膜。
【請求項9】
前記気体分離膜への前記混合気体の供給量又は流量を低下させるにともない、前記気体分離膜により処理された後の前記混合気体中の前記気体(A)の濃度を低くすることができる特性を示す、請求項6~8のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項10】
前記気体(A)が二酸化炭素である、請求項6~9のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離方法、及び気体分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の混合気体において、特定の気体の濃度を高めたり、低下させたりする目的で、気体分離膜を用いる気体分離方法が採用されている。
例えば、気体を分離する駆動力として、(配管内における)天然ガスの流れによって生じる圧力を利用する、気体分離膜による気体分離プロセスに適用可能な気体分離膜として、特定の構造のポリイミド樹脂からなる膜が提案されている(特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、空調機等の用途での、気体分離膜の両面における圧力差が1気圧以下であるような穏やかな条件において、混合気体中の微量の成分を良好に分離する方法については、十分に検討が進んでいない。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、気体分離膜の両面における圧力差が1気圧以下であるような穏やかな条件で、混合気体中の微量の成分を良好に分離可能な気体分離方法と、当該気体分離方法において好適に用いられる気体分離膜と提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、気体分離膜を用いて、濃度1000質量ppm以下の特定の気体(A)を含む混合気体から気体(A)を選択的に透過させることによる気体分離方法において、膜厚が1μm以下の極薄い気体分離膜を用いることにより、気体分離膜の両面における圧力差が1気圧以下であるような穏やかな条件でも、良好に気体(A)を分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の第1の態様は、気体分離膜を用いて、混合気体から特定の気体(A)を選択的に透過させることによる気体分離方法であって、
混合気体を、前記気体分離膜の一方の面に供給すること、
を含み、
気体分離膜の膜厚が、1μm以下であり、
混合気体中の前記気体(A)の濃度が、10000質量ppm以下であり、
気体分離膜による気体(A)の選択的透過が、気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で行われる、気体分離方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、気体分離膜を選択的に透過させることによって、混合気体中の気体(A)の濃度を低減させるために用いられる、気体分離膜であって、
混合気体中の気体(A)の濃度が、10000質量ppm以下であり、
気体分離膜による気体(A)の選択的透過が、気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で行われ、
膜厚1μm以下の、ポリマーからなる膜である、気体分離膜である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気体分離膜の両面における圧力差が1気圧以下であるような穏やかな条件で、混合気体中の微量の成分を良好に分離可能な気体分離方法と、当該気体分離方法において好適に用いられる気体分離膜と提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪気体分離方法≫
気体分離方法は、気体分離膜を用いて、混合気体から特定の気体(A)を選択的に透過させることによる気体分離方法である。かかる気体分離方法は、混合気体を、気体分離膜の一方の面に供給することを含む。
気体分離膜としては、膜厚1μm以下の薄膜が使用される。
また、混合気体中の前記気体(A)の濃度が、10000質量ppm以下である。
そして、気体分離膜による気体(A)の選択的透過が、気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で行われる、気体分離方法である。気体分離膜の両面での圧力差は、0.5気圧以下でもよく、0.01気圧以下でもよい。
【0011】
以上の条件により、10000質量ppm以下の微量の気体(A)を含む混合気体が、気体分離膜を透過することにより、気体(A)が選択的に気体分離膜を透過し、透過後の混合気体中の気体(A)の濃度を高めることができる。また、気体分離膜を透過しなかった混合気体における気体(A)の濃度を低下させることができる。
混合気体における気体(A)の濃度は、5000質量ppm以下であってもよく、3000質量ppm以下であってもよく、2000質量ppm以下であってもよく、1000質量ppm以下であってもよい。
【0012】
本発明者らは、気体分離膜を用いて、10000質量ppm以下の低濃度で特定の気体(A)を含む混合気体から、気体(A)を選択的に透過させる場合に、気体分離膜の膜厚が1μm以下の範囲において、膜厚が薄いほど、特定の気体(A)の気体透過度(GPU)が顕著に高まることを見出し本発明を完成するに至った。
【0013】
膜厚が薄くなることによる、特定の気体(A)の気体透過度(GPU)の増加は、比例的な関係や、反比例的な関係を超え、縦軸が気体(A)の気体透過度(GPU)であり、横軸が膜厚である座標平面上において、対数関数により近似される。
【0014】
混合気体に含まれる気体(A)としては、気体分離膜の膜厚の調整による、気体透過度(GPU)の調整が容易であることや、オフィス・病院・工場・家庭用における空調のニーズや、地球温暖化対策といった空気中の二酸化炭素濃度を高めるニーズがあること等から、酸素、二酸化炭素が好ましい。また燃料電池等に使われる燃料ガスの精製や回収というニーズから水素ガスも気体(A)として好ましい。半導体製造業等製造プロセスや分析、冷却等に用いられるHe等の希ガス回収というニーズから、上記の気体分離方法を、希ガスの分離・回収にも適用可能である。
【0015】
なお、本出願にかかる明細書及び特許請求の範囲における「気体分離」は、複数の気体成分を含む混合気体が気体分離膜を透過することによる、複数の気体成分の完全な分離に限定されない。
本出願にかかる明細書及び特許請求の範囲における「気体分離」は、複数の気体成分を含む混合気体が気体分離膜を透過することによって、気体分離膜を透過していない供給側の混合気体と、気体分離膜を透過した透過側の混合気体とで、組成が変化することを意味する。
つまり、気体分離膜を透過していない供給側の混合気体では、特定の気体(A)の濃度が、分離前の混合気体における特定の気体(A)の濃度よりも低下すればよい。また、気体分離膜を透過した透過側の混合気体では、特定の気体(A)の濃度が、分離前の混合気体における特定の気体(A)の濃度よりも高まればよい。
【0016】
<気体分離膜>
気体分離膜は、膜厚が1μm以下である平坦な膜である。気体分離膜は、混合気体のショートパスによる気体分離性能の低下を防ぐため、通常、1nm以上の開口径を有する貫通孔を有さないのが好ましい。
気体分離膜の膜厚は特に限定されず、気体(A)の気体透過度(GPU)を勘案して適宜決定される。気体分離膜の膜厚は、典型的には、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、200nm以下が特に好ましい。気体分離膜の膜厚の下限は、気体分離膜の強度の点から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましく、100nm以上が特に好ましい。
【0017】
気体分離膜の膜厚は、例えば、以下の1)~6):
1)気体分離膜の材料と同じ材料からなり、それぞれ膜厚が異なり、且つそれぞれ膜厚が0.01μm以上1μm以下の範囲内である、n個の膜の試料を準備することと、
2)気体分離膜を用いて、混合気体から気体(A)を分離する際の操作条件と同様の条件において、n個の前記試料について気体(A)の気体透過度(GPU)の測定を行うことと、
3)n個の試料についての、膜厚と、気体透過度の測定において得られ気体(A)の気体透過度(GPU)とを、縦軸が気体透過度に関する軸であり、横軸が膜厚に関する軸である、座標平面状にプロットすることと、
4)座標平面にプロットされた、試料に関するn個の座標データに基づいて、対数近似を行い、膜厚と気体(A)の気体透過度との関係に関する近似線を取得することと、
5)所定の分離条件における、気体(A)の所望する気体透過度をY(GPU)とする場合の、取得された近似線における、気体透過度がY(GPU)である膜厚Xを求めることと、
6)気体分離膜の膜厚を、1μm以下、且つX以下の範囲内で決定することと、
の操作を含む方法により決定することができる。
【0018】
上記の気体分離膜は、気体分離膜への混合気体の供給量又は流量を低下させるにともない、気体分離膜により処理された後の混合気体中の気体(A)の濃度を低くすることができる特性を示すのが好ましい。
気体分離膜への混合気体の供給量又は流量を低下させると、気体分離膜付近での混合気体の滞留時間が長くなる。そうすると、気体分離膜と、分離対象の混合気体との接触時間も延長される。その結果、気体分離膜を透過する気体(A)の量が増加することにより、気体分離膜により処理された混合気体中の気体(A)の濃度が低くなる場合がある。
【0019】
なお、後述するように、気体分離膜は、気体分離膜と支持膜とからなる積層体として使用されるのが好ましい。支持膜としては、メッシュや不織布、例えばスポンジのように多数の空孔を内部に有する多孔質膜や、面内に多数の貫通孔等が存在する多孔質膜が挙げられる。その中でも特に、多孔質膜を使用することが好ましい。
【0020】
また、気体分離膜が、気体分離膜と支持膜とからなる積層体として使用される場合、気体分離膜が、支持膜との接触面において、支持膜中の孔部上でも平坦な膜として存在可能な自立性を有していることが好ましい。
気体分離膜が、かかる自立性を有することによって、気体分離膜を、気体分離膜と支持膜とからなる積層体として使用する場合に、所望する気体分離性能を発揮しやすい。
【0021】
気体分離膜の材質は特に限定されない。加工の容易さ等から、気体分離膜の材質としてはポリマーが好ましい。ポリマーは、気体分離膜を透過させる気体の種類に応じて、適宜選択される。
好適なポリマーとしては、例えば、シリコーン樹脂、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂等が挙げられる。
また、イソプレン-ブタジエン-スチレン共重合体、イソプレン-ブタジエン-スチレン共重合体の水素添加物、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-スチレン共重合体の水素添加物、イソプレン-スチレン共重合体、イソプレン-スチレン共重合体の水素添加物、エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、プロピレン-スチレン共重合体、エチレン-スチレン共重合体エチレン-プロピレン-1-ブテン-スチレン共重合体、及びポリスチレン等のスチレン系重合体も好ましい。
さらに、エチレン-ノルボルネン共重合体、プロピレン-ノルボルネン共重合体、エチレン-テトラシクロドデセン共重合体、プロピレン-テトラシクロドデセン共重合体、エチレン-プロピレン-ノルボルネン共重合体、及びエチレン-プロピレン-テトラシクロドデセン共重合体等の環状オレフィン系共重合体も好ましい。
上記のポリマーが共重合体である場合、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、ポリマーがスチレン由来の単位を含むブロック共重合体である場合、分子鎖の両端にスチレン由来の単位のブロックを有する、ブロック共重合体が好ましい。さらに、上記の好ましいポリマーは、分子鎖の両末端又は片末端に水酸基を有してもよい。
【0022】
上記のポリマーの中では、良好な気体分離性能、所望する膜厚の気体分離膜の形成のしやすさ、及び気体分離膜の機械的強度等の観点から、シリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等のポリオルガノシロキサンが好ましく、ポリジメチルシロキサンがより好ましい。
【0023】
気体分離膜が支持膜との積層体として使用される場合、気体分離膜の主面の面積と、積層体の主面の面積とは一致しているのが好ましい。積層体の使用に支障が無い範囲で、気体分離膜の主面の面積と、積層体の主面の面積とが異なっていてもよい。
【0024】
<気体分離膜の製造方法>
気体分離膜の製造方法は、所望する材料を用いて、所望する膜厚の気体分離膜を製造できる方法であれば特に限定されない。
好ましい方法としては、以下に説明する、基板と、気体分離膜との間に犠牲膜を形成する方法が挙げられる。犠牲膜は、基板と、気体分離膜とを溶解させない液体に可溶な膜である。犠牲膜のみを液体に溶解させることで、非常に薄い気体分離膜を、破損させることなく基板から剥離させることができる。
【0025】
まず、シリコン、ガラス、ポリエチレンテレフタラート等からなる基板上に、犠牲膜を形成する。犠牲膜の形成方法は特に限定されないが、犠牲膜形成用の塗布液を基板上に塗布する方法が好ましい。液状の犠牲膜形成用の材料を基板上に塗布する方法としては、例えば、ロールコータ、リバースコータ、バーコータ等の接触転写型塗布装置やスピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコータ等の非接触型塗布装置を用いる方法が挙げられる。塗布後に形成された塗布膜を加熱等の方法により乾燥させることで、犠牲膜が形成される。犠牲膜の膜厚は特に限定されないが、犠牲膜を速やかに溶解させる観点から、0.1~100μmが好ましく、0.5~50μmがより好ましい。
【0026】
犠牲膜の材料としては、ポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びアルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの材料は、同種の液体に可溶な複数の材料の組み合わせであってもよい。犠牲膜の強度や柔軟性の観点から、犠牲膜の材料は、マンナン、キサンタンガム、及びグアーガム等のゴム成分を含んでいてもよい。
【0027】
犠牲膜の材料を、犠牲膜が可溶な液体に溶解させて、犠牲膜形成用の塗布液が調製される。犠牲膜を溶解させる液体は、基板と、気体分離膜とを、劣化又は溶解させない液体であれば特に限定されない。犠牲膜を溶解させる液体の例としては、水、酸性又は塩基性の水溶液、有機溶剤、及び有機溶剤の水溶液が挙げられ、これらの中では、水、酸性又は塩基性の水溶液、及び有機溶剤が好ましい。
【0028】
犠牲膜の材料を溶解させる液体の好適な例としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、ラクトン類、ケトン類、多価アルコール類、環式エーテル類及びエステル類の有機溶媒、芳香族系有機溶媒、アルコール系溶媒、テルペン系溶媒、炭化水素系溶媒、石油系溶媒等が挙げられる。これら有機溶媒は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ラクトン類の有機溶媒としては、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。ケトン類の有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、又は2-ヘプタノン等が挙げられる。多価アルコール類の有機溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、又はジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0030】
多価アルコール類の有機溶媒としては、多価アルコールの誘導体であってもよく、例えば、エステル結合を有する化合物(例えば、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等)、又はエーテル結合を有する化合物(例えば、上記多価アルコール類又は上記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、又はモノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル)等が挙げられる。これらのうちプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい。
【0031】
環式エーテル類の有機溶媒としては、ジオキサン等が挙げられる。エステル類の有機溶媒としては、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、又はエトキシプロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0032】
芳香族系有機溶媒としては、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、又はメシチレン等が挙げられる。
【0033】
アルコール系溶媒としては、犠牲膜を溶解することができれば特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0034】
テルペン系溶媒としては、例えば、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピネン-1-オール、テルピネン-4-オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー等が挙げられる。
【0035】
炭化水素系溶媒としては、直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素が挙げられる。当該炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の炭素数3から15の直鎖状の炭化水素;メチルオクタン等の炭素数4から15の分岐状の炭化水素;p-メンタン、o-メンタン、m-メンタン、ジフェニルメンタン、1,4-テルピン、1,8-テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、α-ピネン、β-ピネン、α-ツジョン、β-ツジョン等の環状の炭化水素が挙げられる。
【0036】
また、石油系溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)等が挙げられる。
【0037】
次いで、犠牲膜の表面に、気体分離膜の材料を含む溶液を塗布した後、塗布膜から溶媒を除去することにより、犠牲膜上に気体分離膜が形成される。そして、犠牲膜を、犠牲膜が可溶な液体に溶解させることによって、気体分離膜を、基板から剥離、回収することができる。
【0038】
<積層体>
積層体は、前述の気体分離膜と、当該気体分離膜を支持する支持膜とからなる。
支持膜は、多孔質体からなる多孔質膜であることが好ましい。多孔質膜を支持膜として用いることにより、非常に薄い気体分離膜が破断しないように、気体分離膜が支持膜に支持されるとともに、混合気体が気体分離膜に到達するように、混合気体を積層体の内部に流通させることができる。
【0039】
以下、支持膜として使用される多孔質膜について説明する。
【0040】
多孔質膜の材質は、特に限定されず、有機材料であっても無機材料であってもよい。所望する孔径や空隙率を有する多孔質膜の形成が容易であることから、多孔質膜の材質としては、有機材料が好ましい。かかる有機材料は、典型的にはポリマーである。
ポリマーとしては、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドビスマレイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、シリコーン樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、(メタ)アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、及びポリスチレン等が挙げられる。
ポリマーの中でも、熱的又は化学的に安定で、機械的強度に優れる多孔質膜を得やすいことから、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、及びポリアミドイミドが好ましい。
なお、多孔質膜の材質としては、2種以上の樹脂が混合して使用されてもよい。
【0041】
多孔質膜の製造方法は特に限定されない。好適な多孔質膜の例としては、例えば、国際公開第2014/175011号や、特開2014-214767号公報に記載の多孔質膜が挙げられる。
【0042】
<積層体の製造方法>
積層体の製造方法は、気体分離膜と、支持膜とを、それぞれ破損させることなく積層出来る方法であれば特に限定されない。
例えば、前述の犠牲膜を用いる方法により気体分離膜を製造する際に、犠牲膜を、犠牲膜が可溶な液体に溶解させることによって基板から遊離した気体分離膜を、支持膜上にすくい取り、次いで乾燥させることにより支持体を製造することができる。
【0043】
<気体分離方法>
気体分離方法は、前述の気体分離膜を用いる気体分離方法であって、分離対象の混合気体が濃度10000質量ppm以下の気体(A)を含み、気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で気体(A)を選択的に透過させる方法であれば特に限定されない。
【0044】
かかる気体分離方法においては、気体分離膜による気体分離を行う周知の気体分離装置を特に制限なく用いることができる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕
気体分離膜と、支持膜とからなる積層体を以下の方法に従い製造した。
まず、ガラス基板上に、濃度15質量%のポリヒドロキシスチレンのエタノール溶液をスピンコーターを用いて塗布した。次いで、塗布膜を乾燥させて、ポリヒドロキシスチレンからなる膜厚1μmの犠牲膜を形成した。
形成された犠牲膜上に、濃度2.3質量%のポリジメチルシロキサン(ダウ・コーニング社製SYLGARD(登録商標)184SILICONE ELASTOMER KIT)のn-ヘキサン溶液をスピンコーターを用いて塗布した。次いで、塗布膜を乾燥させて、膜厚150nmの気体分離膜を形成した。
次いで、ガラス基板、犠牲膜、及び気体分離膜からなる積層体をエタノール中に浸漬させた。犠牲膜がエタノールに溶解することにより、気体分離膜がガラス基板から剥離された。エタノール中で遊離した気体分離膜を、支持膜としての多孔質ポリイミド膜上にすくい取り、乾燥させることで、気体分離膜と、支持膜とからなる積層体を得た。
支持膜としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとに由来するポリイミド樹脂からなり、空隙率が70体積%である東京応化工業製のポリイミド多孔質膜を用いた。
【0047】
積層体として得られた気体分離膜について、気体分離膜の片面より二酸化炭素、窒素、水素、ヘリウム及びアルゴンを供給し、透過する気体の標準温度及び標準大気圧における流量値(ml/min)を、気体透過率測定装置(堀場製作所社製、高精度精密膜流量計SF-2U)を用いて測定した。このとき、気体分離膜両面での圧力差は、0.1~1気圧、気体透過部面積は0.785cm2であった。得られた流量値から、気体透過率(GPU)を算出した。尚、GPUは、一般的に用いられる下記式により算出した。
気体透過率(GPU)=7.5×10-12×m3(STP)/m2×Pa×s
その結果、二酸化炭素の気体透過率は6572GPUであった。窒素の気体透過率は660GPUであった。水素の気体透過率は1786GPUであった。ヘリウムの気体透過率は1458GPUであった。アルゴンの気体透過率は1464GPUであった。二酸化炭素と窒素との透過の選択性は、二酸化炭素/窒素として10.0であった。二酸化炭素と水素との透過の選択性は、二酸化炭素/水素として3.7であった。また、二酸化炭素以外の気体についての透過の選択性は、ヘリウム/窒素として1.6であり、アルゴン/窒素として2.0であり、水素/窒素として2.7であった。
また、積層体として得られた気体分離膜に4000時間混合気体を供給し続けた後に、各気体の気体透過率を測定した結果、二酸化炭素の気体透過率は大きく低下せず、二酸化炭素と窒素との透過の選択性、及び二酸化炭素と水素との透過の選択性もほとんど変化しなかった。つまり、実施例1で得た、気体分離膜は、長期間安定した気体分離性能を発揮する。
【0048】
〔実施例2、実施例3及び比較例1〕
気体分離膜の膜厚を、表1に記載の膜厚に変えることの他は、実施例1と同様にして、積層体として気体分離膜を得た。
得られた気体分離膜について、実施例1と同様の方法で、二酸化炭素の気体透過率と、二酸化炭素と窒素との透過の選択性を測定した。二酸化炭素の気体透過率を表1に記す。
また、二酸化炭素と窒素との透過の選択性は、実施例2~4、及び比較例1の気体分離膜において、二酸化炭素/窒素として約10.0のほぼ同様の値であった。
【0049】
【0050】
表1より、膜厚1.0μm以下の範囲において膜厚が薄くなるにともない、二酸化炭素の気体透過率が急激に上昇することが分かる。また、膜厚が1.0μmを超える場合二酸化炭素の気体透過率が低い。
【0051】
〔実施例4〕
ガス透過試験用セル内の空間を略均等に二つの空間に仕切るように、実施例1で得られた積層体を、ガス透過試験用セル内に固定した。
なお、気体分離膜が混合気体の供給方向についての上流側となるように、積層体をガス透過試験用セルに固定した。
【0052】
ガス透過試験用セルに関する条件は以下の通りである。気体透過部面積は、積層体に供給される混合気体と、積層体とが接触可能な面積である。
気体透過部面積:0.785cm2
セル内空間体積:0.163cm3
ガス透過試験用セルは、ガス透過試験用セル内の、積層体よりも混合気体の供給方向についての上流側の空間にそれぞれ繋がる、分離対象の混合気体である供給ガスを供給するガス供給路と、残存ガスを回収する残存ガス回収路とを備えていた。
また、ガス透過試験用セルは、ガス透過試験用セル内の、積層体よりも混合気体の供給方向についての下流側の空間にそれぞれ繋がる、ヘリウムガス供給量と、透過ガス回収路とを備えていた。
残存ガス回収路からは、積層体に供給された混合ガスのうち、積層体を透過しなかった残留ガスが回収される。
ヘリウムガス供給路からは、膜を透過したガスをガス検出器に掃引する目的でヘリウムガスが供給される。
透過ガス回収路からは、積層体を透過した混合ガスである透過ガスが回収される。
【0053】
供給ガスとしては1000質量ppmの二酸化炭素を含む窒素ガスを用いた。試験時には、ヘリウムガスを100sccmの流量で、ヘリウムガス供給路から常時供給した。
100sccm、50sccm、及び10sccmの条件で供給ガスを供給し、混合気体の分離試験を行った。
混合気体の分離時の、積層体の両面での差圧は、0.001気圧であった。
【0054】
混合気体の分離を行った際に回収された残存ガスについて二酸化炭素濃度を測定し、供給ガス中の二酸化炭素濃度から、各流量での積層体を透過しなかった残存ガスにおける二酸化炭素除去率を算出した。各流量毎の二酸化炭素除去率を、下表2に記す。
【0055】
【0056】
表2より、膜厚1μm以下の気体分離膜を備える積層体を用いて、気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で分離を行うことにより、窒素から二酸化炭素を良好に除去できることが分かる。また、積層体に供給する混合ガスの流量が低いほど、二酸化炭素の除去率が高いことが分かる。
【0057】
〔比較例2〕
実施例1で得られた積層体に変えて、比較例1で得られた膜厚4.4μmの気体分離膜を備える積層体を用いることと、混合ガスを、100sccm、80sccm、60sccm、40sccm、20sccm、及び10sccmの流量で供給することとの他は、実施例4と同様にして、混合気体の分離試験を行った。
その結果、いずれの流量での試験においても、透過ガスにおける二酸化炭素濃度が、供給ガスにおける二酸化炭素濃度とほぼ同等であった。当然、流量を低下させても、残存ガス中の二酸化炭素濃度を低減させることはできなかった。
【0058】
〔実施例5~7、及び比較例3〕
供給ガスの流量を100sccとし、供給ガス中の二酸化炭素濃度を下表3に記載されるように変更することの他は、実施例4と同様に混合気体の分離試験を行った。
混合気体の分離を行った際に回収された透過ガスについて二酸化炭素濃度を測定し、供給ガス中の二酸化炭素濃度(質量ppm)と、透過ガス中の二酸化炭素濃度(質量ppm)とから、積層体を透過した透過ガスにおける二酸化炭素濃縮倍率(透過ガス中の二酸化炭素濃度(質量ppm)/供給ガス中の二酸化炭素濃度(質量ppm))を算出した。
各流量毎の二酸化炭素除去率を、下表3に記す。
【0059】
【0060】
表3より、膜厚1μm以下の気体分離膜を備える積層体を用いて、気体分離膜の両面での圧力差が1気圧以下の条件で分離を行うことにより、二酸化炭素濃度が1000質量ppm以下である混合気体から二酸化炭素を良好に除去できることが分かる。