(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033718
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20230306BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230306BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230306BHJP
【FI】
C23C14/35
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139578
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】氏原 祐輔
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC21
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG05
3K107GG32
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA03
4K029BA10
4K029BA18
4K029BA43
4K029BD01
4K029CA05
4K029DC13
4K029DC16
4K029DC33
4K029DC40
4K029DC42
4K029DC43
4K029DC45
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】成膜の下地層へのダメージを抑制する。
【解決手段】中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えた複数のロータリターゲットを用いて基板にスパッタリング成膜を行う。複数のロータリターゲットが中心軸が互いに平行で上記中心軸が基板と平行になるように配置される。複数のロータリターゲットのそれぞれにおいて、中心軸から放射状に広がる線が基板と交差する側をターゲット面の基板側とし、基板側とは反対側を上記ターゲット面の反基板側とした場合、磁石が上記内部から反基板側に対向するように位置させ、複数のロータリターゲットに放電電力が投入され、複数のロータリターゲットに放電電力を投入しながら上記複数のロータリターゲットのそれぞれの磁石を中心軸を中心に回転させて磁石が上記内部から基板側に対向するように移動し、磁石が基板に最も近くなる基準位置を避けた状態で基板にスパッタリング成膜が行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸とターゲット面とを有し、前記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えた複数のロータリターゲットを用いて基板にスパッタリング成膜を行う成膜方法であって、
前記複数のロータリターゲットを前記中心軸が互いに平行で前記中心軸が前記基板と平行になるように配置し、
前記複数のロータリターゲットのそれぞれにおいて、前記中心軸から放射状に広がる線が前記基板と交差する側を前記ターゲット面の基板側とし、前記基板側とは反対側を前記ターゲット面の反基板側とした場合、
前記磁石が前記内部から前記反基板側に対向するように位置させ、前記複数のロータリターゲットに放電電力を投入し、
前記複数のロータリターゲットに前記放電電力を投入しながら前記複数のロータリターゲットのそれぞれの前記磁石を前記中心軸を中心に回転させて前記磁石が前記内部から前記基板側に対向するように移動させ、
前記磁石が前記基板に最も近くなる基準位置を避けた状態で前記基板にスパッタリング成膜を行う
成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載された成膜方法において、
前記基準位置に前記磁石が位置しているときの前記磁石の回転角を0度とし、前記磁石を反時計回り方向に回転させることを正の回転角とした場合、
前記基準位置からの前記磁石の前記回転角が30度から90度の範囲、または、-30度から-90度の範囲に設定されて、前記基板にスパッタリング成膜が行われる
成膜方法。
【請求項3】
請求項2に記載された成膜方法において、
前記回転角の絶対値が30度未満では、前記複数のロータリターゲットへの前記放電電力の投入が遮断される
成膜方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載された成膜方法において、
前記磁石を前記内部から前記反基板側に対向させ、前記複数のロータリターゲットに放電電力を投入させる際には、前記回転角が100度から以上260度の範囲に設定される
成膜方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載された成膜方法において、
前記磁石が前記内部から前記反基板側に対向させた際の放電電力は、前記基板にスパッタリング成膜を行う際の放電電力に比べて小さく設定される
成膜方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1つに記載された成膜方法において、
前記基板にスパッタリング成膜が行われる際、前記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの前記磁石の回転方向が同じ方向に向けられる
成膜方法。
【請求項7】
請求項2~5のいずれか1つに記載された成膜方法において、
前記基板にスパッタリング成膜が行われる際、前記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの前記磁石の回転方向が逆方向に向けられる
成膜方法。
【請求項8】
請求項2~7のいずれか1つに記載された成膜方法において、
前記回転角が30度から90度の範囲で少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で少なくとも1回、前記基板にスパッタリング成膜が行われる
成膜方法。
【請求項9】
請求項2~8のいずれか1つに記載された成膜方法において、
前記回転角が30度から90度の範囲で前記磁石が揺動されて少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で前記磁石が揺動されて少なくとも1回、前記基板にスパッタリング成膜が行われる
成膜方法。
【請求項10】
基板を支持する基板ホルダと、
中心軸とターゲット面とを有し、前記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備え、前記中心軸が互いに平行で前記中心軸が前記基板と平行になるように配置された複数のロータリターゲットと、
前記複数のロータリターゲットのそれぞれに放電電力を投入する電源と、
前記複数のロータリターゲットのそれぞれに投入する放電電力及び前記磁石の回転と制御する制御装置と
を具備し、
前記制御装置は、
前記複数のロータリターゲットのそれぞれにおいて、前記中心軸から放射状に広がる線が前記基板と交差する側を前記ターゲット面の基板側とし、前記基板側とは反対側を前記ターゲット面の反基板側とした場合、
前記磁石が前記内部から前記反基板側に対向するように位置させ、前記複数のロータリターゲットに放電電力を投入し、
前記複数のロータリターゲットに前記放電電力を投入しながら前記複数のロータリターゲットのそれぞれの前記磁石を前記中心軸を中心に回転させて前記磁石が前記内部から前記基板側に対向するように移動させ、
前記磁石が前記基板に最も近くなる基準位置を避けた状態で前記基板にスパッタリング成膜をする制御を行う
成膜装置。
【請求項11】
請求項10に記載された成膜装置において、
前記基準位置に前記磁石が位置しているときの前記磁石の回転角を0度とし、前記磁石を反時計回り方向に回転させることを正の回転角とした場合、
前記基準位置からの前記磁石の前記回転角が30度から90度の範囲、または、-30度から-90度の範囲に設定されて、前記基板にスパッタリング成膜が行われる
成膜装置。
【請求項12】
請求項11に記載された成膜装置において、
前記回転角の絶対値が30度未満では、前記複数のロータリターゲットへの前記放電電力の投入が遮断される
成膜装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載された成膜装置において、
前記磁石を前記内部から前記反基板側に対向させ、前記複数のロータリターゲットに放電電力を投入させる際には、前記回転角が100度から以上260度の範囲に設定される
成膜装置。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1つに記載された成膜装置において、
前記磁石が前記内部から前記反基板側に対向させた際の放電電力は、前記基板にスパッタリング成膜を行う際の放電電力に比べて小さく設定される
成膜装置。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか1つに記載された成膜装置において、
前記基板にスパッタリング成膜が行われる際、前記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの前記磁石の回転方向が同じ方向に向けられる
成膜装置。
【請求項16】
請求項11~14のいずれか1つに記載された成膜装置において、
前記基板にスパッタリング成膜が行われる際、前記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの前記磁石の回転方向が逆方向に向けられる
成膜装置。
【請求項17】
請求項11~16のいずれか1つに記載された成膜装置において、
前記回転角が30度から90度の範囲で少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で少なくとも1回、前記基板にスパッタリング成膜が行われる
成膜装置。
【請求項18】
請求項11~17のいずれか1つに記載された成膜装置において、
前記回転角が30度から90度の範囲で前記磁石が揺動されて少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で前記磁石が揺動されて少なくとも1回、前記基板にスパッタリング成膜が行われる
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子等の電子デバイスでは、発光層にカソード電極から電子を注入しアノード電極から正孔を注入し、発光層で電子と正孔とを再結合させて光を発生させる。ここで、有機発光素子の電極層(陰極層)として、発光層で発光した光の光透過率を高めるために、極薄に構成され光透過性を有する金属層をスパッタリング法によって成膜する技術がある(例えば、特許文献1参照)。または、電極層の材料としては、光透過性に優れた透明導電性の酸化物層を用いる技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-317384号公報
【特許文献2】特開2002-343555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スパッタリング法で下地層に電極層を成膜する場合、下地層にダメージが入る可能性がある。特に、下地層は有機材料で構成されており、仮にダメージが下地層に入った場合、電子デバイスの特性劣化が起き得る。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、スパッタリング法で電極層を下地層に成膜する場合、その下地層へのダメージを抑制する成膜方法及び成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法では、中心軸とターゲット面とを有し、上記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えた複数のロータリターゲットを用いて基板にスパッタリング成膜を行う成膜方法である。
上記成膜方法では、上記複数のロータリターゲットが上記中心軸が互いに平行で上記中心軸が上記基板と平行になるように配置される。
上記複数のロータリターゲットのそれぞれにおいて、上記中心軸から放射状に広がる線が上記基板と交差する側を上記ターゲット面の基板側とし、上記基板側とは反対側を上記ターゲット面の反基板側とした場合、
上記磁石が上記内部から上記反基板側に対向するように位置させ、上記複数のロータリターゲットに放電電力が投入され、
上記複数のロータリターゲットに上記放電電力を投入しながら上記複数のロータリターゲットのそれぞれの上記磁石を上記中心軸を中心に回転させて上記磁石が上記内部から上記基板側に対向するように移動し、
上記磁石が上記基板に最も近くなる基準位置を避けた状態で上記基板にスパッタリング成膜が行われる。
【0007】
このような成膜方法によれば、スパッタリング法で電極層を下地層に成膜する場合、その下地層へのダメージが抑制されることになる。さらに、より適正に下地層へのダメージを抑制するには、下記の成膜方法を適用してもよい。
【0008】
上記の成膜方法においては、上記基準位置に上記磁石が位置しているときの上記磁石の回転角を0度とし、上記磁石を反時計回り方向に回転させることを正の回転角とした場合、上記基準位置からの上記磁石の上記回転角が30度から90度の範囲、または、-30度から-90度の範囲に設定されて、上記基板にスパッタリング成膜が行われてもよい。
【0009】
上記の成膜方法においては、上記回転角の絶対値が30度未満では、上記複数のロータリターゲットへの上記放電電力の投入が遮断されてもよい。
【0010】
上記の成膜方法においては、上記磁石を上記内部から上記反基板側に対向させ、上記複数のロータリターゲットに放電電力を投入させる際には、上記回転角が100度から以上260度の範囲に設定されてもよい。
【0011】
上記の成膜方法においては、上記磁石が上記内部から上記反基板側に対向させた際の放電電力は、上記基板にスパッタリング成膜を行う際の放電電力に比べて小さく設定されてもよい。
【0012】
上記の成膜方法においては、上記基板にスパッタリング成膜が行われる際、上記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの上記磁石の回転方向が同じ方向に向けられてもよい。
【0013】
上記の成膜方法においては、上記基板にスパッタリング成膜が行われる際、上記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの上記磁石の回転方向が逆方向に向けられてもよい。
【0014】
上記の成膜方法においては、上記回転角が30度から90度の範囲で少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で少なくとも1回、上記基板にスパッタリング成膜が行われてもよい。
【0015】
上記の成膜方法においては、上記回転角が30度から90度の範囲で上記磁石が揺動されて少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で上記磁石が揺動されて少なくとも1回、上記基板にスパッタリング成膜が行われてもよい。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、
基板を支持する基板ホルダと、
上記の複数のロータリターゲットと、
上記複数のロータリターゲットのそれぞれに放電電力を投入する電源と、
上記複数のロータリターゲットのそれぞれに投入する放電電力及び上記磁石の回転と制御する制御装置とを具備する。
上記制御装置は、
上記複数のロータリターゲットのそれぞれにおいて、上記中心軸から放射状に広がる線が上記基板と交差する側を上記ターゲット面の基板側とし、上記基板側とは反対側を上記ターゲット面の反基板側とした場合、
上記磁石が上記内部から上記反基板側に対向するように位置させ、上記複数のロータリターゲットに放電電力を投入し、
上記複数のロータリターゲットに上記放電電力を投入しながら上記複数のロータリターゲットのそれぞれの上記磁石を上記中心軸を中心に回転させて上記磁石が上記内部から上記基板側に対向するように移動させ、
上記磁石が上記基板に最も近くなる基準位置を避けた状態で上記基板にスパッタリング成膜をする制御を行う。
【0017】
このような成膜装置によれば、スパッタリング法で電極層を下地層に成膜する場合、その下地層へのダメージが抑制されることになる。さらに、より適正に下地層へのダメージを抑制するには、下記の成膜装置を適用してもよい。
【0018】
上記成膜装置においては、上記基準位置に上記磁石が位置しているときの上記磁石の回転角を0度とし、上記磁石を反時計回り方向に回転させることを正の回転角とした場合、上記基準位置からの上記磁石の上記回転角が30度から90度の範囲、または、-30度から-90度の範囲に設定されて、上記基板にスパッタリング成膜が行われてもよい。
【0019】
上記成膜装置においては、上記回転角の絶対値が30度未満では、上記複数のロータリターゲットへの上記放電電力の投入が遮断されてもよい。
【0020】
上記成膜装置においては、上記磁石を上記内部から上記反基板側に対向させ、上記複数のロータリターゲットに放電電力を投入させる際には、上記回転角が100度から以上260度の範囲に設定されてもよい。
【0021】
上記成膜装置においては、上記磁石が上記内部から上記反基板側に対向させた際の放電電力は、上記基板にスパッタリング成膜を行う際の放電電力に比べて小さく設定されてもよい。
【0022】
上記成膜装置においては、上記基板にスパッタリング成膜が行われる際、上記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの上記磁石の回転方向が同じ方向に向けられてもよい。
【0023】
上記成膜装置においては、上記基板にスパッタリング成膜が行われる際、上記複数のロータリターゲットの中、隣り合うロータリターゲットの上記磁石の回転方向が逆方向に向けられてもよい。
【0024】
上記成膜装置においては、上記回転角が30度から90度の範囲で少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で少なくとも1回、上記基板にスパッタリング成膜が行われてもよい。
【0025】
上記成膜装置においては、上記回転角が30度から90度の範囲で上記磁石が揺動されて少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で上記磁石が揺動されて少なくとも1回、上記基板にスパッタリング成膜が行われてもよい。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、本発明によれば、スパッタリング法で電極層を下地層に成膜する場合、その下地層へのダメージを抑制する成膜方法及び成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態の有機発光素子を示す模式的断面図である。
【
図2】本実施形態の成膜装置の一例を示す模式的断面図である。
【
図3】ロータリターゲットの中心軸の周りに回転移動する磁石の角度の定義を説明するための図である。
【
図4】本実施形態の成膜装置の一例を示す模式的平面図である。
【
図5】本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。
【
図6】本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。
【
図7】本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。
【
図8】図(a)は、隣り合うロータリターゲットにおいて、磁石の回転角θが30度から90度の範囲で1回、及び、-30度から-90度の範囲で1回、基板にスパッタリング成膜が行われたときの様子を示す模式的断面である。図(b)は、磁石の回転角θが30度から90度の範囲で1回、及び、-30度から-90度の範囲で1回、基板にスパッタリング成膜が行われた場合の基板に形成された陰極層の膜厚分布を示す概念グラフである。
【
図9】本実施形態の成膜方法の変形例1を示す模式的断面図である。
【
図10】本実施形態の成膜方法の変形例1を示す模式的断面図である。
【
図11】図(a)は、磁石の回転角θに対する発光強度を示すグラフである。図(b)は、磁石の回転角θに対する成膜速度(nm/分)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0029】
図1は、本実施形態の有機発光素子を示す模式的断面図である。
図1には、一例として、トップエミッション方式の有機発光素子5の要部が示されている。
【0030】
有機発光素子5は、発光層(EML)510と、電子輸送層(ETL)521と、正孔輸送層(HTL)522と、電子注入層(EIL)531と、正孔注入層(HIL)532と、陰極層541と、陽極層542とを具備する。有機発光素子5においては、陽極層542から陰極層541に向かって正孔注入層532、正孔輸送層522、発光層510、電子輸送層521、及び電子注入層531の順で積層されている。
【0031】
発光層510は、陰極層541と陽極層542との間に設けられている。電子注入層531は、陰極層541と発光層510との間に設けられている。正孔注入層532は、陽極層542と発光層510との間に設けられている。電子輸送層521は、電子注入層531と発光層510との間に設けられている。正孔輸送層522は、正孔注入層532と発光層510との間に設けられている。
【0032】
有機発光素子5において、陰極層541から発光層510で発光した光が取り出される。陰極層541の反対側、すなわち、陽極層542の下には、有機発光素子5を支持する支持基板(不図示)が配置されている。基板には、薄膜トランジスタ、配線等の回路、層間絶縁層等が配置されている(いずれも不図示)。支持基板は、可撓性基板でもよく、可撓性のない板状基板でもよい。
【0033】
陰極層541は、光透過性に優れ、低抵抗の導電層で構成される。陰極層541は、減圧雰囲気下で形成されたスパッタリング層(スパッタリング膜とも呼称される)であり、厚みが10nmよりも大きく20nm以下、好ましくは15nm以上20nm以下で構成される。陰極層541の材料は、Ag及びAlの少なくとも1つを含む。陰極層541の材料は、Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1成分と、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2成分とを含有させてもよい。
【0034】
また、陰極層541を上記の金属層のみで構成した場合は、その厚みが20nm以下で構成されることから、陰極層541の低抵抗化、機械的強度に限界が生じる。これを補填するために、金属層の上に、透明導電性酸化物で構成された透明導電層をスパッタリング成膜してもよい。透明導電性酸化物であれば、光透光性に優れ、導電性にも優れる。透明導電性酸化物としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium-Zinc-Oxide)等があげられる。この場合、陰極層541は、下地から金属層/透明導電性酸化物層の順で構成された2層構造となる。
【0035】
電子注入層531は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む。例えば、電子注入層531は、LiF、CsF、NaF、Ca、Ba、Ybの少なくとも1つを含む。電子注入層531の厚みは、光透過を高めるために、極薄に構成されており、例えば、5nm以上10nm以下である。
【0036】
陽極層542と陰極層541とに電圧が印加されると、正孔注入層532から正孔輸送層522に正孔が注入され、電子注入層531から電子輸送層521に電子が注入される。続いて、正孔輸送層522を移動した正孔と、電子輸送層521を移動した電子とが発光層510で再結合し、発光層510で光が生成される。発光層510で生成された光は、発光層510から陽極層542及び陰極層541のそれぞれの側に放出される。
【0037】
有機発光素子5は、トップエミッション型であり、正孔注入層532、正孔輸送層522、発光層510、電子輸送層521、電子注入層531、及び陰極層541は、発光光に対する光透過率が高く構成されている。また、陽極層542は、発光光を反射するように構成されている。これにより、発光層510から直接陰極層541に向かう発光光と陽極層542によって跳ね返された発光光とが合成し、有機発光素子5内の発光光が陰極層541を透過して、有機発光素子5の外部に放出される。
【0038】
ここで、陰極層541を電子注入層531上に形成する場合、陰極層541から下層の電子注入層531、電子輸送層521、発光層510、正孔輸送層522、及び正孔注入層532の有機材料層にダメージが入らないことが好ましい。これらの有機材料層にダメージが入ると、有機発光素子5の発光特性の劣化、または電気特性の劣化が起き得る。
【0039】
本実施形態では、陰極層541の成膜方法としてマグネトロンスパッタリング法を導入し、陰極層541から下層の有機材料層にダメージが入りにくい成膜方法、成膜装置を提供する。さらに、陰極層541の膜厚分布において、優れた特性を示す成膜方法、成膜装置を提供する。
【0040】
図2(a)、(b)は、本実施形態の成膜装置の一例を示す模式的断面図である。
図2(a)には、成膜装置1において複数のロータリターゲットと基板との配置関係を示す模式的な断面が示され、
図2(b)には、その配置関係を示す模式的な平面が示されている。
【0041】
本実施形態の成膜装置1として、マグネトロンスパッタリング装置が例示される。成膜装置1では、回転可能な円筒状の複数のロータリターゲットの少なくとも2個以上が用いられて基板10にスパッタリング成膜(マグネトロンスパッタリング)がなされる。
図2(a)、(b)には、例えば、10個のロータリターゲット201~210が例示されている。複数のロータリターゲットの数は、この数に限らず、例えば、基板10のサイズに応じて適宜変更される。基板10には、陰極層541下の下地層(有機材料層)が設けられているとする。
【0042】
複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、中心軸20とターゲット面(スパッタリング面)21とを有する。複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、中心軸20の周りに回転可能な磁石を内部に備える。例えば、
図2(a)、(b)の例では、複数のロータリターゲット201~210の順に、磁石301~310が配置されている。磁石301~310は、所謂、磁石アセンブリである。磁石301~310は、永久磁石と磁気ヨークとを有する。成膜装置1には、ロータリターゲット201~210と、磁石301~310とを回転させる回転機構(不図示)が設けられている。
【0043】
複数のロータリターゲット201~210は、中心軸20が互いに平行で、かつ中心軸20が基板10と平行になるように配置される。例えば、複数のロータリターゲット201~210は、中心軸20と交差する方向にターゲット面21同士が互いに対向するように等間隔で並設される。複数のロータリターゲット201~210が並設された方向は、基板10の長手方向に対応している。なお、必要に応じて、複数のロータリターゲット201~210が並設された方向は、基板10の短手方向としてもよい。
【0044】
基板10は、図示しない基板ホルダに支持される。基板ホルダの電位は、例えば、浮遊電位、接地電位等とする。複数のロータリターゲット201~210は、複数のロータリターゲット201~210が並ぶ方向が基板10の長手方向に平行になるように配置される。複数のロータリターゲット201~210のそれぞれのターゲット面21は、基板10の成膜面11に対向している。
【0045】
なお、
図2(a)、(b)では、複数のロータリターゲット201~210が並設された方向がY軸方向に対応し、基板10から複数のロータリターゲット201~210に向かう方向がZ軸に対応し、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれが延在する方向がX軸に対応している。
【0046】
また、Z軸方向において複数のロータリターゲット201~210と基板10とを見た場合、Y軸方向において、両端に配置された一対のロータリターゲット201、210が基板10からはみ出すように配置される。例えば、一対のロータリターゲット201、210のそれぞれの少なくとも一部と、基板10とが重なるように、複数のロータリターゲット201~210と基板10とが配置される。
【0047】
図2(a)、(b)の例では、Z軸方向において、ロータリターゲット201の中心軸20と、基板10のY軸方向における端部12aとが重複している。また、ロータリターゲット210の中心軸20と、基板10のY軸方向における端部12bとが重複している。
【0048】
Y軸方向において、複数のロータリターゲット201~210のピッチは、略均等に設定される。また、スパッタリング成膜中における、複数のロータリターゲット201~210と基板10との相対距離は、固定距離とされる。
【0049】
複数のロータリターゲット201~210の材料は、例えば、陰極層541を構成する材料である。基板10は、例えば、陰極層541下の有機材料層を含む有機樹脂シート、あるいは、その有機材料層を含むガラス板等である。
【0050】
本実施形態では、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれに放電電力が投入され、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれの磁石が中心軸20の周りに回転移動して基板10にスパッタリング成膜がなされる。
【0051】
複数のロータリターゲット201~210のそれぞれには、それぞれのロータリターゲットの消耗を略均等にするため、同じ電力が投入される。投入電力は、直流電力でもよく、RF帯、VHF帯等の交流電力でもよい。また、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、時計回りまたは反時計回りに回転することができる。複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、成膜時に時計回りまたは反時計回りに回転する。
【0052】
図3は、ロータリターゲットの中心軸の周りに回転移動する磁石の角度の定義を説明するための図である。
図3では、一例として、複数のロータリターゲット201~210の中、ロータリターゲット202が例示される。磁石の角度、正角度、負角度、及び基準位置A(後述)の定義については、ロータリターゲット202以外のロータリターゲット201、203~210、すなわち、複数のロータリターゲット201、203~210のそれぞれについても、ロータリターゲット202と同様の定義がなされる。なお、
図2(a)には図示されていない防着板411がロータリターゲット202を挟んで基板10の反対側に配置される。
【0053】
磁石302の回転角θについては、磁石302の中心と基板10との距離が最短となるときの磁石302の角度が0度とされる。例えば、中心軸20から基板10の成膜面11に垂線を引いた場合、この垂線と磁石302の中心30とが一致した位置が磁石302の角度0度に相当する。磁石302が中心軸20を回転移動するとき、その中心30は、円弧の軌道を描く。角度が0度のとき、磁石310は基板10に最も近づき、このときの円弧上の位置を基準位置Aとする。
【0054】
換言すれば、基準位置Aでは、磁石302が基板10に最も近くなる。また、基準位置Aに磁石302が位置しているときの磁石302の回転角θは0度である。また、磁石302の角度の正負については、0度から反時計回り方向に磁石302を回転させるときの方向を正の回転角(+θ)、時計回り方向に磁石302を回転させるときの方向を負の回転角(-θ)とする。なお、磁石302の位置とは、ある角度における中心30の角度位置であるとする。
【0055】
また、本実施形態においては、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれにおいて、中心軸20から放射状に広がる線25が基板10と交差する側をターゲット面21の基板側211とし、基板側211とは反対側をターゲット面21の反基板側212とする。
【0056】
ロータリターゲット202の中心軸20の周りに磁石302を回転移動させることにより、マグネトロン放電時においては、磁石302が対向するターゲット面21付近にプラズマを集中させることができる。磁石302が対向するターゲット面21から優先的にスパッタリング粒子を放出することができる。これにより、磁石302の角度に応じて、スパッタリング粒子がターゲット面21から放出する指向を制御することができる。なお、磁石302においては、S極と、S極を囲むN極とがロータリターゲット202の内側からロータリターゲット202に対向する。
【0057】
図4は、本実施形態の成膜装置の一例を示す模式的平面図である。
図4には、成膜装置1が上方から見た場合の平面図が模式的に描かれている。成膜装置1には、少なくとも2個以上のロータリターゲットが配置される。
【0058】
成膜装置1は、真空容器401と、複数のロータリターゲット201~210と、電源403と、基板ホルダ404と、圧力計405と、ガス供給系406と、ガス流量計407と、排気系408と、制御装置410と、防着板411を具備する。基板ホルダ404には、基板10が支持されている。
【0059】
真空容器401は、排気系408によって減圧雰囲気を維持する。真空容器401は、複数のロータリターゲット201~210、基板ホルダ404、及び基板10等を収容する。真空容器401には、真空容器401内の圧力を計測する圧力計405が取り付けられる。また、真空容器401には、放電ガス(例えば、Ar、酸素)を供給するガス供給系406が取り付けられる。真空容器401内に供給されるガス流量は、ガス流量計407で調整される。
【0060】
複数のロータリターゲット201~210は、成膜装置1の成膜源である。例えば、複数のロータリターゲット201~210が真空容器401内に形成されるプラズマによってスパッタリングされると、スパッタリング粒子が複数のロータリターゲット201~210から基板10に向けて出射される。
【0061】
電源403は、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれに放電電力を投入する。電源403は、DC電源でもよく、RF、VHF等の高周波電源でもよい。複数のロータリターゲット201~210に電源403から放電電力が供給されると、複数のロータリターゲット201~210のターゲット面21の近傍にプラズマが形成される。
【0062】
制御装置410は、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれに投入される放電電力及び磁石の回転と制御する。制御装置410は、磁石301~310の回転移動の制御、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれへの電力供給を制御する。さらに、制御装置410は、ガス流量計407の開度等を制御する。圧力計405で計測された圧力は、制御装置410に送られる。これにより、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれの磁石が中心軸20の周りに回転移動し、基板10にスパッタリング成膜がなされる。
【0063】
以下、制御装置410によって制御される本実施形態の成膜方法についてロータリターゲット202を例に説明する。なお、以下の動作は、ロータリターゲット202に限らず、ロータリターゲット202を含めた複数のロータリターゲット201~210のそれぞれに適用される。
【0064】
図5(a)~
図7(c)は、本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。
【0065】
放電ガスを着火(電離)させた瞬時には、一般的に、そのプラズマ密度がプラズマが定常状態にある時よりも高くなる傾向にある。従って、磁石302を基板10に対向させた状態でターゲット面21近傍で放電を開始すると、基板10に設けられている下地層(有機材料層)が高密度のプラズマ22に晒されることになる。これにより、プラズマ22に含まれる、スパッタリング粒子、イオン、ラジカル、及び電子のいずれか(以下、スパッタリング粒子等と総称する。)によって、下地層(有機材料層)がダメージを受ける場合がある。
【0066】
従って、本実施形態では、放電開始時のプラズマが基板10に晒されないよう、ロータリターゲット202の内部から磁石302をロータリターゲット202の反基板側212に対向するように位置させて、ロータリターゲット202に放電電力を投入して放電を開始させる。この状態を
図5(a)に示す。放電開始時の磁石302の回転角θとしては、100度以上260度以下の範囲に設定される。
図5(a)では、一例として、回転角θとして180度の例が示されている。
【0067】
このような磁石302の配置によれば、放電開始時、ターゲット面21近傍に形成されるプラズマ22は、ロータリターゲット202と防着板411との間に形成される。これにより、プラズマ22に含まれるスパッタリング粒子等は、放電開始時、基板10はなく防着板411に向かう。このため、基板10に設けられている下地層は、スパッタリング粒子等によってダメージを受けにくくなる。また、防着板411を反基板側212に設置することによって放電開始時にロータリターゲット202から飛遊した、成膜に寄与しないスパッタリング粒子が防着板411に確実に捕獲される。
【0068】
次に、
図5(b)、続いて
図5(c)に示すように、ロータリターゲット202の磁石302を中心軸20を中心に時計回りに回転させる。磁石302の回転中には、ロータリターゲット202への放電電力の投入を維持する。これにより、プラズマ22は、磁石320とともにターゲット面21を沿うように時計回りに移動する。
【0069】
次に、
図6(a)に示すように、ロータリターゲット202の内部から磁石302をロータリターゲット202の基板側211に対向するように移動させる。この状態で基板10に設けられている下地層上にスパッタリング成膜が行われる。
【0070】
本実施形態のスパッタリング成膜は、磁石302が基準位置Aを避けた状態で実行される。例えば、基準位置Aからの磁石302の回転角θが30度から90度の範囲に設定されて、基板10にスパッタリング成膜が行われる。この際、磁石302は、回転角θが30度から90度の範囲で固定される。
図6(a)では、一例として、回転角θとして30度でスパッタリング成膜される例が示されている。
【0071】
次に、
図6(b)、
図6(c)、
図7(a)、及び
図7(b)の順で示すように、ロータリターゲット202に放電電力を投入しながら、ロータリターゲット202の磁石302を中心軸20を中心に反時計回りに回転させる。これにより、プラズマ22は、磁石320とともにターゲット面21を沿うように反時計回りに移動する。
【0072】
次に、
図7(c)に示すように、ロータリターゲット202の内部から磁石302をロータリターゲット202の基板側211に対向するように移動させて、基板10に設けられている下地層上にスパッタリング成膜が行われる。この場合でも、磁石302が基準位置Aを避けた状態で基板10にスパッタリング成膜がなされる。
【0073】
例えば、基準位置Aからの磁石302の回転角θが-30度から-90度の範囲(270度から330度の範囲)に設定されて、基板10にスパッタリング成膜が行われる。この際、磁石302は、回転角θが-30度から-90度の範囲で固定される。
図7(c)では、一例として、回転角θとして-30度でスパッタリング成膜される例が示されている。
【0074】
ここで、スパッタリング成膜を終了してもよく、あるいは、この後、再び磁石302が時計回りに回転させて、
図5(a)~
図7(c)に示す動作が繰り返されてもよい。すなわち、回転角θが30度から90度の範囲で少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で少なくとも1回、基板10にスパッタリング成膜が行われる。または、スパッタリング成膜は、回転角θが30度から90度の範囲で1回のみ、あるいは、-30度から-90度の範囲で1回のみ行われもよい。
【0075】
図8(a)に、隣り合うロータリターゲットにおいて、磁石の回転角θが30度から90度の範囲で1回、及び、-30度から-90度の範囲で1回、基板にスパッタリング成膜が行われたときの様子を示す。また、
図8(b)に、磁石の回転角θが30度から90度の範囲で1回、及び、-30度から-90度の範囲で1回、基板にスパッタリング成膜が行われた場合の基板に形成された陰極層の膜厚分布を示す。
【0076】
図8(a)には、複数のロータリターゲット201~210の中、隣り合うロータリターゲット202、203が例示される。実線で描かれた磁石302、303は、回転角θが30度から90度の範囲(例えば、30度)に位置させてスパッタリング成膜を実行した場合の状態であり(最初の成膜)、破線で描かれた磁石302、303は、回転角θが-30度から-90度の範囲(例えば、-30度)に位置させてスパッタリング成膜を実行した場合の状態(次の成膜)である。
図8(a)には、2回に及ぶ成膜動作が重ねて示されている。
【0077】
このように、基板10にスパッタリング成膜が行われる際には、複数のロータリターゲット201~210の中、隣り合うロータリターゲットの磁石の回転方向が同じ方向に向けられる。
【0078】
次に、
図8(b)に示す実線は、回転角θが30度から90度の範囲に位置させてスパッタリング成膜を実行した場合(最初の成膜)の長さ方向Lにおける膜厚分布を概念的に示したものである。また、
図8(b)に示す破線は、回転角θが-30度から-90度の範囲に位置させてスパッタリング成膜を実行した場合(次の成膜)の長さ方向Lにおける膜厚分布を概念的に示したものである。
【0079】
実線及び破線のどちらの膜厚分布もプラズマ22の濃い領域において膜厚が相対的に高くなることが分かる。但し、これらの膜厚分布を足し合わせることにより、膜厚分布が均一になることが分かる。
【0080】
このように、回転角θが30度から90度の範囲、または、-30度から-90度の範囲でスパッタリング成膜を行うことにより、スパッタリング粒子等の下地層への垂直成分が減少して、スパッタリング粒子等の下地層への侵入深度が見かけ上長くなる。これにより、基板10に設けられている下地層はプラズマ22によってダメージを受けることなく、下地層に良質なスパッタリング膜(陰極層541)が形成される。なお、回転角θの絶対値が30度未満(-30°<θ<30°)に位置した場合は、ロータリターゲット202への放電電力の投入が遮断される。
【0081】
また、回転角θが30度から90度の範囲に位置させてのスパッタリング成膜と、回転角θが-30度から-90度の範囲に位置させてのスパッタリング成膜とを実行することによって、基板10におけるスパッタリング膜の膜厚分布が良好になる。
【0082】
例えば、6個のロータリターゲットを用いて、それぞれの回転角θを仮に0度として、スパッタリング成膜を2回実行した場合の基板面内の膜厚分布が10.6%となったときに、それぞれの回転角θを60度または-60度に設定し、回転角θが60度でスパッタリング成膜を1回、続いて、回転角θが-60度でスパッタリング成膜を1回、実行した場合の基板面内の膜厚分布は3.9%にまで向上する。さらに、それぞれの回転角θを30度または-30度に設定し、回転角θが30度でスパッタリング成膜を1回、続いて、回転角θが-30度でスパッタリング成膜を1回、実行した場合の基板面内の膜厚分布は2.1%にまで向上する。ここで、膜厚分布は、((膜厚の最大値)-(膜厚の最小値))/((膜厚の最大値)+(膜厚の最小値))×100(%)の式から算出される。
【0083】
なお、磁石302をロータリターゲット202の内部から反基板側212に対向させた場合の放電電力は、基板10にスパッタリング成膜が行われる際の放電電力に比べて小さく設定されてもよい。このような制御をすることで、磁石302が反基板側212に位置しているときに起き得る隣り合うロータリターゲット間での着膜が抑制される。
【0084】
(変形例1)
【0085】
図9及び
図10は、本実施形態の成膜方法の変形例1を示す模式的断面図である。
図9及び
図10には、複数のロータリターゲット201~210の両側に配置されたロータリターゲット201、210と、それらの内側に配置されたロータリターゲット202、209が例示されている。
【0086】
基板10にスパッタリング成膜が行われる際、複数のロータリターゲット201~210では、隣り合うロータリターゲットの磁石の回転方向が逆方向に向けられてもよい。例えば、
図9に示すように、ロータリターゲット201の磁石301の回転角θが30度に設定されるときは、ロータリターゲット201に隣り合うロータリターゲット202の磁石302の回転角θが-30度に設定される。また、ロータリターゲット209の磁石309の回転角θが-30度に設定されるときは、ロータリターゲット209に隣り合うロータリターゲット210の磁石310の回転角θが30度に設定される。
【0087】
また、ロータリターゲット201~210の群の両側には、磁石311と磁石312とが配置される。磁石311、312においても、図示しない回転機構が設けられ、磁石301~310と同様に回転角θが調整される。例えば、
図9の状態では、磁石311が磁石309と同じ回転角に傾けられ、磁石312が磁石302と同じ回転角に傾けられている。また、
図10の状態では、磁石311が磁石302と同じ回転角に傾けられ、磁石312が磁石309と同じ回転角に傾けられている。なお、磁石301~312のそれぞれの回転角θが0度のとき、磁石301~312のそれぞれと基板10との間の距離は同じであり、磁石301~312のそれぞれは、等間隔に配置されている。
【0088】
このような磁石の配置によっても、磁石の回転角θが30度から90度の範囲、または、-30度から-90度の範囲でスパッタリング成膜が遂行されることから、基板10に設けられている下地層はプラズマ22によってダメージを受けることなく、下地層に良質なスパッタリング膜が形成される。
【0089】
さらに、
図9に示す状態でのスパッタリング成膜を少なくとも1回、及び、
図10に示す状態でのスパッタリング成膜を少なくとも1回、実行することによって、双方のスパッタリング成膜での膜厚分布が重ね合わされ、基板10におけるスパッタリング膜の膜厚分布が良好になる。
【0090】
ここで、
図10の状態のように、磁石301の回転角θが-30度となったとしても、磁石301には、回転角θが30度に設定された磁石311が隣接する。従って、磁石301と磁石311とによって形成される磁力線は、
図9に示す磁石301と磁石302とによって形成される磁力線と略同じ状態になる。同様に、磁石310の回転角θが30度となったとしても、磁石310には、回転角θが-30度に設定された磁石312が隣接する。従って、磁石310と磁石312とによって形成される磁力線は、
図9に示す磁石309と磁石310とによって形成される磁力線と略同じ状態になる。
【0091】
これにより、
図9に示す状態と
図10に示す状態とを交互に切り替えたとても、磁石310~310は、隣同士で一方の回転角θが30度で他方の回転角θがー30度の組を形成することができ、
図9、10の双方に示す状態において安定してプラズマ放電が継続する。
【0092】
(変形例2)
【0093】
基板10にスパッタリング成膜を行う場合、磁石301~310の回転角θを揺動させてもよい。例えば、磁石301~310のそれぞれの回転角θを30度から90度の範囲で揺動させてスパッタリング成膜を少なくとも1回、及び、-30度から-90度の範囲で揺動させてスパッタリング成膜を少なくとも1回、実行させてもよい。このような磁石の揺動制御をすることによって、基板10におけるスパッタリング膜の膜厚分布がより良好になる。
【0094】
(変形例3)
【0095】
ロータリターゲット201~210の中、隣り合うロータリターゲットの内部に配置された磁石の極性をロータリターゲット201~210の群の両端に配置された磁石も含めて異ならせてもよい。例えば、
図9および
図10において、磁石311、ロータリターゲット201、202を例にあげると、ロータリターゲット201の表面に向かう磁石301の極性は、中央がS極と、そのS極を囲むN極の構成とされ、磁石311及び磁石302においては、中央がN極と、そのN極を囲むS極の構成とされる。このような構成を採用することにより、隣り合うロータリターゲット間に形成される磁場が効率よく電子や電荷粒子を収束する。その結果、下地層に対してダメージを抑制することが可能となる。
【0096】
(評価)
【0097】
発光素子サンプルとして、サンプルA、Bの2種類を準備した。サンプルA、Bにおいては、基板10としてガラス基板を用い、発光材料であるトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(通称、Alq3)膜をガラス基板に50nm形成した。さらに、Alq3膜の上に陰極層541に含まれるIZO(Indium-Zinc-Oxide)膜を100nm、スパッタリング成膜した。励起光として、390nmの光を用いた。サンプルA、Bの発光強度として、発光スペクトルのピーク波長である533nmの発光光を検出した。
【0098】
図11(a)は、磁石の回転角θに対する発光強度(a.u.:arbitrary unit)を示すグラフである。
図11(a)に示すように、回転角θが30度未満では、発光強度が急激に減少することが分かる。回転角θが30度未満になると、Alq3膜がスパッタリング粒子等によってダメージを受け、その機能が低下すると推測される。一方、回転角θが30度以上90度以下では、回転角θが30度未満の場合に比べて発光強度が高くなることが分かる。
【0099】
また、
図11(b)は、磁石の回転角θに対する成膜速度(nm/分)を示すグラフである。
図11(b)に示すように、回転角θの増加とともに、成膜速度が減少することが分かる。そして、回転角θが100度以上になると、成膜速度が略0(nm/分)になることが分かる。これにより、回転角θが30度以上90度以下では回転角θの増加とともに成膜速度は減少するものの、回転角θが30度以上90度以下であれば基板10に陰極層541を形成できることが分かった。換言すれば、回転角θが100度以上260度以下では、スパッタリング粒子が基板10に向かわないことから、回転角θが100度以上260度以下の範囲を放電開始の回転角に適用できる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…成膜装置
5…有機発光素子
10…基板
11…成膜面
12a、12b…端部
20…中心軸
21…ターゲット面
22…プラズマ
201~210…ロータリターゲット
211…基板側
212…反基板側
301~310…磁石
401…真空容器
403…電源
404…基板ホルダ
405…圧力計
406…ガス供給系
407…ガス流量計
408…排気系
410…制御装置
411…防着板
510…発光層
521…電子輸送層
522…正孔輸送層
531…電子注入層
532…正孔注入層
541…陰極層
542…陽極層