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特開2023-33778タングステン基焼結合金および製造方法、並びにそれを用いた放電電極用部材および点火プラグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033778
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】タングステン基焼結合金および製造方法、並びにそれを用いた放電電極用部材および点火プラグ
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/04 20230101AFI20230306BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230306BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C22C1/04 D
B22F3/00 A
B22F5/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139667
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(72)【発明者】
【氏名】澤井 優輔
(72)【発明者】
【氏名】森岡 勉
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA20
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA09
4K018BA13
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC11
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA11
4K018CA23
4K018DA11
4K018DA21
4K018DA32
4K018DA33
4K018FA08
4K018KA37
(57)【要約】
【課題】 WにNi、Cu、Feを含有したW焼結合金の、焼結体の密度や硬度のばらつきを改善し、良好な加工性を有するW基焼結合金および製造方法を提供することである。
【解決手段】 実施形態のW基焼結合金は、Wが50wt%以上で、残部がNi、Fe、Cuを含有するW基焼結合金において、前記W基焼結合金の組織は、Ni、Fe、Cuを主成分とする粒界相とW粒子を有し、前記W基焼結合金の任意の切断面中の270μm×270μm正方形領域において、相対する辺を直角に横切る直線上における、粒界相が占める長さの割合(線密度)は、0.05以上0.50以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンが50wt%以上で、残部がNi、Fe、Cuを含有するタングステン基焼結合金において、前記タングステン基焼結合金の組織は、Ni、Fe、Cuを主成分とする粒界相とタングステン粒子を有し、前記タングステン基焼結合金の任意の切断面中の270μm×270μm正方形領域において、相対する辺を直角に横切る直線上における、粒界相が占める長さの割合(線密度)は、0.05以上0.50以下であるタングステン基焼結合金。
【請求項2】
前記タングステン基焼結合金において、前記線密度は、0.10以上0.50以下である、請求項1に記載のタングステン基焼結合金。
【請求項3】
前記タングステン基焼結合金において、前記線密度の標準偏差は、0.05以上0.10以下である、請求項1ないし2に記載のタングステン基焼結合金。
【請求項4】
前記タングステン基焼結において、前記タングステン粒子の形状は、その外周部が鋭角のない境界で構成される、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタングステン基焼結合金。
【請求項5】
前記タングステン基焼結合金において、任意の切断面中の270μm×270μm正方形領域内における各々のタングステン粒子について、タングステン粒子を楕円とみなし、2方向の径の平均を結晶粒径とした場合のタングステン粒子の平均結晶粒径は20μm以上40μm以下であることを特徴とした請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタングステン基焼結合金。
【請求項6】
前記タングステン基焼結合金において、任意断面のビッカース硬度の測定値は250Hv以上350Hv以下であり、標準偏差が10~20Hvである、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタングステン基焼結合金。
【請求項7】
原料粉末をスプレードライ法によって造粒する、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のタングステン基焼結合金の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のタングステン基焼結合金を使用した、放電電極用部材。
【請求項9】
請求項8記載の放電電極用部材を用いたことを特徴とする点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タングステン基焼結合金および製造方法、並びにそれを用いた放電電極用部材および点火プラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タングステン(W)基焼結合金は、耐酸化性,低熱膨張,高熱伝導,高温時の優れた機械的特性を有し、ダイカスト金型部品,ガラスレンズモールド成型部品,半導体部品,各種電極にも使用されている。例えば、ガソリンエンジン用の点火プラグに搭載される中心電極は、点火時に火花を発生させる陽極部材(放電電極用部材)で、最も過酷な環境に曝される。このため、適用素材には耐熱性や耐食性が求められ、W基焼結合金が使用されている。
【0003】
Wに、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)を含有したW焼結合金は、優れた加工性を有する。加えて焼結時において、その他のW合金に比べて、500℃以上低い焼結温度で、緻密な焼結体を得ることが可能である。これらの特徴から中心電極には、Ni、Cu、Feを含有したW焼結合金が用いられる。
【0004】
中心電極に用いるW焼結合金は、粉末を成型・焼結する粉末冶金法により、直径3~5mm、長さ10~13mmの棒状の素材となる。その後、所定の加工を行い、中心電極となる。このような小寸法の焼結合金で、焼結後の金属組織がばらつくと、それによる焼結体の密度や硬度のばらつきが、中心電極とするために必要な、その後の冷間塑性加工等、所定の加工を困難とする。もしくは、加工後の寸法のばらつきが大きく、必要な寸法公差を満たせずに、製品歩留を大きく低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5847196号公報
【特許文献2】特開平6-279909号公報
【特許文献3】特開2004-353006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、WにNi、Cu、Feを含有したW焼結合金の、焼結体の密度や硬度のばらつきを改善し、良好な加工性を有するW基焼結合金および製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、実施形態にかかるW基焼結合金は、Wが50wt%以上で、残部がNi、Fe、Cuを含有するW基焼結合金において、前記W基焼結合金の組織は、Ni、Fe、Cuを主成分とする粒界相とW粒子を有し、前記W基焼結合金の任意の切断面中の270μm×270μm正方形領域において、相対する辺を直角に横切る直線上における、粒界相が占める長さの割合(線密度)は、0.05以上0.50以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態のW焼結合金の断面組織の例
図2】W粒子の形状と軸の例
図3】スプレードライ法による造粒の例を示す模式図
図4】造粒粉の形状の例を示す模式図
図5】点火プラグの例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のW基焼結合金について図面を参照して説明する。なお、図面は模式的なものであり、例えば、各部の寸法の比率等は、図面に限定されるものではない。
【0010】
図1に、実施形態のW焼結合金の断面組織を、例として示す。図1中、1はタングステン基焼結合金、2はタングステン粒子、3は粒界相である。タングステン基焼結合金1のことをW基焼結合金1と呼ぶこともある。タングステン粒子2をW粒子2と呼ぶこともある。断面組織は、サンプル加工のし易さから、長さ方向断面で測定する。得られた断面に対して、研磨を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。観察面は例えば、表面粗さRaが1μm以下の研磨面である。またSEM像には反射電子像を用いることで、W粒子2と粒界相が判別可能となる。W粒子2と粒界相はコントラストに差が生じ、W粒子2はグレー、粒界相は黒色に見えるため、W粒子2と粒界相は判別可能である。1000倍で観察したSEM像を使い、270μm×270μmの正方形領域を設定する。この視野であれば、W粒子2と粒界相が明確に判別できる。また、W粒子2と粒界相が多数、観察可能で線密度の測定に適している。粒界相とは、Ni、Fe、Cuを主成分とする相であり、ここで「主成分」とは、前記各元素の合計が、80wt%以上である事を意味する。270μm×270μmの正方形領域で、相対する辺を直角に横切る直線(L1)を引き、その直線が、粒界相を横切る長さ(A1~A6)を測定する。
線密度は次式により求める。線密度=「粒界相を横切る長さの和(μm)」/270(μm)。
サンプル1断面につき2視野観察し、1視野で5回測定する。従って、1サンプルにつき10回の測定を行う。この測定視野と測定回数は例示であるが、対象となるW焼結合金全体を偏りなく測定するには、この方法がよい。焼結孔(P)は空孔(ポア)のことである。PはW粒子2中、または粒界相中に形成される。Pは粒界相に含めるものとする。
【0011】
実施形態の粒界相の線密度は、0.05以上0.50以下、さらには0.10以上0.50以下が好ましい。実施形態にかかるW基焼結合金は、どこの粒界相の線密度を測定したとしても0.05以上0.50以下の範囲内となる。線密度が0.50を超えると、粒界相の割合が多いため焼結体の硬度が低くなる。また、硬度のばらつきも大きくなる。硬度が低く、また硬度のばらつきが大きいと、冷間塑性加工時の加工寸法にばらつきが生じ易くなる。一方、線密度が0.05を下回ると、W粒子の割合が多いため硬度が高くなる。硬度が高すぎると冷間塑性加工がし難くなる。また、W粒子同士が接触する割合が増える。W粒子同士の粒界は、冷間塑性加工で割れ易い。
【0012】
実施形態の粒界相の線密度の標準偏差は、0.10以下である。標準偏差が0.10を超えると、焼結体の加工性にばらつきが生じ、冷間塑性加工時の加工寸法がばらつき易くなる。標準偏差の下限は特に限定されないが、製造条件の変動を考慮すると、0.05以上である。なお、標準偏差は、10回以上の粒界相の線密度のデータから求めるものである。
【0013】
前記、1000倍で観察したSEM像の270μm×270μmの正方形領域に対し、前記W粒子2の形状と粒径の測定を行う。観察視野内に完全に含まれる全てのW粒子2を対象とする。図2に、前記W粒子の形状と粒径の測定方法の例を示す。形状判定は、画像を目視で行う。また、W粒子の結晶粒径は、W粒子の直交する長軸(X)と短軸(Y)を測定し、その平均値=(Y+X)/2とする。
【0014】
前記、1000倍で観察したSEM像のW粒子の形状は、その外周部に鋭角のない境界で構成される。焼結後のW粒子が鋭角の境界を持つと、焼結が不十分な場合が多く、その結果、冷間塑性加工がし難くなる。また鋭角な境界は、応力が集中し易くなり、加工での割れが発生し易くなる恐れがある。
【0015】
実施形態のW粒子の平均結晶粒径は、20μm以上40μm以下である。平均結晶粒径が20μm未満だと、W粒子の粒界面積が多いため、粒界相の厚みが小さくなる。このため、W粒子の割合が多くなり、硬度が高くなる。硬度が高すぎると冷間塑性加工がし難くなる。また、焼結が不十分な場合が多く、その結果、冷間塑性加工がし難くなる。平均結晶粒径が40μmを超えると、W粒子の粒界面積が少なくなるため、粒界相の厚みが大きくなる。このため、粒界相の割合が多くなり、焼結体の平均硬度が低くなる。また、硬度のばらつきも大きくなる。硬度が低く、また硬度のばらつきが大きいと、冷間塑性加工時の加工寸法にばらつきが生じ易くなる。
【0016】
前記、組織観察を行ったサンプルを使用し、ビッカース硬度(Hv)を測定する。荷重1kgf×10sec保持し、圧痕を400倍で観察し、測定する。測定位置はランダムとし、少なくとも10回測定し、測定値が規定の範囲内であるかを確認するとともに、標準偏差を求める。
【0017】
実施形態の硬度は、250Hv以上350Hv以下、標準偏差は、20Hv以下である。硬度が350Hvを超える部分は、冷間塑性加工中の割れや加工用治具の破損を引き起こす恐れがある。250Hv未満の部分は、焼結が充分に進んでおらず、内部空隙の存在や粒界相の偏析が起きている可能性がある。また、標準偏差が20Hvを超えると、冷間塑性加工時の加工寸法にばらつきが生じ易くなる。標準偏差の下限は特に限定されていないが、製造条件の変動を考慮すると、10Hv以上である。
【0018】
実施形態のW基焼結合金の成分は、Niが1.0wt%以上20wt%以下、Feが0.1wt%以上10wt%以下、Cuが0.1wt%以上10wt%以下、残りがタングステンおよび不可避不純物である。不可避不純物とは酸素や炭素のことを指し、1~200wtppm程度含む。なお、Ni、Fe、Cuの含有率は、ICP発光分光法にて分析し、酸素や炭素は赤外線吸収法にて分析し、求める。
【0019】
上記Ni成分は、W 粉末の焼結に必要な液相を提供し、且つWの粒界拡散係数を向上させる成分である。このNi成分が1wt%未満では、焼結時のW基焼結合金の緻密化が起きず、所定の比重が得られないばかりでなく、残留空孔の存在によって強度も低下してしまう。Ni成分が20wt%を超えると、焼結時のNi液相の増大により、Wの各粒子の相対的な位置ずれが生じ、冷却後に形状が歪んでしまう。また、相対的にW含有量が低くなり、W基の特性が損なわれるようになる。
【0020】
上記Fe成分は、Ni成分に固溶することによってその結合相の強度の向上を図ることができる。そして、Fe成分が、0.1wt%未満では強度向上の効果が全く見られない。10wt%を超えると、延性の低下を招くとともに、相対的にW含有量が低くなり、W基の特性が損なわれるようになる。
【0021】
上記Cu成分は、Niより低い温度で液相を発生させ、焼結性が向上する。また、Ni-Fe-Cu組成での結合相を形成し、強度の向上を図ることができる。Cuが0.1wt%未満では焼結性を向上させる効果がほとんど見られず、強度の向上も確保することができない。Cuが10wt%を越えると、相対的にW含有量が低くなり、W基の特性が損なわれるようになる。
【0022】
次に、本実施形態に係るW基焼結合金の製造方法について説明する。製造方法は特に限定されるものではないが、例えば次のような方法が挙げられる。
【0023】
(1)原料配合工程
W、Ni、Fe、Cuの金属粉末を、それぞれ秤量して、混合する。混合は、例えば、セラミックス製のポット容器へ、セラミックス製のボールとともに投入し、ポットミル等により行う。混合後、必要に応じ、分析用サンプルを採取し、前記の方法により成分分析を行う。各成分の混合比率、不可避不純物量を把握することも有効である。
【0024】
(2)造粒工程
粉末は、成型金型に均質充填するため、良好な流動性を得るために、造粒を行うことが好ましい。造粒工程を行うためには、バインダー水溶液を添加することが好ましい。バインダーとはポリビニルアルコール(PVA)等の有機系材料のことを指し、固体のバインダーを、水もしくは有機系溶媒に溶解させて、バインダー溶液として造粒に用いる。装置安全上の観点から、水を用いたバインダー水溶液を使用することが好ましい。図4に造粒粉の形状の模式図を示す。図4(A)は、転動造粒法で製造した造粒粉の例を示す。造粒粉内部にバインダー水溶液の凝集部(Ba)が発生し、その周囲を金属粉末が覆うような構造の造粒粉が存在することがある。なお、凝集部(Ba)は、大きさが、原料金属粉末の平均粒径の2倍以上、もしくは100μm以上、を指す。凝集部(Ba)の大きさとは造粒粉の任意の断面を観察した際の最も長い対角線を示すものである。
バインダー水溶液は脱脂・焼結初期の低温段階で除去されるが、Baの様な部位が存在すると、除去後に空洞を形成する。焼結時、添加元素であるNi、Cu、Feは一度液相となり、前記空洞に流れ込む。その結果、焼結体中に大きな粒界相の領域が発生する。このため、粒界相の線密度が大きく変動する。図4(B)は、本実施形態に使用した造粒粉の例を示す。混合粉末とバインダー水溶液を混合し、スラリーとし、後述する条件により造粒することで、Baのような部位は存在せず、金属粉末とバインダー水溶液が均一に混ざった造粒粉を得る。バインダー水溶液が均質に存在することで、バインダー水溶液除去後も均質なため、粒界相が均質な焼結体が得られる。
【0025】
上記混合粉末と、PVA水溶液と、を十分に混合し、スラリーを製作する。バインダー水溶液はPVA水溶液が好ましい。混合は、例えばボールミルを用いる。ボールミルに投入するボールは、アルミナや、ジルコニアや、タングステンカーバイド製が好ましい。材料の混入を懸念する場合は、ボールを入れずに混合しても良い。
【0026】
造粒後のPVA濃度は、造粒粉に対し1.0wt%以上2.0wt%以下となるよう、調整することが好ましい。PVA濃度が1wt%より低いと、成型加工において、金型から成型体を抜き出す際、抵抗が大きくなり金型を破損させる可能性がある。PVA濃度が2wt%を超えると、粉末粒子間に入るPVAが増えており、造粒粉内にPVAの凝集部が発生し易くなり、均質な造粒粉を得られず、粒界相の線密度を変動させる原因となる可能性が有る。PVA濃度は、後述する脱バインダー工程前後で成型体重量を測定し、工程前後での成型体重量差を、工程前の成型体重量で除し、百分率で求める。
【0027】
造粒に使用するスラリー濃度は、0.2L/kg以上0.4L/kg以下であることが好ましい。スラリー濃度とは、原料金属粉末1kgに対するPVA水溶液量を指す。スラリー濃度0.2L/kg未満では、造粒後のPVA濃度が1wt%より低くなる可能性が大きい。また、スラリーの粘度が高くなり、造粒中のスラリー供給が不安定となり、供給困難となる可能性がある。スラリー濃度が0.4L/kgを超えると、金属粉末の隙間に存在するバインダー量が増えるため、造粒後のPVA濃度が2wt%を超える可能性が大きい。またスプレードライ法での造粒中に、金属粉末の偏在が発生し、造粒粉に空隙が発生する可能性がある。
【0028】
次に、スプレードライ法にて、流動性の良好な造粒粉とする。図3にスプレードライによる造粒を模式的に示す。熱風で加熱された100~300℃の乾燥機内中に、スラリーを供給する。100℃未満では、有機溶媒の蒸発速度が遅いため、乾燥に長時間を要する。もしくは乾燥が不十分となる。300℃を超えると、造粒粉の粒径のばらつきが発生する原因となる。スラリーは、回転している円盤部品(アトマイザー)から機内へ噴霧される。アトマイザーの回転数は8000rpm以上14000rpm以下が好ましい。回転数が8000rpmを下回ると、造粒粉サイズのばらつきが大きくなり、大きなサイズが発生する。この大きな造粒粉は、PVA濃度が2wt%を超える可能性が大きい。回転数が14000rpmを超えると、金属粉末とバインダーの重量差によりそれぞれが分離・偏在し、図4(A)のような造粒粉ができる可能性が有る。また、サイズの小さな造粒粉が出来易くなり、これらの小さなサイズの造粒粉は、PVA濃度が1wt%より低くなる可能性が高い。得られた造粒粉は、所定サイズの篩を通敷いても良い。過大な造粒粉や、過小な造粒粉を除去することも可能で、更には平均粒径の制御も可能となる。
【0029】
造粒粉の流動性は10秒/50g以下が好ましい。これよりも大きいと、成型時に金型内への粉末充填が不十分となり、成型体重量が設計値に対して不足する。流動性は、傾斜角度60度、穴径Φ5mmの漏斗を50gの粉末が全量通過するまでの時間を計測する。
【0030】
造粒粉のかさ密度(JIS-Z8890 5303)は、2.5g/cm3以上が好ましい。これよりも小さいと、所定の重量を充填するための、成型金型の深さ(高さ)が大きくなる。このため、既設の装置では、成型できなくなる可能性がある。かさ密度は、タングステン・モリブデン工業会規格(TMIAS-0101粉末特性試験方法)に準拠して測定する。
【0031】
(3)成型(成形)工程
造粒粉を金型内へ充填し、プレスにて成型する。圧力は90MPa以上300MPa以下が好ましい。90MPaより低いと、成型体が割れやすく、300MPaを超えると、成型体の抜き出し時に、金型が破損する恐れがある。
【0032】
(4)脱バインダー工程
成型体を、還元雰囲気中で温度600~1000℃の炉内へ投入し、造粒時に使用したPVA成分を除去する。
【0033】
(5)焼結
脱バインダー後の成型体を、還元雰囲気中で1300℃以上1500℃以下の温度にて焼結する。焼結温度が1300℃より低いと、焼結不足により正常な金属組織が得られず、また密度も上がらない。1500℃より高いと、焼結が進行しすぎて結晶が粗大化する可能性がある。あるいは、内部の空隙が成長し、粗大な空隙が生じる可能性がある。焼結炉は連続炉、バッチ炉等を用いることが出来る。
【0034】
実施形態のW基合金の焼結密度は、理論密度に対して95%以上である。95%未満だと、焼結体中の内部空隙の割合が高く、冷間塑性加工時に割れが生じることや、電極として使用する場合は、放電不良を引き起こす恐れがある。焼結密度は、焼結体の乾燥重量と水中重量を測定する水中法によって計算され、次式で算出される。次式で求めているのは見かけ密度である。
密度=[乾燥重量/(乾燥重量―水中重量)]×水の密度
【0035】
製品形状によっては、熱間プレス(HP)や熱間等方圧プレス(HIP)を用いて、成形工程と焼結工程とを同時に行ってもよい。その場合、雰囲気としては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0036】
前記工程で製作されたW基焼結合金は、真空熱処理や機械加工など、必要な工程を公知の条件にて実施し、放電電極用部材や、それを使用した点火プラグとなる。図5は点火プラグの例を示す模式図である。前記記載の焼結体工程後のものをW基焼結合金とする。また、W基焼結合金を所定の形状・寸法に加工したものを、放電電極部材とする。また、放電電極部材を含む各部品から構成される部品のことを点火プラグという。
(実施例)
【0037】
前記の原料配合工程にて得た混合粉末を、造粒条件を変えて造粒した。表1に粉末組成と造粒条件を示す。分析は前記の方法で実施した。なお、比較例5の転動造粒は、装置内に充填した金属粉末を、70~100rpmで攪拌し、PVA水溶液を別に供給し、100~300℃の熱風をかけながら造粒する。粉末とPVA水溶液は独立しており、アトマイザーも使用しないため、同様の条件評価ができない。表中に「-」で記す。
【0038】
【表1】
【0039】
造粒したサンプルは、前記条件で成型、脱バインダー、焼結を行い、焼結体とした。焼結体各サンプルを、前記評価方法にて評価した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
実施例1~4は、硬度が250~350Hvで、標準偏差も20Hv以下の焼結体が得られた。これらの実施例は、その後の冷間塑性加工中の割れや加工用治具の破損は生じることなく、また冷間塑性加工時の寸法ばらつきも規格範囲内で、中心電極まで加工出来た。比較例1、4、5は、硬度が高い部分が有り、ばらつきも大きかった。硬度が350Hvを超える部分は、冷間塑性加工中の割れや加工用治具の破損を引き起こす恐れがあるため、この後の加工は中断した。比較例2、3は、硬度が低い部分が有り、ばらつきも大きかった。その後の冷間塑性加工中の部分的な割れや、加工後の加工寸法ばらつき大が多く、加工は中断した。
【0042】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態はその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 …タンングステン基焼結合金
2 …タングステン粒子
3 …粒界相
4 …点火プラグ
5 …放電電極部材
L1 …270μm×270μmの正方形領域で、相対する辺を直角に横切る直線
A1~A6…粒界相を横切る長さ
P …焼結孔
X …W粒子の長軸
Y …W粒子の短軸
Ba …バインダー凝集部分
図1
図2
図3
図4
図5