(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034059
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】カラー撮像素子
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20230306BHJP
H10K 39/32 20230101ALI20230306BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H01L27/146 C
H01L27/30
H01L29/78 613Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140125
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】堺 俊克
(72)【発明者】
【氏名】高木 友望
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘人
(72)【発明者】
【氏名】相原 聡
【テーマコード(参考)】
4M118
5F110
【Fターム(参考)】
4M118AB01
4M118BA05
4M118BA14
4M118CA14
4M118CA32
4M118CB14
4M118CB20
4M118FA06
4M118FA33
4M118FB03
4M118FB09
4M118FB13
4M118FB16
4M118FB23
4M118FB26
5F110BB10
5F110BB11
5F110CC07
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD05
5F110EE30
5F110FF02
5F110GG01
5F110HM18
5F110HM19
5F110NN03
5F110NN27
(57)【要約】
【課題】更なる高画質化及び小型化を可能とした垂直色分離型のカラー撮像素子を提供する。
【解決手段】少なくとも光Lの入射方向から順に、一の光電変換部4B,4Gと一の信号読出部5B,5Gとが設けられた一の光電変換回路層6B,6Gと、他の光電変換部4Rと他の信号読出部5Rとが設けられた他の光電変換回路層6Rとが積層された画素回路2を備え、一の光電変換部4B,4Gと他の光電変換部4Rとに対応した有機膜16B,16G,16Rの違いに応じて、一の信号読出部5B,5Gと他の信号読出部5Rとに対応したTFT13と対向電極17との間で発生する容量カップリングの差異を補償するように、TFT13と有機膜16B,16G,16Rとの間に容量補償層18B,18G,18Rが設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも光の入射方向から順に、一の波長域の光を吸収して光電変換を行い、且つ、前記一の波長域とは異なる他の波長域の光を透過する一の光電変換部と、前記一の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す一の信号読出部とが設けられた一の光電変換回路層と、
前記他の波長域の光を吸収して光電変換を行う他の光電変換部と、前記他の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す他の信号読出部とが設けられた他の光電変換回路層とが積層された画素回路を備え、
前記信号読出部は、半導体層と、ゲート絶縁層を介して前記半導体層と交差するように配置されたゲート電極と、前記半導体層の前記ゲート電極を挟んだ両側に配置されたソース電極及びドレイン電極とを含む薄膜トランジスタと、前記薄膜トランジスタを覆うように配置された保護層とを有し、
前記光電変換部は、画素電極と、前記画素電極及び前記保護層の上に配置された有機膜と、前記有機膜の上に配置された対向電極とを有し、
前記一の光電変換部と前記他の光電変換部とに対応した前記有機膜の違いに応じて、前記一の信号読出部と前記他の信号読出部とに対応した前記薄膜トランジスタと前記対向電極との間で発生する容量カップリングの差異を補償するように、前記薄膜トランジスタと前記有機膜との間に容量補償層が設けられていることを特徴とするカラー撮像素子。
【請求項2】
前記容量補償層は、少なくとも前記半導体層と平面視で重なる位置において、前記保護層の厚みを調整した層からなることを特徴とする請求項1に記載のカラー撮像素子。
【請求項3】
前記容量補償層は、少なくとも前記半導体層と平面視で重なる位置において、前記保護層とは異なる材質の層からなることを特徴とする請求項1に記載のカラー撮像素子。
【請求項4】
前記画素回路は、少なくとも第1の波長域の光と、第2の波長域の光と、第3の波長域の光とのうち何れか1つ以上の波長域の光を含む光の入射方向から順に、
前記第1の波長域の光を吸収して光電変換を行い、且つ、前記第2の波長域の光及び前記第3の波長域の光を透過する第1の光電変換部と、前記第1の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す第1の信号読出部とが設けられた第1の光電変換回路層と、
前記第2の波長域の光を吸収して光電変換を行い、且つ、前記第3の波長域の光を透過する第2の光電変換部と、前記第2の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す第2の信号読出部とが設けられた第2の光電変換回路層と、
前記第3の波長域の光を吸収して光電変換を行う第3の光電変換部と、前記第3の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す第3の信号読出部とが設けられた第3の光電変換回路層とを備えることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のカラー撮像素子。
【請求項5】
前記画素回路が基板の上にアレイ状に複数並んで配置されていることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のカラー撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のカメラには、撮像素子を3枚用いてカラー画像を取得する3板式と、撮像素子を1枚のみ用いてカラー画像を取得する単板式の2つの方式が用いられている。
【0003】
3板式では、入射した光を色分解プリズムにより三原色、すなわち赤(R)、緑(G)、青(B)に色分離し、3つの撮像素子でそれぞれの画像を取得する。このため、入射光を効率よく利用することができ、高画質な撮像が可能であるが、その一方で、色分解プリズムが必要であるため、小型化が困難である。
【0004】
一方、単板式では、1つの撮像素子にR,G,Bのカラーフィルタを面内に配置して色分離を行う。このため、小型化が可能である反面、入射する光のうち特定の波長域の光以外を吸収するカラーフィルタを用いるため、3板式と比べて光の利用効率が低く、画質が低下する。
【0005】
このように、3板式と単板式とには一長一短があり、撮像素子の高画質化と小型化との両立が課題となっている。
【0006】
そこで、撮像素子の高画質化と小型化との両立を目的として、垂直色分離型の有機撮像素子が提案されている(例えば、下記特許文献1~3を参照。)。垂直色分離型の有機撮像素子では、R,G,Bのそれぞれにのみ感度をもつ有機光電変換膜(有機膜)と、光透過型の薄膜トランジスタ(TFT)とを用いた信号読み出し回路とを交互に積層した構造によって、光の進行方向にR,G,Bの色分離を行い、撮像素子を1枚用いて全画素でR,G,Bの全ての画像を取得する。
【0007】
具体的に、下記特許文献1には、1枚のガラス基板上に、3層の有機膜と、TFTを用いた信号読み出し回路とを交互に積層したものが開示されている。一方、下記特許文献2には、ガラス基板の上に、TFTを用いた信号読み出し回路と有機膜とを成膜した素子を3枚積層したものが開示されている。一方、下記特許文献3には、最下部の有機膜及び信号読み出し回路をCMOSイメージセンサに置き換えたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-217174号公報
【特許文献2】特開2005-51115号公報
【特許文献3】特開2019-102623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述したTFTを用いた信号読み出し回路の上部に、有機膜と、その上部の対向電極とを形成する場合、メタルマスクを用いた加熱蒸着法を用いるのが一般的である。また、読み出し回路のTFTの上にも、有機膜及び対向電極が形成される。
【0010】
このような素子構成の場合、TFTの特性は、いわゆるバックゲート効果によって、半導体の上部及び下部の電界(容量)カップリングに依存して変化する。また、その変化の大きさは有機膜の厚みと撮像動作時の印加電圧により決まる。
【0011】
複数の有機膜とTFT読み出し回路とを積層した撮像素子の場合、各色に対応する有機膜は、各々の特性差に対応した膜厚及び印加電圧で使用する必要がある。このため、各層の読み出し回路のTFT特性に差異が生じることとなり、撮像素子としての駆動上の問題となる。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、更なる高画質化及び小型化を可能とした垂直色分離型のカラー撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 少なくとも光の入射方向から順に、一の波長域の光を吸収して光電変換を行い、且つ、前記一の波長域とは異なる他の波長域の光を透過する一の光電変換部と、前記一の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す一の信号読出部とが設けられた一の光電変換回路層と、
前記他の波長域の光を吸収して光電変換を行う他の光電変換部と、前記他の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す他の信号読出部とが設けられた他の光電変換回路層とが積層された画素回路を備え、
前記信号読出部は、半導体層と、ゲート絶縁層を介して前記半導体層と交差するように配置されたゲート電極と、前記半導体層の前記ゲート電極を挟んだ両側に配置されたソース電極及びドレイン電極とを含む薄膜トランジスタと、前記薄膜トランジスタを覆うように配置された保護層とを有し、
前記光電変換部は、画素電極と、前記画素電極及び前記保護層の上に配置された有機膜と、前記有機膜の上に配置された対向電極とを有し、
前記一の光電変換部と前記他の光電変換部とに対応した前記有機膜の違いに応じて、前記一の信号読出部と前記他の信号読出部とに対応した前記薄膜トランジスタと前記対向電極との間で発生する容量カップリングの差異を補償するように、前記薄膜トランジスタと前記有機膜との間に容量補償層が設けられていることを特徴とするカラー撮像素子。
〔2〕 前記容量補償層は、少なくとも前記半導体層と平面視で重なる位置において、前記保護層の厚みを調整した層からなることを特徴とする前記〔1〕に記載のカラー撮像素子。
〔3〕 前記容量補償層は、少なくとも前記半導体層と平面視で重なる位置において、前記保護層とは異なる材質の層からなることを特徴とする前記〔1〕に記載のカラー撮像素子。
〔4〕 前記画素回路は、少なくとも第1の波長域の光と、第2の波長域の光と、第3の波長域の光とのうち何れか1つ以上の波長域の光を含む光の入射方向から順に、
前記第1の波長域の光を吸収して光電変換を行い、且つ、前記第2の波長域の光及び前記第3の波長域の光を透過する第1の光電変換部と、前記第1の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す第1の信号読出部とが設けられた第1の光電変換回路層と、
前記第2の波長域の光を吸収して光電変換を行い、且つ、前記第3の波長域の光を透過する第2の光電変換部と、前記第2の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す第2の信号読出部とが設けられた第2の光電変換回路層と、
前記第3の波長域の光を吸収して光電変換を行う第3の光電変換部と、前記第3の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す第3の信号読出部とが設けられた第3の光電変換回路層とを備えることを特徴とする前記〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載のカラー撮像素子。
〔5〕 前記画素回路が基板の上にアレイ状に複数並んで配置されていることを特徴とする前記〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載のカラー撮像素子。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、更なる高画質化及び小型化を可能とした垂直色分離型のカラー撮像素子を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るカラー撮像素子が備える画素回路の構成を示す断面図である。
【
図2】1画素1トランジスタによる画素回路の構成を示す平面図である。
【
図4】1画素3トランジスタによる画素回路の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
本発明の一実施形態として、例えば
図1に示すカラー撮像素子1について説明する。
なお、
図1は、カラー撮像素子1が備える画素回路2の構成を示す断面図である。
【0018】
本実施形態のカラー撮像素子1は、
図1に示すように、1つの画素を構成する画素回路2において、光Lの進行方向に赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色に対応した波長域の光に色分離を行いながら、1つの画素回路2AでR,G,Bの全ての画像を取得する垂直色分離型のカラー撮像素子に本発明を適用したものである。
【0019】
なお、
図1では、カラー撮像素子1が備える1つの画素回路2のみを図示しているが、カラー撮像素子1は、基板3の上に複数の画素回路2がアレイ状に並んで配置された構造を有している。
【0020】
基板3としては、例えば、ガラス、シリコン、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、プラスチックフィルム、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)等からなるものを用いることができる。
【0021】
画素回路2は、少なくとも第1の波長域(例えば青)の光Bと、第2の波長域(例えば緑)の光Gと、第3の波長域(例えば赤)の光Rとのうち何れか1つ以上の波長域の光B,G,Rを含む光Lの入射方向から順に、第1の波長域の光Bを吸収して光電変換を行い、且つ、第2の波長域の光G及び第3の波長域の光Rを透過する第1の光電変換部4Bと、第1の光電変換部4Bで発生した信号電荷を読み出す第1の信号読出部5Bとが設けられた第1の光電変換回路層6Bと、第2の波長域の光Gを吸収して光電変換を行い、且つ、第3の波長域の光Rを透過する第2の光電変換部4Gと、第2の光電変換部4Gで発生した信号電荷を読み出す第2の信号読出部5Gとが設けられた第2の光電変換回路層6Gと、第3の波長域の光Rを吸収して光電変換を行う第3の光電変換部4Rと、第3の光電変換部4Rで発生した信号電荷を読み出す第3の信号読出部5Rとが設けられた第3の光電変換回路層6Rとが層間絶縁層7を介して積層された構造を有している。
【0022】
第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5Rは、半導体層8と、ゲート絶縁層9を介して半導体層8と交差するように配置されたゲート電極10と、半導体層8のゲート電極10を挟んだ両側に配置されたソース電極11及びドレイン電極12とを含む薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という。)13と、TFT13を覆うように配置された保護層14とを有している。また、ソース電極11は、ソース配線SLと電気的に接続されている。
【0023】
TFT13は、光透過性の半導体層8を有している。そのような半導体層8としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)やアモルファス酸化物半導体であるインジウム・ガリウム・酸化亜鉛(InGaZnO)、インジウム・スズ・酸化亜鉛(InSnZnO、ITZO)等を用いることができる。また、半導体層8の厚みは、5~100nm程度であることが望ましい。
【0024】
また、本実施形態のTFT13は、ゲート電極10を覆うゲート絶縁層9の上に半導体層8が設けられた構成となっているが、半導体層8を覆うゲート絶縁層9の上にゲート電極10が設けられた構成であってもよい。
【0025】
保護層14としては、例えば、酸化シリコン、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウムなどの無機絶縁材料、又は、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系などの有機絶縁材料を用いることができる。また、これらの絶縁材料を2種類以上積層したものなどを用いることができる。保護層14の厚みは、50nmから数μm程度であることが望ましい。
【0026】
第1、第2及び第3の光電変換部4B,4G,4Rは、ドレイン電極12と電気的に接続された画素電極15と、画素電極15及び保護層14の上に配置された有機膜16B,16G,16Rと、有機膜16B,16G,16Rの上に配置された対向電極17とを有している。すなわち、第1、第2及び第3の光電変換部4B,4G,4Rは、画素電極15と対向電極17との間に有機膜16B,16G,16Rが挟み込まれた構造を有している。一方、有機膜16B,16G,16Rは、保護層14の上を覆うように配置されている。
【0027】
画素電極15及び対向電極17としては、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム・酸化亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)などの光透過性を有する導電材料を用いることができる。
【0028】
有機膜16B,16G,16Rは、それぞれの波長域の光B,G,Rに対して感度を有する有機光電変換材料からなる。このうち、第1の光電変換部4Bに設けられた有機膜15Bとしては、例えば、クマリン誘導体やポルフィリン誘導体などの青色光のみに感度を有する有機光電変換材料を用いることができる。一方、第2の光電変換部4Gに設けられた有機膜15Gとしては、例えば、キナクリドン誘導体やペリレン誘導体などの緑色光のみに感度を有する有機光電変換材料を用いることができる。一方、第3の光電変換部4Rに設けられた有機膜15Rとしては、例えば、フタロシアニン誘導体やナフタロシアニン誘導体などの赤色光のみに感度を有する有機光電変換材料を用いることができる。
【0029】
なお、各有機膜16B,16G,16Rは、特定の波長域の光を吸収し、他の波長域の光を透過するため、有機材料を単独で用いてもよく、また2種類以上を混合又は積層して用いてもよい。
【0030】
また、有機膜16B,16G,16Rの厚みは、10nm~1μm程度であることが望ましい。また、第1、第2及び第3の光電変換部4B,4G,4Rには、画素電極15及び対向電極17からの電荷注入を防ぐために、5~50nm程度の電子ブロッキング層や正孔ブロッキング層を適宜設けてもよい。さらに、第1の光電変換部4Bの上には、赤外光を吸収するフィルタ層(図示せず。)を設けることが望ましい。
【0031】
層間絶縁層7は、第1の光電変換部4Bと第2の光電変換部4Gとの間と、第2の光電変換部4Gと第3の光電変換部4Rとの間とに、それぞれ設けられている。層間絶縁層7としては、例えば、シリコンや酸化シリコン、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、プラスチックフィルム、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの光透過性を有する絶縁材料を用いることができる。
【0032】
ところで、本実施形態のカラー撮像素子1では、第1、第2及び第3の光電変換部4B,4G,4Rに各々対応した有機膜16B,16G,16Rの違いに応じて、第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5Rに各々対応したTFT13と対向電極17との間で発生する容量カップリングの差異を補償するように、各信号読出部5B,5G,5Rに対応したTFT13と、各光電変換部4B,4G,4Rに対応した有機膜16B,16G,16Rとの間に、容量補償層18B,18G,18Rが設けられている。
【0033】
容量補償層18B,18G,18Rは、少なくとも半導体層8と平面視で重なる位置において、保護層14とは異なる材質の層、若しくは保護層14の厚みを調整した層からなることが好ましい。
【0034】
したがって、この容量補償層18B,18G,18Rとしては、例えば、酸化シリコン、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウムなどの無機絶縁材料、又は、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系などの有機絶縁材料を用いることができる。また、これらの絶縁材料を2種類以上積層したものなどを用いることができる。また、容量補償層18B,18G,18Rの厚みは、5nmから数μm程度であることが望ましい。
【0035】
ここで、第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5Rにおいて、ゲート絶縁層9、半導体層8及び保護層14の材質及び厚みは全て同一であり、半導体層8の比誘電率をεaとし、半導体層8の厚みをtaとし、保護層14の比誘電率をεpとし、保護層14の厚みをtpとする。
【0036】
また、第1、第2及び第3の光電変換部4B,4G,4Rにおいて、同水準の外部量子効率が得られる印加電圧をVx(x=1,2,3)とし、有機膜16B,16G,16Rの厚みをtorg_x(x=1,2,3)とし、比誘電率をεorg_x(x=1,2,3)とする。
【0037】
また、容量補償層18B,18G,18Rの厚みをtx(x=1,2,3)とし、比誘電率をεx(x=1,2,3)とする。
【0038】
この場合、下記式(1)で表されるΔ値がx=1,2,3の間で一定となるようなtx、εxを有する容量補償層18B,18G,18Rを備えることで、第1、第2及び第3の光電変換部4B,4G,4Rに各々対応した有機膜16B,16G,16Rの違いに応じて、第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5Rに各々対応したTFT13と対向電極17との間で発生する容量カップリングの差異を補償することが可能である。
Δ=Vx/(ta/εa+tp/εp+tx/εx+torg_x/εorg_x) …(1)
【0039】
なお、第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5Rに対応した容量補償層18B,18G,18Rのうち、最小のΔ値を有する容量補償層に一致させるように、他の容量補償層のΔ値を調整する場合、最小のΔ値を有する容量補償層については省略することも可能である。
【0040】
また、半導体層8の上部及び下部の電界(容量)カップリングによるTFT13の特性変化、すなわちバックゲート効果は、下部の容量であるゲート絶縁層9の容量をCbとし、上部の容量である半導体層8の容量をCaとし、保護層14の容量をCpとし、容量補償層18B,18G,18Rの容量をCxとし、有機膜16B,16G,16Rの容量をCorgとしときに、その合成直列容量である1/(1/Ca+1/Cp+1/Cx+1/Corg)の比として、1/Cb/(1/Ca+1/Cp+1/Cx+1/Corg)に依存する。また、対向電極17の電圧Vxに比例することが知られている(下記非特許文献1を参照。)。
[非特許文献1] K. Takechi, et al., IEEE Trans. Electron Devices 56, 2027 (2009).
【0041】
第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5RのTFT13において、ゲート絶縁層9の材質及び厚みが同一であると仮定すると、各TFT13のバックゲート効果を同一とするための条件は、下記式(2)で表されるΔ値が一致すること、すなわち、上記式(1)で表されるΔ値が各TFT13の間で一致することである。
Δ=Vx/(1/Ca+1/Cp+1/Cx+1/Corg) …(2)
【0042】
これは、単にTFT13の上部における同一面内の複数の容量を同じにするということではなく、互いに異なる厚み及び印加電圧で用いられる有機膜16B,16G,16Rと、第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5RのTFT13を構成する各層を積層した場合に、これら各層で同一の回路特性が得られるように容量補償をするということである。
【0043】
また、TFT13の上部に配置される有機膜16B,16G,16Rの厚み(=容量)だけでなく、印加電圧も考慮しているため、異なる有機膜16B,16G,16Rを各層で用いる限り、容量補償後の各層の容量は異なることになる。
【0044】
さらに、容量補償層18B,18G,18Rを配置することによるTFT13の特性変化への悪影響はなく、TFT13の寄生容量が低減すると共に、有機膜16B,16G,16Rの対向電極17の電圧によるTFT13の上部の電界(容量)カップリングが抑えられることから、TFT13の応答特性及びゲートの制御性が向上することになる。
【0045】
例えば、第1の波長域の光Bをピーク波長450nmの青色光とし、第2の波長域の光Gをピーク波長500~540nmの緑色光とし、第3の波長域の光Rをピーク波長650nmの赤色光とし、厚み400nmのクマリン誘導体(比誘電率4.0)からなる有機膜15Bと、厚み200nmのキナクリドン誘導体(比誘電率4.0)からなる有機膜15Gと、厚み100nmのナフタロシアニン誘導体(比誘電率4.0)からなる有機膜15Rとを積層すると共に、第1、第2の及び第3の光電変換部4B,4G,4Rに、それぞれ厚み30nmの電子ブロッキング層及び正孔ブロッキング層(ともに誘電率4.0)を挿入する場合を考える。
【0046】
この場合、第1、第2の及び第3の光電変換部4B,4G,4Rの外部量子効率が同程度(50%程度)となるときのそれぞれの印加電圧は、10V、15V、10Vである。
【0047】
一方、各層のTFT13の半導体層8として、厚み30nmのInGaZnO(誘電率8.0)と、保護膜として厚み600nmの有機絶縁材料(比誘電率4.0)とを積層している。
【0048】
このとき、最小のΔ値(=Δmin)を有するのは、第1の信号読出部5Bであり、第2及び第3の信号読出部5G,5Rには、Δ=Δminとなるような容量補償層18G,18Rを配置すればよい。
【0049】
具体的には、容量補償層18G,18Rとして有機絶縁材料(比誘電率4.0)を用いた場合、第2の信号読出部5GのTFT13の上に、厚み738nmの容量補償層18Gと、第3の信号読出部5RのTFT13の上に、厚み300nmの容量補償層18Rとを配置することで、容量補償を行うことが可能である。
【0050】
以上のように、本実施形態のカラー撮像素子1では、上述した第1、第2及び第3の光電変換部4B,4G,4Rに各々対応した有機膜16B,16G,16Rの違いに応じて、第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5Rに各々対応したTFT13と対向電極17との間で発生する容量カップリングの差異を補償するように、各信号読出部5B,5G,5Rに対応したTFT13と、各光電変換部4B,4G,4Rに対応した有機膜16B,16G,16Rとの間に、容量補償層18B,18G,18Rが設けられている。
【0051】
これにより、本実施形態のカラー撮像素子1では、互いに異なる厚み及び印加電圧で用いられる有機膜16B,16G,16Rと、第1、第2及び第3の信号読出部5B,5G,5RのTFT13を構成する各層を積層した場合に、これら各層で同一の回路特性が得られるように容量補償を行うことが可能である。
【0052】
したがって、本実施形態のカラー撮像素子1では、垂直色分離型のカラー撮像素子として更なる高画質化及び小型化に対応することが可能である。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態の画素回路2は、
図2及び
図3に示すように、各信号読出部5B,5G,5Rにおいて、選択用TFT(M
S)として1画素に1つのTFT13が設けられた1画素1トランジスタによる構成となっている。容量補償層18B,18G,18Rは、各信号読出部5B,5G,5Rを構成するTFT13の上に設けられている。
【0054】
一方、画素回路2については、1画素に複数のトランジスタを含む構成であってもよい。例えば、
図4及び
図5に示す画素回路2Aでは、画素電極15をリセットするリセット用TFT(M
R)と、画素電極15及びゲート線が接続される増幅用TFT(M
A)と、増幅用TFT(M
A)のソース電極又はドレイン電極と接続される選択用TFT(M
S)とが設けられた1画素3トランジスタによる構成となっている。
【0055】
画素回路2Aでは、各TFT(MR,MA,MS)の上に容量補償層を設けた構成や、これらのTFT(MR,MA,MS)の上に1つの容量補償層を設けた構成とすることが可能である。
【0056】
また、上記実施形態のカラー撮像素子1では、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色に対応した3層構造を有する垂直色分離型のカラー撮像素子を例示しているが、2層であっても4層以上であってもよい。
【0057】
すなわち、本発明が適用されるカラー撮像素子は、少なくとも光の入射方向から順に、一の波長域の光を吸収して光電変換を行い、且つ、一の波長域とは異なる他の波長域の光を透過する一の光電変換部と、一の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す一の信号読出部とが設けられた一の光電変換回路層と、他の波長域の光を吸収して光電変換を行う他の光電変換部と、他の光電変換部で発生した信号電荷を読み出す他の信号読出部とが設けられた他の光電変換回路層とが積層された画素回路を備える構成であればよい。
【0058】
そして、このようなカラー撮像素子において、一の光電変換部と他の光電変換部とに対応した有機膜の違いに応じて、一の信号読出部と他の信号読出部とに対応したTFTと対向電極との間で発生する容量カップリングの差異を補償するように、TFTと有機膜との間に容量補償層を設けた構成とすればよい。
【符号の説明】
【0059】
1…カラー撮像素子 2,2A…画素回路 3…基板 4B…第1の光電変換部 4G…第2の光電変換部 4R…第3の光電変換部 5B…第1の信号読出部 5G…第2の信号読出部 5R…第3の信号読出部 6B…第1の光電変換回路層 6G…第2の光電変換回路層 6R…第3の光電変換回路層 7…層間絶縁層 8…半導体層 9…ゲート絶縁層 10…ゲート電極 11…ソース電極 12…ドレイン電極 13…薄膜トランジスタ(TFT) 14…保護層 15…画素電極 16B,16G,16R…有機膜 17…対向電極 18B,18G,18R…容量補償層 B…第1の波長域の光 G…第2の波長域の光 R…第3の波長域の光 L…光