(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034229
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20230306BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
G02F1/13 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140368
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江頭 友弘
【テーマコード(参考)】
2H290
【Fターム(参考)】
2H290AA33
2H290AA72
2H290BB01
2H290BD01
2H290BE01
2H290BF24
2H290BF34
2H290DA03
(57)【要約】
【課題】 高いコントラスト比を有する液晶表示素子を提供する。
【解決手段】 対向配置されている一対の基板の一方または両方に形成されている電極群と、前記電極群に接続された複数のアクティブ素子と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に挟持された負の誘電率異方性を有する液晶組成物とを含む液晶表示素子であって、液晶配向膜が、ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、液晶表示素子。
式(1)において、R
1およびR
2は、水素等であり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン等であり;nは、0、1、2、3、または4である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置されている一対の基板の一方または両方に形成されている電極群と、前記電極群に接続された複数のアクティブ素子と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に挟持された負の誘電率異方性を有する液晶組成物とを含む液晶表示素子であって、液晶配向膜が、ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、液晶表示素子。
式(1)において、R
1およびR
2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり;nは、0、1、2、3、または4である。
【請求項2】
液晶配向膜が、ジアミン類として式(1-1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、請求項1に記載の液晶表示素子。
式(1-1)において、R
1およびR
2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり;nは、0、1、2、3、または4である。
【請求項3】
液晶配向膜が、ジアミン類として式(1-1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、請求項2に記載の液晶表示素子。
式(1-1)において、R
1およびR
2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり;nは、0である。
【請求項4】
液晶組成物が、成分Aとして式(2)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(2)において、R
3およびR
4は、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;環Aおよび環Cは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Bは、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-5-メチル-1,4-フェニレン、3,4,5-トリフルオロナフタレン-2,6-ジイル、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、3,4,5,6-テトラフルオロフルオレン-2,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または1,1,6,7-テトラフルオロインダン-2,5-ジイルであり;Z
1およびZ
2は、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;aは0、1、2、または3であり、bは0または1であり;そしてaとbとの和は3以下である。
【請求項5】
液晶組成物が、成分Aとして式(2-1)から式(2-35)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(2-1)から式(2-35)において、R
3およびR
4は、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルである。
【請求項6】
成分Aの割合が5質量%から95質量%の範囲である、請求項4または5に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
液晶組成物が、成分Bとして式(3)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(3)において、R
5およびR
6は、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環Dおよび環Eは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;Z
3は、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;cは、1、2、または3である。
【請求項8】
液晶組成物が、成分Bとして式(3-1)から式(3-14)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(3-1)から式(3-14)において、R
5およびR
6は、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
【請求項9】
成分Bの割合が5質量%から95質量%の範囲である、請求項7または8に記載の液晶表示素子。
【請求項10】
液晶組成物が、添加物Xとして式(4)で表される重合性化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から9のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(4)において、環Iおよび環Kは、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、テトラヒドロピラン-2-イル、1,3-ジオキサン-2-イル、ピリミジン-2-イル、またはピリジン-2-イルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよく;環Jは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ナフタレン-1,2-ジイル、ナフタレン-1,3-ジイル、ナフタレン-1,4-ジイル、ナフタレン-1,5-ジイル、ナフタレン-1,6-ジイル、ナフタレン-1,7-ジイル、ナフタレン-1,8-ジイル、ナフタレン-2,3-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、ナフタレン-2,7-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよく;Z
6およびZ
7は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2CH
2-は、-CH=CH-、-C(CH
3)=CH-、-CH=C(CH
3)-、または-C(CH
3)=C(CH
3)-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよく;P
1からP
3は、重合性基であり;Sp
1からSp
3は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2CH
2-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよく;fは、0、1、または2であり;g、h、およびiは、0、1、2、3、または4であり;そしてg、h、およびiの和は、1以上である。
【請求項11】
式(4)において、P
1からP
3が式(P-1)から式(P-5)で表される重合性基から選択された基である、請求項10に記載の液晶表示素子。
式(P-1)から式(P-5)において、M
1からM
3は、水素、フッ素、炭素数1から5のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から5のアルキルである。
【請求項12】
液晶組成物が、添加物Xとして式(4-1)から式(4-29)で表される重合性化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から11のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(4-1)から式(4-29)において、Sp
1からSp
3は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2CH
2-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよく;P
4からP
6は、式(P-1)から式(P-3)で表される基から選択された重合性基であり;
式(P-1)から式(P-3)において、M
1からM
3は、水素、フッ素、炭素数1から5のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から5のアルキルである。
【請求項13】
添加物Xの割合が0.03質量%から10質量%の範囲である、請求項10から12のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項14】
動作モードが、IPSモード、VAモード、FFSモード、またはFPAモードであり、駆動方式がアクティブマトリックス方式である、請求項1から13のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の誘電率異方性を有する液晶組成物を含む液晶表示素子に関する。特にIPS、VA、FFS、FPAなどのモードを有する液晶表示素子に関する。高分子支持配向型の液晶表示素子にも関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子において、液晶分子の動作モードに基づいた分類は、PC(phase change)、TN(twisted nematic)、STN(super twisted nematic)、ECB(electrically controlled birefringence)、OCB(optically compensated bend)、IPS(in-plane switching)、VA(vertical alignment)、FFS(fringe field switching)、FPA(field-induced photo-reactive alignment)などのモードである。素子の駆動方式に基づいた分類は、PM(passive matrix)とAM(active matrix)である。PMは、スタティック(static)、マルチプレックス(multiplex)などに分類され、AMは、TFT(thin film transistor)、MIM(metal insulator metal)などに分類される。TFTの分類は非晶質シリコン(amorphous silicon)および多結晶シリコン(polycrystal silicon)である。後者は製造工程によって高温型と低温型とに分類される。光源に基づいた分類は、自然光を利用する反射型、バックライトを利用する透過型、そして自然光とバックライトの両方を利用する半透過型である。
【0003】
液晶表示素子はネマチック相を有する液晶組成物を含有する。この組成物は適切な特性を有する。この組成物の特性を向上させることによって、良好な特性を有するAM素子を得ることができる。これらの特性における関連を下記の表1にまとめる。組成物の特性を市販されているAM素子に基づいてさらに説明する。ネマチック相の温度範囲は、素子の使用できる温度範囲に関連する。ネマチック相の好ましい上限温度は約70℃以上であり、そしてネマチック相の好ましい下限温度は約-10℃以下である。組成物の粘度は素子の応答時間に関連する。素子で動画を表示するためには短い応答時間が好ましい。1ミリ秒でもより短い応答時間が望ましい。したがって、組成物における小さな粘度が好ましい。低い温度における小さな粘度はより好ましい。
【0004】
【0005】
組成物の光学異方性は、素子のコントラスト比に関連する。素子のモードに応じて、大きな光学異方性または小さな光学異方性、すなわち適切な光学異方性が必要である。組成物の光学異方性(Δn)と素子のセルギャップ(d)との積(Δn×d)は、コントラスト比を最大にするように設計される。積の適切な値は動作モードの種類に依存する。この値は、VAモードの素子では約0.30μmから約0.40μmの範囲であり、IPSモードまたはFFSモードの素子では約0.20μmから約0.30μmの範囲である。これらの場合、小さなセルギャップの素子には大きな光学異方性を有する組成物が好ましい。組成物における大きな誘電率異方性は、素子における低いしきい値電圧、小さな消費電力と大きなコントラスト比に寄与する。したがって、大きな誘電率異方性が好ましい。組成物における大きな比抵抗は、素子における大きな電圧保持率と大きなコントラスト比とに寄与する。したがって、初期段階において大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。長時間使用したあと、大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。光や熱に対する組成物の安定性は、素子の寿命に関連する。この安定性が高いとき、素子の寿命は長い。このような特性は、液晶モニター、液晶テレビなどに用いるAM素子に好ましい。
【0006】
汎用の液晶表示素子において、液晶分子の垂直配向は、特定のポリイミド配向膜によって達成される。高分子支持配向(PSA;polymer sustained alignment)型の液晶表示素子では、配向膜に重合体を組み合わせる。まず、少量の重合性化合物を添加した組成物を素子に注入する。次に、この素子の基板のあいだに電圧を印加しながら、組成物に紫外線を照射する。重合性化合物は重合して、組成物中に重合体の網目構造を生成する。この組成物では、重合体によって液晶分子の配向を制御することが可能になるので、素子の応答時間が短縮され、画像の焼き付きが改善される。重合体のこのような効果は、TN、ECB、OCB、IPS、VA、FFS、FPAのようなモードを有する素子に期待できる。
【0007】
TNモードを有するAM素子においては正の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。VAモードを有するAM素子においては負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。IPSモードまたはFFSモードを有するAM素子においては正または負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。高分子支持配向(PSA;polymer sustained alignment)型のAM素子においては正または負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。負の誘電率異方性を有する液晶組成物の例は、下記の特許文献1に開示されている。
【0008】
これらの液晶表示素子に均一な表示特性を持たせるためには、液晶分子の配列を制御することが必要である。このような役割を担うのが液晶配向膜である。液晶配向膜は、液晶表示素子の表示品位に係わる重要な要素の1つであり、表示素子の高品質化に伴って液晶配向膜の役割が年々重要になってきている。
【0009】
液晶配向膜の形成には、現在、ポリアミック酸、可溶性のポリイミドもしくはポリアミック酸エステルを有機溶剤に溶解させた溶液(ワニス)が主に用いられている。これらのワニスにより液晶配向膜を形成するには、ワニスを基板に塗布した後、加熱等により塗膜を固化して各種液晶配向膜を形成し、必要に応じて前述の表示モードに適する配向処理を施す。
具体的には、例えば液晶配向膜とする為のポリイミド膜を基板上に形成する方法としては、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸を含有する液晶配向剤を基板上に塗布した後、焼成してポリイミド膜とする方法や、溶剤可溶性ポリイミドを含有する液晶配向剤を基板上に塗布し溶剤を除去してポリイミド膜とする方法以外に、イミド基含有ジアミンから得たイミド基含有ポリアミック酸を含有する液晶配向剤を基板上に塗布する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
また、配向処理方法としては、布などで配向膜の表面を擦ってポリマー分子の方向を整えるラビング法と、配向膜に直線偏光の紫外線を照射することにより、ポリマー分子に光異性化や二量化等の光化学変化を起こさせて膜に異方性を付与する光配向法が知られている。このうち光配向法は、ラビング法に比べて配向の均一性が高く、非接触の配向処理法であるため膜に傷が付かないことや、発塵や静電気等の液晶表示素子の表示不良を発生させる原因を低減できる等の利点がある。
また、上記の光配向法のひとつとして、分解型の光配向法が知られている。この分解型光配向法は、例えば、ポリイミド膜に偏光紫外線を照射することで、分子構造の紫外線吸収の偏光方向依存性を利用して異方的な分解を生じさせ、分解せずに残されたポリイミドにより液晶を配向させる方法である(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2012-053323号
【特許文献2】特開平9-185064号公報
【特許文献3】特開平9-297313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、高いコントラスト比を有する液晶表示素子を提供することである。他の課題は、高いコントラスト比、短い応答時間、大きな電圧保持率、低いしきい値電圧、長い寿命のような特性の少なくとも2つのあいだで適切なバランスを有する液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、対向配置されている一対の基板の一方または両方に形成されている電極群と、前記電極群に接続された複数のアクティブ素子と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に挟持された負の誘電率異方性を有する液晶組成物とを含む液晶表示素子であって、液晶配向膜が、ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、液晶表示素子に関する。
式(1)において、R
1およびR
2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり;nは、0、1、2、3、または4である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の長所は、高いコントラスト比を有する液晶表示素子を提供することである。他の長所は、高いコントラスト比、短い応答時間、大きな電圧保持率、低いしきい値電圧、長い寿命のような特性の少なくとも2つのあいだで適切なバランスを有する液晶表示素子を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。
【0015】
「液晶組成物」および「液晶表示素子」の用語をそれぞれ「組成物」および「素子」と略すことがある。「液晶表示素子」は液晶表示パネルおよび液晶表示モジュールの総称である。「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相のような液晶相を有する化合物および液晶相を有しないが、ネマチック相の温度範囲、粘度、誘電率異方性のような特性を調節する目的で組成物に混合される化合物の総称である。この化合物は、例えば1,4-シクロヘキシレンや1,4-フェニレンのような六員環を有し、その分子(液晶分子)は棒状(rod like)である。「重合性化合物」は、組成物中に重合体を生成させる目的で添加する化合物である。アルケニルを有する液晶性化合物は、その意味では重合性に分類されない。
【0016】
液晶組成物は、複数の液晶性化合物を混合することによって調製される。この液晶組成物に、光学活性化合物や重合性化合物のような添加物が必要に応じて添加される。液晶性化合物の割合は、添加物を添加した場合であっても、添加物を含まない液晶組成物の質量に基づいた質量百分率(質量%)で表される。添加物の割合は、添加物を含まない液晶組成物の質量に基づいた質量百分率(質量%)で表される。すなわち、液晶性化合物や添加物の割合は、液晶性化合物の全質量に基づいて算出される。質量百万分率(ppm)が用いられることがある。重合開始剤および重合禁止剤の割合は、例外的に重合性化合物の質量に基づいて表される。
【0017】
「ネマチック相の上限温度」を「上限温度」と略すことがある。「ネマチック相の下限温度」を「下限温度」と略すことがある。「誘電率異方性を上げる」の表現は、誘電率異方性が正である組成物のときは、その値が正に増加することを意味し、誘電率異方性が負である組成物のときは、その値が負に増加することを意味する。「電圧保持率が大きい」は、素子が初期段階において室温だけでなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を有し、そして長時間使用したあと室温だけでなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を有することを意味する。組成物や素子の特性が経時変化試験によって検討されることがある。
【0018】
「液晶配向剤」は、その膜を基板上に形成したとき、偏光紫外線を照射することで異方性を付与することができる液晶配向剤であり、本明細書中では単に「液晶配向剤」ということもあれば、「光配向用液晶配向剤」ということもある。また、本発明において「テトラカルボン酸二無水物類」とは、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル又はテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物を指す。また本発明においては、ジアミンおよびジヒドラジドを「ジアミン類」と称することもある。
【0019】
上記の化合物(1z)を例にして説明する。式(1z)において、六角形で囲んだαおよびβの記号はそれぞれ環αおよび環βに対応し、六員環、縮合環のような環を表す。添え字‘x’が2のとき、2つの環αが存在する。2つの環αが表す2つの基は、同一であってもよく、または異なってもよい。このルールは、添え字‘x’が2より大きいとき、任意の2つの環αに適用される。このルールは、結合基Zのような、他の記号にも適用される。環βの一辺を横切る斜線は、環β上の任意の水素が置換基(-Sp-P)で置き換えられてもよいことを表す。添え字‘y’は置き換えられた置換基の数を示す。添え字‘y’が0のとき、そのような置き換えはない。添え字‘y’が2以上のとき、環β上には複数の置換基(-Sp-P)が存在する。この場合にも、「同一であってもよく、または異なってもよい」のルールが適用される。なお、このルールは、Raの記号を複数の化合物に用いた場合にも適用される。
【0020】
式(1z)において、例えば、「RaおよびRbは、アルキル、アルコキシ、またはアルケニルである」の表現は、RaおよびRbが独立して、アルキル、アルコキシ、およびアルケニルの群から選択されることを意味する。すなわち、Raによって表される基とRbによって表される基が同一であってもよく、または異なってもよい。
【0021】
式(1z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1z)」と略すことがある。「化合物(1z)」は、式(1z)で表される1つの化合物、2つの化合物の混合物、または3つ以上の化合物の混合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。「式(1z)および式(2z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物」の表現は、化合物(1z)および化合物(2z)の群から選択された少なくとも1つの化合物を意味する。
【0022】
「少なくとも1つの‘A’」の表現は、‘A’の数は任意であることを意味する。「少なくとも1つの‘A’は、‘B’で置き換えられてもよい」の表現は、‘A’の数が1つのとき、‘A’の位置は任意であり、‘A’の数が2つ以上のときも、それらの位置は制限なく選択できる。「少なくとも1つの-CH2-は-O-で置き換えられてもよい」の表現が使われることがある。この場合、-CH2CH2-CH2-は、隣接しない-CH2-が-O-で置き換えられることによって-O-CH2-O-に変換されてもよい。しかしながら、隣接した-CH2-が-O-で置き換えられることはない。この置き換えでは-O-O-CH2-(ペルオキシド)が生成するからである。
【0023】
液晶性化合物のアルキルは、直鎖状または分岐状であり、環状アルキルを含まない。直鎖状アルキルは、分岐状アルキルよりも好ましい。これらのことは、アルコキシ、アルケニルのような末端基についても同様である。1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置は、上限温度を上げるためにシスよりもトランスが好ましい。2-フルオロ-1,4-フェニレンは左右非対称であるから、左向き(L)および右向き(R)が存在する。
テトラヒドロピラン-2,5-ジイルのような二価基においても同様である。カルボニルオキシのような結合基(-COO-または-OCO-)も同様である。
【0024】
本発明は、下記の項などである。
【0025】
項1. 対向配置されている一対の基板の一方または両方に形成されている電極群と、前記電極群に接続された複数のアクティブ素子と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に挟持された負の誘電率異方性を有する液晶組成物とを含む液晶表示素子であって、液晶配向膜が、ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、液晶表示素子。
式(1)において、R
1およびR
2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり;nは、0、1、2、3、または4である。
【0026】
項2. 液晶配向膜が、ジアミン類として式(1-1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、項1に記載の液晶表示素子。
式(1-1)において、R
1およびR
2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり;nは、0、1、2、3、または4である。
【0027】
項3. 液晶配向膜が、ジアミン類として式(1-1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である、項2に記載の液晶表示素子。
式(1-1)において、R
1およびR
2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R
1とR
2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよく;Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり;nは、0である。
【0028】
項4. 液晶組成物が、成分Aとして式(2)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から3のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(2)において、R
3およびR
4は、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;環Aおよび環Cは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Bは、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-5-メチル-1,4-フェニレン、3,4,5-トリフルオロナフタレン-2,6-ジイル、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、3,4,5,6-テトラフルオロフルオレン-2,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または1,1,6,7-テトラフルオロインダン-2,5-ジイルであり;Z
1およびZ
2は、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;aは0、1、2、または3であり、bは0または1であり;そしてaとbとの和は3以下である。
【0029】
項5. 液晶組成物が、成分Aとして式(2-1)から式(2-35)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から4のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(2-1)から式(2-35)において、R
3およびR
4は、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルである。
【0030】
項6. 成分Aの割合が5質量%から95質量%の範囲である、項4または5に記載の液晶表示素子。
【0031】
項7. 液晶組成物が、成分Bとして式(3)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から6のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(3)において、R
5およびR
6は、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環Dおよび環Eは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;Z
3は、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;cは、1、2、または3である。
【0032】
項8. 液晶組成物が、成分Bとして式(3-1)から式(3-14)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から7のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(3-1)から式(3-14)において、R
5およびR
6は、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
【0033】
項9. 成分Bの割合が5質量%から95質量%の範囲である、項7または8に記載の液晶表示素子。
【0034】
項10. 液晶組成物が、添加物Xとして式(4)で表される重合性化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から9のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(4)において、環Iおよび環Kは、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、テトラヒドロピラン-2-イル、1,3-ジオキサン-2-イル、ピリミジン-2-イル、またはピリジン-2-イルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよく;環Jは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ナフタレン-1,2-ジイル、ナフタレン-1,3-ジイル、ナフタレン-1,4-ジイル、ナフタレン-1,5-ジイル、ナフタレン-1,6-ジイル、ナフタレン-1,7-ジイル、ナフタレン-1,8-ジイル、ナフタレン-2,3-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、ナフタレン-2,7-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよく;Z
6およびZ
7は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2CH
2-は、-CH=CH-、-C(CH
3)=CH-、-CH=C(CH
3)-、または-C(CH
3)=C(CH
3)-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよく;P
1からP
3は、重合性基であり;Sp
1からSp
3は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2CH
2-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよく;fは、0、1、または2であり;g、h、およびiは、0、1、2、3、または4であり;そしてg、h、およびiの和は、1以上である。
【0035】
項11. 式(4)において、P
1からP
3が式(P-1)から式(P-5)で表される重合性基から選択された基である、項10に記載の液晶表示素子。
式(P-1)から式(P-5)において、M
1からM
3は、水素、フッ素、炭素数1から5のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から5のアルキルである。
【0036】
項12. 液晶組成物が、添加物Xとして式(4-1)から式(4-29)で表される重合性化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から11のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
式(4-1)から式(4-29)において、Sp
1からSp
3は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2CH
2-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよく;P
4からP
6は、式(P-1)から式(P-3)で表される基から選択された重合性基であり;
式(P-1)から式(P-3)において、M
1からM
3は、水素、フッ素、炭素数1から5のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から5のアルキルである。
【0037】
項13. 添加物Xの割合が0.03質量%から10質量%の範囲である、項10から12のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【0038】
項14. 動作モードが、IPSモード、VAモード、FFSモード、またはFPAモードであり、駆動方式がアクティブマトリックス方式である、項1から13のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【0039】
本発明の液晶表示素子を次の順で説明する。第一に、液晶表示素子の構成を説明する。第二に、液晶配向膜の構成を説明する。第三に、液晶配向膜の製造方法を説明する。第四に、液晶組成物の構成を説明する。第五に、液晶組成物の成分化合物の主要な特性、およびこの化合物が液晶組成物や素子に及ぼす主要な効果を説明する。第六に、液晶組成物における成分化合物の組合せ、好ましい割合、およびその根拠を説明する。第七に、液晶組成物の成分化合物の好ましい形態を説明する。第八に、液晶組成物の好ましい成分化合物を示す。第九に、液晶組成物に添加してもよい添加物を説明する。第十に、化合物の合成法を説明する。最後に、液晶組成物の用途を説明する。
【0040】
第一に、液晶表示素子の構成を説明する。本発明の液晶表示素子は、対向配置されている一対の基板の一方または両方に形成されている電極群と、前記電極群に接続された複数のアクティブ素子と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に挟持された負の誘電率異方性を有する液晶組成物とを含む。本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は、ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜である。本発明の液晶表示素子は、そのコントラスト比の高さから、優れた表示品位を実現することができる。
【0041】
電極は、基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には、例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。また電極は、基板の一方の面の全面に形成されていてもよいし、例えばパターン化されている所望の形状に形成されていてもよい。電極の前記所望の形状には、例えば櫛型又はジグザグ構造等が挙げられる。電極は、一対の基板のうちの一方の基板に形成されていてもよいし、両方の基板に形成されていてもよい。電極の形成の形態は液晶表示素子の種類に応じて異なり、例えばIPSモードの液晶表示素子(横電界型液晶表示素子)の場合は前記一対の基板の一方に電極が配置され、その他の液晶表示素子の場合は前記一対の基板の双方に電極が配置される。前記基板または電極の上に前記液晶配向膜が形成される。
【0042】
ホモジニアス配向の液晶表示素子(例えばIPS、FFSなど)の場合は、構成として、少なくとも、バックライト側からバックライト、第一の偏光フィルム、第一の基板、第一の液晶配向膜、液晶層、第二の基板、第二の偏光フィルムを有し、前記偏光フィルムの偏光軸は、第一の偏光フィルムの偏光軸(偏光吸収の方向)と第二の偏光フィルムの偏光軸は交差(好ましくは直交)するように設置される。この時、第一の偏光フィルムの偏光軸と液晶配向方向が平行になるように、または直交するように設置することができる。第一の偏光フィルムの偏光軸と液晶配向方向が平行になるように設置した液晶表示素子をO-モード、直交するように設置した液晶表示素子をE-モードと言う。本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は、O-モード、E-モードどちらにも適用でき、目的によって選択することができる。
【0043】
液晶配向剤に対して異方性を付加させるために照射する偏光の偏光軸を、バックライト側に配置した偏光フィルムからの偏光の偏光軸と平行に揃えると、液晶配向膜の光吸収波長域の透過率が上昇する。その為、液晶表示素子の透過率を更に改善することができる。
【0044】
前記液晶層は、液晶配向膜が形成された面が対向している前記一対の基板によって液晶組成物が挟持される形で形成される。液晶層の形成では、微粒子や樹脂シート等の、前記一対の基板の間に介在して適当な間隔を形成するスペーサを必要に応じて用いることができる。
【0045】
液晶層の形成方法としては、真空注入法とODF(One Drop Fill)法が知られている。
【0046】
真空注入法では、液晶配向膜面が対向するように、空隙(セルギャップ)を設けて、かつ液晶の注入口を残して、シール剤を印刷し、基板を張り合わせる。基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に、真空差圧を利用して液晶を注入充填した後、注入口を封止し、液晶表示素子を製造する。
【0047】
ODF法では、一対の基板のうちの一方の液晶配向膜面の外周にシール剤を印刷し、シール剤の内側の領域に液晶を滴下した後、液晶配向膜面が対向するように他方の基板を張り合わせる。そして、液晶を基板の全面に押し広げ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化し、液晶表示素子を製造する。
【0048】
基板の張り合わせに用いられるシール剤には、UV硬化型以外に熱硬化型も知られている。シール剤の印刷は、例えばスクリーン印刷法により行なうことができる。
【0049】
第二に、液晶配向膜の構成を説明する。本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は、ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤から形成される。
【0050】
<ジアミン類>
式(1)において、R1およびR2は、水素、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシであり、R1とR2は一体となって、置換されてもよいメチレンを形成してもよい。メチレンの置換基として、フッ素や塩素等のハロゲン、フッ素や塩素等のハロゲンや炭素数1から4のアルコキシで置換されてもよいアルキル、またはフッ素や塩素等のハロゲン原子、炭素数1から4のアルキルもしくは炭素数1から4のアルコキシで置換されてもよいアリール等を挙げることができる。Xは、ハロゲン、炭素数1から6のアルキル、炭素数1から6のハロアルキル、または炭素数1から6のアルコキシである。nは、0、1、2、3、または4である。Xおよびアミノ基(-NH2)の結合位置は、それぞれ、その結合手が結合するベンゼン環の置換可能な位置のいずれかである。
【0051】
アルキルは、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。アルキルの具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1-メチルペンチル、1-エチルブチル、シクロペンチル、シクロへキシル等を例示することができる。
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などである。ハロアルキルは、アルキルの少なくとも1つの水素原子が、ハロゲンに置き換えられた基である。ハロアルキルにおけるハロゲンの数は、1から5であることが好ましく、1から4であることがより好ましく、1から3であることがさらに好ましい。ハロアルキルの具体例として、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、1,1-ジフルオロエチル、2,2-ジフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、3-フルオロプロピル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル等を挙げることができる。アルコキシは直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。アルコシキの具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロピル、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、tert-ペンチルオキシ、1-メチルブチルオキシ、1-エチルプロピルオキシ、ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ、1-メチルペンチルオキシ、1-エチルブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロへキシルオキシ等を例示することができる。
【0052】
式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物(ジアミン化合物(1))をモノマーに用いて合成したポリマーで塗膜を形成し、偏光を照射すると、該塗膜に高い液晶配向性が付与される。これは、以下のメカニズムによるものと推測される。
すなわち、ジアミン化合物(1)は、シクロプロパンの隣り合った炭素にフェニルエステルが結合した構造を有することにより、光照射によって光フリース転位反応が生じると考えられる。そのため、このジアミン化合物(1)を用いて合成したポリマーの塗膜に光配向用の偏光を照射すると、ランダム配向しているポリマー鎖のうち、その偏光方向と概ね平行にあるポリマー主鎖のジアミン由来の構成単位で、選択的に光化学反応(光フリース転位反応)が起きる。その結果、偏光方向に対して概ね直角をなすポリマー鎖による配向成分が支配的になり、特定方向に高度に配向した状態になる。
そして、この配向した膜を液晶表示素子の液晶配向膜として用いると、液晶配向膜の表面と液晶分子の相互作用の結果、液晶分子が、照射した偏光の偏光方向に対して概ね直角の方向に長軸を揃えて均一に配向し、液晶層に高い異方性が付与される。
以上のことから、ジアミン化合物(1)は、液晶配向剤に使用されるポリマーの原料モノマー(ジアミンモノマー)として有用である。そして、このジアミン化合物を用いて合成したポリマーを液晶配向剤に使用することにより、液晶配向性が高い液晶配向膜を形成することができる。そして、この液晶配向膜を液晶表示素子に適用することにより、その液晶層に高い配向性が付与され、高いコントラストで表示を行うことが可能になる。
なお、本明細書中では、ポリマー鎖のうちで特定の方向を向いた成分が支配的になった状態を、ポリマー鎖が配向したと表現し、配向膜を形成しているポリマー鎖が特定方向に配向している状態になることを、異方性を生じると表現することがある。また、ポリマー鎖が特定方向により揃っていることを、高い異方性を持つと表現することがある。
【0053】
ジアミン化合物(1)の好ましい例として、ジアミン化合物(1-1)を挙げることができる。ジアミン化合物(1-1)を用いて合成されたポリマーは、アミノ基がエステルに対してパラ位に位置しているため、直線性が高くなり、そのポリマーを用いた液晶配向膜は高い異方性を発現することができる。ジアミン化合物(1-1)の中でも、nが0である化合物は、その製造における原料入手の容易さの観点から有用である。
【0054】
これらジアミン化合物の中でも、シクロプロパン環上の2つのエステルがトランス配置である化合物が好ましい。このような化合物は、直線性が高くなり、液晶配向膜の高い異方性に寄与する。
【0055】
ジアミン化合物(1)の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
例えば化合物(1-1-2a)と化合物(1-1-2b)の関係のように、同じ番号でa、bと付している化合物は、それぞれエナンチオマーの関係にある。本明細書において、互いにエナンチオマーの関係にある化合物の混合物を「ジアミン異性体混合物」と称することもある。このようなジアミン異性体混合物をジアミン化合物(1)として原料組成物に用いることもできる。
【0058】
ジアミン化合物(1)の配合量は、原料として使用するジアミン類の全量に対して、40から100モル%が好ましく、50から100モル%がより好ましい。本発明で使用するポリマーがブロックポリマーである場合におけるジアミン化合物(1)の配合量は、原料として使用するジアミン類の全量に対して、10から100モル%が好ましく、20から70モル%がより好ましい。
【0059】
ジアミン類として、複数のジアミン化合物(1)を用いてもよい。ジアミン化合物(1)に加えて、その他のジアミン化合物を用いてもよい。
【0060】
その他のジアミン化合物として、公知のジアミン化合物から制限されることなく選択することができる。ここで、その他のジアミン化合物には、ジアミンの他、ジヒドラジドも包含されることとする。
ジアミンはその構造によって2種類に分けることができる。すなわち、2つのアミノ基を結ぶ骨格を主鎖として見たときに、主鎖から分岐する基、即ち側鎖基を有するジアミンと側鎖基を持たないジアミンである。このような側鎖基を有するジアミンを側鎖型ジアミン、このような側鎖基を持たないジアミンを非側鎖型ジアミンとそれぞれ称することがある。この側鎖基はプレチルト角を大きくする効果を有する基である。
非側鎖型ジアミンと側鎖型ジアミンを適切に使い分けることにより、それぞれに必要なプレチルト角に対応することができる。
【0061】
側鎖型ジアミンは、本発明の特性を損なわない程度に併用するのが好ましい。また側鎖型ジアミンおよび非側鎖型ジアミンについて、液晶分子に対する垂直配向性、VHR、および残像特性等の特性を向上させる目的で取捨選択して使用することが好ましい。
【0062】
その他のジアミン化合物の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
【0063】
式(DI-11)から式(DI-13)、式(DI-16)、式(DI-17)、式(DI-27)において、sは1から12の整数であり、式(DI-21)において、sは1から12の整数であり、tは1または2であり、式(DI-20)において、uは1から5の整数である。式(DI-11)および式(DI-12)において、Bocはtert-ブトキシカルボニル基である。
【0064】
式(DI-29)の化合物は、光フリース転移を生じる化合物である。ジアミン化合物(1)は低いエネルギーの光照射でも良好な光反応性を示すため、他の光反応性のジアミン化合物と併用する必要はないが、このようなジアミン類をジアミン化合物(1)と併用してもよい。
【0065】
<テトラカルボン酸二無水物類>
テトラカルボン酸二無水物類として、公知のテトラカルボン酸二無水物類から制限されることなく選択することができる。テトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸ジエステルやテトラカルボン酸ジエステルジクロライドに誘導して、原料組成物に用いてもよい。すなわち、「テトラカルボン酸二無水物類」には、テトラカルボン酸二無水物の他、テトラカルボン酸二無水物の誘導体、例えばテトラカルボン酸ジエステルやテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物も包含されることとする。これらのうち、いずれか1種を重合に供してもよいし、2種以上を組み合わせて重合に供してもよい。
また、テトラカルボン酸二無水物は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)に属するものであってもよいし、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)に属するものであってもよい。
【0066】
テトラカルボン酸二無水物類の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
【0067】
式(AN-2)および式(AN-8)において、vは1から12の整数である。
【0068】
<ポリマー>
ポリマーは、ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーであり、このポリマーは、ポリアミック酸およびポリアミック酸の誘導体から選択される少なくとも1つのポリマーを含有する。このポリマーは、複数のポリアミック酸または複数のポリアミック酸の誘導体から構成されてもよいし、ポリアミック酸およびポリアミック酸の誘導体の混合物から構成されてもよい。ポリアミック酸の誘導体として、ポリイミド、部分ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミドコポリマーおよびポリアミドイミドを挙げることができる。
【0069】
ポリアミック酸は、ジアミン類とテトラカルボン酸二無水物との重合反応により合成されるポリマーであり、式(PAA)で表される構成単位を有する。
式(PAA)において、X
1は4価の有機基を表す。X
2は2価の有機基を表す。
【0070】
ポリアミック酸の誘導体は、ポリアミック酸の一部分を他の原子または原子団に置き換えて特性を改変した化合物であり、特に液晶配向剤に用いる溶剤への溶解性を高くしたものであることが好ましい。このようなポリアミック酸の誘導体としては、具体的には1)ポリアミック酸のすべてのアミノ基とカルボキシル基とが脱水閉環反応したポリイミド、2)部分的に脱水閉環反応した部分ポリイミド、3)ポリアミック酸のカルボキシル基がエステルに変換されたポリアミック酸エステル、4)テトラカルボン酸二無水物化合物に含まれる酸二無水物の一部を有機ジカルボン酸に置き換えて反応させて得られたポリアミック酸-ポリアミドコポリマー、さらに5)該ポリアミック酸-ポリアミドコポリマーの一部または全部を脱水閉環反応させたポリアミドイミドが挙げられる。これらの誘導体のうち、例えばポリイミドとしては、式(PI)で表される構成単位を有するものを挙げることができ、ポリアミック酸エステルとしては、式(PAE)で表される構成単位を有するものを挙げることができる。
式(PI)および式(PAE)において、X
1は4価の有機基、X
2は2価の有機基、Zはアルキルを表す。
【0071】
ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体は、第1ポリマー鎖と、第1ポリマー鎖とは構造が異なる第2ポリマー鎖を含むブロックポリマーであってもよい。また、ブロックポリマーは、さらに第1ポリマー鎖および第2ポリマー鎖と構造が異なる他のポリマー鎖を含んでいてもよい。例えば、ポリアミック酸のブロックポリマーは、式(PAA)で示される特定のポリアミック酸(PAA1)の溶液と、ポリアミック酸(PAA1)とX1及びX2の組み合わせが異なるポリアミック酸(PAA2)の溶液を混合して加熱することにより形成することができる。こうして形成されるポリアミック酸のブロックポリマーは、(PAA1)n1で表されるブロックと(PAA2)n2で表されるブロックを含む。(PAA1)n1および(PAA2)n2におけるn1およびn2は、各々独立して1以上の整数であり、好ましくは各々独立して2以上の整数である。ブロックポリマーにおいて、ジアミン化合物(1)を原料組成物に用いるポリマー鎖は、いずれか1つであってもよいし、2つ以上であってもよいし、全てのポリマー鎖であってもよい。
ポリアミック酸ブロックポリマーは、2種以上のポリアミック酸をそれぞれ単独で製造した後に混合し、加熱して合成してもよいし、2種以上のポリアミック酸を同じ反応容器中で合成した後、加熱して合成してもよい。
【0072】
ポリアミック酸をポリイミドとする場合には、得られたポリアミック酸溶液を、脱水剤である無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物、および脱水閉環触媒であるトリエチルアミン、ピリジン、コリジンなどの第三級アミンとともに、20℃から150℃でイミド化反応させることにより、ポリイミドを得ることができる。得られたポリアミック酸溶液から多量の貧溶剤(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤やエチレングリコールなどのグリコール系溶剤)を用いてポリアミック酸を析出させ、析出させたポリアミック酸を、トルエン、キシレン等の溶剤中で、上記の脱水剤及び脱水閉環触媒とともに、20℃から150℃でイミド化反応させることにより、ポリイミドを得ることもできる。
【0073】
イミド化反応において、脱水剤と脱水閉環触媒の割合は、0.1から10(モル比)であることが好ましい。脱水剤と脱水閉環触媒の合計使用量は、当該ポリアミック酸の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物のモル量の合計に対して1.5から10倍モルであることが好ましい。このイミド化反応に用いる脱水剤、触媒量、反応温度及び反応時間を調整することによって、イミド化の程度を制御することができ、これによりポリアミック酸の一部のみがイミド化した部分ポリイミドを得ることができる。得られたポリイミドは、反応に用いた溶剤と分離し、他の溶剤に再溶解させて液晶配向剤として使用することもできるし、あるいは溶剤と分離することなく液晶配向剤として使用することもできる。
【0074】
ポリアミック酸エステルは、ポリアミック酸と水酸基含有化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等とを反応させることにより合成する方法や、テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸ジエステルもしくはテトラカルボン酸ジエステルジクロライドと、ジアミン類とを反応させることにより合成する方法により得ることができる。テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸ジエステルは、例えばテトラカルボン酸二無水物を2当量のアルコールと反応させ開環させて得ることができ、テトラカルボン酸ジエステルジクロライドは、テトラカルボン酸ジエステルを2当量以上の塩素化剤(例えば塩化チオニルなど)と反応させることで得ることができる。なお、ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。
【0075】
式(1)で表されるジアミン化合物を原料に用いたポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体は、ポリイミドの膜の形成に用いられる公知のポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体と同様に製造することができる。
テトラカルボン酸二無水物類の総仕込み量は、ジアミン類の合計1モルに対して、0.9モルから1.1モルとすることが好ましい。
【0076】
ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体の分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、5,000から500,000であることが好ましく、5,000から50,000であることがより好ましい。これらの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による測定から求めることができる。
【0077】
ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体は、多量の貧溶剤で沈殿させて得られる固形分をIR(赤外分光法)、NMR(核磁気共鳴分析)で分析することによりその存在を確認することができる。また水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の強アルカリの水溶液によるポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体の分解物の有機溶剤による抽出物を、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)で分析することにより、使用されているモノマーを確認することができる。
【0078】
<液晶配向剤>
液晶配向剤は、ポリアミック酸およびポリアミック酸の誘導体から選択される少なくとも1つのポリマーを含有する。ポリマーは、1種類であっても2種類以上であってもよい。ポリマーを1種類のみ含有する液晶配向剤を単層型液晶配向剤と称することがある。ポリマーを2種以上含有する液晶配向剤をブレンド型液晶配向剤と称することがある。ブレンド型液晶配向剤は、特にVHR信頼性やその他の電気的特性を重視する場合に用いられる。
【0079】
2成分のポリマーを用いる場合、例えば、一方には液晶配向能に優れた性能を有するポリマーを選択し、他方には液晶表示素子の電気的特性を改善するのに優れた性能を有するポリマーを選択する態様があり、液晶配向性と電気特性のバランスの良い液晶配向剤を得るために好適である。
2成分のポリマーからなる液晶配向剤では、表面エネルギーの小さなポリマーが上層に、表面エネルギーの大きなポリマーが下層に分離する現象が知られている。それぞれのポリマーの構造や分子量を適宜変更し、その表面エネルギーを調整することにより、一方のポリマーを薄膜の上層に偏析させ、他方のポリマーを薄膜の下層に偏析させることができる。すなわち、ポリマーの表面エネルギーの調整により、液晶配向能に優れたポリマーを薄膜の上層に、液晶表示素子の電気的特性改善能に優れたポリマーを薄膜の下層に偏析させ、液晶配向性と電気特性のバランスが良い所望の液晶配向膜を得ることができる。このようにして形成された液晶配向膜の表面エネルギーが、上層に偏析させることを意図したポリマーから形成された膜の表面エネルギーと同じ、または同等であることを確認することで、所望の液晶配向膜が得られたことを確認できる。
【0080】
層分離を発現させる方法として、上層に偏析させるポリマーの分子量を下層に偏析させるポリマーの分子量よりも小さくする方法や、上層に偏析させるポリマーをポリイミドとする方法が挙げられる。
【0081】
式(1)で表されるジアミン化合物は、薄膜の上層に偏析させるポリマーの原料モノマーとして用いられてもよく、薄膜の下層に偏析させるポリマーの原料モノマーとして用いられてもよく、また、両方のポリマーの原料モノマーとして用いられてもよいが、薄膜の上層に偏析させるポリマーの原料モノマーとして用いることが好ましい。
【0082】
液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性や、ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体の濃度の調整の観点から、溶剤をさらに含有してもよい。溶剤には、高分子成分を溶解する能力を持った溶剤であれば格別制限なく使用可能であり、例えばポリアミック酸、可溶性ポリイミド等のポリマー成分の製造工程や各用途において通常使用されている溶剤、ポリアミック酸又はその誘導体の親溶剤、塗布性改善を目的とした他の溶剤から、使用目的に応じて適宜選択することができる。溶剤は1種でも2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0083】
ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体に対し親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、N-メチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。これらの中で、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、またはγ-バレロラクトンが好ましい。
【0084】
塗布性改善等を目的とした他の溶剤の例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。また、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1-ブトキシ-2-プロパノール等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、フェニルアセテート、及びこれらアセテート類等のエステル化合物が挙げられる。さらにマロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、乳酸アルキル、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、3-メチル-3-メトキシブチルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、テトラリン、およびイソホロンが挙げられる。
【0085】
これらの中で、ジイソブチルケトン、4-メチル-2-ペンタノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、1-ブトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルまたはブチルセロソルブアセテートが好ましい。
【0086】
液晶配向剤におけるポリマー濃度は特に限定されるものではなく、下記の種々の塗布法に合わせ最適な値を選べばよい。通常、塗布時のムラやピンホール等を抑えるため、液晶配向剤の重量に対し、好ましくは0.1から30重量%、より好ましくは1から10重量%である。
【0087】
液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体の濃度、使用するポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体の種類、溶剤の種類と割合によって好ましい範囲が異なる。例えば、印刷機による塗布の場合は5から100mPa・sが好ましく、10から80mPa・sがより好ましい。5mPa・s以上であれば十分な膜厚が得られやすくなり、100mPa・s以下であれば印刷ムラを抑えやすくなる。スピンコートによる塗布の場合は5から200mPa・sが好ましく、10から100mPa・sがより好ましい。インクジェット塗布装置を用いて塗布する場合は5から50mPa・sが好ましく、5から20mPa・sがより好ましい。液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE-20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
【0088】
液晶配向剤は、ポリマー成分のみから構成されてもよいし、各種添加剤をさらに含有してもよい。各種添加剤は、配向膜の各種特性を向上させるために、それぞれの目的に応じて選択して使用することができる。以下に、液晶配向剤に用いうる添加剤の例を示す。
【0089】
液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、アルケニル置換ナジイミド化合物、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物、オキサジン化合物、またはオキサゾリン化合物を含有してもよく、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的、膜の硬度を向上させる目的、またはシール剤との密着性を向上させる目的から、エポキシ化合物を含有してもよく、基板およびシール剤との密着性を向上させる目的から、シラン化合物を含有してもよく、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的または配向膜の強度を上げる目的から、シクロカーボネート基を持つ化合物またはヒドロキシアルキルアミド部位や水酸基を持つ化合物を含有してもよい。
【0090】
これらの化合物の具体的な例として、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3,3’,4,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0091】
ジアミン類として式(1)で表されるジアミン化合物から選択された少なくとも1つの化合物およびテトラカルボン酸二無水物類を含有する原料組成物を重合させてなるポリマーを含む液晶配向剤は、光配向用の液晶配向剤に適しており、液晶配向膜を形成させる過程における配向処理には光配向法を適用することができる。
【0092】
第三に、液晶配向膜の製造方法を説明する。本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は、通常の方法によって得ることができる。具体的には、液晶配向剤を基板に塗布して塗膜を形成する工程と、その塗膜に光を照射する工程とを用いて形成することができる。液晶配向剤を基板に塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜を加熱乾燥して液晶配向剤の膜を形成する工程と、液晶配向剤の膜に光を照射して異方性を付与する工程と、異方性を付与した液晶配向剤の膜を加熱焼成する工程を経ることによって製造することが好ましい。すなわち、本発明の液晶配向膜については、塗膜工程、加熱乾燥工程の後に光を照射して異方性を付与し、その後加熱焼成工程を経るのが好ましい。ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体を含む液晶配向剤を用いた場合、この加熱焼成工程により、ポリアミック酸がイミド化反応を起こしポリイミドが形成される。また、異方性を付与するために照射する光は、偏光紫外線であることが好ましい。
【0093】
塗膜は、通常の液晶配向膜の製造と同様に、液晶表示素子における基板に液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。基板には、ITO(IndiumTinOxide)、IZO(In2O3-ZnO)、IGZO(In-Ga-ZnO4)電極等の電極やカラーフィルタ等が設けられていてもよいガラス製、窒化ケイ素製、アクリル製、ポリカーボネイト製、ポリイミド製等の基板が挙げられる。
【0094】
液晶配向剤を基板に塗布する方法としてはスピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法は本発明においても同様に適用可能である。
【0095】
加熱乾燥工程は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。加熱乾燥工程は溶剤の蒸発が可能な範囲内の温度で実施することが好ましく、加熱焼成工程における温度に対して比較的低い温度で実施することがより好ましい。具体的には加熱乾燥温度は30℃から150℃の範囲であることが好ましく、50℃から120℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0096】
加熱焼成工程は、ポリアミック酸またはポリアミック酸の誘導体がイミド化反応を呈するのに必要な条件で行うことができる。塗膜の焼成は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法も本発明において同様に適用可能である。一般に90℃から300℃程度の温度で1分間から3時間行うことが好ましく、120℃から280℃がより好ましく、150℃から250℃がさらに好ましい。
膜の異方性を向上させることや、液晶表示素子を作製した際の残像特性を向上させることを重視する場合には、加熱工程の昇温を緩やかに行うことが好ましく、例えば、段階的に温度を上げながら、異なる温度で複数回加熱焼成する、又は、低温から高温へと温度を変化させて加熱することができる。また、両方の加熱方法を組み合わせて行ってもよい。
【0097】
異なる温度で複数回加熱焼成する場合、異なる温度に設定された複数の加熱装置を用いてもよいし、1台の加熱装置を用いて、異なる温度に順次変化させながら行ってもよい。
異なる温度で複数回加熱焼成する場合は、初めの焼成温度は90℃から180℃で行うのが好ましく、最後の温度は185℃から300℃で行うのが好ましい。例えば、110℃で加熱焼成した後220℃で加熱焼成、110℃で加熱焼成した後230℃で加熱焼成、130℃で加熱焼成した後220℃で加熱焼成、150℃で加熱焼成した後200℃で加熱焼成、150℃で加熱焼成した後220℃で加熱焼成、150℃で加熱焼成した後230℃で加熱焼成、または170℃で加熱焼成した後200℃で加熱焼成することが好ましい。さらに段階を増やして緩やかに昇温させながら加熱焼成することも好ましい。加熱温度を変えて2段階以上で加熱焼成を行う場合、各加熱工程での加熱時間は5分から30分であることが好ましい。
【0098】
低温度から高温へと温度を変化させて焼成を行なう場合、初期温度は90℃から180℃が好ましい。最終温度は185℃から300℃が好ましく、190℃から230℃がより好ましい。加熱時間は5分から60分が好ましく、20分から60分がより好ましい。昇温スピードは、例えば0.5℃/分から40℃/分とすることができる。昇温中の昇温スピードは一定でなくともよい。
【0099】
液晶配向膜の製造方法において、液晶を水平および/または垂直方向に対して一方向に配向させるために、薄膜へ異方性を付与する手段として、公知の光配向法を好適に用いることができる。
【0100】
光配向法による液晶配向膜の製造方法について、詳細に説明する。光配向法を用いた液晶配向膜は、塗膜を加熱乾燥した後の薄膜に、光の直線偏光または無偏光を照射することにより、薄膜に異方性を付与し、その膜を加熱焼成することにより形成することができる。または、塗膜を加熱乾燥し、加熱焼成した後に、薄膜に光の直線偏光または無偏光を照射することにより形成することができる。液晶配向性の点から、光の照射工程は加熱焼成工程前に行うのが好ましい。
【0101】
さらに、液晶配向膜の液晶配向能を上げるために、塗膜を加熱しながら光の直線偏光または無偏光を照射することもできる。光の照射は、塗膜を加熱乾燥する工程、または加熱焼成する工程で行ってもよく、加熱乾燥工程と加熱焼成工程の間に行ってもよい。
塗膜を加熱乾燥する工程、または加熱焼成する工程で光を照射する場合の加熱温度は、上記の加熱乾燥工程、または加熱焼成工程の記載を参考にできる。加熱乾燥工程と加熱焼成工程の間に光を照射する場合の加熱温度は、30℃から150℃の範囲であることが好ましく、50℃から110℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0102】
光としては、例えば150から800nmの波長の光を含む紫外線または可視光を用いることができるが、200から400nmの光を含む紫外線が好ましい。また、直線偏光または無偏光を用いることができる。これらの光は、前記薄膜に液晶配向能を付与することができる光であれば特に限定されないが、液晶に対して強い配向規制力を発現させたい場合、直線偏光が好ましい。
【0103】
本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は、低いエネルギーの光照射でも高い異方性を示すことができる。前記光照射工程における直線偏光の照射量は0.05から10J/cm2であることが好ましく、0.1から5J/cm2がより好ましい。直線偏光の膜表面に対する照射角度は特に限定されないが、液晶に対する強い配向規制力を発現させたい場合、膜表面に対してなるべく垂直であることが配向処理時間短縮の観点から好ましい。また、本発明の液晶配向膜は、直線偏光を照射することにより、直線偏光の偏光方向に対して直角方向に液晶を配向させることができる。
【0104】
光の直線偏光または無偏光を照射する工程に使用する光源には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、Deep UVランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、エキシマランプ、KrFエキシマレーザー、蛍光ランプ、LEDランプ、ナトリウムランプ、マイクロウェーブ励起無電極ランプ、などを制限なく用いることができる。
【0105】
本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は、前述した工程以外の他の工程をさらに含む方法によって好適に得られる。
【0106】
本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は焼成または光照射後の膜を洗浄液で洗浄する工程は必須としないが、他の工程の都合で洗浄工程を設けることができる。洗浄液による洗浄方法としては、ブラッシング、ジェットスプレー、蒸気洗浄または超音波洗浄等が挙げられる。これらの方法は単独で行ってもよいし、併用してもよい。洗浄液としては純水、または、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトンを用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろん、これらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが用いられる。このような洗浄方法は、液晶配向膜の形成における前記洗浄工程にも適用することができる。
【0107】
液晶配向能を高めるために、加熱焼成工程の前後、または、偏光又は無偏光の光照射の前後に、熱や光によるアニール処理を用いることができる。該アニール処理において、アニール温度が30℃から180℃、好ましくは50℃から150℃であり、時間は1分から2時間が好ましい。また、アニール処理に使用するアニール光には、UVランプ、蛍光ランプ、LEDランプなどが挙げられる。光の照射量は0.3から10J/cm2であることが好ましい。
【0108】
本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜の膜厚は、特に限定されないが、10から300nmであることが好ましく、30から150nmであることがより好ましい。液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。
【0109】
本発明の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は特に大きな配向の異方性を持つことを特徴とする。このような異方性の大きさは特開2005-275364号公報等に記載の偏光IRを用いた方法で評価することができる。またエリプソメトリーを用いた方法によっても評価することができる。詳しくは、分光エリプソメータによって液晶配向膜のリタデーション値を測定することができる。膜のリタデーション値はポリマー主鎖の配向度に比例して大きくなる。すなわち、大きなリタデーション値を持つポリマーの膜は、大きな配向度を持ち、液晶配向膜として使用した場合、より大きな異方性を持つ液晶配向膜が液晶組成物に対し大きな配向規制力を持つと考えられる。
【0110】
第四に、組成物の構成を説明する。この組成物は、複数の液晶性化合物を含有する。この組成物は、添加物を含有してもよい。添加物は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、極性化合物などである。この組成物は、液晶性化合物の観点から組成物(a)と組成物(b)に分類される。組成物(a)は、化合物(2)および化合物(3)から選択された液晶性化合物の他に、その他の液晶性化合物、添加物などをさらに含有してもよい。「その他の液晶性化合物」は、化合物(2)および化合物(3)とは異なる液晶性化合物である。このような化合物は、特性をさらに調整する目的で組成物に混合される。
【0111】
組成物(b)は、実質的に化合物(2)および化合物(3)から選択された液晶性化合物のみからなる。「実質的に」は、組成物(b)が添加物を含有してもよいが、その他の液晶性化合物を含有しないことを意味する。組成物(b)は組成物(a)に比較して成分の数が少ない。コストを下げるという観点から、組成物(b)は組成物(a)よりも好ましい。その他の液晶性化合物を混合することによって特性をさらに調整できるという観点から、組成物(a)は組成物(b)よりも好ましい。
【0112】
第五に、液晶組成物の成分化合物の主要な特性、およびこの化合物が組成物や素子に及ぼす主要な効果を説明する。成分化合物の主要な特性を本発明の効果に基づいて表2にまとめる。表2の記号において、Lは大きいまたは高い、Mは中程度の、Sは小さいまたは低い、を意味する。記号L、M、Sは、成分化合物のあいだの定性的な比較に基づいた分類であり、0(ゼロ)は、Sよりも小さいことを意味する。
【0113】
【0114】
成分化合物の主要な効果は次のとおりである。化合物(2)は誘電率異方性を上げる。化合物(3)は粘度を下げる、または上限温度を上げる。化合物(4)は、重合性であるから重合によって重合体を与える。この重合体は、液晶分子の配向を安定化するので、素子の応答時間を短縮し、そして画像の焼き付きを改善する。
【0115】
第六に、液晶組成物における成分化合物の組合せ、好ましい割合、およびその根拠を説明する。組成物における成分化合物の好ましい組合せは、化合物(2)+化合物(3)または化合物(2)+化合物(3)+化合物(4)である。
【0116】
化合物(2)の好ましい割合は、誘電率異方性を上げるために約5質量%以上であり、下限温度を下げるために約95質量%以下である。さらに好ましい割合は約10質量%から約90質量%の範囲である。特に好ましい割合は約15質量%から約85質量%の範囲である。
【0117】
化合物(3)の好ましい割合は、粘度を下げるためにまたは上限温度を上げるために約5質量%以上であり、下限温度を下げるために約95質量%以下である。さらに好ましい割合は約10質量%から約90質量%の範囲である。特に好ましい割合は約15質量%から約85質量%の範囲である。
【0118】
化合物(4)は、高分子支持配向型の素子に適合させる目的で、組成物に添加される。化合物(4)の好ましい割合は、液晶分子を配向させるために約0.03質量%以上であり、素子の表示不良を防ぐために約10質量%以下である。さらに好ましい割合は、約0.1質量%から約2質量%の範囲である。特に好ましい割合は、約0.2質量%から約1.0質量%の範囲である。
【0119】
第七に、液晶組成物の成分化合物の好ましい形態を説明する。式(2)および式(3)において、R3およびR4は、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルである。好ましいR3またはR4は、安定性を上げるために炭素数1から12のアルキルであり、誘電率異方性を上げるために炭素数1から12のアルコキシであり、粘度を下げるためにまたはしきい値電圧を下げるために、炭素数2から12のアルケニルである。R5およびR6は、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。好ましいR5またはR6は、粘度を下げるために炭素数2から12のアルケニルであり、安定性を上げるために炭素数1から12のアルキルである。
【0120】
好ましいアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチルである。さらに好ましいアルキルは、粘度を下げるために、メチル、エチル、プロピル、ブチル、またはペンチルである。
【0121】
好ましいアルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、またはヘプチルオキシである。粘度を下げるために、さらに好ましいアルコキシは、メトキシまたはエトキシである。
【0122】
好ましいアルケニルは、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、または5-ヘキセニルである。さらに好ましいアルケニルは、粘度を下げるために、ビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルである。これらのアルケニルにおける-CH=CH-の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。粘度を下げるためなどから1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ペンテニル、3-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはトランスが好ましい。2-ブテニル、2-ペンテニル、2-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはシスが好ましい。
【0123】
好ましいアルケニルオキシは、ビニルオキシ、アリルオキシ、3-ブテニルオキシ、3-ペンテニルオキシ、または4-ペンテニルオキシである。粘度を下げるために、さらに好ましいアルケニルオキシは、アリルオキシまたは3-ブテニルオキシである。
【0124】
少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルキルの好ましい例は、フルオロメチル、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、5-フルオロペンチル、6-フルオロヘキシル、7-フルオロヘプチル、または8-フルオロオクチルである。さらに好ましい例は、誘電率異方性を上げるために、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、または5-フルオロペンチルである。
【0125】
少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルケニルの好ましい例は、2,2-ジフルオロビニル、3,3-ジフルオロ-2-プロペニル、4,4-ジフルオロ-3-ブテニル、5,5-ジフルオロ-4-ペンテニル、または6,6-ジフルオロ-5-ヘキセニルである。さらに好ましい例は、粘度を下げるために、2,2-ジフルオロビニルまたは4,4-ジフルオロ-3-ブテニルである。
【0126】
環Aおよび環Cは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルである。「少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン」の好ましい例は、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレンまたは2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレンである。好ましい環Aまたは環Cは、粘度を下げるためにまたは上限温度を上げるために、1,4-シクロヘキシレンであり、下限温度を下げるために1,4-フェニレンであり、誘電率異方性を上げるためにテトラヒドロピラン-2,5-ジイルまたは少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレンである。
【0127】
環Bは、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-5-メチル-1,4-フェニレン、3,4,5-トリフルオロナフタレン-2,6-ジイル、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、3,4,5,6-テトラフルオロフルオレン-2,7-ジイル(FLF4)、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル(DBFF2)、4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイル(DBTF2)、または1,1,6,7-テトラフルオロインダン-2,5-ジイル(InF4)である。
好ましい環Bは、粘度を下げるために2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり、誘電率異方性を上げるために4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイルである。
【0128】
環Dおよび環Eは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンである。好ましい環Dまたは環Eは、粘度を下げるためにまたは上限温度を上げるために、1,4-シクロヘキシレンであり、下限温度を下げるために1,4-フェニレンである。
【0129】
Z1およびZ2は、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシである。好ましいZ1またはZ2は、粘度を下げるために単結合であり、下限温度を下げるためにエチレンであり、誘電率異方性を上げるためにメチレンオキシである。Z3は、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシである。好ましいZ3は、粘度を下げるために単結合である。
【0130】
メチレンオキシのような二価基は、左右非対称である。メチレンオキシにおいて、-CH2O-は-OCH2-よりも好ましい。カルボニルオキシにおいて、-COO-は-OCO-よりも好ましい。
【0131】
aは0、1、2、または3であり、bは0または1であり、そしてaとbとの和は3以下である。好ましいaは、粘度を下げるために1であり、上限温度を上げるために2または3である。好ましいbは、粘度を下げるために0であり、下限温度を下げるために1である。cは、1、2、または3である。好ましいcは、粘度を下げるためにまたは下限温度を下げるために1であり、上限温度を上げるために2または3である。
【0132】
式(4)において、環Iおよび環Kは、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、テトラヒドロピラン-2-イル、1,3-ジオキサン-2-イル、ピリミジン-2-イル、またはピリジン-2-イルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよい。好ましい環Iまたは環Kは、フェニルである。環Jは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ナフタレン-1,2-ジイル、ナフタレン-1,3-ジイル、ナフタレン-1,4-ジイル、ナフタレン-1,5-ジイル、ナフタレン-1,6-ジイル、ナフタレン-1,7-ジイル、ナフタレン-1,8-ジイル、ナフタレン-2,3-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、ナフタレン-2,7-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよい。好ましい環Jは、1,4-フェニレンまたは2-フルオロ-1,4-フェニレンである。
【0133】
Z6およびZ7は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2CH2-は、-CH=CH-、-C(CH3)=CH-、-CH=C(CH3)-、または-C(CH3)=C(CH3)-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよい。好ましいZ6またはZ7は、単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、または-OCO-である。さらに好ましいZ6またはZ7は、単結合である。
【0134】
Sp1からSp3は、単結合または炭素数1から10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2CH2-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素または塩素で置き換えられてもよい。好ましいSp1からSp3は、単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-OCO-、-CO-CH=CH-、または-CH=CH-CO-である。さらに好ましいSp1からSp3は、単結合である。
【0135】
fは、0、1、または2である。好ましいfは、0または1である。g、h、およびiは、0、1、2、3、または4であり、そしてg、h、およびiの和は、1以上である。好ましいg、h、またはiは、1または2である。
【0136】
P
1からP
3は、重合性基である。好ましいP
1からP
3は、式(P-1)から式(P-5)で表される基から選択された重合性基である。さらに好ましいP
1からP
3は、式(P-1)、式(P-2)、または式(P-3)で表される基である。特に好ましいP
1からP
3は、式(P-1)または式(P-2)で表される基である。最も好ましいP
1からP
3は、式(P-1)で表される基である。式(P-1)で表される好ましい基は、-OCO-CH=CH
2または-OCO-C(CH
3)=CH
2である。式(P-1)から式(P-5)の波線は、結合する部位を示す。
【0137】
式(P-1)から式(P-5)において、M1からM3は、水素、フッ素、炭素数1から5のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から5のアルキルである。好ましいM1からM3は、反応性を上げるために水素またはメチルである。さらに好ましいM1は水素またはメチルであり、さらに好ましいM2またはM3は水素である。
【0138】
式(4-1)から式(4-29)において、P
4からP
6は、式(P-1)から式(P-3)で表される基である。好ましいP
4からP
6は、式(P-1)または式(P-2)である。さらに好ましい式(P-1)は、-OCO-CH=CH
2または-OCO-C(CH
3)=CH
2である。式(P-1)から式(P-3)の波線は、結合する部位を示す。
【0139】
第八に、液晶組成物の好ましい成分化合物を示す。好ましい化合物(2)は、項5に記載の化合物(2-1)から化合物(2-35)である。これらの化合物において、成分Aの少なくとも1つが、化合物(2-1)、化合物(2-3)、化合物(2-6)、化合物(2-7)、化合物(2-8)、化合物(2-10)、化合物(2-14)、化合物(2-16)、または化合物(2-18)であることが好ましい。成分Aの少なくとも2つが、化合物(2-1)および化合物(2-8)、化合物(2-1)および化合物(2-14)、化合物(2-3)および化合物(2-8)、化合物(2-3)および化合物(2-14)、化合物(2-3)および化合物(2-16)、化合物(2-6)および化合物(2-8)、化合物(2-6)および化合物(2-10)、または化合物(2-6)および化合物(2-14)の組合せであることが好ましい。
【0140】
好ましい化合物(3)は、項8に記載の化合物(3-1)から化合物(3-14)である。これらの化合物において、成分Bの少なくとも1つが、化合物(3-1)、化合物(3-3)、化合物(3-5)、化合物(3-6)、化合物(3-8)、化合物(3-9)、または化合物(3-14)であることが好ましい。成分Bの少なくとも2つが、化合物(3-1)および化合物(3-3)、化合物(3-1)および化合物(3-5)、化合物(3-1)および化合物(3-6)、または化合物(3-1)および化合物(3-14)の組合せであることが好ましい。
【0141】
好ましい化合物(4)は、項12に記載の化合物(4-1)から化合物(4-29)である。これらの化合物において、添加物Xの少なくとも1つが、化合物(4-1)、化合物(4-2)、化合物(4-24)、化合物(4-25)、化合物(4-26)、または化合物(4-27)であることが好ましい。添加物Xの少なくとも2つが、化合物(4-1)および化合物(4-2)、化合物(4-1)および化合物(4-18)、化合物(4-2)および化合物(4-24)、化合物(4-2)および化合物(4-25)、化合物(4-2)および化合物(4-26)、化合物(4-25)および化合物(4-26)、または化合物(4-18)および化合物(4-24)の組合せであることが好ましい。
【0142】
第九に、液晶組成物に添加してもよい添加物を説明する。このような添加物は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、極性化合物などである。液晶分子のらせん構造を誘起してねじれ角を与える目的で光学活性化合物が組成物に添加される。このような化合物の例は、化合物(5-1)から化合物(5-5)である。光学活性化合物の好ましい割合は約5質量%以下である。さらに好ましい割合は約0.01質量%から約2質量%の範囲である。
【0143】
【0144】
大気中での加熱による比抵抗の低下を防止するために、または素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するために、化合物(6-1)から化合物(6-3)のような酸化防止剤を組成物にさらに添加してもよい。
【0145】
化合物(6-2)は、揮発性が小さいので、素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するのに有効である。酸化防止剤の好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないように約600ppm以下である。さらに好ましい割合は、約100ppmから約300ppmの範囲である。
【0146】
紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などである。立体障害のあるアミンのような光安定剤もまた好ましい。光安定剤の好ましい例は、化合物(7-1)から化合物(7-16)などである。これらの吸収剤や安定剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないために約10000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0147】
消光剤は、液晶化合物が吸収した光エネルギーを受容し、熱エネルギーに変換することにより、液晶化合物の分解を防止する化合物である。消光剤の好ましい例は、化合物(8-1)から化合物(8-7)などである。これらの消光剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、下限温度を上げないために約20000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0148】
GH(guest host)モードの素子に適合させるために、アゾ系色素、アントラキノン系色素などのような二色性色素(dichroic dye)が組成物に添加される。色素の好ましい割合は、約0.01質量%から約10質量%の範囲である。泡立ちを防ぐために、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどの消泡剤が組成物に添加される。消泡剤の好ましい割合は、その効果を得るために約1ppm以上であり、表示不良を防ぐために約1000ppm以下である。さらに好ましい割合は、約1ppmから約500ppmの範囲である。
【0149】
高分子支持配向(PSA)型の素子に適合させるために重合性化合物が用いられる。化合物(4)はこの目的に適している。化合物(4)と共に化合物(4)とは異なる重合性化合物を組成物に添加してもよい。このような重合性化合物の好ましい例は、アクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの化合物である。さらに好ましい例は、アクリレートまたはメタクリレートの誘導体である。化合物(4)の好ましい割合は、重合性化合物の全質量に基づいて10質量%以上である。さらに好ましい割合は、50質量%以上である。特に好ましい割合は、80質量%以上である。最も好ましい割合は、100質量%である。
【0150】
化合物(4)のような重合性化合物は紫外線照射により重合する。光重合開始剤などの適切な開始剤存在下で重合させてもよい。重合のための適切な条件、開始剤の適切なタイプ、および適切な量は、当業者には既知であり、文献に記載されている。例えば光開始剤であるIrgacure651(登録商標;BASF)、Irgacure184(登録商標;BASF)、またはDarocur1173(登録商標;BASF)がラジカル重合に対して適切である。光重合開始剤の好ましい割合は、重合性化合物の全質量に基づいて約0.1質量%から約5質量%の範囲である。さらに好ましい割合は約1質量%から約3質量%の範囲である。
【0151】
化合物(4)のような重合性化合物を保管するとき、重合を防止するために重合禁止剤を添加してもよい。重合性化合物は、通常は重合禁止剤を除去しないまま組成物に添加される。重合禁止剤の例は、ヒドロキノン、メチルヒドロキノンのようなヒドロキノン誘導体、4-t-ブチルカテコール、4-メトキシフェノール、フェノチアジンなどである。
【0152】
第十に、化合物の合成法を説明する。これらの化合物は既知の方法によって合成できる。合成法を例示する。ジアミン化合物(1)は、特許第6907424号に記載された方法で合成する。化合物(2-1)は、特表平2-503441号公報に記載された方法で合成する。化合物(3-5)は、特開昭57-165328号公報に記載された方法で合成する。化合物(4-18)は特開平7-101900号公報に記載された方法で合成する。酸化防止剤は市販されている。化合物(6-1)は、アルドリッチ(Sigma-Aldrich Corporation)から入手できる。化合物(6-2)などは、米国特許3660505号明細書に記載された方法によって合成する。
【0153】
合成法を記載しなかった化合物は、オーガニック・シンセシス(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載された方法によって合成できる。組成物は、このようにして得た化合物から公知の方法によって調製される。例えば、成分化合物を混合し、そして加熱によって互いに溶解させる。
【0154】
最後に、液晶組成物の用途を説明する。この組成物は主として、約-10℃以下の下限温度、約70℃以上の上限温度、そして約0.07から約0.20の範囲の光学異方性を有する。成分化合物の割合を制御することによって、またはその他の液晶性化合物を混合することによって、約0.08から約0.25の範囲の光学異方性を有する組成物を調製してもよい。試行錯誤によって、約0.10から約0.30の範囲の光学異方性を有する組成物を調製してもよい。この組成物を含有する素子は大きな電圧保持率を有する。この組成物はAM素子に適する。この組成物は透過型のAM素子に特に適する。この組成物は、ネマチック相を有する組成物としての使用、光学活性化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用が可能である。
【0155】
この組成物はAM素子への使用が可能である。さらにPM素子への使用も可能である。この組成物は、PC、TN、STN、ECB、OCB、IPS、FFS、VA、FPAなどのモードを有するAM素子およびPM素子への使用が可能である。TN、OCB、IPSモードまたはFFSモードを有するAM素子への使用は特に好ましい。IPSモードまたはFFSモードを有するAM素子において、電圧が無印加のとき、液晶分子の配列がガラス基板に対して並行であってもよく、または垂直であってもよい。これらの素子が反射型、透過型または半透過型であってもよい。透過型の素子への使用は好ましい。非結晶シリコン-TFT素子または多結晶シリコン-TFT素子への使用も可能である。この組成物をマイクロカプセル化して作製したNCAP(nematic curvilinear aligned phase)型の素子や、組成物中に三次元の網目状高分子を形成させたPD(polymer dispersed)型の素子にも使用できる。
【実施例0156】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。本発明は、実施例1の組成物と実施例2の組成物との混合物を含む。本発明は、実施例の組成物の少なくとも2つを混合した混合物をも含む。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物、組成物、および素子の特性は、下記に記載した方法により測定した。
【0157】
NMR分析:測定には、ブルカーバイオスピン社製のDRX-500を用いた。1H-NMRの測定では、試料をCDCl3などの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F-NMRの測定では、CFCl3を内部標準として用い、積算回数24回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0158】
ガスクロマト分析:測定には島津製作所製のGC-14B型ガスクロマトグラフを用いた。キャリアーガスはヘリウム(2mL/分)である。試料気化室を280℃に、検出器(FID)を300℃に設定した。成分化合物の分離には、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm;固定液相はジメチルポリシロキサン;無極性)を用いた。このカラムは、200℃で2分間保持したあと、5℃/分の割合で280℃まで昇温した。試料はアセトン溶液(0.1質量%)に調製したあと、その1μLを試料気化室に注入した。記録計は島津製作所製のC-R5A型Chromatopac、またはその同等品である。得られたガスクロマトグラムは、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積を示した。
【0159】
試料を希釈するための溶媒は、クロロホルム、ヘキサンなどを用いてもよい。成分化合物を分離するために、次のキャピラリカラムを用いてもよい。Agilent Technologies Inc.製のHP-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Restek Corporation製のRtx-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、SGE International Pty. Ltd製のBP-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)。化合物ピークの重なりを防ぐ目的で島津製作所製のキャピラリカラムCBP1-M50-025(長さ50m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いてもよい。
【0160】
組成物に含有される液晶性化合物の割合は、次のような方法で算出してよい。液晶性化合物の混合物をガスクロマトグラフィー(FID)で分析する。ガスクロマトグラムにおけるピークの面積比は液晶性化合物の割合に相当する。上に記載したキャピラリカラムを用いたときは、各々の液晶性化合物の補正係数を1とみなしてよい。したがって、液晶性化合物の割合(質量%)は、ピークの面積比から算出することができる。
【0161】
測定試料:組成物または素子の特性を測定するときは、組成物をそのまま試料として用いた。化合物の特性を測定するときは、この化合物(15質量%)を母液晶(85質量%)に混合することによって測定用の試料を調製した。測定によって得られた値から外挿法によって化合物の特性値を算出した。(外挿値)={(試料の測定値)-0.85×(母液晶の測定値)}/0.15。この割合でスメクチック相(または結晶)が25℃で析出するときは、化合物と母液晶の割合を10質量%:90質量%、5質量%:95質量%、1質量%:99質量%の順に変更した。この外挿法によって化合物に関する上限温度、光学異方性、粘度、および誘電率異方性の値を求めた。
【0162】
下記の母液晶を用いた。成分化合物の割合は質量%で示した。
【0163】
測定方法:特性の測定は下記の方法で行った。これらの多くは、社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association;JEITAという)で審議制定されるJEITA規格(JEITA・ED-2521B)に記載された方法、またはこれを修飾した方法であった。測定に用いたTN素子には、薄膜トランジスター(TFT)を取り付けなかった。
【0164】
(1)ネマチック相の上限温度(NI;℃):偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。
【0165】
(2)ネマチック相の下限温度(TC;℃):ネマチック相を有する試料をガラス瓶に入れ、0℃、-10℃、-20℃、-30℃、および-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が-20℃ではネマチック相のままであり、-30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、TCを<-20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
【0166】
(3)粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):測定には東京計器株式会社製のE型回転粘度計を用いた。
【0167】
(4)粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s):測定には、東陽テクニカ株式会社の回転粘性率測定システムLCM-2型を用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が10μmのVA素子に試料を注入した。この素子に矩形波(55V、1ms)を印加した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値および誘電率異方性を用いて、回転粘度の値を得た。誘電率異方性は、測定(6)に記載された方法で測定した。
【0168】
(5)光学異方性(屈折率異方性;Δn;25℃で測定):測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率n∥は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値は、Δn=n∥-n⊥、の式から計算した。
【0169】
(6)誘電率異方性(Δε;25℃で測定):誘電率異方性の値は、Δε=ε∥-ε⊥、の式から計算した。誘電率(ε∥およびε⊥)は次のように測定した。
1)誘電率(ε∥)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであるVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε∥)を測定した。
2)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミド溶液を塗布した。このガラス基板を焼成した後、得られた配向膜にラビング処理をした。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
【0170】
(7)しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(60Hz、矩形波)は0Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧-透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が10%になったときの電圧で表した。
【0171】
(8)電圧保持率(VHR-1;25℃で測定;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmであった。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積であった。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率で表した。
【0172】
(9)電圧保持率(VHR-2;80℃で測定;%):25℃の代わりに、80℃で測定した以外は、上記と同じ手順で電圧保持率を測定した。得られた値をVHR-2で表した。
【0173】
(10)電圧保持率(VHR-3;25℃で測定;%):紫外線を照射したあと、電圧保持率を測定し、紫外線に対する安定性を評価した。測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そしてセルギャップは5μmであった。この素子に試料を注入し、光を20分間照射した。光源は超高圧水銀ランプUSH-500D(ウシオ電機製)であり、素子と光源の間隔は20cmであった。VHR-3の測定では、16.7ミリ秒のあいだ減衰する電圧を測定した。大きなVHR-3を有する組成物は紫外線に対して大きな安定性を有する。VHR-3は90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0174】
(11)電圧保持率(VHR-4;25℃で測定;%):試料を注入したTN素子を80℃の恒温槽内で500時間加熱したあと、電圧保持率を測定し、熱に対する安定性を評価した。VHR-4の測定では、16.7ミリ秒のあいだ減衰する電圧を測定した。大きなVHR-4を有する組成物は熱に対して大きな安定性を有する。
【0175】
(12)応答時間(τ;25℃で測定;ms):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れた。この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子に矩形波(60Hz、10V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%であるとみなした。応答時間は透過率90%から10%に変化するのに要した時間(立ち下がり時間;fall time;ミリ秒)で表した。
【0176】
(13)比抵抗(ρ;25℃で測定;Ωcm):電極を備えた容器に試料1.0mLを注入した。この容器に直流電圧(10V)を印加し、10秒後の直流電流を測定した。比抵抗は次の式から算出した。(比抵抗)={(電圧)×(容器の電気容量)}/{(直流電流)×(真空の誘電率)}。
【0177】
(14)コントラスト比:作製した液晶セルの輝度-電圧特性(B-V特性)を測定し、最小輝度と最大輝度を用いてコントラスト比(CR)を求めた。
CR=Bmax/Bmin
式において、BmaxはB-V特性における最大輝度を示し、BminはB-V特性における最小輝度を示す。CRの値が大きいほど、明暗表示が鮮明であり、コントラストが良好であることを意味する。
【0178】
液晶組成物の成分化合物は、下記の表3の定義に基づいて記号によって表した。表3において、1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。記号の後にあるかっこ内の番号は、化合物の番号に対応する。(-)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶組成物の質量に基づいた質量百分率(質量%)である。最後に、組成物の特性値をまとめた。
【0179】
【0180】
1.液晶組成物
実施例で用いた液晶組成物を以下に示す。
[組成物例M1]
3-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
5-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
3-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 8%
5-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 8%
3-HDhB(2F,3F)-O2 (2-13) 5%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
4-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
V2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
3-HH-4 (3-1) 14%
V-HHB-1 (3-5) 11%
3-HBB-2 (3-6) 6%
NI=89.4℃;Tc<-30℃;Δn=0.109;Δε=-3.8;Vth=2.24V;η=24.6mPa・s.
【0181】
[組成物例M2]
3-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
V-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 7%
V2-BB(2F,3F)-O1 (2-6) 7%
2-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 5%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 10%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 10%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
3-B(2F,3F)B(2F,3F)-O2 (2) 3%
2-HH-3 (3-1) 14%
3-HB-O1 (3-2) 5%
3-HHB-1 (3-5) 3%
3-HHB-O1 (3-5) 3%
3-HHB-3 (3-5) 5%
2-BB(F)B-3 (3-8) 3%
NI=72.5℃;Tc<-20℃;Δn=0.112;Δε=-3.9;Vth=2.14V;η=22.8mPa・s.
【0182】
[組成物例M3]
3-HB(2F,3F)-O4 (2-1) 6%
3-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 8%
3-H1OB(2F,3F)-O2 (2-3) 5%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 10%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 7%
V-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 7%
V-HHB(2F,3F)-O4 (2-8) 7%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 6%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 6%
1V2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
3-HH-V (3-1) 11%
1-BB-3 (3-3) 6%
3-HHB-1 (3-5) 4%
3-HHB-O1 (3-5) 4%
3-HBB-2 (3-6) 5%
3-B(F)BB-2 (3-7) 3%
NI=87.7℃;Tc<-30℃;Δn=0.129;Δε=-4.4;Vth=2.17V;η=26.2mPa・s.
【0183】
[組成物例M4]
3-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
1V2-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 8%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 5%
5-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-10) 5%
2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 3%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
4-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
2-BB(2F,3F)B-3 (2-19) 4%
3-HH-V (3-1) 27%
3-HH-V1 (3-1) 6%
V-HHB-1 (3-5) 3%
NI=78.2℃;Tc<-30℃;Δn=0.109;Δε=-3.3;Vth=2.08V;η=16.3mPa・s.
【0184】
[組成物例M5]
3-HB(2F,3F)-O4 (2-1) 15%
3-chB(2F,3F)-O2 (2-5) 7%
2-HchB(2F,3F)-O2 (2-12) 8%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 7%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
3-dhBB(2F,3F)-O2 (2-16) 5%
5-HH-V (3-1) 18%
7-HB-1 (3-2) 5%
V-HHB-1 (3-5) 7%
V2-HHB-1 (3-5) 7%
3-HBB(F)B-3 (3-13) 8%
NI=98.5℃;Tc<-30℃;Δn=0.112;Δε=-3.2;Vth=2.47V;η=23.5mPa・s.
【0185】
[組成物例M6]
3-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 18%
5-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 17%
3-HHB(2F,3CL)-O2 (2-11) 5%
3-HBB(2F,3CL)-O2 (2-15) 8%
5-HBB(2F,3CL)-O2 (2-15) 7%
3-DhHB(2F,3F)-O2 (2) 5%
3-HH-V (3-1) 11%
3-HH-VFF (3-1) 7%
F3-HH-V (3-1) 10%
3-HHEH-3 (3-4) 4%
3-HB(F)HH-2 (3-10) 3%
3-HHEBH-3 (3-11) 5%
NI=78.2℃;Tc<-30℃;Δn=0.084;Δε=-2.6;Vth=2.45V;η=22.5mPa・s.
【0186】
[組成物例M7]
3-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 7%
V-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 8%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-10) 5%
2-HchB(2F,3F)-O2 (2-12) 8%
3-HDhB(2F,3F)-O2 (2-13) 3%
2-BB(2F,3F)B-3 (2-19) 7%
2-BB(2F,3F)B-4 (2-19) 7%
3-DhH1OB(2F,3F)-O2 (2) 4%
4-HH-V (3-1) 15%
3-HH-V1 (3-1) 6%
1-HH-2V1 (3-1) 5%
3-HH-2V1 (3-1) 5%
V2-BB-1 (3-3) 5%
1V2-BB-1 (3-3) 5%
3-HHB-1 (3-5) 6%
3-HB(F)BH-3 (3-12) 4%
NI=87.5℃;Tc<-30℃;Δn=0.115;Δε=-2.0;Vth=2.82V;η=17.2mPa・s.
【0187】
[組成物例M8]
V-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 8%
3-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 10%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 10%
2O-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 3%
2-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 4%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 7%
V-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 5%
3-HDhB(2F,3F)-O2 (2-13) 6%
2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 6%
3-dhBB(2F,3F)-O2 (2-16) 4%
2-BB(2F,3F)B-3 (2-19) 6%
2-BB(2F,3F)B-4 (2-19) 6%
3-HH1OCro(7F,8F)-5 (2-27) 4%
3-HH-V (3-1) 11%
1-BB-5 (3-3) 5%
NI=70.9℃;Tc<-20℃;Δn=0.129;Δε=-4.4;Vth=1.74V;η=27.2mPa・s.
【0188】
[組成物例M9]
3-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
V-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 8%
3-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 8%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 10%
2-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 4%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 7%
V-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 6%
3-HDhB(2F,3F)-O2 (2-13) 6%
2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 6%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
V2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 4%
3-H1OCro(7F,8F)-5 (2-26) 3%
3-HEB(2F,3F)B(2F,3F)-O2 (2) 3%
3-HH-O1 (3-1) 5%
1-BB-5 (3-3) 4%
V-HHB-1 (3-5) 4%
5-HBBH-3 (3) 5%
NI=81.5℃;Tc<-30℃;Δn=0.122;Δε=-4.7;Vth=1.76V;η=31.8mPa・s.
【0189】
[組成物例M10]
V-HB(2F,3F)-O4 (2-1) 14%
V-H1OB(2F,3F)-O2 (2-3) 3%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 10%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 7%
V2-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 7%
V-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-10) 6%
V-HBB(2F,3F)-O4 (2-14) 9%
1V2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
3-HH-V (3-1) 13%
1-BB-3 (3-3) 3%
3-HHB-1 (3-5) 4%
3-HHB-O1 (3-5) 4%
V-HBB-2 (3-6) 5%
1-BB(F)B-2V (3-8) 6%
5-HBBH-1O1 (-) 4%
NI=93.6℃;Tc<-30℃;Δn=0.125;Δε=-3.9;Vth=2.20V;η=29.9mPa・s.
【0190】
[組成物例M11]
3-HB(2F,3F)-O4 (2-1) 6%
3-H2B(2F,3F)-O2 (2-2) 8%
3-H1OB(2F,3F)-O2 (2-3) 4%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 7%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 10%
V-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 7%
V-HHB(2F,3F)-O4 (2-8) 7%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 6%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 6%
1V2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
2-HH-3 (3-1) 12%
1-BB-3 (3-3) 6%
3-HHB-1 (3-5) 4%
3-HHB-O1 (3-5) 4%
3-HBB-2 (3-6) 5%
3-B(F)BB-2 (3-7) 3%
NI=92.8℃;Tc<-20℃;Δn=0.126;Δε=-4.4;Vth=2.19V;η=26.0mPa・s.
【0191】
[組成物例M12]
3-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 5%
1V2-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
V2-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 8%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 5%
5-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-10) 5%
2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 3%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
4-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
2-BB(2F,3F)B-3 (2-19) 4%
3-HH-V (3-1) 27%
3-HH-V1 (3-1) 6%
V-HHB-1 (3-5) 5%
NI=81.7℃;Tc<-20℃;Δn=0.110;Δε=-3.2;Vth=2.12V;η=15.8mPa・s.
【0192】
[組成物例M13]
3-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
1V2-HB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
3-BB(2F,3F)-O2 (2-6) 8%
3-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 5%
5-HHB(2F,3F)-O2 (2-8) 4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-10) 5%
2-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 3%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
4-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 5%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-14) 8%
2-BB(2F,3F)B-3 (2-19) 4%
3-HH-V (3-1) 33%
V-HHB-1 (3-5) 3%
NI=76.0℃;Tc<-30℃;Δn=0.107;Δε=-3.2;Vth=2.08V;η=16.0mPa・s.
【0193】
2.液晶配向剤
実施例で用いたジアミン化合物(1)、その他のジアミン化合物、テトラカルボン酸二無水物、溶剤、および添加剤を以下に示す。
<ジアミン化合物(1)>
【0194】
【0195】
【0196】
<溶剤>
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BC :ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
【0197】
<添加剤>
Ad1:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
Ad2:1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン
【0198】
<ワニスの調製例1:ワニスA1>
攪拌翼、窒素導入管を装着した100mL3つ口フラスコに、ジアミン異性体混合物1(0.883g)を入れ、NMP(10.0g)を加えて撹拌した。この溶液に、AN-6(0.617g)とNMP(2.5g)を加え、12時間室温で攪拌させた。そこにNMP(6.0g)及びBC(5.0g)を加え、溶質のポリマーの重量平均分子量が目的の重量平均分子量になるまで、その溶液を80℃で加熱攪拌して、溶質の重量平均分子量がおよそ18,000であり、ポリマー濃度が6重量%であるワニスA1を得た。
【0199】
<ワニスの調製例2から14:ワニスA2からA14>
ジアミン類およびテトラカルボン酸二無水物類として用いる化合物を変更したこと以外は、調製例1と同様にしてポリマー濃度が6重量%のワニスA2からA14を調製した。ワニスA12からA14においては、ポリマーの重量平均分子量が50,000程度になるように加熱撹拌の条件を調製した。
【0200】
<ワニスの調製例15:ワニスA15>
2段階の重合工程を行ってポリアミック酸のブロックポリマーを合成した。
(1)第1工程
攪拌翼、窒素導入管を装着した200mLの3つ口フラスコに、DI-3(0.408g)、DI-24(1.011g)、およびNMP(20.0g)を加え撹拌した。この溶液に、AN-9(1.17g)、AN-1(0.747g)、およびNMP(10.0g)を入れ、室温で6時間攪拌を続け、第1のポリアミック酸の溶液を得た。
(2)第2工程
第1段の重合を行ったフラスコに、ジアミン異性体混合物1(1.57g)、AN-6(1.10g)、さらにNMP(34.0g)を入れ、室温で24時間攪拌を続け、第1のポリアミック酸と第2のポリアミック酸の混合溶液を得た。この反応溶液にBC(30.0g)を加えて、60℃に加熱しながら、8時間攪拌を行い、ポリマー濃度が6重量%のポリアミック酸ブロックポリマー溶液を得た。このポリアミック酸ブロックポリマー溶液をワニスA15とする。
【0201】
<ワニスの調製例16:ワニスA16>
ジアミン類およびテトラカルボン酸二無水物類として用いる化合物を変更したこと以外は、調製例15と同様にしてポリマー濃度が6重量%のワニスA16を調製した。
【0202】
調整例1から14、調整例15および16をそれぞれ表4および表5にまとめた。
【0203】
<液晶配向剤の調製:液晶配向剤1から16および比較液晶配向剤1>
ワニスA1を、4重量%になるようにNMP・BC混合溶液(NMP/BC=7/3重量比)で希釈、撹拌し、液晶配向剤1を調製した。
使用したワニスおよび添加剤の有無以外は、液晶配向剤1と同様にして、液晶配向剤2から16および比較液晶配向剤1を調製した。液晶配向剤1から16および比較液晶配向剤1を表6にまとめた。表6において、添加剤の添加量は、ワニス中のポリマー重量に対する重量部で表した。
【0204】
[実施例1]
FFS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板に、液晶配向剤1をスピンナー法により塗布した。塗布後、基板を60℃で80秒間加熱し、溶剤を蒸発させた後、ウシオ電機(株)製マルチライトML-501C/Bを用い、基板に対して鉛直方向から、偏光板を介して紫外線の直線偏光を照射した。この時の露光エネルギーは、ウシオ電機(株)製紫外線積算光量計UIT-150(受光器:UVD-S254)を用いて光量を測定し、波長254nmで1.0J/cm2になるよう、露光時間を調整した。その後、220℃にて30分間焼成処理を行い、膜厚およそ100nmの配向膜を形成した。このようにして作製した基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙を設けて貼り合わせた。この時、それぞれの液晶配向膜に照射された直線偏光の偏光方向が平行になるようにした。このセルに液晶組成物(組成物例M1)を注入し、セル厚5μmの液晶表示素子を作製した。作製した液晶表示素子のコントラスト比を測定したところ、3900であった。
【0205】
[比較例1]
液晶配向剤1の代わりに比較液晶配向剤1を用いた以外は実施例1と同様にして、液晶表示素子を作製した。作製した液晶表示素子のコントラスト比を測定したところ、3200であった。
【0206】
[実施例2から実施例16]
液晶配向剤、液晶組成物、および紫外線露光量を変更して、実施例2から実施例16の液晶表示素子を作製し、それぞれコントラスト比を測定した。結果を表7にまとめた。
【0207】
表7に示すように、実施例1から実施例16の液晶表示素子のコントラスト比はいずれも、比較例1の液晶表示素子のコントラスト比よりも高い値であった。比較例1で使用した式(DI-29)は、光フリース転移を生じるジアミン化合物である。ジアミン化合物(1)を用いた液晶配向膜は、従来知られている光フリース転移を生じるジアミン化合物を用いた液晶配向膜よりも優れた配向性を有し、これを用いた液晶表示素子は、高いコントラスト比を有することがわかった。