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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034352
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ポリアミド酸組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140547
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】安達 康弘
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043PA06
4J043PA19
4J043PB08
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043SB02
4J043TA21
4J043TA22
4J043TB01
4J043TB03
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA151
4J043UA161
4J043UA171
4J043UB121
4J043UB151
4J043UB152
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA011
4J043VA012
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA052
4J043VA062
4J043XA16
4J043YA17
4J043ZA20
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れるポリアミド酸の組成物を提供する。
【解決手段】下記成分(a)~(c);
(a)テトラカルボン酸二無水物成分から誘導される酸無水物残基とジアミン成分から誘導されるジアミン残基を有するポリアミド酸、
(b)有機溶剤、及び
(c)水
を含有するポリアミド酸組成物であって、
前記(a)成分は、ケトン基と分子末端に第1級アミノ基とを有し、前記ケトン基は前記テトラカルボン酸二無水物成分及び/又は前記ジアミン成分に由来するものであり、
前記(c)成分は、前記(a)成分、前記(b)成分及び前記(c)成分の合計に対し、0.05質量%以上10質量%以下であることを特徴とするポリアミド酸組成物、及びその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)~(c);
(a)テトラカルボン酸二無水物成分から誘導される酸無水物残基とジアミン成分から誘導されるジアミン残基を有するポリアミド酸、
(b)有機溶剤、及び
(c)水
を含有するポリアミド酸組成物であって、
前記(a)成分は、ケトン基と分子末端に第1級アミノ基とを有し、前記ケトン基は前記テトラカルボン酸二無水物成分及び/又は前記ジアミン成分に由来するものであり、
前記(c)成分は、前記(a)成分、前記(b)成分及び前記(c)成分の合計に対し、0.05質量%以上10質量%以下であることを特徴とするポリアミド酸組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド酸は、重量平均分子量(Mw)が20,000以上2,000,000以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項3】
前記(a)成分中のケトン基は、前記酸無水物残基と前記ジアミン残基の合計100モル部に対して10モル部以上含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項4】
前記(b)成分は、沸点が120℃以上であって、尚且つ水の溶解度が10質量%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド酸組成物。
【請求項5】
前記組成物は、温度-30℃~60℃及び湿度70%以下の条件下で、30日間保管後の粘度が初期粘度に対して100%~30%であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド酸組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のポリアミド酸組成物の製造方法であって、下記の工程I及び工程II;
I)有機溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて、ポリアミド酸の溶液を得る工程、
II)前記ポリアミド酸の溶液に水を添加してポリアミド酸組成物を製造する工程
を備え、前記工程IIでは、ポリアミド酸組成物の水の含有量が、前記有機溶剤、前記ポリアミド酸及び前記水の合計に対し0.05質量%以上10質量%以下となるように水を添加することを特徴とするポリアミド酸組成物の製造方法。
【請求項7】
前記工程IIにおける水の添加を行う際に、予め、前記工程Iで使用する有機溶剤と水とを混合させて、当該有機溶剤と水との合計量に対して水を1質量%以上60質量%以下で含んだ混合溶液を準備し、前記工程IIにおいて前記混合溶液を用いて水の添加を行うことを特徴とする請求項6に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
【請求項8】
前記工程Iでは、前記テトラカルボン酸二無水物成分及び/又は前記ジアミン成分中にケトン基を有し、尚且つ重量平均分子量(Mw)が20,000以上2,000,000以下のポリアミド酸の溶液を得ることを特徴とする請求項6又は7に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸と有機溶剤と水とを含んだ組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、優れた耐熱性、機械特性、電気特性を備えており、このポリイミドを使用したポリイミドフィルムは、フレキシブルプリント配線基板に代表される回路配線基板の基材のほか、種々の用途で幅広く利用されている。
【0003】
ポリイミドの調製にあたっては、通常、原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶剤中で反応させて前駆体であるポリアミド酸とする。ポリアミド酸を200℃以上の高温で熱処理すると、分子内で脱水閉環が起こり、ポリイミドが得られる。
【0004】
ここで、前駆体であるポリアミド酸には保存安定性が求められる。熱や水分に対して不安定な場合が多いが、とくに水分に関して着目すると、ポリアミド酸に水分が多く含まれる場合、ポリアミド酸が加水分解することが知られており、通常は水分が少ない状態で保存される(例えば、特許文献1~3を参照)。すなわち、これら特許文献1~3などからすれば、従来からポリアミド酸中の水分は多くても数%以下とされているが、その目的(加水分解の抑制)からすれば、可及的に少ないことが望まれている。そして、通常は、このように含有水分が可及的に少ない状態で、尚且つそれを維持できる設備などによって、保管中もポリアミド酸が安定するように管理されている。つまり、ポリアミド酸が適切に密閉して保管されるようであれば、通常は保管中の水分量の変化は起こらないと解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-124700号公報
【特許文献2】特許第5985977号公報
【特許文献3】特許第6648195号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】児玉洋一・森峰寛(2009).「新規芳香族ポリイミド接着剤」 ポリイミド・芳香族系高分子 最近の進歩2009年(第16回日本ポリイミド・芳香族高分子会議の会議録),pp.54-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、本発明者らの検討によれば、前記のとおり、通常は管理・保管が適正な状態であればポリアミド酸の保存安定性は良好であるはずであるところ、意外にも、特定のポリアミド酸においては、ポリアミド酸の加水分解ではなく、逆に、室温において徐々に粘度が増加(増粘)するといった現象が確認された。このような現象については、前記ジアミン成分を比較的多く反応させて分子末端にアミノ基が残るような条件であって、しかも、分子内にケトン基を有するような成分を用いた場合のポリアミド酸において確認されたことから、これらの官能基どうしが室温においても徐々に反応してイミン結合が生成していることに由来するものと推測された(非特許文献1を参照)。つまり、このようなポリアミド酸の分子末端のアミノ基が、分子内又は分子間においてケトン基と反応してイミン結合を生成し、分子鎖が枝状に伸長して分子量が増加したことが、保管中の増粘を引き起こしたと推測された。
【0008】
そして、このような特定のポリアミド酸の場合において保管中に増粘するといった問題については、直ちには、保管中に冷却して前記のイミン結合の生成反応を抑制するといった対策が考えられるが、冷却設備にコストがかかってしまうことや、冷却することが困難な箇所(例えば、配管部分など)において定期的な工程管理(例えば、配管ブローなど)が必要になる等、工程上の負荷が大きくなることから、根本的には増粘しないポリアミド酸の開発が求められる。
しかしながらこれまでの知見では、このような特定のポリアミド酸において、前記のような加水分解を抑制しつつもの、室温などにおいて徐々に増粘してしまう問題を根本的に解決する方法については何ら予見されていなかった。
【0009】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、ポリアミド酸においては、従来のように水の含有を可及的に排除するのではなく、むしろ、水分量を適切な範囲に制御することによって、従来から懸念されていた加水分解を抑制しつつも、室温においても保管中に増粘するといった問題も抑制できて、保存安定性に優れたポリアミド酸が得られることを突き止めた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、加水分解や保管中の増粘が極めて少ないポリアミド酸の組成物を提供することである。
また、本発明の他の目的は、そのようなポリアミド酸の組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]下記成分(a)~(c);
(a)テトラカルボン酸二無水物成分から誘導される酸無水物残基とジアミン成分から誘導されるジアミン残基を有するポリアミド酸、
(b)有機溶剤、及び
(c)水
を含有するポリアミド酸組成物であって、
前記(a)成分は、ケトン基と分子末端に第1級アミノ基とを有し、前記ケトン基は前記テトラカルボン酸二無水物成分及び/又は前記ジアミン成分に由来するものであり、
前記(c)成分は、前記(a)成分、前記(b)成分及び前記(c)成分の合計に対し、0.05質量%以上10質量%以下であることを特徴とするポリアミド酸組成物。
[2]前記ポリアミド酸は、重量平均分子量(Mw)が20,000以上2,000,000以下であることを特徴とする[1]に記載のポリアミド酸組成物。
[3]前記(a)成分中のケトン基は、前記酸無水物残基と前記ジアミン残基の合計100モル部に対して10モル部以上含まれることを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリアミド酸組成物。
[4]前記(b)成分は、沸点が120℃以上であって、尚且つ水の溶解度が10質量%以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のポリアミド酸組成物。
[5]前記組成物は、温度-30℃~60℃及び湿度70%以下の条件下で、30日間保管後の粘度が初期粘度に対して100%~30%であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド酸組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド酸組成物の製造方法であって、下記の工程I及びII;
I)有機溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて、ポリアミド酸の溶液を得る工程、
II)前記ポリアミド酸の溶液に水を添加してポリアミド酸組成物を製造する工程
を備え、前記工程IIでは、ポリアミド酸組成物の水の含有量が、前記有機溶剤、前記ポリアミド酸及び前記水の合計に対し0.05質量%以上10質量%以下となるように水を添加することを特徴とするポリアミド酸組成物の製造方法。
[7]前記工程IIにおける水の添加を行う際に、予め、前記工程Iで使用する有機溶剤と水とを混合させて、当該有機溶剤と水との合計量に対して水を1質量%以上60質量%以下で含んだ混合溶液を準備し、前記工程IIにおいて前記混合溶液を用いて水の添加を行うことを特徴とする[6]に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
[8]前記工程Iでは、前記テトラカルボン酸二無水物成分及び/又は前記ジアミン成分中にケトン基を有し、尚且つ重量平均分子量(Mw)が20,000以上2,000,000以下のポリアミド酸の溶液を得ることを特徴とする[6]又は[7]に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリアミド酸組成物は、従来から懸念されていた加水分解を抑制しつつも、室温においても保管中に増粘するといった問題も抑制できて、保存安定性に優れる。しかも、冷却設備の準備や増粘を防ぐ工程管理を行う必要がなく製造することができて、コスト性に優れる。また、本発明のポリアミド酸組成物は、イミド化前にイミン化による構造変化が起きないため、ロット間の品質ばらつきが少ないポリイミドを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[ポリアミド酸組成物]
本発明のポリアミド酸組成物は、前記のとおり、(a)ポリアミド酸と、(b)有機溶剤と、(c)水とを含有する。以下、(a)~(c)成分について、具体的に記載する。
【0015】
<(a)ポリアミド酸>
本発明で使用する(a)ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物(以下、単に「酸無水物」ということがある)成分から誘導される4価の基である酸無水物残基と、ジアミン化合物(以下、単に「ジアミン」ということがある)成分から誘導される2価の基であるジアミン残基とを有して構成され、これらの構成成分が連結したものを1つの繰り返し単位としてみた場合に、その繰り返し単位の重合物から構成される。(a)成分のポリアミド酸は、例えば以下の式(1)で表される。
【0016】
【化1】
(上記式中、X2はテトラカルボン酸二無水物成分から誘導される4価の酸無水物残基であり、Y2はジアミン成分から誘導される2価のジアミン残基である。nは繰り返し単位を示す。)
【0017】
ここで、上記式(1)のとおり、(a)成分のポリアミド酸は、分子末端に第1級アミノ基(-NH)(以下、これを単に「アミノ基」ということがある)を有するようにする。分子末端にアミノ基を有するようにするためには、酸無水物成分とジアミン成分との仕込み量(モル比)を調整することで制御することが可能であり、これについては後述の製造方法に示すとおりである。
【0018】
また、(a)成分のポリアミド酸においては、分子骨格中にケトン基を所定量含むことを特徴とする。ケトン基の含有量については、前記酸無水物残基(式(1)ではX2)とジアミン残基(式(1)ではY2)との合計100モル部に対して、10モル部以上である。このような量のケトン基を含有すると、分子末端のアミノ基との反応点が増えることから、前記のとおりの保管期間中における増粘がより顕著にみられる傾向があることから、このような量のケトン基を有するポリアミド酸が本発明において対象となる。ケトン基の含有量は特に制限はないが、本発明の効果を発現しやすいという理由から、好ましくは15モル部以上、より好ましくは25モル部以上となるようにする。
【0019】
なお、ポリアミド酸中のX2及びY2のいずれかにケトン基を有していればよく、全てのポリアミド酸の全ての構造単位に必ずしもケトン基が含まれる必要はない。すなわち、前述したケトン基の範囲を満たせば、ケトン基は酸無水物残基とジアミン残基とのいずれかに含有されてもよく、両方に含有されてもよい。なお、分子全体として前記の数値範囲を満足するものであれば、ケトン基を含まない構造単位を含んでもよい。
【0020】
ここで、ケトン基を含むテトラカルボン酸二無水物としては、特に制限されるものではないが、例えば、3,3’、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(パラフェニレンジカルボニル)ジフタル酸無水物、4,4’-(メタフェニレンジカルボニル)ジフタル酸無水物等を挙げることができる。
【0021】
なお、酸無水物残基としては、ケトン基を含まないテトラカルボン酸二無水物から誘導されるものを用いてもよく、ポリイミドに通常用いられる既知のテトラカルボン酸二無水物を制限なく用いることができる。そのようなテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。また、脂環式テトラカルボン酸の無水物を用いてもよく、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物、シクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物などの脂環式テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0022】
ケトン基を有さない芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-オキシジフタル酸ニ無水物(ODPA)、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’’,4,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’’,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、トリフルオロメチルベンゼン二無水物等が挙げられる。
【0023】
他方、ケトン基を含むジアミンとしては、特に制限されるものではないが、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ‐α,α‐ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン等を挙げることができる。
【0024】
なお、ジアミン残基についても、ケトン基を含まないジアミンから誘導されるものを用いてもよく、ポリイミドに通常用いられる既知のジアミン化合物を制限なく用いることができる。そのようなジアミンとしては、芳香族ジアミン化合物が好ましい。また、前記同様に脂環式ジアミン化合物を用いてもよい。
【0025】
例えば、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、3,7-ジアミノ-2,8-ジメチルベンゾチオフェンスルホン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)、2,2’-ジフルオロー4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロー4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。より好ましくは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3’-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール等が挙げられる。
【0026】
また、(a)成分のポリアミド酸は、重量平均分子量が20,000~2,000,000の範囲内が好ましい。より好ましい下限は40,000、さらに好ましい下限は60,000である。また、より好ましい上限は1,500,000、さらに好ましい上限は1,000,000である。重量平均分子量が前記の下限値以上であることにより、イミド化後のフィルムが強靭になり、他方、重量平均分子量が前記上限値以下であることにより、ポリアミド酸溶液の粘度調整が行いやすくなる。
【0027】
また、(a)成分のポリアミド酸は、本発明のポリアミド酸組成物において、塗工時の製膜性等の理由から、5~30質量%の範囲内となるようにすることが好ましく、より好ましくは8~20質量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。
【0028】
<(b)有機溶剤>
本発明で使用される(b)成分の有機溶剤は、前記したポリアミド酸の原料であるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの重合反応に用いることができ、また、それから調製されるポリアミド酸をほどよく溶解し得るものであれば制限はされず、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、γ‐プチロラクトン等が挙げられる。これらの有機溶剤を2種以上併用して使用することもできる。
【0029】
この中でも、(c)成分である水との混和性(水の溶解性)や非反応性などを考慮すると、当該有機溶剤100質量%に対しての水の溶解度が10質量%以上であるものがより好ましい。
【0030】
さらには、このような(b)成分の有機溶剤は、沸点が水よりも高いものであることが好ましく、より好ましくは、沸点(常圧時)が120℃以上のものである。このように沸点が高い有機溶剤であると、ポリアミド酸組成物を用いて製膜などを行う際に、有機溶剤が水よりも先に揮発してポリアミド酸が析出するなどの問題を抑えることができるため好ましい。
【0031】
このような観点から、(b)有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0032】
<(c)水>
本発明においては、前記のとおり、ポリアミド酸組成物中に適量の水を含有させることで、重合反応に影響を与えることがなく、保存安定性に優れたポリアミド酸の組成物を得ることができることを知見した。(c)成分の水の含有量は、ポリアミド酸組成物中に0.05質量%以上10質量%とする。好ましい下限は0.08質量%、より好ましい下限は0.10質量%である。また、好ましい上限は7質量%、より好ましい上限は5質量%である。水の含有量が前記下限以上であることにより、ポリアミド酸組成物の保管中の増粘を有意に抑えることが可能となる。また、水の含有量が前記上限値以下であることにより、(a)成分のポリアミド酸の溶解性の低下による析出の発生や、加水分解による粘度の低下などの発生を抑えることができる。
【0033】
なお、当該(c)成分の水については、ポリアミド酸組成物において前記の範囲に調整されていれば添加の方法や混入の経路等は問わず、原料である酸無水物やジアミンに由来して含まれるものでもよく、意図的に添加したもの(添加水)であってもよく、さらに、重合などの反応時や保管時などにおいて不可避的に混入される極微量の水を含めてもよく、制限はされない。
【0034】
<その他の成分>
本発明のポリアミド酸組成物は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、必要に応じて、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、有機ホスフィン酸の金属塩などのフィラーやその他の成分を含有してもよい。これらの成分は、通常、当該ポリアミド酸組成物中に10質量%以下で使用される。また、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
<ポリアミド酸組成物の特性>
本発明のポリアミド酸組成物は、例えば式(1)で表されるような(a)成分のポリアミド酸以外の他のポリアミド酸を含んでもよい。当該他のポリアミド酸としては、一般的にポリイミド(ポリアミド酸)の調製に用いられるテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物を原料として、それらのモル比が等モルで合成されたポリアミド酸を使用できる。この場合、他のポリアミド酸は、前記の(a)成分のポリアミド酸との合計100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。
【0036】
また、本発明のポリアミド酸組成物は、固形分が5~30質量%程度であることが好ましい。
【0037】
本発明のポリアミド酸組成物は、保管中において経時での粘度の増加が少ないものであることが好ましい。保管中は、前記(c)成分の水の含有量の範囲を保持できることが好ましく、通常は密閉された状態で保管される。保管中の温度としては、冷凍保管(-30℃程度)から屋外保管(最高で60℃程度)において広く対応できることが好ましいが、より好ましくは0℃~室温(通常25℃程度)、さらに好ましくは0℃~15℃、特に好ましくは0℃~10℃である。そのほか、保管中は湿度70%以下であることが好ましい。このような本発明のポリアミド酸組成物は、より好ましくは、前記温度条件及び前記湿度条件において、30日間保管後の粘度が初期粘度に対して100%~30%であることが好ましく、より好ましくは100%~50%である。
【0038】
なお、本発明のポリアミド酸組成物は、固形分量や用途によって好適な範囲が適宜選択され得るが、好ましくは700~70,000mPa・sものが好適に用いられる。
【0039】
[ポリアミド酸組成物の製造方法]
次に、ポリアミド酸組成物の製造方法について説明する。
本発明のポリアミド酸組成物は、好適には以下のように製造することが好ましい。すなわち、下記の工程I及びII;
I)有機溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて、ポリアミド酸の溶液を得る工程と、
II)前記工程Iで得られたポリアミド酸の溶液に水を添加して、水を0.05質量%以上10質量%以下(好ましい範囲は前記のとおり)含むポリアミド酸組成物を製造する工程と
を備える。
【0040】
前記工程Iでは、水を添加する前に、前記した所定のテトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分を有機溶剤中で反応させ、通常0~100℃の範囲の温度で30分から24時間攪拌して重合反応させて、(a)成分のポリアミド酸を生成させる。反応に際しては、生成する(a)成分のポリアミド酸が有機溶剤中に5~30質量%、好ましくは10~20質量%の範囲内となるように反応成分を溶解させる。なお、前記のとおり、ポリアミド酸組成物には、前記の(a)成分のポリアミド酸以外のその他のポリアミド酸を含むようにしてもよい。
【0041】
テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分の添加においては、両者が接触した時点で重合が開始されてしまうことから、いずれかの原料を予め有機溶剤と混合して準備をしておき、それにもう一方の原料を加えることにより、反応を行うようにすることが好ましい。より好ましくは、モノマーの溶解性や溶剤中の水分によるテトラカルボン酸二無水物の失活を防ぐ等の理由から、予めジアミンと有機溶剤とを混合した溶液に対して、テトラカルボン酸二無水物を添加するようにすることがより好ましい。
【0042】
ここで、原料であるテトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分を反応させる際の仕込み量(モル比)は、ジアミン1モルに対して、テトラカルボン酸二無水物が1モル未満となるように、これらの原料の仕込み比率を調節することが好ましい。これにより、理論的には、調製される(a)成分のポリアミド酸の末端を第1級アミノ基(-NH)にすることができる。当該第1級アミノ基の存在及び存在量については、公知の方法で確認することができる。なお、ジアミンに対するテトラカルボン酸二無水物の仕込み比率が小さすぎると、(a)成分のポリアミド酸の高分子量化が十分に進行しない傾向にあるので、ジアミン1モルに対するテトラカルボン酸二無水物の仕込み比率は0.970~0.998モルの範囲内とすることが好ましく、0.980~0.995モルの範囲内がより好ましい。
【0043】
また、前記工程Iでは、前記同様に、テトラカルボン酸二無水物成分及び/又はジアミン成分中にケトン基を有するものを用いるようにする。原料の配合を適宜調整することで、分子全体として、前記のとおりのケトン基の含有量を有する(a)ポリアミド酸を所定量含むように調製することが好ましい。
【0044】
また、前記工程Iでは、得られるポリアミド酸の重量平均分子量が20,000以上2,000,000以下になるようにする。重合反応前に水が所定量以上になるように添加などすると、テトラカルボン酸二無水物が失活(加水分解)して目的の分子量のポリアミド酸が得られ難くなるため、工程Iにおいて前記の重量平均分子量の範囲まで重合させることが好ましい。
【0045】
前記工程IIにおいては、工程Iで調製したポリアミド酸の溶液に対して、水を直接添加して所定の水分量に調整することもできるが、ポリアミド酸の析出を防止する観点から、予め、工程Iで使用した有機溶剤と同じ有機溶剤と水とを混合させた水溶液の状態として、これをポリアミド酸の溶液に添加することが好ましい。この水溶液においては、当該有機溶剤と水との合計量に対して水が1質量%以上60質量%以下となるように準備することが好ましく、より好ましくは5質量%以上30質量%以下となるように準備する。前記水溶液においてこのような水分量の範囲で準備することにより、前記のようなポリアミド酸の析出を防ぎつつも、微量の水分調整が可能となり、また、ポリアミド酸溶液に均一かつ速やかに水分を混ぜることが可能となる等の点で好ましい。
【0046】
[ポリアミド酸組物の用途]
本発明のポリアミド酸組成物は、イミド化時にイミン化反応も起きるため、強靭なフィルムを得られやすいことから、特に、電気絶縁材料、フィルム、保護膜、コーティング剤などの用途に好適に用いられる。また、本発明のポリアミド酸組成物は、公知の方法及び条件で加熱することによりイミド化して、ポリイミドを形成することができる。
【実施例0047】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0048】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0049】
[重量平均分子量の測定]
重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、商品名;HLC-8420GPC)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、溶離液にはN,N-ジメチルアセトアミドを用いた。
【0050】
実施例及び参考例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
m-TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
4,4’-DAPE:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
なお、以下の実施例では水分量200ppm未満のDMAcを用いている。
【0051】
[実施例1]
気密性の高い重合釜に262.8質量部のDMAc、10.54質量部のTPE-R(36.06モル部)、7.66質量部のm-TB(36.06モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、6.90質量部のBTDA(21.42モル部)を加え10分撹拌し、次に10.90質量部のPMDA(49.98モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行った〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.990、前記規定のケトン基含有量:15mol部〕。その後、1.2質量部のDMAcと0.3質量部の純水からなる混合液を加え、室温で2時間撹拌を行い、粘度3,490cPのポリアミド溶液(ポリアミド酸組成物)Aを得た(水分率:0.1質量%)。このポリアミド酸溶液Aを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2]
気密性の高い重合釜に234.0質量部のDMAc、10.54質量部のTPE-R(36.06モル部)、7.66質量部のm-TB(36.06モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、6.90質量部のBTDA(21.42モル部)を加え10分撹拌し、次に10.90質量部のPMDA(49.98モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行った〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.990、前記規定のケトン基含有量:15mol部〕。その後、21.0質量部のDMAcと9.0質量部の純水からなる混合液を加え、室温で2時間撹拌を行い、粘度3,350cPのポリアミド溶液Bを得た(水分率:3質量%)。このポリアミド酸溶液Bを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
気密性の高い重合釜に264.0質量部のDMAc、10.54質量部のTPE-R(36.06モル部)、7.66質量部のm-TB(36.06モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、6.90質量部のBTDA(21.42モル部)を加え10分撹拌し、次に10.90質量部のPMDA(49.98モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度3,710cPのポリアミド溶液Cを得た〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.990、前記規定のケトン基含有量:15mol部〕(水分率:0質量%)。このポリアミド酸溶液Cを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
気密性の高い重合釜に234.0質量部のDMAc、10.56質量部のTPE-R(36.13モル部)、7.67質量部のm-TB(36.13モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、6.88質量部のBTDA(21.38モル部)を加え10分撹拌し、次に10.87質量部のPMDA(49.88モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行った〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.986、前記規定のケトン基含有量:15mol部〕。その後、24.0質量部のDMAcと6.0質量部の純水からなる混合液を加え、室温で2時間撹拌を行い、粘度2,030cPのポリアミド溶液Dを得た(水分率:2質量%)。このポリアミド酸溶液Dを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
【0055】
[比較例2]
気密性の高い重合釜に234.0質量部のDMAc、10.56質量部のTPE-R(36.13モル部)、7.67質量部のm-TB(36.13モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、6.88質量部のBTDA(21.38モル部)を加え10分撹拌し、次に10.87質量部のPMDA(49.88モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度2,110cPのポリアミド溶液Eを得た〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.986、前記規定のケトン基含有量:15mol部〕(水分率:0質量%)。このポリアミド酸溶液Eを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
気密性の高い重合釜に234.0質量部のDMAc、13.81質量部の4,4’-DAPE(68.99モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、22.19質量部のBTDA(68.85モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行った〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.998、前記規定のケトン基含有量:50mol部〕。その後、24.0質量部のDMAcと6.0質量部の純水からなる混合液を加え、室温で2時間撹拌を行い、粘度3,550cPのポリアミド酸溶液Fを得た(水分率:2質量%)。このポリアミド酸溶液Fを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
【0057】
[比較例3]
気密性の高い重合釜に264.0質量部のDMAc、13.81質量部の4,4’-DAPE(68.99モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、22.19質量部のBTDA(68.85モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度3,750cPのポリアミド酸溶液Gを得た〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.998、前記規定のケトン基含有量:50mol部〕(水分率:0質量%)。このポリアミド酸溶液Gを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
比較例1~3は水を加えていないため、水分量が少なく、イミン化により増粘していると思われる。
【0060】
実施例1~4は水添加によりイミン化による増粘が抑えられていると思われる。また、30日以上経過しても初期粘度に対して100%~30%の粘度を有しており、保存安定性は良好であった。
【0061】
[参考例1]
水を添加することによるポリアミド酸の溶解性低下を次のようにして評価した。まず、比較例1の経時変化前のポリアミド酸溶液Cを撹拌翼付きのフラスコに150質量部量り取った。次にこのポリアミド酸溶液Cを撹拌しながら、4質量部の水を少しずつ加え、室温で1時間撹拌を行った。水添加直後はポリアミド酸が析出していたが、1時間の撹拌後には完全に溶解していた。同様にして、さらに4質量部の水を添加し、1時間撹拌するという操作を析出したポリアミド酸が溶解しなくなるまで繰り返した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の結果から、ポリアミド酸溶液中の水分量が増えるに従い、析出したポリアミド酸が溶解するまで時間がかかるようになり、水分量が11質量%を超えると1時間では溶解しなくなった。それゆえ、ポリアミド酸溶液(組成物)においては、水分率を10質量%以下にすることが好ましいことが確認された。
【0064】
[参考例2]
実施例1の35日経過したポリアミド酸溶液Aと実施例2の経時変化前のポリアミド酸溶液Bと比較例1の経時変化前のポリアミド酸溶液Cについて、それぞれ銅箔上に塗布した後、140℃以下で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、150℃から360℃まで段階的に熱処理を行い、イミド化を完結した。得られた金属張積層板について、銅箔をエッチング除去して厚さ20μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、動的粘弾性測定(DMA)を行い、損失弾性率のピーク温度からガラス転移温度を求めた。また、軽荷重引き裂き試験機を用いて、引き裂き伝播抵抗値を測定した。その結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3の結果から、水の添加有無によるポリイミドフィルム物性の差は見られなかった。
【0067】
[参考例3]
ポリアミド酸溶液に水を加える際、予め水に有機溶剤を混ぜることの効果を次のようにして評価した。まず、比較例1の経時変化前のポリアミド酸溶液Cを100mlのカップに50g秤量した。次に、水と有機溶剤(DMAc)の比率を変えた混合液を2g加えポリアミド酸溶液の表面を完全に覆い、界面にポリアミド酸の析出が生じるかどうかを観察した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
水:有機溶剤=20:80の混合液ではポリアミド酸の析出は見られなかった。
水:有機溶剤=30:70の混合液ではわずかにポリアミド酸の析出が見られたが、軽く容器を振ることで溶解した。
水:有機溶剤=50:50の混合液ではポリアミド酸の析出が見られたが、全体を撹拌することで析出したポリアミド酸が溶解した。
なお、水が100wt%ではポリアミド酸の析出が多く見られ、全体を攪拌してもポリアミド酸が長時間溶解しなかった。
【0070】
上記結果より、ポリアミド酸溶液(組成物)に水を添加する際には、予め有機溶剤と混ぜて混合溶液として混ぜることによって、ポリアミド酸の析出を抑えることが出来るか、または析出してもすぐに溶解させることが出来るため、水添加が容易になる。
【0071】
[参考例4]
気密性の高い重合釜に264.0質量部のDMAc、10.39質量部のTPE-R(35.53モル部)、7.54質量部のm-TB(35.53モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、7.01質量部のBTDA(21.74モル部)を加え10分撹拌し、次に11.07質量部のPMDA(50.73モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度3,580cPのポリアミド溶液Hを得た〔酸無水物/ジアミン(モル比):1.020、前記規定のケトン基含有量:15mol部〕。
このポリアミド酸溶液Hを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表5に示す。
【0072】
[参考例5]
気密性の高い重合釜に264.0質量部のDMAc、10.74質量部のTPE-R(36.73モル部)、7.80質量部のm-TB(36.73モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、6.40質量部のBPDA(21.75モル部)を加え10分撹拌し、次に11.07質量部のPMDA(50.75モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度3,060cPのポリアミド溶液Iを得た〔酸無水物/ジアミン(モル比):0.987、前記規定のケトン基含有量:0mol部〕。
このポリアミド酸溶液Iを0.03MPaの減圧環境下で一定期間保管し、粘度の経時変化を評価した。その結果を表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
参考例4に示すように、ジアミン1モルに対してテトラカルボン酸二無水物が1モルよりも多い場合の条件や,参考例5に示すように、ケトンが無い場合の条件下では、増粘は生じないことが確認された。
【0075】
[参考例6]
気密性の高い重合釜に255.0質量部のDMAcと22.42質量部のm-TB(105.62モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、22.58質量部のPMDA(103.51モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度22,500cPのポリアミド溶液Jを得た。
【0076】
[参考例7]
気密性の高い重合釜に255.0質量部のDMAcと0.18質量部の水と22.42質量部のm-TB(105.62モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。重合釜を20℃まで冷却した後、22.58質量部のPMDA(103.51モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度800cPのポリアミド溶液Kを得た。
【0077】
参考例6と7より、重合前に水を加えると粘度が上がらず、重合反応が阻害されていることが分かる。