(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034390
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20230306BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C09K3/00 105
C01G41/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140610
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB05
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】フォトクロミック特性を備えた赤外線吸収粒子を提供すること。
【解決手段】酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有し、
BET比表面積が200m
2/g以下、結晶子径が60nm以下であり、
BET比表面積と結晶子径の積が1350m
2・nm/g以上2500m
2・nm/g以下である、赤外線吸収粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有し、
BET比表面積が200m2/g以下、結晶子径が60nm以下であり、
BET比表面積と結晶子径の積が1350m2・nm/g以上2500m2・nm/g以下である、赤外線吸収粒子。
【請求項2】
波長1300nmにおける吸光度の、UV照射20分間による変化率が20%以上である請求項1に記載の赤外線吸収粒子。
【請求項3】
前記酸素欠損を有するタングステン酸化物が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)であり、
前記複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.4<z/y≦3.0)である請求項1または請求項2に記載の赤外線吸収粒子。
【請求項4】
六方晶の結晶構造を含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の赤外線吸収粒子。
【請求項5】
液状媒体と、
前記液状媒体中に配置された請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の赤外線吸収粒子と、を含有し、
前記液状媒体は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状プラスチック用可塑剤、高分子単量体から選択される1種類以上である赤外線吸収粒子分散液。
【請求項6】
前記赤外線吸収粒子の含有割合が、0.01質量%以上80質量%以下である請求項5に記載の赤外線吸収粒子分散液。
【請求項7】
固体媒体と、
前記固体媒体中に配置された請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の赤外線吸収粒子と、を含有する赤外線吸収粒子分散体。
【請求項8】
前記固体媒体が、媒体樹脂である請求項7に記載の赤外線吸収粒子分散体。
【請求項9】
前記媒体樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、および前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、から選択されたいずれかである請求項8に記載の赤外線吸収粒子分散体。
【請求項10】
シート状、ボード状、またはフィルム状の形状を有する請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の赤外線吸収粒子分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な可視光透過率を有することで透明性を保ちながら、日射透過率を低下させる日射遮蔽技術として、これまで様々な技術が提案されてきた。中でも、赤外線吸収微粒子や、当該赤外線吸収微粒子の分散体を用いた日射遮蔽技術は、その他の技術と比較して日射遮蔽特性に優れ、低コストであり、電波透過性があり、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
【0003】
本発明の発明者等は特許文献1において、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、前記赤外線遮蔽材料微粒子は、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有し、前記赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は、1nm以上800nm以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提案した。
【0004】
特許文献1に開示した赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、可視光透過性と、赤外線遮蔽特性とについて優れた特性を示し、特許文献1には、可視光透過率が70%のときの日射透過率が36%と、非常に低くなる例も開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された赤外線遮蔽材料微粒子分散体を例えば窓材等に適用することで、太陽光に含まれる赤外線を選択的に遮蔽し、夏場の冷房負荷を低減することが可能になる。
【0007】
しかしながら、昨今のカーボンニュートラルに向けた環境意識の高まりを受けて、空調等による環境負荷をさらに低減することが求められるようになっている。このため、夏場の冷房負荷を低減するのみではなく、例えば冬場の暖房負荷も低減できるように、太陽光に含まれる可視光や赤外線などを積極的に透過することも時として必要となっている。つまり、季節等の状況に応じて赤外線遮蔽特性を変更できる材料が求められるようになっており、例えば、赤外線遮蔽特性が可変な、すなわちクロミック特性を備えた赤外線遮蔽材料が求められるようになっている。
【0008】
そこで、本発明の一側面では、フォトクロミック特性を備えた赤外線吸収粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面では、酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有し、
BET比表面積が200m2/g以下、結晶子径が60nm以下であり、
BET比表面積と結晶子径の積が1350m2・nm/g以上2500m2・nm/g以下である、赤外線吸収粒子を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面では、フォトクロミック特性を備えた赤外線吸収粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、複合タングステン酸化物の六方晶の結晶構造の説明図である。
【
図2】
図2は、赤外線吸収粒子分散液の説明図である。
【
図3】
図3は、赤外線吸収粒子分散体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[赤外線吸収粒子]
本発明の発明者らは、フォトクロミック特性を有する赤外線吸収粒子について検討を行った。そして、本発明の発明者らは、赤外線吸収粒子の粒度や形状および結晶性、具体的にはBET比表面積および結晶子径を制御することで、高い赤外線吸収特性と、フォトクロミック特性とを備えた赤外線吸収粒子にできること見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本実施形態の赤外線吸収粒子は、酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有できる。そして、本実施形態の赤外線吸収粒子は、BET比表面積を200m2/g以下、結晶子径を60nm以下、BET比表面積と結晶子径の積を1350m2・nm/g以上2500m2・nm/g以下とすることができる。
【0014】
本実施形態の赤外線吸収粒子は、フォトクロミック特性、すなわち特定の波長の光を照射することで、色調や、光の吸収特性が変化する特性を有することができる。
【0015】
本実施形態の赤外線吸収粒子は、上述のように例えば酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上である酸化タングステン系の材料を含むことができる。なお、本実施形態の赤外線吸収粒子は、酸素欠損を有するタングステン酸化物(以下、単に「タングステン酸化物」と記載する場合もある)、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上から構成することもできる。
【0016】
タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物は、他の水和タングステン酸化物同様、フォトクロミック材料であり、かつエレクトロクロミック材料である。
【0017】
タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物は、電気的な作用によりリチウム等のカチオン種を挿入することで光吸収域が生まれ、エレクトロクロミック材料として応用できる。
【0018】
一方、本実施形態の赤外線吸収粒子では高エネルギーの紫外線や可視光等の光に応答して生じるフォトクロミック反応を活用する。また、反応に必要なエネルギーの閾値が低い場合は、赤外線にも応答し、フォトクロミック反応を示す。
【0019】
酸化タングステン系のフォトクロミック材料においては、紫外線や可視光等に対する応答で、赤外線吸収粒子周辺で生じたプロトンなどのカチオン種を、赤外線吸収粒子に吸着させることで光吸収域が生まれる。このため、酸化タングステン系のフォトクロミック材料においては、カチオン種を多く吸着させられるよう表面積を増やすことが重要である。また、カチオン種の吸着による光吸収域の生成をより増大させられるよう結晶性を高めることが重要である。
【0020】
なお、紫外線や可視光等に対する応答によるプロトンの供給源としては、有機物等が挙げられ、例えば後述する分散剤、界面活性剤、カップリング剤などの添加剤や、赤外線吸収粒子分散体の固体媒体として用いられる樹脂などが挙げられる。
(1)BET比表面積、結晶子径
本実施形態の赤外線吸収粒子は、BET比表面積を200m2/g以下、結晶子径を60nm以下、BET比表面積と結晶子径の積を1350m2・nm/g以上2500m2・nm/g以下とすることができる。
【0021】
一般的にBET比表面積が高いほど、紫外線や可視光等に対する応答で生じるカチオン種を多く吸着できるため、フォトクロミック特性は高くなる。また、結晶子径が高いほど、赤外線吸収粒子の結晶性は高く、光吸収機能は増強され、赤外線吸収性は高くなる。
【0022】
しかし、真球状粒子を仮定した場合、BET比表面積と結晶子径はトレードオフの関係にあるため、両方のパラメーターを高めてフォトクロミック特性と赤外線吸収性との両立を図ることは困難である。このため、赤外線吸収粒子の形状は真球から離れた方が良く、アスペクト比の大きい鱗片状や針状であることが好ましい。また、表面の凹凸が大きいことが好ましく、その凹凸生成のために微粒子化を目的とした粉砕・分散処理において、その負荷を高めることが好ましい。
【0023】
赤外線吸収粒子が、真球状粒子の場合、すなわち真球状粒子であると仮定した場合、BET比表面積と結晶子径の積は1000m2・nm程度となる。
【0024】
それに対して、BET比表面積と、結晶子径との積を1350m2・nm/g以上2500m2・nm/g以下とすることで、真球状粒子からの乖離が大きく、表面の凹凸が十分に生成され、フォトクロミック特性と赤外線吸収性とを両立できる。BET比表面積と結晶子径との積は、1420m2・nm/g以上2500m2・nm/g以下とすることがより好ましい。ただし、結晶子径が高すぎると、赤外線吸収粒子自体の光散乱によるヘイズ(曇り)が大きくなり、可視光透明性を要求される窓材用途では問題となる恐れがある。そのため、結晶子径は60nm以下であることが好ましい。なお、結晶子径の下限値は特に限定されないが、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
【0025】
また、工業的に容易に製造できる観点からBET比表面積は200m2/g以下であることが好ましい。なお、BET比表面積の下限値は特に限定されないが、例えば10m2/g以上であることが好ましく、25m2/g以上であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態の赤外線吸収粒子が、酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有し、BET比表面積、結晶子径について既述の規定を充足することで、赤外線吸収特性と、フォトクロミック特性とに優れた赤外線吸収粒子にできる。
【0027】
BET比表面積は、全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製Macsorbなど)を用いたガス吸着法により測定できる。結晶子径は、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X'Pert-PRO/MPDなど)を用いて粉末X線回折法(θ-2θ法)によりX線回折パターンを測定し、リートベルト法による解析で算出できる。結晶子径を視覚的に定義しようとすると、鱗片状粒子や針状粒子などでは長軸径、短軸径、定方向径などの様々な定義方法がある。しかし、本実施形態における結晶子径はX線回折パターンとリートベルト法による解析で算出されるため、視覚的に定義されたものとは異なり、結晶学的に定義されたものとなる。
(2)フォトクロミック特性
本実施形態の赤外線吸収粒子のフォトクロミック特性は特に限定されないが、例えば、波長1300nmにおける吸光度の、UV(紫外線)照射20分間による変化率が20%以上であることが好ましい。すなわち波長1300nmにおける吸光度について、紫外線を20分間照射する前後での変化率が20%以上であることが好ましい。
【0028】
紫外線照射前後での上記変化率は、例えば以下の式(1)により算出できる。以下の式(1)中の吸光度は、いずれも波長1300nmにおける吸光度を意味する。
(変化率)=100×[(紫外線照射後の吸光度)-(紫外線照射前の吸光度)]÷(紫外線照射前の吸光度) ・・・(1)
赤外線吸収粒子のフォトクロミック特性、すなわち吸光度の変化率は、照射するUVの波長および照射強度および照射時間により変化する。そこで、上記吸光度の変化率を測定する場合、UV源として365nmに主波長を有する水銀ランプを用い、照射強度は100mW/cm2とすることが好ましい。また、照射時間は一定とすることが好ましく、例えば上述の通り20分間とすることが好ましい。
【0029】
また、紫外線照射前後の赤外線吸収粒子の吸光度を評価するにあたって、赤外線吸収粒子を含むフィルム状、シート状、またはボード状の赤外線吸収粒子分散体を製造し、その透過率を、日立製作所製U-4100などの分光光度計により測定できる。そして、該透過率を用いて、赤外線吸収粒子の吸光度を算出できる。このとき、透過率のベースラインは同じ膜厚で赤外線吸収粒子を含まない分散体とし、可能な限り赤外線吸収粒子成分のみを測定するようにすることが好ましい。
(3)赤外線吸収粒子が含有するタングステン酸化物、複合タングステン酸化物について
既述のように、本実施形態の赤外線吸収粒子は、酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有できる。
(3-1)タングステン酸化物
タングステン酸化物、具体的には酸素欠損を有するタングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されることが好ましい。一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物において、当該タングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比(z/y)が3未満であることが好ましい。すなわちタングステン酸化物は酸素欠損を有することができる。タングステンに対する酸素の組成比(z/y)は、上述のように2.2≦z/y≦2.999であることが好ましく、2.45≦z/y≦2.999であることがより好ましく、2.60≦z/y≦2.999であることがさらに好ましい。
【0030】
上記z/yの値が2.2以上であれば、当該タングステン酸化物中に目的としないWO2の結晶相が現れるのを回避することができると共に、後述する強い粉砕・分散処理により高いフォトクロミック性を得ることができるので特に有効な赤外線吸収粒子となる。また、当該z/yの値を好ましくは3未満、より好ましくは2.999以下とすることで、赤外領域の吸収反射特性を高めるために特に十分な量の自由電子が生成され効率のよい赤外線吸収粒子とすることができる。
【0031】
さらに、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、いわゆる「マグネリ相」は、近赤外領域の光の吸収特性に優れるので、赤外線吸収材料としてより好ましく用いることができる。このため、z/yの値は上述した様に2.45≦z/y≦2.999であることがより好ましい。
(3-2)複合タングステン酸化物
複合タングステン酸化物は、上述したタングステン酸化物(WO3)へ、後述する元素Mを添加したものである。タングステン酸化物へ元素Mを添加し、複合タングステン酸化物とすることで、WO3中に自由電子が生成され、特に近赤外領域に自由電子由来の強い吸収特性が発現し、波長1000nm付近の赤外線吸収粒子として有効となる。
【0032】
すなわち、当該WO3に対し、酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した複合タングステン酸化物とすることで、より効率の良い赤外線吸収特性を発揮できる。WO3に対して酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した複合タングステン酸化物は、一般式MxWyOzと表記できる。該一般式において、x、y、zは、0.001≦x/y≦1、2.4<z/y≦3.0の関係を満たすことが好ましい。上記一般式中のMは、元素Mを示し、Wはタングステン、Oは酸素をそれぞれ示す。
【0033】
上述のように元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001以上の場合、複合タングステン酸化物において特に十分な量の自由電子が生成され、高い赤外線吸収効果を得ることができる。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下の場合、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0034】
なお、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択された1種類以上であることが好ましい。
【0035】
一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物における安定性を特に高める観点から、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちから選択された1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子について、光学特性、耐候性を向上させる観点から、元素Mは、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素から選択された1種類以上の元素であることがさらに好ましい。
【0036】
酸素の添加量を示すz/yの値については、一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述したWyOzで表記されるタングステン酸化物と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。また、2.4<z/yであれば、後述する強い粉砕・分散処理により高いフォトクロミック性を得ることができるので、2.4<z/y≦3.0が好ましく、2.45≦z/y≦3.0がより好ましい。
【0037】
さらに、当該複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子の可視光領域の光の透過が向上し、赤外領域の光の吸収が向上する。このため、本実施形態の赤外線吸収粒子は、六方晶の結晶構造を含むことが好ましい。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である
図1を参照しながら説明する。
図1は、六方晶構造を有する複合タングステン酸化物の結晶構造を(001)方向から見た場合の投影図を示している。
【0038】
図1において、WO
6単位にて形成される8面体11が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に、元素Mである元素12を配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。そして、可視光領域における光の透過を向上させ、赤外領域における光の吸収を向上させるためには、複合タングステン酸化物中に、
図1を用いて説明した単位構造が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物が結晶質であっても、非晶質であっても構わない。ただし、結晶性は高い方が、光の吸収特性は高くなる。
【0039】
上述の六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域における光の透過が向上し、赤外領域における光の吸収が向上する。ここで一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され易い。具体的には、元素Mとして、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択された1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易い。勿論これら以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に上述した元素Mが存在すれば良く、上述の元素に限定される訳ではない。
【0040】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するため、元素Mの添加量は、既述の一般式におけるx/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、0.33がさらに好ましい。x/yの値が0.33となることで、上述した元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0041】
また、六方晶以外であって、正方晶、立方晶の複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子も十分に有効な赤外線吸収性を有する。結晶構造によって、赤外領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光領域の光の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。従って、より可視光領域の光を透過し、より赤外領域の光を遮蔽する用途には、六方晶の複合タングステン酸化物を用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0042】
なお、赤外線吸収粒子の表面はSi、Ti、Zr、Al、Znの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていてもよい。このような酸化物で被覆することにより、赤外線吸収粒子の耐候性を向上させることができる。被覆方法は特に限定されないが、赤外線吸収粒子を分散した溶液中へ、上述した金属のアルコキシドを添加することで、当該赤外線吸収粒子の表面を被覆することが可能である。
[赤外線吸収粒子の製造方法]
次に本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法について説明する。本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法によれば、既述の赤外線吸収粒子を製造できるため、重複する説明は一部省略する。
【0043】
本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法は特に限定されないが、酸素欠損を有するタングステン酸化物、および複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有する赤外線吸収粒子を粉砕する、粉砕工程を有することができる。
【0044】
粉砕工程では、粉砕により赤外線吸収粒子となる粉末である、タングステン酸化物粉末および複合タングステン酸化物粉末から選択された1種類以上と、液状媒体と、必要に応じてその他の添加剤として分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを準備する。次いで、これらを混合しスラリーを形成する。続いて、このスラリーを粉砕処理装置に導入し、粉体を粉砕して赤外線吸収粒子を形成するとともに液状媒体に分散させる。すなわち、粉砕工程を実施することにより、後述する赤外線吸収粒子分散液が得られる。このため、粉砕工程は、粉砕・分散工程ということもできる。
【0045】
本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法では、赤外線吸収粒子の表面を活性化し、フォトクロミック特性を高めるため、強い負荷を与えて粉砕処理を施すことが好ましい。このため、粉砕処理装置としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いることが好ましい。中でも、粉砕処理装置としては、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いる、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルを用いることがより好ましい。
【0046】
ただし、粉砕・分散処理に伴うエネルギー付与によって、粉砕した赤外線吸収粒子が、分散液中において、凝集することなく均一に分散していることが好ましいため、粉砕工程における負荷を強めすぎないことが好ましい。特に、粉砕メディアや、粉砕条件の選定には特に気を配ることが好ましく、具体的には例えば外径(ボール径)が0.09mm以下の微小な粉砕メディアを用いて、粉砕メディア速度15m/s以上の高負荷で粉砕・分散処理を施すことが好ましい。係る粉砕条件で粉砕工程を実施することで、容易に所望の特性を有する赤外線吸収粒子を製造できる。また、このような条件で粉砕・分散処理を施すことができる装置として、アシザワ・ファインテック社製スターミルZRSなどのビーズミルが好ましく挙げられる。
【0047】
なお、赤外線吸収粒子を可塑剤へ分散させる場合であれば、必要に応じて、さらに120℃以下の沸点を有する有機溶媒を添加するとよい。120℃以下の沸点を有する有機溶媒として、具体的にはトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられる。沸点が120℃以下で赤外線吸収性を発揮する粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。
【0048】
なお、粉砕工程終了後、必要に応じて液状媒体を除去することで、赤外線吸収粒子を回収することもできる。液状媒体を除去する方法は特に限定されず、例えば減圧乾燥等により液状媒体を除去できる。
[赤外線吸収粒子分散液]
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、液状媒体と、液状媒体中に配置された既述の赤外線吸収粒子と、を含有できる。
【0049】
上記液状媒体は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状プラスチック用可塑剤、高分子単量体から選択される1種類以上とすることができる。
【0050】
本実施形態の赤外線吸収粒子は、例えば赤外線吸収粒子分散体等とする際等に、その加工の途中で赤外線吸収粒子分散液の形態をとることができる。
【0051】
例えば
図2に示すように、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液20は、既述の赤外線吸収粒子21と、液状媒体22とを含むことができ、赤外線吸収粒子21は、液状媒体22内に分散されていることが好ましい。なお、
図2は模式的に示した図であり、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、係る形態に限定されるものではない。例えば
図2において赤外線吸収粒子21を球状の粒子として記載しているが、赤外線吸収粒子21の形状は係る形態に限定されるものではなく、既述の鱗片状や針状等の任意の形状を有することができる。赤外線吸収粒子21は例えば表面に被覆等を有することもできる。赤外線吸収粒子分散液20は、赤外線吸収粒子21、液状媒体22以外に、必要に応じてその他添加剤を含むこともできる。
【0052】
(1)赤外線吸収粒子分散液が含有する成分について
以下、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液が含有する各成分について説明する。
(1-1)赤外線吸収粒子
赤外線吸収粒子としては、既述の赤外線吸収粒子を用いることができるため、ここでは説明を省略する。
【0053】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液が含有する赤外線吸収粒子の含有量は特に限定されないが、例えば0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0054】
これは、赤外線吸収粒子の含有量を0.01質量%以上とすることで、十分な赤外線遮蔽特性を発揮できるからである。また、赤外線吸収粒子の含有量を80質量%以下とすることで、赤外線吸収粒子を容易に、液状媒体中に分散できるからである。
(1-2)液状媒体
液状媒体としては、例えば水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状プラスチック用可塑剤、高分子単量体から選択される1種類以上を用いることができる。
(有機溶媒)
有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、エステル系、グリコール系、アミド系、炭化水素系等の有機溶媒を挙げることができる。
【0055】
具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶媒;
アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶媒;
3-メチル-メトキシ-プロピオネート、酢酸n-ブチルなどのエステル系溶媒;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;
フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;
トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;
エチレンクロライド、クロルベンゼン等を挙げることができる。
【0056】
そして、これらの有機溶媒中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチル等を好ましく挙げることができる。
(油脂)
油脂としては、例えば、植物油脂、植物由来の化合物、石油系溶剤等を挙げることができる。
【0057】
植物油脂としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油等を挙げることができる。
【0058】
植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、等を挙げることができる。
【0059】
また、市販の石油系溶剤も油脂として挙げることができる。
【0060】
市販の石油系溶剤として、アイソパー(登録商標)E、エクソール(登録商標)Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130(以上、エクソンモービル社製)、等を挙げることができる。
(液状樹脂)
液状樹脂としては、例えば液状アクリル樹脂、液状エポキシ樹脂、液状ポリエステル樹脂、液状ウレタン樹脂等から選択された1種類以上を用いることができる。
(液状プラスチック用可塑剤)
液状プラスチック用可塑剤としては、例えば、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤等を挙げることができる。なお、いずれも室温で液状であるものが好ましい。
【0061】
なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤を好ましく使用することができる。当該多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物等を挙げることができる。
【0062】
また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
【0063】
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-オクタネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステル、等を使用することができる。さらに、トリエチレングリコールの脂肪酸エステルも好ましく挙げることができる。
(高分子単量体)
高分子単量体としては、重合等により高分子を形成する単量体やオリゴマーを挙げることができる。具体的には、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体、スチレン樹脂単量体などを挙げることができる。
【0064】
以上に説明した液状媒体は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて液状媒体へ、酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
(1-3)その他の添加剤
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、その他の添加剤として、例えば分散剤、界面活性剤、カップリング剤(以下、「分散剤等の化合物」と記載する場合もある)などを含有してもよい。分散剤等の化合物は、赤外線吸収粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による光散乱とヘイズ(曇り)の増大を抑制することができる。
【0065】
分散剤等の化合物は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、エポキシ基から選択された1種類以上を官能基として有することが好ましい。これらの官能基は、赤外線吸収粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、特に均一に分散させる効果を有する。分散剤等の化合物は、上記官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤であることが、さらに好ましい。また、分散剤等の化合物である、これらの添加剤は本実施形態の赤外線吸収粒子の表面修飾剤として作用することが多いため、可視光や紫外線の光に対する応答でプロトンを供給する有機物となり得る。また、ガラス転移点の低い常温で液状の分散剤を前項で説明した液状媒体の代わりとして、すなわち液状媒体として用いることもできる。
【0066】
また、官能基を有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤も好ましい分散剤として挙げられる。中でも、カルボキシル基を官能基として有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤が、より好ましい例として挙げられる。官能基にアミンを含有する基を有する分散剤は、分子量Mw2000以上200000以下、アミン価5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のものが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では、分子量Mw2000以上200000以下、酸価1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下のものが好ましい。
【0067】
市販の分散剤における好ましい具体例としては、日本ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;
ビックケミー・ジャパン社製Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、Anti-Terra(登録商標)(以下同じ)-U、203、204等;BYK(登録商標)(以下同じ)-P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;
エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4310、4320、4330、4340、4400、4401、4402、4403、4500、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、7462、8503等;
BASFジャパン社製JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、-JDX5050等;
大塚化学社製TERPLUS(登録商標)(以下同じ)MD1000、D1180、D1130等;
味の素ファインテクノ社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB-711、PB-821、PB-822等;
楠本化成社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-325、DA-375、DA-550、DA-705、DA-725、DA-1401、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L等;
東亞合成社製アルフォン(登録商標)(以下同じ)UH-2170、UC-3000、UC-3910、UC-3920、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4040、UG-4070、レゼダ(登録商標)(以下同じ)GS-1015、GP-301、GP-301S等;
三菱化学社製ダイヤナール(登録商標)(以下同じ)BR-50、BR-52、BR-60、BR-73、BR-80、BR-83、BR-85、BR-87、BR-88、BR-90、BR-96、BR-102、BR-113、BR-116等が挙げられる。
(2)赤外線吸収粒子分散液の用途について
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液の用途は特に限定されるものではなく、例えば赤外線吸収特性や、クロミック特性が要求される各種用途に用いることができる。
【0068】
本実施形態の分散液は、例えば、適宜な基材の表面に塗布することで分散膜を形成して赤外線吸収基材として利用できる。当該分散膜は、赤外線吸収粒子分散体の一種でもあり、赤外線吸収粒子分散液の乾燥固化物の一種でもある。
【0069】
また、既述の分散剤等の化合物を含む本実施形態の赤外線吸収粒子分散液を乾燥し、必要に応じて粉砕処理を行い、粉末状の赤外線吸収粒子分散体(本明細書において「分散粉」と記載する場合もある。)とすることもできる。つまり、当該分散粉は、赤外線吸収粒子分散体の一種でもあり、赤外線吸収粒子分散液の乾燥固化物の一種でもある。当該分散粉は赤外線吸収粒子が、分散剤等の固体媒体中に分散された粉末状の分散体である。当該分散粉は分散剤を含んでいるため、適宜な媒体と混合することで赤外線吸収粒子を媒体中へ容易に再分散させることが可能である。
【0070】
上記分散粉は、赤外線吸収製品へ赤外線吸収粒子を分散状態で添加する原料として用いることもできる。すなわち、本実施形態の赤外線吸収粒子が固体媒体中に分散された当該分散粉を、再度液体媒体中に分散させ、赤外線吸収製品用の分散液として使用しても良いし、後述するように当該分散粉を樹脂中に練り込んで赤外線吸収粒子分散体として使用しても良い。
【0071】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、光熱変換を利用する様々な用途に用いることができる。
【0072】
例えば、赤外線吸収粒子分散液を未硬化の熱硬化性樹脂へ添加するか、赤外線吸収粒子分散液に未硬化の熱硬化性樹脂を添加することにより、硬化型インク組成物とすることができる。上記硬化型インク組成物は、既述の赤外線吸収粒子を含んでおり、該赤外線吸収粒子は赤外線等の電磁波照射による発熱量を高める助剤として機能する。硬化型インク組成物は熱硬化性樹脂を含有するため、硬化型インク組成物に赤外線等の電磁波を照射することで、上述のように赤外線吸収粒子が発熱量を高める助剤として機能し、該熱硬化性樹脂を硬化できる。硬化型インク組成物を例えば基材上に設けておくことで、赤外線等の電磁波を照射した際に、硬化型インク組成物の硬化物と、基材との密着性を高めることもできる。
【0073】
従って、当該硬化型インク組成物は、従来のインクとしての用途に加え、例えば塗布と、赤外線などの電磁波の照射による硬化とを繰り返し実施して積み上げ、3次元物体を造形する光造形法の用途に好適に用いることができる。
【0074】
それ以外にも、本実施形態の赤外線吸収粒子を加熱溶融された熱可塑性樹脂へ添加するか、本実施形態の赤外線吸収粒子を適宜な溶媒中に分散した後、溶媒への溶解性の高い熱可塑性樹脂を添加することにより、熱可塑性樹脂含有インク組成物が得られる。
【0075】
熱可塑性樹脂含有インク組成物を例えば基材上に設け、赤外線等の電磁波を照射することで、溶媒除去と、樹脂の加熱融着とを経て、熱可塑性樹脂含有インク組成物の硬化物を、基材へ密着させることができる。この際、係る熱可塑性樹脂含有インク組成物においても、上記硬化型インク組成物の場合と同様に、赤外線吸収粒子は赤外線等の電磁波照射による発熱量を高める助剤として機能する。
【0076】
従って、当該熱可塑性樹脂含有インク組成物は、従来のインクとしての用途に加え、例えば塗布と、赤外線などの電磁波の照射による溶媒除去と、樹脂の加熱融着とを繰り返し実施して積み上げ、3次元物体を造形する光造形法の用途に好適に用いることができる。
【0077】
また、熱可塑性樹脂粉末を敷き詰めたところに赤外線吸収粒子分散液を滴下するとき、その瞬間やその直後に赤外線等の電磁波を照射することで、溶媒除去と、樹脂の加熱融着とを経て、硬化物を基材へ密着させたり3次元物体を造形したりすることもできる。
【0078】
これらの光熱変換を利用する様々な用途でフォトクロミック特性を活用するなら、例えば次のような事例が考えられる。光熱変換機能が必要なとき、その直前あるいは同時に紫外線を照射して、光熱変換特性を向上させることができる。よって、従来よりも少ない添加量でもその機能を果たすことができるようになる。また、その機能が不要なとき、赤外線の吸収特性を低下させることができるが、このとき可視光の吸収特性も低下する。よって、基材への密着物や3次元物体の透明性や白色性をより向上させることができる。
【0079】
ここまで説明した、上記硬化型インク組成物や、熱可塑性樹脂含有インク組成物は、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液の一例でもある。
[赤外線吸収粒子分散体]
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、固体媒体と、固体媒体中に配置された既述の赤外線吸収粒子と、を含有できる。
【0080】
例えば
図3に示すように、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体30は、既述の赤外線吸収粒子31と、固体媒体32とを含むことができ、赤外線吸収粒子31は、固体媒体32内に分散されていることが好ましい。なお、
図3は模式的に示した図であり、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、係る形態に限定されるものではない。例えば
図3において赤外線吸収粒子31を球状の粒子として記載しているが、赤外線吸収粒子31の形状は係る形態に限定されるものではなく、既述の鱗片状や針状等の任意の形状を有することができる。赤外線吸収粒子31は例えば表面に被覆等を有することもできる。赤外線吸収粒子分散体30は、赤外線吸収粒子31、固体媒体32以外に、必要に応じてその他添加剤を含むこともできる。
【0081】
赤外線吸収粒子分散体(以下、「分散体」とも記載する)は、例えば既述の赤外線吸収粒子分散液を加工して製造できる。
(1)赤外線吸収粒子分散体が含有する成分について
以下、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体が含有する各成分について説明する。
(1-1)赤外線吸収粒子
赤外線吸収粒子としては、既述の赤外線吸収粒子を用いることができるため、ここでは説明を省略する。
【0082】
本実施形態の分散体が含有する赤外線吸収粒子の割合は特に限定されず、厚さや、該分散体に要求される光学特性や、機械特性等に応じて任意に選択できる。固体媒体に対するフィラー量、すなわち、赤外線吸収粒子の配合割合は、固体媒体に対して50質量%以下が好ましい。固体媒体に対する赤外線吸収粒子の含有割合が50質量%以下であれば、固体媒体中で、赤外線吸収粒子同士が凝集することを特に抑制でき、特に良好な透明性を保つことができる。また、赤外線吸収粒子の使用量も制御できるのでコスト的にも有利である。
【0083】
固体媒体に対する赤外線吸収粒子の含有割合の下限値は特に限定されないが、例えば0.00001質量%以上であることが好ましい。含有割合が下がっても赤外線吸収粒子分散体の厚さを増大すれば所望の赤外線遮蔽性能を発揮できる。しかし、窓材用途では厚さ100cm以下で使用されることが多いことから、固体媒体に対する赤外線吸収粒子の含有割合を0.00001質量%以上とすることで、特に高い赤外線遮蔽性能を発揮できる。
(1-2)固体媒体
固体媒体としては、媒体樹脂であることが好ましい。すなわち固体媒体としては樹脂を好適に用いることができる。
【0084】
媒体樹脂としては特に限定されないが、例えば媒体樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、上記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、および上記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、から選択されたいずれかであることが好ましい。
(2)形状、厚さ等について
本実施形態の分散体の形状や厚さは、使用目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。本実施形態の分散体は、例えば日射遮蔽用の光学部材として形成される場合、固体媒体に透明樹脂を使用でき、例えば厚さを0.1μm以上50mm以下とすることができる。本実施形態の分散体の形状は上述のように特に限定されないが、シート状、ボード状、またはフィルム状の形状を有することができる。また分散体は、ガラスや樹脂ボード、樹脂シート、樹脂フィルム等の透明基材表面に形成されるフィルターとして構成されてもよい。
(3)赤外線吸収粒子分散体の用途について
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の用途は特に限定されるものではなく、例えば赤外線吸収特性や、クロミック特性が要求される各種用途に用いることができる。
【0085】
本実施形態の分散体は、例えば、各種建築物や車両において、可視光を十分に取り入れながら赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的とした窓材等に好適に使用することができる。それにより夏場の冷房負荷を低減できる。フォトクロミック特性を活用するなら、例えば次のような事例が考えられる。冬場は日照時間が少ないため、夏場と比較すると赤外線吸収粒子の赤外線吸収特性は低下している。このとき、可視光の吸収特性も低下する。よって、太陽光に含まれる可視光や赤外線をより多く室内へ取り入れることができ、冬場の暖房負荷も低減できる。勿論、窓材等に何の材料も使用しなければ、太陽光を最大限取り入れることができるが、その場合は夏場の冷房負荷が大幅に上昇する。すなわち、フォトクロミック特性を有さない従来の赤外線遮蔽材料と比較すると、冬場の暖房負荷をより低減できるため、年間のエネルギー消費量をより低減できる。
【0086】
本実施形態の分散体は、PDP(プラズマディスプレイパネル)に使用でき、当該PDPから前方に放射される赤外線を遮蔽するフィルター等に好適に使用することができる。フォトクロミック特性を活用するなら、例えば次のような事例が考えられる。赤外線の遮蔽機能が必要なとき、多くは太陽や室内の電灯による光が照射されている状況であるため、赤外線吸収粒子の赤外線吸収特性を向上させることができる。よって、従来よりも少ない添加量でもその機能を果たすことができるようになる。また、その機能が不要なとき、赤外線の吸収特性を低下させることができるが、このとき可視光の吸収特性も低下する。よって、フィルター等の透明性をより向上させることができる。
【0087】
また、赤外線吸収粒子は赤外領域に吸収を有するため、赤外線吸収粒子を含む印刷面へ赤外線レーザーを照射したとき、特定の波長を有する赤外線を吸収する。従って、この赤外線吸収粒子を含む偽造防止インクを被印刷基材の片面または両面に印刷して得た偽造防止用印刷物は、特定波長を有する赤外線を照射し、その反射若しくは透過を読み取ることによって、反射量または透過量の違いから、印刷物の真贋を判定することができる。また、赤外線吸収粒子は可視領域に吸収を有さないため、真贋判定時以外では印刷物は白色や透明に見え、赤外線吸収粒子の存在を隠すことができる。フォトクロミック特性を活用するなら、例えば次のような事例が考えられる。赤外線による真贋判定直前あるいは同時に紫外線を照射し、赤外線の吸収特性を向上させ、より高度な真贋判定とすることができる。すなわち、赤外線だけでは該印刷物を読み取ることはできず、紫外線も照射して初めて読み取ることができる。また、真贋判定時以外では赤外線の吸収特性は低下しているが、このとき可視光の吸収特性も低下している。すなわち、真贋判定時以外はより透明あるいは白色に見えるため、赤外線吸収粒子の存在をより一層と隠すことができる。当該偽造防止用印刷物は、赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0088】
また、赤外線吸収粒子分散液とバインダー成分とを混合してインクを製造し、当該インクを基材上に塗布し、塗布したインクを乾燥させた後、乾燥させたインクを硬化させることにより光熱変換層を形成することができる。当該光熱変換層は、赤外線などの電磁波レーザーの照射により、高い位置の精度をもって所望の箇所のみで発熱させることが可能であり、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲に分野において適用可能である。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子をレーザー転写法で形成する際に用いるドナーシートや、感熱式プリンタ用の感熱紙や熱転写プリンタ用のインクリボンとして好適に用いることができる。フォトクロミック特性を活用するなら、例えば次のような事例が考えられる。光熱変換機能が必要なとき、その直前あるいは同時に紫外線を照射して、光熱変換特性を向上させることができる。よって、従来よりも少ない添加量でもその機能を果たすことができるようになる。また、その機能が不要なとき、赤外線の吸収特性を低下させることができるが、このとき可視光の吸収特性も低下する。よって、ドナーシート、感熱紙、インクリボンの透明性や白色性をより向上させることができる。当該光熱変換層は赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0089】
また、赤外線吸収粒子を適宜な媒体中に分散させて、当該分散物を繊維の表面および内部から選択された1以上の部分に含有させることにより、赤外線吸収繊維が得られる。当該構成を有することで、赤外線吸収繊維は、赤外線吸収粒子の含有により太陽光などからの近赤外線等を効率良く吸収し、保温性に優れた赤外線吸収繊維となり、同時に可視光領域の光は透過させるので意匠性に優れた赤外線吸収繊維となる。その結果、保温性を必要とする防寒用衣料、スポーツ用衣料、ストッキング、カーテン等の繊維製品やその他産業用繊維製品等の種々の用途に使用することができる。フォトクロミック特性を活用するなら、例えば次のような事例が考えられる。保湿性が必要なとき、多くは室外で活動している状況であり、その直前あるいは同時に太陽光が照射されている状況であり、赤外線吸収粒子の赤外線吸収特性は向上する。よって、従来よりも少ない添加量でもその機能を果たすことができるようになる。また、その機能が不要なとき、赤外線の吸収特性を低下させることができるが、このとき可視光の吸収特性も低下する。よって、繊維製品の白色性や意匠性をより向上させることができる。さらには、繊維製品の一部分にフォトクロミック特性を有する赤外線吸収繊維を用いることで、太陽光照射時の吸収特性の変化を明確としたり、文字を浮かびあがらせることができる。よって、その部分を保湿性のインジケーターや目印とすることもできる。当該赤外線吸収繊維は赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0090】
また、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体を、農園芸用ハウスの屋根や外壁材等に用いられる資材に応用することができる。そして、可視光を透過して農園芸用ハウス内の植物の光合成に必要な光を確保しながら、それ以外の太陽光に含まれる近赤外光等の光を効率よく吸収することにより、断熱性を備えた農園芸施設用断熱資材として使用することができる。フォトクロミック特性を活用するなら、例えば次のような事例が考えられる。断熱性が必要なとき、多くは太陽光が照射されている状況であり、赤外線吸収粒子の赤外線吸収特性は向上する。よって、従来よりも少ない添加量でもその機能を果たすことができるようになる。また、その機能が不要なとき、赤外線の吸収特性を低下させることができるが、このとき可視光の吸収特性も低下する。よって、断熱資材の透明性をより向上させることができる。さらには、1日のサイクルを考えたとき、フォトクロミック特性はより好ましい形で作用する。夜間は太陽光が照射されないため、吸収特性は低下し、断熱資材の透明性は向上する。朝方はそれほど気温が上昇しないため、断熱性はそれほど要求されないが、このとき断熱資材の透明性は高いため、植物の光合成量を最大限高めることができる。正午が近づいてくると気温が上昇し、断熱性が要求されるようになる。このとき、朝方からの太陽光照射により既に赤外線の吸収特性は増大した状態となっており、断熱性は向上している。すなわち、断熱性が不要なときは、なるべく断熱資材を透明とし、植物の光合成量を増加させることができる。当該農園芸施設用断熱資材は、赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0091】
また、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体を、その両側から透明基材(透明基板)を用いて挟み合わせた構造を有する赤外線吸収合わせ透明基材とすることもできる。
【0092】
透明基材としては、特に限定されるものではなく可視光透過率等を考慮して任意に選択することができる。例えば、透明基材としては板ガラス、板状のプラスチック、ボード状のプラスチック、フィルム状のプラスチック等から選択された1種類以上を用いることができる。なお、透明基材は可視光領域において透明であることが好ましい。
【0093】
プラスチック製の透明基材を用いる場合、プラスチックの材質は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であり、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、等が使用可能である。
【0094】
なお、本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材には、2枚以上の透明基材を用いることができるが、2枚以上の透明基材を用いる場合、構成する透明基材として例えば、異なる材料からなる透明基材を組み合わせて使用することもできる。また、構成する透明基材の厚さは同一である必要はなく、厚さの異なる透明基材を組み合わせて用いることもできる。
【0095】
本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材は、既述の赤外線吸収粒子分散体を中間層として用いることができる。
【0096】
また、既述の赤外線吸収粒子分散液を用いて、フィルム基材およびガラス基材から選択される透明基材(透明基板)上へ、赤外線吸収粒子を含有するコーティング層を形成できる。係る操作により、赤外線吸収透明基材である赤外線吸収フィルムまたは赤外線吸収ガラスを製造することができる。
【0097】
コーティング層は、例えば既述の赤外線吸収粒子分散液と、プラスチックまたはモノマーとを混合した塗布液を用いて作製できる。
【0098】
例えば、赤外線吸収フィルムは以下のように作製することができる。
【0099】
既述の赤外線吸収粒子分散液に硬化後に固体媒体になる媒体樹脂を添加し、塗布液を得る。この塗布液をフィルム基材表面にコーティングした後、塗布液が含有していた液状媒体を蒸発させる。そして、用いた媒体樹脂に応じた方法で媒体樹脂を硬化させることで、当該赤外線吸収粒子が固体媒体中に分散したコーティング層(コーティング膜)を形成し、赤外線吸収フィルムとすることができる。
【0100】
なお、透明基材をガラス基材とすることで、赤外線吸収ガラスも同様に作製できる。
【0101】
上記コーティング層の媒体樹脂は、例えば、UV硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等から目的に応じて選択可能である。媒体樹脂は、具体的には例えば、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等を挙げられる。
【0102】
これらの媒体樹脂は、単独使用であっても混合使用であっても良い。もっとも、当該コーティング層用の媒体樹脂の中でも、生産性や装置コストなどの観点からUV硬化性樹脂バインダーを用いることが特に好ましい。
【0103】
また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、固体媒体が酸化物膜からなるコーティング層を形成することが可能である。
【0104】
上述したフィルム基材の材料としては、例えばポリエステル、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等から、各種目的に応じて使用可能である。もっとも、赤外線吸収フィルムのフィルム基材としては、ポリエステルフィルムであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであることがより好ましい。
【0105】
また、コーティング層の接着の容易さを実現するため、フィルム基材の表面は、表面処理がなされていることが好ましい。また、ガラス基材もしくはフィルム基材とコーティング層との接着性を向上させるために、ガラス基材上もしくはフィルム基材上に中間層を形成し、中間層上にコーティング層を形成することも好ましい構成である。中間層の構成は特に限定されるものではなく、例えばポリマフィルム、金属層、無機層(例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物層)、有機/無機複合層等により構成することができる。
【0106】
フィルム基材上またはガラス基材上へコーティング層を設ける方法は、当該基材表面へ赤外線吸収粒子分散液が均一に塗布できる方法であればよく、特に限定されない。例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等を挙げることができる。
【0107】
なお、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、既述のようにクロミック特性を有することから、上記各種用途に用いる場合に、必要に応じて紫外線や可視光等を照射することで、その光学特性を変化させ、該用途に合った光学特性を備えた赤外線吸収粒子分散体にできる。
[赤外線吸収粒子分散体の製造方法]
次に本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法について説明する。本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法によれば、既述の赤外線吸収粒子分散体を製造できるため、重複する説明は一部省略する。
【0108】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法は特に限定されず、任意の製造方法により製造できる。
【0109】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、例えば固体媒体もしくはその原料と、既述の赤外線吸収粒子とを混合し、所望の形状に成形した後、硬化させることで製造できる。
【0110】
また、赤外線吸収粒子分散体は、例えば既述の赤外線吸収粒子分散液を用いて製造することもできる。
【0111】
赤外線吸収粒子分散液を用いて製造する場合、本実施形態の分散体の製造方法は、例えばまず既述の赤外線吸収粒子分散液と、固体媒体とを混合する混合工程を有することができる。なお、上記混合工程で得られた赤外線吸収粒子分散液と、固体媒体との混合物中の溶媒分を除去し、一旦赤外線吸収粒子が固体媒体に分散された粉末状やペレット状の分散体を作製することもできる。該粉末状や、ペレット状の分散体は、必要に応じてさらに樹脂と混合してもよい。
【0112】
そして、得られた混合物を、例えば固体媒体である樹脂の融点付近の温度(100℃~400℃前後)で溶融混合して成形することで分散体を形成することもできる。
【0113】
また、例えば分散体を粉末状もしくはペレット状に加工して所謂マスターバッチを作製し、当該マスターバッチを各種方式でフィルム、シート、ボード状に成形してもよい。成形する方法としては、例えば、押し出し成形法、インフレーション成形法、溶液流延法、キャスティング法等が挙げられる。
【0114】
また、例えば赤外線吸収粒子分散液を、アルコール等の有機溶媒や水等の液体媒質と、バインダーとなる樹脂と、所望により界面活性剤等の添加剤と混合し、塗布膜形成用赤外線吸収粒子分散液を作製できる(塗布液調製工程)。そして、該塗布膜形成用赤外線吸収粒子分散液を適宜な基材表面に塗布した後、液体媒質を除去したり、バインダーとなる樹脂を硬化させたりすることで、基材表面に分散体を形成することもできる。
【0115】
なお、例えば複数枚の透明基材間に製造した赤外線吸収粒子分散体を配置することで、既述の赤外線吸収合わせ透明基材とすることもできる。
【実施例0116】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液の調製)
実施例1では、まず、水3.3gにCs2CO32.16gを溶解し、これをH2WO410gに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるCs/W(モル比)=0.33の混合粉体を得た。
【0117】
当該混合粉末を、N2ガスをキャリアーとした0.6体積%のH2ガス供給下で加熱し、550℃の温度で3時間の還元処理を行った。次いで、N2ガス雰囲気下で800℃、1時間焼成した。以上の操作により、実施例1に係る六方晶を有したセシウムタングステンブロンズ粉末を得た。
【0118】
なお、セシウムタングステンブロンズ、すなわち複合タングステン酸化物の結晶構造は、Spectris社のX'Pert-PRO/MPD装置でCu-Kα線を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)によりX線回折パターンを測定することで特定した。
【0119】
また、得られたセシウムタングステンブロンズの化学分析は、W(タングステン)についてはICP発光分光分析(1CP-OES)により行った。また、Oについては軽元素分析装置(LECO社製、型式ON-836)を用いて、Heガス中で試料を融解しルツボ中のカーボンと反応したCOガスをIR吸収分光法で定量する方法で分析した。その結果、得られたセシウムタングステンブロンズのO/W(モル比)=2.5であることを確認した。すなわち、得られたセシウムタングステンブロンズは、Cs0.33WO2.5であることを確認できた。
【0120】
実施例1に係るセシウムタングステンブロンズ粉末10質量%と水90質量%とを混合して得られた混合液(スラリー)を、φ0.07mmのZrO2ビーズと共にビーズミル(アシザワ・ファインテック社製スターミルZRS)に入れ、40時間の粉砕・分散処理を施した(粉砕工程)。その後、一度スラリーを取り出してセシウムタングステンブロンズを主成分とする実施例1に係る赤外線吸収粒子とそれを含有した実施例1に係る赤外線吸収粒子分散液を得た。
【0121】
次に得られた実施例1に係る赤外線吸収粒子分散液を真空乾燥機(エスペック製LCV―234)に入れ、溶媒を蒸発させ、赤外線吸収粒子のみを取り出した。乾燥温度は70℃、乾燥時間は24時間とした。そして、そのBET比表面積を、全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製Macsorb)を用いたガス吸着法により測定したところ、62m2/gとなった。吸着に用いるガスは、窒素ガスとした。
【0122】
また、取り出した赤外線吸収粒子について、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X'Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ-2θ法)によりX線回折パターンを測定し、リートベルト法による解析で結晶子径を算出したところ、23nmとなった。よって、BET比表面積と結晶子径の積は1426m2・nm/gであった。
(赤外線吸収粒子分散体の調製)
得られた実施例1に係る赤外線吸収粒子分散液に、水溶性紫外線硬化樹脂および溶媒のエタノールを添加、混合し、厚さ3mmのガラス基板上にバーコーター(井元製作所製IMC-700)で塗布して塗布膜を形成した。次いで、得られた塗布膜から溶媒を蒸発させた後、紫外線を1分間照射して、塗布膜を硬化させた。以上の操作により、実施例1に係る赤外線吸収粒子分散体を得た。
【0123】
このとき、紫外線の1分間照射に伴い、赤外線吸収粒子のフォトクロミック性により青く着色したので、大気中の暗所で1日間静置させて脱色させ、実施例1に係る赤外線吸収粒子分散体を得た。ここで、紫外線硬化樹脂が赤外線吸収粒子分散体の固体媒体であり、可視光や紫外線の光に対する応答でプロトンを生成する。
【0124】
脱色後の赤外線吸収粒子分散体の透過率を、分光光度計(日立製作所製U-4100)により波長200nm以上2600nm以下の範囲において5nmの間隔で測定した。このとき、ベースラインは同じ膜厚で赤外線吸収粒子を含まない紫外線硬化樹脂膜を塗布・硬化させた厚さ3mmのガラス基板とし、赤外線吸収粒子成分のみの透過率を測定した。波長500nmにおいて92.1%、波長1300nmにおいて34.8%となり、波長1300nmにおける吸光度は0.458であった。このように高い可視光透明性と赤外線吸収性を示すことを確認した。
(フォトクロミック性の評価)
次いで、UVコンベア装置(ECS-401GX、アイグラフィック製)を用いて20分間のUV照射を行い、実施例1に係る赤外線吸収粒子分散体を着色させた。このとき、UVコンベア装置中のUV源には365nmに主波長を有する水銀ランプを用い、UV照射強度は100mW/cm2とした。その後、照射前と同様に分光光度計により透過率を測定した。波長500nmにおいて89.7%、波長1300nmにおいて27.1%となり、高い可視光透明性と赤外線吸収性を示していることを確認した。また、波長1300nmにおける吸光度は0.567となり、吸光度の変化率は24%であった。
【0125】
[比較例1]
実施例1に係るセシウムタングステンブロンズ粉末10質量%と水90質量%とを混合して得られた混合液(スラリー)を、φ0.3mmのZrO2ビーズと共にビーズミル(アシザワ・ファインテック社製スターミルZRS)に入れ、10時間の粉砕・分散処理を施した(粉砕工程)。その後、一度スラリーを取り出してセシウムタングステンブロンズを主成分とする比較例1に係る赤外線吸収粒子とそれを含有した比較例1に係る赤外線吸収粒子分散液を得た。
【0126】
次に得られた比較例1に係る赤外線吸収粒子分散液を真空乾燥機(エスペック製LCV―234)に入れ、溶媒を蒸発させ、赤外線吸収粒子のみを取り出した。乾燥温度は70℃、乾燥時間は24時間とした。そして、そのBET比表面積と結晶子径を測定したところ、それぞれ44m2/gと23nmとなり、その積は1012m2・nm/gであった。
【0127】
比較例1に係る赤外線吸収粒子分散液を用いた以外は実施例1と同様にして比較例1に係る赤外線吸収分散体を得た。そして、実施例1と同様に評価したところ、透過率は波長500nmにおいて91.9%、波長1300nmにおいて34.6%となり、波長1300nmにおける吸光度は0.461であった。また、UV照射後の透過率は波長500nmにおいて89.3%、波長1300nmにおいて28.9%となり、波長1300nmにおける吸光度は0.539となった。このとき、吸光度の変化率は17%であった。