(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034546
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】高強度高延性高信頼性はんだ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/14 20060101AFI20230306BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20230306BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
B23K35/14 Z
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140841
(22)【出願日】2021-08-31
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】西川 宏
(57)【要約】
【課題】高い強度と延性を兼ね備え、高い信頼性を有するSn-Ag-Cu系はんだ及びその製造方法を提供する。より具体的には、セラミックス粒子の添加によって高強度高延性高信頼性が付与されたSn-Ag-Cu系はんだ及びその安価かつ簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】Sn-Ag-Cu系はんだにセラミックス粒子が分散し、セラミックス粒子がNiOで被覆されていること、を特徴とする高強度高延性高信頼性はんだ。セラミックス粒子はZnO粒子及び/又はZrO
2粒子であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn-Ag-Cu系はんだにセラミックス粒子が分散し、
前記セラミックス粒子がNiOで被覆されていること、
を特徴とする高強度高延性高信頼性はんだ。
【請求項2】
前記セラミックス粒子がZnO粒子及び/又はZrO2粒子であること、
を特徴とする請求項1に記載の高強度高延性高信頼性はんだ。
【請求項3】
前記セラミックス粒子がナノ粒子及び/又はテトラポット型のマイクロ粒子であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の高強度高延性高信頼性はんだ。
【請求項4】
前記セラミックス粒子が、前記ZnO粒子及び前記ZrO2粒子であり、
前記ZnO粒子が、平均粒径が1~50μmの前記テトラポット型のマイクロ粒子であり、
前記ZrO2粒子が、平均粒径が10~500nmの前記ナノ粒子であること、
を特徴とする請求項1に記載の高強度高延性高信頼性はんだ。
【請求項5】
前記セラミックス粒子が、前記ZnO粒子及び前記ZrO2粒子であり、
前記ZnO粒子が、平均粒径が10~500nmの前記ナノ粒子であり、
前記ZrO2粒子が、平均粒径が1~50μmの前記テトラポット型のマイクロ粒子であること、
を特徴とする請求項1に記載の高強度高延性高信頼性はんだ。
【請求項6】
前記セラミックス粒子の含有量が0.2~0.4質量%であること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載の高強度高延性高信頼性はんだ。
【請求項7】
セラミックス粒子の表面に酢酸ニッケル・4水和物を被覆して酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子を得る第一工程と、
前記酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子を加熱し、前記酢酸ニッケル・4水和物を熱分解させてNiO被覆セラミックス粒子を得る第二工程と、
溶融させたSn-Ag-Cu系はんだに前記NiO被覆セラミックス粒子を分散させる第三工程と、を有すること、
を特徴とする高強度高延性高信頼性はんだの製造方法。
【請求項8】
前記第一工程の予備処理として、前記セラミックス粒子の表面に格子ひずみを導入して表面高エネルギー化セラミックス粒子を得る格子ひずみ導入工程を有すること、
を特徴とする請求項7に記載の強度高延性高信頼性はんだの製造方法。
【請求項9】
前記格子ひずみ導入工程にボールミルを用いること、
を特徴とする請求項8に記載の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法。
【請求項10】
前記セラミックス粒子をZnO粒子及び/又はZrO2粒子とすること、
を特徴とする請求項7~9のうちのいずれかに記載の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法。
【請求項11】
前記第三工程において、前記NiO被覆セラミックス粒子を添加した前記Sn-Ag-Cu系はんだに超音波を印加した状態で攪拌すること、
を特徴とする請求項7~10のうちのいずれかに記載の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い強度と延性を兼ね備えた高い信頼性を有するはんだ及びその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、エレクトロニクス製品に利用されている汎用の鉛フリーはんだは、Agの含有量が3.0質量%のSn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cuはんだが主流となっている。しかしながら、当該はんだは耐衝撃性に問題があることに加え、近年のAgの高騰の影響もあり、Agの含有量を低減した低Ag鉛フリーはんだの適用が検討されている。
【0003】
低Ag鉛フリーはんだの組成には、Sn-1.0質量%Ag-0.5質量%Cu、Sn-0.3質量%Ag-0.7質量%Cu、Sn-0.1質量%Ag-0.7質量%Cu等が存在するが、これらの低Ag鉛フリーはんだにおいては、十分な引張強度を得ることが難しく、熱疲労特性に劣るとされている。
【0004】
ここで、はんだの耐熱性を向上させる方法として、例えば、特許文献1(特開2014-237170号公報)においては、「Sbを5質量%以上18質量%以下、Cuを0.5質量%以上2質量%以下、セラミック粒子を0.001質量%以上0.05質量%以下含み、残部がSn及び不可避不純物からなることを特徴とする超音波はんだ接合用鉛フリーはんだ合金」が提案されている。
【0005】
上記特許文献1に記載の超音波はんだ接合用鉛フリーはんだ合金においては、Sb、Cu及びセラミック粒子を特定の添加量とすることで、優れた初期接合性及び耐熱性を達成しており、「セラミック粒子の添加量が0.001質量%よりも少ない場合、セラミック粒子が強固なAl酸化膜に衝突する頻度が少なく、Al酸化膜を容易に除去することができないため、短時間で接合するのが困難である。一方、セラミック粒子の添加量が0.05質量%よりも多い場合、初期接合性は良好となるものの、はんだ合金内に多く存在するセラミック粒子がはんだ合金組織を著しく劣化させ、ヒートサイクル試験で不良に至る。」とされている。
【0006】
また、特許文献2(特開平11-134933号公報)では、はんだに分散させる硬質導電性粒子として、「粒径が50μm以下のセラミックス粉末に、物理蒸着法により、厚さが0.1~5μmのAu,Ag,Cu,Alまたはそれらの合金からなる導電性金属層と、その上に、厚さが0.05~0.5μmのPt,Pdまたはそれらの合金からなるはんだとの反応抑制層を有し、最表層に厚さが0.1~2μmのNi,Cuまたはそれらの合金をはんだ中への分散促進層として被覆し、かつこれら3層の結晶子径がX線回折の半価幅からシェラーの式で計算した値で、300nm以下であることを特徴とするはんだ分散性に優れる硬質導電性粒子。」が提案されている。
【0007】
上記特許文献2に記載の硬質導電性粒子においては、「被覆層のX線回折のピ-ク強度の半価幅からシェラーの式によって計算される結晶子径を300nm以下とした場合に、被覆中あるいは溶融はんだ中の熱で被覆層中に発生する熱応力が緩和され、剥離を抑制した硬質導電性粒子が得られる。」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-237170号公報
【特許文献2】特開平11-134933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の超音波はんだ接合用鉛フリーはんだ合金においては、はんだへのセラミック粒子の分散性やはんだとセラミック粒子の密着性等については殆ど考慮されておらず、セラミック粒子の添加量は極めて少ない値に限られている(0.05質量%以下)。即ち、セラミック粒子の添加によるはんだの強度や信頼性等の改善効果は限定的であることに加え、得られる効果はセラミック粒子の種類によっても大きくことなるものと思われる。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の硬質導電性粒子は、被覆層によってはんだへの分散性が改善されているが、導電性金属層、反応抑制層及び最表層の異なる組成を有する3種類の層を形成させる必要がある。加えて、各層の形成には物理蒸着法を用いる必要があり、大量生産に適さないだけでなく、粒子形状が複雑な場合やナノ粒子等の場合、粒子の表面全体に均質な被覆層を形成させることは極めて困難である。即ち、上記特許文献2の硬質導電性粒子は、汎用接合材であるはんだへの添加材として、コスト面や品質面等で適していない。
【0011】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、高い強度と延性を兼ね備え、高い信頼性を有するSn-Ag-Cu系はんだ及びその製造方法を提供することにある。より具体的には、セラミックス粒子の添加によって高強度高延性高信頼性が付与されたSn-Ag-Cu系はんだ及びその安価かつ簡便な製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく、はんだに分散させるセラミックス粒子の表面処理方法やセラミックス粒子の形状、サイズ及び添加量等について鋭意研究を重ねた結果、セラミックス粒子の表面をNiOで被覆すること等が、上記目的を達成する上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、Sn-Ag-Cu系はんだにセラミックス粒子が分散し、前記セラミックス粒子がNiOで被覆されていること、を特徴とする高強度高延性高信頼性はんだ、を提供する。
【0014】
本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、分散させるセラミックス粒子の表面がNiOで被覆されていることが最大の特徴となっている。NiO被膜によってはんだへのセラミックス粒子の分散性が向上し、セラミックス粒子の均一分散が達成されていることに加え、NiO被膜によってセラミックス粒子とはんだの親和性が向上し、当該セラミックス粒子の分散強化が効果的に発現している。加えて、セラミックス粒子の均一分散によって、はんだ層と基材(被接合材)との接合界面における金属間化合物の成長を抑制でき、接合体の高温安定性を向上させることができる(高温環境に保持後も強度及び延性が維持される。)。
【0015】
加えて、NiO被膜を形成させたセラミックス粒子をSn-Ag-Cu系はんだに均一分散させることで、当該セラミックス粒子がはんだの微細組織形成の不均一核生成サイトとなること、及び当該セラミックス粒子のピニング効果によってはんだの共晶組織の粗大化が抑制されることによって、はんだの組織が微細化されている。その結果、はんだ層に優れた強度及び延性を付与することができる。
【0016】
本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、前記セラミックス粒子がZnO粒子及び/又はZrO2粒子であること、が好ましい。Sn-Ag-Cu系はんだの密度及び熱伝導率がそれぞれ7.3g/cm3及び25.0×10-6/Kであるところ、セラミックス粒子をZnO粒子又はZrO2粒子とすることで、これらを近い値とすることができる。具体的には、ZnOの密度及び熱伝導率はそれぞれ5.6g/cm3及び6.5×10-6/Kであり、ZrO2の密度及び熱伝導率はそれぞれ5.9g/cm3及び9.6×10-6/Kである。
【0017】
また、本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、前記セラミックス粒子がナノ粒子及び/又はテトラポット型のマイクロ粒子であること、が好ましい。ナノ粒子を均一分散させることで、Sn-Ag-Cu系はんだの機械的性質をムラなく向上させることができる。また、テトラポット型のマイクロ粒子を用いることで、当該セラミックス粒子の形状及びサイズに起因して、略球状のセラミックス粒子を用いた場合やナノ粒子を用いた場合と比較して、少量の添加ではんだ層全体の機械的性質を効率的に向上させることができる。
【0018】
また、本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、前記セラミックス粒子が、前記ZnO粒子及び前記ZrO2粒子であり、前記ZnO粒子が、平均粒径が1~50μmの前記テトラポット型のマイクロ粒子であり、前記ZrO2粒子が、平均粒径が10~500nmの前記ナノ粒子であること、が好ましい。テトラポット型のZnOマイクロ粒子とZrO2ナノ粒子を複合添加することで、Sn-Ag-Cu系はんだの強度、延性及び高温信頼性を、各セラミックス粒子を単独添加する場合と比較して、極めて効率的に向上させることができる。
【0019】
また、本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、前記セラミックス粒子が、前記ZnO粒子及び前記ZrO2粒子であり、前記ZnO粒子が、平均粒径が10~500nmの前記ナノ粒子であり、前記ZrO2粒子が、平均粒径が1~50μmの前記テトラポット型のマイクロ粒子であること、が好ましい。テトラポット型のZrO2粒子マイクロ粒子とZnOナノ粒子を複合添加することでも、Sn-Ag-Cu系はんだの強度、延性及び高温信頼性を、各セラミックス粒子を単独添加する場合と比較して、極めて効率的に向上させることができる。
【0020】
また、本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、前記セラミックス粒子の含有量が0.2~0.4質量%であること、が好ましい。セラミックス粒子の添加量を0.2質量%以上とすることで、Sn-Ag-Cu系はんだの強度、延性及び高温信頼性を確実に向上させることができ、0.4質量%以下とすることで、凝集等によってセラミックス粒子が不均一に分散することを防止でき、Sn-Ag-Cu系はんだの強度及び延性が低下することを抑制できる。
【0021】
また、本発明は、
前記表面高エネルギー化セラミックス粒子の表面に酢酸ニッケル・4水和物を被覆して酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子を得る第一工程と、
前記酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子を加熱し、前記酢酸ニッケル・4水和物を熱分解させてNiO被覆セラミックス粒子を得る第二工程と、
溶融させたSn-Ag-Cu系はんだに前記NiO被覆セラミックス粒子を分散させる第三工程と、を有すること、
を特徴とする高強度高延性高信頼性はんだの製造方法、も提供する。
【0022】
本発明の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法は、第一工程及び第二工程においてセラミックス粒子の表面にNiO被膜を形成し、第三工程において溶融させたSn-Ag-Cu系はんだにNiO被覆セラミックス粒子を分散させて高強度高延性高信頼性はんだを得るものである。セラミックス粒子の表面に溶融させたSn-Ag-Cu系はんだと馴染みのよいNiO被膜が存在していることから、比較的大量のセラミックス粒子を均一分散させることができる。
【0023】
本発明の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法においては、前記第一工程の予備処理として、前記セラミックス粒子の表面に格子ひずみを導入して表面高エネルギー化セラミックス粒子を得る格子ひずみ導入工程を有すること、が好ましい。また、当該格子ひずみ導入工程にはボールミルを用いることが好ましい。ボールミルを用いることで、大量のセラミックス粒子の表面に比較的均一に格子ひずみを導入することができる。本発明の効果を損なわない限りにおいて使用するボールミル装置及び条件は特に限定されず、セラミックス粒子表面に導入される格子ひずみを確認しつつ、適宜最適化すればよい。例えば、ボールミルには遊星ボールミルを使用することができ、セラミックス粒子表面の格子ひずみはXRD測定によって確認することができる。
【0024】
また、本発明の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法においては、前記セラミックス粒子をZnO粒子及び/又はZrO2粒子とすること、が好ましい。ZnO粒子及びZrO2粒子はSn-Ag-Cu系はんだと同程度の比重を有していることから、第三工程においてはんだ内への均一分散を容易に達成することができる。
【0025】
更に、本発明の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法においては、前記第三工程において、前記NiO被覆セラミックス粒子を添加した前記Sn-Ag-Cu系はんだに超音波を印加した状態で攪拌すること、が好ましい。超音波を印加した状態で攪拌することで、NiO被覆セラミックス粒子の凝集が抑制され、極めて効果的にNiO被覆セラミックス粒子を均一分散させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高い強度と延性を兼ね備え、高い信頼性を有するSn-Ag-Cu系はんだ及びその製造方法を提供することができる。より具体的には、セラミックス粒子の添加によって高強度高延性高信頼性が付与されたSn-Ag-Cu系はんだ及びその安価かつ簡便な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法の工程図である。
【
図2】実施例で用いたZrO
2粒子のTEM写真である。
【
図3】ZrO
2粒子の半価幅の変化を示すグラフである。
【
図4】NiO被覆ZrO
2粒子のXRDパターンである。
【
図5】NiO被覆ZrO
2粒子のTEM写真である。
【
図6】NiO被覆ZrO
2粒子表面のHRTEM写真である。
【
図7】NiO被覆ZrO
2粒子のSTEM-EDSマッピング結果である。
【
図8】実施例で用いたZnOマイクロ粒子のSEM写真である。
【
図9】NiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子表面のSEM写真である。
【
図10】高強度高延性高信頼性はんだの微細組織を示すSEM写真である。
【
図11】はんだの引張特性を示すグラフである(NiO被覆ZrO
2粒子単独添加)。
【
図12】はんだの引張特性を示すグラフである(NiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子単独添加)。
【
図13】はんだの引張特性を示すグラフである(複合添加)。
【
図14】高強度高延性高信頼性はんだの接合界面断面及びはんだ層断面のSEM写真である。
【
図15】接合体の金属間化合物層の厚さを示すグラフである。
【
図17】高温保持後の金属間化合物層及びはんだ層の変化を示すSEM写真である(比較はんだ材)。
【
図18】高温保持後の金属間化合物層及びはんだ層の変化を示すSEM写真である(高強度高延性高信頼性はんだ材)。
【
図19】高温保持後の接合体のせん断強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の高強度高延性高信頼性はんだ及びその製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態を示すに過ぎず、これらによって本発明が限定されるものではなく、また、重複する説明は省略することがある。
【0029】
1.高強度高延性高信頼性はんだ
本発明の高強度高延性高信頼性はんだは、Sn-Ag-Cu系はんだにセラミックス粒子が分散し、当該セラミックス粒子がNiOで被覆されていることを特徴とするものである。以下、母材となるSn-Ag-Cu系はんだ及びNiO被覆セラミックス粒子について詳細に説明する。
【0030】
(1)Sn-Ag-Cu系はんだ
Sn-Ag-Cu系はんだには、はんだ付けに一般的に使用され得る組成を有するSn-Ag-Cu系材料を用いることができる。例えば、0超4質量%以下のAg、0超1.0質量%以下のCuおよび残部のSnを含んで成るはんだ材料を用いることができる。このようなSn-Ag-Cu系材料は約215~約230℃の融点を有し得る。
【0031】
ここで、価格の低減及び衝撃特性の向上の観点から、Agの含有量は0超3質量%以下とすることが好ましく、0超2質量%以下とすることがより好ましく、0超1重量%以下とすることが最も好ましい。本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、NiO被覆セラミックス粒子の分散によってAgの含有量低下に伴う強度及び熱疲労特性の低下を抑制することができる。
【0032】
また、Sn-Ag-Cu系はんだには、NiO被覆セラミックス粒子に加えてフラックスなどの他の成分を更に含んでいてもよい。
【0033】
(2)NiO被覆セラミックス粒子
(2-1)セラミックス粒子
NiO被覆セラミックス粒子はセラミックス粒子の表面にNiO被膜が形成したものである。セラミックス粒子とNiO被膜の間に中間層を含んでいてもよいが、セラミックス粒子とNiO被膜が直接強固に接合されていることが好ましい。
【0034】
セラミックス粒子の材質は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のセラミックスを用いることができる。当該セラミックスとしては、例えば、ZnO、ZrO2、SiC、Si3N4、AlN、Al2O3、SiO2等を挙げることができるが、ZnO又はZrO2とすることが好ましい。
【0035】
Sn-Ag-Cu系はんだの密度及び熱伝導率がそれぞれ7.3g/cm3及び25.0×10-6/Kであるところ、セラミックス粒子としてZnO粒子又はZrO2粒子とすることで、これらを近い値とすることができる。具体的には、ZnOの密度及び熱伝導率はそれぞれ5.6g/cm3及び6.5×10-6/Kであり、ZrO2の密度及び熱伝導率はそれぞれ5.9g/cm3及び9.6×10-6/Kである。
【0036】
また、セラミックス粒子の形状及び大きさは本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、金属材を強化する目的で使用されている従来公知の種々のセラミックス粒子の形状及び大きさとすることができるが、ナノ粒子又はテトラポット型のマイクロ粒子であることが好ましく、ナノ粒子及びテトラポット型のマイクロ粒子を複合添加することがより好ましい。ここで、テトラポット型とは、粒子の中心から4本の脚が放射状に伸びた形状を意味する。
【0037】
ナノ粒子を均一分散させることで、Sn-Ag-Cu系はんだの機械的性質をムラなく向上させることができる。また、テトラポット型のマイクロ粒子を用いることで、当該セラミックス粒子の形状及びサイズに起因して、略球状のセラミックス粒子を用いた場合やナノ粒子を用いた場合と比較して、少量の添加ではんだ層全体の機械的性質を効率的に向上させることができる。
【0038】
NiO被覆セラミックス粒子を添加することによるSn-Ag-Cu系はんだの強度、延性及び高温信頼性の改善効果は1種類のセラミックス粒子を単独添加しても得ることができるが、ナノ粒子とテトラポット型のマイクロ粒子を複合添加することで、各セラミックス粒子を単独添加する場合と比較して、極めて顕著に当該効果を発現させることができる。
【0039】
セラミックス粒子の好適な複合添加の組み合わせとしては、平均粒径が1~50μmのテトラポット型のZnOマイクロ粒子と平均粒径が10~500nmのZrO2ナノ粒子の複合添加、及び平均粒径が1~50μmのテトラポット型のZrO2マイクロ粒子と平均粒径が10~500nmのZnOナノ粒子の複合添加、を挙げることができる。セラミックス粒子の平均粒径は、レーザー方式のパーティクルカウンターにより測定することができる。また、電子顕微鏡写真から実測することもでき、更には、当該電子顕微鏡写真から、画像処理装置を用いて算出することもできる。
【0040】
セラミックス粒子の添加量は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、Sn-Ag-Cu系はんだの組成及び所望の機械的性質に応じて適宜調整すればよいが、0.2~0.4質量%とすることが好ましい。セラミックス粒子の添加量を0.2質量%以上とすることで、Sn-Ag-Cu系はんだの強度、延性及び高温信頼性を確実に向上させることができ、0.4質量%以下とすることで、凝集等によってセラミックス粒子が不均一に分散することを防止でき、Sn-Ag-Cu系はんだの強度及び延性が低下することを抑制できる。ここで、異なるセラミックス粒子を複合添加する場合、これらの値は合計の添加量である。
【0041】
(2-2)NiO被膜
NiO被膜はセラミックス粒子の表面の全体に形成されていることが好ましいが、少なくとも表面の50%以上が被覆されていれば、Sn-Ag-Cu系はんだへの良好な分散性と密着性を得ることができる。
【0042】
セラミックス粒子の表面にNiO被膜が形成されていることはSEM-EDS観察、TEM-EDS観察及びSTEM-EDS観察等を用いて確認することができる。結晶構造の確認はTEM観察を用いればよく、簡易的にはNiO被覆セラミックス粒子に対してXRD測定(粉末法)を行えばよい。
【0043】
また、NiO被膜は均一な厚さを有する膜としてセラミックス粒子の表面に形成されていてもよく、微細な粒状のNiOが集合してセラミックス粒子の表面を被覆していてもよい。
【0044】
NiO被膜とセラミックス粒子の表面の間には中間層が存在してもよいが、NiO被膜とセラミックス粒子の表面が直接強固に接合されていることが好ましい。
【0045】
(3)その他
本発明の高強度高延性高信頼性はんだの一態様としては、例えば、母材となるSn-Ag-Cu系はんだ、NiO被覆セラミックス粒子、及びフラックス(またはフラックスの構成成分)の混合体とすることができる。このような高強度高延性高信頼性はんだは、いわゆるはんだペースト(またはクリームはんだ)として用いることができる。
【0046】
また、高強度高延性高信頼性はんだは、任意の形態、例えばボールはんだ、糸はんだなどの形態で用いることができ、電子部品の実装プロセスにおいて接合材料として好適に用いることができる。
【0047】
また、高強度高延性高信頼性はんだをクリームはんだとして用いて、リフローはんだ付けプロセスによって電子回路基板を作製することができる。あるいは、高強度高延性高信頼性はんだをフローはんだ(またははんだ噴流)として用いて、フローはんだ付けプロセスによって電子回路基板を作製することもできる。リフローまたはフローはんだ付けプロセスには当該技術分野において既知のプロセスを適用すればよい。
【0048】
2.高強度高延性高信頼性はんだの製造方法
図1に本発明の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法の工程図を示す。本発明の高強度高延性高信頼性はんだの製造方法は、セラミックス粒子の表面に酢酸ニッケル・4水和物を被覆して酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子を得る第一工程(S01)と、酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子を加熱し、酢酸ニッケル・4水和物を熱分解させてNiO被覆セラミックス粒子を得る第二工程(S02)と、溶融させたSn-Ag-Cu系はんだにNiO被覆セラミックス粒子を分散させる第三工程(S03)と、を有している。また、第一工程(S01)の予備処理として、セラミックス粒子の表面に格子ひずみを導入して表面高エネルギー化セラミックス粒子を得る格子ひずみ導入工程(S00)を施すことが好ましい。以下、各工程について詳述する。
【0049】
(1)格子ひずみ導入工程(S00)
格子ひずみ導入工程(S00)は、セラミックス粒子の表面に格子ひずみを導入して表面高エネルギー化セラミックス粒子を得るための工程である。
【0050】
格子ひずみの導入によりセラミックス粒子の表面を高エネルギー化しておくことで、第二工程(S02)によって形成されるNiO被膜とセラミックス粒子の接合強度を増加させることができることに加え、セラミックス粒子の全面にNiO被膜を形成させることができる。一方で、格子ひずみ導入工程によってセラミックス粒子が破損等する場合には、当該工程は省略してもよい。
【0051】
セラミックス粒子表面への格子ひずみの導入方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができるが、ボールミルを用いることが好ましい。ボールミルを用いることで、大量のセラミックス粒子の表面に比較的均一に格子ひずみを導入することができる。本発明の効果を損なわない限りにおいて使用するボールミル装置及び条件は特に限定されず、セラミックス粒子表面に導入される格子ひずみを確認しつつ、適宜最適化すればよい。例えば、ボールミルには遊星ボールミルを使用することができ、適当なメディアを用いて数百rpmの回転速度で1~20時間程度の処理を施せばよい。
【0052】
(2)第一工程(S01:酢酸ニッケル・4水和物被覆工程)
第一工程(S01)は、表面ひずみ導入工程(S00)で得られた表面高エネルギー化セラミックス粒子の表面に酢酸ニッケル・4水和物を被覆するための工程である。
【0053】
表面高エネルギー化セラミックス粒子への酢酸ニッケル・4水和物の被覆方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば、表面高エネルギー化セラミックス粒子と酢酸ニッケル・4水和物粒子をエタノール中で超音波を印加した状態で攪拌混合し、得られたエタノール溶液を70℃程度に加熱して、全てのエタノールを蒸発させることで達成することができる。
【0054】
エタノールの蒸発過程において、溶解した酢酸ニッケル・4水和物が高エネルギー化セラミックス粒子の表面で結晶化することで酢酸ニッケル・4水和物が形成する。ここで、セラミックス粒子の表面に格子ひずみが導入されていることで、当該セラミックス粒子の表面が良好な核生成サイトとなり、良好な酢酸ニッケル・4水和物被膜を得ることができる。
【0055】
(3)第二工程(S02:熱分解工程)
第二工程(S02)は、表面高エネルギー化セラミックス粒子の表面に形成させた酢酸ニッケル・4水和物被膜を熱分解し、NiO被覆セラミックス粒子を得るための工程である。
【0056】
NiO被覆は、熱分解による酢酸ニッケル・4水和物被膜/表面高エネルギー化セラミックス粒子系の自己集積化現象によって形成される。具体的には、酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子を窒素雰囲気の炉中で約500℃に加熱保持した後、炉令すればよい。約500℃での保持時間は処理を施す酢酸ニッケル・4水和物被覆セラミックス粒子の量やNiO被覆の形成状況等から適宜調整すればよいが、例えば、1~10分程度とすることができる。
【0057】
(4)第三工程(S03:NiO被覆セラミックス粒子分散工程)
第三工程(S03)は、溶融させたSn-Ag-Cu系はんだにNiO被覆セラミックス粒子を分散させて、本発明の高強度高延性高信頼性はんだを得るための工程である。
【0058】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、溶融させたSn-Ag-Cu系はんだへのNiO被覆セラミックス粒子の分散方法は特に限定されないが、NiO被覆セラミックス粒子を添加した溶融Sn-Ag-Cu系はんだに超音波を印加した状態で攪拌することが好ましい。超音波を印加した状態で攪拌することで、NiO被覆セラミックス粒子の凝集が抑制され、極めて効果的にNiO被覆セラミックス粒子を均一分散させることができる。
【0059】
また、セラミックス粒子をZnO粒子及び/又はZrO2粒子とすることで、Sn-Ag-Cu系はんだへのセラミックス粒子の均一分散を簡便かつ効率的に達成することができる。ZnO粒子及びZrO2粒子はSn-Ag-Cu系はんだと同程度の比重を有していることから、分散工程における沈殿や凝集等を抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。また、以下、実施例において本発明の高強度高延性高信頼性はんだ及びその製造方法について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0061】
(1)セラミックス粒子へのNiO被覆
市販のZrO
2粒子(HW NANO,中国製)に対してNiO被覆を施した。ZrO
2粒子は粒径が60~120nmの略球状のナノ粒子である。ZrO
2粒子のTEM写真を
図2に示す。
【0062】
遊星ボールミル(Tencan XQM-0.4L,中国製)を用い、ZrO2粒子に対して400rpmで1~20時間の格子ひずみ導入処理を施した(表面ひずみ導入工程)。なお、遊星ボールミルには50gのZrO2粒子と50gのZrO2製メディアを挿入した。ZrO2製メディアのサイズは直径1~5mmである。
【0063】
ボールミル処理前のZrO
2粒子及び各処理時間で得られたZrO
2粒子に対してXRD測定を行い、ZrO
2の(-111)及び(111)に対応するピークの半価幅の変化によって格子ひずみの導入量を評価した。なお、(-111)及び(111)に対応するピークの2θはそれぞれ28.2°及び31.5°である。得られた半価幅の変化を
図3に示す。ボールミルを用いた処理を施すことで半価幅が増加しており、格子ひずみが導入されたことが確認できる。また、半価幅は処理時間の増加に伴って大きくなっており、当該処理時間によってセラミックス粒子表面の格子ひずみ量を制御できることが分かる。
【0064】
次に、表面高エネルギー化ZrO2粒子と酢酸ニッケル・4水和物粒子(和光純薬工業社製)をNi/Zr=10%となるモル比で、超音波を印加したエタノール中に添加した。表面高エネルギー化ZrO2粒子と酢酸ニッケル・4水和物粒子を含むエタノールを70℃に昇温し、エタノールが完全に蒸発するまで保持し、表面高エネルギー化ZrO2粒子の表面に酢酸ニッケル・4水和物を形成させた(第一工程)。
【0065】
次に、酢酸ニッケル・4水和物被覆表面高エネルギー化ZrO2粒子を窒素雰囲気とした炉中に挿入し、500℃で5分間保持した後に炉令して、酢酸ニッケル・4水和物被覆を熱分解させ、NiO被膜を形成させた(第二工程)。炉の昇温速度は20℃/分とした。
【0066】
代表例として、10時間のボールミル処理を施した場合のNiO被覆ZrO
2粒子のXRDパターンを
図4に示す。ZrO
2に起因する回折ピークに加えて、NiOに起因する回折ピークを確認することができる。
【0067】
10時間のボールミル処理を施した場合のNiO被覆ZrO
2粒子のTEM観察像を
図5、当該NiO被覆ZrO
2粒子表面のHRTEM観察像を
図6にそれぞれ示す。また、当該NiO被覆ZrO
2粒子のSTEM-EDSマッピングを
図7に示す。これらの結果から、ZrO
2粒子の表面全体が微小粒状のNiOによって被覆されていることが確認できる。
【0068】
市販のテトラポット型のZnOマイクロ粒子(粒径:5~20μm)に対しても、表面ひずみ導入工程を施さなかったこと以外はZrO
2ナノ粒子と同様にして、NiO被覆を施した。当該ZnOマイクロ粒子のSEM写真を
図8に示す。また、NiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子の表面写真を
図9に示す。
図9において、ZnOマイクロ粒子の表面が白色微小粒状のNiOによって被覆されていることが確認できる。また、表面ひずみ導入工程を施していないことから、テトラポット形状が維持されている。
【0069】
(2)Sn-Ag-Cu系はんだへのNiO被覆セラミックス粒子の分散
Sn-1.0質量%Ag-0.5質量%Cuはんだを380℃に加熱して溶融させ、NiO被覆セラミックス粒子を添加した。次に、出力80Wの超音波を印加した状態で攪拌後、冷却して本発明の高強度高延性高信頼性はんだを得た(第三工程)。添加したNiO被覆セラミックス粒子の種類及び量は表1に示すとおりであり、NiO被覆ZrO2粒子の単独添加、NiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子の単独添加、及びこれら両粒子の複合添加とした。なお、NiO被覆を施さない場合は、何れの場合もZrO2粒子及び/又はZnO粒子をはんだ中に均一分散させることができなかった。
【0070】
【0071】
NiO被覆ZrO
2粒子の単独添加で得られた各高強度高延性高信頼性はんだの微細組織(SEM写真)を
図10に示す。比較としてNiO被覆ZrO
2粒子を添加しない場合についても示している。
図10において、0.3質量%のNiO被覆ZrO
2粒子を添加させても顕著な欠陥等は認められず、良好な分散状態が得られていることが分かる。
【0072】
NiO被覆ZrO
2粒子を単独添加した場合の添加量とはんだの引張特性の関係を
図11に示す。また、NiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子を単独添加した場合の添加量とはんだの引張特性の関係を
図12に示す。更に、NiO被覆ZrO
2粒子とNiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子を複合添加した場合のZnOマイクロ粒子の添加量とはんだの引張特性の関係を
図13に示す。複合添加の場合は、合計の添加量を0.3質量%で統一している。
【0073】
NiO被覆ZrO2粒子を単独添加した場合及びNiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子を単独添加した場合において、これらの添加によるはんだの引張特性の向上が認められ、強度及び延性を共に改善できることが分かる。ここで、NiO被覆ZrO2粒子を単独添加する場合は0.3質量%で強度と延性が共に最大値となり、NiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子を単独添加する場合、強度は0.3質量%、延性は0.1質量%で最大値を示している。
【0074】
一方で、NiO被覆ZrO2粒子とNiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子を複合添加することで、単独添加の場合よりも良好なはんだの引張特性を得ることができる。0.18質量%のNiO被覆ZrO2粒子と0.12質量%のNiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子を複合添加した場合、強度及び延性が単独添加の何れの場合よりも高い値を示している。
【0075】
(3)高強度高延性高信頼性はんだを用いた接合
得られた各高強度高延性高信頼性はんだに対して圧延及びパンチングを施し、直径4mm、厚さ100μmのはんだ材とした。次に、直径10mmのディスク状の銅材と直径3mmのディスク状の銅材の間に当該はんだ材を配置し、接合温度260℃、接合時間50秒の条件で銅材同士を接合した。
【0076】
NiO被覆セラミックス粒子を添加していないはんだ材(比較はんだ材)と0.18質量%のNiO被覆ZrO
2粒子と0.12質量%のNiO被覆テトラポット型ZnOマイクロ粒子を複合添加したはんだ材を用いた場合(本発明の高強度高延性高信頼性はんだ材)における、接合界面断面及びはんだ層断面のSEM写真を
図14に示す。比較はんだ材では接合界面に厚い金属間化合物層が形成し、はんだの組織が粗大化している。これに対し、本発明の高強度高延性高信頼性はんだにおいては、金属間化合物層の形成及びはんだ組織の粗大化が抑制されていることが分かる。
【0077】
更に、接合体の接合強度を評価するために、継手強度試験機(株式会社レスカ製,STR-1001)を用いてせん断試験を行った。接合体をステージに設置し、せん断速度1.0mm/分、せん断高さ200μmで接合体の上部にせん断荷重を印加し、破断時の最大荷重を接合部の面積で除したものを接合強度とした。各処理条件に対して4つの接合体の接合強度を測定し、その平均を当該処理条件における接合強度とした。
【0078】
図14に示す比較はんだ材と本発明の高強度高延性高信頼性はんだ材を用いて得られた接合体の金属間化合物層の厚さ及びせん断強度を
図15及び
図16にそれぞれ示す。本発明の高強度高延性高信頼性はんだ材を用いた場合は金属間化合物層の厚さが比較はんだ材を用いた場合の半分程度に抑制されており、せん断強度は15%増加している。
【0079】
図14に示す比較はんだ材と本発明の高強度高延性高信頼性はんだ材を用いて得られた接合体を150℃で保持し、高温安定性を評価した。保持時間は128~1008時間とした。比較はんだ材を用いた場合及び本発明の高強度高延性高信頼性はんだ材を用いた場合の金属間化合物層及びはんだ層の変化(接合界面断面及びはんだ層断面のSEM写真)を
図17及び
図18にそれぞれ示す。
【0080】
比較はんだ材を用いた場合、保持時間の増加に伴って金属間化合物層の厚さが増加していることに加え、金属間化合物層にマイクロクラックが発生している。これに対し、本発明の高強度高延性高信頼性はんだ材を用いた場合、金属間化合物層の成長が抑制されていることに加え、はんだ層の微細組織に大きな変化は認められない。
【0081】
150℃で各時間保持した後の接合体のせん断強度を
図19に示す。
図19には、比較としてAg量を増加させたSn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cuはんだの値も示している。本発明の高強度高延性高信頼性はんだ材を用いた接合体は優れた高温安定性を有しており、高温保持による強度低下は殆ど認められない。特に、1008時間保持後のせん断強度はSn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cuはんだを用いた場合よりも高い値となっている。