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  • 特開-イオン交換装置の運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034710
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】イオン交換装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20230101AFI20230306BHJP
【FI】
C02F1/42 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141057
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】奥村 正剛
(72)【発明者】
【氏名】上田 寛子
(72)【発明者】
【氏名】宮地 みどり
【テーマコード(参考)】
4D025
【Fターム(参考)】
4D025AA04
4D025AB18
4D025BA08
4D025BA13
4D025BB02
4D025BB03
4D025BB09
4D025CA02
4D025CA04
4D025CA05
4D025CA10
4D025DA01
4D025DA03
(57)【要約】
【課題】イオン交換装置の採水可能量を正確に管理することが可能な、イオン交換装置の運転方法を提供する。
【解決手段】イオン交換装置の運転方法において、通水・再生サイクル中に、通水工程における原水の流量と原水中の目的成分のイオン濃度との積である原水負荷を計測し、原水負荷に基づいてイオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、シミュレーションにおいては、イオン交換樹脂の性能変化傾向情報を予め取得しておき、性能変化傾向情報を考慮してシミュレーション条件を補正しつつシミュレーションを行い、算出された予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、通水工程中における原水の採水量が採水量制御値に到達した時点で、通水工程から再生工程に切り替える、イオン交換装置の運転方法を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂が充填された樹脂塔に対して、原水を通水してイオン交換処理する通水工程と、前記イオン交換樹脂を再生する再生工程とを順次行う通水・再生サイクルを繰り返す、イオン交換装置の運転方法において、
前記通水・再生サイクル中に、前記通水工程における前記原水の流量と前記原水中の目的成分のイオン濃度との積である原水負荷を計測し、前記原水負荷に基づいて前記イオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、
前記シミュレーションにおいては、前記イオン交換樹脂の性能変化傾向情報を予め取得しておき、前記性能変化傾向情報を考慮してシミュレーション条件を補正しつつシミュレーションを行い、
算出された前記予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、
前記通水工程中における前記原水の採水量が前記採水量制御値に到達した時点で、前記通水工程から前記再生工程に切り替える、イオン交換装置の運転方法。
【請求項2】
前記原水中の目的成分のイオン濃度は、目的成分のイオン濃度を直接計測するか、または目的成分のイオン濃度と相関する計測項目を計測し、その計測値に基づいて目的成分のイオン濃度を求める、請求項1に記載のイオン交換装置の運転方法。
【請求項3】
前記計測値に基づいて前記イオン交換樹脂の許容負荷量を求め、求めた許容負荷量と前記原水負荷とに基づいて前記イオン交換樹脂の予測採水可能量を算出する、請求項2に記載のイオン交換装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶や半導体等の電子産業分野では、電子部品の洗浄に用いる純水製造装置が大規模化している。そのような純水製造装置には、イオン交換樹脂等のイオン交換体を備えたイオン交換装置が複数台設けられている。再生型のイオン交換装置の場合は、一定の再生頻度でイオン交換樹脂の再生スケジュールが組まれる。また、非再生型のイオン交換装置の場合は、一定の交換頻度でイオン交換樹脂の交換スケジュールが組まれる。
【0003】
純水製造装置に備えられた再生型のイオン交換装置において、通水工程と再生工程を交互に繰り返す運転では、通水開始から樹脂再生に移行するまでの間に採水できる量(採水可能量(m/サイクル))を予め制御値として設定すると共に、製造される純水の水質の許容上限値(mS/m等)を予め制御値として設定しておき、設定した採水可能量(m/サイクル)、または処理水である純水の導電率等の水質の許容上限に達したタイミングで、通水工程から再生工程に移行するように再生運転を行っている。
【0004】
設定する採水可能量は、被処理水のイオン濃度の変動幅の最大のときを想定した条件で、装置設計時に設定される。そして設定された採水可能量は、当該装置において通水工程と再生工程とを交互に行う際に、通水工程から再生工程に切り替える際の目安とされる。なお、採水可能量は、イオン交換樹脂の経年劣化を見越して、3~5年間使用された後のイオン交換樹脂の状態を考慮して、余裕を持った値に設定されている。そして、経年劣化したイオン交換樹脂は、定期的に、または十分な純水採水量が確保できなくなった時点で、イオン交換樹脂の交換が行われ、新品の樹脂等に入れ替えることで、純水採水量を確保している。
【0005】
ここで、イオン交換樹脂の再生のタイミングに関しては、下記特許文献1に記載の技術が知られている。また、イオン交換樹脂の経年劣化により採水可能量が減ることを予測計算し、次回の予測採水可能量が実際の採水量より少なくなった時点で再生に切り替えることが特許文献2、3に記載されている。また、特許文献4には、イオン交換容量や総括物質異動容量係数に基づいてイオン交換樹脂の性能を評価して、イオン負荷と通水量から採水可能量を予測計算することが記載されている。更に、特許文献5、6には、イオン交換樹脂への阻害物質の影響予測について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-67976号公報
【特許文献2】特開平5-277382号公報
【特許文献3】特開平6-55082号公報
【特許文献4】特開2012-205996号公報
【特許文献5】特開2015-226866号公報
【特許文献6】特開2017-227577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、純水製造装置では、予め設定された採水可能量に基づき、純水を製造する通水工程とイオン交換樹脂を再生する再生工程とを交互に行う。ここで、純水製造装置の原水には、工業用水が多く使われる。工業用水は、イオン濃度の変動が大きい河川水を水源とする。このため、純水装置の原水は水質変動が大きい。従って、純水製造装置では、薬品ロスと水質悪化のリスクがある。即ち、設計当初に計画されたイオン濃度より低濃度の原水を処理した場合、イオン交換樹脂の交換容量が残存した状態で再生工程が行なわれる。この場合、純水製造装置は余力がある状態で再生を行うため、再生薬品の無駄(薬品ロス)が生じる。一方、設計当初に計画されたイオン濃度より高濃度の原水を処理した場合、通水工程中にイオン交換樹脂の交換容量を使い切って破過が起こり、純水の水質悪化が起こり得る。
【0008】
一方、イオン交換樹脂においては、継続使用により徐々に樹脂の性能が低下する。一般に、純水製造装置の設計時に再生可能量を設定する場合は、純水装置に備えられたイオン交換樹脂の状態によるイオン交換能力の違いを考慮していないため、安全面を考慮して早めの樹脂交換を行うように設計されている。このため、樹脂再生のための再生薬品ロスや、樹脂交換費用のロスが生じ得る。即ち、イオン交換樹脂が新品に近い状態にある場合、設定された純水採水量では、樹脂に余力がある状態で再生が行われるため、再生薬品の無駄が生じる。一方、イオン交換樹脂の性能低下は、カチオン交換樹脂やアニオン交換樹脂によりその程度が異なる。また、イオン交換樹脂の性能低下は、原水である工業用水の水質によってもその程度が異なる。そのため、定期的に樹脂交換を実施する場合には、安全面を考慮して早めに樹脂交換を行う必要があり、必要以上に樹脂交換することによる費用の無駄が生じる。特に、各種のコンビナートに備えられる純水製造装置は、1年間単位の長期間にわたり連続運転されるところ、1年後の正確な状態予測が難しいため、相当に余裕をもった樹脂交換を実施しており、樹脂交換費用のロスが顕著になる。
【0009】
以上のことから、イオン交換樹脂の性能劣化を考慮しつつ、イオン交換樹脂の能力を最大限活用し、イオン交換装置の採水可能量を正確に管理して、イオン交換樹脂の再生を行うことが求められる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、イオン交換装置の採水可能量を正確に管理することが可能な、イオン交換装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] イオン交換樹脂が充填された樹脂塔に対して、原水を通水してイオン交換処理する通水工程と、前記イオン交換樹脂を再生する再生工程とを順次行う通水・再生サイクルを繰り返す、イオン交換装置の運転方法において、
前記通水・再生サイクル中に、前記通水工程における前記原水の流量と前記原水中の目的成分のイオン濃度との積である原水負荷を計測し、前記原水負荷に基づいて前記イオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、
前記シミュレーションにおいては、前記イオン交換樹脂の性能変化傾向情報を予め取得しておき、前記性能変化傾向情報を考慮してシミュレーション条件を補正しつつシミュレーションを行い、
算出された前記予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、
前記通水工程中における前記原水の採水量が前記採水量制御値に到達した時点で、前記通水工程から前記再生工程に切り替える、イオン交換装置の運転方法。
[2] 前記原水中の目的成分のイオン濃度は、目的成分のイオン濃度を直接計測するか、または目的成分のイオン濃度と相関する計測項目を計測し、その計測値に基づいて目的成分のイオン濃度を求める、[1]に記載のイオン交換装置の運転方法。
[3] 前記計測値に基づいて前記イオン交換樹脂の許容負荷量を求め、求めた許容負荷量と前記原水負荷とに基づいて前記イオン交換樹脂の予測採水可能量を算出する、[2]に記載のイオン交換装置の運転方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イオン交換装置の採水可能量を正確に管理することが可能な、イオン交換装置の運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態であるイオン交換装置の運転方法を適用可能なイオン交換装置の一例を示す模式図。
図2】実施例において用いたイオン交換装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態であるイオン交換装置の運転方法について図面を参照して説明する。
【0015】
[イオン交換装置]
本実施形態の運転方法を適用可能なイオン交換装置について図面を参照して説明する。
図1に示すイオン交換装置1は、原水が流れる順に、原水が貯留される原水槽2と、活性炭が充填された活性炭塔3と、カチオン交換樹脂が充填された第1カチオン交換塔4と、脱炭酸塔5と、アニオン交換樹脂が充填された第1アニオン交換塔6と、カチオン交換樹脂が充填された第2カチオン交換塔7と、アニオン交換樹脂が充填された第2アニオン交換塔8と、純水が貯留される純水槽9と、制御部10と、が備えられている。これらの設備は、流路L1~L7によって接続されている。
【0016】
原水槽2と活性炭塔3とを接続する流路L1には、原水を加圧するポンプP1と、原水中のイオン濃度を測定するイオン濃度計M1とが備えられている。イオン濃度計M1によって計測された原水のイオン濃度のデータは、制御部10に送られる。
また、脱炭酸塔5と第1アニオン交換塔6とを接続する流路L4には、第1アニオン交換塔6から流出された被処理水を加圧するポンプP2が設けられている。
更に、第2アニオン交換塔8と純水槽9とを接続する流路L7には、流量計F1が備えられている。流量計F1によって計測された純水の流量のデータは、制御部10に送られる。純水の流量は原水の流量にほぼ一致するため、本実施形態の運転方法では、流量計F1によって計測された純水の流量を、原水の流量として扱う。
【0017】
制御部10は、原水のイオン濃度及び原水の流量に基づき、イオン交換装置1における予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、算出された予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、通水工程中における原水の採水量が採水量制御値に到達した時点で、通水工程から再生工程に切り替えさせる。制御部10の動作は、運転方法の説明において詳細に述べる。
【0018】
図1に示すイオン交換装置1においては、通水工程と再生工程とが交互に繰り返し行われる。通水工程では、原水を、活性炭塔3、第1カチオン交換塔4、脱炭酸塔5、第1アニオン交換塔6、第2カチオン交換塔7及び第2アニオン交換塔8に順次通過させることで、純水を製造する。再生工程では、第1アニオン交換塔6及び第2アニオン交換塔8にアルカリ性再生液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)を供給し、第1カチオン交換塔4及び第2カチオン交換塔7に酸性再生液(例えば塩酸水溶液)を供給して、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂を再生する。
【0019】
[イオン交換装置1の運転方法]
図1に示すイオン交換装置1においては、通水工程の開始時から再生工程の開始前の間に採水できると予測される量(m/サイクル)である予測採水可能量を求め、予測採水可能量に基づいて採水量制御値を設定し、通水工程中における原水の採水量が採水量制御値に到達した時点で、通水工程から再生工程に切り替える。
【0020】
すなわち、本実施形態のイオン交換装置1の運転方法は、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂(イオン交換樹脂)が充填された第1カチオン交換塔4、第1アニオン交換塔6、第2カチオン交換塔7及び第2アニオン交換塔8(樹脂塔)に対して、原水を通水してイオン交換処理する通水工程と、イオン交換樹脂を再生する再生工程とを順次行う通水・再生サイクルを繰り返す、イオン交換装置1の運転方法において、通水・再生サイクル中に、通水工程における原水の流量と原水中の目的成分のイオン濃度との積である原水負荷を計測し、原水負荷に基づいてイオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、算出された予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、通水工程中における原水の採水量が採水量制御値に到達した時点で、通水工程から再生工程に切り替える。
【0021】
イオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出する際のシミュレーションにおいては、イオン交換樹脂の性能変化傾向情報を予め取得しておき、性能変化傾向情報を考慮してシミュレーション条件を補正しつつシミュレーションを行う。
【0022】
図1に示すイオン交換装置1においては、制御部10において運転方法を実施するための制御を行う。以下、制御部10における動作を説明する。なお、図1に示すイオン交換装置1は、4床5塔(4B5T)形式の装置であるが、本実施形態の運転方法を適用可能なイオン交換装置1の形式はこれに限らず、例えば、2B3T形式、3B4T形式であっってもよい。
【0023】
[原水の負荷量の計測]
原水は、最初のイオン交換樹脂(カチオン交換樹脂)への供給水である。例えば原水として河川を水源とする工業用水を用いることができる。原水負荷を計測する場合の測定対象は、例えば、原水槽2とイオン交換樹脂塔とが接続されている場合や、原水槽2とイオン交換樹脂塔との間に活性炭塔3が介在する場合は、原水槽2内の水を測定対象とする。
【0024】
原水の流量、すなわち、イオン交換樹脂への供給水は、定流量に制御されており、その流量は流量計F1によって測定され、制御部10に送られている。よって、原水についての測定は、原水の目的成分(Naなど)のイオン濃度の測定のみとする。目的成分のイオン濃度の測定は、通水・再生サイクルの1サイクル中に、連続的または間欠的に原水の目的成分のイオン濃度を測定してもよいし、何サイクルかに1度の割合で目的成分のイオン濃度を測定し、その値を採用してもよい。測定された目的成分のイオン濃度と原水の流量との積を原水負荷とする。
【0025】
図1に示すイオン交換装置1の場合、原水槽2と活性炭塔3とを接続する流路L1に設けられたイオン濃度計M1により目的成分のイオン濃度を直接測定するか、イオン濃度計M1に替えて電気伝導率計M2を用い、電気伝導率計M2により電気伝導率を測定し、その結果を制御部10に送る。
なお、イオン濃度を求める方法として電気伝導率計M2を使用する場合と、イオン濃度計M1を使用する場合とがある。電気伝導率計M2を用いる場合は、まず、運転前に予め給水を複数回サンプリングして電気伝導率と目的成分(Naなど)のイオン濃度を測定し、電気伝導率と目的成分のイオン濃度との近似式を作成しておき、運転開始後は電気伝導率計M2により電気伝導率を測定して前記近似式による相関関係から目的成分のイオン濃度を求める。
一方、イオン濃度計M1を用いる場合は、目的成分(Naなど)に対応する電極を使用して測定することで目的成分のイオン濃度を直接測定する。
【0026】
また、後述するシミュレーションにおいて予測採水可能量を求める場合、通水・再生サイクルの1サイクル内の1時点の瞬間イオン濃度の測定値が1サイクルの全時間帯で一定だったとみなして当該サイクルの予測採水可能量を概算してもよいし、1サイクル内で単位時間ごとの原水イオン負荷の計測値に応じてイオン交換樹脂の許容イオン負荷が徐々に低下することを考慮して残りの予測採水可能量を算出すると共に直前の単位時間以前の単位予測採水可能量の積算値と加算することによって求めてもよい。
【0027】
[イオン交換樹脂の性能による採水可能量の変化のシミュレーション]
制御部10は、原水のイオン負荷量に基づき、イオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出する。
シミュレーションにおいては、イオン交換樹脂の性能変化傾向情報を予め取得しておき、性能変化傾向情報を考慮してシミュレーション条件を補正しつつ、原水負荷(原水のイオン負荷)が1サイクルの間、一定であるとみなしたときの1サイクル当たりの予測採水可能量を算出するというシミュレーションを行う。
具体的には、電気伝導率と許容負荷量の関係、または、目的成分のイオン濃度と許容負荷量の関係を予め近似関数で数式化しておき、電気伝導率またはイオン濃度の計測値から許容負荷量を求め、許容負荷量を原水負荷で除することにより予測採水可能量を算出する。
なお、電気伝導率計M2を用いてイオン濃度を求める場合は許容負荷量も電気伝導率計M2を用いて求め、イオン濃度計M1を用いてイオン濃度を求める場合は許容負荷量もイオン濃度計M1を用いて求めることで、計器を1種類に統一して減らすことができるが、これに限定されない。
【0028】
(a)イオン交換容量(イオン交換樹脂1L(リットル)あたりの吸着可能なイオン量)
(b)総括物質移動容量係数(大きいほどイオンの吸着速度が大きい)
【0029】
制御部10では、これらを組み込んだ数式に、原水のイオン負荷量(原水負荷)を導入することより、イオン交換処理において一定水質が維持できる総イオン当量である貫流交換容量(BTC)を算定し、算出した貫流交換容量(BTC)からイオン交換装置1の予測採水可能量を推定する。さらに、1サイクル前の通水・再生サイクルにおける樹脂再生後から現時点までの通水量を積算し、予測採水可能量からこの積算値を減算した残存採水可能量を演算する。
【0030】
シミュレーションにて利用する数式では、「ある時点でのイオン交換樹脂の性能(交換容量)」、「物質収支式」、「移動速度式」及び「吸着平衡式」に基づき、イオン交換塔でのイオン交換性能を計算する。更に、数式には「樹脂性能予測式」を組み込んでもよい。
【0031】
「物質収支式」は、原水のイオン負荷量を、処理水の成分リーク量、樹脂に吸着された成分量、樹脂間の空隙に滞留する成分量との関係で表す。「移動速度式」は、イオン交換塔におけるイオンの移動速度を、液相における移動速度とイオン交換樹脂内における移動速度で表す。「吸着平衡式」は、イオン交換樹脂中のイオン濃度に平衡な成分の液相中濃度を求めるためにイオン交換を、1価-1価の交換で表現する拡張ラングミュア式を用いてイオン交換樹脂中の濃度と液相中の濃度の平衡関係を求める。「樹脂性能予測式」は、後述するEEMスペクトルなどの樹脂性能低下の指標と、イオン交換樹脂への積算通水量から性能低下を予測する予測式である。予備試験にて、通水による樹脂性能低下要因物質の蓄積と上記(a)、(b)の樹脂性能低下傾向の関係を示す実測値を得て、近似関数で数式化して予測式とする。
【0032】
変化因子である「ある時点でのイオン交換樹脂の性能」を水中のEEMスペクトルなどの樹脂の性能低下に関わる指標、運転条件(採水量、再生材量)から性能変化(低下)を算出し、一定期間後の将来的なイオン交換塔の状態を予測する。なお、EEMスペクトルは、3次元蛍光分光分析装置によって測定されるものであり、原水中の有機物(特にフミン酸、フルボ酸のような腐植物質)の存在量を示す。3次元蛍光分光分析装置は、例えば、原水槽2に設置してもよい。
【0033】
イオン交換樹脂の性能変化傾向情報は、予備試験などで実験的に求め、固定値としてシミュレーションの補正パラメータとして使用してもよいし、実運転中も定期的に測定して変数としてシミュレーションの補正パラメータとして考慮することもできる。イオン交換樹脂の性能変化傾向情報としては、原水中の有機物によるアニオン交換樹脂の性能低下の傾向を示す情報や、原水中の重金属イオン(銅、鉄、バナジウムなど)や残留塩素イオンによるカチオン交換樹脂の劣化の傾向を示す情報が例示される。このうち有機物によるアニオン交換樹脂の性能低下については、例えば以下の(1)または(2)傾向が考慮される。
【0034】
(1)原水のイオン負荷
イオン交換樹脂が、通水/再生を繰り返してイオンの吸着/脱着を繰り返すうちに、イオン交換樹脂の許容イオン負荷が経時的に低下する。この経時的なイオン負荷の低下量を、予備試験で傾向を数値化し、シミュレーションのパラメータとして考慮する。
【0035】
(2)原水中の有機物の影響
原水に含まれる有機物(特にフミン酸、フルボ酸のような腐植物質)が、イオン交換樹脂の表面に吸着してイオン交換性能が低下する。このようなイオン交換性能の低下量を、予備試験または予備試験と実運転中の測定により、原水中の有機物濃度をシミュレーションの補正パラメータとして考慮する。
【0036】
特に、上記(2)について、イオン交換樹脂のうち、アニオン交換樹脂に有機物が吸着することによる汚染が発生すると、上記(a)イオン交換容量や、上記(b)総括物質移動容量係数が低下する。そこで、アニオン交換樹脂の汚染によって上記(a)や上記(b)の値が低下する割合を数式化する(樹脂性能予測式)。このとき予備分析などにより原水中の有機物量を見積もり、上記(a)や上記(b)の低下幅を推定した上で、これらを定数として演算することもできる。また、連続的または定期的に原水中の有機物量を分析して、上記(a)や上記(b)の低下幅を変数として演算することもできる。上記(a)や上記(b)に対して、新品のイオン交換樹脂のイオン交換容量または総括物質移動容量よりも低い値を設定してシミュレーションすれば、破過するまでの時間が短くなり、経時的に採水量が低下するシミュレーション結果が得られるようになる。
【0037】
原水中の有機物量の数値化については、例えばTOC濃度分析や、三次元蛍光スペクトル分析のEEMスペクトルの成分分離による腐植成分の分離として実施される。TOC濃度は、原水槽2に設置したTOC計により測定される。また、EEMスペクトルは、原水槽2に設置した3次元蛍光分光分析装置により測定される。予備試験で分析した原水の有機物濃度の計測値が実運転においても変動がないものとみなして、シミュレーションのパラメータに固定値として適用すると共に定期的に分析してパラメータを補正することで、有機物の樹脂吸着を考慮したシミュレーションを可能にする。
【0038】
また、定期的にイオン交換樹脂をサンプリングして手分析を行い、シミュレーションによる結果と乖離があればシミュレーション条件を補正するとよい。
【0039】
以上のようにして、性能変化傾向情報を予め取得したイオン交換樹脂の性能変化傾向情報を考慮してシミュレーション条件を補正しつつ、原水の負荷量に基づきシミュレーションを行い、イオン交換樹脂の予測採水可能量を算出する。
【0040】
[採水量制御値]
次に、制御部10は、イオン交換樹脂の予測採水可能量から、採水量制御値を設定する。採水量制御値は、予想採水可能量そのものを設定してもよいし、安全率を考慮して予想採水可能量よりも幾分低めに設定してもよい。例えば、予測採水可能量に安全率として0.9を乗じた値を、採水量制御値としてもよい。安全率は0.9に限定されるものではなく、実際の純水製造装置の稼働状況を踏まえて適切な値に設定すればよい。
【0041】
また、カチオン交換樹脂を充填した第1、第2カチオン交換塔4、7とアニオン交換樹脂を充填した第1、第2アニオン交換塔6、8の通水流量は、通常は同じであるから、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の予測採水可能量を別個に算出した場合は、どちらか小さい方を基準として、さらに必要に応じて安全率を考慮して採水量制御値を決定すればよい。
【0042】
そして、通水工程と再生工程を交互に繰り返し行うイオン交換装置1の運転において、通水工程中における原水の採水量が採水量制御値に到達した時点で、制御部10は、通水工程から再生工程に切り替えるようにする。これにより、適切なタイミングで通水工程から再生工程に切り替えることができるようになる。
【0043】
本実施形態の運転方法の一例を説明する。
図1のイオン濃度計M1を電気伝導率計M2とし、原水の電気伝導率を連続測定して、イオン濃度を算出する。イオン濃度の算出は、第1、第2カチオン交換塔4、7でのイオン交換成分(陽イオン;TC)と、第1、第2アニオン交換塔6、8でのイオン交換成分(炭酸に起因するイオンを除いた陰イオン;DTA)を個別で算出する。原水の電気伝導率からTC、DTAを算出するためにTCと電気伝導率の関係式、DTAと電気伝導率の関係式を予備試験の分析結果から実験的に事前に求め決定しておく。そして長期間で装置運転に伴う変動を把握するために定期的に検証し関係式を見直すことでより精度の高いイオン濃度の算出を可能とする。なお、電気伝導率からTC、DTAの算出は、制御部10にて行う。
【0044】
関係式によって求めたTC、DTAが1サイクルの通水開始(再開)から一定であると仮定して、原水流量(基本は一定流量)から、TCに対して第1、第2カチオン交換塔7、DTAに対して第1、第2アニオン交換塔8のどちらか先に飽和する採水量を予測採水可能量として算出する。次いで、予測採水可能量そのもの又は安全率を乗じた数値を採水量制御値として設定する。次いで、実際の1サイクル中の採水量が採水量制御値に到達した時に通水工程から再生工程に切り替えて、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の再生を行う。
【0045】
このとき、原水中の重金属イオンや残留塩素イオンによるカチオン交換樹脂の劣化を考慮する場合や、原水中の有機物によるアニオン交換樹脂の性能低下を考慮する場合は、貫流交換容量(BTC)の算定式における(a)イオン交換容量や、(b)総括物質移動容量係数の低下量の係数を乗じるなどにより、イオン交換樹脂の不慮の性能低下を考慮した予測採水可能量の算出を可能とする。
【0046】
以上説明したように、本実施形態のイオン交換装置1の運転方法によれば、イオン交換装置の採水可能量を正確に管理することが可能になり、樹脂再生のための再生薬品ロスや、樹脂交換費用のロスが生じることがなく、効率的に純水を製造できる。
【実施例0047】
図2に示す純水製造装置についてシミュレーションを行った。
図2に示す純水製造装置は、凝集槽12と、重力濾過槽13と、イオン交換装置14とから構成されていた。イオン交換装置14は、原水が流れる順に、原水が貯留される原水槽21と、活性炭が充填された活性炭塔22と、カチオン交換樹脂が充填されたカチオン交換塔23と、脱炭酸塔24と、アニオン交換樹脂が充填されたアニオン交換塔25と、純水が貯留される純水槽26と、制御部27と、が備えられていた。これらは、流路Lによって接続されていた。
【0048】
カチオン交換塔23は、塔径1800mm、樹脂高さ1367mmとした。アニオン交換塔25は、塔径2000mm、樹脂高さ1218mmとした。原水の流量は110m/hの一定とした。
【0049】
また、事前に原水槽21中の原水の有機物量を3次元蛍光分光分析装置により分析してEEMスペクトルを求め、これを制御部27に入力した。
【0050】
原水槽21と活性炭塔22とを接続する流路Lには、原水を加圧するポンプP1と、原水中のイオン濃度を測定するための電気伝導率計M2とが備えられていた。電気伝導率計M2によって計測された原水の電気伝導率は、制御部27に送られた。制御部27にて、電気伝導率からイオン濃度を算出した。
【0051】
脱炭酸塔24とアニオン交換塔25とを接続する流路Lには、アニオン交換塔25から流出された被処理水を加圧するポンプP2が設けられていた。
【0052】
アニオン交換塔25と純水槽26とを接続する流路には、流量計F1が備えられていた。流量計F1によって計測された純水の流量は、制御部27に送られた。
【0053】
制御部27は、原水のイオン濃度及び原水の流量に基づき、イオン交換装置14における予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、算出された予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、通水工程中における原水の採水量が採水量制御値に到達した時点で、通水工程から再生工程に切り替えさせた。
【0054】
表1に、図2に示したイオン交換装置14の運転状況を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、イオン交換樹脂の性能変化情報としてアニオン交換樹脂の性能低下の原因となる有機物量をEEMスペクトルの測定結果として考慮したシミュレーションを行ったことにより、より正確な予測採水可能量を算出することができた。
【符号の説明】
【0057】
1…イオン交換装置、4…第1カチオン交換塔(樹脂塔)、6…第1アニオン交換塔(樹脂塔)、7…第2カチオン交換塔(樹脂塔)、8…第2アニオン交換塔(樹脂塔)。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
イオン交換樹脂が充填された樹脂塔に対して、原水を通水してイオン交換処理する通水工程と、前記イオン交換樹脂を再生する再生工程とを順次行う通水・再生サイクルを繰り返す、純水製造装置に備えられた再生型のイオン交換装置の運転方法において、
前記通水・再生サイクル中に、前記通水工程における前記原水の流量と前記原水中の目的成分のイオン濃度との積である原水負荷を計測し、前記原水負荷に基づいて前記イオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、
前記シミュレーションにおいては、前記イオン交換樹脂のイオン交換容量及び総活物質移動係数に基づき算出した貫流交換容量に基づき予測採水容量を求めるとともに、前記イオン交換樹脂の性能変化傾向情報を予め取得しておき、前記性能変化傾向情報を考慮して前記予測採水容量を補正し、
前記性能変化傾向情報には、前記原水の有機物量、重金属イオン量または残留塩素イオン量のいずれかが含まれ、
算出された補正後の前記予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、
前記通水工程中における前記原水の採水量が前記採水量制御値に到達した時点で、前記通水工程から前記再生工程に切り替える、イオン交換装置の運転方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] イオン交換樹脂が充填された樹脂塔に対して、原水を通水してイオン交換処理する通水工程と、前記イオン交換樹脂を再生する再生工程とを順次行う通水・再生サイクルを繰り返す、純水製造装置に備えられた再生型のイオン交換装置の運転方法において、
前記通水・再生サイクル中に、前記通水工程における前記原水の流量と前記原水中の目的成分のイオン濃度との積である原水負荷を計測し、前記原水負荷に基づいて前記イオン交換樹脂の予測採水可能量をシミュレーションにより算出し、
前記シミュレーションにおいては、前記イオン交換樹脂のイオン交換容量及び総活物質移動係数に基づき算出した貫流交換容量に基づき予測採水容量を求めるとともに、前記イオン交換樹脂の性能変化傾向情報を予め取得しておき、前記性能変化傾向情報を考慮して前記予測採水容量を補正し、
前記性能変化傾向情報には、前記原水の有機物量、重金属イオン量または残留塩素イオン量のいずれかが含まれ、
算出された補正後の前記予測採水可能量に基づいて、採水量制御値を設定し、
前記通水工程中における前記原水の採水量が前記採水量制御値に到達した時点で、前記通水工程から前記再生工程に切り替える、イオン交換装置の運転方法。
[2] 前記原水中の目的成分のイオン濃度は、目的成分のイオン濃度を直接計測するか、または目的成分のイオン濃度と相関する計測項目を計測し、その計測値に基づいて目的成分のイオン濃度を求める、[1]に記載のイオン交換装置の運転方法。
[3] 前記計測値に基づいて前記イオン交換樹脂の許容負荷量を求め、求めた許容負荷量と前記原水負荷とに基づいて前記イオン交換樹脂の予測採水可能量を算出する、[2]に記載のイオン交換装置の運転方法。