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特開2023-3475生体適合性、生体吸収性を有する医療用材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003475
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】生体適合性、生体吸収性を有する医療用材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20230110BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230110BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/14 500
A61L31/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104574
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智一
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081AC09
4C081AC10
4C081BA16
4C081BB08
4C081CD021
4C081CD022
4C081CD031
4C081CD091
4C081CF21
4C081CF26
4C081DA02
4C081DA06
4C081DA16
4C081EA01
(57)【要約】
【課題】生体適合性、生体吸収性を有しかつ十分な湿潤強度を有する医療用材料、その製造方法、及び医療用材料を使用する医療用具を提供する。
【解決手段】多糖類の非水溶性高分子繊維と水溶性高分子を含有する、生体適合性、生体吸収性を有し、かつ湿潤強度を高めた医療用材料。多糖類の非水溶性高分子繊維と前記水溶性高分子と溶媒を含む分散液から前記溶媒を除去する医療用材料の製造方法。これら医療用材料を使用するステント、クリップ、外科用メッシュ、塞栓材等の医療用具。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類の非水溶性高分子繊維と水溶性高分子とを含有する、生体適合性及び生体吸収性を有し、かつ湿潤強度を高めた医療用材料。
【請求項2】
前記水溶性高分子の含有量が、前記多糖類の非水溶性高分子繊維100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下である請求項1に記載の医療用材料。
【請求項3】
前記多糖類が、セルロース、キチン、キトサン及びデンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の医療用材料。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及び、それらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項5】
さらに、強度を増大させるための添加剤を含有し、該添加剤が多価金属または多価金属含有化合物である請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項6】
前記多価金属または多価金属含有化合物の含有量が、前記多糖類の非水溶性高分子繊維100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下である請求項5に記載の医療用材料。
【請求項7】
厚み0.05mm以上1mm以下のシート状物である請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用材料を含む医療用具。
【請求項9】
ステント、クリップ、外科用メッシュまたは塞栓材である請求項8に記載の医療用具。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用材料の製造方法であって、前記多糖類の非水溶性高分子繊維と前記水溶性高分子と溶媒を含む分散液から前記溶媒を除去する医療用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性、生体吸収性を有し、かつ湿潤強度を高めた医療用材料、その製造方法、及び医療用材料から形成される医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテーテル、 ガイドワイヤー、 ステント、塞栓材などの医療用具は、医療の発達につれて重要性が増大し注目を浴びている。これらの医療用具の材料としては、使用環境が生体内であるので、生体安全性はいうまでもなく、生体適合性を有し、また、使用初期には患部である組織などを支える強度が必要とされ、そして、患部の治癒に伴って必要な強度を保持しながら適当な速度で溶解し、生体組織に吸収され同化して、消失する、所謂、生体吸収性が要求されている。
【0003】
これらの医療用具の材料としては、従来、ステンレス合金、マグネシウム合金などの金属材料、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂などの合成高分子材料が提案され、使用されている。しかし、金属材料は、生体吸収性の点で問題であるため、患部の治癒後に医療用具を取り出すことを余儀なくされる場合があり、また、合成高分子材料は、生体吸収性の点で問題があるとともに、生体適合性の点で問題であるため、その表面に生体適合性処理を余儀なくされる場合がある。
【0004】
一方、生体適合性及び生体吸収性に問題のない医療用材料として、生体由来の天然高分子材料も提案されている。例えば、特許文献1には、架橋されたゼラチン材料を基材とするステントなどの中空断面体であるインプラントが提案されている。しかし、この場合、ゼラチン材料は、元来、強度が低く、そのため架橋されてはいるものの、中空断面体の強度を補うために更なる強化用材料を必要とすることが開示されている。この結果、コスト高になるだけでなく、用途も限られるなどの問題を含んでいる。
【0005】
また、特許文献2には、天然の繊維あるいは高分子をいったん溶解して細いノズルから紡糸して繊維としたアルギネート繊維からなるマイクロシートを使用する自立膜絆創膏などが提案されている。しかし、アルギネート繊維は生体吸収性に乏しく、また、強度も十分でなくその用途は限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009-515614号公報
【特許文献2】特許第6334550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生体適合性、生体吸収性を有し、かつ十分な強度、特に、湿潤強度を有する天然高分子材料をベースとする医療用材料、その製造方法、及びかかる医療用材料から形成される医療用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を進めたところ、下記の態様を有する本発明に到達した。
(1)多糖類の非水溶性高分子繊維と水溶性高分子を含有する、生体適合性、生体吸収性を有し、かつ湿潤強度を高めた医療用材料。
(2)前記多糖類の非水溶性高分子繊維100質量部に対して、水溶性高分子0.01質量部以上10質量部以下を含む上記(1)に記載の医療用材料。
(3)前記多糖類が、セルロース、キチン、キトサン及びデンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)または(2)に記載の医療用材料。
(4)前記水溶性高分子が、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の医療用材料。
(5)さらに、強度を増大させるための添加剤を含有し、該添加剤が多価金属または多価金属含有化合物である上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の医療用材料。
(6)多価金属または多価金属含有化合物の含有量が、前記多糖類の非水溶性高分子繊維100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下を含む上記(5)に記載の医療用材料。
(7)厚み0.05mm以上1mm以下のシート状物である上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の医療用材料。
(8)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の医療用材料を使用する医療用具。
(9)ステント、クリップ、外科用メッシュ、または塞栓材である上記(8)に記載の医療用具。
(10)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の医療用材料の製造方法であって、前記多糖類の非水溶性高分子繊維と水溶性高分子と溶媒を含む分散液から溶媒を除去する医療用材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体適合性、生体吸収性を有し、かつ十分な強度、特に、湿潤強度を有する天然高分子材料をベースとする医療用材料、その製造方法、及びかかる医療用材料から形成されるシート状物や医療用具が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(非水溶性高分子繊維)
本発明における多糖類の非水溶性高分子繊維は、多糖類の水溶性高分子を紡糸等により非水溶化したものであり、生体適合性及び生体吸収性を有するとともに、医療用材料の特に湿潤強度の向上に寄与する。この非水溶性高分子繊維の生体吸収性は、本発明に係る医療用材料が、後記する実施例に示されるように、生体内に存在する酵素であるアミラーゼにより分解されることにより示される。また、湿潤強度は、本発明に係る医療用材料が高い湿潤強度を有することにより明らかにされる。
非水溶性高分子繊維としては、セルロース、キチン(ポリ-β1→4-N-アセチルグルコサミン)、キトサン、デンプンなどの多糖類から構成される繊維が挙げられる。非水溶性高分子繊維は、1種類を単独でも、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
セルロースとしては、コットンなどの天然繊維、リヨセル、テンセルなどの精製繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維が好ましい。キトサンとしては、キトサンナノファイバーが好ましい。デンプンとしては、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、かんしょデンプン、タピオカデンプンなどが挙げられる。なかでも、アミロースとアミノペクチンとの含有比率から繊維化しやすいためにトウモロコシデンプンが好ましい。
非水溶性高分子繊維としては、なかでも、医療用材料の強度、特に湿潤強度を確保する点から、セルロース繊維がより好ましい。セルロース繊維は、市販品でもよく、例えば、セリッシュKY-100G(ダイセル社商品名)、BiNFi-s(スギノマシン社商品名)などが挙げられる。
【0012】
非水溶性高分子繊維は、平均繊維径が、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.02μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下である。平均繊維径が上記下限値以上であると、繊維が凝集し難く、分散液中での繊維の分散性が良好になり、良好な網目状構造を形成しやすくなり好ましい。一方、平均繊維径が上記上限値以下であると、繊維が太過ぎず分散液中での分散性が悪化せず好ましい。
なお、本発明において、平均繊維径は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した、任意に選択した100個の繊維の短径の平均値として求めることができる。
【0013】
非水溶性高分子繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上であり、そして、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下である。平均繊維長が上記下限値以上であることで良好な網目状構造が形成され十分な強度、特に湿潤強度を有する薄膜とすることができる。一方、平均繊維長が上記上限値以下であることで、分散液中での繊維の分散性を確保し、良好な網目状構造の形成を容易にできる。
なお、本発明において、平均繊維長は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した、任意に選択した100個の繊維の長径の平均値として求めることができる。
【0014】
非水溶性高分子繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、好ましくは100以上、より好ましくは1000以上であり、そして、好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下である。アスペクト比が上記下限値以上であることで、良好な網目状構造の形成が容易となる。また、アスペクト比が上記上限値以下であることで、分散液中での機繊維の分散性を良好にすることができる。
【0015】
(水溶性高分子)
本発明における水溶性高分子は、非水溶性高分子繊維の結着剤として機能し、得られる医療用材料の強度の確保に寄与する。また、医療用材料に薬効成分が含まれる場合などは医療用材料中にこれらの成分を保持し脱離しないように寄与する。
水溶性高分子としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、これらのセルロースのカリウム、ナトリウム若しくはアンモニウムなどの塩などが挙げられる。水溶性高分子は、1種類でも、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明で使用される水溶性高分子は、市販品としても入手でき、例えば、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩:CMCダイセルアンモニウムDN-10L(ダイセル社商品名)カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩:CMCダイセル1220(ダイセル社商品名)、ヒドロキシエチルセルロース:HECダイセルSP600(ダイセル社商品名)が挙げられる。
【0017】
本発明で使用される水溶性高分子の含有量は、非水溶性高分子繊維100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.02質量部以上がより好ましく、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。水溶性高分子の含有量が0.01質量部以上であることで、非水溶性高分子繊維の分散性と医療用材料の湿潤強度を高められる。水溶性高分子の含有量が10質量部以下であることで、分散液の流動性と医療用材料の生体分解性を高められる。
【0018】
(分散液)
本発明の医療用材料は、上記非水溶性高分子繊維と上記水溶性高分子を含有する分散液から製造される。分散液の媒体としては、水、アルコール類などの水性媒体、なかでも、水が好ましい。
分散液に含有される非水溶性高分子繊維の量は、分散性と分散維持の点から、分散液中、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。また、分散液に含有される水溶性高分子の量は、分散性と流動性の点から、分散液中、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上5質量%以下である。
【0019】
上記分散液に含有される上記非水溶性高分子繊維と水溶性高分子との質量比率(非水溶性繊維:水溶性高分子)は99.99:0.01以上で50:50以下であることが好ましく、99.9:0.1以上で80:20以下であることがより好ましい。この比率により、分散液中での非水溶性高分子繊維の分散性が良好に確保され、得られる医療用材料の強度を十分に高めることができる。
【0020】
医療用材料を製造する上記分散液には、得られる医療用材料の強度、特に湿潤強度をさらに増大させるための添加剤を含有せしめることが好ましい。かかる添加剤としては、下記のアルカリ土類金属やアルミニウム等の、多価金属または多価金属含有化合物が好ましい。多価金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム若しくはバリウムなどのアルカリ土類金属が好ましく、より好ましくは、カルシウム若しくはマグネシウムである。多価金属含有化合物としては、これらのアルカリ土類金属の1種若しくは2種以上を含有する化合物(アルカリ土類金属含有化合物ともいう。)が好ましく、アルカリ土類金属含有水酸化物がより好ましい。かかる添加剤により、上記非水溶性高分子繊維間には一部架橋現象が生じ、医療用材料の強度が高まるものと思われる。
上記分散液に含有される添加剤の量は、非水溶性高分子繊維100質量に対して、好ましくは、0.001質量部以上10質量部以下、より好ましくは、0.005質量部以上5質量部以下である。
更に、上記分散液には、濡れ剤、酸化防止剤、他の補強材などの他の成分を含有せめてもよい。これらの他の成分としては、既知のものを使用することができる。
【0021】
本発明の医療用材料を製造する分散液を得る方法は、特に限定はされないが、通常、非水溶性高分子繊維と、水溶性高分子と、好ましくは強度を増大させるための添加剤と、必要に応じて用いられる任意の成分とを分散媒中に任意の順序で混合して得られる。これら各成分の混合順序は特に限定されないが、通常、添加剤及び任意の成分は、最後に混合される。
また、各成分の混合方法も限定されないが、例えば、非水溶性高分子繊維、水溶性高分子及びを速やかに分散させるため、混合装置として既知の分散機を用いて混合が行われる。混合は、必要に応じて、好ましくは40℃以上60℃以下に加温して行なわれる。
【0022】
上記分散機としては、上記各成分を均一に分散及び混合できる装置が好ましい。例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ロールミル、フィルミックスなどが挙げられる。なかでも、高い分散シェアを加えることができることから、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置が好ましい。
上記のように得られる分散液は、通常、スラリー状組成物であり、分散液中の固形分濃度は、分散液から医療用材料を製造する際に作業性を損なわない範囲の粘度が得られるように、好ましくは2質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上40質量%以下とされる。
【0023】
(医療用材料)
上記のようにして得られる分散液から種々の方法により本発明の医療用材料を製造することができる。例えば、適宜の医療用器具の表面に分散液塗布して塗膜を形成し、これを乾燥することにより、本発明の医療用材料を備えた医療用具を得ることができる。
また、分散液から、予め、種々の厚みを有するシート状の医療用材料を製造し、かかるシート状の医療用材料を成形、加工することにより医療用器具を製造してもよい。
分散液からシート状物の医療用材料を製造する場合、離型基材の表面にスラリー状分散液のシート状膜を形成し、これを好ましくは80℃以上120℃以下で好ましくは減圧下で乾燥してシート状物を形成し、得られた被膜から離型基材を剥がすようにしてもよい。成形は、金型を使用し、または使用せずにおこなってもよい。
【0024】
分散液から得られるシート状物の厚みは、加工性と生体吸収性からして、通常、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。シート状物は、かかる厚みを有することにより、非水溶性高分子繊維が上記水溶性高分子により結着された網目状構造を有しているため強度、特に湿潤強度に優れており、離型基材から剥がして単独のシート状物として取り扱うことができる。
【0025】
(医療用具)
本発明の医療用材料は、生体適合性、生体吸収性を有し、かつ十分な強度、特に湿潤強度を有するので、カテーテル、 ガイドワイヤー、 ステント、塞栓材、外科用メッシュなどの種々の医療用具として使用することができる。
さらに、生体適合性や生体吸収性を有しない金属材料、セラミック材料、合成樹脂材料などからなる医療用材料や医療用具の表面に、本発明の医療用材料の被覆することにより、生体適合性、生体吸収性を付与し、強度を高める用途にも使用することができる。
【実施例0026】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらに限定して解釈されるものではない。以下で、使用する材料の内容、各物性の測定方法は以下のとおりであり、また、部、パーセントは、特に言及のない限り質量基準である。
【0027】
(セルロース繊維)
セリッシュ(KY-100G、ダイセル社商品名)、平均繊維径は0.07μmであり、平均繊維長は100μmであり、アスペクト比は1428.5である。
【0028】
(湿潤膜の強度)
実施例及び比較例で得られたシート状物(厚み500μm)を1cm×10cmの長方形に切り取り、その両面に水5mlを霧吹きによって噴霧し、得られる湿潤膜について引張強度測定器(商品名:テンシロン、エー・アンド・ディー社製)を使用し、25℃、引張速度50mm/分で引張強度を測定した。
得られるシート状物の引張強度を以下のA~Cの基準で評価した。
A:5N/m以上、 B:1N/m以上、5N/m未満、 C:1N/m未満
【0029】
(アミラーゼ分解性)
実施例及び比較例で得られたシート状物(厚み500μm)を1cm×1cmの正方形に切り取り、その質量X0を測定した。このシート状物を、分解酵素であるα-アミラーゼを0.1g添加した水10g中に浸漬し、40℃で5時間静置した。その後、ろ過によりシート状物を取り出し、60℃、10時間乾燥後、その質量X1を測定した。アミラーゼ分解性は、ΔX(%)=(X1/X0)×100で算出され、数値が小さいほどアミラーゼ分解性に優れることを示す。得られるシート状物のアミラーゼ分解性を以下のA~Cの基準で評価した。
A:5%未満、 B:5%以上30%未満、 C:30%以上
【0030】
(繊維径、繊維長)
走査型電子顕微鏡(S-2400、日立製作所社製)を用いて、セルロース繊維の繊維径、繊維長を測定した。
【0031】
(実施例1)
非水溶性繊維であるセルロース繊維(セリッシュKY-100G)を固形分相当で100部、水溶性高分子であるヒドロキシエチルセルロース(HECダイセルSP600:製品名、ダイセル社製)を固形分相当で5部、さらに40℃に加温した水を添加してディスパー分散機(プライミクス社製、下記実施例、比較例でも同じ)で2000rpm、60分間分散せしめることにより、固形分濃度10%のスラリーを得た。
得られたスラリーをテフロン(登録商標)製のシャーレに流し込み、60℃で72時間、減圧雰囲気下で乾燥することにより厚み500μmのシート状物を得た。このシート状物について、湿潤膜の強度とアミラーゼ分解性の評価を行った。
【0032】
(実施例2)
セルロース繊維(セリッシュKY-100G:製品名)を固形分相当で100部、水溶性高分子であるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC、CMCダイセル1220:製品名、ダイセル社製、下記実施例、比較例でも同じ)のナトリウム塩を固形分相当で5部、さらに水を添加してディスパー分散機で2000rpm、60分間分散した。さらに、濃度1%の水酸化カルシウム水溶液を固形分相当で0.1部加え、固形分濃度10%のスラリー組成物を得た。
得られたスラリー組成物をテフロン(登録商標)シャーレに流し込み、60℃、72時間、減圧雰囲気下で乾燥し、厚み500μmのシート状物を得た。このシート状物について、湿潤成膜の強度とアミラーゼ分解性の評価を行った。
【0033】
(実施例3)
濃度1%の水酸化カルシウム水溶液を使用しなかったほかは実施例2と同様に実施することにより固形分濃度10%のスラリー組成物を得た。得られたスラリー組成物をテフロン(登録商標)シャーレに流し込み、60℃、72時間、減圧雰囲気下で乾燥し、厚み500μmのシート状物を得た。このシート状物について、湿潤成膜の強度とアミラーゼ分解性の評価を行った。
【0034】
(比較例1)
多糖類の水溶性高分子繊維であるアルギン酸ナトリウムを紡糸したアルギネート繊維を固形分相当で100質量部、水溶性高分子であるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を固形分相当で5質量部、さらに水を添加してディスパー分散機で2000rpm、60分間分散した。さらに、1%水酸化カルシウム水溶液を固形分相当で0.1質量部加え、固形分濃度10%のスラリー組成物を得た。
得られたスラリー組成物をテフロン(登録商標)シャーレに流し込み、60℃で72時間、減圧雰囲気下で乾燥し、厚み500μmのシート状物を得た。このシート状物について、湿潤成膜の強度及びアミラーゼ分解性の評価を行った。
【0035】
(比較例2)
セルロース繊維(セリッシュKY-100G)を固形分相当で100質量部、ポリビニルアルコール(PVA、商品名:Jポバール、日本酢ビ・ポバール社製)を固形分相当で5質量部、さらに水を添加してディスパー分散機で2000rpm、60分間分散した。この分散液に対して、さらに、1%水酸化カルシウム水溶液を固形分相当で0.1質量部加え、固形分濃度10%のスラリー組成物を得た。
得られたスラリー組成物をテフロン(登録商標)シャーレに流し込み、60℃、72時間、減圧雰囲気下で乾燥し、厚み500μmのシート状物を得た。このシート状物について、湿潤膜の強度とアミラーゼ分解性の評価を行った。
【0036】
上記実施例1~3及び比較例1、2における要点とそれぞれで得られるシート状物についての湿潤膜の強度とアミラーゼ分解性の評価結果を以下の表1にまとめて示す。
【0037】
【表1】
【0038】
上記表1からわかるように、実施例1~3にて得られたシート状物は、比較例1、2にて得られたシート状物に対して、優れた湿潤膜の強度とアミラーゼ分解性の評価結果、特に、実施例2で得られたシート状物は、特に、優れた湿潤膜の強度を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の医療用材料は、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、外科用メッシュ、塞栓材、などの種々の医療用具の材料として好適に使用することができる。