IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ADEKAの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034751
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】添加剤及び燃料油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/196 20060101AFI20230306BHJP
   C10L 1/08 20060101ALI20230306BHJP
   C10L 10/16 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C10L1/196
C10L1/08
C10L10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141130
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】小田切 慶一
(72)【発明者】
【氏名】花村 亮
(72)【発明者】
【氏名】角 太朗
(72)【発明者】
【氏名】國廣 薫
【テーマコード(参考)】
4H013
【Fターム(参考)】
4H013CC01
(57)【要約】
【課題】特定の燃料油の低温での流動性を向上させる新たな添加剤を提供する。
【解決手段】本発明は、重量平均分子量Mwが50,000~250,000であり、構成単量体中の酢酸ビニルの含有率が25~40質量%であり、13C-NMRにより測定される分岐度が0.90~4.0%であるエチレン酢酸ビニル系共重合体からなる、特定の燃料油に対する添加剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量Mwが50,000~250,000であり、構成単量体中の酢酸ビニルの含有率が25~40質量%であり、13C-NMRにより測定される分岐度が0.90~4.0%であるエチレン酢酸ビニル系共重合体からなる、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油用添加剤。
【請求項2】
前記燃料油は、船舶用燃料油である、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
前記添加剤は、燃料油用流動点降下剤である、請求項1又は2に記載の添加剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の添加剤と、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油とを含有する、燃料油組成物。
【請求項5】
燃料油のTLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量が0.10~15質量%である、請求項4に記載の燃料油組成物。
【請求項6】
50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点を降下させる方法であって、前記燃料油に対して、請求項1~3のいずれか一項に記載の添加剤を0.01質量ppm~10000質量ppm添加することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄含有量が低減された燃料油の流動点を降下することにより、低温での流動性を向上させることができる添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、船舶、航空機、外燃機関等に用いる燃料油においては、冬季や寒冷地において低温環境にさらされると、その一部又は全量が固化又は析出し、配管やフィルターの目詰まりが生じるという問題がある。この問題を解決するために、通常、燃料油には流動点降下剤及び流動性向上剤といった添加剤が配合されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、蒸留範囲を調整した軽油に、留分及びエチレン酢酸ビニル系低温流動性向上剤を添加した軽油組成物が記載されている。特許文献2には、鉱油中間留分のための流動性改善剤として、エチレン50~94重量%、C-原子数2~6のモノカルボン酸のビニルエステル3~30重量%、アミノアルキルアクリレート3~20重量%、他の単量体0~10重量%からなる共重合体が記載されている。特許文献3には、硫黄分含有量が0.05質量%以下の軽油組成物であって、エチレン-酢酸ビニル共重合体等から選ばれる少なくとも1種を含有する軽油組成物が記載されている。特許文献4には、航空燃料と、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の航空燃料の凍結点を低くできる化合物との混合物が記載されている。
【0004】
一方、近年では、燃焼時の硫黄酸化物等の環境汚染物質の発生を抑制する観点から、硫黄含有量の低減された燃料油のニーズが高まっている。燃料油中の硫黄分を低減するためには、燃料油基油の硫黄分を低減することが効果的ではあるが、基油の組成を変更することにより、従来の流動点降下剤や流動性向上剤といった添加剤では低温において十分な流動性を確保できないという問題が生じている。よって、このような燃料油、特に、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油に対しても実用的な効果を発揮する新たな添加剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07-331261号公報
【特許文献2】特表平09-503247号公報
【特許文献3】特開平09-078074号公報
【特許文献4】特表2003-524060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、既存の添加剤では効果が得られない特定の燃料油に対しても、流動点を降下することにより、低温での流動性を向上させることができる添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のエチレン酢酸ビニル系共重合体からなる添加剤により、既存の添加剤では効果が得られない、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油に対しても、流動点を降下することにより低温での流動性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、重量平均分子量Mwが50,000~250,000であり、構成単量体中の酢酸ビニルの含有率が25~40質量%であり、13C-NMRにより測定される分岐度が0.90~4.0%であるエチレン酢酸ビニル系共重合体からなる、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油用添加剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の燃料油用添加剤を用いることにより、硫黄含有量の低い燃料油の流動点を降下することができ、低温での流動性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いるエチレン酢酸ビニル系共重合体は、構成単量体としてエチレンと酢酸ビニルとを含み、構成単量体中の酢酸ビニルの含有率が25~40質量%である、エチレン酢酸ビニル系共重合体である。このとき、構成単量体としてエチレンと酢酸ビニル以外の化合物を含んでいてもよく、例えば、炭素原子数3~22のオレフィン系化合物、分子内に炭素原子数2~40のアルキル基を有するビニルエステル系化合物、分子内に炭素原子数2~40のアルキル基を有するビニルエーテル系化合物、分子内に炭素原子数1~40のアルキル基を有するアクリレート系化合物、分子内に炭素原子数1~40のアルキル基を有するメタクリレート系化合物、スチレン系化合物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。本発明においては、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点を効果的に降下させる観点からは、エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する構成単量体全量に対するエチレンと酢酸ビニルの合計量が、80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましく、100質量%である(構成単量体がエチレンと酢酸ビニルのみからなる)ことが更により好ましい。また、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点をより降下させる観点からは、エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する構成単量体全量に対する酢酸ビニルの含有率が、26~36質量%であることが好ましく、27~34質量%であることがより好ましく、28~32質量%であることが更により好ましい。本発明において、エチレン酢酸ビニル系共重合体中の酢酸ビニルの含有率は、JIS K 7192(1999)に記載の方法により測定される。
【0010】
本発明に用いるエチレン酢酸ビニル系共重合体は、重量平均分子量Mwが50,000~250,000であるエチレン酢酸ビニル系共重合体である。本発明においては、重量平均分子量がこの範囲のエチレン酢酸ビニル系共重合体を用いることで、既存の添加剤では効果が得られない、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油に対しても、流動点を降下させ、低温での流動性を向上させることができる。50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点をより降下させる観点からは、エチレン酢酸ビニル系共重合体の重量平均分子量Mwは60,000~220,000であることが好ましく、80,000~200,000であることがより好ましく、100,000~180,000であることが更により好ましい。本発明において、エチレン酢酸ビニル系共重合体の重量平均分子量Mwは、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定され、ポリスチレン換算で算出される重量平均分子量である。
【0011】
エチレン酢酸ビニル系共重合体の重量平均分子量Mwの詳細な測定条件は以下の通りである。
・重量平均分子量測定条件
GPC装置:GL-7400シリーズ(ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム:GPC LF-404(粒径6μm、4.6×250mm)2本、GPC KF-402.5HQ(粒径3μm、4.6×250mm)、GPC KF-401HQ(粒径3μm、4.6×250mm)、GPC LF-G(粒径6μm、4.6×10mm)(いずれも昭和電工株式会社製)を直列に接続して使用
検出器:GL-7454
流量:0.3ml/min
サンプル濃度:20mg/10ml(THF溶液)
注入量:5μl
カラム温度:40℃
標準サンプル:ポリスチレン
【0012】
本発明に用いるエチレン酢酸ビニル系共重合体の数平均分子量Mnは特に限定されないが、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点をより降下させる観点からは、数平均分子量Mnが15,000~80,000であることが好ましく、25,000~60,000であることがより好ましく、30,000~60,000であることが更により好ましい。本発明において、エチレン酢酸ビニル系共重合体の数平均分子量Mnは、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定され、ポリスチレン換算で算出される数平均分子量である。
【0013】
エチレン酢酸ビニル系共重合体の数平均分子量Mwの詳細な測定条件は以下の通りである。
・数平均分子量測定条件
GPC装置:GL-7400シリーズ(ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム:GPC LF-404(粒径6μm、4.6×250mm)2本、GPC KF-402.5HQ(粒径3μm、4.6×250mm)、GPC KF-401HQ(粒径3μm、4.6×250mm)、GPC LF-G(粒径6μm、4.6×10mm)(いずれも昭和電工株式会社製)を直列に接続して使用
検出器:GL-7454
流量:0.3ml/min
サンプル濃度:20mg/10ml(THF溶液)
注入量:5μl
カラム温度:40℃
標準サンプル:ポリスチレン
【0014】
本発明に用いるエチレン酢酸ビニル系共重合体の、[重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn]は特に限定されないが、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点をより降下させる観点からは、[重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn]が、1.5~4.0であることが好ましく、2.0~3.8であることがより好ましく、2.5~3.6であることが更により好ましい。本発明において、エチレン酢酸ビニル系共重合体の[重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn]は、前述した方法により測定される重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの値を用いて算出される。
【0015】
本発明に用いるエチレン酢酸ビニル系共重合体は、13C-NMRにより測定される分岐度が0.90~4.0%であるエチレン酢酸ビニル系共重合体である。13C-NMRにより測定される分岐度とは、エチレン酢酸ビニル系共重合体中の直鎖エチレン構造と分岐エチレン構造の存在比率に相関する指標であり、本発明においては、13C-NMRにより測定される分岐度がこの範囲のエチレン酢酸ビニル系共重合体を用いることで、既存の添加剤では効果が得られない、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油に対しても、流動点を降下させ、低温での流動性を向上させることができる。50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点をより降下させる観点からは、エチレン酢酸ビニル系共重合体の13C-NMRにより測定される分岐度は、0.95~3.0%であることが好ましく、1.0~2.0%であることがより好ましい。本発明において、エチレン酢酸ビニル系共重合体の13C-NMRにより測定される分岐度は、より詳細には、「日本化学会誌」1980年(1)第74頁~第78頁に記載の方法に基づき、エチレン酢酸ビニル系共重合体の13C-NMRスペクトルから、分岐末端メチル基、主鎖メチレン基、アセトキシル基のα位、アセトキシル基のβ位の炭素原子に対応するシグナルをそれぞれ特定し、各シグナルの積分値に基づき、分岐度(%)=<[分岐末端メチル基に対応するシグナルの積分値]/([分岐末端メチル基に対応するシグナルの積分値]+[主鎖メチレン基に対応するシグナルの積分値]+[アセトキシル基のα位に対応するシグナルの積分値]+[アセトキシル基のβ位に対応するシグナルの積分値])×100>により算出される。
【0016】
エチレン酢酸ビニル系共重合体の13C-NMRにより測定される分岐度の詳細な測定条件は以下の通りである。
・分岐度測定条件
13C-NMR装置:JNM ECA-600(JEOL株式会社製)
磁場強度:600MHz
Scans:16000回
Relaxation delay:4秒
温度:135℃
溶媒:o-ジクロロベンゼン
【0017】
本発明に用いるエチレン酢酸ビニル系共重合体の溶融温度は特に限定されないが、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油の流動点をより降下させる観点からは、溶融温度が50~75℃であることが好ましく、55~70℃であることがより好ましい。本発明において、エチレン酢酸ビニル系共重合体の溶融温度は、ISO 11357-3(2018)に準拠して示差走査熱量測定法により測定される。
【0018】
本発明に用いるエチレン酢酸ビニル系共重合体の製造方法は特に限定されず、エチレンと酢酸ビニルとを含む構成単量体を公知の方法により重合させて、重量平均分子量Mwが50,000~250,000であり、構成単量体中の酢酸ビニルの含有率が25~40質量%であり、13C-NMRにより測定される分岐度が0.90~4.0%であるエチレン酢酸ビニル系共重合体を得る方法が挙げられる。このときの重合方法は特に限定されず、例えば、懸濁重合、溶液重合、気相重合等を用いて重合することができる。このとき、触媒を用いなくても、有機又は無機過酸化物、アゾ系化合物等の触媒を用いてもよい。
【0019】
本発明の添加剤は、前述したエチレン酢酸ビニル系共重合体からなり、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油用添加剤である。本発明においては、既存の添加剤では効果が得られないこのような燃料油に対し、前述したエチレン酢酸ビニル系共重合体からなる添加剤を用いることで、燃料油の流動点を降下することにより低温での流動性を向上させることができる。より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、50℃における動粘度が4.0~400mm/sである燃料油に用いられることが好ましく、50℃における動粘度が5.0~300mm/sである燃料油に用いられることがより好ましく、50℃における動粘度が6.0~150mm/sである燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油の50℃における動粘度は、JIS K 2283(2000)に記載の方法により測定される。
【0020】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、硫黄含有量が、0.50質量%以下である燃料油に用いられることが好ましく、0.48質量%以下である燃料油に用いられることがより好ましい。また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、硫黄含有量が、0.01質量%以上である燃料油に用いられることが好ましく、0.05質量%以上である燃料油に用いられることがより好ましく、0.10質量%以上である燃料油に用いられることが更により好ましく、0.20質量%以上である燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油の硫黄含有量は、JIS K 2541-6(2003)に記載の紫外蛍光法により測定される。
【0021】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、15℃での密度が、820~980kg/mである燃料油に用いられることが好ましく、840~975kg/mである燃料油に用いられることがより好ましく、860~970kg/mである燃料油に用いられることが更により好ましく、880~970kg/mである燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油の15℃での密度は、JIS K 2249(2011)に記載の方法により測定される。
【0022】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、流動点が-40℃~30℃である燃料油に用いられることが好ましく、流動点が-30℃~25℃である燃料油に用いられることがより好ましく、流動点が-20℃~20℃である燃料油に用いられることが更により好ましく、流動点が-10℃~15℃である燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油の流動点は、JIS K 2269(1987)に記載の方法により測定される。
【0023】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、TLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量が0.10~15質量%である燃料油に用いられることが好ましく、TLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量が0.20~12質量%である燃料油に用いられることがより好ましく、TLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量が0.30~10質量%である燃料油に用いられることが更により好ましく、TLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量が0.50~8.0質量%である燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、SARA分析に基づき、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおけるアスファルテン分のピーク面積比を算出することによりその値を求めることができる。
【0024】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、TLC/FID法により測定される飽和分の含有量が10~70質量%である燃料油に用いられることが好ましく、TLC/FID法により測定される飽和分の含有量が15~60質量%である燃料油に用いられることがより好ましく、TLC/FID法により測定される飽和分の含有量が20~50質量%である燃料油に用いられることが更により好ましく、TLC/FID法により測定される飽和分の含有量が25~45質量%である燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定される飽和分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、SARA分析に基づき、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおける飽和分のピーク面積比を算出することによりその値を求めることができる。
【0025】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、TLC/FID法により測定される芳香族分の含有量が30~75質量%である燃料油に用いられることが好ましく、TLC/FID法により測定される芳香族分の含有量が35~70質量%である燃料油に用いられることがより好ましく、TLC/FID法により測定される芳香族分の含有量が40~65質量%である燃料油に用いられることが更により好ましく、TLC/FID法により測定される芳香族分の含有量が45~65質量%である燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定される芳香族分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、SARA分析に基づき、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおける芳香族分のピーク面積比を算出することによりその値を求めることができる。
【0026】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、TLC/FID法により測定されるレジン分の含有量が0.50~25質量%である燃料油に用いられることが好ましく、TLC/FID法により測定されるレジン分の含有量が1.0~20質量%である燃料油に用いられることがより好ましく、TLC/FID法により測定されるレジン分の含有量が2.0~18質量%である燃料油に用いられることが更により好ましく、TLC/FID法により測定されるレジン分の含有量が2.5~16質量%である燃料油に用いられることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定されるレジン分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、SARA分析に基づき、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおけるレジン分のピーク面積比を算出することにより算出される。
【0027】
また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の添加剤は、燃料油中のアスファルテン分の含有量と飽和分との含有量比[アスファルテン分の含有量/飽和分の含有量]が、0.0010~1.0である燃料油に用いられることが好ましく、0.0050~0.60である燃料油に用いられることがより好ましく、0.010~0.40である燃料油に用いられることが更により好ましく、0.010~0.40である燃料油に用いられることが更により好ましい。
【0028】
本発明の添加剤は、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油に用いられる添加剤であれば特に限定されず用いることができ、例えば、自動車用燃料油、船舶用燃料油、航空機用燃料油、鉄道車両用燃料油、農業機械用燃料油、建築機械用燃料等に用いられる添加剤とすることができる。これらの中でも、本発明の添加剤は、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である船舶用燃料油に用いられることが好ましい。
【0029】
本発明の添加剤を、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油に対して、0.01質量ppm~10000質量ppm添加することで、前記燃料油の流動点を降下させることができる。
【0030】
本発明の燃料油組成物は、前述した添加剤と、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油とを含有する、燃料油組成物である。このような燃料油としては、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油であれば特に限定されず、使用目的や条件に応じて適宜選択されるが、例えば、特1号軽油、1号軽油、2号軽油、3号軽油、特3号軽油、A重油、B重油、C重油、1号灯油、2号灯油、MGO(Marine Gas Oil)、MFO(Marine Fuel Oil)、MDO(Marine Diesel Oil)、MDF(Marine Diesel Fuel)、HFO(Heavy Fuel Oil)、RFO(Residual Fuel Oil)、LSMGO(Low Sulfur Marine Gas Oil)、LSMDO(Low Sulfur Marine Diesel Oil)、VLSFO(Very Low Sulfur Fuel Oil)、ULSFO(Ultra Low Sulfur Fuel Oil)、パーム油、ココナッツ油、菜種油、大豆油、ヒマワリ油、コーン油、ゴマ油、トール油、骨油、鯨油等のこれらの1種又は2種以上を用いることができる。このうち軽油又は重油としては、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解基油留分、直脱軽油留分、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油、分解重油等を用いてもよく、これらを水素化処理して用いてもよい。本発明において、燃料油が2種以上の燃料油の混合物からなる場合、50℃における動粘度、硫黄含有量等の値は、混合物としての燃料油を用いて測定された値を用いる。なお一般的に、軽油やA重油、MGO、MDOと呼ばれる燃料油は、50℃における動粘度が3.0mm/s未満であるものが多く、また、C重油と呼ばれる燃料油は、50℃における動粘度が450mm/sより大きいものが多い。そのため、本発明においては、それぞれ他の種類の燃料油と混合することで動粘度が本規定の範囲内である燃料油を調製して用いることが好ましい。
【0031】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油の50℃における動粘度は、より本発明の効果が得られる観点から、4.0~400mm/sであることが好ましく、5.0~300mm/sであることがより好ましく、6.0~150mm/sであることが更により好ましい。本発明において、燃料油の50℃における動粘度は、JIS K 2283(2000)に記載の方法により測定される。
【0032】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油における硫黄含有量は、より本発明の効果が得られる観点から、0.50質量%以下であることが好ましく、0.48質量%以下であることがより好ましい。また、より本発明の効果が得られる観点から、本発明の燃料油組成物に用いる燃料油における硫黄含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.10質量%以上であることが更により好ましく、0.20質量%以上であることが更により好ましい。本発明において、燃料油の硫黄含有量は、JIS K 2541-6(2003)に記載の紫外蛍光法により測定される。
【0033】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油における15℃での密度は、より本発明の効果が得られる観点から、820~980kg/mであることが好ましく、840~975kg/mであることがより好ましく、860~970kg/mであることが更により好ましく、880~970kg/mであることが更により好ましい。本発明において、燃料油の15℃での密度は、JIS K 2249(2011)に記載の方法により測定される。
【0034】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油の流動点は、より本発明の効果が得られる観点から、-40℃~30℃であることが好ましく、-30℃~25℃であることがより好ましく、-20℃~20℃であることが更により好ましく、-10℃~15℃であることが更により好ましい。本発明において、燃料油の流動点は、JIS K 2269(1987)に記載の方法により測定される。
【0035】
また、本発明の燃料油組成物の流動点は、-40℃~10℃であることが好ましく、-30℃~7.5℃であることがより好ましく、-20℃~7.5℃であることが更により好ましく、-10℃~5.0℃であることが更により好ましい。
本発明の燃料油組成物の流動点も、JIS K 2269(1987)に記載の方法により測定される。
【0036】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油におけるTLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量は、より本発明の効果が得られる観点から、0.10~15質量%であることが好ましく、0.20~12質量%であることがより好ましく、0.30~10質量%であることが更により好ましく0.50~8.0質量%であることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定されるアスファルテン分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおけるアスファルテン分のピーク面積比を算出することによりその値を求めることができる。
【0037】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油におけるTLC/FID法により測定される飽和分の含有量は、より本発明の効果が得られる観点から、10~70質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましく、20~50質量%である燃料油を用いることが更により好ましく、25~45質量%であることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定される飽和分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおける飽和分のピーク面積比を算出することによりその値を求めることができる。
【0038】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油におけるTLC/FID法により測定される芳香族分の含有量は、より本発明の効果が得られる観点から、30~75質量%であることが好ましく、35~70質量%であることがより好ましく、40~65質量%であることが更により好ましく、45~65質量%であることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定される芳香族分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおける芳香族分のピーク面積比を算出することによりその値を求めることができる。
【0039】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油におけるTLC/FID法により測定されるレジン分の含有量は、より本発明の効果が得られる観点から、0.50~25質量%であることが好ましく、1.0~20質量%であることがより好ましく、2.0~18質量%であることが更により好ましく、2.5~16質量%であることが更により好ましい。本発明において、燃料油のTLC/FID法により測定されるレジン分の含有量は、より詳細には、JPI-5S-77-2019に準拠して、TLC(薄層クロマトグラフィ)により燃料油中の成分を分離し、FID(水素炎イオン型検出器)を用いて得られるクロマトグラムにおけるレジン分のピーク面積比を算出することによりその値を求めることができる。
【0040】
本発明の燃料油組成物に用いる燃料油中のアスファルテン分の含有量と飽和分との含有量比[アスファルテン分の含有量/飽和分の含有量]は、より本発明の効果が得られる観点から、0.0010~1.0であることが好ましく、0.0050~0.60であることがより好ましく、0.010~0.40であることが更により好ましく、0.010~0.40である燃料油を用いることが更により好ましい。
【0041】
本発明の燃料油組成物は、上記のような構成とすることで、冬季や寒冷地において低温環境にさらされた場合においても流動性に優れる。本発明の燃料油組成物は、さらに、燃焼性、貯蔵安定性、酸化安定性、耐摩耗性、均一性、安全性、環境適合性、始動性、低温流動性、取扱い性の向上等の目的に応じて、その他の添加剤をさらに含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、表面着火剤、オクタン価向上剤、セタン価向上剤、抗菌・殺菌剤、防錆剤、堆積物改良剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、耐摩耗剤、清浄剤・分散剤剤、氷結防止剤、アンチノック剤、腐食防止剤、帯電防止剤、助燃剤、染料等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
表面着火防止剤としては、例えば、トリブチルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリクレジルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、メチルフェニルホスフェート等の有機リン系化合物;2-エチルヘキシルボロネート及びブチルジイソブチルボロネート等の有機ボロン系化合物が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。表面着火防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0043】
オクタン価向上剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸ブチル、メチル-tert-ブチルエーテル、エチル-tert-ブチルエーテル、メチル-tert-アミルエーテル、N-メチルアニリン、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル、テトラエチル鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。オクタン価向上剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0044】
セタン価向上剤としては、例えば、硝酸エチル、硝酸メトキシエチル、硝酸イソプロピル、硝酸アミル、硝酸ヘキシル、硝酸ヘプチル、硝酸オクチル、硝酸2-エチルヘキシル、硝酸シクロヘキシルなどの脂肪族ニトレート;ジ-tert-ブチルペルオキシドなどの過酸化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。セタン価向上剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0045】
抗菌・殺菌剤としては、例えば、硫酸銀、硝酸銀、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸銅、エチレンジアミン4酢酸銅等の無機系殺菌剤;ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-トリアジン等の有機窒素系抗菌剤;2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-エタン、ビストリブロモメチルスルホン等の有機ブロム系抗菌剤、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系抗菌剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。抗菌・殺菌剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0046】
防錆剤としては、例えば、脂肪族アミン及びその塩、有機リン酸エステル、有機スルホン酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。防錆剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0047】
堆積物改良剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレンアミン、ポリエーテルアミン、ポリアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアミン、ポリアルキルフェノキシアミノアルカン、ポリアルキレンスクシンイミド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。堆積物改良剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0048】
酸化防止剤としては、例えば、N,N'-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジブチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジオクチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジトリル-p-フェニレンジアミン、N-トリル-N'-キシレニル-p-フェニレンジアミン等のアミン系酸化防止剤;2-t-ブチルフェノール、2,6-ジターシャリブチルフェノール、2,6-ジターシャリブチル-4-メチルフェノール、2,4-ジメチル-6-ターシャリブチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤;ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリルβ,β’-チオジブチレート、ジラウリルサルファイド等の硫黄系酸化防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0049】
金属不活性化剤としては、例えば、エチレンジアミン等のアミノ化合物;N,N'-ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパン、N,N'-ジサリチリデン-2-シクロヘキサンジアミン、N,N'-ジサリチリデンエチレンジアミン、N,N'-ビス(ジメチルサリチリデン)エチレンジアミン、N,N'-ビス(ジメチルサリチリデン)エチレンテトラミン、サリチルアルドキシム等のサリチリデン系化合物;1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル-1,2,4-トリアゾール、1-(1-ブトキシエチル)-1,2,4-トリアゾール、4,4’-メチレンビス(2-ウンデシル-5-メチルイミダゾール)、ビス[(N-メチル)イミダゾール-2-イル]カルビノールオクチルエーテル等のトリアゾール系化合物;4-アルキルベンゾトリアゾール、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾトリアゾール、5,5’-メチレンビスベンゾトリアゾール、1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)トリアゾール、1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール、1-(ノニルオキシメチル)ベンゾトリアゾール、1-(1-ブトキシエチル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。金属不活性化剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0050】
耐摩耗剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、硫化オレフィン、ジベンジルスルフィド、エチル-3-[[ビス(1-メチルエトキシ)フォスフィノチオイル]チオ]プロピオネート、トリス-[(2、又は4)-イソアルキルフェノール]チオフォスフェート、3-(ジ-イソブトキシ-チオホスホリルスルファニル)-2-メチル-プロピオン酸、トリフェニルフォスフォロチオネート、β-ジチオホスフォリル化プロピオン酸、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメイト)、O,O-ジイソプロピル-ジチオフォスフォリルエチルプロピオネート、2,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブタンチオ)1,3,4-チアジアゾール、及び2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール等の硫黄系耐摩耗剤;モノオクチルフォスフェート、ジオクチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、モノブチルフォスフェート、ジブチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、モノフェニルフォスフェート、ジフェニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、モノイソプロピルフェニルフォスフェート、ジイソプロピルフェニルフォスフェート、トリイソプロピルフェニルフォスフェート、モノターシャリーブチルフェニルフォスフェート、ジ-tert-ブチルフェニルフォスフェート、トリ-tert-ブチルフェニルフォスフェート、トリフェニルチオフォスフェート、モノオクチルフォスファイト、ジオクチルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、モノブチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、トリブチルホスファイト、モノフェニルフォスファイト、ジフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、モノイソプロピルフェニルフォスファイト、ジイソプロピルフェニルフォスファイト、トリイソプロピルフェニルフォスファイト、モノ-tert-ブチルフェニルフォスファイト、ジ-tert-ブチルフェニルフォスファイト、及びトリ-tert-ブチルフェニルフォスファイト等のリン系化合物;カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、ノナン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン、ベヘン酸等の脂肪酸;ナフテン酸金属塩、脂肪酸金属塩、リン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、及び亜リン酸エステル金属塩等の有機金属化合物;その他、ホウ素化合物、モノ及びジヘキシルフォスフェートのアルキルアミン塩、リン酸エステルアミン塩、及びトリフェニルチオリン酸エステルとtert-ブチルフェニル誘導体の混合物等が挙げられる。耐摩耗剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.01~10質量%であることが好ましい。
【0051】
清浄剤・分散剤としては、例えば、リン酸アミド、アミノアルカン、アルキルアミンリン酸エステル、ポリエーテルアミン、ポリブテニルアミン、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル、サリチル酸金属塩、スルホン酸金属塩、カルボン酸金属塩、ホスホン酸金属塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。清浄剤・分散剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0052】
本発明の燃料油組成物は、液体の燃料油を用いる態様であれば特に制限なく使用でき、例えば、乗用車やトラック等の自動車用燃料油、旅客船や貨物船等の船舶用燃料油、飛行機やヘリコプター等の航空機用燃料油、ディーゼル機関車等の鉄道車両用燃料油、農業機械用燃料油、建築機械用燃料油等として用いることができ、これらの中でも、船舶用燃料油として用いることが好ましい。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中、%は特に記載が無い限り質量基準である。
【0054】
<エチレン酢酸ビニル系共重合体(EVA)の製造>
エチレンと酢酸ビニルとを構成単量体として用い、公知の方法により重合させることで、エチレン酢酸ビニル系共重合体EVA1~14を製造した。重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn、分岐度、溶融温度を表1に示す。なお、各エチレン酢酸ビル系共重合体EVAの構成単量体比率は、JIS K 7192(1999年)に記載の方法で測定して酢酸ビニルの含有率を算出した。また、EVA1~14の溶融温度はISO 11357-3(2018)に準拠した示差走査熱量測定法により示差走査熱量計(micro DSC7 evo、SETARAM社製)を用いて求めた。
【0055】
【表1】
【0056】
<燃料油組成物の調製>
製造したエチレン酢酸ビニル系共重合体EVA1~EVA13と、下記の表2に記載した燃料油1~8とを用いて、表3~6に示すように燃料油に添加剤としてEVAを添加することにより、実施例及び比較例の燃料油組成物を調製した。
【0057】
燃料油の50℃における動粘度は動粘度計(SVM 3001、Anton Paar社製)を用いて、JIS K 2283(2011)に準拠して測定した。
燃料油の硫黄含有量は、JIS K 2541-6(2003)に記載の紫外蛍光法により測定した。
燃料油の15℃での密度は、JIS K 2249(2011)の記載に準拠して測定した。
燃料油のアスファルテン分、飽和分、芳香分及びレジン分の含有量はJPI-5S-77-2019に準拠して測定した。
【0058】
<流動点の測定>
調製した燃料油組成物それぞれについて、JIS K 2269(1987)に記載の方法により流動点を測定した。測定結果を表3~6にそれぞれ示す。なお、本発明において、添加剤の添加により、燃料油の流動点が12.5℃以上低下している、又は、流動点が7.5℃以上低下したことにより0℃以下となっていれば、添加剤が流動点降下剤として実用性を有することを表す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
本発明のエチレン酢酸ビニル系共重合体によれば、比較例1~6で製造したような既存の添加剤では効果が得られない、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である燃料油に対しても、流動点を降下することができた。よって、本発明の添加剤は、50℃における動粘度が3.0~450mm/s、硫黄含有量が0.53質量%以下である、内燃機関、船舶、航空機、外燃機関等に用いる各種燃料油用の添加剤として広く有用であることが示された。