(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035105
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】炭酸カルシウム生成方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20230306BHJP
C01D 7/32 20060101ALI20230306BHJP
B09B 3/70 20220101ALN20230306BHJP
【FI】
C01F11/18 A
C01D7/32
B09B3/00 304H
B09B3/00 304G
B09B3/00 304A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141723
(22)【出願日】2021-08-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度~令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発/カルシウム含有廃棄物からのCa抽出およびCO2鉱物固定化技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】中村 丞吾
(72)【発明者】
【氏名】大泉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 充
(72)【発明者】
【氏名】谷口 育雄
【テーマコード(参考)】
4D004
4G076
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004AA12
4D004AB03
4D004AC05
4D004BA06
4D004CA34
4D004CA35
4D004CC12
4G076AA16
4G076AB18
4G076AB26
4G076BA13
4G076BC02
4G076BE11
4G076DA02
4G076DA16
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】
カルシウム含有廃棄物を利用し、純度の高い炭酸カルシウムを生成することが可能な炭酸カルシウム生成方法及びシステムを提供すること。
【解決手段】
カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成方法において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程と、該分離工程を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム回収工程とを有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成方法において、
カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程と、
前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程と、
該分離工程を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム回収工程とを有することを特徴とする、炭酸カルシウムの生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸カルシウム生成方法において、該塩酸水は、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液をバイポーラ膜電気透析処理により生成され、前記塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、該炭酸カルシウム回収工程で生成される塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液の少なくとも一部を使用することを特徴とする、炭酸カルシウムの生成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の炭酸カルシウム生成方法において、該バイポーラ膜電気透析処理により水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させ、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を該炭酸カルシウム回収工程に用いることを特徴とする、炭酸カルシウムの生成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の炭酸カルシウム生成方法において、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を使用することを特徴とする、炭酸カルシウムの生成方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の炭酸カルシウム生成方法において、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする、炭酸カルシウムの生成方法。
【請求項6】
カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成システムにおいて、
カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解手段と、
前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離手段と、
該分離手段を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム回収手段とを有することを特徴とする、炭酸カルシウムの生成システム。
【請求項7】
請求項6に記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該塩酸水は、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液からバイポーラ膜電気透析処理手段により生成され、前記塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、該炭酸カルシウム回収手段で生成される塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液の少なくとも一部を使用することを特徴とする、炭酸カルシウムの生成システム。
【請求項8】
請求項7に記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該バイポーラ膜電気透析処理手段により水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させ、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を該炭酸カルシウム回収手段に用いることを特徴とする、炭酸カルシウムの生成システム。
【請求項9】
請求項8に記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を使用することを特徴とする、炭酸カルシウムの生成システム。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする、炭酸カルシウムの生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウム生成方法及びシステム、特に、カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウムの生成方法及び生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、プラスチック、紙、塗料などの充填材、また農薬・肥料などの土壌改良剤、食品添加物や化粧品原料など、幅広い産業分野で利用されている。
炭酸カルシウムは、水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を吹き込むことで合成したり、塩化カルシウム等のカルシウムイオンを含む水溶液と炭酸ナトリウム水溶液を混合させることで合成される。
【0003】
近年では、特許文献1に示すように、温室効果ガスである二酸化炭素を削減するため、二酸化炭素を固定化するプロセスの中で炭酸カルシウムを生成する場合がある。特許文献1では、大量のカルシウム等を供給するため、廃コンクリートや鉄鋼スラグ等の廃材や岩石などカルシウム含有廃棄物が利用されている。
【0004】
特許文献1では、カルシウム含有廃棄物からカルシウムを溶解させる方法として硝酸が利用されるが、この段階でカルシウムのみが溶出されるだけでなくマグネシウムなどの他の元素も水溶液中に溶解する。特許文献1では、硝酸カルシウムや硝酸マグネシウムなどを含む水溶液に、水酸化ナトリウムと二酸化炭素とを接触して生成される炭酸ナトリウムの水溶液を導入し、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムを析出させている。
【0005】
また、特許文献1では、硝酸や水酸化ナトリウムの生成には、炭酸カルシウム等の析出工程で発生する硝酸ナトリウムを利用し、この硝酸ナトリウムをバイポーラ膜電気透析処理を行うことも開示している。
【0006】
しかしながら、カルシウム含有廃棄物を用いる場合には、廃棄物自体がカルシウム以外の多くの不純物を含んでおり、生成する炭酸カルシウム自体の純度が低くなるという課題があった。
しかも、プラスチックなどの充填材などでは、高い純度の炭酸カルシウムの生産が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、カルシウム含有廃棄物を利用し、純度の高い炭酸カルシウムを生成することが可能な炭酸カルシウム生成方法及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の炭酸カルシウム生成方法及びシステムは、以下の技術的特徴を有する。
(1) カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成方法において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程と、該分離工程を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム回収工程とを有することを特徴とする。
【0010】
(2) 上記(1)に記載の炭酸カルシウム生成方法において、該塩酸水は、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液をバイポーラ膜電気透析処理により生成され、前記塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、該炭酸カルシウム回収工程で生成される塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液の少なくとも一部を使用することを特徴とする。
【0011】
(3) 上記(2)に記載の炭酸カルシウム生成方法において、該バイポーラ膜電気透析処理により水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させ、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を該炭酸カルシウム回収工程に用いることを特徴とする。
【0012】
(4) 上記(3)に記載の炭酸カルシウム生成方法において、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を使用することを特徴とする。
【0013】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の炭酸カルシウム生成方法において、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする。
【0014】
(6) カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成システムにおいて、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解手段と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離手段と、該分離手段を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム回収手段とを有することを特徴とする。
【0015】
(7) 上記(6)に記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該塩酸水は、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液からバイポーラ膜電気透析処理手段により生成され、前記塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、該炭酸カルシウム回収手段で生成される塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液の少なくとも一部を使用することを特徴とする。
【0016】
(8) 上記(7)に記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該バイポーラ膜電気透析処理手段により水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させ、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を生成し、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を該炭酸カルシウム回収手段に用いることを特徴とする。
【0017】
(9) 上記(8)に記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を使用することを特徴とする。
【0018】
(10) 上記(6)乃至(9)のいずれかに記載の炭酸カルシウム生成システムにおいて、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成方法(生成システム)において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程(カルシウム溶解手段)と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程(分離手段)と、該分離工程(分離手段)を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム回収工程(炭酸カルシウム回収手段)とを有するため、純度の高い炭酸カルシウムを容易に得ることができる。
特に、水素イオン濃度指数を調整するだけで、様々な不純物を容易に除去することができるため、炭酸カルシウムの生成工程を複雑化させることもない。
また、得られた残渣物は、セメント製造に利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の炭酸カルシウム生成方法のフロー図である。
【
図2】本発明の炭酸カルシウム生成方法を用いた二酸化炭素固定化方法を示す図である。
【
図3】一般ごみ焼却施設Aで採取したフライアッシュ(FA1)におけるCa抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図4】FA1におけるK抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図5】FA1におけるCr抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図6】FA1におけるPb抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図7】FA1におけるSi抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図8】FA1におけるAl抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図9】FA1におけるMg抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図10】一般ごみ焼却施設Bで採取したフライアッシュ(FA2)におけるCa抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図11】生コン工場Aの排水工程で採取した生コンスラッジ(CS1)におけるCa抽出率の時間変化を示すグラフである。
【
図12】生コン工場Bの排水工程で採取した生コンスラッジ(CS2)におけるCa抽出率の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の炭酸カルシウム生成方法及びシステムについて、図面を参照しながら、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、
図1に示すように、カルシウム(Ca)含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成方法(炭酸カルシム生成システム)において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程(カルシウム溶解手段)と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程(分離手段)と、該分離工程(分離手段)を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム回収工程(炭酸カルシウム回収手段)とを有することを特徴とする。
なお、
図1中、二重線矢印は固体の流れ、一重線矢印は液体の流れを示す。また、以下の説明では、炭酸カルシウムの生成方法を中心に説明する。
【0022】
本発明に使用されるCa含有廃棄物としては、一般ごみや産廃ごみなどの焼却灰、火力発電所等から排出されるフライアッシュ、スラグ、廃コンクリート、生コンスラッジ、バイオ灰などがある。
特に、後述するように、セメント製造設備における脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストは、塩化カリウム成分を含有するため、本発明に好適に用いることが可能である。
【0023】
Ca含有廃棄物は、粒度を1000μm以下、より好ましくは500μm以下、100μm以上の範囲に調整される。これにより、Caを抽出し易くすることが可能となる。
【0024】
Ca溶解工程(Ca溶解手段)では、粒度調整したCa含有廃棄物に塩酸水を添加して、好ましくは、水素イオン濃度指数をpH5以下、pH0.5以上の範囲になるようにする。
この際に、必要に応じて洗浄水を添加してもよい。洗浄は、固液分離の際、固形分に含まれる液体を清水と置換するために実施されるものである。
Ca含有廃棄物からのCa抽出に要する反応時間としては、120分以下、より好ましくは30分以上、60分以下である。また、多段階で、特に多段向流で溶解抽出を行うことも可能である。
【0025】
Caを抽出する際の塩酸を含む水溶液の温度は、常温以上が好ましく、より好ましくは20℃以上、70℃以下の範囲である。後述するバイポーラ膜電気透析(BMED)処理で利用する膜が有機膜であるため、前記水溶液の温度は、当該膜の耐熱温度も考慮して設定される。
【0026】
Ca溶解工程(Ca溶解手段)で、残渣と水溶液に分離し、当該残渣は、例えば、セメント製造設備において、セメント原料として使用することが可能である。
【0027】
Ca溶解工程(Ca溶解手段)で得られたCaイオンを含有する水溶液は、Ca以外の不純物イオンを含んでおり、分離工程(分離手段)では、水素イオン濃度指数を調整することで、不純物イオンを分離する。
Ca溶解工程(Ca溶解手段)から得られたCaイオンを含有する水溶液のpHを、例えば、pH5~6に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、Caイオンを含有する水溶液中に含まれるSiやAlイオンを、ゲルとして除去することが可能である。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加して、固形分を洗浄することも可能である。これらのゲルはセメント原料として利用することができる。
【0028】
次いで、SiやAlイオンを除去した後のCaイオン含有水溶液のpHを、例えばpH7~10に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、PbやCrイオンなどの重金属を分離することができる。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加することも可能であり、かかる洗浄により、固形分を洗浄する。
なお、重金属を除去する前に、必要に応じて、Caイオン含有水溶液に凝集剤を添加することも可能である。例えば、高分子凝集剤または無機凝集剤があげられる。無機凝集剤としては、ポリ硫酸第二鉄、等の鉄塩、または硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、等のアルミ塩がある。高分子凝集剤としては、アニオン、ノニオン、カチオン性等のpHおよび粒子性状により適したものを用いればよく、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリアクリル酸エステル系等がある。
【0029】
さらに、前記重金属イオンが除去されたCaイオン含有水溶液のpHを11~12に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、含有されるMgイオンを、ゲルとして除去することが可能となる。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加することも可能であり、かかる洗浄により、固形分を洗浄する。
【0030】
Caイオン含有水溶液から、上記不要な不純物を分離除去した水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加することで、高純度の炭酸カルシウムが生成され、炭酸カルシウムと、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウム水溶液とに分離される。実際に、熱分析装置(TG)を用いて、550℃~800℃の重量減少から炭酸カルシウムの純度を計算すると、95.7%の値が得られた。
得られた炭酸カルシウムは、上述したプラスチック、紙、塗料などの充填材(フィラー)、また農薬・肥料などの土壌改良剤、食品添加物や化粧品原料などに利用され、本発明では、炭酸マグネシウムなどの不純物を含まない、純度の高い炭酸カルシウムが得られる。
また、これらの炭酸カルシウムは、セメント原料として利用できるだけでなく、セメントの増量材としても利用可能である。
【0031】
図2は、
図1の炭酸カルシウム生成方法に、二酸化炭素を固定化する工程方法を組み込んだものである。
なお、
図2中、二重線矢印は固体の流れ、一重線矢印は液体の流れ、点線は気体の流れを示す。
Ca溶解工程(Ca溶解手段)で使用する塩酸水は、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液をバイポーラ膜電気透析(BMED)処理(BMED処理手段)により生成している。
また、この塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、
図1の炭酸カルシウム回収工程(炭酸カルシウム回収手段)で生成される塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液が使用可能である。
【0032】
炭酸カルシウム回収工程(炭酸カルシウム回収手段)(
図2で「Ca回収」と表示)で発生する塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、必要に応じて、MF膜(ろ過膜)により微粒子を除去し、RO膜(逆浸透膜)により水溶液を濃縮するなどの前処理を施されることも可能である。
【0033】
バイポーラ膜電気透析(BMED)は電気で動作し、塩酸水以外に同時に水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液を生成する。
【0034】
水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させ、二酸化炭素を吸収し、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を生成させる。
この炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液は、
図1の炭酸カルシウム回収工程(炭酸カルシウム回収手段)に用いることが可能である。
当該二酸化炭素は、火力発電設備などの燃焼排ガスや、セメント製造設備での排ガスに含まれている二酸化炭素を使用することができ、また、大気中の二酸化炭素を直接吸収させて利用することも可能である。
【0035】
利用するCa含有廃棄物としては、上述したもの以外に、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストも好適に利用することが可能である。
これは、脱塩ダストが塩化カリウムを含有しており、矢印Aで示すように、Ca溶解工程で利用することで、塩化カリウムを含む水溶液が生成される。
このため、
図2の工程を循環する水溶液中には、塩化カリウムが塩化ナトリウムよりも多くなる。
塩化カリウムは炭酸カルシウム回収工程(炭酸カルシウム回収手段)(Ca回収)を経てバイポーラ膜電気透析(BMED)手段に導入される。塩化カリウムの濃度が高くなるに従い、BMEDでの電流効率が向上し、省電力化にも寄与する。
【0036】
また、Ca含有廃棄物にはNaを含むため、
図2のように循環利用を続けると、Naイオン濃度が上昇することとなる。このため、Naイオン濃度を一定となるように、Ca回収からBMEDに至る経路の途中でブロー排水を行う。一方、このブロー排水は、塩化カリウムも排出するため、処理プロセス(処理システム)における塩化カリウム(KCl)が不足することとなる。これを補うには、塩化カリウムを含む脱塩ダストをCa含有廃棄物として利用することがより効果的である。
【0037】
また、脱塩ダストは、
図2の矢印Bで示すように、水洗いして塩化カリウムを含む水溶液を生成し、不純物などを除去する水処理を施した後に、分離工程と炭酸カルシウム回収工程との間に供給するよう構成することも可能である。なお、
図2の処理プロセスで、脱塩ダストから得られた塩化カリウムを含む水溶液は、ブロー排水からBMEDに至る経路の途中に導入することも可能である。
水洗いした脱塩ダストは脱水し、脱水ケーキをセメント原料としてセメント製造プロセスに戻すことも可能である。
【0038】
図3乃至
図9は、一般ごみ焼却施設Aで採取したフライアッシュ(FA1)からのCa等の抽出率の時間変化を示したものである。なお、抽出率とは、「廃棄物に含有されている成分の全量に対する溶解した成分量の比」を意味する。
フライアッシュの粒度を150μm(
図3のみ)と500μmとし、水溶液の温度を常温(20℃)と40℃(
図3のみ)で、水素イオン濃度指数をpH0.5,1,2,3,6における抽出率を測定した。
図3はCa、
図4はK、
図5はCr、
図6はPb、
図7はSi、
図8はAl、
図9はMgを各々示している。
【0039】
図3を参照すると、Ca抽出に必要なpHは3以下である。
Caの抽出率は30分以降、特に60分以降は、反応時間(経過時間)による変化が緩やかになっており、Ca溶解抽出は30分以降にほぼ完了していることが理解される。
また、一般的な傾向として、pH1と3の場合を比較すると、粒度が小さくなるに従い、抽出率が高くなっており、pH1の場合を比較すると、水溶液の温度が高いほど、抽出率が高くなることが理解される。
【0040】
図4乃至
図9を参照すると、K,Cr,Pb,Si,Al,Mgのいずれにおいても、pH3以下の場合、30分経過後では、十分な溶解が見られる。このため、Caに対するこれらの不純物イオンを効果的に除去することが不可欠となる。
【0041】
図10は一般ごみ焼却施設Bから採取されたフライアッシュ(FA2)、
図11は生コン工場Aの排水工程から採取された生コンスラッジ(CS1)、
図12は生コン工場Bの排水工程から採取された生コンスラッジ(CS2)であり、各々のサンプルのCa抽出率の時間変化を示すグラフである。
水溶液のpHを0.5,1,3,6とし、粒度を150μm,500μm、水溶液温度を常温(20℃),40℃に設定している。
【0042】
図10のフライアッシュも
図3と同様に、pH3以下、より好ましくはpH1以下でCa抽出率が高くなっている。
図11や
図12の生コンスラッジでは、pH6以下でもCa抽出率が高くなっている。
いずれも30分経過後は、抽出率の変化は緩やかになっている。また、粒度が小さい方が、また水溶液の温度が高い方が溶出率は高くなる傾向がある。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、カルシウム含有廃棄物を利用し、純度の高い炭酸カルシウムを生成することが可能な炭酸カルシウム生成方法及びシステムを提供することが可能となる。
また、得られた残渣をセメント原料等に利用することが可能である。