(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035123
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】データ管理装置、試験システム、データ管理プログラム、及びデータ管理方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
G01M17/007 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141747
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】山岡 正弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 光延
(72)【発明者】
【氏名】角谷 栄二
(57)【要約】
【課題】EVやPHVの試験において、バッテリの充電量や温度の収集を自動的に収集できるようにして、ヒューマンエラーの防止やデータの信頼性の向上を図る。
【解決手段】車両又はその一部であってバッテリを備える供試体Vの充電状態を管理するデータ管理装置23であり、供試体Vが保管されるソーク室又は供試体を試験する試験室で充電されている供試体Vの充電状態を示す充電データを取得する充電状態取得部231と、バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するバッテリ温度取得部232と、充電データ及びバッテリ温度データを関連付けて出力する出力部233とを備えるようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両又はその一部であってバッテリを備える供試体の充電状態を管理するデータ管理装置であり、
前記供試体が保管されるソーク室又は前記供試体を試験する試験室で充電されている前記供試体の充電状態を示す充電データを取得する充電状態取得部と、
前記バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するバッテリ温度取得部と、
前記充電データ及び前記バッテリ温度データを関連付けて出力する出力部とを備える、データ管理装置。
【請求項2】
所定条件を満たす場合に、前記供試体の前記ソーク室におけるソークが終了していると判断するソーク終了判断部をさらに備え、
前記所定条件として、前記バッテリ温度データが示す前記バッテリの温度と前記ソーク室の設定温度との差或いは比率が所定範囲内に収まっていること、又は、前記バッテリ温度データが示す前記バッテリの温度の変化量が所定範囲内に収まっていること、又は、前記バッテリの充電が完了してから所定時間が経過していることの少なくとも何れかが含まれている、請求項1記載のデータ管理装置。
【請求項3】
前記充電状態取得部は、前記バッテリに供給される電力の挙動を示す電力波形を前記充電データとして取得し、
前記出力部が、前記電力波形又は当該電力波形に基づき得られる前記バッテリの充電量の少なくとも一方と、前記バッテリ温度データとを関連付けて出力する、請求項1又は2記載のデータ管理装置。
【請求項4】
前記バッテリに供給される電力の挙動を示す電力波形が所定の基準値以下となった回数又は時間に基づいて、前記バッテリの充電が完了しているか否かを判断する充電完了判断部をさらに備える、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載のデータ管理装置。
【請求項5】
前記供試体に電源プラグが挿し込まれているか否かを判断するプラグ監視部をさらに備え、
前記充電完了判断部は、前記プラグ監視部により前記電源プラグが前記供試体に挿し込まれていると判断され、且つ、前記電力波形が所定の基準値を所定時間に亘り下回った場合に、前記バッテリの充電が完了していると判断する、請求項4記載のデータ管理装置。
【請求項6】
前記電力波形と所定の閾値とを比較して充電状態が正常であるか否かを判断し、正常でないと判断した場合にそのことを報知する報知部をさらに備える、請求項3乃至5のうち何れか一項に記載のデータ管理装置。
【請求項7】
前記供試体への充電方法が普通充電、急速充電、又は再充電に切り替わる場合において、
前記報知部が、前記充電方法に応じて前記閾値を切り替える、請求項6記載のデータ管理装置。
【請求項8】
前記ソーク室又は前記試験室に設けられた温度センサから、前記供試体の周囲温度を示す周囲温度データ取得する周囲温度取得部をさらに備え、
前記出力部が、前記充電データ、前記バッテリ温度データ、及び前記周囲温度データを関連付けて出力する、請求項1乃至7のうち何れか一項に記載のデータ管理装置。
【請求項9】
前記出力部により出力された充電データと、前記供試体の走行距離とを関連付けて記憶するデータ管理部をさらに備える、請求項1乃至8のうち何れか一項に記載のデータ管理装置。
【請求項10】
前記バッテリの残容量を示す残容量データを取得するバッテリ残量取得部と、
前記残容量データに基づいて前記バッテリの充電が完了するまでに要する充電必要時間又は充電が完了する充電完了時刻を予測する充電完了予測部と、をさらに備える、請求項1乃至9のうち何れか一項に記載のデータ管理装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のうち何れか一項に記載のデータ管理装置と、
前記供試体が載置又は接続されるダイナモメータと、
前記データ管理装置及び前記ダイナモメータとの間でデータを授受する走行試験管理装置とを備える、試験システム。
【請求項12】
車両又はその一部であってバッテリを備える供試体の充電状態を管理するデータ管理プログラムであり、
前記供試体が保管されるソーク室又は前記供試体を試験する試験室で充電されている前記供試体の充電状態を示す充電データを取得する充電状態取得部と、
前記バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するバッテリ温度取得部と、
前記充電データ及び前記バッテリ温度データを関連付けて出力する出力部としての機能をコンピュータに発揮させる、データ管理プログラム。
【請求項13】
車両又はその一部であってバッテリを備える供試体の充電状態を管理するデータ管理方法であり、
前記供試体が保管されるソーク室又は前記供試体を試験する試験室で充電されている前記供試体の充電状態を示す充電データを取得する充電状態取得ステップと、
前記バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するバッテリ温度取得ステップと、
前記充電データ及び前記バッテリ温度データを関連付けて出力する出力ステップとを備える、データ管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ管理装置、試験システム、データ管理プログラム、及びデータ管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のデータ管理装置としては、特許文献1に示すように、例えば試験車両が保管されるソーク室の温度や試験車両の温度などを収集して管理することで、試験のトレーサビリティを取得できるように構築されたものがある。
【0003】
一方、近年では、自動車マーケットにおける電動化のニーズに伴い、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッドカー)等の電気をエネルギー源として用いる車両の試験が増加している。
【0004】
しかしながら、EVやPHVのこれまでの試験においては、計測されたバッテリの充電量を目視で確認して手書きで記録することが一般的であり、このことに起因したヒューマンエラーが生じたり、得られたデータの信頼性が損なわれたりするといった可能性がある。
【0005】
さらに、試験車両は上述したソーク室において温度管理されてはいるものの、充電時にはバッテリの温度が上昇するので、バッテリの温度がソーク室の設定温度から大きく離れている可能性がある。そうすると、例えば充電を終えた直後に試験車両をソーク室から試験室に移動させた場合など、温度管理していたはずの試験車両の温度を試験開始時まで保つことができず、やはりデータの信頼性が損なわれる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、EVやPHVの試験において、バッテリの充電量や温度の収集を自動的に収集できるようにして、ヒューマンエラーの防止やデータの信頼性の向上を図ることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係るデータ管理装置は、車両又はその一部であってバッテリを備える供試体の充電状態を管理するデータ管理装置であり、前記供試体が保管されるソーク室又は前記供試体を試験する試験室で充電されている前記供試体の充電状態を示す充電データを取得する充電状態取得部と、前記バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するバッテリ温度取得部と、前記充電データ及び前記バッテリ温度データを関連付けて出力する出力部とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
このように構成されたデータ管理装置によれば、充電データとバッテリ温度データとを関連付けて出力するので、バッテリの充電量及びバッテリの温度の自動的な収集が可能となり、従来の手書きの記録に起因するヒューマンエラーを防ぐことができ、得られたデータの信頼性の向上をも図れる。
【0010】
所定条件を満たす場合に、前記供試体の前記ソーク室におけるソークが終了していると判断するソーク終了判断部をさらに備え、前記所定条件として、前記バッテリ温度データが示す前記バッテリの温度と前記ソーク室の設定温度との差或いは比率が所定範囲内に収まっていること、又は、前記バッテリ温度データが示す前記バッテリの温度の変化量が所定範囲内に収まっていること、又は、前記バッテリの充電が完了してから所定時間が経過していることの少なくとも何れかが含まれていることが好ましい。また、所定条件はこれらの2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
これならば、バッテリの温度がソーク室の設定温度から大きく離れた状態で供試体がソーク室から試験室に移動されてしまうことを防ぐことができ、温度管理していた供試体の温度を試験開始時まで保つことができる。
【0011】
前記充電状態取得部は、前記バッテリに供給される電力の挙動を示す電力波形を前記充電データとして取得し、前記出力部が、前記電力波形又は当該電力波形に基づき得られる前記バッテリの充電量の少なくとも一方と、前記バッテリ温度データとを関連付けて出力することが好ましい。
これならば、バッテリに供給される電力又はバッテリの充電量の経時的な変化を、バッテリ温度に関連付けて記録しておくことができる。
【0012】
前記バッテリに供給される電力の挙動を示す電力波形が所定の基準値以下となった回数又は時間に基づいて、前記バッテリの充電が完了しているか否かを判断する充電完了判断部をさらに備えることが好ましい。
これならば、バッテリの充電完了をも自動的に判断することができ、オペレータが充電完了を判断しなければならないものと比べて、よりヒューマンエラーの防止やデータの信頼性の向上を図れる。
【0013】
バッテリの充電完了を自動的により正しく判断できるようにするためには、前記供試体に電源プラグが挿し込まれているか否かを判断するプラグ監視部をさらに備え、前記充電完了判断部は、前記プラグ監視部により前記電源プラグが前記供試体に挿し込まれていると判断され、且つ、前記電力波形が所定の基準値を所定時間に亘り下回った場合に、前記バッテリの充電が完了していると判断することが好ましい。
【0014】
前記電力波形と所定の閾値とを比較して充電状態が正常であるか否かを判断し、正常でないと判断した場合にそのことを報知する報知部をさらに備えることが好ましい。
これならば、例えば供試体に電源プラグが正しく挿し込まれていない場合などの異常をオペレータに知らせることができる。
【0015】
前記供試体への充電方法が普通充電、急速充電、又は再充電に切り替わる場合において、前記報知部が、前記充電方法に応じて前記閾値を切り替えることが好ましい。
これならば、報知部による異常判断を複数の充電方法において適用することができる。
【0016】
前記ソーク室又は前記試験室に設けられた温度センサから、前記供試体の周囲温度を示す周囲温度データ取得する周囲温度取得部をさらに備え、前記出力部が、前記充電データ、前記バッテリ温度データ、及び前記周囲温度データを関連付けて出力することが好ましい。
これならば、ソーク室や試験室の温度をも自動的に収集して管理できるので、トレーサビリティの高いシステムを構築することができる。
【0017】
前記出力部により出力された充電データと、前記供試体の走行距離とを関連付けて記憶するデータ管理部をさらに備えることが好ましい。
これならば、消費電力量と走行距離とに基づき得られる電力量消費率(電費)をも管理することができる。
【0018】
前記バッテリの残容量を示す残容量データを取得するバッテリ残量取得部と、前記残容量データに基づいて前記バッテリの充電が完了するまでに要する充電必要時間又は充電が完了する充電完了時刻を予測する充電完了予測部と、をさらに備えることが好ましい。
これならば、充電必要時間や充電完了時刻を予測することで、例えば試験のスケジューリングなどに資する。
【0019】
上述したデータ管理装置と、前記供試体が載置又は接続されるダイナモメータと、前記データ管理装置及び前記ダイナモメータとの間でデータを授受する走行試験管理装置とを備える、試験システムも本発明の1つである。
【0020】
また、本発明に係るデータ管理プログラムは、車両又はその一部であってバッテリを備える供試体の充電状態を管理するデータ管理プログラムであり、前記供試体が保管されるソーク室又は前記供試体を試験する試験室で充電されている前記供試体の充電状態を示す充電データを取得する充電状態取得部と、前記バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するバッテリ温度取得部と、前記充電データ及び前記バッテリ温度データを関連付けて出力する出力部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするものである。
【0021】
さらに、本発明に係るデータ管理方法は、車両又はその一部であってバッテリを備える供試体の充電状態を管理するデータ管理方法であり、前記供試体が保管されるソーク室又は前記供試体を試験する試験室で充電されている前記供試体の充電状態を示す充電データを取得する充電状態取得ステップと、前記バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するバッテリ温度取得ステップと、前記充電データ及び前記バッテリ温度データを関連付けて出力する出力ステップとを備えることを特徴とする方法である。
【0022】
このような試験システム、データ管理プログラム、及びデータ管理方法であれば、上述したデータ管理装置と同様の作用効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0023】
このように構成した本発明によれば、EVやPHV等の電気をエネルギー源として駆動する電動化車両の試験において、バッテリの充電量や温度の収集を自動的に収集できるようにして、ヒューマンエラーの防止やデータの信頼性の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態の試験システムの構成を示す模式図。
【
図2】本実施形態のデータ管理装置及び走行試験管理装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図3】バッテリに供給される電力及びバッテリの充電量の一例を示すグラフ。
【
図4】本実施形態のデータ管理装置の動作を示すフローチャート。
【
図5】バッテリに供給される電力及びバッテリの充電量の一例を示すグラフ。
【
図6】その他の実施形態のデータ管理装置及び走行試験管理装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図7】その他の実施形態のバッテリに供給される電力の具体例を示すグラフ。
【
図8】その他の実施形態のデータ管理装置及び走行試験管理装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図9】その他の実施形態のデータ管理装置及び走行試験管理装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図10】その他の実施形態のデータ管理装置及び走行試験管理装置の機能を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明に係る試験システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態の試験システム100は、電気をエネルギー源として駆動する例えばEVやPHV等の電動化車両又はその一部である供試体Vを試験するものである。以下では、供試体Vが完成車両(以下、単に車両Vともいう)の場合を取り上げて説明する。
【0027】
この試験システム100は、
図1に示すように、供試体たる車両Vを走行試験する走行試験装置1と、車両Vに搭載されているバッテリを充電する充電システム2と、走行試験1及び充電システム2との間で試験に関わる種々のデータを授受する走行試験管理装置3とを具備する。
【0028】
走行試験装置1は、
図1に示すように、試験室内に配置されたダイナモメータを備えたものであり、ここでのダイナモメータは、車両Vの車輪が載置されるローラ11と、このローラ11に接続されたモータ(図示しない)とを備えたシャシダイナモメータである。
【0029】
充電システム2は、試験前後にバッテリを充電するものであり、
図1に示すように、車両Vのバッテリに電力を供給する1又は複数の充電設備21と、充電設備21がバッテリに供給した電力量を測定する1又は複数の電力計22と、電力計22が測定した電力量を管理するデータ管理装置23とを備える。
【0030】
この充電システム2は、走行試験の種類に応じて車両Vを所定の一定温度(例えば25℃前後)に保つための、ソーク室と呼ばれる車両保管室内に設けられている。このソーク室は複数の車両Vを同時に保管できるように構成されており、走行試験前及び/又は走行試験後の車両Vは、このソーク室内に配置されて充電される。なお、充電システム2は、試験室内に設けられていても良い。
【0031】
充電設備21は、供試体のバッテリに交流又は直流の電力を供給するものであり、車両Vの充電口に一端が挿し込まれる充電ケーブルの電源プラグが差込まれる充電用コンセント211と、充電用コンセント211に電力供給線を介して接続された電源212とを備えるものである。
【0032】
充電設備21からバッテリへの充電方法としては、所定の通常電力を供給する通常充電、その通常電力よりも高い電力を供給する急速充電、電力の供給を一度停止した後に再び供給を開始する再充電などを挙げることができる。ここでの充電設備21は、上述した充電方法のうちのどの方法を用いるか、或いは、複数の方法をどのように切り替えて用いるかを、ユーザが適宜設定及び変更できるように構成されている。
【0033】
ここで、
図3のグラフは、充電設備21からバッテリに供給される電力及びバッテリの充電量の経時変化の一例を示したものである。この一例では、普通充電により充電量をフル充電する充電方法を採用しており、具体的には例えば定電力を供給することによりバッテリをフル充電にしている。
【0034】
電力計22は、充電設備21から車両Vのバッテリに供給される電力を測定するものであり、充電設備21が備える電力供給線に接続されている。
【0035】
データ管理装置23は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、A/Dコンバータ等を備えた専用又は汎用のコンピュータであり、例えばタブレット、スマートフォン、ノートパソコン等の携帯式の端末装置であり、ソーク室と試験室との間で持ち運びできるものである。
【0036】
そして、このデータ管理装置23は、内部メモリに格納された所定のプログラムに基づき、CPU及び周辺機器が協働することによって、
図2に示すように、充電状態取得部231と、バッテリ温度取得部232と、出力部233としての機能を少なくとも発揮する。
以下では、これらの機能を
図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0037】
充電状態取得部231は、ソーク室で充電されている車両Vの充電状態を示す充電データを取得するものである(S1)。なお、車両Vが試験室で充電されている場合であれば、充電状態取得部231は、この試験室で充電されている車両Vの受電状態を示す充電データを取得する。
【0038】
この充電状態取得部231は、
図2に示すように、走行試験前及び/又は走行試験後の充電時に電力計22が測定した電力に関する種々の情報を充電データとして取得する。
具体的に充電データには、バッテリの供給される電力の挙動を示す電力波形、バッテリの充電を開始した充電開始時刻、バッテリの充電を終了した充電終了時刻、バッテリが充電されている充電時間、バッテリの供給される電力の瞬時電力値、瞬時電流値、瞬時電圧値、電力量・電流・電圧の平均値、バッテリの充電量の少なくとも1つが含まれている。
【0039】
以下では、充電状態取得部231が電力波形を充電データとして取得する場合について説明する。この電力波形は、言い換えれば、バッテリに供給される電力の電力値の経時的な変化であり、ここでの充電状態取得部231は、この電力波形に基づき算出される充電量をも充電データとして取得する。なお、充電量は、例えば電力波形を充電時間で積算することにより算出することができる。
【0040】
バッテリ温度取得部232は、バッテリの温度を示すバッテリ温度データを取得するものであり、少なくとも充電中にバッテリ温度データを取得する(S2)。
【0041】
本実施形態では、
図2に示すように、車両Vにバッテリの温度を検出する温度センサTSを搭載してあり、バッテリの充電時にこの温度センサTSにより検出される温度をバッテリ温度取得部がバッテリ温度データとして取得する。なお、
図2には、バッテリに1つの温度センサTSを設けてあるが、バッテリに複数の温度センサTSを設けて、それらの温度センサTSの例えば平均値をバッテリ温度データとしても良い。また、温度センサTSは、バッテリに直接設けても良いし、バッテリの近傍に設けても良い。さらに、バッテリ温度取得部232としては、OBDからバッテリ温度データを取得するものであっても良い。
【0042】
出力部233は、充電データ及びバッテリ温度データを関連付けて出力するものであり、この実施形態では、これらの充電データ及びバッテリ温度データを関連付けて後述する走行試験管理装置3に出力する(S3)。ただし、出力部233としては、例えば充電システム2が備えるメモリ或いは例えばクラウドやUSBメモリやSDカード等の外部メモリなどのデータ記憶部に、上述した充電データ及びバッテリ温度データを関連付けて出力して記録するものであっても良い。
【0043】
具体的にこの出力部233は、充電データ及びバッテリ温度データを時刻で結び付けて出力する。すなわち、この出力部23は、充電データと、この充電データが充電状態取得部231に取得された時刻にバッテリ温度取得部232が取得したバッテリ温度データとを紐付けて出力する。
【0044】
本実施形態では、
図1に示すように、供試体たる車両Vを識別するために識別情報が供試体に予め付与されており、出力部233は、この識別情報に上述した充電データ及びバッテリ温度データを結び付けて出力することができる。
【0045】
より具体的に説明すると、本実施形態のデータ管理装置23は、
図2に示すように、上述した識別情報を取得する識別情報取得部234を備え、この識別情報取得部234が取得した識別情報を出力部233が出力するように構成されている。
【0046】
ここでは、供試体である車両Vに予め設けてある二次元コード等のシンボルSvをカメラ等の撮像手段235で読み取ることより、識別子取得部234が識別情報を取得するように構成されている。なお、識別子取得部234としては、例えば手入力された識別情報を取得するものであっても良いし、外部から送信された識別情報を取得するものであっても良い。
【0047】
さらに、本実施形態のデータ管理装置23は、
図2に示すように、充電完了判断部236、ソーク終了判断部237、及びプラグ監視部238としての機能をも備えている。ただし、データ管理装置23としては、必ずしもこれらの機能を全て備えている必要はない。
【0048】
充電完了判断部236は、電力波形が所定の基準値以下となった回数又は時間に基づいて、バッテリの充電が完了しているか否かを判断するものであり、具体的には、少なくとも電力波形に基づき判断される第1条件が満たされた場合に、バッテリの充電が完了していると判断する。
【0049】
この第1条件について説明すると、例えば電力波形が基準値を1回でも所定時間に亘り下回ったことを第1条件とすることができる。基準値は、
図3に示すように、ゼロよりもやや高い値に設定されていても良いし、図示していないがゼロに設定されていても良い。
【0050】
なお、充電方法は、
図3に示す方法に限らず、例えば
図5に示すように、普通充電により充電量をほぼフル充電にした後、複数回の再充電を繰り返すことにより、より確実にフル充電できるような充電方法も知られている。この場合の第1条件としては、例えば電力波形が基準値を所定時間に亘り下回った回数が所定回数を超えたことしても良い。
【0051】
すなわち、本実施形態の充電完了判断部236は、上述した充電データを取得するとともに、この充電データに含まれる電力波形に基づいて、第1条件が満たされているか否かを判断するように構成されている。
【0052】
ソーク終了判断部237は、所定条件を満たす場合に、ソーク室において供試体たる車両Vのソークが終了していると判断するものである。
【0053】
所定条件は、例えば車両Vがソーク室に保管されている時間が所定時間(第1時間)を超えたこと、及び/又は、上述したバッテリ温度データが示すバッテリの温度とソーク室の設定温度との差或いは比率が所定範囲内(第1範囲内)に収まっていること、及び/又は、バッテリ温度データが示すバッテリの温度の変化量が所定範囲内(第2範囲内)に収まっていること、及び/又は、バッテリの充電が完了してから所定時間(第2時間)が経過していることなどが含まれている。なお、車両VがPHVの場合、所定条件としては、車両Vの油温及び/又は水温と所定の目標温度との差又は比率が所定範囲内(第3範囲内)に収まっていることを含めることができる。
なお、第1、第2、第3範囲は、互いに異なる範囲であってもよいし、同じ範囲であってもよい。また、第1、第2時間は、互い異なる時間であってもよいし、同じ時間であってもよい。
【0054】
ここで、上述したソーク終了判断部237は、バッテリ温度データが示すバッテリの温度と、ソーク室の設定温度とを取得するとともに、これらの温度を比較して、少なくともこの比較結果に基づいて、ソークが終了しているか否かを判断するように構成されている。
【0055】
なお、ソーク終了判断部237は、上述した所定条件を満たす場合に、ソークが終了していることを、例えば音や光や画面表示などによってオペレータに報知するように構成されていても良い。
【0056】
ここで、上述した充電完了判断部236の説明に戻る。
この充電完了判断部236は、上述したように、第1条件が満たされた場合にバッテリの充電が完了していると判断するものであっても良いが、ここでは、上述した第1条件と、後述するプラグ監視部238により判断される第2条件との両条件が満たされた場合に、バッテリの充電が完了していると判断する。
【0057】
この第2条件について説明すると、この実施形態では、プラグ監視部238が、供試体たる車両Vに電源プラグが挿し込まれているか否かを判断するように構成されており、プラグ監視部238により電源プラグが車両Vに挿し込まれていると判断されたことが第2条件である。
【0058】
プラグ監視部238の具体的な態様としては、
図2に示すように、例えばOBDからプラグが挿し込まれていることを示す信号を受け付けているか否かにより、車両Vにプラグが挿し込まれているかを判断するように構成されたものを挙げることができる。
【0059】
また、プラグ監視部238の別の態様としては、例えば車両Vの充電口を撮像した画像データを取得して、その画像データに基づいて車両Vにプラグが挿し込まれているかを判断するものであっても良い。
【0060】
そして、プラグ監視部238により車両Vにプラグが差し込まれていると判断された場合に、上述した充電完了判断部236がその判断結果を受け付けて、第2条件が満たされていると判断する。
【0061】
このようにして、充電完了判断部236は、第1条件及び第2条件の両方が満たされた場合に、車両Vのバッテリの充電が完了していると判断する。
なお、充電完了判断部236としては、第2条件を考慮せず、第1条件のみが満たされた場合に、車両Vのバッテリの充電が完了していると判断するものであっても良い。
【0062】
なお、充電完了判断部236は、上述した第1条件及び第2条件が満たされた場合に、車両Vのバッテリの充電が完了していることを、例えば音や光や画面表示などによってオペレータに報知するように構成されていても良い。
【0063】
続いて、
図1に戻り、走行試験管理装置3は、上述した走行試験装置1及び充電システム2から種々の情報を収集して管理するものであり、具体的にはCPU、メモリ、入出力インターフェース、A/Dコンバータ等を備えた専用又は汎用のコンピュータである。
【0064】
そして、この走行試験管理装置3は、前記メモリに格納されたプログラムに基づき、CPU及び周辺機器が協働することによって、
図2に示すように、試験装置制御部31と、データ格納部32としての機能を少なくとも発揮する。
【0065】
試験装置制御部31は、ダイナモメータ1を制御するとともに、このダイナモメータ1に載置された車両Vを所定の走行モードで走行試験させるものである。この試験装置制御部31は、走行試験における車両Vの走行距離を示す走行距離データをデータ格納部32に出力する。なお、走行距離データが示す走行距離は、例えばダイナモメータ1のローラ11の回転数などから算出されるものであり、走行試験における車両の積算総走行距離である。
【0066】
データ格納部32は、前記メモリの所定領域に設定されており種々のデータを格納するものである。具体的にこのデータ格納部32は、上述した充電システム2の出力部233から関連付けられて出力された充電データ及びバッテリ温度データを格納するとともに、ここでは車両Vを識別する識別情報とともに格納する。さらに、このデータ格納部32は、上述した試験装置制御部31から出力された走行距離データをも、識別情報を介して充電データ及びバッテリ温度データに結び付けて格納しても良い。
【0067】
また、本実施形態の走行試験管理装置3は、
図2に示すように、電費算出部33としての機能をさらに備えている。
【0068】
この電費算出部33は、上述したデータ格納部32から走行距離データ及び充電データを取得するとともに、これらの走行距離データと充電データとを用いて走行試験における車両Vの電費を算出するものである。具体的にこの電費算出部33は、走行距離データが示す走行試験における走行距離D[km]と、充電データが示す試験後充電量E[Wh]とを用いて、以下の式(1)に基づいて電費C[Wh/km]を算出する。
C=E×/D・・・(1)
式(1)から分かるように、電費とは、1km走行当たりの交流電力消費率を意味する。
【0069】
なお、電費算出部33により算出された電費Cを示す電費データは、外部に出力されても良いし、上述した充電データ、バッテリ温度データ、及び走行距離データに結び付けてデータ格納部32に格納しても良い。
【0070】
このように構成された試験システム100によれば、充電システム2の出力部233が、充電データとバッテリ温度データとが関連付けられて出力されるので、バッテリの充電量及びバッテリの温度の自動的な収集が可能となる。これにより、従来の手書きの記録に起因するヒューマンエラーを防ぐことができるうえ、得られたデータの信頼性の向上をも図れ、さらにはペーパレス化にもつながる。
【0071】
さらに、充電完了判断部236が、電力波形が所定の基準値以下となった回数又は時間に基づいて、バッテリの充電が完了しているか否かを判断するので、バッテリの充電完了をも自動的に判断することができ、オペレータが充電完了を判断しなければならないものと比べて、よりヒューマンエラーの防止やデータの信頼性の向上を図れる。
【0072】
しかも、充電完了判断部236の判断基準として、プラグ監視部238により電源プラグが車両Vに挿し込まれていることが第2条件として設定されているので、バッテリの充電完了を自動的により正しく判断することができる。
【0073】
また、ソーク終了判断部237が、所定条件を満たす場合に、車両Vのソークが終了していると判断する構成において、その所定条件として、バッテリ温度データが示すバッテリの温度とソーク室の設定温度との差又は比率が所定範囲内に収まっていることが含まれているので、バッテリの温度がソーク室の設定温度から大きく離れた状態で試験が開始されてしまうことを防ぐことができる。これにより、試験開始時の車両Vの温度管理を担保することができる。
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0074】
例えば、データ管理装置23としては、
図6に示すように、電力波形と所定の閾値とを比較して充電状態が正常であるか否かを判断し、正常でないと判断した場合にそのことを報知する報知部23Aを備えても良い。
【0075】
充電状態が正常な場合は、
図7の上段に示すように、バッテリの充電中に供給される電力が安定しているのに対して、充電状態が異常な場合は、
図7の下段に示すように、バッテリの充電中に供給される電力が増減して不安定となる。なお、こうした電力波形を例えばデータ格納部32に格納しておき、バッテリの充電後にバッテリの充電状態を確認できるようにしても良い。
【0076】
そこで、報知部23Aとしては、充電データに含まれる電力波形を取得するとともに、この電力波形が示す電力の大きさと所定の閾値とを比較して、例えばこれらの差又は比率が許容範囲に収まっている場合には充電状態が正常であると判断し、許容範囲を超えている場合には充電状態が異常であるあと判断する態様を挙げることができる。
閾値としては、充電状態が正常な場合に供給する電力に基づき定めることができ、例えば、正常時の電力に所定割合を乗じた上限電力及び下限電力を閾値として設定しても良いし、正常時の電力に所定電力を加えた又は差し引いた上限電力及び下限電力を閾値として設定しても良い。
このような構成であれば、例えば供試体に電源プラグが正しく挿し込まれていない場合や外乱ノイズなどに起因して生じる異常をオペレータに知らせることができる。
なお、閾値としては、上述した電力の大きさに限らず、電力波形の傾きであっても良い。
【0077】
なお、上述した閾値のうち、正常時の電力に所定割合を乗じた閾値を用いる場合は、供試体への充電方法が普通充電であるか急速充電であるに関わらず、所定割合を変更することなく用いることができる。もちろん、充電方法に応じて所定割合を変更しても構わない。
【0078】
一方、上述した閾値のうち、正常時の電力に所定電力を加えた又は差し引いた閾値を用いる場合は、供試体への充電方法に応じて所定電力を変更しても構わない。具体的には、複数の充電方法それぞれに対して閾値を設けておき、報知部23Aが、設定された充電方法に対応した閾値を取得するように構成されていてもよい。
これならば、報知部23Aによる異常判断を複数の充電方法において適用することができる。
【0079】
また、データ管理装置23としては、
図8に示すように、ソーク室又は試験室に設けられた温度センサから、供試体の周囲温度を示す周囲温度データ取得する周囲温度取得部23Bをさらに備え、出力部233が、充電データ、バッテリ温度データ、及び周囲温度データを関連付けて出力しても良い。
これならば、ソーク室や試験室の温度をも自動的に収集できるので、トレーサビリティの高いシステムを構築することができる。
【0080】
さらに、データ管理装置23は、
図9に示すように、出力部233により出力された充電データと、供試体の走行距離とを関連付けて記憶するデータ管理部23Cをさらに備えていても良い。
このデータ管理部23Cは、データ管理装置23が備えるメモリの所定領域に設定されており、供試体の走行距離は、走行試験管理装置3の走行試験制御部31から取得しても良いし、データ格納部32から取得しても良い。
このような構成であれば、データ管理部23Cが、出力部233により出力された充電データと、供試体の走行距離とを関連付けて記憶するので、消費電力量と走行距離とに基づき得られる電力量消費率(電費)をも管理することができる。
なお、このデータ管理部23Cとしては、バッテリ温度取得部232が取得したバッテリ温度データや電費算出部33により算出された電費Cを示す電費データをも、充電データと関連付けて記憶するものであっても良い。
【0081】
加えて、データ管理装置23は、
図10に示すように、バッテリの残容量を示す残容量データを取得するバッテリ残量取得部23Dと、残容量データに基づいてバッテリの充電が完了するまでに要する充電必要時間又は充電が完了する充電完了時刻を予測する充電完了予測部23Eとを備えても良い。なお、残容量データは、バッテリの残容量の割合を表すSOC(State Of Charge)を示すものであっても良いし、バッテリの残容量の絶対値を示すものであっても良い。
【0082】
バッテリ残量取得部23Dとしては、例えばOBDから残容量データを取得する態様を挙げることができる。また、バッテリ残量取得部23Dの別の態様としては、例えば満充電時のバッテリ容量から、例えば走行距離に基づき求まるバッテリの使用量を差し引くなどして、バッテリの残容量を演算により求めるものであっても良い。
【0083】
また、充電完了予測部23Eは、上述した残容量データと、充電状態取得部231が取得した充電データ(具体的には、充電設備21からバッテリに供給されている電力)とに基づいて、充電必要時間又は充電完了時刻を算出し、この算出した充電必要時間又は充電完了時刻をオペレータに認識可能に出力する態様を挙げることができる。
【0084】
このような構成であれば、充電必要時間や充電完了時刻を予測することができ、例えば試験のスケジューリングなどに資する。
【0085】
また、走行試験装置1は、前記実施形態ではシャシダイナモメータを備えるものとして説明したいが、供試体たるモータが接続されるモータダイナモメータ、又は、供試体たる駆動系が接続されるパワートレインダイナモメータを備えるものであっても良い。
【0086】
前記実施形態では、出力部233が充電データ及びバッテリ温度データを関連付けて出力していたが、出力部233としては、バッテリ温度データの代わりに、又は、バッテリ温度データに加えて、周囲温度取得部23Bが取得した周囲温度データと充電データとを関連付けて出力するものであっても良い。
【0087】
また、走行試験管理装置3の機能の一部又は全部と、データ管理装置23の機能の一部又は全部とは、共通の装置に備えさせても良い。
【0088】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0089】
100・・・試験システム
1 ・・・走行試験装置
2 ・・・充電システム
3 ・・・走行試験管理装置
21 ・・・充電設備
22 ・・・電力計
23 ・・・データ管理装置
231・・・充電状態取得部
232・・・バッテリ温度取得部
233・・・出力部
234・・・識別情報取得部
235・・・撮像手段
236・・・充電完了判断部
237・・・ソーク終了判断部
238・・・プラグ監視部