(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035138
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】標的核酸の検出方法及び検出キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6816 20180101AFI20230306BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20230306BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
C12Q1/6816 Z ZNA
C12Q1/28
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141766
(22)【出願日】2021-08-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 久景
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】波多野 浩也
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
(57)【要約】
【課題】固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できる方法を提供する。
【解決手段】標的核酸の検出方法であって、DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液を固体表面上の標的核酸を含有する標的部位に噴霧するステップと、ルミノール反応液を標的部位に噴霧するステップと、標的部位においてルミノール発光を検出するステップとを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の検出方法であって、
DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液を固体表面上の標的核酸を含有する標的部位に噴霧するステップと、
ルミノール反応液を前記標的部位に噴霧するステップと、
前記標的部位においてルミノール発光を検出するステップとを含み、
前記DNAナノピンセット構造体は、第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドからなり、
前記第1オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の一端側の核酸配列と相補的な配列からなる第1標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第1結合部位とを含み、
前記第2オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の他端側の核酸配列と相補的な配列からなる第2標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第2結合部位とを含み、
前記第3オリゴヌクレオチドは、前記第1結合部位に相補的な配列からなる第3結合部位と、前記第2結合部位に相補的な配列からなる第4結合部位と、前記第3結合部位と前記第4結合部位との間に設けられた屈曲部位と、前記第3結合部位及び前記第4結合部位における前記屈曲部位と反対側にそれぞれ配置された分割グアニン四重鎖部位とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1オリゴヌクレオチドは、5’-[第1標的認識部位]-TACATTTTACGCCTGGTGCC(配列番号1)-3’の核酸配列を含み、
前記第2オリゴヌクレオチドは、5’-CCGACCGCAGGATCCTATAA(配列番号2)-[第2標的認識部位]-3’の核酸配列を含み、
前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-[第1分割グアニン四重鎖部位]-TTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTA(配列番号3)-[第2分割グアニン四重鎖部位]-3’の核酸配列を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-GGGTTGGGTTTTTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTATTTGGGTAGGG(配列番号6)-3’の核酸配列を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ルミノール発光を検出するステップは、撮像装置により前記標的部位を撮影し、前記ルミノール発光を検出するステップである請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記噴霧された前記標的部位における前記DNAナノピンセット構造体の量は0.1pmol/3.14mm2以上2.0pmol/3.14mm2以下であり、前記噴霧された前記標的部位における前記ヘミンの量は1pmol/3.14mm2以上20pmol/3.14mm2以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
標的核酸の検出キットであって、
DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液と、
ルミノール反応液とを含み、
前記DNAナノピンセット構造体は、第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドからなり、
前記第1オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の一端側の核酸配列と相補的な配列からなる第1標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第1結合部位とを含み、
前記第2オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の他端側の核酸配列と相補的な配列からなる第2標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第2結合部位とを含み、
前記第3オリゴヌクレオチドは、前記第1結合部位に相補的な配列からなる第3結合部位と、前記第2結合部位に相補的な配列からなる第4結合部位と、前記第3結合部位と前記第4結合部位との間に設けられた屈曲部位と、前記第3結合部位及び前記第4結合部位における前記屈曲部位と反対側にそれぞれ配置された分割グアニン四重鎖部位とを含み、
固体表面上の標的部位における標的核酸を検出することを特徴とするキット。
【請求項7】
前記第1オリゴヌクレオチドは、5’-[第1標的認識部位]-TACATTTTACGCCTGGTGCC(配列番号1)-3’の核酸配列を含み、
前記第2オリゴヌクレオチドは、5’-CCGACCGCAGGATCCTATAA(配列番号2)-[第2標的認識部位]-3’の核酸配列を含み、
前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-[第1分割グアニン四重鎖部位]-TTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTA(配列番号3)-[第2分割グアニン四重鎖部位]-3’の核酸配列を含む請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-GGGTTGGGTTTTTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTATTTGGGTAGGG(配列番号6)-3’の核酸配列を含む請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液を前記標的部位に噴霧したときの、前記標的部位上の前記DNAナノピンセット構造体の量は0.1pmol/3.14mm2以上2.0pmol/3.14mm2以下であり、前記標的部位上の前記ヘミンの量は1pmol/3.14mm2以上20pmol/3.14mm2以下である請求項6~8のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸の検出方法及び検出キットに関し、特に固体表面上の標的核酸の検出方法及び検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA及びRNAなどの標的核酸を特異的に検出する方法は、食品安全性又は環境汚染問題に対する調査目的として使用されるにとどまらず、細菌感染症又は昨今において世界中に感染が拡大しているコロナウイルスを始めとするウイルス感染症を患った患者における診断目的として使用されることもあるため重要な技術とされている。とりわけ、細菌又はウイルスは、皮膚又は被服などの固体表面上に付着することが多いため、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できる方法を開発することができれば、短時間で標的核酸の有無を検査できることから大変有用な技術となり得る。しかしながら、以下で詳述するように、従来においては、固体表面の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出する専用の方法はほとんど開発されてこなかった。また、固体表面上の標的核酸の直接的な検出方法の開発についての思想もほとんど存在していなかった。
【0003】
従来において、固体表面の標的核酸を検出する方法としては、固体表面から標的核酸を含む試料を採取し、採取した試料を水溶液中に溶解させた後にPCR法などによって標的核酸を増幅させ、核酸クロマト法により標的核酸を検出する方法が一般に行われていた。
【0004】
例えば特許文献1には、標的核酸含有試料中の標的核酸を特異的に検出又は定量するための方法が記載されており、標的核酸含有試料中より任意に抽出された標的核酸を1本鎖核酸として増幅する工程、該増幅産物をクロマトグラフィーにより検出する工程及び該検出像を目視判定により評価する工程を含む核酸の検出又は定量方法が記載されている。また、増幅する工程では、例えばNASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法が好適であることが記載されている。
【0005】
特許文献1において開示されている標的核酸の検出方法は、標的核酸の検出までの時間が早く、標的核酸を検出キットに滴下してから10~20分程度で検出が完了する点で非常に有用である。一方、特許文献1に係る標的核酸の検出方法では、固体表面上に存在する標的核酸を含む試料を水溶液中に採取して溶解させた標的核酸含有試料を一度作製し、抽出などの操作を行う必要がある。特に、特許文献1に係る標的核酸の検出方法では、NASBA法により標的核酸を水溶液中で増幅させる工程が必要であり、増幅した標的核酸をクロマトグラフィーにより検出する工程も必要であるため、標的核酸を検出するためには一定のステップ数が必要とされていた。また、上記検出方法を実施するためには、標的核酸に相補的な第1のオリゴヌクレオチドプローブと着色高分子担体で標識した、標的核酸に相補的な第2のオリゴヌクレオチドプローブを別途調製してメンブレン上に固定した検出キットを事前に作製する必要があることから事前準備において手間とコストがかかり、まだ改善の余地が残されていた。
【0006】
一方、非特許文献1、2には、DNAナノピンセット構造体を利用した標的核酸の検出方法が開示されている。非特許文献1において、該DNAナノピンセット構造体は、標的核酸の3’側の配列に相補的な配列(第1標的認識部位)を含む第1オリゴヌクレオチドと、標的核酸の5’側の配列に相補的な配列(第2標的認識部位)を含む第2オリゴヌクレオチドと、分割グアニン四重鎖部位を含む第3オリゴヌクレオチドとが自己集積してなる構造体である。該構造体は、屈曲部を中央に含む略V字形状の第3オリゴヌクレオチドに対して、屈曲部を挟んでそれぞれ反対側の領域に第1オリゴヌクレオチドと第2オリゴヌクレオチドとが結合されており、平常時は上記の通り略V字状に拡がった構造(オープン状態)となっている。非特許文献1には、このDNAナノピンセット構造体が、第1標的認識部位及び第2標的認識部位の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する標的核酸を認識した場合に、上記オープン状態から略V字状構造の両端が互いに近接して閉じた状態(クローズド状態)となることが開示されている。また、クローズド状態になることにより、該DNAナノピンセット構造体における分割グアニン四重鎖部位が近接し、この分割グアニン四重鎖部位にヘミンが結合することでペルオキシダーゼ活性を示すようになること、及びこのペルオキシダーゼ活性を2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)を用いた比色分析により確認されたことなどが非特許文献1、2において本発明者らにより報告されている。なお、非特許文献2では、上記非特許文献1に記載されている引用文献情報の修正が行われている。
【0007】
また、非特許文献3には、分割グアニン四重鎖を組み込んだDNAナノピンセット構造体であるグアニン四重鎖ピンセット構造体であって、分割DNAアプタマーを第1標的認識部位及び第2標的認識部位に組み込んだグアニン四重鎖ピンセット構造体が開示されている。非特許文献3では、マラリアのバイオマーカーである乳酸脱水素酵素(PfLDH)の存在下で該ピンセット構造体が閉じることが開示されている。さらに非特許文献3において、該ピンセット構造体が閉じたものはグアニン四重鎖ヘミンを介してペルオキシダーゼ活性が発現し、このペルオキシダーゼ活性は比色分析により観察されたことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Keisuke Nakatsuka,Hajime Shigeto,Akio Kuroda,Hisakage Funabashi,“A split G-quadruplex-based DNA nano-tweezers structure as a signal-transducing molecule for the homogeneous detection of specific nucleic acids”,Biosens. Bioelectron.,74,222-226(2015).
【非特許文献2】Keisuke Nakatsuka,Hajime Shigeto,Akio Kuroda,Hisakage Funabashi,“Corrigendum to “A split G-quadruplex-based DNA nano-tweezers structure as a signal-transducing molecule for the homogeneous detection of specific nucleic acids” [Biosens. Bioelectron. 74 (2015) 222-226]”,Biosens Bioelectron. 2017 Aug 15;94:729. doi: 10.1016/j.bios.2017.03.019.
【非特許文献3】Shiu,S.C.C.,Cheung,Y.W.,Dirkzwager,R.M.,Liang,S.,Kinghorn,A.B.,Fraser,L.A.,Tang,M.S.L.,Tanner,J.A.,“Aptamer-mediated protein molecular recognition driving a DNA tweezer nanomachine.”,Adv. Biosyst. 2017,1,1600006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来行われている特許文献1などの標的核酸の検出方法では、上述の通り、固体表面上に存在する標的核酸を含む試料を水溶液中に採取して溶解させた標的核酸含有試料を一度作製し、抽出などの操作を行う必要があるため、水溶液中において様々な反応又は操作を行う必要がある。このため、固体表面において標的核酸を直接的に検出することはできないという課題があった。また、固体表面上の標的核酸を検出するまでに一定のステップ数が必要となり、検出キットを事前に作製する必要もあることから事前準備において手間とコストがかかり、改善の余地が残されていた。そのため、固体表面上の標的核酸を一度採取して水溶液に溶解させるステップ及び水溶液中の標的核酸を増幅させるステップを経ることなく、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できる方法の開発が強く望まれていた。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できる方法を提供することにある。とりわけ、従来技術において課題とされていた、標的核酸を含む水溶液中において様々な反応又は操作を行うステップの必要性を取り除いて、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できる方法を提供することにある。これにより、わざわざ標的核酸を含む水溶液中において反応又は操作を行う必要がなくなり、標的核酸の検出完了までに要する時間を格段に短くすることができる。加えて、より簡易に標的核酸の検出が可能となるため、検出に要する手間とコストを大幅に削減することができる。また、標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できることから、例えば手すりや机のどの部分に標的核酸が付着しているかといったような、標的核酸が存在する場所についての情報も得やすいため、従来の検出方法と比較して、利便性が非常に高い標的核酸の検出方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、DNAナノピンセット構造体が標的核酸を認識してクローズド状態となった後にヘミンが結合することにより発現するペルオキシダーゼ活性とルミノール反応を組み合わせることにより、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できることを見出して本発明を完成した。
【0013】
具体的に、本発明に係る標的核酸の検出方法は、DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液を固体表面上の標的核酸を含有する標的部位に噴霧するステップと、ルミノール反応液を前記標的部位に噴霧するステップと、前記標的部位においてルミノール発光を検出するステップとを含み、前記DNAナノピンセット構造体は、第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドからなり、前記第1オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の一端側の核酸配列と相補的な配列からなる第1標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第1結合部位とを含み、前記第2オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の他端側の核酸配列と相補的な配列からなる第2標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第2結合部位とを含み、前記第3オリゴヌクレオチドは、前記第1結合部位に相補的な配列からなる第3結合部位と、前記第2結合部位に相補的な配列からなる第4結合部位と、前記第3結合部位と前記第4結合部位との間に設けられた屈曲部位と、前記第3結合部位及び前記第4結合部位における前記屈曲部位と反対側にそれぞれ配置された分割グアニン四重鎖部位とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る標的核酸の検出方法によると、DNAナノピンセット構造体における第1標的認識部位及び第2標的認識部位が固体表面上の標的核酸を認識してクローズド状態となった場合、該構造体にさらにヘミンが結合してペルオキシダーゼ活性を示すようになる。そうすると、ルミノール反応が進行するため、ルミノール発光がヘミン単体の場合よりも強く検出された場合に標的核酸を検出できたと判定することができる。本発明に係る標的核酸の検出方法では、DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液並びにルミノール反応液を、標的核酸を含む標的部位にそれぞれ噴霧してルミノール発光を検出するだけで固体表面上の標的核酸を直接検出することができる。このため、従来の検出方法において必要とされていた、固体表面から標的核酸を含む試料を採取して水溶液に溶解させるステップ及び水溶液中の標的核酸を増幅させるステップを経ることなく、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出することができる。また、標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できることから、例えば手すりや机のどの部分に標的核酸が付着しているかといったような、標的核酸が存在する場所についての情報も得やすいため、利便性が高い標的核酸の検出方法を提供することができる。
【0015】
本発明に係る標的核酸の検出方法において、前記第1オリゴヌクレオチドは、5’-[第1標的認識部位]-TACATTTTACGCCTGGTGCC(配列番号1)-3’の核酸配列であり、前記第2オリゴヌクレオチドは、5’-CCGACCGCAGGATCCTATAA(配列番号2)-[第2標的認識部位]-3’の核酸配列であり、前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-[第1分割グアニン四重鎖部位]-TTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTA(配列番号3)-[第2分割グアニン四重鎖部位]-3’の核酸配列とすることができる。また、前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-GGGTTGGGTTTTTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTATTTGGGTAGGG(配列番号6)-3’の核酸配列とすることができる。
【0016】
本発明に係る標的核酸の検出方法において、前記ルミノール発光を検出するステップは、撮像装置により前記標的部位を撮影し、前記ルミノール発光を検出するステップとすることができる。
【0017】
ルミノール発光の検出をデジタルカメラ又はスマートフォンなどの撮像装置による撮影で行うことにより標的核酸の検出を簡易に行うことができ、ルミノール発光の検出記録を鮮明な画像データとして残すことができる。
【0018】
本発明に係る標的核酸の検出方法において、前記噴霧された前記標的部位における前記DNAナノピンセット構造体の量は0.1pmol/3.14mm2以上2.0pmol/3.14mm2以下であり、前記噴霧された前記標的部位における前記ヘミンの量は1pmol/3.14mm2以上20pmol/3.14mm2以下とすることができる。
【0019】
噴霧された標的部位におけるDNAナノピンセット構造体及びヘミンの量を上記範囲内とすることにより、DNAナノピンセット構造体、標的核酸、及びヘミンが結合したものによるルミノール発光の強度を十分にすることができる。また、上記範囲内ではヘミン単体によるルミノール発光の強度を抑え、標的核酸を含有しない標的部位におけるヘミン単体でのルミノール発光の検出による標的核酸の誤検出を防ぐことができる。そのため、固体表面上の標的核酸の検出を精度良く行うことができる。
【0020】
本発明に係る標的核酸の検出キットにおいて、DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液と、ルミノール反応液とを含み、前記DNAナノピンセット構造体は、第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドからなり、前記第1オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の一端側の核酸配列と相補的な配列からなる第1標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第1結合部位とを含み、前記第2オリゴヌクレオチドは、前記標的核酸の他端側の核酸配列と相補的な配列からなる第2標的認識部位と、前記第3オリゴヌクレオチドと結合するための第2結合部位とを含み、前記第3オリゴヌクレオチドは、前記第1結合部位に相補的な配列からなる第3結合部位と、前記第2結合部位に相補的な配列からなる第4結合部位と、前記第3結合部位と前記第4結合部位との間に設けられた屈曲部位と、前記第3結合部位及び前記第4結合部位における前記屈曲部位と反対側にそれぞれ配置された分割グアニン四重鎖部位とを含み、固体表面上の標的部位における標的核酸を検出することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る標的核酸の検出キットによると、DNAナノピンセット構造体における第1標的認識部位及び第2標的認識部位が固体表面上の標的核酸を認識してクローズド状態となった場合、該構造体にさらにヘミンが結合してペルオキシダーゼ活性を示すようになる。そうすると、ルミノール反応が進行するため、ルミノール発光がヘミン単体の場合よりも強く検出された場合に標的核酸を検出できたと判定することができる。また、本発明に係る標的核酸の検出キットによると、該キットに含まれているDNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液並びにルミノール反応液を、標的核酸を含む標的部位にそれぞれ噴霧してルミノール発光を検出するだけで固体表面上の標的核酸を直接検出することができる。このため、従来の検出方法において必要とされていた、固体表面から標的核酸を含む試料を採取して水溶液に溶解させるステップ及び水溶液中の標的核酸を増幅させるステップを経ることなく、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出することができる。また、標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できることから、例えば手すりや机のどの部分に標的核酸が付着しているかといったような、標的核酸が存在する場所についての情報も得やすいため、利便性が高い標的核酸の検出キットを提供することができる。
【0022】
本発明に係る標的核酸の検出キットにおいて、前記第1オリゴヌクレオチドは、5’-[第1標的認識部位]-TACATTTTACGCCTGGTGCC(配列番号1)-3’の核酸配列であり、前記第2オリゴヌクレオチドは、5’-CCGACCGCAGGATCCTATAA(配列番号2)-[第2標的認識部位]-3’の核酸配列であり、前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-[第1分割グアニン四重鎖部位]-TTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTA(配列番号3)-[第2分割グアニン四重鎖部位]-3’の核酸配列とすることができる。また、前記第3オリゴヌクレオチドは、5’-GGGTTGGGTTTTTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTATTTGGGTAGGG(配列番号6)-3’の核酸配列とすることができる。
【0023】
本発明に係る標的核酸の検出キットにおいて、前記DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液を前記標的部位に噴霧したときの、前記標的部位上の前記DNAナノピンセット構造体の量は0.1pmol/3.14mm2以上2.0pmol/3.14mm2以下であり、前記標的部位上の前記ヘミンの量は1pmol/3.14mm2以上20pmol/3.14mm2以下とすることができる。
【0024】
噴霧された標的部位上のDNAナノピンセット構造体及びヘミンの量を上記範囲内とすることにより、DNAナノピンセット構造体、標的核酸、及びヘミンが結合したものによるルミノール発光の強度を十分にすることができる。また、上記範囲内では、ヘミン単体によるルミノール発光の強度を抑え、ヘミン単体によるルミノール発光の検出による標的核酸の誤検出を防ぐことができる。そのため、固体表面上の標的核酸の検出を精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る標的核酸の検出方法及びキットによると、DNAナノピンセット構造体における第1標的認識部位及び第2標的認識部位が固体表面上の標的核酸を認識してクローズド状態となった場合、該構造体にさらにヘミンが結合してペルオキシダーゼ活性を示すようになる。そうすると、ルミノール反応が進行するため、ルミノール発光がヘミン単体の場合よりも強く検出された場合に標的核酸を検出できたと判定することができる。本発明に係る標的核酸の検出方法及びキットでは、DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液並びにルミノール反応液を、標的核酸を含む標的部位にそれぞれ噴霧してルミノール発光を検出するだけで固体表面上の標的核酸を直接検出することができる。このため、従来の検出方法において必要とされていた、固体表面から標的核酸を含む試料を採取して水溶液に溶解させるステップ及び水溶液中の標的核酸を増幅させるステップを経ることなく、固体表面上の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出することができる。また、標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できることから、例えば手すりや机のどの部分に標的核酸が付着しているかといったような、標的核酸が存在する場所についての情報も得やすいため、利便性が高い標的核酸の検出方法及びキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る標的核酸の検出方法におけるDNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液を標的部位に噴霧するステップを説明するための概要図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る標的核酸の検出方法におけるルミノール反応液を標的部位に噴霧するステップを説明するための概要図である。
【
図3】本実施形態で用いるDNAナノピンセット構造体の自己形成を説明する概要図である。
【
図4】本実施形態で用いるDNAナノピンセット構造体の基本動作原理を説明する概要図である。
【
図5】実施例1において作製した固体表面を示す写真である。
【
図6】実施例1に係る標的核酸の検出方法を行ったときの固体表面上のルミノール発光を示す写真である。(A)はデジタルカメラでルミノール発光を撮影した写真であり、(B)は
図6Aに各スポットの位置を表した写真である。
【
図7】実施例1に係る標的核酸の検出方法において用いたDNAナノピンセット構造体と標的核酸の構造を示す概要図である。
【
図8】実施例2において作製した固体表面を示す写真である。
【
図9】実施例2に係る標的核酸の検出方法を行ったときの固体表面上のルミノール発光を示す写真である。(A)はデジタルカメラでルミノール発光を撮影した写真であり、(B)は
図9Aに各スポットの位置を表した写真である。
【
図10】参考例1における固体表面上のルミノール発光を撮影した写真である。
【
図11】参考例2において作製した固体表面を示す写真である。
【
図12】参考例2における固体表面上のルミノール発光を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
本発明の一実施形態に係る標的核酸の検出方法は、
図1に示すように、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18を固体表面19上の標的核酸13を含有する標的部位20に、噴霧器17などを用いて噴霧するステップを備えている。また、
図2に示すように、ルミノール反応液21を標的部位20に噴霧するステップを備えており、図示しないが、標的部位20においてルミノール発光を検出するステップを備えている。
【0029】
図3に示すように、本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1は、第1オリゴヌクレオチド2、第2オリゴヌクレオチド3及び第3オリゴヌクレオチド4が自己集積してなる構造体である。
【0030】
図3、4に示すように、本実施形態において、第1オリゴヌクレオチド2は、標的核酸13の一端側(例えば3’側)の核酸配列14と相補的な配列からなる第1標的認識部位5と、第3オリゴヌクレオチド4の第3結合部位9と結合するための第1結合部位6とを備えるオリゴヌクレオチドである。例えば、第1オリゴヌクレオチド2は、5’-[第1標的認識部位]-TACATTTTACGCCTGGTGCC-3’の核酸配列を有するオリゴヌクレオチドを用いることができる。ここで、「5’-[第1標的認識部位]-TACATTTTACGCCTGGTGCC-3’」は、TACATTTTACGCCTGGTGCC(配列番号1)の5’側に第1標的認識部位5となる配列が配置された核酸配列を意味する。当該配列において、第1標的認識部位5となる配列と配列番号1の配列とは、それらの間にヌクレオチドは含まれずに連続していてもよく、また、それらの間には数塩基、例えば5塩基以下、好ましくは2塩基以下、最も好ましくは1塩基含まれていてもよい。また、第1標的認識部位5は、標的核酸13の一端側の核酸配列14と結合するために、上述の通り、標的核酸13の一端側の核酸配列14と相補的な配列からなるが、本実施形態において、当該相補的な配列は、標的核酸13の一端側の核酸配列14と結合できる限り、相補的な配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する配列を含む。また、当該相補的な配列とのTm値が30℃以上、好ましくは38℃以上、最も好ましくは44℃以上の配列を含む。
【0031】
図3、4に示すように、本実施形態において、第2オリゴヌクレオチド3は、標的核酸13の他端側(例えば5’側)の核酸配列15と相補的な配列からなる第2標的認識部位7と、第3オリゴヌクレオチド4の第4結合部位10と結合するための第2結合部位8とを備えるオリゴヌクレオチドである。例えば、第2オリゴヌクレオチド3は、5’-CCGACCGCAGGATCCTATAA-[第2標的認識部位]-3’の核酸配列を有するオリゴヌクレオチドを用いることができる。ここで、「5’-CCGACCGCAGGATCCTATAA-[第2標的認識部位]-3’」は、CCGACCGCAGGATCCTATAA(配列番号2)の3’側に第2標的認識部位7となる配列が配置された核酸配列を意味する。当該配列において、第2標的認識部位7となる配列と配列番号2の配列とは、それらの間にヌクレオチドは含まれずに連続していてもよく、また、それらの間には数塩基、例えば5塩基以下、好ましくは2塩基以下、最も好ましくは1塩基含まれていてもよい。また、第2標的認識部位7は、標的核酸13の他端側の核酸配列15と結合するために、上述の通り、標的核酸13の他端側の核酸配列15と相補的な配列からなるが、本実施形態において、当該相補的な配列は、標的核酸13の他端側の核酸配列15と結合できる限り、相補的な配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する配列を含む。また、当該相補的な配列とのTm値が30℃以上、好ましくは38℃以上、最も好ましくは44℃以上の配列を含む。
【0032】
本実施形態において、第1オリゴヌクレオチド2の第1標的認識部位5及び第2オリゴヌクレオチド3の第2標的認識部位7の核酸配列を適宜変更することにより、様々な種類の標的核酸13を検出できる。そのため、検出目的としている標的核酸13の核酸配列に合わせて、第1標的認識部位5及び第2標的認識部位7の核酸配列を設計することが好ましい。
【0033】
図3、4に示すように、本実施形態において、第3オリゴヌクレオチド4は、第1結合部位6に相補的な配列からなる第3結合部位9と、第2結合部位8に相補的な配列からなる第4結合部位10と、第3結合部位9と第4結合部位10との間に設けられた屈曲部位11と、第3結合部位9及び第4結合部位10における屈曲部位11と反対側にそれぞれ配置された分割グアニン四重鎖部位12とを備えるオリゴヌクレオチドである。
【0034】
屈曲部位11は1つ以上の核酸塩基からなり、DNAナノピンセット構造体1を略V字状構造にさせるための部位である。屈曲部位11の塩基数は、好ましくは5塩基以下、より好ましくは2塩基以下、最も好ましくは1塩基含まれていてもよい。本実施形態において、屈曲部位11は、例えばアデニン(A)、ビオチン化チミン(T)又はアミノ基を修飾したチミン(T)を用いることができる。また、屈曲部位11はアデニン(A)であることが好ましい。本実施形態に係る標的核酸の検出方法では、略V字状構造であるDNAナノピンセット構造体1のオープン状態とクローズド状態間の構造変化を利用して標的核酸13を検出するため、屈曲部位11の存在は重要である。
【0035】
分割グアニン四重鎖部位12は、グアニン四重鎖を2つに分割した部位を指す。本実施形態において、グアニン四重鎖を2つに分割した部位をそれぞれ第1分割グアニン四重鎖部位及び第2分割グアニン四重鎖部位とする。なお、本明細書において「グアニン四重鎖」とは、4つのグアニンにより形成する平面構造が重なり合ってできる核酸の特殊構造のことを指す。分割グアニン四重鎖部位12は、例えばGGGの塩基配列を2つずつ有する核酸配列とすることができる。この場合には分割グアニン四重鎖部位12は全体としてGGGの塩基配列を4つ有することになる。具体的には、分割グアニン四重鎖部位12は、5’-GGGXXGGG-3’の核酸配列を2つ有するものとすることができ、ここでXはアデニン(A)、チミン(T)及びシトシン(C)からなる群から選択することができる。より具体的には、分割グアニン四重鎖部位12は、5’-GGGTTGGG-3’及び5’-GGGTAGGG-3’の核酸配列とすることができる。また、本実施形態において、分割グアニン四重鎖部位12は、5’-GGGXXGGG-3’の3’側と第4結合部位10との間、及び5’-GGGXXGGG-3’の5’側と第3結合部位9との間にヌクレオチドは含まれずに連続していてもよく、また、それらの間には数塩基、例えば5塩基以下、好ましくは1塩基以上、最も好ましくは3塩基のX(「XXX」の配列)が含まれていてもよい。このようなヌクレオチドは、例えばリンカーとしての機能を有する。
【0036】
本実施形態において、分割グアニン四重鎖部位12は、例えばGGGの塩基配列を3つ有する核酸配列とGGGの塩基配列を1つ有する核酸配列とすることもできる。この場合にも分割グアニン四重鎖部位12は全体としてGGGの塩基配列を4つ有することになる。具体的には、分割グアニン四重鎖部位12は、5’-GGGXXGGGXXGGG-3’及び5’-GGG-3’の核酸配列を有するものとすることができ、ここで、Xはアデニン(A)、チミン(T)及びシトシン(C)からなる群から選択することができる。また、5’-GGGXXGGGXXGGG-3’及び5’-GGG-3’の核酸配列は、いずれの核酸配列を第3オリゴヌクレオチド4の5’末端側に配置してもよい。なお、第3オリゴヌクレオチド4の5’末端側に配置されなかった、もう片方の核酸配列が、第3オリゴヌクレオチド4の3’末端側に配置されることになる。本実施形態において、分割グアニン四重鎖部位12と第3結合部位9との間にヌクレオチドは含まれずに連続していてもよく、また、それらの間には数塩基、例えば5塩基以下、好ましくは1塩基以上、最も好ましくは3塩基のX(「XXX」の配列)が含まれていてもよい。また、分割グアニン四重鎖部位12と第4結合部位10との間も同様であり、ヌクレオチドは含まれずに連続していてもよく、また、それらの間には数塩基、例えば5塩基以下、好ましくは1塩基以上、最も好ましくは3塩基のX(「XXX」の配列)が含まれていてもよい。
【0037】
例えば、第3オリゴヌクレオチド4は、5’-[第1分割グアニン四重鎖部位]-TTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTA-[第2分割グアニン四重鎖部位]-3’の核酸配列を有するオリゴヌクレオチドを用いることができる。ここで、「5’-[第1分割グアニン四重鎖部位]-TTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTA-[第2分割グアニン四重鎖部位]-3’」は、TTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTA(配列番号3)の5’側に第1分割グアニン四重鎖部位となる配列が配置され、且つ3’側に第2分割グアニン四重鎖部位となる配列が配置された核酸配列を意味する。当該配列において、第1分割グアニン四重鎖部位又は第2分割グアニン四重鎖部位となる配列と配列番号3の配列とは、それらの間にヌクレオチドは含まれずに連続していてもよく、また、それらの間には数塩基、例えば5塩基以下、好ましくは2塩基以下、最も好ましくは1塩基含まれていてもよい。
【0038】
本実施形態で用いるDNAナノピンセット構造体1の自己形成の概要を
図3に示す。
図3に示すように、第1オリゴヌクレオチド2、第2オリゴヌクレオチド3及び第3オリゴヌクレオチド4を1つの容器内で混合させた場合、それらは自己集積する。具体的には、第1オリゴヌクレオチド2の第1結合部位6と第3オリゴヌクレオチド4の第3結合部位9が互いに結合し、第2オリゴヌクレオチド3の第2結合部位8と第3オリゴヌクレオチド4の第4結合部位10が互いに結合するため、オープン状態のDNAナノピンセット構造体1が自己形成される。なお、DNAナノピンセット構造体1を自己形成させるためには、塩水溶液中で第1オリゴヌクレオチド2、第2オリゴヌクレオチド3及び第3オリゴヌクレオチド4を混合させることが好ましい。塩水溶液は、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることができる。
【0039】
本実施形態で用いるDNAナノピンセット構造体1の基本動作原理の概要を
図4に示す。
図4に示すように、DNAナノピンセット構造体1は、通常時はピンセット構造の両端が離れたオープン状態をとっており、このオープン状態にある該構造体はヘミン16との結合能を有していない(
図4左側)。そのため、オープン状態にあるDNAナノピンセット構造体1はペルオキシダーゼ活性を示さない。一方、DNAナノピンセット構造体1が標的核酸13を認識した場合、該構造体はクローズド状態へと構造変化を起こす(
図4右側)。その結果、ピンセット構造の両端に位置する分割グアニン四重鎖部位12が互いに近接する。この構造変化により、DNAナノピンセット構造体1におけるヘミン16への結合能が回復してペルオキシダーゼ活性を示すようになる。
【0040】
本実施形態で用いるヘミンは、下記の化学構造を有する化合物であり、塩素イオンが1個配位したポルフィリンの3価鉄錯体である。
【0041】
【0042】
本実施形態では、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18として調製することが好ましい。これにより、DNAナノピンセット構造体1を含む溶液とヘミン16を含む溶液を標的部位20に対してそれぞれ噴霧する必要がなくなり簡便である。一方、DNAナノピンセット構造体1を含む溶液とヘミン16を含む溶液を別々の溶液として調製してもよい。DNAナノピンセット構造体1とヘミン16を1つの溶液内で共存させることが難しい場合に好適である。なお、これらの溶液の調製方法は特に限定されない。
【0043】
本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1とヘミン16を含む溶液18の主な溶媒としては塩水溶液を用いることができ、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることができる。本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1は塩水溶液中において自己形成されることから、DNAナノピンセット構造体1とヘミン16を含む溶液18の溶媒としては少なくとも塩水溶液を含むことが好ましい。塩水溶液に用いる水は、純水であることが好ましく、超純水を用いることがより好ましい。超純水は、例えばMilliQ水などを用いることができる。なお、本明細書において「MilliQ水」とは、MERCK株式会社製の超純水装置Milli-Q(登録商標)を用いて得られた超純水のことを指す。また、本明細書において「超純水」とは、比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を意味する。また、塩水溶液に加えて、他の溶媒をさらに含むものであってもよい。他の溶媒は特に限定されないが、例えば、他の溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)又はエタノールなどのアルコール溶媒といった有機溶媒を含んでいても構わない。なお、他の溶媒は1種類に限定されず、有機溶媒を2種類以上含むものであってもよい。また、ヘミン16は、水への溶解度が低いため、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒に溶解させ、ヘミン溶液をあらかじめ調製し、貯蔵しておくことが好ましい。DNAナノピンセット構造体とヘミンを含む溶液18を調製する際には、このヘミン溶液を適宜希釈して使用することができる。また、本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1を含む溶液とヘミン16を含む溶液を別々に調製しておき、これらの溶液を混合させることでDNAナノピンセット構造体1とヘミン16を含む溶液18を調製するものであってもよい。これらの溶液を混合する際には、適宜希釈して混合させることができる。
【0044】
本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18は、緩衝剤、塩及び界面活性剤の少なくとも1つをさらに含むものであってもよい。緩衝剤はトリス塩酸緩衝液(Tris-HCl)などを含み、塩は塩化アンモニウム(NH4Cl)及び塩化カリウム(KCl)などを含み、並びに界面活性剤はポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)などを含む。また、本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18は、塩として塩化カリウム(KCl)をさらに含むことが好ましい。DNAナノピンセット構造体1の分割グアニン四重鎖部位12がペルオキシダーゼ活性を十分に発揮することができるため好適である。これにより、DNAナノピンセット構造体1によるルミノール発光の強度がより十分となり、ヘミン16単体によるルミノール発光との区別をつけやすくなるため好ましい。
【0045】
本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18の濃度は特に限定されず適宜変更することができる。好ましくは、DNAナノピンセット構造体1の濃度が50nM以上1μM以下であり、ヘミン16の濃度が100nM以上2μM以下である。
【0046】
本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18を噴霧する際に用いる噴霧器17は、市販されている噴霧器などを使用できる。なお、溶液を入れる前に噴霧器17の中身を洗浄しておくことが好ましい。また、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18を標的部位20に噴霧する直前に該溶液を含む噴霧器17を十分に振っておくことが好ましい。これにより、該溶液中のヘミン16の濃度が均一となり、標的核酸13を誤検出してしまうことを防ぐことができる。
【0047】
本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18の噴霧量は特に限定されないが、50mm×50mmの正方形範囲に対して0.5mL以上1mL以下とすることが好ましい。DNAナノピンセット構造体1、標的核酸13及びヘミン16が結合した構造体によるルミノール発光の強度が十分となり、他方でヘミン16単体でのルミノール発光の強度は低くなるため、標的核酸13を誤検出する可能性が低くなり好適である。図示しないが、噴霧量の調節は、噴霧器17のサイズ又は噴霧器17に備えられる噴霧量調節器などによって行うことができる。
【0048】
本実施形態において、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18を固体表面19上の標的部位20に噴霧したときの、標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1とヘミン16の量は適宜変更することができる。また、ルミノール反応液21の噴霧量及び撮影条件を適宜変更し、DNAナノピンセット構造体1、標的核酸13及びヘミン16が結合した構造体のルミノール発光とヘミン16単体のルミノール発光の区別をつけることができる限り、上記の量の上限値及び下限値は特に限定されない。例えば、標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1の量は、0.1pmol/3.14mm2以上2.0pmol/3.14mm2以下とすることができる。但し、標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1の量が0.1pmol/3.14mm2未満であっても、上述したように、標的部位20上のヘミン16の量を少なくし、撮影条件を高感度化することで該結合した構造体のルミノール発光とヘミン16単体のルミノール発光との区別をつけることができるため、下限値を限定するものではない。上限値も同様であり、特に限定されない。一方、標的部位20上のヘミンの量は、例えば1pmol/3.14mm2以上20pmol/3.14mm2以下とすることができる。しかし、標的部位20上のヘミン16の量はルミノール反応液21の噴霧量ならびに撮影条件を適宜変更し、DNAナノピンセット構造体1、標的核酸13及びヘミン16が結合した構造体のルミノール発光とヘミン16単体のルミノール発光の区別をつけることができる限り、上限値、下限値は特に限定されない。例えば、ヘミンの量が20pmol/3.14mm2を超える場合、ヘミン16単体によるルミノール発光が比較的強く検出されるためバックグラウンドとして使用しにくいところではある。しかし、ルミノール反応液21の噴霧量を少なくすることでヘミン16単体のルミノール発光の強度を下げることができるため、ヘミンの量が20pmol/3.14mm2を超える場合でもバックグラウンドとして使用することは十分に可能である。
【0049】
本実施形態において、標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1と標的部位20上のヘミン16とのモル比は、DNAナノピンセット構造体1、標的核酸13及びヘミン16が結合した構造体のルミノール発光とヘミン16単体のルミノール発光の区別をつけることができる限り、適宜変更することができ、特に限定されない。例えば、標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1と標的部位20上のヘミン16とのモル比は、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9又は1:10とすることができる。但し、標的部位20上のヘミン16の量が標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1の量よりも少ない場合(例えば標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1と標的部位20上のヘミン16とのモル比が1:0.5の場合)、標的核酸13を認識してクローズド状態となったDNAナノピンセット構造体1が存在しても、十分量のヘミン16と結合できないため好ましくない。そのため、標的部位20上のヘミン16の量は、標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1の量以上であることが好ましい。
【0050】
本実施形態では、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18を固体表面19上の標的部位20に噴霧したときの、標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1の量を0.1pmol/3.14mm2以上2.0pmol/3.14mm2以下とし、標的部位20上のヘミン16の量を1pmol/3.14mm2以上20pmol/3.14mm2以下とすることが好ましい。上記範囲量とすることにより、DNAナノピンセット構造体1、標的核酸13、及びヘミン16が結合したものによるルミノール発光の強度が十分となる。その一方で、本来であればヘミン16単体でもペルオキシダーゼ活性を示すため、ルミノール反応が進行し、青白い発光が検出されるところである。しかし、上記範囲量とすることによりヘミン16単体のルミノール発光がほとんど検出されない程度にその発光強度を低くしている。そのため、ヘミン16単体によるルミノール発光の検出による標的核酸13の誤検出を防ぐことができる。
【0051】
本実施形態において、上述したような標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1及びヘミン16の量は、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18の濃度、該溶液の噴霧量及び噴霧操作などによって異なるため、これらを適宜変更して目的の量が標的部位20上に噴霧されるよう調整することができる。
【0052】
本実施形態において、固体表面19は、例えば被服の表面、布地の表面及び紙の表面などの様々な固体表面を含むものであり、特に限定されない。一方、固体表面19として例えば皮膚の表面などを適用する場合、血液由来のヘミンなどが存在する場合があるため、血液由来ヘミンによるルミノール発光と目的のルミノール発光との間で区別をつけられなくなる可能性がある。そのため、固体表面19は、ルミノール反応液21と独自に反応してしまう物質をできるだけ含まないものを使用することが好ましい。
【0053】
本実施形態において、標的部位20は、固体表面19上の標的核酸13を少なくとも含有する部位のことを指す。標的部位20は、固体表面19上における標的核酸13を含む部位として任意に選択することができる。
【0054】
本実施形態において、標的核酸13は特に限定されず、核酸として存在するものであれば、例えばDNA、RNA及びその他の核酸の全て含む。また、標的核酸13を検出するために、該標的核酸の核酸配列を明らかにしておくことが好ましい。但し、標的核酸13の核酸配列として、グアニン四重鎖構造をとるような配列が含まれるものは好ましくない。この場合においては標的核酸13がヘミン16と結合し、ペルオキシダーゼ活性を示すため、本実施形態に係る標的核酸の検出方法を適用できない可能性が高くなる。また、「CCC」(シトシンの3回繰り返し)配列が複数存在するものも好適ではない。この場合においてはDNAナノピンセット構造体1における第1オリゴヌクレオチド2の第1標的認識部位5及び第2オリゴヌクレオチド3の第2標的認識部位7に「GGG」配列を導入する必要が生じてくる。そうすると、第1標的認識部位5と分割グアニン四重鎖構造部位12との間、又は第2標的認識部位7と分割グアニン四重鎖構造部位12との間でヘミンが結合してしまう可能性があるため、本実施形態に係る標的核酸の検出方法を適用できない可能性が高くなる。
【0055】
図2に示すように、本実施形態に係る標的核酸の検出方法では、ルミノール反応液21を標的部位20に噴霧するステップを備えている。ルミノールは下記の化学構造を有する化合物であり、塩基性水溶液中において、ヘモグロビンが有するヘム鉄などのペルオキシダーゼ活性を有する物質による触媒作用によって該溶液中の過酸化水素と反応して青白い発光を生ずる。
【0056】
【0057】
ルミノール反応液21は、例えばルミノール、過酸化ナトリウム及び水を含む溶液を用いることができる。なお、過酸化ナトリウムは水と反応することにより、水酸化ナトリウムと過酸化水素を生成する。このようなルミノール反応液21を調製する方法としては、例えば富士フィルム和光純薬株式会社製のルミノール反応用試薬セット(3g×5包)を用いて、以下の調液方法により調製できる。初めに、ビーカー又は広口のポリ容器に蒸留水500mLを用意し、ルミノールと過酸化ナトリウムが分包されたアルミパックを黒色ラインの切り取り線に沿ってカットして開封する。続いて、2つの試薬を蒸留水が入ったビーカー又は広口ポリ容器に同時に加えてよく攪拌し、2つの試薬を溶解させ、ルミノール反応液21を調製する。しかし、ルミノール反応液21はこれらの成分に限定されず、例えばルミノール、水酸化ナトリウム、過酸化水素及び水を含む溶液などを用いることもできる。なお、ルミノール反応液21の溶媒として用いる水は蒸留水、MilliQ水又は滅菌精製水のいずれかであることが好ましい。また、ルミノール反応液21の調製方法も特に限定されない。
【0058】
本実施形態において、ルミノール反応液21を噴霧する際に用いる噴霧器17は、市販されている噴霧器などを使用できる。なお、溶液を入れる前に噴霧器17の中身を洗浄しておくことが好ましい。
【0059】
本実施形態において、ルミノール反応液21の噴霧量は特に限定されないが、50mm×50mmの正方形範囲に対して0.5mL以上1mL以下とすることが好ましい。また、全噴霧量のうち3分の1以上2分の1以下の噴霧量が、50mm×50mmの正方形範囲に対して添加されるように噴霧することが好ましい。これにより、ルミノール発光を十分に検出できるため好適である。但し、DNAナノピンセット構造体1、標的核酸13及びヘミン16が結合した構造体のルミノール発光とヘミン16単体のルミノール発光の区別をつけることができる限り、ルミノール反応液21の噴霧量を適宜変更することができる。なお、図示しないが、噴霧量の調節は、噴霧器17のサイズ又は噴霧器17に備えられる噴霧量調節器などによって行うことができる。
【0060】
本実施形態において、
図2の右側に示すように、クローズド状態にあるDNAナノピンセット構造体1を含む標的部位20にルミノール反応液21を噴霧した場合、該構造体とヘミン16が結合したもののペルオキシダーゼ触媒作用によってルミノール反応が進行し、青白い発光が強く検出される。一方、
図2左側に示すように、オープン状態にあるDNAナノピンセット構造体1を含む標的部位20にルミノール反応液21を噴霧した場合、該構造体はヘミン16と結合することはできないことからペルオキシダーゼ活性を示さず、ルミノール反応が進行しないため、青白い発光は検出されない。なお、ヘミン16単体でもルミノール反応は進行するが、この場合は弱い発光として検出されるため、上記構造体とヘミン16が結合したものによる強いルミノール発光と区別をつけることができる。また、上述したように、DNAナノピンセット構造体1がクローズド状態をとるのは標的核酸13が存在する場合であり、オープン状態をとるのは標的核酸13が存在しない場合である。そのため、ルミノール発光がヘミン単体の場合よりも強く検出された場合に標的核酸13が検出できたものと判定することができ、ルミノール発光が検出されなかった又はルミノール発光が弱く検出された場合に標的核酸13が検出されなかったものと判定することができる。
【0061】
本実施形態に係る標的核酸の検出方法では、標的部位においてルミノール発光を検出するステップを備えている。本実施形態において、ルミノール発光を検出する際には、目視による検出又は撮像装置による撮影での検出により行うことができる。撮像装置は、例えばデジタルカメラ又はスマートフォンのカメラを使用することができる。ルミノール発光の検出記録を鮮明な画像データとして記録できるため好適である。また、ルミノール発光を撮影する際の撮像装置の設定は適宜変更することができ、その設定値は特に限定されない。例えば、ISO感度、絞り値(F値)及び露出時間などの設定を適宜変更することができる。また、撮像装置の設定は、標的核酸13を認識してクローズド状態となったDNAナノピンセット構造体1及びヘミン16が結合した構造体によるルミノール発光と、ヘミン16単体のルミノール発光とを区別できるように調節することが好ましい。例えば、後述する実施例では、ISO感度を12800(EVシフト量+7)、絞り値(F値)を3.5(AV値+3.6)、露出時間を1秒(TV値0)とし、結果EV値+3.6(EVシフト量+7)として設定している。これにより、目的のルミノール発光とヘミン16単体のルミノール発光とを区別して撮影できるため好ましい。また、本実施形態に係る標的核酸の検出方法では、EV値が等価となるように撮像装置の設定値を適宜設定することもできるため、好ましいISO感度、絞り値(F値)及び露出時間は上記数値に限定されない。また、EV値が+3.6(EVシフト量+7)に限定されるものでもない。また、標的核酸13を認識してクローズド状態となったDNAナノピンセット構造体1及びヘミン16が結合した構造体のルミノール発光とヘミン16単体のルミノール発光とを区別して撮影できる限り、EV値を含む撮像装置の設定値は適宜変更することができる。そのため、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18の噴霧量、並びにルミノール反応液21の噴霧量などの条件にあわせて、設定するEV値を適宜変更し、該結合した構造体によるルミノール発光と、ヘミン16単体のルミノール発光とを区別できるように調節すればよい。また、撮影された画像を例えば一般的な2値化処理してもよい。この場合、該結合した構造体によるルミノール発光レベルと、ヘミン16単体のルミノール発光レベルの間に閾値を持たせることで必要な発光の観察が容易となる。
【0062】
本発明の一実施形態に係る標的核酸の検出キットは、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18と、ルミノール反応液21とを備え、固体表面19上の標的核酸13を検出することを特徴とする(図示せず)。
【0063】
本実施形態に係る標的核酸の検出キットは、標的核酸の検出方法に係る実施形態において詳述したものと同様の、DNAナノピンセット構造体1、第1オリゴヌクレオチド2、第2オリゴヌクレオチド3、第3オリゴヌクレオチド4、標的核酸13、ヘミン16、噴霧器17、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18、固体表面19、ルミノール反応液21、標的部位20、緩衝剤、塩、界面活性剤及び撮像装置などを用いることができる。また、DNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18の濃度、並びに噴霧された標的部位20上のDNAナノピンセット構造体1とヘミン16の量及びモル比は、上述したものと同様にすることができる。
【0064】
本実施形態に係る標的核酸の検出キットでは、DNAナノピンセット構造体1を含む溶液とヘミン16を含む溶液を別々の溶液として調製し、これらの溶液をDNAナノピンセット構造体1及びヘミン16を含む溶液18のかわりに使用してもよい。各種溶液の調製方法は、上述したものと同様の方法を用いることができる。
【0065】
本実施形態に係る検出キットを用いる固体表面19上の標的部位20における標的核酸13の検出は、上記実施形態において詳述したような方法により行うことができる。
【実施例0066】
以下に、本発明に係る標的核酸の検出方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0067】
実施例1
(DNAナノピンセット構造体の作製)
第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドを終濃度5μMになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて混合した。PCR thermal cyclerを使用し、95℃で5分間熱処理した後10℃までゆっくり冷却(-3℃/1分)した。さらに10℃で4分間インキュベートすることによってDNAナノピンセット構造体を作製し、その後は4℃で保存した。以下に、第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドの核酸配列を示す。なお、第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies株式会社から購入した。
第1オリゴヌクレオチド:
5’-CTTTTCGACAAGCGCTACATTTTACGCCTGGTGCC-3’(配列番号4)
第2オリゴヌクレオチド:
5’-CCGACCGCAGGATCCTATAATTAACCGATAAATATGAA-3’(配列番号5)
第3オリゴヌクレオチド:
5’-GGGTTGGGTTTTTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTATTTGGGTAGGG-3’(配列番号6)
【0068】
(固体表面上の標的部位の準備)
図5に示すように、ヘミン(Hemin)を20pmol/spotとなるように濾紙上の四隅に滴下し、乾燥させた。また、標的核酸(Target)を1.0pmol/spot(一番左の列、真ん中3箇所)、5.0pmol/spot(左から2列目、5箇所)及び10pmol/spot(左から3列目、5箇所)となるように濾紙上に滴下し、乾燥させた。さらに、非標的核酸(Non Target)を10pmol/spot(左から4列目、5箇所)となるように濾紙上に滴下し、乾燥させた。また、バッファー領域として水(Water;左から5列目、真ん中3箇所)を濾紙上に滴下し、乾燥させた。このようにして作製した濾紙の写真を
図5に示している。なお、1スポットは、半径約1mmの円状のスポット(spot)であり、1スポットの面積値は約3.14mm
2である。また、以下に、標的核酸及び非標的核酸の核酸配列を示す。標的核酸及び非標的核酸は、Integrated DNA Technologies株式会社から購入した。
標的核酸:
5’-TTCATATTTATCGGTTAAGCGCTTGTCGAAAAG-3’(配列番号7)
非標的核酸:
5’-TATGTTCATATTGGATTGCGCCTTTGTATTATAAAAGTTGAGATGACATT-3’(配列番号8)
【0069】
(スプレー溶液の作製)
スプレー溶液(DNAナノピンセット構造体及びヘミンを含む溶液)を以下の様に調製した。初めに、各終濃度がTris-HCl:200mM、NH4Cl:600mM、KCl:80mM及びTriton X-100:0.12%となるように、並びにpH=7.5となるように4倍濃縮working buffer(4× W.B.)を作製した。次に、4× W.B.250μL、5μM DNAナノピンセット構造体の溶液200μL、100μM ヘミン(in DMSO)20μL、MilliQ水530μLを混合し(終濃度はDNAナノピンセット構造体:1μM、ヘミン:2μM)、1mLのスプレー溶液を作製した。
【0070】
(標的核酸の検出)
作製したスプレー溶液を市販の簡易噴霧器(50mLナフコアルコール除菌スプレーの中身を取り出し、洗浄したもの)を用い、上記した濾紙に1mL全量噴霧し、50mm×50mm程度の正方形範囲に浸透させた。なお、1スポット(半径約1mmの円状、面積値約3.14mm
2)あたりのDNAナノピンセット構造体及びヘミンの推定量は、DNAナノピンセット構造体で約1.3pmol/spot、ヘミンで約2.6pmol/spotである。30分後、濾紙から300mm程度の距離より、メーカー指定の方法によって調製したルミノール反応液(富士フィルム和光純薬株式会社製)を同型の簡易噴霧器を用いて約1mL噴霧した。ルミノール反応液噴霧後、5秒以内程度に濾紙を暗箱にいれ、デジタルカメラSONY DSC-TX30(ソニー株式会社製)を用いて、ISO-12800、絞り値(F値)3.5、露出時間1秒の条件で撮影した。撮影した写真を
図6Aに示した。また、
図6Aに各スポットの位置を表した写真を
図6Bに示した。
【0071】
図6A、6Bに示すように、標的核酸5.0pmol/spot(左から2列目、5箇所)及び10pmol/spot(左から3列目、5箇所)の箇所ではルミノール発光が強く検出されたのに対して、標的核酸1.0pmol/spot(一番左の列、真ん中3箇所)の箇所ではルミノール発光が弱く検出されている。また、非標的核酸10pmol/spot(左から4列目、5箇所)の箇所ではルミノール発光が検出されておらず、バッファー領域として水(左から5列目、真ん中3箇所)を滴下した箇所でもルミノール発光は検出されなかった。したがって、本実施例1では、第1オリゴヌクレオチド(配列番号4)、第2オリゴヌクレオチド(配列番号5)及び第3オリゴヌクレオチド(配列番号6)からなるDNAナノピンセット構造体並びにヘミンを含む溶液を固体表面上の標的核酸(配列番号7)を含有する標的部位に噴霧し、次いでルミノール反応液を標的部位に噴霧し、その標的部位においてルミノール発光を検出することで固体表面上の標的核酸(配列番号7)を直接的に且つ簡便に検出できることが分かった。一方で、標的核酸の量が1.0pmol/spot程度の場合、ルミノール発光の強度が低かったため、標的核酸の検出が明確にできたと判断することは難しかった。しかし、スプレー溶液のDNAナノピンセット構造体とヘミンの濃度及びルミノール反応液の噴霧量を調整することで該ルミノール発光を検出できる可能性はあるため、本実施例1の結果は検出限界を定めるものではない。なお、
図6A、6Bではあまり観測されていないが、標的核酸のスポット位置以外においてもルミノール発光が細かなスポットとして検出されることがある。これはヘミンの濃度の高い部分が噴霧された結果若しくはルミノール反応液が多量に噴霧された結果、又はその両方によりヘミン単体でのルミノール反応が進行し、そのルミノール発光が弱く検出されたものであると考えられる。しかし、標的核酸をスポットした箇所でのルミノール発光強度の方がヘミン単体の場合と比較してはっきりと高くなるため、標的核酸の誤検出は起きにくいことが分かっている。また、濾紙の四隅の結果より、ヘミンの量が20pmol/spotである場合には、ヘミン単体によるルミノール発光が一定量検出されることも確認された。そのため、スプレー溶液のヘミンの濃度を高く設定しすぎた場合には、バックグラウンドにてルミノール発光が検出されることが示唆され、本実施例に係る標的核酸の検出方法を実施できなくなる可能性が示唆された。そのため、スプレー溶液中のDNAナノピンセット構造体とヘミンの濃度設定が重要であることが分かった。また、濾紙の四隅のヘミン20pmol/spotのスポットでは、理論上、均一の強度でルミノール発光が観測されるものと推測されるところである。しかし、実際には
図6Aに示すように、四隅のヘミンのルミノール発光の強度は均一でないことが分かった。とりわけ、
図6Aの右下のヘミンの箇所でのルミノール発光強度は明確に高いことが分かった。これは、ルミノール反応液の噴霧にムラがあったためと考えられる。このことは、上記にてルミノール反応液が多量に噴霧された結果として標的核酸のスポット位置以外においてもルミノール発光が細かなスポットとして検出されることがあることを説明したが、その根拠の一つであると考えられる。
【0072】
実施例1に係る標的核酸の検出原理について簡単に説明する。実施例1で用いたDNAナノピンセット構造体(配列番号4の第1オリゴヌクレオチド、配列番号5の第2オリゴヌクレオチド及び配列番号6の第3オリゴヌクレオチドからなる)と標的核酸(配列番号7)の構造を表す概要図を
図7に示す。
図7に示されるように、実施例1において、DNAナノピンセット構造体の第1標的認識部位の核酸配列「CTTTTCGACAAGCGC」は、該標的核酸の一端側の核酸配列「GCGCTTGTCGAAAAG」と相補的であるため互いに結合する。また、DNAナノピンセット構造体の第2標的認識部位の核酸配列「TTAACCGATAAATATGAA」は、該標的核酸の他端側の核酸配列「TTCATATTTATCGGTTAA」と相補的であるため互いに結合する。これにより、該DNAナノピンセット構造体はクローズド状態へと構造変化を起こす。その結果、ピンセット構造の両端に位置する分割グアニン四重鎖部位が互いに近接し、該構造体におけるヘミンへの結合能が回復してペルオキシダーゼ活性を示すようになる。そうすると、ルミノール反応が進行するため、ルミノール発光がヘミン単体の場合よりも強く検出され、標的核酸を検出できたと判定することができる。一方、実施例1で用いたDNAナノピンセット構造体は、非標的核酸(配列番号8)と相補的な配列を有していない。そのため、該DNAナノピンセット構造体はクローズド状態へと構造変化することができず、ペルオキシダーゼ活性を示さない。そうすると、ルミノール反応が進行しないため、ルミノール発光が検出されない又はルミノール発光が弱く検出され、標的核酸は検出されなかったものと判定することができる。
【0073】
実施例2
本実施例2では、実施例1において用いた非標的核酸を標的核酸とし、実施例1において用いた標的核酸を非標的核酸とした。そして、実施例2に係る標的核酸を検出できるDNAナノピンセット構造体を使用し、該標的核酸の検出を実施した。それ以外の点は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0074】
以下に、実施例2で用いた第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド、第3オリゴヌクレオチド、標的核酸及び非標的核酸の核酸配列を示す。なお、第1オリゴヌクレオチド及び第2オリゴヌクレオチドはIntegrated DNA Technologies株式会社から購入した。第3オリゴヌクレオチド、標的核酸及び非標的核酸は実施例1と同様のものを用いた。
第1オリゴヌクレオチド:
5’-CTCAACTTTTATAATACAAATACATTTTACGCCTGGTGCC-3’(配列番号9)
第2オリゴヌクレオチド:
5’-CCGACCGCAGGATCCTATAAGGCGCAATCCAATAT-3’(配列番号10)
第3オリゴヌクレオチド:
5’-GGGTTGGGTTTTTATAGGATCCTGCGGTCGGAGGCACCAGGCGTAAAATGTATTTGGGTAGGG-3’(配列番号6)
標的核酸:
5’-TATGTTCATATTGGATTGCGCCTTTGTATTATAAAAGTTGAGATGACATT-3’(配列番号8)
非標的核酸:
5’-TTCATATTTATCGGTTAAGCGCTTGTCGAAAAG-3’(配列番号7)
【0075】
(固体表面上の標的部位の準備)
図8に示すように、ヘミン(Hemin)を20pmol/spotとなるように濾紙上の四隅に滴下し、乾燥させた。また、標的核酸(Target)を1.0pmol/spot(一番左の列、真ん中3箇所)、5.0pmol/spot(左から2列目、5箇所)及び10pmol/spot(左から3列目、5箇所)となるように濾紙上に滴下し、乾燥させた。さらに、非標的核酸(Non Target)を10pmol/spot(左から4列目、5箇所)となるように濾紙上に滴下し、乾燥させた。また、バッファー領域として水(Water;左から5列目、真ん中3箇所)を濾紙上に滴下し、乾燥させた。このようにして作製した濾紙の写真を
図8に示している。
【0076】
実施例1と同様の方法で標的核酸の検出を行った。ルミノール反応液噴霧後、濾紙を暗箱に入れて撮影した写真を
図9Aに示した。また、
図9Aに各スポットの位置を示した写真を
図9Bに示した。なお、1スポット(半径約1mmの円状、面積値約3.14mm
2)あたりのDNAナノピンセット構造体及びヘミンの推定量は実施例1と同様であり、DNAナノピンセット構造体で約1.3pmol/spot、ヘミンで約2.6pmol/spotである。
【0077】
図9A、9Bに示すように、本実施例2の標的核酸(配列番号8)においてルミノール発光がヘミン単体の場合よりも強く検出されたのに対して、非標的核酸(配列番号7)においてはルミノール発光が検出されなかった。その他の点は実施例1の結果と同様の傾向にあることが分かった。すなわち、標的核酸5.0pmol/spot(左から2列目、5箇所)及び10pmol/spot(左から3列目、5箇所)の箇所ではルミノール発光が強く検出されたのに対して、標的核酸1.0pmol/spot(一番左の列、真ん中3箇所)の箇所ではルミノール発光が弱く検出された。また、バッファー領域として水(左から5列目、真ん中3箇所)を滴下した箇所でもルミノール発光は検出されなかった。
【0078】
したがって、本実施例2では、第1オリゴヌクレオチド(配列番号9)、第2オリゴヌクレオチド(配列番号10)及び第3オリゴヌクレオチド(配列番号6)からなるDNAナノピンセット構造体並びにヘミンを含む溶液を固体表面上の標的核酸(配列番号8)を含有する標的部位に噴霧し、次いでルミノール反応液を標的部位に噴霧し、その標的部位においてルミノール発光を検出することで固体表面上の標的核酸(配列番号8)を直接的に且つ簡便に検出できることが分かった。
【0079】
実施例2の結果において特筆すべき点として、標的核酸(配列番号8)の核酸配列の全てを認識するDNAナノピンセット構造体を用いることなく、該標的核酸の検出に成功したことが挙げられる。より具体的には、実施例2では標的核酸の核酸配列の70%を認識するDNAナノピンセット構造体を用いて、該標的核酸の検出に成功している。
【0080】
なお、標的核酸のスポット位置以外においてもルミノール発光が細かなスポットとして検出されることがあることを実施例1にて説明した。これに関して、実施例2では
図9Aの右下のヘミン20pmol/spotのルミノール発光の周りにおいて、ルミノール発光による細かなスポットが検出された。この理由としては、上述したように、ヘミンの濃度の高い部分が噴霧された結果若しくはルミノール反応液が多量に噴霧された結果、又はその両方によりヘミン単体でのルミノール反応が進行し、そのルミノール発光が弱く検出されたものであると考えられる。しかし、標的核酸をスポットした箇所でのルミノール発光の強度は、上記ルミノール発光の細かなスポットのルミノール発光の強度よりもはっきりと高いため、標的核酸の誤検出は起きにくいことが分かる。
【0081】
本実施例2のDNAナノピンセット構造体を用いた標的核酸の検出方法の原理は実施例1と同様である。すなわち、図示しないが、実施例2に係るDNAナノピンセット構造体の第1標的認識部位の核酸配列「CTCAACTTTTATAATACAAA」が、標的核酸(配列番号8)の一端側の核酸配列「TTTGTATTATAAAAGTTGAG」と相補的であるため互いに結合する。また、DNAナノピンセット構造体の第2標的認識部位の核酸配列「GGCGCAATCCAATAT」が、該標的核酸の他端側の核酸配列「ATATTGGATTGCGCC」と相補的であるため互いに結合する。これにより、該DNAナノピンセット構造体はクローズド状態へと構造変化を起こす。その結果、ピンセット構造の両端に位置する分割グアニン四重鎖部位が互いに近接し、該構造体におけるヘミンへの結合能が回復してペルオキシダーゼ活性を示すようになる。そうすると、ルミノール反応が進行するため、ルミノール発光がヘミン単体の場合よりも強く検出され、標的核酸を検出できたと判定することができる。一方、実施例2で用いたDNAナノピンセット構造体は、非標的核酸(配列番号7)と相補的な配列を有していない。そのため、該DNAナノピンセット構造体はクローズド状態へと構造変化することができず、ペルオキシダーゼ活性を示さない。そうすると、ルミノール反応が進行しないため、ルミノール発光が検出されない又はルミノール発光が弱く検出され、標的核酸は検出されなかったものと判定することができる。
【0082】
以上の通り、本発明によると、第1オリゴヌクレオチド、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドを自己集積させることによりDNAナノピンセット構造体を作製でき、該構造体、ヘミン及びルミノール反応液を用いて様々な種類の標的核酸を直接的に且つ簡便に検出できることが示された。また、標的核酸の核酸配列を認識できるようにDNAナノピンセット構造体を設計して作製することで、様々な種類の標的核酸を特異的に検出可能であることが示された。
【0083】
なお、以下に詳述する参考例1、2の実験を行うことにより、実施例1、2における、スプレー溶液を噴霧したときの濾紙上の1スポットにおけるDNAナノピンセット構造体とヘミンの量を設定するに至った。
【0084】
参考例1
(DNAナノピンセット構造体の好適な量の検討)
参考例1では、濾紙上のヘミンの量を20pmol/spotに固定し、スプレー溶液を噴霧したときの濾紙上のDNAナノピンセット構造体の好適な量を検討するべく、以下の実験を行った。また、参考例1では、ルミノール反応液の噴霧量を750μLに固定して検討している。本実施例に係る標的核酸の検出方法では、ルミノール反応液の噴霧量にあわせてルミノール発光の強度も変わるため、該ルミノール反応液の噴霧量を固定することが好ましいためである。まず、第1オリゴヌクレオチド(配列番号4)、第2オリゴヌクレオチド(配列番号5)及び第3オリゴヌクレオチド(配列番号6)を用いて、実施例1と同様の方法により、DNAナノピンセット構造体溶液を作製した。また、標的核酸(配列番号7)を使用して標的核酸溶液を作製し、上記DNAナノピンセット構造体溶液と混合させ、200nM DNAナノピンセット構造体と標的核酸の混合溶液を作製した。また、2μM ヘミン溶液(in DMSO)を作製した。上記混合溶液と上記ヘミン溶液を以下の表1に示す割合で混合させ、下記サンプル1~6の溶液を作製した。
【0085】
【0086】
サンプル1~6の溶液をそれぞれ室温で30分間攪拌し、約10μLの各サンプル溶液1~6を複数回に分けて、濾紙上の各スポット位置に滴下、乾燥を繰り返し、固体表面を作製した。なお、各サンプルにつき縦5箇所に滴下しており、サンプル1を一番左列の縦5箇所、サンプル2を左から2列目の縦5箇所、サンプル3を左から3列目の縦5箇所、サンプル4を左から4列目の縦5箇所、サンプル5を左から5列目の縦5箇所及びサンプル6を左から6列目の縦5箇所に滴下した。続いて、濾紙から300mm程度の距離より、メーカー指定の方法によって調製したルミノール反応液(富士フィルム和光純薬株式会社製)を同型の簡易噴霧器を用いて約750μL程度噴霧した。ルミノール反応液噴霧後、5秒以内程度に濾紙を暗箱にいれ、デジタルカメラSONY DSC-TX30(ソニー株式会社製)を用いて、ISO-12800、絞り値(F値)3.5、露出時間1秒の条件で濾紙から110mm程度の距離から撮影した。撮影した写真を
図10に示した。なお、各スポット(半径1mmの円状、面積値約3.14mm
2)上のDNAナノピンセット構造体及びヘミンの推定量を表2に示した。
【0087】
【0088】
図10の結果より、ヘミンのみを含むサンプル1において、ルミノール発光が検出されていない又はルミノール発光が非常に弱く検出された。一方、サンプル2~6についての検討結果より、DNAナノピンセット構造体の量を0.1pmol/spot、0.5pmol/spot、1.0pmol/spot、1.5pmol/spot及び2.0pmol/spotとした場合のいずれにおいても、ヘミン単体のルミノール発光(サンプル1、バックグラウンド)よりもルミノール発光が強く検出されることが確認された。したがって、DNAナノピンセット構造体の量を0.1pmol/spot以上とすることにより、ヘミン単体のルミノール発光(サンプル1、バックグラウンド)と明確に区別できることが分かった。また、標的を認識しているDNAピンセット構造体の量が0.1pmol/spot以上2.0pmol/spot以下の範囲内であれば、標的核酸の認識の程度によって発光量に差が生じることが示された。
【0089】
参考例2
(ヘミンの好適な量の検討)
参考例2では、スプレー溶液を噴霧したときの濾紙上のヘミンの好適な量を検討するべく、以下の実験を行った。また、参考例2では、参考例1の
図10の結果において全体的にルミノール発光の強度が低かったことを踏まえ、ある程度十分な発光量を得るためにルミノール反応液の噴霧量を750μLから1mLに増やしたときのヘミンの好適な量について検討した。
図11に示すように、濾紙上にヘミン(Hemin)4pmol/spot又はヘミン(Hemin)20pmol/spotとなるように、ヘミン溶液を濾紙に4箇所ずつ滴下し、乾燥させた(合計8箇所作製)。乾燥後の濾紙の写真を
図11に示している。続いて、メーカー指定の方法によって調製したルミノール反応液(富士フィルム和光純薬株式会社製)を同型の簡易噴霧器を用いて1mL程度噴霧した。ルミノール反応液噴霧後、5秒以内程度に濾紙を暗箱にいれ、デジタルカメラSONY DSC-TX30(ソニー株式会社製)を用いて、ISO-12800、絞り値(F値)3.5、露出時間1秒の条件で撮影した。撮影した写真を
図12に示した。
【0090】
図11、12の結果より、ヘミン4pmol/spotの箇所ではルミノール発光が検出されていない又はルミノール発光が非常に弱く検出されたため、ルミノール反応液の噴霧量を1mLとしたときのバックグラウンドとして有用であることが確認できた。なお、スプレー溶液でいうと、ヘミンの濃度を2μMとすることで標的部位にヘミン4pmol/spot程度を均一に噴霧できる。そのため、ヘミンの濃度を2μM以下にすることが好適であることが分かった。一方、ヘミン20pmol/spotの箇所では、ルミノール発光が比較的強く検出されているため、ルミノール反応液の噴霧量を1mLとしたときのバックグラウンドとしては使用しにくいことが分かった。そのかわりに、ヘミン20pmol/spotとすることにより、標準物質として使用できることも分かった。以上の結果より、ある程度十分の発光量を得るためにルミノール反応液の量を増やしてもバックグラウンドが十分低いヘミンの量は4.0pmol/spot以下であると決定した。
【0091】
参考例1、2の結果より、実施例1、2における、スプレー溶液を噴霧したときの濾紙上の1スポットにおけるDNAナノピンセット構造体とヘミンの量の設定を行っている。なお、ルミノール反応液の噴霧量を1mLとしたときの条件で設定を行った。具体的には、スプレー溶液を噴霧したときの濾紙上の量を、DNAナノピンセット構造体において1.3pmol/spot及びヘミンにおいて2.6pmol/spotとなるように設定した。また、これらの量を濾紙に噴霧するために、該スプレー溶液中のDNAナノピンセット構造体の濃度を1μM、ヘミンの濃度を2μMとして設定した。