(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003515
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】カソードの製造方法およびカソード仕上げ機
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20230110BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20230110BHJP
C25C 1/08 20060101ALI20230110BHJP
B21D 1/06 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C25C7/02 304
C25C1/12
C25C1/08
B21D1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104633
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 範幸
(72)【発明者】
【氏名】竹中 和己
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
【テーマコード(参考)】
4E003
4K058
【Fターム(参考)】
4E003AA01
4E003CA03
4K058AA30
4K058BA21
4K058BB03
4K058EB02
4K058FA08
(57)【要約】
【課題】電解槽に装入する前に、カソード上部を矯正することができるカソードの製造方法およびカソード仕上げ機を提供する。
【解決手段】カソード仕上げ機1によって種板Sを有するカソードCを製造する方法であって、折り曲げた状態の吊手リボンPRの両端部間に種板Sの第一端部Saを配置した状態かつ吊手リボンPRと種板Sの第一端部Saを挟んで加圧している状態において、種板Sの第一端部Saにおいて吊手リボンPRが取り付けられる部分よりも外方を種板Sの板厚方向に押圧する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード仕上げ機によって種板を有するカソードを製造する方法であって、
吊り手となる折り曲げた状態の板状の部材の両端部間に前記種板の第一端部を配置した状態かつ該板状の部材と前記種板の第一端部を挟んで加圧している状態において、前記種板の第一端部において前記板状の部材が取り付けられる部分よりも外方を前記種板の板厚方向に押圧する
ことを特徴とするカソードの製造方法。
【請求項2】
前記種板を押圧する位置は、
前記種板の第一端部の端縁と直交する方向における前記種板の第一端部の端縁からの距離が、前記板状の部材と前記種板の第一端部を挟んで加圧する位置から該種板の第一端部の端縁までの距離と同じ長さになる位置である
ことを特徴とする請求項1記載のカソードの製造方法。
【請求項3】
前記種板を押圧する押圧部材において、前記種板を押圧する押圧面が、曲率半径が5mm以上の曲面、または、10mm×10mm~50mm×50mmの平面である
ことを特徴とする請求項1または2記載のカソードの製造方法。
【請求項4】
前記種板は、
板厚が0.6~1.0mm、縦幅1000~1100mm、横幅1000~1100mmであり、
該種板を押圧する位置が、
該種板の第一端部の端縁に沿った方向で、前記板状の部材と該種板の第一端部を挟んで加圧する位置から20~80mm離間した位置に調整されており、
該種板を該種板の板厚方向に押圧する量が、
該種板における前記板状の部材の両端部間に挟まれた状態で加圧されている部分よりも該種板の板厚方向に該種板を10~25mm移動させる量に調節されている、
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のカソードの製造方法。
【請求項5】
電解精製によって精製された種板を有するカソードを製造するカソード仕上げ機であって、
該カソード仕上げ機が、
吊り手となる折り曲げた状態の板状の部材の両端部間に前記種板の第一端部を配置した状態で、該板状の部材と前記種板の第一端部を挟んで加圧して吊り手を形成する吊り手形成部と、
該吊り手形成部によって前記板状の部材と前記種板の第一端部が加圧されている状態において、前記種板の第一端部において前記板状の部材が取り付けられる部分よりも外方を前記種板の板厚方向に押圧する矯正部と、を備えている
ことを特徴とするカソード仕上げ機。
【請求項6】
前記矯正部が、
前記種板を板厚方向に押圧する押圧部材と、
前記吊り手形成部によって前記板状の部材および前記種板を挟んで加圧している状態における前記種板の板厚方向に沿って前記押圧部材を移動させる押圧部材移動機構と、を備えている
ことを特徴とする請求項5記載のカソード仕上げ機。
【請求項7】
前記押圧部材は、
前記吊り手形成部によって前記板状の部材および前記種板を加圧している状態において、前記種板の第一端部の端縁から該押圧部材までの距離が、前記吊り手形成部が前記板状の部材と前記種板の第一端部を挟んで加圧する位置から前記種板の第一端部の端縁までの距離と同じ長さになる位置ように配設されている
ことを特徴とする請求項6記載のカソード仕上げ機。
【請求項8】
前記押圧部材移動機構が、
前記吊り手形成部において前記板状の部材および前記種板を挟んで加圧する加圧部材を移動させる加圧部材移動機構である
ことを特徴とする請求項5、6または7記載のカソード仕上げ機。
【請求項9】
前記矯正部における前記種板を板厚方向に押圧する押圧部材は、
前記種板を押圧する押圧面が、曲率半径が5mm以上の曲面、または、10mm×10mm~50mm×50mmの平面である
ことを特徴とする請求項5、6、7または8記載のカソード仕上げ機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードの製造方法およびカソード仕上げ機に関する。さらに詳しくは、非鉄金属などの電解精製工程に使用されるカソードを製造するカソードの製造方法およびカソード仕上げ機に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の電解精製あるいは電解採取に代表される金属電解においては、アノードとなる母板(粗金属板)とカソードを交互に並べて電解槽に供給して電解操業を行っている。例えば、銅の電解精製であれば、カソードと精製粗銅鋳造アノードとを電解槽に交互に並ぶように装入して通電する。すると、電解の進行につれアノードから銅が溶け出し、この溶け出した銅がカソード上に電着して製品となる電気銅が得られる。
【0003】
このような金属電解においては、生産性向上のため、アノードとカソードは可及的に小さい間隔をもって電解槽内に装入され、また不利益を生じない限り高い電流密度において電解される。このため、カソードの種板の形状が不整な場合、例えば、種板が曲がっているような場合には、アノードとカソードの間隔を狭くし過ぎると、両極の接触、すなわちショートを起こして電解に寄与しない電流が流れることとなり、電解効率を悪化させることになる。また、アノードとカソードとが接触しない場合でも、電解槽内のアノードとカソードに流れる電流にばらつきが生じる可能性がある。例えば、カソードの種板において突起や曲がりが生じている箇所には電流が集中し、アノードとカソードとが接触していなくてもショートが発生する可能性がある。したがって、電解槽に供給されるカソードの種板には、その形状(平坦度など)が整ったものが求められる。
【0004】
金属電解に用いるカソードの種板は、電解精製などの方法でステンレス板等の母板に金属を電着させたのち、その母板から剥ぎ取った金属の薄板を使用するのが一般的である。しかし、電着によって作られる金属の薄板からなる種板は、電着歪みや母板から剥ぎ取る時に歪が生じ易い。また、種板は薄いので、運搬時やハンドリング時においても非常に曲がり易い。このように、種板は、その平坦度等の形状を整った状態に維持することが困難であるため、カソード仕上げ機において、カソードを作製する際に矯正や溝付け処理等が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1~3には、カソード仕上げ機において、カソードにおける種板の形状(平坦度など)を整える技術が開示されている。具体的には、千鳥状に配置されたローラーを有するレベラーによって種板を矯正するとともに、上下一対の溝付けローラーによって種板に溝状の変形を与えることによって、種板の形状を整えている。かかる種板を使用して製造されたカソードは、カソード歪を小さくすることができる。
【0006】
上記のような方法で製造されたカソードは、電解槽に装入されている複数のアノード間に装入される。そして、アノードとカソードが装入された電解槽では、隣接するアノードが互いに平行になった状態に近づくように、アノードの傾きの調整が行われる。アノードの傾きを調整した後には、アノードとカソードの間隔や両者の平行度を調整するためにカソードの曲がりの修正が行われる。つまり、隣接するアノードとカソードとがほぼ同じ傾きになるように、カソードの曲がりの修正が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-176880号公報
【特許文献2】特開2001-192879号公報
【特許文献3】特開2004-360050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、
図7(A)に示すように、アノードAは、ショルダー部ASが、電解槽EBの上端部に設けられているブスバーに、カソードCを懸架するカソードビームBと同じ高さになるように架け渡された状態で電解槽EBに装入されているが、アノードAのショルダー部ASは水平方向に張り出している(
図7(B)参照)。このため、電解槽EBにアノードAとカソードCとが装入された状態では、鉛直方向からみると、ショルダー部ASとカソードビームBとの間隔が狭くなっており、カソードCの上部の形状を矯正する際には、アノードASのショルダー部ASが邪魔になる。このため、カソードCを電解槽EBに装入した状態で、カソードCの上部を矯正することが難しい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、電解槽に装入する前に、カソード上部を矯正することができるカソードの製造方法およびカソード仕上げ機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<カソードの製造方法>
第1発明のカソードの製造方法は、カソード仕上げ機によって種板を有するカソードを製造する方法であって、吊り手となる折り曲げた状態の板状の部材の両端部間に前記種板の第一端部Saを配置した状態かつ該板状の部材と前記種板の第一端部Saを挟んで加圧している状態において、前記種板の第一端部Saにおいて前記板状の部材が取り付けられる部分よりも外方を前記種板の板厚方向に押圧することを特徴とする。
第2発明のカソードの製造方法は、第1発明において、前記種板を押圧する位置は、前記種板の第一端部の端縁と直交する方向における前記種板の第一端部の端縁からの距離が、前記板状の部材と前記種板の第一端部を挟んで加圧する位置から該種板の第一端部の端縁までの距離と同じ長さになる位置であることを特徴とする。
第3発明のカソードの製造方法は、第1または第2発明において、前記種板を押圧する押圧部材において、前記種板を押圧する押圧面が、曲率半径が5mm以上の曲面、または、10mm×10mm~50mm×50mmの平面であることを特徴とする。
第4発明のカソードの製造方法は、第1、第2または第3発明において、前記種板は、板厚が0.6~1.0mm、縦幅1000~1100mm、横幅1000~1100mmであり、該種板を押圧する位置が、該種板の第一端部の端縁に沿った方向で、前記板状の部材と該種板の第一端部を挟んで加圧する位置から20~80mm離間した位置に調整されており、該種板を該種板の板厚方向に押圧する量が、該種板における前記板状の部材の両端部間に挟まれた状態で加圧されている部分よりも該種板の板厚方向に該種板を10~25mm移動させる量に調節されている、ことを特徴とする。
<カソード仕上げ機>
第5発明のカソード仕上げ機は、電解精製によって精製された種板を有するカソードを製造するカソード仕上げ機であって、該カソード仕上げ機が、吊り手となる折り曲げた状態の板状の部材の両端部間に前記種板の第一端部Saを配置した状態で、該板状の部材と前記種板の第一端部Saを挟んで加圧して吊り手を形成する吊り手形成部と、該吊り手形成部によって前記板状の部材と前記種板の第一端部が加圧されている状態において、前記種板の第一端部Saにおいて前記板状の部材が取り付けられる部分よりも外方を前記種板の板厚方向に押圧する矯正部と、を備えていることを特徴とする。
第6発明のカソード仕上げ機は、第5発明において、前記矯正部が、前記種板を板厚方向に押圧する押圧部材と、前記吊り手形成部によって前記板状の部材および前記種板を挟んで加圧している状態における前記種板の板厚方向に沿って前記押圧部材を移動させる押圧部材移動機構と、を備えていることを特徴とする。
第7発明のカソード仕上げ機は、第6発明において、前記押圧部材は、前記吊り手形成部によって前記板状の部材および前記種板を加圧している状態において、前記種板の第一端部の端縁から該押圧部材までの距離が、前記吊り手形成部が前記板状の部材と前記種板の第一端部Saを挟んで加圧する位置から前記種板の第一端部の端縁までの距離と同じ長さになる位置ように配設されていることを特徴とする。
第8発明のカソード仕上げ機は、第5、第6または第7発明において、前記押圧部材移動機構が、前記吊り手形成部において前記板状の部材および前記種板を挟んで加圧する加圧部材を移動させる加圧部材移動機構であることを特徴とする。
第9発明のカソード仕上げ機は、第5、第6、第7または第8発明において、前記矯正部における前記種板を板厚方向に押圧する押圧部材は、前記種板を押圧する押圧面が、曲率半径が5mm以上の曲面、または、10mm×10mm~50mm×50mmの平面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
<カソードの製造方法>
第1発明によれば、カソードを製造する際に、電解槽に吊り下げたときに上側に位置するカソードの種板の端部を矯正できるので、カソードとアノードを電解槽に吊り下げたときに、アノードのショルダー部とカソードとの干渉を防止しやすくなる。しかも、吊り手を形成する作業とほぼ同時にカソードの端部を矯正できるので、カソードの端部を矯正するための作業工数を少なくできる。
第2~第4発明によれば、カソードを適切に矯正することができる。
<カソード仕上げ機>
第5発明によれば、電解槽に吊り下げた際に、上側に位置するカソードの種板の端部を矯正部によって矯正できるので、カソードとアノードを電解槽に吊り下げたときに、アノードのショルダー部とカソードとの干渉を防止しやすくなる。しかも、吊り手形成部によって吊り手を形成する作業とほぼ同時に矯正部によってカソードの端部を矯正できるので、カソードの端部を矯正する作業の作業工数を少なくできる。
第6発明によれば、矯正部が簡単な構造であるので、矯正部を設けても、カソード仕上げ機の構造が複雑化することを防止できる。
第7発明によれば、カソードを適切に矯正することができる。
第8発明によれば、カソード仕上げ機の構造が複雑化することを防止できる。
第9発明によれば、カソードを適切に矯正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のカソード仕上げ機1における吊り手形成部20および矯正部30の概略説明図であり、(A)は
図2(A)のIA-IA線断面矢視図であり、(B)は
図2(B)のIB-IB線断面矢視図である。
【
図2】(A)は
図1(A)のIIA-IIA線断面矢視図であり、(B)は
図1(B)のIIB-IIB線断面矢視図である。
【
図3】(A)~(E)は吊り手形成部20および矯正部30の作動状態の説明図であり、(F)はカソードCをカソードビームBによって吊り下げた状態の概略説明図である。
【
図4】(A)は本実施形態のカソード仕上げ機1の概略説明図であり、(B)は内部応力除去部2のレベラーの概略説明図である。
【
図5】(A)はカソード仕上げ機1の溝つけ部10に採用される溝つけローラー対11~13の一例を示した図であり、(B)はカソード仕上げ機1によって溝gが形成された種板Sの概略平面図であり、(C)は溝つけローラー対11~13の鍔部15~17の概略説明図である。
【
図6】(A)はカソードCの概略説明図であり、(B)は変位量Xの説明図であり、(C)は変位量の測定位置を表した図である。
【
図7】(A)は電解槽EBにカソードCとアノードAを装入した状態の概略説明図であり、(B)は電解槽EBにカソードCとアノードAを装入した状態の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のカソードの製造方法は、カソードを製造する方法であって、電解槽に装入した後では矯正が難しいカソードの上部を、カソードを製造する際に矯正するようにしたことに特徴を有している。
【0014】
本発明のカソードの製造方法は、電解精製による電気銅の製造に使用されるカソードの上部の矯正に適しているが、本発明のカソードの製造方法によって製造されるカソードはかかるカソードに限られない。例えば、電気ニッケル電解製錬による電気ニッケルの製造に使用されるカソード等のように、アノードとの距離を適切に維持することが求められるカソードの製造に本発明のカソードの製造方法を使用することができる。
【0015】
<カソードC>
まず、本発明のカソードの製造方法によって製造されるカソードCの概略を説明する。
図6に示すように、カソードCは、種板Sを吊り手shでカソードビームBから吊り下げたものである。種板Sは、例えば、縦幅が約1000~1100mm、横幅が約1000~1100mm、厚さが約0.6~1.0mmの金属板である。電気銅の製造に使用される場合には、種板Sには、純度が99.99%の電気銅が使用される。
【0016】
なお、後述するカソード仕上げ機1では、図示しない種板電解工程において製造された種板Sを収容した種板パレットをカソード仕上げ機1の供給口に移送すれば、種板Sに吊り手shとカソードビームBが取り付けられた状態のカソードCが製造される。
【0017】
ここで、種板電解工程とは、例えば、電気銅を製造する場合であれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得る工程を意味している。この種板電解工程では、純度98%程度の粗銅であるアノード(陽極)とステンレス製やチタン製の母板(陰極)とを、電解液を満たした電解槽に交互に装入した状態で種板の製造が実施される。この状態で、電解槽に対する電解液の給液を行いつつ、例えば、電流密度250A/m2程度となるように両電極間に電流を供給すれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得ることができる。この種板電解工程で使用される電解液はとくに限定されないが、例えば、膠、アビトン等が添加された銅の硫酸溶液が好ましい。
【0018】
そして、
図5に示すように、カソードCの種板Sには、その上下方向(カソードCを吊り下げたときに鉛直方向となる方向、
図5(B)、
図6(A)、(C)では上下方向)に沿って延びる溝gが複数本形成されている。この複数本の溝gは、以下に説明するカソード仕上げ機1によって形成される。この複数本の溝gを形成することによって、カソードCの種板Sの幅方向(上下方向と交差する方向、
図5(B)では左右方向)における種板Sの凹凸が小さくなり、カソード歪を抑制することができる。したがって、かかるカソードCを使用すれば、電解槽にカソードCとアノードAとを浸漬した状態においてアノードAとの距離を適切に維持することができるので、通電工程における電力量の消費を抑えることができ、電解精製の生産効率を向上することができる。
【0019】
<カソード仕上げ機1>
つぎに、本発明のカソードの製造方法によって、上述したカソードCを製造するカソード仕上げ機1の一例を説明する。
【0020】
図4(A)に示すように、カソード仕上げ機1は、厚さ測定部、内部応力除去部2、溝付け部10、吊り手形成部20、矯正部30、を備えている。なお、
図4(A)では、厚さ測定部は記載を省略している。
また、カソード仕上げ機1は、上記以外にも、種板の裁断、表面付着物の除去、カソード歪の測定などを行う機能を有していてもよい。
さらに、カソード仕上げ機1は、内部応力除去部2を有していれば、溝付け部10は必ずしも設けなくてもよい。
【0021】
カソード仕上げ機1には、高純度の金属板を所定の寸法(例えば、縦幅約1000~1100mm、横幅が約1000~1100mm)に裁断などの加工を施した種板Sと、金属板を所定の寸法(例えば、縦約100mm×横約30mm)に加工した吊り手shとなる板状の部材PRと、が供給される。
なお、高純度の金属板を裁断して所定の寸法の種板Sや板状の部材PRを製作する方法は、バリが少なく平滑な板となった種板Sや板状の部材PRが得られる方法であればよく、とくに限定されない。
【0022】
<厚さ測定部>
厚さ測定部は、内部応力除去部2へ供給する種板Sの厚さを測定するものである。厚さ測定部を設ければ、所定の範囲の厚さから外れた種板Sを検出することができるので、その種板Sを、内部応力除去部2等に供給する前に予め除去しておくことができる。
【0023】
厚さ測定部が種板Sの厚さを測定する方法はとくに限定されない。例えば、ノギスによって種板Sの厚さを直接測定してもよいし、レーザー光、放射線、超音波等を使用した機器によって非接触で厚さを測定してもよい。レーザー変位計などのレーザー光等を使用した機器によって種板Sの厚さを測定する場合には、種板Sの板厚方向において対向する位置に機器を設置し、種板Sの表面までの距離を種板Sの板厚方向(例えば上下方向)から測定することによって、種板Sの厚さを求めることができる。
【0024】
<内部応力除去部2>
内部応力除去部2は、ローラーによって種板Sを挟んで、種板Sの内部応力を除去するものである。具体的には、内部応力除去部2はレベラーを備えている(
図4(B)参照)。
図4(B)に示すように、レベラーは、種板Sに直接接触するワークローラー21A,21Bを備えたものである。ワークローラー21A,21Bは、上下に千鳥状に配置されており、上下のワークローラー21A,21B間に内部応力を除去する種板Sが送り込まれる。送り込まれた種板Sは多数のワークローラー21A,21Bで繰り返し板厚方向に曲げられるので、搬送方向における種板Sの反りや凹凸幅を小さくすることができる。なお、内部応力除去部2のレベラーにおける種板Sの搬送方向は、種板Sの上下方向と一致している。
【0025】
レベラーにおいて、種板Sに対して板厚方向から変形を加える量、つまり、ローラー押込み量はとくに限定されないが、ローラー押込み量は、入口側が大きく出口側が小さくなるように調整することが好ましい。ここで、ローラー押し込み量とは、上段の各ワークローラー21Aと種板Sが接触する点を繋いで形成される第1接触面A1と、下段の各ワークローラー21Bと種板Sが接触する点を繋いで形成される第2接触面A2と、の距離Wのことである(
図4(B)参照)。第1接触面A1と第2接触面A2が一致する場合を基準、つまり、距離W=0とする。すると、第1接触面A1に対して第2接触面A2が下方に位置する場合には、距離Wはプラス量として規定され(
図4(B)の状態)、第1接触面A1に対して第2接触面A2が上方に位置する場合には、距離Wはマイナス量として規定される。つまり、この距離Wを調整することによって、種板Sに対して板厚方向から変形を加える力を調整できるので、種板Sの内部応力を効果的に除去することが可能である。例えば、種板Sの基準板厚が0.5~1.0mmの範囲である場合には、入り口側で-2.0~0.0mm、出口側で0.5~1.5mmの範囲となるようにローラー押し込み量Wを設定すれば、種板Sの内部応力を効果的に除去することができる。
【0026】
レベラー間を種板Sが搬送される搬送速度は特に限定されない。希望する処理量(つまりカソードCの製造量)に応じて都度設定すればよい。レベラー間を種板Sが搬送される搬送速度は、例えば、25~35m/分の範囲に設定することができる。
【0027】
なお、レベラーは、ワークローラーを支えるバックアップローラーを備えていることが望ましい。
【0028】
<溝付け部10>
溝付け部10は、内部応力除去部2によって内部応力を除去された種板Sに溝gを形成するものである。具体的には、溝付け部10では、種板Sを搬送しながら、内部応力除去部2における種板Sの搬送方向と平行な複数本の溝gを種板Sに形成する。この溝付け部10は、
図5(A)に示すように、3対の溝付けローラー対11~13を備えている。この3対の溝付けローラー対11~13は、いずれも上下一対の溝付けローラー11A~13Bを備えている(
図5(C)参照)。
【0029】
図5(A)、(C)に示すように、各溝付けローラー対11~13の溝付けローラー11A~13Bは、その軸方向の所定の位置に鍔部15~17が設けられたものである。鍔部15~17は、溝付けローラー対11~13ごとに設けられる位置が異なるが、対となる溝付けローラー(例えば溝付けローラー11A,11B)では同じ位置に設けられる。また、対となる溝付けローラー11A~13Bでは、一方には谷鍔部が設けられ、他方には山鍔部が設けられる(
図5(C)参照)。このため、対となる溝付けローラー11A~13B間に種板Sが通されると、種板Sには、鍔部15~17に挟まれた部分に谷鍔部側に凹んだ溝gが形成される。
【0030】
そして、カソード仕上げ機1は、各溝付けローラー対11~13の鍔部15~17同士の隙間(クリアランスCL、
図5(C)参照)を調整する隙間調整部を備えている。この隙間調整部は、各溝付けローラー対11~13において、対になる溝付けローラー間の距離を調整する調整機構を有している。例えば、調整機構は、シリンダ機構やネジ機構等によって構成することができる。この場合、各溝付けローラー対11~13の溝付けローラー11A~13Bを回転可能に保持する軸受を調整機構に連結する。すると、調整機構によって軸受を移動させれば、軸受に保持されている溝付けローラー11A~13Bを移動させて、対になる溝付けローラー間の距離、つまり、クリアランスCLを調整することができる。
【0031】
この隙間調整部には、溝付けを行う種板Sの基準板厚が入力されている。そして、基準板厚の種板Sを用いてカソードCを製造する際には、クリアランスCLが基準クリアランスになるように隙間調整部がクリアランスCLを調整する。基準クリアランスとは、基準板厚の種板Sに対して、適切な力で溝を形成できるクリアランスCLのことである。例えば、基準クリアランスは、種板Sの基準板厚が0.5~1.0mmの範囲である場合には、通常、1.3~2.0mmの範囲に設定される。
【0032】
このように、基準クリアランスを基準板厚の種板Sに対応した値に設定することは、さまざまな種板Sに対応した値に設定するよりも、設定時の板厚のばらつきの影響を受けにくく、信頼性の高いクリアランスが得られる利点がある。
【0033】
なお、種板Sの基準板厚には、種板Sの精製条件から決まる標準的な種板Sの厚みを用いるのが好ましい。例えば、電解精製による電気銅の精製に使用されるカソードの種板Sを精製する場合には、0.5~1.0mmの範囲における任意の値を種板Sの基準板厚とすることができる。
【0034】
なお、溝付け部10において種板Sを搬送する搬送速度は特に限定されない。カソードCの製造量に応じて適宜設定すればよく、例えば、25~35m/分に設定することができる。
【0035】
<吊り手形成部20>
吊り手形成部20は、溝付け部10によって溝がつけられた種板Sに吊り手shを取り付けるものである。また、吊り手形成部20では、種板Sに吊り手shを取り付けると同時に、カソードビームBを取り付けるものである。
【0036】
吊り手形成部20は、上流工程の溝付け部10から供給された種板Sを水平に維持した状態で搬送する搬送機能を有している。また、吊り手形成部20は、種板Sの移動方向の先端の端部(以下第一端部Saという)よりも前方にカソードビームBを配置した状態、かつ、カソードビームBと種板Sの第一端部Saとの間を一定の距離に維持した状態で移動させる機能も有している(
図3参照)。
【0037】
また、カソードビームBと種板Sの第一端部Saとの間の距離は、吊手リボンPRの長手方向の長さの半分よりも短くなるように設定される。具体的には、吊手リボンPRと種板Sの第一端部Saとの連結部分を十分に取れる長さになるように設定される。例えば、吊手リボンPRの長手方向の長さが、300~320mmであれば、カソードビームBと種板Sの第一端部Saとの間の距離は70~75mm程度に設定される。
【0038】
<折り曲げ部21>
図1示すように、吊り手形成部20は、カソードビームBを挟んだ状態となるように、帯状の板材(以下吊手リボンPRという)を折り曲げた状態とする折り曲げ部21を有している。この折り曲げ部21は、種板SおよびカソードビームBの搬送方向において並ぶように、一対の第一折り曲げローラー22,22と、一対の第二折り曲げローラー23,23と、を有している。一対の第一折り曲げローラー22,22は、バネなどによって互いに接近離間可能かつ互いに接近するように付勢された状態で保持されている。しかも、一対の第一折り曲げローラー22,22は、両者が離間すると、種板SおよびカソードビームBが通過し得る間隔を形成できるように設けられている。また、一対の第二折り曲げローラー23,23も、種板SおよびカソードビームBが通過し得る間隔を空けて配設されている。この一対の第二折り曲げローラー23,23はその移動が固定されており、両者の間隔が一対の第一折り曲げローラー22,22が接近した状態の間隔よりも広くなるように設けられている(
図1参照)。
【0039】
また、折り曲げ部21は、一対の第一折り曲げローラー22,22の上流側、つまり、一対の第一折り曲げローラー22,22に種板SおよびカソードビームBが供給される側(
図1では左側)に、吊手リボンPRを配置する機能を有している。具体的には、吊手リボンPRが鉛直方向(
図1では上下方向)に伸びた状態で、その長手方向の中央部がほぼ一対の第一折り曲げローラー22,22の中間に位置するように吊手リボンPRを配置する機能を有している。なお、カソードCには2か所の吊り手shが設けられるため、吊手リボンPRもカソードビームBの軸方向(言い換えれば種板Sの第一端部Saの端縁に沿った方向)であって、後述する固定部25の加圧部27と対応する位置に2か所配置される。
【0040】
<固定部25>
図1に示すように、種板SおよびカソードビームBの搬送方向において、折り曲げ部21の下流側には、固定部25が設けられている。
【0041】
図2に示すように、固定部25は、ベース部材26aと、案内軸26cに沿ってベース部材26aに対して接近離間可能に設けられた移動部材26bと、を有する加圧部材移動機構26を備えている。この加圧部材移動機構26は、例えば、シリンダ機構等の駆動装置によって移動部材26bをベース部材26aに向かって移動させることができるようになっている。
【0042】
この固定部25には、加圧部27が2個所設けられている。つまり、カソードCに設ける吊り手shの数と同じ数の加圧部27が設けられている。加圧部27は、柱状の一対の加圧部材27a,27bを有している。この一対の加圧部材27a,27bは、一方の加圧部材27aはベース部材26aにおいて移動部材26bと対向する面に設けられており、他方の加圧部材27bは移動部材26bにおいてベース部材26aと対向する面に設けられている。しかも、一対の加圧部材27a,27bは、移動部材26bをベース部材26aに向かって移動させると、一対の加圧部材27a,27bの先端間に種板Sおよび吊手リボンPRを挟むことができる位置に配置されている(
図1(B)、
図2(B)参照)。つまり、平面視では、一対の加圧部材27a,27bの先端同士が重なり合うように、一対の加圧部材27a,27bは設けられている。しかも、一対の加圧部材27a,27bは、一対の加圧部材27a,27bの先端間に種板Sと吊手リボンPRとが挟まれると、両者をかしめて連結することができる構造を有している。
【0043】
<矯正部30>
図2に示すように、加圧部材移動機構26の移動部材26bには、矯正部30の2つの押圧部材31が設けられている。2つの押圧部材31は、移動部材26bにおいてベース部材26aと対向する面に設けられている。この2つの押圧部材31は、2つの加圧部27よりも外方に位置するように設けられている。具体的には、種板Sの移動方向からみて、2つの押圧部材31は、2つの加圧部27よりも外方に位置するように設けられている。
図2であれば、右側の押圧部材31は、右側の加圧部27よりも外方(
図2では右方)に設けられ、左側の押圧部材31は、左側の加圧部27よりも外方(
図2では左方)に設けられている。
【0044】
また、2つの押圧部材31は、種板Sの移動方向において、その先端の位置が加圧部27における一対の加圧部材27a,27bの先端とほぼ同じ位置になるように配設されている(
図1(A)参照)。具体的には、加圧部27における一対の加圧部材27a,27bによって種板Sと吊手リボンPRを挟んだ状態において、種板Sの移動方向において、加圧部27の加圧中心の位置と押圧部材31の押圧中心の位置とが同じ位置になるように、2つの押圧部材31が設けられている。言い換えれば、押圧部材31の押圧中心から種板Sの第一端部Saの端縁までの距離J(
図1(B)参照)が、加圧部27の加圧中心から種板Sの第一端部Saの端縁までの距離と同じ長さになるように、2つの押圧部材31は設けられている。
【0045】
しかも、2つの押圧部材31は、加圧部材移動機構26の移動部材26bの移動方向において、その先端の位置が、加圧部27において移動部材26bに設けられている他方の加圧部材27bの先端よりも下方、つまり、他方の加圧部材27bの先端よりもベース部材26a側に位置するように設けられている。言い換えれば、一対の加圧部材27a,27bによって種板Sと吊手リボンPRとを挟んだときに、先端が一対の加圧部材27a,27bの先端よりも下方に位置するように、2つの押圧部材31は設けられている。
【0046】
<吊り手形成および矯正作業>
固定部25および矯正部30がかかる構造であるので、以下のように、種板Sに連結された吊り手shにカソードビームBが挿通されたカソードCが形成される。
【0047】
まず、固定部25では、一対の第一折り曲げローラー22,22の上流側に吊手リボンPRが配置された状態から(
図3(A)参照)、種板SおよびカソードビームBが第一折り曲げローラー22,22間に向かって移動される。
【0048】
種板SおよびカソードビームBが第一折り曲げローラー22,22間に向かって移動されると、カソードビームBに押されてカソードビームBとともに吊手リボンPRが下流側に移動する。吊手リボンPRは、カソードビームBと接触している個所の上下の部分(吊手リボンPRの長手方向の端部という場合がある)が第一折り曲げローラー22,22に接触するので、中央部はカソードビームBとともに移動するが、その吊手リボンPRの長手方向の端部は第一折り曲げローラー22,22によって移動が制限される。すると、カソードビームBの移動に伴って、吊手リボンPRは中央部を屈曲部として曲げられ、長手方向の端部がカソードビームBを挟んだ状態になるように曲げられる(
図3(B)参照)。
【0049】
種板SおよびカソードビームBがさらに移動すると、吊手リボンPRは曲げられた状態で一対の第二折り曲げローラー23,23間に進入する。第一折り曲げローラー22,22は互いに接近するように付勢されているので、吊手リボンPRの長手方向の端部は種板Sに向かって付勢される(
図3(C)参照)。すると、吊手リボンPRは一対の第二折り曲げローラー23,23を通過するとスプリングバックするが、U字状やV字状となってカソードビームCBに巻き付いた状態となり、その状態で種板S、カソードビームBおよび吊手リボンPR(以下種板S等という場合がある)が固定部25に供給される(
図3(D))。
【0050】
吊手リボンPの長手方向の端部、つまり、吊手リボンPにおいて種板Sと連結される部分が固定部25の加圧部27に配置されるまで種板S等が移動すると、種板S等の移動が停止する。すると、加圧部材移動機構26の移動部材26bがベース部材26aに向かって移動し、加圧部27の一対の加圧部材27a,27bによって種板SとカソードビームBが挟まれて、種板SとカソードビームBとが連結される(
図3(E)参照)。すると、輪状になった吊り手shが種板Sに連結され、かつ、吊り手shにカソードビームBが取り付けられたカソードCが形成される(
図3(F)参照)。
【0051】
ここで、移動部材26bがベース部材26aに向かって移動したときに、移動部材26bに設けられている押圧部材31もベース部材26aに向かって移動すると、押圧部材31の先端がカソードビームBの表面に接触する。押圧部材31の先端は加圧部材27bの先端よりも下方に位置しているため、種板Sの第一端部Sa近傍は押圧部材31の先端によって基準面AS(
図1(B)のAS)よりも下方に押される。つまり、加圧部27の一対の加圧部材27a,27bによって種板SとカソードビームBが挟まれた状態になると、種板Sの第一端部Sa近傍は押圧部材31の先端によって基準面ASよりも下方に押されるので(
図2(B)参照)、押圧部材31によって種板Sの第一端部Sa近傍を矯正することができる。
【0052】
以上のような吊り手形成部20および矯正部30を有する本実施形態のカソード仕上げ機1によってカソードCを製造すれば、カソードCの種板Sにおいて電解槽に吊り下げた状態で上側に位置する端部(第一端部Sa)を矯正部30によって矯正できる。すると、電解槽にカソードCを吊り下げたときに、カソードCとアノードAのショルダー部との干渉を防止しやすくなる。
【0053】
しかも、吊り手形成部20において、吊手リボンPRを種板Sに連結して吊り手shを形成する作業とほぼ同時に、カソードCの第一端部Saを矯正部30の押圧部材31によって矯正できる。すると、カソードCを電解槽に吊り下げた状態では矯正が難しいカソードCの第一端部Saを矯正することができるし、カソードCを矯正する作業の作業工数を少なくできる。
【0054】
<固定部25について>
固定部25の一対の加圧部材27a,27bによって、種板Sと吊手リボンPRとをかしめて連結する構造はとくに限定されないが、例えば、パンチとダイスを組み合わせてクリンチングカシメ接合を行うカシメ機構を採用してもよい。つまり、加圧部材27aの先端(または加圧部材27bの先端)にパンチを設け、加圧部材27bの先端(または加圧部材27aの先端)にダイスを設けて、種板Sと吊手リボンPRとをかしめて連結するようにしてもよい。この場合、一対の加圧部材27a,27bの先端によって吊手リボンPRと種板Sとが把持された状態からさらに移動部材26bをベース部材26aに接近させることによって、一対の加圧部材27a,27bの先端によって種板Sと吊手リボンPRとがかしめて連結される。つまり、パンチによって種板Sと吊手リボンPRとを貫通する円状の穴あけを行うとともに、穴あけをした際に形成される凸状片が折り返されるので、種板Sと吊手リボンPRとを連結して固定することができる。
【0055】
<矯正部30について>
加圧部材移動機構26の移動部材26bの移動方向において、押圧部材31の先端と加圧部27の加圧部材27bの先端との距離、つまり、押圧部材31がカソードCの第一端部Saを押しこむ量(押し込み量Q、
図1(A)、
図2(A)参照)はとくに限定されず、種板Sに合せて適切に調整すればよい。同様に、種板Sの移動方向からみたときに、隣接する加圧部27の加圧部材27bの加圧中心から押圧部材31の押圧中心までの距離(離間距離K、
図2(A)参照)もとくに限定されず、種板Sに合せて適切に調整すればよい。矯正部30によって種板Sの第一端部Sa(上端)が塑性変形されたカソードCをカソードビームBによって吊り下げた際に、塑性変形後の端部領域U内の各部とカソードビームBの中心軸を通過する鉛直面CSとの距離X(
図3(F)、
図6(B)参照)が1mm以内となるように、押圧部材31の押し込み量Qや離間距離Kを調節することが好ましい。例えば、種板Sの板厚が0.6~1.0mm、大きさが縦1000~1100mm、横1000~1100mmの場合には、離間距離Kを20~80mmに調節し、押し込み量Qを+10~+25mmに調節すれば、上記状態とすることができる。なお、上記端部領域Uは、
図6(A)に示すように、カソードビームBの軸方向、つまり、種板Sの第一端部Saの端縁とこの端縁と平行な線、および、第一端部Saの端縁と直交する側端縁とこの側端縁と平行な線に囲まれた正方形領域として規定することができる。この場合、端部領域Uは、第一端部Saの端縁と直交する側端縁と加圧部27の加圧中心との距離を一辺の長さとする、正方形領域として規定することができる。
【0056】
また、種板Sの移動方向における押圧部材31の位置もとくに限定されない。上述したように、種板Sの移動方向において、加圧部27の加圧中心と押圧部材31の押圧中心が同じ位置になれば(
図1(B)参照)、加圧部27の加圧中心から押圧部材31の押圧中心までの距離を最短距離にすることができる。つまり、種板Sの移動方向において、押圧部材31の押圧中心から種板Sの第一端部Saの端縁までの距離J(
図1(B)参照)が、加圧部27の加圧中心から種板Sの第一端部Saの端縁までの距離と同じ長さとなれば、加圧部27の加圧中心から押圧部材31の押圧中心までの距離を最短距離にすることができるので、種板Sの幅方向に沿った変形を抑制することができる。押圧部材31によって種板Sを押し込んだ際には、加圧部27によって種板Sが挟まれた状態になっている。つまり、種板S移動や変化が加圧部27によって制限されている。すると、押圧部材31によって種板Sを押し込んだ際に、加圧部27の加圧中心と押圧部材31の押圧中心との間の部分に、種板Sの幅方向に沿った変形が生じる可能性がある。しかし、加圧部27の加圧中心から押圧部材31の押圧中心までの距離を短くすれば、押圧部材31によって種板Sを押圧した際に、加圧部27の加圧中心と押圧部材31の押圧中心との間の部分において、種板Sの幅方向に沿った変形を抑制することができる。なお、種板Sの移動方向において、加圧部27の加圧中心と押圧部材31の押圧中心のズレは最大で100mm程度としてもよく、種板Sに合せて適切に調整すればよい。
【0057】
押圧部材31の先端面、つまり、押圧部材31において種板Sと接触し種板Sを押圧する押圧面の形状はとくに限定されない。しかし、押圧した際に種板Sが凹んだり、表面に傷がついたりすることを防止しつつ種板Sを適切に矯正する上では、押圧部材31の先端面は曲面や平坦面に形成されていることが望ましい。例えば、押圧部材31の押圧面は、曲率半径が5mm以上の曲面(好ましくは球面)、または、10mm×10mm~50mm×50mmの平面とすることが望ましい。
【0058】
上記例では、固定部25の加圧部材移動機構26によって押圧部材31が移動される場合を説明した。この場合、加圧部材移動機構26が特許請求の範囲に言う押圧部材移動機構に相当する。もちろん、押圧部材31を移動させる専用の押圧部材移動機構(例えば、固定部25の加圧部材移動機構26に類似する機構)を設けてもよいが、加圧部材移動機構26を押圧部材移動機構とすれば、矯正部30の構造を簡素化できる。すると、カソード仕上げ機1の構造も簡素化できるので、矯正部30を設けてもカソード仕上げ機1の構造が複雑化することを防止できる。
【実施例0059】
本発明のカソードの仕上げ機によって製造されたカソードの変形量を測定し、本発明のカソードの仕上げ機によってカソードを製造した場合、カソード上部の変形を低減できることを確認した。
【0060】
本発明のカソード仕上げ機に供給する種板は以下の方法で製造した。
純度98%程度の粗銅であるアノード(陽極)とステンレス製の母板(陰極)を電解槽の電解液に供給し、24時間通電した後、母板から電着している銅を剥がして種板を製造した。使用した銅電解液は、銅濃度47±5g/l、硫酸濃度180±30g/l、膠120±60g/電着銅トン、アビトン30±15g/電着銅トン、チオ尿素60±30g/電着銅トンのものである。陽極と陰極との間に流す電流の電流密度は250A/m2であり、電解槽に供給する電解液の給液量は25L/minに調整した。
【0061】
なお、製造された種板は、いずれも純度99.99%の電気銅であり、その寸法は、縦1000mm×横1000mm×厚さ0.6~1.0mmの平板状であった。
【0062】
吊り手リボンは、純度99.99%の電気銅によって形成された板を使用した。板の寸法は、縦300mm×横100mm×厚さ0.6~1.0mmの帯状のものを使用した。
【0063】
製造された種板と吊り手リボンとを使用して、本発明のカソード仕上げ機によって、カソードを製造した。
【0064】
本発明のカソード仕上げ機では、内部応力除去部のレベラーにおけるローラー押し込み量は、入り口側で-0.6mm、出口側で+0.8mmとし、溝付け部の溝付けローラーの基準クリアランスは1.3mmとした。
【0065】
吊り手リボンは、加圧部材によるカシメ加工によって種板に取り付けた。
このカシメ加工の際には、押圧部材によって種板の矯正、つまり、種板の押しこみを実施した。押圧部材による種板の押しこみ位置は、種板の移動方向の先端縁(第一端部の端縁)に沿った方向において、隣接する加圧部材の加圧中心から45mmの外方の位置である。また、種板の押しこみ量は10mmとした。
【0066】
カソード上部の変形量は、カソードビームを保持してカソードを吊り下げた状態で、カソード上部の基準面からの変位量を、電解用極版の平坦度測定装置(特開平7-190744)に開示されている測定装置を用いて測定した。
【0067】
変位量の測定位置は、
図6(C)に示す位置で測定した。具体的には、種板の移動方向の先端縁(第一端部の端縁、
図6(C)では上端縁)から80mm内側(
図6(C)では下方)に、種板の先端縁と平行に引いた線を線L1とする。また、種板の移動方向と平行な両端縁(種板の側端縁、
図6(C)では左右の端縁)から80mm内側に、種板の側端縁と平行に引いた線を線L2,L3とする。そして、線L1と線L2,L3との交点(上左、上右)と、種板の先端縁と平行な方向においてこの2つの交点の測定点の中間点(上中)とにおいて、基準面からの変位量を測定した。
【0068】
なお、基準面は、カソードビームを保持してカソードを吊り下げた状態において、カソードビームの中心軸を含む鉛直面(
図3(F)および
図6(B)のCS)である。基準面から種板の表面までの距離を変位量とし、
図6(B)において、上側への変位量をプラスとし、下側への変位量をマイナスとした。なお、上側への変位量は、吊り手形成部においてカソード形成している状態では、種板の上方への変位量に相当する。
【0069】
上記測定を1日当たり3400枚のカソードについて行い、各測定点における変位量の平均値を求めた。このような測定を7日間行い、各操業日毎に各測定点における変位量の平均値を求め、さらに、この平均値に基づいて、各測定点における変位量の7日間平均値を求めた。
【0070】
結果を表1に示す。
表1に示すように、上左及び上右の変位量は7日間を通じて最大で1mmであり、7日間の平均値は上左及び上右のいずれも-0.4mmとなった。
また、上左及び上右の変位態様は上中の変位態様とほぼ一致している(つまり同じ側に変位している)ことから、本発明のカソードの製造方法によってカソード上部の曲がりを抑制できることが確認された。
【表1】
【0071】
[比較例1]
押圧部材を移動部材に設けなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
表2にその結果を示す。
【0072】
表2に示すように、上左及び上右の変位量は7日間を通じて最大で4mmであり、7日間の平均値は上左で+2.9mm、上右で+1.4mmとなった。
また、上左及び上右の変位態様は、上中の変位と一致しておらず、カソード上部の曲がりを抑制できなかった。
【表2】
【0073】
以上のように、本発明のカソードの製造方法を採用すれば、電解槽に装入した後に矯正することが困難であるカソード上部を、電解槽に装入する前に適切に矯正することができることが確認された。