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特開2023-35167エルゴチオネインを含む、醤油の変性の抑制剤
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  • 特開-エルゴチオネインを含む、醤油の変性の抑制剤 図1
  • 特開-エルゴチオネインを含む、醤油の変性の抑制剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035167
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】エルゴチオネインを含む、醤油の変性の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20230306BHJP
   A23L 3/3544 20060101ALI20230306BHJP
   A23L 3/3526 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
A23L27/50 A
A23L3/3544
A23L3/3526 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141801
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 遼子
(72)【発明者】
【氏名】市川 惠一
【テーマコード(参考)】
4B021
4B039
【Fターム(参考)】
4B021LA33
4B021LW07
4B021MC03
4B021MC10
4B021MK01
4B021MK23
4B021MK25
4B021MP10
4B039LB01
4B039LC06
4B039LC12
4B039LG03
4B039LG04
4B039LG47
4B039LR12
4B039LR22
4B039LR30
(57)【要約】
【課題】レトルト食品の製造過程における醤油の変性を抑制することを目的とする。
【解決手段】エルゴチオネインが、レトルト処理により生じる醤油の変性、具体的には醤油の色番の低下及び悪臭の発生を抑制することを見出し、エルゴチオネインを含む醤油の変性抑制剤を提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネインを含む、レトルト処理による醤油の変性の抑制剤。
【請求項2】
醤油の変性が、色番の低下又は香りの悪化である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抑制剤を含む、エルゴチオネイン含有レトルト食品。
【請求項4】
エルゴチオネインを0.01%~1%含む、請求項3に記載のエルゴチオネイン含有レトルト食品。
【請求項5】
醤油の変性を抑制するレトルト処理方法であって、
醤油が含まれる食品に、エルゴチオネインを添加し;
レトルト処理を行う
を含む、前記レトルト処理方法。
【請求項6】
食品中のエルゴチオネイン含量が、0.01%~1%となるように、エルゴチオネインが添加される、請求項5に記載のレトルト処理方法。
【請求項7】
レトルト処理が、110℃~140℃で、3分~1時間の処理である、請求項5又は6に記載のレトルト処理方法。
【請求項8】
レトルト食品の製造方法であって、
エルゴチオネイン含有醤油が含まれる食品にレトルト処理を行う
を含む、前記製造方法。
【請求項9】
食品中のエルゴチオネイン含量が、0.01%~1%となるように、エルゴチオネインが添加される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
レトルト処理が、110℃~140℃で、3分~1時間の処理である、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
0.01%~1%のエルゴチオネインを含有する、レトルト食品製造用の醤油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エルゴチオネイン(以下、ERGと表記する場合がある。)を含む醤油の変性抑制の分野に関する。より具体的には、エルゴチオネインを含む、醤油の変性抑制剤、エルゴチオネイン含有レトルト食品、レトルト食品製造用の醤油、レトルト処理方法、並びにレトルト食品製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ERGは、強力な抗酸化作用を有する含硫アミノ酸であり、植物や動物の生体内にも存在することが見いだされている。ERGは、強力な抗酸化作用を有するのみならず、エラスターゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用を有することが報告されており、美白やしわ予防といった美容・食品分野で特に注目されている。また、ERGが生体酸化防御システムに関与することが判明してきており、医療分野での応用も試みられている。最近では、高齢になるとERG含量が低下すること、ERGには酸化ストレス下におけるテロメア長低減の緩和効果があることなど、長寿や軽度認知症障害などとの関連でも注目されている。軽度認知症障害の認知機能改善効果を発揮するためには5mg/1日のERGが必要とされる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
植物や動物は、ERGを合成することはできず、生体内のERGは、担子菌類などの微生物により合成されたERGに由来すると考えられている。ERGは、担子菌類の一部のキノコ、例えばエノキダケ、ヒラタケ、シイタケ、マイタケ、エリンギ、マッシュルームなどの食用キノコにも含まれており、特にタモギタケに多く含まれていることが知られている。きのこ以外の食品中には、効果を発揮するのに十分量なERGが含まれていない。麹菌がERGを生産することも知られているが、ERG量として5mg/1日摂取するためには一般的に販売されている麹を100g/1日以上摂取する必要がある。
【0004】
ERGの製造方法として、タモギタケなどの担子菌からの抽出、化学合成、微生物を用いた発酵が試みられている。タモギタケなどの担子菌からの抽出は、原材料の取得に時間がかかり、大量生産には適していない。ERGを大量に得るために、C1化合物資化性の細菌や酵母を用いた発酵(特許文献1:国際公開第2016/104437号)、さらにはERG生合成遺伝子を過剰発現させた微生物を用いた発酵(特許文献2:国際公開第2017/150304号)について研究がされている。ERG生合成遺伝子を過剰発現させた麹菌を用いた固体培養も試みられている(非特許文献2)。
【0005】
生理作用を発揮させることを目的として、ERGを食品や機能性表示食品に含有させることは試みられているものの、ERGが発揮する他の機能については報告がされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/104437号
【特許文献2】国際公開第2017/150304号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】薬理と治療 Volume 48, Issue 4, 685 ― 697 (2020)
【非特許文献2】BIOSCIENCE, BIOTECHNOLOGY, AND BIOCHEMISTRY, 2019, VOL. 83, NO. 1, 181‐184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ERG含有食品の製造を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、ERG含有食品の開発にあたり、鋭意研究を行ったところ、レトルト食品の製造過程において、ERGが醤油の変性を抑制するという効果を見出し、本発明に至った。
そこで、本発明は下記に関する:
[1] エルゴチオネインを含む、レトルト処理による醤油の変性の抑制剤。
[2] 醤油の変性が、色番の低下又は香りの悪化である、項目1に記載の抑制剤。
[3] 項目1又は2に記載の抑制剤を含む、エルゴチオネイン含有レトルト食品。
[4] エルゴチオネインを0.01%~1%含む、項目3に記載のエルゴチオネイン含有レトルト食品。
[5] 醤油の変性を抑制するレトルト処理方法であって、
醤油が含まれる食品に、エルゴチオネインを添加し;
レトルト処理を行う
を含む、前記レトルト処理方法。
[6] 食品中のエルゴチオネイン含量が、0.01%~1%となるように、エルゴチオネインが添加される、項目5に記載のレトルト処理方法。
[7] レトルト処理が、110℃~140℃で、3分~1時間の処理である、項目5又は6に記載のレトルト処理方法。
[8] レトルト食品の製造方法であって、
エルゴチオネイン含有醤油が含まれる食品にレトルト処理を行う
を含む、前記製造方法。
[9] 食品中のエルゴチオネイン含量が、0.01%~1%となるように、エルゴチオネインが添加される、項目8に記載の製造方法。
[10] レトルト処理が、110℃~140℃で、3分~1時間の処理である、項目8又は9に記載の製造方法。
[11] 0.01%~1%のエルゴチオネインを含有する、レトルト食品製造用の醤油。
【発明の効果】
【0010】
ERGはレトルト処理により生じる醤油の変性を抑制する。特に、ERGはレトルト処理により生じる色番の低下を抑制し、及び/又は香りの悪化を抑制する。また、ERGはレトルト処理後にもレトルト食品中に残存する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は麹菌を用いて、麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる発酵条件で発酵した際の、発酵日数に対するERG含有量の変化を示すグラフである。
図2図2は、発酵中の麹菌固体発酵物の水分量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<醤油の変性の抑制剤>
本発明に係る醤油の変性の抑制剤は、ERGを含む。ERGは、レトルト処理による醤油の変性を抑制することができる。醤油の変性とは、特に色番の低下又は香りの悪化が挙げられる。本発明の別の態様では、本発明は、ERGを用いたレトルト処理による醤油の変性を抑制する方法にも関する。
【0013】
醤油の色番は、醤油の種類及び等級により決定されている色の指標である。醤油の色は、調理食品の色にも影響を与える。関西地方では色の薄い薄口醤油が好まれ、煮物やつゆなどの食品においても薄い色が好まれる一方、関東や東北地方では濃口醤油が好まれ、煮物やつゆなどの食品においても濃い色の煮物が好まれる。このように食品の製造において色は重要な要素であり、意図しない変色は避けられるべきである。レトルト処理により、醤油の色番は低下し、すなわち醤油の色が濃くなる。一方、ERGを添加した醤油では、醤油の色番の低下が抑制される。醤油の色番は、JAS規格により決定することができる。
【0014】
醤油の香りは、発酵過程で生じる様々な成分に起因しており、その数は300種類以上とも言われている。醤油の代表的な香り成分として、アルコール類、フラノン類、エステル類、メラノイジン等が挙げられる。一方、高温高圧のレトルト処理を行うことで、これらの成分が反応し、香りの変化が生じうる。代表的な変化として、酸化臭やムレ臭が挙げられる。酸化臭は、開封下で長期間保存された醤油の匂いとして知られており、ムレ臭は、加熱時に食材から発生する不快臭で、主な原因の一つが硫黄化合物由来の匂い(硫黄臭)として知られている。これらの香りについては、訓練された官能評価員によって決定される。
【0015】
<エルゴチオネイン(ERG)>
ERGは、含硫アミノ酸誘導体の一種であり、熱やpH安定性に優れている。レトルト処理後も、ERGは反応・分解せず食品中に存在する。本発明では、ERGはレトルト処理による醤油の変性に対し抑制作用を発揮する。一方、ERGは、抗酸化作用をはじめ、エラスターゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)阻害作用など種々の作用を有することも知られている。したがって、ERG含有レトルト食品を、機能性表示食品とすることもできる。かかる機能性として、ERGのエラスターゼ阻害作用に基づく抗しわ作用、チロシナーゼ阻害活性に基づく美肌又は美白作用、過酸化脂質の生成に基づく生活習慣病予防作用、活性酸素除去に基づく認知症やアルツハイマー病の予防作用がなどの機能を表示することができる。
【0016】
<レトルト処理方法>
レトルト処理とは、加圧下にて100℃を超えて殺菌する処理をいう。食品を封入したレトルトパウチをレトルト釜に入れてレトルト処理が行われる。レトルト処理の温度は、通常105~140℃、例えば110~130℃、より一般的に120℃であり、レトルト処理時間は、通常数分~1時間、好ましくは5~45分ほどである。本発明におけるレトルト処理方法は、醤油が含まれる食品に対し行われる方法であり、醤油が含まれる食品にERGを添加する工程、及びこうして得られた食品に対してレトルト処理を行う工程を含む。さらに別の態様では、レトルト処理方法は、ERG含有醤油が含まれる食品にレトルト処理を行う工程を含んでもよい。レトルト処理方法は、レトルト食品の製造方法ということもできる。
【0017】
<ERG含有レトルト食品>
本発明に係るレトルト処理方法又はレトルト食品製造方法により製造されたレトルト食品はERGを含有し、ERGの作用により醤油の変性が抑制される。本発明の別の態様は、ERGを含有し、醤油の変性が抑制されたレトルト食品に関する。ERGは、食品中0.01~1%、好ましくは0.1~1%となるよう調節されうる。レトルト食品中に含まれるERGは、食品製造後、レトルトパウチへと封入する前に製造された食品に添加されたERGに由来してもよいし、ERG含有原料、例えばERG含有醤油などの調味料に由来してもよい。
【0018】
レトルト食品としては、任意のレトルト食品であってよく、醤油、たれ、だし、つゆ、鍋つゆなどの調味料、料理の素、又は任意の調理済み食品であってもよい。料理の素とは、一部の材料と味付けのみがされており、調理の際に残りの材料と混ぜるか、又は一緒に調理することで食品を完成させるレトルト食品をいう。料理の素の例として、混ぜご飯の素、お惣菜の素、煮込み料理の素、肉おかずの素などが挙げられる。調理済み食品の例として、煮物、おでん、親子丼、中華丼、牛丼などの丼の素などが挙げられる。
【0019】
<ERG含有醤油>
ERG含有醤油は、醤油中に0.001~5%、好ましくは0.01~1%、最も好ましくは0.1~0.5%のERGを含む。ERG含有醤油は、製造時にERGを添加されてもよいし、ERG産生性の麹菌株を用いることで、製造されてもよい。醤油中のERG含量を高める観点から、以下に説明するERG高含有麹製造方法に従って製造された麹を用いて作成された醤油であることが好ましい。
【0020】
<ERG高含有化方法>
ERG高含有化方法とは、下記に詳述する麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる発酵条件で麹菌固体発酵する方法を意味する。かかるERG高含有化方法は、原料及び通常の発酵条件により製造された麹菌固体発酵物に比較して、ERG含有量が増大された麹菌固体発酵物を製造する方法を意味する。ERG高含有麹菌固体発酵方法では、通常の発酵条件、例えば麹菌固体発酵物水分量を25%以下で発酵した場合、と比較してERGの含有量が、5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは50倍以上、さらにより好ましくは100倍以上増加する。一例として、ERG高含有麹菌固体発酵物は、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上、好ましくは0.4g/麹菌固体発酵物1kg以上、より好ましくは0.5g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらに好ましくは0.8g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらにより好ましくは1.0g/麹菌固体発酵物1kg以上のERGを含有する。本開示のERG高含有麹菌固体発酵物に含まれるERGは、麹菌により生成されたものであり、添加や濃縮されたものではない。ERG高含有麹菌固体発酵物は、その製造工程によってのみ識別されるものであり、生成したERG高含有麹菌固体発酵物の成分や特性による特定は不可能であるか又は非実際的である。
【0021】
麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる培養条件には、固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量及び発酵中の水分量を4日間以上制御することが重要である。より具体的に、発酵中の固体培地と麹菌の混合物の水分量を、4日目以降も25%以上に維持することが必要である。発酵中の固体培地と麹菌の混合物の水分量を25%未満にした場合、麹菌固体発酵物中のERGを高含量にすることはできない。したがって、本開示の一実施形態にかかるERG高含有麹菌固体発酵物の製造方法では、固体培地と麹菌とを混合して発酵する工程において、発酵工程にわたり混合物中の水分量を25%以上に維持することを特徴とする。しょうゆ、味噌、酒などの食品を製造する場合には、通常発酵途中に水を添加することはなく、製麹は4日を超えて行わない。また、発酵初期に発熱し、水分が急激に失われうる。したがって、発酵期間及び過程を考慮すると、培養開始時の固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量が45%未満である場合、発酵中の発酵物の水分量を25%以上に維持させることが困難となる(図2)。そこで、本開示の一実施形態にかかるERG高含有麹菌固体発酵物の製造方法は、固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量を45%以上に調整する工程を含みうる。
【0022】
その他の発酵条件は、本技術分野において用いられる通常の条件を使用することができる。例えば、培地の初発pHは5~10に調整される。発酵温度は20~40℃に設定され、発酵時間は4日以上であり、好ましくは4~10日間、好ましくは5~7日間、より好ましくは6~7日間が望ましい。発酵中に麹菌固体発酵物の水分量を維持する観点から、高湿度下で培養することが好ましく、麹菌固体発酵物の水分値を制御するために湿度を調整することができる。また、発酵は4日以上の長期間、高水分量の発酵となるため雑菌の繁殖を防止した環境下で行うことが望ましい。無菌的に培養できる容器、山崎式製麹装置やドラム製麹装置を使ってもよい。
【0023】
一例として、麹菌の代表的な株であるAspergillus oryzae RIB326株を用いた場合、ERG高含有化方法でERG高含有麹菌固体発酵物を製造すると、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上、好ましくは0.4g/麹菌固体発酵物1kg以上、より好ましくは0.5g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらに好ましくは0.8g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらにより好ましくは1.0g/麹菌固体発酵物1kg以上のERGを含むERG高含有麹菌固体発酵物を製造することができる(図1)。
【0024】
<ERGの分析方法>
ERGを抽出する方法は、本技術分野に周知の方法を用いて行われうる。抽出溶媒は、ERGが溶解するものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒;これらの有機溶媒と水とを混合させた含水有機溶媒;水、温水及び熱水などが挙げられる。溶媒を加えた後、適宜、破砕処理を加えながらERGを抽出することができる。抽出溶媒温度は、室温から100℃に設定することができる。
【0025】
ERGの抽出方法の一実施態様としては、例えば、レトルト食品又はERG高含有麹菌固体発酵物をそのまま又は水に加えた懸濁液を調製し、次いで得られた懸濁液を98~100℃、15分間などの加温処理に供した後に、遠心分離することにより上清を回収し、次いで回収した上清をろ過して不溶物を取り除く方法が挙げられる。また、該加熱処理した懸濁液を、遠心分離に供することなく、ろ過してもよい。
【0026】
また、麹菌固体発酵物のERGを測定する場合には、上記加温処理に代えて、例えば、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイノミル、乳鉢などの破壊手段を用いて固形分、例えば菌体を破壊する方法;ヤタラーゼなどの細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法;SDS、トリトンX-100などの界面活性剤を用いて菌体を溶解する方法などの菌体破砕処理に供してもよい。これらの方法は単独又は組み合わせて使用することができる。
【0027】
得られた抽出液は、遠心分離、フィルターろ過、限外ろ過、ゲルろ過、溶解度差による分離、溶媒抽出、クロマトグラフィー(吸着クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、結晶化、活性炭処理、膜処理などの精製処理に供することによりERGを精製することができる。本発明において食品に添加されるERGは、精製されたERGであってもよいし、抽出物であってもよい。
【0028】
ERGの定性的又は定量的分析は、特に限定されず、例えば、HPLCなどにより行うことができる。HPLC分離条件は、当業者であれば適宜選択することができ、例えば、後述する実施例に記載がある条件で実施できる。
【0029】
本開示において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。本開示において%は、特に言及がない限り質量%を意味する。
【0030】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0031】
実施例1:レトルト試験
表1の配合量で特選丸大豆しょうゆ及び/又は水と精製ERG(純度99.74%)を混合し、アルミパウチに充填し、120℃、20分でレトルト殺菌を行った。サンプル1及び2について、JAS規格に基づいて色番を決定した。
【0032】
サンプル1と2を比較すると、精製ERGを添加した場合(サンプル2)、コントロール(サンプル1)と比べて色番が高く、酸化臭が弱かった。レトルト処理により醤油の色番は低下するものの、エルゴチオネインが含有されることで、色番の低下が抑制される。サンプル3の結果、レトルト処理後のERG残存率は高く、レトルト処理してもほとんどのERGは安定的に残ることがわかった。
【表1】
【0033】
実施例2:脱脂大豆を培地としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、膨化処理した脱脂大豆(タンパク質含量約48%)640gを入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量約27%)。室温に冷却後、2.4gのAspergillus oryzae RIB326株の種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。発酵開始後、1日目、3日目、4日目、7日目に麹菌固体発酵物を秤量し、水分量を計算した(図2)。また、発酵開始後1日目、2日目、3日目、6日目に麹菌固体発酵物の一部を取得した。
【0034】
実施例3:ERGの分析方法
(1)ERGの抽出
ERG高含有麹菌固体発酵物を5g秤量し、75%エタノールを加えた後にERG高含有発酵物を破砕し、1日室温で放置し、ERG高含有麹菌固体発酵物からERGを抽出した。下記の分析条件でERG含有量を測定したところ、1kgのERG高含有麹菌固体発酵物に含まれるERGの含有量は、1.1gであった。同様に、発酵開始後1日目、2日目、3日目、6日目の発酵物についてもERG含有量を測定し、グラフに示した(図1)。
参考例として、みやここうじ四角型(株式会社 伊勢惣社製)、米こうじH(コーセ-フーズ社製)、米こうじS(コーセーフーズ社製)について、同様にERGを抽出し、下記の分析条件でERG含有量を測定した。それぞれのエルゴチオネイン含有量は、下記の通りであった。
【表2】
【0035】
(2)LCMS解析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0mml.D.×150mm
溶媒A: アセトニトリル
溶媒B: 5mM 酢酸アンモニウム/H2
流速: 0.5ml/min 80%溶媒A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V:4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
MS Scanモード
【0036】
(3)LC―MS/MSでのエルゴチオネイン分析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0 mml.D.×150 mm
溶媒A: 0.1%ギ酸/アセトニトリル
溶媒B: 0.1%ギ酸/H2
流速: 0.5ml/min 80%A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V: 4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
Collision energy:11V
Trace: m/z 230.1>186.1
Collision energy:20V
Trace: m/z 230.1>127.0
図1
図2